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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】建方支援方法及び建方支援システム
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/16 20060101AFI20220104BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
E04G21/16
G01C15/00 103A
G01C15/00 104Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020070995
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021167526
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2021-01-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514018238
【氏名又は名称】株式会社きんそく
(73)【特許権者】
【識別番号】596118530
【氏名又は名称】テクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】奥野 勝司
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰史
(72)【発明者】
【氏名】田中 達
(72)【発明者】
【氏名】森田 栄治
(72)【発明者】
【氏名】内藤 充洋
(72)【発明者】
【氏名】谷山 英臣
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-275044(JP,A)
【文献】特開2019-052864(JP,A)
【文献】特開平09-242339(JP,A)
【文献】特開2014-091925(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/16
G01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築構造材が所定の建方精度に収まるように調整する作業者を支援する建方支援方法であって、
視準方向と画像中心とが所定の位置関係となる撮像装置を備えた測量機器を用いて、前記建築構造材の部材芯と所定の位置関係を有する位置に設置されたマーカープリズムを視準してプリズム測量データを取得するとともに前記マーカープリズムを含む撮像データを基準画像として取得する第1計測ステップと、
前記第1計測ステップで取得したプリズム測量データに基づいて前記建築構造材の部材芯の現在位置を算出する部材芯位置算出ステップと、
前記部材芯の現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向を算出する第1補正演算ステップと、
前記第1補正演算ステップで算出した補正量及び補正方向を示す第1補正案内画像を表示装置に表示する第1表示ステップと、
前記測量機器の視準方向を前記マーカープリズムから前記設計位置に切り替える視準方向切替ステップと、
第1表示ステップで表示される前記第1補正案内画像に基づいて作業者が前記建築構造材に取付けた建入れ調整治具を操作する第1調整ステップと、
前記第1調整ステップで調整された後に、前記視準方向切替ステップで切り替えた視準方向を維持した状態でノンプリズム測量データを取得するとともに撮像データを参照画像として取得する第2計測ステップと、
前記参照画像と前記第1計測ステップで取得した基準画像のマッチング処理を行なうことにより前記マーカープリズムの画像位置を抽出し、前記測量機器から前記参照画像に含まれる前記マーカープリズムの画像位置と前記参照画像の視準方向に対応する画像位置との成す角度と前記ノンプリズム測量データとに基づいて、前記部材芯の現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向を算出する第2補正演算ステップと、
前記第2補正演算ステップで算出した補正量及び補正方向を示す第2補正案内画像を表示装置に表示する第2表示ステップと、
第2表示ステップで表示される前記第2補正案内画像に基づいて作業者が前記建入れ調整治具を操作する第2調整ステップと、
を備え、
前記第2計測ステップから前記第2調整ステップの一連のステップを繰り返すように構成されている建方支援方法。
【請求項2】
前記建築構造材が円柱状建築構造材である場合に、前記第1計測ステップは、前記マーカープリズムを視準してプリズム測量データを取得するとともに前記マーカープリズムと同一高さの前記円柱状建築構造材の外周上の一点を視準してノンプリズム測量データを取得するように構成され、前記部材芯位置算出ステップは、第1計測ステップで取得したプリズム測量データ及びノンプリズム測量データと、前記円柱状建築構造材の半径に基づいて前記円柱状建築構造材の部材芯の現在位置を算出するように構成されている請求項記載の建方支援方法。
【請求項3】
前記建築構造材に設定された少なくとも二つの部材芯に対応して其々設置された各マーカープリズムに対して、前記第1計測ステップと、部材芯位置算出ステップと、前記第1補正演算ステップと、前記第1表示ステップとを実行し、
複数の部材芯に対して前記第1調整ステップ以降の処理を実行する際に、前記視準方向切替ステップにより前記測量機器の視準方向を対応する部材芯の設計位置に切り替えるように構成されている請求項記載の建方支援方法。
【請求項4】
前記複数の部材芯は、前記第1補正演算ステップにより算出された各部材芯位置に対する補正量及び補正方向に基づいて、前記第1調整ステップ以降の処理が必要と判断された部材芯である請求項記載の建方支援方法。
【請求項5】
建て込まれた建築構造材が所定の建方精度に収まるように調整する作業者を支援する建方支援システムであって、
視準方向と画像中心とが所定の位置関係となる撮像装置を備えた測量機器と、
前記測量機器を用いて前記建築構造材の部材芯と所定の位置関係を有する位置に設置されたマーカープリズムを視準して取得したプリズム測量データと前記マーカープリズムを含む基準画像としての撮像データを記憶する第1記憶部と、前記測量機器を用いて前記建築構造材の部材芯の設計位置を視準して取得したノンプリズム測量データと参照画像となる撮像データを記憶する第2記憶部と、を含む測量制御装置と、
前記プリズム測量データに基づいて前記建築構造材の部材芯の現在位置を算出し、前記部材芯の現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向を算出して第1補正案内画像を生成する第1補正演算部と、前記参照画像と前記基準画像のマッチング処理を行なうことにより前記マーカープリズムの画像位置を抽出し、前記測量機器から前記参照画像に含まれる前記マーカープリズムの画像位置と前記参照画像の視準方向に対応する画像位置との成す角度と前記ノンプリズム測量データとに基づいて、前記部材芯の現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向を算出して第2補正案内画像を生成する第2補正演算部と、を含む補正演算装置と、
