(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】オゾンガス消毒器
(51)【国際特許分類】
A61L 9/015 20060101AFI20220127BHJP
A61L 2/20 20060101ALI20220127BHJP
C01B 13/10 20060101ALI20220127BHJP
A61L 101/10 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
A61L9/015
A61L2/20 100
C01B13/10 D
A61L101:10
(21)【出願番号】P 2016018593
(22)【出願日】2016-02-03
【審査請求日】2018-10-05
【審判番号】
【審判請求日】2020-05-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成28年1月14日付、東京消防庁への応札
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔刊行物等〕 平成28年1月31日掲載、ウェブサイト「日本経済新聞 電子版」内、「荏原実業、救急車や病室を9時間で消毒 オゾン使う装置」(アドレス:http://www.nikkei.com/article/DGXLZO96758530R30C16A1TJC000/)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔刊行物等〕 日本経済新聞 平成28年2月1日付朝刊、第9面
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔刊行物等〕 平成28年2月1日掲載、荏原実業株式会社のウェブサイト内、「オゾン室内消毒器「MAC-1000」(医療機器)※発売開始のお知らせ」(アドレス:https://www.ejk.co.jp/topics/2016/2016020101.pdf)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 〔刊行物等〕 平成28年2月1日掲載、ウェブサイト「イプロス製造業」内、「オゾン室内消毒装置 MAC-1000」(アドレス:http://premium.ipros.jp/ejk/product/detail/2000240644/)
(73)【特許権者】
【識別番号】516036490
【氏名又は名称】教文館管財株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000120401
【氏名又は名称】荏原実業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】島田 武
(72)【発明者】
【氏名】松本 豊
【合議体】
【審判長】門前 浩一
【審判官】川端 修
【審判官】木村 敏康
(56)【参考文献】
【文献】実開平2-8441(JP,U)
【文献】登録実用新案第3179715(JP,U)
【文献】特開平6-169976号(JP,A)
【文献】特開2002-115877(JP,A)
【文献】特開平2011-251149(JP,A)
【文献】特開2003-311126(JP,A)
【文献】特開平2-222729(JP,A)
【文献】特開平9-201402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00- 9/22
A61L 2/00- 2/28
A61L 11/00-12/14
C01B 13/00-13/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の空間内に設置され、該空間
の全体にわたって1~3ppmの濃度のオゾンガスで消毒するための
、持ち運び可能なオゾンガス消毒装置であって、
該空間の容積が、10~100m
3
であり、
該オゾンガス消毒装置の筐体の外表面に備え付けられ、該筐体の内部で連通してなる、1または2以上の吸気口および排気口、
該吸気口と該排気口の間に備えられてなる、オゾンガス発生器、ならびに
該吸気口と該オゾンガス発生器との間に備えられてなる、オゾンガス分解フィルタを含み、
オゾンガス発生器が、紫外線方式によるものであり、
2ppmのオゾン濃度の空気に対するオゾンガス分解フィルタのオゾンガス分解効率が70%以上であり、
装置動作中、オゾン発生とオゾン分解を同時に行い、オゾン発生とオゾン分解処理の平衡により、空間中のオゾン濃度を維持する、前記オゾンガス消毒装置。
