(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】研削液生成装置、研削液生成方法、研削装置および研削液
(51)【国際特許分類】
B24B 55/02 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
B24B55/02 A
(21)【出願番号】P 2018514468
(86)(22)【出願日】2018-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2018009916
(87)【国際公開番号】W WO2018168912
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2019-05-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2017050991
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000309
【氏名又は名称】IDEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】荻野 重人
(72)【発明者】
【氏名】牧 俊作
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀彰
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】久保田 信也
【審判官】大山 健
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-221640(JP,A)
【文献】特開2014-203990(JP,A)
【文献】特開2016-155081(JP,A)
【文献】特開2011-218308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 - 53/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削装置において砥石部と対象物との接触部に供給される研削液を生成する研削液生成装置であって、
水に水溶性研削油と界面活性剤とを溶解させて調整した原料液に対して直径が1μm未満のウルトラファインバブルを生成し、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む研削液を生成する研削液生成部と、
前記研削液を送出する研削液送出部と、
を備えることを特徴とする研削液生成装置。
【請求項2】
研削装置において砥石部と対象物との接触部に供給される研削液を生成する研削液生成装置であって、
水に水溶性研削油と界面活性剤とを溶解させて調整した原料液に対して気体を混合させて混合液を生成する混合液生成部と、
前記混合液中に直径が1μm未満のウルトラファインバブルを生成し、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む液体を送出する液送出部と、
を備えることを特徴とする研削液生成装置。
【請求項3】
請求項2に記載の研削液生成装置であって、
前記液送出部から送出された液体を前記混合液生成部へと戻す循環部をさらに備えることを特徴とする研削液生成装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の研削液生成装置であって、
前記液送出部から送出された液体を、研削装置の砥石部と対象物との接触部に供給する前に貯溜する貯溜部をさらに備えることを特徴とする研削液生成装置。
【請求項5】
請求項2ないし4のいずれか1つに記載の研削液生成装置であって、
前記液送出部が、
前記混合液が供給されるノズル流路の上流から下流に向かって流路面積が漸次減少するテーパ部と、
前記テーパ部の下流端に接続し、前記テーパ部からの流体を噴出口から噴出する喉部と、
前記噴出口に接続し、流路面積を拡大する拡大部と、
を備えるウルトラファインバブル生成ノズルであることを特徴とする研削液生成装置。
【請求項6】
研削装置において砥石部と対象物との接触部に供給される研削液を生成する研削液生成方法であって、
a)
水に水溶性研削油と界面活性剤とを溶解させて原料液を調製する工程と、
b)前記原料液に対して気体を混合させて混合液を生成する工程と、
c)前記混合液中に直径が1μm未満のウルトラファインバブルを生成し、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む液体を送出する工程と、
を備えることを特徴とする研削液生成方法。
【請求項7】
請求項6に記載の研削液生成方法であって、
前記
c)工程にて送出された液体を循環させて、前記
b)工程および前記
c)工程を行うことを特徴とする研削液生成方法。
【請求項8】
対象物に対する研削加工を行う研削装置であって、
砥石部と、
対象物を保持する保持部と、
前記砥石部を前記対象物に対して相対的に摺動させる駆動部と、
前記砥石部と前記対象物との接触部に研削液を供給する液供給部と、
を備え、
前記研削液が、
水に水溶性研削油と界面活性剤とを溶解させて調整した原料液に対して直径が1μm未満のウルトラファインバブルを生成したものであり、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含むことを特徴とする研削装置。
【請求項9】
対象物に対する研削加工を行う研削装置であって、
砥石部と、
対象物を保持する保持部と、
前記砥石部を前記対象物に対して相対的に摺動させる駆動部と、
請求項1ないし5のいずれか1つに記載の研削液生成装置と、
前記研削液生成装置にて生成された研削液を前記砥石部と前記対象物との接触部に供給する液供給部と、
を備えることを特徴とする研削装置。
【請求項10】
研削装置において砥石部と対象物との接触部に供給される研削液であって、
水に水溶性研削油と界面活性剤とを溶解させて調整した原料液に対して直径が1μm未満のウルトラファインバブルが生成されることにより生成され、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含むことを特徴とする研削液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削液、当該研削液の生成、および、当該研削液を利用した対象物の研削に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被加工物に対する切削加工等を行う装置では、切削点に冷却媒体が供給される。特開2015-98079号公報(文献1)では、冷却媒体用タンク内に貯溜されている冷却媒体である強アルカリ水に、空気のミリバブルおよびマイクロバブルを混入する技術が開示されている。また、特許第3791827号公報(文献2)では、切削加工装置において、クーラント液を供給するノズルの先端近傍に気泡発生器を設け、0.3μm~10μmの大きさの気泡を含む気泡混入クーラント液を切削点に供給する技術が開示されている。
