(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】接着式水平構面、接着式水平構面の構築方法、及び仕様決定プログラム
(51)【国際特許分類】
E04B 1/10 20060101AFI20220104BHJP
E04B 5/02 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
E04B1/10 ESW
E04B5/02 A
(21)【出願番号】P 2017150569
(22)【出願日】2017-08-03
【審査請求日】2020-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000108111
【氏名又は名称】セメダイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158883
【氏名又は名称】甲斐 哲平
(72)【発明者】
【氏名】池田 敦
(72)【発明者】
【氏名】橋向 秀治
(72)【発明者】
【氏名】萩原 慎太郎
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-062715(JP,A)
【文献】登録実用新案第3204340(JP,U)
【文献】特開2009-249997(JP,A)
【文献】特開2010-001670(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0040504(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/00-1/36
E04B 5/00-5/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
釘やビスといった釘材及び接着剤によって水平面材を梁材に固定した水平構面において、
荷重と変形角の関係を示す包絡線が「複合包絡線」となるように決定された仕様の前記接着剤と前記釘材と前記水平面材によって構築され、
前記複合包絡線は、同仕様の前記釘材のみによって前記水平面材を前記梁材に固定した「基準水平構面」に変形角を与える荷重よりも大きな荷重によって該基準水平構面と同等の変形角が生じる荷重範囲を「接着剤荷重範囲」、該基準水平構面に変形角を与える荷重と同等の荷重によって該基準水平構面と同等の変形角が生じる荷重範囲を「釘材荷重範囲」とすると、該釘材荷重範囲の方が該接着剤荷重範囲よりも大きな変形角を与える包絡線であり、
前記接着剤荷重範囲と前記釘材荷重範囲の境界である「境界変形角」において、荷重に対する抵抗が前記接着剤による抵抗から前記釘材による抵抗へ受け渡される、
ことを特徴とする接着式水平構面。
【請求項2】
前記基準水平構面よりも大きな床倍率を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の接着式水平構面。
【請求項3】
前記境界変形角が、最大荷重の80%荷重よりも大きな荷重によって与えられる、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の接着式水平構面。
【請求項4】
1の前記水平面材に対して、両端部に端部固定領域が設定されるとともに、中間部に1又は2以上の中間固定領域が設定され、
前記端部固定領域と前記中間固定領域は、略同方向に配置される帯状の領域であり、
前記端部固定領域及び前記中間固定領域で、前記接着剤及び前記釘材によって前記水平面材が
前記梁材に固定された、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の接着式水平構面。
【請求項5】
釘やビスといった釘材及び接着剤によって水平面材が梁材に固定された接着式水平構面を構築する方法であって、
前記接着剤、前記釘材、及び前記水平面材の仕様を決定する設計工程と、
前記設計工程で決定された仕様の前記接着剤及び前記釘材によって、前記設計工程で決定された前記水平面材を前記梁材に固定する水平面材固定工程と、を備え、
前記設計工程では、
荷重と変形角の関係を示す包絡線が「複合包絡線」となるように前記仕様を決定
し、
前記複合包絡線は、同仕様の前記釘材のみによって前記水平面材を前記梁材に固定した「基準水平構面」に変形角を与える荷重よりも大きな荷重によって該基準水平構面と同等の変形角が生じる荷重範囲を「接着剤荷重範囲」、該基準水平構面に変形角を与える荷重と同等の荷重によって該基準水平構面と同等の変形角が生じる荷重範囲を「釘材荷重範囲」とすると、該釘材荷重範囲の方が該接着剤荷重範囲よりも大きな変形角を与える包絡線であり、
また前記設計工程では、前記接着剤荷重範囲と前記釘材荷重範囲の境界である「境界変形角」において、荷重に対する抵抗が前記接着剤による抵抗から前記釘材による抵抗へ受け渡されるように前記仕様を決定する、
ことを特徴とする接着式水平構面の構築方法。
【請求項6】
前記水平面材固定工程では、前記水平面材に設定される端部固定領域と中間固定領域で、前記接着剤及び前記釘材によって前記水平面材を前記梁材に固定し、
前記端部固定領域は、1の前記水平面材に対して両端部に設定される帯状の領域であり、
前記中間固定領域は、1の前記水平面材に対して中間部に1又は2以上設定されるとともに、前記端部固定領域と略同方向に配置される帯状の領域である、
ことを特徴とする請求項5記載の接着式水平構面の構築方法。
【請求項7】
釘やビスといった釘材及び接着剤によって水平面材が梁材に固定された接着式水平構面の仕様を決定する機能をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記接着式水平構面の仕様は、前記接着剤、前記釘材、及び前記水平面材の仕様を含み、
