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特許6990776THAを有効成分として含む前立腺癌の治療用薬学的組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-08
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】THAを有効成分として含む前立腺癌の治療用薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/12 20060101AFI20220104BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20220104BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220104BHJP
   A61K 36/9066 20060101ALI20220104BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
A61K31/12
A61P13/08
A61P35/00
A61K36/9066
A61P43/00 111
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020537145
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-04-08
(86)【国際出願番号】 KR2018016625
(87)【国際公開番号】W WO2019139283
(87)【国際公開日】2019-07-18
【審査請求日】2020-07-03
(31)【優先権主張番号】10-2018-0003229
(32)【優先日】2018-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515254389
【氏名又は名称】コリア ユナイテッド ファーマ. インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カン、コン ウク
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ソン ベク
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-209055(JP,A)
【文献】Cancer Letters,2002年,Vol.177,p.119-124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/ 72
A61K 31/00-31/ 80
A61K 33/00-33/ 44
A61K 47/00-47/ 69
A61K 36/00-36/9068
A61P 1/00-43/ 00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で表される2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン(2,4,6-trihydroxyacetophenone(THA)またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む、前立腺癌の予防または治療用薬学的組成物であって、
前記前立腺癌は、Plk1(Polo-like kinase 1)過発現前立腺癌である、前立腺癌の予防または治療用薬学的組成物。
[化学式1]
【化1】
【請求項2】
前記THAは、クルクマコモサ(Curcuma comosa)から抽出したことを特徴とする請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記組成物は、Plk1(Polo-like kinase 1)の活性を抑制させることを特徴とする請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記組成物は、cdc25cの活性を抑制させることを特徴とする請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記組成物は、サイクリンB1(cyclin B1)の活性を抑制させることを特徴とする請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前記組成物は、カスパーゼ-3/7(caspase-3/7)の活性を増加させることを特徴とする請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記組成物は、アポトーシス指数を増加させることを特徴とする請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン(2,4,6-trihydroxyacetophenone(THA))の、前立腺癌の予防または治療用薬学的組成物を製造するための使用であって、前立腺癌が、Plk1(Polo-like kinase 1)過発現前立腺癌であることを特徴とする、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、THA(2,4,6-trihydroxyacetophenone)を有効成分として含む前立腺癌の予防または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クルクマコモサ(Curcuma Comosa)は、タイとベトナムなどの東南アジアで健康機能性食品の原料として広く使用されるウコン属植物であって、特に、女性ホルモンであるエストロゲン様作用により閉経期女性の膣萎縮や血管拡張などに効果があることが知られている。