前記建築構造材に取付けられた建入れ調整治具を操作する作業者の近傍に設置され、前記補正演算装置で生成された補正案内画像を表示する表示装置と、
を備えている建方支援システム。
【請求項6】
前記測量機器は視準方向を遠隔操作可能な姿勢調整装置を備え、前記表示装置に前記姿勢調整装置を遠隔操作して前記マーカープリズムを視準する遠隔操作部を備えている請求項記載の建方支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建方支援方法及び建方支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、作業者による柱の調整作業を迅速且つ適切に行なうことができる建方支援システムが提案されている。当該建方支援システムは、測量機器と、第1のモバイル機器と、第2のモバイル機器と、を備えて構成されている。
【0003】
第1のモバイル機器は、測量機器に対する通信インタフェースと、建て込まれた柱に対して予め入力された設計値と前記通信インタフェースを介して得られた実測値とに基づいて、当該柱の柱芯に対する補正量及び補正方向を算出する補正処理部と、前記補正処理部で算出された補正量及び補正方向を示す補正案内画像を表示部に表示する第1表示処理部とを備えている。
【0004】
第2のモバイル機器は、当該柱に取付けられた建入れ調整治具を操作する作業者の近傍に配置され、前記第1のモバイル機器との間で表示画像を共有処理する画像共有受信処理部と、前記画像共有受信処理部で共有された前記補正案内画像を表示部に表示する第2表示処理部とを備えている。
【0005】
前記補正案内画像は、前記柱芯の設計値を示す基準位置で交差する方位線と、前記実測値から算出される前記柱芯の現在位置を示す柱芯マーカーと、前記基準位置の周りに区画され許容範囲を示す第1領域と、前記第1領域の外側に区画され非許容領域を示す第2領域と、前記柱芯マーカーを前記基準位置に調整するための前記補正量及び前記補正方向を含む。
【0006】
特許文献2には、打設中の杭の貫入深度を計測するべくバイブロハンマの非振動部に取付けられたプリズムと、前記プリズムをターゲットとする自動追尾式のトータルステーションと、を有し、杭の打設中に前記トータルステーションにより計測された貫入深度に基づいて前記打設管理を行うことを特徴とする杭打設管理システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6433033号公報
【文献】特開2019-7260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示された建方支援システムでは、調整用の治具で柱の姿勢が調整される過程で、測量機器の近傍に測定者が常に待機して柱に設置されたプリズムを常時視準し、第1のモバイル機器を操作する必要があり、人件費の抑制という観点で課題があった。
【0009】
また第2のモバイル機器に表示された表示画像に基づいて作業者が柱に取付けられた建入れ調整治具を操作する過程で、測定者が測量機器を操作してプリズム視準するために時間を要するため、調整作業にある程度の時間がかかり、さらに効率的に調整することが求められていた。
【0010】
特許文献2に開示された自動追尾式のトータルステーションを用いる場合には、調整用の治具で柱の姿勢が調整される過程で自動追尾のための時間応答遅れが生じ、第2のモバイル機器に表示される補正案内画像と自動追尾のタイミングにずれが生じて適正に調整することができないという問題があった。
【0011】
そこで、補正案内画像に基づいて調整用の治具で柱の姿勢を調整した後に、遠隔操作で自動追尾機能を作動させると、上述した不都合は生じないのであるが、自動追尾に要する時間遅れの影響があり、それに対応して作業者による調整作業に時間遅れが生じるという問題があった。
【0012】
そして、鉄骨柱のような柱材のみならず、梁材、壁材、斜材、並びに柱材と梁材の組立体などの建築構造材であっても、建入れ調整治具を用いてそれらの建築構造材を所定の位置に位置決め調整する際に、上述と同様の問題があった。
【0013】
本発明の目的は、上述した従来の問題点に鑑み、人件費を抑制しつつ作業者による建築構造材の調整作業を可及的に速やかに且つ適切に行なうことができる建方支援方法及び建方支援システムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明による建方支援方法の第一の特徴構成は、建築構造材が所定の建方精度に収まるように調整する作業者を支援する建方支援方法であって、視準方向と画像中心とが所定の位置関係となる撮像装置を備えた測量機器を用いて、前記建築構造材の部材芯と所定の位置関係を有する位置に設置されたマーカープリズムを視準してプリズム測量データを取得するとともに前記マーカープリズムを含む撮像データを基準画像として取得する第1計測ステップと、前記第1計測ステップで取得したプリズム測量データに基づいて前記建築構造材の部材芯の現在位置を算出する部材芯位置算出ステップと、前記部材芯の現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向を算出する第1補正演算ステップと、前記第1補正演算ステップで算出した補正量及び補正方向を示す第1補正案内画像を表示装置に表示する第1表示ステップと、前記測量機器の視準方向を前記マーカープリズムから前記設計位置に切り替える視準方向切替ステップと、第1表示ステップで表示される前記第1補正案内画像に基づいて作業者が前記建築構造材に取付けた建入れ調整治具を操作する第1調整ステップと、前記第1調整ステップで調整された後に、前記視準方向切替ステップで切り替えた視準方向を維持した状態でノンプリズム測量データを取得するとともに撮像データを参照画像として取得する第2計測ステップと、前記参照画像と前記第1計測ステップで取得した基準画像のマッチング処理を行なうことにより前記マーカープリズムの画像位置を抽出し、前記測量機器から前記参照画像に含まれる前記マーカープリズムの画像位置と前記参照画像の視準方向に対応する画像位置との成す角度と前記ノンプリズム測量データとに基づいて、前記部材芯の現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向を算出する第2補正演算ステップと、前記第2補正演算ステップで算出した補正量及び補正方向を示す第2補正案内画像を表示装置に表示する第2表示ステップと、第2表示ステップで表示される前記第2補正案内画像に基づいて作業者が前記建入れ調整治具を操作する第2調整ステップと、を備え、前記第2計測ステップから前記第2調整ステップの一連のステップを繰り返すように構成されている点にある。
【0015】
第1計測ステップで測量機器により建築構造材に設置されたマーカープリズムを視準してプリズム測量データが取得されるとともにマーカープリズムを含む撮像データが取得され、部材芯位置算出ステップでプリズム測量データに基づいて建築構造材の部材芯の現在位置が算出される。第1補正演算ステップで部材芯の現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向が算出され、第1表示ステップで補正量及び補正方向を示す第1補正案内画像が表示装置に表示される。
