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特許6991094タイヤ製造工程をシミュレーションする方法、システム、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】タイヤ製造工程をシミュレーションする方法、システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B29D 30/00 20060101AFI20220104BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20220104BHJP
   G06F 30/23 20200101ALI20220104BHJP
【FI】
B29D30/00
B60C19/00 Z
G06F30/23
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018067674
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177555
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 寿
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-141509(JP,A)
【文献】特開2014-113982(JP,A)
【文献】特開2003-225952(JP,A)
【文献】特開2013-184367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D30/00-30/72
B60C1/00-19/12
G06F30/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが実行する方法であって、
一対のサイドプレートで挟み且つ内圧を付与することで変形させた後のグリーンタイヤを構成するトレッド部であって、トレッドパターンが形成されていないトレッドゴムを有するトレッド部が複数のラグランジェ要素で表現される三次元トレッドモデルを取得する第1ステップと、
前記トレッドゴムを含む所定領域にオイラー要素を配置して前記トレッドゴムが存在する領域のオイラー要素に前記トレッドゴムの存在情報を保持させることにより、前記ラグランジェ要素で表現される前記トレッドゴムを前記オイラー要素による表現に置換する第2ステップと、
セクタモールドを閉めて前記セクタモールドを前記トレッドゴムに接触させることで前記トレッドゴムにトレッドパターンを形成し、前記セクタモールドとの接触を入力として流体である前記トレッドゴムの変形を算出する第3ステップと、
を含む、タイヤ製造工程をシミュレーションする方法。
【請求項2】
前記第1ステップは、
トレッドパターンが形成されていないトレッドゴムを設けたトレッド部を有し、タイヤ子午線断面にて複数のラグランジェ要素で表現された二次元グリーンタイヤモデルを、一対のサイドプレートで挟み且つ内圧を付与して変形させ、変形後の二次元グリーンタイヤモデルを取得するステップと、
前記変形後の二次元グリーンタイヤモデルの前記トレッド部をタイヤ周方向に展開して前記三次元トレッドモデルを生成するステップと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オイラー要素が配置された前記所定領域内のタイヤ幅方向両側及びタイヤ周方向両側に前記トレッドゴムの流出を禁止する境界条件が設定されており、
前記トレッドゴムよりもタイヤ径方向内側に存在するタイヤ構成部材と前記トレッドゴムとの間の境界に前記トレッドゴムの流出を禁止する境界条件が設定されている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記セクタモールドが閉まりきった所定の終了位置に到達した後、前記トレッドゴムの表面と前記セクタモールドの内表面との間に空隙が存在するか否かを判定し、空隙が存在すると判定した場合には、前記空隙に関する情報を出力する、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
一対のサイドプレートで挟み且つ内圧を付与することで変形させた後のグリーンタイヤを構成するトレッド部であって、トレッドパターンが形成されていないトレッドゴムを有するトレッド部が複数のラグランジェ要素で表現される三次元トレッドモデルを取得する三次元トレッドモデル取得部と、
