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特許69910573-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびメチルメルカプタンの貯蔵
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  • 特許-3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびメチルメルカプタンの貯蔵 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびメチルメルカプタンの貯蔵
(51)【国際特許分類】
   C07C 323/12 20060101AFI20220207BHJP
   C07C 323/22 20060101ALI20220207BHJP
   C07C 319/26 20060101ALI20220207BHJP
   C07C 321/04 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C07C323/12 CSP
C07C323/22
C07C319/26
C07C321/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017245183
(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公開番号】P2018104415
(43)【公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-12-16
(31)【優先権主張番号】16206225.1
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ユーディト ヒエロルト
(72)【発明者】
【氏名】ザシャ ジェイラン
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン ラウテンベアク
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト ヤーコプ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン カイザー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア コップ
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス ガイスト
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第93/013059(WO,A1)
【文献】特開昭58-225058(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02813489(EP,A1)
【文献】米国特許第03529940(US,A)
【文献】英国特許出願公告第01173174(GB,A)
【文献】英国特許出願公告第01166961(GB,A)
【文献】特表2014-508730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
の化合物。
【請求項2】
前記化合物は、
・1-(1R,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1R-オール、
・1-(1R,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1S-オール、
・1-(1S,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1R-オール、
・1-(1S,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1S-オール
またはそれらの2つ以上の混合物である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の化合物を含み、かつさらに3-メチルチオプロピオンアルデヒド、1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノールおよび/またはメチルメルカプタンを含む組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の化合物、または請求項3に記載の組成物の、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよび/またはメチルメルカプタンの貯蔵および/または輸送のための使用。
【請求項5】
式(I)の化合物を含む組成物を、アクロレインを含むか、またはアクロレインからなる組成物と接触させて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含む組成物を得る工程を含む、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールという名称を有する式(I)による化合物、前述の化合物を含む組成物、ならびに一般式(I)による化合物を3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびメチルメルカプタンから製造するための方法に関する。さらに、本発明は、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを一般式(I)の化合物から製造するための方法、ならびに一般式(I)の化合物の、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよび/またはメチルメルカプタンの貯蔵および/または輸送のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
3-メチルチオプロピオンアルデヒドは、メチルメルカプトプロピオンアルデヒド(ethylercaptoropionaldehyde)の略称MMPまたは4-チアペンタナール(国連(UN)番号2785)という名称としても公知であり、D,L-メチオニンおよびそのヒドロキシ類似体であり、メチオニンヒドロキシ類似体(ethionine ydroxy nalogue)の略称MHAとしても公知の2-ヒドロキシ-4-メチルチオ酪酸の生産における重要な中間体である。3-メチルチオプロピオンアルデヒドは、一般的にメチルメルカプタンとアクロレインとのマイケル付加による反応により製造される。英国特許出願公告第1618884号明細書(GB1618884A)、英国特許出願公告第1173174号明細書(GB1173174A)および英国特許出願公告第1166961号明細書(GB1166961A)の特許は、メチルメルカプタンとアクロレインの反応により3-メチルチオプロピオンアルデヒドを直接製造するための方法か、または3-メチルチオプロピオンアルデヒドをまずメチルメルカプタンと反応させ、このようにして得られた反応生成物をアクロレインと直接反応させて3-メチルチオプロピオンアルデヒドを形成する、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを間接的に製造することによる方法を開示している。