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特許6991138抗ウイルスおよび免疫調節の二重活性を有するHIV抗体誘導体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】抗ウイルスおよび免疫調節の二重活性を有するHIV抗体誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20220127BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20220127BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220127BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220127BHJP
   A61P 31/18 20060101ALI20220127BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220127BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20220127BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220127BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220127BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220127BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220127BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20220127BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220127BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220127BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220127BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220127BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220127BHJP
   G01N 33/569 20060101ALI20220127BHJP
   C07K 14/16 20060101ALI20220127BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20220127BHJP
   C07K 16/18 20060101ALI20220127BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220127BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220127BHJP
   C12N 15/49 20060101ALI20220127BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220127BHJP
   C12N 15/85 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
C07K19/00
A61K38/17
A61K47/68
A61K48/00
A61P31/18
A61P43/00 111
A61K38/19
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 Y
A61K39/395 S
A61K38/16
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12P21/02 C
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N7/01
G01N33/569 H
C07K14/16
C07K14/705
C07K16/18
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/49
C12N15/62 ZNA
C12N15/85 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2018526548
(86)(22)【出願日】2016-11-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 IB2016001868
(87)【国際公開番号】W WO2017085563
(87)【国際公開日】2017-05-26
【審査請求日】2019-11-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513210116
【氏名又は名称】フンダシオ プリバダ インスティトゥト デ レセルカ デラ シダ-カイサ
【氏名又は名称原語表記】FUNDACIO PRIVADA INSTITUT DE RECERCA DE LA SIDA-CAIXA
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カーリロ モリナ,ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】クロテット サラ,ボナヴェンツナ
(72)【発明者】
【氏名】ブランコ アルブエス,ジュリアン エム.
【審査官】林 康子
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-518624(JP,A)
【文献】国際公開第2011/156747(WO,A1)
【文献】JOURNAL OF INFECTIOUS DISEASES,UNIVERSITY OF CHICAGO PRESS,2001年,VOL:183, NR:7,PAGE(S):1121 - 1125,http://dx.doi.org/10.1086/319284
【文献】Nature,2015年03月05日,vol.519, no.7541,pp.87-91
【文献】Cell,2014年09月,vol.158, no.6,pp. 1243-1253
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N末端からC末端までに
(a)ヒトCD4のD1細胞外ドメインおよびD2細胞外ドメイン、
(b)ヒトIgGのFc部分、
(c)(i)≦n≦10である配列(GGGGS)のリンカーポリペプチド、(ii)ヒトCCR5受容体配列、および(iii)それらの組合せ、からなる群から選択される部分、ならびに
(d)gp41の7つ揃いの反復(HR1)または7つ揃いの反復(HR2)モチーフに由来する、gp41由来ポリペプチド
を含む、融合タンパク質。
【請求項2】
前記ヒトIgGのFc部分がIgG1を含む、請求項1に記載の融合タンパク質。
【請求項3】
前記ヒトIgGまたはIgG1のFc部分が、点変異G236A、S239D、A330LおよびI332Eを含む、請求項1または2に記載の融合タンパク質。
【請求項4】
前記ヒトCCR5受容体配列が、配列番号6を含む、請求項1~3のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項5】
前記gp41由来ポリペプチドが、配列番号7を含む、請求項1~4のいずれかに記載の融合タンパク質。
【請求項6】
請求項1に記載の融合タンパク質をコードする、単離された核酸。
【請求項7】
コドンが最適化されている、請求項6に記載の核酸。
【請求項8】
請求項6または7に記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項9】
請求項1から5のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項6または7に記載の核酸、または請求項8に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項10】
治療有効量の請求項1から5のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項6または7に記載の核酸、請求項8に記載の発現ベクター、請求項9に記載の宿主細胞、またはそれらの混合物を含む医薬組成物。
【請求項11】
医薬としての使用のための請求項1から5のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項6または7に記載の核酸、請求項8に記載の発現ベクター、請求項9に記載の宿主細胞、または請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
HIV感染またはAIDSの治療での使用のための請求項1から5のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項6または7に記載の核酸、請求項8に記載の発現ベクター、請求項9に記載の宿主細胞、または請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
HIV感染またはAIDSの予防での使用のための請求項1から5のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項6または7に記載の核酸、請求項8に記載の発現ベクター、請求項9に記載の宿主細胞、または請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1から5のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項6または7に記載の核酸、請求項8に記載の発現ベクター、請求項9に記載の宿主細胞、請求項10に記載の医薬組成物、および少なくとも1つの治療剤を含む組成物。
【請求項15】
前記治療剤がHIV抗レトロウイルスである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
(a)請求項6または7に記載の核酸を含む宿主細胞を培養すること、(b)前記核酸を発現させること、および(c)前記宿主細胞の培養物から融合タンパク質を回収することを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の融合タンパク質を調製するための方法。
【請求項17】
HIVウイルスを請求項1から5のいずれか1項に記載の融合タンパク質に接触させることを含む、HIVウイルスを不活化させる方法で使用するための、請求項1から5のいずれか1項に記載の融合タンパク質を含む組成物。
【請求項18】
(a)試料を請求項1から5のいずれか1項に記載の融合タンパク質に接触させること、および(b)前記融合タンパク質が前記試料の分子に特異的に結合するか否かを決定することを含む、試料中のHIVを検出する方法。
【請求項19】
請求項1から5のいずれか1項に記載の融合タンパク質、請求項6または7に記載の核酸、請求項8に記載の発現ベクター,請求項9に記載の宿主細胞、請求項10に記載の医薬組成物、請求項14または15に記載の組成物、またはそれらの混合物、および使用のための指示資料を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス活性および免疫調節活性が増強された、HIVに対する抗体誘導体に関する。本発明の抗体誘導体は、(i)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の宿主細胞内への進入を遮断するための、および(ii)ナチュラルキラー(NK)細胞および他の免疫系細胞の活性化を通じてエフェクター機能を誘発するための能力が増加しているという特徴を有する。これらのポリペプチドの各種形状を開示および例示する。単離された核酸、ベクター、およびこれらのポリペプチドを発現する宿主細胞、ならびにヒトの健康におけるそれらの治療および診断での適用も、本発明の範囲内にある。
【背景技術】
【0002】
HIV感染は、地球規模のヒトの健康の主要な脅威の1つである。1981年以来、世界中で7,800万人超がヒト免疫不全ウイルスに感染しているものと推定されている。これらの感染者のほぼ半数が、結果として生じる後天性免疫不全症候群(AIDS)により同じ時間枠の間に死亡している。UNAIDS, http://www.unaids.org/、2015年10月を参照されたい。
【0003】
防御抗体の生成は、ヒト病原体に対するワクチンを開発するための主たる機構である。しかし、HIVに対するそのような抗体を誘発することが可能な免疫原の開発は、今までのところ失敗している。これらの免疫原の設計には、第1に、保存されているエピトープを特定して、継続的で安定な応答を確保し、第2に、それらのエピトープを適正に提示する、新しくかつより効率の良い免疫原を考案する必要がある。Haynes B, Curr Opin Immunol., 2015, 35:39-47を参照されたい。このように免疫原の設計が充分に進展していないのに対して、最近、HIV感染者から単離された、HIV外被糖タンパク質に対する数多くの新しい強力な広域スペクトル抗体(すなわち、広域中和抗体、bNAb)が、特定されている。Mascola J, et al., Immunol Rev. 2013; 254:225-244を参照されたい。さらに、抗体の構造に基づく合成分子も新しい治療剤として提案されている。Gardner M, et al., Nature 2015; 519:87-91を参照されたい。確かに、非常に強力な抗体は、非感染者をHIV獲得から防御する可能性があり、HIV感染患者での根絶戦略に使用されうる。前掲Mascola, 2013を参照されたい。in vivoでのHIVの複製を予防するために、外被糖タンパク質およびそのサブユニットに対する中和抗体の使用も提案されている。Yang X, et al., J. Virol. 2005; 79:3500-3508を参照されたい。
【0004】
治療の見地から、抗体が特に適切であるが、それはなぜなら、HIV外被糖タンパク質への結合を介してHIV複製を遮断することが可能な抗ウイルス剤として、および抗体鎖の定常領域(Fc)とNK細胞および他の細胞の表面に発現するFc受容体CD16との相互作用を介するNK細胞アクティベーターとして、二重の機能があるためである。この相互作用によって、CD16+免疫細胞は、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)として知られる機構を介して感染細胞を死滅させることができる。Milligan C, et al., Cell Host Microbe. 2015; 17:500-506を参照されたい。どちらの活性も、非感染対象の防御に必要であるものと思われる。それゆえ、当技術分野では、抗ウイルス活性およびADCC活性の増加した中和抗体が必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
第1の態様では、本発明は、N末端からC末端までに
(a)ヒトCD4受容体のD1細胞外ドメインおよびD2細胞外ドメイン、
(b)ヒトIgGのFc部分、
(c)
(i)1≦n≦10である配列(GGGGS)のリンカーポリペプチド、
(ii)ヒトCCR5受容体配列、および
(iii)それらの組合せ
からなる群から選択される部分、ならびに
(d)gp41由来ポリペプチド
を含む、抗体誘導体を指す。
【0006】
本発明の抗体誘導体は、当技術分野に公知のいかなる他の同等の抗体誘導体よりも高い抗ウイルスかつADCCの活性を有する。前掲Gardner, 2015を参照されたい。
【0007】
追加の一態様では、本発明は、本発明の抗体誘導体をコードする核酸、前述の核酸を含むベクター、ならびに前に示した核酸およびベクターを含む宿主細胞に関する。
【0008】
さらに別の一態様では、本発明は、本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、および宿主細胞、またはそれらの混合物を含む医薬組成物を指す。
【0009】
別の態様では、本発明は、本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、宿主細胞、および医薬組成物、ならびに少なくとも1つの治療剤を含む組合せに向けられる。
【0010】
いっそうさらに別の一態様では、本発明は、本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、宿主細胞、医薬組成物、および組合せ、またはそれらの混合物の、医薬としての使用に関する。この態様のさらに別のバージョンでは、本発明は、本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、宿主細胞,医薬組成物、および組合せ、またはそれらの混合物のHIV感染またはAIDSの治療または予防での使用を指す。この態様の代替の一形態では、本発明は、治療有効量の本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、宿主細胞、医薬組成物、および組合せ、またはそれらの混合物を対象に投与することを含む、対象でHIV感染またはAIDSを治療または予防する方法に関する。この態様のさらに別の代替の一形態では、本発明は、HIV感染またはAIDSの治療または予防のための医薬の製造における、本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、宿主細胞,医薬組成物、および組合せ、またはそれらの混合物の使用を指す。
【0011】
さらに、本発明は、(a)本発明による核酸を含む宿主細胞を培養すること、(b)核酸配列を発現させること、および(c)宿主細胞の培養物から抗体誘導体を回収することを含む、本発明の抗体誘導体を調製する方法に関する。
【0012】
別の態様では、本発明は、ウイルスを本発明の抗体誘導体に接触させることを含む、HIVを不活化させる方法を指す。
【0013】
追加の一態様では、本発明は、HIV感染細胞でgp120の発現を誘導する方法であって、感染細胞を本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、宿主細胞、医薬組成物、および組合せ、またはそれらの混合物に接触させることを含む方法に向けられる。
【0014】
さらに別の一態様では、本発明は、(a)試料を本発明の抗体誘導体に接触させること、および(b)抗体誘導体が試料の分子に特異的に結合するか否かを決定することを含む、試料中のHIVを検出する方法に関する。
【0015】
いっそうさらに別の一態様では、本発明は、本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、宿主細胞、および医薬組成物、またはそれらの混合物を含むキットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は様々な変化をヒトIgG1分子内に導入して本発明の第1世代の抗体誘導体を取得する略図である。
図2図2は第1世代の抗体誘導体である分子1~5の略図である。
図3図3は分子5のリンカーポリペプチドの長さを決定するための原理の略図である。(i)gp120の補助受容体結合部位とT-20標的領域(三量体の中央のgp41)との間の距離が30Åであり、(ii)1.5Åのペプチド結合距離を有するアルファヘリックス構造をリンカーが採るものと仮定すると、少なくとも20残基のリンカーが、CCR5配列およびT-20配列とそのそれぞれの標的とを同時に相互作用させることを可能にする必要があるものと考えられた。上記の考察を考慮し、n=4である可動性のリンカー(GGGGS)(配列番号5)を、CCR5配列とT-20配列との間に含めた。