【0003】
ところで、文献1にも記載されているように、ミリバブルおよびマイクロバブルは、液中において数秒程度しか保持されない。したがって、文献1および文献2のように、マイクロバブルを含む冷却媒体を切削点に供給するためには、冷却媒体中にマイクロバブルを連続的に生成する必要があり、また、マイクロバブルの生成直後の冷却媒体を切削点に供給する必要がある。このため、文献1および文献2の装置では、マイクロバブルの連続生成により温度が上昇した冷却媒体を切削点に供給することになり、加工精度の低下、および、切削工具の低寿命化が生じるおそれがある。
【0004】
文献2の装置では、ノズル先端に設けられた気泡発生器により気泡が混入された直後のクーラント液を切削点に供給するため、クーラント液内の気泡濃度の増大に限界がある。また、文献2では、クーラント液に気泡を混入することにより、切削装置におけるクーラント液の冷却性能および潤滑性能が向上される点が記載されているが、冷却性能および潤滑性能の向上に必要なクーラント液中の気泡濃度については、一切開示されていない。さらには、文献2には、切削装置以外の装置(例えば、研削装置)についての知見は含まれていない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、研削装置において砥石部と対象物との接触部に供給される研削液を生成する研削液生成装置に向けられており、研削装置における生産効率を向上させる研削液を提供することを目的としている。
【0006】
本発明の好ましい一の形態に係る研削液生成装置は、水に水溶性研削油と界面活性剤とを溶解させて調整した原料液に対して直径が1μm未満のウルトラファインバブルを生成し、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む研削液を生成する研削液生成部と、前記研削液を送出する研削液送出部とを備える。本発明によれば、研削装置における生産効率を向上させる研削液を提供することができる。
【0007】
本発明の好ましい他の形態に係る研削液生成装置は、水に水溶性研削油と界面活性剤とを溶解させて調整した原料液に対して気体を混合させて混合液を生成する混合液生成部と、前記混合液中に直径が1μm未満のウルトラファインバブルを生成し、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む液体を送出する液送出部とを備える。本発明によれば、研削装置における生産効率を向上させる研削液を提供することができる。
【0008】
好ましくは、前記研削液生成装置は、前記液送出部から送出された液体を前記混合液生成部へと戻す循環部をさらに備える。
【0009】
好ましくは、前記研削液生成装置は、前記液送出部から送出された液体を、研削装置の砥石部と対象物との接触部に供給する前に貯溜する貯溜部をさらに備える。
【0010】
好ましくは、前記液送出部が、前記混合液が供給されるノズル流路の上流から下流に向かって流路面積が漸次減少するテーパ部と、前記テーパ部の下流端に接続し、前記テーパ部からの流体を噴出口から噴出する喉部と、前記噴出口に接続し、流路面積を拡大する拡大部と、を備えるウルトラファインバブル生成ノズルである。
【0011】
本発明は、研削装置において砥石部と対象物との接触部に供給される研削液を生成する研削液生成方法にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る研削液生成方法は、a)水に水溶性研削油と界面活性剤とを溶解させて原料液を調製する工程と、b)前記原料液に対して気体を混合させて混合液を生成する工程と、c)前記混合液中に直径が1μm未満のウルトラファインバブルを生成し、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む液体を送出する工程とを備える。本発明によれば、研削装置における生産効率を向上させる研削液を容易に製造することができる。
【0012】
好ましくは、前記c)工程にて送出された液体を循環させて、前記b)工程および前記c)工程を行う。
【0013】
本発明は、対象物に対する研削加工を行う研削装置にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る研削装置は、砥石部と、対象物を保持する保持部と、前記砥石部を前記対象物に対して相対的に摺動させる駆動部と、前記砥石部と前記対象物との接触部に研削液を供給する液供給部とを備え、前記研削液が、水に水溶性研削油と界面活性剤とを溶解させて調整した原料液に対して直径が1μm未満のウルトラファインバブルを生成したものであり、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む。本発明によれば、研削装置における生産効率を向上させることができる。
【0014】
本発明の好ましい他の形態に係る研削装置は、砥石部と、対象物を保持する保持部と、前記砥石部を前記対象物に対して相対的に摺動させる駆動部と、上述の研削液生成装置と、前記研削液生成装置にて生成された研削液を前記砥石部と前記対象物との接触部に供給する液供給部とを備える。本発明によれば、研削装置における生産効率を向上させることができる。
【0015】
本発明は、研削装置において砥石部と対象物との接触部に供給される研削液にも向けられている。本発明の好ましい一の形態に係る研削液は、水に水溶性研削油と界面活性剤とを溶解させて調整した原料液に対して直径が1μm未満のウルトラファインバブルが生成されることにより生成され、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む。本発明によれば、研削装置における生産効率を向上させることができる。
【0016】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】一の実施の形態に係る研削装置の構成を示す図である。
【
図3】研削液生成装置による研削液の生成の流れを示す図である。
【
図6】対象物の加工数と加工精度との関係を示す図である。
【
図8】ウルトラファインバブルの直径と濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る研削装置8の構成を示す図である。研削装置8は、研削加工の対象である対象物9(すなわち、被加工物)に対する研削加工を行う装置である。