前記トレッドゴムを含む所定領域にオイラー要素を配置して前記トレッドゴムが存在する領域のオイラー要素に前記トレッドゴムの存在情報を保持させることにより、前記ラグランジェ要素で表現される前記トレッドゴムをオイラー要素による表現に置換する置換部と、
セクタモールドを閉めて前記セクタモールドを前記トレッドゴムに接触させることで前記トレッドゴムにトレッドパターンを形成し、前記セクタモールドとの接触を入力として流体である前記トレッドゴムの変形を算出する流体解析部と、
を備える、タイヤ製造工程をシミュレーションするシステム。
【請求項6】
前記三次元トレッドモデル取得部は、
トレッドパターンが形成されていないトレッドゴムを設けたトレッド部を有し、タイヤ子午線断面にて複数のラグランジェ要素で表現された二次元グリーンタイヤモデルを、一対のサイドプレートで挟み且つ内圧を付与して変形させ、変形後の二次元グリーンタイヤモデルを取得する変形処理部と、
前記変形後の二次元グリーンタイヤモデルの前記トレッド部をタイヤ周方向に展開して前記三次元トレッドモデルを生成する三次元トレッドモデル生成部と、を有する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記オイラー要素が配置された前記所定領域内のタイヤ幅方向両側及びタイヤ周方向両側に前記トレッドゴムの流出を禁止する境界条件が設定されており、
前記トレッドゴムよりもタイヤ径方向内側に存在するタイヤ構成部材と前記トレッドゴムとの間の境界に前記トレッドゴムの流出を禁止する境界条件が設定されている、請求項5又は6に記載のシステム。
【請求項8】
前記セクタモールドが閉まりきった所定の終了位置に到達した後、前記トレッドゴムの表面と前記セクタモールドの内表面との間に空隙が存在するか否かを判定し、空隙が存在すると判定した場合には、前記空隙に関する情報を出力する出力部を備える、請求項5~7のいずれかに記載のシステム。
【請求項9】
請求項1~4のいずれかに記載の方法をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ製造工程をシミュレーションする方法、システム、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からタイヤ製造工程をシミュレーションし、製造時の不具合の発生を予測する技術が知られている。例えば特許文献1では、グリーンタイヤを加硫するために加硫モールド(セクタモールド及びサイドプレート)を閉じたときの内部のグリーンタイヤの変形をシミュレーションする方法が記載されている。この文献では、タイヤを複数の要素に分割したグリーンタイヤモデルに内圧を付与してグリーンタイヤモデルを拡張させ、モールドモデルを閉めてモールドモデルの内表面を拡張限界としてグリーンタイヤモデルを変形させる処理が記載されている。このシミュレーション方法を利用すれば、モールド内におけるグリーンタイヤの変形後の形状を知ることができる。
【0003】
しかしながら、上記グリーンタイヤモデルは、グリーンタイヤの変形に伴って要素の形状が変化するラグランジェ要素を用いている。特許文献1ではトレッドパターンが示されていないが、一般的に、モールドによりトレッド部に形成するトレッドパターンは、主溝、横溝及びサイプなどによって複雑な凹凸形状を有する。モールドが有する複雑な凹凸形状に沿ってグリーンタイヤモデルを変形させようとすれば、ラグランジェ要素が潰れてしまい、計算ができなくなる。よって、特許文献1に記載の方法は、トレッドパターンを有さないタイヤであるか、トレッドパターンの形状が簡素な形状でしか利用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-225952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的は、セクタモールドが形成するトレッドパターンの形状が複雑であっても、グリーンタイヤの変形を適切に算出可能なタイヤ製造工程をシミュレーションする方法、システム、及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0007】
すなわち、本発明のタイヤ製造工程をシミュレーションする方法は、