図4A図4aは第1世代の抗体誘導体である分子0~6の中和能を示す図であり、HIV NL4-3分離株の中和を示す。
図4B図4bは第1世代の抗体誘導体分子である0~6の中和能を示す図であり、HIV BaL分離株の中和を示す。
図4C図4cは第1世代の抗体誘導体分子である0~6の中和能を示す図であり、HIV AC10分離株の中和を示す。
図5図5は選択された第1世代の抗体誘導体である分子1、分子5、および分子6のADCC活性を示す図である。抗体IgGb12を対照としてアッセイに含めた。
図6図6は第2世代の抗体誘導体である分子7~11の略図である。
図7A図7aはHIV分離株NL4-3、BaL、およびAC10のパネルに対する、第2世代の抗体誘導体である分子7~8および分子10~11の中和能を示す図である。分子0、分子1、および分子5を参照として分析に含め、HIV NL4-3分離株の中和を示す。
図7B図7bはHIV分離株NL4-3、BaLおよびAC10のパネルに対する、第2世代の抗体誘導体である分子7~8および分子10~11の中和能を示す図である。分子0、分子1、および分子5を参照として分析に含め、HIV BaL分離株の中和を示す。
図7C図7cはHIV分離株NL4-3、BaL、およびAC10のパネルに対する、第2世代の抗体誘導体である分子7~8および分子10~11の中和能を示す図である。分子0、分子1、および分子5を参照として分析に含め、HI VAC10分離株の中和を示す。
図8図8は選択された第2世代の抗体誘導体である分子5、分子7、および分子8のADCC活性を示す図である。抗体IgGb12および分子1を対照として分析に含めた。
図9図9はHIV SVBPサブタイプ分離株のパネルに対する、第2世代の抗体誘導体である分子5、分子7、および分子8の中和能を示す図である。分子0および分子1を参照として分析に含めた。
図10図10はHIV分離株のパネルに対する選択された分子のIC50値の概要を示す図である。
図11A図11aは標示濃度の抗レトロウイルス薬3TCの存在下での分子5の抗ウイルス効能を示す図である。
図11B図11bは標示濃度の抗レトロウイルス薬エファビレンツの存在下での分子5の抗ウイルス効能を示す図である。
図11C図11cは標示濃度の抗レトロウイルス薬ラルテグラビルの存在下での分子5の抗ウイルス効能を示す図である。
図12図12は分子5による、および分子7のC34誘導体による、HIV感染力(BaL分離株)の不可逆的な不活化を示す図である。
図13図13はHIVサブタイプBウイルスのパネルに対する、タンパク質のC期間に種々のgp41ポリペプチドを提示する分子5および分子7誘導体のIC50値の概要を示す図である。分子1、分子6を参照として使用した。
図14図14はHIVサブタイプBウイルスのパネルに対する、様々なIgGサブクラスを提示する分子7誘導体のIC50値の概要を示す図である。
図15A図15aはAAVで処理したマウスにおける抗体誘導体の血漿中レベルを示す図であり、AAV注射の2週間後を示す。
図15B図15bはAAVで処理したマウスにおける抗体誘導体の血漿中レベルを示す図であり、AAV注射の3週間後を示す。
図16図16は分子5(0.5mg/動物)またはPBS(対照感染)で処理されたヒト化マウスをHIV感染させて1週間後に決定された、HIV血漿ウイルス血症を示す図である。
図17図17は表面にNL4-3(左)またはBaL(右)のHIV Env糖タンパク質を発現している慢性感染MOLT細胞への、濃度を増加させた分子5の結合を示す図である。
図18図18は発現プラスミドpABT-5の図である。選択マーカーやオープンリーディングフレームなどのプラスミドの主な特徴を示す。
図19図19は発現プラスミドpABT-7の図である。選択マーカーやオープンリーディングフレームなどのプラスミドの主な特徴を示す。
図20図20は発現プラスミドpABT-8の図である。選択マーカーやオープンリーディングフレームなどのプラスミドの主な特徴を示す。
【0017】
微生物の寄託
プラスミドpABT-5、pABT-7、およびpABT-8は、2015年10月27日にそれぞれ受入番号DSM32188、DSM32189、およびDSM32190の下、DSMZ-ドイツ微生物細胞培養コレクション、インホッフェンシュトラーセ7B、D-38124ブラウンシュヴァイク、ドイツ連邦共和国に寄託された。
【0018】
配列表
当技術分野で従来適用されてきた標準的な略字およびコードを使用して、添付の配列表に描かれている核酸配列およびアミノ酸配列を示す。各核酸配列の一方の鎖のみを示すが、相補鎖は、提示される鎖を任意に参照することにより含まれるものと理解される。添付の配列表は以下である。
配列番号1は、ヒトCD4受容体のD1ドメインのアミノ酸配列である。
配列番号2は、ヒトCD4受容体のD2ドメインのアミノ酸配列である。
配列番号3は、ヒトIgG1のFc部分のアミノ酸配列である。
配列番号4は、点変異G236A、S239D、A330L、およびI332Eを有するヒトIgG1のFc部分のアミノ酸配列である。
配列番号5は、リンカーポリペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号6は、ヒトCCR5受容体のN末端領域のアミノ酸配列である。
配列番号7は、T-20ポリペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号8は、T-1249ポリペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号9は、C34ポリペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号10は、T-2635ポリペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号11は、分子0のアミノ酸配列である。
配列番号12は、分子1のアミノ酸配列である。
配列番号13は、分子2のアミノ酸配列である。
配列番号14は、分子3のアミノ酸配列である。
配列番号15は、分子4のアミノ酸配列である。
配列番号16は、分子5のアミノ酸配列である。
配列番号17は、分子6のアミノ酸配列である。
配列番号18は、分子7のアミノ酸配列である。
配列番号19は、分子8のアミノ酸配列である。
配列番号20は、分子10のアミノ酸配列である。
配列番号21は、分子11のアミノ酸配列である。
配列番号22は、ヒトCD4受容体のD1ドメインのヌクレオチド配列である。
配列番号23は、ヒトCD4受容体のD2ドメインのヌクレオチド配列である。
配列番号24は、ヒトIgG1のFc部分のヌクレオチド配列である。
配列番号25は、点変異G236A、S239D、A330L、およびI332Eを有するヒトIgG1のFc部分のヌクレオチド配列である。
配列番号26は、リンカーポリペプチドのヌクレオチド配列である。
配列番号27は、ヒトCCR5受容体の5’末端領域のヌクレオチド配列である。
配列番号28は、T-20ポリペプチドのヌクレオチド配列である。
配列番号29は、T-1249ポリペプチドのヌクレオチド配列である。
配列番号30は、C34ポリペプチドのヌクレオチド配列である。
配列番号31は、T-2635ポリペプチドのヌクレオチド配列である。
配列番号32は、分子0のヌクレオチド配列である。
配列番号33は、分子1のヌクレオチド配列である。
配列番号34は、分子2のヌクレオチド配列である。
配列番号35は、分子3のヌクレオチド配列である。
配列番号36は、分子4のヌクレオチド配列である。
配列番号37は、分子5のヌクレオチド配列である。
配列番号38は、分子6のヌクレオチド配列である。
配列番号39は、分子7のヌクレオチド配列である。
配列番号40は、分子8のヌクレオチド配列である。
配列番号41は、分子10のヌクレオチド配列である。
配列番号42は、分子11のヌクレオチド配列である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、抗ウイルスおよび免疫調節の二重活性が増強されたHIV抗体誘導体に関する。本発明の抗体誘導体は、(i)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の宿主細胞内への進入を遮断するための、および(ii)ナチュラルキラー(NK)細胞の活性化を通じてエフェクター機能を誘発するための、増加された能力を有することを特徴とする。
1.一般用語および表現の定義
【0020】
用語「AC10」とは、本明細書に使用される際には、抗CD4結合部位抗体に対する抵抗性があるという特徴を持つHIV初代分離株を指す。AC10は、tier2分離株に分類される。Seaman M, et al., J. Virol. 2010; 84:1439-1452を参照されたい。
【0021】
用語「アデノ随伴ウイルス」または「AAV」は、本明細書に使用される際には、約5,000ヌクレオチドの線状の一本鎖DNAゲノムを含む、Parvoviridaeファミリーのウイルスメンバーを指す。少なくとも11のAAVの公認血清型(AAVl~11)が、当技術分野では公知である。
【0022】
用語「AAVベクター」とは、本明細書に使用される際には、転写調節因子(例えばプロモーター、エンハンサー)およびポリアデニル化配列に機能的に連結されたポリペプチドコード配列の両側に、AAV 5’逆方向末端反復(ITR)配列およびAAV 3’ITRが位置する核酸を指す。AAVベクターは、任意選択で、ポリペプチドコード配列のエクソンとエクソンとの間に挿入された1つまたは複数のイントロンを含むことがある。Samulski J, et al., Annu. Rev. Virol. 2014; 1:427-451を参照されたい。
【0023】
用語「AIDS」とは、本明細書に使用される際には、HIV感染の症候性相を指し、後天性免疫不全症候群(通例はAIDSとして公知である)と「ARC」またはAIDS関連症候群のどちらも含む。Adler M, et al., Brit. Med. J. 1987; 294:1145-1147を参照されたい。AIDSの免疫学的または臨床的な兆候は、当技術分野では周知であり、例えば、免疫不全に起因する日和見感染およびがんが挙げられる。
【0024】
用語「アミノ酸」とは、本明細書に使用される際には、天然および合成のアミノ酸、ならびに天然のアミノ酸と同様の様式で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。アミノ酸は、本明細書では、その一般に知られる3文字の記号のいずれかによって、またはIUPAC-IUB生化学命名委員会によって推奨される1文字の記号によって、指示されることがある。ヌクレオチドは、同様に、その一般に受け入れられている単文字コードによって指示されることがある。
【0025】
用語「抗体薬剤コンジュゲート」または「ADC」は、本明細書に使用される際には、治療剤にコンジュゲーションされた抗体、抗原結合抗体断片、抗体誘導体、抗体複合体、または抗体融合タンパク質を指す。コンジュゲーションは、共有結合によるものでも非共有結合によるものでもよい。好ましくは、コンジュゲーションは共有結合によるものである。
【0026】
用語「抗レトロウイルス療法」または「AT」は、本明細書に使用される際には、HIVの複製を阻害するための1つまたは複数の抗レトロウイルス薬(すなわちHIV抗レトロウイルス)の投与を指す。典型的には、ATは、少なくとも1つの抗レトロウイルス剤(または一般的には抗レトロウイルスのカクテル)、例えばヌクレオシド逆転写酵素阻害剤[例えばジドブジン(AZT、ラミブジン(3TC)、およびアバカビル]、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(例えばネビラピンおよびエファビレンツ)やプロテアーゼ阻害剤(例えばインジナビル、リトナビル、およびロピナビル)などの投与を含む。用語の高活性抗レトロウイルス療法(「HAART」)とは、HIVの複製および疾患の進行を積極的に抑制するように設計された治療レジメンを指す。HAARTは、例えば2つのヌクレオシド逆転写酵素阻害剤と1つのプロテアーゼ阻害剤など、通常は3つ以上の異なる薬剤からなる。
【0027】
用語「結合効能」とは、本明細書に使用される際には、CD4受容体との、および好ましくは、前述の受容体のD1ドメインおよびD2ドメインとの、分子の親和性を指す。本発明のコンテクストでは、「親和性」とは、抗体誘導体が例えばgp120のCD4結合部位と結合する強度を意味する。本明細書に使用される際には、用語「結合」または「特異的に結合すること」とは、結合対(例えば2つのタンパク質または化合物の間の、好ましくは(i)gp120のCD4結合部位と(ii)CD4受容体またはCD4受容体のD1ドメインおよびD2ドメインとの間の相互作用を指す。実施形態によっては、この相互作用は、最高10-6モル/リットルの、最高10-7モル/リットルの、または最高10-8モル/リットルの親和性定数を有する。概して、語句「結合」または「特異的に結合すること」とは、ある化合物と別のものとの特異的な結合を指し、ここでは、結合のレベルは、任意の標準的なアッセイによって測定される際に、そのアッセイのバックグラウンド対照よりも統計学的に有意に高い。
【0028】
用語「C34」とは、本明細書に使用される際には、gp41のHR2領域の部分をカバーする配列番号9のgp41由来ポリペプチドを指す。Eggink D, et al., J. Virol. 2008; 82(13):6678-6688を参照されたい。
【0029】
用語「CCR5」とは、本明細書に使用される際には、ヒトC-Cケモカイン受容体5を指し、これはCD195としても知られ、Gタンパク質と共役する7回膜貫通ドメイン受容体である。CCR5は、様々なケモカインに結合し、標的細胞内へのHIVの進入の過程の間に、HIVのEnvの補助受容体としての役割を果たす。HIVの補助受容体の機能には、CCR5の様々な領域が関与する。ただし、最初の相互作用は、CCR5のN末端の細胞外領域と、gp120サブユニットに位置するHIVのEnvの補助受容体結合部位との間で確立される。Lagenaur L, et al., Retrovirology 2010; 7:11を参照されたい。ヒトCCR5の完全長タンパク質配列は、UniProt受入番号P51681(2015年8月18日)を有する。
【0030】
用語「CD4」または「CD4受容体」は、本明細書に使用される際には、分化クラスター4を指し、これは、Tヘルパー細胞、単球、マクロファージ、および樹状細胞の表面に発現している糖タンパク質である。CD4は、T細胞受容体(TCR)を、その抗原提示細胞との接合の際に支援する。T細胞の内側に存在する部分を用いて、CD4は、チロシンキナーゼlckとして知られる酵素をリクルートすることによって、TCRによって生成されるシグナルを増幅し、このlckは、活性化T細胞のシグナル伝達カスケードに関わる数多くの分子を活性化するために不可欠である。ヒトCD4の完全長タンパク質配列は、UniProt受入番号P01730(2012年6月18日)を有する。
【0031】
用語「コドンが最適化されている」とは、本明細書に使用される際には、宿主生物の典型的なコドン使用を反映させて、アミノ酸配列を変えることなく参照ポリペプチドの発現を向上させるための、核酸のコドンの変更を指す。コドン最適化のための、当技術分野に公知のいくつかの方法およびソフトウェアツールがある。Narum D, et al., Infect. Immun. 2001; 69(12):7250-7253)、Outchkourov N, et al., Protein Expr. Purif. 2002; 24(1):18-24、Feng L, et al., Biochemistry 2000; 39(50):15399-15409、およびHumphreys D, et al., Protein Expr. Purif. 2000; 20(2):252-264を参照されたい。
【0032】
用語「含むこと」または「含む」とは、本明細書に使用される際には、一般に受け入れられている特許の実務による「からなること」をも明示する。
【0033】
用語「Env」または「gp160」とは、本明細書に使用される際には、HIVの外側の外被タンパク質(Env)の抗原特異性または生物学的機能のどちらかを有し、2つのサブユニット、すなわちgp120糖タンパク質およびgp41糖タンパク質を包含する、糖タンパク質を指す。野生型(wt)gp160ポリペプチドの例示的な配列は入手可能である。GenBank受入番号AAB05604およびAAD12142を参照されたい。
【0034】
用語「断片結晶化可能領域」または「Fc領域」とは、本明細書に使用される際には、Fc受容体と呼ばれる細胞表面の受容体および補体系のいくつかのタンパク質と相互作用する、抗体の尾部領域を指す。
【0035】
表現「機能的に等価なバリアント」とは、本明細書に使用される際には、(i)改変、欠失、もしくは挿入または1つもしくは複数のアミノ酸の結果生じた、実質的にその参照ポリペプチドの活性を保持するポリペプチド、および(ii)改変、欠失、もしくは挿入または1つもしくは複数の塩基の結果生じた、実質的にその参照核酸によって発現されるポリペプチドの活性を保持するポリヌクレオチドを指す。本発明のコンテクストで想定される機能的に等価なバリアントとしては、配列番号1~10の配列と少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、98%、99%の類似性もしくは同一性を示すポリペプチド、または配列番号22~31の配列と少なくとも60%、70%、80%、85%、90%、92%、94%、96%、98%、99%の類似性もしくは同一性を示すポリヌクレオチドが挙げられる。2つのポリペプチド間のまたは2つのポリヌクレオチド間の同一性または類似性の程度は、当技術分野に広く公知であるコンピュータ実装されたアルゴリズムおよび方法を使用することによって決定される。2つのアミノ酸の配列間の 同一性および類似性は、好ましくは、BLASTPアルゴリズムを用いて決定される。Altschul S, et al., “BLAST Manual”(NCBI NLM NIH, Bethesda, MD, USA, 2001)を参照されたい。
【0036】
用語「融合タンパク質」とは、本明細書に使用される際には、異なるタンパク質由来の2つ以上の機能ドメインからなる、遺伝子技術によって生成されるタンパク質に関する。融合タンパク質は、従来の手法によって(例えば、適した細胞で、前述の融合タンパク質をコードするヌクレオチド配列を遺伝子発現させることによって)取得されてもよい。
【0037】
用語「gp41」とは、本明細書に使用される際には、ヒト免疫不全ウイルス1外被糖タンパク質gp41を指す。gp41は、gp120と共にHIV-1のEnv糖タンパク質を形成するサブユニットである。Envは、3つの外部サブユニット(gp120)と3つの膜貫通サブユニット(gp41)とから構成される三量体である。gp41タンパク質の細胞外部分は、3つの必須の機能領域、すなわち融合ペプチド(FP)、N末端の7つ揃いの反復(HR1)、およびC末端の7つ揃いの反復(HR2)を含有する。HR1領域およびHR2領域は、コイル構造を形成する傾向を持つ複数のロイシンジッパー様モチーフを含有する。Peisajovich S, Shai Y, Biochem. Biophys. Acta 2003; 1614:122-129; Suarez T, et al., FEBS Lett. 2000; 477:145-149; Chan D, et al., Cell 1997; 89:263-273を参照されたい。数多くのHIVのgp-41の核酸配列およびアミノ酸配列が、公的に容易に入手可能である。HIV配列データベース、http://www.HIV.lanl.gov/content/sequence/HIV/mainpage.html、2015年11月を参照されたい。
