(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】ダイオード、受電装置および電力伝送システム
(51)【国際特許分類】
H01L 29/861 20060101AFI20220104BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20220104BHJP
H01L 21/28 20060101ALI20220104BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
H01L29/91 H
H01L21/28 301B
H01L21/28 301R
H01L29/06 301F
H01L29/91 F
(21)【出願番号】P 2021107207
(22)【出願日】2021-06-29
【審査請求日】2021-06-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301041553
【氏名又は名称】株式会社パウデック
(74)【代理人】
【識別番号】100120640
【氏名又は名称】森 幸一
(72)【発明者】
【氏名】河合 弘治
(72)【発明者】
【氏名】八木 修一
(72)【発明者】
【氏名】成井 啓修
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2017/159559(JP,A1)
【文献】国際公開第2020/188846(WO,A1)
【文献】特開2014-093853(JP,A)
【文献】特開2011-228428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/337、21/338、
27/085、27/098、
29/778、29/80-29/812、
H02J 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンドープGaN層と、
上記アンドープGaN層上のAl
x Ga
1-x N層(0<x<1)と、
上記Al
x Ga
1-x N層上の、島状の形状を有する、Mgがドープされたp型In
y Ga
1-y N層(0<y<1)と、
上記p型In
y Ga
1-y N層上の金属電極と、
上記Al
x Ga
1-x N層上に上記金属電極と電気的に接続されて設けられたアノード電極と、
上記Al
x Ga
1-x N層上の、上記p型In
y Ga
1-y N層に関して上記アノード電極と反対側の部分に設けられたカソード電極と、
を有し、
上記アノード電極は上記Al
x Ga
1-x N層上から上記金属電極上に延在するように設けられているダイオード。
【請求項2】
非動作時において、上記p型In
y Ga
1-y N層の下方の部分を除いて、上記Al
x Ga
1-x N層と上記アンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分における上記アンドープGaN層に2次元電子ガスが形成されている請求項1記載のダイオード。
【請求項3】
順方向立ち上がり電圧をV
onと表したとき、0[V]<V
on<1.0[V]である請求項2記載のダイオード。
【請求項4】
上記Al
x Ga
1-x N層の厚さをt
Al、上記p型In
y Ga
1-y N層の厚さをt
In、Mg濃度を[Mg]と表したとき、
0.1<x<0.3
10[nm]<t
Al<40[nm]
0.05<y<0.25
2[nm]<t
In<20[nm]
1×10
19[cm
-3]<[Mg]<1×10
21[cm
-3]
である請求項3記載のダイオード。
【請求項5】
上記金属電極の上記カソード電極側の端部と上記p型In
y Ga
1-y N層との間に絶縁層が、上記p型In
y Ga
1-y N層と上記カソード電極との間の部分の上記Al
x Ga
1-x N層上に延在するように設けられている請求項1~4のいずれか一項記載のダイオード。
【請求項6】
高周波電波を受信する受電回路を有し、
上記受電回路は高周波電波を直流に変換する整流用ダイオードを有し、
上記整流用ダイオードは、
アンドープGaN層と、
上記アンドープGaN層上のAl
x Ga
1-x N層(0<x<1)と、
上記Al
x Ga
1-x N層上の、島状の形状を有する、Mgがドープされたp型In
y Ga
1-y N層(0<y<1)と、
上記p型In
y Ga
1-y N層上の金属電極と、
上記Al
x Ga
1-x N層上に上記金属電極と電気的に接続されて設けられたアノード電極と、
上記Al
x Ga
1-x N層上の、上記p型In
y Ga
1-y N層に関して上記アノード電極と反対側の部分に設けられたカソード電極と、
を有
し、
上記アノード電極は上記Al
x
Ga
1-x
N層上から上記金属電極上に延在するように設けられているダイオード
である受電装置。
【請求項7】
高周波電波を送信する送電回路と高周波電波を受信する受電回路とを有し、
上記受電回路は高周波電波を直流に変換する整流用ダイオードを有し、
上記整流用ダイオードは、
アンドープGaN層と、
上記アンドープGaN層上のAl
x Ga
1-x N層(0<x<1)と、
上記Al
x Ga
1-x N層上の、島状の形状を有する、Mgがドープされたp型In
y Ga
1-y N層(0<y<1)と、
上記p型In
y Ga
1-y N層上の金属電極と、
上記Al
x Ga
1-x N層上に上記金属電極と電気的に接続されて設けられたアノード電極と、
上記Al
x Ga
1-x N層上の、上記p型In
y Ga
1-y N層に関して上記アノード電極と反対側の部分に設けられたカソード電極と、
を有
し、
上記アノード電極は上記Al
x
Ga
1-x
N層上から上記金属電極上に延在するように設けられているダイオード
である電力伝送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダイオード、受電装置および電力伝送システムに関し、特に、高周波電波の整流用ダイオードに用いて好適な、窒化ガリウム(GaN)系半導体を用いたダイオードならびにこのダイオードを整流用ダイオードに用いた受電装置および電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波電波を直流に変換し、電力として取り出す技術があり、一つの方式としてレクテナ(rectenna(rectifying-antennaの略))方式がある。レクテナ回路は、アンテナ、マッチング回路および整流用のダイオードで構成されている。