荷重と変形角の関係を示す包絡線が「複合包絡線」となるように決定され、
前記複合包絡線は、同仕様の前記釘材のみによって前記水平面材を前記梁材に固定した「基準水平構面」に変形角を与える荷重よりも大きな荷重によって該基準水平構面と同等の変形角が生じる荷重範囲を「接着剤荷重範囲」、該基準水平構面に変形角を与える荷重と同等の荷重によって該基準水平構面と同等の変形角が生じる荷重範囲を「釘材荷重範囲」とすると、該釘材荷重範囲の方が該接着剤荷重範囲よりも大きな変形角を与える包絡線であり、
前記接着剤荷重範囲と前記釘材荷重範囲の境界である「境界変形角」において、荷重に対する抵抗が前記接着剤による抵抗から前記釘材による抵抗へ受け渡されるように前記接着式水平構面の仕様を抽出する機能を、
備えたことを特徴とする接着式水平構面の仕様決定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、木造住宅等に用いられる水平構面(床水平構面と屋根水平構面を含む)に関するものであり、より具体的には、接着剤と釘材の両方を使用して水平面材を梁材に固定した接着式水平構面とその構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築基準法では、3階建以上の木造建築物、あるいは所定面積(500m2)や所定高さ(高さ13m、軒高9m)を超える木造住宅に関しては建築確認が必要であるとしており、そのためこのような木造建築物を設計する場合は構造計算が行われる。一方、2階建以下であって所定面積等を下回る住宅等の用途の木造建築物(以下、「一般木造建築物」という。)については、原則として壁量等の簡易計算と仕様規定を満足すれば構造計算を行う必要がなく、これを省略することも少なくない。建築基準法施行令には構法仕様に関する規定(構造耐力上必要な軸組)があり、一般木造建築物の設計にあたってはこの規定に従って各仕様を決定するのが一般的である。
【0003】
建築基準法施行令で規定する構法仕様には、種々の耐力壁構造(壁を設けた軸組)が提示されており、さらにその構造形式(軸組の種類)に応じた強度指標(いわゆる壁倍率)も示している。すなわち、ここで示された壁倍率を参考に、各階の各部分に必要な形式の耐力壁を選定しながら建築物全体の設計を行うわけである。
【0004】
ところで、上記したとおり建築基準法施行令では耐力壁に関しては規定しているものの、床の構造(以下、「床水平構面」という。)や屋根の構造(以下、「屋根水平構面」という。)といった「水平構面」については特段の定めがない。もちろん、一般木造建築物であれば、水平構面に対して特に構造計算を行う必要はない。つまり、木造建築物の耐力構造という点においては、水平構面よりも耐力壁の方が比較的重視されているといえる。
【0005】
しかしながら、水平構面も耐力構造として機能するものであり、木造建築物全体の強度を考えたとき当然ながら水平構面の強度も看過することはできない。水平構面の主な役割としては、地震時荷重をはじめとする水平力を耐力壁に伝達することである。水平構面の剛性が低いと、大きく変形したり、あるいは撓んだり、耐力壁よりも先行して損傷や破壊が生じることがあり、このような場合には耐力壁の性能を十分発揮することはできない。水平構面が水平力を適切に(いわばバランスよく)周囲の耐力壁に伝達することによって、耐力壁が効果的に機能し、その結果、木造建築物が外力に対して抵抗することができるわけである。換言すると水平構面の剛性、強度、靱性(以下、総称して「耐力」という。)が少なからず木造建築物全体の耐力に寄与しており、そのためには水平構面にも相当の耐力が求められる。
【0006】
このように水平構面が木造建築物の耐力に影響することから、たとえ一般木造建築物であっても水平構面の耐力を積極的に評価する場面もある。例えば、住宅生産者は、他社よりも堅固な木造建築物であることを示すため、耐力壁に加え水平構面も高耐力であることを強調することがある。このとき、例えば床水平構面の耐力を示す標準的な指標が「床倍率(ここでは、屋根水平構面も含めて「床倍率」という。)」である。住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下、「品確法」という。)では住宅性能表示として耐震等級(1~3級)を規定しており、この耐震等級を決定するための要素の一つが床倍率である。なお床倍率は、品確法で規定される日本住宅性能表示基準に従って定められる。
【0007】
また、特別な税制措置が得られる長期優良住宅に関しても、水平構面の耐力(つまり、床倍率)は重要である。具体的には、長期優良住宅として認定されるためには所定の耐震等級(2級以上)が要求され、すなわち相当の床倍率が必要となる。その他、戸建て住宅以外の木造建築物、例えば学校、幼稚園、事務所、公共施設等を木造建築とする場合も、規模や用途等に応じて水平構面の構造計算が必要となり、その結果、相当の床倍率を有する水平構面が計画されることもある。特に、耐力壁の相互間の距離が大きいほど(つまり空間を大きくしたいほど)、高倍率の水平構面が必要とされる。
【0008】
このような背景のもと、その耐力に着目した水平構面に関する技術がこれまでも種々提案されている。例えば、特許文献1では、胴差や床梁に直交配置される受け材を省略することで高い弾力性を確保するとともに、隣接する床パネル間を連結板材で連結することによって高耐力が得られる木造住宅上層階用床構造を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