【0038】
用語「gp41阻害物質」は、本明細書に使用される際には、gp41のHR2領域をカバーする様々な長さの一連のポリペプチドを含む。これらの阻害物質としては、以下に限定されないが、gp41由来ポリペプチドT-20、C34、T-1249、およびT-2635が挙げられる。
【0039】
表現「gp41由来ポリペプチド」は、本明細書に使用される際には、gp41の7つ揃いの反復1(HR1)モチーフまたは7つ揃いの反復2(HR2)モチーフに由来するポリペプチドを指す。gp41のHRl配列およびHR2配列は、当技術分野に周知である。Lupas A, Trends Biochem. Sci. 1996; 21:375-382 および Chambers P, et al., J. Gen. Virol. 1990; 71:3075-3080を参照されたい。好ましくは、gp41由来ポリペプチドは、HR2に源を発する。gp41由来ポリペプチドは、N末端またはC末端に位置する追加の外因性アミノ酸を含有することがある。好ましくは、外因性アミノ酸は10個未満であり、さらに好ましくは5個未満であり、最も好ましくは3個未満である。
【0040】
用語「gp120」とは、本明細書に使用される際には、HIVの外側の外被タンパク質(env)の抗原特異性または生物学的な機能のどちらかを有する糖タンパク質を指す。「gp120タンパク質」は、Envポリペプチドのgp120領域に由来する分子である。gp120のアミノ酸配列は、およそ511アミノ酸である。gp120は、120kDの見かけ上の分子量を有する、稠密にN-グリコシル化されたタンパク質である。gpl20は、5つの可変ドメイン(Vl~V5)が散在する、5つの比較的保存されたドメイン(C1~C5)を含有する。可変ドメインは、広範囲にわたってアミノ酸の置換、挿入、および欠失を含有する。「gpl20ポリペプチド」は、単一のサブユニットおよび多量体のどちらも含む。gp41部分は、ビリオンの膜二重層に係留されている(および広がっている)が、一方、gpl20セグメントは、周囲の環境内へ突き出ている。gp120の受容体結合ドメインは、タンパク質のN末端半分に局在する。これにプロリンに富む領域(PRR)が続くが、この領域は、受容体結合を融合機構に伝えるヒンジまたはトリガーのいずれかとして挙動する。gp120のC末端は、高度に保存されており、gp41と相互作用する。GenBank受入番号AAB05604およびAAD12142を参照されたい。
【0041】
用語「HIV」としては、本明細書に使用される際には、HIV-1およびHIV-2、SHIVおよびSIVが挙げられる。「HIV-1」とは、ヒト免疫不全ウイルス1型を意味する。HIV-1は、以下に限定されないが、細胞外ウイルス粒子と、HIV-1感染細胞に随伴するHIV-1の形態とを含む。HIV-1ウイルスは、公知の主要なサブタイプ(クラスA、B、C、DE、F、GおよびH)、またはそれとは離れた実験室株および初代分離株を含むサブタイプ(グループO)のうちいずれを表してもよい。「HIV-2」とは、ヒト免疫不全ウイルス2型を意味する。HIV-2は、以下に限定されないが、細胞外ウイルス粒子と、HIV-2感染細胞に随伴するHIV-2の形態とを含む。用語「SIV」とは、サル、チンパンジー、および他の非ヒト霊長類に感染するHIV様ウイルスである、シミアン免疫不全ウイルスを指す。SIVは、以下に限定されないが、細胞外ウイルス粒子と、SIV感染細胞に随伴するSIVの形態とを含む。
【0042】
用語「HIV曝露」とは、本明細書に使用される際には、非感染の対象がHIV感染またはAIDSの対象に接触すること、またはそのようなHIV感染対象からの体液に接触することを指し、ここでは、感染対象からのそのような液は、非感染対象の組織の粘膜、切創、もしくは擦過創(例えば針刺し、無防備の性交)、または他の表面に接触し、それゆえウイルスが、感染対象または感染対象の体液から非感染対象に伝播する可能性がある。
【0043】
用語「HIV感染」とは、本明細書に使用される際には、個体におけるHIVウイルスの存在の徴候を指し、そのようなものとしては、無症候性血清陽性、AIDS関連症候群(ARC)、および後天性免疫不全症候群(AIDS)が挙げられる。
【0044】
用語「IC50」とは、本明細書に使用される際には、所与の生物学的な過程または生物学的な過程の構成成分(すなわち酵素、細胞、細胞受容体、または微生物)の50%を阻害するために必要な具体的な活性剤の量を指す。
【0045】
2つ以上の核酸またはポリペプチドのコンテクストにおける用語「同一の」またはパーセント「同一性」は、同じものであるか、または特定のヌクレオチドまたはアミノ酸残基のパーセンテージを有する、2つ以上の配列または部分配列を指し、それらの配列は、いかなる保存されたアミノ酸置換も配列同一性の一環として考慮せずに、最大の対応付けを行うために(必要に応じてギャップを導入して)比較および整列された際に、同じものである。パーセント同一性は、配列比較のソフトウェアもしくはアルゴリズムを用いて、または視覚的な検査によって、測定することができる。アミノ酸配列またはヌクレオチド配列のアラインメントを取得するために使用できる、各種アルゴリズムおよびソフトウェアは、当技術分野に公知である。配列類似性を決定するために適したアルゴリズムの例としては、以下に限定されないが、BLASTアルゴリズム、Gapped BLASTアルゴリズム、およびBLAST 2.0アルゴリズム、WU-BLAST-2アルゴリズム、ALIGNアルゴリズム、およびALIGN-2 アルゴリズムが挙げられる。Altschul S, et al., Nuc. Acids Res. 1977; 25:3389-3402、Altschul S, et al., J. Mol. Biol. 1990; 215:403-410、Altschul S, et al., Meth. Enzymol. 1996; 266:460-480、Karlin S, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1990; 87:2264-2268、Karlin S, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1993; 90:5873-5877、Genentech Corp、サウスサンフランシスコ、カリフォルニア州、米国、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi、2015年11月を参照されたい。比較のための配列のアラインメントの方法は、当技術分野に周知である。比較のための最適な配列のアラインメントは、例として、Smith-Waterman局所相同性アルゴリズムによって、Needleman-Wunsch相同性アラインメントアルゴリズムによって、Pearson-Lipman類似性検索法によって、これらのアルゴリズムのコンピュータ実装によって、または手動のアラインメントおよび視覚的な検査によって、実施することができる。Smith T, et al., Adv. Appl. Math. 1981; 2:482-489、Needleman S, et al., J. Mol. Biol. 1970; 48:443-453、Pearson W, et al., Lipman D, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 1988; 85:2444-2448、GAPプログラム、BESTFITプログラム、FASTAプログラム、およびTFASTAプログラム、Wisconsin Genetticsソフトウェアパッケージ、Genetics Computer Group、マディソン、ウィスコンシン州、米国; Ausubel F, et al., Eds., “Short Protocols in Molecular Biology”, 5th Ed. (John Wiley and Sons, Inc.,NY, USA, 2002)を参照されたい。
【0046】
用語「キット」とは、本明細書に使用される際には、輸送および保管を可能にするために梱包された、本発明の使用および方法を実施するのに必要な様々な試薬を含有する製品を指す。キットの構成物の梱包に適した素材としては、クリスタルガラス、プラスチック(例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート)、ビン、バイアル、紙、または封筒が挙げられる。
【0047】
用語「中和抗体」とは、本明細書に使用される際には、細胞外分子(例えば病原性ウイルスの表面のタンパク質またはタンパク質ドメイン)に結合して、細胞外分子の、細胞に感染する、またはその活性を変調する能力に干渉する、任意の抗体、抗原結合断片、または抗体誘導体である。典型的には、本発明の抗体誘導体は、細胞外分子の表面に結合することができ、前述の抗体誘導体の非存在下または陰性対照の存在下で細胞外分子が細胞に付加するのに比べて、細胞との連係を少なくとも99%、95%、90%、85%、80%、75%、70%、60%、50%、45%、40%、35%、30%、25%、20%、または10%阻害することが可能である。抗体誘導体が中和しているか否かを確認するための方法は、当技術分野で記載されている。Li M, et al., J. Virol. 2005; 79:10108-10125、Wei X, et al., Nature 2003; 422:307-312、およびMontefiori D, Curr. Protoc. Immunol. 2005; Jan, Chapter 12:Unit 12.11を参照されたい。本発明のコンテクストでは、病原体は、好ましくはHIVであり、さらに明確にはHIVウイルス外被のgp120タンパク質である。特に、用語「HIV中和抗体」とは、gp120のCD4結合部位との親和性を有する抗体誘導体、例えばIgGb12などを指す。用語「中和抗体」は、bnAbのサブクラスを含む。本明細書に使用される際には、「広域中和抗体」または「bnAb」は、任意の方法によって取得される抗体であるものと理解され、この抗体は、有効な用量で送達される際に、7株超のHIVに、好ましくは8株超、9株、10株、11株、12株、13株、14株、15株、16株、17株、18株、19株、20株、またはそれを超える株数のHIVに対する、HIV感染またはAIDSの予防または治療のための治療剤として使用することができる。
【0048】
用語「NK細胞」とは、本明細書に使用される際には、先天免疫系にとって決定的に重要な細胞毒性リンパ球の1タイプである「ナチュラルキラー細胞」を指す。NK細胞は、ウイルスによる感染細胞への迅速な応答を与え、腫瘍の形成に応答して、感染後3日目頃に作用する。典型的には,免疫細胞は、感染細胞表面上に提示されたHLAを検出し、サイトカイン放出を誘発して溶解またはアポトーシスを引き起こす。しかし、NK細胞は、ストレスを受けた細胞を抗体およびHLAの非存在下で認識するための能力を有することから、異色であり、はるかに早い免疫反応を可能にする。NK細胞は、大型顆粒リンパ球として定義され、Bリンパ球およびTリンパ球を生成する共通のリンパ球前駆体から分化する第3の種類の細胞を構成する。NK細胞は、循環内に入る場である骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃、および胸腺で分化および成熟することが知られている。NK細胞は、ヒトで、通常は表面マーカーCD16(FcγRIII)およびCD56を発現する。
【0049】
用語「NL4-3」および「BaL」とは、本明細書に使用される際には、実験室で一般に使用される2つの異なるHIV分離株を指す。NL4-3分離株は、NY5プロウイルスおよびLAVプロウイルスからクローニングされた。Adachi A, et al., J. Virol. 1986; 59:284-291を参照されたい。BaL分離株は、外植された肺組織から成長した接着細胞の初代培養から取得された。Gartner S, et al., Science 1986; 233:215-219を参照されたい。
【0050】
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」、および「ヌクレオチド配列」は、本明細書に互換的に使用される際には、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドから構成される任意の長さのヌクレオチドの任意のポリマー形状に関する。この用語は、一本鎖ポリヌクレオチドおよび二本鎖ポリヌクレオチドの両方、ならびに修飾ポリヌクレオチド(例えばメチル化、保護化)を含む。典型的には、核酸は、本明細書に使用される際には、適切な調節配列の制御下に配された場合に宿主細胞でポリペプチドに転写および翻訳されるDNA配列を指す、「コード配列」である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンおよび3’(カルボキシ)末端の翻訳終止コドンによって決定される。コード配列としては、以下に限定されないが、原核配列、真核mRNA由来のcDNA、真核(例えば哺乳類)DNA由来のゲノムDNA配列、および合成DNA配列さえも挙げることができる。転写終結配列は、通常はコード配列の3’に位置するものとする。
【0051】
用語「機能的に連結された」とは、本明細書に使用される際には、(例えばin vitro転写/翻訳系で、またはベクターが宿主細胞内に導入されている場合には宿主細胞で)ヌクレオチド配列の発現を可能にする様式で、目的のヌクレオチド配列が調節配列に連結されていることを意味する。Auer H, Nature Biotechnol. 2006; 24: 41-43を参照されたい。
【0052】
表現「HIV分離株のパネル」とは、本明細書に使用される際には、標準化tier2/3の中和抗体応答の評価を容易にするためのEnvシュードタイプウイルスとして使用するために設計された、参照のHIV分離株のコレクションを指す。Mascola R, et al., J. Virol. 2005; 79(16):10103を参照されたい。シュードウイルスは、多くの初代HIV-1分離株の典型である、中和の表現型を示す。gp160遺伝子は、性行為による急性/初期感染からクローニングされ、サブタイプB内で広範囲の遺伝子的な、抗原性の、および地理的な多様性を含む。これらのクローンは、CCR5を補助受容体として使用する。Li, et al., J. Virol. 2005; 79(16):10108-10125を参照されたい。
【0053】
表現「非経口の投与」および「非経口で投与する」とは、本明細書に使用される際には、通常は注射による、経腸および局所投与以外の投与の方式を意味し、そのようなものとしては、限定はないが、静脈内、筋肉内、動脈内、くも膜下腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜外、および胸骨内の注射および注入が挙げられる。
【0054】
表現「医薬的に許容可能な担体」は、本明細書に使用される際には、本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、および宿主細胞と生理的に適合性のある任意のまたは全ての溶媒、分散媒、被覆、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤を含む。
【0055】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すために互換的に本明細書に使用される。これらの用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応の天然アミノ酸の人工の化学模倣体であるアミノ酸ポリマー、ならびに天然のアミノ酸ポリマーおよび非天然のアミノ酸ポリマーに適用される。
【0056】
用語「予防する」、「予防すること」、および「予防」とは、本明細書に使用される際には、対象での疾患の開始を阻害することまたは発生を減少させることを指す。予防は完全であることがある(例えば、対象で病態細胞が全く不在である)。また、予防は部分的であることがあり、例えば、対象で病態細胞の発生を低下させるなどがある。また、予防は、臨床状態への罹患性の低減を指す。本発明のコンテクストでは、用語「予防する」、「予防すること」、および「予防」とは、明確には、HIV曝露を被っている対象でHIV感染の可能性を回避または低減することを指す。
【0057】
用語「試料」とは、本明細書に使用される際には、任意の生体液、および特に、対象から得られる血液、血清、血漿、リンパ液、唾液、末梢血液細胞、または組織細胞血清、精液、痰、脳脊髄液(CRL)、涙、粘液、汗、乳汁、または脳抽出物を指す。身体組織は、胸腺、リンパ節、脾臓、骨髄、または扁桃の組織を含むことがある。また、用語「試料」は、非生体試料(例えば水、飲料から得られる)を指す。
【0058】
用語「対象」とは、本明細書に使用される際には、個人、植物または動物、例えばヒト、非ヒト霊長類(例えばチンパンジーおよび他の類人猿およびサル種)、農業動物、例えば鳥、魚、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギやウマなど;家畜哺乳類、例えばイヌやネコなど;齧歯類を含む実験動物、例えばマウス、ラットやモルモットを指す。この用語は、具体的な年齢または性別を表さない。用語「対象」は、胚および胎児を包含する。好適な実施形態では、対象とはヒトである。
【0059】
用語「T-1249」とは、本明細書に使用され、gp41のHR2領域の部分をカバーする、配列番号8のgp41由来ポリペプチドを指す。前掲Eggink, 2008を参照されたい。
【0060】
用語「T-20」とは、本明細書に使用され、gp41のHR2領域の部分をカバーする、配列番号7のgp41由来ポリペプチドを指し、エンフビルチドとしても公知である。CAS[159519-65-0]および米国特許第5,464,933号を参照されたい。このポリペプチドは、ナノモルの範囲で抗ウイルス活性を有し、HIV感染に対する療法に使用されている。Zhang D, et al., Expert Opin Ther Pat. 2015; 25:159-173および前掲Eggink, 2008を参照されたい。
【0061】
用語「T-2635」とは、本明細書に使用され、gp41のHR2領域の部分をカバーする、配列番号10のgp41由来ポリペプチドを指す。前掲Eggink, 2008を参照されたい。
【0062】
用語「治療剤」とは、本明細書に使用される際には、疾患の治療または予防に有用な原子、分子、または化合物を指す。治療剤の例としては、以下に限定されないが、抗体、抗体断片、HIV抗レトロウイルス、薬剤、細胞毒性剤、アポトーシス促進剤、毒素、ヌクレアーゼ(例えばDNAsesおよびRNAses)、ホルモン、免疫調節剤、キレート剤、ホウ素化合物、光活性剤または染料、放射性核種、オリゴヌクレオチド、干渉性RNA、siRNA、RNAi、抗血管新生剤、化学療法剤、サイトカイン、ケモカイン、プロドラッグ、酵素、結合タンパク質、ペプチド、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0063】
用語「治療有効量」とは、本明細書に使用される際には、対象で治療応答または所望の効果を生み出す本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、医薬組成物、またはそれらの混合物の用量または量を指す。
【0064】