【請求項2】
オゾンガス分解フィルタがオゾン分解金属触媒を含む、請求項1に記載のオゾンガス消毒装置。
【請求項3】
オゾンガス発生器の上流および/または下流に1または2以上の除塵フィルタを備える、請求項1または2に記載のオゾンガス消毒装置。
【請求項4】
除塵フィルタがHEPAフィルタである、請求項3に記載のオゾンガス消毒装置。
【請求項5】
オゾンガス発生器の下流に、オゾンガス発生器から発生したオゾンガスを空間内において循環させるための送風部を備えた、請求項1~4のいずれか一項に記載のオゾンガス消毒装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オゾンガスを放出させて、消毒を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
手術室における定期消毒時、動物実験施設における動物入れ替え時、医薬製造施設における製造薬剤切り替え時、再生医療施設における培養物切り替え時などにおいては従来、微生物の殺菌およびウイルスの不活化などの消毒のため、ホルムアルデヒドを室内に充満させて、室内の全表面を殺菌する方法が用いられていた。しかしホルムアルデヒドは近年、発がん性など、人体への影響が指摘されている。
【0003】
ホルムアルデヒド以外を用いる代替の殺菌方法としては、オゾン、過酢酸系除菌剤、二酸化塩素、過酸化水素を用いる方法が提唱されている。このなかでもオゾンは、強力な酸化力を有し、殺菌、消毒等の作用を有するため、浄水場をはじめ、幅広い分野で利用されており、オゾンガス燻蒸による消毒方法が、手術室の定期消毒時などにおいて用いられるようになってきている。
【0004】
オゾンガス燻蒸による消毒のための従来のオゾンガス消毒器は、空気中のオゾン濃度を高めて消毒能力を確保するために、空間循環後のオゾンガス含有再吸入空気におけるオゾン濃度を維持したままオゾンガス発生器に通過させることにより、より高濃度のオゾンガスを含む空気を空間内に再放出するようになっている。特許文献1には、医療施設等の空間内でより短時間に消毒を行い、消毒後のオゾンガスは、オゾンガス発生器とは別に備えられるオゾンガス分解用のユニットを用いて分解し、除去するプロセスおよびシステムが開示されている。
【0005】
しかしオゾンガスも毒性を有しており、ヒトは0.01~0.02ppm程度でオゾンの臭気を感じ、0.1ppm程度から鼻、のどの刺激、0.2~0.5ppmで視力の低下、0.4~0.5ppmで上部気道の刺激、0.6~0.8ppmで胸痛、せき、1~2ppmで疲労感、頭痛、頭重、呼吸機能の変化、5~10ppmで呼吸困難、脈拍増加、50ppm以上で生命の危険がそれぞれ起こるため、作業環境基準(日本産業衛生学会、許容濃度 0.1ppm〔労働者が1日8時間、週40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で有害物質に曝露される場合に、当該有害物質の平均曝露濃度がこの数値以下であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響がみられないと判断される濃度〕、提案年度 1963年)、室内環境基準(0.05ppm〔24h 最大許容濃度、アメリカ合衆国食料医薬品局(FDA)、1992年〕;最高0.1ppm、平均0.05ppm〔オゾンを発生する器具による室内ガスの許容濃度〕、設計基準、暫定(1967年)、日本空気清浄協会)などが定められている。またエアコンや冷蔵庫など、家電製品においてもオゾンは広く利用されているが、安全性への配慮もされており、基本的にはオゾンが室内には漏れ出ないような構造となっており、万が一漏れ出した場合にも、0.05ppm以下となるように設計されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】独立行政法人 国民生活センター 「家庭用オゾンガス発生器の安全性」 平成21年8月27日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のオゾンガス消毒器は、空間内のオゾン濃度を高くすることが可能である一方、時間的および空間的にオゾン濃度を調節することが難しく、空間内のオゾン濃度は不安定である。例えば医療施設などにおいて1つの部屋を消毒する場合、従来のオゾンガス消毒器では、消毒中のオゾン濃度を消毒期間にわたって一定に維持することが困難であった。また、部屋の四隅、天井と床、オゾンガス消毒器の近辺とその遠方など、消毒を行う部屋の中の位置に応じて、オゾンガスの濃度にばらつきが生じるという問題があった。さらに、オゾンガスは人体に対して有毒であり、オゾンガス消毒器に不具合が生じた場合、意図した消毒時間以外にオゾンガスを発生したり、必要以上に空気中のオゾン濃度が高くなったりして、人体に悪影響を与えるという危険性があった。
