(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】義歯あるいは部分義歯の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 13/08 20060101AFI20220104BHJP
A61C 13/083 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
A61C13/08
A61C13/083
(21)【出願番号】P 2019507748
(86)(22)【出願日】2017-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2017070002
(87)【国際公開番号】W WO2018029164
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2019-02-08
(31)【優先権主張番号】102016114825.3
(32)【優先日】2016-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102017117491.5
(32)【優先日】2017-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】596032878
【氏名又は名称】イボクラール ビバデント アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100064012
【氏名又は名称】浜田 治雄
(72)【発明者】
【氏名】バースケ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】キュリブス,ロベルト ヴォルガンク
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/078701(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/005287(WO,A1)
【文献】特表2005-508697(JP,A)
【文献】特開2010-220714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/08
A61C 13/083
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタルデータに基づいて義歯あるいは部分義歯を製造するための歯科用機械器具の動作を制御する方法であって、
フライス工具を使用して未加工の義歯床を粗削りし、半製品として存在する義歯床を作成す
る第1の工程と、
歯と義歯床が相互に接合するおよび/または相互に接着される義歯床の領域内において別のフライス工具を使用して半製品として存在する義歯床を仕上げフライス切削する第2の工程
とを含み、
第2の工程における仕上げフライス切削による目標高さは、義歯床と歯あるいは歯列(14)との間に所要の接着間隙を設け
ることであり、義歯床と歯あるいは歯列とを接合させることに対応することを特徴とする方法。
【請求項2】
粗削りする第1の工程において、歯色のブランクから義歯歯列を粗削りし、それに続いて仕上げフライス切削する前記第2の工程において、義歯歯列の歯の基底面(20)とそれに隣接する歯列(14)の歯肉領域を仕上げフライス切削することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1に記載の義歯床の歯用キャビティ内に請求項2に係る方法に従って製造される義歯歯列を接着剤で接着し、続いて義歯歯列と義歯床からなる組合せを結合するために接着剤を硬化させた後、粗削りのみしか施されていない領域が存在する全ての部位を仕上げフライス切削することを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
義歯を構成する歯列(14)が樹脂からなり、その樹脂は、義歯床の材料の硬度/強度より大きな硬度/強度を有するとともに、拡散層によって被包された充填剤を含み、その充填剤は、PMMAパールポリマー充填剤および/または架橋プレポリマー充填剤を20重量%の充填率で含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
義歯床