図1に示す例では、研削装置8により、略円柱状の対象物9の外周面を研削する円筒研削を行う。
【0019】
研削装置8は、砥石部81と、保持部82と、駆動部83と、液供給部84と、送り部85と、研削液生成装置1とを備える。砥石部81は、
図1における紙面に垂直な方向を向く中心軸J3を中心とする略円板状または略円柱状の部材である。砥石部81の外周面には、研削加工用の砥石811が設けられる。保持部82は、
図1における紙面に垂直な方向に延びる略円柱状の対象物9を保持する。対象物9の外周面には、砥石部81の砥石811が接触する。以下の説明では、砥石部81と対象物9とが接触する部位を、「接触部88」と呼ぶ。
【0020】
駆動部83は、砥石部81を対象物9に対して相対的に摺動させる。具体的には、駆動部83は、砥石部81を中心軸J3を中心として回転させる。駆動部83は、また、保持部82に保持された対象物9を、
図1における紙面に垂直な中心軸J4を中心として回転させる。
図1に示す例では、砥石部81は図中の時計回りに回転し、対象物9は図中の反時計回りに回転する。なお、駆動部83は、砥石部81を回転させることなく、保持部82に保持された対象物9を、
図1における紙面に垂直な中心軸J4を中心として回転させてもよい。送り部85は、対象物9を保持部82と共に、
図1における紙面に垂直な方向(すなわち、中心軸J3に平行な方向)に移動する。
【0021】
研削液生成装置1は、対象物9の研削加工に利用される研削液74(すなわち、クーラント液)を生成する。研削液生成装置1にて生成された研削液74は、液供給部84により、砥石部81と対象物9との接触部88に供給される。液供給部84は、例えば、砥石部81と対象物9との接触部88に向けて研削液74を噴射する研削液ノズルである。
【0022】
液供給部84から接触部88に供給される研削液74は、ウルトラファインバブルを所定濃度にて含む。「ウルトラファインバブル」とは、直径が1μm(マイクロメートル)未満の気泡であり、ナノバブルとも呼ばれる。また、ウルトラファインバブルの「濃度」とは、液体が単位体積当たりに含有するウルトラファインバブルの個数を指す。液体中のウルトラファインバブルの個数は、例えば、レーザ回折・散乱法により測定される。本実施の形態では、株式会社島津製作所製のレーザ回折式粒子径分布測定装置SALD-7500X10により、ウルトラファインバブルの個数を測定する。
【0023】
液供給部84から供給される研削液74におけるウルトラファインバブルの濃度は、1億個/ml(ミリリットル)以上であり、好ましくは、4億個/ml以上である。なお、研削液74におけるウルトラファインバブルの濃度の上限は、特に限定されないが、生成に要する時間等を考慮すると、10億個/ml以下が実用的である。研削液74に含まれるウルトラファインバブルの直径は、主に200nm(ナノメートル)以下である。例えば、単位体積辺りの研削液74に含まれるウルトラファインバブルの個数に注目すると、直径が50nm以上かつ200nm以下のウルトラファインバブルの個数は、全ウルトラファインバブルの個数の80%以上かつ100%以下である。
【0024】
図2は、研削液生成装置1の構成を示す図である。
図3は、研削液生成装置1による研削液の生成の流れを示す図である。
図2では、研削液生成装置1の一部の構成を断面にて描いている。研削液生成装置1は、研削液74の原料である液体(以下、「原料液」という。)と気体とを混合して、当該気体のウルトラファインバブルを上述の所定濃度にて含む研削液74を生成する装置である。原料液は、例えば、従来の研削装置で使用される研削液(以下、「従来型研削液」という。)であり、上述の所定濃度以上のウルトラファインバブルは含まれていない。従来型研削液は、例えば、研削液の原液を水で希釈することにより生成される。
【0025】
研削液生成装置1は、液送出部2と、混合液生成部3と、貯溜部5と、循環部6とを備える。研削液生成装置1では、まず、混合液生成部3により、原料液に気体が混合されて混合液が生成される(ステップS11)。続いて、液送出部2により、混合液生成部3にて生成された混合液中にウルトラファインバブルが生成され、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む液体が送出される(ステップS12)。液送出部2から送出された液体は、液供給部84(
図1参照)から接触部88に供給される前に、貯溜部5にて一時的に貯溜される(ステップS13)。
【0026】
貯溜部5に貯溜された液体は、循環部6の循環路61を介して混合液生成部3へと戻される。すなわち、ステップS12にて液送出部2から送出された液体が、循環部6により混合液生成部3へと循環され、ステップS11~S13が行われる(ステップS14,S15)。研削液生成装置1では、ステップS11~S15が繰り返されることにより、ウルトラファインバブルを上述の所定濃度にて含む研削液74が生成される(ステップS14)。研削液74は、貯溜部5から液供給部84を介して接触部88へと供給される。
【0027】
混合液生成部3は、混合ノズル31と、加圧液生成容器32と、ポンプ33とを備える。混合ノズル31は、ポンプ33により圧送された液体と、気体流入口から流入した気体とを混合して加圧液生成容器32内に向けて噴出する。混合ノズル31にて混合される液体および気体は、上述の原料液および空気である。なお、混合ノズル31では、空気に代えて、他の気体(例えば、窒素ガス)が原料液と混合されてもよい。
【0028】
図4は、混合ノズル31を拡大して示す断面図である。混合ノズル31は、液体流入口311と、気体流入口319と、混合流体噴出口312とを備える。液体流入口311からは、ポンプ33により圧送された液体が流入する。気体流入口319からは、気体が流入する。混合流体噴出口312からは、液体流入口311から流入した液体と、気体流入口319から流入した気体とが混合された混合流体72(
図2参照)が噴出する。液体流入口311、気体流入口319および混合流体噴出口312はそれぞれ略円形である。
【0029】
液体流入口311から混合流体噴出口312に向かうノズル流路310の流路断面、および、気体流入口319からノズル流路310に向かう気体流路3191の流路断面も略円形である。流路断面とは、ノズル流路310や気体流路3191等の流路の中心軸に垂直な断面、すなわち、流路を流れる流体の流れに垂直な断面を意味する。また、以下の説明では、流路断面の面積を「流路面積」という。ノズル流路310は、流路面積が流路の中間部で小さくなるベンチュリ管状である。
【0030】