【0009】
また近年においては、病院、診療所、クリニック、介護・福祉施設等の医療施設内での緑膿菌やMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus))などによる汚染を原因とする日和見感染症だけでなく、2002年のSARS(重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome))、2009年の新型インフルエンザ、2014年のエボラ出血熱、2015年のMERS(中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome))など、新型または未知の微生物やウイルスなどによる感染の大流行の際に、上記医療施設などだけではなく、公共交通機関、例えば鉄道の車両内もしくは航空機の機内および/または待合室内など、輸送コンテナ内、学校、役所、図書館などの公共施設など、不特定多数の人間が行き交うさまざまな空間において、徹底的な消毒に対する必要性が突然生じたりする可能性がある。
【0010】
また手術室などにおいてだけではなく、医療施設内の他の場所や、介護・福祉施設、公共交通機関、公共施設などにおいて使用する際には、オゾンガス消毒器を消毒を行う場所に移動させる必要があるため、その構造は移動可能にコンパクトであるのが好ましい。
【0011】
すなわち本発明の課題は、オゾンガスを空間の全体にわたって一定濃度となるように放出できる、オゾン消毒器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねる中で、オゾンガス消毒器において、オゾンガス発生器の上流にオゾンガス分解フィルタを配置させることにより、上記課題が解決されることを見出し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。以下、「オゾンガス消毒器」と「オゾンガス消毒装置」、および、「オゾンガス分解フィルタ」と「オゾンガス分解触媒フィルタ」は、それぞれ互換的に用いる。
【0013】
すなわち、本発明は以下に関する:
(a) 所定の空間内に設置され、該空間を消毒するオゾンガス消毒装置であって、
該オゾンガス消毒装置の筐体の外表面に備え付けられ、該筐体の内部で連通してなる、1または2以上の吸気口および排気口、
該吸気口と該排気口の間に備えられてなる、オゾンガス発生器、ならびに
該吸気口と該オゾンガス発生器との間に備えられてなる、オゾンガス分解フィルタを含む、前記オゾンガス消毒装置。
(b) オゾンガス発生器が、紫外線方式によるものである、(a)に記載のオゾンガス消毒装置。
(c) オゾンガス分解フィルタがオゾン分解金属触媒を含む、(a)または(b)に記載のオゾンガス消毒装置。
(d) 2ppmのオゾン濃度の空気に対するオゾンガス分解フィルタのオゾンガス分解効率が70%以上である、(a)~(c)のいずれかに記載のオゾンガス消毒装置。
(e) オゾンガス発生器の上流および/または下流に1または2以上の除塵フィルタを備える、(a)~(d)のいずれかに記載のオゾンガス消毒装置。
(f) 除塵フィルタがHEPAフィルタである、(e)に記載のオゾンガス消毒装置。
(g) オゾンガス発生器から発生したオゾンガスを空間内において循環させるための送風部を備えた、(a)~(f)のいずれかに記載のオゾンガス消毒装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明のオゾンガス消毒装置は、オゾン濃度が意図する濃度を超えて放出することなくオゾンガスを空間の全体にわたって一定濃度となるように放出し、かつ移動させるのに便利なコンパクトな大きさを実現し、ひいては安全に、かつ所望の任意の場所で、簡便かつ安全なオゾンガスによる消毒を実現するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明をより詳細に理解するために、以下の図面について参照する。
【
図1】