しかしながら、これらの文献は、結果として生じる、脂肪族α-酸性アルデヒドである3-メチルチオプロピオンアルデヒドが貯蔵安定ではなく、高沸点物の形成をもたらす副反応を起こしやすいということは考慮されていない。さらに、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを製造するために使用される化合物メチルメルカプタンおよびアクロレインは、高い潜在的リスクと関連している。したがって、アクロレインまたはメチルメルカプタンを含む流が工業的規模のプロセスで使用される場合も、それらの貯蔵の間も、適切な安全規制が満たされなければならない。メチルメルカプタンの蒸気圧が高いため、圧力容器もその貯蔵に必要とされる。このことは、アクロレインおよびメチルメルカプタンが使用される新規の化学プラントの建設および工業的規模のプラントの拡張をさらに困難にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】英国特許出願公告第1618884号明細書(GB1618884A)
【文献】英国特許出願公告第1173174号明細書(GB1173174A)
【文献】英国特許出願公告第1166961号明細書(GB1166961A)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、化合物アクロレインおよびメチルメルカプタンを、リスクの潜在性がより低い化合物に変換するための解決策だけでなく、化合物3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびメチルメルカプタンを、安定かつ安全な方法で貯蔵することができる解決策の必要性があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
これらの課題は、本発明にしたがって、1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールのIUPACによる名称を有する式(I)
【化1】
の化合物を提供することにより達成される。
【0006】
この化合物は、2分子の3-メチルチオプロピオンアルデヒドと1分子のメチルメルカプタンから形成される。この化合物を形成することによって、オリゴマー化反応または重合反応の影響を受けやすい3-メチルチオプロピオンアルデヒドのアルデヒド基は、反応性のより低いチオアセタール基またはヘミアセタール基に変換される。それによって、3-メチルチオプロピオンアルデヒドのオリゴマー化による高沸点副生成物の形成が、著しく減少する。一般式(I)の化合物の形成過程で、1分子のメチルメルカプタンも取り込まれる。揮発性化合物のメチルメルカプタンが、より揮発しにくい一般式(I)の化合物に取り込まれることによって、メチルメルカプタンと関連しているリスクの潜在性が減少する。したがって、一般式(I)の化合物は、3-メチルチオプロピオンアルデヒドの貯蔵にもメチルメルカプタンの貯蔵にも好適である。さらに、一般式(I)の化合物は、アクロレインと関連している高いリスクの潜在性を減少させることができる。したがって、1分子のアクロレインと1分子の一般式(I)の化合物を反応させることによって、3分子の3-メチルチオプロピオンアルデヒドが形成され、この3-メチルチオプロピオンアルデヒドはそしてまた、アクロレインよりもリスクの潜在性が明らかに低い。
【0007】
したがって、本発明は、式(I)
【化2】
の化合物に関する。
【0008】
この化合物のIUPAC(nternational nion of ure and pplied hemistry)命名法による名称は、1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールである。
【0009】
この分子中の2つの立体中心のために、この化合物は、立体異性体の1-(1R,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1R-オール、1-(1R,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1S-オール、1-(1S,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1R-オール、1-(1S,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1S-オールの1つまたは複数の形態であるか、またはこれらの立体異性体の2つ以上の混合物の形態である。
【0010】
したがって、1つの実施形態では、本発明による化合物は、
・1-(1R,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1R-オール、
・1-(1R,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1S-オール、
・1-(1S,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1R-オール、
・1-(1S,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1S-オール
またはそれらの2つ以上の混合物である。
【0011】
本発明に関連して、化合物1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールが、立体配置が明記されずに言及される場合、この記述には、本発明による化合物のすべての個々の立体異性体も、これらの立体異性体の2つ以上の混合物も含まれる。
【0012】
3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびメチルメルカプタンを含み、さらに本発明による式(I)の化合物も含む組成物が、本発明による化合物を含まない相応する組成物よりも高沸点副生物の形成が著しく減少することが複数の分析により示された。式(I)の化合物を含む組成物における、この化合物を含まない組成物と比べた高沸点副生物の形成の減少は、当該組成物がより長く貯蔵される場合により顕著である。
【0013】
メチルメルカプタンは、3-メチルチオプロピオンアルデヒドのアルデヒド基の炭素原子に容易に付加して、そのヘミチオアセタールである1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノールが形成される。1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノールのヒドロキシ官能基を、3-メチルチオプロピオンアルデヒドのさらなる1分子のアルデヒド官能基の炭素原子に付加することによって、その結果、式(I)の化合物が形成される。したがって、4つの化合物メチルメルカプタン、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノールおよび1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールは、互いに平衡状態にある。
【0014】
したがって、本発明は、さらに、本発明による式(I)の化合物、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノールおよび/またはメチルメルカプタンを含む組成物に関する。
