(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】車両用制御ユニット
(51)【国際特許分類】
H05K 5/03 20060101AFI20220104BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
H05K5/03 A
B60R16/02 610A
(21)【出願番号】P 2017170945
(22)【出願日】2017-09-06
【審査請求日】2020-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】特許業務法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 拓一
(72)【発明者】
【氏名】野口 泰史
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-305869(JP,A)
【文献】特開平11-046073(JP,A)
【文献】特開平11-195881(JP,A)
【文献】特開2001-186629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/00- 5/03
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂材料によって形成された多面体であって、かつ、一面に
略長方形の開口部が設けられたケース本体と、
前記ケース本体に収容された回路基板と、
前記開口部に嵌め込まれて、前記開口部を塞ぐカバーと、を有する車両用制御ユニットであって、
前記カバーは、前記開口部を覆う主面を形成する板状部分と、
前記主面の一方の長辺に連接して設けられ、前記開口部の第1の
長辺と対向する第1端面および当該第1端面の裏側の端面を形成する板状部分と、
前記主面の他方の長辺に連接して設けられ、前記開口部の前記第1の
長辺と対向する第2の
長辺と対向する第2端面および当該第2端面の裏側の端面を形成する板状部分と、
前記主面の一方の短辺に連接して設けられ、前記開口部の第1の短辺と対向する第3端面および当該第3端面の裏側の端面を形成する板状部分と、前記主面の他方の短辺に連接して設けられ、前記開口部の前記第1の短辺と対向する第2の短辺と対向する第4端面および当該第4端面の裏側の端面を形成する板状部分と、が一体成形された樹脂部材であり、
前記第1端面,前記第2端面,前記第3端面及び前記第4端面は、前記開口部の内側に差し入れられており、
前記第1端面および前記第2端面は、それぞれの長手方向中間部同士の間隔が、前記第1の
長辺と前記第2の
長辺との対向方向において最も近接するように湾曲している
、
車両用制御ユニット。
【請求項2】
請求項
1に記載の車両用制御ユニットにおいて、
前記ケース本体は、互いに対向する上面および下面と、これら上面および下面にそれぞれ隣接する4つの側面と、から構成される6面体であり、
前記4つの側面の一つに前記開口部が設けられている、
車両用制御ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御回路が搭載された回路基板と、この回路基板を収容するケースと、を備える車両用制御ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車やその他の車両には、多数のシステムや装置と、これらシステムや装置を制御するための制御ユニットと、が搭載されている。一般的な自動車には、例えば、ブレーキシステム,カーナビゲーションシステム,パワーウインドウシステム等の各種システムを個別に制御する制御ユニットや、複数のシステムや装置を統括的に制御する制御ユニット等が搭載されている。さらに、特殊な車両には、上記システムや制御ユニットに加えて、求められる機能を実現するために必要なシステムや装置と、それらシステムや装置を制御するための制御ユニットと、が搭載される。
【0003】
通常、車両に搭載される上記のような制御ユニットは、制御回路が搭載された回路基板と、この回路基板を収容するケースと、を備える(特許文献1)。制御ユニットのケースは、例えば、回路基板を出し入れするための開口部が設けられたケース本体と、ケース本体の開口部を塞ぐカバーと、から構成される。このようなケース本体やカバーは樹脂材料を金型に注入して成形されるのが一般的である。
【0004】
多くの場合、ケース本体の開口部の形状は四角形に設計される。しかし、樹脂成型品であるケース本体の開口部を完全な四角形に成形することは困難である。具体的には、ケース本体の開口部の形状は、設計上は完全な四角形であるが、成形時や成形後の熱膨張や熱収縮等の影響により完全は四角形とはなり難い。言い換えれば、開口部は4本の辺によって囲まれているが、これら4本の辺の全ては直線とはならない。また、開口部は4つの頂点を有するが、これら4つの頂点の内角は直角とはならない。
