(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】水貯留部の洗浄方法、および、水貯留部を含む循環水系の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
D21F 1/32 20060101AFI20220127BHJP
C11D 7/06 20060101ALN20220127BHJP
C11D 7/54 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
D21F1/32
C11D7/06
C11D7/54
(21)【出願番号】P 2017117062
(22)【出願日】2017-06-14
【審査請求日】2020-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000101042
【氏名又は名称】アクアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】蔵本 大揮
(72)【発明者】
【氏名】倉内 昭吾
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-305509(JP,A)
【文献】特開平03-051389(JP,A)
【文献】実開平05-093587(JP,U)
【文献】特開2011-038199(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0030735(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101992191(CN,A)
【文献】特開2008-106372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/00-1/78
C11D1/00-19/00
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転を停止したパルプおよび紙製造設備における水貯留部の洗浄方法であって、
水が貯留された状態の
、堆積物が底部に沈積している水貯留部に洗浄剤を添加し、
横向き、下向き、あるいは、斜め下向きの水流で前記水貯留部の底部またはその近傍に水流
を生じさせる攪拌を行うことを特徴とする水貯留部の洗浄方法。
【請求項2】
前記洗浄剤が、洗浄主剤としてアルカリ性洗浄剤を含有していることを特徴とする請求項1に記載の水貯留部の洗浄方法。
【請求項3】
前記水流による攪拌を、水中攪拌機にて行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水貯留部の洗浄方法。
【請求項4】
前記水流による攪拌を、前記水貯留部への給水口に取り付けたノズルにて行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水貯留部の洗浄方法。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれかに記載の水貯留部の洗浄方法により、水貯留部の洗浄を行いながら、当該水貯留部を含む循環水系に洗浄剤を含む水を循環させる攪拌・循環工程を有することを特徴とする水貯留部を含む循環水系の洗浄方法。
【請求項6】
前記攪拌・循環工程の後に、前記循環水系の水を排水する排水工程を有することを特徴とする請求項5に記載の水貯留部を含む循環水系の洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプおよび紙製造設備における水貯留部の洗浄方法、および、水貯留部を含む循環水系の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙はパルプを水中に分散させた原料スラリーを抄紙することで行われ、その際、微細繊維や填料を含む白水が抄紙機等から多量に排出される。この白水は、水資源の有効活用や再利用の観点から、抄紙工程で循環して用いられるようになっている。しかし、白水は、填料、澱粉、サイズ剤、ラテックス、カゼイン等の有機物を多く含むため、細菌類、真菌類等の微生物の繁殖に好適であり、このような微生物に由来するスライム、スケール、ピッチ由来のデポジットが循環水系に発生しやすい。このようなデポジットは製品に付着すると欠陥となり、製品歩留まりの低下につながる懸念がある。
【0003】
また、パルプおよび紙製造設備の水貯留部の底部には、沈殿物が堆積し、これが腐敗して悪臭物質が発生し、製紙工場内の臭気の原因となり、あるいは、製品に付着する可能性がある。