は義歯床材料からなる平型円筒形の盤から切削し、その際外形が実質的にU字形になるような方式で粗削りすることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
フライス工程ごとに、義歯床のフライス切削に際して粗削り工具を使用した切込み深さが0.7mmないし2.5mm、又は1.0mmないし2.0mmであるとともに、義歯床の仕上げフライス切削に際して仕上げフライス工具を使用した切込み深さが0.1mmないし0.5mmであり、および/または歯列あるいは部分歯列の切削に際して粗削り工具を使用した切込み深さが0.6mmないし2.2mmであるとともに、歯列あるいは部分歯列の仕上げフライス切削に際して仕上げフライス工具を使用した切込み深さが0.1mmないし0.4mmであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
直径0.8mmないし6mmの粗削り工具を工具として使用し、仕上げフライス工具により仕上げフライス切削すべき領域を先に粗削りし、さらに直径0.5mmないし3mm、または2.5mm以下の仕上げフライス工具を使用することを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
歯列(14)あるいは部分歯列と義歯床の間に0.08mmないし0.22mmの接着継ぎ目を形成し、義歯床のキャビティ内における部分歯列あるいは歯列の相対位置を粗削りおよび部分的に仕上げフライス削りされた両要素の相互間の高さ/横方向/角度位置の補正のために使用することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
接着剤を塗付し、義歯床のキャビティ内に歯列を接着し、また歯列(14)と義歯床の間の接着剤が硬化した後、歯列(14)をフライス盤のワークピース固定具のみによって固定して仕上げフライス切削することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
支承ブリッジ(12)を残しながら義歯歯列をブランク盤(10)から粗削りし、その際粗削りによって作成される義歯床歯列が、切端側で丸形の断面を有するとともに、歯肉側では基底面(20)とそれに向かって収束する側面(22,24)を備え、さらに実質的にU字形を有するように作成することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
歯列(14)の基底形状と対応する義歯床のキャビティの形状を相互に適合させ、それらは、臼歯領域においてはより平坦かつ幅広くなり、また犬歯領域においてはより狭くかつ深くなるように形成することを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
歯列の歯肉領域を台形にフライス削りし、義歯床内のキャビティに対する接合面を予め加工して形成することを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
実質的にU字形の歯列を複数のサイズで予加工して、実際に製造される義歯に最も適合するサイズを選択し、その予加工はフライス切削またはプレス成型であり、またその歯列がCAM装置に対応するマウントを備えるようにすることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
デジタルデータに基づいて義歯を製造するための歯科用機械器具の動作を制御する方法であって、
充填剤を含んだPMMAからなる歯色の材料から義歯を作成するための実質的にU字形の歯列(14)を、支承ブリッジを残すとともに義歯の歯に対する超過寸法を有するようにしながら半製品としてブランクから切り出し、
その際歯列の基底面とそれに接続する平面を義歯床内に収容するように仕上げフライス削りし、さらに歯列を義歯床内に固定することを特徴とする方法。
【請求項15】
義歯床とその中あるいは上に固定された歯列とからなる組み合わせを続く工程において共に仕上げフライス切削することを特徴とする請求項14記載の義歯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は請求項1または14前文に記載の義歯あるいは部分義歯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日義歯の製造はコンピュータ支援に基づいていても比較的高コストである。
