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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】内燃機関用の点火装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/05 20060101AFI20220127BHJP
   F02P 13/00 20060101ALI20220127BHJP
   H01F 38/12 20060101ALI20220127BHJP
   H01T 13/20 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
F02P3/05 C
F02P13/00 301J
H01F38/12 Z
H01T13/20 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017161359
(22)【出願日】2017-08-24
(65)【公開番号】P2019039342
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-07-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 和明
(72)【発明者】
【氏名】阿部 祐也
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-081165(JP,U)
【文献】特開2001-153015(JP,A)
【文献】特表2003-519739(JP,A)
【文献】特開2007-285162(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0330290(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 3/00 , 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次電流が流れる一次コイル(21)、及び、一次電流の増減によって二次電流が発生する二次コイル(22)を備えた点火コイル(2)と、
前記二次コイルから二次電圧を印加されて放電を発生させる点火プラグ(3)と、
前記点火プラグの点火動作を制御する点火制御部(10)と、を備え、
前記点火制御部は、放電中に前記点火プラグへ供給される点火エネルギの値を取得可能なエネルギ取得部(4)を有し、
前記点火制御部は、各サイクルにおいて、前記エネルギ取得部によって取得した点火エネルギの値が所定のエネルギ基準値Qr以上となったとき、前記点火プラグへのエネルギ供給を終了するよう構成されており、
前記点火プラグは、放電ギャップ(34)を介して対向配置された中心電極(31)及び接地電極(32)と、前記中心電極を前記点火コイルの前記二次コイルに接続するためのステム(33)とを有し、
前記点火制御部は、前記点火プラグにおける前記ステムと前記中心電極との間の電気抵抗値Rpを取得可能なプラグ抵抗値取得部を有し、
前記点火制御部は、前記点火プラグに、放電に起因して生じる電磁ノイズが前記点火プラグの外部に伝達することを抑制するための抵抗体(26)が内蔵されていないと想定した場合の前記エネルギ基準値である非内蔵想定値Qbを記憶しており、
前記点火制御部は、前記二次電流の値と、前記プラグ抵抗値取得部による電気抵抗値Rpの取得結果とに基づいて、前記エネルギ基準値を修正するよう構成されている、内燃機関用の点火装置(1)。
【請求項2】
前記点火制御部は、放電期間中における前記エネルギ基準値を時間経過とともに大きくするよう構成されている、請求項1に記載の内燃機関用の点火装置。
【請求項3】
前記点火制御部は、前記点火プラグの混合気への着火性に影響を及ぼすエンジンパラメータに基づいて、前記エネルギ基準値を修正するよう構成されている、請求項1又は2に記載の内燃機関用の点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用の点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
点火装置は、自動車等の内燃機関における点火手段として用いられる。点火装置として、互いに磁気結合された一次コイル及び二次コイルを備える点火コイルと、二次コイルに接続された点火プラグと、を備えるものがある。かかる点火装置は、一次コイルに流れる一次電流を遮断することにより、二次コイルに高圧の二次電圧を生じさせる。そして、当該二次電圧が点火プラグに印加され、点火プラグにおいて放電が生じる。点火プラグの放電により生じた放電火花が、燃焼室内の混合気に接触することにより、混合気に着火することができる。
【0003】
