(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】回転式圧縮機および冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
F04C 18/356 20060101AFI20220104BHJP
F04C 23/00 20060101ALI20220104BHJP
F04C 29/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
F04C18/356 E
F04C23/00 F
F04C29/00 D
(21)【出願番号】P 2018020550
(22)【出願日】2018-02-07
【審査請求日】2020-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャフェット フェルディ モナスリ
(72)【発明者】
【氏名】平山 卓也
【審査官】田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-229985(JP,A)
【文献】特開平07-253086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/356
F04C 23/00
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の軸方向に並べられた複数の圧縮機構部と、
前記複数の圧縮機構部を仕切る仕切板と、を備え、
前記圧縮機構部は、シリンダ室を形成するシリンダと、前記回転軸に設けられた偏心部と、前記偏心部に嵌合されて前記シリンダ室内において偏心回転可能なローラと、を備え、
前記複数の圧縮機構部のうち少なくとも1つにおいて、前記偏心部は、前記回転軸とは別体であって前記回転軸が挿通する挿通孔を有する偏心部材で形成され、
前記偏心部材の外周面に、潤滑油が供給される凹部が形成され、
前記凹部の底面に、前記挿通孔に通じる貫通孔が形成され、
前記貫通孔に挿通されて前記偏心部材と前記回転軸とを固定する固定具を有する回転式圧縮機。
【請求項2】
前記偏心部材と前記回転軸との間に、前記偏心部材および前記回転軸に係合して前記偏心部材と前記回転軸との相対回転を阻止する回転阻止部材が設けられている、請求項1記載の回転式圧縮機。
【請求項3】
前記回転軸に、外周面に開口するネジ穴が形成され、
前記固定具は、頭部と、前記頭部から延出するネジ軸部とを備え、
前記ネジ軸部が前記貫通孔に挿通されて前記ネジ穴に螺合されるとともに、前記頭部が前記凹部の底面に当接することにより前記偏心部材と前記回転軸とが固定される、請求項1または2に記載の回転式圧縮機。
【請求項4】
前記貫通孔の内周面に雌ネジが形成され、
前記固定具の外周面に雄ネジが形成され、
前記固定具が前記貫通孔の内周面に螺合されるとともに、前記固定具の先端部が前記回転軸の外周面に押圧状態で当接することで前記偏心部材と前記回転軸とが固定される、請求項1または2に記載の回転式圧縮機。
【請求項5】
前記貫通孔が複数設けられ、
複数の前記貫通孔は、これらの貫通孔のうち前記偏心部材における前記軸方向の第1端に最も近い第1貫通孔と、前記偏心部材における前記軸方向の前記第1端とは反対の第2端に最も近い第2貫通孔と、を含み、
前記第1貫通孔と前記第2貫通孔とは、前記偏心部材における前記軸方向の位置が異なり、
前記第1貫通孔の中心と前記第1端との前記軸方向の距離と、前記第2貫通孔の中心と前記第2端との前記軸方向の距離とは異なる、請求項1~4のうちいずれか1項に記載の回転式圧縮機。
【請求項6】
前記偏心部材は、前記回転軸に前記固定具により着脱可能に固定される請求項1~5のうちいずれか1項に記載の回転式圧縮機。
【請求項7】