既述したとおり床倍率は、日本住宅性能表示基準に従って定められる。具体的には、水平構面の構造形式が複数例示されており、それぞれの構造形式に対して床倍率(存在床倍率)を設定している。また、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計(2017年版)」でも、床倍率という用語は使用していないものの、水平構面の仕様とその耐力(単位長さ当たりの許容せん断耐力)の関係を示している。なお、ここで示される単位長さ当たりの許容せん断耐力は、換算値1.96(kN/m)で除すことによって床倍率に変換することができる。
【0011】
日本住宅性能表示基準や木造軸組工法住宅の許容応力度設計(以下、これらをまとめて「従来基準等」という。)で列挙される水平構面の構造形式(仕様)は、いずれも面材の種類、釘材の仕様(種類や設置間隔)、根太の仕様(寸法や設置間隔)、根太と梁組の接合仕様の組み合わせによって定められるものである。したがって水平構面を設計する場合、従来はこれらの組み合わせによる構造形式から選択するのが主流であり、他の要素(例えば、釘材以外の固定材の使用など)を含んだ構造形式を計画することは極めて稀であった。
【0012】
また、従来基準等によれば釘材の配置によっても床倍率が定められており、床面材の1辺方向にのみ3列以上で釘材を設置する形式(いわゆる、川の字形式)は、床面材の全周に釘材を設置する形式(いわゆる、ロの字形式)に比べて小さい床倍率が設定されている。例えば日本住宅性能表示基準では、厚さ24mm以上の構造用合板に150mm以下の間隔で鉄丸釘N75を打付けた場合、ロの字形式ではその床倍率(存在床倍率)を3.0としているのに対し、川の字形式では床倍率を1.2と設定している。このように川の字形式による水平構面は、それほど高い床倍率を得ることができないのが現状である。一方で川の字形式は、梁材の配置設計も容易であるうえ、梁材の材積も抑えることができてコスト面でも優位であることから、川の字形式による高床倍率の水平構面が求められている。
【0013】
ところで、床倍率や許容せん断耐力など床の耐力を求めるに当たっては、包絡線を用いるのが一般的である。この包絡線は、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」にも示されているように広く知られたグラフであり、水平構面を面内せん断試験した結果得られる荷重と変形角の関係を表す曲線である。具体的には
図13の試験体詳細図に示すように、鉛直姿勢とした水平構面の上端片側を、あらかじめ段階的に設定した変形角となるまで加力していき(ただし、正負交番繰り返し加力)、それぞれの加力段階で得られた結果をつなげた曲線が包絡線である。
【0014】
図14は、釘材によって床面材を梁材に固定した水平構面における包絡線を示す図であり、横軸は変形角(rad)を、縦軸は荷重を示している。この包絡線が示すように、釘材で固定した水平構面は、一定の変形角(この図では概ね60×10
-3rad)が生ずるまで荷重が増加している。すなわち、この一定の変位角が生ずるまでは、釘材が荷重に対して抵抗しているといえる。一般的に木造建築物は、中規模地震想定で1/120rad程度の変形角が生じ、大規模地震想定で1/30rad程度の変形角が生じるものと仮定されている。したがって、この図の包絡線を示す水平構面は、大規模地震を超える比較的大きな変位角が生ずるまで釘材が抵抗していることが分かる。
【0015】
しかしながらこの図の包絡線を見ると、初期の変形角におけるグラフの立ち上がりが緩やかで、すなわち比較的小さな荷重が作用しただけで中規模地震想定の変形角(1/120rad)が生じていることが分かる。つまり、比較的大きな荷重範囲に対して釘材が抵抗する一方で、比較的小さな荷重範囲では容易に変形してしまうといういわば弱点を有しているわけである。水平構面の剛性が高いほど壁への力の伝達がスムーズに行われ、また、床倍率も高い評価になる傾向があることから、この弱点の解決は大きな課題と捉えることができる。
【0016】
そこで本願発明者らは、釘材に加え接着剤でも梁材に床面材を固定することに着目した。接着剤で固定した水平構面の包絡線は、弾性域(初期の変形角)におけるせん断剛性率(荷重を変形角で除した値)が大きく、比較的小さな荷重範囲では容易に変形しないという特性があり、釘材で固定したものは、一般的に大きな変形角になっても荷重が低下しないという靱性をもつ特性があり、接着剤と釘材を組み合わせることによって、小さな荷重範囲では接着剤で抵抗し、大きな荷重範囲では釘材で抵抗するという、双方の特性を生かしたいわばハイブリッドの水平構面とするわけである。
【0017】
ところが実験を重ねていくと、接着剤と釘材の組み合わせによっては、双方の特性が生かせないケースがあることが判明した。例えば、極度に高い接着力のある接着剤を使用すると、相当な荷重が作用するまで接着剤が抵抗するため、釘材が抵抗する前に梁材が破材し、あるいはアンカー効果(釘材の引き抜き抵抗効果)が滅失するほど釘材が緩んでしまうことから、結果的には接着剤のみで固定した場合と同様の結果となる。このようなケースの包絡線を描くと、小さい変形角を与える範囲では
図14に示す包絡線よりもかなり上方にプロットされるが、大きな変形角を与える範囲では
図14に示す包絡線よりも下方にプロットされる。つまり、大きな変形角を与える範囲では、釘材のみで固定した場合よりも、接着剤と釘材を組み合わせた方がむしろ容易に変形するという結果になる。またこのようなケースでは、釘材のみで固定した場合の床倍率よりも接着剤と釘材を組み合わせたときの床倍率の方が小さな値を示すこともある。
