(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】共有結合性有機構造体組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 73/00 20060101AFI20220104BHJP
C08G 12/08 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C08G73/00
C08G12/08
(21)【出願番号】P 2018171950
(22)【出願日】2018-09-13
【審査請求日】2020-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 成之
(72)【発明者】
【氏名】吉川 幸治
(72)【発明者】
【氏名】堂浦 剛
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0266885(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104927048(CN,A)
【文献】特開2002-332347(JP,A)
【文献】特開2020-040857(JP,A)
【文献】San-Yuan Ding et al.,Construction of Covalent Organic Framework for Catalysis: Pd/COF-LZU1 in Suzuki-Miyaura Coupling Reaction,Journal of the American Chemical Society,2011年 月 日,133,19816-19822
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00-73/26
C08G 12/00-12/46
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分、熱および/または光の外的作用により変色するスイッチング現象を起こすことができる共有結合性有機構造体組成物の製造方法であって、
2ヒドロキシ1,3,5-ベンゼントリカルボキシアルデヒドと、1,4-ジアミノベンゼンとを、1,4-ジオキサンの溶媒に加えた後、加熱反応させることによって得られる共有結合性有機構造体組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法によって得られる共有結合性有機構造体組成物であって、
水分の有無により色が可逆的に変化
し、90℃の飽和蒸気圧分の水分が蒸発した水分無しの環境下で赤褐色となり、室温の飽和蒸気圧分の水分が存在する水分有りの環境下で黒色となる共有結合性有機構造体組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法によって得られる共有結合性有機構造体組成物であって、
熱の作用により色が可逆的に変化
し、90℃に加熱した際に赤褐色となり、室温下で黒色となる共有結合性有機構造体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外的作用により変色するスイッチング現象を有する共有結合性有機構造体組成物と、その製造方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、規則正しい細孔を形成することができる多孔質材料として、ホウ素含有化合物とアルコール類またはアルデヒド類の縮合物を熱処理して得られる共有結合性有機構造体が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような多孔質材料は、規則正しく、かつ、大きい比表面積を利用して、燃料貯蔵材料、温室効果ガスの分離・貯蔵材料、水質浄化材料として期待されている。しかし、上記従来のホウ素を含有した共有結合性有機構造体の場合、熱処理によって酸化ホウ素を生じることが懸念され、このような酸化ホウ素は、多孔質材料の空隙を閉じてしまうこととなり、熱処理前後で比表面積が大きく変化してしまうこととなり、良好な多孔質材料が得られない。
【0005】
また、上記従来の共有結合性有機構造体は、空隙に水分を吸着させた場合、加水分解されてしまうことがあり、その後に水分を脱着させたり、再度、水分を吸着させたりして反復利用することができなくなることが懸念される。また、加熱、光照射などの外的作用を加えたりしても、当該共有結合性有機構造体自体が色変化するようなことはなく、これらの外的作用を認識することはできなかった。