【0003】
しばしば下記の方法を適用する:
【0004】
患者の口腔を測定するために歯科印象を行うかあるいは口内スキャンを作成する。それによって例えば義歯に取り付けるための歯無しの顎と例えば患者の歯を含んだ歯付きの顎を測定する。
【0005】
続いて口内状況に基づいてCADを使用して義歯の目標形状を、対咬歯と整合義歯の歯を含めて作成する。
【0006】
その際咀嚼学上の特性、すなわち例えば咀嚼動作ならびにそれに関連する楕円関節形状に配慮することが極めて好適である。
【0007】
前記義歯は適宜な模型の作成ならびに咬合器内への適用によって検査しまた必要に応じて修正することができる。
【0008】
その後実質的な義歯の製造において、得られたデータに基づいて例えばPMMA製で歯用キャビティを備えた歯肉色の義歯床を作成する。歯用キャビティ内に使用する歯を挿入して接着する。その歯は機械的に製造した歯セットの歯とすることができる。その後咬合不良箇所をフライス切削あるいは特に研磨によって修正する必要がある。
【0009】
それに代えて、例えばセラミックから個別に製造した歯を使用することもできる。その際メタ珪酸リチウムからなる既製のブランクを例えばフライス切削によって所要の形状に加工する。そのようにして作成した歯をその後二珪酸リチウムに焼結させるが、その際実質的に収縮が発生しない点を利用する。
【0010】
他方、付加的あるいは切削的すなわちフライス切削によって加工した樹脂合成歯を使用することもできる。
【0011】
使用される全ての方法において共通して、咬合不良箇所を伴わない高品質の義歯のためには比較的高コストな製造プロセスが必要になり、加えて比較的長い時間を要する。
【0012】
例えば特許文献1によれば、粗削りと精密切削のために異なった直径を有するフライス工具を使用する。この文献の教唆によれば、粗-精密加工、さらに前研磨を実施する。この方法も高コストでかつ長時間を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】ドイツ国特許出願公開第102009026159号(A1)明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って本発明の目的は、義歯あるいは部分義歯を短時間かつ高い品質をもって製造することができ、その際操作者による手作業を削減することもできる請求項1または14の前文に記載の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題は本発明に従って請求項1または14によって解決される。好適な追加構成が従属請求項によって定義される。
【0016】
本発明によれば第1の工程で義歯床を高速に粗削りする。例えば98.5mmないし100mm径のブランク円板に基づいて義歯床のラフな形状を10分ないし40分以内、特に約30分で目標とする後の義歯床に既に近似する形状に加工するが、どの箇所においても後の義歯床に必要とされるものより材料が過少にならないようにする。
【0017】
それに続いて、後に義歯床が請求項2に係る歯あるいは義歯歯列と接触する箇所のみ限って仕上げフライス切削を実施する。その領域はキャビティあるいはU字型のリセスとして形成される。キャビティの基本形状は必要に応じて粗削りに際して既に準備することができる。
【0018】
仕上げフライス切削はCADによって予設定された歯列と義歯床の間の分離継ぎ目に従った目標高度まで実施する。その際周知の方式によって接着部の厚みを考慮する。
【0019】
上述のように予加工されていてまた義歯床のその他の小さな領域、特にキャビティ領域が例えば義歯床の総表面積の5%ないし30%にしか該当しないため、所要の仕上げフライス切削効果を迅速に達成することができる。
【0020】
方法を高速化するためにラフな義歯床形状を粗削りする場合、処理される領域は総表面積の30%ないし55%を含む。
【0021】
仕上げフライス切削のために使用するフライス工具と粗削りのために使用するフライス工具の間に大きな違いを持たせることが極めて好適である。本発明に係る好適な粗削りの切込み深さは例えば0.7mmないし2.5mmとすることができる。
【0022】
一方、本発明に従って適用する仕上げフライス切削の切込み深さは0.1mmないし0.5mmとすることができる。
【0023】