請求項1~6のうちいずれか1項に記載の回転式圧縮機と、前記回転式圧縮機に接続された放熱器と、前記放熱器に接続された膨張装置と、前記膨張装置に接続された吸熱器と、を備えた冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転式圧縮機および冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス冷媒等の作動流体を圧縮する回転式圧縮機として、複数の圧縮機構部を回転軸の軸方向に並べて配置した回転式圧縮機がある。圧縮機構部は、シリンダと、偏心部と、ローラとを備える。偏心部は回転軸に設けられている。ローラは、各偏心部に嵌合されてシリンダ室内で偏心回転する。
前記回転式圧縮機において、偏心部を回転軸とは別体に形成し、偏心部を回転軸に取付けたものにおいては、その取付構造により、偏心部とローラとの間の油膜形成が不十分となることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、偏心部とローラとの間に十分な油膜を形成することができる回転式圧縮機および冷凍サイクル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の回転式圧縮機は、回転軸と、複数の圧縮機構部と、仕切板とを持つ。前記複数の圧縮機構部は、前記回転軸の軸方向に並べられている。前記仕切板は、前記複数の圧縮機構部を仕切る。前記圧縮機構部は、シリンダと、偏心部と、ローラとを持つ。前記シリンダは、シリンダ室を形成する。前記偏心部は、前記回転軸に設けられている。前記ローラは、前記偏心部に嵌合されて前記シリンダ室内において偏心回転可能である。前記複数の圧縮機構部のうち少なくとも1つにおいて、前記偏心部は、前記回転軸とは別体であって前記回転軸が挿通する挿通孔を有する偏心部材で形成されている。前記偏心部材の外周面に、潤滑油が供給される凹部が形成されている。前記凹部の底面に、前記挿通孔に通じる貫通孔が形成されている。前記回転式圧縮機は、前記貫通孔に挿通されて前記偏心部材と前記回転軸とを固定する固定具を有する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1の実施形態の回転式圧縮機の断面図を含む、冷凍サイクル装置の概略構成図。
【
図2】
図1に示された圧縮機構部のA-A線に沿う断面図。
【
図4】
図1に示された圧縮機構部のB部における詳細図。
【
図5】第1の実施形態の回転式圧縮機の第1変形例の断面図。
【
図7】第1の実施形態の回転式圧縮機の第2変形例の断面図。
【
図9】第2の実施形態の回転式圧縮機の断面図を含む、冷凍サイクル装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の回転式圧縮機および冷凍サイクル装置を、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1に示すように、冷凍サイクル装置100は、回転式圧縮機104と、放熱器である凝縮器105と、膨張装置106と、吸熱器である蒸発器107とを備える。回転式圧縮機104と、凝縮器105と、膨張装置106と、蒸発器107とは、この順に冷媒配管で接続されている。
【0009】
回転式圧縮機104は、圧縮機本体102とアキュムレータ103とを有する。回転式圧縮機104は、作動流体であるガス冷媒を圧縮する。凝縮器105は、圧縮機本体102から吐出された高圧のガス冷媒を凝縮して液冷媒にする。膨張装置106は、凝縮器105で凝縮された液冷媒を減圧する。蒸発器107は、膨張装置106で減圧された液冷媒を蒸発させる。
【0010】
アキュムレータ103と圧縮機本体102とは、低圧のガス冷媒が流れる2本の吸込管108a,108bにより接続されている。一方の吸込管108aは、第1圧縮機構部8aの第1シリンダ室9a内にガス冷媒を供給する。他方の吸込管108bは、第2圧縮機構部8bの第2シリンダ室9b内にガス冷媒を供給する。
【0011】
圧縮機本体102は、密閉ケース1内に、回転軸2と、駆動要素3と、圧縮要素4とを備える。
密閉ケース1は、円筒状に形成された密閉構造のケースである。密閉容器1内には、潤滑油20が貯留されている。
回転軸2は、軸線Oの周りに回転可能である。
【0012】
なお、以下の説明では、軸線Oと平行な方向から見ることを平面視という。