混合ノズル31は、液体流入口311から混合流体噴出口312に向かって順に連続して配置される導入部313と、第1テーパ部314と、喉部315と、気体混合部316と、第2テーパ部317と、導出部318とを備える。混合ノズル31は、また、内部に気体流路3191が設けられた気体供給部3192を備える。
【0031】
導入部313では、流路面積は、ノズル流路310の中心軸J1方向の各位置においてほぼ一定である。第1テーパ部314では、液体の流れる方向に向かって(すなわち、下流に向かって)流路面積が漸次減少する。喉部315では、流路面積はほぼ一定である。喉部315の流路面積は、ノズル流路310において最も小さい。なお、ノズル流路310では、喉部315において流路面積が僅かに変化する場合であっても、流路面積がおよそ最も小さい部分全体が喉部315と捉えられる。気体混合部316では、流路面積はほぼ一定であり、喉部315の流路面積よりも少し大きい。第2テーパ部317では、下流に向かって流路面積が漸次増大する。導出部318では、流路面積はほぼ一定である。気体流路3191の流路面積もほぼ一定であり、気体流路3191は、ノズル流路310の気体混合部316に接続される。
【0032】
混合ノズル31では、液体流入口311からノズル流路310に流入した液体が、喉部315で加速されて静圧が低下し、喉部315および気体混合部316において、ノズル流路310内の圧力が大気圧よりも低くなる。これにより、気体流入口319から気体が吸引され、気体流路3191を通過して気体混合部316に流入し、液体と混合されて混合流体72が生成される。混合流体72は、第2テーパ部317および導出部318において減速されて静圧が増大し、混合流体噴出口312を介して上述のように加圧液生成容器32内に噴出される。
【0033】
図2に示す加圧液生成容器32内は加圧されて大気圧よりも圧力が高い状態(以下、「加圧環境」という。)となっている。加圧液生成容器32では、混合ノズル31から噴出された混合流体72が加圧環境下にて流れる間に、気体が液体に加圧溶解して加圧液が生成される。当該加圧液は、混合液生成部3により生成される上述の混合液である。
【0034】
加圧液生成容器32は、上下方向に積層される第1流路321と、第2流路322と、第3流路323と、第4流路324と、第5流路325とを備える。以下の説明では、第1流路321、第2流路322、第3流路323、第4流路324および第5流路325をまとめて指す場合、「流路321~325」と呼ぶ。流路321~325は、水平方向に延びる管路であり、流路321~325の長手方向に垂直な断面は略矩形である。
【0035】
第1流路321の上流側の端部(すなわち、
図2中の左側の端部)には、上述の混合ノズル31が取り付けられており、混合ノズル31から噴出された後の混合流体72は、加圧環境下にて
図2中の右側に向かって流れる。本実施の形態では、第1流路321内の混合流体72の液面より上方にて混合ノズル31から混合流体72が噴出される。混合ノズル31から噴出された直後の混合流体72は、第1流路321の下流側の壁面(すなわち、
図2中の右側の壁面)に衝突する前に上記液面に直接衝突する。
【0036】
加圧液生成容器32では、混合ノズル31の混合流体噴出口312の一部または全体が、第1流路321内の混合流体72の液面よりも下側に位置してもよい。これにより、上述と同様に、第1流路321内において、混合ノズル31から噴出された直後の混合流体72が、第1流路321内を流れる混合流体72に直接衝突する。
【0037】
第1流路321の下流側の端部の下面には、略円形の開口321aが設けられており、第1流路321を流れる混合流体72は、第1流路321の下方に位置する第2流路322へと開口321aを介して落下する。第2流路322では、第1流路321から落下した混合流体72が加圧環境下にて
図2中の右側から左側へと流れ、第2流路322の下流側の端部の下面に設けられた略円形の開口322aを介して、第2流路322の下方に位置する第3流路323へと落下する。第3流路323では、第2流路322から落下した混合流体72が加圧環境下にて
図2中の左側から右側へと流れ、第3流路323の下流側の端部の下面に設けられた略円形の開口323aを介して、第3流路323の下方に位置する第4流路324へと落下する。
図2に示すように、第1流路321~第4流路324では、混合流体72は、気泡を含む液体の層と、その上方に位置する気体の層に分かれている。
【0038】
第4流路324では、第3流路323から落下した混合流体72が加圧環境下にて
図2中の右側から左側へと流れ、第4流路324の下流側の端部の下面に設けられた略円形の開口324aを介して、第4流路324の下方に位置する第5流路325へと流入(すなわち、落下)する。第5流路325では、第1流路321~第4流路324とは異なり、気体の層は存在しておらず、第5流路325内に充満する液体内において、第5流路325の上面近傍に気泡が僅かに存在する状態となっている。第5流路325では、第4流路324から流入した混合流体72が加圧環境下にて
図2中の左側から右側へと流れる。
【0039】
加圧液生成容器32では、流路321~325を、段階的に緩急を繰り返しつつ上から下に流れ落ちる(すなわち、水平方向への流れと下方向への流れとを交互に繰り返しつつ流れる)混合流体72において、気体が液体に徐々に加圧溶解する。第5流路325においては、液体中に溶解している気体の濃度は、加圧環境下における当該気体の(飽和)溶解度の60%~90%にほぼ等しい。そして、液体に溶解しなかった余剰の気体が、第5流路325内において、視認可能な大きさの気泡として存在している。上下に隣接する水平流路321~325における混合流体72の流れの方向が逆向きであることにより、加圧液生成容器32の小型化が実現される。なお、加圧液生成容器32では、上下に積層される流路の数は適宜変更されてよい。
【0040】
加圧液生成容器32は、第5流路325の下流側の上面から上方へと延びる余剰気体分離部326をさらに備える。余剰気体分離部326には混合流体72が充満している。余剰気体分離部326の上下方向に垂直な断面は略矩形であり、余剰気体分離部326の上端部は、圧力調整用の絞り部327を介して大気開放されている。第5水平流路325を流れる混合流体72の気泡は、余剰気体分離部326内を上昇して大気中に放出される。
【0041】
このようにして、混合流体72の余剰な気体が混合流体72の一部と共に分離されることにより、少なくとも容易に視認できる大きさの気泡を実質的に含まない加圧液が生成され、第5流路325の下流側の端部に直接的に接続された液送出部2へと供給される。本実施の形態では、加圧液には、大気圧下における気体の(飽和)溶解度の約2倍以上の気体が溶解している。加圧液生成容器32において流路321~325を流れる混合流体72の液体は、生成途上の加圧液と捉えることもできる。
