IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中國醫藥大學の特許一覧

特許6990932単離された成体多能性嗅幹細胞及びその分離方法、並びに使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】単離された成体多能性嗅幹細胞及びその分離方法、並びに使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/074 20100101AFI20220104BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20220104BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220104BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220104BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220104BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220104BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20220104BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C12N5/074
A61K35/15
A61P25/00
A61P9/10
A61P25/16
A61P25/28
A61P25/08
A61K48/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019509486
(86)(22)【出願日】2017-03-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 CN2017076703
(87)【国際公開番号】W WO2018120437
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2019-04-05
(31)【優先権主張番号】201611252823.9
(32)【優先日】2016-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509075457
【氏名又は名称】中國醫藥大學
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】徐 偉成
(72)【発明者】
【氏名】許 重義
(72)【発明者】
【氏名】周 ▲徳▼陽
(72)【発明者】
【氏名】林 振寰
(72)【発明者】
【氏名】李 ▲イ▼
(72)【発明者】
【氏名】陳 三元
(72)【発明者】
【氏名】鄭 ▲隆▼賓
(72)【発明者】
【氏名】蔡 長▲海▼
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0114616(US,A1)
【文献】Development,2016年10月27日,Vol. 143,pp. 4394-4404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞特異的モロニーマウス白血病ウイルス挿入部位1、多能性マーカーOct-4、Sox-2、Nanog、SSEA-4、ki67、c-Myc、KLF-4、K14及びICAM-1を発現し、3つの胚葉細胞に自発的に分化することができることを特徴とする、単離された成体多能性嗅幹細胞。
【請求項2】
アルカリホスファターゼ活性を有することを特徴とする、請求項1に記載の単離された成体多能性嗅幹細胞。
【請求項3】
請求項1に記載の単離された成体多能性嗅幹細胞の分離方法であって、
ヒトを除く哺乳動物の嗅粘膜組織の細胞混合物を外植片培養又はインビトロで提供する工程と、
前記細胞混合物から、B細胞特異的モロニーマウス白血病ウイルス挿入部位1、Oct-4、Sox-2、NanogSSEA-4、ki67、c-Myc、KLF-4、K14及びICAM-1を発現する複数の細胞を単離して、成体多能性嗅幹細胞を取得する分離工程とを含むことを特徴とする、単離された成体多能性嗅幹細胞の分離方法。
【請求項4】
前記哺乳動物はマウスであることを特徴とする、請求項3に記載の単離された成体多能性嗅幹細胞の分離方法。
【請求項5】
請求項1に記載の単離された成体多能性嗅幹細胞の使用であって、個体の脳組織損傷の治療用の医薬品を調製することに用いられることを特徴とする、単離された成体多能性嗅幹細胞の使用。
【請求項6】
前記脳組織の損傷は脳虚血性疾患により発生することを特徴とする、請求項5に記載の単離された成体多能性嗅幹細胞の使用。
【請求項7】
前記脳虚血性疾患は脳卒中であることを特徴とする、請求項6に記載の単離された成体多能性嗅幹細胞の使用。
【請求項8】
前記脳組織の損傷は神経変性疾患により発生することを特徴とする、請求項5に記載の単離された成体多能性嗅幹細胞の使用。
【請求項9】
前記神経変性疾患はアルツハイマー病、パーキンソン病又はてんかんであることを特徴とする、請求項8に記載の単離された成体多能性嗅幹細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動物の未分化細胞に関し、特に成体組織幹細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞(Stem Cell)は、生体内の未分化の初代細胞であり、長時間で連続的に複製・更新して、特殊な形態や機能を有する成熟細胞に分化する能力を持つ。
幹細胞は、その由来によって、主に、胚盤胞内の細胞塊に由来する胚性幹細胞(embryonic stem cells: ESCs)、及び様々な組織に由来する成体幹細胞(adult stem cell)の2つに分けられる。
幹細胞は、また、その分化能力によって、主に、下記の3つに分けられる。
一.全能性幹細胞(totipotent stem cells)。完全な能力を有し、完全な胚胎又は生物に分化することができる。
二.多能性幹細胞(pluripotent stem cells)。3つの胚葉に分化する能力を有し、特定の組織又は器官の全ての細胞を形成することができるが、完全な胚胎又は生物に発育することはできない。
三.複能性幹細胞(multipotent stem cells)。神経幹細胞、血液幹細胞、肝幹細胞、皮膚幹細胞等の特定の組織の幹細胞を含む。
【0003】
多能性幹細胞は、異なる細胞株に分化することができるため、様々な変性疾患又は遺伝性疾患の治療に使用することができる。
種々の多能性幹細胞の中で、胚性幹細胞は、上記機能を有すると考えられる。
しかしながら、道徳的疑念がずっとヒト胚性幹細胞の研究及び治療上の適用を妨げるが、胚胎ではない胚性幹細胞であれば、この障害を回避することができる。
このような非胚性多能性幹細胞は、成体骨髄間葉系幹細胞又は間質幹細胞及び臍帯血幹細胞を含む。
しかしながら、インビトロ(in vitro)での拡大の要求及びヒト白血球抗原対形成の条件のために、これらの細胞の臨床への適用が制限されるので、別の多能性細胞が所望される。
【0004】
成体組織幹細胞とは、既に分化した組織に存在する未分化細胞を指し、体の様々な組織や器官の中に存在し、従来的に、それらの組織内の限定された細胞型にしか増殖し分化できないと考えられる。
しかしながら、近年の研究の結果により、この従来の概念が質疑されるようになり、成体組織には多重の分化能力を持つ幹細胞集団が含まれると指摘される。
成体多能性幹細胞は、道徳的に論争のあるヒト胚性幹細胞を置き換えることができるので、医療適用に対して吉報となる。
従って、成体組織から自己再生能及び多能性分化能力を有する成体組織幹細胞を求めることは、幹細胞医療の関連技術の研究発展の主な課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、成体多能性嗅幹細胞及びその分離方法、並びにその使用を提供することにある。
本発明の単離された成体多能性嗅幹細胞は、自己再生能力及び多能性分化の能力を有する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一目的は、B細胞特異的モロニーマウス白血病ウイルス挿入部位1(B-lymphoma Moloney murine leukemia virus insertion region-1: Bmi-1)、多能性マーカーOct-4、Sox-2、Nanog、SSEA-4、ki67、c-Myc、KLF-4、K14及びICAM-1を発現し、3つの胚葉細胞に自発的に分化することができる単離された成体多能性嗅幹細胞を提供することにある。
