(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】バイナリー発電システム、およびバイナリー発電システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
F01D 17/00 20060101AFI20220104BHJP
F01K 25/10 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
F01D17/00 C
F01K25/10 P
(21)【出願番号】P 2018114584
(22)【出願日】2018-06-15
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 優太郎
(72)【発明者】
【氏名】宮田 浩紀
(72)【発明者】
【氏名】深谷 望
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-014986(JP,A)
【文献】特開2019-039371(JP,A)
【文献】特開2014-129797(JP,A)
【文献】特開2004-019963(JP,A)
【文献】再公表特許第2013/111577(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01D 17/00-21/20
F01K 23/00-27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱流体発生部から供給される熱流体を熱源として熱媒体を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器で蒸発した前記熱媒体が供給されて発電するタービンと、
前記タービンを通過した前記熱媒体を凝縮する凝縮器と、
前記熱媒体を前記凝縮器から前記蒸発器に供給する熱媒体ポンプと、
前記蒸発器内に流入する前記熱流体の入熱量に基づいて、前記熱媒体ポンプを制御する制御部と、を備え
、
前記制御部は、前記入熱量と前記熱媒体ポンプの回転数との関係を示す制御関数を、前記蒸発器の熱交換効率の程度に応じて、予め複数記憶しており、
前記制御部は、前記蒸発器の熱交換効率の変化に応じて、複数の前記制御関数から前記制御関数を選択することを特徴とするバイナリー発電システム。
【請求項2】
熱流体発生部から供給される熱流体を熱源として熱媒体を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器で蒸発した前記熱媒体が供給されて発電するタービンと、
前記タービンを通過した前記熱媒体を凝縮する凝縮器と、
前記熱媒体を前記凝縮器から前記蒸発器に供給する熱媒体ポンプと、
前記蒸発器内に流入する前記熱流体の入熱量に基づいて、前記熱媒体ポンプを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記熱流体発生部から前記蒸発器に向かう前記熱流体の流量と、前記熱媒体ポンプから前記蒸発器に向かう前記熱媒体の流量と、に基づいて、前記熱媒体ポンプを制御するタイミングを補正するための時定数を算出することを特徴と
するバイナリー発電システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記熱流体の流量と前記時定数との関係を示す補正関数を、前記熱流体が流下する熱流体配管の内側に付着する付着物の量の程度に応じて、予め複数記憶しており、
前記制御部は、前記熱流体配管の内側に付着する付着物の量に応じて、複数の前記補正関数から前記補正関数を選択することを特徴とする請求項
2に記載のバイナリー発電システム。
【請求項4】
熱流体発生部から供給される熱流体を熱源として熱媒体を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器で蒸発した前記熱媒体が供給されて発電するタービンと、
前記タービンを通過した前記熱媒体を凝縮する凝縮器と、
前記熱媒体を前記凝縮器から前記蒸発器に供給する熱媒体ポンプと、
前記蒸発器内に流入する前記熱流体の入熱量に基づいて、前記熱媒体ポンプを制御する制御部と、
前記熱流体発生部に設けられ、前記熱流体を送出する熱水送出ポンプと、
前記熱水送出ポンプに設けられ、前記熱水送出ポンプの負荷を検出するポンプ負荷検出部と、を備え、
前記制御部は、前記ポンプ負荷検出部で検出された前記熱水送出ポンプの負荷に基づいて、前記入熱量を予測することを特徴と