【0042】
図5は、液送出部2を拡大して示す断面図である。液送出部2は、ウルトラファインバブルを生成するウルトラファインバブル生成ノズルである。液送出部2は、3つのノズル28が直列に接続された多段ノズルである。液送出部2は、液体流入口21と、液体送出口22とを備える。液体流入口21からは、加圧液生成容器32の第5流路325から加圧液が流入する。液体送出口22は、液送出路52(
図2参照)を介して貯溜部5の貯溜槽51へと接続される。液体流入口21および液体送出口22はそれぞれ略円形であり、液体流入口21から液体送出口22に向かうノズル流路20の流路断面も略円形である。
【0043】
液送出部2は、液体流入口21から液体送出口22に向かって(すなわち、ノズル流路20の上流から下流に向かって)順に連続して配置される3組のテーパ部24、喉部25および拡大部26を備える。テーパ部24では、加圧液の流れる方向に向かって(すなわち、ノズル流路20の上流から下流に向かって)流路面積が漸次減少する。テーパ部24の内面は、ノズル流路20の中心軸J2を中心とする略円錐面の一部である。当該中心軸J2を含む断面において、テーパ部24の内面の成す角度は、10°以上90°以下であることが好ましい。
【0044】
喉部25は、テーパ部24の下流端に接続し、テーパ部24と拡大部26とを連絡する。喉部25の内面は略円筒面であり、喉部25では、流路面積はほぼ一定である。喉部25における流路断面の直径は、ノズル流路20において最も小さく、喉部25の流路面積は、ノズル流路20において最も小さい。喉部25の長さは、好ましくは、喉部25の直径の1.1倍以上10倍以下であり、より好ましくは、1.5倍以上2倍以下である。なお、ノズル流路20では、喉部25において流路面積が僅かに変化する場合であっても、流路面積がおよそ最も小さい部分全体が喉部25と捉えられる。
【0045】
拡大部26は、喉部25の下流端である噴出口29に接続される。拡大部26は、上流側の喉部25と下流側のテーパ部24とを連絡する。拡大部26の内面は略円筒面であり、拡大部26では、流路面積はほぼ一定である。拡大部26の直径は、喉部25の直径よりも大きい。喉部25と拡大部26との間では、流路面積が急激に拡大される。中心軸J2を含む断面において、喉部25の下流端と拡大部26の上流端との間の略円環状の面27と、中心軸J2との成す角度は約90°である。換言すれば、面27は中心軸J2に略垂直である。当該角度は、例えば、45°以上かつ90°以下である。
【0046】
液送出部2では、液体流入口21からノズル流路20に流入した加圧液が、テーパ部24において徐々に加速されつつ喉部25へと流れ、喉部25の下流端である噴出口29から、拡大部26へと噴流として噴出される。喉部25における加圧液の流速は、好ましくは秒速10m~30mである。喉部25では、加圧液の静圧が低下するため、加圧液中の気体が過飽和となってウルトラファインバブルとして液中に析出する。また、加圧液が拡大部26を通過する間にも、ウルトラファインバブルの析出が生じる。液送出部2では、3組のテーパ部24、喉部25および拡大部26を加圧液が順に通過することにより、高濃度のウルトラファインバブルを含む液体が生成され、
図2に示す液送出路52を介して貯溜槽51へと送出される。
【0047】
循環部6の循環路61は、貯溜部5の貯溜槽51と、混合ノズル31の液体流入口311(
図4参照)とを接続する。液送出部2から貯溜槽51に送出されたウルトラファインバブルを含む液体は、循環路61を介して混合ノズル31へと戻される。混合ノズル31へと戻された液体は、加圧液生成容器32および液送出部2を通過し、貯溜槽51へと送出される。研削液生成装置1では、ウルトラファインバブルを含む液体が、混合液生成部3、液送出部2、貯溜槽51および循環部6を循環する。これにより、貯溜槽51内の液体中におけるウルトラファインバブルの濃度が、上述の所定濃度まで増大する。換言すれば、ウルトラファインバブルを上述の所定濃度にて含む研削液74が、貯溜槽51内に貯溜される。
【0048】
研削液生成装置1では、貯溜槽51内の液体中におけるウルトラファインバブルの濃度が、上述の所定濃度に到達すると、ポンプ33が停止され、上述の液体の循環(すなわち、研削液74の生成)が停止される。ウルトラファインバブルは、液体中において長時間存在可能であるため、研削液74の生成停止後も研削液74中に存在し続ける。研削液生成装置1では、原料液が混合液生成部3および液送出部2を1回だけ通過することにより、液送出部2から送出される液体中のウルトラファインバブルの濃度が上述の所定濃度に到達する場合、循環部6を介した上記循環は行われなくてよい。この場合、混合ノズル31の液体流入口311から供給された原料液は、混合ノズル31、加圧液生成容器32および液送出部2を通過し、ウルトラファインバブルを上述の所定濃度にて含む研削液74として、液送出部2の液体送出口22から送出される。また、この場合、研削液生成装置1から循環部6が省略されてもよい。
【0049】
図1に示す研削装置8では、研削液生成装置1の貯溜槽51に貯溜されている研削液74が、砥石部81と対象物9との接触部88に対して、液供給部84を介して継続的に供給されている状態で、駆動部83により砥石部81および対象物9が回転され、対象物9の研削加工が行われる。なお、研削装置8では、対象物9に対する研削加工と並行して、研削液生成装置1による研削液74の生成が継続されていてもよい。
【0050】
砥石部81と対象物9との接触部88に供給される研削液74は、ウルトラファインバブルが1億個/ml以上の濃度にて含まれているため、従来型研削液に比べて表面張力が低い。このため、研削液74が、砥石部81の砥石811と対象物9の表面との間に浸透しやすい。その結果、砥石部81と対象物9との接触部88が効率良く冷却される。また、砥石部81と対象物9との接触部88における潤滑性が向上される。
【0051】
さらに、ウルトラファインバブルが1億個/ml以上の濃度にて含まれている研削液74が接触部88に供給されることにより、砥石811の気孔等に付着した研磨くず(すなわち、研磨粉、研磨粒および破砕した砥粒等)が、ウルトラファインバブルにより物理的に刮ぎ取られて砥石811から除去される。また、ウルトラファインバブルの表面にはマイナスの電荷が存在するため、砥石811に付着した研磨くずが当該電荷により電位吸着されて砥石811から除去される。これにより、砥石部81における砥石811の目詰まりが好適に抑制される。その結果、研削装置8による研削加工の精度(以下、単に「加工精度」という。)を向上することができる。また、研削装置8において連続的に研削加工を行った場合の加工精度の低下を抑制し、砥石部81のドレスインターバル(すなわち、砥石811の目直しの間隔)を長くすることができる。