用語「療法」または「治療の」とは、本明細書に使用され、疾患の治療または予防のどちらかのための本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、医薬組成物、またはそれらの混合物の使用を指し、そのような疾患としては、以下に限定されないが、HIVおよびAIDSが挙げられる。
【0065】
用語「治療する」または「治療」とは、本明細書に使用される際には、臨床徴候が現れた後の疾患の進行を制御するために、本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、宿主細胞、または医薬組成物を投与することを指す。疾患の進行の制御は、有益なまたは所望の臨床結果を意味するものと理解され、そのようなものとしては、以下に限定されないが、症状の低減、疾患の持続期間の低減、病的状態の安定化(明確には、いっそうの悪化を避けるための)、疾患の進行の遅延、病的状態の改善、および緩和(部分的および全体的の両方)が挙げられる。また、疾患の進行の制御は、治療が適用されなかった場合の予想される生存期間に比べて生存期間が延びることも含む。本発明のコンテクストでは、用語「治療する」および「治療」とは、明確には、HIV感染対象における健康なCD4+T細胞の感染および破壊を止めることまたは遅らせることを指す。また、それは、例えばCD4+T細胞数が極めて僅かであったり、日和見性病原体によって感染が繰り返されたりといった、後天性免疫不全疾患の症状の開始を止めることおよび遅らせることを指す。有益なまたは所望の臨床結果としては、以下に限定されないが、ナイーブCD4+T細胞の絶対数の増加(幅10~3520)、循環免疫細胞全体にわたるCD4+T細胞のパーセンテージの増加(幅1~50%)、または非感染対象における正常CD4+T細胞数のパーセンテージとしてのCD4+T細胞数の増加(幅1~161%)が挙げられる。また、「治療」とは、対象がHIV標的治療を何も受けない場合に予想される生存期間に比べて、感染対象の生存期間を延長することを意味することもできる。
【0066】
用語「ベクター」とは、本明細書に使用される際には、線状または環状の核酸分子を指し、この核酸分子は、宿主細胞における自律複製をもたらす追加のセグメントに機能的に連結されているかまたは上記核酸分子の発現カセットに従う、本発明の核酸を含む。
2.抗体誘導体
【0067】
第1の態様では、本発明は、N末端からC末端までに
(a)ヒトCD4受容体のD1細胞外ドメインおよびD2細胞外ドメイン、
(b)ヒトIgGのFc部分、
(c)(i)1≦n≦10である配列(GGGGS)のリンカーポリペプチド、(ii)ヒトCCR5受容体配列、および(iii)それらの組合せ、からなる群から選択される部分、ならびに
(d)gp41由来ポリペプチド
を含む、抗体誘導体を指す。
【0068】
本発明の抗体誘導体は、抗ウイルス活性およびADCC活性が増加しているという特徴を有する。
【0069】
一実施形態では、本発明の抗体誘導体のD1ドメインは、ヒトCD4受容体(すなわちUniProtKBデータベース受入番号P01730)のアミノ酸26~125またはその機能的に等価なバリアントを含む。別の実施形態では、抗体誘導体のD2ドメインは、ヒトCD4受容体のアミノ酸126~203またはその機能的に等価なバリアントを含む。好ましくは、D1ドメインおよびD2ドメインは、それぞれ配列番号1および配列番号2の配列、またはそれらの機能的に等価なバリアントを含む。
【0070】
さらに別の一実施形態では、ヒトIgGのFc部分は、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4のFc部分を含む。好ましくは、IgGのアイソタイプはIgG1である。さらに好ましくは、ヒトIgGのFc部分は、点変異G236A、S239D、A330L、およびI332Eまたはその機能的に等価なバリアントを含む。配列番号4を含むヒトIgG1のFc部分またはその機能的に等価なバリアントが、最も好適である。
【0071】
別の実施形態では、本発明の抗体誘導体の部分は、(i)1≦n≦10である配列(GGGGS)(配列番号5)のリンカーポリペプチド、(ii)ヒトCCR5受容体配列、(iii)(i)と(ii)との組合せ、ならびに(i)、(ii)、および(iii)の機能的に等価なバリアントからなる群から選択される。この実施形態の1バージョンでは、当該部分は、リンカー、またはヒトCCR5受容体配列、またはそれらの機能的に等価なバリアントのみを含む。この実施形態の別のバージョンでは、当該部分は、リンカーとヒトCCR5受容体配列との組合せ、またはその機能的に等価なバリアントを含む。好ましくは、リンカーは、組合せが採用される際には、ヒトCCR5受容体配列のC末端に付加される。好ましくは、当該部分は、リンカーのみ、またはリンカーとヒトCCR5受容体配列との組合せ、またはそれらの機能的に等価なバリアントを含む。好ましくは、ヒトCCR5受容体配列は、配列番号6またはその機能的に等価なバリアントを含む。
【0072】
さらに別の一実施形態では、gp41由来ポリペプチドは、T-20、T-4912、C34、T-2635ポリペプチド、それらの組合せ、またはそれらの機能的に等価なバリアントを含む。好ましくは、gp41由来ポリペプチドは、T-20ポリペプチドまたはその機能的に等価なバリアントを含む。さらに好ましくは、T-20ポリペプチドは配列番号7を含む。
【0073】
追加の一実施形態では、本発明の抗体誘導体は、分子5、分子6、分子7、分子8、分子10、分子11、またはそれらの機能的に等価なバリアントを含む。好ましくは、抗体誘導体は、分子5、分子7、分子8、またはそれらの機能的に等価なバリアントを含む。さらに好ましくは、抗体誘導体は分子7を含む。この実施形態の1バージョンでは、分子5、分子6、分子7、分子8、分子10、および分子11は、それぞれ配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、および配列番号21の配列、またはそれらの機能的に等価なバリアントを含む。
好ましくは、本発明の抗体誘導体は、
【0074】
(1)(a)ヒトCD4受容体のD1細胞外ドメインおよびD2細胞外ドメイン、(b)ヒトIgG1のFc部分、(c)(i)1≦n≦10である配列(GGGGS)のリンカーポリペプチド、(ii)ヒトCCR5受容体配列、および(iii)それらの組合せ、からなる群から選択される部分、ならびに(d)T-20、T-1249、C34、およびT-2635からなる群から選択されるgp41由来ポリペプチドであって、ここで、IgG1は野生型であるか、または点変異G236A、S239D、A330L、およびI332Eを含有し、
(2)(a)ヒトCD4受容体のD1細胞外ドメインおよびD2細胞外ドメイン、(b)ヒトIgG2のFc部分、(c)(i)1≦n≦10である配列(GGGGS)のリンカーポリペプチド、(ii)ヒトCCR5受容体配列、および(iii)それらの組合せ、からなる群から選択される部分、ならびに(d)T-20、T-1249、C34、およびT-2635からなる群から選択されるgp41由来ポリペプチド、
(3)(a)ヒトCD4受容体のD1細胞外ドメインおよびD2細胞外ドメイン、(b)ヒトIgG3のFc部分、(c)(i)1≦n≦10である配列(GGGGS)のリンカーポリペプチド、(ii)ヒトCCR5受容体配列、および(iii)それらの組合せ、からなる群から選択される部分、ならびに(d)T-20、T-1249、C34、およびT-2635からなる群から選択されるgp41由来ポリペプチド、ならびに
【0075】
(4)(a)ヒトCD4受容体のD1細胞外ドメインおよびD2細胞外ドメイン、(b)ヒトIgG4のFc部分、(c)(i)1≦n≦10である配列(GGGGS)のリンカーポリペプチド、(ii)ヒトCCR5受容体配列、および(iii)それらの組合せ、からなる群から選択される部分、ならびに(d)T-20、T-1249、C34、およびT-2635からなる群から選択されるgp41由来ポリペプチド
を含む。
【0076】
さらに好ましくは、本発明の抗体誘導体は、(a)ヒトCD4受容体のD1細胞外ドメインおよびD2細胞外ドメイン、(b)点変異G236A、S239D、A330L、およびI332Eを含有するヒトIgG1のFc部分、(c)(i)1≦n≦10である配列(GGGGS)のリンカーポリペプチド、(ii)ヒトCCR5受容体配列、および(iii)それらの組合せ、からなる群から選択される部分、ならびに(d)T-20、T-1249、C34、およびT-2635からなる群から選択されるgp41由来ポリペプチド、を含む。
【0077】
本発明の抗体誘導体は、前述のクラスターを表面に発現している細胞(例えばTヘルパー細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞)において、分子(例えばHIV)のヒトCD4受容体への付加を予防する(すなわち中和する)ために有用である。好ましくは、本発明の抗体誘導体は、HIVのウイルス外被に位置するgp160タンパク質が、Tヘルパー細胞にみられるヒトCD4受容体に付加することを、予防するために利用される。本発明の抗体誘導体の中和能は、IC50が10ng/mL以下、好ましくは、IC50が5ng/mL未満、2.5ng/mL未満、1.25ng/mL未満、0.625ng/mL未満、0.312μg/mL未満、0.156ng/mL未満、0.07ng/mL未満、または0.035ng/mL未満であるという特徴を有する。
【0078】
追加の一実施形態では、本発明の抗体誘導体は、ポリマーへの共有結合によるコンジュゲーションによって、例えば循環半減期を延ばすために、化学的に修飾することができる。ポリペプチドをポリマーに付加する方法は、当技術分野に公知である。米国特許第4,766,106号、米国特許第4,179,337号、米国特許第4,495,285号、および米国特許第4,609,546号を参照されたい。好ましくは、ポリマーは、ポリオキシエチレンポリオールおよびポリエチレングリコール(PEG)である。PEGは、全体式:R(O--CH--CHO--Rを有する水溶性のポリマーであり、上式で、Rは、水素、またはアルキル基やアルカノール基などの保護基とすることができる。好ましくは、保護基は、1個と8個との間の炭素を有し、さらに好ましくは、それはメチルである。好ましくは、nは1と1,000との間の、さらに好ましくは、2と500との間の整数である。PEGは、1,000と40,000との間の、さらに好ましくは2,000と20,000との間の、最も好ましくは3,000と12,000との間の、好適な平均分子量を有する。
【0079】
さらに別の一実施形態では、本発明の抗体誘導体は、治療剤に付加されて抗体薬剤コンジュゲート(ADC)を形成する。例として、AIDSが始まることによって発生するかまたは起こり易くなる、例えばカポジ肉腫などの日和見性の疾患および状態の治療に使用される治療剤は、本発明の抗体誘導体とインターフェロン-α、リポソーム化アントラサイクリン(例えばドキシル)またはパクリタキセルとにより形成されるADCを用いて治療されることがある。さらに、ウイルス感染および細菌感染(例えば帯状疱疹、肺炎、結核)、皮膚疾患、ならびにAIDSに随伴する他のタイプのがん(例えばリンパ腫)など、他の日和見性疾患の治療に有効なADCが、本発明の抗体誘導体と適切な治療剤とを組み合わせることによって考案されることもある。
3.核酸、ベクター、および宿主細胞
【0080】
別の態様では、本発明は、本発明の抗体誘導体をコードする核酸、ならびに前述の核酸を含む発現カセットおよびベクターに関する。
【0081】
好ましくは、核酸はポリヌクレオチドであり、そのようなものとしては、以下に限定されないが、ヌクレオチド間リン酸ジエステル結合連鎖によって連結されているデオキシリボヌクレオチド(DNA)およびリボヌクレオチド(RNA)が挙げられる。好適な一実施形態では、本発明の核酸は、ヒトCD4受容体のD1細胞外ドメインおよびD2細胞外ドメインをコードするポリヌクレオチド(配列番号22、配列番号23)、ヒトIgG1のFc部分(配列番号24)、リンカーポリペプチド(配列番号26)、ヒトCCR5受容体(配列番号27)、およびT-20ポリペプチド(配列番号28)、またはそれらの機能的に等価なバリアントを含む。好ましくは、本発明の核酸は、分子5(配列番号37)、分子6(配列番号38)、分子7(配列番号39)、分子8(配列番号40)、分子10(配列番号41)、分子11(配列番号42)、またはそれらの機能的に等価なバリアントをコードする。本発明の核酸の機能的に等価なバリアントは、その参照配列について1つまたは複数のヌクレオチドの挿入、欠失、または置換によって取得されてもよい。好ましくは、本発明の核酸の機能的に等価なバリアントをコードするポリヌクレオチドとは、高度に制限的な条件でそれ自体を参照の核酸にハイブリダイズすることをその配列が可能にする、ポリヌクレオチドである。高度に制限的なハイブリダイゼーションの典型的な条件としては、6×SSC(1×SSC:0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム)および40%ホルムアミド中、42℃で14時間インキュベーションした後、60℃で0.5×SSC、0.1%SDSを用いて1回または複数回の洗浄サイクルを行うことが挙げられる。あるいは、高度に制限的な条件としては、6×SSC中およそ50°~55℃の温度でハイブリダイゼーションすることと、1~3×SSC中68℃の温度で最終的に洗浄することとを含むものが挙げられる。中度に制限的な条件は、およそ0.2または0.3M NaCl中50℃の温度で65℃ぐらいまでハイブリダイゼーションした後、およそ0.2×SSC、0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)中50℃で55℃ぐらいまで洗浄することを含む。さらに別の一実施形態では、本発明の核酸は、コドンが最適化されている。
【0082】
別の実施形態では、参照核酸と少なくとも80%、85%、90%、95%、または99%の類似性を有する核酸のバリアントが代わりに使用され、ここでは、前述のバリアントは、本発明の抗体誘導体またはその機能的に等価なバリアントをコードする。
【0083】
本発明の核酸は、ベクター内にライゲーションするために、制限酵素で切断される必要がある場合がある(例えば1個、2個、または3個の末端ヌクレオチドが除去されることがある)。追加の一実施形態では、本発明は、制限酵素を用いて各端を切断されている、前述の核酸に関する。
【0084】
別の実施形態では、本発明は、本発明の核酸、プロモーター配列、および3’-UTR、ならびに任意選択的に選択マーカーを含む、発現カセットに関する。
【0085】
さらに別の実施形態では、本発明は、本発明の核酸を含むベクターに関する。この実施形態の追加の一態様では、本発明の核酸は、前述のベクターによって構成される発現カセットに含有される。本発明による適したベクターとしては、以下に限定されないが、原核ベクター、例えばpUC18プラスミド、pUC19プラスミドやBluescriptプラスミドなど、ならびにそれらの誘導体、例えばmp18プラスミド、mp19プラスミド、pBR322プラスミド、pMB9プラスミド、ColE1プラスミド、pCRlプラスミドおよびRP4プラスミドのようなもの;ファージおよびシャトルベクター、例えばpSA3ベクターやpAT28ベクターなど;酵母での発現ベクター、例えば2ミクロンプラスミドタイプベクターなど;組み込み(integration)プラスミド;YEPベクター;セントロメアプラスミドおよび類似体;昆虫細胞での発現ベクター、例えばpACシリーズやpVLシリーズのベクターなど;植物での発現ベクター、例えばpIBIシリーズ、pEarleyGateシリーズ、pAVAシリーズ、pCAMBIAシリーズ、pGSAシリーズ、pGWBシリーズ、pMDCシリーズ、pMYシリーズ、pOREシリーズのベクターや類似体など;ならびに以下のどちらかに基づく高等真核細胞での発現ベクター、すなわちウイルスベクター(例えばアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス)ならびに非ウイルスベクター、例えばpSilencer4.1-CMVベクター[Ambion(登録商標)、Life Technologies Corp.、カールスバッド、カリフォルニア州、米国]、pcDNA3ベクター、pcDNA3.1ベクター、pcDNA3.1/hygベクター、pHCMV/Zeoベクター、pCR3.1ベクター、pEFl/Hisベクター、pIND/GSベクター、pRc/HCMV2ベクター、pSV40/Zeo2ベクター、pTRACER-HCMVベクター、pUB6/V5-Hisベクター、pVAXlベクター、pZeoSV2ベクター、pCIベクター、pSVLベクターおよびpKSV-10ベクター、pBPV-1ベクター、pML2dベクター、およびpTDTlベクターが挙げられる。好ましくは、ベクターはpcDNA3.1ベクターである。さらに好ましくは、ベクターは、pABT-5、pABT-7、およびpABT-8である。
【0086】
追加の一実施形態では、ウイルスベクターはAAVベクターである。本発明の抗体誘導体をコードするAAVベクターは、当技術分野に周知の分子生物学手法に従って構築されてもよい。Brown T, “Gene Cloning” (Chapman & Hall, London, GB, 1995);Watson R, et al., “Recombinant DNA”, 2nd Ed. (Scientific American Books, New York, N.Y., US, 1992);Alberts B, et al., “Molecular Biology of the Cell” (Garland Publishing Inc., New York, N.Y., US, 2008);Innis M, et al., Eds., “PCR protocols. A Guide to methods and Applications” (Academic Press Inc., San Diego, Calif., US, 1990);Erlich H, Ed., “PCR Technology. Principles and Applications for DNA Amplification” (Stockton Press, New York, N.Y., US, 1989);Sambrook J, et al., “Molecular Cloning. A Laboratory Manual” (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., US, 1989);Bishop T, et al., “Nucleic Acid and Protein Sequence. A Practical Approach” (IRL Press, Oxford, GB, 1987);Reznikoff W, Ed., “Maximizing Gene Expression” (Butterworths Publishers, Stoneham, Mass., US, 1987); Davis L, et al., “Basic Methods in Molecular Biology” (Elsevier Science Publishing Co., New York, N.Y., US, 1986), Schleef M, Ed., “Plasmid for Therapy and Vaccination” (Wiley-VCH Verlag GmbH, Weinheim, Del., 2001)を参照されたい。
【0087】