【0006】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、外的作用により変色するスイッチング現象を起こすことができる共有結合性有機構造体組成物およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明に係る共有結合性有機構造体組成物の製造方法は、水分、熱および/または光の外的作用により変色するスイッチング現象を起こすことができる共有結合性有機構造体組成物の製造方法であって、下記2ヒドロキシ1,3,5-ベンゼントリカルボキシアルデヒド(以下、HBTAという)と、1,4-ジアミノベンゼン(以下、DABという)とを、1,4-ジオキサンの溶媒に加えた後、加熱反応させることによって得られるものである。
【0008】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の共有結合性有機構造体組成物は、上記製造方法によって得られる共有結合性有機構造体組成物であって、水分の有無により色が可逆的に変化し、90℃の飽和蒸気圧分の水分が蒸発した水分無しの環境下で赤褐色となり、室温の飽和蒸気圧分の水分が存在する水分有りの環境下で黒色となるものである。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の共有結合性有機構造体組成物は、上記製造方法によって得られる共有結合性有機構造体組成物であって、熱の作用により色が可逆的に変化し、90℃に加熱した際に赤褐色となり、室温下で黒色となるものである。
【0011】
図1(a)に示すように、水分が無い場合、共有結合性有機構造体組成物は、赤褐色の色を呈する。また、
図1(b)に示すように、水分を吸収した場合、共有結合性有機構造体組成物は、黒色の色を呈する。
【0012】
このように、外的作用により色の変化を生じるスイッチング現象を起こすので、上記した共有結合性有機構造体組成物は、高い比表面積を利用した材料としてだけでなく、このスイッチング現象を利用した各種材料として利用できる。したがって、例えば、可視可能なガス吸着センサ(水分吸着状態は黒、水分放出状態は赤褐色の粉末)を構成したり、樹脂に練り混ぜてガスバリア性の樹脂材料を構成したり、特定サイズのガスは吸着・透過させるが、ある特定以上の大きさのガスは通さない選択的ガス吸着を行うガス篩を構成したり、湿度によって変色する湿度計を構成したり、水分吸着剤(乾燥剤)として構成したりすることができる。また、水を加えると黒変し、アセトンを加えると赤褐色に変色するので、どの溶媒を吸着したのかを判断する(選択的溶媒分子の貯蓄を行う)材料として利用したりすることができる。さらに、上記した共有結合性有機構造体組成物は、共有結合性有機構造体の複数の異性体の集合体によって構成されることとなるが、外的作用により異性体に変化を生じ、シス型とトランス型との間の変化で細孔のサイズが大きくなったり小さくなったりするので、この異性体の変化による細孔のサイズ変化のスイッチング現象を利用して特定のガスをトラップしたり放出させたりする材料として利用したりすることができる。すなわち、細孔が大きい状態で特定のガスをトラップし、その後、細孔を小さく変化させてその構造を維持することで、特定のガスをトラップすることができる。また、細孔が大きい状態で特定のガスを吸着させた後、細孔を小さく変化させた状態を維持すると、細孔が小さくなり、吸着したガスがかなりの時間をかけないと細孔外に放出されなくなるので、これを利用してトラップした特定のガスの放出速度を制御する材料として利用したりすることができる。
【0013】
上記共有結合性有機構造体組成物の製造方法において、合成工程での反応条件としては、上記したHBTAとDABとを、1,4-ジオキサンの溶媒に加えた後、加熱反応させることによって、共有結合を有する有機構造体組成物を構成することができるものであれば、特に限定されるものではなく、必要に応じて加熱、加圧、減圧、攪拌、冷却等の操作が行われる。これらは、複数の操作を組み合わせる場合も、段階的に行う場合も含む。共有結合性有機構造体組成物としては、格子状、六角形状等の規則性のある環状の構造体が連なった形状のものを形成するものであれば、特に限定されるものではなく、有機多孔体(COF:Covalent Organic Framework)の一般的な形状を形成するものは含まれる。例えば、50~250℃程度の温度で、3~100時間程度の反応を行うことによって形成される。温度は段階的に昇温および/または冷却する場合も含む。また、圧力は、段階的に加圧および/または減圧する場合も含む。
【0014】
ただし、上記した各共有結合性有機構造体組成物は、反応条件等によって生成される異性体のバランスが異なるため、反応条件は適宜調整される。
【0015】