(本発明において好適である)PMMA等の歯肉色を保持する樹脂をフライス切削する場合、本発明に従って切削加工温度を低く抑制するように配慮する。例えば、粗削りのために0.8ないし5mmの直径を有する好適には片刃のフライス工具を使用して20000rpmないし25000rpmの回転数で作業することができ、一方仕上げフライス切削においては0.5mmないし2.5mmの直径を有するフライス工具を使用して25000rpmないし30000rpmの速度で作業することができる。例えば臼歯の咬合面などの裂孔は0.5ないし0.7mmの直径を有する工具を使用した精密な仕上げフライス切削によって形成することができる。
【0024】
義歯あるいは部分義歯の製造に際しての極めて重要なコストおよび時間短縮は、本発明に従って歯色のブランクから義歯歯列を作成することによって達成することができる。そのブランクも例えば円板形に形成することができ、その際直径100mmのブランク円板に2本あるいはそれ以上の歯列を収容することができる。それに代えて実質的にU字形のブランクから切り出すこともできる。ブランクをまず(好適には上述と同様な粗削り工具を使用して)粗削りして処理し、実質的にU字形に加工する。
【0025】
歯色の材料、特に充填剤を含んだPMMAからなる歯を後で作成するために実質的にU字形の歯列をブランクから製造することができる。製造は例えばフライス切削またはプレス方法等の任意の適宜な方式で実施することができる。
【0026】
それに代えて歯列半製品を、射出成形、圧縮成形、またはその他の任意の成形方法によって製造することができる。また、射出成形により追加超過寸法を有するいわゆる半製品予加工品として歯列を予加工し、そして半製品を前フライス切削によって患者の歯列に応じて標準超過寸法を備えた所要の大きさ、すなわち「小」、「中」、「大」に粗削りすることもできる。
【0027】
半製品の作成は、支承ブリッジを残しまた義歯の歯に対する超過寸法を形成しながら特に粗削りによって実施することが好適である。歯列の基底領域、すなわち基底面とそれに接続する面は義歯床内に収容するために前処理される。そのために基底領域を実質的に台形の断面に加工する。
【0028】
歯列ブランク(歯色のブランク)は歯肉側-切端側あるいは歯肉側-咬合側に延在する色勾配を有し、特に濃色から明色に変化する。ブランク内における歯列の高さ位置を使用者の選択に応じてCAD/CAMによって決定することが好適であり、それによって歯列の実際の色範囲および/または明度範囲を決定する。
【0029】
歯列および/または歯列ブランクは多分割式、例えば2個の臼歯部分歯列および1個の前歯歯列からなる三分割式とすることもできる。
【0030】
その場合、前歯歯列のみが階調を備えれば充分である。
【0031】
しかしながら歯形状は未だ作成されてない。ブランクの歯の基底面のみを粗削りおよび仕上げフライス切削によって所要の形状に加工し、場合によってそれに続いて隣接する歯列あるいは歯の領域を加工する。それらの領域は傾斜面として形成することが好適であり、基底面に対して100°ないし170°の角度で延在するとともに基底面に接合する。
【0032】
その歯列の歯肉領域の角度形成、輪郭、およびその他の幾何学的構成が義歯床の歯用キャビティに正確に適合するようにし、その際例えば0.150mmまたは0.08mmないし0.22mmの適宜な数値とし得る接着間隙を残留させる。
【0033】
ここでも歯列の総表面積の極小さな領域、例えば30%ないし50%のみに仕上げフライス切削を実施し、従って所要の精密な接触面を形成するためにCNCフライス盤を長時間使用する必要がなくなる。これも粗削りによって予加工したためである。
【0034】
義歯床の歯列と歯用キャビティを作成した後、相互に対向する面(そのうち1面あるいは両面)に適宜な接着剤を塗付する。さらにその前に、例えばサンドブラストによって、または刻み目、隆起、窪み、および/または幾何学模様等の特定の構造を歯列の基底面上あるいは義歯床の歯用キャビティ上に切り出すことによって表面積の拡大を実施する。
【0035】
接着剤塗付は義歯床をCNCフライス盤内に固定している間にフライス作業空間の蓋を開いて操作者が適宜な操作を行うことによって実施することもできる。
【0036】
それに代えて、義歯床あるいは歯列を取り出して適宜に処理することも勿論可能である。
【0037】