【0004】
これら問題の改善のために、例えば数週間から数箇月に1回程度の頻度で、設備の運転を止め、洗浄剤を用いて洗浄を行うことが提案されている(特許文献1参照)。具体的には、水貯留部を含む循環水系の水に対して、洗浄主剤として水酸化ナトリウム等のアルカリ性剤、および、洗浄主剤とともに洗浄剤を構成する洗浄助剤として、過酸化水素、界面活性剤、鉱物油、キレート剤などを添加して、1~3時間程度、水を循環させたのち排水する。その後、水貯留部を作業員が清掃して、残った堆積物を除去している。この際、洗浄主剤と併用する洗浄助剤の価格は洗浄主剤に比べて高く、その使用量の削減が求められていたが、抜本的な検討は行われてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決することを目的としている。すなわち、本発明は、パルプおよび紙製造設備の洗浄に用いる洗浄剤の使用量の削減を可能とする水貯留部の洗浄方法、および、水貯留部を含む循環水系の洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、以下の本発明によって解決される。即ち、本発明の水貯留部の洗浄方法は、運転を停止したパルプおよび紙製造設備における水貯留部の洗浄方法であって、
水が貯留された状態の、堆積物が底部に沈積している水貯留部に洗浄剤を添加し、横向き、下向き、あるいは、斜め下向きの水流で前記水貯留部の底部またはその近傍に水流を生じさせる攪拌を行うことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の水貯留部の洗浄方法では、前記洗浄剤が、洗浄主剤としてアルカリ性洗浄剤を含有している構成とすることができる。
【0009】
本発明においては、前記水流による攪拌を、水中攪拌機にて行うことができる。
【0010】
また、本発明においては、前記水流による攪拌を、前記水貯留部への給水口に取り付けたノズルにて行うことができる。
【0011】
一方、本発明の水貯留部を含む循環水系の洗浄方法は、上記本発明の水貯留部の洗浄方法により、水貯留部の洗浄を行いながら、当該水貯留部を含む循環水系に洗浄剤を含む水を循環させる攪拌・循環工程を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の水貯留部を含む循環水系の洗浄方法では、前記攪拌・循環工程の後に、前記循環水系の水を排水する排水工程を有することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水貯留部の洗浄方法、および、本発明の水貯留部を含む循環水系の洗浄方法によれば、パルプおよび紙製造設備における水貯留部に対し、水が貯留された状態で洗浄剤を添加し、水流による攪拌を行う攪拌洗浄工程を有する構成により、洗浄助剤の使用量の削減が可能となる。また、洗浄性が向上することから、洗浄時間の短縮や後工程の作業員による清掃作業の負担軽減あるいは省略が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の水貯留部の洗浄方法、および、本発明の水貯留部を含む循環水系の洗浄方法が実施されるパルプおよび紙製造設備の一例を示すモデル図である。
【
図2】水中攪拌機による攪拌方法の例を示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明について以下に図面を用いて説明する。
<パルプおよび紙製造設備>
本発明の水貯留部の洗浄方法は、製紙工場におけるパルプおよび紙製造設備で実施される水貯留部の洗浄に適用されるものである。
【0016】
本発明において、パルプおよび紙製造設備の「水貯留部」とは、パルプ精選系、原料調整系、白水循環系、白水回収系、その他のコーター周辺などの水貯留部を包含し、パルプおよび紙製造設備において多量に排出される水溶液(いわゆる「白水」等。)の回収、再利用系までを含めた水循環工程全体における全ての水貯留部を意味する。白水は、通常、紙製造時に使用する原料パルプに由来する微細繊維や、その他の製紙用薬剤等を含んでいる。
【0017】
図1に本発明の、水貯留部の洗浄方法、および、水貯留部を含む循環水系の洗浄方法について説明に使用するパルプおよび紙製造設備の一例Aのモデル図を示すが、本発明はこの例に限定されるものではない。
【0018】
まず、パルプ精選系A1として原料パルプをウォッシャー1で洗浄し、次いで濃縮脱水し、脱水により生じた水は濃縮脱水ピット2に回収される。一方、脱水されたパルプは、晒処理機3で漂白処理後、高濃度チェスト4に一時、蓄えられる。なお、