【0016】
視準方向切替ステップで測量機器の視準方向がマーカープリズムから設計位置に切り替えられ、第1調整ステップで表示装置に表示された第1補正案内画像に基づいて部材芯の現在位置を設計位置に近づけるべく作業者によって建築構造材に取付けた建入れ調整治具が操作される。
【0017】
次に第2計測ステップが実行されて、視準方向切替ステップで設計位置に切り替えた視準方向を維持した状態で測量機器によりノンプリズム測量データが取得され、さらに撮像データが参照画像として取得される。第2補正演算ステップで参照画像から抽出したマーカープリズムの位置とノンプリズム測量データとに基づいて、部材芯の現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向が算出されて、第2表示ステップで補正量及び補正方向が第2補正案内画像として表示され、第2調整ステップでは、第2補正案内画像に基づいて部材芯の現在位置を設計位置に近づけるべく作業者によって建築構造材に取付けた建入れ調整治具が操作される。第2計測ステップから前記第2調整ステップの一連のステップが繰り返されることにより、部材芯の現在位置が設計位置に向けて調整される。
【0018】
第2計測ステップから第2調整ステップの一連のステップでは、測量機器の視準方向が設計位置に固定されて変更されることがないので、測量に要する時間が短くなり効率的に調整作業が行なえるようになる。
【0019】
2補正演算ステップでは、参照画像と基準画像のマッチング処理を行なうことにより参照画像に含まれるマーカープリズムの画像位置が抽出され、測量機器から参照画像に含まれるマーカープリズムの画像位置と参照画像の視準方向に対応する画像位置との成す角度とノンプリズム測量データつまり建築構造材の何れかの表面までの距離に基づいて補正量及び補正方向が算出される。
【0020】
同第の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記建築構造材が円柱状建築構造材である場合に、前記第1計測ステップは、前記マーカープリズムを視準してプリズム測量データを取得するとともに前記マーカープリズムと同一高さの前記円柱状建築構造材の外周上の一点を視準してノンプリズム測量データを取得するように構成され、前記部材芯位置算出ステップは、第1計測ステップで取得したプリズム測量データ及びノンプリズム測量データと、前記円柱状建築構造材の半径に基づいて前記円柱状建築構造材の部材芯の現在位置を算出するように構成されている点にある。
【0021】
第1計測ステップで、マーカープリズムを視準したプリズム測量データと、マーカープリズムと同一高さの円柱状建築構造材の外周上の一点を視準したノンプリズム測量データが取得され、部材芯位置算出ステップで、其々の位置データと円柱状建築構造材の半径から幾何学的に円柱状建築構造材の部材芯の現在位置が算出される。
【0022】
同第の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記建築構造材に設定された少なくとも二つの部材芯に対応して其々設置された各マーカープリズムに対して、前記第1計測ステップと、部材芯位置算出ステップと、前記第1補正演算ステップと、前記第1表示ステップとを実行し、複数の部材芯に対して前記第1調整ステップ以降の処理を実行する際に、前記視準方向切替ステップにより前記測量機器の視準方向を対応する部材芯の設計位置に切り替えるように構成されている点にある。
【0023】
建築構造材が例えば梁部材や壁部材のように少なくとも二つの部材芯が設定されている場合には、其々の部材芯に対して位置調整する必要がある。このような場合でも、少なくとも二つの部材芯に対応して其々設置されたマーカに対して、上述した第1計測ステップと、部材芯位置算出ステップと、第1補正演算ステップと、第1表示ステップとを実行し、視準方向切替ステップとを実行しておき、複数の部材芯に対して第1調整ステップ以降の処理を実行する際に、視準方向切替ステップにより測量機器の視準方向を調整対象の部材芯の設計位置に切り替えることで、時間を要することなく対応する部材芯の現在位置を個別に調整できるようになる。
【0024】
同第の特徴構成は、上述した第の特徴構成に加えて、前記複数の部材芯は、前記第1補正演算ステップにより算出された各部材芯位置に対する補正量及び補正方向に基づいて、前記第1調整ステップ以降の処理が必要と判断された部材芯である点にある。
【0025】
第1補正演算ステップにより算出された各部材芯位置に対する補正量及び補正方向を作業者が確認して、調整が必要であると判断した部材芯位置に対して第1調整ステップ以降の処理を行なうことで効率的な建方支援が可能になる。
【0026】
本発明による建方支援システムの第一の特徴構成は、建て込まれた建築構造材が所定の建方精度に収まるように調整する作業者を支援する建方支援システムであって、視準方向と画像中心とが所定の位置関係となる撮像装置を備えた測量機器と、前記測量機器を用いて前記建築構造材の部材芯と所定の位置関係を有する位置に設置されたマーカープリズムを視準して取得したプリズム測量データと前記マーカープリズムを含む基準画像としての撮像データを記憶する第1記憶部と、前記測量機器を用いて前記建築構造材の部材芯の設計位置を視準して取得したノンプリズム測量データと参照画像となる撮像データを記憶する第2記憶部と、を含む測量制御装置と、前記プリズム測量データに基づいて前記建築構造材の部材芯の現在位置を算出し、前記部材芯の現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向を算出して第1補正案内画像を生成する第1補正演算部と、前記参照画像と前記基準画像のマッチング処理を行なうことにより前記マーカープリズムの画像位置を抽出し、前記測量機器から前記参照画像に含まれる前記マーカープリズムの画像位置と前記参照画像の視準方向に対応する画像位置との成す角度と前記ノンプリズム測量データとに基づいて、前記部材芯の現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向を算出して第2補正案内画像を生成する第2補正演算部と、を含む補正演算装置と、前記建築構造材に取付けられた建入れ調整治具を操作する作業者の近傍に設置され、前記補正演算装置で生成された補正案内画像を表示する表示装置と、を備えている点にある。
【0027】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記測量機器は視準方向を遠隔操作可能な姿勢調整装置を備え、前記表示装置に前記姿勢調整装置を遠隔操作して前マーカープリズムを視準する遠隔操作部を備えている点にある。
【発明の効果】
【0028】
以上説明した通り、本発明によれば、人件費を抑制しつつ作業者による建築構造材の調整作業を可及的に速やかに且つ適切に行なうことができる建方支援方法及び建方支援システムを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】建方支援システムの説明図
