(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】フライ用ミックス粉、フライ用バッター、及びフライ製品
(51)【国際特許分類】
A23L 7/157 20160101AFI20220104BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20220104BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L35/00
(21)【出願番号】P 2017061116
(22)【出願日】2017-03-27
【審査請求日】2020-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000164689
【氏名又は名称】熊本製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】小佐々 雅子
(72)【発明者】
【氏名】反頭 利則
(72)【発明者】
【氏名】松永 幸太郎
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-057041(JP,A)
【文献】国際公開第2016/136582(WO,A1)
【文献】特開平11-332495(JP,A)
【文献】特開昭50-129760(JP,A)
【文献】特開昭60-224459(JP,A)
【文献】特開平02-078881(JP,A)
【文献】特開平05-007470(JP,A)
【文献】特開2016-054664(JP,A)
【文献】特開2009-065894(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0337118(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉と、膨張剤と、澱粉と、糖類及び/又は糖アルコールとを含
み、揚げ後の衣層に具材から蒸発する水分を放出するための貫通孔を有するフライ製品の真空冷却時に短時間で冷却しても衣層の破壊・破裂や具材の飛び出しを抑制できるパン粉付けフライ用のミックス粉であって、
前記膨張剤は、ガス発生用として作用する炭酸水素ナトリウムを含み、
前記ミックス粉全質量中の前記炭酸水素ナトリウムの含有量が0.232質量%以上である、ことを特徴とする、フライ用ミックス粉。
【請求項2】
食物繊維をさらに含んでいる、請求項
1に記載のフライ用ミックス粉。
【請求項3】
前記澱粉が、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉及びタピオカ澱粉からなる群より選択された1種又は2種以上である、請求項1
又は2に記載のフライ用ミックス粉。
【請求項4】
前記糖類として麦芽糖、トレハロース及び乳糖から選択され、又は、前記糖アルコールとしてソルビトールが選択される、請求項1~
3のいずれか1項に記載のフライ用ミックス粉。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のフライ用ミックス粉と、水と、を含む
、ことを特徴とするフライ用バッター。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のフライ用ミックス粉、又は請求項
5に記載のフライ用バッターにより製造された
、ことを特徴とするフライ製品。
【請求項7】
揚げ後の衣層に、具材から蒸発する水分を放出するための貫通孔を有する、請求項
6に記載のフライ製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ後のフライ製品の真空冷却時に、具材からの水分により衣層が破裂することを抑制するためのフライ用ミックス粉、フライ用バッターに関する。また、それらを用いたフライ製品に関する。
【背景技術】
【0002】
調理済み弁当や総菜等を流通するにあたっては、食中毒菌の増殖を抑制するため、調理済み食品の温度を急激に下げて冷却することが広く行われている。一般的に食中毒菌の増殖温度は約20~50℃であるが、食品の冷却ではこの温度帯を可能な限り短時間で通過させることが重要である。具体的には、調理後30分以内に食品の中心温度を20℃付近とする必要がある。