図1では省略したが、このパルプ精選系A1には、使用される水を再利用できるように水系水の循環ラインが付属している。
【0019】
原料調整槽5とマシンチェスト6とを備えた原料調整系A2で原料を調整する。すなわち、原料調整槽5に、高濃度チェスト4からのパルプを含む原料と水が供給され、さらに回収水タンク16からポンプ17により送水される水が加えられて、パルプスラリーが調整される。調整されたパルプスラリーは、マシンチェスト6に供給され、粘度調整剤や紙力増強剤等の各種製紙用薬剤等が添加された後、ポンプ7により白水循環系A3に供給される。そして、白水サイロ9からの白水(紙料成分をある程度含んだ水)と混合されて、ポンプ8によって、紙料としてインレット10に供給され、インレット10からワイヤパート11の、回転駆動されるワイヤ11aへ供給される。ワイヤパート11に供給された紙料は、脱水されてシート形状となり、プレスパート12以降の工程に送られて紙製品となる。一方、ワイヤパート11に残った水は、白水として白水サイロ9に貯留される。白水サイロ9に貯留された白水は、ポンプ7により供給された各種製紙用薬剤等を含むパルプスラリーと混合されて、ポンプ8によってインレット10に供給されて、白水循環系A3が形成される。
【0020】
白水サイロ9に貯留された白水の一部は、白水サイロ9から白水回収系A4のシールピット13に供給される。シールピット13に供給された白水は、ポンプ14により固液分離装置15に送られて固液分離処理される。固液分離処理された成分のうちの水は、回収水タンク16に貯留された後、その一部はポンプ17により原料調整系A2の原料調整槽5に供給されてパルプスラリーの濃度調整に利用され、また、別の一部は図示しない配管を通ってワイヤパート11のワイヤ11aやプレスパート12のフェルトを清浄に保つためのシャワー水に利用されるなど、パルプおよび紙製造の工程における各種用水として再利用される。このように白水回収系A4は、パルプ精選系A1、原料調整系A2、および、白水循環系A3とともに、パルプおよび紙製造設備の水系を構成し、水はこの循環水系内を循環している。なお、回収水タンク16内の他の一部の水は濃度調整のために系外に排出され、図示しない排水処理設備等に送られる。
【0021】
また、パルプおよび紙製造設備A内の水が不足した場合には、この例では用水ライン19より供給されたクッションタンク18内に貯留された水がポンプ20により、シールピット13に供給される。なお、固液分離装置15で固液分離された成分のうちの固形分は製紙原料として再利用されるか、廃棄物として処理される。
【0022】
図1のパルプおよび紙製造設備Aにおいて、水が貯留される水貯留部としては、特に限定されないが、これら製紙水系内に存在する水槽等、一時的に水の滞留する箇所が対象となる。具体的には、パルプ製造設備における水系では濃縮脱水ピット2、紙製造設備における水系では、マシンチェスト6、白水サイロ9、シールピット13、回収水タンク16等、また、紙製造設備における水系に流入する水系では、クッションタンク18が挙げられるが、本発明における水貯留部はこれらに限定されない、例えば、コーター周辺の水系の水貯留部や原料調整槽に水を供給するために原料調整系内に設けられる仕込み水ピットなど、パルプおよび紙製造設備における水系および当該水系に流入する水系に存在する水貯留部は全て本発明における水貯留部に含まれる。
【0023】
図1では、抄紙工程の循環水系に流入する用水ライン19の水をシールピット13に供給する例を示したが、供給場所はシールピット13に限定されない。例えば、パルプや各種製紙用薬剤の希釈水として上記循環水系以外の外部からの水を供給した場合には、当該外部からの水は、本発明のパルプおよび紙製造設備の循環水系に流入する水である。なお、プレスパート12等の抄紙工程よりも後の工程から排出される水を白水サイロ9やシールピット13等に回収してもよい。
【0024】
[水貯留部の洗浄方法]
まず、本発明の水貯留部の洗浄方法について説明する。
【0025】
<水貯留部>
本発明のパルプおよび紙製造設備における水貯留部の洗浄方法では、パルプ精選系(A1)、原料調整系(A2)、白水循環系(A3)、白水回収系(A4)あるいは、図示しないコーター周辺の水系(以下、これらを合わせて「製紙水系」と云う。)、さらには、これら水系に流入する水系(符号18~20)に存在する水貯留部が洗浄の対象となる。
【0026】