図2に示すように、Rは回転軸2の径方向である。軸線Oに対して一定の距離を保ちながら軸線Oの周りを回転する方向を回転軸2の周方向θという。軸線Oに沿う方向を軸方向という。上下方向は、
図1に応じて定める。
【0013】
図1に示すように、駆動要素3は、回転軸2の一端側に設けられた電動機7を備える。
電動機7は、回転子6と、固定子5とを備える。回転子6は、回転軸2に固定されている。回転子6には永久磁石(図示せず)が設けられている。固定子5は、密閉ケース1に固定されて回転子6を囲む位置に配置されている。固定子5には通電用のコイル(図示せず)が巻かれている。電動機7は、圧縮要素4を駆動する。
【0014】
圧縮要素4は、回転軸2の他端側に連結されている。圧縮要素4は、ガス冷媒を圧縮する。
圧縮要素4は、2つの圧縮機構部8(第1圧縮機構部8a、第2圧縮機構部8b)と、仕切板14と、主軸受15と、副軸受16とを備える。2つの圧縮機構部8(第1圧縮機構部8a、第2圧縮機構部8b)は、回転軸2の軸方向に沿って配列されている。
回転式圧縮機104は、2つの圧縮機構部8を有するため、多気筒回転式圧縮機(2気筒回転式圧縮機)である。
【0015】
仕切板14は、2つの圧縮機構部8a,8bの間に配置されて、圧縮機構部8a,8bを仕切る。仕切板14は、環状に形成されている。仕切板14の内径Dpは、ローラ12の内径Drより小さくされることが好ましい。これにより、仕切板14とローラ12の端面とのシール幅を確保することができる。
【0016】
主軸受15と副軸受16とは、それぞれ、圧縮要素4の一端側および他端側で回転軸2を支持する。
仕切板14、主軸受15および副軸受16は、圧縮機構部8a,8bにおけるシリンダの両端を閉塞してシリンダ室を形成するための閉塞部材としても機能する。
【0017】
第1圧縮機構部8aは、筒状のシリンダ10(第1シリンダ10a)と、偏心部11(第1偏心部11a)と、ローラ12(第1ローラ12a)と、ブレード(図示略)とを備える。
【0018】
第1シリンダ10aの上端側は、主軸受15により閉塞されている。第1シリンダ10aの下端側は、仕切板14により閉塞されている。第1シリンダ10a内には、主軸受15と仕切板14とによりシリンダ室9(第1シリンダ室9a)が形成されている。第1シリンダ室9aおよび第2シリンダ室9b(後述)には回転軸2が貫通されている。
【0019】
第1偏心部11aは、回転軸2における第1シリンダ室9a内に位置する部分に形成されている。第1偏心部11aは、回転軸2の軸線Oに沿う中心軸を有する円柱状に形成されている。第1偏心部11aは、軸線Oに対して径方向に偏心して形成されている。
第1偏心部11aは、回転軸2と一体に形成されていてもよいし、第2偏心部11b(後述)と同様に、回転軸2とは別体の偏心部材によって形成されていてもよい。
【0020】
第1偏心部11aには第1ローラ12aが嵌合(外挿)されている。回転軸2の回転時に、第1ローラ12aは、その外周面を第1シリンダ10aの内周面に潤滑油膜を介して接触させながら偏心回転する。
【0021】
ブレード(図示略)は、第1シリンダ10a内に設けられている。ブレードの先端部は、第1ローラ12aの外周面に当接する。ブレードは、第1シリンダ室9a内を2つの空間(吸込室と圧縮室)に仕切る。第1シリンダ10aには、スリット状のブレード溝が形成されている。ブレードはブレード溝内にスライド可能に収容されている。
【0022】
第1シリンダ10aには、前記吸込室に連通する吸込孔(図示略)と、吐出溝(図示略)とが形成されている。吸込孔には吸込管108aが接続されている。吸込孔は、吸込管108aから送られたガス冷媒を吸込室に導く。吐出溝は、圧縮室内のガス冷媒を主軸受15内に導く。ガス冷媒は主軸受15の吐出孔から密閉ケース1内に導出される。
【0023】
第2圧縮機構部8bは、第1圧縮機構部8aの下方に配置されている。第2圧縮機構部8bの基本的構成は第1圧縮機構部8aと同じである。第2圧縮機構部8bは、筒状のシリンダ10(第2シリンダ10b)と、偏心部11(第2偏心部11b)と、ローラ12(第2ローラ12b)と、ブレード13(
図2参照)と、固定機構22(