図2】建方支援システムを構成する建方支援装置、測量機器、表示装置、建方管理サーバの機能ブロックの説明図
図3】(a),(b),(c)は補正量及び補正方向の算出アルゴリズムの説明図
図4】(a),(b),(c)は第1及または第2補正案内画像の説明図
図5】建方支援方法の基本手順説明図
図6】建方支援方法の詳細手順説明図
図7】(a),(b),(c),(d)は建築構造材及び部材芯の説明図
図8】(a)は平面視が略矩形の建築構造部材(柱)の部材芯(柱芯)とマーカーとの位置関係を示し、左図は平面図、右図は要部正面図、(b)は平面視が円形の建築構造部材(柱)の部材芯(柱芯)の算出方法の説明図
図9】別実施形態を示す建方支援方法の基本手順説明図
図10】出来形図面の一例の説明図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明による建方支援方法及び建方支援システムを説明する。建方支援システムとは、建築構造材が所定の建方精度に収まるように調整する作業者を支援するために用いるコンピュータ応用システムである。
【0031】
[建築構造材の説明]
本発明が適用される建築構造材とは、鉄骨柱などの垂直荷重を受ける柱材、水平外力に対して軸組の補剛に用いる筋かいなどの斜材、柱材間に水平方向に架けられ、主に曲げ応力を担う梁材、鋼板製の壁材などの建築構造物の剛性を保つための骨組みとなる建築部材、並びに柱材と梁材の組立体をいう。
【0032】
また、各建築構造部材を設計位置に位置調整するための基準として各建築構造部材には単一または複数の部材芯が予め定義されている。以下、例示する。
図7(a)には柱材11が示され、平面視で柱材11の中心を縦方向に貫く線が部材芯Pとなり、部材芯Pが設計位置に位置するように、上端側に一つのマーカープリズム12が設置されている。マーカープリズム12の位置は、部材芯Pからのオフセット値で規定されているため、マーカープリズム12の位置が判明すると部材芯Pの位置が算出できる。
【0033】
なお、マーカープリズム12が測量機器の死角に入る場合に備えて、少なくとも隣接する2面にマーカープリズム12が設置されている。符号13は建入れ調整治具を示し、作業者が建入れ調整治具13を操作することにより、柱材11の姿勢が上下方向、左右方向、奥行き手前方向に調整される。
【0034】
図7(b)には斜材11が示され、柱材11と同様に中心を縦方向に貫く線が部材芯Pとなり、部材芯Pが設計位置に位置するように、上端側に一つのマーカープリズム12が設置されている。
【0035】
図7(c)には梁材11が示され、側面視で梁材11の中心を横方向に貫く線が部材芯Pとなり、部材芯Pが設計位置に位置するように、左右両端側に其々マーカープリズム12が設置されている。梁材11は柱材11の間を接続するように複数本が連結配置され、其々が設計位置に沿って水平に配置されるように、左右其々で建入れ調整治具13を介して姿勢調整される。
【0036】
図7(d)には壁材11が示され、平面視で壁材11の左右端部側を縦方向に貫く2本の線が部材芯Pとなり、其々の部材芯Pが設計位置に位置するように、左右両端で上部側に其々マーカープリズム12が設置されている。壁材11は建築物の面を構成する部材で複数枚が上下左右に連結配置され、其々が設計位置に沿って配置されるように、左右其々で建入れ調整治具13を介して姿勢調整される。図7(a)~(d)に示したように、建入れ調整治具13が配されている箇所が部材間の連結位置となる。
【0037】
[柱材の建方支援システム]
以下、建築構造材として柱材を例にして本発明による建方支援システムを説明する。柱材11の部材芯Pとして柱材11の長手方向に沿って柱材を貫く柱芯Pが用いられる(図7(a)参照。)。
【0038】
[柱材の建方支援システム]
図1に示すように、建方支援システム1は、建て込まれた鉄骨柱(以下、単に「柱」という。)11が所定の建方精度に収まるように調整する作業者Hを支援するシステムであり、測量機器10と、建方支援装置20と、単一または複数の表示装置30と、建方管理サーバ40などを備えている。
【0039】
測量機器10と建方支援装置20とがブルートゥース(Bluetooth)(登録商標)などの無線通信規格で動作する第1通信インタフェース(以下、「IF」と記す。)を介して通信可能に接続され、建方支援装置20と表示装置30と建方管理サーバ40とがWi-Fiなどの無線通信規格で動作する第2通信IFを介してインターネット5に接続されている。
【0040】
測量機器10と建方支援装置20とは、無線ルータのような中継器を介して接続されていてもよい。例えば、測量機器10と中継器とが第1通信IFを介して通信可能に接続され、中継器と建方支援装置20とが第2通信IFを介して接続されていてもよい。測量機器10の近傍に中継器を備えることにより建方支援装置20を管理事務所など建設現場から離れた位置に設置することが可能になる。
【0041】
建方管理サーバ40には、予め設計柱芯位置などの設計データ40a(図2参照)が格納されたデータベースDBを備えている。当該データベースDBに建方支援装置20で支援されて調整された各柱の調整後の実柱芯位置を含む管理データ40b(図2参照)が記憶される。
【0042】
[測量機器の説明]
図2に示すように、測量機器10は、水準器を備え、光波測距儀と角度を計測するセオドライトを組み合わせて測量するトータルステーションからなる測量部10aと、撮像装置10bと、姿勢調整装置10cと、第1通信IF10dを備えて構成され、三脚(図1参照。)に所定姿勢で固定されている。
【0043】
測量部10aは柱11の上方所定位置に取り付けられた視準用のマーカープリズム(以下、単に「マーカー」と記す。)12をターゲットとして視準して測量するプリズム機能を備えるとともに、マーカー12を用いずに光波の照射点からの散乱反射光に基づいて測量可能なノンプリズム機能を備えている。マーカー12は例えばトータルステーション4に向けて光波を反射するように設置されたプリズムやマイクロミラーが配列された再帰性反射部材で構成されている。プリズム機能で測量する場合には、マーカー12の中心位置に視準する処理に十数秒の時間を要し、ノンプリズム機能で測量する場合には予め設定された視準方向に光波を照射して反射光を受光するだけであるため、殆ど時間を要しない。
【0044】
測量部10aの視準方向と撮像装置10bの光軸方向が平行となり、測量部10aの視準方向と撮像装置10bによる撮像画像の画像中心が所定の関係となるように、撮像装置10bが測量部10aに固定されている。本実施形態では、視準方向が画像中心と一致するように調整されている。従って、撮像装置10bによって得られた画像の中心が視準方向に対応する画像となる。なお、測量機器10は、予め座標(X,Y,Z)が既知の2点と測量機器10との3点の位置関係に対して後方交会法などを用いて自己の座標(X,Y,Z)を取得しており、自己の座標(X,Y,Z)を基準に任意の測量対象を視準して測量する。
【0045】