水貯留部内で、水に含まれる固形分、懸濁物質がその底部に沈積する。こうして沈積した堆積物近傍あるいは沈積物が積層して形成された堆積物層の内部は有機物が豊富なために、細菌類をはじめとする微生物の温床となると共に嫌気化が進み、微生物の代謝産物として硫化水素、メチルメルカプタン等の還元性物質が生成されるようになる。
【0027】
これらは、製品の欠点となりうるスライムの発生を防止するために水系に添加されるスライムコントロール剤の効果を低下させる。したがって、通常は定期的に、例えば毎月1回等の頻度で、製造装置を止めて洗浄を行っている。具体的には、生産を中止し、それぞれの水系ごとに、洗浄主剤として水酸化ナトリウム等のアルカリ性洗浄剤、および、過酸化水素などの酸化剤、界面活性剤、鉱物油などを含む洗浄助剤を添加し、通常1~3時間、水系水を循環させたのちに排水する。なお、この水の循環の際に加温することもある。
【0028】
このような従来技術の洗浄において、洗浄剤を含む水系水の循環にもかかわらず、水貯留部の底部には堆積物が残留してしまうことが多かった。そのため、洗浄後に作業員によって水貯留部内の清掃を行うことが一般に行われてきた。
【0029】
<水貯留部の攪拌>
本発明の水貯留部の洗浄方法においては、水貯留部内の水系水に、水流による攪拌を行うことが特徴となっている。水貯留部内の水系水に水流を発生する手段としては特に制限はないが、水中攪拌機(水中ポンプ)を使用して攪拌を行うことが好ましい。特に、配管やホース等を取り付けずに、そのまま水中攪拌機を水貯留部に投入して駆動させるだけで、水貯留部内に水流を与えることができる。勿論、配管やホース等を取り付けて、水中で適宜これらを取回しても構わない。
図1に示した例では、水貯留部である濃縮脱水ピット2、マシンチェスト6、白水サイロ9、シールピット13、回収水タンク16、および、クッションタンク18のそれぞれに水中攪拌機S(横向き噴射式のもの)が設置されている。
【0030】
ここで、水中攪拌機は、既存の抄紙システムに大規模な改修なしに設置できると云うメリットがある。水中攪拌機としては、横向き噴射式あるいは下向き噴射式のものを用いることが好ましい。上向き噴射式の水中攪拌機を用いると、堆積物を巻き上げる水流の力が弱く、本発明の効果を得にくくなる。
【0031】
また、設置に際して配管工事やポンプの設置等が必要となる場合があるが、水貯留部に水を供給するラインの先端にノズルをつけることで水流を発生させて攪拌してもよく、この場合も勿論、本発明における「水流による攪拌」の範疇に含まれる。この場合において、特に、側面に周囲の水を吸い込む孔を有するノズル(例えば、いけうち社製液攪拌用ノズルEJX)を用いることが、より大きな水流を得ることができるので好ましい。
【0032】
本発明では、例えば、上記例において、パルプ精選系、原料調整系、白水循環系、あるいは、白水回収系により構成される水系、コーター付近の水系、このような水系に流入する水系に存在する水貯留部を攪拌しながら洗浄を行う。このような構成により、攪拌しない場合と比較して、洗浄効果が高まり、洗浄助剤の添加量の削減が可能となる。したがって、経済性等を勘案しつつ、なるべく多くの水貯蔵部、さらには、これら水系にあるすべての水貯留部で攪拌を行いながら洗浄を行うことが好ましい。
【0033】
本発明における水流による攪拌としては、水貯留部の底部またはその近傍に水流を生じさせる攪拌であることが好ましい。詳しくは、水貯留部の底部に向かう水流を生じさせたり、水貯留部の底部のすぐ上を略平行に進む水流を生じさせたりすることが好ましい。水貯留部の底部またはその近傍に水流を生じさせることで、水貯留部の底部に沈積している堆積物の除去・洗浄効果が発揮され、堆積物の量を低減させることができる。そのため、水貯留部の底部の洗浄効果が高まる。
【0034】
ここで、水中攪拌機を用いた場合を例に挙げて、いくつかの攪拌手法、特に水貯留部の底部またはその近傍に水流を生じさせる攪拌手法の例について、
図2のモデル図を用いて説明する。
【0035】
図2(a)は、水中攪拌機Sとして下向き噴射式のものを用いている例である。この例では水貯留部30の中央に水中攪拌機Sを設置しており、その直下の底部に向けて水流を生じさせている。水貯留部30の底部に向けて直接水流を生じさせているので、堆積物除去効果が高い。
【0036】
図2(b)は、水中攪拌機Sとして横向き噴射式のものを用い、水貯留部30の底部よりも若干高い位置に配して、水流が斜め下方を向くように水中攪拌機Sを斜めに設置した例である。この場合も、水流が水貯留部30の底部に斜めに当たり、堆積物を払うように除去できるため、堆積物除去効果が高い。
【0037】
図2(c)は、