図2参照)と、キー24(回転阻止部材)(
図2参照)とを備える。
【0024】
第2シリンダ10bの上端側は仕切板14により閉塞されている。第2シリンダ10bの下端側は副軸受16により閉塞されている。第2シリンダ10b内には、仕切板14と副軸受16とによりシリンダ室9(第2シリンダ室9b)が形成されている。
【0025】
第2偏心部11bは、回転軸2における第2シリンダ室9b内に位置する部分に形成されている。第2偏心部11bは、回転軸2とは別体の偏心部材17によって形成されている。偏心部材17は、回転軸2の軸線Oに沿う中心軸を有する円柱状に形成されている。偏心部材17には、回転軸2が挿通する挿通孔17aが形成されている(
図2参照)。
【0026】
図2に示すように、挿通孔17aは、偏心部材17の中心軸に対して径方向にずれた位置(偏心位置)に形成されている。挿通孔17aは、平面視において例えば円形に形成されている。挿通孔17aの内径は、回転軸2の外径以上である。すなわち、挿通孔17aの内径は、回転軸2の外径とほぼ同じ、または回転軸2の外径よりわずかに大きい。
【0027】
図3および
図4に示すように、偏心部材17の外周面17bには、凹部21が形成されている。
図4に示すように、凹部21は、回転軸2の軸線Oに沿う溝状に形成されている。凹部21には、後述する給油横孔19から潤滑油が導かれる。凹部21は、給油横孔19から導かれた潤滑油を軸方向の広い範囲に供給する。
【0028】
図4に示すように、回転軸2の下部は、回転軸2の上部(大径部32)より外径が小さい小径部34となっている。小径部34の一部は第2シリンダ室9b内に位置する。小径部34の外径は仕切板14の内径Dpより小さい。小径部34の外径は偏心部材17の挿通孔17aの内径以下である。小径部34と大径部32との境界には、径差によって段差部35が形成されている。
【0029】
回転軸2には、給油縦孔18および給油横孔19が形成されている。
給油縦孔18は、回転軸2内に、軸方向に沿って形成されている。給油縦孔18は、例えば、平面視において回転軸2の中心を含む位置に形成されている。軸線Oに垂直な面における給油縦孔18の断面の形状は、例えば円形状である。給油縦孔18には、密閉ケース1の下部に貯留された潤滑油20(
図1参照)が吸引される。
【0030】
給油横孔19は、回転軸2に、軸方向に対して交差する方向(例えば、軸方向に対して垂直な方向)に沿って形成されている。給油横孔19は、給油縦孔18から分岐して、凹部21の底面26に開口している。給油横孔19は、給油縦孔18から供給された潤滑油を凹部21内に導くことができる。
【0031】
回転軸2には、その外周面に開口する1または複数(
図4では2つ)のネジ穴25が形成されている。ネジ穴25は、回転軸2に、軸方向に対して交差する方向(例えば、軸方向に対して垂直な方向)に沿って形成されている。ネジ穴25は、凹部21の底面26に対向する位置に開口している。ネジ穴25は給油縦孔18に通じる貫通孔であってもよいし、有底の孔であってもよい。ネジ穴25の、深さ方向に垂直な断面の形状は円形状である。ネジ穴25の内周面には、雌ネジが形成されている。2つのネジ穴25は、軸方向に間隔をおいて(すなわち、軸方向に位置を違えて)形成されている。
【0032】
図3に示すように、回転軸2の小径部34の外周面には、回転軸キー溝23Aが形成されている。回転軸キー溝23Aは、キー24と係合する係合溝である。回転軸キー溝23Aは、回転軸2の軸線Oに沿って形成されている。軸線Oに垂直な面における回転軸キー溝23Aの断面の形状は、例えば矩形状である。
【0033】
凹部21の底面26は、例えば平面である。底面26は、例えば、回転軸2の径方向に対して垂直である。底面26には、挿通孔17aに通じる1または複数(
図4では2つ)の貫通孔27が形成されている。
2つの貫通孔27は、軸方向に間隔をおいて(すなわち、軸方向に位置を違えて)形成されている。2つの貫通孔27のうち上に位置する貫通孔27を第1貫通孔27aという。第1貫通孔27aは、最も偏心部材17の上端17cに近い貫通孔27である。2つの貫通孔27のうち、