【0018】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち従来基準等で示される例にはない新規な形式であって、川の字形式であっても高い床倍率を得ることができ、しかも小さな荷重範囲では接着剤で抵抗するとともに大きな荷重範囲では釘材で抵抗するという双方の特性を生かした接着式水平構面とその構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願発明は、釘材に加え接着剤によって水平面材を梁材に固定し、接着剤と釘材の双方の特性を生かすという点に着目してなされたものであり、さらには基準となる水平構面と比較することでその特性を確認するという点に着目してなされたものであって、これまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0020】
本願発明の接着式水平構面は、釘やビスといった釘材及び接着剤によって水平面材(床水平構面と屋根水平構面を含む)を梁材に固定した水平構面であり、基準水平構面(同仕様の釘材のみによって水平面材を梁材に固定した水平構面)に変形角を与える荷重よりも、同等又はそれよりも大きな荷重が作用することによって基準水平構面と同等の変形角が生ずるものである。
【0021】
本願発明の接着式水平構面は、基準水平構面よりも大きな床倍率を有するものとすることもできる。
【0022】
本願発明の接着式水平構面は、釘材荷重範囲(包絡線において、基準水平構面に変形角を与える荷重と同等の荷重によって基準水平構面と同等の変形角が生じる荷重範囲)方が、接着剤荷重範囲(包絡線において、基準水平構面に変形角を与える荷重よりも大きな荷重によって基準水平構面と同等の変形角が生じる荷重範囲)よりも大きな変形角を与え、しかも接着剤荷重範囲と釘材荷重範囲の境界付近の変形角が、最大荷重の80%荷重よりも大きな荷重によって与えられるものとすることもできる。
【0023】
本願発明の接着式水平構面は、1の水平面材に対して設定される「端部固定領域」及び「中間固定領域」を梁材に固定したものとすることもできる。端部固定領域と中間固定領域は、略同方向に配置される帯状の領域であり、端部固定領域は水平面材の両端部に設定され、中間固定領域は水平面材の中間部に1又は2以上の箇所で設定される。そして、端部固定領域と梁材の間、中間固定領域と梁材の間に接着剤を塗布し、さらに端部固定領域と中間固定領域で釘材を打込む。
【0024】
本願発明の接着式水平構面の構築方法は、上記した接着式水平構面を構築する方法であり、設計工程と水平面材固定工程を備えた方法である。この設計工程では、接着剤、釘材、及び水平面材の仕様を決定し、水平面材固定工程では、設計工程で決定された仕様の接着剤及び釘材によって水平面材を梁材に固定する。なお設計工程では、接着式水平構面が、基準水平構面に変形角を与える荷重よりも、同等又はそれよりも大きな荷重が作用することによって基準水平構面と同等の変形角が生ずるように仕様を決定する。
【0025】
本願発明の接着式水平構面の構築方法は、いわゆる川の字形式によって水平面材を梁材に固定する方法とすることもできる。具体的には、水平面材固定工程において、水平面材に設定される端部固定領域・中間固定領域と梁材との間に接着剤を塗布し、端部固定領域と中間固定領域に釘材を打込んで、水平面材を梁材に固定する。
【0026】
本願発明の仕様決定プログラムは、上記した接着式水平構面の仕様を決定する機能をコンピュータに実行させるプログラムである。なお、接着式水平構面の仕様とは、接着剤と釘材、水平面材の仕様を含むものである。そして、接着式水平構面における包絡線と基準水平構面における包絡線を照らし合わせ、基準水平構面に変形角を与える荷重よりも、同等又はそれよりも大きな荷重が作用することによって基準水平構面と同等の変形角が生ずる仕様を抽出する機能をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0027】
本願発明の接着式水平構面、接着式水平構面の構築方法、及び仕様決定プログラムには、次のような効果がある。
(1)接着剤と釘材が、それぞれ異なる範囲の荷重を分担し、つまり大小幅広い範囲の荷重に効果的に対抗することができる。換言すると、接着剤の抵抗特性と釘材の抵抗特性が、それぞれ荷重の大きさに応じて発揮され、双方が有機的に機能することで強靭な木造建築物を実現することができる。
(2)包絡線において早い段階で最大荷重が生じることから、通常の荷重(極端に大きくない荷重)に対して従来技術より変形を抑制することができる。
(3)釘材に加え接着剤を使用することから設計の自由度に幅ができ、例えば接着剤の耐力を上げて釘材の本数を減らすなど、施工性に配慮した仕様とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】床の場合の水平構面の一部を模式的に示す分解斜視図。
【
図2】(a)は母屋材と垂木の上に屋根面材を固定した屋根水平構面の一部を模式的に示す分解斜視図、(b)は登梁材の上に屋根面材を固定した屋根水平構面の一部を模式的に示す分解斜視図。
【
図3】(a)は固定領域が設定された水平面材の裏面側を示す平面図、(b)は川の字形式で固定された水平構面を示す断面図。
【
図4】中間部の2箇所に中間固定領域が設定された水平面材の裏面側を示す平面図。
【
図6】本願発明の接着式水平構面の包絡線と、この接着式水平構面に対応する基準水平構面の包絡線を示すグラフ図。
【
図7】(a)は接着式水平構面の荷重繰り返し履歴曲線を示すグラフ図、(b)は接着式水平構面の包絡線を示すグラフ図。
【
図8】(a)は基準水平構面の荷重繰り返し履歴曲線を示すグラフ図、(b)は基準水平構面の包絡線を示すグラフ図。
【
図9】第2例の接着式水平構面の包絡線と基準水平構面の包絡線を示すグラフ図。
【
図10】第3例の接着式水平構面の包絡線と基準水平構面の包絡線を示すグラフ図。
【
図11】3種類の接着式水平構面の包絡線に基づいて算出された床倍率を示す結果図。
【