両方の部材を準備した後、後に相互に接着する領域にいずれも接着剤を塗付する。そのためCAD設計によって例えば0.12mmの接着部を設ける。その後例えばトランスファーマトリクスを使用して接着剤が固化するまで部材を固定する。
【0038】
接着剤の硬化の間に専用の固定ホルダを使用しそれによって歯列と義歯床の組合せを接着剤の硬化の間固定して保持することもできるが、義歯床を再度フライス盤内に固定するかその中に固定されたままに保持して歯列を装着した後単純にそれを対向面に対して押圧しそれによって硬化の間もプレス圧力が作用するようにすることもできる。
【0039】
押圧することによって接着剤が膨張して接着部から漏出し、特に露出領域と歯列の接触領域の間の移行領域、すなわちいわゆる歯肉縁に漏出する。歯列と義歯床の間の移行領域には超過寸法を設けない。従って歯肉縁は露出するが、余剰接着剤によって被覆される。
【0040】
接着剤間隙は接着剤によって完全に填塞される。接着剤は間隙から側方に膨張し、そこで余剰接着剤あるいは結合剤を形成する。最終的な仕上げフライス切削に際してそれを除去する。
【0041】
硬化に続いて義歯床と装着された歯あるいは(好適には)装着された歯列を共にフライス盤のワークピース固定具に再度固定するかまたはそこに固定されたままに保持する。
【0042】
異なった粗削り用および仕上げ用フライス工具の自動工具交換が可能となるようにフライス盤を構成することが好適である。
【0043】
その時点で義歯床は未だ支承ブリッジによってブランク盤のその他の部位と連結されていることが好適である。それに代えて、適宜に構成されたワークピース固定具を介して義歯床自体を固定して保持することも可能である。
【0044】
その後必要に応じて0.7mmないし2.5mmの切込み深さを有する幾らか精密な粗削り工具を使用して(任意の)粗削り工程を実施する。それによって仕上げ加工を準備し、従って仕上げ加工の時間がさらに短縮される。
【0045】
接着剤の膨張のため場合によって発生し得る接着剤隆起は最終のフライス切削工程において自動的に除去される。
【0046】
この最終の工程は場合によって前述した粗削り工程を行わずに実施することもできるが、その最終工程内において歯領域と義歯床領域の両方を所要の目標形状に仕上げフライス切削する。この最終工程中には使用者による介入は不要であるため、プロセススケジュール上有意義であれば最終工程を夜間に実行することもできる。
【0047】
接着工程のために例えば高さ位置に不正確性が生じた場合それも最終のフライス切削工程によって自動的に同時修正される。そのことはいわば自動的に同時実施することができる。CAMソフトウェア中においてCADデータに基づいて咀嚼面とその他の露出した歯面の目標形状が登録される。
【0048】
歯列あるいは部分歯列が「斜めに」接着された、すなわち接着不良が生じた場合でも仕上げフライス切削が目標設定に従って実行され、従って咬合不良箇所を防止することができる。
【0049】
さらに例えば10分間義歯を研磨する。
【0050】
結果として完成した義歯が提供され、CNCフライス盤から取り出すことができる。
【0051】
歯列ならびに義歯床の双方に対して使用する材料を必要に応じて適合させることが好適である。すなわち、歯列に対しては幾分硬めに設定されたPMMA樹脂材料またはPMMAと無機あるいは有機充填剤との組合せからなる材料を使用し、その硬度が義歯床材料に比べて高くなるようにすることができる。歯列材料中の充填剤含有率は10ないし30重量%、特に約20重量%である。
【0052】
粗削りのために大きな直径を有する工具を粗削り工具として使用し小さな直径を有する工具を仕上げフライス工具として使用することが好適であるがそのことは不可欠ではなく;個別のケースにおいては仕上げフライス工具の直径が粗削り工具の直径を上回ることも可能である。
【0053】
接着工程に際して義歯床と歯列を所要の最適な接着部の厚みに相当する所与の距離をもって分離して保持することも可能である。その際義歯床に対する歯列の高さ位置と場合によってさらに横方向位置および角度位置を必要性に適合させることによって一種の精密調整を提供することもできる。本発明のこの実施形態において接着部は場合によって生じる咬合不良箇所を防止あるいは削減する手段を形成する。それによって咬合器内における整合を検査する必要性が除外される。
【0054】