【0003】
食品を冷却するための方法は複数存在するが、広く使用されている食品冷却機の一つに「真空冷却機」が存在する。真空冷却機は、冷却機内を真空として気化熱で食品を冷却する装置で、短時間(約15~20分)で食品を冷却できるため、食品工場においては一般的に使用されている。
【0004】
従来、真空冷却機を使用する際の短所として、柔らかい食品が型崩れし易いという問題があった。例えば、弁当や総菜として一般的なコロッケやメンチカツは、真空冷却時に具材から蒸発する水分が衣層を破壊して放出し、それと同時に具材が飛び出してしまい、商品価値が損なわれるという問題が生じていた。これらのパン粉付け揚げ製品(以下フライ製品と称する。)において、従来は、破裂を防ぐためゆっくりと冷却していたが、冷却に長時間を要するため、生産効率が悪くなるという問題を抱えていた。
【0005】
例えば、特許文献1,2では、フライ時や電子レンジでの再加熱時におけるフライ製品のパンク防止のための組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-245589号公報
【文献】特開2001-245588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
食品業界においてコロッケやメンチカツ等のフライ製品を製造する際は、一般的に、具材をバッターにくぐらせて具材周囲にバッター層を形成し、さらにバッター層の外側にパン粉をまぶしつけてパン粉層を形成する。その後、高温の多量の油の中で揚げてフライ製品を製造する。ここで、上記バッターは、小麦粉や増粘剤等を含むフライ用ミックス粉と水とを含む液体である。上記した特許文献には、フライ製品の真空冷却時の破裂防止については記載されておらず、このような問題を、フライ用ミックス粉やバッターによって解決することが望まれていた。
【0008】
本発明は、上記したような真空冷却時のフライ製品の破裂を抑制するためになされたものであって、その目的は、フライ製品の真空冷却時において短時間で冷却しても、衣層の破壊・破裂や具材の飛び出しを抑制することができるフライ用ミックス粉、フライ用バッター、及びフライ製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、フライ用ミックス粉について研究している過程で、膨張剤等の物質を含有させることによって、フライ後のフライ製品の衣層に具材の水分蒸発のための貫通孔を形成することができ、且つフライ後に短時間で真空冷却しても、衣層の破裂や具材の飛び出しの現象が低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
(1)本発明に係るフライ用ミックス粉は、小麦粉と、膨張剤と、澱粉と、糖類及び/又は糖アルコールとを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係るフライ用ミックス粉において、前記膨張剤の含有量が0.8質量%以上であることが好ましい。
【0012】
本発明に係るフライ用ミックス粉において、食物繊維をさらに含んでいてもよい。食物繊維としては、ポリデキストロース等を挙げることができる。
【0013】
本発明に係るフライ用ミックス粉において、前記澱粉が、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉及びタピオカ澱粉からなる群より選択された1種又は2種以上であることが好ましい。
【0014】
本発明に係るフライ用ミックス粉において、前記糖類として麦芽糖、トレハロース及び乳糖から選択され、又は、前記糖アルコールとしてソルビトールが選択されることが好ましい。
【0015】
(2)本発明に係るフライ用バッターは、上記本発明に係るフライ用ミックス粉と、水と、を含むことを特徴とする。
【0016】
(3)本発明に係るフライ製品は、上記本発明に係るフライ用ミックス粉、又は上記本発明に係るフライ用バッターにより製造されたことを特徴とする。
【0017】