図12】本願発明の接着式水平構面の構築方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【
図13】(a)は面内せん断試験の試験体のうち主に梁材の仕様を示す説明図、(b)は面内せん断試験の試験体のうち主に水平面材の仕様を示す説明図。
【
図14】釘材によって梁材に水平面材を固定した水平構面における包絡線を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本願発明の接着式水平構面、接着式水平構面の構築方法、及び仕様決定プログラムの実施形態の一例を、図に基づいて説明する。
【0030】
1.定義
本願発明の実施形態の例を説明するにあたって、はじめにここで用いる用語の定義を示しておく。
【0031】
(水平面材)
床下地を形成する板材を「床面材」、屋根の水平構面を形成する板材を「屋根面材」、そして床面材と屋根面材を総称して「水平面材」ということとする。水平面材は、無垢材や、合板(構造用合板を含む)、CLT材(Cross Laminated Timber)、単板積層材(LVL:Laminated Veneer Lumber)、成型繊維板(MDF:Medium Density Fiberboard)など種々の材料を使用して製作される。なお、本願発明者らが試験を重ねた結果、構造用合板は配置方向における強度差が小さいため、水平面材として構造用合板を用いると本願発明の接着式水平構面はより高い床倍率となることを確認しており、したがって水平面材としては構造用合板を利用するとより好適となる。さらに、せん断変形時にできるだけ面材のせん断変形を抑制するという観点から、水平面材としては厚物仕様(構造用合板では24mm以上)の採用が好適となる。
【0032】
(梁材)
水平面材を支持する線材(断面寸法に比して軸方向寸法が極端に大きい材料)のことを、ここでは「梁材」ということとする。つまり、床の外周に設置される胴差や床梁、床の中間に配置される床小梁、屋根に用いる母屋材、登梁材、あるいはこれら床小梁等に直交配置される根太や受け梁といった部材の総称が梁材である。種類としては、一般製材、集成材、LVL等が挙げられるが、接着剤が抵抗し終えた後に、木材を大きく破断させない、表面に入った亀裂を厚さ方向に貫通させないという観点から、集成材が好適となる。
【0033】
(水平構面)
図1や
図2に示すようには、床面材100を梁材200上に固定した軸組構造のことをここでは「水平構面」ということとする。既述したとおり水平面材100は、床面材100Fと屋根面材100Lの総称である。そこで、
図1に示すように床面材100Fを梁材200上に固定した構造のことを特に「床水平構面」と、
図2に示すように屋根面材100Lを梁材200上に固定した構造のことを特に「屋根水平構面」ということとする。すなわち水平構面は、床水平構面と屋根水平構面の総称である。床水平構面は、例えば
図1に示すように梁材200である胴差210と床小梁220、根太230の上に床面材100Fを固定した構造とすることができる。一方の屋根水平構面は、例えば
図2(a)に示すように梁材200である母屋材240と垂木250の上に屋根面材100Lを固定した構造とすることもできるし、
図2(b)に示すように梁材200である登梁材260の上に屋根面材100Lを固定した構造とすることもできる。
【0034】
(接着式水平構面と基準水平構面)
本願発明の「接着式水平構面」は、接着剤と釘材によって水平面材100を梁材200に固定することで得られる水平構面である。なおここでいう釘材とは、一般的に用いられる鉄丸釘(N釘、CN釘)をはじめ、スクリュー釘や、ビスといった留め具の総称である。また、接着式水平構面と同一の仕様(同じ種類かつ同じ配置)の釘材のみで水平面材100を梁材200に固定することで得られる水平構面を、ここでは「基準水平構面」ということとする。つまり、接着式水平構面の構築過程で接着剤を使用しなかった場合に得られるものが「基準水平構面」であり、したがって基準水平構面は接着式水平構面の仕様(釘材の仕様)に対応して設定される。
【0035】
(接着式水平構面の仕様)
接着式水平構面の仕様は、接着剤と釘材、水平面材の仕様を含むものである。ここで接着剤の仕様とは、接着剤の種類、塗布面積、塗布厚を含む要素をそれぞれ選択した結果であり、釘材の仕様とは釘材の種類と寸法、打込み間隔(ピッチ)、打込み形式(川の字形式やロの字形式)を含む要素をそれぞれ選択した結果であり、水平面材の仕様とはその材質や寸法・形状を含む要素をそれぞれ選択した結果である。
【0036】
(川の字形式)
「川の字形式」とは、水平面材100を梁材200に固定する形式の一つである。
図3は、この川の字形式を説明する図であり、(a)は水平面材100の裏面側(下面側)を示す平面図、(b)は川の字形式で固定された水平構面を示す断面図である。川の字形式で固定する場合、
図3(a)に示すように端部固定領域110と中間固定領域120が水平面材100に設定される。この端部固定領域110と中間固定領域120は、
図3(b)から分かるように、水平面材100のうち梁材200上に接地する範囲に設定される帯状の領域であり、したがって1の水平面材100に設定される端部固定領域110と中間固定領域120は略同方向(同方向含む)に配置される。なお、
図3では1の水平面材100に対して1箇所のみに中間固定領域120が設定されているが、中間部に2以上の梁材200が置かれるときは
図4に示すように2箇所以上(この図では2箇所)の中間固定領域120が設定される。
【0037】
(包絡線)