例として、HEK-293細胞(E1遺伝子を発現)、アデノウイルス機能をもたらすヘルパープラスミド、血清型2由来のAAV rep遺伝子と所望の血清型(例えばAAV8)由来のcap遺伝子とをもたらすヘルパープラスミド、および最後に、ITRと目的の構築物(例えば分子5、分子7)とを有する骨格プラスミドが採用されることがある。本発明の抗体誘導体を発現するAAVベクターを生成するために、抗体誘導体のcDNAが、ユビキタスな(例えばCAG)または細胞特異的なプロモーターの制御下にあるAAV骨格プラスミド内にクローニングされることがある。
【0088】
AAVベクター(ウイルスベクター粒子)は、改変を含む3つのプラスミドを用いた、HEK293細胞のヘルパーウイルス不含のトランスフェクションによって生成されてもよい。Matsushita T, et al., Gene Ther. 1998;5:938-945およびWright J, et al., Mol. Ther. 2005;12:171-178を参照されたい。細胞は、ローラーボトル(RB)(Corning Inc.、コーニング、ニューヨーク州、米国)で、10%BFS(ウシ胎児血清)が補充されたDMEM(Dulbeccos's改変Eagle培地)中、70%の集密度に培養し、次いで、1)両側にウイルスITRが位置している発現カセットを担持するプラスミド(上に記載);2)AAV rep2と対応のcap(cap1遺伝子およびcap9遺伝子とを担持するヘルパープラスミド;ならびに3)アデノウイルスのヘルパー機能を担持するプラスミド、を用いて共導入してもよい。次いで、以前に記載されたような標準プロトコールまたは最適化プロトコールのどちらかを用いて、2回連続の塩化セシウム勾配によって、ベクターを精製してもよい。Ayuso E, et al., Gene Ther. 2010; 17:503-510を参照されたい。ベクターをさらにPBSに対し透析し、濾過し、qPCR(定量的ポリメラーゼ連鎖反応)によって力価を測定し、使用するまで-80℃で保存してもよい。
【0089】
別の実施形態では、本発明は、本発明の核酸、発現カセット、またはベクターを含む宿主細胞に関する。本発明に従って使用される宿主細胞は、真核細胞と原核細胞の両方を含む任意の細胞のタイプとすることができる。好ましくは、細胞としては、原核細胞、酵母細胞、または哺乳類細胞が挙げられる。さらに好ましくは、宿主細胞は、HEK-293細胞およびCHO細胞である。
4.医薬組成物
【0090】
さらに別の一態様では、本発明は、本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、もしくは宿主細胞(以降、単独でまたは併せて「本発明の活性剤」と称する)、またはそれらの混合物のうち少なくとも1つを含有し、医薬的に許容可能な担体と共に製剤化された医薬組成物を指す。前述の医薬組成物は、対象のHIVまたはAIDSを治療するために、または非感染対象のHIV感染を予防するために使用される。一実施形態では、組成物は、複数の(例えば2つまたは3つの)本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、または宿主細胞の混合物を含む。本発明の一実施形態では、組成物は、少なくとも分子3、分子4、分子5、分子6、分子7、分子8、分子10、分子11、または核酸、ベクター、もしくは前述の抗体誘導体を発現する宿主細胞、またはそれらの混合物を含む。好ましくは、組成物は、少なくとも分子5、分子7、分子8、または核酸、ベクター、または前述の抗体誘導体を発現する宿主細胞、またはそれらの混合物を含む。さらに好ましくは、組成物は、少なくとも分子7、または核酸、ベクター、もしくは前述の抗体誘導体を発現する宿主細胞、またはそれらの混合物を含む。本発明の抗体誘導体を含む医薬組成物の調製は、当技術分野に公知である。McNally E, et al., Eds., “Protein Formulation and Delivery” (Marcel Dekker, Inc., New York, NY, USA, 2000)、Hovgaard L, et al., Eds., “Pharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins”, 2nd Ed. (CRC Press, Boca Raton, FL, USA, 2012)、およびAkers M, et al., Pharm Biotechnol. 2002; 14:47-127を参照されたい。
【0091】
好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄、または上皮の投与(例えば注射または注入による)に適する。投与の経路に応じて、本発明の活性剤は、その剤を不活化しうる条件の影響から剤を保護するために素材中に被覆されていてもよい。
【0092】
本発明のさらに別の一実施形態では、遺伝子療法(「受動免疫」)に特に適した医薬組成物が提供される。前述の医薬組成物は、本発明の核酸もしくはベクターまたはそれらの混合物のうち少なくとも1つを含み、当技術分野に公知の方法に従って調製される。Andre S, et al., J. Virol. 1998, 72:1497-1503; Mulligan M, Webber J, AIDS 1999; 13(Suppl A):S105-S112; O'Hagan D, et al., J. Virol. 2001; 75:9037-9043およびRainczuk A, et al., Infect. Immun. 2004; 72:5565-5573を参照されたい。本発明の核酸が内部に挿入される具体的なベクター骨格は、前述の核酸が対象で適切に発現する限り重要ではない。適したベクターの例としては、以下に限定されないが、ウイルスおよびプラスミドが挙げられる。好ましくは、AAVベクターは、ウイルスベクターが採用される際に使用される。好ましくは、プラスミド性ベクターが採用される際には、pcDNA3.1およびpVAX1(Invitrogen、カールスバッド、カリフォルニア州、米国);DNA配列はInvitrogenのウェブサイトhttp://www.thermofisher.com/uk/en/home/brands/invitrogen.html、2015年10月で入手可能);pNGVL(国立遺伝子ベクター研究所、ミシガン大学、ミシガン州、米国);ならびにp414cyc(ATCC受入番号87380)およびp414GALS(ATCC受入番号87344)が使用される。さらに好ましくは、pcDNA3.1プラスミドがプラスミド性ベクターとして利用される。最も好ましくは、プラスミド性ベクターは、pABT-5、pABT-7、およびpABT-8である。
【0093】
受動免疫のデザインおよび適用は、当技術分野に公知である。Donnelly J, et al., Annu. Rev. Immunol. 1997; 15:617-648;Robinson H, Pertmer T, Adv. Virus Res. 2000; 55:1-74;Gurunathan S, et al., Annu. Rev. Immunol. 2000; 18:927-974 (2000)およびUlmer J, Curr. Opin. Drug Discov. Devel. 2001; 4:192-197を参照されたい。簡潔に述べれば、本発明のコンテクスト内にある受動免疫は、対象におけるin vivoの抗体誘導体の発現に向けて構成される。Ulmer J, et al., Science 1993; 259:1745-1749を参照されたい。典型的には、核は、真核生物での発現に最適化された細菌プラスミド内にクローニングされ、以下からなる。すなわち、(i)細菌で増殖するための複製の起点であって、通常はColE1などのE.coliの起点、(ii)抗生物質耐性遺伝子であって、通常はカナマイシンであり、細菌におけるプラスミドの選抜のためのもの、(iii)哺乳類細胞における最適な発現のための強いプロモーターであって、サイトメガロウイルス(CMV)またはシミアンウイルス40(SV40)のようなもの、(iv)プロモーターの下位にある、目的の遺伝子を挿入するための多重クローニング部位および(v)mRNAを安定化させるためのSV40またはウシ成長ホルモン(BGH)のポリアデニル化シグナルである。
【0094】
本発明のさらに別の目的は、本発明の抗体誘導体を発現することが可能なプラスミドを有する非病原性のまたは弱毒化した細菌株を利用して、ベクターを送達することであり、そのような株としては例えば、以下に制限されないが、Escherichia spp.、Salmonella spp.、Shigella spp.、Mycobacterium spp.、およびListeria spp.などがある。
【0095】
採用される具体的なEscherichia株は、本発明にとっては決定的に重要ではない。本発明に採用することのできるEscherichia株の例としては、Escherichia coli株DH5a、HB 101、HS-4、4608-58、1184-68、53638-C-17、13-80、および6-81、腸毒素原性E. coli、腸病原性E. coli、および腸管出血性E. coliが挙げられる。前掲のSambrook, 1989;Sansonetti P, et al., Ann. Microbiol. 1982; 132A:351-355);Evans D, et al., Infect. Immun. 1975; 12:656-667;Donnenberg S, et al., J. Infect. Dis. 1994; 169:831-838、およびMcKee M, O'Brien A, Infect. Immun. 1995; 63:2070-2074を参照されたい。
【0096】
採用される具体的なSalmonella株は、本発明にとっては決定的に重要ではない。本発明に採用することのできるSalmonella株の例としては、S. typhi(ATCC受入番号7251)、S. typhimurium(ATCC受入番号13311)、S. galinarum(ATCC受入番号9184)、S. enteriditis(ATCC受入番号4931)、S. typhimurium(ATCC受入番号6994)、S. typhi aroC, aroD二重変異株(Hone D, et al., Vaccine 1991; 9:810-816)およびS. typhimurium aroA変異株(Mastroeni D, et al., Micro. Pathol. 1992; 13:477-491)が挙げられる。
【0097】
採用される具体的なShigella株は、本発明にとっては決定的に重要ではない。本発明に採用することのできるShigella株の例としては、S. flexneri(ATCC受入番号29903)、S. flexneri CVD1203(ATCC受入番号55556)、S. flexneri 15D(Sizemore D, et al., Vaccine 1997; 15:804-807; Sizemore D, et al., Science 1995, 270:299-302)、S. sonnei (ATCC受入番号29930)およびS. dysenteriae(ATCC受入番号13313)が挙げられる。
【0098】
採用される具体的なMycobacterium株は、本発明にとっては決定的に重要ではない。本発明に採用することのできるMycobacterium株の例としては、M. tuberculosis CDC1551株(Griffith T, et al., Am. J. Respir. Crit. Care Med. 1995; 152:808-811)、M. tuberculosis Beijing株(van Soolingen D, et al., J. Clin. Microbiol. 1995; 33:3234-3238)、M. tuberculosis H37Rv株(ATCC受入番号25618)、M. tuberculosisパントテン酸要求性株(Sambandamurthy V, Nat. Med. 2002; 8:1171-1174、M. tuberculosis rpoV 変異株(Collins D, et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA. 1995; 92: 8036、M. tuberculosisロイシン要求性株(Hondalus M, et al., Infect. Immun. 2000; 68(5):2888-2898)、BCGデンマーク株(ATCC受入番号35733)、BCG日本株(ATCC受入番号35737)、BCGシカゴ株(ATCC受入番号27289)、BCGコペンハーゲン株(ATCC番号27290)、BCGパスツール株(ATCC受入番号35734)、BCGグラクソ株(ATCC受入番号35741)、BCGコノート株(ATCC受入番号35745)およびBCGモントリオール(ATCC受入番号35746)が挙げられる。
【0099】
採用される具体的なListeria株は、本発明にとっては決定的に重要ではない。本発明に採用することのできるListeria monocytogenes株の例としては、以下に制限されないが、 L. monocytogenes株10403S(Stevens R, et al., J. Virol. 2004; 78:8210-8218)、L. ivanoviiおよびL. seeligeri 株(Haas A, et al., Biochim. Biophys. Acta. 1992; 1130:81-84)または変異体 L. monocytogenes 株、例えば(i)actA plcB二重変異株(Peters C, et al., FEMS Immunol. Med. Microbiol. 2003; 35:243-253およびAngelakopoulos H, et al., Infect. Immun. 2002; 70:3592-3601)もしくは(ii)アラニンラセマーゼ遺伝子およびD-アミノ酸アミノ転移酵素遺伝子についてのdal dat二重変異株(Thompson R, et al., Infect. Immun. 1998; 66:3552-3561)が挙げられる。
【0100】
細菌性媒体を使用するベクターを送達するための方法は、当技術分野に周知である。米国特許第6,500,419号、米国特許第5,877,159号、および米国特許第5,824,538号;Shata M, et al., Mol. Med. Today 2000;6:66-71;Hone D, Shata M, J. Virol. 2001;75:9665-9670;Shata M, et al., Vaccine 2001;20:623-629; Rapp UおよびKaufmann S, Int. Immunol. 2004, 16:597-605;Dietrich G, et al., Curr. Opin. Mol. Ther. 2003;5:10-19 およびGentschev I, et al., J. Biotechnol. 2000;83:19-26を参照されたい。本発明の抗体誘導体を発現するために前述の細菌性媒体によって送達されるプラスミドのタイプは、決定的に重要ではない。
【0101】
追加の一実施形態では、本発明の核酸を送達するためのAAVベクターの使用も提供される。
【0102】
本発明の医薬組成物は、当技術分野に公知の種々の方法によって投与することができる。当業者によって認識されることになるように、投与の経路または方式は、所望の結果に応じて変わるものとなる。本発明の活性剤は、徐放性製剤など、速やかな放出に対し剤を保護するようにする担体を用いて調製することができ、そのような製剤としては、埋め込み物、経皮パッチ、およびマイクロカプセル化された送達システムが挙げられる。生分解性かつ生体適合性のポリマーを使用することができ、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などがある。そのような製剤を調製するための数多くの方法が、当技術分野に一般的に公知である。Robinson J, et al., Eds., “Sustained and controlled Release Drug Delivery Systems” (Marcel Dekker, Inc., New York, NY, USA, 1978)を参照されたい。
【0103】
本発明の活性剤をある種の投与経路によって投与するために、当該剤を素材で被覆するか、または当該剤を素材と共投与して、不活化を予防するか、またはin vivoでの適正な分布を確実に生じることが必要である場合がある。例えば、当該剤は、適切な担体(例えばリポソーム)または希釈剤中で対象に投与されてもよい。医薬的に許容可能な希釈剤としては、以下に限定されないが、生理食塩水および水性緩衝溶液が挙げられる。リポソームは、水中油中水型CGFエマルジョンならびに従来のリポソームを含む。Strejan G, et al., J. Neuroimmunol. 1984; 7:27-41を参照されたい。リポソームを製造する数多くの方法が、当技術分野に公知である。米国特許第4,522,811号、米国特許第5,374,548号、および米国特許第5,399,331号を参照されたい。リポソームは、特異的な細胞内または器官内に選択的に輸送され、そうして標的を定めた薬剤送達を増強する、1つまたは複数の部分を含んでいてもよい。例示的なターゲティング部分としては、葉酸またはビオチン、マンノシド、およびサーファクタントタンパク質A受容体が挙げられる。本発明の一実施形態では、本発明の活性剤は、リポソームに製剤化され、さらに好適な実施形態では、リポソームは、ターゲティング部分を含む。最も好適な実施形態では、リポソーム中の活性剤は、ボーラス注射によって送達される。
【0104】
医薬的に許容可能な担体は、滅菌された水溶液または分散物、および滅菌された注射可能な溶液または分散物の即時調製のための滅菌された粉末を含む。本発明の医薬組成物の調製におけるそのような媒体の使用は、それらの使用が本発明の活性剤と両立しないことがない限り、本明細書では想定される。また、補足の活性化合物を医薬組成物内に組み込むことができる。
【0105】
医薬組成物は、典型的には、製造および保管の条件下で滅菌状態にあり安定である。組成物は、溶液、マイクロエマルジョン、リポソーム、または活性剤の濃度に適した他の規則正しい構造として、製剤化することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)、または適したそれらの混合物を含有する、溶媒または分散媒とすることができる。適正な流動性は、例えば、レシチンなどの被覆を使用することによって、分散物の場合には必要な粒子サイズを維持することによって、および界面活性剤を使用することによって、維持することができる。数多くの場合で、等張剤、例えば、糖、ポリアルコール(例えばマンニトール、ソルビトール)や塩化ナトリウムなどを、組成物に含むことが好ましいことになる。注射可能な組成物の吸収の延長は、吸収を遅延させる化合物(例えばモノステアリン酸塩、ゼラチン)を組成物に含むことによってもたらすことができる。
【0106】
滅菌された注射可能な溶液は、必要量の本発明の活性剤を、必要に応じて、上記に列挙された成分の1つまたは組合せを含む適切な溶媒中に組み込んだ後に、滅菌精密濾過を行うことよって、調製することができる。概して、分散物は、基本的な分散媒および上記の列挙にある他の必要な成分を含有する滅菌された媒体内に、活性剤を組み込むことによって、調製される。滅菌された注射可能な溶液の調製に用いる滅菌された粉末の場合、好適な調製の方法は、活性成分と任意の追加の所望の成分とを足し合わせた粉末を、その予め滅菌濾過された溶液から産生する、真空乾燥および凍結乾燥[すなわち凍結乾燥(lyophilization)]である。
【0107】