本発明に係るフライ製品において、具材から蒸発する水分を放出するための貫通孔を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、フライ製品をフライ後に短時間で真空冷却しても、衣層の破裂や具材の飛び出し現象を低減できるフライ用ミックス粉、フライ用バッターを提供することができた。また、得られたフライ製品は、破裂や具材の飛び出しのない美観に優れるものであった。さらに、フライ製品を短時間で真空冷却することが可能となり、生産効率の向上を図ることができるものであった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明及び従来技術によるコロッケの真空冷却後の様子を示す比較写真である。
【
図2】
図1におけるコロッケ表面(衣層)の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係るフライ用ミックス粉、フライ用バッター、及びフライ製品について詳しく説明する。なお、本発明は、以下の実施形態や実施例だけに限定されず、その要旨を含む範囲を包含する。
【0021】
[フライ用ミックス粉、フライ用バッター]
本発明に係るフライ用ミックス粉は、小麦粉と、膨張剤と、澱粉と、糖類及び/又は糖アルコールとを含むことに特徴がある。フライ用バッターは、そうしたフライ用ミックス粉と水とを含んで構成される。
【0022】
このフライ用ミックス粉やフライ用バッターによれば、揚げ後のフライ製品を真空冷却する際に、衣層の破裂・破壊や、具材の飛び出し現象を低減し、美観に優れたフライ製品を製造することができる。なお、フライ又はフライ製品とは、コロッケやメンチカツ等のパン粉付け製品を高温の多量の油の中で食材を加熱調理(「揚げる」こと。)すること、また、そのようにして得られた製品をいう。また、フライ製品の「衣層」とは、具材をバッターにくぐらせて形成した「バッター層」と、バッター層の外側に形成された「パン粉層」とをまとめた概念を指すものとする。
【0023】
以下、各構成要素について詳しく説明する。
【0024】
(小麦粉)
小麦粉は、特に限定されず、従来のフライ用ミックス粉に使用される薄力粉、中力粉、強力粉等を使用することができる。薄力粉、中力粉、強力粉は、含まれるタンパク質(主にグリアジン、グルテニン)の割合と形成されるグルテンの性質とによって分類されるものであり、強力粉はタンパク質の割合が12質量%以上程度のものであり、中力粉はタンパク質の割合が9質量%前後のものであり、薄力粉はタンパク質の割合8.5質量%以下程度のものである。いずれを用いるかは、フライ製品の種類によっても異なり、特に限定されず、1種だけ用いてもよいし、2種以上を任意の割合で配合させて用いてもよい。
【0025】
小麦粉の粒度は、対象となる揚げ物の種類によっても異なり、特に限定されないが、例えば、平均粒径が5μm~150μmの範囲内である。また、その粒度分布も、対象となる揚げ物の種類によっても異なり、特に限定されず、任意の範囲に調整されることが好ましい。
【0026】
(膨張剤)
フライ用ミックス粉は、膨張剤を含有する。膨張剤は、ドーナツ等の菓子、天ぷらの衣、蒸しパン生地等に添加され、膨張剤を含有させることにより、調理時に膨張剤中のガス発生剤と酸性剤とが反応して炭酸ガスを発生し、菓子等の内部に気泡を形成し、菓子等をふんわりと焼き上げる効果がある。
【0027】
一方で、フライ用ミックス粉に膨張剤を含有させる目的は、フライ製品の衣層(特にバッター層)に、揚げ調理時に具材からの水分を放出するための貫通孔を形成するためである。すなわち、フライ用ミックス粉を使用したフライ製品は、揚げ調理時に膨張剤のガス発生反応により衣層に貫通孔が形成される。そのため、揚げ後のフライ製品を真空冷却する際に貫通孔から具材の水分を放出することができ、これにより、衣層の破裂・破壊や、具材の飛び出し現象を低減し、美観に優れたフライ製品を製造することができるのである。
【0028】
膨張剤としては、菓子用、天ぷら用、蒸しパン用等に用いられるものが好ましく用いられ、特に限定されない。膨張剤の例としては、ガス発生剤として作用する、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、塩化アンモニウム等が挙げられ、酸性剤として作用する、フマル酸、フマル酸ナトリウム、酒石酸、酒石酸水素カリウム、第一リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、グルコノデルタラクトン等が挙げられる。膨張剤として、前記したガス発生剤として作用する1種又は2種以上の膨張剤を任意に含有させてもよいし、又は、前記したガス発生剤として作用する膨張剤と、酸性剤として作用する膨張剤とを、それぞれ1種又は2種以上任意に含有させてもよい。