【0003】
レクテナ技術の応用は、1.宇宙太陽光発電の地上側受電、2.物流RFIDタグの受電整流回路、3.非接触式ICカードの電力受電、4.大電力マイクロ波を利用する装置の電力回生、5.ミリ波・テラヘルツ波の高感度検出などがある。
【0004】
従来、レクテナ回路用のダイオードとしてGaN系半導体を用いたショットキーダイオードが知られている(非特許文献1)。このショットキーダイオードはフィンガー型(ストライプ型)ショットキーダイオードである。このフィンガー型ショットキーダイオードにおいては、半絶縁性SiC基板上にアクセス層としてn+ 型GaN層が積層され、その上にフィンガー形状の活性層としてn型GaN層が積層されている。この活性層上にフィンガー形状のアノード電極がショットキー接触している。活性層の両側の部分のアクセス層上にフィンガー形状のカソード電極がオーミック接触している。
【0005】
上述のフィンガー型ショットキーダイオードにおいては、アノード電極近傍の、整流特性に重要な役割を果たす活性層とは別に、カソード電極から活性層までのアクセス領域、すなわちアクセス層が存在し、その抵抗がオン抵抗を増加させるという問題がある。オン抵抗に寄与する抵抗のうち活性層の部分の抵抗は、使用する周波数や耐圧との関係で自由に決めることはできないが、オン抵抗の低減を図るためにはアクセス層の抵抗はできるだけ小さくすることが望ましい。また、耐圧を上げるためには、寄生容量を低く保つ必要から、フィールドプレートなどの、容量が増えるような高耐圧化構造は使えない。
【0006】
そこで、このような課題を解決するために、特許文献1、2に記載のショットキーダイオードが提案されている。特許文献1記載のショットキーダイオードは、GaN系半導体層の片側に設けられたアノード電極およびカソード電極を有し、アノード電極は複数に分割され、分割された各アノード電極は金属配線により相互に接続され、分割された各アノード電極はカソード電極により囲まれ、分割された各アノード電極は縦横比が5以下の形状を有する。また、特許文献2記載のショットキーダイオードは、GaN系半導体層と、GaN系半導体層上にGaN系半導体層とショットキー接触して設けられたアノード電極とを有し、アノード電極が、GaN系半導体層上にGaN系半導体層と接触して設けられたTiN層と、TiN層上にTiN層と接触して設けられた、GaN系半導体層とショットキー接触可能な金属からなる密着層と、密着層上に密着層と接触して設けられた抵抗低減用金属層とを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5828435号公報
【文献】特許第5669119号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】電子情報通信学会技術報告、WPT2011-27(2012-03)、「GaN SBDとオープンリング共振器を用いた非接触型マイクロ波電力伝送」内田他
【文献】Mizutani et al.,“AlGaN/GaN HEMTs with thin InGaN cap layerfor normally-off operation”,IEEE Electron Device Letters, Vol.28, No.7,pp.549-551,July(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、非特許文献1記載の従来のフィンガー型ショットキーダイオードも特許文献1、2記載のショットキーダイオードも、効率および動作速度の点で未だ改善の余地がある。
【0010】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、高効率かつ超高速のダイオードを提供することである。
【0011】
この発明が解決しようとする他の課題は、上記のダイオードを高周波電波の整流用ダイオードに用いた高性能の受電装置および電力伝送システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、この発明は、
アンドープGaN層と、
上記アンドープGaN層上のAlx Ga1-x N層(0<x<1)と、
上記Alx Ga1-x N層上の、島状の形状を有する、Mgがドープされたp型Iny Ga1-y N層(0<y<1)と、
上記p型Iny Ga1-y N層上の金属電極と、
上記Alx Ga1-x N層上に上記金属電極と電気的に接続されて設けられたアノード電極と、
上記Alx Ga1-x N層上の、上記p型Iny Ga1-y N層に関して上記アノード電極と反対側の部分に設けられたカソード電極と、
を有するダイオードである。
【0013】
このダイオードにおいては、非動作時(熱平衡時)、すなわち0[V]-バイアス時において、p型Iny Ga1-y N層の下方の部分(活性領域)を除いて、Alx Ga1-x N層とアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層に2次元電子ガスが形成されている。言い換えると、Alx Ga1-x N層とアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層に形成される2次元電子ガスは、p型Iny Ga1-y N層の下方の部分において枯渇している(2次元電子ガス濃度がほぼ0(<1011[cm-2]))。このため、後に詳述するように、このダイオードの容量は実質的にフリンジ容量のみとなる結果、容量の大幅な低減を図ることができる。このダイオードの順方向立ち上がり電圧(オン電圧)をVonと表したとき、0[V]<Von<1.0[V]とすることができる。カソード電極に対してアノード電極にVon以上の電圧が印加されない状態では、p型Iny Ga1-y N層の下方の部分において2次元電子ガスが枯渇していることによりダイオードはオフであるが、カソード電極に対してアノード電極にVon以上の電圧が印加されると、p型Iny Ga1-y N層の下方の部分(活性領域)に2次元電子ガスが誘起されることにより、アノード電極とカソード電極とを接続するように2次元電子ガスからなるチャネルが形成されてオンとなる。
【0014】
このダイオードにおいては、Alx Ga1-x N層の厚さをtAl、p型Iny Ga1-y N層の厚さをtIn、p型Iny Ga1-y N層にドープされているMgの濃度を[Mg]と表したとき、典型的には、
0.1<x<0.3
10[nm]<tAl<40[nm]
0.05<y<0.25
2[nm]<tIn<20[nm]
1×1019[cm-3]<[Mg]<1×1021[cm-3]
