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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】油水分離装置及び油水分離方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/461 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
C02F1/461 101C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017152250
(22)【出願日】2017-08-07
(65)【公開番号】P2019030833
(43)【公開日】2019-02-28
【審査請求日】2020-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000153926
【氏名又は名称】株式会社ヒダン
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(74)【代理人】
【識別番号】100206106
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】黒川 岳
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-067687(JP,A)
【文献】特開2003-047966(JP,A)
【文献】特開昭52-069066(JP,A)
【文献】特開平10-202007(JP,A)
【文献】特開2002-011474(JP,A)
【文献】特開2003-088868(JP,A)
【文献】特開2001-246382(JP,A)
【文献】特開2004-225133(JP,A)
【文献】特開2016-093858(JP,A)
【文献】特開平10-85563(JP,A)
【文献】特開2003-47966(JP,A)
【文献】特開平9-67687(JP,A)
【文献】特表昭63-500083(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0342028(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46 - 1/48
1/58 - 1/64
1/40
E02B 15/00 - 15/10
B01D 17/00 - 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油水混合液を収容して電気分解する電解槽と、
該電解槽内に配されて電気分解に用いられる少なくとも一対の電極と、
前記電極に所定の電圧を印加する電源と、
該印加される電圧を制御するための制御手段と、
分離した油分を前記電解槽から回収する回収手段と、
を備えた、前記油水混合液を電気分解によって油水分離するための油水分離装置において
前記制御手段、前記電極に印加される電圧が所定の印加電圧に変化するよう制御するにあたり、該制御は、
前記制御手段によって制御される印加電圧は、繰り返される1サイクルの期間において極性が前半と後半で陽極、陰極に切り替えられ、
各極性の期間は、ON―OFF切換えのパルス電圧が印加されるパルス期間、定電圧が印加される定電圧期間、印加電圧のないゼロ電圧期間の順に区分され、
パルス期間は、電圧の印加開始後の高周波数状態から順次低周波数になるよう制御されたパルス電圧が印加されることを特徴とする油水分離装置。
【請求項2】
前記パルス期間に印加されるパルス電圧は、所定のON―OFFのデューティ比による方形波であって、所定期間ごとに順次低周波になるよう制御されることを特徴とする請求項1記載の油水分離装置。
【請求項3】
定電圧期間は、後半が高電圧になるよう区分けされていることを特徴とする請求項1または2記載の油水分離装置。
【請求項4】
油水混合液を収容して電気分解する電解槽と、
該電解槽内に配されて電気分解に用いられる少なくとも一対の電極と、
前記電極に所定の電圧を印加する電源と、
該印加される電圧を制御するための制御手段と、
分離した油分を前記電解槽から回収する回収手段と、
を備え、