【0029】
膨張剤は、「炭酸水素ナトリウム(重曹)+酸性剤+遮断剤」の組み合わせで構成されている。炭酸水素ナトリウム(重曹)は、炭酸ガスの発生源である。酸性剤はガス発生をコントロールする。遮断剤は、炭酸水素ナトリウムと酸性剤が直接接触するのを防ぐ役割があり、例えばコーンスターチ、小麦粉、デキストリン等が用いられる。このうちの酸性剤については、ガス発生の速度・指摘温度・発生量等に大きく関係しており、その種類や配合比率によってそれらを調整することができる。酸性剤の成分によるガス発生の速度については、フマル酸ナトリウム、フマル酸、酒石酸水素カリウムは速度が「速い」ものに分類され、第一リン酸カルシウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、酸性ピロリン酸ナトリウム、リン酸二水素カルシウム等は速度が「中程度」のものに分類され、グルコノデルタラクトンは速度が「遅い」ものに分類される。
【0030】
膨張剤の含有割合は、フライ用ミックス粉全質量中、0.8質量%以上で含有させることができ、この範囲で本発明の効果を発揮させることができる。膨張剤の含有割合が0.8質量%未満の場合は、フライ製品の衣層に、具材の水分蒸発のための貫通孔を形成し難くなり、破裂抑制の目的を達成することができないことがある。なお、膨張剤の含有割合の上限は特に限定されないが、多すぎるとコストアップとなったり、膨張剤の種類によっては苦み等の味覚に影響するものもあり、上限を強いて規定するとすれば、例えば15質量%とすることができる。
【0031】
(澱粉)
フライ用ミックス粉は、澱粉を含有する。澱粉は、フライ製品における衣層(特にバッター層)から適度に水分を飛散させる作用があり、得られたフライ製品の食感を向上させる役割を有する。澱粉としては、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉及びタピオカ澱粉からなる群より選択された1種又は2種以上であることが好ましい。澱粉の含有量は特に限定されないが、フライ用ミックス粉全質量中、10質量%以上、30質量%以下の範囲内で含有させることができる。澱粉の含有量が10質量%未満の場合、揚げ時に衣層の火通りが悪くなって、得られたフライ製品がべたついたり、又は得られたフライ製品のサックリとした食感が低下したりすることがある。一方、澱粉の含有量が30質量%を超えると、バッターの具材に対する付着性が低下することがある。
【0032】
(糖類、糖アルコール)
フライ用ミックス粉は、糖類及び/又は糖アルコールを含有する。すなわち、糖類だけ、糖アルコールだけ、又は、糖類と糖アルコールの両方を含有する。糖類や糖アルコールは、フライ製品の衣層(特にバッター層)の水分を飛散させて衣層に適切な硬さを付与するように作用する。そのため、フライ製品を真空冷却する際に衣層に形成されている貫通孔から具材の水分が放出されても、貫通孔の周囲の部分はその形状を保持することができ、衣層の破裂・破壊や、具材の飛び出し現象を低減し、美観に優れたフライ製品を製造することができる。
【0033】
糖類や糖アルコールの種類は特に限定されないが、本発明の効果を実現できるものを任意に選択して用いることができる。糖類としては、例えば、麦芽糖、トレハロース、乳糖等を挙げることができる。糖アルコールとしては、例えば、ソルビトール等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。糖類や糖アルコールの含有量は特に限定されないが、フライ用ミックス粉全質量中、15質量%以上、25質量%以下の範囲内で含有させることができる。糖類や糖アルコールの含有量が15質量%未満の場合、フライ製品の衣層に適切な硬さを付与することができず、得られたフライ製品の衣層に貫通孔が形成されていても、フライ製品の真空冷却時、具材の水分が貫通孔から放出される際に貫通孔の周囲が崩壊するおそれがあり、結果としてフライ製品の破裂現象を引き起こしてしまうおそれがある。糖類や糖アルコールの含有量が25質量%を超えると、バッターの具材に対する付着性が低下することがある。