であるが、これに限定されるものではない。xおよびtAlを上述のように選ぶ理由は概略次の通りである。すなわち、Alx Ga1-x N層とアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層に形成される2次元電子ガスの濃度は一次的には(表面効果を無視すれば)、分極電荷によって決まる。典型的な例では、x=0.25、tAl=25[nm]で2次元電子ガスの濃度は1013[cm-2]程度であるが、0.1<x<0.3かつ10[nm]<tAl<40[nm]とすることで概ね同程度の2次元電子ガスの濃度が得られる。また、y、tInおよび[Mg]を上述のように選ぶ理由は概略次の通りである。すなわち、p型Iny Ga1-y N層については、Inの固溶限界および下地のAlx Ga1-x N層との格子定数のミスマッチがあり、層中のIn総量によってyおよびtInは制限される。実験的にはIn総量は0.25(25[%])×5[nm]以下となるが、0.05<y<0.25かつ2[nm]<tIn<20[nm]とすることでこの条件が満たされる。また、GaNやAlx Ga1-x NへのMgの添加量は、実用的には最大でも1×1021[cm-3]程度以下であり、Iny Ga1-y NへのMgの添加量も同程度である。これ以上のMgの添加はMgの偏析を招き、層中または表面に現れる。一方、Mgの添加量が1×1019[cm-3]より少ないとp型Iny Ga1-y N層のシート抵抗が高くなり過ぎる。このため、1×1019[cm-3]<[Mg]<1×1021[cm-3]としている。
【0015】
Alx Ga1-x N層は、典型的にはアンドープであるが、ドナー(n型不純物)またはアクセプタ(p型不純物)がドープされたn型またはp型のAlx Ga1-x N層、例えばSiがドープされたn型Alx Ga1-x N層であってもよい。
【0016】
アノード電極およびカソード電極は、Alx Ga1-x N層とアンドープGaN層との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層に形成された2次元電子ガスとオーミック接触している。p型Iny Ga1-y N層上の金属電極は、p型Iny Ga1-y N層とオーミック接触している。アノード電極は、例えば、Alx Ga1-x N層上からp型Iny Ga1-y N層上の金属電極上に延在するように設けられることもあるし、Alx Ga1-x N層上にのみ設けられることもある。後者の場合、p型Iny Ga1-y N層上の金属電極はアノード電極上に延在するように設けられる。ここで、アノード電極と電気的に接続された金属電極はアノード電極の一部として機能する。
【0017】
また、この発明は、
高周波電波を受信する受電回路を有し、
上記受電回路は高周波電波を直流に変換する整流用ダイオードを有し、
上記整流用ダイオードは、
アンドープGaN層と、
上記アンドープGaN層上のAlx Ga1-x N層(0<x<1)と、
上記Alx Ga1-x N層上の、島状の形状を有する、Mgがドープされたp型Iny Ga1-y N層(0<y<1)と、
上記p型Iny Ga1-y N層上の金属電極と、
上記Alx Ga1-x N層上に上記金属電極と電気的に接続されて設けられたアノード電極と、
上記Alx Ga1-x N層上の、上記p型Iny Ga1-y N層に関して上記アノード電極と反対側の部分に設けられたカソード電極と、
を有するダイオード
である受電装置である。
【0018】
また、この発明は、
高周波電波を送信する送電回路と高周波電波を受信する受電回路とを有し、
上記受電回路は高周波電波を直流に変換する整流用ダイオードを有し、
上記整流用ダイオードは、
アンドープGaN層と、
上記アンドープGaN層上のAlx Ga1-x N層(0<x<1)と、
上記Alx Ga1-x N層上の、島状の形状を有する、Mgがドープされたp型Iny Ga1-y N層(0<y<1)と、
上記p型Iny Ga1-y N層上の金属電極と、
上記Alx Ga1-x N層上に上記金属電極と電気的に接続されて設けられたアノード電極と、
上記Alx Ga1-x N層上の、上記p型Iny Ga1-y N層に関して上記アノード電極と反対側の部分に設けられたカソード電極と、
を有するダイオード
である電力伝送システムである。
【0019】
上記の受電装置の発明および電力伝送システムの発明においては、その性質に反しない限り、上記のダイオードの発明に関連して説明したことが成立する。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、非動作時の活性領域およびその近傍における容量の大幅な低減により動作速度の大幅な向上を図ることができることにより超高速であり、しかも順方向立ち上がり電圧を従来のGaN系ショットキーダイオードに比べて低くすることができることにより高効率のダイオードを実現することができる。そして、この高効率かつ超高速のダイオードを整流用ダイオードに用いて高性能の受電装置および電力伝送システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】この発明の第1の実施の形態によるGaN系ダイオードの基本構造を示す断面図である。
【
図2】この発明の第1の実施の形態によるGaN系ダイオードのアノード電極と金属電極との間の接続の仕方の具体例を示す断面図である。
【
図3】この発明の第1の実施の形態によるGaN系ダイオードのアノード電極と金属電極との間の接続の仕方の他の具体例を示す断面図である。
【
図4A】この発明の第1の実施の形態によるGaN系ダイオードのエネルギーバンド図との比較のための従来のGaN系ショットキーダイオードのエネルギーバンド図である。
【
図4B】この発明の第1の実施の形態によるGaN系ダイオードのエネルギーバンド図である。
【
図5】この発明の第1の実施の形態によるGaN系ダイオードの電流-電圧特性を示す略線図である。
【
図6A】この発明の第1の実施の形態によるGaN系ダイオードの製造方法を説明するための断面図である。
【
図6B】この発明の第1の実施の形態によるGaN系ダイオードの製造方法を説明するための断面図である。
【
図6C】この発明の第1の実施の形態によるGaN系ダイオードの製造方法を説明するための断面図である。
【
図7】この発明の第1の実施の形態によるGaN系ダイオードの製造方法を説明するための平面図である。
【
図8】この発明の第1の実施の形態によるGaN系ダイオードの製造方法により製造されるGaN系ダイオードチップを示す平面図である。