かかる点火装置においては、点火プラグに生じた放電火花が、燃焼室内の混合気の気流により引き伸ばされて吹き消えること(以後、単に「吹き消え」ということもある。)が懸念される。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の点火装置等のように、吹き消えを防止しようとする技術が開示されている。特許文献1に記載の点火装置は、放電開始後において二次コイルに流れる二次電流の電流値を、吹き消えが生じない値であって、かつ、一定の値となるよう制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-218995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の点火装置においては、点火コイルから点火プラグに投入される点火エネルギが、混合気への着火に要求されるエネルギ(以後、要求エネルギということもある。)よりも過剰に大きくなるサイクルが生じることが懸念される。このことにつき、以後説明する。
【0007】
一般に、放電の伸びが大きいサイクルほど、混合気と放電火花との接触体積が大きくなるため、混合気への着火性が良くなりやすい。逆に、放電の伸びが小さいサイクルほど、混合気への着火性が悪くなりやすい。それゆえ、放電の伸びが小さいサイクルにおいても混合気への着火性を充分に確保するためには、放電時間を長くしたり、電流値を増やしたりして、充分な点火エネルギを確保する必要がある。つまり、放電の伸びが小さいサイクルほど、混合気への着火のために要求される点火エネルギ(以後、「要求エネルギ」ということもある。)が大きくなり、放電の伸びが大きいサイクルほど、要求エネルギが小さくなる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の点火装置においては、放電火花の伸びが大きく、要求エネルギが小さいサイクルほど、点火プラグへ投入される点火エネルギが大きくなりやすい。
すなわち、点火装置においては、各サイクルの二次電流値が一定になるよう制御しているため、放電火花の伸びが大きくなって二次電圧値が大きくなるほど、二次電流値と二次電圧値との積である二次電力値が大きくなる。そのため、点火装置においては、例えば各サイクルにおける放電時間を一定に制御したような場合、放電火花の伸びが大きいサイクルほど、二次電力値と放電時間との積である点火エネルギが大きくなる。
【0009】
それゆえ、点火装置において、各サイクルにおける二次電流値を、放電火花の伸びが小さいサイクルにおける要求エネルギを確保できるような値に設定した場合、放電火花の伸びが大きいサイクル(すなわち要求エネルギが小さいサイクル)においては、当該サイクルの要求エネルギよりも過剰な点火エネルギを投入することとなる。そのため、点火装置においては、特に放電火花の伸びが大きいサイクルにおいて点火エネルギの無駄が生じやすい。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、消費エネルギの低減を図りやすい点火装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、一次電流が流れる一次コイル(21)、及び、一次電流の増減によって二次電流が発生する二次コイル(22)を備えた点火コイル(2)と、
前記二次コイルから二次電圧を印加されて放電を発生させる点火プラグ(3)と、
前記点火プラグの点火動作を制御する点火制御部(10)と、を備え、
前記点火制御部は、放電中に前記点火プラグへ供給される点火エネルギの値を取得可能なエネルギ取得部(4)を有し、
前記点火制御部は、各サイクルにおいて、前記エネルギ取得部によって取得した点火エネルギの値が所定のエネルギ基準値Qr以上となったとき、前記点火プラグへのエネルギ供給を終了するよう構成されており、
前記点火プラグは、放電ギャップ(34)を介して対向配置された中心電極(31)及び接地電極(32)と、前記中心電極を前記点火コイルの前記二次コイルに接続するためのステム(33)とを有し、
前記点火制御部は、前記点火プラグにおける前記ステムと前記中心電極との間の電気抵抗値Rpを取得可能なプラグ抵抗値取得部を有し、
前記点火制御部は、前記点火プラグに、放電に起因して生じる電磁ノイズが前記点火プラグの外部に伝達することを抑制するための抵抗体(26)が内蔵されていないと想定した場合の前記エネルギ基準値である非内蔵想定値Qbを記憶しており、
前記点火制御部は、前記二次電流の値と、前記プラグ抵抗値取得部による電気抵抗値Rpの取得結果とに基づいて、前記エネルギ基準値を修正するよう構成されている、内燃機関用の点火装置(1)にある。
【発明の効果】
【0012】
点火装置において、点火制御部は、各サイクルにおいて、エネルギ取得部によって取得した点火エネルギの値が所定のエネルギ基準値以上となったとき、点火プラグへのエネルギ供給を終了するよう構成されている。それゆえ、各サイクルにおける点火エネルギが、各サイクルの要求エネルギに比べて過剰に大きくなることを防止しやすい。