ブランクまたは半製品等の各時点の加工状態にかかわらずワークピース、すなわち歯列あるいは義歯床の装着あるいは再装着に際してフライス盤の固定装置に対するワークピースの正確な位置の割り当てを保証するマーキングを周知の方式で適用し得ることが理解される。
【0055】
その種のマーキングは、削除されない箇所または最後の仕上げフライス切削において初めて削除される箇所に付加することが好適である。
【0056】
粗削りは極めて粗めに、すなわち目標形状の近辺程度までで実施することが好適であり、その際義歯床内あるいは歯列内、さらに個体ごとに超過寸法が変動し得る。変動幅は0.2mmないし1.5mmとなり得る。
【0057】
大径の粗削り工具を使用しまた材料の負荷耐性より幾らか低いものである大きな前進動作を適用することによって、粗削り時間が著しく短くなり、例えば仕上げフライス切削の1/3となる。
【0058】
粗削り後に操作者による中間操作が必要であるが、粗削り時間が短いため歯科技工所あるいは歯科医院における作業進行が顕著に改善され、そのことは本発明の重要な利点である。
【0059】
周知の方式によってCAMソフトウェアが粗削りと仕上げフライス切削の両方を制御することができる。温度センサを備えて適宜に構成されたフライス盤を使用して材料の負荷耐性限界を守るために材料温度を監視することも可能である。さらに周知の方式によって工具交換もワークピース交換と同様に自動的に実施され、従って接着のみが最低限の部分的に操作者の介入を必要とする操作として残る。
【0060】
義歯床と歯列の両方が最初は支承ブリッジを介してブランクの他の部位と連結して保持されることが極めて好適である。それによって半加工部材用の専用ホルダを省略することができる。可能な最終の時点、例えば歯列の場合義歯床の歯用キャビティ内への接着に際して初めて支承ブリッジを除去する。
【0061】
それに対して義歯床の支承ブリッジは仕上げフライス切削の終了後に除去することができる。
【0062】
相互に結合された歯列用のキャビティの形状は必要に応じて広範に適合させることができる。溝あるいは歯用キャビティと呼称することができるが、それを臼歯領域で浅くまた前歯領域でより深く形成することができる。それには斜面の角度の変化が伴われることが可能であり、従って前歯領域において臼歯領域に比べて急傾斜の斜面が形成される。
【0063】
歯用キャビティの深さならびに幅も同様に必要に応じて広範に適合させることができる。ここでも歯列の延長に沿って変化が存在し得る。
【0064】
好適な実施形態において累積粗削り時間が累積仕上げフライス切削時間の半分未満、特に好適には1/3未満であり、また仕上げフライス切削を特に夜間にCAMソフトウェアで制御して行う。
【0065】
別の好適な実施形態によれば、同じフライス盤内において特にそれぞれ円盤形の歯列ブランクと義歯床ブランクをワークピース収容具内に装着し、また必要に応じていずれも工具交換によって粗削り工具から仕上げフライス工具に自動的に交替することができる。
【0066】
別の好適な実施形態によれば、仕上げフライス切削によって基底面と歯列あるいは部分歯列の周囲領域を作成しまた歯列あるいは部分歯列を収容するためのキャビティを義歯床内に作成した後、相互に対向する面の片方あるいは両方に特に機械によって接着剤を塗付し、その際極めて好適には接着する部材の少なくとも一方をフライス盤内に固定して保持する。
【0067】
別の好適な実施形態によれば、接着剤塗付後に相互に接着する部材を周知の方式によって硬化の間特にフライス盤内に保持し、その際フライス盤のワークピース固定具が義歯床およびその中に接着する歯列を対向領域に対して押圧して接着保持力を付加する。
【0068】
別の好適な実施形態によれば、歯色の材料からなる少なくとも2本の歯列または場合によってさらに多くの歯列を1個のブランク内に収容する。
【0069】
別の好適な実施形態によれば、歯列ブランク(歯色のブランク)が歯肉側-切端側あるいは歯肉側-咬合側に延在する、特に濃色から明色への色勾配を有し、また特にCAD/CAMによって決定された歯列ブランク内の歯列の高さ位置によって使用者の選択に応じて歯列の色領域および/または明度領域が決定される。
【0070】
別の好適な実施形態によれば、上顎歯列を下顎歯列に比べてより丸型の形状に加工し、下顎歯列をより細く形成する。
【0071】
本発明に係る方法によって著しいフライス切削時間短縮と工具消耗の抑制が達成される。
【0072】