【
図9A】この発明の第1の実施の形態によるGaN系ダイオードの容量を求めるために行ったシミュレーションに用いた数値計算用ダイオード構造を示す断面図である。
【
図9B】この発明の第1の実施の形態によるGaN系ダイオードの容量を求めるために行ったシミュレーションに用いた数値計算用ダイオード構造を示す平面図である。
【
図10】
図9Aおよび
図9Bに示す数値計算用ダイオード構造を用いて数値計算を行うことにより求められた電位分布を示す略線図である。
【
図11】
図9Aおよび
図9Bに示す数値計算用ダイオード構造を用いて数値計算を行うことにより求められた電位分布の一部を拡大して示す略線図である。
【
図12】この発明の第2の実施の形態によるGaN系ダイオードの基本構造を示す断面図である。
【
図13】この発明の第2の実施の形態によるGaN系ダイオードのアノード電極と金属電極との間の接続の仕方の具体例を示す断面図である。
【
図14】この発明の第2の実施の形態によるGaN系ダイオードのアノード電極と金属電極との間の接続の仕方の他の具体例を示す断面図である。
【
図15】この発明の第2の実施の形態によるGaN系ダイオードの製造方法を説明するための断面図である。
【
図16A】この発明の第2の実施の形態によるGaN系ダイオードの容量を求めるために行ったシミュレーションに用いた数値計算用ダイオード構造を示す断面図である。
【
図16B】この発明の第2の実施の形態によるGaN系ダイオードの容量を求めるために行ったシミュレーションに用いた数値計算用ダイオード構造を示す平面図である。
【
図17】
図16Aおよび
図16Bに示す数値計算用ダイオード構造を用いて数値計算を行うことにより求められた電位分布を示す略線図である。
【
図18】
図16Aおよび
図16Bに示す数値計算用ダイオード構造を用いて数値計算を行うことにより求められた電位分布の一部を拡大して示す略線図である。
【
図19】この発明の第3の実施の形態による受電装置を示す略線図である。
【
図20】この発明の第4の実施の形態による電力伝送システムを示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」と言う。)について説明する。
【0023】
〈第1の実施の形態〉
[GaN系ダイオード]
第1の実施の形態によるGaN系ダイオードについて説明する。このGaN系ダイオードの基本構造を
図1に示す。
【0024】
図1に示すように、このGaN系ダイオードにおいては、アンドープGaN層11、Al
x Ga
1-x N層12およびMgがドープされたp型In
y Ga
1-y N層13が順次積層されている。アンドープGaN層11の厚さは必要に応じて選ばれるが、典型的には1[μm]以上2.5[μm]以下(例えば2[μm])である。Al
x Ga
1-x N層12のAl組成xは、典型的には0.1<x<0.3(例えば0.21)である。また、Al
x Ga
1-x N層12の厚さt
Alは、典型的には10[nm]<t
Al<40[nm](例えば20[nm])である。Al
x Ga
1-x N層12は典型的にはアンドープであるが、ドナー(n型不純物)またはアクセプタ(p型不純物)がドープされたn型またはp型のAl
x Ga
1-x N層であってもよい。p型In
y Ga
1-y N層13は一方向に延在するフィンガー状(ストライプ状)の平面形状を有する。p型In
y Ga
1-y N層13のフィンガー長L
g は必要に応じて選ばれるが、例えば0.5[μm]以上2[μm]以下(例えば1[μm])である。p型In
y Ga
1-y N層13のIn組成yは、典型的には0.05<y<0.25(例えば0.2)である。また、p型In
y Ga
1-y N層13の厚さt
Inは、典型的には2[nm]<t
In<20[nm](例えば5[nm])である。また、p型In
y Ga
1-y N層13のMg濃度[Mg]は、典型的には1×10
19[cm
-3]<[Mg]<1×10
21cm
-3(例えば1×10
20[cm
-3])である。
【0025】
p型In
y Ga
1-y N層13上には金属電極14が、このp型In
y Ga
1-y N層13とオーミック接触して設けられている。金属電極14は、p型In
y Ga
1-y N層13とオーミック接触するものであれば基本的にはどのようなものであってもよいが、例えば、Ti/Ni積層膜、Ti/Ni/Au積層膜、Ti/Pd積層膜などからなる。p型In
y Ga
1-y N層13に関して一方の側の部分のAl
x Ga
1-x N層12上に金属電極14と電気的に接続されてアノード電極15が設けられている。また、Al
x Ga
1-x N層12上の、p型In
y Ga
1-y N層13に関してアノード電極15と反対側の部分にカソード電極16が設けられている。アノード電極15と金属電極14との間の接続はどのように行ってもよいが、具体例を
図2および
図3に示す。
図2に示す例では、アノード電極15は、Al
x Ga
1-x N層12上から金属電極14上に延在して設けられている。この場合、アノード電極15は、金属電極14の一部の上に延在してもよいし、
図2中一点鎖線で示すように、金属電極14の全体の上に延在してもよい。
図3に示す例では、金属電極14はAl
x Ga
1-x N層12上を通ってアノード電極15上に延在している。
【0026】
このGaN系ダイオードにおいては、非動作時(熱平衡時)において、アンドープGaN層11とAlx Ga1-x N層12との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層12に2次元電子ガス(2DEG)17が形成されている。p型Iny Ga1-y N層13の直下の部分では2DEG17が枯渇していてその濃度がほぼ0(例えば<1×1011(cm-2))であり、空乏化領域18となっている。アノード電極15およびカソード電極16は、Alx Ga1-x N層12を介して2DEG17とオーミック接触している。アノード電極15およびカソード電極16は、2DEG17とオーミック接触する限り基本的にはどのようなものであってもよいが、例えば、Ti/Al/Au積層膜やTi/Al/Ni/Au積層膜などからなる。
【0027】
p型In
y Ga
1-y N層13の直下の部分で2DEG17が枯渇する理由は次の通りである。
図4Aは通常のAl
x Ga
1-x N/GaN HEMT(High Electron Mobility Transistor)の定性的な伝導帯を示し、E
c は伝導帯の下端のエネルギー、E