投薬レジメンは、最適な所望の応答(例えば治療応答)をもたらすように調整される。例えば、ただ1つのボーラスが投与されてもよいし、複数の分割用量が時間をかけて投与されてもよいし、または治療状況の緊急性の示すように用量が比例的に低減または増加されてもよい。例えば、本発明の抗体誘導体は、皮下注射によって週に1回もしくは2回でも、皮下注射によって月に1回もしくは2回でも、投与されてよい。
【0108】
投与の容易さと均一な投薬のために、非経口の組成物を単位剤形で製剤化することは、特に有利である。本明細書に使用する際の単位剤形とは、治療される対象に用いる単一の投薬量として適した、物理的に別個の単位を指す。すなわち、各単位は、必要な医薬担体を伴って、所望の治療効果を生み出すように計算された所定の分量の活性剤を含有する。本発明の単位剤形についての明細は、活性剤の特有の特徴および達成される具体的な治療効果によって、ならびにそれらに直接的に依存して、規定される。
【0109】
医薬的に許容可能な抗酸化剤の例としては、以下に限定されないが、水溶性の抗酸化剤(例えばアスコルビン酸、システイン塩酸塩、硫酸水素ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム)、油溶性の抗酸化剤(例えばパルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロール)、および金属キレート剤[例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸]が挙げられる。本発明の医薬組成物の製剤としては、経口、鼻,局所(例えば頬側および舌下)、直腸、膣、または非経口の投与に適したものが挙げられる。製剤は、単位剤形で便利よく提供されてもよく、当技術分野に公知の任意の方法によって調製されてもよい。担体素材と組み合わせて単一の剤形を生産することのできる活性剤の量は、治療中の対象および具体的な投与の方式に応じて変わることになる。担体素材と組み合わせて単一の剤形を生産することのできる活性剤の量は、概して、治療効果を生み出す組成物の量となる。概して、この量は、活性剤の約0.001%から約90%まで、好ましくは約0.005%から約70%まで、最も好ましくは約0.01%から約30%までとなる。
【0110】
また、膣投与に適した本発明の製剤としては、適切となることが当技術分野に公知であるような担体を含有する、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム、またはスプレー製剤が挙げられる。本発明の組成物の局所または経皮の投与に用いる剤形としては、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ、および吸入剤が挙げられる。本発明の活性剤は、滅菌された条件下で、医薬的に許容可能な担体、および必要であることのある任意の保存剤、緩衝液、または噴射剤と、混合されてもよい。
【0111】
本発明の医薬組成物は、保存剤、潤滑剤、乳化剤や分散剤などのアジュバントを含有することもある。微生物の存在の予防は、滅菌手順によって、ならびに各種抗細菌剤および抗真菌剤(例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール ソルビン酸)を含むことによっての両方で、確実になる場合がある。また、等張剤(例えば糖、塩化ナトリウム)を組成物内に含むことが望ましい場合もある。
【0112】
本発明の医薬組成物中の活性剤の実際の投薬レベルは、対象で所望の治療応答を達成するように変えられることがある。選択される投薬レベルは、種々の薬物動態学的な要因に依存するものとなり、そのようなものとしては、採用される本発明の具体的な剤の活性、その量、投与の経路、投与の時間、採用される具体的な活性剤の排出または発現の速さ、治療の持続期間、採用される具体的な医薬組成物と組み合わせて使用される他の薬剤、化合物、または素材、治療中の対象の年齢、性別、体重、状態、全体的な健康状態、および過去の医療歴、ならびに医療分野に公知の他の同様の要因が挙げられる。当技術分野の通常の技能を有した医師または獣医師は、必要な活性剤の治療有効量を容易に決定し規定することができる。例えば、医師または獣医師は、所望の治療効果を達成するために必要とされるよりも低いレベルで、医薬組成物中に採用された本発明の活性剤の用量投与を開始し、所望の効果が達成されるまで徐々に投薬を増加することができよう。概して、本発明の組成物の適切な1日用量は、治療効果を生み出すのに有効な最も低い用量である、活性剤の量となる。そのような有効な用量は、概して、上に記載された要因に依存することになる。投与は非経口であり、さらに好ましくは静脈内、筋肉内、腹腔内、または皮下であることが好適である。所望に応じて、医薬組成物の有効な1日用量は、2個、3個、4個、5個、6個またはそれ以上の部分用量として投与されてもよく、その部分用量は、その日にわたって適切な間隔で別々に適用され、任意選択で、単位剤形である。本発明の活性剤を単独で投与することが可能である一方で、前述の剤を医薬組成物として投与することが好ましい。
【0113】
本発明の医薬組成物は、当技術分野に公知の医療デバイスを用いて投与することができる。例えば、好適な実施形態では、本発明の医薬組成物は、無針皮下注射デバイスを用いて投与することができる。米国特許第5,399,163号、米国特許第5,383,851号、米国特許第5,312,335号、米国特許第5,064,413号、米国特許第4,941,880号、米国特許第4,790,824号、または米国特許第4,596,556号を参照されたい。本発明で有用な周知の埋め込み物およびモジュールの例としては、以下に限定されないが、様々な速さで医薬を分注するための注入ポンプ[例えば米国特許第4,447,233号(非埋め込み式、制御速度)、米国特許第4,447,224号(埋め込み式、可変速度)、米国特許第4,487,603号(埋め込み式、制御速度)]、皮膚を通して医薬を投与するためのデバイス(例えば米国特許第4,486,194号)、および浸透性薬物送達システム(例えば米国特許第4,439,196号および米国特許第4,475,196号)が挙げられる。数多くの他のそのような埋め込み物、送達システム、およびモジュールが、当業者に公知である。
【0114】
本発明の医薬組成物は、滅菌され、シリンジによって組成物を送達可能な程度に流動性を有するものでなければならない。水に加えて、担体は、等張の緩衝生理食塩水溶液、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)、および適したそれらの混合物とすることができる。適正な流動性は、例えば、レシチンなどの被覆を使用することによって、分散物の場合は必要な粒子サイズを維持することによって、および界面活性剤を使用することによって、維持することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖、ポリアルコール(例えばマンニトール、ソルビトール)および塩化ナトリウムを組成物中に含むことが好ましい。注射可能な組成物の長期の吸収は、吸収を遅延させる剤(例えばモノステアリン酸アルミニウム、ゼラチン)を組成物中に含むことによってもたらすことができる。
5.治療および予防の方法
【0115】
別の態様では、本発明は、対象でHIV感染またはAIDSを治療することまたは予防することのどちらかのための方法に向けられ、この方法は、本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、宿主細胞、もしくは医薬組成物、またはそれらの混合物のうち少なくとも1つを前述の対象に投与することを含む。HIV感染またはAIDSの症状との関連での本発明の活性剤および医薬組成物の有益な治療的または予防的な効果としては、例えば、HIVに曝露された対象の初期感染を予防または遅延させること、HIVに感染した対象でウイルス負担を低減すること、HIV感染の無症候性相を延長すること、抗レトロウイルス療法(AT)を介してウイルスレベルが低下しているHIV感染対象で、ウイルス負荷を低く維持すること、薬剤未処理の対象でおよびATで治療された対象で、HIV-1特異的におよび非特異的にのどちらでも、CD4 T細胞のレベルを増加させるかまたはCD4 T細胞の減少を小さくすること、AIDSに罹患した対象で全体の健康または生活の質を増加させること、およびAIDSに罹患した対象の予想寿命を延長することが挙げられる。医師または獣医師は、治療前の対象の状態と、または非治療対象の予想される状態と、治療の効果とを比較して、AIDSを阻害する際にこの治療が有効であるか否かを決定することができる。好適な実施形態では、本発明の活性剤および医薬組成物は、HIV感染またはAIDSの予防のために使用される。別の好適な実施形態では、本発明の活性剤および医薬組成物は、HIV感染またはAIDSの治療のために使用される。
【0116】
本発明の活性剤および医薬組成物は、HIV感染またはAIDSの治療に有用である場合がある。HIVまたはそれらの等価型に罹っている可能性のある全ての対象をこの方式で治療することができる(例えばチンパンジー、マカク、ヒヒ、またはヒト)一方で、本発明の活性剤および医薬組成物は、具体的にはヒトにおける治療での使用に向けられる。多くの場合、1回を超える投与が、所望の治療効果をもたらすのに必要であることがある。ここで、正確なプロトコール(投薬量および頻度)は、標準的な臨床手順によって確立することができる。
【0117】
本発明は、HIV感染またはAIDSに随伴する症状を低減または排除することにさらに関する。これらには、HIV感染の軽微な症候性相に随伴する症状が含まれ、そのようなものとしては、例えば、帯状疱疹、皮疹および爪感染、口のひりつく痛み、再発性の鼻咽喉感染、および体重減少が挙げられる。さらに、HIV感染の主要な症候性相に随伴するさらに別の症状としては、例として、口腔および膣の鵞口瘡(カンジダ)、持続性の下痢、体重減少、持続性の咳および再賦活化された結核、または再発性のヘルペス感染、例えば口唇ヘルペス(単純ヘルペス)などが挙げられる。本発明に従って治療することのできる末期のAIDSの他の症状としては、例として、下痢、吐き気および嘔吐、鵞口瘡および口のひりつく痛み、持続性かつ再発性の膣感染および子宮頚がん、持続性の全身性リンパ節腫脹(PGL)、重度の皮膚感染、いぼおよび白癬、呼吸器感染、肺炎、特にPneumocystis carinii肺炎(PCP)、帯状ヘルペス(または帯状疱疹)、神経系の問題、例えば痛み、手足の痺れまたは「ピリピリした感覚(pins and needles)」、神経異常、カポジ肉腫、リンパ腫、結核または他の同様の日和見感染が挙げられる。
【0118】
別の好適な実施形態では、本発明の活性剤または医薬組成物は、少なくとも1つの治療剤と組合せてHIV感染対象またはHIVに曝露された対象に投与される。好ましくは、その治療剤は、HIVまたはAIDSの予防または治療のために一般に指示される。適した治療剤としては、以下に限定されないが、現在の抗レトロウイルス療法(AT)および高活性抗レトロウイルス療法(HAART)のプロトコールの一部を形成する薬剤、例えば非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(例えばエファビレンツ、ネビラピン、デラビルジン、エトラビリン、リルピビリン)、ヌクレオシド類似体逆転写酵素阻害剤(例えばジドブジン、テノホビル、ラミブジン、エムトリシタビン)、およびプロテアーゼ阻害剤(例えばサキナビル、リトナビル、インジナビル、ネルフィナビル、アンプレナビル)などが挙げられ、これらは以降、独立してまたは併せて「HIV抗レトロウイルス」と称する。この実施形態の1バージョンでは、少なくとも1つの本発明の活性剤または医薬組成物と、少なくとも1つのHIV抗レトロウイルスとが、共に対象に同時に投与される。別のバージョンでは、少なくとも1つの本発明の活性剤または医薬組成物は、任意のHIV抗レトロウイルスが対象に適用される前に投与される。さらに別のバージョンでは、少なくとも1つの本発明の活性剤または医薬組成物は、HIV抗レトロウイルスが対象に適用されるようになった後に、例えば、ATまたはHAARTのプロトコールを中断した後などに、投与される。
【0119】
さらに、本発明の抗体誘導体は、潜在的に感染している細胞の表面にHIV gp120の発現を誘導しうる治療剤と共に投与することもでき、そのようにして、それらの細胞をNK細胞によって速やかに除去することが可能になる。Siliciano J, et al, J Allergy Clin Immunol. 2014; 134(1):12-19を参照されたい。
6.中和および検出の方法
【0120】
追加の一態様では、本発明は、ウイルスを少なくとも1つの本発明の抗体誘導体に接触させることを含む、HIVを不活化する方法に関する。好ましくは、この方法は、HIVを含有するかまたはHIVを含有する疑いがある試料について実施される。この方法は、当技術分野に記載されるような、抗体誘導体がHIVに連係し易い条件下で実行されてもよい。Lu L, et al., Retrovirology 2012; 9(104), 1-14を参照されたい。
【0121】
さらに別の一態様では、本発明は、試料中のヒトCD4受容体のD1ドメインおよびD2ドメインに付加する分子またはその断片(例えばHIV、gp120)を検出する方法に関し、この方法は、(a)試料を本発明の抗体誘導体に接触させること、および(b)抗体誘導体が試料中の分子に特異的に結合するか否かを決定することを含む。試料は、生体試料としてもよく、そのようなものとしては、以下に限定されないが、非感染の、感染の、または強力に感染している対象(例えば断続的または間欠的なHIV曝露を持続している対象)由来の血液、血清、尿、組織、または他の生体材料が挙げられる。また、試料は、非生体としてもよい(例えば水、飲料から得られる)。好ましくは、分子はHIVであり、さらに好ましくはHIVのgp120ウイルス外被タンパク質である。
【0122】
この態様の好適な一実施形態では、本発明は、(a)試料を本発明の抗体誘導体に接触させること、および(b)抗体誘導体が試料中のHIV分子に特異的に結合するか否かを決定することを含む、試料中のHIVを検出する方法に関する。好ましくは、試料は、血漿試料または血清試料である。
【0123】
試料は、まず、検出の方法にさらに適したものとするために操作されることがある。好適な実施形態では、試料と抗体誘導体との間の接触が延長される(すなわち、試料および抗体誘導体の安定性に適した条件下でのインキュベーション)。接触工程の間の条件は、定型の方式で当業者が決定することができる。接触工程で使用することのできる適切な緩衝液としては、実施されるアッセイに干渉しない生理的緩衝液が挙げられる。例えば、Trisまたはトリエタノールアミン(TEA)緩衝液を採用することができる。緩衝液(および結果として得られる、その緩衝溶液を含む溶解試薬)のpHは、約2.0から約10.0まで、任意選択で約4.0から約9.0まで、好ましくは約7.0から約8.5まで、およびいっそうさらに好ましくは約7.5から約8.0までに及ぶか、または約7.0、約7.5、約8.0、もしくは約8.5とすることができる。例示的な「接触」条件は、15分間から4時間(例えば4℃、37℃または室温で1時間)のインキュベーションを含むことがある。しかし、これらは、例えば相互作用の結合相手の特質に従って、適切であるように変わることがある。試料は、任意選択で、緩やかな振盪、混合、または回転に供してもよい。さらに、他の適切な試薬、例えば非特異的な結合を低減するためのブロッキング剤などを添加してもよい。例えば、1~4%BSAまたは他の適したブロッキング剤(例えばミルク)を使用してもよい。接触条件は、検出方法の目標に応じて変化および適応させることができる。例として、インキュベーション温度が、例えば室温または37℃である場合、このことによって、これらの条件下で安定な(例えば、ヒトの身体に見られる条件下で安定な)バインダーを特定する可能性が増すことがある。
【0124】
好ましくは、本発明の抗体誘導体は、抗体誘導体と試料中に存在する分子またはその断片との間で複合体の形成を可能にする条件下で、試料に接触させられる。複合体の形成、例えば、試料中のHIVの存在を標示するその形成は、次いで、適した手段によって検出および測定される。これらの検出および測定の手段は、結合相手の特質に依存し、そのようなものとしては、以下に限定されないが、同種結合アッセイおよび異種結合アッセイ、例えば、放射免疫アッセイ(RIA)、ELISA、免疫蛍光、免疫組織化学、フローサイトメトリー(例えばFACS)、BIACORE、およびウェスタンブロット分析などが挙げられる。好適なアッセイ手法は、特に対象の血清および血液および血液由来産物の大規模分析に用いるものは、フローサイトメトリー、ELISA、およびウェスタンブロット手法である。
【0125】
好適な実施形態では、測定は、フローサイトメトリー(例えばFACS)によって実施される。本明細書に使用される際には、用語「フローサイトメトリー」とは、素材を標識し(例えば、標識化抗体を素材に結合させることによって)、素材を含有する流体の流れが光ビームを通り抜けるようにして、試料から発された光を一連のフィルターおよび鏡によって成分波長に分離し、その光を検出することによって、試料中の素材の割合が決定されるアッセイを指す。フローサイトメトリーによって、相対的なサイズ複雑度や内在的な蛍光など、単細胞のいくつかの特長の高感度の検出および迅速な定量、ならびに蛍光色素で標識することのできる任意の細胞性化合物の定量分析が可能になる。Melamed M, et al., “Flow Cytometry and Cell Sorting”, 2nd Ed. (Wiley-Liss, New York, NY, USA, 1990)を参照されたい。フローサイトメトリーの主な利点の1つは、多数の粒子上または細胞上の被検物を速やかに定量することである。概して、検出マーカーとして使用するために選択される蛍光色素は、レーザーによって使用される波長を有する光によって励起された際に蛍光を発する能力に基づいて選択される。蛍光色素がレーザービームによって励起されると、光を発し、次いで、光はフローサイトメーターの光電子増倍管によって評価される。この手法は、1分から2分以内に10,000細胞個/粒子を分析することが可能である。フローサイトメーターは、各種蛍光色素からエミッタンスを検出するためのフィルターを有し、この蛍光色素は、異なる波長で蛍光を発することから、4つ以上の異なる蛍光色素を検出マーカーとして使用することが可能になる。このことは、現在は少なくとも4つの異なる分子を同時に検出し得ることを意味する。試料を分析するためのこれらの方法および装置は、商業的に入手可能であり、当技術分野に周知である(例えばFACSCaliburフローサイトメーター;BD Biosciences Corp.、フランクリンレイクス、ニュージャージー州、米国)。
【0126】
好適な実施形態では、前述の測定は試料の分析を含み、好ましくは、その分析は抗体誘導体、好ましくは前述の抗体誘導体のFc領域に、結合可能なレポーターを使用する、フローサイトメトリーによるものである。好ましくは、レポーターは、検出可能な部分を含み、さらに好ましくは、それは、検出部分に連係されるFc特異的な二次抗体である。
【0127】