歯列を異なった大きさに予加工することによって消費される材料が削減される。加えてCAM装置用の支承ブリッジおよび/またはマウントを予加工される歯列に具備することができ、それによって高価な盤固定具が代替される。
【0073】
主要な部分の粗削りと接続領域の仕上げフライス切削と接合と場合によって再度の粗削りと最終の仕上げフライス切削とからなるフライス切削手順によってフライス切削時間が大幅に短縮されることが極めて好適である。
【0074】
本発明によれば、義歯床に個別の歯を接着することに比べて極めて簡便に義歯床内に歯列を接着し得ることが極めて好適である。加えて大面積の支承によって接着強度が最適化される。
【0075】
本発明のその他の詳細、特徴、ならびに利点は、添付図面を参照しながら以下に記述する実施例の説明によって理解される。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1】既に部分的にフライス切削された歯列を有する歯列ブランクを概略的に示した説明図である。
【
図2】(支承ブリッジを除いて)既に荒削りされた2本の歯列のためのブランクを示した説明図である。
【
図3】ブランク盤から切り出されていて支承ブリッジがまだ存在している歯列あるいは予加工された歯列ブランクを示した平面図である。
【
図5】義歯床半製品を概略的に示した説明図である。
【
図6a】粗削りされていて仕上げ削りすべき基底面を有する歯列を示した前面図である。
【
図6b】粗削りされていて仕上げ削りすべき基底面を有する歯列を示した底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0077】
図1には歯列ブランク盤10が概略的に示されている。歯列ブランク盤は例えば98.5mmの直径と20mmの高さを有するが、その寸法は必要に応じて広範に調節可能であることが理解される。ブランク盤の高さはいずれも作成する歯あるいは歯列の基底領域を含めた最大高を超越する必要がある。
【0078】
図1に示されるようにブランク盤は実質的にU字形に切削され、支承ブリッジ12がU字と盤のその他の部位を連結する。
【0079】
前記の切削は粗削りによって実施するため迅速に、例えば30分以内に完了することができる。
【0080】
U字は後に歯列14として使用され、後に義歯を適用する患者に適合する大きさを有する。
【0081】
下顎義歯床のための同様なU字を別の歯肉色のブランクから切り出す。これも同様に粗削りによって15ないし40分以内、特に30分以内に作成する。
【0082】
義歯床もそれをブランク盤の他の部位と連結する支承ブリッジを備える。
【0083】
切り出しは、既に歯用キャビティが準備されるように、すなわち粗削りによって予め切削されるようにして実施する。
【0084】
両方の部材、すなわち歯色の歯列ブランク盤と歯肉色の義歯床ブランク盤がいずれも荒削りされた半製品を含んでいて支承ブリッジ12を介して盤の他の部位と連結される。
【0085】
その状態で両方の部材を、相互の接合のために設定されている領域に限って仕上げフライス切削する。
【0086】
その領域は歯列において基底領域18(
図4参照)、義歯床においては歯用キャビティ(または歯列用キャビティと呼称する)である。仕上げフライス切削は、歯列の基底面が最終寸法に加工されるような方式で実施する。さらに図示された実施例において150μmの接着間隙が残される。
【0087】
仕上げフライス切削の後に支承ブリッジ12を除去することによって歯列を歯列ブランク盤から分離する。基底領域に接着剤を塗付するか、または義歯床の歯用キャビティに接着剤を塗付する。その後接着剤を押しながら歯列の基底領域を歯用キャビティ内に押し込み、接着剤を硬化させるべき所定の位置で保持する。
【0088】
硬化の後仕上げフライス切削を実施して特に余剰接着剤を適切に除去する。
【0089】
その次の工程において接着された歯列と義歯床からなる組み合わせの仕上げフライス切削を実施する。完了後義歯床の支承ブリッジも除去しまた洗浄を実施する。
【0090】
必要に応じて研磨工程を追加することも可能である。
【0091】
図2には歯列14がブランク盤10内に収容される方式が示されている。
【0092】
図示された実施例においてそれらは相互にずらした省スペースな形態で盤内に収容されている。
【0093】
図3には別の実施形態に係る歯列14に支承ブリッジ12を設ける方式が示されている。