包絡線は、既述したとおり「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」にも示されているように広く知られたグラフであり、水平構面を面内せん断試験した結果得られる荷重と変形角の関係を表す曲線である。具体的には、鉛直姿勢とした水平構面の上端片側を、あらかじめ段階的に設定した変形角となるまで加力していき(ただし、正負交番繰り返し加力)、それぞれの加力段階で得られた結果をつなげた曲線が包絡線である。
【0038】
図5は、包絡線の一例を示すグラフ図である。一般的に包絡線は、変形角を横軸、荷重を縦軸として描かれ、図中に示すP
maxは最大荷重、P
yは降伏耐力、P
uは終局耐力、δ
uは終局変形角と呼ばれる。このうち終局変形角δ
uは、最大荷重P
maxを迎えた後に荷重が0.8P
maxとなる包絡線上の変形角、又は1/15radのいずれか小さい方の値とされる。なおここでは便宜上、最大荷重P
maxを加力したときの変形角を特に「ピーク変形角δ
p」ということとする。
【0039】
また
図6は、本願発明の接着式水平構面の包絡線(以下、単に「本願包絡線」という。)と、この接着式水平構面に対応する基準水平構面の包絡線(以下、単に「基準包絡線」という。)を示すグラフ図である。なお、
図7(a)に接着式水平構面の荷重繰り返し履歴曲線、
図7(b)に本願包絡線、
図8(a)に基準水平構面の荷重繰り返し履歴曲線、
図8(b)に基準包絡線をそれぞれ示しており、
図7(b)の本願包絡線と
図8(b)の基準包絡線を重ねて示したものが
図6のグラフ図である。
【0040】
(床倍率)
床倍率とは、包絡線に基づいて算出される短期許容せん断耐力を、既述した換算値1.96(kN/m)で除した値である。なお短期許容せん断耐力Paは、「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」にも示されているように短期基準せん断耐力P0に基づいて算出され、さらに短期基準せん断耐力P0は下記で求められる値のうち最も小さな値で決定される。
(a)降伏耐力Py
(b)終局耐力Pu×0.2/Ds(Dsは構造特性係数)
(c)最大荷重Pmax×2/3
(d)特定変形時の耐力
【0041】
2.接着式水平構面
次に、本願発明の接着式水平構面について説明する。
【0042】
既述したとおり、接着剤で水平面材100を梁材200に固定した水平構面は、比較的小さな変形角を与える荷重の範囲(以下、「小規模荷重範囲」という。)で抵抗効果を発揮する特性があり、一方、釘材で固定した水平構面は、比較的大きな変形角を与える荷重の範囲(以下、「大規模荷重範囲」という。)で抵抗効果を発揮するする特性がある。そして本願発明の接着式水平構面は、接着剤と釘材を組み合わせることによって、小規模荷重範囲では接着剤で抵抗し、大規模荷重範囲では釘材で抵抗するという、双方の特性を生かしたいわばハイブリッドの水平構面となる。ただし、接着剤と釘材の組み合わせ(仕様)によっては、釘材が抵抗する前に水平面材が破材し、あるいはアンカー効果が滅失するほど釘材が緩んでしまうことから、接着剤のみで固定した場合と同様の結果となるケースもある。
【0043】
図6に示すように本願包絡線を見ると、接着剤の影響を受けたと考えられる包絡線が、釘材の影響を受けたと考えられる包絡線にスムーズに連続しており、接着剤と釘材の双方の特性が生かされていることが分かる。より詳しくは、小規模荷重範囲では本願包絡線の方が基準包絡線よりも上方にプロットされていることから荷重に対して接着剤が抵抗していると考えられ、大規模荷重範囲では本願包絡線と基準包絡線が同程度の位置にプロットされていることから荷重に対して釘材が抵抗していると考えることができる。すなわち、接着剤による抵抗から釘材による抵抗へと円滑に受け渡されているわけである。
【0044】
このように、全体的に基準包絡線よりも上方(特に小規模荷重範囲)又は同程度(特に大規模荷重範囲)の位置にプロットされる包絡線のことを、ここでは「複合包絡線」ということとする。換言すれば複合包絡線は、同じ変形角(横軸値)で見ると、基準包絡線の荷重(縦軸値)と同等かそれより大きな荷重を示す包絡線のことである。つまり、同じ変形角を与えるとしたときに、基準水平構面に加える荷重と、複合包絡線となる水平構面に加える荷重を比べると、両者は同等の荷重となるか、あるいは複合包絡線となる水平構面に加える荷重の方が大きな荷重となるわけである。ここで同等の荷重とは、両者(複合包絡線と基準包絡線)の荷重の差が所定の閾値(例えば10%)以内となる荷重のことである。そして複合包絡線となる水平構面が、本願発明の接着式水平構面である。なお、接着剤と釘材で固定したものの接着剤と釘材の双方の特性が生かされない水平構面(つまり、本願発明の接着式水平構面ではない水平構面)の包絡線は、小規模荷重範囲では基準包絡線よりも上方にプロットされるが、水平面材の破材や釘材のアンカー効果滅失により、大規模荷重範囲では基準包絡線よりも下方に潜り込むようにプロットされ、複合包絡線とはならない。
【0045】
図9と
図10は、
図6とは異なる接着式水平構面の包絡線(本願包絡線)と、その基準包絡線を示すグラフ図である。
図9や
図10に示す包絡線は、いずれもここまで説明した複合包絡線となっており、したがって
図9や
図10の包絡線となる水平構面は本願発明の接着式水平構面である。なお
図6を含む3種類の接着式水平構面は、いずれも川の字形式とするなど釘材の仕様は同じとしており、接着剤の仕様のみを変えている。したがって、これら3種類の接着式水平構面に対応する基準水平構面は1種類であり、
図9や
図10に示す基準包絡線は
図6の基準包絡線と同一である。
【0046】
ここで
図6に示す例を「第1例の接着式水平構面」、
図9に示す例を「第2例の接着式水平構面」、
図10に示す例を「第3例の接着式水平構面」とすると、それぞれ使用している接着剤の特性は次のとおりである。
(第1例) 接着強度が最も小さく、変形性能が最も大きい