【0034】
(その他)
フライ用ミックス粉は、上記したものの他に、公知の添加物を適宜加えてもよい。添加物としては、例えば、穀物類(玄米粉、米粉、とうもろこし粉、大豆粉、大麦粉等)、植物性蛋白質、食物せんい、油脂類、塩、卵粉末、増粘多糖類、調味料類、香辛料、香料、ビタミン類、ミネラル類等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上を任意に含有させることができる。なお、後述の実施例のように、ポリデキストロース等の食物繊維を好ましく配合させてもよい。これら添加物の含有割合は、本発明の効果を阻害しない範囲で任意に配合されることが好ましい。
【0035】
(フライ用バッター)
フライ用バッターは、上述したフライ用ミックス粉、及び、水を含有してなるものである。フライ用バッターの濃度、すなわち水の配合量については、対象となるフライ製品の種類によって異なり、特に限定されず、任意の範囲に調整することができる。
【0036】
なお、工場等でフライ製品を製造する際は、フライ製品のボリュームを増加させる等の目的で、濃度の異なる複数種類のバッターを使用して衣層を形成することが一般的に行われている。例えば、具材を、先ず濃度の低いバッター(一次バッター)にくぐらせて具材の外側に一次バッター層を形成し、その外側に、目の細かい(粒度の小さい)パン粉をまぶしつけて一次パン粉層を形成する。次にその外側に、比較的濃度の高いバッター(二次バッター)を用いて二次バッター層を形成し、続いて目の粗い(粒度の大きい)パン粉をまぶしつけて二次パン粉層を形成する。
【0037】
濃度の異なる複数種類のバッターを使用する場合には、フライ用ミックス粉にそれぞれ適量の水を加えて、一次バッター、又は二次バッターを製造することができる。なお、水の配合量としては、フライ用ミックス粉100質量%に対して、例えば一次バッターの場合には500~700質量%程度の水を配合することが好ましく、二次バッターの場合には200~300質量%程度の水を配合することが好ましい。
【0038】
(製造方法)
フライ用ミックス粉は、小麦粉と、膨張剤と、澱粉と、糖類及び/又は糖アルコールとを含むものを公知の方法により混合することにより得られる。また、必要に応じて食物繊維等の添加物を同時に混合してもよい。混合の際は、すべての物質を同時に混合してもよいし、配合量の多い物質から順番に一種類ずつを混合してもよい。
【0039】
フライ用バッターは、上記のようにして得られたフライ用ミックス粉と、水と、を公知の方法により混合することにより得られる。混合の際は、フライ用ミックス粉と、配合に必要な水の全量を同時に混合してもよいし、水の一部をまず混合した後に、残りの水を加えて混合してもよい。
【0040】
[フライ製品]
本発明に係るフライ製品は、上記した本発明に係るフライ用ミックス粉又はフライ用バッターを使用して製造される。フライ製品としては特に限定されないが、例えば牛肉コロッケ、ポテトコロッケ、メンチカツ、豚カツ、チキンカツ、ビーフカツ、海老フライ、牡蠣フライ、烏賊フライ、魚のフライ、野菜のフライ、等を挙げることができる。
【0041】
揚げ後のフライ製品は、衣層(特にバッター層)に貫通孔を有するため、製造後の真空冷却の際に具材からの水分を当該貫通孔から放出することができる。また、衣層が適切な硬さを有するため、貫通孔を通して具材からの水分が放出される際にも貫通孔の周囲が崩壊することなく、衣層の破裂・破壊や、具材の飛び出し現象を低減し、美観に優れたフライ製品を製造することができる。
【0042】
フライ製品において、上記貫通孔は衣層のうちの少なくともバッター層に形成されていればよい。すなわち、フライ製品を外観観察した場合、貫通孔が目視できなくてもバッター層に貫通孔が形成されていれば、本発明の効果である衣層の破裂等の現象を抑制することができる。こうした効果をもたらす貫通孔の大きさは複雑な衣層の形状のために明確には観察できなかったが、0.3mm~1.5mm程度の直径である。そうした貫通孔は、衣層に適度に存在し、本発明の効果である衣層の破裂等の現象を抑制している。