測量部10aは視準した測量対象に対して、光波測距儀により求まる距離とセオドライトで求まる角度に基づいて算出した測量点の方位(水平角、鉛直角)とを含む測量データを、第1通信IF10dを介して建方支援装置20を含む外部装置に出力する。また、撮像装置10bは測量部10aによる測量処理と同期して撮像した画像を、第1通信IF10dを介して建方支援装置20を含む外部装置に出力する。以下の説明では、プリズム機能を用いて得られた測量データをプリズム測量データ、ノンプリズム機能を用いて得られた測量データをノンプリズム測量データと表記する。
【0046】
姿勢調整装置10cは、測量部10a及び撮像装置10bを水平軸芯周りに回転させる第1モータ及び垂直軸芯周りに回転させる第2モータと、各モータを駆動するモータ制御部を備えて構成され、プリズム機能を用いる場合にマーカー12に対する視準方向を自動追尾する自動追尾機能を備えている。
【0047】
[表示装置の構成]
表示装置30はモバイルコンピュータ、例えばタッチパネル式の液晶表示部を備えたタブレット型のコンピュータや携帯電話装置などで構成され、案内画像表示処理部30aと、第2通信IF30bと、上述した測量機器10に備えた姿勢調整装置10cを遠隔操作する遠隔操作部30cなどの機能ブロックを備えている。
【0048】
案内画像表示処理部30aは、予め表示装置30にインストールされたアプリケーションプログラムに基づいて動作する機能ブロックであり、建方支援装置20で生成され、送信された後述の第1または第2補正案内画像を液晶表示部に表示する機能ブロックである。当該アプリケーションプログラムには表示処理以外に、測量機器10に備えた姿勢調整装置10cを遠隔操作する遠隔操作部30cとしての機能も備わっている。
【0049】
建て込まれた柱11は、建入れが終了し横梁が接続された階下の基部に、建入れ調整治具13を介して仮止めされている。平面視矩形の柱11の各面に建入れ調整治具13が装着され、当該建入れ調整治具13を操作することにより柱11の姿勢が調整可能に構成されている。建入れ調整治具13として油圧式やネジ式の治具を用いることができる。本実施形態ではテクノス株式会社製の「エースアップ」(登録商標)が用いられている。
【0050】
そして、当該建入れ調整治具13を操作する作業者Hである鳶職人が、手元に備えた表示装置30の液晶表示部に表示された第1または第2の補正案内画像を目視して、その案内指示に基づいて各建入れ調整治具13を操作することで、効率的に柱11の実柱芯位置が設計柱芯位置に接近するように調整することができるようになる(図1参照)。
【0051】
[建方支援装置の構成]
建方支援装置20は、CPU、メモリ及び入出力回路などを備えたCPUボードが内蔵され液晶表示部を備えたモバイルコンピュータで構成され、測量機器10と接続する第1通信IF20aと、インターネット5に接続する第2通信IF20bと、測量制御装置20cと、補正演算装置20f、遠隔操作部20iなどの機能ブロックを備えている。当該CPUボードに搭載されたメモリに記憶されるアプリケーションプログラムがCPUで実行されることによって各機能ブロックが具現化される。
【0052】
測量制御装置20cは、測量機器10を用いて建築構造材の部材芯(柱11の柱芯P)と所定の位置関係を有する位置に設置されたマーカー12を視準して取得したプリズム測量データとマーカー12を含む基準画像としての撮像データを記憶する第1記憶部20dと、測量機器10を用いて建築構造材の部材芯の設計位置を視準して取得したノンプリズム測量データと参照画像となる撮像データを記憶する第2記憶部20eとを備えている。「部材芯の設計位置を視準する」との意義は、部材芯が設計位置に存在すると仮定した場合にその建築構造材に取り付けられたマーカー12の存在する位置を視準する、或いは、当該マーカー12の取付高さと同じ高さの部材芯の位置を視準するということである。
【0053】
補正演算装置20fは、プリズム測量データに基づいて建築構造材の部材芯(柱11の柱芯P)の現在位置を算出し、部材芯の現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向を算出して第1補正案内画像を生成する第1補正演算部20gと、参照画像から抽出したマーカー12の位置とノンプリズム測量データとに基づいて、部材芯の現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向を算出して第2補正案内画像を生成する第2補正演算部20hとを備えている。なお、第1補正案内画像及び第2補正案内画像は建方支援装置20に備えたメモリに記憶された後に表示装置30に送信される。
【0054】
[柱材の建方支援方法]
上述の建方支援システムを用いた柱材の建方支援方法について説明する。
図5に示すように、建方支援方法は、第1計測ステップと(SA1)、部材芯位置算出ステップと(SA2)、第1補正演算ステップと(SA3)、第1表示ステップと(SA4)、視準方向切替ステップと(SA5)、第1調整ステップと(SA6)、第2計測ステップと(SA7)、第2補正演算ステップと(SA8)、第2表示ステップと(SA9)、第2調整ステップと(SA10)、を備えている。
【0055】
第1計測ステップ(SA1)は、測量制御装置20cにより実行され、上述した測量機器10を用いて、柱11の柱芯Pと所定の位置関係を有する位置に設置されたマーカー12を視準してプリズム測量データを取得するとともにマーカー12を含む撮像データを基準画像として取得して、第1記憶部20dに記憶する。
【0056】
部材芯位置算出ステップ(SA2)は、補正演算装置20fにより実行され、第1計測ステップで取得したプリズム測量データに基づいて柱11の柱芯Pの現在位置を算出する。
【0057】
第1補正演算ステップ(SA3)は、補正演算装置20fに備えた第1補正演算部20gにより実行され、柱芯Pの現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向を算出して、第1補正案内画像を生成して記憶する。
【0058】
第1表示ステップ(SA4)は、第1補正演算部20gと表示装置30の案内画像表示処理部30aにより実行され、第1補正演算ステップで算出した補正量及び補正方向を示す第1補正案内画像を表示装置に表示する。
【0059】
視準方向切替ステップ(SA5)は、測量制御装置20cにより実行され、測量機器10の視準方向をマーカー12から設計位置に切り替える。
【0060】
第1調整ステップ(SA6)は、作業者により実行され、第1表示ステップで表示される第1補正案内画像に基づいて柱11に取付けた建入れ調整治具13を操作する。
【0061】
第2計測ステップ(SA7)は、測量制御装置20cにより実行され、第1調整ステップで調整された後に、視準方向切替ステップで切り替えた視準方向を維持した状態でノンプリズム測量データを取得するとともに撮像データを参照画像として取得して第2記憶部20eに記憶する。
【0062】
第2補正演算ステップ(SA8)は、補正演算装置20fに備えた第2補正演算部20hにより実行され、参照画像から抽出したマーカー12の位置とノンプリズム測量データとに基づいて、柱芯の現在位置を設計位置に向けて案内する補正量及び補正方向を算出して、第2補正案内画像を生成して記憶する。
【0063】