クルクマコモサの有効成分としては、ジアリールヘプタノイド(diarylheptanoid)系が知られており、前記化合物は、肝細胞保護(肝保護)、メラニン生成抑制(美白)、または造骨細胞の分化促進(骨粗しょう症の改善)過程に影響を及ぼすという事実が明らかになっている。また、クルクマコモサの抽出物は、血中コレステロールの減少効果があることが知られており、これは、クルクマコモサのさらに他の有効成分である2,4,6-トリヒドロキシアセトフェノン(2,4,6-trihydroxyacetophenone,THA,Phloroacetophenone(フロロアセトフェノン))の作用として知られているが、前記化合物の抗癌活性に関しては、まだ知られたことがない。
【0003】
一方、前立腺癌は、前立腺に発生した癌を意味するが、米国、ヨーロッパでは、全体男性癌のうち有病率1位、死亡率2位の代表的な男性癌疾患である。韓国では、西欧国家に比べて発生率は低いが、悪性度が高いという報告があり、西欧化した食生活の普遍化、老齢人口の増加、診断技術の発達などに伴い、男性癌のうち増加率1位を占めるなど前立腺癌が急速に増加している傾向にある。前立腺癌の発病原因は、まだ明確に明らかにされていないが、年齢、人種、家族歴および遺伝的素因の他にも、ホルモン、食習慣、除草剤のような化学薬品なども、発病に重要な要因として作用すると知られている。
【0004】
前立腺癌の治療は、病の進行段階によって差異があるが、早期前立腺癌は、外科的な手術と放射線治療で癌細胞を除去する根本的な治療が先行され、癌細胞が前立腺から外れて周囲に転移した場合、ホルモン治療を受けることになる。男性ホルモンは、前立腺癌の成長を促進させるものと知られていて、これを抑制することによって、前立腺癌の進行を遅らせたり防げることができる。ただし、このようなホルモン治療を長期間受けることになれば、結局、ホルモン治療に耐性ができて、転移性ホルモン不応性(去勢抵抗性)前立腺癌に進行されることになるが、患者の生存期間が9~13ヶ月に過ぎない程度に予後が良くないため、積極的な治療が必要である。このときからは、抗癌化学療法としてドセタキセルを処方することができるが、前立腺癌患者は、大多数が高齢なので、化学的抗癌療法が有する副作用に耐えにくいという問題点がある。
【0005】
Plkファミリーの一つであるポロ様キナーゼ1(Polo-like kinase 1,Plk1)は、増殖中の成体組織と分裂中の細胞だけで発現するキナーゼタンパク質であって、Plk1の発現量は、細胞増殖の指標になって、多様な癌の悪性化を追跡することができる。また、癌組織でPlk1の高い発現量は、増殖だけでなく、転移とも関連があると報告されたことがあるが、多様な癌組織において癌の悪性化に関与する代表的な原因であるP53の変異が、Plk1の発現量に関連しており、P53の変異は、Plk1の活性化を起こし、これを通じて、癌の悪性化が起こると知られている。
【0006】
Plk1は、セリン/スレオニン(serine/threonine)リン酸化酵素であって、中心体の形成、双極紡錘体の形成、染色体骨格、および分裂溝の形成を調節する細胞分裂を通した癌細胞増殖の核心信号に該当するが、癌細胞の増殖過程でPlk1が活性化して、cdc25cを作動させ、作動したcdc25cは、サイクリンB1を脱リン酸化させて、癌細胞の有糸分裂を誘導することになる。これは、結局、癌細胞の増殖を起こすことになるが、これにより、Plk1の抑制剤であるボラセルチブ(Volasertib)が、最近、希少疾病用医薬品(orphan drug)血液癌の治療剤として承認を受けるなど現在多くの合成Plk1抑制剤が抗癌薬物として臨床試験に進入した。また、最近、Plk1は、多様な種類の血液癌と固形癌において治療標的として関心を集めると共に、ゲムシタビン(gemcitabine)抵抗性すい臓癌細胞およびイマチニブ(imatinib)抵抗性慢性骨髄性白血病などの抗癌剤抵抗性癌腫で薬物ターゲットとして適用可能性が提示されたところがある。しかしながら、未だPlk1の去勢抵抗性前立腺癌の治療可能性の評価は、現在全く行われていないのが現状である 。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記のような従来技術上の問題点を解決するためになされたものであって、本発明者らは、Plk1活性を抑制する薬物を開発するために研究努力した結果、クルクマコモサ(Curcuma comosa)の主成分であるTHA(2,4,6-trihydroxyacetophenone)が、Plk1活性の抑制を起こして、前立腺癌の進行を抑制することを最初に確認し、本発明を完成した。
【0008】
これより、本発明の目的は、下記化学式1で表されるTHA(2,4,6-trihydroxyacetophenone)またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む前立腺癌の予防または治療用薬学的組成物を提供することにある。
【0009】
[化学式1]
【化1】
【0010】