するバイナリー発電システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記入熱量に基づいて、前記凝縮器を制御することを特徴とする請求項
4に記載のバイナリー発電システム。
【請求項6】
熱流体発生部から供給される熱流体を熱源として熱媒体を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器で蒸発した前記熱媒体が供給されて発電するタービンと、
前記タービンを通過した前記熱媒体を凝縮する凝縮器と、
前記熱媒体を前記凝縮器から前記蒸発器に供給する熱媒体ポンプと、を備えるバイナリー発電システムの制御方法であって、
前記蒸発器の熱交換効率の程度に応じて予め複数設定された制御関数であって、前記蒸発器内に流入する前記熱流体の入熱量と前記熱媒体ポンプの回転数との関係を示す複数の制御関数から、前記蒸発器の熱交換効率の変化に応じて前記制御関数を選択し、
前記入熱量に基づいて、前記熱媒体ポンプを
、前記制御関数を用いて制御することを特徴とするバイナリー発電システムの制御方法。
【請求項7】
熱流体発生部から供給される熱流体を熱源として熱媒体を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器で蒸発した前記熱媒体が供給されて発電するタービンと、
前記タービンを通過した前記熱媒体を凝縮する凝縮器と、
前記熱媒体を前記凝縮器から前記蒸発器に供給する熱媒体ポンプと、を備えるバイナリー発電システムの制御方法であって、
前記熱流体発生部から前記蒸発器に向かう前記熱流体の流量と、前記熱媒体ポンプから前記蒸発器に向かう前記熱媒体の流量と、に基づいて、前記熱媒体ポンプを制御するタイミングを補正するための時定数を算出し、
前記蒸発器内に流入する前記熱流体の入熱量に基づいて、前記熱媒体ポンプを
、前記時定数を用いて制御することを特徴とするバイナリー発電システムの制御方法。
【請求項8】
熱流体発生部から供給される熱流体を熱源として熱媒体を蒸発させる蒸発器と、
前記蒸発器で蒸発した前記熱媒体が供給されて発電するタービンと、
前記タービンを通過した前記熱媒体を凝縮する凝縮器と、
前記熱媒体を前記凝縮器から前記蒸発器に供給する熱媒体ポンプと、
前記熱流体発生部に設けられ、前記熱流体を送出する熱水送出ポンプと、
前記熱水送出ポンプに設けられ、前記熱水送出ポンプの負荷を検出するポンプ負荷検出部と、を備えるバイナリー発電システムの制御方法であって、
前記ポンプ負荷検出部で検出された前記熱水送出ポンプの負荷に基づいて、前記蒸発器内に流入する前記熱流体の入熱量
を予測し、前記入熱量に基づいて、前記熱媒体ポンプを制御することを特徴とするバイナリー発電システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイナリー発電システム、およびバイナリー発電システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地下熱水や工場排熱等の低温熱源を用いた発電方法として、例えば下記特許文献1に示すように、熱流体からの入熱を用いて、蒸発器で熱媒体を加熱して蒸気を発生させ、この発生させた蒸気でタービンを回して発電を行うバイナリー発電システムが知られている。
このようなバイナリー発電システムでは、熱媒体の過熱度の変動を検知して、熱媒体を循環させる熱媒体ポンプの回転数を制御するフィードバック制御が行われることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、熱源として、地熱水のように熱量が変動しやすい熱流体を用いる場合には、熱流体から蒸発器への入熱量が変動し、熱媒体の過熱度が不安定になりやすく、タービンの安定操業を阻害するという問題があった。
また、前述したフィードバック制御では、熱媒体の過熱度が変動してから熱媒体ポンプの回転数を制御するので、蒸発器への入熱量の変動に対して応答性を確保しにくいという問題があった。
【0005】
本発明は前述した事情に鑑みてなされたものであって、蒸発器への入熱量の変動に対して、応答性を確保して熱媒体ポンプの回転数を制御することで、タービンを安定操業することができるバイナリー発電システム、およびバイナリー発電システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明に係るバイナリー発電システムは、熱流体発生部から供給される熱流体を熱源として熱媒体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器で蒸発した前記熱媒体が供給されて発電するタービンと、前記タービンを通過した前記熱媒体を凝縮する凝縮器と、前記熱媒体を前記凝縮器から前記蒸発器に供給する熱媒体ポンプと、前記蒸発器内に流入する前記熱流体の入熱量に基づいて、前記熱媒体ポンプを制御する制御部と、を備えていることを特徴とする。