【0008】
前記単離された成体多能性嗅幹細胞によれば、アルカリホスファターゼ(Alkaline phosphatase: ALP)活性を有する。
【0009】
これにより、本発明の単離された成体多能性嗅幹細胞は、細胞表面でB細胞特異的モロニーマウス白血病ウイルス挿入部位1を発現し、自己再生及び多能性(pluripotent)分化という特徴を有する。
【0010】
本発明の別の目的は、ヒトを除く哺乳動物の嗅粘膜組織の細胞混合物を外植片培養又はインビトロで提供する工程と、細胞混合物から、B細胞特異的モロニーマウス白血病ウイルス挿入部位1、Oct-4、Sox-2、NanogSSEA-4、ki67、c-Myc、KLF-4、K14及びICAM-1を発現する複数の細胞を単離して、成体多能性嗅幹細胞を取得する分離工程と、を含む成体多能性嗅幹細胞の分離方法を提供することにある。
【0011】
前記の成体多能性嗅幹細胞の分離方法によれば、哺乳動物は、マウスであってよい。
【0013】
これにより、本発明の成体多能性嗅幹細胞の分離方法は、哺乳動物の嗅組織由来の細胞混合物から、B細胞特異的モロニーマウス白血病ウイルス挿入部位1、Oct-4、Sox-2、Nanog及びSSEA-4等の多能性マーカーを発現する細胞を選別する。こうして選別された細胞が多能性分化能力を有する成体嗅幹細胞であるため、成体多能性嗅幹細胞を専門的に分離精製することができる。
【0014】
本発明の更に1つの目的によれば、個体の脳組織損傷の治療用の医薬品を調製することに用いられる単離された成体多能性嗅幹細胞の使用を提供することにある。
【0015】
前記の単離された成体多能性嗅幹細胞の使用によれば、脳組織の損傷は、脳虚血性疾患又は神経変性疾患により発生したものであってよい。
脳虚血性疾患は、脳卒中であってよい。
神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病又はてんかんであってよい。
【0016】
これにより、本発明の単離された成体多能性嗅幹細胞は、細胞の治療に用いられる場合、脳組織の損傷された個体の神経機能を改善し、移植された成体多能性嗅幹細胞が脳の損傷部位まで移転して、更に損傷領域の神経細胞を修復することができるため、脳組織の損傷された個体を治療することに使用することができる。
【0017】
上記発明の内容は、読者に本開示内容を基本的に理解させるように、本開示内容の簡単化された概要を提供するためのものである。
この発明の内容は、本開示内容の完全な記述ではなく、また本発明実施例の重要/又は肝心な要素を指摘し、又は本発明の範囲を限定するものではない。
下記添付図面の説明は、本発明の上記又は他の目的、特徴、メリット、実施例をより分かりやすくするためのものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A】ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の多能性マーカー発現の結果図である。
図1B】ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の多能性マーカー発現の結果図である。
図1C】ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の多能性マーカー発現の結果図である。
図1D】ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の拡大指数図である。
図1E】ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の増殖指数測定結果図である。
図1F】マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の多能性マーカー発現の結果図である。
図1G】マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の多能性マーカー発現の結果図である。
図2A】ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の3次元培養された多能性マーカー発現の結果図である。
図2B】マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の3次元培養された多能性マーカー発現の結果図である。
図3A】本発明の成体多能性嗅幹細胞が異なる胚葉の組織細胞への分化を誘導する顕微鏡写真図である。
図3B】本発明の成体多能性嗅幹細胞が異なる胚葉の組織細胞への分化を誘導する顕微鏡写真図である。
図3C】本発明の成体多能性嗅幹細胞が異なる胚葉の組織細胞への分化を誘導する顕微鏡写真図である。
図3D】本発明の成体多能性嗅幹細胞が異なる胚葉の組織細胞への分化を誘導する顕微鏡写真図である。
図3E】本発明の成体多能性嗅幹細胞が異なる胚葉の組織細胞への分化を誘導する顕微鏡写真図である。
図3F】本発明の成体多能性嗅幹細胞が異なる胚葉の組織細胞に自発的に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図3G】本発明の成体多能性嗅幹細胞が自発的に分化した後で異なる胚葉マーカーが発現した様子を示す分析結果図である。
図4A】ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞がマウスの体で異なる胚葉の組織細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図4B】ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞がマウスの体で異なる胚葉の組織細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図4C】ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞がマウスの体で異なる胚葉の組織細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図4D】ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞がマウスの体で異なる胚葉の組織細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図4E】ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞がマウスの体で異なる胚葉の組織細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図5A】マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞がマウスの体で異なる胚葉の組織細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図5B】マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞がマウスの体で異なる胚葉の組織細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図5C】マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞がマウスの体で異なる胚葉の組織細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図5D】マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞がマウスの体で異なる胚葉の組織細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図6A】ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞のインビボ(in vivo)の分布結果図である。
図6B】マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞のインビボの分布結果図である。
図6C】インビトロで培養された成体多能性嗅幹細胞の基底細胞マーカー発現の分析結果図である。
図7A】インビトロで培養された成体多能性嗅幹細胞のBmi-1発現の分析結果図である。
図7B】ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞のBmi-1発現の分析結果図である。