しかしながら、本発明が達成しようとする技術的課題は、以上で言及した課題に制限されず、言及されていないさらに他の課題は、下記の記載から当業者に明確に理解され得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記のような本発明の目的を達成するために、本発明は、下記化学式1で表されるTHA(2,4,6-trihydroxyacetophenone)またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む前立腺癌の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0012】
[化学式1]
【化2】
【0013】
本発明の一具現例において、前記THAは、クルクマコモサ(Curcuma comosa)から抽出したものでありうる。
【0014】
本発明の他の具現例において、前記前立腺癌は、Plk1(Polo-like kinase 1)過発現前立腺癌でありうるが、これに制限されない。
【0015】
本発明のさらに他の具現例において、前記薬学的組成物は、Plk1(Polo-like kinase 1)の活性を抑制させることができる。
【0016】
本発明のさらに他の具現例において、前記薬学的組成物は、cdc25cまたはサイクリンB1の活性を抑制させることができる。
【0017】
本発明のさらに他の具現例において、前記薬学的組成物は、カスパーゼ-3/7(caspase-3/7)の活性を増加させることを特徴とするものでありうる。
【0018】
本発明のさらに他の具現例において、前記薬学的組成物は、アポトーシス指数を増加させることを特徴とするものでありうる。
【0019】
ひいては、本発明は、前立腺癌の治療を必要とする個体にTHA(2,4,6-trihydroxyacetophenone)を有効成分として含む薬学的組成物を投与する段階を含む前立腺癌の治療方法を提供する。
【0020】
また、本発明は、THA(2,4,6-trihydroxyacetophenone)を有効成分として含む薬学的組成物の前立腺癌の治療用途を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、THA(2,4,6-trihydroxyacetophenone)を有効成分として含む前立腺癌の予防または治療用組成物に関し、本発明のTHAは、クルクマコモサ(Curcuma comosa)の主成分である。本発明の組成物は、特に、PLK1(Polo-like kinase 1)の活性を抑制することによって、前立腺癌の増殖を効果的に抑制するところ、将来前立腺癌に対する予防、改善、および治療の用途に有用に利用され得るものと期待される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、前立腺癌細胞株においてPlk1およびアンドロゲン受容体の発現変化を確認した結果を示す図である。
図2図2Aおよび図2Bは、前立腺癌細胞株においてPlk1および下位タンパク質の発現変化を確認した結果を示す図である。
図3図3は、前立腺癌細胞株にTHA,BI2536、およびプルプロガリン(PPG)を処理した後、細胞増殖抑制効果を比較して示す図である。
図4図4Aおよび図4Bは、カスパーゼ-3/7(caspase-3/7)の活性を通じてアポトーシス程度を確認した結果を示す図である。
図5図5Aおよび図5Bは、cleaved caspase-3(CC3)発現量を通じてアポトーシス程度を確認した結果を示す図である。
図6図6Aおよび図6Bは、前立腺癌細胞株にTHAおよびBI2536を処理した後、細胞周期遮断効果を確認した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、前立腺癌の治療法について鋭意研究した結果、クルクマコモサ(Curcuma comosa)の主成分であるTHA(2,4,6-trihydroxyacetophenone)が、特にPLK1活性抑制を通じて前立腺癌の増殖を抑制するのに効果的であるという事実を確認し、これに基づいて本発明を完成した。
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明の一実施例では、前立腺癌細胞株におけるPlk1、アンドロゲン受容体および下位タンパク質の発現変化を確認した(実施例2参照)。
【0026】
本発明の他の実施例では、THA(2,4,6-trihydroxyacetophenone)処理による前立腺癌細胞の細胞増殖抑制効果を確認し(実施例3参照)、また、THA処理によるアポトーシスの増加効果を確認した(実施例4参照)。
【0027】
本発明のさらに他の実施例では、THA処理による前立腺癌細胞の細胞周期遮断効果を確認した(実施例5参照)。
【0028】
したがって、本発明によるTHA(2,4,6-trihydroxyacetophenone)を利用して前立腺癌の予防または治療が要求される多様な目的および用途に使用することができる。
【0029】
これにより、本発明は、下記化学式1で表されるTHA(2,4,6-trihydroxyacetophenone)またはその薬学的に許容可能な塩を有効成分として含む前立腺癌の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
【0030】
[化学式1]
【化3】
【0031】
本発明において使用される用語「予防」とは、本発明の組成物の投与により前立腺癌または去勢抵抗性前立腺癌を抑制させたり発病を遅延させるすべての行為を意味する。