【0015】
本発明による組成物中の成分の割合は、3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンの比[これらが反応して1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールが形成される]に、ならびに温度および含水率に、依存する。
【0016】
3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンの使用比1.8:1で、ならびに10℃から70℃の間の温度および3質量%の含水率で、本発明による組成物は、56質量%から64質量%までの1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノール、24質量%から32質量%までの3-メチルチオプロピオンアルデヒド、0質量%から1質量%までのメチルメルカプタン、および9質量%から15質量%までの1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールを含む。
【0017】
3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンの使用比2.2:1で、ならびに10℃から70℃の間の温度および3質量%の含水率で、本発明による組成物は、42質量%から46質量%までの1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノール、35質量%から42質量%までの3-メチルチオプロピオンアルデヒド、0質量%から1質量%までのメチルメルカプタン、および13質量%から22質量%までの1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールを含む。
【0018】
3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンの使用比2.7:1で、ならびに10℃から70℃の間の温度および3質量%の含水率で、本発明による組成物は、25質量%から36質量%までの1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノール、40質量%から50質量%までの3-メチルチオプロピオンアルデヒド、0質量%から1質量%までのメチルメルカプタン、および15質量%から34質量%までの1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールを含む。
【0019】
3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンの使用比3.8:1で、ならびに10℃から70℃の間の温度および3質量%の含水率で、本発明による組成物は、23質量%から27質量%までの1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノール、56質量%から62質量%までの3-メチルチオプロピオンアルデヒド、0質量%から0.5質量%までのメチルメルカプタン、および12質量%から21質量%までの1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールを含む。
【0020】
したがって、1つの実施形態では、本発明による組成物は、3質量%の含水率で、20質量%から70質量%までの1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノール、20質量%から70質量%までの3-メチルチオプロピオンアルデヒド、0質量%から5質量%までのメチルメルカプタン、および1質量%から40質量%までの1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールを含む。
【0021】
40℃の温度で4週間にわたって貯蔵されている本発明による組成物中では、組成物の合計質量を基準として1.98質量%の残留物形成(生成物中の高沸点成分の割合)が観察される。これと比べて、同一の貯蔵条件下の工業的に製造された3-メチルチオプロピオンアルデヒド中では、合計質量を基準として2.52質量%の残留物形成の増加が観察される。本発明による組成物と、純粋な3-メチルチオプロピオンアルデヒドとの残留物形成に関する相違は、より長い貯蔵期間後により顕著である。例えば、25℃の温度(室温)で14週間にわたって貯蔵される本発明による組成物中では、組成物の合計質量を基準として5.48質量%の残留物形成が観察される。これと比べて、同一条件下で貯蔵される工業的に製造された3-メチルチオプロピオンアルデヒド中での残留物形成は、組成物の合計質量を基準として13.78質量%で著しく高い。したがって、本発明による化合物も、本発明による化合物を含む本発明による組成物も、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびメチルメルカプタンの貯蔵に好適である。この適性は、1分子の式(I)の化合物あたり2分子の3-メチルチオプロピオンアルデヒドの可逆的結合によるものであると考えられる。これは、3-メチルチオプロピオンアルデヒド分子の反応性アルデヒド基が、この可逆的取り込みにより保護され、したがって、残留物形成の原因である副反応に利用できないからである。したがって、結果として、3-メチルチオプロピオンアルデヒドの高沸点二次成分の形成の減少が、式(I)の化合物を含む組成物中で観察される。本発明による化合物または本発明による組成物のリスクの潜在性の減少、および高沸点二次成分の形成の減少のために、本発明による化合物または本発明による組成物は、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよび/またはメチルメルカプタンの輸送にも好適である。
【0022】
したがって、本発明の別の対象は、本発明による化合物および/または本発明による化合物を含む本発明による組成物の、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよび/またはメチルメルカプタンの貯蔵および/または輸送のための使用である。
【0023】
貯蔵または輸送は、好ましくは40℃以下の温度で、特に好ましくは25℃以下の温度で、殊に15℃以下の温度で行われる。貯蔵または輸送の期間に関しては、本発明による使用には原則として制限がない。したがって、貯蔵または輸送は、数週間にわたって行われるか、または数ヶ月にわたってさえも行われてよい。4週間、8週間または14週間にわたって、本発明による化合物または本発明による組成物の場合に、高沸点副生成物の少ない形成が観察された。貯蔵は、好ましくは40℃以下の温度で、4週間以下の期間にわたって行われる。代替的に、貯蔵は、好ましくは25℃以下の温度で、特に15℃以下の温度で、4週間、8週間、または最長14週間にわたって行われる。
【0024】