本発明に係る共有結合性有機構造体組成物は、焼成して共有結合性有機構造体組成物焼成体(以下、単に焼成体という。)にしてから利用するものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上述べたように、本発明の共有結合性有機構造体組成物によると、水分の存在の有無により変色したり、熱の作用により変色したりするので、比表面積が大きい多孔質材料としてのみならず、これらのスイッチング現象を利用した各種製品の原料として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る共有結合性有機構造体組成物の外的作用により変色した際の画像データであって、(a)は水分が無い場合(加熱時)、(b)は水分が有る場合(放冷時)の各状態を示す画像データである。
【
図2】本発明に係る実施例1の共有結合性有機構造体組成物の電子顕微鏡写真を示す画像データである。
【
図3】本発明に係る実施例1の共有結合性有機構造体組成物の粉末X線回折の回折データを示すグラフである。
【
図4】本発明に係る実施例1の共有結合性有機構造体組成物の窒素吸着等温曲線を示すグラフである。
【
図5】本発明に係る実施例1の共有結合性有機構造体組成物の水分の有無による色変化を確認する画像データである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。
【0019】
[実施例1]
(粉末(合成材料))
下記式(1)で表される分子構造の2ヒドロキシ1,3,5-ベンゼントリカルボキシアルデヒド(以下、HBTAという)と、下記式(2)で表される分子構造の1,4-ジアミノベンゼン(以下、DABという)の2種類の粉末を使用した。
【0020】
(触媒)
1,4-ジオキサンを溶媒として使用した。
【0021】
(共有結合性有機構造体組成物の合成)
HBTA:0.048g、DAB:0.048g、1,4-ジオキサン:3mLを、50mL用水熱合成容器(HU-50:三愛科学株式会社製)内に入れたものを6セット作製した。その後、それら6セットの50mL用水熱合成容器(以下、水熱合成容器という)を30分間超音波分散させた後、120℃で72時間加熱して共有結合性有機構造体組成物の合成(脱水縮合による合成)を行った。合成後、上澄みを捨てて、新たに低水分アセトン800ミリリットルを加えて、10分程度50℃で加熱攪拌し、7日間放置した。7日後、上澄み液を回収し、粉末を120℃で20時間減圧下で乾燥させた。
このようにして得られた共有結合性有機構造体組成物は、赤褐色であった。
【0022】
(電子顕微鏡写真)
上記で得られた共有結合性有機構造体組成物の電子顕微鏡写真を撮影した。
撮影条件は下記の通りである。結果を
図2に示す。
測定機種:JSM-6010LA(日本電子株式会社製)
測定条件:加速電圧15kV、ワーキングディスタンス11mm、スポットサイズ30、測定倍率:1000倍、5000倍、10000倍
その結果、真球に近い複数の球体の集合体のような共有結合性有機構造体組成物が得られていることが確認できた。
【0023】
(粉末X線回折)
上記で得られた共有結合性有機構造体組成物を赤褐色の状態および黒色の状態で、それぞれの粉末約0.02gを、サンプルホルダーに乗せて整地し、回折を行った。測定機種、測定条件などは下記の通りである。結果を
図3に示す。
測定機種:X線回折装置RINT-Ultima+(株式会社リガク製)
測定条件:測定角度の範囲は2θ=2°~40°
スキャンスピード4°/min
【0024】
(窒素吸着測定(比表面積/細孔分布測定))
上記で得られた共有結合性有機構造体組成物を200℃で5時間減圧乾燥させ、室温雰囲気中で当該共有結合性有機構造体組成物に吸着した水分を脱着させて赤褐色にした後、当該共有結合性有機構造体組成物の粉末0.02gをサンプル管に入れ、液体窒素雰囲気下で比表面積/細孔分布測定装置(BELLSORP-miniII:マイクロトラックベル株式会社)によって窒素吸着等温曲線を測定した。また、同装置の解析プログラム(I型(ISO9277)BET自動解析)により比表面積を算出した。結果を
図4に示す。
【0025】
(水分の有無による考察)
このようにして得られた共有結合性有機構造体組成物を入れたガラスビンの蓋を開けたまま、室温環境の雰囲気下に放置しておいたところ、空気中の水分を吸湿して約10分程で黒色に変化した。
この黒色に変化した共有結合性有機構造体組成物が入ったガラスビンをヒーターにかけて90℃で加熱したところ、共有結合性有機構造体組成物は、元の赤褐色に戻り、加熱過程では、加熱によって放出された水分がガラスビンの上部に付着していた。この経過を
図5に示す。
【0026】
以上の結果から、本発明に係る共有結合性有機構造体組成物は、水分の有無や熱の作用により可逆的に色が変化することが確認できた。また、990m2/gの高い比表面積が得られていることが確認できた。
【0027】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。