【0013】
以上のごとく、態様によれば、消費エネルギの低減を図りやすい点火装置を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1参考形態1における、二次電圧、二次電流、二次電力、点火エネルギの例を示す線図。
図2参考形態1における、点火装置の全体の回路構成を示す図。
図3参考形態1における、点火装置の全体構成を示す概略図。
図4参考形態1における、点火プラグの断面図。
図5参考形態1における、空燃比別の、放電開始後の時間とエネルギ基準値との関係を示す線図。
図6参考形態1における、着火遅れに基づいて、エネルギ基準値を修正する場合のチャートフロー。
図7実施形態1における、走行距離とプラグ内蔵抵抗との関係を示す線図。
図8実施形態1における、プラグ内蔵抵抗値別の、二次電流値と補正項Qcとの関係を示す線図。
図9実施形態1における、エネルギ基準値が補正されたことを説明するための線図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
参考形態1
内燃機関用の点火装置の参考形態につき、図1図6を用いて説明する。
本形態の内燃機関用の点火装置1は、図2に示すごとく、点火コイル2と点火プラグ3と点火制御部10とを備える。点火コイル2は、一次電流が流れる一次コイル21、及び、一次電流の増減によって二次電流が発生する二次コイル22を備える。点火プラグ3は、二次コイル22から二次電圧を印加されて放電を発生させる。点火制御部10は、点火プラグ3の点火動作を制御する。点火制御部10は、放電中に点火プラグ3へ供給される点火エネルギの値を取得可能なエネルギ取得部4を有する。また、図1に示すごとく、点火制御部10は、各サイクルにおいて、エネルギ取得部4によって取得した点火エネルギの値が所定のエネルギ基準値Qr以上となったとき、点火プラグ3へのエネルギ供給を終了するよう構成されている。なお、図1の4つのグラフにおいて、時間軸を示す横軸を一致させている。
【0016】
点火装置1は、車両用エンジン等の内燃機関において、混合気への着火手段として用いられる。また、点火コイル2は、二次コイル22に生じた二次電圧が点火プラグ3に印加されることより、点火プラグ3において放電が生じる。図4に示すごとく、点火プラグ3は、放電ギャップ34を介して対向配置された中心電極31及び接地電極32と中心電極31を点火コイル2の二次コイル22に接続するためのステム33とを有する。そして、点火プラグ3は、放電ギャップ34において放電を生じさせる。また、図3に示すごとく、放電ギャップ34を含む点火プラグ3の先端部は、燃焼室101内に露出するよう配されている。そして、点火プラグ3の放電により生じた放電火花が、燃焼室101内の混合気に接触することにより、混合気が着火される。
【0017】
図2に示すごとく、内燃機関の運転状態は、点火制御部10の一部を構成するエンジンコントロールユニット(以後、ECU100という。)によって制御されている。ECU100は、点火装置1に設けられた各種センサから取得されるエンジンパラメータ情報に基づき、内燃機関における点火制御を実行している。
【0018】
図3に示すごとく、点火装置1には、回転角センサ11、空気量センサ12、空燃比センサ13、EGRガス圧力センサ14、水温センサ15、吸気温センサ16、筒内圧センサ17等のセンサが設けられている。回転角センサ11は、内燃機関のピストン18に連結されるクランク軸19に設けられており、内燃機関の回転数である機関回転数の情報をECU100に出力する。空気量センサ12は、内燃機関における燃焼室101に吸入される空気が通る吸入通路102に配されており、内燃機関の燃焼室101内に吸入する空気量である吸気量の情報をECU100に出力する。空燃比センサ13は、内燃機関における燃焼室101から排出される空気が通る排出通路103に配されており、燃焼室101に供給される混合気の空燃比(すなわちA/F)である供給空燃比の情報をECU100に出力する。EGRガス圧力センサ14は、内燃機関の吸入通路102及び排出通路103を接続するよう形成されたEGR通路104に配されており、EGR通路104に流入された空気の圧力の情報をECU100に出力し、これによりECU100は、燃焼室101に吸入される空気のうちのEGRガスの割合であるEGR率を算出する。水温センサ15は、内燃機関のシリンダブロック105に配されており、内燃機関を冷却する冷却水の温度の情報をECU100に出力する。吸気温センサ16は、吸入通路102に配され、吸入通路102内の空気の温度の情報をECU100に出力する。筒内圧センサ17は、内燃機関の気筒の燃焼室101内の圧力の情報をECU100に出力する。
【0019】