前記制御手段を、前記油水混合液を電気分解によって油水分離するため前記電極に印加される電圧を所定の印加電圧となるよう制御する方法であって、該方法は、
前記制御手段によって制御される印加電圧は、繰り返される1サイクルにおいて極性が前半と後半で陽極、陰極に切り替えられる工程を有し、
各極性の期間の工程は、ON―OFF切換えのパルス電圧が印加されるパルス期間、定電圧が印加される定電圧期間、印加電圧のないゼロ電圧期間の順の工程に区分され、
パルス期間の工程は、電圧の印加開始後の高周波数状態から順次低周波数になるよう制御されたパルス電圧が印加される工程に制御されることを特徴とする油水分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油水混合液を油水分離する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工場等で排出される排液が油水混合液である場合、これを油水分離する必要がある。油水分離方法としては、種々のものが提案されているが、電気分解を利用したものが知られている。電気分解を利用した油水分離の代表的な方法として、電極から生じる水素(陰極側)や酸素(陽極側)の気泡に油分を吸着させて液面に浮上させるものや、電極表面に析出する水酸化物等の析出物に油分をトラップさせて浮上・沈降したものを回収手段で回収することにより、油水分離をするものが知られている。これらは、油が疎水性であることや、混合液中で弱い導電性を有するといった性質を利用したものである。
【0003】
このように電気分解を利用した油水分離方法において、1対の電極の極性を所定時間ごとに切替えるようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。このような極性の切替えは、一方の電極の消耗が早くなってしまうことを避けることによる長寿命化や、一方の電極に水酸化物等の析出物がたまってしまい電解性能が落ちることを防止することを目的としてなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-253409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような電気分解を用いた油水分離方法において、電極に電圧を印加すると、起電直後に大量の油分が電極付近に引き寄せられ、電極表面に油が積層してしまい、導電性が低くなって電気分解が阻害される場合があるという問題がある。このような問題は、例えば機械加工品を洗浄するに際して、塗装後の洗浄排液においては、種々の物質が電解質となるため、大きな問題とはならない。特許文献1に記載のものにおいても、ビルジ水はNaClが電解質となるため、このような問題は顕在化していないものと解される。他方、プレス加工等をした後に純水で洗浄した排水には、他に電解質がほとんど含まれておらず、電圧印加直後に電力が低下してしまい、全体として油水分離にかかる時間が長くなってしまう。
【0006】
そこで、電圧印加直後に油が電極に急激に積層することによる導電性の低下を抑えた上で、効率よく電気分解による油水分離を可能とする油水分離を可能とすることが望まれており、これらに本発明が解決せんとする課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため鋭意創作されたものであって、請求項1の発明は、油水混合液を収容して電気分解する電解槽と、該電解槽内に配されて電気分解に用いられる少なくとも一対の電極と、前記電極に所定の電圧を印加する電源と、該印加される電圧を制御するための制御手段と、分離した油分を前記電解槽から回収する回収手段と、を備えた、前記油水混合液を電気分解によって油水分離するための油水分離装置において、前記制御手段、前記電極に印加される電圧が所定の印加電圧に変化するよう制御するにあたり、該制御は、前記制御手段によって制御される印加電圧は、繰り返される1サイクルの期間において極性が前半と後半で陽極、陰極に切り替えられ、各極性の期間は、ON―OFF切換えのパルス電圧が印加されるパルス期間、定電圧が印加される定電圧期間、印加電圧のないゼロ電圧期間の順に区分され、パルス期間は、電圧の印加開始後の高周波数状態から順次低周波数になるよう制御されたパルス電圧が印加されることを特徴とする油水分離装置である。