【0094】
図4には線IV-IVに沿った歯列14の断面が概略的に示されている。切端側あるいは咬合側領域16が丸型に形成され、図示された実施例においては円形に丸み付けられている。ここで窪みを形成する曲面等の任意の構成形状が考えられる。
【0095】
他方、基底領域18は実質的に台形に形成される。基底面20は平坦であり、そこから側方に基底側面22および24が延在し、すなわち相互に離間しながら切端領域に向かって延在する。その領域で基底側面が終了する。
【0096】
図示された形状は犬歯または小臼歯に相当する。一方、臼歯領域においては基底領域がより幅が広くかつ平坦であり、また前歯領域においては狭くかつ高さが高くなる。
【0097】
図3にはその形状が明示されていないものの、同じことが対応する歯列14の切端領域にも該当する。
【0098】
基底面20と基底側面22および24の間の接続部上に例えば0.8mmの極めて小さい半径を設けることが好適である。
【0099】
図5には義歯床の半製品が平面図によって示されている。義歯床26はこの状態において既にU字形のリセス27を備えていて、後に同様にU字形の歯列14の基底領域18、すなわち基底面20ならびにそれに接続する面22および24を収容するよう設定される。
【0100】
この状態において義歯床は未だブランク盤28から分離されず、次の工程で実施される。
【0101】
義歯床26はその大部分をまず粗削りし、またU字形のリセス27の領域は既に仕上げフライス切削する。
【0102】
図6aには既に荒削りされた歯列14が示されている。歯列14には既に個別の歯29が示されている。歯29はいずれも歯接続部31を介して相互に結合される。従って歯列14は一体型であって図示された実施例において臼歯、小臼歯、犬歯および前歯を含む。
【0103】
それに代えて部分歯列を本発明に従って適用し得ることが理解される。
【0104】
図示された状態において
図6bの場合と同様に歯列14は基底領域18がまず粗削りされる。ここでは基底領域18が未だ極めて丸型であって相当な超過寸法を備えており、次の工程において仕上げフライス切削によって超過寸法を除去する。
【0105】
仕上げフライス切削した後基底領域18は接着部を残した上でU字形のリセス27に正確に適合する。
【0106】
図7には粗削り工具30の一例が側面図によって示されている。粗削り工具30は1枚刃として形成されダイアモンド被覆される。周知の方式によって工具は外周刃32を備え、それがフライス工具ボディ34に対して刃高36の分突出する。
【0107】
刃高36はフライス工具の直径に相関する。その際の直径はシャンク40の径ではなく前方領域の径であることが理解される。直径Dは粗削り工具の場合1mmないし6mmとすることができる。刃高36は直径Dの1/20ないし1/6とされる。
【0108】
粗削り工具は1枚刃として形成され、螺旋形に周回して切削屑を排出するように機能する溝42を備える。
【0109】
本発明によれば1枚刃が好適であり、その理由はそれによって詰まり傾向が最小化されるためである。
【0110】
それに代えて他の任意の適宜な構造の粗削り工具を使用し得ることが理解され、例えば被覆無し、2枚刃、またはボールカッターを使用することもできる。
【0111】
しかしながら、少なくとも歯列のフライス切削のためには被覆された粗削り工具を使用する。
【0112】
本発明に従って使用される仕上げフライス工具も実質的に同じ構造を有することができるが、仕上げフライス切削工程におけるより小さな切込み深さを考慮して仕上げフライス工具においては直径Dと刃高36の両方がより小さくされる。
【0113】
フライス切削はマスタ/スレーブ方式で実施することが好適であり:まずCADによって義歯床と歯列の間の最適な分離継ぎ目を(接着部を考慮しながら)計算する。
【0114】
しかしながら、マスタとして義歯床の最小材料厚が使用され:その最小厚が初期設計に基づいて或る位置で例えば1mm、1.5mm、または2mmである所与の最小値を下回った場合、分離継ぎ目を変更して全ての箇所で最小値が守られるようにする。そのことは歯列の基底面の勾配を変更することによって達成することができ、また場合によって特に大きな基底面勾配を有する犬歯の領域において前庭側への並進移動によって達成することもできる。
【0115】
この方法によって義歯床の強度に好適な影響を与え、それにもかかわらず最適な接着面が形成される。