【0032】
本発明において使用される用語「治療」とは、本発明の組成物の投与により前立腺癌または去勢抵抗性前立腺癌による症状が好転したり有利に変更されるすべての行為を意味する。
【0033】
本発明において使用される「薬学的に許容可能な」という用語は、過度な毒性、刺激、アレルギー反応またはその他の問題点または合併症なしに利得/リスクの割合が合理的なので、対象体(例:ヒト)の組織と接触して使用するに適しており、健全な医学的判断の範疇以内である化合物または組成物を意味する。
【0034】
本発明において使用される用語「塩」は、薬学的に許容可能な遊離酸(free acid)により形成された酸付加塩が有用である。酸付加塩は、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜硝酸または亜リン酸のような無機酸類と脂肪族モノおよびジカルボキシレート、フェニル-置換されたアルカノエート、ヒドロキシアルカノエートおよびアルカンジオエート、芳香族酸類、脂肪族および芳香族スルホン酸類のような無毒性有機酸から得る。このような薬学的に無毒な塩類としては、サルフェート、ピロサルフェート、ビサルフェート、サルファイト、バイサルファイト、ニトレート、ホスフェート、モノヒドロゲンホスフェート、ジヒドロゲンホスフェート、メタホスフェート、ピロホスフェートクロリド、ブロミド、ヨージド、フルオライド、アセテート、プロピオネート、デカノエート、カプリレート、アクリレート、ホルメート、イソブチレート、カプレート、ヘプタノエート、プロピオレート、オキサレート、マロネート、スクシネート、スベレート、セバケート、フマレート、マレエート、ブチン-1,4-ジオエート、ヘキサン-1,6-ジオエート、ベンゾアート、クロロベンゾアート、メチルベンゾアート、ジニトロベンゾアート、ヒドロキシベンゾアート、メトキシベンゾアート、フタレート、テレフタレート、ベンゼンスルホネート、トルエンスルホネート、クロロベンゼンスルホネート、キシレンスルホネート、フェニルアセテート、フェニルプロピオネート、フェニルブチレート、シトレート、ラクテート、β-ヒドロキシブチレート、グリコレート、マレート、タルトレート、メタンスルホネート、プロパンスルホネート、ナフタレン-1-スルホネート、ナフタレン-2-スルホネートまたはマンデレートを含む。
【0035】
本発明による酸付加塩は、通常の方法、例えば、化学式1で表される化合物を過量の酸水溶液中に溶解させ、この塩を水混和性有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、アセトンまたはアセトニトリルを使用して沈殿させて製造することができる。また、この混合物で溶媒や過量の酸を蒸発させた後、乾燥させたりまたは析出された塩を吸入濾過させて製造することもできる。
【0036】
また、塩基を使用して薬学的に許容可能な金属塩を作ることもできる。アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩は、例えば、化合物を過量のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物溶液中に溶解し、非溶解化合物塩を濾過し、濾液を蒸発、乾燥させて得る。この際、金属塩としては、ナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩を製造することが製薬に適合する。これに対応する銀塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属塩を適当な銀塩(例えば、硝酸銀)と反応させて得る。
【0037】
本発明の薬学的組成物は、有効成分以外に薬剤学的に許容される担体を含むことができる。この際、薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通常用いられるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾアート、プロピルヒドロキシベンゾアート、滑石、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイルなどを含むが、これに限定されるものではない。また、前記成分以外に潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含むことができる。
【0038】
本発明の薬学的組成物は、目的とする方法によって経口投与したり非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)することができ、投与量は、患者の状態および体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路および時間によって異なるが、当業者により適宜選択され得る。
【0039】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において「薬学的に有効な量」は、医学的治療に適用可能な合理的な恵み/リスクの割合で疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効用量水準は、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する敏感度、投与時間、投与経路および排出比率、治療期間、同時使用される薬物を含む要素およびその他医学分野によく知られた要素によって決定され得る。本発明による薬学的組成物は、個別治療剤として投与されたり、他の治療剤と併用して投与され得、従来の治療剤とは順次にまたは同時に投与され得、単一または多重投与され得る。上記した要素を全部考慮して副作用なしに最小の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは、当業者により容易に決定され得る。