図1は、本発明の一態様によるオゾンガス消毒装置の概略ブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1のオゾンガス発生器およびオゾンガス分解フィルタの配置を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1の部屋1におけるサンプリング位置を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、実施例1のオゾン濃度の推移を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例2のオゾン濃度の推移を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例3のオゾン濃度の推移を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例4のオゾン濃度の推移を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例5のオゾン濃度の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、所定の空間内に設置され、該空間を消毒するオゾンガス消毒装置に関する。特定の態様においてオゾンガス消毒装置は、該オゾンガス消毒装置の筐体の外表面に備え付けられ、該筐体の内部で連通してなる、1または2以上の吸気口および排気口、該吸気口と該排気口の間に備えられてなる、オゾンガス発生器、ならびに該吸気口と該オゾンガス発生器との間に備えられてなる、オゾンガス分解フィルタを含む。好ましい態様において、該1または2以上の吸気口からの空気の実質的に全て、例えば80%、90%、95%、98%、99.5%、99.9%、最も好ましくは全ての空気が、該オゾンガス分解フィルタを通過する。また、好ましい態様において本発明の装置は、上記特許文献1におけるようなオゾンガス分解用の追加のユニットは含まず、かつ/または吸気口において空気の流れを開閉により切り替えるスイッチング機構を有さない。本発明の装置はその単純な機構のため、持ち運び可能なコンパクトなサイズを実現することができる。
【0017】
本発明の他の態様において、オゾンガス発生器は、紫外線方式、放電方式、その他のいかなるオゾン発生方式を採用してもよいが、好ましくは紫外線方式によるものである。放電方式は、酸素からオゾンを放電により生成する方式であり、濃度の高いオゾンガスを発生させ得る。しかし、温度や湿度等の環境の影響を受けやすく、有毒な窒素酸化物が発生し得、またオゾンガス発生器のサイズは相対的に大きなものとなる。一方、紫外線方式は、波長が180nmの紫外線に酸素を暴露することによりオゾンを生成する方式であり、温度や湿度等の環境の影響を受けにくく、有毒な窒素酸化物が発生しない。なおオゾンガス産生能力が相対的に低い紫外線方式のオゾンガス発生器を採用したり、オゾンガス分解フィルタをオゾンガス発生器の上流に設けると、排気口からの空気において十分な濃度のオゾンガスを実現できないとも考えられるが、驚くべきことに以下の実施例において実証されるとおり、本発明の装置は消毒に適切なオゾン濃度の維持を実現しており、かつ濃度は過剰には高くならないようになっている。
【0018】
本発明の他の態様において、オゾンガス消毒装置は、オゾンガス分解フィルタがオゾン分解金属触媒を含む。オゾンガス分解触媒フィルタにおける分解触媒は、金属触媒、活性炭、その他の材料であってもよいが、分解触媒としてオゾン分解金属触媒を含むのが好ましく、分解触媒が実質的にオゾン分解金属触媒からなり、例えばオゾン分解触媒の70重量%以上、85%重量%以上、95%重量%以上、98%重量%以上、99.5%重量%以上、99.9%以上でオゾン分解金属触媒を含むのが好ましく、最も好ましくはオゾン分解触媒は完全にオゾン分解金属触媒からなる。また、オゾンガス分解触媒フィルタは、フェルト状に製作されてもよい。さらに、オゾンガス分解触媒フィルタは、ハニカム構造で製作されてもよい。
【0019】
オゾンガス分解フィルタのオゾン分解効率、つまり該フィルタ通過前の空気中のオゾン濃度に対する、該フィルタ通過後の空気中のオゾン濃度の比率は、通過前のオゾン濃度により変動し、一般に通過前のオゾン濃度が高くなると該分解効率は低下するが、本発明の他の態様において、オゾンガス分解フィルタは、2ppmのオゾン濃度の空気に対し分解効率が70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である。なお、2ppmのオゾン濃度の空気に対するオゾンガス分解フィルタの分解効率が95%である場合、オゾンガス分解フィルタ通過後の空気のオゾン濃度は、作業環境基準の0.1ppmとなる。
【0020】
本発明の他の態様において、オゾンガス消毒装置は、オゾンガス発生器の上流および/または下流に1または2以上の除塵フィルタを備え、好ましくは除塵フィルタはHEPAフィルタである。