【0007】
また、前記課題を解決するために、本発明に係るバイナリー発電システムの制御方法は、熱流体発生部から供給される熱流体を熱源として熱媒体を蒸発させる蒸発器と、前記蒸発器で蒸発した前記熱媒体が供給されて発電するタービンと、前記タービンを通過した前記熱媒体を凝縮する凝縮器と、前記熱媒体を前記凝縮器から前記蒸発器に供給する熱媒体ポンプと、を備えるバイナリー発電システムの制御方法であって、前記蒸発器内に流入する前記熱流体の入熱量に基づいて、前記熱媒体ポンプを制御することを特徴とする。
【0008】
これらの発明によれば、制御部が、熱流体の入熱量に基づいて熱媒体ポンプを制御する。
すなわち、熱媒体の過熱度を入熱量から予測して、制御部が熱媒体ポンプにフィードフォワード制御を行うことで、入熱量の変動した熱流体が蒸発器内に流入する前に、熱媒体ポンプを制御することが可能になる。
これにより、入熱量の変動に対して熱媒体の流量の調整を適切なタイミングで行うことができ、入熱量の変動に追従して熱媒体の過熱度が大きく変動するのを抑えることができる。
したがって、熱流体の入熱量の変動に対して、応答性を確保して熱媒体ポンプを制御することが可能になり、タービンを安定操業することができる。
【0009】
また、前記制御部は、前記入熱量と前記熱媒体ポンプの回転数との関係を示す制御関数を、前記蒸発器の熱交換効率の程度に応じて、予め複数記憶しており、前記制御部は、前記蒸発器の熱交換効率の変化に応じて、複数の前記制御関数から前記制御関数を選択してもよい。
【0010】
この場合には、制御部が、蒸発器の熱交換効率の変化に応じて、予め記憶した複数の制御関数のうち、熱媒体ポンプの回転数の制御に用いる制御関数を選択する。
このため、例えば蒸発器の経年劣化等により熱交換効率が低下した際に、蒸発器の状態に合わせて、最適な流量の熱媒体を熱媒体ポンプから蒸発器に送り出すことができる。
【0011】
また、前記制御部は、前記熱流体発生部から前記蒸発器に向かう前記熱流体の流量と、前記熱媒体ポンプから前記蒸発器に向かう前記熱媒体の流量と、に基づいて、前記熱媒体ポンプを制御するタイミングを補正するための時定数を算出してもよい。
【0012】
この場合には、制御部が、算出した時定数を用いて熱媒体ポンプを制御するので、熱流体が蒸発器に流入するタイミングに合わせて、熱媒体が蒸発器に流入するように、適切なタイミングで熱媒体ポンプの制御を行うことができる。
【0013】
また、前記制御部は、前記熱流体の流量と前記時定数との関係を示す補正関数を、前記熱流体が流下する熱流体配管の内側に付着する付着物の量の程度に応じて、予め複数記憶しており、前記制御部は、前記熱流体配管の内側に付着する付着物の量に応じて、複数の前記補正関数から前記補正関数を選択してもよい。
【0014】
この場合には、制御部が、熱流体配管の内側に付着する付着物の量に応じて、予め記憶した複数の補正関数のうち、時定数の算出に用いる制御関数を選択する。
このため、例えば熱流体配管の内面に付着物が堆積することで熱流体配管の配水能力が低下した場合に、熱流体配管の状態に合わせて、最適な時定数を算出することができる。
【0015】
また、前記熱流体発生部に設けられ、前記熱流体を送出する熱水送出ポンプと、前記熱水送出ポンプに設けられ、前記熱水送出ポンプの負荷を検出するポンプ負荷検出部と、を備え、前記制御部は、前記ポンプ負荷検出部で検出された前記熱水送出ポンプの負荷に基づいて、前記入熱量を予測してもよい。
【0016】
この場合には、熱水送出ポンプにより、熱流体を送出する負荷の変化に基づいて、入熱量を予測するので、例えば入熱量を、熱流体の温度、圧力、および流量等から算出するよりも、早い段階で予測することができる。
このため、より一層効果的に、熱媒体ポンプの制御に高い応答性を具備させることができる。
【0017】
また、前記制御部は、前記予測された前記入熱量に基づいて、前記凝縮器を制御してもよい。