第2表示ステップ(SA9)は、第2補正演算部20hと表示装置30の案内画像表示処理部30aにより実行され、第2補正演算ステップで算出した補正量及び補正方向を示す第2補正案内画像を表示装置に表示する。
【0064】
第2調整ステップ(SA10)は、作業者により実行され、第2表示ステップで表示される第2補正案内画像に基づいて柱11に取付けた建入れ調整治具13を操作する。
【0065】
第2調整ステップ(SA10)で所定の許容範囲に調整できなかった場合には(SA11,N)、ステップSA7に戻って第2計測ステップからステップSA10の第2調整ステップまでの一連の処理が切替され、第2調整ステップ(SA10)で所定の許容範囲に調整されると(SA11,Y)、当該柱11の調整処理を終える。
【0066】
上述した視準方向切替ステップ(SA5)は、第1計測ステップ(SA1)が終了した後、第2計測ステップが実行されるまでの間であれば、何れのタイミングで実行してもよい。具体的に第1計測ステップ(SA1)の終了時、部材芯位置算出ステップ(SA2)の終了時、第1補正演算ステップ(SA3)の終了時、第1表示ステップ(SA4)の終了時の何れで実行してもよい。
【0067】
部材芯位置算出ステップでは、既知の柱11の形状データと既知のマーカー12の取付位置との関係から柱芯Pの位置を自動的に算出することができる。
例えば、図8(a)に示す平面視が略矩形の柱11では、予めマーカー12と軸心Pの位置関係がオフセット値(x1、y1、z1)で定まっているため、マーカー12の位置(xm、ym、zm)が測量機器10で測量されると、軸心Pの(x、y)座標は(xm、ym+y1)、マーカー12と同じ高さの軸心位置の(x、y、z)座標は(xm、ym+y1、zm)と求まる。
【0068】
マーカー12は建築構造材11以外にも取り付けられる場合がある。建築構造材11が死角に入り、測量機器10から建築構造材11を視準できないような場合には、建築構造材11に連結された連結部材で測量機器10から視準可能な位置にマーカー12が取り付けられる場合もある。この場合でも、建築構造材11の部材芯とマーカー12の位置関係が予めオフセット値(x1、y1、z1)で定まっていれば、上述と同様に部材芯の位置が求まる。
【0069】
従って、建築構造材11を設計位置に位置決め調整するために、逆に部材芯の設計位置に基づいてマーカー12の設計位置を算出することができ、マーカー12の実際の位置がマーカー12の設計位置に近づくように建入れ調整治具13を操作することも可能である。その意味で、「部材芯の設計位置を視準する」との意義は、部材芯が設計位置に存在すると仮定した場合にその建築構造材に取り付けられたマーカー12の存在する位置を視準する、或いは、当該マーカー12の取付高さと同じ高さの部材芯の位置を視準すると先に説明した。
【0070】
図7(b)の斜材11、図7(c)の斜材11、図7(d)の壁材11も上述と同様にマーカー12と部材芯Pとの位置関係が予めオフセット値で定まっている。
【0071】
図8(b)に示すように、建築構造材が平面視円形の柱11では、マーカー12と部材芯Pとの位置関係をオフセット値で特定できない。そこで、測量機器10を用いてマーカー12に対するプリズム測量データを取得するとともに、マーカー12と同一の高さでマーカー12から周面に沿って離隔した位置Qに対してノンプリズム測量データを取得することで部材芯Pの位置を算出する。
【0072】
マーカー12の位置を中心とする柱11の半径の円と、位置Qを中心とする柱11の半径の円との交点を部材芯Pの位置として算出することができる。
【0073】
また、測量機器10からマーカー12への視準線と位置Qへの視準線の角度θを求め、測量機器10とマーカー12との距離L、測量機器10と位置Qとの距離L1、柱11の直径の長さから幾何学的に部材芯Pの位置を算出してもよい。
【0074】
つまり、建築構造材が円柱状建築構造材である場合に、第1計測ステップは、マーカー12を視準してプリズム測量データを取得するとともにマーカー12と同一高さの前記円柱状建築構造材の外周上の一点を視準してノンプリズム測量データを取得するように構成され、部材芯位置算出ステップは、第1計測ステップで取得したプリズム測量データ及びノンプリズム測量データと、円柱状建築構造材の半径に基づいて円柱状建築構造材の部材芯の現在位置を算出するように構成されている
【0075】
第1補正演算ステップでは、第1計測ステップで取得したマーカー12に対するプリズム測量データに基づいて、部材芯位置算出ステップで柱11の軸心Pの現在位置が算出されるので、軸心Pの設計位置に対する補正方向及び補正量を算出することができる。補正方向とは平面視で東西南北の4方向、正面視で高さ方向が含まれる。
【0076】
第2補正演算ステップでは、測量機器10はマーカー12を視準することなく、軸心Pの設計位置を常時視準しているため、上述した第1補正演算ステップのように補正方向及び補正量を算出することができない。
【0077】
そこで、第2補正演算ステップでは、参照画像と第1計測ステップで取得した基準画像のマッチング処理を行なうことによりマーカー12の画像位置を抽出し、測量機器10から参照画像に含まれるマーカー12の画像位置と参照画像の視準方向に対応する画像位置との成す角度φとノンプリズム測量データとに基づいて補正量及び補正方向を算出するように構成されている。
【0078】
図3(a)には第1計測ステップで取得した基準画像が示され、図3(b)には視準方向切替ステップで設計位置に視準方向が切り替えられ、第2計測ステップで取得した参照画像が示されている。符号CPは視準点を示し、二点鎖線は柱11の設計位置を示す。マーカー12の画像は測量機器10の視準方向を示す基準画像の中心位置に現れる。また図3(c)には平面視で測量機器10と現在位置の柱11と設計位置の柱11D(二点鎖線で示す。)の位置関係を示す仮想図が示されている。
【0079】
そこで、基準画像をテンプレート画像として参照画像とマッチング処理を行なうことにより、参照画像に含まれるマーカー12の中心の画素位置が特定できる。参照画像上のマーカー12の中心画素の位置と参照画像の中心位置との偏りが左右方向のずれ量Δx及び高さ方向のずれ量Δzに対応する。なお、参照画像からマーカー12を識別できれば、マーカー12を含むテンプレート画像は基準画像に限るものではなく、事前に準備された画像であってもよい。
【0080】
参照画像上のマーカー12の中心画素の位置と参照画像の中心位置との間の1画素当たりの偏り角度kは既知であるので、ずれ量Δx、Δzに対応する偏り角度φx、φzは、其々以下の数式で求まる。
φx=k×nx(nxはx方向画素数)
φz=k×nz(nzはz方向画素数)
なお、1画素当たりの偏り角度kは撮像装置10b固有の値であり、予め実測しておくことにより獲得でき、撮像装置10bの画角を画像の幅方向のピクセル数で除すことで求まる。
【0081】
測量機器10と柱11の距離Lはノンプリズム測量データに含まれているので、Δx=Ltanφxと求まり、Δz=Ltanφzと求まる。
【0082】