【0021】
本発明の他の態様において、オゾンガス消毒装置は、オゾンガス発生器から発生したオゾンガスを空間内において循環させるための送風部を備える。該送風部は好ましくは筐体内の吸気口と排気口との間の空気連通部に設けられるが、オゾンガス分解フィルタの上流、オゾンガス発生器の下流、またはオゾンガス分解フィルタとオゾンガス発生器の間のいずれに設けられていてもよいが、より好ましくは吸気口または排気口に隣接して設けられる。なお送風部は、吸気口のさらなる上流または排気口のさらなる下流に設けられていてもよい。送風部は1つであってもよく、または2つもしくは3つ以上であってもよい。送風部が2つ以上設けられる場合は好ましくは、吸気口、オゾンガス分解フィルタ、オゾンガス発生器、吸気口の位置関係において、それぞれ異なる位置に配置されるのが好ましいが、2つ以上が同じ位置に配置されていてもよい。また該送風部の風量は、2つ以上の送風部が設けられる場合はそれぞれが、または合計して、0.1~10m3/min、好ましくは0.5~5m3/min、より好ましくは1~3m3/min、最も好ましくはおよそ2m3/minである。
【0022】
本発明によるオゾンガス消毒装置は、吸気口とオゾンガス発生器との間にオゾンガス分解フィルタを備えることにより、空間内のオゾン濃度を時間的および空間的に調節可能とし、安定したオゾン濃度を実現し、消毒を行う空間において、その位置によるオゾンガスの濃度のばらつきを防ぐ。また、オゾンガス消毒装置に不具合が生じた場合であっても、意図した消毒時間以外に発生し続けるオゾンガスを分解フィルタが分解することにより、人体などへの悪影響は低減する。
【0023】
本発明によるオゾンガス消毒装置は原則的には、無人の閉鎖空間において動作させるものであるが、装置動作中の空間中の空気中のオゾン濃度は消毒能力を保持しつつも、ある程度の安全性を有する濃度であるのがよく、好ましくはオゾン発生とオゾン分解を同時に行う機構を採用する。この場合、オゾン発生濃度の安定性およびオゾンガス分解フィルタの分解処理能力の安定性から、オゾン発生とオゾン分解処理の平衡が取れた時点で、ある時間以降のオゾン濃度の上昇が止まり、安定した濃度が維持され、動作中に例えば0.1~10ppmの、好ましくは0.5~5ppmの、より好ましくは1~3ppmの、なおより好ましくは1.5~2.5ppmの、最も好ましくはおよそ2ppmの、空気中オゾン濃度を空間において維持するのが好ましい。
【0024】
本発明のオゾンガス消毒装置は、任意の容積の空間において、例えば1~1000m3の、好ましくは10~100m3の、より好ましくは20~80m3の、最も好ましくは30~60m3の空間において、動作開始後2時間程度で、好ましくは1時間程度で、空間全体を2ppm程度の空気中オゾン濃度とする性能を有するのが好ましく、また空気中オゾン濃度が2ppm程度の空間において、オゾンガス発生器動作停止後2時間程度で、好ましくは1時間程度で、空間全体の空気中オゾン濃度を0.1ppmにまで低減させる性能を有するのが好ましい。
【0025】
本発明によるオゾンガス消毒装置は、病院、診療所、クリニック、介護・福祉施設等の医療施設内、特に術後の手術室内など、および/または、鉄道の車両内もしくは航空機の機内等の公共機関の利用空間内および/または待合室内、その他の空間において、床、壁、空間内に設置されたテーブル等の人の手が触れ得る場所だけでなく、天井、空間の隅等まで、空間全体を均一に消毒するために使用され得る。
【0026】
以下において、本発明の一態様によるオゾンガス消毒装置の構成について、
図1および
図2を参照しながら詳述する。
【0027】
図1には、本発明の一態様によるオゾンガス消毒装置の概略ブロック図が示される。
図1において、オゾンガス消毒装置100は、ベース部101、オゾン発生/分解部102、表示部103および送風部104を備える。また、オゾンガス消毒装置100は、制御用電源部110、制御用基板112、オゾンランプ安定器(点灯用電源)114、点灯用グローランプ116、オゾンガスランプ118、集塵用プレフィルタ120、集塵用HEPAフィルタ122、オゾンガス分解触媒フィルタ124、循環用ファン126および電源ケーブル128から構成される。
【0028】
図2には、
図1で示された本発明の一態様によるオゾンガス消毒装置のオゾン発生/分解部102について、オゾンガスランプ118、集塵用プレフィルタ120、集塵用HEPAフィルタ122およびオゾンガス分解触媒フィルタ124の配置の例が示される。