そして、図2に示すごとく、ECU100は、各種センサから取得したエンジンパラメータから把握されるエンジンの運転状態に基づいて、最適なエンジン燃焼状態となるよう、エンジン各部を制御する。
【0020】
図2に示すごとく、点火コイル2は、一次コイル21と二次コイル22とイグナイタ23とを有する。一次コイル21は、その一端側においてバッテリ107の正極側に電気接続されており、その他端側において後述のイグナイタ23を介して接地されている。点火コイル2は、イグナイタ23がオン状態のとき、一次コイル21に一次電流が通電されるよう構成されている。以後、このときの一次電流の向き、すなわちバッテリ107から一次コイル21に向かう向き、を正とする。そして、二次コイル22は、一次コイル21への正の一次電流の通電を遮断することにより、二次コイル22に高圧の二次電圧が発生するよう構成されている。
【0021】
二次コイル22は、その一端側において点火プラグ3に接続されており、その他端側においてダイオード24、シャント抵抗25を介して接地されている。ダイオード24は、二次電流の向きを点火プラグ3から二次コイル22に向かう向きに制限する役割を有する。ダイオード24のアノード側は二次コイル22に接続されている。また、ダイオード24のカソード側には、フィードバック回路106が接続されている。フィードバック回路106は、各サイクルにおける、二次電流及び二次電圧の情報を、ECU100や後述の補助ドライバ53にフィードバックするよう構成されている。
【0022】
イグナイタ23は、IGBT(すなわち、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等のスイッチング素子を備える。イグナイタ23は、そのコレクタ側において一次コイル21に接続されており、そのエミッタ側において接地されている。そして、イグナイタ23は、そのゲートに入力された信号に基づいてスイッチング動作する。
【0023】
点火装置1は、バッテリ107に対して、一次コイル21と並列に接続された二次電流調整部5を有する。二次電流調整部5は、各サイクルにおける点火プラグ3の放電開始後の、二次電流値を調整する。本形態においては、二次電流調整部5は、各サイクルにおける二次電流値を一定とするよう構成されている。
【0024】
二次電流調整部5は、一次コイル21に対して、負の向きの一次電流を通電できるよう構成されている。二次電流調整部5は、昇圧回路51と、補助スイッチ52と、補助ドライバ53と、補助ダイオード54とを有する。二次電流調整部5は、昇圧回路51によってバッテリ107の電圧を昇圧してコンデンサ515にエネルギを蓄積し、当該蓄積されたエネルギを、一次コイル21の接地側へ重畳的に投入することができるよう構成されている。そして、点火装置1は、二次コイル22に発生した二次電圧を点火プラグ3に印加して放電させ、その放電期間中に、二次電流調整部5からさらにエネルギを投入して、二次コイル22に流れる二次電流を増加させることができるよう構成されている。
【0025】
昇圧回路51は、チョークコイル511と、昇圧スイッチ512と、昇圧ドライバ513と、昇圧ダイオード514と、コンデンサ515と、を有する。昇圧回路51は、ECU100からハイ状態の点火信号IGtが与えられている間、バッテリ107の電圧を昇圧してコンデンサ515を充電するよう構成されている。
【0026】
チョークコイル511は、一端側がバッテリ107に接続されており、他端側が昇圧スイッチ512を介して接地されている。昇圧スイッチ512は、MOSFET(すなわち、電界効果型トランジスタ)を備える。昇圧スイッチ512は、ドレインがチョークコイル511に接続され、ソースが接地されている。そして、昇圧スイッチ512は、昇圧ドライバ513からゲートへ入力される信号に基づきスイッチング動作する。昇圧ドライバ513は、ECU100からハイ状態の点火信号IGtが入力されている間、昇圧スイッチ512を所定周期で繰り返しオンオフするよう構成されている。チョークコイル511は、昇圧スイッチ512がオン状態のとき、電流が流れてエネルギを蓄積する。昇圧ダイオード514は、アノード側がチョークコイル511と昇圧スイッチ512との間に接続されており、カソード側がコンデンサ515に接続されている。そして、コンデンサ515は、昇圧ダイオード514と反対側が接地されている。コンデンサ515は、昇圧スイッチ512、及び補助スイッチ52がともにオフ状態のとき、エネルギを蓄積する。
【0027】
補助スイッチ52は、MOSFETを備える。補助スイッチ52は、ドレインにおいて昇圧ダイオード514とコンデンサ515との間に接続されており、ソースにおいて一次コイル21とイグナイタ23との間に、補助ダイオード54を介して接続されている。補助ダイオード54は、アノードにおいて補助スイッチ52のソースに接続されており、カソードにおいて一次コイル21とイグナイタ23との間に接続されている。補助スイッチ52は、オン状態のとき、二次電流調整部5から一次コイル21側への電流の流れを許容し、オフ状態のとき、二次電流調整部5から一次コイル21側への電流の流れを遮断する。補助スイッチ52は、補助ドライバ53からゲートへ入力される信号に基づきスイッチング動作する。