図7C】マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞のBmi-1発現の分析結果図である。
図8A】Bmi-1の発現による成体多能性嗅幹細胞への影響を示す結果図である。
図8B】加齢関連ガラクトシダーゼ分析の結果図である。
図8C】Bmi-1+/+嗅組織及びBmi-1-/-嗅組織のp16Ink4aの逆転写PCRの定量結果図である。
図8D】Bmi-1+/+成体多能性嗅幹細胞及びBmi-1-/-成体多能性嗅幹細胞の拡大指数図である。
図8E】shRNAの導入されたヒト成体多能性嗅幹細胞の拡大指数図である。
図9A】成体多能性嗅幹細胞を移植した脳卒中マウスの脳組織梗塞体積図である。
図9B図9Aの統計結果図である。
図9C】脳卒中マウスの垂直活動試験の結果図である。
図9D】脳卒中マウスの垂直運動数量試験の結果図である。
図9E】脳卒中マウスの垂直活動時間試験の結果図である。
図9F】マウス成体多能性嗅幹細胞を移植した脳卒中マウスの脳組織におけるCD31発現の結果図である。
図10A】被験者の磁気共鳴イメージング図である。
図10B】被験者の核磁気共鳴拡散テンソル画像図である。
図10C】Bmi-1の相対的発現量及びフォッグメル評価スコアの相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書の開示内容は、特定の細胞表面受容体を発現し、且つ自己再生能力及び多能性(pluripotent)分化能力を有する単離された哺乳動物の成体多能性嗅幹細胞を開示する。
本明細書の開示内容は、また、哺乳動物の嗅組織由来の細胞混合物から、多能性を有する成体嗅幹細胞を専門的に選別することのできる多能性を有する成体嗅幹細胞の分離方法を提供する。
以下、例えば「Nanog陽性細胞」との記載は、「Nanogを発現する細胞」と同義である。
【0020】
更に、本発明は、B細胞特異的モロニーマウス白血病ウイルス挿入部位1(B-lymphoma Moloney murine leukemia virus insertion region-1: Bmi-1)を発現し、ヒト細胞又はマウス細胞から由来してよく、好ましくは、多能性マーカーOct-4、Sox-2、Nanog及びSSEA-4を発現する、単離された哺乳動物の成体多能性嗅幹細胞を提供する。
本発明の多能性を有する成体嗅幹細胞の分離方法は、哺乳動物の嗅粘膜組織由来の細胞混合物から、Oct-4、Sox-2、Nanog及びSSEA-4陽性細胞を選別し、好ましくは、更にBmi-1陽性細胞を選別し、即ち細胞混合物から多能性を有する成体嗅幹細胞を分離することができ、哺乳動物はヒト又はマウスであってよい。
【0021】
本発明の単離された哺乳動物の成体多能性嗅幹細胞は、個体の脳組織損傷を治療する医薬品の調製に適用されることができる。
更に、本発明の単離された成体多能性嗅幹細胞は、細胞の治療に用いられる場合、脳組織の損傷された個体の神経機能を改善し、移植された成体多能性嗅幹細胞が脳の損傷部位まで移転して、更に損傷領域の神経細胞を修復することができるため、脳組織の損傷された個体を治療することに使用することができ、脳組織の損傷は脳虚血性疾患又は神経変性疾患であってよく、脳虚血性疾患は脳卒中であってよく、神経変性疾患はアルツハイマー病、パーキンソン病又はてんかんであってよい。
【0022】
当業者が本発明を過度に解釈せずに利用及び実施できるように、下記具体的な試験例を例として本発明を更に説明する。
これらの試験例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではなく、本発明の材料及び方法を如何に実施するかを説明するためのものである。
【0023】
(試験例)
(一.本発明の成体多能性嗅幹細胞)
(1.1.成体多能性嗅幹細胞の調製)
成体多能性嗅幹細胞を調製するために、本試験例において、哺乳動物組織としてヒトの嗅粘膜組織又はマウスの嗅組織を使用した。
ヒトの嗅粘膜組織(5mm3、重量0.5g)は、全身麻酔下で鼻中隔の付近から採取され、サンプリングの手順が中国医科大学付属病院のヒト試験委員会(Institutional Review Board)により承認され、被試験患者も書面で同意した。
マウスの嗅組織は、8週齢又は11週齢のマウスから採取された。マウスを麻酔して犠牲にし、解剖顕微鏡で上甲介骨から嗅覚組織を分離した。
そのマウスとして、SD(Sprague-Dawley)ラット、C57BL/6JNarlマウス、GFPトランスジェニックマウス、Bmi-1+/+マウス及びBmi-1ノックアウトマウス(Bmi-1-/-)を含むものを使用した。
【0024】
採集されたヒト嗅粘膜組織をHank’s平衡塩溶液(Gibco/BRL)含有の滅菌ボックスに置き、24時間内で外植片培養法(explant culture method)によって初代培養を行い、その工程は以下の通りであった。
解剖顕微鏡で各嗅組織を小片に切断し、室温でリン酸緩衝液に入れて、600×gの遠心力で10分間遠心分離して組織外植片を集め、また2μg/mLのヘパリン(heparin;Sigma)、20ng/mLの線維芽細胞増殖因子(FGF2: R&D Systems)、20ng/mLの表皮成長因子(EGF: R&D Systems)及び1%のペニシリン/ストレプトアビジン(100U/ml)のDMEM/F12培地で組織沈降物を再懸濁させて、組織外植片を25cm2の細胞培養皿に置き、5%のCO2、37℃の雰囲気で5~7日間培養して、細胞を外植片から外へ成長させて、第1世代の壁付着性細胞はヒトから分離された成体多能性嗅幹細胞であった。
マウスから分離された成体多能性嗅幹細胞の調製工程は、上記と同じであるが、DMEM/F12培地に上記のサプリメントに加えて、別に20ng/mLの表皮成長因子(Invitrogen)を加えた。
【0025】
また、免疫蛍光染色、逆転写PCR及びフローサイトメトリーによって前記初代培養の成体多能性嗅幹細胞の多能性マーカーの発現を分析した。
分析された多能性マーカーは、発育中の胚嚢に必要なキー転写因子及び未分化のヒト胚性幹細胞に存在する細胞表面スフィンゴ糖脂質(glycosphingolipids)を含み、キー転写因子はNanog、Sox-2及びOct-4を含み、スフィンゴ糖脂質はSSEA-4(stage-specific embryonic antigen 4)であった。
【0026】
図1A図1Cを参照すると、ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の多能性マーカー発現の結果図である。
図1Aは免疫蛍光染色の結果図であり、細胞核がDAPIで表示され、(1)~(4)部分の蛍光はそれぞれNanog、Oct-4、Sox-2及びSSEA-4の信号であった。
図1Bは逆転写PCRの結果図であり、対照群はテンプレートの追加されていない群であり、APOSCは成体多能性嗅幹細胞を示し、hESは陽性対照群とするヒト胚性幹細胞を示した。
図1Cはフローサイトメトリー分析結果図であり、6つの異なるドナーから分離され且つ異なる代数(p2-p14)を有する成体多能性嗅幹細胞を分析した。
【0027】
図1Aの結果から分かるように、ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞は、確実にNanog、Oct-4、Sox-2及びSSEA-4等の多能性マーカーを発現することができ、特に、成体多能性嗅幹細胞が細胞表面でSSEA-4を発現することで、これがより初期の段階にある細胞であることが判明され、免疫蛍光染色によってNanog及びOct-4が6つの異なるドナーから分離された成体多能性嗅幹細胞における核発現(データが示せず)も確認された。
図1Bの結果から分かるように、ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞がNanog、Oct-4及びSox-2等の多能性マーカーを発現し、且つ誘導多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells: iPS)の発生に寄与するc-Myc及びKLF-4を発現することができた。
図1Cも一致の結果があり、ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞が確実にNanog、Oct-4、Sox-2及びSSEA-4等の多能性マーカーを発現することができ、且つ52.9±19.3%(n=6)の成体多能性嗅幹細胞がSSEA-4に対して陽性を呈し、ひいては0.1%~5%の成体多能性嗅幹細胞(n=6)がより初期の段階にあるマーカーSSEA-3(データが示せず)を測定することができることが判明された。