図2において、空気は左から右に流れる。そして、左から流入する空気に含まれる塵埃等は、集塵用プレフィルタ120および集塵用HEPAフィルタ122において取り除かれる。なお、該フィルタの配置はこれに限定されず、オゾンガスランプ118およびオゾンガス分解触媒フィルタ124との関係で他の位置に置かれてもよい。つまり本発明の他の態様において、集塵用プレフィルタ120および集塵用HEPAフィルタ122は別個に、空気の流れに対してオゾンガスランプ118およびオゾンガス分解触媒フィルタ124の上流、間または下流に配置されてもよいが、好ましくは
図2に示されるように、ともにオゾンガス分解触媒フィルタの上流に配置される。本明細書において「上流」とは、オゾンガス消毒装置筐体内部における空気の流れの吸気口の側のことに言及し、吸気口のさらなる上流もまた包含し、それに対し「下流」とは排気口の側のことに言及し、排気口のさらなる下流もまた包含する。
【0029】
前記空気の流れにおいて、流入した空気のオゾン濃度は、オゾンガス分解触媒フィルタ124において所望の濃度にまで分解される。本発明の一態様において、流入した空気に含まれるオゾンガスは、オゾンガス分解触媒フィルタ124において70%が分解され、該オゾンガス分解触媒フィルタ124を通過した後の空気のオゾン濃度は、30%に低減する。本発明の好ましい一態様においては、流入した空気に含まれるオゾンガスは、オゾンガス分解触媒フィルタ124により95%が分解され、該オゾンガス分解触媒フィルタ124を通過した後の空気のオゾン濃度は、5%に低減する。さらに前記空気の流れにおいて、オゾンガス分解触媒フィルタ124を通過した空気のオゾン濃度は、オゾンガスランプ118において所望の濃度にまで上昇し得る。
【0030】
本発明の一態様において、オゾンガスランプ118は、紫外線方式を採用するオゾンガス発生器として示される。また、オゾンガスランプ118の本数は、1本、2本またはそれ以上であってもよい。
【0031】
以下では、本発明の一態様における動作原理を示す。
【0032】
オゾンガスは、オゾンガスランプ118が点灯することによって発生し、循環用ファン126によって空間内に拡散し、オゾンの酸化還元作用によって設備表面に存在する微生物やウイルスなどを不活性化する。一方、空間内循環後のオゾンガスは、循環用ファン126によって装置内に取り込まれ、オゾンガス解触媒フィルタ124を通過することによって分解される。また、空間に存在する浮遊菌については、集塵用プレフィルタ120および/または集塵用HEPAフィルタ122によって捕捉され、オゾンガスの通過時に同時に殺菌および消毒され、不活性化する。
【0033】
以下では、本発明の一態様によるオゾンガス消毒装置におけるオゾン発生およびオゾン分解の原理を記載する。
【0034】
本発明の一態様によるオゾンガス消毒装置におけるオゾン発生について、オゾン発生方式のうち紫外線方式が採用される。オゾンガスランプ118により、180nmの波長の紫外線が発生し、その紫外線は大気中の酸素に吸収され、励起状態の酸素原子O(1D)と基底状態の酸素原子O(3P)が発生する(式(1)を参照)。そして、基底状態の酸素原子O(3P)は、酸素O2と結合し、オゾンO3を生成する(式(2)を参照)。
O2+hv(180nm) → O(1D)+O(3P) (1)
O(3P)+O2 → O3 (2)
【0035】
次に、本発明の一態様によるオゾンガス消毒装置におけるオゾン分解について、オゾンガス分解触媒フィルタ124による反応過程は以下のとおりとなる。なお、Mはオゾンガス分解触媒を表すものとする。
O3+M → M-O+O2 (3)
M-O+O3 → M+2O2 (4)
【0036】
上記式(3)の式の反応の結果オゾンが分解され酸素分子と触媒の余った腕に酸素分子が結合したもの(M-O)が生成される。M-OはさらにO3と反応し、式(4)のように2つの酸素分子が生成される。
【実施例】
【0037】
本発明の一態様によるオゾンガス消毒装置の微生物学的性能について、JIS T7328:2005 4.5(消毒器の微生物学的性能)および5.5(消毒器の微生物学的性能)を参考に、バイオロジカルインジケータ(生物学的指標、以下「BI」と記す)における生存数の減少を測定した。BIは、寒天培地プレートとした。
【0038】
試験方法
GL-16型(合成石英オゾンランプ)を2本組み込んだ、本発明の一態様におけるオゾンガス消毒装置を部屋1(部屋容積約30m3)、部屋2(部屋容積約60m3)、部屋3の(部屋容積約45m3)入り口付近に設置し、運転した。
【0039】
オゾン濃度測定は、装置吹き出し口及び部屋の奥側、天井の3か所で測定した。ただし、天井については60m3の部屋容積のみ測定した。装置風量は2m3/minとした。対象菌は下記の4菌種とした(実施例1、4、5のみ大腸菌を除く3菌種)。