F はフェルミエネルギーを示す。
図4Aに示すように、Al
x Ga
1-x N/GaNヘテロ接合の分極差の効果によりAl
x Ga
1-x N/GaNヘテロ界面の近傍の部分におけるGaN層に2DEGが形成されている。一方、
図4BはこのGaN系ダイオードの伝導帯を示す。
図4Bに示すように、このGaN系ダイオードにおいては、Al
x Ga
1-x N層12上にp型In
y Ga
1-y N層13が設けられている。このp型In
y Ga
1-y N層13の効果について説明する(非特許文献3参照)。p型In
y Ga
1-y N層13とAl
x Ga
1-x N層12とのヘテロ接合のピエゾ分極の方向はAl
x Ga
1-x N層12とアンドープGaN層11とのヘテロ接合のピエゾ分極の方向とは反対になっており、p型In
y Ga
1-y N層13をAl
x Ga
1-x N層12の表面に付加することにより、伝導帯を持ち上げて2DEG17の濃度を減じる方向に作用する。それを
図4Bにおいてp型In
y Ga
1-y N層13の+-電荷の発生として示した。また、p型In
y Ga
1-y N層13におけるMgのドーピングの効果としては、Mgが負イオン化する(正孔放出)ことによって伝導帯を更に持ち上げることにより2DEG17の枯渇化に寄与する。
【0028】
このGaN系ダイオードの順方向立ち上がり電圧(オン電圧)V
onは0[V]<V
on<1.0[V]の範囲内で設計により決められる。すなわち、V
onは後述の
図5に示すように低い方が電力損失(導通損失)が少なくなるので望ましい。通常のGaN系ショットキーダイオードのV
onは1.0[V]程度であるので、それよりも低いV
onが望ましい。すなわち、0[V]<V
on<1.0[V]となるように、Al
x Ga
1-x N層12のxおよび厚さt
Al、p型In
y Ga
1-y N層13のyおよび厚さt
In、そしてMg濃度[Mg]が実験的に求められる。
【0029】
[GaN系ダイオードの動作]
このGaN系ダイオードの動作について説明する。
【0030】
このGaN系ダイオードの電流(I)-電圧(V)特性を
図5に示す。
図5に示すように、順方向立ち上がり電圧V
onは0[V]<V
on<1.0[V]であり、好適には0[V]<V
on<0.8[V]、さらに好適には0[V]<V
on<0.4[V]である。
図5には、比較のために、従来のGaN系ショットキーダイオードの電流-電圧特性を併せて示す。従来のGaN系ショットキーダイオードのV
onは約1.0[V]である。
図5において、面積(I×V)は消費電力を表し、そのうち面積(I×V
on)は電力損失を表す。このため、V
onが小さい方が電力損失が小さくなり、それによって消費電力の低減を図ることができる。従って、V
on<1.0[V]、好適にはV
on<0.8[V]とすることにより、このGaN系ダイオードの電力損失を従来のGaN系ショットキーダイオードに比べて小さくすることができ、消費電力の低減を図ることができる。このため、高効率のGaN系ダイオードを得ることができる。
【0031】
[GaN系ダイオードの製造方法]
一例として、
図3に示す構造を有するGaN系ダイオードの製造方法について説明する。このGaN系ダイオードは従来公知の製造方法により容易に製造することができる。なお、
図2に示す構造を有するGaN系ダイオードも従来公知の製造方法により容易に製造することができる。
【0032】
図6Aに示すように、ベース基板100の全面に、従来公知のMOCVD(有機金属気相成長)法などにより、アンドープGaN層11、Al
x Ga
1-x N層12およびp型In
y Ga
1-y N層13を順次成長させる。ベース基板100としては、GaN層の成長に従来より用いられている一般的な基板、例えばC面サファイア基板、Si基板、SiC基板などを用いることができる。
【0033】
次に、
図6Bに示すように、p型In
y Ga
1-y N層13をフィンガー状(ストライプ状)にパターニングする。パターニングは、例えば、光化学エッチング(フォトエレクトロケミカルエッチング)で行う。エッチング液としては、KOH水溶液に添加剤としてペルオキソ二硫酸カリウム(K
2 S
2 O
8 )を加えた溶液を用いる。このエッチング液に波長260nmの紫外線を照射してエッチングを行う。エッチングレートは20nm/秒程度である。次に、p型In
y Ga
1-y N層13を覆い、かつアノード電極15およびカソード電極16を形成する領域のAl
x Ga
1-x N層12の表面が露出するようにSiO
2 からなる所定形状のマスク層110を形成する。マスク層110は、例えば、全面にSiO
2 膜を形成した後、このSiO
2 膜をエッチングによりパターニングすることにより形成することができる。次に、アノード電極15およびカソード電極16を形成する領域に対応する部分に開口を有するレジストパターン(図示せず)を形成し、続いて基板全面に真空蒸着法により例えばTi膜、Al膜、Ni膜およびAu膜を順次形成した後、レジストパターンをその上に形成されたTi/Al/Ni/Au積層膜とともに除去し(リフトオフ)、p型In
y Ga
1-y N層13に関してその両側の部分のAl
x Ga
1-x N層12上にアノード電極15およびカソード電極16を形成する。この後、例えば、窒素(N
2 )ガス雰囲気中で700℃、60秒の急速熱処理(Rapid Thermal Annealing;RTA)を行い、アノード電極15およびカソード電極16をAl
x Ga
1-x N層12を介して2DEG17にオーミック接触させる。
【0034】
次に、
図6Cに示すように、マスク層110をエッチングにより除去した後、アノード電極15およびp型In
y Ga
1-y N層13を含むフィンガー状の領域に対応する部分に開口を有するレジストパターン(図示せず)を形成し、続いて基板全面に真空蒸着法によりTi膜およびNi膜を順次形成した後、レジストパターンをその上に形成されたTi/Ni積層膜とともに除去し(リフトオフ)、p型In
y Ga
1-y N層13およびアノード電極15上に跨がるフィンガー状の金属電極14を形成する。この後、N
2 ガス雰囲気中で500℃、60秒のRTAを行う。この状態における1フィンガー分の平面図を
図7に示す。
【0035】