この場合には、制御部により予測された入熱量に基づいて凝縮器を制御することで、熱媒体ポンプに適切な量の熱媒体を供給することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、蒸発器への入熱量の変動に対して、応答性を確保して熱媒体ポンプの回転数を制御することで、タービンを安定操業することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るバイナリー発電システムの概念図である。
【
図2】
図1に示すバイナリー発電のうち、(a)従来のバイナリー発電システム制御方法における熱流体からの入熱量と、熱媒体の過熱度と、の関係を示す図、(b)本発明に係るバイナリー発電システムの制御方法における熱流体からの入熱量と、熱媒体の過熱度と、の関係を示す図である。
【
図3】比較例に係るバイナリー発電システムの制御方法における熱流体からの入熱量と、熱媒体の過熱度と、の関係の解析結果を示す図である。
【
図4】実施例に係るバイナリー発電システムの制御方法における熱流体からの入熱量と、熱媒体の過熱度と、の関係の解析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施形態)
以下、
図1から
図4を参照し、本発明の一実施形態に係るバイナリー発電システム1、およびバイナリー発電システム1の制御方法について説明する。まず、バイナリー発電システム1の構成について説明する。
本実施形態に係るバイナリー発電システム1は、熱流体の流路と、熱媒体の循環経路と、の2つの系統の流路間で熱交換を行い、発生した熱媒体の蒸気によりタービン30を回して発電を行う発電システムである。
【0021】
図1に示すように、バイナリー発電システム1は、熱流体発生部10から供給される熱流体を熱源として熱媒体を蒸発させる蒸発器20と、蒸発器20で蒸発した熱媒体が供給されて発電するタービン30と、を備えている。
本実施形態では、熱流体として地下熱水を用いている。熱流体発生部10には、地下熱水を送出する後述する熱水送出ポンプ11(ダウンホールポンプ)11が設けられている。
【0022】
蒸発器20は、熱流体からの入熱を利用して、熱媒体を蒸発させる。蒸発器20は熱流体発生部10と熱流体配管40によって接続されている。
熱流体配管40は、熱水送出ポンプ11と蒸発器20とを接続する熱水送出ポンプ‐蒸発器間配管41と、蒸発器20で蒸発しなかった熱流体を還元井60に還元する蒸発器‐還元井間配管42と、を備えている。
【0023】
熱水送出ポンプ‐蒸発器間配管41には、熱流体発生部温度計51A、熱流体圧力計52A、および熱流体流量計53Aが設けられている。これにより、熱水送出ポンプ‐蒸発器間配管41内の温度、圧力、および流量を検知することができる。
熱水送出ポンプ‐蒸発器間配管41のうち、蒸発器20の上流近くには、蒸発器入側‐熱流体温度計51Bがさらに設けられている。蒸発器‐還元井間配管42には、蒸発器出側‐熱流体温度計51Cが設けられている。
【0024】
タービン30は、熱媒体配管70により蒸発器20と接続されている。熱媒体配管70は循環流路を構成している。
熱媒体配管70は、蒸発器20とタービン30とを接続する蒸発器‐タービン間配管71と、タービン30と凝縮器80とを接続するタービン‐凝縮器間配管72と、凝縮器80と熱媒体ポンプ90とを接続する凝縮器‐熱媒体ポンプ間配管73と、熱媒体ポンプ90と蒸発器20とを接続する熱媒体ポンプ‐蒸発器間配管74と、を備えている。
タービン30の下流側にはタービン30を通過した熱媒体を凝縮する凝縮器80が設けられている。凝縮器80は、蒸気となった熱媒体を冷却して熱媒体を液体に凝縮する。
【0025】
凝縮器80の下流側には熱媒体ポンプ90が設けられている。熱媒体ポンプ90は、熱媒体を凝縮器80から蒸発器20に供給する。熱媒体ポンプ90により熱媒体が熱媒体配管70内を循環する。
【0026】
蒸発器‐タービン間配管71のうち、蒸発器20の下流側には、蒸発器出側‐熱媒体温度計51Dが設けられている。また、蒸発器‐タービン間配管71のうち、蒸発器出側‐熱媒体温度計51Dの下流側には、タービン入側‐熱媒体温度計51E、および熱媒体圧力計52Bが設けられている。
熱媒体ポンプ‐蒸発器間配管74のうち、熱媒体ポンプ90の下流側には、熱媒体流量計53B、蒸発器入側‐熱媒体温度計51Fが設けられている。
【0027】
そして本実施形態では、バイナリー発電システム1は、蒸発器20内に流入する熱流体の入熱量に基づいて、熱媒体ポンプ90を制御する制御部100を備えている。