最も簡単な場合、本発明による化合物は、その個々の立体配置に関わりなく、3-メチルチオプロピオンアルデヒドとメチルメルカプタンの反応により得られる。この反応において、化合物3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびメチルメルカプタンは、互いに独立して、純品で、または3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびメチルメルカプタンを含む流または混合物の形態で互いに接触される。3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含む混合物は、好ましくは、メチルメルカプタンを含む混合物と接触されて、本発明による化合物が得られる。これは、工業的配置において見られるように、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含む混合物、例えば上流の反応に由来する3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含む流を、メチルメルカプタンを含む混合物、例えばメチルメルカプタンの生産からのメチルメルカプタンを含む流と接触させて、1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールを得る場合に相当する。この場合、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよび/またはメチルメルカプタンを含む当該流は、本発明による化合物を形成するための接触および反応の前に精製されない。代替的に、当該流を接触および反応の前に精製することも可能である。この場合、精製された、もしくは純粋な3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含む流、および/または精製された、もしくは純粋なメチルメルカプタンを含む流が反応で使用されて、1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールが形成される。その流またはこれらの流は、その場合、それぞれ純粋な化合物を、希釈されずに純粋な流として含むか、または不活性溶媒中に希釈されて含んでよい。
【0025】
したがって、さらに、本発明は、以下の工程
a)3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含むか、または3-メチルチオプロピオンアルデヒドからなる組成物を、メチルメルカプタンを含むか、またはメチルメルカプタンからなる組成物と接触させて、式(I)の化合物を含む組成物を形成する工程
を含む、式(I)の化合物を製造するための方法を提供する。
【0026】
この工程における3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンのモル比が少なくとも2:1である場合、本発明による化合物の形成に有利である。
【0027】
したがって、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の1つの実施形態では、工程a)における3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンのモル比は、少なくとも2:1である。
【0028】
本発明による方法の工程a)における3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンのモル比は、好ましくは2:1から4:1の間である。
【0029】
1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールの可能な限り高い収率を達成するために、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a)は、比較的大量のメチルメルカプタンが依然として反応混合物中に存在している温度で行われる。これは、温度の上昇とともに、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびメチルメルカプタンを含む組成物中のメチルメルカプタンの含有率が、メチルメルカプタンの高い蒸気圧のために減少するからである。70℃の温度で反応混合物中に存在しているメチルメルカプタンの量は、一般的に、1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールを大量に生成させるのに充分である。
【0030】
したがって、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法のさらなる実施態様では、工程a)は、70℃以下の温度で行われる。
【0031】
式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a)は、好ましくは25℃以下の温度で行われる。
【0032】
式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a)は、特に好ましくは、冷却しながら、好ましくは15℃以下の温度で行われる。このようにして、反応溶液から逃げるメチルメルカプタンを可能な限り少なくし、それに応じて大量のメチルメルカプタンが、貯蔵のために化合物1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールに取り込まれることが保証される。
【0033】
本発明による方法の工程a)において式(I)の化合物を製造するために使用される3-メチルチオプロピオンアルデヒドは、好ましくは、アクロレインとメチルメルカプタンの反応により製造される。この反応において、化合物アクロレインおよびメチルメルカプタンは、互いに独立して、純品で、またはアクロレインおよびメチルメルカプタンを含む流もしくは混合物の形態で互いに接触される。アクロレインを含む混合物は、好ましくはメチルメルカプタンを含む混合物と接触されて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドが得られる。これは、工業的配置において見られるように、アクロレインを含む混合物、例えば上流の反応に由来するアクロレインを含む流が、メチルメルカプタンを含む混合物、例えばメチルメルカプタンの生産からのメチルメルカプタンを含む流と接触されて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを得る場合に相当する。この場合、アクロレインおよび/またはメチルメルカプタンを含む当該流は、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを形成するための接触および反応の前に精製されない。代替的に、当該流を接触および反応の前に精製することも可能である。この場合、精製された、もしくは純粋なアクロレインを含む流、および/または精製された、もしくは純粋なメチルメルカプタンを含む流が反応で使用されて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドが形成される。その流またはこれらの流は、その場合、それぞれの純粋な化合物を、希釈されずに純粋な流として含むか、または不活性溶媒中に希釈されて含んでよい。
【0034】
したがって、1つの実施形態では、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法は、さらに、以下の、工程a)の上流の工程
a’)アクロレインを含むか、またはアクロレインからなる組成物を、メチルメルカプタンを含むか、またはメチルメルカプタンからなる組成物と接触させて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含む組成物を形成する工程