コンピュータが実行する方法であって、
一対のサイドプレートで挟み且つ内圧を付与することで変形させた後のグリーンタイヤを構成するトレッド部であって、トレッドパターンが形成されていないトレッドゴムを有するトレッド部が複数のラグランジェ要素で表現される三次元トレッドモデルを取得する第1ステップと、
前記トレッドゴムを含む所定領域にオイラー要素を配置して前記トレッドゴムが存在する領域のオイラー要素に前記トレッドゴムの存在情報を保持させることにより、前記ラグランジェ要素で表現される前記トレッドゴムを前記オイラー要素による表現に置換する第2ステップと、
セクタモールドを閉めて前記セクタモールドを前記トレッドゴムに接触させることで前記トレッドゴムにトレッドパターンを形成し、前記セクタモールドとの接触を入力として流体である前記トレッドゴムの変形を算出する第3ステップと、
を含む。
【0008】
この構成によれば、ラグランジェ要素で表現されているトレッドゴムをオイラー要素で表現し、セクタモールドとの接触を入力として、トレッドゴムを流体として扱ってトレッドゴムの変形を算出する。オイラー要素は空間に固定された変形しない要素であるので、ラグランジェ要素で生じた要素の変形による計算不能という問題が生じない。したがって、セクタモールドが形成するトレッドパターンが複雑な凹凸形状であっても、計算が破綻せずにトレッドゴムの変形を算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のシステムを示すブロック図。
図2】タイヤの製造工程をシミュレーションする方法を示すフローチャート。
図3】三次元トレッドモデルを示す斜視図。
図4A】グリーンタイヤをサイドプレートモデル及びブラダモデルで保持する前の初期状態を示す図。
図4B】グリーンタイヤをサイドプレートモデル及びブラダモデルで保持したサイド閉状態を示す図。
図5】三次元トレッドモデルのタイヤ子午線断面を示す。
図6】オイラー要素で表現したトレッドゴムに関する説明図。
図7】オイラー要素による表現に置換した後の三次元トレッドモデルの斜視図、タイヤ子午線断面図、及び平面図。
図8】セクタモールドに接触させる前のトレッドゴムを示す斜視図、タイヤ子午線断面図、及び平面図。
図9】セクタモールドに接触することでトレッドパターンが形成されたトレッドゴムを示す斜視図、タイヤ子午線断面図、及び平面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0011】
[タイヤ製造工程をシミュレーションするシステム]
本実施形態に係るシステム1は、タイヤの製造工程をシミュレーションするシステム(装置)である。具体的に、図1に示すように、システム1は、三次元トレッドモデル取得部10と、置換部11と、流体解析部12と、出力部13と、を有する。出力部13は省略可能である。これらの各部10~13は、CPU、メモリ、各種インターフェイス等を備えたパソコン等の情報処理装置においてCPUが予め記憶されている図2の処理ルーチンを実行することによりソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。
【0012】
図1に示す三次元トレッドモデル取得部10は、図3に示す三次元トレッドモデルM3を取得する。三次元トレッドモデルM3は、図3に示すように、トレッドパターンが形成されていないトレッドゴム54を有するトレッド部5が複数のラグランジェ要素で表現されたモデルである。図中ではラグランジェ要素を図示していない。三次元トレッドモデルM3は、図4Bに示すように一対のサイドプレートで挟み且つ内圧を付与することで変形させた後のグリーンタイヤM2を構成するトレッド部を示す。本実施形態では、三次元トレッドモデルM3を生成しているが、予め生成されたモデルデータを外部から取得するように構成してもよい。
【0013】
図1に示すように、三次元トレッドモデル取得部10は、二次元グリーンタイヤモデル取得部10aと、変形処理部10bと、三次元トレッドモデル生成部10cと、を有する。
【0014】