請求項2の発明は、前記パルス期間に印加されるパルス電圧は、所定のON―OFFのデューティ比による方形波であって、所定期間ごとに順次低周波になるよう制御されることを特徴とする請求項1記載の油水分離装置である。
請求項3の発明は、定電圧期間は、後半が高電圧になるよう区分けされていることを特徴とする請求項1または2記載の油水分離装置である。
請求項4の発明は、油水混合液を収容して電気分解する電解槽と、該電解槽内に配されて電気分解に用いられる少なくとも一対の電極と、前記電極に所定の電圧を印加する電源と、該印加される電圧を制御するための制御手段と、分離した油分を前記電解槽から回収する回収手段と、を備え、前記制御手段を、前記油水混合液を電気分解によって油水分離するため前記電極に印加される電圧を所定の印加電圧となるよう制御する方法であって、該方法は、前記制御手段によって制御される印加電圧は、繰り返される1サイクルにおいて極性が前半と後半で陽極、陰極に切り替えられる工程を有し、各極性の期間の工程は、ON―OFF切換えのパルス電圧が印加されるパルス期間、定電圧が印加される定電圧期間、印加電圧のないゼロ電圧期間の順の工程に区分され、パルス期間の工程は、電圧の印加開始後の高周波数状態から順次低周波数になるよう制御されたパルス電圧が印加される工程に制御されることを特徴とする油水分離方法である。
【発明の効果】
【0008】
このようにすることで、電圧印加直後には周波数の高いパルス波形の電圧を印加することで電極への油の吸着を抑えつつ、その後に周波数を低く変化することによって、全体として電気分解による油水分離の効率が向上することとなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】油水分離装置の概略を示す(A)正面図、(B)平面図である。
図2】電解槽の構造を示す概略図であって、(A)電極が3対のもの、(B)電極が1対のもの、(C)電極が2対のものを示すものである。
図3】(A)、(B)電極を円筒状とした変形例の電解槽の構造を示す概略図である。
図4】油水分離装置の変形例の要部概略図であって、(A)正面図、(B)平面図である。
図5】電極に印加する電圧の波形を示すグラフ図である。
図6図5の要部拡大図である。
図7】電極に印加する電圧の波形の他の例を示すグラフ図であって、(A)鋸歯状波形のもの、(B)正弦波形のものである。
図8】電圧印加時の電極間の電流を示すグラフ図であって、(A)パルス有り、(B)パルス無し、(C)パルス有りとパルス無しを重ねたものである。
図9】(A)印加する電圧の周波数と、電極への油分吸着量の相関を示すグラフ図、(B)印加する電圧の周波数と、泡の高さの相関を示すグラフ図である。
図10】(A)デューティ比と泡の高さ、(B)油水混合液の温度と泡の高さの相関を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。図面において、1は油水分離装置である。油水分離装置1は、排水の油水混合液101を収容して電気分解する電解槽3と、電解槽3内に配された電極4と、電極4に電圧を印加する電源である電源ユニット5を備えている。電源ユニット5は、制御手段6によって電極4に印加する電圧が制御されるようになっている。そして、油水分離装置1は、電圧を印加することにより、電極4から発生する泡や水酸化物等の析出物に油分をトラップさせて浮上させることで油水分離を行うが、この浮上した油分吸着物102を回収するための回収手段7が、さらに設けられている。回収手段7は、電解槽3から油分吸着物102を分離回収する回収槽7aを有している。油水分離装置1はさらに、油水混合液101を油水分離装置1内に流入させるための入液口8aを備えた入液槽8と、加温手段である加温器9aを備えて入液槽8の次に油水混合液が経由する加温槽9と、電解槽油水分離して油分が除去された水分を排出する排水口10aを備えた排水槽10を備えている。
【0011】
油水混合液101は、例えば機械のプレス加工後に純水で洗浄した排水のように、従来の分離方法では電圧印加直後に電極に油分が吸着してしまうものであってよいが、これに限られず、電気分解によって生じる泡などにトラップされて油分吸着物102となって油水分離可能なものであれば、種類を問わない。
【0012】