図4において第1貫通孔27aより低く位置する貫通孔27を第2貫通孔27bという。第2貫通孔27bは、最も偏心部材17の下端17dに近い貫通孔27である。2つの貫通孔27は、回転軸2のネジ穴25と略同軸である。
【0034】
図2および
図3に示すように、凹部21は、偏心部材17の外周面17bにおける反負荷領域R1(低負荷領域)に形成されていることが好ましい。反負荷領域R1は、外周面17bの一部領域であって、
図2および
図3において、位置P1から右回り(
図2および
図3に示す偏心部材17の回転方向D1と反対の方向)に位置P2に至る領域である。位置P1は、偏心部材17の最厚部T1の外周面の位置である。最厚部T1は、偏心部材17の厚さが最大となる部分である。偏心部材17の厚さとは、挿通孔17aの内周面と外周面17bとの距離(回転軸2の径方向の距離)である。最厚部T1は、偏心部材17の偏心方向の外周面と一致する。位置P2は、位置P1に対して外周面17bの周方向に回転対称となる位置(周方向に180°ずれた位置)である。偏心部材17の外周面は、圧縮に伴う吸込室46と圧縮室47の圧力差により、ローラ12によって大きな力で押される。上記反負荷領域R1の偏心部材17の外周面には、ローラ12による大きな力は加わらない。
負荷領域R2(高負荷領域)は、外周面17bのうち、位置P1から左回り(回転方向D1)に位置P2に至る領域である。反負荷領域R1は、負荷領域R2に対し、ローラ12の押圧力による負荷が小さい。
【0035】
図4に示すように、固定機構22は、1または複数(
図4では2つ)の固定具28を有する。固定具28は、頭部28aと、ネジ軸部28bとを備える。頭部28aの外径(ネジ軸部28bの延出方向に直交する方向の寸法)は、ネジ軸部28bの外径より大きい。ネジ軸部28bは、頭部28aの一方の面(当接面28c)の中央部から、当接面28cに垂直な方向に延出する。ネジ軸部28bの外周面には雄ネジが形成されている。ネジ軸部28bの雄ネジは、ネジ穴25の雌ネジに螺合する。
【0036】
頭部28aは、凹部21内に収容されている。頭部28aの当接面28cは底面26に当接する。ネジ軸部28bは偏心部材17の貫通孔27に挿通する。ネジ軸部28bの先端部を含む部分は、ネジ穴25に挿入されている。ネジ軸部28bは、ネジ穴25にネジ嵌合する。頭部28aが底面26に当接し、かつネジ軸部28bがネジ穴25にネジ嵌合することによって、偏心部材17と回転軸2とは固定される。これにより、偏心部材17は、回転軸2に対する相対的な回転(周方向θの移動)が規制された状態となる。
【0037】
貫通孔27およびネジ穴25には、固定具28のネジ軸部28bが挿入されている。2つの固定具28のうち上に位置する固定具28を第1固定具28dという。2つの固定具28のうち、第1固定具28dより下に位置する固定具28を第2固定具28eという。
【0038】
固定具28は、ネジ穴25にネジ嵌合によって固定されているため、固定具28は、ネジ穴25に対して着脱自在である。そのため、固定具28は、偏心部材17と回転軸2とを着脱自在に固定できる。
【0039】
図3に示すように、挿通孔17aの内周面には、偏心部材キー溝23Bが形成されている。偏心部材キー溝23Bは、キー24と係合する係合溝である。偏心部材キー溝23Bは、回転軸2の軸線Oに沿って形成されている。軸線Oに垂直な面に沿う偏心部材キー溝23Bの断面の形状は、例えば矩形状である。
【0040】
キー24(回転阻止部材)は、回転軸キー溝23Aおよび偏心部材キー溝23Bに凹凸により係合している。キー24は、例えば、キー溝23A,23Bに沿う方向に延在する矩形柱状とされている。キー24の内周側部分は、回転軸キー溝23A内に入り込んでいる。キー24の外周側部分は、偏心部材キー溝23B内に入り込んでいる。そのため、回転軸2と偏心部材17との相対的な周方向θの移動は規制される。よって、偏心部材17は、回転軸2の小径部34においてキー24により周方向θに位置決め可能である。
【0041】
図4に示すように、偏心部材17の内径は、回転軸2の大径部32の外径より小さい。そのため、偏心部材17は、回転軸2の段差部35に当接することにより回転軸2に沿う方向(