を含む。
【0035】
代替的に、形成された式(I)の化合物の一部をアクロレインと反応させて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを形成することも可能である。このようにして、高いリスクの潜在性を伴うアクロレインは、有害性のより低い化合物3-メチルチオプロピオンアルデヒドに変換される。このようにして得られた3-メチルチオプロピオンアルデヒドと、リスクの潜在性が高いと言われてもいるメチルメルカプタンの反応によって、式(I)の化合物が再び形成される。結果的に、リスクの潜在性が高い2つの物質は、有害性のより低い式(I)の化合物に変換される。
【0036】
したがって、代替的な実施形態では、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法は、さらに、以下の、工程a)の上流および/または下流の工程
a’’)一般式(I)の化合物を含む組成物をアクロレインと接触させて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含む組成物を形成する工程
を含む。
【0037】
式(I)の化合物を製造するための本発明による方法に関連して、工程a)またはa’)の少なくとも1つが、触媒の存在下に実施される場合に有利であることが判明している。この場合、窒素含有塩基が、工程a)における反応にも、工程a’)における反応にも好適な触媒であることが判明しており、ここで、1つまたは両方の工程において、1つ超の窒素含有塩基が存在していてもよい。特に1,4-付加またはマイケル付加として進行する、アクロレインおよびメチルメルカプタンからの3-メチルチオプロピオンアルデヒドの形成において、窒素含有塩基は、触媒として有利であることが判明している。
【0038】
したがって、さらなる実施形態では、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a)および/または工程a’)は、触媒としての少なくとも1つの窒素含有塩基の存在下に実施される。好ましくは、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の少なくとも工程a’)は、触媒としての窒素含有塩基の存在下に実施される。
【0039】
式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の好ましい実施形態では、窒素含有塩基は、置換されていないか、または置換されたN-複素環式化合物または式NR123のアミンであり、式中、R1、R2およびR3は、同じかまたは異なっており、それぞれ互いに独立して、水素、1個から4個までの炭素原子を有するアルキル残基、または7個から14個までの炭素原子を有するアリールアルキル残基であるが、ただし、残基R1、R2またはR3の1つが水素である場合、その他の2つの残基は水素ではない。
【0040】
本発明による方法で使用される窒素含有塩基がN-複素環式化合物である場合、それは、好ましくはピリジンまたはアルキル置換されたピリジン、例えばピコリンまたはルチジンである。本発明による方法で使用される窒素含有塩基が式NR123のアミンである場合、それは、好ましくは第三級アミン、特にトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリデシルアミン、トリドデシルアミンまたはジメチルベンジルアミンであり、ここで、ジメチルベンジルアミンが特に好ましい。
【0041】
最も簡単な場合には、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法は、工程a)の上流の工程で形成された3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含むか、またはその3-メチルチオプロピオンアルデヒドからなる組成物が、直接、後処理なしに工程a)に加えられるように実施される。好ましくは、3-メチルチオプロピオンアルデヒドは、アクロレインまたはアクロレインを含む混合物またはアクロレインを含む流と、メチルメルカプタンまたはメチルメルカプタンを含む混合物またはメチルメルカプタンを含む流の反応により製造され、これは、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の好ましい実施形態の工程a’)に相当する。好ましくは、本発明による方法の工程a’)は、触媒としての窒素含有塩基の存在下に実施される。工程a’)から得られた3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含む組成物を、直接、後処理なしに工程a)に供給することによって、窒素含有塩基も、この場合、工程a)に供給される。
【0042】
したがって、別の実施形態では、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a)およびa’)は、触媒としての少なくとも1つの窒素含有塩基の存在下に実施される。工程a)およびa’)は、好ましくは、1つの同じ塩基または複数の同じ塩基の存在下に実施される。
【0043】
アクロレインは、ラジカル重合またはイオン重合を受けやすく、これは、この経済的に重要な有価物質の著しい損失をもたらしうる。本発明による方法に関連して、弱酸性pHに調節することにより、本発明による方法の工程a’)に存在しているアクロレインを安定化させることができ、これは、より高い収率の3-メチルチオプロピオンアルデヒドのために有利であり、したがって、より高い収率の1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールのためにも有利である。本発明による方法の工程a’)のpHは、好ましくは3から6の間である。最も簡単な場合、弱酸性pHに、工程a’)において1つまたは複数の酸の存在によって調整される。本発明による方法の工程a’)は、好ましくは触媒としての窒素含有塩基の存在下に実施されるため、さらなる酸は、この工程では、塩基に対して過剰量で存在しているのが望ましいか、または存在しているさらなる酸は、相応して強いため、塩基の存在下で(弱)酸性pHに調整されることが望ましい。酸の存在下で製造された、工程a’)で得られた3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含むか、またはその3-メチルチオプロピオンアルデヒドからなる組成物が、後処理なしに工程a)に供給される場合、この工程も酸の存在下に実施される。
【0044】
したがって、別の実施形態では、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a)および/または工程a’)は、少なくとも1つの酸の存在下に実施される。
【0045】
式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a)および/または工程a’)は、好ましくは少なくとも1つの窒素含有塩基および少なくとも1つの酸の存在下に実施される。
【0046】
式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a)も工程a’)も、好ましくは少なくとも1つの酸の存在下に実施される。