測量機器10の視準方向に軸心Pの設計位置が存在し、参照画像の中心位置に撮像されている現在位置の柱11の表面までの距離Lがノンプリズム測量データに含まれているので、現在位置の柱11の視準点CPの座標とマーカー12に対するオフセット値から設計位置の柱11Dとの奥行き方向の偏りΔyが算出できる。
【0083】
図4(a)から図4(c)には、補正案内画像50が例示されている。第1補正案内画像と第2補正案内画像は基本的に同一構成の補正案内画像となる。
補正案内画像50は、柱芯の設計位置51で交差する方位線52,53と、実測値から算出される柱芯の現在位置を示す柱芯マーカー54と、柱芯の設計位置51の周りに区画され許容範囲を示す第1領域55と、第1領域55の外側に区画され非許容領域を示す第2領域56と、柱芯マーカー54を設計位置51に移動するように調整するための東西南北の補正方向及び補正量(矢印が補正方向を示し、数値が補正量を示す。)と、高さ方向の補正量(矢印が補正方向を示し、数値が補正量を示す。)を示す表示部57を備えている。本実施形態では、画面の背景は白色、方位線52,53は黒色、柱芯マーカー54は赤色、第1領域55は青色、第2領域56は黄色に設定されている。
【0084】
また、補正案内画像50は、測量機器10による柱11に設置されたマーカー12の計測を開始する計測開始部58A、マーカー12から設計位置に視準を切り替える視準切替部58B、計測の停止を指示する計測停止部58C、調整作業の終了後の柱芯位置を登録する登録部58D、調整作業の終了を入力する終了部58Eの各タッチスイッチ部を備えている。
【0085】
図4(a)では、設位置51に対して柱芯マーカー54が西に3mm、南に4mm、下方に3mmずれているため、柱芯マーカー54を東に3mm、北に4mm、上方に3mm移動するように調整すれば柱芯マーカー54が設計位置51に到ることが補正量及び補正方向の表示部57に示され、調整後の許容範囲を示す第1領域55に対する柱芯マーカー54の相対位置が示されている。
【0086】
図4(b)では、作業者Hにより建入れ調整治具13が操作されて柱芯マーカー54が東西方向で設計位置51に対応する位置に位置調整され、上下方向で設計位置に向けて少し位置調整されたことが示され、図4(c)では、作業者Hにより建入れ調整治具13が操作されて柱芯マーカー54が南北方向で位置調整されて第1領域5に入ったことが示されている。なお、高さ方向にも許容範囲を含むスケールが表示されるように構成されていてもよい。例えば、上下に長い帯状のバーグラフで中央位置が設計位置となり、設計位置を挟んで上下に許容範囲が示され、柱芯マーカーが帯状のバーグラフの何れかに表示されるように構成してもよい。
【0087】
本実施形態では、東西南北の許容範囲を示す第1領域55が設計位置51を中心に、許容範囲を半径とする真円で表示されているが、東西南北の方向により許容範囲が異なるように設定されていてもよい。例えば設計位置51を中心とする矩形であってもよく楕円であってもよい。
【0088】
また、建て込まれる柱11のロケーションに応じて許容範囲を示す第1領域55の範囲が可変に設定されるように構成されている。建て込まれた柱11に対する建方精度は全て同一であるとは限らず、柱11毎に異なる場合があり、例えば、構造上重要な柱11とそうでない柱11の建方精度を異ならせることにより、作業効率を高めることができる。そこで、建て込まれる柱11に応じて第1領域55の範囲を可変に設定することにより、柔軟な建方支援が可能になる。高さ方向も同様である。
【0089】
このような補正案内画像は、補正演算装置20fで生成されて、建方支援装置20の表示部に表示されるとともに、建入れ調整治具を操作する作業者が所持する表示装置30にも表示される。つまり、建方支援装置20と表示装置30の表示画像が共有化される。
【0090】
補正案内画像を単純に表示装置30に送信して表示装置30の案内画像表示処理部30aで表示装置30の表示画面に表示してもよく、インターネット5を介して接続した画像共有システムサーバを介して建方支援装置20と表示装置30の双方で同じ画像を表示する画像共有システムを利用してもよい。
【0091】
また、建方支援装置20そのものをクラウドサーバ上のアプリケーションとして構築し、インターネット5を介して複数または特定の表示装置30がクラウドサーバ上のアプリケーションを実行させて建方支援装置20として機能するように構成してもよい。この場合は、測量機器10と中継器とが第1通信IFを介して接続され、中継器と建方支援装置20とが第2通信IFを介して接続される。
【0092】
図6には、建方支援方法のさらに詳細な手順が示されている。
建方支援装置20で建方支援アプリケーションプログラムが立ち上がると(SB1)、建方管理サーバ40から設計ファイルがダウンロードされて記憶装置に記憶される(SB2)。測量機器10が起動されて建方支援装置20との間で通信が確立すると(SB3)、測量機器10が初期設定される(SB4)。
【0093】
建方支援装置20と表示装置30とが通信可能に接続され、表示装置30の表示画面に設けられた計測開始58A(図4(a)参照。)が操作されると、対象となる柱11のマーカー12が視準される。このとき、表示装置30の表示画面には、測量機器10に備えた撮像装置10bによる画像が表示されるので、その画像に基づいて表示装置30を介して測量機器10を遠隔操作することで、正しくマーカー12が視準される。例えば、表示装置30に入力した設計軸心の座標を入力して、建方支援装置20を介して測量機器10に入力し、測量機器10が設計軸心を視準した後に、測量機器10に備えた自動追尾機構を作動させることで、測量機器10をマーカー12に視準させることができる。
【0094】
そして、第1計測ステップが実行されてプリズム測量データが取得され(SB5)、部材芯位置算出ステップが実行され(SB6)、第1補正演算ステップが実行され(SB7)、第1補正案内画像が生成されて表示装置30に表示される(SB8)。
【0095】
表示装置30の表示画面に設けられた視準切替スイッチ58B(図4(a)参照。)が操作されると、測量機器10がノンプリズムモードに切り替わり、視準方向切替ステップが実行される(SB9)。なお、第1計測ステップが実行された後に、測量機器10が自動的にノンプリズムモードに切り替わり、設計軸芯を視準するように測量機器10をプログラミングしておいてもよい。
【0096】
作業者が表示装置30の画面に表示された第1補正案内画像を目視して建入れ調整治具13を操作し、調整が完了すると(第1補正案内画像の許容範囲を示す第1領域55に柱芯マーカー54が入ると調整が完了する)(SB11,Y)、ステップSB17に移行する。
【0097】
調整が完了しない場合には(SB11,N)、第2計測ステップが実行され(SB12)、取得されたノンプリズム測量データに基づいて第2補正演算ステップが実行され(SB13)、第2補正案内画像が生成されて表示装置30に表示される(SB14)。
【0098】
作業者が表示装置30の画面に表示された第2補正案内画像を目視して建入れ調整治具13を操作し、調整が完了しなければ(第1補正案内画像の許容範囲を示す第1領域55に柱芯マーカー54が入ると調整が完了する)(SB16,N)、ステップSB12からステップSB15の処理が繰り返される。
【0099】