図4の上方)の移動が規制される。この構造によれば、偏心部材17は、段差部35により軸線Oの方向の位置決めを正確に行うことができる。また、偏心部材17の位置決めのための冶具等が不要となり、部品点数を少なくできる。よって、製造性および品質向上の点で好適である。
【0042】
偏心部材17の上端17c(軸方向の第1端)と第1貫通孔27aの中心軸との高低差である距離L1と、偏心部材17の下端17d(軸方向の第2端)と第2貫通孔27bの中心軸との高低差である距離L2とは異なる。そのため、貫通孔27は、上下方向(軸方向)に非対称の位置にある。
これにより、偏心部材17は、上端17cを上に向けた姿勢(第1姿勢)のときは貫通孔27の高さ位置(軸方向の位置)がネジ穴25の高さ位置と一致し、かつ、下端17dを上に向けた姿勢(第2姿勢)のときは貫通孔27の高さ位置がネジ穴25の高さ位置と不一致となる。
そのため、偏心部材17が第2姿勢となった場合には、固定具28のネジ軸部28bをネジ穴25に挿入できず、固定具28による固定は難しくなる。そのため、偏心部材17が誤った姿勢で回転軸2に取り付けられるのを回避できる。よって、製造性および品質を高めることができる。
【0043】
図1に示すように、第1偏心部11aと第2偏心部11bとは、例えば、同じ外径であってよい。第1偏心部11aと第2偏心部11bとは、偏心方向が周方向θ(軸線Oの周り方向)(
図2参照)に180°の角度差をもって配置される。
【0044】
第2偏心部11bには第2ローラ12bが嵌合(外挿)されている。回転軸2の回転時に、第2ローラ12bは、その外周面を第2シリンダ10bの内周面に潤滑油膜を介して接触させながら偏心回転する。
【0045】
図2に示すように、ブレード13は、第2シリンダ10b内に設けられている。ブレード13の先端部は、第2ローラ12bの外周面に当接する。ブレード13は、第2シリンダ室9b内を2つの空間(吸込室46と圧縮室47)に仕切る。第2シリンダ10bには、スリット状のブレード溝36が形成されている。ブレード13はブレード溝36内にスライド可能に収容されている。
【0046】
第2シリンダ10bには、吸込室46に連通する吸込孔37と、吐出溝(図示略)が形成されている。吸込孔37には吸込管108b(
図1参照)が接続されている。吸込孔37は、吸込管108bから送られたガス冷媒を吸込室46に導く。吐出溝(図示略)は、圧縮室47内のガス冷媒を副軸受16内に導く(
図1参照)。ガス冷媒は副軸受16の吐出孔から密閉ケース1内に導出される(
図1参照)。
【0047】
図1に示すように、回転式圧縮機104では、電動機7の固定子5のコイルに電流が供給されることで、回転子6とともに回転軸2が軸線O周りに回転する。回転軸2の回転に伴い、偏心部11およびローラ12はシリンダ室9内で偏心回転する。このとき、ローラ12はシリンダ10の内周面に摺接する。これにより、シリンダ室9内にガス冷媒が取り込まれるとともに、シリンダ室9内に取り込まれたガス冷媒は圧縮される。圧縮されたガス冷媒は、密閉ケース1内に吐出される。密閉ケース1内に吐出されたガス冷媒は、凝縮器105に送り込まれる。
【0048】
回転式圧縮機104では、偏心部材17の外周面17bに、潤滑油が供給される凹部21が形成されているため、負荷領域R2の外周面17bとローラ12の内周面との間に、くさび効果により潤滑油を供給することができる。
凹部21が形成された反負荷領域R1は、ガス冷媒の圧力による負荷が低いため、摺動面を形成するための精密な加工が必要ない。そのため、設計の自由度を高め、製造性および品質を高めることができる。
回転式圧縮機104は、偏心部材17と回転軸2とを着脱自在に固定する固定機構22を備えているため、組み立て時に調芯等の不具合があった場合に、分解および再組み立てを容易に行うことができる。そのため、製造性および品質を高めることができる。
【0049】