【0005】
より具体的には、四角形の開口部は、対向する一対の辺と、対向する他の一対の辺と、を有する。この場合、それぞれの辺が開口部の内側に向かって弓なりに湾曲することがある。このような各辺の湾曲は「内反り」と呼ばれる。また、何れかの辺が内側に向かって弓なりに湾曲している開口部の状態を指して「内反り」と呼ばれることもある。一方、開口部を囲む辺が開口部の外側に向かって弓なりに湾曲することもある。このような辺の湾曲は「内反り」に対して「外反り」と呼ばれる。また、何れかの辺が外側に向かって弓なりに湾曲している開口部の状態を指して「外反り」と呼ばれることもある。本明細書では、かかる用法に従って「内反り」、「外反り」の用語を用いる。
【0006】
ここで、開口部が対向する一対の短辺と、対向する一対の長辺と、を有する長方形である場合、短辺よりも長辺に内反りが発生し易い傾向がある。つまり、正方形の開口部よりも長方形の開口部に内反りが発生し易い傾向がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、ケース本体に比べて小さく、また、大きな開口部分を有さないカバーは、ケース本体に比べて成形時や成形後の熱膨張や熱収縮等の影響が少なく、設計通りの形状に成形し易い。そこで従来は、ケース本体の開口部にカバーを嵌め込んで開口部を塞ぐと共に、開口部の内反りを矯正していた。
【0009】
しかし、カバーによって内反りが矯正されたケース本体の開口部に外反りが発生することがあった。例えば、制御ユニットのケースを高温状態と低温状態とに繰り返し晒す熱衝撃試験後に、ケース本体の開口部に外反りが発生することがあった。
【0010】
本件発明者らは、外反りの発生原因について鋭意研究した結果、カバーによって変形(内反り)が矯正されているケース本体の開口部やその周辺にはストレス(応力)が生じており、かかるストレスが事後的な外反りの発生原因の一つであるとの知見を得た。
【0011】
尚、ケース本体の内反りや外反りを防止する方法の一つにアニール処理がある。しかし、アニール処理の実施はケース本体の成形を含む制御ユニットの製造工程数を増加させ、製造コストを上昇させる。
【0012】
本発明は上記知見に基づいてなされたものであり、その目的は、温度変化によってケースが変形することがない車両用制御ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の車両用制御ユニットは、樹脂材料によって形成された多面体であって、かつ、一面に開口部が設けられたケース本体と、前記ケース本体に収容された回路基板と、前記開口部に嵌め込まれて、前記開口部を塞ぐカバーと、を有する。前記カバーは、前記開口部の第1の辺と対向する第1端面と、前記開口部の前記第1の辺と対向する第2の辺と対向する第2端面と、を備えている。また、前記第1端面および前記第2端面は、それぞれの長手方向中間部同士が、前記第1の辺と前記第2の辺との対向方向において最も近接するように湾曲している。
【0014】
本発明の一態様では、前記ケース本体の前記開口部は、前記第1の辺を一方の長辺とし、前記第2の辺を他方の長辺とする略長方形である。
【0015】
本発明の他の態様では、前記ケース本体は、互いに対向する上面および下面と、これら上面および下面にそれぞれ隣接する4つの側面と、から構成される6面体であり、前記4つの側面の一つに前記開口部が設けられている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、温度変化によってケースが変形することがない車両用制御ユニットが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明が適用された車両用制御ユニットの斜視図である。
【
図2】
図1に示される車両用制御ユニットの分解斜視図である。
【
図5】
図1に示されるカバーの端面形状を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の車両用制御ユニット(以下「制御ユニット」と略称する。)の実施形態の一例について説明する。
【0019】
図1,
図2に示されるように、制御ユニット1は、ケース2と、ケース2に収容された回路基板3と、を有する。ケース2は、多面体のケース本体10と、ケース本体10の一面に設けられている開口部11を塞ぐカバー30と、から構成される。図示は省略するが、
図2に示される回路基板3には、車両に搭載される各種システムを個別に制御するための制御回路が搭載されている。また、回路基板3には、制御回路に入出力される電気信号を伝送するケーブルの端部に設けられている雄型のコネクタが接続(挿入)される雌型のコネクタ3a(