図2(b)と同様、水中攪拌機Sとして横向き噴射式のものを用い、水流が水貯留部30の底部と略平行となるようそのまま横向きに設置した例である。この場合、水流は水貯留部30の底部に向かうわけでは無いが、その近傍を進んで堆積物を掃くように除去できるため、堆積物除去効果が高い。
【0038】
有底円筒形の水貯留部30に対して、
図2(b)や
図2(c)のように、横向き噴射式の水中攪拌機を設置する場合、
図2(d)にモデル的に示すように、水流が水貯留部30の内周面に沿うように設置することが好ましい。このように設置することで、底部全体に水流を生じさせ、広い面積の堆積物除去効果を高めることができる。
【0039】
また、
図2(e)にモデル的に示すように、水流が水貯留部30の底部付近における円形の直径方向に向かうように設置することも好ましい。このように設置することで、底部における中央付近を最も効率よく堆積物除去効果を高めることができ、底部全体の堆積物除去効果を高めることができる。
【0040】
いずれにしても、水貯留部の容量や形状などに合わせて堆積物の洗浄や除去効果ができるだけ得られるように、水中攪拌機の種類や能力、設置位置等を適宜選択すればよい。また、これらの例では水中攪拌機Sは水貯留部30にそれぞれ1台設置されているが、必要に応じて複数台設置することもできる。また、洗浄効果を高めるために水流に空気などの気体の泡を吹き込んでもよい。水流による攪拌を行う装置として、水中攪拌機以外の物を用いる場合にも、以上に説明した内容に準じて設置することができる。
【0041】
水貯留部の底部に沈積している堆積物を洗浄・除去する効果を高い次元で実現するには、水貯留部における堆積物が沈積しやすい箇所の流速が例えば0.5m/秒以上となるようすることが好ましい。
【0042】
<洗浄剤>
本発明で用いる洗浄剤は、パルプおよび紙製造設備の洗浄に用いられる各種洗浄剤を用いることができる。多くの洗浄剤は、洗浄主剤と洗浄助剤とから構成され、洗浄主剤として水酸化ナトリウム等のアルカリ性洗浄剤、洗浄助剤としては、過酸化水素、脂肪酸誘導体、界面活性剤、ホスホン酸などのキレート剤、鉱物油等が挙げられる。
【0043】
ここで、過酸化水素は装置や水貯留部の壁面や底面、配管内にこびりついた堆積物を剥離させる。脂肪酸誘導体、および、界面活性剤は洗剤として機能して堆積物の塊の分解に寄与し、ホスホン酸はスケールに対してキレート剤として機能し、可溶化する。鉱物油はアルカリ性洗浄剤併存下で油汚れを除去する。
【0044】
本発明の水貯留部の洗浄方法によれば、一般的なケースで、洗浄主剤に比して高価な洗浄助剤の使用量を従来の洗浄方法に比して1/3ないし2/3程度削減することが可能となるが、その削減量は実際の洗浄状態を確認して決定すればよい。
【0045】
[循環水系の洗浄方法]
次に、本発明の水貯留部を含む循環水系の洗浄方法について説明する。
【0046】
<水系水の循環>
従来の洗浄方法では、パルプ精選系、原料調整系、白水循環系、白水回収系により構成される水系、および、コーター付近の水系の洗浄の際、洗浄剤を添加した水系水を循環させながら洗浄を行っていたが、本発明の洗浄方法でもこのような水系水の循環を行うことが、水貯留部以外の水系部分、例えば配管、機器・装置を洗浄できる点で好ましい。ただし、水貯留部の攪拌を行っている間中、循環を継続することは必ずしも必要ない。
【0047】
例えば、予め水系水の循環により配管、機器・装置等の洗浄を行った後に、水貯留部のみ攪拌による洗浄を行う、あるいは、水系水の循環による洗浄と水貯留部の攪拌による洗浄とを同時に開始し、水系水の循環による洗浄により水貯留部以外の配管、機器・装置等の洗浄が終了したときに水系水の循環を停止し、水貯留部の攪拌による洗浄のみを継続する、などの例が挙げられる。
【0048】
<洗浄時間>
洗浄時間については、汚染状態や攪拌、循環の程度、洗浄剤の種類等に応じて、適宜検討を行って設定すればよいが、本発明の洗浄方法によれば、水貯留部の攪拌による洗浄により、通常、従来の洗浄方法による洗浄時間より、洗浄時間を短縮することが可能となる。
【0049】
<洗浄後の清掃>
本発明の水貯留部の洗浄方法によれば、洗浄の効果が高いので、従来、洗浄・排水終了後に行われていた水貯留部の清掃にかかる時間を大幅に短縮することができ、あるいは、清掃自体を省略することができる。
【0050】
以上、本発明について、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明の水貯留部の洗浄方法、および、水貯留部を含む循環水系の洗浄方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。