上記のデータから確認されたのは、異なるドナーから分離されたまたその後の異なる代数の世代から分離された成体多能性嗅幹細胞が何れも一致的に胚性幹細胞に関する多能性マーカーを発現した。
【0028】
インビトロ(in vitro)で培養された成体多能性嗅幹細胞の増殖能力を分析するために、成体多能性嗅幹細胞に対して長期的な拡大を行い、成体多能性嗅幹細胞の成長動態学を分析した。
図1Dを参照すると、本発明の単離された成体多能性嗅幹細胞の拡大指数図であった。
図1Dの結果から分かるように、成体多能性嗅幹細胞は、48日間(共に17世代)指数的に増殖し、83日間(第25世代)の後でゆっくりと成長した。
成体多能性嗅幹細胞の倍増時間は、20.9±3.9時間(ドナー1、第3~17世代の平均値)又は25.3±6.7時間(ドナー2、第5~第19世代の平均値)であった。
【0029】
成体多能性嗅幹細胞の増殖を監視するために、試験で10μmのCFSE(carboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester; Molecular Probes)によって成体多能性嗅幹細胞を標定し、成体多能性嗅幹細胞を4日間培養し続けてから、フローサイトメトリー(Becton Dickinson)によってCFSEの成体多能性嗅幹細胞における分布状況を測定し、更にMODFITソフトウェア(Verity Software House; ME)によって成体多能性嗅幹細胞の増殖指数(proliferation index; PI)を計算し、計算された増殖指数が高いほど、細胞増殖能力が優れることを示した。
CFSE蛍光が各連続する細胞分裂において正確に半分になるので、CFSEの標定によって細胞分裂を追跡し、成体多能性嗅幹細胞の活性成長発現型を更に確認することができた。図1Eを参照すると、本発明の単離された成体多能性嗅幹細胞の増殖指数測定結果図であった。
図1Eの結果から分かるように、96時間の追跡期間内で、50.9%の成体多能性嗅幹細胞が3回の細胞分裂を完成し、32.7%の成体多能性嗅幹細胞が2回の細胞分裂を完成するので、成体多能性嗅幹細胞の細胞周期動態がヒト胚性幹細胞及び誘導多能性幹細胞と同じ(倍増時間が24時間~48時間にある)、ある成体多能幹細胞よりも優れた(倍増時間が30時間~72時間である)ことが判明された。
【0030】
また図1F及び図1Gを参照すると、マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の多能性マーカー発現の結果図である。
図1Fは、免疫蛍光染色の結果図であり、DAPIで細胞核の位置を示し、(1)~(3)部分の蛍光はそれぞれNanog、Oct-4及びSox-2の信号であった。
図1Gは、逆転写PCRの結果図であり、対照群はテンプレートの追加されていない群であり、APOSCは成体多能性嗅幹細胞を示し、mESは陽性対照群とするマウス胚性幹細胞を示した。
図1F及び図1Gの結果から分かるように、マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞も核でNanog、Oct-4及びSox-2を発現し、及びKLF-4とc-Mycを発現した。
マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の倍増時間は、24.6±2.0時間である。
【0031】
(1.2.成体多能性嗅幹細胞の3次元培養)
幹細胞の独特な特徴の1つは、3次元及び自然を模擬する雰囲気において細胞球を形成する能力であった。
従って、付着するように生長させることで本発明の成体多能性嗅幹細胞の多能性マーカーを検査することに加えて、本試験で3次元培養条件で成体多能性嗅幹細胞を培養して、本発明の成体多能性嗅幹細胞に細胞球を形成する幹細胞性(stemness)が残るかを調べた。
【0032】
3次元培養の工程は、以下の通りであった。
成長平面空間に満ちた成体多能性嗅幹細胞をトリプシンで消化した後、懸濁培養液で再懸濁を行い、成体多能性嗅幹細胞を7×104cells/mLに調整し、懸濁培養液は2%のB27 supplement(Gibco)、20ng/mLの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、20ng/mLの表皮成長因子及び1%のペニシリン/ストレプトアビジン(100U/ml)のDMEM/F12を含む培地であった。
前記細胞懸濁液を接種する前に、細胞が細胞培養皿の底に付着しないように、15mg/mlのポリヒドロキシエチルメタクリレート(poly HEMA: Sigma: P3932)を細胞培養皿に塗布した。
第1世代で形成された細胞球は、第1の成体多機能嗅幹細胞球と呼ばれた。
成体多能性嗅幹細胞球の増殖能を検出するために、更に成体多能性嗅幹細胞球をウラシル類似体(Bromodeoxyuridine: BrdU)を含む懸濁培養液で培養してDNAを標定した。
【0033】
図2Aを参照すると、ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の3次元培養された多能性マーカー発現の結果図であり、(1)は明視野での顕微鏡写真図であり、(2)はBrdUにより標定された蛍光顕微鏡写真図である。
図2Aの結果から分かるように、ヒト成体多能性嗅幹細胞は、3次元培養によってコンパクトな細胞球を形成することができる。BrdUの埋め込まされたヒト成体多能性嗅幹細胞球により、細胞周期におけるS期に続けて入ることができることは実証された。
また、第1の成体多能性嗅幹細胞球にも大量の細胞増殖マーカーKi67を発現した(データが示せず)。
【0034】
幹細胞は、数世代にわたる3次元培養の後、形成された細胞球の数が幹細胞の自己再生活性を示すことができ、形成された球のサイズが幹細胞の増殖能力を示すことができる。
成体多能性嗅幹細胞球の自己再生能力を評価するために、3日間培養後の第1の成体多能性嗅幹細胞球をトリプシンで消化して単一細胞に解離し、細胞数を計算してから懸濁培養液で改めて接種し再び3次元培養を行って、形成された細胞球を第2の成体多能性嗅幹細胞球とした。
培養の第2日目、第5日目及び第9日目に第2の成体多能性嗅幹細胞球の直径を測定した。
2日間解離し再培養した後、50%の成体多能性嗅幹細胞が生存し、3次元培養で第2の成体多能性嗅幹細胞球が観察された。
9日間以上培養された第2の成体多能性嗅幹細胞球は、平均直径が59μmから81μmになった。
【0035】
図2Aを再び参照すると、(3)は、Vector Red Alkaline phosphatase Substrate Kit Iによってアルカリホスファターゼ(Alkaline phosphatase、ALP)活性を検出する結果図であり、(4)~(6)は、それぞれ免疫蛍光染色によってNanog、Oct-4及びSSEA-4を標定する結果図であり、図2Aの結果から分かるように、成体多能性嗅幹細胞球は、胚性幹細胞の発現と類似するように、Nanog、Oct-4及びSSEA-4を発現した。
また、成体多能性嗅幹細胞球からアルカリホスファターゼの活性が検出された。
【0036】
図2Bをまた参照すると、マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の3次元培養された多能性マーカー発現の結果図であり、(1)はKi67により標定された蛍光顕微鏡写真図であり、(2)はアルカリホスファターゼ活性の結果図であり、(3)及び(4)は、Oct-4及びNanogの免疫蛍光染色結果図である。
図2Bの結果から分かるように、マウス多機能嗅幹細胞球にもKi67、アルカリホスファターゼ、Oct-4及びNanogの発現が観察された。
上記結果から分かるように、本発明の成体多能性嗅幹細胞球の発現する多能性マーカー、自己再生及びアルカリホスファターゼ活性によると、それは胚性幹細胞と類似する特徴を有することが判明された。
【0037】
(1.3.成体多能性嗅幹細胞のインビトロでの多能性分化能力)
本試験例は、インビトロ分化試験によって更に本発明の成体多能性嗅幹細胞が三胚葉細胞に分化する多能性分化能力を有するかを検討した。
試験上、それぞれ異なる成長因子を含む分化培地で成体多能性嗅幹細胞を培養し、外胚葉(神経細胞)、中胚葉(脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞及び内皮細胞)及び内胚葉(肝細胞)の細胞に分化するように誘導し、顕微鏡で細胞型を観察し、及び更に染色法によって分化後の細胞種類を確認した。
【0038】