図1)が設けられている。尚、
図2では、コネクタ3aの図示は省略されている。
【0020】
ケース本体10およびカバー30は、樹脂材料の一種であるPBT樹脂(ポリブチレンテレフタレート樹脂)によって射出成形されている。本実施形態におけるケース本体10およびカバー30の材料であるPBT樹脂にはガラス繊維が含まれている。
【0021】
図示されているように、ケース本体10は多面体である。具体的には、ケース本体10は、互いに対向する上面12および下面13と、これら上面12および下面13に隣接する4つの側面14,15,16,17と、から構成される6面体である。上面12および下面13の面積は同一であって、かつ、6面のうちで最大である。また、開口部11は、側面14に設けられている。以下の説明では、開口部11が設けられている側面14を「前面14」と呼び、前面14と対向する側面15を「背面15」と呼ぶ。また、前面14および背面15に隣接する2つの側面16,17のうち、一方の側面16を「左側面16」、他方の側面17を「右側面17」と呼ぶ。もっとも、上記呼称による区別は、説明の便宜上の区別に過ぎない。
【0022】
図2に示されるように、開口部11は、対向する第1の辺11aおよび第2の辺11bと、対向する第3の辺11cおよび第4の辺11dと、によって囲まれた略四角形である。より具体的には、開口部11は略長方形であり、第1の辺11aは長辺の1つであり、第2の辺11bは長辺の他の1つである。また、第3の辺11cは短辺の1つであり、第4の辺11dは短辺の他の1つである。つまり、開口部11は、対向する一対の長辺11a,11bと、対向する一対の短辺11c,11dと、によって囲まれた略長方形である。
【0023】
ケース本体10と共にケース2を構成するカバー30は、ケース本体10に回路基板3が収容された後に、ケース本体10の開口部11の内側に嵌め込まれる。よって、カバー30は、開口部11の形状に対応した形状(外形)を有する。
図3,
図4にカバー30を拡大して示す。カバー30は、開口部11(
図2)を覆う略長方形の主面31と、主面31の各辺から主面31と直交する方向に延びる4つの端面32と、を有する。
【0024】
カバー30の主面31には、コネクタ3a(
図2)に対応した位置に窓33が設けられている。
図1,
図2に示されるように、回路基板3が収容されたケース本体10の開口部11にカバー30が嵌め込まれると、回路基板3に設けられているコネクタ3aの一部が窓33を通して外部に突出する。
【0025】
再び
図3,
図4を参照する。カバー30の主面31の一方の長辺には、これに連接する第1端面32aが設けられ、他方の長辺には、これに連接する第2端面32bが設けられている。また、主面31の一方の短辺には、これに連接する第3端面32cが設けられ、他方の短辺には、これに連接する第4端面32dが設けられている。
【0026】
図1,
図2から理解できるように、ケース本体10にカバー30が装着される際、カバー30の各端面32は、開口部11からケース本体10の内側に差し入れられる。具体的には、カバー30の第1端面32aは、ケース本体10の上面内側に差し入れられる。同様に、第2端面32bは下面内側に、第3端面32cは左側面内側に、第4端面32dは右側面内側に、それぞれ差し入れられる。そこで、以下の説明では、カバー30の第1端面32aを「上側端面32a」、第2端面32bを「下側端面32b」、第3端面32cを「左側端面32c」、第4端面32dを「右側端面32d」と、呼んで区別する場合がある。もっとも、かかる区別も説明の便宜上の区別に過ぎない。
【0027】
上記のようにしてカバー30が開口部11に嵌め込まれると、カバー30の上側端面32aは、開口部11の長辺11aと対向する。また、カバー30の下側端面32bは開口部11の長辺11bと対向し、カバー30の左側端面32cは開口部11の短辺11cと対向し、カバー30の右側端面32dは開口部11の短辺11dと対向する。
【0028】
ここで、
図5に示されるように、カバー30の上側端面32aおよび下側端面32bは平坦ではなく、それぞれ内側に向かって弓なりに湾曲している。具体的には、上側端面32aおよび下側端面32bは、それぞれの長手方向中間部同士が、開口部11の長辺11a,11b(
図2)の対向方向において最も近接するように湾曲している。
【0029】
以下の説明では、