こうして製造されるGaN系ダイオードの各部のサイズなどの一例を示すと次の通りである。アンドープGaN層11の厚さは2[μm]、Alx Ga1-x N層12の厚さは20[nm]、xは0.21、p型Iny Ga1-y N層13の厚さは5[nm]、yは0.2、[Mg]=1×1020[cm-3]、アノード電極15の幅は1[μm]、p型Iny Ga1-y N層13のフィンガー長Lg は1[μm]、カソード電極16の幅は2[μm]、アノード電極15とp型Iny Ga1-y N層13との間の隙間の幅は1[μm]、カソード電極16とp型Iny Ga1-y N層13との間の隙間の幅は1[μm]、アノード電極15、p型Iny Ga1-y N層13およびカソード電極16のフィンガー幅Wg は0.1[mm](100[μm])である。
【0036】
最終的に製造されるGaN系ダイオードチップの一例を
図8に示す。このGaN系ダイオードチップは、
図7に示すGaN系ダイオードを1フィンガー分としてこれを6フィンガー形成したものである。アノード電極15およびカソード電極16は櫛型に形成されており、この場合はアノード電極15は4本、カソード電極16は3本形成されている。各アノード電極15の一端部と接続されてアノードパッド電極120が設けられている。また、各カソード電極16の一端部に接続されてカソードパッド電極130が設けられている。これらのアノードパッド電極120およびカソードパッド電極130は、例えば、それらの下方の部分のAl
x Ga
1-x N層12を除去し、その上にSiO
2 膜を形成した後、その上に真空蒸着法などによりAu膜を形成することにより形成することができる。6フィンガーの全体の幅Dは例えば0.035[mm](35[μm])である。
【0037】
[GaN系ダイオードの構造と電気特性との関係]
1.ダイオード容量
従来のショットキーダイオードの容量は、ショットキー電極下の空乏層が担う平行平板部分の容量(平行平板容量)(ε/d)S(ε:誘電率、S:面積、d:空乏層幅)と空乏層が横方向のキャリア(電子)と接する部分に生じるフリンジ容量との和であると考えられる。
【0038】
いま、
図2に示す構造のGaN系ダイオードを考える。このGaN系ダイオードの容量も同様に平行平板容量とフリンジ容量とからなると考えると、p型In
y Ga
1-y N層13および金属電極14の下方にはキャリアが実質的に存在せず、平行平板容量を形成していないため、その容量値はほとんど無視できると考えられる。その結果、このGaN系ダイオードの容量は、p型In
y Ga
1-y N層13および金属電極14の端部とカソード電極16側から延在する2DEG17との重なり部に生じるフリンジ容量のみと考えることができる。
【0039】
2.数値計算
このGaN系ダイオードの容量を求めるためにシミュレーションを行った。容量計算に用いたダイオード構造を
図9Aおよび
図9Bに示す。ここで、
図9Aは断面図、
図9Bは平面図である。具体的には、標準的なAlGaN/GaN HEMTのAlGaN層の厚さは20~40[nm]であるので、p型In
y Ga
1-y N層13とAl
x Ga
1-x N層12との合計厚さを25[nm](0.025[μm])とした。
図9A中、p型In
y Ga
1-y N層13およびAl
x Ga
1-x N層12をInGaN/AlGaNと表記した。p型In
y Ga
1-y N層13のフィンガー長L
g は1.0[μm]とした。p型In
y Ga
1-y N層13の表面から25[nm]下方に2DEG17のチャネルがあり、これがカソード電極16(
図9Aおよび
図9Bにおいては図示せず)とオーミック接触していると考える。アノード電極15側の2DEG17もアノード電極15とオーミック接触していると考える。
図9Aおよび
図9Bにおいては、アノード電極15と金属電極14との全体がアノード電極と示されている。
図9A中では単にGaNと表記しているが、アンドープGaN層11の厚さは2.0[μm]とした。アンドープGaN層11、Al
x Ga
1-x N層12およびp型In
y Ga
1-y N層13の誘電率はいずれもε=10とした。
図9Aおよび
図9Bに示すように直交座標系(x,y,z)を設定した。
図9Aの(x-z)面(断面)に対称面を設定した。故に、計算結果はy方向の長さに比例する。
【0040】
図10に計算により求められたGaN系ダイオードの電位分布を示す。
図10中の一部(破線の円で囲った部分)の拡大図を
図11に示す。
図10および
図11においては、アノード電極に1[V]、カソード電極に0[V]を印加したときの等電位線が0.12[V]間隔で描かれている。
図10から分かるように、アノード電極の下方の電位はx軸方向に沿って一様に分布している。
図10および
図11に示すように、アノード電極端と2DEGチャネル端付近では電位が急激に変化しており、この部分にフリンジ容量が存在していることが分かる。その容量値は次の通りである。
【0041】
計算したダイオードの面積は0.1[μm2 ](0.1[μm]×1.0[μm])であり、その0[V]-バイアス時の容量C0 は2.408×10-5[pF]であった。y軸方向にダイオードを拡張して面積を1000[μm2 ](1×100[μm2 ]×10本)に拡張すると容量は0.241[pF]となる。比較例として非特許文献1記載のGaN系ショットキーダイオードを用い、この容量値を非特許文献1に報告された実測容量3.2[pF]と比較すると約7.5%である。また、非特許文献1において計算により求められた容量1.77[pF]と比較すると約14%となる。いずれも本GaN系ダイオードの0[V]-バイアス時の容量C0 は大幅に小さくなった。
【0042】
3.チャネル抵抗Rの考察
ダイオードの速度指標は時定数C0 R[s]である。ただし、Rはダイオードのオン抵抗である。そこで、このGaN系ダイオードのオン抵抗Rを見積もる。このGaN系ダイオードの2DEG17の濃度nはn~1×1013[cm-2]、移動度μ~1000[cm2 /Vs]=1×103 [cm2 /Vs]である。シート抵抗Rs は1/(neμ)(ここでeは単位電荷であり、1.6×10-19 [C])で計算されるので、
Rs =1/(neμ)=1/(1×1013×1.6×10-19 ×1×103 )
=1/(1.6×10-3)
=625[Ω/□]
である。
【0043】
このGaN系ダイオードの実効的なフィンガー幅は非特許文献1と同じくWg =1000[μm]としているから、チャネル抵抗Rは
R=Rs ×(Lg /Wg )=(625×1)/1000=0.625[Ω]
となる。
【0044】
従って、本GaN系ダイオードのCR積は、
C0 R=0.241[pF]×0.625[Ω]=0.151[ps]
となる。
【0045】
これに対して、非特許文献1記載のGaN系ショットキーダイオードのCR積は、実測では、