二次元グリーンタイヤモデル取得部10aは、図4Aに示すタイヤ子午線断面にてグリーンタイヤを複数のラグランジェ要素で表現した二次元グリーンタイヤモデルM1を取得する。なお、図4A及び図4Bでは、ラグランジェ要素を図示していない。図4Aに示すように、二次元グリーンタイヤモデルM1は、タイヤ軸回りに回転対称な軸対象モデルであり、タイヤ子午線断面にて定義されている。生タイヤモデルM1は、カーカスプライ、ビードコア、ビードフィラー、サイドウォールゴム、カーカスプライのタイヤ径方向外側に配置される複数のベルト層、前記複数のベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるベースゴム、及びベースゴムのタイヤ径方向外側に配置されるトレッドゴム等のタイヤ構成部材で成形されており、変形解析をするために有限要素モデルが設定されている。
【0015】
変形処理部10bは、一対のサイドプレートモデル3,3と、ブラダモデル4と、二次元グリーンタイヤモデルM1と、を用いて、図4Aに示す初期状態から図4Bに示すサイド閉状態までの二次元グリーンタイヤモデルM1の変形をシミュレーションする。演算の結果、変形後の二次元グリーンタイヤモデルM2を得ることができる。この解析は、公知なので詳細な説明を省略するが、要旨としては、サイドプレートモデル3及びブラダモデル4によって二次元グリーンタイヤモデルM1に加えられる圧力と、二次元グリーンタイヤモデルM1に設定されている物性値を用いて、運動方程式を演算し、二次元グリーンタイヤモデルM1の変形を模擬する。
【0016】
本実施形態では、ブラダモデル4は変形させるために有限要素(ラグランジェ要素)モデルで構成されている。他の部品すなわちサイドプレートモデル3は形状のみでありメッシュを有さない剛体モデルである。なお、図4A及び図4Bでは、現実の加硫工程に合わせてセクタモールド2を図示しているが、変形処理部10bが実行する変形シミュレーションでは使用しない。変形解析で用いる変形解析の条件は予め設定されている。この変形シミュレーションは、初期状態からサイド閉状態までを模擬する。初期状態は、図4Aに示すように、一対のサイドプレートモデル3,3が開いている状態である。加硫動作が開始すると、図4Bに示すように、ブラダモデル4が膨らみ且つ一対のサイドプレートモデル3,3が閉められ、サイド閉状態になる。サイド閉状態は、図4Bに示すように、ブラダモデル4と一対のサイドプレートモデル3,3で二次元グリーンタイヤモデルM2を保持する状態であり、セクタモールド2を閉める前の状態である。設定する変形解析条件としては、サイドプレートモデル3、ブラダモデル4及び二次元グリーンタイヤモデルM1の初期位置、サイドプレートモデル3及びブラダモデル4の動作時の位置を時点毎に示す時系列データ、ブラダモデル4の内圧を時点毎に示す時系列データが挙げられる。
【0017】
三次元トレッドモデル生成部10cは、変形処理部10bにより得られた変形後の二次元グリーンタイヤモデルM2のトレッド部5をタイヤ周方向に展開して三次元トレッドモデルM3を生成する。本実施形態では、タイヤ周方向に展開する長さを1.5ピッチとしているが、これに限定されず、1ピッチ以上あればよい。1ピッチは、トレッドパターンの最小単位を意味する。ここで図5に示すようにトレッド部5のタイヤ幅方向WDの最も外側の位置P1は、図4A及び図4Bに示すサイドプレートモデル3のタイヤ成形面3aとセクタモールド2のタイヤ成形面2aの突き合わせ部位P2よりもタイヤ幅方向WDの外側にあればよい。すなわち、トレッドゴム54が前記突き合わせ部位P2よりもタイヤ幅方向外側まで配置されているので、セクタモールド2を適切にトレッドゴム54に接触させることができる。
【0018】
図5は、三次元トレッドモデルM3のタイヤ子午線断面を示す。二次元グリーンタイヤモデルM2のトレッド部5は、ビード部(非図示)からサイドウォール部(非図示)を経てトレッド部5に至るカーカスプライ50と、カーカスプライ50のタイヤ径方向内側RD2に配置されるインナーライナーゴム51と、カーカスプライ50のタイヤ径方向外側RD1に配置される複数のベルト層52と、複数のベルト層52のタイヤ径方向外側RD1に配置されるベースゴム53と、ベースゴム53のタイヤ径方向外側RD1に配置されるトレッドゴム54(キャップゴムとも呼ばれる)と、を有する。
【0019】
なお、本実施形態では、二次元グリーンタイヤモデルM1をサイドプレートモデル3で挟み且つ内圧を付与して変形させ、変形後の二次元グリーンタイヤモデルM2を取得し、その後、二次元グリーンタイヤモデルM2のトレッド部5をタイヤ周方向に展開して三次元トレッドモデルM3を得ているが、これに限定されない。計算コストがかかるが、三次元グリーンタイヤモデルを取得又は生成し、その後、三次元グリーンタイヤモデルをサイドプレートモデルで挟み且つ内圧を付与して変形させ、変形後の三次元グリーンタイヤモデルを生成し、その後、トレッド部5のみを抽出してもよい。