図3Aを参照すると、本発明の成体多能性嗅幹細胞が外胚葉の神経細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図であり、本試験例では免疫蛍光染色によって分化後の細胞が成熟神経マーカーを発現するかを確認し、成熟神経マーカーはTuj-1(Neuron-specific class III beta-tubulin)、GFAP(glial fibrillary acidic protein)及びMAP-2(microtubule-associated protein 2)を含んだ。
図3Aの結果から分かるように、分化培地で培養した細胞の3種類の成熟神経マーカーが全て発現され、それらはニューロンの形態を示すことが観察され、第(1)部分の多極の形態及び分岐(矢印で示す)と、第(2)部分における発展中の嗅神経細胞(Olfactory receptor neuron: ORN)と類似する長い双極線状形態(矢印で示す)と、第(3)部分の軸索様のビーズ状構造(矢印で示す)と、第(4)部分のメッシュ軸索状構造(矢印で示す)と、を含んだ。分化した細胞が実際に神経細胞であることが証明された。
【0039】
図3Bを参照すると、本発明の成体多能性嗅幹細胞が内胚葉の肝細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図であり、(1)~(3)は、免疫蛍光染色によって分化後の細胞が肝細胞で合成されたアルブミン(albumin)、α1-抗トリプシン(α1-antitrypsin)及びα-フェトプロテイン(α-fetoprotein: α-FP)を発現するかを確認した。(4)逆転写PCRにより分化後の成体多能性嗅幹細胞のアルブミン発現を確認する結果図であり、ヒト肝癌細胞株HepG2は陽性対照群であり、Uは未分化の成体多能性嗅幹細胞を示し、Dは分化後の成体多能性嗅幹細胞を示した。
図3Bの結果から分かるように、肝細胞の誘導により分化され培養された後の細胞は、肝細胞特異的遺伝子陽性の細胞であり、アルブミン、α1-抗トリプシン及びα-FPを発現することができる。
分化された後の肝細胞代謝機能を試験するために、本試験例は、更にPAS染色(Periodic Acid-Schiff stain)により細胞における糖類を検出して、分化後の成体多能性嗅幹細胞の細胞質に貯蔵されたグリコーゲン(glycogen)があるかを調べた。
図3Cを参照すると、本発明の成体多能性嗅幹細胞のPAS染色後の顕微鏡写真図であり、Uは未分化の成体多能性嗅幹細胞を示し、Dは分化後の成体多能性嗅幹細胞を示した。
図3Cの結果から分かるように、(1)未分化の成体多能性嗅幹細胞に貯蔵されたグリコーゲンが見られなかったが、(2)及び(3)の分化後の成体多能性嗅幹細胞に貯蔵されたグリコーゲンが見られ、(2)及び(3)の放大倍率がそれぞれ40x及び400xであった。
上記結果により、成体多能性嗅幹細胞が確実に機能性を有する肝細胞に分化するように誘導されることができることが証明された。
【0040】
図3Dを参照すると、本発明の成体多能性嗅幹細胞が血管新生アッセイによって内皮細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
成体多能性嗅幹細胞が内皮細胞に分化するように誘導されることができることを証明するために、成体多能性嗅幹細胞に対して血管内皮増殖因子(VEGF)、bFGF及びヘパリンの誘導処理によって血管新生アッセイを行い、明視野で細胞型を観察して成体多能性嗅幹細胞が内皮細胞に分化するかを確認した。
図3Dの結果から分かるように、血管新生アッセイで、成体多能性嗅幹細胞が2~4時間以内で互いに向かって遷移して、毛細血管様の管状構造を形成し、その成熟時間は約6時間であった。
21時間後、形成された管状構造がマトリックスから分離した。
成体多能性嗅幹細胞の血管新生動態が内皮細胞の発見と同じであることを示したことが判明された。
【0041】
図3Eをまた参照すると、本発明の成体多能性嗅幹細胞が中胚葉の脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞及び内皮細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図であり、図3Eにおいて細胞内の脂質蓄積の指標剤としてオイルレッド組織染色(oil red O stain)を利用して、分化後の細胞が脂肪細胞であることが確認された。
アリザリンレッド染色(Alizarin red S stain)でカルシウム鉱化の状態を示して、分化後の細胞が骨芽細胞になることが確認された。
プロテオグリカン(proteoglycans)合成の指示としてアルシアンブルー染色(Alican blue stain)を利用し、分化後の細胞が軟骨細胞であることが確認された。
図3Eにおいて、成体多能性嗅幹細胞は、血管内皮増殖因子により誘導処理されず、明視野でその細胞型を観察した。
図3Eの結果から分かるように、成体多能性嗅幹細胞は分化培地の培養で、脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞及び毛細管様の管状構造に分化することができ、成体多能性嗅幹細胞が48時間から管状構造を形成するように自発的に分化したが、外部の提供した組織特異的増殖因子がなくても、胚性幹細胞のように、3つの胚葉細胞に自発的に分化する潜在力も有することが示された。
【0042】
従って、本試験例において、更に、本発明の成体多能性嗅幹細胞が如何なる成長因子よりも誘導されずに自発的に3つの胚葉細胞に分化できるかを試験した。
成体多能性嗅幹細胞又は第1の成体多能性嗅幹細胞球をゼラチンの塗布された細胞培養皿に接種して15日間培養して、また染色法及び逆転写PCRによって3つの胚葉の細胞に分化したかを調べた。
図3F及び図3Gを参照されたい。
図3Fは、本発明の成体多能性嗅幹細胞が異なる胚葉の組織細胞に自発的に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図3Gは、本発明の成体多能性嗅幹細胞が自発的に分化した後で異なる胚葉マーカーが発現した様子を示す分析結果図である。
図3F(1)の結果から分かるように、自発的に分化した群でニューロン様の細胞が観察され、(2)の結果から分かるように、外胚葉マーカーTuj-1を発現することができる。
(3)の結果から分かるように、中胚葉マーカーα-平滑筋アクチン(Alpha-smooth muscle actin: α-SMA)を発現することができる。
(4)及び(5)の結果から分かるように、内胚葉のマーカーアルブミン及びα1-抗トリプシンを発現することができる。
また、(6)の結果から分かるように、PAS染色測定により細胞にグリコーゲン沈着があることが表明され、内皮層の肝細胞であることが証明された。
図3Gの逆転写PCRの結果から分かるように、ゼラチンで成長する成体多能性嗅幹細胞又は第1の成体多能性嗅幹細胞球は、外胚葉のマーカーMAP2及びPAX6、中胚葉マーカーbrachyury及びNkx2.5、及び内皮層マーカーGATA6、α-FP及びFOXA2を発現した。
本発明の成体多能性嗅幹細胞が3つの胚葉細胞に自発的に分化することができることは再び証明された。
【0043】
(1.4.成体多機能性嗅幹細胞のインビボ多能性分化能力)
本発明の成体多能性嗅幹細胞がインビボ(in vivo)多能性分化能力を有することを証明するために、本試験例において、ヒト成体多能性嗅幹細胞を脳卒中マウスの体に移植して、また移植されたヒト成体多能性嗅幹細胞が脳卒中マウスの脳虚血部位でニューロン、グリア細胞又は内皮細胞に分化できるかを免疫蛍光染色によって確定した。
【0044】
脳卒中マウスモデルとしては、脳虚血/再灌流モデル(ischemia-reperfusion model)を採用してマウスの一時的な局所脳虚血の症状を模擬し、その試験動物として体重25~30gのC57BL/6マウスを使用した。
マウスを抱水クロラール(0.4g/kg)による腹腔内注射で麻酔し、マウスの脳虚血/再灌流モデルに対してはマウスの両側総頸動脈(common carotid arteries: CCAs)及び右中大脳動脈(middle cerebral artery: MCA)を閉塞することで局所脳虚血を誘導し、閉塞期間中の皮質血流量(cortical blood flow: CBF)をレーザードップラー流量計(PF-5010: Periflux system)で測定した。
120分間閉塞した後で、解放して再灌流を行った。
麻酔中に、マウスの中心温度をサーミスタ温度プローブによって監視し、マウスの体温を加熱パッドによって37℃に維持した。
麻酔から回復した後、マウスの体温もヒートランプによって37℃に維持した。
【0045】