【0052】
図6および
図7は、実施例1,2および比較例1,2について、研削装置8における研削加工の結果を示す図である。実施例1では、ウルトラファインバブルを約1億個/mlの濃度にて含む研削液74を、砥石部81と対象物9との接触部88に供給して対象物9の研削加工を行った。実施例2では、ウルトラファインバブルを約4億個/mlの濃度にて含む研削液74を、砥石部81と対象物9との接触部88に供給して対象物9の研削加工を行った。実施例1,2では、研削液74の原料液として、株式会社ノリタケカンパニーリミテド製の研削盤用水溶性研削油(A2種:ソリュブルタイプ)であるノリタケクールSEC-Zを利用した。具体的には、原水である水道水20l(リットル)に、700ml(すなわち、3.5%)のノリタケクールSEC-Zを溶解させて原料液を作製した。
【0053】
実施例1の研削液74は、研削液生成装置1において循環部6による循環を行うことなく、原料液が混合液生成部3および液送出部2を1回だけ通過することにより生成される。実施例2の研削液74は、循環部6により貯溜槽51内の液体が混合液生成部3および液送出部2を約10回循環することにより生成される。
【0054】
比較例1では、従来型研削液を砥石部81と対象物9との接触部88に供給して対象物9の研削加工を行った。従来型研削液としては、上述の研削液74の原料液であるノリタケクールSEC-Zを利用した。
【0055】
図8は、実施例1,2の研削液74および比較例1の従来型研削液中に含まれるウルトラファインバブルの直径と濃度との関係を示す図である。
図8の横軸は、ウルトラファインバブルの直径を示し、縦軸はウルトラファインバブルの濃度を示す。
図8では、実施例1を細実線96で示し、実施例2を太実線97で示し、比較例1を破線98で示す。
図8に示すように、実施例1,2の研削液74に比べると、当該従来型研削液には、ウルトラファインバブルはほとんど含まれていない。また、実施例1,2の研削液74に含まれるウルトラファインバブルの直径は、上述のように、主に50nm以上かつ200nm以下である。
【0056】
比較例2では、比較例1と同じ従来型研削液中に、直径が1μm以上の気泡であるマイクロバブルを、約100万個/mlの濃度にて生成したものを、接触部88に供給して対象物9の研削加工を行った。以下の説明では、比較例2にて使用したマイクロバブルを含む従来型研削液を、「MB研削液」と呼ぶ。
【0057】
実施例1,2および比較例1,2では、80個の対象物9に対して研削加工を順次行った。対象物9は、直径25mm、長さ50mmの円柱部材である。対象物9の材料は、機械構造用炭素鋼のS45Cであり、焼き入れ硬さ(HRC)は32である。砥石部81の砥石811は、株式会社ノリタケカンパニーリミテド製のTA砥石であり、粒度は80である。対象物9の送り速度は2μm/secであり、研削量は0.1mmである。加工時間は、1個の対象物9につき約40秒である。
【0058】
比較例1では、液供給部84から砥石部81と対象物9との接触部88に供給される従来型研削液の温度は、約17℃であった。実施例1,2では、液供給部84から接触部88に供給される研削液74の温度は、約19℃であった。比較例2では、80個の対象物9に対する研削加工の途中でMB研削液の温度が上昇したため、MB研削液を冷却しつつ使用した。80個の対象物9に対する研削加工におけるMB研削液の平均温度は、約22℃である。MB研削液の温度上昇の原因は、短時間で消滅するマイクロバブルのMB研削液内における濃度が略一定に維持されるように、マイクロバブルを連続的に大量に生成する必要があるためである。なお、実施例1,2および比較例1では、80個の対象物9に対する研削加工中に、研削液74および従来型研削液の冷却は行っていない。
【0059】
図6は、対象物9の加工数と加工精度との関係を示す図である。
図6の横軸は、対象物9の加工数(すなわち、研削加工が行われた対象物9の数)を示す。
図6の縦軸は、横軸が示す個数番目に研削加工された対象物9の寸法と、80個のうち最初(すなわち、1個目)に研削加工された対象物9の寸法との差(以下、「寸法変位」という。)を示す。
図6中では、実施例1,2の寸法変位を実線91,92で示し、比較例1の寸法変位を破線93にて示し、比較例2の寸法変位を二点鎖線94で示す。
【0060】
図6に示すように、実施例1,2では、比較例1に比べ、研削液74の温度が高いにも関わらず、寸法変位は小さい。例えば、実施例1の80個目の対象物9における寸法変位は、比較例1の80個目の対象物9における寸法変位よりも約25%低減されている。また、実施例2の80個目の対象物9における寸法変位は、比較例1の80個目の対象物9における寸法変位よりも約50%低減されている。
【0061】
図7は、80個のうち最初(すなわち、1個目)に研削加工された対象物9の表面写真と、最後(すなわち、80個目)に研削加工された対象物9の表面写真とを示す。
図7に示すように、最初に研削加工された対象物9の表面は、実施例1,2および比較例1,2のいずれにおいても略同様の研削結果を示す。一方、最後に研削加工された対象物9の表面について、実施例1,2では特に問題は見られないが、比較例1では、写真の下半分に、砥石部81の目詰まり等に起因すると考えられる研削焼けが見られる。また、比較例2の最後に研削加工された対象物9の表面では、写真全体に、砥石部81の目詰まりや表面状態の悪化に起因すると考えられる表面荒れ(例えば、比較的大きな凹部や凸部)が見られる。
【0062】
これらのことから、実施例1,2のように、1億個/ml以上の濃度にてウルトラファインバブルを含む研削液74を、砥石部81と対象物9との接触部88に供給することにより、複数の対象物9を連続的に研削加工した場合であっても、加工精度の低下が抑制されることがわかる。これは、比較例1のような従来型研削液を供給する場合に比べて、砥石部81と対象物9との接触部88においてウルトラファインバブルによるキャビテーションが生じやすくなっているため、砥石部81の目詰まりが好適に抑制されているものと考えられ、また、研削液74を生成する際に(すなわち、ウルトラファインバブルを生成する際に)、研削液の温度上昇が抑制されているものと考えられる。一方、比較例2では、比較例1に比べて
図6に示す寸法変位が大きい。これは、MB研削液の温度が過剰に高くなった結果、従来型研削液に比べても、MB研削液の潤滑性能が低下したこと等が原因であると考えられる。
【0063】