【0040】
具体的に、本発明の薬学的組成物の有効量は、患者の年齢、性別、状態、体重、体内に活性成分の吸収度、不活性率および排泄速度、疾病の種類、併用される薬物によって変わり得、一般的には、体重1kg当り0.001~150mg、好ましくは0.01~100mgを毎日または隔日投与したり、1日1~3回に分けて投与することができる。しかしながら、投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢などによって増減することができるので、前記投与量がいかなる方法でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0041】
本発明の組成物による予防、治療対象疾病である「癌」は、正常ヒトの組織の細胞が何らかの原因により無制限に増殖して、その生体の生活現象や周囲の組織状態などに関係なく急速な発育を継続する疾患に区分され、本発明における癌は、前立腺癌であり得るが、これに制限されない。
【0042】
本発明の化合物は、PLK1活性抑制を通じて癌細胞の増殖を抑制することによって、癌の予防、改善または治療するに効果がある。
【0043】
本発明において、前記THAは、クルクマコモサから抽出され得、当業界に公知となった天然から抽出物を収得する方法であれば、全部使用することができ、好ましくは水または有機溶媒を添加して可溶抽出する方法を通じて収得することができる。
【0044】
前記クルクマコモサに水や有機溶媒を添加して抽出する過程は、撹拌または放置などの方法で行われ得るが、熱水抽出法、冷浸抽出法、還流冷却抽出法または超音波抽出法などを1回または数回繰り返して抽出することができ、この際、添加できる前記有機溶媒としては、これに制限されないが、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、エーテル、ベンゼン、クロロホルム、エチルアセテート、またはメチレンクロリドなどを使用することができる。
【0045】
また、本発明は、前記薬学的組成物を個体に投与する段階を含む前立腺癌の治療方法を提供する。本発明において「個体」とは、疾病の治療を必要とする対象を意味し、より具体的には、ヒトまたは非ヒトである霊長類、マウス(rat)、マウス(mouse)、犬、猫、馬および牛などの哺乳類を意味する。
【0046】
以下、本発明の理解を助けるために好ましい実施例を提示する。しかしながら、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるものに過ぎず、下記実施例により本発明の内容が限定されるものではない。
【実施例
【0047】
実施例1.実験準備および実験方法
1-1.試薬および材料
cleaved caspase-3(CC3)、Cdc25c、Polo-like kinase 1(Plk1)抗体は、Cell Signaling Technology(Beverly,MA,USA)から購入し、サイクリンB1(G2/mitotic-specifiec cyclin-B1)、アンドロゲン受容体(AR)抗体およびTHA(2,4,6-trihydroxyacetophenone)は、Santa Cruz Biotechnology(Dallas,TX.USA)から購入した。また、phospho-HH3(histone H3,PHH3)抗体は、Biolegend(San Diego.CA,USA)から購入した。
【0048】
IncucyteTM caspase-3/7 green apoptosis assay reagentは、Essen Bioscience(Ann Arbor,MI,USA)から購入し、β-アクチン抗体およびフルタミドは、Sigma(St.Louis,MO,USA)から購入し、クルクマコモサは、(株)韓国ユナイテッド製薬から提供されて使用した。
【0049】
1-2.前立腺癌細胞株の培養
LnCaP細胞、アンドロゲン受容体(AR)陰性細胞であるPC3細胞、および去勢抵抗性を示すC4-2細胞は、10%ウシ胎児血清(FBS)(Hyclone,Logan,UT,USA)と1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含むRPMI-1640(Hyclone,Logan,UT,USA)培地を使用して培養した。
【0050】
フルタミド抵抗性LnCaP細胞(FLTRLNCaP細胞)は、9%ウシ胎児血清(Hyclone,Logan,UT,USA)と1%チャコール/デキストラン処理ウシ胎児血清(Gemini,West Sacramento,CA,USA)を含む培地でLnCaP細胞を培養した後、フルタミドを処理して構築したものであって、前記フルタミドの濃度を約12ヶ月間1μMから始めて次第に高めて、結果的に、30μMで抵抗性を獲得したフルタミド抵抗性LnCaP細胞を構築した。
【0051】
1-3.免疫化学的分析