【0020】
図1に示す置換部11は、図5に示すラグランジェ要素で表現されるトレッドゴム54をオイラー要素による表現に置換する。具体的には、図6に示すように、トレッドゴム54を含む所定領域Ar1にオイラー要素を配置する。オイラー要素はラグランジェ要素よりも小さく、図示が難しいので概念図を示す。図6に示す一つの格子が一つのオイラー要素である。図6の拡大図において斜線部分がトレッドゴム54の存在する領域である。オイラー要素には流体の有無を示す存在情報(流体率、流体無しとする0又は流体有りとする1の値を取り得る)があり、存在情報にて流体があるとすればそのオイラー要素全体に流体があり、存在情報にて流体がないとすれば、そのオイラー要素には流体がないと取り扱う。すなわち、このようなマッピングを実行し、トレッドゴム54が存在する領域のオイラー要素にトレッドゴム54の存在情報を保持させることにより、ラグランジェ要素による表現からオイラー要素による表現に置換している。オイラー要素の格子が細かいほど、トレッドゴム54の形状の再現度が向上し、逆にオイラー要素の格子が大きくなるほど、トレッドゴム54の形状の再現度が低下する。図7は、オイラー要素による表現に置換した後の三次元トレッドモデルM4の斜視図、タイヤ子午線断面図、及び平面図であり、トレッドゴム54はオイラー要素にて流体が存在する部分を描き、トレッドゴム54よりもタイヤ径方向内側の部材はラグランジェ要素で表現している。流体としてのトレッドゴム54には、流体としての物性値が設定されている。
【0021】
図1に示す流体解析部12は、図8に示すように、トレッドゴム54をオイラー要素化した三次元トレッドモデルM4のタイヤ径方向外側RD1にセクタモールド2を配置する。その後、セクタモールド2を閉めてセクタモールド2をトレッドゴム54に接触させることでトレッドゴム54にトレッドパターンを形成し、セクタモールド2との接触を入力として流体であるトレッドゴム54の変形を算出する。
【0022】
オイラー要素を用いた流体シミュレーション方法は公知であるので詳細な説明は省略するが、トレッドゴム54を流体として取り扱うために、本実施形態では、図8に示すように、オイラー要素が配置された所定領域Ar1内のタイヤ幅方向WDの両側にトレッドゴム54の流出を禁止する境界条件Br2が設定している。また、所定領域Ar1内のタイヤ周方向RDの両側にトレッドゴム54の流出を禁止する境界条件Br1を設定している。また、図示しないが、トレッドゴム54よりもタイヤ径方向内側RD2に存在するタイヤ構成部材(ベルト層52)とトレッドゴム54との間の境界にトレッドゴム54の流出を禁止する境界条件が設定されている。これらの境界条件により、いわゆる底面と側面とで流体を包囲する容器に対し、凹凸のある蓋としてのセクタモールドを閉める形となり、簡素な条件で流体としてのトレッドゴムの挙動をシミュレーションすることが可能となる。勿論、流体解析が可能であれば、このような境界条件の設定に限定されない。なお、図8では、三次元トレッドモデルM4が1.5ピッチであるのに対し、セクタモールド2が2ピッチであるが、セクタモールド2が三次元トレッドモデルM4のピッチ以上あれば、適宜変更可能である。
【0023】
流体解析部12による流体シミュレーションは、図8に示すようにトレッドゴム54がセクタモールド2から離れた状態から、セクタモールド2が完全に閉まるまで(セクタモールド2がサイドプレートモデル3に接触する等の所定の終了位置に移動するまで)、トレッドゴム54の挙動を演算する。演算の結果、図9に示すように、トレッドゴム54の変形後の形状を得ることができる。図9は、セクタモールド2の図示を省略している。
【0024】
図1に示す出力部13は、セクタモールド2が閉まりきった所定の終了位置に到達した後、トレッドゴム54の表面とセクタモールド2の内表面との間に空隙が存在するか否かを判定し、空隙が存在すると判定した場合には、空隙に関する情報を出力する。例えば、空隙が存在する部位を強調して表示したり、空隙の座標を表示したりすることが挙げられる。また、空隙の体積を算出し、算出した空隙の体積が所定閾値以上である空隙のみを表示することが好ましい。
【0025】
[タイヤ製造工程をシミュレーションする方法]