(第2例) 接着強度が最も大きく、変形性能が最も小さい
(第3例) 接着強度が2番目に大きく、変形性能が2番目に小さい
【0047】
これら3種類の本願包絡線に基づく床倍率(ただし、低減前)を算出すると、
図11に示すように、第1例の接着式水平構面では4.71の床倍率、第2例の接着式水平構面では4.53の床倍率、第3例の接着式水平構面では4.05の床倍率が得られる。またこの図では基準水平構面の床倍率3.52も示しており、第1例~第3例の接着式水平構面はいずれも基準水平構面より高い床倍率が得られていることが分かる。既述したとおり、接着剤と釘材で固定するが複合包絡線とはならない水平構面(本願発明の接着式水平構面ではない水平構面)では、接着剤と釘材の双方の特性が生かされないため基準水平構面より床倍率が低くなることもある。すなわち高い床倍率を得るという点においても、接着式水平構面が有効であることが理解できる。
【0048】
また、第1例~第3例の床倍率を比較すると、第1例の接着式水平構面が最も高い床倍率となっている。この第1例の接着式水平構面である
図6の本願包絡線は、既述したとおり、荷重に対して接着剤が抵抗していると考えられる荷重範囲(以下、「接着剤荷重範囲」という。)では本願包絡線の方が基準包絡線よりも上方にプロットされ、荷重に対して釘材が抵抗していると考えられる荷重範囲(以下、「釘材荷重範囲」という。)では本願包絡線と基準包絡線が同程度の位置にプロットされている。そして釘材荷重範囲の方が接着剤荷重範囲よりも大きな変形角を与えており、しかも接着剤荷重範囲と釘材荷重範囲の境界付近の変形角(以下、「境界変形角」という。)に着目すると、この境界変形角は最大荷重P
maxの80%荷重よりも大きな荷重によって与えられている。これにより、第1例の終局変形角δ
u1は、最大荷重P
maxの80%荷重ではなく、1/15radで決定され、この結果高い床倍率が得られるわけである。
【0049】
一方、第2例の接着式水平構面である
図9や第3例の接着式水平構面である
図10を見ると、それぞれ接着剤荷重範囲とを示しており、釘材荷重範囲の方が接着剤荷重範囲よりも大きな変形角を与えているが、それぞれの境界変形角は最大荷重P
maxの80%荷重よりも著しく小さな荷重によって与えられている。これにより、第2例の終局変形角δ
u2や第3例の終局変形角δ
u3は、1/15radではなく、最大荷重P
maxの80%荷重で決定されており、この結果第1例の接着式水平構面よりも低い床倍率が求められるわけである。すなわち、第1例の本願包絡線のように釘材荷重範囲の方が接着剤荷重範囲よりも大きな変形角を与え、かつ境界変形角が最大荷重P
maxの80%荷重よりも大きな荷重によって与えられる接着式水平構面は、高い床倍率が得られることから好適となる。
【0050】
(固定形式)
本願発明の接着式水平構面は、水平面材100の全周を接着剤及び釘材で固定する形式(いわゆるロの字形式)とすることもできるし、
図3や
図4に示すように川の字形式で固定することもできる。川の字形式とする場合は、水平面材100に設定される端部固定領域110と中間固定領域120に、接着剤を塗布し、かつ釘材を打付ける。なお接着剤は、水平面材100の裏面(下面)のうち端部固定領域110と中間固定領域120に塗布することもできるし、梁材200の表面(上面)に塗布することもできる。
【0051】
(試験例)
既述したとおり、第1例の接着式水平構面と第2例の接着式水平構面、第3例の接着式水平構面、そしてこれら接着式水平構面に対応する基準水平構面は、それぞれ包絡線が得られ、床倍率(ただし、低減前)が得られている。ここでは、これら包絡線や床倍率を得るために実施した面内せん断試験について説明する。
【0052】
図13は、面内せん断試験の試験体仕様を説明する説明図であり、(a)は主に梁材200の仕様を示し、(b)は主に水平面材100の仕様を示している。面内せん断試験に使用した試験体の梁材200は、
図13(a)に示すように下記の仕様とした。
材種: 欧州アカマツ集成材
断面寸法: 105×105mm
強度等級: E105-F300
上下梁間隔: 2730mm
中間梁間隔: 910mmピッチ
なお左右の中間梁は、1個のホールダウン金物で上梁と固定し、2個のホールダウン金物で下梁と固定した。また中央の中間梁は、上下梁ともに羽子板ボルトで固定している。
【0053】
一方、面内せん断試験に使用した試験体の水平面材100は、
図13(b)に示すように下記の仕様とした。
材種: 針葉樹構造用合板
板厚寸法: 28mm(特類2級を3枚使用)
平面寸法: 910×1820mm (柱干渉部は切欠きあり)
【0054】
また、水平面材100を梁材200に固定した釘材は下記の仕様とした。
材種: ビス
寸法(長さ): 全長L=70mm,ネジ部長さS=30-35mm
寸法(径): ネジ外径D1=5.2-6.0mm,軸部径D4=3.2-4.2mm,頭部径=10.0-12.5mm
ネジ部形状: 縦ノッチ(螺旋状2列),角度=45±3度
なおここで使用したビスは、一定の硬度を有することを条件として選定している。
【0055】
水平面材100を梁材200に固定した接着剤は、それぞれ下記の仕様とした。
第1例の接着式水平構面:当該3例のうち接着強度が最も小さく、変形性能が最も大きいHKC36を使用した。JIS K6852に準拠して測定(被着材:カバ材同士、養生期間:23℃50%RH環境下で1週間、荷重速度:3mm/分)した圧縮せん断接着強さが1.5N/mm2であり、最大荷重時の変位が1.0mmの接着剤である。
第2例の接着式水平構面:当該3例のうち接着強度が最も大きく、変形性能が最も小さいHKC34を使用した。JIS K6852に準拠して測定(被着材:カバ材同士、養生期間:23℃50%RH環境下で1週間、荷重速度:3mm/分)した圧縮せん断接着強さが3.0N/mm2であり、最大荷重時の変位が0.7mmの接着剤である。