次に、油水分離装置1が備える、入液槽8、加温槽9、電解槽3、排水槽10、回収槽7aの各槽と、油水混合液101、分離された油分を含む油分吸着物102、油分が分離された排水103の移動経路について説明する。入液槽8は、底部に油水混合液101を流入させるための入液口8aを備えていて、加温槽9とは隔壁8bによって隔てられている。隔壁8bは上端が開放されていて、油水混合液101は、この上端を乗り越えることで、入液槽8から加温槽9へと移動する。
【0013】
加温槽9には油水混合液101を加温するための加温器9aが設けられている。加温器9aは、電気分解中に油水混合液101を所定の温度に加温する加温手段であって、公知のものを適宜に採用することができる。油水混合液101の温度によって電気分解による処理力が変化し、所定の温度としては、45~55℃程度とすることが好ましい。加温による処理力の向上は、図10(B)に示されている。そして、加温槽9と電解槽3は、隔壁9bによって隔てられている。隔壁9bの下部には、油水混合液101を電解槽3へ移動させるための挿通口9cが設けられている。
【0014】
電解槽3は、回収槽7a、排水槽10と、それぞれ上端が開放された隔壁3a、3bによって隔てられている。挿通口9cから電解槽3へ移動した油水混合液101は、後述するように電気分解によって油水分離され、油分は泡などにトラップされて油分吸着物102として液面に浮上する。そして、浮上した油分吸着物102は、後述する回収手段7によって、隔壁3aの上端を越えて回収槽7aへと移動し、図示しない濾過手段によって濾過されて除去される。一方、油分が除去された排水は、隔壁3bの上端を越えて排水槽10へ移動し、排水口10aから外部に排出される。
【0015】
続いて、電解槽3における電気分解に関する構造について説明する。本実施の形態では、電解槽3内に3対の平板状の電極4が配されている。3対の電極4は、第一電極4aと第二電極4bとが交互に対向して配されたものである。各電極4a、4bは、後述する印加電圧のサイクルA中、前半期間Bでは第一電極4aが陽極、第二電極4bが陰極となり、後半期間Bでは極性が切り替わって、第一電極4aが陰極、第二電極4bが陽極となる。
【0016】
本実施の形態では、第一電極4a、第二電極をいずれもマグネシウムを素材としたマグネシウム電極としている。電極4をいずれもマグネシウム電極とすることにより、油水分離の処理力が向上する。また、第一電極4aはマグネシウム材からなるマグネシウム電極、第二電極4bはアルミニウム材からなるアルミニウム電極としてもよい。このように電極4をマグネシウム電極とアルミニウム電極とが対向したものとすることにより、回収手段7によって回収された油分吸着物102を図示しない濾過手段によって濾過するに際し、濾過速度が向上する。電極4は、これらの素材からなるものが好ましいが、これらに限られるものではなく、種々の電極材料から選択することができる。
【0017】
本実施の形態における電極4は、図2(A)のように3対の電極としているが、電極の数は適宜変更可能であって、図2(B)のように1対の電極や、図2(C)のように2対の電極としてもよい。また、電極4は平板形状のものに限られず、図3のもののように、円筒形状としてもよい。この場合には、径方向中央から第一電極4a、第二電極4bを交互に配し、径方向外方ほど長径な円筒形状とする。なお、図3のものでは、中央の第一電極4aは中実な円柱形状のものとしている。そして、図3(B)のものでは、最外周に配された電極4である第二電極4bを電解槽3の壁面に兼用したものとしている。
【0018】
電極の積層方向の外端に配された第一電極4aと第二電極4bには、他の電極4と対向していない非対向面4cに、絶縁体11が取り付けられている。絶縁体11は、電極4の対向面にのみ通電させることで、効率の良い電気分解を促進するとともに、油分吸着物102が拡散しないようにするものである。図3(A)のように、円筒形状の電極4を用いた場合には、最外周の電極4の非対向面4cに円筒状の絶縁体11を取り付ければよい。図3(B)のように、最外周に配された電極4である第二電極4bを電解槽3の壁面に兼用した場合には、最外周の第二電極4bが他の槽や部材等と接触しないよう、外周下部に絶縁体11を取り付けたものとしている。
【0019】