ゲル電気泳動装置(Mighty Small SE250,Hoefer Scientific Instruments,San Francisco)を使用してSDS-PAGE(sodium dodecylsulfate-polyacrylamidegel electrophoresis)を行った。細胞の溶解分画を試料希釈緩衝溶液[63mM Tris(pH6.8)、10%グリセロール、2%SDS、0.0013%ブロモフェノールブルー、5%β-メルカプトエタノール]に希釈した後、8~12%ゲルを使用して電極緩衝溶液(1L溶液のうちTris 15g、グリセリン72g、SDS 5g含有)内で電気泳動を行った。電気泳動が終わったゲルを転移用電気泳動装置を利用して転移緩衝溶液(25mM Tris、192mMグリセリン、20%v/vメタノール(pH8.3))内で190mAmpsで70分間ニトロセルロース膜にタンパク質を移転させた。1次抗体で前記ニトロセルロース膜に反応させた後、これに2次抗体で西洋ワサビペルオキシダーゼ-接合ヤギ抗-ウサギIgG(horseradish peroxidase-conjugated goat anti-rabbit IgG)と西洋ワサビペルオキシダーゼ-接合ヤギ抗-マウス(anti-mouse)IgGを6時間の間反応させ、ECL検出システム(ECL chemiluminecence system,Amersham,Gaithesberg,MA)を使用して発色した。
【0052】
1-4.リアルタイム細胞増殖の分析
細胞増殖を測定するために、細胞を96-well dish(5×10細胞/well)に敷いた。薬物を処置した後、4時間間隔で生きている細胞数をIncuCyte ZOOM Live Cell Anaylsis System(Essen Bioscience,Ann Arbor,MI,USA)を利用して測定した。
【0053】
1-5.リアルタイム細胞死の分析
細胞死を測定するために、細胞を96-well dish(5×10細胞/well)に敷いた。The IncuCyte ZOOMTM 96-well Caspase-3/7 apoptosis assay reagent(Essen Bioscience,Ann Arbor,MI,USA)を3時間前処理し、薬物を処置した後、4時間間隔で蛍光発現程度をIncuCyte ZOOMTM Live Cell Anaylsis System(Essen Bioscience,Ann Arbor,MI,USA)を利用して測定した。
【0054】
1-6.細胞周期の分析
細胞周期分布を測定するために、細胞を100mmのディッシュ(5×10細胞/well)に敷いた。細胞を4℃でPBSで固定し、70%EtOHに4℃で冷蔵して、24時間培養した。70%EtOHを除去した後、1%ウシ血清アルブミン/0.5%Triton X-100/0.2mg/ml EDTAからなるライジングソリューション(lysing solution)にPHH3抗体を最終濃度1:50で処理した後、37℃で15分間染色した。その後、前記ライジングソリューションを除去し、PI(Propidium Iodide)/Triton X-100/DNAse-free RNAse Aを利用して37℃で15分間さらに染色した。次に、FACS CaliburTM(BD Biosciences,CA,USA)機械を利用して実験群当たり20,000個の細胞を分析した。
【0055】
実施例2.前立腺癌細胞におけるPlk1発現様相の確認
2-1.前立腺癌細胞においてPlk1およびアンドロゲン受容体の発現変化の確認
前記実施例1-2の方法で培養したLnCaP、C4-2、PC3、およびFLTR-LnCaP細胞を6ウェルプレートに敷いた。36時間が経過した後、実施例1-3の免疫化学的分析方法でPlk1(Polo-like kinase 1)およびアンドロゲン受容体(Androgen Receptor,AR)の発現変化を観察した。
【0056】
その結果、図1に示されたように、Plk1の発現量は、去勢抵抗性を示すC4-2細胞とPC3細胞(AR陰性細胞)で高く現れ、ARの発現量は、C4-2細胞で最も高いことを確認した。一方、FLTR-LNCaP細胞の場合、AR拮抗剤を長期処置して、フルタミド抵抗性を起こした細胞であるが、Plk1の発現は高く現れなかった。以上より、Plk1は、去勢抵抗性前立腺癌細胞(C4-2)およびAR陰性前立腺癌細胞(PC3)において選択的に過多発現することが分かる。
【0057】
2-2.前立腺癌細胞においてPlk1および下位タンパク質の発現変化の確認
前記実施例1-2の方法で培養した前立腺癌細胞のうち3種であるLNCaP、PC3、およびC4-2細胞を6ウェルプレートに敷いた後、12時間後、実施例1-3の免疫化学的分析方法でPlk1(Polo-like kinase 1)およびPlk1下位因子であるcdc25cとサイクリンB1の発現変化を観察した。
【0058】
その結果、図2Aおよび図2Bに示されたように、PC3とC4-2細胞においてPlk1だけでなく、cdc25c(M-phase inducer phosphatase 3)およびサイクリンB1(G2/mitotic-specific cyclin-B1)の発現量が全部増加したが、反面、LNCaP細胞においては、発現量の変化がないことを確認した。以上より、Plk1発現が高い細胞においてPlk1下位信号の活性化が観察されることが分かる。
【0059】
実施例3.THA処理による前立腺癌細胞の細胞増殖抑制効果の確認