第3例の接着式水平構面:当該3例のうち接着強度が2番目に大きく、変形性能が2番目に小さいHKC35を使用した。JIS K6852に準拠して測定(被着材:カバ材同士、養生期間:23℃50%RH環境下で1週間、荷重速度:3mm/分)した圧縮せん断接着強さが2.5N/mm2であり、最大荷重時の変位が0.8mmの接着剤である。
【0056】
そして、下記の施工仕様によって水平面材100を梁材200に固定した。
釘材の打込み: 100mmピッチ(川の字)
接着剤の塗布: 幅5mmの連続塗布(川の字)
【0057】
以上説明した仕様の試験体で面内せん断試験を行った結果、
図6と
図9、
図10の包絡線が得られ、
図11に示す床倍率が得られた。
【0058】
3.接着式水平構面の構築方法
続いて、本願発明の接着式水平構面の構築方法について、
図11を参照しながら説明する。なお、本願発明の接着式水平構面の構築方法は、ここまで説明した接着式水平構面を構築する方法であって、したがって「2.接着式水平構面」で説明した内容と重複する説明は避け、接着式水平構面の構築方法に特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、既に説明したものと同様である。また、本願発明の接着式水平構面の構築方法は、ロの字形式で固定するケースでも実施することができるが、ここでは便宜上川の字形式で固定するケースで説明する。
【0059】
図12は、本願発明の接着式水平構面の構築方法の主な工程の流れを示すフロー図であり、この図に示すように大きくは設計工程(Step100)と水平面材固定工程(Step200)の2工程が行われる。
【0060】
(設計工程)
設計工程では、まず接着式水平構面の仕様、つまり接着剤の仕様と釘材の仕様、水平面材の仕様が計画される(Step110)。そして、計画された仕様の水平構面に対して既述した面内せん断試験を行い、その結果得られる包絡線を確認する(Step120)。その包絡線が、これまで説明した複合包絡線であることが確認できるとその仕様を決定する。一方、複合包絡線とならない場合は、改めて接着剤と釘材の仕様を計画する(Step110)。なお、既に効果が確認された過去の使用実績と同様の仕様を採用する場合は、試験・確認工程(Step120)を省略することができる。
【0061】
(水平面材固定工程)
水平面材固定工程では、まず水平面材100の裏面(下面)に対して端部固定領域110と中間固定領域120の位置出しを行い(Step210)、この端部固定領域110と中間固定領域120に接着剤を塗布する(Step220)。水平面材100への塗布に代えて梁材200の表面(上面)に接着剤を塗布してもよく(Step220)、その場合は端部固定領域110と中間固定領域120の位置出し工程(Step210)を省略することができる。
【0062】
水平面材100裏面の端部固定領域110と中間固定領域120(あるいは梁材200の表面)に接着剤が塗布できると、端部固定領域110と中間固定領域120がそれぞれ梁材200上に載置されるように水平面材100を設置する(Step230)。そして、水平面材100表面の端部固定領域110と中間固定領域120で、所定のピッチで釘材を打付け(Step240)、接着式水平構面を完成させる。
【0063】
4.仕様決定プログラム
本願発明の仕様決定プログラムについて説明する。なお、本願発明の仕様決定プログラムは、ここまで説明した接着式水平構面の仕様を決定するプログラムであり、したがって「2.接着式水平構面」で説明した内容と重複する説明は避け、仕様決定プログラムに特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、既に説明したものと同様である。
【0064】
本願発明の仕様決定プログラムは、接着式水平構面の仕様を決定する機能をコンピュータに実行させるプログラムであり、接着式水平構面の構築方法の設計工程で効果的に使用することができる。より具体的には、本願発明の仕様決定プログラムは、ユーザが計画した仕様による面内せん断試験結果を入力すると、その試験結果に基づいて包絡線(以下、「計画包絡線」という。)を求め、計画包絡線と基準包絡線をディスプレイなどの表示手段に表示するとともに、計画包絡線と基準包絡線を照らし合わせる処理をコンピュータに実行させるものである。さらに、計画包絡線が基準包絡線との関係で複合包絡線であることが確認されると、この仕様を本願発明の接着式水平構面の仕様として採用し得るとして当該仕様を抽出する処理をコンピュータに実行させるものである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本願発明の接着式水平構面、接着式水平構面の構築方法、及び仕様決定プログラムは、戸建て木造住宅のほか、学校、幼稚園、事務所、公共施設など様々な木造建築物で利用することができる。特に、吹き抜けなど広い空間が設けられた木造建築物に有効である。
【符号の説明】
【0066】
100 水平面材
100F 床面材(水平面材)
100L 屋根面材(水平面材)
110 (水平面材の)端部固定領域
120 (水平面材の)中間固定領域
200 梁材
210 胴差(梁材)
220 床小梁(梁材)
230 根太(梁材)
240 母屋材(梁材)
250 垂木(梁材)
260 登梁材(梁材)
Pmax 最大荷重
Py 降伏耐力
Pu 終局耐力
P0 短期基準せん断耐力
Pa 短期許容せん断耐力
δu 終局変形角
δu1 第1例の終局変形角
δu2 第2例の終局変形角
δu3 第3例の終局変形角
δp ピーク変形角