回転式圧縮機104では、偏心部材17と回転軸2との間にキー24(回転阻止部材)が設けられている。そのため、偏心部材17と回転軸2との相対的な位置ずれを防止できる。また、組み立て時に、偏心部材17の周方向θの位置を正確に定めることができる。そのため、製造性および品質を高めることができる。
【0050】
回転式圧縮機104では、固定具28の頭部28aが底面26に当接し、かつネジ軸部28bがネジ穴25にネジ嵌合することで偏心部材17と回転軸2とが固定されるため、固定具28の固定強度を高めることができる。よって、回転軸2に対する偏心部材17の脱落および位置ずれを防ぎ、信頼性を高めることができる。
【0051】
(第1変形例)
第1の実施形態の第1変形例について、
図5および
図6に基づいて説明する。なお、第1の実施形態において説明した構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【0052】
図5は、第1の実施形態の回転式圧縮機104の第1変形例の断面図である。
図6は、
図5の拡大図である。
図5に示すように、回転式圧縮機104Aは、固定機構222によって、偏心部材217が回転軸202に固定される点で、
図2に示す回転式圧縮機104と異なる。
【0053】
図6に示すように、偏心部材217の外周面217bの反負荷領域には、凹部221が形成されている。凹部221の底面には、挿通孔217aに通じる貫通孔227が形成されている。貫通孔227の内周面には雌ネジが形成されている。
【0054】
固定機構222は、1または複数の固定具31を有する。固定具31の外周面には、雄ネジが形成されている。固定具31の雄ネジは、貫通孔227の雌ネジに螺合する。固定具31の基端部31aは貫通孔227内に位置する。
回転軸202の外周面には、平面部30が形成されている。平面部30は、回転軸202の径方向に対して垂直に形成されている。
【0055】
回転式圧縮機104Aでは、固定具31が貫通孔227の内周面にネジ嵌合するとともに、固定具31の先端部31bが平面部30に押圧状態で当接することで、偏心部材217と回転軸202とが固定される。
【0056】
回転式圧縮機104Aでは、回転軸202に、固定具31がネジ止めされるネジ穴を形成する必要がない。そのため、製造性が良好であり、低コスト化を図ることができる。固定具31は、固定具28(
図3参照)とは異なり、頭部がないため、固定構造の省スペース化が可能である。
【0057】
(第2変形例)
第1の実施形態の第2変形例について、
図7および
図8に基づいて説明する。なお、第1の実施形態において説明した構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【0058】
図7は、第1の実施形態の回転式圧縮機104の第2変形例の断面図である。
図8は、
図7の拡大図である。
図7に示すように、回転式圧縮機104Bは、固定機構322によって、偏心部材317が回転軸302に固定される点で、
図2に示す回転式圧縮機104と異なる。
【0059】
図8に示すように、偏心部材317の外周面317bの反負荷領域には、凹部321が形成されている。
凹部321の底面には、挿通孔317aに通じる貫通孔327が形成されている。貫通孔327の内周面には雌ネジが形成されている。
固定機構322は、1または複数の固定具331を有する。固定具331の外周面には、雄ネジが形成されている。固定具331の雄ネジは、貫通孔327の雌ネジに螺合する。
【0060】
回転式圧縮機104Bでは、固定具331が貫通孔327の内周面にネジ嵌合するとともに、固定具331の先端部がキー24に押圧状態で当接することで、偏心部材317と回転軸302とが固定される。
【0061】
回転式圧縮機104Bでは、固定具331と回転軸302との間にキー24が介在するため、偏心部材317、キー24、および回転軸302が互いに固定される。
回転式圧縮機104Bでは、固定具331によって偏心部材317を回転軸302に固定する際に、併せてキー24も固定できる。そのため、偏心部材317とキー24との間、および、キー24と回転軸302との間の相対的な位置ずれを抑制できる。よって、前記位置ずれを原因とする振動、騒音、および摩耗を防止できる。