ヒト成体多能性嗅幹細胞を移植する前に、まずLuc遺伝子をコードするレンチウイルスを用いてトランスフェクトして、ルシフェラーゼ(luciferase)により標定されたヒト成体多能性嗅幹細胞(hAPOSC-Luc)を得た。
106のhAPOSC-Lucを脳卒中マウスの硬膜下の3.5mmの3つの皮層領域に定位的注入した。
4週間後でマウスを犠牲にし、脳組織を採取して免疫蛍光染色によってニューロンマーカーMAP2、グリア細胞マーカーGFAP、内皮細胞マーカーvWF(Von Willebrand factor)及びlaminin(ラミニン)を標定し、移植されたhAPOSC-Lucがニューロン、グリア細胞又は内皮細胞に分化したかを確認した。
【0046】
図4A図4Dを参照されたい。
図4A及び図4Bは、本発明のヒト成体多能性嗅幹細胞がマウスの体でニューロン及びグリア細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図4C及び図4Dは、本発明のヒト成体多能性嗅幹細胞がマウスの体で内皮細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図4A及び図4Bの結果から分かるように、hAPOSC-Lucは、虚血半球の半陰影領域、側脳室(lateral ventricle: LV)及び海馬歯状回(hippocampal dentate gyrus: DG)に移行し、且つ免疫蛍光染色の共局在化結果から分かるように、一部のhAPOSC-LucがDGでMAP2を共発現し、半陰影領域でGFAPを共発現した。
図4C及び図4Dの結果から分かるように、血管内腔を囲む細胞は、ルシフェラーゼ及び内皮細胞マーカーvWF又はlamininを共発現した。
【0047】
本発明の成体多能性嗅幹細胞がインビボで内胚葉の細胞に分化できるかを更に確認するために、本試験例において、更に106のhAPOSC-Lucを新生(2日目)のマウスの肝臓に経皮的に注射し、移植した6週間後にマウスを犠牲にし、肝臓組織を採取して肝細胞により合成されたアルブミンを免疫蛍光染色で標識し、移植された成体多能性嗅幹細胞がhAPOSC-Lucで肝細胞に分化したかを確認した。
図4Eを参照すると、本発明のヒト成体多能性嗅幹細胞がマウスの体で肝細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
図4Eの結果から分かるように、マウス肝臓組織でルシフェラーゼ及びアルブミンを共発現する肝細胞を検出することができる。上記結果から分かるように、マウスの脳内に移植したhAPOSC-Lucは確実に外胚葉細胞(ニューロン及びグリア細胞)、中胚葉細胞(内皮細胞)及び内胚葉細胞(肝細胞)に分化することができた。
【0048】
図5A図5Dをまた参照すると、マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞がマウスの体で異なる胚葉の組織細胞に分化する様子を示す顕微鏡写真図である。
マウス成体多能性嗅幹細胞(mAPOSC-GFP)がGFPトランスジェニックマウスから分離されるので、蛍光が標定され、他の試験工程については、上記と同じであるので、ここで説明しない。
図5A図5Dの結果から分かるように、移植したmAPOSC-GFPも脳卒中マウスの半陰影領域に移行して、ニューロン(MAP2+及びNestin+)又は内皮細胞(vWF+及びlaminin+)に分化した。
【0049】
(1.5.成体多能性嗅幹細胞は成人及びラット嗅上皮の基底層に由来する)
前記の試験例から分かるように、本発明の成体多能性嗅幹細胞が複数の特殊の多能性マーカーを発現するので、本試験では、特殊の多能性マーカーによって成体多能性嗅幹細胞のインビボでの分布、及び嗅粘膜組織(olfactory mucosa: OM)における内在性成体多能性嗅幹細胞位置(niche)を更に検討した。
【0050】
図6A(1)の部分を参照すると、ヒト嗅粘膜組織の細胞形態を示す模式図であり、OEは嗅粘膜(olfactory mucosa)を示し、BMは基底膜(basal membrane)を示し、LPは固有層(lamina propria)を示し、GBCは球状基底細胞(globose basal cell)を示し、及びHBCは水平基底細胞(horizontal basal cell)を示した。
図6Aの結果から分かるように、水平基底細胞及び球状基底細胞は、依然としてヒト嗅粘膜組織の生体組織切片に残されるが、他の細胞タイプは生体組織切片に完璧に残ることができない。
水平基底細胞は基底膜に隣接する箇所(点線で示す)に存在し、固有層は嗅粘膜の下に存在した。
図6A(2)~(7)の部分をまた参照すると、ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞のインビボの分布結果図である。
試験上で免疫蛍光染色によってヒト成体多能性嗅幹細胞の発現するマーカーNanog、Sox-2、Oct-4及びSSEA-4、及び基底細胞マーカーK14(cytokeratin 14)を標定した。
図6A(2)~(5)の結果から分かるように、ヒト嗅粘膜組織において、Nanog(細胞核における蛍光)、Sox-2(細胞核における蛍光)、Oct-4(核小体及び細胞質における蛍光)及びSSEA-4(細胞膜における蛍光)の何れもK14(細胞質における蛍光)と共発現し、Nanog、Sox-2、Oct-4及びSSEA-4を発現する細胞が嗅粘膜の基底層に分布することが示された。また、図6A(6)及び(7)の結果から分かるように、基底層に分布される細胞はSSEA-4及びNanogを共発現し、及びSox-2及びNanogを共発現した。
【0051】
ヒト嗅粘膜組織において、水平基底細胞及び球状基底細胞の何れもK14を発現し、且つ丸い細胞体を有するが、マウス嗅組織において水平基底細胞のみがK14を発現し且つフラット/水平形態になることと異なった。
成体多能性嗅幹細胞の位置を精確に同定するために、本試験例において、更にマウス成体多能性嗅幹細胞のインビボにおける分布状態を同定した。
図6B(1)の部分を参照すると、マウス嗅組織の細胞形態を示す模式図であり、OEは嗅粘膜を示し、BMは基底膜を示し、LPは固有層を示し、GBCは球状基底細胞を示し、HBCは水平基底細胞を示し、ORNは嗅覚ニューロン(olfactory receptor neurons)を示し、Susは支持細胞(sustentacular cells)を示した。
また図6B(2)~(4)の部分を参照すると、マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞のインビボの分布結果図であり、試験上で免疫蛍光染色によってマウス成体多能性嗅幹細胞の発現するマーカーNanog、Sox-2及びOct-4、及び基底細胞マーカーK14を標定した。
図6B(2)~(4)の結果から分かるように、マウス嗅組織において、Nanog、Sox-2及びOct-4の何れもK14と共発現し、Nanog、Sox-2及びOct-4を発現する細胞が嗅粘膜の基底層に分布されることを示した。
【0052】
また図6Cを参照すると、インビトロで培養された成体多能性嗅幹細胞の基底細胞マーカー発現の分析結果図であり、分析された細胞はインビトロで培養された成体多能性嗅幹細胞及び成体多能性嗅幹細胞球を含み、分析された基底細胞マーカーはK14及びICAM-1(Intercellular Adhesion Molecule 1)であり、図6C(1)~(3)の結果から分かるように、インビトロで培養された成体多能性嗅幹細胞及び成体多能性嗅幹細胞球の何れもK14又はICAM-1を発現した。
また図6C(4)の結果から分かるように、成体多能性嗅幹細胞がニューロンに分化するように誘導されると、ニューロンマーカーTuj-1を発現するが基底細胞マーカーK14を発現しない。
上記結果から分かるように、ヒト成体多能性嗅幹細胞とマウス成体多能性嗅幹細胞の何れも嗅粘膜の基底層に存在した。
【0053】
(1.6.Bmi-1の成体多能性嗅幹細胞の自己再生能力に対する必要性)
本試験例は、更にBmi-1が成体多能性嗅幹細胞の自己再生能力を維持する作用メカニズムを検討した。
図7A図7Cを参照されたい。
図7Aは、インビトロで培養された成体多能性嗅幹細胞のBmi-1発現の分析結果図である。図7Bは、ヒト嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞のBmi-1発現の分析結果図である。
図7Cは、マウス嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞のBmi-1発現の分析結果図である。