1) P.aeruginosa(NBRC 3080:緑膿菌)
2) S.aureus(NBRC 12732:MSSA)
3) S.aureus(IID 1677:MRSA)
4) E.coli(NBRC 3972:大腸菌)
【0040】
滅菌水に懸濁させた菌体を無希釈及び10倍希釈し、その菌液0.1mlを寒天培地に滴下して、塗抹した(107~108/プレート)。寒天培地は処理後にトリプトソイ寒天培地を重層して、35℃、48時間培養後の生菌数を測定した。なおコントロールとして、オゾンガス消毒装置を設置した空間に隣接する通常の空間に配置したプレートを、同様に培養し、生菌数を測定した。
【0041】
部屋の容積に関するオゾン消毒モード別に各1回検証し、消毒の再現性としてモード1(部屋容積10~30m3)に関し、総計3回検証した。また、実施例1~5の計5回にて信頼性評価も含め評価した。
【0042】
図3で、部屋1におけるサンプリング位置を示す。aは、天井付近(床面より2.7m)のオゾン濃度測定位置を示す。ただし、天井については60m
3の部屋容積のみ測定した。bは、作業テーブル上面(床面より1.2m)のオゾン濃度測定位置を示す。cは、装置吹出口(床面より約0.7m)のオゾン濃度測定位置を示す。オゾン濃度測定は、EG-2001R、EG-3000(ともに荏原実業株式会社)などを用いて行い、シャ-レ(寒天平板)処理位置は、〔1〕~〔5〕に各2枚とした。
【0043】
〔実施例1〕
消毒モード1、部屋1(部屋容積30m
3)にて実施した。オゾン濃度の推移を
図4に示す。また、殺菌効果は以下の表のとおりとなった(殺菌効率:log(N/N
0)、N:それぞれの処理プレートにおける生菌数、N
0:コントロールにおける生菌数)。
【表1】
【0044】
〔実施例2〕
消毒モード1、部屋1(部屋容積30m
3)にて実施した。オゾン濃度の推移を
図5に示す。また、殺菌効果は以下の表のとおりとなった(殺菌効率:log(N/N
0))。
【表2】
【0045】
〔実施例3〕
消毒モード1、部屋1(部屋容積30m
3)にて実施した。オゾン濃度の推移を
図6に示す。また、殺菌効果は以下の表のとおりとなった(殺菌効率:log(N/N
0))。
【表3】
【0046】
〔実施例4〕
消毒モード3、部屋2(部屋容積60m
3)にて実施した。オゾン濃度の推移を
図7に示す。また、殺菌効果は以下の表のとおりとなった(殺菌効率:log(N/N
0))。
【表4】
【0047】
〔実施例5〕
消毒モード2、部屋3(部屋容積45m
3)にて実施した。オゾン濃度の推移を
図8に示す。また、殺菌効果は以下の表のとおりとなった(殺菌効率:log(N/N
0))。
【表5】
【0048】
試験結果
3菌種(初回は4菌種)を寒天培地上に固定しオゾン曝露を行った結果、測定箇所によらず6桁以上の殺菌効率であることを確認した。またいずれの実施例においても、装置の排気口付近においてはオゾン発生器動作開始後30分以内に、部屋の隅部においては動作開始後約1時間程度に達し、オゾン濃度は2ppm程度に達し、それ以降に動作停止時にまでほぼ一定した濃度を維持していた。また動作停止後は、0.1ppm程度へのオゾン濃度の低減を、装置の排気口付近においてはオゾン発生器停止後約30分後において、部屋の隅部においては約1時間後に達成した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明のオゾンガス消毒装置は、オゾン発生器の上流にオゾン分解フィルタを配置し、かつ、その大きさを移動させるのに便利なコンパクトな大きさとすることにより、消毒を行う空間内のオゾン濃度を安定化し、徹底的な消毒に対する必要性が突然生じた場合であっても、当該オゾンガス消毒装置を移動させて消毒を行うことが可能となる。よって、本発明のオゾンガス消毒装置が実用化されれば、安全に、かつ所望の任意の場所で、簡便かつ安全なオゾンガスによる消毒を実現し、従来のオゾンガス消毒の限界を大きくブレイクスルーして、ひいては豊かな社会発展の基盤となる。
【符号の説明】
【0050】
100 オゾンガス消毒装置
101 ベース部
102 オゾン発生/分解部
103 表示部
104 送風部
110 制御用電源部
112 制御用基板
114 オゾンランプ安定器(点灯用電源)
116 点灯用グローランプ
118 オゾンガスランプ
120 集塵用プレフィルタ
122 集塵用HEPAフィルタ
124 オゾンガス分解触媒フィルタ
126 循環用ファン
128 電源ケーブル