THAを前立腺癌細胞に処理した後、これによる細胞増殖抑制効果を比較観察するために、THA(分子量:168.15)0.168gを1mlのDMSOに希釈して1Mを調製した。前記実施例1-2の方法で培養した前立腺癌細胞株(LnCaP、PC3、C4-2)にTHA(3、10、30μM)、Plk1抑制剤であるBI2536(1、5、10、50、100nM)およびプルプロガリン(purpurogaline,PPG)(3、10、30、100μM)処理した後、実施例1-4によるリアルタイム細胞増殖分析方法で細胞増殖抑制効果を68時間の間比較観察した。
【0060】
その結果、図3に示されたように、前立腺癌細胞においてTHA、BI2536、およびプルプロガリンの間の細胞増殖抑制効果を比較した結果、PC3およびC4-2細胞においてTHAがBI2536と同一に細胞増殖抑制効果を示した。
【0061】
以上より、THAは、BI2536と同様に、Plk1の発現が高かったホルモン抵抗性前立腺癌細胞(C4-2およびPC3)において選択的に細胞増殖を抑制することが分かり、ホルモン反応性であるLNCaP細胞においては、5-0%以上の細胞増殖抑制が観察されないことが分かる。Plk1 polo-box domain抑制剤として知られたプルプロガリンは、LNCaP細胞およびPC3において制限的な細胞増殖抑制活性を示し、C4-2細胞においては、100uM濃度だけで非選択的に示される細胞増殖抑制効果が観察された。
【0062】
実施例4.THA処理による前立腺癌細胞のアポトーシス増加効果の確認
カスパーゼ-3/7(caspase-3/7)は、ミトコンドリア媒介性または細胞死受容体媒介性アポトーシス(apoptosis)誘導時に選択的に活性化する酵素であって、THAを前立腺癌細胞に処理した後、これによる細胞死増加効果を比較観察するために、前記実施例1-2の方法で培養した前立腺癌細胞株であるPC3およびC4-2細胞に30μMのTHAおよび5nMのBI2536をそれぞれ処理した後、IncuCyte ZOOMTM Live Cell Anaylsis System(Essen Bioscience,Ann Arbor,MI,USA)を利用して4時間間隔でカスパーゼ-3/7選択的蛍光基質を定量して、アポトーシス程度を48時間の間観察した。
【0063】
その結果、図4Aおよび図4Bに示されたように、THAは、アポトーシス指数を有意的に増加させることを確認した。
【0064】
また、アポトーシス時の活性型カスパーゼ-3であるcleaved caspase-3(CC3)の発現変化を確認してアポトーシス程度を観察したが、まず、前記実施例1-2の方法で培養したC4-2およびPC3細胞を6ウェルプレートに敷いた後、12時間が経過した後、30μMのTHAおよび5nMのBI2536を48時間の間処理した。その後、前記実施例1-3の免疫化学的分析方法でcleaved caspase-3(CC3)の発現変化を観察した。
【0065】
その結果、図5Aおよび図5Bに示されたように、cleaved caspase-3の発現量が増加することを観察することができたところ、THAは、アポトーシス指数を有意的に増加させることを確認した。以上より、ホルモン抵抗性前立腺癌細胞であるPC3およびC4-2細胞においてTHAおよびBI2536処理時に全部アポトーシスを効果的に誘導することが分かる。
【0066】
実施例5.THA処理による前立腺癌細胞の細胞周期遮断効果の確認
Plk1は、代表的なG2/M細胞周期調節リン酸化酵素であって、THA処置による前立腺癌細胞の細胞周期遮断効果を確認するために、前記実施例1-2の方法で培養したPC3細胞を6ウェルプレートに敷いた後、12時間が経過した後、30μMのTHAと5nMのBI2536を24時間の間処理した。その後、前記実施例6の方法で各sub-G1、S、G2/M期の細胞分布図およびPHH3陽性細胞(M phaseマーカー)の比率を変化観察した。
【0067】
その結果、図6Aおよび図6Bに示されたように、THAは、G2/M周期に選択的に細胞周期の進行を遮断することを確認することができたが、BI2536やTHA処置時にG2/M周期に30%以上の細胞が観察され、PHH3陽性細胞の定量時にも対照群対比有意的な増加が観察された。したがって、以上より、ホルモン抵抗性前立腺癌細胞であるPC3細胞においてTHAおよびBI2536処理時にG2/M期の進行抑制を誘導することが分かる。
【0068】
以上より、Plk1発現が高い前立腺癌細胞にTHAが選択的に作用することが分かるところ、したがって、将来Plk1陽性前立腺癌の治療においてTHAを有用に活用することができるものと期待される。
【0069】
前述した本発明の説明は、例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形可能であることを理解することができる。したがって、以上で記述した実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的でないものと理解しなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のTHAは、クルクマコモサ(Curcuma comosa)の主成分であって、本発明の組成物は、特にPLK1(Polo-like kinase 1)の活性を抑制することによって、前立腺癌の増殖を効果的に抑制するところ、前立腺癌に対する予防、改善、および治療の用途に利用され得るので、医療産業など関連産業分野において有用に利用されるものと期待される。
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B