制御部100は、熱流体配管40内を流下する熱流体の温度、圧力、および流量を、熱流体発生部温度計51A,熱流体圧力計52A、および熱流体流量計53Aそれぞれを用いて把握し、熱流体からの入熱量を算出する。
【0028】
そして、入熱量が変動した際に、熱媒体ポンプ90の回転数をフィードフォワード制御することで、蒸発器20内に流入する熱媒体の流量を調整する。これにより、熱媒体の過熱度を制御することができる。
また、制御部100は入熱量に基づいて凝縮器80を制御している。凝縮器80が凝縮する熱媒体の量を制御することで、適切な量の熱媒体を熱媒体ポンプ90に供給する。
【0029】
また、制御部100は、熱媒体ポンプ90に対してフィードバック制御を行っている。具体的には、タービン入側‐熱媒体温度計51Eで測定した熱媒体の過熱度に応じて、熱媒体ポンプ90の回転数を制御している。これにより、蒸発器20内に流入する熱媒体の流量を調整して、熱媒体の過熱度を制御することができる。
すなわち、制御部100は熱媒体ポンプ90に対してフィードフォワード制御とフィードバック制御との2つの制御を行っている。なお、これら2つの制御のうち、フィードバック制御については行わなくてもよい。
【0030】
ここで、
図2を用いて入熱量の変動、および熱媒体の過熱度の変動について説明する。
図2(a)に示すように、仮に制御部100がフィードバック制御のみを行っている場合には、入熱量が変動して低下した際に、この変動に追従して熱媒体の過熱度が変動してはじめて、熱媒体ポンプ90の回転数を制御することとなる。
【0031】
このため、時間遅れが生じることで、その後に熱媒体の流量を調整したとしても、熱媒体の過熱度は一定量低下する。このときの過熱度が閾値F以下に達すると、タービン30が停止させる必要がある。
【0032】
一方、
図2(b)に示すように、制御部100がフィードフォワード制御を行っている場合には、入熱量が変動して低下した際に、変動の発生時を基準として熱媒体の流量を調整することができる。
これにより、熱媒体の過熱度が、入熱量の低下に追従するのを抑え、熱媒体の過熱度の変動を抑制することができる。
【0033】
また蒸発器20は、例えば内部の汚れ等の経年劣化により熱変換効率が低下することが知られている。
このため、
図1に示すように、制御部100は、入熱量と熱媒体ポンプ90の回転数との関係を示す制御関数α~γを、蒸発器20の熱交換効率の程度に応じて、予め複数記憶している。すなわち、熱交換効率に複数の閾値を設定し、対応する制御関数α~γを割り当てている。
【0034】
そして、蒸発器20の熱交換効率の変化に応じて、制御部100は複数の制御関数から熱媒体ポンプ90の回転数を制御する際に用いる制御関数を選択する。ここで、制御部100は、蒸発器入側‐熱流体温度計51Bおよび蒸発器出側‐熱流体温度計51C、並びに蒸発器出側‐熱媒体温度計51Dおよび蒸発器入側‐熱媒体温度計51Fを用いて、蒸発器20内を流下する熱流体と熱媒体との間の熱交換の程度、すなわち蒸発器20の熱交換効率を把握している。
また、アラーム機能を設けることで、熱交換効率が一定以下に低下した際に、蒸発器20の内部を洗浄するように促すアラームを表示してもよい。
【0035】
また、制御部100は、熱流体発生部10から蒸発器20に向かう熱流体の流量と、熱媒体ポンプ90から蒸発器20に向かう熱媒体の流量と、に基づいて、熱媒体ポンプ90を制御するタイミングを補正するための時定数を算出する。制御部100は更に、熱流体発生部10から蒸発器20までの熱水送出ポンプ‐蒸発器間配管41の長さおよび流路断面積と、熱媒体ポンプ90からタービン入側‐熱媒体温度計51Eまでの長さおよび流路断面積と、を用いて、前記時定数を算出する。すなわち、熱流体発生部10から発生した熱流体が、蒸発器20に到達するタイミングと、熱媒体ポンプ90から蒸発器20に熱媒体が供給されるタイミングと、を、熱流体および熱媒体それぞれの流量、流路断面積および長さに基づいてあわせている。
【0036】
また熱流体配管40は、地下熱水に含まれるシリカ等の含有物が内面に付着して、スケールと呼ばれる付着物が堆積することで、流路断面積が減少し、配水能力が低下することが知られている。
このため、制御部100は、熱流体の流量と時定数との関係を示す補正関数A~Cを、熱流体が流下する熱流体配管40の内側に付着する付着物の量の程度に応じて、予め複数記憶している。
【0037】
そして、制御部100は、熱流体配管40の内側に付着する付着物の量に応じて、複数の補正関数から補正関数を選択する。例えば、前記時定数を一定期間ごとに比較することにより、付着物の増加の程度を確認して、補正関数を選択する。