上記システム1を用いた方法を、図2を用いて説明する。
【0026】
まず、三次元トレッドモデル取得部10は、ステップS100,S101、S102を実行することにより、三次元トレッドモデルM3を取得する。具体的には、二次元グリーンタイヤモデル取得部10aは、ステップS100において、タイヤ子午線断面にてグリーンタイヤを複数のラグランジェ要素で表現した二次元グリーンタイヤモデルM1を取得する。次のステップS101において、変形処理部10bは、一対のサイドプレートモデル3,3と、ブラダモデル4と、二次元グリーンタイヤモデルM1と、を用いて、初期状態からサイド閉状態までの二次元グリーンタイヤモデルM1の変形をシミュレーションし、変形後の二次元グリーンタイヤモデルM2を取得する。次のステップS102において、三次元トレッドモデル生成部10cは、変形後の二次元グリーンタイヤモデルM2のトレッド部5をタイヤ周方向に展開して三次元トレッドモデルM3を生成する。
【0027】
次のステップS103において、置換部11は、トレッドゴム54を含む所定領域Ar1にオイラー要素を配置してトレッドゴム54が存在する領域のオイラー要素にトレッドゴム54の存在情報を保持させることにより、ラグランジェ要素で表現されるトレッドゴム54をオイラー要素による表現に置換し、オイラー要素を含む三次元トレッドモデルM4を得る。
【0028】
次のステップS104において、流体解析部12は、流体解析をするための境界条件を設定する。一例として、流体解析部12は、オイラー要素が配置された所定領域Ar1内のタイヤ幅方向WDの両側及びタイヤ周方向RDの両側にトレッドゴム54の流出を禁止する境界条件Br2、Br1を設定し、トレッドゴム54よりもタイヤ径方向内側RD2に存在するタイヤ構成部材(ベルト層52)とトレッドゴム54との間の境界にトレッドゴム54の流出を禁止する境界条件を設定する。
【0029】
次のステップS105において、流体解析部12は、セクタモールド2を閉めてセクタモールド2をトレッドゴム54に接触させることでトレッドゴム54にトレッドパターンを形成し、セクタモールド2との接触を入力として流体であるトレッドゴム54の変形を算出する。
【0030】
次のステップS106において、出力部13は、セクタモールド2が閉まりきった所定の終了位置に到達した後、トレッドゴム54の表面とセクタモールド2の内表面との間に空隙が存在するか否かを判定し、空隙が存在すると判定した場合には、空隙に関する情報を出力する。
【0031】
以上のように、本実施形態のタイヤ製造工程をシミュレーションする方法は、
コンピュータが実行する方法であって、
一対のサイドプレートで挟み且つ内圧を付与することで変形させた後のグリーンタイヤM2を構成するトレッド部5であって、トレッドパターンが形成されていないトレッドゴム54を有するトレッド部5が複数のラグランジェ要素で表現される三次元トレッドモデルM3を取得する第1ステップ(S101~S102)と、
トレッドゴム54を含む所定領域Ar1にオイラー要素を配置してトレッドゴム54が存在する領域のオイラー要素にトレッドゴム54の存在情報を保持させることにより、ラグランジェ要素で表現されるトレッドゴム54をオイラー要素による表現に置換する第2ステップ(S103)と、
セクタモールド2を閉めてセクタモールド2をトレッドゴム54に接触させることでトレッドゴム54にトレッドパターンを形成し、セクタモールド2との接触を入力として流体であるトレッドゴム54の変形を算出する第3ステップ(S105)と、を含む。
【0032】
本実施形態のタイヤ製造工程をシミュレーションするシステムは、
一対のサイドプレートで挟み且つ内圧を付与することで変形させた後のグリーンタイヤM2を構成するトレッド部5であって、トレッドパターンが形成されていないトレッドゴム54を有するトレッド部5が複数のラグランジェ要素で表現される三次元トレッドモデルM3を取得する三次元トレッドモデル取得部10と、
トレッドゴム54を含む所定領域Ar1にオイラー要素を配置してトレッドゴム54が存在する領域のオイラー要素にトレッドゴム54の存在情報を保持させることにより、ラグランジェ要素で表現されるトレッドゴム54をオイラー要素による表現に置換する置換部11と、
セクタモールド2を閉めてセクタモールド2をトレッドゴム54に接触させることでトレッドゴム54にトレッドパターンを形成し、セクタモールド2との接触を入力として流体であるトレッドゴム54の変形を算出する流体解析部12と、