また、電解槽3の下部には超音波を発振する超音波発振器12が設けられている。超音波発振器12は、電極4に向けて超音波を発振することにより、電極4の表面に付着した油分や析出物、油分吸着物102を振動させて電極4から離間させるものであって、適宜のものを採用することができる。
【0020】
次に、電極4に印加される電圧を制御する制御手段6について説明する。制御手段6は、電極4に印加する電圧を経過時間に応じて適宜変化可能とするものである。本実施の形態における制御手段による印加電圧の変化は、図5、6のグラフに模式的に表されているが、この変化について以下に説明する。
【0021】
本実施の形態では、印加電圧は130秒を1サイクルのサイクルAとして、前半の65秒間は第一電極4aが陽極となる前半期間B、後半の65秒間は第二電極4bが陽極となる後半期間Bとしている。したがって、本実施の形態における極性切替時間は65秒である。そして、前半期間Bと後半期間Bでは、印加電圧の波形Wは、正負が交替した対称な形状となるよう制御されている。また、前半期間B中では印加される電圧は0V以上であり、後半期間B中では印加される電圧は0V以下である。このように極性を切り替えることにより、電極4の一方が消耗されてしまうことを避けられるため、電極4が長寿命化するとともに、一方の電極に油分が吸着してしまうことを回避することもできる。そして、前半期間Bは、パルス状の電圧を印加する20秒間のパルス期間C、定電圧を印加する40秒間の定電圧期間D、電圧を印加しない5秒間のゼロ電位期間Eに区分される。サイクルAの時間や、極性切替時間、各期間の長さは上記の時間に限定されるものではなく、後述する他の期間も含め、適宜設定可能なものである。例えばサイクルAの長さは、0.1秒~200秒程度とすることができる。
【0022】
パルス期間Cでは、印加電圧を90Vでデューティ比80%(ON:OFF=8:2)の方形波としたパルス状の電圧を印加するよう制御されており、その周波数f(Hz)は、印加開始後から順次低周波になるよう制御されている。具体的には、パルス期間Cは、5秒ごとにf=10Hzの第一パルス期間C、f=5Hzの第二パルス期間C、f=2.5Hzの第三パルス期間C、f=1.25の第四パルス期間Cに細分されている(図6参照)。そして、第一パルス期間Cの周波数f=10Hzが、初期周波数fに相当し、第一パルス期間Cのあいだに、上述の波形の電圧を電極4に印加することが、第一パルス印加工程に相当する。また、第二~第四パルス期間C~Cのあいだは、初期周波数fより周波数が低いパルス波形の電圧を印加しており、これが第二パルス印加工程に相当する。このように、電圧印加直後は波形Wを高周波のパルス波とすることにより、電圧印加直後に電極4の表面に油分が急速に積層して導電性が低下し、処理力が低下することを回避することができる。そして、徐々に周波数を低周波にすることで、処理力が向上していくこととなる。
【0023】
周波数fの変化による油分吸着量、処理力の変化は、図9に示されている。図9(A)は、デューティ比80%のパルス状の方形波の電圧を70Vで3分間印加した場合において、周波数の変化による電極4への油分吸着量(mg)の変化を示したものである。一見して明らかなように、周波数が高くなるほど、電極4への油分の吸着量は少なくなることが分かる。また、図9(B)は、デューティ比80%のパルス状の方形波の電圧を70Vで15分間印加した場合において、周波数の変化による液面に生じた泡の高さの変化を示したものである。泡は油分がトラップされたものであるため、油の高さは油水分離の処理力を示したものということができる。そして、図9(B)から明らかなように、周波数が高くなるほど、泡の高さは低くなるため、単純な処理力としては、周波数が低いパルス波、あるいは定電圧であることが好ましいことが分かる。
【0024】
これらの知見に基づけば、油分の電極4への吸着を抑えるためには、周波数fを高くする必要があるが、全体としての処理力を向上させるためには周波数fを低くする必要があるといえる。そして、油分の電極4への吸着は、電圧印加直後に急速に生じるため、これを回避するべく、電圧印加直後には周波数fを高くして油分の吸着量を抑え、その後に周波数fを低くしていくことで処理力を上昇させ、全体としての処理力が向上することとなる。
【0025】