CR=3.2[pF]×4.3[Ω]=13.7[ps]
となり、計算では、
CR=1.77[pF]×4.3[Ω]=7.61[ps]
となり、本GaN系ダイオードのCR積に比べて50~90倍も大きい。
【0046】
以上のことから、このGaN系ダイオードは非特許文献1のGaN系ショットキーダイオードよりも50~90倍程度高速である。しかも、このGaN系ダイオードのチャネル抵抗Rは0.625[Ω]、非特許文献1のGaN系ショットキーダイオードのチャネル抵抗Rは4.3[Ω]であるので、このGaN系ダイオードは非特許文献1のショットキーダイオードに比べて4.3[Ω]/0.625[Ω]=6.9倍電流を流すことができる。
【0047】
図4Bに関連して説明したp型In
y Ga
1-y N層13によるバンド引き上げ効果の検証を行った結果について説明する。
【0048】
サファイア基板上にMOCVD法により、厚さ2[μm]のアンドープGaN層および厚さ20[nm]、x=0.21のアンドープのAlx Ga1-x N層12を順次成長させた。こうして得られたエピタキシャル基板のシート抵抗を渦電流法により測定したところ、平均値で618[Ω/□]であった。移動度~1000[cm2 /Vs]であるので、2DEG17の濃度は約1×1013[cm-2]である。
【0049】
このエピタキシャル基板上に更に、MOCVD法によりp型Iny Ga1-y N層13を成長させた。p型Iny Ga1-y N層13のIn組成y=0.2、厚さtIn=5[nm]、[Mg]=1×1020[cm-3]である。このエピタキシャル基板のシート抵抗を測定したところ、測定限界に近い平均値180[kΩ]となった。最も高い値は1.1[MΩ]となって定格測定限界を超えた。このことは、p型Iny Ga1-y N層13の積層により2DEG17が枯渇したことを示している。
【0050】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、Alx Ga1-x N層12上に島状のp型Iny Ga1-y N層13が設けられ、p型Iny Ga1-y N層13上に金属電極14が設けられていることにより、非動作時において、アンドープGaN層11とAlx Ga1-x N層12との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層12に形成される2DEG17がp型Iny Ga1-y N層13の下方の部分で枯渇している。このため、このGaN系ダイオードの0[V]-バイアス時の容量は実質的にフリンジ容量のみとなることにより、従来のGaN系ショットキーダイオードに比べて大幅な低減を図ることができ、それによってGaN系ダイオードの超高速化を図ることができる。そして、金属電極14とアノード電極15とが互いに電気的に接続されていることにより、順方向立ち上がり電圧Vonが0[V]<Von<1.0[V]、例えば0.3Vと従来のGaN系ショットキーダイオードに比べて低いGaN系ダイオードを容易に実現することができる。このようにVonを低くすることができることにより、電力損失の低減を図ることができる。こうして電力損失の低減を図ることができることにより、GaN系ダイオードの高効率化を図ることができる。また、このGaN系ダイオードは高耐圧である。そして、この高効率かつ超高速で高耐圧のGaN系ダイオードを整流用ダイオードに用いることにより、高周波電波の受電装置および電力伝送システムの高性能化を図ることができる。
【0051】
〈第2の実施の形態〉
[GaN系ダイオード]
第2の実施の形態によるGaN系ダイオードについて説明する。このGaN系ダイオードの基本構造を
図12に示す。
【0052】
図12に示すように、このGaN系ダイオードにおいては、金属電極14のカソード電極16側の端部とp型In
y Ga
1-y N層13との間に絶縁層20が、p型In
y Ga
1-y N層13とカソード電極16との間の部分のAl
x Ga
1-x N層12上に延在するように設けられている。絶縁層20を構成する絶縁体は特に限定されず、必要に応じて選ばれるが、例えばSiO
2 である。絶縁層20の厚さは必要に応じて選ばれるが、例えば0.1[μm]以上0.4[μm]以下である。この場合、金属電極14のカソード電極16側の端部と2DEG17の端部との間の距離は、第1の実施の形態によるGaN系ダイオードに比べて、絶縁層20の厚さの分だけ長くなっており、従って金属電極14のカソード電極16側の端部と2DEG17の端部との間の部分のフリンジ容量の低減を図ることができる。この場合、金属電極14のカソード電極16側の端部は一種のフィールドプレートとして機能する。その他のことは第1の実施の形態によるGaN系ダイオードと同様である。
図2および
図3に示す例において絶縁層20を設けたものをそれぞれ
図13および
図14に示す。
【0053】
[GaN系ダイオードの製造方法]
一例として、
図14に示す構造を有するGaN系ダイオードの製造方法について説明する。
【0054】
このGaN系ダイオードの製造方法では、第1の実施の形態によるGaN系ダイオードの製造方法と同様に工程を進めてアノード電極15およびカソード電極16を形成し、続いてマスク層110をエッチングにより除去する。
【0055】
次に、例えば、全面にSiO2 膜を形成した後、このSiO2 膜をエッチングによりパターニングすることにより絶縁層20を形成する。
【0056】
次に、アノード電極15、p型In
y Ga
1-y N層13および絶縁層20のアノード電極15側の端部を含むフィンガー状の領域に対応する部分に開口を有するレジストパターン(図示せず)を形成し、続いて基板全面に真空蒸着法によりTi膜およびNi膜を順次形成した後、レジストパターンをその上に形成されたTi/Ni積層膜とともに除去し(リフトオフ)、p型In
y Ga
1-y N層13、アノード電極15および絶縁層20のアノード電極15側の端部上に跨がるフィンガー状の金属電極14を形成する。この後、例えば、N
2 ガス雰囲気中で500℃、60秒のRTAを行う。こうして、
図15に示すように、GaN系ダイオードが製造される。
【0057】