【実施例】
【0043】
本発明について、以下の実施例と比較例によりさらに詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
実施例1では、以下に示す各構成要素を、表1に示す割合で混合してフライ用ミックス粉を得た。さらに、得られたフライ用ミックス粉を冷水に加えて、1分20秒で300回攪拌し、フライ用バッターを得た。フライ用ミックス粉と水との割合は加水率として表1に示した。この加水率は、揚げ物用ミックス粉の質量を100質量%としたときの水の質量である。
【0045】
小麦粉:熊本製粉株式会社製、商品名:Aスペシャル
コーンスターチ:日本澱粉工業株式会社製、商品名:コーンスターチY(IP)
ソルビトール:MCフードスペシャリティー株式会社製、商品名:ソルビットKKパウダー50M
ポリデキストロース:Tate&Lyle Food&Industrial Ingredients, America Inc.社製、商品名:スターライトIII
膨張剤:奥野製薬工業株式会社製、商品名:トップエーワン
増粘剤1:太陽化学株式会社製、商品名:ネオソフトG
増粘剤2:Pakistan Gum & Chemicals Limited社製、商品名:グアパックPF-20
全卵粉末:株式会社全農キユーピー・エツグステーシヨン社製、商品名:乾燥全卵No.1
着色料(ビタミンB2):DSM Nutritional Products Asia Pacific Pte.Ltd.社製、商品名:エンチイエローFL-D
【0046】
<実施例2~6>
実施例2~5も、表1に示す含有割合のフライ用ミックス粉を準備し、さらに実施例1と同様の方法で一次バッター、二次バッターを得た。
【0047】
【0048】
<比較例1~4>
比較例1~4も、表2に示す含有割合のフライ用ミックス粉を準備し、さらに実施例1と同様の方法で一次バッター、二次バッターを得た。
【0049】
【0050】
[コロッケの製造]
コロッケのパテ(具材)には冷凍の牛肉コロッケ(約35g/個)を使用し、このパテを上記で得た一次バッターにくぐらせた後、微粉パン粉(旭トラストフーズ株式会社製、商品名:こまかくそろったパン粉)をまぶした。さらに上記で得た二次バッターにくぐらせ、生パン粉(トーホーフードサービス株式会社製、商品名:East bee生パン粉)をまぶした。パン粉をまぶしたパテを-40℃で急速冷凍した後、175℃の油で5分30秒間揚げてコロッケを得た。
【0051】
[真空冷却試験と評価結果]
真空冷却装置として、真空冷却機(日空工業株式会社製)及び真空タンブラー(有限会社竹下食品機械、型式:VT-5)を使用した。上記の方法で得られたコロッケを冷却機内に入れた後、冷却機内を減圧し、冷却時のコロッケの破裂の程度を目視で観察した。コロッケの破裂の程度の評価は、3段階(◎:破裂していない、〇:ほぼ破裂していない、×:破裂している)で評価した。
【0052】
破裂の程度を評価した結果を表1及び表2に示す。実施例1~6のミックス粉を用いたものはほぼ破裂していなかった。比較例1~4のミックス粉を用いたものは破裂の程度が大きく、商品価値を有していなかった。すなわち、膨張剤の含有量を変化させたミックス粉を用いたフライ製品の破裂の程度を観察した結果、膨張剤の含有量が0.8質量%以上の場合に優れた結果が得られた。
【0053】
<実施例4,7~11>
膨張剤の種類を下記のものに変更した以外は、実施例4と同様にフライ用ミックス粉を準備し、フライ用バッターを得た。膨張剤の組成を表3に示す。小麦粉、コーンスターチ、ソルビトール、ポリデキストロース、増粘剤、全卵粉末、着色料(ビタミンB2)については、実施例4で使用したものと同じである。実施例4と同様にコロッケを作製し、真空冷却時の破裂の程度を評価した。その結果を表4に示す。
【0054】
実施例4:奥野製薬工業株式会社製、商品名:トップエーワン
実施例7:奥野製薬工業株式会社製、商品名:トップベーキングパウダー(KU-126)
実施例8:奥野製薬工業株式会社製、商品名:トップふくらし粉RK8
実施例9:奥野製薬工業株式会社製、商品名:トップベーキングパウダーデラックス
実施例10:MCフードスペシャリティーズ株式会社製、商品名:BP-KK
実施例11:旭硝子株式会社製、商品名:重炭酸ナトリウム