【0028】
補助ドライバ53は、ECU100によって制御されている。以下、本形態において実施される制御につき詳説する。
【0029】
補助ドライバ53は、前述のエネルギ取得部4を構成している。エネルギ取得部4は、フィードバック回路106から入力された二次電流及び二次電圧の情報から、放電期間中にプラグに供給された点火エネルギを算出している。本形態において、エネルギ取得部4は、二次電流と二次電圧との積の時間積分に基づいて、点火エネルギQ(t)の値を取得する。なお、Q(t)における(t)は、点火エネルギが時間依存していることを示す。各放電期間中における、放電開始から任意の時間tx経過後の点火エネルギQ(tx)は、下記式によって表される。
【数1】
【0030】
そして、補助ドライバ53には、予め決められたエネルギ基準値QrがECU100から入力される。そして、補助ドライバ53は、放電中に、取得した点火エネルギQ(t)の値とエネルギ基準値Qr(t)とを比較し、取得したエネルギ値Q(t)がエネルギ基準値Qr以上になるまで、補助スイッチ52を所定周期で繰り返しオンオフするよう構成されている。そして、取得したエネルギ値Q(t)がエネルギ基準値Qr(t)以上となった場合、補助スイッチ52のオンオフを停止し、点火プラグ3へのエネルギ供給を停止する。
【0031】
エネルギ基準値は、エンジンの運転状態毎に要求される点火エネルギを、予め記憶したマップ等を参照して算出される。本形態において、点火制御部10は、放電期間中におけるエネルギ基準値を時間経過とともに大きくするよう構成されている。これは、着火性が良い(すなわち混合気に着火するために要求される点火エネルギが小さい)サイクルほど、時間経過に伴うエネルギの上昇が大きいため、着火性が良いサイクルほど点火エネルギが要求エネルギに到達するまでの時間が短くなることに着目している。放電の伸びが比較的小さいサイクルにおいては、その放電の経路の短さに起因して二次電圧値が小さくなり、これに伴い、図1の点火エネルギのグラフにおいて実線で表したように時間経過に伴うエネルギ増加も小さくなる。一方、放電の伸びが比較的長いサイクルにおいては、二次電圧値が高くなり、これに伴い、図1の点火エネルギのグラフにおいて一点差線で示したように時間経過に伴うエネルギ増加も大きくなる。それゆえ、放電期間中におけるエネルギ基準値を時間経過とともに大きくすることにより、着火性の良いサイクル及び悪いサイクルの双方においても、無駄な点火エネルギの供給を抑制することができる。
【0032】
また、本形態において、点火制御部10は、点火プラグ3の混合気への着火性に影響を及ぼすエンジンパラメータに基づいて、エネルギ基準値を修正するよう構成されている。以下この例を示す。
【0033】
例えば、図5に示すごとく、空燃比に基づいて、エネルギ基準値を修正することができる。図5においては、線L1が空燃比28の場合のエネルギ基準値の例であり、線L2が空燃比26の場合のエネルギ基準値の例であり、線L3が空燃比24の場合のエネルギ基準値の例である。一般的に、供給空燃比が大きいリーン燃焼状態であるほど、混合気への着火に要求される要求エネルギが大きくなる。一方、供給空燃比が小さいリッチ燃焼状態であるほど、混合気への着火に要求される要求エネルギが低くなる。そのため、図5に示すごとく、空燃比が高い場合、エネルギ基準値を比較的高くし、空燃比が低い場合、エネルギ基準値を低くする。
【0034】
また、例えば、図6に示すごとく、着火遅れに基づいて、エネルギ基準値を修正することもできる。着火遅れとは、点火プラグ3において放電を開始してから混合気が着火するまでの時間である。着火遅れは、短いほど混合気の着火性が高いことを表す。着火遅れτに基づいてエネルギ基準値を修正する手段を説明する。まず、ステップS1において点火制御部10で、筒内圧センサ17から筒内圧の情報を取得する。次いで、ステップS2において、着火遅れτを算出する。次いで、ステップS3において、算出した着火遅れτが、基準となる基準着火遅れτ0よりも大きいか否かを判定する。ここで、基準着火遅れτ0は、通常の運転状態のときの着火遅れとすることができる。算出した着火遅れτが、基準着火遅れτ0よりも大きいとき、ステップS4に進み、着火遅れτを算出した次のサイクルにおいて、エネルギ基準値Qrを修正エネルギ基準値Qrcに修正する。Qrcは、Qrc(t)=(τ-τ0)×A+Qr(t)、とすることができる。Aは、修正エネルギ基準値が、着火性が悪いサイクルにおいて要求されるエネルギとなるよう、予め記憶したマップ等を参照して設定される。一方、算出した着火遅れτが、基準着火遅れτ0よりも小さいとき、ステップS1に戻る。以上のような制御をすることも可能である。