こうして製造されるGaN系ダイオードの各部のサイズなどの一例を示すと次の通りである。アンドープGaN層11の厚さは2[μm]、Alx Ga1-x N層12の厚さは20[nm]、xは0.21、p型Iny Ga1-y N層13の厚さは5[nm]、yは0.2、[Mg]=1×1020[cm-3]、アノード電極15の幅は2[μm]、p型Iny Ga1-y N層13のフィンガー長Lg は1[μm]、カソード電極16の幅は3[μm]、アノード電極15とp型Iny Ga1-y N層13との間の隙間の幅は1[μm]、カソード電極16とp型Iny Ga1-y N層13との間の隙間の幅は1[μm]、アノード電極15、p型Iny Ga1-y N層13およびカソード電極16のフィンガー幅Wg は0.1[mm](100[μm])である。金属電極14のカソード電極16側の端部とp型Iny Ga1-y N層13との間の部分の絶縁層20の厚さは0.2[μm]、p型Iny Ga1-y N層13上に延在する幅は0.3[μm]である。
【0058】
【0059】
図17に計算により求められた電位分布を示す。
図17の一部の拡大図を
図18に示す。
図17および
図18における等電位線は
図9Aおよび
図9Bに示すダイオード構造と同様である。
図9Aおよび
図9Bに示すダイオード構造と同様にアノード電極15下の電位はx軸方向に沿って一様に分布しているが、
図17および
図18から分かるように、アノード電極15端と2DEG17端付近の電位分布の拡大図では電位が急激に変化しており、フリンジ容量が存在していることが分かる。この構造では、フィンガー長L
g =1[μm]に対し容量値は1.33×10
-5[pF]であった。フィンガー幅W
g =100[μm]では、容量値はその1000倍の1.33×10
-2[pF]である。非特許文献1に記載のGaN系ショットキーダイオードの面積に一致させるために6フィンガーとし、面積を6倍にするとC
0 は1.33×10
-2[pF]の6倍の0.080[pF]となる。また、チャネル抵抗Rは1/6となって2.2[Ω]である。従って、時定数C
0 Rは0.080[pF]×2.2[Ω]=0.17[ps]となった。この時定数の値は非特許文献1に記載のGaN系ショットキーダイオードの時定数の値に対して1/100程度と極めて小さい。
【0060】
この第2の実施の形態によれば、金属電極14のカソード電極16側の端部とp型Iny Ga1-y N層13との間に絶縁層20を設けていることにより、第1の実施の形態に比べてより一層の容量の低減を図ることができ、ひいてはより高速のGaN系ダイオードを得ることができる。そして、この高効率かつ超高速で高耐圧のGaN系ダイオードを整流用ダイオードに用いて高性能の受電装置および電力伝送システムを実現することができる。
【0061】
〈第3の実施の形態〉
[受電装置]
第3の実施の形態による受電装置について説明する。この受電装置は受電回路にレクテナ回路を用いたものである。
【0062】
この受電装置を
図19に示す。
図19に示すように、この受電装置は、高周波電波を受信するアンテナ201と、整流用ダイオード202と、整流用ダイオード202の前後に設けられた、高調波周波数のインピーダンスを所望の値にする高調波マッチングを行うマッチング回路203、204とからなるレクテナ回路を有する。アンテナ201は、特に限定されず、必要に応じて選ばれるが、例えば、ダイポールアンテナである。整流用ダイオード202は、第1または第2の実施の形態によるGaN系ダイオードからなる。
【0063】
この第3の実施の形態によれば、整流用ダイオード202として用いられる第1または第2の実施の形態によるGaN系ダイオードは第1または第2の実施の形態で説明したように高速動作が可能でしかも高効率で低消費電力であることから、低消費電力で高性能の受電装置を実現することができる。
【0064】
〈第4の実施の形態〉
[電力伝送システム]
第4の実施の形態による電力伝送システムについて説明する。この電力伝送システムは第3の実施の形態による受電装置を用いたものである。
【0065】
この電力伝送システムを
図20に示す。
図20に示すように、この電力伝送システムは、直流を高周波電波に変換するDC/RF変換を行う送電回路310および高周波電波を直流に変換するRF/DC変換を行う受電回路320を有する。受電回路320としては、第3の実施の形態による受電装置の受信回路と同様なレクテナ回路が用いられる。送電回路310はアンテナ311を有する。送電回路310は、直流を高周波電波に変換するF級増幅器312を有する。F級増幅器312としては、例えば、AlGaN/GaN
HEMTが用いられる。
【0066】
送電回路310のアンテナ311からDC/RF変換により得られた高周波電波330が送信される。この高周波電波330は受電回路320のアンテナ201で受信され、レクテナ回路によるRF/DC変換により直流に変換される。こうして、送電回路310から受電回路320に高周波電波電力伝送が行われる。
【0067】
この第4の実施の形態によれば、整流用ダイオード202として用いられる第1または第2の実施の形態によるGaN系ダイオードは第1または第2の実施の形態で説明したように高速動作が可能でしかも高効率で低消費電力であることから、低消費電力で高性能の電力伝送システムを実現することができる。
【0068】
以上、この発明の実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0069】
例えば、上述の実施の形態において挙げた数値、構造、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、形状、材料などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0070】
11…アンドープGaN層、12…Alx Ga1-x N層、13…p型Iny Ga1-y N層、14…金属電極、15…ソース電極、16…ドレイン電極、17…2DEG、18…空乏化領域、100…ベース基板、110…マスク層
【要約】
【課題】高効率かつ超高速のダイオードを提供する。
【解決手段】ダイオードは、アンドープGaN層11と、その上のAl
x Ga
1-x N層(0<x<1)12と、その上の、島状の形状を有する、Mgがドープされたp型In
y Ga
1-y N層(0<y<1)13と、その上の金属電極14と、Al
x Ga
1-x N層12上に金属電極14と電気的に接続されて設けられたアノード電極15と、Al
x Ga
1-x N層12上の、p型In
y Ga
1-y N層13に関してアノード電極15と反対側の部分に設けられたカソード電極16とを有する。このダイオードにおいては、非動作時(0[V]-バイアス時)において、p型In
y Ga
1-y N層14の下方の部分を除いて、Al
x Ga
1-x N層12とアンドープGaN層11との間のヘテロ界面の近傍の部分におけるアンドープGaN層11に2次元電子ガス17が形成されている。
【選択図】
図1