以上に説明したように、研削液生成装置1は、混合液生成部3と、液送出部2とを備える。混合液生成部3は、研削液74の原料である液体に気体を混合させて混合液を生成する。液送出部2は、当該混合液中に直径が1μm未満のウルトラファインバブルを生成し、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む研削液74を送出する。これにより、砥石部81の目詰まり(すなわち、砥石811の目詰まり)を好適に抑制する研削液74を提供することができる。
【0064】
研削液生成装置1は、液送出部2から送出された液体を混合液生成部3へと戻す循環部6をさらに備える。これにより、ウルトラファインバブルを高濃度にて含む研削液74を生成することができる。
【0065】
研削液生成装置1は、液送出部2から送出された液体を、砥石部81と対象物9との接触部88に供給する前に貯溜する貯溜部5をさらに備える。これにより、研削装置8における研削加工とは独立して研削液74を生成することができる。例えば、研削装置8における研削加工の開始よりも前に、必要量の研削液74を予め生成して貯溜することができる。上述のように、ウルトラファインバブルは、液体中において長時間存在可能であるため、貯溜部5における研削液74中のウルトラファインバブルの濃度はほとんど低下しない。また、貯溜部5では、必要に応じて、接触部88への供給前の研削液74の温度調整を行うこともできる。
【0066】
研削装置8において、仮に液送出部2から直接的に液供給部84に研削液74が送られる場合、液送出部2における液体の流量および圧力(すなわち、ウルトラファインバブルの生成条件)に合わせて、液供給部84から接触部88への研削液74の供給量および供給圧力を調整する必要がある。このため、研削装置8の調整が複雑化する可能性がある。これに対し、上述のように貯溜部5が設けられた場合、液供給部84から接触部88への研削液74の供給量および供給圧力とは無関係に、研削液生成装置1におけるウルトラファインバブルの生成を行うことができる。その結果、所望の濃度にてウルトラファインバブルを含む研削液74を、安定的にかつ容易に生成することができる。また、研削装置8における上記調整を簡素化することができる。
【0067】
上述のように、混合液生成部3は、研削液74の原料である液体に気体を加圧溶解させて加圧液を生成する加圧液生成部である。また、液送出部2は、当該加圧液を噴出することにより、加圧液中にウルトラファインバブルを生成し、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む研削液74を送出する。混合液生成部3および液送出部2を当該構造とすることにより、ウルトラファインバブルを高濃度にて含む研削液74を迅速に生成することができる。
【0068】
液送出部2は、テーパ部24と、喉部25と、拡大部26とを備えるウルトラファインバブル生成ノズルである。テーパ部24では、上記混合液が供給されるノズル流路20の上流から下流に向かって流路面積が漸次減少する。喉部25は、テーパ部24の下流端に接続し、テーパ部24からの液体を噴出口29から噴出する。拡大部26は、当該噴出口29に接続し、流路面積を拡大する。これにより、研削液74の温度上昇を抑制しつつ、ウルトラファインバブルを高濃度にて含む研削液74を容易に生成することができる。
【0069】
研削装置8は、砥石部81と、保持部82と、駆動部83と、液供給部84と、研削液生成装置1とを備える。保持部82は、対象物9を保持する。駆動部83は、砥石部81を対象物9に対して相対的に摺動させる。液供給部84は、研削液生成装置1にて生成された研削液74を、砥石部81と対象物9との接触部88に供給する。このように、直径が1μm未満のウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む研削液74が接触部88に供給されることにより、砥石部81の目詰まりを好適に抑制することができる。したがって、研削装置8において継続的に研削加工を行った場合であっても、加工精度の低下を抑制し、ドレスインターバルを長くすることができる。また、1回の研削加工で加工可能な深さを大きくすることもできる。これらの結果、研削装置8の生産効率を向上することができる。
【0070】
研削装置8は、必ずしも上述の研削液生成装置1を備える必要はなく、研削装置8の外部にて準備された上述の研削液74を利用して研削加工を行ってもよい。この場合、研削装置8は、砥石部81と、保持部82と、駆動部83と、液供給部84とを備える。保持部82は、対象物9を保持する。駆動部83は、砥石部81を対象物9に対して相対的に摺動させる。液供給部84は、砥石部81と対象物9との接触部88に研削液74を供給する。研削液74は、上述のように、直径が1μm未満のウルトラファインバブルを、1億個/ml以上の濃度にて含む。このため、砥石部81の目詰まりを好適に抑制することができる。その結果、上記と同様に、研削装置8の生産効率を向上することができる。
【0071】
次に、研削液74に対する乳化剤の添加の影響を実施例3により検証した。現在使用されている研削液では、研削液の特性に応じて、乳化剤を含むものがある。例えば、研削液を作製する際に原水と研削液の原液とが混合しやすいように、当該原液に予め界面活性剤等の乳化剤が添加されているものがある。また、原水と研削液の原液との混合時に、微量の乳化剤を添加する場合もある。
【0072】
実施例3では、原水である水道水20lに、700mlのノリタケクールSEC-Z(原液)と、極微量の界面活性剤とを溶解させて原料液を作製した。そして、研削液生成装置1において、貯溜槽51内の原料液を、循環部6により混合液生成部3および液送出部2を約10回循環させることにより、研削液74を生成した。その後、上述のレーザ回折式粒子径分布測定装置SALD-7500X10により、研削液74中のウルトラファインバブルの個数を測定した。その結果、実施例3の研削液74には、上述の実施例1と同程度のウルトラファインバブルが含まれていることが確認された。すなわち、研削液74に乳化剤が添加されている場合であっても、研削液74中におけるウルトラファインバブルの生成は好適に行われた。
【0073】
したがって、乳化剤が添加されている研削液74を研削装置8にて使用した場合であっても、上記と同様に、砥石部81の目詰まりを好適に抑制し、研削装置8の生産効率を向上することができると考えられる。なお、実施例3の研削液74では、実施例1よりもウルトラファインバブルの濃度が増大していたため、研削液74の研削効果(例えば、目詰まりの抑制)を長く持続できるものと考えられる。
【0074】