調整が完了すると(SB16,Y)、全ての柱11の建入れが終了するまで(SB17,N)、ステップSB5からステップSB16までの処理が各柱11に対して繰り返される。
【0100】
全ての柱11の建入れが終了すると(SB17,Y)、各柱11の調整結果を示すデータが建方支援装置20に収集されて全体評価図が生成され(SB18)、建方支援装置20のメモリに格納されるとともに(SB19)、建方管理サーバ40にアップロードされてデータベースの管理データ格納領域に格納される(SB20)。
【0101】
以下別実施形態を説明する。
上述した実施形態では、建入れ作業に用いるマーカー12が各建築構造材に一つ設置された場合の態様を説明したが、図7(c),(d)に示したような、各建築構造材にマーカー12が複数設置され、其々のマーカー12に対して部材芯を調整する必要がある場合にも、本発明を適用することができる。
【0102】
即ち、建築構造材11に設定された少なくとも二つの部材芯Pに対応して其々設置された各マーカー12に対して、第1計測ステップと、部材芯位置算出ステップと、第1補正演算ステップと、第1表示ステップとを実行し、少なくとも、其々の部材芯Pに対して第1調整ステップ以降の処理を実行する際に、視準方向切替ステップにより測量機器10の視準方向を対応する部材芯の設計位置に切り替えるように構成し、各部材芯に対して第2計測ステップ、第2補正演算ステップ、第2表示ステップ、第2調整ステップを実行すればよい。第1表示ステップで表示される各部材芯に対する第1補正案内画像はメモリに記憶されているため、第1計測ステップ、部材芯位置算出ステップ、第1補正演算ステップを繰り返す必要はない。
【0103】
例えば、図7(d)に示す壁材を例に説明すると、マーカー12Aに対してプリズム測量データを取得した後に、マーカー12Bに対してプリズム測量データを取得し、其々の部材芯PA,PBに対する第1補正案内画像を生成して表示する。
【0104】
部材芯PAに対して第1調整ステップを実行し、第2計測ステップから第2調整ステップを繰り返す際には、測量機器10の視準方向を部材芯PAの設計位置に切り替える。また、部材芯PBに対して第1調整ステップを実行し、第2計測ステップから第2調整ステップを繰り返す際には、測量機器10の視準方向を部材芯PBの設計位置に切り替える。なお、各部材芯PA,PBの値は予め建方管理サーバ40から建方支援装置20にダウンロードされている。
【0105】
部材芯PA,PBに対する上述の調整作業を複数回繰り返す必要がある場合には、繰り返すたびに視準方向を部材芯PAまたは部材芯PBの設計位置に切り替えればよい。
【0106】
第1補正演算ステップにより算出された各部材芯位置に対する補正量及び補正方向に基づいて、調整が必要と判断した部材芯に対してのみ第1調整ステップ以降の処理を実行することも可能である。また、各部材芯位置に対する補正量及び補正方向に基づいて、第1調整ステップ以降の処理を実行する順序を決定することも可能である。
【0107】
例えば、補正量が大きな値となる部材芯から順番に第1調整ステップ以降の処理を実行することができ、補正方向が同一の部材芯を優先して第1調整ステップ以降の処理を実行することができ、補正方向が他の部材芯とは異なる方向となる部材芯を優先して第1調整ステップ以降の処理を実行することができる。また、補正量と補正方向の組み合わせに基づいて第1調整ステップ以降の処理の実行順序を決定することもできる。
【0108】
図9には、上述した建方支援方法の手順が示されている。当該建方支援方法は、先ず、第1計測ステップ、部材芯位置算出ステップ、第1補正演算ステップ、第1表示ステップの各処理を(SA20)、全部材芯(マーカー)に対して実行する(SA21)。
【0109】
次に、各部材芯位置に対する補正量及び補正方向に基づいて、調整が必要な部材芯を選択し(SA22)、視準方向切替ステップと(SA23)、第1調整ステップと(SA24)を実行し、さらに第2計測ステップ、第2補正演算ステップ、第2表示ステップ、第2調整ステップの各ステップを(SA25)、所定の許容範囲に調整されるまで繰り返し実行する(SA26)。調整が必要な部材芯の調整が終了するまでステップSA22からステップSA26の処理を繰り返す(SA27)。
【0110】
第1補正演算ステップでは、マーカー12に対するプリズム測量データと部材芯の設計位置とに基づいて補正方向及び補正量を算出した例を説明したが、第2補正演算ステップで説明した手順を第1補正演算ステップに採用して補正方向及び補正量を算出してもよい。
【0111】
以上説明した実施形態では、各建築構造材に対する建方支援方法及び建方支援システムについて説明したが、本発明は各建築構造材に対する個別の建方支援に限るものではなく、複数の建築構造材のグループに対しても適用できる。
【0112】
例えば柱を例に説明すると、建入れが終了し横梁が接続された階下の基部に、建入れ調整治具を介して仮止めされた全てまたは複数の柱に対して、第1計測ステップ、部材芯位置算出ステップ、第1補正演算ステップ、第1表示ステップの各処理を実行して、各柱11に対する部材芯の補正方向及び補正量を算出し、その結果に基づいて、例えば図10に示すような、各柱に対する補正方向及び補正量を表示した出来形図面を表示装置に表示し、その状態に基づいて調整が必要な柱を特定し、各柱に対する調整の順序を策定してもよい。表示装置は作業者のみならず工事事務所内にも配置され、現場責任者によって調整が必要な柱が特定され、各柱に対する調整の順序が策定されるようにすることが好ましい。
【0113】
調整対象となる柱に対して視準方向切替ステップと、第1調整ステップとを実行し、さらに第2計測ステップ、第2補正演算ステップ、第2表示ステップ、第2調整ステップの各ステップを、所定の許容範囲に調整されるまで繰り返し実行し、調整が必要な部材芯の調整が終了するまで上述の処理を繰り返すのである。なお、種類の異なる建築構造材の組み合わせに対して上述の方法を適用してもよい。
【0114】
図10には、所定階で建入れされた幾つかの柱11の基準位置と仮止め後の各柱芯の位置とを各基準位置に対する偏差量及び方向とともに全体表示した平面図が示されている。柱を示す矩形形状の各辺から白抜きの矢印と黒塗り矢印が示されている柱に対して、第1補正演算ステップで算出された補正量及び補正方向が示されている。黒塗り矢印の先端に表記された数値がずれ量となる。このような出来形図面に基づいて、建方精度の全体バランスを考慮した調整作業が可能になる。
【0115】
上述した実施形態は何れも本発明の一態様に過ぎず、該記載により本発明の技術的範囲が限定されるものではなく、本発明の作用効果を奏する範囲で各部の具体的な構成は適宜変更設計することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0116】
1:建方支援システム
5:インターネット
10:測量機器
11:建築構造材(柱)
12:マーカープリズム
13:建入れ調整治具
20:建方支援装置
20c:測量制御装置
20f補正演算装置
30:表示装置
30a:案内画像表示処理部
40:建方管理サーバ
DB:データベース
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図10