図7Aにおいて、(1)は付着培養の成体多能性嗅幹細胞であり、(2)は3次元培養で形成された成体多能性嗅幹細胞球であり、蛍光はBmi-1の信号であり、DAPIで細胞核を示し、インビトロで培養された成体多能性嗅幹細胞及び成体多能性嗅幹細胞球の何れもBmi-1を発現することが見られた。
図7B及び図7Cの結果から分かるように、ヒトの嗅粘膜組織及びマウスの嗅組織において、Bmi-1は明らかに成体多能性嗅幹細胞の細胞核に発現され、且つ多能性マーカーNanog、Sox-2及びOct-4及び基底細胞マーカーK14と共発現した。
また、図7C(1)の結果から分かるように、大量のBmi-1が嗅覚ニューロンにマルチコムファミリー体として蓄積して、この結果が従来の研究に指摘された成熟脳及び眼組織における有糸分裂後のニューロンがBmi-1を発現することと一致であった。
図7B及び図7Cの結果からも分かるように、水平基底細胞及び嗅覚ニューロンに加え、球状基底細胞及び支持細胞にわずかなBmi-1を観察した。
上記結果から分かるように、本発明の成体多能性嗅幹細胞は、胚性幹細胞の多能性マーカーを発現するだけでなく、成体幹細胞のBmi-1遺伝子も発現した。
【0054】
本試験例は、更にBmi-1の発現による成体多能性嗅幹細胞への影響を検討した。
試験上でそれぞれBmi-1+/+マウス及びBmi-1-/-マウスの嗅組織を取って、免疫蛍光染色によってBmi-1の発現及び増殖マーカーKi67の発現を調べた。
まず図8A(1)を参照すると、Bmi-1+/+嗅組織及びBmi-1-/-嗅組織のBmi-1及びKi67の発現である。
Bmi-1-/-嗅組織における嗅粘膜にBmi-1及びKi67の発現が検出されなかったが、Bmi-1+/+嗅組織にBmi-1及びKi67の発現が検出され、Bmi-1を発現する基底細胞が増殖活性を有することが判明された。
【0055】
従って、本試験例において、更にBmi-1の発現が自然の位置に位置する成体多能性嗅幹細胞の自己再生に影響を与えるかを検討した。
試験上でそれぞれBmi-1+/+マウス及びBmi-1-/-マウスの嗅神経上皮に対して損傷誘発を行って、またBmi-1の発現が成体多能性嗅幹細胞の自己再生に影響を与えるかを観察した。
損傷誘発試験としては、50μg/gのメチマゾール(methimazole: Sigma)をマウスの体に腹腔内注射し、3日間後に嗅組織を固定し免疫蛍光染色によって増殖マーカーKi67、基底細胞マーカーK14、ニューロンマーカーTuj1及びNeuroD1の発現を検出して、基底細胞の増殖を成体多能性嗅幹細胞の自己再生の指示とした。
図8A(2)~(6)の部分を参照すると、(2)は損傷誘発試験処理のされていない嗅組織であり、(3)は損傷誘発試験処理のされた嗅組織であった。
(4)はTuj1及びK14二重染色の結果であり、DAPIで細胞核の位置をマークした。
(5)はNeuroD1の染色結果であり、DAPIで細胞核の位置をマークした。
(6)は(3)~(5)染色結果の統計図であり、*はP<0.05を示した。
図8A(2)の結果から分かるように、わずかな基底細胞(K14+)が自発的に増殖し、図8A(3)~(6)の結果から分かるように、損傷誘発試験による再生研究で、化学的損傷(例えばメチマゾール)による嗅覚ニューロン破壊が基底細胞の増殖及び分化を刺激してニューロン損失を置換した。
Bmi-1+/+嗅組織と比べると、Bmi-1-/-嗅組織は、損傷誘発試験処理をされた後で、増殖した成体多能性嗅幹細胞の数が著しく減少した。
Ki67+K14+の細胞数を計算した統計結果から分かるように、損傷誘発後の3日間、79%のBmi-1+/+基底細胞が増殖するように刺激されたが、ただ32%のBmi-1-/-基底細胞が増殖するように刺激された。
またBmi-1-/-嗅組織に、未熟感覚ニューロンマーカーTuj-1及びニューロン前駆体マーカーNeuroD1の発現が著しく減少したこと及び形態の改変が見られた。
【0056】
従来の研究によると、Bmi-1は初期細胞老化及び異常な細胞死を阻害することで成体組織幹細胞の多能性を維持するので、本試験例で、更にBmi-1が成体多能性嗅幹細胞において同じ役割を果たすかを検討した。
試験上で、加齢関連ガラクトシダーゼ分析(senescence-associated(SA) β-galactosidase(β-Gal) activity assay)によって、Bmi-1+/+嗅組織及びBmi-1-/-嗅組織において老化マーカーβ-ガラクトシダーゼがpH6での活性を検出した。
図8B(1)~(3)を参照すると、加齢関連ガラクトシダーゼ分析の結果図であり、(1)はヘマトキシリン‐エオシン染色(HE Stain)のされた嗅組織である。
(2)はSA-β-Gal染色のされた成年マウス(8週間)の嗅組織であり、染色された部分がβ-ガラクトシダーゼ活性を示し、点線は基底膜の位置を示した。
図8Bの結果から分かるように、Bmi-1-/-嗅組織における成体多能性嗅幹細胞が存在する基底膜及び嗅覚ニューロンに染色された細胞が見られ、老化発現型(phenotype)の細胞であることを示し、Bmi-1+/+嗅組織において染色された細胞は少なかった。
また図8Cを参照すると、Bmi-1+/+嗅組織及びBmi-1-/-嗅組織のp16Ink4aの逆転写PCRの定量結果図であり、*はP<0.05を示した。
p16Ink4a遺伝子は、細胞周期の正常な動作及び細胞増殖、分化及びアポトーシスを決める遺伝子であり、p16Ink4aの発現が増加すると、細胞老化が誘導された。
図8Cの結果から分かるように、Bmi-1-/-嗅組織において、p16Ink4a遺伝子の発現は著しい正の調節を受けた。
【0057】
本試験例で更にBmi-1+/+嗅組織及びBmi-1-/-嗅組織から分離された成体多能性嗅幹細胞の発現型を検出した。
試験上でBmi-1+/+嗅組織及びBmi-1-/-嗅組織によって成体多能性嗅幹細胞を調製し、同様にSA-β-Gal染色によってBmi-1+/+成体多能性嗅幹細胞及びBmi-1-/-成体多能性嗅幹細胞における老化マーカーβ-ガラクトシダーゼがpH6での活性を検出した。
図8B(3)及び(4)及び図8Dを参照されたい。
図8B(3)は成体多能性嗅幹細胞が明視野での顕微鏡写真図である。
図8B(4)はSA-β-Gal染色された成体多能性嗅幹細胞である。
図8DはBmi-1+/+成体多能性嗅幹細胞及びBmi-1-/-成体多能性嗅幹細胞の拡大指数図である。
図8B(3)及び(4)及び図8Dの結果から分かるように、インビトロで培養されたBmi-1-/-成体多能性嗅幹細胞が21日間後に分裂を停止し、且つ平坦で拡大した細胞型を有し、初期の老化を示し、且つ40%±5%のBmi-1-/-成体多能性嗅幹細胞が大量の老化と関連するβ-ガラクトシダーゼを発現した。
比べると、Bmi-1+/+成体多能性嗅幹細胞は、32日間以上分裂を保持し、大部分の細胞が紡錘状の形態を保持し、且つただ16%±1%のBmi-1+/+成体多能性嗅幹細胞がβ-ガラクトシダーゼを発現した。
【0058】
Bmi-1の発現が成体多能性嗅幹細胞の老化に影響を与えることを再び証明するために、試験上でまたレンチウイルスによって標的Bmi-1のshRNA(LV-Bmi-1-sh: sc-29815-V: Santa Cruz Biotechnology)をヒトから分離された成体多能性嗅幹細胞(LV-Bmi-1-sh-hAPOSC)に導入して、成体多能性嗅幹細胞におけるBmi-1の発現を低下させ、試験上で、またレンチウイルスによってそれぞれ制御群のshRNA(LV-control-sh: sc-108080: Santa Cruz Biotechnology)をヒト成体多能性嗅幹細胞(LV-control-sh-hAPOSC)に導入して試験対照群とした。
図8Eを参照すると、shRNAの導入されたヒト成体多能性嗅幹細胞の拡大指数図である。
図8Eの結果から分かるように、ヒト成体多能性嗅幹細胞におけるBmi-1発現がshRNAによって制御される場合、ヒト成体多能性嗅幹細胞の長期的な拡大能力が大幅に削減した。
また、TUNELによって測定すると、Bmi-1-/-嗅粘膜組織における細胞アポトーシスの増加(データが示せず)が検出されなかった。
以上の結果から分かるように、Bmi-1の発現は、成体多能性嗅幹細胞の自己再生能力に影響を与え、且つBmi-1はアポトーシスではなく早期の細胞老化を阻害することで成体多能性嗅幹細胞の自己再生能力を調節した。
【0059】
(二、本発明の成体多能性嗅幹細胞が脳組織の損傷の治療に用いられる)
前記から分かるように、本発明の成体多能性嗅幹細胞は、自己再生能力及び多能性分化能力を有し、且つ神経原性及び血管新生能を示し、この部分の試験例では、本発明の成体多能性嗅幹細胞が脳組織の損傷された個体の治療に用いられる効果及び潜在力を検討した。
【0060】