本実施の形態では、印加電圧が、パルス期間Cで第一~第四パルス期間C~Cに区分されて、期間ごとに段階的に周波数fを低くするよう制御されているが、段階的ではなく、例えば一次関数的に周波数fを低くするよう制御してもよい。また、段階的な変化の制御をする場合であっても、各期間の長さは一定である必要はなく、必要に応じて第一パルス期間を長くする等の変化をつけてもよい。
【0026】
パルス期間Cの後には、定電圧を印加する定電圧期間Dが存するが、定電圧期間Dは、90Vの定電圧を20秒間印加する第一定電圧期間D、第一定電圧期間Dより高電圧の100Vの定電圧を20秒間印加する第二定電圧期間Dに区分けされる。第二定電圧期間Dは、極性の切り替え前に印加電圧を大きくすることで、電極4に発生した泡などの油分吸着物102の電極4からの離脱を促進するために設けられている。
【0027】
定電圧期間Dの後には、電圧を印加しない5秒間のゼロ電位期間Eが存する。電気分解によって電極4には泡が発生するが、この泡は、発生当初は微小なもので、時間経過とともに泡同士が集合して大きな泡になる。発生当初の小さい泡は、浮上速度が遅いため、ゼロ電位期間Eを設けることにより、電極4の近傍で発生した泡がある程度の大きさになり、油分をトラップして浮上させることができ、極性の切り替え前に発生した泡が電極4に残存してしまうことがないように配慮されている。
【0028】
以上が前半期間B中の各期間の説明であり、後半期間Bでは、電極4の極性が切り替わった対称な波形であるため、詳細な説明は省略する。そして、本実施の形態の印加電圧の波形Wは、前半期間Bと後半期間BからなるサイクルAが連続して繰り返されたものとなっている。
【0029】
回収手段7は、電極4から発生し、油分をトラップして液面に浮上した油分吸着物102を電解槽3から除去して、油と水を物理的に分離するものである。回収手段7は、電解槽3から回収した油分吸着物102を集積する回収槽7aと、電解槽3の液面表面の油分吸着物102を回収槽7aに向けて押し出す押出具7bとからなる。押出具7bは油分吸着物102が液面に浮上する範囲をカバーできるよう幅広形状となっている。また、押出具7bは絶縁性の素材、例えばポリ塩化ビニル樹脂等の合成樹脂やゴムからなり、下端部が電解槽3内の油水混合液101の液面下に僅かに(例えば、1~5mm程度)沈むように設けられている。このように、押出具7bを絶縁性の素材からなるものとすることにより、誤って押出具7bが電極4に接触してしまった場合であっても、短絡してしまうことがない。そして、押出具7bによって回収槽7aに回収された油分吸着物102は、図示しない濾過手段によって濾過された後に廃棄物として処理される。
【0030】
回収手段7の構成としては、適宜のものを採用することができる。例えば、図4は回収手段の構成の変更例であり、回収槽7aに油分吸着物102を移動させるために、ローラ7c、傾斜板7dを備えている。ローラ7cは、液面から上方に向けて回転する円柱形状の回転体であって、回転によって液面表面の油分吸着物102をローラ7c表面に移動させるようになっている。そして、傾斜板7dは、ローラ7cの上面側に配された板上部材であって、ローラ7cの回転方向前方から後方に向けてローラ7cの軸芯方向で回収槽7a側に傾斜している。これによって、ローラ7cが回転してローラ7c表面に移動した油分吸着物102を、傾斜板7dの傾斜に沿って回収槽に移動させることで、油分吸着物102を電解槽3から離脱できるようになっている。また、これら本実施形態の回収手段7は、液面表面の浮上物を対象としているが、油分をトラップした析出物が沈降するような場合には、電解槽3の下方で沈降物を回収する構成とすればよく、浮上物と沈降物をそれぞれ回収できる構成としてもよい。
【0031】
本実施の形態の油水分離装置1によって油水混合液101を油水分解することにより、パルス波形の電圧を印加しなかった場合と比較して、処理力が向上することを示すグラフ図が、図8である。図8は、パルスの有無によって電極4間に生じる電流の変化を比較したグラフである。図8から一見して明らかなように、パルスがある場合は、パルスが無い場合と比較して、電極4間の電流が高くなっており、電気分解による油水分離の処理力が高くなっていることが分かる。
【0032】