図5に示される直線Xを第1基準線と定義し、直線Yを第2基準線と定義する。第1基準線である直線Xは、上側端面32aの長手方向両端部を結ぶ直線であり、第2基準線である直線Yは、下側端面32bの長手方向両端部を結ぶ直線である。図示されているように、カバー30の上側端面32aは、その長手方向中央部が第1基準線から最も離反し、その長手方向両端部が第1基準線に最も近接するように湾曲している。また、カバー30の下側端面32bは、その長手方向中央部が第2基準線から最も離反し、その長手方向両端部が第2基準線に最も近接するように湾曲している。言い換えれば、第1基準線と上側端面32aとの間には隙間が存在しており、この隙間は、上側端面32aの長手方向中央部(以下「上側端面中央部」と呼ぶ。)において最大となり、上側端面32aの長手方向両端部(以下「上側端面両端部」と呼ぶ。)において最少となる。同様に、第2基準線と下側端面32bとの間には隙間が存在しており、この隙間は、下側端面32bの長手方向中央部(以下「下側端面中央部」と呼ぶ。)において最大となり、下側端面32bの長手方向両端部(以下「下側端面両端部」と呼ぶ。)において最少となる。
【0030】
本実施形態では、第1基準線に対する上側端面中央部の離反距離(D1)、第2基準線に対する下側端面中央部の離反距離(D2)は、それぞれ1mmである。つまり、第1基準線と上側端面32aとの間の隙間は最大で1mmであり、第2基準線と下側端面32bとの間の隙間も最大で1mmである。
【0031】
尚、
図5に示されているカバー30の長さ(L)は144mm、幅(W1)は30mm、窓33の幅(W2)は24mmである。
【0032】
上記のように、カバー30の上側端面32aおよび下側端面32bは、それぞれ内側に向かって湾曲している。よって、内反りしている開口部11の内側にカバー30が嵌め込まれても開口部11の内反りは矯正されないが、カバー30の上側端面32aと開口部11の長辺11aとの間に隙間が生じることはなく、また、カバー30の下側端面32bと開口部11の長辺11bとの間に隙間が生じることもない。つまり、カバー30の上側端面32aおよび下側端面32bは、開口部11の内反りしている長辺11a,11bに倣うように湾曲している。
【0033】
以上のように、本実施形態に係る制御ユニット1のケース2は、開口部11が設けられているケース本体10と、開口部11に嵌め込まれるカバー30と、から構成されている。そして、カバー30の上側端面32aおよび下側端面32bは、内反りしている開口部11の長辺11a,11bに倣うように湾曲している。言い換えれば、カバー30の湾曲した上側端面32aおよび下側端面32bによって開口部11の内反りが吸収されている。従って、ケース本体10の開口部11およびその周辺にストレス(応力)が掛かっていないか、掛かっていたとしてもそのストレスは非常に小さいので、温度変化によって開口部11に外反りが発生することがない。
【0034】
本件発明者らは、本実施形態に係る制御ユニット1を構成するケース2(アニール処理不実施)について熱衝撃試験を実施し、ケース本体10の開口部11に外反りが発生しないことを確認している。この試験では、ケース2を-40℃の環境下に1時間放置した後、数分以内に+80℃の環境下に移して1時間放置することを1サイクルとし、これを1000サイクル繰り返した。
【0035】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、ケース本体10やカバー30の材料は上記樹脂材料(PBT樹脂)に限られない。また、ケース本体10とカバー30とに異種材料を用いることもできる。カバー30の上側端面32aおよび下側端面32bの湾曲度合は適宜変更することができる。具体的には、
図5に示される離反距離D1,D2は適宜変更することができる。もっとも、カバー30は、ケース本体10の開口部11の内反りを矯正しない。従って、
図5に示される離反距離D1,D2の拡大は、カバー30が嵌め込まれた後の開口部11やその近傍の幅が狭くなることを意味する。言い換えれば、カバー30が装着された後のケース本体10の内部空間の高さが低くなることを意味する。よって、離反距離D1,D2を決定する際には、ケース本体10の内面とケース本体10に収容される回路基板3との間に必要とされるクリアランスを考慮することが好ましい。
【0036】
本発明は、特定のシステムや装置を制御するための制御ユニットのみを対象とするものではなく、車両に搭載される凡そ全ての制御ユニットを対象とする。
【符号の説明】
【0037】
1 車両用制御ユニット(制御ユニット)
2 ケース
3 回路基板
3a コネクタ
10 ケース本体
11 開口部
11a 第1の辺(長辺)
11b 第2の辺(長辺)
11c 第3の辺(短辺)
11d 第4の辺(短辺)
12 上面
13 下面
14 側面(前面)
15 側面(背面)
16 側面(左側面)
17 側面(右側面)
30 カバー
31 主面
32 端面
32a 第1端面(上側端面)
32b 第2端面(下側端面)
32c 第3端面(左側端面)
32d 第4端面(右側端面)
33 窓
D1,D2 離反距離