また、アラーム機能を設けることで、付着物の量が一定以上となったときに、熱流体配管40の内面の洗浄を促すアラームを表示してもよい。
【0038】
また、バイナリー発電システム1は、熱流体発生部10に設けられ、熱流体を送出する熱水送出ポンプ11と、熱水送出ポンプ11に設けられ、熱水送出ポンプ11の負荷を検出するポンプ負荷検出部12と、を備えている。
図示の例では、熱水送出ポンプ11は、地中に配置されたダウンホールポンプであり、地下を流れる熱水を地上に汲み上げる。
【0039】
ポンプ負荷検出部12は、熱水送出ポンプ11に供給される電流値を検知し、制御部100に入力する。これにより、時々刻々と変化する熱流体を送出する熱水送出ポンプ11の負荷を把握することができる。
なお、このような態様に限られず、ポンプ負荷検出部12は、例えば熱水送出ポンプ11の消費電力等を検知して、熱水送出ポンプ11の負荷を把握してもよい。
【0040】
ここで、熱水送出ポンプ11の負荷が変動する原理としては、熱流体の温度が変化することで、熱流体の密度が変化する。これにより、例えば密度が減少した場合には、熱水送出ポンプ11の負荷が減少し、熱水送出ポンプ11に供給される電流値が減少する。
一方、熱流体の密度が増加した場合には、熱水送出ポンプ11の負荷が増加し、熱水送出ポンプ11に供給される電流値が増加する。
【0041】
そして制御部100は、ポンプ負荷検出部12で検出された熱水送出ポンプ11の負荷、すなわち電流値に基づいて、入熱量を予測する。この予測値に基づいて、制御部100が熱媒体ポンプ90の回転数を制御する。なお、このような態様に限られず、ポンプ負荷検出部12は、熱水送出ポンプ11の消費電力から把握した熱水送出ポンプ11の負荷に基づいて、入熱量を予測してもよい。
また、制御部100は、予測された入熱量に基づいて、凝縮器80を制御する。このように、凝縮器80を制御することで、熱媒体ポンプ90に供給される熱媒体の流量を確保する。
【0042】
以上説明したように、本実施形態におけるバイナリー発電システム1、およびバイナリー発電システム1の制御方法によれば、制御部100が、熱流体の入熱量に基づいて熱媒体ポンプ90を制御する。
すなわち、熱媒体の過熱度を入熱量から予測して、制御部100が熱媒体ポンプ90にフィードフォワード制御を行うことで、入熱量の変動した熱流体が蒸発器20内に流入する前に、熱媒体ポンプ90を制御することが可能になる。
【0043】
これにより、入熱量の変動に対して熱媒体の流量の調整を適切なタイミングで行うことができ、入熱量の変動に追従して熱媒体の過熱度が大きく変動するのを抑えることができる。
したがって、熱流体の入熱量の変動に対して、応答性を確保して熱媒体ポンプ90を制御することが可能になり、タービン30を安定操業することができる。
【0044】
また、制御部100が、蒸発器20の熱交換効率の変化に応じて、予め記憶した複数の制御関数のうち、熱媒体ポンプ90の回転数の制御に用いる制御関数を選択する。
このため、例えば蒸発器20の経年劣化等により熱交換効率が低下した際に、蒸発器20の状態に合わせて、最適な流量の熱媒体を熱媒体ポンプ90から蒸発器20に送り出すことができる。
【0045】
また、制御部100が、算出した時定数を用いて熱媒体ポンプ90を制御するので、熱流体が蒸発器20に流入するタイミングに合わせて、熱媒体が蒸発器20に流入するように、適切なタイミングで熱媒体ポンプ90の制御を行うことができる。
【0046】
また、制御部100が、熱流体配管40の内側に付着する付着物の量に応じて、予め記憶した複数の補正関数のうち、時定数の算出に用いる制御関数を選択する。
このため、例えば熱流体として地下熱水のように比較的汚れた性状の流体を用いた場合に、例えば熱流体配管40の内面に付着物が堆積することで熱流体配管40の配水能力が低下した場合に、熱流体配管40の状態に合わせて、最適な時定数を算出することができる。
また、新たに計測機器を追加することなく、時定数の比較により付着物の体積の程度が判断できるので、簡素な設備構成とすることができる。
【0047】
また、熱水送出ポンプ11により地下熱水(熱流体の一例)を送出する負荷の変化に基づいて、入熱量を予測するので、例えば入熱量を、熱流体の温度、圧力、および流量等から算出するよりも、早い段階で予測することができる。このため、より一層効果的に、熱媒体ポンプ90の制御に高い応答性を具備させることができる。