【0051】
当業者は、従来公知の知見に従い、本発明の水貯留部の洗浄方法、および、水貯留部を含む循環水系の洗浄方法を適宜改変することができる。このような改変によってもなお、本発明の水貯留部の洗浄方法、および、水貯留部を含む循環水系の洗浄方法の構成を具備する限り、もちろん、本発明の範疇に含まれるものである。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明の水貯留部の洗浄方法、および、水貯留部を含む循環水系の洗浄方法は、この実施例に限定されない。
なお、以下の実施例では、既存のパルプおよび紙製造プラントにて、適宜装置を改造して、装置を止めたり稼働させたりして、各種実験を行った。
【0053】
≪水中攪拌機による検討≫
(実施例1)
水系の洗浄のために運転を停止したパルプおよび紙製造設備において、白水サイロ(水量:20m
3)を有する4つの条件の白水循環系(後記表1における条件I~IV)で、以下の試験を実施した。なお、パルプおよび紙製造設備は、
図1を用いて説明した通りであり、本実施例では、
図1における白水循環系(A3)の洗浄により、実験した。水中攪拌機は
図1における白水サイロ9に設置した。
【0054】
<攪拌機>
上記白水サイロのうち白水循環系IおよびIIIの白水サイロIおよびIIIの底部にそれぞれ水中攪拌機(フジ機械社製SHG-101HS6)を水流が白水サイロの底面に平行となるように設置した。
【0055】
<水系水の循環>
白水循環系I~IVで通常の洗浄時と同じように、全て同一の条件でそれぞれ水系水を循環させた。
【0056】
<洗浄剤>
水系水の循環を維持しながら、洗浄主剤として48質量%水酸化ナトリウム水溶液(以下、「48%NaOH」とも云う。)を100L(リットル)、洗浄助剤として35質量%過酸化水素水(以下、「35%H2O2」と云う。)、および、アクアス社製洗浄剤(脂肪酸誘導体、界面活性剤、ホスホン酸、鉱物油を含有。以下、「洗浄剤」と云う。)をこの順で、下記表1に示す薬剤量となるように添加した。
【0057】
<洗浄>
上記の薬品の添加後、2時間、各水系水の循環を継続して洗浄を行った。この間、白水循環系IおよびIIIでは白水サイロ内の水中攪拌機を運転した。
【0058】
<評価>
これら白水循環系I~IV内の水系水の排水後、これら白水循環系の白水サイロの底面を観察し、堆積物の有無、および、洗浄後の作業員による清掃の要否を調べた。結果を下記表1にまとめて示す。
【0059】
なお、I~IVの条件は、下記を目的とした条件である。
白水循環系I:従来(II)と同条件で本発明を適用。
白水循環系II:従来の循環洗浄方式。
白水循環系III:従来(II)から洗浄助剤の量を半減させた上で本発明を適用。
白水循環系IV:従来(II)の循環洗浄方式のまま洗浄助剤の量を半減。
【0060】
【0061】
表1に示したように、白水サイロの水中攪拌機を運転して洗浄を行った白水循環系IおよびIIIでは、洗浄により堆積物が除去されたため、洗浄後の作業員による清掃作業が不要となった。また、白水循環系IIIでも十分な洗浄性が確認されたことから、洗浄助剤の使用量を半分に減らすことができることが判る。これに対して、水中攪拌機を設置しなかった白水循環系IIおよびIVでは、洗浄後の清掃作業が必要であった。なお、洗浄助剤の量を半減させた白水循環系IVでは、白水循環系IIに比して、残存堆積物が多く、洗浄後の清掃作業にかかった時間がより長かった。
【0062】
(実施例2)
上記実験後、白水循環系IおよびIIIの次回の洗浄時に、これら白水循環系で実施例1と同様にして、ただし、洗浄助剤の35%H2O2、および、洗浄剤の添加量のみをそれぞれ6.6kg、および、6kgに減らし、さらに白水循環系IIIでは洗浄時間を90分として、ともに水中攪拌機を運転しながら洗浄を行ったところ、これら2つの白水循環系IおよびIIIで、ともに白水サイロ内の堆積物が除去され、洗浄後の清掃が不要だった。これにより洗浄助剤の使用量を2/3削減できること、および、洗浄時間の短縮が可能であることが判った。
【符号の説明】
【0063】
A パルプおよび紙製造設備の一例
A1 パルプ精選系
A2 原料調整系
A3 白水循環系
A4 白水回収系
1 ウォッシャー
2 濃縮脱水ピット
3 晒処理機
4 高濃度チェスト
5 原料調整槽
6 マシンチェスト
7、8、14、17、20 ポンプ
9 白水サイロ
10 インレット
11 ワイヤパート
11a ワイヤ
12 プレスパート
13 シールピット
15 固液分離装置
16 回収水タンク
18 クッションタンク
19 用水ライン
30 水貯留部