(2.1.成体多能性嗅幹細胞の移植は、脳卒中ラットの梗塞体積サイズを小さくし脳卒中ラットモデルの神経行動を改善することができる)
試験上で脳卒中マウスが脳虚血後の1週に、106のmAPOSC-GFPを脳卒中マウスの脳に定位的注入し、4週後に脳卒中マウスの脳虚血後の梗塞体積を検査し、神経学的欠損モードによって脳卒中前後の神経行動を検出して、神経機能が回復したかを評価した。
【0061】
試験上でmAPOSC-GFPを移植した後の28日間の脳卒中マウスを犠牲にしてその脳組織を取り、脳組織切片に対してHE染色を行った。
右皮質における梗塞体積を測定するために、試験上で左半球の全皮層領域から右皮質の非梗塞領域を差し引き、分析ソフトウェア(NIH Image J)によって梗塞体積を計算した。
図9A及び図9Bを参照されたい。
図9Aは、成体多能性嗅幹細胞を移植した脳卒中マウスの脳組織梗塞体積図である。
9Bは、図9Aの統計結果図である。
図9A及び図9Bの結果から分かるように、mAPOSC-GFPの移植された脳卒中マウスが対照群の脳卒中マウス(mAPOSC-GFPを移植しなかった)と比べると、その脳組織の梗塞体積が著しく減少した。
【0062】
神経行動の検出時間点は、脳虚血/再灌流後の第6日間~第28日間であった。
神経学的欠損モデルは、マウスの移動能力を評価するためのものであった。
マウスの移動能力については、VersaMax動物移動モニタリングシステム(Accuscan Instruments)によってラットを2時間検出した。
VersaMax動物移動モニタリングシステムは、16個の水平赤外線センサー及び8個の垂直型赤外線センサーを含み、垂直センサーがそれぞれチャンバーの底板から10cmの上方に位置し、ラットの移動能力運動についてはチャンバー内のラットが運動によりビームを遮る回数で定量化した。
垂直移動、垂直移動時間及び垂直運動数量の3つの垂直運動パラメータを測定した。
【0063】
図9C図9Eを参照されたい。
図9Cは、脳卒中マウスの垂直活動試験の結果図である。
図9Dは、脳卒中マウスの垂直運動数量試験の結果図である。図9Eは、脳卒中マウスの垂直活動時間試験の結果図である。
図9C図9Eの結果から分かるように、対照群脳卒中マウスと比べると、mAPOSC-GFP移植を受けた脳卒中マウスは、脳虚血後の第6日間~第28日間の間の運動移動が垂直移動を含み、垂直運動数量及び垂直運動時間の何れも著しく増加した。
【0064】
mAPOSC-GFPの移植が脳卒中マウスの脳における血管新生を誘導できるかを確定するために、試験上で免疫蛍光染色法によってCD31の発現量を定量化して血管密度を測定した。
図9Fを参照すると、mAPOSC-GFPの移植された脳卒中マウスの脳組織におけるCD31発現の結果図である。
図9Fの結果から分かるように、mAPOSC-GFPの移植された脳卒中マウスは対照群の脳卒中マウスと比べると、その半陰影領域における新たに生成された血管数量が著しく増加した。
【0065】
上記結果から分かるように、本発明の成体多能性嗅幹細胞を移植することで脳卒中マウスの神経機能を明らかに改善することができ、また移植された成体多能性嗅幹細胞が明らかに脳卒中マウスの脳に移行され、且つ幹細胞が脳卒中の縁に移行される現象があり、損傷領域の神経細胞を更に修復した。
【0066】
(2.2.成体多能性嗅幹細胞の植入された脳卒中患者を追跡する)
臨床的治療において、自己成体多能性嗅幹細胞を移植して脳卒中誘発性神経機能障害を改善することの安全性及び実行可能性を確認するために、本試験で、中国医科大学付属病院のヒト試験委員会(Institutional Review Board)の承認を得た人体試験を行い、被験者は合計6人であった。
【0067】
下記表1及び図10Aを参照されたい。
表1は、被験者の臨床的特徴及び本発明の成体多能性嗅幹細胞の移植条件である。
図10Aは、被験者の磁気共鳴イメージング図である。
この臨床試験では、被験者として、35歳~70歳の間に発病した成人である長年の脳卒中患者を選択し、且つ磁気共鳴イメージングでは大脳動脈領域の血管分布(M1及びM2位置)が梗塞した者を主とし(出血性脳卒中を除く)、且つそのNIHSS(NIH stroke scale)が5~15分間の範囲内に位置決めされた。
移植された細胞は、被験者の自己嗅粘膜組織から分離された成体多能性嗅幹細胞であり、移植された細胞量が2×106の細胞であり、後で1~3ヶ月ごとに細胞移植後の被験者の状態を追跡し、追跡期間が12ヵ月であった。
また、独立した安全委員会によってテストの結果を監視し、そのモニタリングプログラムは有害反応の頻度を含んだ。
本試験では、フーグリッド‐マイヤー評価尺度(Fugl-Meyer Assessment)による成体多能性嗅幹細胞を植入した後の6ヵ月及び12ヵ月の臨床スコアは、主効能の評価指標(primary end points)であった。
12ヵ月の追跡期間で、6人の被験者のいずれも全身又は局所の有害反応がなく、本発明の成体多能性嗅幹細胞を移植した治療計画の安全性及び実行可能性に関する予備的証拠を提供した。
【表1】
【0068】
また、図10Bを参照すると、1人の被験者の核磁気共鳴拡散テンソル画像図であり、大脳組織における水分子の拡散状況を観察し、水分子の拡散方向によって大脳の組織構造及び神経繊維配向方向を評価した。
水分子はインビボで3次元方向で自由に拡散し、水分子の拡散する方向が周囲組織の透過性、神経軸索方向、ひいては細胞内微小管の解重合(microtubule depolymerization)からの影響を受けた。
水分子の異方性(anisotropy、つまり水分子が一方向に拡散するか)を観察することで、神経白質の微細構造に変化があるかを推測することができる。
非等方性指数(fractional anisotropy: FA)は、水分子の拡散テンソルのサイズ及び水分子拡散の方向性の代表として使用することができ、FAの値は0~1の間にあり、値が大きいほど、この部分の水分子は単一の方向に拡散したことを示した。
図10Bの結果から分かるように、被験者は、本発明の成体多能性嗅幹細胞を移植しない前に(BT)そのFAが0.47であり、本発明の成体多能性嗅幹細胞を移植した6ヵ月後に(6AT)そのFAが0.39であり、本発明の成体多能性嗅幹細胞を移植した12ヵ月後に(12AT)そのFAが0.33であり、本発明の成体多能性嗅幹細胞を移植した後で被験者の皮質脊髄線維の数が著しく増加されたことが判明された。
【0069】
線形相関分析によって被験体の臨床的改善及び成体多能性嗅幹細胞におけるBmi-1の発現との関係を観察した。
図10Cを参照すると、Bmi-1の相対的発現量及びフーグリッド‐マイヤー量(FMT)スコア改善百分率との相関図である。
結果から分かるように、成体多能性嗅幹細胞を植入した12ヵ月後に測定されたFMTスコア改善百分率とBmi-1の相対的発現量とは、高い相関性(相関係数:r=0.97: p<0.001)を有した。
上記結果から分かるように、高Bmi-1発現を有する自己成体多能性嗅幹細胞の被験者は、低Bmi-1発現を有する自己成体多能性嗅幹細胞の被験者よりも優れた臨床的結果を有した。
【0070】
以上をまとめると、本発明の単離された成体多能性嗅幹細胞は、細胞表面でBmi-1及び多能性マーカーOct-4、Sox-2、Nanog及びSSEA-4を発現し、それが自己再生及び多能性分化の特性を有した。
本発明の多能性を有する成体嗅幹細胞の分離方法によれば、哺乳動物の嗅組織由来の細胞混合物から、Oct-4、Sox-2、Nanog及びSSEA-4等の多能性マーカー陽性細胞を選別し、好ましくは、更にBmi-1陽性細胞を選別することができ、選別された細胞が多能性分化能力を有する成体嗅幹細胞であるため、多能性の成体嗅幹細胞を専門的に精製することができる。
本発明の単離された成体多能性嗅幹細胞を細胞の治療に用いる時に、個体の脳組織の損傷の治療に用いられてよく、更に、個体の脳組織の損傷を治療する部分で、本発明の単離された間葉系幹細胞は、脳組織の損傷された個体の神経機能を改善することができ、移植された成体多能性嗅幹細胞が脳の損傷部位に移行して、更に損傷部位の神経細胞を修繕し、脳卒における梗塞体積を小さくすることができるため、脳組織の損傷の個体の治療に用いられることができる。
【0071】
本発明を実施形態により前記の通りに開示したが、これは本発明を限定するものではなく、当業者なら誰でも、本発明の精神と領域から逸脱しない限り、多様の変更や修飾を加えることができる。
従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲で指定した内容を基準とするものである。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図10A
図10B
図10C