以上、本実施の形態について説明したが、本発明は、本実施の形態の具体的な構成に限定されるものではない。例えば、パルス電圧の波形としては、種々のものを採用することができる。パルス期間C中の波形は方形波である必要はなく、例えば図7に示されるように、鋸歯状波や正弦波であってもよい。
【0033】
また、本実施の形態では、パルス期間Cにおけるパルス波はデューティ比を80%としているが、80%に限られるものではない。もっとも、図10(A)に示されるように、デューティ比が高いほど処理力は向上するが、他方でデューティ比が高くなると油分の電極4への吸着量が増加してしまうため、デューティ比を80%程度とすることが好ましい。また、デューティ比はパルス期間C中の各期間ごとに変化させたものとしてもよく、例えば第一パルス期間Cでは80%、第二パルス期間Cでは85%、第三パルス期間Cでは90%、第四パルス期間Cでは95%というように、徐々に増加するようにしてもよい。
【0034】
叙述の如く構成された本発明の実施の形態において、油水分離装置1は、工業排液などの油水混合液101を収容して電気分解する電解槽3と、電解槽3内に配されて電気分解に用いられる電極4と、電極4に所定の電圧を印加する電源ユニット5と、印加される電圧を制御するための制御手段6と、分離した油分が吸着した油分吸着物102を電解槽3から回収する回収手段7を備えている。そして、制御手段6は、電源ユニット5が電極4に印加する電圧を所定の周波数f(Hz)のパルス波形の電圧となるよう制御するものであって、電圧の印加開始直後の第一パルス期間Cには初期周波数fの方形波のパルス電圧を印加し、その後の第二~第四パルス期間C~Cでは、初期周波数fよりも低周波数のパルス電圧を印加するよう電源ユニット5を制御するよう設定されている。このように、第一パルス期間C1では高周波のパルス波形の電圧を印加することにより、電極4に急速に油分が吸着することを抑えつつ、その後の第二~第四パルス期間C~Cでは除々に低周波のパルス波形の電圧を印加することで、処理効率が向上していくため、全体として電気分解による油水分離の効率が向上することとなる。
【0035】
また、制御手段6は、所定の極性切替時間が経過するごとに、前半期間Bと後半期間Bとで電源ユニット5が印加するパルス電圧の正負が逆転し、電極4の極性が切り替わるよう設定されている。これによって、電極の長寿命化や、効率的な電気分解による油水分離が可能となる。また、制御手段6は、電極4の極性が切り替わる直前の前半期間B及び後半期間Bの最後に、電極4に電圧を印加しないゼロ電位区間Eを設けるよう電源ユニット5を制御している。これによって、ゼロ電位期間Eのあいだに電極4に発生した泡等の油分吸着物102を浮上させておくことができるため、極性の切り替え後の処理力の低下を抑えることができる。さらに、前半期間Bと後半期間Bとでパルス電圧の波形は対称となっているため、極性の切り替え後も電極への急速な油分の吸着を抑えつつ、全体として電気分解による油水分離の効率がさらに向上することとなっている。
【0036】
さらに、パルス電圧の波形Wは、デューティ比が80%の矩形波であることにより最適化されていて、油水分離の効率が高くなる。加えて、加温器9aによって電解槽3内の油水混合液102が加温されて45~55℃の温度になるよう設定されているため、油水分離の効率が高くなる。
【0037】
このような油水分離装置1によって、油水混合液102を電気分解して油水分離するにあたり、電源ユニット5から電極4への電圧の印加開始直後に初期周波数fのパルス電圧を印加する第一パルス印加工程を第一パルス期間Cで行い、その後の第二~第四パルス期間C~Cでは初期周波数fより低周波のパルス電圧を印加する第二パルス印加工程を行うこととなる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、排液などの油水混合液の油水分離に係る分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 油水分離装置
3 電解槽
4 電極
4a 第一電極
4b 第二電極
5 電源ユニット
6 制御手段
7 回収手段
9a 加温器
101 油水混合液
102 油分吸着物
103 排水
前半期間
後半期間
C パルス期間
D 定電圧期間
E ゼロ電位期間
f 周波数
初期周波数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10