次に、研削液74を生成する際の原液の種類による影響を実施例4および実施例5により検証した。実施例4および実施例5では、エマルションタイプ(A1種)の原液を利用して研削液74を生成した。具体的には、実施例4では、原水である水道水20lに、700mlのエマルションタイプの原液を溶解させて原料液を作製した。そして、研削液生成装置1において、貯溜槽51内の原料液を、循環部6により混合液生成部3および液送出部2を約10回循環させることにより、研削液74を生成した。その後、上述のレーザ回折式粒子径分布測定装置SALD-7500X10により、研削液74中のウルトラファインバブルの個数を測定した。その結果、実施例4の研削液74におけるウルトラファインバブルの濃度は、実施例1と同様に約1億個/mlであった。すなわち、エマルションタイプの原液を利用して研削液74を生成した場合であっても、研削液74中におけるウルトラファインバブルの生成は好適に行われた。したがって、エマルションタイプの原液を利用して生成された研削液74を研削装置8にて使用した場合であっても、上記と同様に、砥石部81の目詰まりを好適に抑制し、研削装置8の生産効率を向上することができると考えられる。
【0075】
実施例5では、原水である水道水20lに、700mlのエマルションタイプの原液と、極微量の界面活性剤とを溶解させて原料液を作製した。そして、研削液生成装置1において、貯溜槽51内の原料液を、循環部6により混合液生成部3および液送出部2を約10回循環させることにより、研削液74を生成した。その後、上述のレーザ回折式粒子径分布測定装置SALD-7500X10により、研削液74中のウルトラファインバブルの個数を測定した。その結果、実施例4の研削液74におけるウルトラファインバブルの濃度は、約3.5億個/mlであった。すなわち、エマルションタイプの原液を利用し、乳化剤を添加して研削液74を生成した場合であっても、研削液74中におけるウルトラファインバブルの生成は好適に行われた。したがって、エマルションタイプの原液を利用し、乳化剤を添加して生成された研削液74を研削装置8にて使用した場合であっても、上記と同様に、砥石部81の目詰まりを好適に抑制し、研削装置8の生産効率を向上することができると考えられる。
【0076】
上述の研削液生成装置1および研削装置8では、様々な変更が可能である。
【0077】
例えば、研削液生成装置1では、液送出部2は、必ずしも加圧液生成容器32に直接的に接続される必要はない。液送出部2は、加圧液生成容器32と貯溜槽51とを接続する液送出路52上に設けられてもよい。また、液送出部2は、当該流路の下流端に配置され、貯溜槽51に直接的に接続されてもよい。
【0078】
液送出部2では、上流から下流に向かって連続するテーパ部24、喉部25および拡大部26が2組、または、4組以上設けられてもよい。あるいは、液送出部2では、上流から下流に向かって連続するテーパ部24、喉部25および拡大部26が、1組のみ設けられていてもよい。液送出部2は、必ずしもテーパ部24、喉部25および拡大部26を備える必要はなく、他の構造のウルトラファインバブル生成ノズルであってもよい。
【0079】
研削液生成装置1では、貯溜部5が省略され、液送出部2から送出された研削液74が、一時的に貯溜されることなく、研削装置8の液供給部84に供給されてもよい。
【0080】
研削液生成装置1では、研削液74の生成に利用される原料液は、従来型研削液には限定されない。例えば、当該原料液は、従来型研削液を生成する際に上述の原液の希釈に利用される水であってもよく、当該原液であってもよい。例えば、原料液が上記希釈用の水である場合、研削液生成装置1の液送出部2から送出される液体は研削液74そのものではなく、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む水(いわゆる、ウルトラファインバブル水)であり、当該ウルトラファインバブル水に上記原液が混合されることにより、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む研削液74が生成される。
【0081】
当該原液は、製造メーカーや用途により特性が異なる。また、研削液74の使用される状況(例えば、研削対象や研削装置の種類等)も、多種多様である。したがって、研削液生成装置1では、所望の濃度のウルトラファインバブルを含む研削液74を生成するために、循環部6による循環回数、ウルトラファインバブルを生成する原料液の種類(例えば、原水)、乳化剤の添加の有無、または、添加される乳化剤の種類等が適宜変更されてよい。
【0082】
研削液生成装置1は、研削装置8から独立した装置として、研削液74の生成に利用されてもよい。
【0083】
研削液74は、必ずしも、上述の研削液生成装置1により生成される必要はない。例えば、混合液生成部3では、必ずしも原料液に気体を加圧溶解させて加圧液を生成する必要はなく、原料液に気体を混合させて混合液が生成されていればよい。液送出部2でも、必ずしも加圧液を噴出することにより加圧液中にウルトラファインバブルを生成する必要はなく、公知の様々な生成方法によりウルトラファインバブルが生成されてよい。例えば、混合液生成部3により生成された混合液に、液送出部2において超音波を付与したり、あるいは、液送出部2の内部構造により剪断力を付与することにより、ウルトラファインバブルが生成されてもよい。
【0084】
また、研削液74は、必ずしも混合液生成部3および液送出部2を備える研削液生成装置1により生成される必要はなく、他の構造を有する様々な研削液生成装置により生成されてよい。当該研削液生成装置は、例えば、研削液の原料である液体に直径が1μm未満のウルトラファインバブルを生成し、ウルトラファインバブルを1億個/ml以上の濃度にて含む研削液を生成する研削液生成部と、当該研削液を送出する研削液送出部とを備える。当該研削液生成部では、公知の様々な生成方法によりウルトラファインバブルが生成されてよい。当該研削液生成部では、例えば、気体が溶存している液体に剪断力を付与することにより、ウルトラファインバブルが生成される。
【0085】
研削液74は、円筒型の研削装置8以外の様々な種類の研削装置(例えば、平面型の研削装置)等において、様々な形状の対象物9に対する研削加工に利用されてもよい。研削液生成装置1も、様々な種類の研削装置に設けられてよい。
【0086】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0087】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【符号の説明】
【0088】
1 研削液生成装置
2 液送出部
3 混合液生成部
5 貯溜部
6 循環部
8 研削装置
9 対象物
20 ノズル流路
24 テーパ部
25 喉部
26 拡大部
29 噴出口
74 研削液
81 砥石部
82 保持部
83 駆動部
84 液供給部
88 接触部
S11~S15 ステップ