有用な検出部分としては、蛍光団が挙げられる。「蛍光団」(または「蛍光色素」もしくは「発色団」)によって、光励起があると光を再び発することができる蛍光化合物が理解される。 使用できる蛍光団としては、生物学的蛍光団(例えばタンパク質)および化学蛍光団が挙げられる。例示的な生物学的蛍光団は、T-サファイア、Cerulean、mCFPm、CyPet、EGFP、PA-EGFP、Emerald、EYFP、Venus、mCitrine、mKO、mOrange、DSRed、JRed、mStrawberry、mCherry、PA-mCherry、mRuby、Tomato、mPlum、mKate、mKatushka、Kaede、Halotag、およびsuperecliptic fluorineを含む。例示的な化学蛍光団は、 Alexafluor、Rhodamine、BODIPY、テトラメチルローダミン、Cyaninダイ、Fluorescein、Quantumドット、IRダイ、FMダイ、ATTOダイを含む。二次抗体は、検出するのに有用な酵素で標識化することもでき、そのようなものとしては、例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、またはグルコースオキシダーゼなどがある。抗体が検出酵素で標識化されている場合は、酵素が使用する追加の試薬を添加して、識別可能な反応産物を触媒することによって、それを検出することができる。例えば、剤セイヨウワサビペルオキシダーゼがある際には、過酸化水素およびジアミノベンジジンを添加することによって、可視的に検出可能な着色反応産物を生じる。また、抗体を、ビオチンで標識化し、アビジンまたはストレプトアビジンの結合を間接的に測定することを通じて検出してもよい。アビジン自体は酵素または蛍光標識で標識化できることに留意するべきである。
【0128】
好ましくは、採用されるFc二次抗体は、一次抗体が由来とする種(例えばヒト)に特異的である。一実施形態では、前述のFc特異的な二次抗体は、IgA(例えばIgA1、IgA2)、IgD、IgE、IgG(例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、およびIgMからなる群から選択される。好ましくは、二次抗体はIgGであり、さらに好ましくはIgG1である。前述のFc特異的な二次抗体は、任意の脊椎動物抗体、好ましくは任意の哺乳類抗体、およびさらに好ましくは任意の非ヒト抗体(例えばウサギ、マウス、ラット、ヤギ、ウマ、ヒツジ、またはロバの抗体)とすることができる。
【0129】
前述のアッセイで試薬として使用するために、本発明の抗体誘導体が、マイクロタイターウェルの内部表面に便利よく結合されることがある。本発明の抗体誘導体は、マイクロタイターウェルに直接的に結合されることがある。しかし、抗体誘導体のウェルとの最大の結合は、抗体誘導体を添加する前にウェルをポリリジンで予め処理することによって、達成される可能性がある。さらに、本発明の抗体誘導体は、当技術分野に公知の手段によって、共有結合によりウェルに付加されていてもよい。概して、本発明の抗体誘導体は、0.01から100μg/mLの間で被覆に使用されるが、そもそもそれよりも高いならびに低い量も使用されることがある。次いで、試料は、本発明の抗体誘導体で被覆されたウェルに添加される。
7.キット
【0130】
さらに別の一態様では、本発明は、本発明の抗体誘導体、核酸、ベクター、宿主細胞、医薬組成物、もしくは組合せ、またはそれらの混合物のうち少なくとも1つを含むキットを指す。本発明のキットの構成成分は、任意選択で、適した容器中に梱包されて、HIVもしくはAIDSまたはそれらに関連する状態を検出、不活化、診断、予防、または治療するために標識化されることがある。キットの構成成分は、水性の、好ましくは滅菌された溶液として、または再構成のための凍結乾燥の、好ましくは滅菌された製剤として、単位または複数回用量の容器で保管されてもよい。容器は、種々の素材、例えばガラスやプラスチックなどから形成されてもよく、滅菌されたアクセスポートを有していてもよい(例えば、コンテナは、皮下注入の注射針による貫通が可能なストッパーを有する、静脈内の溶液バッグまたはバイアルとしてもよい)。キットは、医薬的に許容可能な担体を含むさらに多くの容器をさらに含んでいてもよい。それらは、商業用またはユーザの観点から望ましい、他の素材をさらに含むことがあり、そのようなものとしては、以下に限定されないが、緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、適切な宿主細胞のうち1つもしくは複数に用いる培養培地、または他の活性剤が挙げられる。キットは、診断製品および治療製品の商業用パッケージに通例含まれる指示書を含むことができ、その指示書は、情報、例えば、適応症、使用量、投薬量、製造、投与、そのような診断製品および治療製品の使用に関する禁忌または注意についてを含む。
【0131】
本明細書に言及される全ての刊行物は、参照によりその全体が組み込まれる。ここまで本発明が概ね記載されてきたが、同じことは、以下の実施例を参照することを通じてさらに容易に理解されよう。この実施例は、図説によって提供され、指定のない限り、本発明を限定することを意図するものではない。
基本手順
1.CD4-huIgG誘導体の構築
【0132】
ヒトCD4分子の2つの細胞外ドメイン(D1およびD2)を、ヒンジ、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含むヒトIgG1のFc部分に接合して、CD4-IgG1分子を産生した。CD4-IgG1スキャフォールドに基づき、以下の特徴を有した抗体誘導体を設計した。
【0133】
(a)ADCC媒介性応答を増加させるためのFc鎖の位置G236A/S239D/A330L/I332Eでの変異。Bournazos S, et al., Cell 2014; 158:1243-1253を参照されたい。
(b)Fc鎖のC末端でのヒトCCR5のN末端細胞外配列(MDYQVSSPIYDINYYTSEPCQKINVKQIA)(配列番号6)の添加。
(c)Fc鎖のC末端でのT-20配列(YTSLIHSLIEESQNQQEKKNEQELLELDKASLWNWF)(配列番号7)の添加。
【0134】
(d)数可変の可動性連結(GGGGS)(配列番号5)を伴うCCR5配列(MDYQVSSPIYDINYYTSEPCQKINVKQIA)(配列番号6)およびT-20配列(YTSLIHSLIEESQNQQEKKNEQELLELDKASLWNWF)(配列番号7)の連続的な添加。
【0135】
本発明の抗体誘導体を発現する全てのポリヌクレオチドは、GeneArtプロセスならびにpcDNA3.1発現プラスミドおよびpcDNA3.4発現プラスミドを使用して合成された。
【0136】
プラスミドを10mM Tris緩衝液pH8で再構成して0.5μg/μLとした。1μLのプラスミドを用いて、製造業者の指示書に従い、OneShot TOP10ケミカルコンピテントE.coli(Life Technologies Corp.、カールスバッド、カリフォルニア州、米国)を形質転換した。簡潔に述べれば、1μLのプラスミドを1バイアルの細菌に添加し、氷上で15分間インキュベーションした。その後、そのチューブを42℃で30秒間インキュベーションし、直ちに氷上に2分間放置した。細菌を250μLのSOC培地(Life Technologies Corp.、カールスバッド、カリフォルニア州、米国)に懸濁し、Innova 4000インキュベーターシェーカー(New Brunswick Scientific Co., Inc.、エンフィールド、コネチカット州、米国)中、37℃かつ225rpmで、1時間インキュベーションした。その後、1/100希釈の細胞培養物100μLをアンピシリン選択(100μg/mL)LB-寒天プレート上に広げた。プレートをHeraeusインキュベーター(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国)内で37℃で16~24時間からインキュベーションした。1コロニーを単離し、5mLのアンピシリン(100μg/mL)選択LB培地内に播種し、Innova 4000インキュベーターシェーカー(New Brunswick Scientific Co., Inc.、エンフィールド、コネチカット州、米国)中、37℃かつ225rpmで、8時間インキュベーションした。その後、500mLのアンピシリン(100μg/mL)選択LB培地に、500μLの前出に記載の培養物を播種し、既に記載されたように、37℃かつ225rpmで16時間インキュベーションした。Eppendorf遠心機5810R(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国)で室温、3000×gで45分間遠心分離することによって、細菌を回収し、Qiagen Plasmid Maxiキット(Qiagen NV、フェンロー、オランダ)を使用して、製造業者の指示書に従ってプラスミドを単離した。ナノドロップ1000機器(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国)を使用して、分光測光によって精製プラスミドを定量した。
2.タンパク質の生産、定量、および精製
【0137】
Calphosトランスフェクションキット[Clontech(登録商標)Takara Bio Inc.、大津、日本]を使用して、製造業者の指示書に従い、種々の本発明の抗体誘導体をコードするプラスミドを用いて、HEK-293細胞をトランスフェクションした。48時間後、上清を収集し、0.45μmフィルター(EMD Millipore, Merck KGaA、ダルムシュタット、ドイツ)を通す濾過によって清澄化し、使用するまで-20℃で保管した。
【0138】
抗体誘導体をELISAによって定量した。簡潔に述べれば、Maxisorp 96-Fプレート(Nunc、Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国)を、PBS中1μg/mLのF(ab)2ヤギ抗ヒトIgG(Fc特異的)抗体(Jackson ImmunoResearch Labs, Inc.、ウェストグローブ、ペンシルバニア州、米国)100μL/ウェルと共に、4℃で一晩インキュベーションした。PBS/10%FBS/0.05%tween20を用いてブロッキングして洗浄した後、培養上清(組換えタンパク質を含有)のブロッキング緩衝液中希釈系列をプレートに添加し(100μL/ウェル)、4℃で一晩インキュベーションした。標品として、精製eCD4-Igタンパク質の0.1μg/mL、0.05μg/mL、および0.025μg/mLの希釈物を使用した。プレートを再度洗浄し、ブロッキング緩衝液中1/10000希釈の二次抗体HRP-F(ab)2ヤギ抗ヒトIgG(Fc特異的)(Jackson ImmunoResearch Labs, Inc.、ウェストグローブ、ペンシルバニア州、米国)を添加し(100μL/ウェル)、室温で1時間インキュベーションした。プレートを洗浄し、OPD基質を用いて結合抗体を検出し、4N HSOを添加して反応を停止させた。産物をELISAプレートリーダー中492nmで測定した。
【0139】
プロテインAセファロース(GE Healthcare, Inc.、スタムフォード、コネチカット州、米国)カラムを使用して、タンパク質を精製した。上記に示したように、血清不含培地を用いた一過的トランスフェクションによって、タンパク質を生産した。上清を回収し、3000×gで10分間遠心分離し、0.45μmで濾過して細胞の残骸を除去した。予め洗浄されたプロテインAセファロースビーズに、清澄化された上清を添加して、端々まで回転させながら4℃で一晩インキュベーションした。プロテインAをTris緩衝生理食塩水(TBS)で洗浄し、結合タンパク質を4M MgClで溶出した。代替的に、CaptureSelect FcXL Affinity Matrix(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国)カラムを使用して、タンパク質を精製し、グリシン緩衝液pH=3.5で溶出した。精製タンパク質をPBSに対し透析し、限外濾過によって濃縮し、ELISAまたは分光測光によって定量して、使用するまで-80℃で保管した。
3.中和アッセイ
【0140】
HIV-1分離株NL4-3、BaL、AC10、SVBP6、SVBP8、SVBP11、SVBP12、SVBP14、SVBP15、SVBP17、SVBP18、およびSVBP19は、Env発現プラスミドおよびpSG3ベクターを使用して、シュードウイルスとして生成された。Sanchez-Palomino S, et al., Vaccine 2011; 29:5250-5259を参照されたい。標準的なTZM-blベースのアッセイによって、抗体誘導体による細胞不含のウイルスの中和を試験した。前掲Li, 2005を参照されたい。簡潔に述べれば、96ウェル培養プレート中で、100μLの予め希釈された抗体誘導体を、50μLのシュードウイルスのストックと共に、200TCID50(組織培養に感染性がある用量)を用いて、37℃で1時間プレインキュベーションした。次いで、ウェル当たり10,000個のTZM-blルシフェラーゼ-レポーター標的細胞を含有する100μLを添加した。プレートを37℃、5%COで48時間、培養した。抗体誘導体の希釈系列を1000から0.1ng/mLまで試験した。TZM-blレポーター細胞をデキストラン(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州、米国)で処理して、感染力を増強させた。ルシフェラーゼ基質Britelite Plus(PerkinElmer, Inc.、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国)を読み取りに使用した。可変のHillスロープを用いて1部位阻害(one-site inhibition)カーブにフィットされた正規化値を使用して、中和データの非線形フィットを計算した。全ての統計分析および非線形フィッティングは、GraphPad Prism v5.0ソフトウェアを使用して実施した。
4.ADCCアッセイ
【0141】
様々な抗体誘導体がNK細胞によるHIV感染細胞のNK媒介性の破壊を活性化させる能力を評価するために、Alpert M, et al., J. Virol. 2012, 86:12039-12052に従って、ADCCアッセイを実施した。簡潔に述べれば、NK細胞株KHYG-1 CD16+をエフェクター細胞源として採用し、CEM.NKR.CCR5+Luc細胞株を標的細胞源として利用した。アッセイの5日前に、高い感染性を有するBaL分離株ストックを用いて標的細胞を感染させ、R10培地(10%ウシ胎仔血清を補充したRPMI)中37℃で培養した。アッセイをセットアップするために、U底96ウェルプレート中総体積200μLで、10U/mLの組換えIL-2を補充したR10培地中、異なる濃度の抗体誘導体または抗体ベースの分子の存在下で、10個の標的細胞(それらの>40%は生産的に感染)を10個のエフェクター細胞と共に培養した。37℃で8時間インキュベーションした後、細胞を再懸濁して、150μLの細胞懸濁液を50μLのルシフェラーゼ基質Britelite Plus(PerkinElmer, Inc.、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国)と混合した。ルシフェラーゼ単位を読み取りのために使用した。標的細胞はHIVに感染するとルシフェラーゼを発現することから、ルシフェラーゼ活性の減少は、抗体媒介性およびNK媒介性の殺細胞性の直接的な測定である。
実施例1
工学的に改変されたCD4 IgG融合タンパク質の設計
【0142】
huCD4-マウスIgG融合タンパク質を以前報告されたように調製した。この融合タンパク質は、抗CD4結合部位抗体を特定するためにこれまで使用されてきた。Carrillo J, et al., PLOS One 2015; 10(3):0120648;図1を参照されたい。しかし、CD4-IgG1分子は、治療潜在性が限定的であることが知られていることから、その抗ウイルス活性およびADCC活性を増加させるために、いくつかの変更がCD4-IgG1タンパク質の配列に導入された。Jacobson J, et al., Antimicrob Agents Chemother. 2004; 48(2):423-429を参照されたい。
【0143】
最初に、ヒトIgG1のFc領域を、当技術分野で記載されるように、位置G236A、S239D、A330L、およびI332Eで変異させ、ADCC媒介性応答を増加させた。前掲Bournazos, 2014を参照されたい。さらに進んだ改変は、HIV Envとの相互作用を増加させることを目的とし、CCR5のN末端細胞外領域(配列番号6)に対応する29アミノ酸配列の添加、またはFc鎖のC末端終端部でのT-20(配列番号7)配列の添加を含んでいた。前掲Gardner, 2015を参照されたい。gp41に結合すること、およびHIV進入の融合前の事象を遮断することが可能なペプチドの添加によって、抗ウイルス活性に相乗効果がもたらされる可能性があるものと推測された。そのため、CCR5(配列番号6)配列とT-20(配列番号7)配列の両方を含有する抗体誘導体を設計した。図1および図2を参照されたい。
【0144】
さらに、CCR5配列およびT-20配列がそのそれぞれの標的領域と同時に相互作用することができた場合に、相乗性が発生することになるものと推測された。それゆえ、補助受容体結合部位からgp41までに広がるリンカーを提案した。図3を参照されたい。
【0145】
また、比較の目的で、eCD4-IgG1融合タンパク質も既に記載されたように調製した(分子1)。現在は、eCD4-IgG1融合タンパク質が、当技術分野に公知の最も強力な抗HIV工学改変抗体である。前掲Gardner, 2015を参照されたい。より良い比較の根拠を提供するために、分子1のFc鎖を、本発明の抗体誘導体にあるようにさらに変異(すなわち位置G236A、S239D、A330L、およびI332Eで)させて、eCD4-mIgG1融合タンパク質(分子2)を産生した。
実施例2
第1世代の抗体誘導体の抗ウイルス活性
【0146】
3つの異なるウイルス:(i)X4モノトロピック実験室分離株であるHIV-1株NL4-3、(ii)R5モノトロピック実験室分離株であるHIV-1株BaL、および(iii)中和するのが特に難しいtier2型ウイルスであるHIV-1株AC10分離株を使用して、本発明の抗体誘導体の抗ウイルス活性を評価するために、標準的な中和アッセイを実施した。さらに、周知のHIVサブタイプBウイルスのパネルを使用して、中和活性のさらに深い特性解析を実施した。前掲Li, 2005を参照されたい。
【0147】
簡潔に述べれば、96ウェル培養プレート中で、予め希釈された100μLの血漿試料を、50μLのシュードウイルスのストックと共に、200TCID50を用いて、37℃で1時間プレインキュベーションした。次いで、ウェル当たり10,000個のTZM-blルシフェラーゼレポーター標的細胞を含有する100μLを添加した。プレートを37℃、5%COで48時間培養した。抗体誘導体の希釈系列を1000から0.1ng/mLまで試験した。TZM-blレポーター細胞をデキストラン(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州、米国)で処理して、感染力を増強させた。ルシフェラーゼ基質Britelite Plus(PerkinElmer, Inc.、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国)を読み取りに使用した。可変のHillスロープを用いて1部位阻害(one-site inhibition)カーブにフィットされた正規化値を使用して、中和データの非線形フィットを計算した。全ての統計分析および非線形フィッティングは、GraphPad Prism v5.0ソフトウェアを使用して実施した。
【0148】
供試した全ての分子が、NL4-3分離株およびBaL分離株の感染力の遮断に有効であった。NL4-3の中和については、CCR5を含有する分子4がIC50値7.1ng/mLを示し、一方、T-20を含有する分子3はさらに強力であり、IC50値2.2ng/mLを示した。参照分子eCD4-IgG(分子1、IC50値:1.2ng/mL)およびそのFc変異型誘導体である分子2(IC50=1.1ng/mL)では、より低い値が観察された。最も強力な化合物は、CCR5配列およびT-20配列を含有する抗体誘導体(分子5)であり、それは示したおよびIC50値0.06ng/mL。このデータは、CCR5配列およびT-20配列と可動性のリンカーとの組合せが、抗ウイルス効能の向上をもたらすことを示唆した。図4(a);表1を参照されたい。CD4配列のみを含有する分子0および分子6では、より低い中和活性が観察された。