【0035】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
点火装置1において、点火制御部10は、各サイクルにおいて、エネルギ取得部4によって取得した点火エネルギの値が所定のエネルギ基準値以上となったとき、点火プラグ3へのエネルギ供給を終了するよう構成されている。それゆえ、各サイクルにおける点火エネルギが、各サイクルの要求エネルギに比べて過剰に大きくなることを防止しやすい。
【0036】
また、点火制御部10は、放電期間中におけるエネルギ基準値を時間経過とともに大きくするよう構成されている。それゆえ、前述のごとく着火性の良いサイクル(すなわち点火プラグ3における放電伸び量が大きいサイクル)においても、着火性の悪いサイクル(すなわち点火プラグ3における放電の伸び量が小さいサイクル)においても、無駄な点火エネルギの供給を抑制することができる。
【0037】
以上のごとく、本形態によれば、消費エネルギの低減を図りやすい点火装置1を提供することができる。
【0038】
実施形態1
本実施形態は、図7図9に示すごとく、点火プラグ3が内蔵している抵抗体26(図4参照)の抵抗値によって損失されるエネルギを考慮して、エネルギ基準値Qrを修正する実施形態である。
【0039】
点火制御部10は、点火プラグ3におけるステム33と中心電極31との間の電気抵抗値Rpを取得可能なプラグ抵抗値取得部を有する。点火制御部10は、予め記憶したマップ等を参照して電気抵抗値Rpを予測することにより取得する。また、予め記憶したマップ等から、図7に示すような走行距離と電気抵抗値Rpとの関係を予測し、当該関係から走行距離に応じた電気抵抗値Rpを予測して取得する。
【0040】
点火制御部10は、点火プラグ3に、抵抗体26が内蔵されていないと想定した場合のエネルギ基準値である非内蔵想定値Qbを記憶している。なお、抵抗体26は、放電に起因して生じる電磁ノイズが点火プラグ3の外部に伝達することを抑制するためのものである。点火制御部10は、二次電流の値I2と、プラグ抵抗値取得部による電気抵抗値Rpの取得結果とに基づいて、エネルギ基準値Qrを修正するよう構成されている。本実施形態において、修正後のエネルギ基準値Qrc、非内蔵想定値Qb、及び後述の補正項をQcとしたとき、Qrcは、Qrc(t)=Qb(t)+Qc(t)、で表される。
【0041】
補正項Qcは、Qc(t)=(I22×Rp×tで表される。すなわち、補正項Qcは、点火プラグ3の内蔵抵抗によって損失するエネルギである。二次電流値と補正項Qcとの関係を図8に示している。図8において、線La、Lb、Lcは、電気抵抗値Rpを変えた結果である。すなわち、線Laで表された結果の電気抵抗値をRa、線Lbで表された結果の電気抵抗値をRb、線Lcで表された結果の電気抵抗値をRcとしたとき、Ra<Rb<Rcの関係を満たしている。電気抵抗値Rpが比較的大きい場合、補正項Qcの値は大きくなり、電気抵抗値Rpが比較的小さい場合、補正項Qcの値は小さくなる。
【0042】
そして、本実施形態においては、電気抵抗値Rpの値に応じて、図9に示すごとく、修正後のエネルギ基準値Qrcは、非内蔵想定値Qbよりも値が大きくなるよう修正される。
【0043】
なお、点火プラグ3に抵抗体26と中心電極31との間、及び、抵抗体26とステム33との間には、これらの間を、導電性を確保しながらシールする導電性ガラスシール27が配されている。なお、導電性ガラスシール27は、スパークプラグに抵抗値を付与することを主たる目的とはしておらず、抵抗体26を構成するものではない。
【0044】
その他は、参考形態1と同様である。
なお、実施形態1以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0045】
本実施形態においては、点火プラグ3におけるステム33と中心電極31との間の電気抵抗値Rpに起因して点火プラグ3において損失されるエネルギを考慮し、一層無駄のない点火エネルギの供給を実現できる。
その他、参考形態1と同様の作用効果を有する。
【0046】
本発明は、各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。例えば、エネルギ取得部は、一次電流と一次電圧と変換効率αとの積の時間積分に基づいて、点火エネルギQ(t)の値を取得することもできる。この場合、各放電期間中における、放電開始から任意の時間tx経過後の点火エネルギQ(tx)は、下記式によって表される。
【数2】
なお、変換効率αは、一次コイルの電磁エネルギから二次コイルの電磁エネルギへの変換効率をいう。
【符号の説明】
【0047】
1 内燃機関用の点火装置
10 点火制御部
2 点火コイル
21 一次コイル
22 二次コイル
3 点火プラグ
4 エネルギ取得部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9