【0062】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について、
図9に基づいて説明する。なお、第1の実施形態において説明した構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【0063】
図9は、第2の実施形態の回転式圧縮機を含む冷凍サイクル装置の概略構成図である。
図9に示すように、冷凍サイクル装置400は、圧縮機本体102に代えて、回転式圧縮機404を備えた圧縮機本体402を用いる点で、第1の実施形態の冷凍サイクル装置100と異なる。
【0064】
圧縮機本体402では、仕切板414の内径は、回転軸2の大径部32の外径にほぼ等しい。そのため、仕切板414の内周面は回転軸2の外周面に油膜を介して接する。よって、仕切板414は軸受けとして機能し、回転軸2を回転自在に支持する。
【0065】
回転式圧縮機404は、第1実施形態の回転式圧縮機104と同様に、偏心部材の外周面とローラの内周面との間に潤滑油を供給することができる。また、設計の自由度を高め、製造性および品質を高めることができる。回転式圧縮機404は、組み立て時に調芯等の不具合があった場合に、分解および再組み立てを容易に行うことができる。
【0066】
回転式圧縮機404は、仕切板414が軸受けとして機能するため、回転軸2のたわみを抑制できる。そのため、回転式圧縮機404は、回転式圧縮機としての性能および信頼性の向上を図ることができる。
【0067】
以上、実施形態に係る回転式圧縮機および冷凍サイクル装置について説明したが、実施形態の構成は上記例に限定されない。
例えば、実施形態に係る回転式圧縮機104,404は、2つの圧縮機構部を備えているが、圧縮機構部の数は1でもよいし、3以上の任意の数であってもよい。圧縮機構部の数が3以上である場合には、回転軸の軸方向の一端側および他端側にある2つの圧縮機構部のうち少なくともいずれか一方において、偏心部が偏心部材で形成されていればよい。偏心部材は、回転軸とは別体であって、回転軸が挿通する挿通孔を有する。
【0068】
仕切板は、軸方向に隣り合う2つのシリンダの間に配置される。また、ブレードとローラとが一体となった構造(スイングタイプ)を有する圧縮機構部を用いることもできる。
実施形態に係る回転式圧縮機104,404は、2つの偏心部11の両方が偏心部材で形成され、これら偏心部材と回転軸とが固定機構によって着脱自在に固定される構造であってもよい。偏心部材の反負荷領域は、例えば、ブレードの先端部と最厚部との周方向位置が一致した基準位置から偏心部材が周方向に180°回転したとき、ローラを介して吸込室に対面する領域であってもよい。
【0069】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、偏心部材の外周面に、潤滑油を保持可能な凹部が形成されているため、偏心部材の外周面とローラの内周面との間に、くさび効果により潤滑油を供給することができる。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
1…密閉ケース、2…回転軸、8…圧縮機構部、8a…第1圧縮機構部、8b…第2圧縮機構部、9…シリンダ室、9a…第1シリンダ室、9b…第2シリンダ室、10…シリンダ、10a…第1シリンダ、10b…第2シリンダ、11…偏心部、11a…第1偏心部、11b…第2偏心部、12…ローラ、12a…第1ローラ、12b…第2ローラ、13…ブレード、14,414…仕切板、17,217,317…偏心部材、17a,217a,317a…挿通孔、21,221,321…凹部、23A…回転軸キー溝、23B…偏心部材キー溝、24…キー(回転阻止部材)、25…ネジ穴、26…底面、27,227,327…貫通孔、28,31,331…固定具、28a…頭部、28b…ネジ軸部、32…大径部、34…小径部、46…吸込室、47…圧縮室、100,400…冷凍サイクル装置、104,104A,104B…回転式圧縮機、105…凝縮器(放熱器)、106…膨張装置、107…蒸発器(吸熱器)、R1…反負荷領域、O…軸線。