【0055】
【0056】
【0057】
[評価結果]
実施例4,7~11では、膨張剤の成分について、様々な種類・組み合わせを網羅するように選択し、その結果としてフライ製品の破裂の程度にどのように影響するかを観察した。すなわち、膨張剤の種類によってガス発生の速度が速いものと遅いものが存在するが、その種類の違いがフライ製品の破裂の程度に影響を及ぼすかを観察した。
【0058】
表4に示すように、実施例4,7~11のミックス粉を用いたものはいずれにおいても破裂の軽減に効果がみられた。したがって、破裂の軽減への効果に関しては、ガス発生の速度の影響は小さく、一定量のガスが発生することの方が重要であると考えられた。以上のことより、膨張剤の成分がいずれであっても、破裂の軽減には差がなく、すべてに効果がみられるということがわかった。
【0059】
<実施例12~16>
澱粉の種類を下記のものに変更した以外は、実施例1と同様にフライ用ミックス粉を準備し、フライ用バッターを得た。小麦粉、コーンスターチ、ソルビトール、膨張剤、増粘剤、全卵粉末、着色料(ビタミンB2)については、実施例1で使用したものと同じである。実施例1と同様にコロッケを作製し、真空冷却時の破裂の程度を評価した。その結果を表5に示す。
【0060】
馬鈴薯澱粉:エムスランド社製、商品名:EMES-EF
甘藷澱粉:日本澱粉工業株式会社製、商品名:ハイスターチ
ワキシーコーンスターチ:株式会社J-オイルミルズ、商品名:ワキシーコーンスターチY
酢酸加工タピオカ澱粉:VEDAN(VIETNAM) ENTERPRISE CORP.,LTD.社製、商品名:V-110AA
【0061】
【0062】
[評価結果]
表5に示すように、コーンスターチ(実施例12)、馬鈴薯澱粉(実施例13)、甘藷澱粉(実施例14)、ワキシーコーンスターチ(実施例15)、酢酸加工タピオカ澱粉(実施例16)を添加したもののいずれにおいてもやや破裂がみられたが、その程度は軽減されていた。したがって、いずれの澱粉も破裂の軽減に効果があると考えられた。
【0063】
<実施例17~21/実施例12/実施例4>
糖類、糖アルコール、食物繊維の種類を下記のものに変更した以外は、実施例1と同様にフライ用ミックス粉を準備し、フライ用バッターを得た。食物繊維として下記に示すポリデキストロースを使用し、糖アルコールから一部置換えた場合の効果を調査した。小麦粉、コーンスターチ、膨張剤、増粘剤、全卵粉末、着色料(ビタミンB2)については、実施例1で使用したものと同じである。実施例1と同様にコロッケを作製し、真空冷却時の破裂の程度を評価した。その結果を表6及び表7に示す。
【0064】
麦芽糖:株式会社林原製、商品名:サンマルトミドリ
トレハロース:株式会社林原製、商品名:トレハ
乳糖:Glanbia Foods, Inc.社製、商品名:Refined Edible Lactose AVONMOR 100mesh
ポリデキストロース:Tate&Lyle Food&Industrial Ingredients, America Inc.社製、商品名:スターライトIII
【0065】
【0066】
【0067】
[評価結果]
表6及び表7に示すように、ソルビトール(実施例17)、麦芽糖(実施例18)、トレハロース(実施例19)、乳糖(実施例20)を添加したもののいずれにおいても破裂の程度が軽減された。また、ソルビトールを23質量%配合したもの(実施例12)だけでなく、ポリデキストロースへ2質量%を置き換えたもの(実施例21)及び4質量%置き換えたもの(実施例4)においても破裂の程度が軽減され、しかも、ポリデキストロースへ置換えたもの(実施例21及び実施例4)では完全に破裂を防ぐことができた。したがって、糖アルコールはもちろん、ポリデキストロース等の食物繊維も破裂の軽減に効果があることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係るフライ用ミックス粉及びフライ用バッターで作製したフライ製品をフライ後に短時間で真空冷却しても、衣層の破裂や具材の飛び出し現象を低減することができる。得られたフライ製品は、美観に優れるものである。したがって、フライ製品を短時間で真空冷却することが可能となり、食品業界において生産効率を向上させることができる。