また、制御部100により予測された入熱量に基づいて凝縮器80を制御することで、熱媒体ポンプ90に適切な量の熱媒体を供給することができる。
【0048】
(実施例)
次に、本発明に係るバイナリー発電システム1の制御方法の効果を検証した解析結果について説明する。
この解析では、実施例として、本発明に係るバイナリー発電システム1の制御方法について入熱量が変動した際の熱媒体の変動を解析した。
また、比較例として、熱媒体の過熱度を検知して熱媒体ポンプ90の回転数をフィードバック制御するバイナリー発電システム1の制御方法について、同様に解析した。
ここで、それぞれの解析において、入熱量の変動はステップ関数として入力している。それらの結果を
図3および
図4に示す。
【0049】
図3に示すように、比較例に係るバイナリー発電システム1の制御方法では、入熱量の低下から少し遅れたタイミングで熱媒体の過熱度が大きく低下していることが確認できる。またその後、熱媒体の過熱度を検出して熱媒体ポンプ90の回転数を制御することで、熱媒体の過熱度が復元して安定していることが確認できる。
【0050】
一方、
図4に示すように、実施例に係るバイナリー発電システム1の制御方法では、入熱量の低下から少し遅れたタイミングで熱媒体の過熱度が僅かに増加した後に安定していることが確認できる。
これはすなわち、入熱量の低下した熱流体が蒸発器20に到達する前にフィードフォワード制御により熱媒体ポンプ90の回転数を制御することができるので、熱媒体の流量を減少した影響により、一時的に熱媒体の過熱度が増加したものと認められる。
【0051】
以上のように、本解析により、本発明に係るバイナリー発電の制御方法によれば、蒸発器20への入熱量の変動に対して、応答性を確保して熱媒体ポンプ90の回転数を制御することで、タービン30を安定操業することができることが確認された。
【0052】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
【0053】
例えば、上記実施形態においては、熱流体として地下熱水を用いる構成を示したが、このような態様に限られない。熱流体としては、例えば工場廃熱を利用することができ、熱流体は気体であってもよく、気液二相流であってもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、制御部100が、入熱量と熱媒体ポンプ90の回転数との関係を示す制御関数を、蒸発器20の熱交換効率の程度に応じて、予め複数記憶している構成を示したが、このような態様に限られない。制御部100は制御関数を複数記憶していなくてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、制御部100が、熱流体発生部10から蒸発器20に向かう熱流体の流量と、熱媒体ポンプ90から蒸発器20に向かう前記熱媒体の流量と、に基づいて、時定数を算出する構成を示したが、このような態様に限られない。制御部100は時定数を算出しなくてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、制御部100が、熱流体の流量と時定数との関係を示す補正関数を、熱流体が流下する熱流体配管40の内側に付着する付着物の量の程度に応じて、予め複数記憶している構成を示したが、このような態様に限られない。制御部100は補正関数を複数記憶していなくてもよい。
【0057】
また、上記実施形態では、バイナリー発電システム1が熱水送出ポンプ11を備えている構成を示したが、このような態様に限られない。例えば熱流体が地下から自噴する地下熱水であり、バイナリー発電システム1が熱水送出ポンプ11を備えていなくてもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、バイナリー発電システム1がポンプ負荷検出部12を備えている構成を示したが、このような態様に限られない。バイナリー発電システム1がポンプ負荷検出部12を備えていなくてもよい。
また、上記実施形態では、制御部100が、入熱量に基づいて、凝縮器80を制御する構成を示したが、このような態様に限られない。制御部100は凝縮器80を制御しなくてもよい。
【0059】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 バイナリー発電システム
10 熱流体発生部
11 熱水送出ポンプ
12 ポンプ負荷検出部
20 蒸発器
30 タービン
40 熱流体配管
80 凝縮器
90 熱媒体ポンプ
100 制御部