を備える。
【0033】
この構成によれば、ラグランジェ要素で表現されているトレッドゴムをオイラー要素で表現し、セクタモールドとの接触を入力として、トレッドゴムを流体として扱ってトレッドゴムの変形を算出する。オイラー要素は空間に固定された変形しない要素であるので、ラグランジェ要素で生じた要素の変形による計算不能という問題が生じない。したがって、セクタモールドが形成するトレッドパターンが複雑な凹凸形状であっても、計算が破綻せずにトレッドゴムの変形を算出することが可能となる。
【0034】
本実施形態の方法では、
第1ステップ(S101~S102)は、
トレッドパターンが形成されていないトレッドゴム54を設けたトレッド部5を有し、タイヤ子午線断面にて複数のラグランジェ要素で表現された二次元グリーンタイヤモデルM1を、一対のサイドプレートで挟み且つ内圧を付与して変形させ、変形後の二次元グリーンタイヤモデルM2を取得するステップ(S101)と、
変形後の二次元グリーンタイヤモデルM2のトレッド部5をタイヤ周方向に展開して三次元トレッドモデルM3を生成するステップ(S102)と、を含む。
【0035】
本実施形態のシステムでは、
三次元トレッドモデル取得部10は、
トレッドパターンが形成されていないトレッドゴム54を設けたトレッド部5を有し、タイヤ子午線断面にて複数のラグランジェ要素で表現された二次元グリーンタイヤモデルM1を、一対のサイドプレートで挟み且つ内圧を付与して変形させ、変形後の二次元グリーンタイヤモデルM2を取得する変形処理部と、
変形後の二次元グリーンタイヤモデルM2のトレッド部5をタイヤ周方向に展開して三次元トレッドモデルM3を生成する三次元トレッドモデル生成部10cと、を有する。
【0036】
この構成によれば、グリーンタイヤモデルを変形させる際にモデルが二次元であるので、三次元モデルにて変形計算を実行する場合に比べて計算コストを低減させることができる。
【0037】
本実施形態の方法及びシステムでは、
オイラー要素が配置された所定領域Ar1内のタイヤ幅方向両側及びタイヤ周方向両側にトレッドゴム54の流出を禁止する境界条件Br1、Br2が設定されており、
トレッドゴム54よりもタイヤ径方向内側RD2に存在するタイヤ構成部材(ベルト層52)とトレッドゴム54との間の境界にトレッドゴム54の流出を禁止する境界条件が設定されている。
【0038】
この構成によれば、流体となったトレッドゴム54のタイヤ径方向内側RD2、タイヤ幅方向両側およびタイヤ周方向両側に流出を禁止する境界条件が設定されているので、いわゆる底面と側面とで流体を包囲する容器に対し、凹凸のある蓋としてのセクタモールドを閉める形となり、簡素な条件で流体としてのトレッドゴムの挙動をシミュレーションすることが可能となる。
【0039】
本実施形態の方法及びシステムでは、セクタモールド2が閉まりきった所定の終了位置に到達した後、トレッドゴム54の表面とセクタモールド2の内表面との間に空隙が存在するか否かを判定し、空隙が存在すると判定した場合には、空隙に関する情報を出力する出力部13を備える。
【0040】
この構成によれば、トレッドゴム54の表面とセクタモールド2の内表面との間に存在する空隙は、ベアや空気溜まりなどの不良箇所を意味するので、不良箇所を容易に知ることが可能となる。よって、タイヤの外観品質を事前に評価可能となる。
【0041】
本実施形態に係るプログラムは、上記方法をコンピュータに実行させるプログラムである。
これらプログラムを実行することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0043】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0044】
2…セクタモールド
5…トレッド部
54…トレッドゴム
Ar1…所定領域
M1…変形前の二次元グリーンタイヤモデル
M2…変形後の二次元グリーンタイヤモデル
M3…三次元トレッドモデル
10…三次元トレッドモデル取得部
10b…変形処理部
10c…三次元トレッドモデル生成部
11…置換部
12…流体解析部
13…出力部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
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図8
図9