【0047】
酸は、好ましくは無機酸、特に塩酸、硫酸もしくはリン酸、または有機酸、特にギ酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、または上述の酸の混合物である。
【0048】
本発明による方法では、金属カチオン、特に重金属カチオン、例えばFe2+は、アルデヒドからの高沸点物の形成に有利に働くか、または触媒作用もする。金属カチオン、特に重金属カチオンの錯化により、不所望な高沸点物の形成が抑制され、これは、本発明による方法の工程a’)においても工程a)においても、生成物純度および収率に好影響を及ぼす。金属カチオンを錯化するために好適な錯化剤に関して、本発明による方法は、原則としてなんの制限も受けない。本発明に関連して好適な錯化剤は、原則としてあらゆる一般的ないわゆる多座錯化剤であり、これは、錯体形成に好適な1つ超の官能基、例えばヒドロキシル基、アミノ基またはカルボキシル基を有するあらゆる錯化剤である。最も簡単な場合、錯化剤は、1つ超のカルボキシル基を有する有機酸、特に酒石酸である。
【0049】
したがって、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a)および/またはa’)は、好ましくは少なくとも1つの錯化性酸(complexing acid)の存在下に実施される。
【0050】
窒素含有塩基も、好ましくは式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a)および/またはa’)に存在しているため、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a)および/またはa’)は、窒素含有塩基および錯化性酸の存在下に実施される。好ましくは、窒素含有塩基は、ジメチルベンジルアミンであり、前記酸は、酢酸および/または酒石酸である。特に、窒素含有塩基は、ジメチルベンジルアミンであり、前記酸は、酢酸および酒石酸の混合物である。
【0051】
本発明による式(I)の化合物および本発明によるこの化合物を含む組成物を、アクロレインと反応させて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを形成することができ、これは、必須アミノ酸メチオニンの合成において重要な有価物質である。さらに、アクロレインと、本発明による化合物またはこの化合物を含む本発明による組成物の反応により、高いリスクの潜在性と関連している化合物アクロレインが、リスクの潜在性が著しく低い化合物3-メチルチオプロピオンアルデヒドに変換される。
【0052】
したがって、本発明は、式(I)の化合物を含む組成物を、アクロレインを含むか、またはアクロレインからなる組成物と接触させて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを得る工程を含む、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを製造するための方法にも関する。
【0053】
このようにして得られた3-メチルチオプロピオンアルデヒドは、有価物質の生成、例えば必須アミノ酸メチオニンの製造に、または式(I)の化合物を再び製造するのに、供給されてよい。
【0054】
本発明によれば、式(I)の化合物は、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含むか、または3-メチルチオプロピオンアルデヒドからなる組成物を、メチルメルカプタンを含むか、またはメチルメルカプタンからなる流と接触させて、式(I)の化合物を含む組成物を形成することにより製造される。これは、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a)に相当する。
【0055】
したがって、1つの実施形態では、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを製造するための本発明による方法は、さらに、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a)を含む。
【0056】
したがって、本発明によれば、式(I)の化合物を製造するために必要な3-メチルチオプロピオンアルデヒドは、好ましくは、アクロレインを含むか、またはアクロレインからなる組成物を、メチルメルカプタンを含むか、またはメチルメルカプタンからなる組成物と接触させて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含む組成物を得ることにより製造される。これは、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a’)に相当する。代替的に、3-メチルチオプロピオンアルデヒドは、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a’’)により提供されてもよい。
【0057】
したがって、好ましい実施形態では、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを製造するための本発明による方法は、さらに、式(I)の化合物を製造するための本発明による方法の工程a’)またはa’’)を含む。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】本発明による組成物の例示的な13C-NMRスペクトル(100MHz、溶媒なし)(化合物(I)を製造するために使用された3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンの量の比2.7:1、3質量%の水を含む混合物、溶媒なしで10℃から70℃までの温度で10℃ずつ測定)
図2】例4から7(第一試験系列)の残留物形成と時間の相関関係
図3】例8から11(第二試験系列)の残留物形成と時間の相関関係
【実施例
【0059】
使用した方法:
1.真空蒸留による残留物測定
残留物測定を、BuechiのGKR-50型のクーゲルロール蒸発器中で実施した。このために、蒸留に使用される容器の風袋をまず測定した。次に、蒸留される物質15gを容器に量り入れて、クーゲルロール蒸発器に導入した。蒸留容器の加熱を、200℃に調整し、真空ポンプの圧力調節器により30mbarの圧力に調整した。蒸留は、すべての試料において20分間にわたって実施した。蒸留装置の冷却後、装置をベントした。その後、容器を取り外して、秤量した。残留物を、以下の式を用いて決定した。
【数1】
【0060】
残留物測定は、±0.1質量%の精度を有する。
【0061】
2.NMR分光分析
試料中に平衡状態で存在している化合物メチルメルカプタン、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノールおよび1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールの含有率を、NMR分光法(uclear agnetic esonance)によりBrukerの型式Advance400の装置で測定した。
【0062】