【0149】
同様の結果が、BaL分離株を用いて観察された。BaL中和アッセイにおける抗ウイルス活性の序列は、分子4<分子3<分子1(eCD4-IgG)<分子2(eCD4-mIgG1)<分子5であった。やはり分子5は、IC50値0.01ng/mLという最も高い効能を示し、その値は、eCD4-IgG1タンパク質よりも100倍強力なものであった。図4(b);表1を参照されたい。やはりより低い中和活性が、CD4配列のみを含有する分子0および分子6で観察された。
【0150】
驚くべきことに、分子5のみがAC10分離株に対し何らかの抗ウイルス活性を示した。そして残りの抗体誘導体は、供試した濃度の範囲では効果がなかった。図4(c);表1を参照されたい。
【0151】
【表1】
【0152】
実施例3
第1世代の抗体誘導体の抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性
【0153】
本発明の抗体誘導体の追加の特長は、NK細胞を活性化させてADCCを媒介する能力である。この機構は、HIV感染細胞を効率良くかつ迅速に除去するために重要であり、HIVへの曝露および獲得に対し非感染対象の保護を与える。Euler Z, et al., AIDS Res Hum Retroviruses 2015;31(1):13-24を参照されたい。
【0154】
当技術分野で既に報告された試験を用いて、本発明の抗体誘導体のADCC活性を評価した。Alpert M, et al., J. Virol. 2012, 86:12039-12052を参照されたい。このアッセイでは、HIVで感染されたレポーター細胞株におけるルシフェラーゼの発現の減少によって、NK細胞の殺傷能を測定する。CCR5配列およびT-20配列を含有する抗体誘導体(分子5)のADCCを誘導する能力を、CD4-IgG1融合タンパク質(すなわち分子6、変異型Fc断片を含有)およびeCD4-IgG1融合タンパク質(分子1)と比較した。HIV BaL分離株で感染された細胞に対する用量応答カーブの分析は、分子1およびIgGb12のIC50値がそれぞれ71.4および66.2ng/mLであったことを示し、一方で、変異型Fc残基を含有する分子は、より低いIC50値を示した。分子6および分子5は、それぞれIC50値15.0および14.9ng/mLでHIV感染細胞を破壊した。図5を参照されたい。これらのデータは、抗体のFc領域での変異の添加によってその防御能が著しく増強されることがあることを示唆する。
実施例4
リンカーの長さの最適化およびCCR5配列の役割の分析
【0155】
分子5は、参照のeCD4-IgG1融合タンパク質(分子1)よりも相当に高い抗ウイルス活性(+10,000%)およびADCC(500%)活性を示すとはいえ、それらの活性を増強するために、本発明の抗体誘導体の本来のデザインにさらに別の改変を行うことを提案した。これらの改変の提案とは、(i)リンカーの長さを最適化すること、および(ii)CCR5配列を含むことが、抗体誘導体の抗ウイルス活性およびADCC活性に著しく寄与したか否かを評価することである。上記のプロトコールに従い、抗体誘導体の新しいコレクションを調製した。これらの抗体誘導体は、様々なリンカーの長さを示し、CCR5配列を含むかまたは含まないものである。図6を参照されたい。
実施例5
第2世代の抗体誘導体の抗ウイルス活性
【0156】
標準的な中和アッセイを実施して、実施例2に記載されたような改変型抗体誘導体の抗ウイルス活性を評価した。
【0157】
供試した全ての分子が、NL4-3分離株およびBaL分離株の感染力の遮断に有効であった。NL4-3の中和については、分子5、分子7、および分子8はそれぞれ、同様のIC50値0.06、0.017、および0.031ng/mLという最も高い効能を示した。分子10は、IC501.8ng/mLという最も低い効能を示し、一方、分子11は、IC500.35ng/mLという中間の活性を示した。参照化合物である分子1(eCD4-IgG1)および分子0(CD4-IgG1)についてのIC50値は、それぞれ1.2および8.9ng/mLであった。注目すべきは、分子5、分子7、および分子8が、分子1よりも強力であったことである。例として、分子7は、NL4-3ウイルスについて分子1よりも1000%強力であった。図7(a);表2を参照されたい。
【0158】
同様の結果がBaL分離株について観察された。抗ウイルス活性の序列は、分子7≦分子8≦分子5<分子11<分子1(eCD4-IgG1)<分子10であった。やはり分子7は、IC50値0.005ng/mLという最も高い効能を示し、この値は、分子1(eCD4-IgG1)参照タンパク質よりも20,000%強力なものである。図7(b);表2を参照されたい。
【0159】
重要なことに、本発明による改変型抗体誘導体(すなわち分子7、分子5、分子11、および分子8)のみが、AC10分離株に対する抗ウイルス活性を示した。分子7は、IC50値1.3ng/mLという最も高い抗ウイルス活性を示し、一方で、分子8および分子5は、2倍/3倍低い効能を示したが、その効能は、依然として分子1(eCD4-IgG1、IC50>100ng/mLを示した)よりもはるかに高いものであった。図7(c);表2を参照されたい。
【0160】
上記のデータは、分子5と分子7のどちらも同様の抗ウイルス活性を示したことから、驚くべきことにCCR5配列が抗ウイルス活性に必要ではない可能性があるということを示唆する。CCR5配列は、抗ウイルス活性にメリットを与えるというよりも、スペーサー配列としての役割を果たす可能性がある。このことは、CCR5のN末端領域とgp120との相互作用の親和性が、CD4のgp120に対するまたはT-20ポリペプチドのgp41に対する親和性に比べて低いことに一致するということもあり得る。さらに、これらの結果はまた、(a)リンカーの長さがそれ自体で、または(b)Fc領域に導入される変異との組合せのどちらかで、本発明の抗体誘導体の抗ウイルス活性への効果を及ぼすことを示す。この性質は、3つ全ての分離株について分子5および分子8と分子1とでIC50値を比較することによって示唆されるものと思われ、この比較では、リンカーを含むがCCR5配列を含まない変異型タンパク質(分子8)が、リンカーおよびCCR5配列を含む変異型タンパク質(分子5)に匹敵する効能と、リンカーを含まない非変異型タンパク質(分子1)よりもはるかに高い効能とを有することが示されている。図7(a)~(c);表2を参照されたい。
【0161】
【表2】
【0162】
実施例6
第2世代の抗体誘導体の抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性
【0163】
改変型抗体誘導体のADCC活性を、実施例3に記載のプロトコールに従って評価した。
【0164】
分子5、分子7、および分子8がADCC活性を誘導する能力を、eCD4-IgG1(分子1)および中和抗体IgGb12と比較した。HIV BaL分離株で感染された細胞に対する用量応答カーブの分析では、分子5、分子7、および分子8が、それぞれIC50値14.9、23.8、および14.3ng/mLという同様の効能を有していたことが示された。一方、参照分子である分子1およびIgGb12は、それぞれIC50値71.4および66.2ng/mLを示し、このことは、それらが分子5、分子7、および分子8よりも効能が低いことを示す。図8を参照されたい。
【0165】
やはりこれらの結果は、抗体誘導体のFc領域に導入された変異が、ADCC活性を増強することを示唆する。分子5および分子8は、分子1よりも500%強力であり、一方、分子7は、分子1よりも300%強力である。
【0166】
抗体誘導体の抗ウイルスまたは中和ADCC活性の増加の特徴をさらに明らかにするために、周知のHIVサブタイプBウイルスのパネルに対し、分子5、分子7、および分子8を分析した。前掲Li, 2005を参照されたい。分子0および分子1を比較の目的で再度使用した。概要を述べると、分子0は、低い抗ウイルス活性を示し、初代分離株を100ng/mLで中和することができなかった。分子1は、僅かに高い活性を示したが、パネルのたった1つのウイルスを100ng/mL未満で中和したに過ぎなかった。図9を参照されたい。それに対して、分子5、分子7、および分子8は、全ての初代分離株を、1から25ng/mLまでに及ぶIC50値で遮断することができた。図10を参照されたい。
実施例7
抗レトロウイルス薬との組合せた抗体誘導体の抗ウイルス活性
【0167】
実施例2に記載されたように、標準的な中和アッセイを実施して、様々な濃度の以下の抗レトロウイルス薬:3TC/ラミブジン、エファビレンツ(EFV)、およびラルテグラビル(RAL)の存在下における、分子5のHIV分離株NL4-3に対する抗ウイルス活性を評価した。以下の濃度の抗レトロウイルス薬の存在下における分子5のIC50値を決定した(濃度幅:0.02から0.00001μg/mL)。
3TC-40、8、1.6、0.32、0.064、0.013、0.0026、および0.0005μM;
EFV-0.1、0.02、0.004、0.0008、0.0002、0.00003、0.000006、および0.000001μM;ならびに
RAL-0.05、0.01、0.002、0.0004、0.00008、0.00002、0.000003、および0.0000006μM。
【0168】
分子5は、高いpg/mLの範囲のIC50(104pg/mLが検出の最低値であり、一方、257pg/mLが最高である)で、全ての場合においてHIV感染力を有効に遮断した。図11(a)~(c)を参照されたい。
実施例8
抗体誘導体のウイルス不活化活性
【0169】
抗体誘導体によって誘導されるHIVの不可逆的な不活化を評価するために、高い感染性を有するHIV BaLウイルスのストックを、DMEM培養培地中、分子5の希釈系列(濃度範囲:0.7μg/mLから0.7pg/mL)または分子7のC34誘導体(濃度範囲:1μg/mLから1pg/mL)と共にインキュベーションした。37℃での1時間のインキュベーション後、試料をDMEMで希釈して、LentiX Concentrator試薬(Takara/Clontech Laboratories, Inc.、マウンテンビュー、カリフォルニア州、米国)を添加することによって、ウイルスおよび可溶性タンパク質を分離した。混合物を4℃で30分間インキュベーションし、続いて、4℃、1,500×gで45分間遠心分離した。上清を除去し、ウイルスのペレットをDMEMに再懸濁した。処理されたウイルスの感染力を、TZM-bl細胞における力価測定によって分析した。Li M, et al., J. Virol. 2005; 79:10108-10125を参照されたい。TCID50値を各調製物について算出し、処理されたウイルスの残存の感染力を評価した。
【0170】
供試された分子はどちらも、BaLウイルスのストックの感染力を不可逆的に不活化するのに有効であり、分子5について、および分子7のC34誘導体について、それぞれIC50値0.055および0.044μg/mLであった。特筆すべきことに、どちらのタンパク質も、0.1μg/mLよりも高い濃度では、ウイルス感染力は検出されなかった。したがって、5logを超えるウイルス感染力価の低減が達成された。図12を参照されたい。
実施例9
異なるgp41ペプチドを提示する抗体誘導体の抗ウイルス活性
【0171】
サイレント変異を分子5および分子7の完全配列に導入し、T20配列(配列番号28)を切り出せるようにした。この配列を以下の配列:T1249(配列番号29)、C34(配列番号30)、およびT2635(配列番号31)に置換した。
【0172】
上記に記載されたようにHEK-293T細胞の一過的トランスフェクションによって分子を生産し、これら新しい分子5および分子7の誘導体の抗ウイルス活性を評価するために、標準的な中和アッセイを実施した。上記抗ウイルス活性は、実験室仕様の分離株および初代分離株を含む、HIV SVBPサブタイプB分離株のパネルに対するものである。図13を参照されたい。
【0173】
分子5および分子7の誘導体である分子5-T-1249、分子5-C34、分子5-T-2635、分子7-T-1249、分子7-C34および分子7-T-2635全てが、pg/mLまたはng/mLの幅のIC50で、全ての場合においてHIV感染力を有効に遮断しており、対照分子である分子1または分子6よりも高い効能および適用範囲を示した。図13を参照されたい。
実施例10
異なるヒトIgG配列を提示する抗体誘導体の抗ウイルス活性
【0174】
KpnIおよびNheI制限部位を分子5および分子7のC34誘導体の完全配列に導入して、点変異G236A、S239D、A330L、およびI332Eを有するヒトIgGのFc部分(配列番号25)を切り出せるようにした。この配列を野生型ヒトIgG1(配列番号24)、ヒトIgG2、ヒトIgG3、およびヒトIgG4配列に置換した。
【0175】
上記に記載されたようにHEK-293T細胞の一過的トランスフェクションによって分子を生産し、抗ウイルス活性を評価するために、標準的な中和アッセイを実施した。上記抗ウイルス活性は、NL4-3ウイルスおよびBaLウイルス(新しい分子5誘導体に用いる)に対するもの、ならびに新しい分子7誘導体に用いる実験室仕様の分離株および中和の困難な初代分離株を含む、HIV SVBPサブタイプB分離株のパネルに対するものである。
【0176】
分子5誘導体である分子5-IgG1、分子5-IgG2、分子5-IgG3、および分子5-IgG4の全てが、pg/mLまたはng/mLの幅のIC50で、全ての場合においてHIV感染力を同様に有効に遮断しており、このことは効能が同様であることを示す。表3を参照されたい。分子7誘導体である分子7-IgG1、分子7-IgG2、分子7-IgG3、および分子7-IgG4の全てが、pg/mLまたはng/mLの幅のIC50で、全ての場合においてHIV感染力を同様に有効に遮断しており、このことは効能および適用範囲が同様であることを示す。図14を参照されたい。
【0177】
【表3】
実施例11
In vivoにおける抗体誘導体のAAV媒介性発現
【0178】
NSGマウス(Jackson Laboratory、バーハーバー、メイン州、米国)を、特殊な病原体不含(SPF)条件下で同胞交配によって維持した。
【0179】
これらの動物で抗体誘導体の安定な発現を誘導するために、分子5(配列番号37)、分子6(配列番号38)、分子7(配列番号39)、および分子8(配列番号40)をコードする配列を、AAV8発現プラスミド(CBATEG、Universitat Autonoma de Barcelona、バルセロナ、スペイン)内にクローニングした。1×1011個のウイルス粒子を40μLの100mMクエン酸ナトリウム、10mM Tris、pH8緩衝液中に希釈し、8週齢のマウスの腓腹筋内に注射した。同時に、マウスを、健常人から単離された10,000,000個のPBMCの腹腔内注射によってヒト化した。2週間後、マウスを、10,000TCID50のNL4-3 HIVウイルス分離株の腹腔内注射によって感染させた。血液試料を毎週収集し、Perfect Countビーズ(Cytognos SL、サラマンカ、スペイン)を以下の抗体:抗ヒトCD45-V450、CD3-APC/Cγ7、CD4-APC、CD8-V500、CD14-PerCP/Cγ5.5、CD56-PE、CD16-Fitc、および抗マウスCD45PE/Cγ7と組み合わせて使用して、CD4+T細胞およびCD8+T細胞のカウントをフローサイトメトリーによって分析した。試料を、LSRIIフローサイトメーター(BD Biosciences Corp.、フランクリンレイクス、ニュージャージー州、米国)を使用して解析した。また、上に記載のELISAアプローチを用いて、抗体誘導体レベルについて試料をアッセイした。感染から3週間後、マウスを屠殺し、血液試料および組織試料を収集した。試料をフローサイトメトリーによって分析し、ウイルス負荷および総HIV DNAをqPCRによって決定した。
【0180】
抗体誘導体の検出レベルは、AAV処置の2週間後および3週間後、無処置群に比べて、処置動物の多くに見られた。さらに、発現レベルは全ての動物で安定であった。図15(a)および図15(b)を参照されたい。
実施例12
プラスミド性ベクターを用いる受動免疫のプロトコール
【0181】
NSG マウス(Jackson Laboratory、バーハーバー、メイン州、米国)を、特殊な病原体不含(SPF)条件下で同胞交配によって維持した。
【0182】
プラスミドpABT-5、pABT-7、およびpABT-8を、EndoFree Plasmid Kits(Qiagen NV、フェンロー、オランダ)を使用してエンドトキシン不含条件で生産した。in vivoで抗体誘導体を一過的に発現するため、プラスミドを筋肉内注射または静脈内注射によってNGSマウスに投与した。プラスミド投与後、血液試料を毎週収集し、上に記載のELISAアプローチを使用して、抗体誘導体レベルについてアッセイした。プラスミド投与から4週間後、マウスを屠殺し、血液試料および組織試料を収集して、抗体誘導体レベルおよび抗イディオタイプ抗体について分析した。
実施例13
分子5のin vivo活性
【0183】
分子5を、HEK-293T細胞の大量培養で一過的トランスフェクションによって生産した。CaptureSelect FcXL Affinity Matrix(Thermo Fisher Scientific、ウォルサム、マサチューセッツ州、米国)カラムに上清をロードして結合タンパク質をグリシン緩衝液pH=3.5で溶出したのち、組換えタンパク質が精製された。pH中和、透析および濃縮の後、高純度の5mg/mLのストックを得た。
【0184】
NSG免疫不全マウスを、健常人から単離された10,000,000個のPBMCの腹腔内注射によってヒト化した。2週間後、10,000TCID50のNL4-3 HIVウイルス分離株の静脈内注射によって、マウスを感染させた。感染の24時間前および24時間後に、200μL中の精製した0.5mgの分子5を用いて、または同じ体積のPBSを用いて、腹腔内注射によってマウスを処置した。血液試料を、感染の1週間後に上顎静脈の穿刺によって収集し、加工処理して血漿試料を取得し、この血漿試料を、Abbott Real Time HIV-1(Abbott Laboratories、アボットパーク、イリノイ州、米国)を使用して、ウイルス血症のレベルについてアッセイした。分子5で処置した動物は、感染の1週間後、無処置の動物よりも著しく低いレベルのウイルス血症を示した。図16を参照されたい。
実施例13
HIV Envグロコタンパク質の検出
【0185】
本発明の抗体誘導体が試料中のHIVタンパク質を特定する能力を評価するために、HIV分離株NL4-3またはBaLを用いて慢性的に感染させたMOLT細胞を、量を増加させた分子5と共にインキュベーションした。これらの細胞に結合していた抗体を、蛍光色素フィコエリスリンと連係させたマウス抗ヒトIgG抗体(PE/Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.、ウェストグローブ、ペンシルバニア州、米国)を用いて明らかにし、LSRIIフローサイトメーター(BD Biosciences Corp.、フランクリンレイクス、ニュージャージー州、米国)で、フローサイトメトリーによって分析した。
【0186】
分子5は、両方のHIV感染細胞に親和性の高い飽和した結合を示した。図17を参照されたい。
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18
図19
図20