例1から3に関しては、溶媒が加えられていない試料の13C-NMRスペクトルを100MHzで記録した。記録されたスペクトルから、構成成分同士のモル比を読み取った。テトラクロロエタン-D2を基準物質として使用し、キャピラリーに封入して当該試料のNMR管に導入した。比の測定のために、13C-NMRスペクトルにおけるメチルメルカプタン、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノールおよび1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールの特性シグナルを選択した。これらは、メチルメルカプタンの場合、4.8ppmのシグナルH3 SH、3-メチルチオプロピオンアルデヒドの場合、42.0ppmのシグナル-2-CHO、1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノールの場合、76.4ppmのシグナル-H(OH)SCH3、1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールの場合、34.1ppmのシグナルH3CS-CH22-CH(SCH3)ORであり、ここで、両方のジアステレオマーの積分合計を使用した。
【0063】
例4から8に関しては、当該試料の1H-NMRスペクトルを重水素化ジメチルスルホキシド(d6-DMSO)中で400MHzで記録した。定量分析のために、既知量のナフタレン(0.7mLの溶媒中の約30mgの試料の場合10mgのナフタレン)を試料に加えて、メチルメルカプタン、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノールおよび1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールの含有率を、特性シグナルの、ナフタレン内部標準の積分に対する比を用いて決定した。
【0064】
図1は、本発明による組成物の例示的な13C-NMRスペクトル(100MHz、溶媒なし、テトラクロロエタン-D2キャピラリー)を示しており(化合物(I)を製造するために使用された3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンの量の比2.7:1、3質量%の水を含む混合物、溶媒なしで10℃から70℃までの温度で10℃ずつ測定)、第1表は、個々の化合物のスペクトルの13C-NMR特性シグナルの帰属を含む。
【0065】
【表1】
【0066】
3.カールフィッシャー滴定による含水率の測定
1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールを含む組成物中の含水率を、カールフィッシャー法により双電極電流(biamperometric)滴定による終点指示を用いて測定した。このために、20~30mlの滴定溶媒、例えばFlukaのHydranal Solvent 5を滴定容器に最初に装入し、滴定剤、例えばFlukaのHydranal Titrant 5を使用して乾燥するまで滴定した。約500mgの試料量を、乾燥するまで滴定した容器にプラスチック製使い捨てシリンジを使用して加えて、滴定剤を使用して終点まで滴定した。正確な試料質量を質量差測定により測定した。
【0067】
これらの標準方法の実施は、当業者に公知であり、関連文献、例えばP.A.Bruttel、R.Schlink、“Wasserbestimmung durch Karl-Fischer-Titration”[Water Determination by Karl Fischer Titration]、Metrohm AG、2006に包括的に記載されている。
【0068】
4.ガスクロマトグラフィー
ガスクロマトグラフィー分析を、AgilentのHP6890型のガスクロマトグラフを使用して実施した。前記機器は、DB-5 123-5033型、30m×0.32mm×1.0μm、5%フェニルメチルポリシロキサンのキャピラリーカラムおよび不活性処理なしライナー(内径4mm、部品番号19251-60540)が備えられたものであった。分析を、1分あたり15℃の加熱速度で40℃から325℃までの温度勾配を使用して行った。
【0069】
本発明に関連して、ガスクロマトグラフィーを、他の方法に加えて、3-メチルチオプロピオンアルデヒド、メチルメルカプタンおよびアクロレインの測定に用いた。
【0070】
例1から3:1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールの製造
工業的に製造され、蒸留した3-メチルチオプロピオンアルデヒド試料(97.1質量%;50.1g(例1)、58.4g(例2)および40.1g(例3))をそれぞれフラスコに最初に装入し、N,N-ジメチルベンジルアミン(触媒混合物を基準として7.56質量%)、酢酸、酒石酸および水の触媒混合物を加えて、このようにして得られた混合物を、水浴を用いて加熱した。加えられた触媒混合物の量は、3-メチルチオプロピオンアルデヒド中のN,N-ジメチルベンジルアミンの目標濃度が130ppmであるように選択した。メチルメルカプタン(Sigma-Aldrich、98.0質量%;10.7g(例1)、10.0g(例2)および4.88g(例3))を、冷却した滴下漏斗に最初に装入し、15℃の温度を実質的に超えないように、3-メチルチオプロピオンアルデヒドに撹拌しながら滴加した。次に、生じた混合生成物を、室温で60分間撹拌し、NMR分光法により分析した。1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールの最大含有率は、3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンの比2.7:1で、18.7モル%と測定された。これは、3質量%の水の含有率およびおよそ32質量%の質量割合に相当する。例1から3の結果および関連した分析は、第2表にまとめられている。
【0071】
【表2】
【0072】
例4から11:1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールを含む混合物の貯蔵安定性
245.0gの工業的に製造された3-メチルチオプロピオンアルデヒド(92.5質量%)をフラスコに最初に装入して、氷水浴で温度制御した。メチルメルカプタン(Sigma-Aldrich、98.0質量%、36.21g、40.69mL)を、冷却した滴下漏斗に入れ、ここで、最初に装入された3-メチルチオプロピオンアルデヒドに対するメチルメルカプタンの量は、3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンのモル比がおよそ3:1になるように選択した。メチルメルカプタンを、15℃の温度を実質的に超えないように、3-メチルチオプロピオンアルデヒドに撹拌しながら滴加した。メチルメルカプタンの3-メチルチオプロピオンアルデヒドへの添加終了後、生じた混合生成物をさらに90分室温で撹拌した。生成物の一部を、カールフィッシャー滴定、NMR分光法および真空蒸留による残留物測定により特性化した。生成物のさらなる一部を、室温または40℃で数週間貯蔵し、残留物を規則的な間隔で測定した。このようにして実施した2つの試験系列(第一試験系列は、例4から7を含み、第二試験系列は、例8から11を含む)の結果は、第3a表および第3b表にまとめられている。これらの結果は、3-メチルチオプロピオンアルデヒドに加えて1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールも含む混合物は、相応の、1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールを含まない混合物と比べて残留物形成が明らかに減少していることを明確に示している。
【0073】
例4から7(第一試験系列)における残留物形成の一般的に急速な増加は、使用された出発材料中の残留物の高い初期値によって説明することができる。残留物形成は、指数関数的に増加しており、これは、自己触媒的プロセスであることを意味している。
【0074】
【表3-1】
【表3-2】
【0075】
例12:3-メチルチオプロピオンアルデヒドの製造
60.4gの工業的に製造された3-メチルチオプロピオンアルデヒド(93.9質量%、第4表の「反応物MMP」)をフラスコに最初に装入して、氷水浴で温度制御した。メチルメルカプタン(98.0質量%、9.83g)を、冷却した滴下漏斗に入れ、ここで、最初に装入された3-メチルチオプロピオンアルデヒドに対するメチルメルカプタンの量は、3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンのモル比がおよそ3:1になるように選択した。メチルメルカプタンを、15℃の温度を実質的に超えないように、3-メチルチオプロピオンアルデヒドに撹拌しながら滴加した。メチルメルカプタンの3-メチルチオプロピオンアルデヒドへの添加終了後、生じた混合生成物をさらに90分間室温で撹拌した。NMR分光法による特性化によって、31.7質量%の1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オール、26.5質量%の1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノール、および33.3質量%の3-メチルチオプロピオンアルデヒドの含有率が示された。次に、混合生成物をアクロレインと反応させて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを形成した。このために、51.6gの混合生成物および8.2gのアクロレインを、別個の滴下漏斗から60℃で28分以内に、溶媒として機能する97.9gの3-メチルチオプロピオンアルデヒド(6当量、93.9質量%、残留物0.2質量%)に撹拌しながら滴加した。添加終了後、両方の反応物を60℃でさらに60分間撹拌した。生じた混合生成物(第4表の「生成物MMP」)を、室温に冷却して、GC分析および残留物測定により特性化した。
【0076】
分析結果は、第4表にまとめられている。1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールを含む混合物とアクロレインとの反応により得られた3-メチルチオプロピオンアルデヒドは、純度が高かった。したがって、本発明により製造された1-(1,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1-オールは、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよびメチルメルカプタンの両方の貯蔵に好適である。
【0077】
【表4】
【0078】
本発明の好ましい実施形態は以下のものである:
1. 式(I)
【化3】
の化合物。
2. 前記化合物は、
・1-(1R,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1R-オール、
・1-(1R,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1S-オール、
・1-(1S,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1R-オール、
・1-(1S,3-ビス(メチルチオ)プロポキシ)-3-(メチルチオ)プロパン-1S-オール
またはそれらの2つ以上の混合物である、実施形態1に記載の化合物。
3. 実施形態1または2に記載の化合物を含み、かつさらに3-メチルチオプロピオンアルデヒド、1,3-ビス(メチルチオ)-1-プロパノールおよび/またはメチルメルカプタンを含む組成物。
4. 実施形態1または2に記載の化合物、または実施形態3に記載の組成物の、3-メチルチオプロピオンアルデヒドおよび/またはメチルメルカプタンの貯蔵および/または輸送のための使用。
5. 以下の工程:
a)3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含むか、または3-メチルチオプロピオンアルデヒドからなる組成物を、メチルメルカプタンを含むか、またはメチルメルカプタンからなる組成物と接触させて、一般式(I)の化合物を含む組成物を形成する工程
を含む、実施形態1または2に記載の化合物を製造するための方法。
6. 工程a)における3-メチルチオプロピオンアルデヒド対メチルメルカプタンのモル比は、少なくとも2:1である、実施形態5に記載の方法。
7. 工程a)は、約70℃以下の温度で実施される、実施形態5または6に記載の方法。
8. 以下の、工程a)の上流の工程
a’)アクロレインを含むか、またはアクロレインからなる組成物を、メチルメルカプタンを含むか、またはメチルメルカプタンからなる組成物と接触させて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含む組成物を形成する工程
をさらに含む、実施形態5から7までのいずれかに記載の方法。
9. 以下の、工程a)の上流および/または下流の工程
a’’)一般式(I)の化合物を含む組成物をアクロレインと接触させて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含む組成物を形成する工程
をさらに含む、実施形態5から7までのいずれかに記載の方法。
10. 工程a)および/または工程a’)は、触媒としての少なくとも1つの窒素含有塩基の存在下に実施される、実施形態5から9までのいずれかに記載の方法。
11. 前記窒素含有塩基は、置換されていないか、または置換されたN-複素環式化合物または式NR123のアミンであり、式中、R1、R2およびR3は、同じか、または異なっており、それぞれ互いに独立して、水素、1個から4個までの炭素原子を有するアルキル残基または7個から14個までの炭素原子を有するアリールアルキル残基であるが、ただし、残基R1、R2またはR3の1つが水素である場合、他の2つの残基は水素ではない、実施形態10に記載の方法。
12. 工程a)および/または工程a’)は、少なくとも1つの酸の存在下に実施される、実施形態5から11までのいずれかに記載の方法。
13. 式(I)の化合物を含む組成物を、アクロレインを含むか、またはアクロレインからなる組成物と接触させて、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを含む組成物を得る工程を含む、3-メチルチオプロピオンアルデヒドを製造するための方法。
14. 実施形態5から12までのいずれかに記載の工程a)をさらに含む、実施形態13に記載の方法。
15. 実施形態5から12までのいずれかに記載の工程a’)またはa’’)をさらに含む、実施形態14に記載の方法。
図1
図2
図3