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特許6991139パラジウムめっき浴組成物および無電解パラジウムめっき方法
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  • 特許-パラジウムめっき浴組成物および無電解パラジウムめっき方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】パラジウムめっき浴組成物および無電解パラジウムめっき方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/44 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
C23C18/44
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018527088
(86)(22)【出願日】2016-11-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 EP2016079008
(87)【国際公開番号】W WO2017089610
(87)【国際公開日】2017-06-01
【審査請求日】2019-10-21
(31)【優先権主張番号】15196799.9
(32)【優先日】2015-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】300081877
【氏名又は名称】アトテツク・ドイチユラント・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Atotech Deutschland GmbH
【住所又は居所原語表記】Erasmusstrasse 20, D-10553 Berlin, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ズーヘントルンク
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ベック
(72)【発明者】
【氏名】ゲアハート シュタインベアガー
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー ベーラ
(72)【発明者】
【氏名】ハイコ ブルナー
(72)【発明者】
【氏名】ベアント フレーゼ
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-168578(JP,A)
【文献】特開2009-155668(JP,A)
【文献】特開平05-039580(JP,A)
【文献】特開2007-092092(JP,A)
【文献】特開2008-266668(JP,A)
【文献】特表2017-510711(JP,A)
【文献】特表2014-528518(JP,A)
【文献】特表2016-506449(JP,A)
【文献】特開平08-264372(JP,A)
【文献】特表2015-524024(JP,A)
【文献】特開2007-009250(JP,A)
【文献】特開平02-170982(JP,A)
【文献】米国特許第04255194(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解パラジウム析出用の水性めっき浴組成物であって、
(i) 少なくとも1種のパラジウムイオン供給源と、
(ii) パラジウムイオンのための少なくとも1種の還元剤と、
(iii) 3-メチルブタ-3-エン-1-オール、プロパ-2-イン-1-オール、3-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)プロパン-1-スルホン酸、3-(プロパ-2-イン-1-イルアミノ)プロパン-1-スルホン酸、4-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)ブタン-1-スルホン酸、4-(ブタ-3-イン-1-イルオキシ)ブタン-1-スルホン酸、2-(ピリジン-3-イル)ブタ-3-イン-2-オール、2-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)エタン-1-オール、2-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)酢酸および2-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)プロパン酸を含む群から選択される少なくとも1種の不飽和化合物とを含むとともにさらに、
第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンからなる群から選択される、パラジウムイオンのための少なくとも1種の錯化剤
を含む、水性めっき浴組成物。
【請求項2】
記少なくとも1種の不飽和化合物は、0.01~500mg/lの範囲の濃度を有する、請求項1に記載の水性めっき浴組成物。
【請求項3】
pH値は、4~7の範囲にある、請求項1または2に記載の水性めっき浴組成物。
【請求項4】
前記無電解めっき浴における前記パラジウムイオンのための錯化剤とパラジウムイオンとのモル比は、0.5:1~50:1の範囲にある、請求項1記載の水性めっき浴組成物。
【請求項5】
前記パラジウムイオンのための少なくとも1種の還元剤は、次亜リン酸、アミンボラン、ホウ化水素、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ギ酸、前述のものの誘導体およびそれらの塩を含む群から選択される、請求項1からまでのいずれか1項記載の水性めっき浴組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1種の還元剤の濃度は、10~1000ミリモル/lの範囲にある、請求項1からまでのいずれか1項記載の水性めっき浴組成物。
【請求項7】
無電解パラジウムめっき方法であって、
(a) 基材を準備するステップと、
(b) 前記基材と請求項1からまでのいずれか1項記載の水性めっき浴組成物とを接触させて、前記基材の少なくとも一部にパラジウム層を析出させるステップと
を含む方法。
【請求項8】
前記基材と前記水性めっき浴組成物とを、ステップb)において30~65℃の温度で接触させる、請求項記載の無電解パラジウムめっき方法。
【請求項9】
任意の水性無電解パラジウム析出浴の寿命の間ずっと析出速度が満足のいく範囲となるように調整するための方法であって、
c) 任意の水性無電解パラジウム析出浴を準備するステップと、
d) 前記無電解パラジウム析出浴に、請求項1に定義された少なくとも1種の不飽和化合物を加えるステップと、
e) それによって前記水性無電解パラジウム析出浴の析出速度を低下させるステップと
を含む方法。
【請求項10】
さらに、以下のステップ:
c.i) ステップc)による前記水性無電解パラジウム析出浴内の前記少なくとも1種の不飽和化合物の析出速度および/または濃度を測定するステップ、
c.ii) ステップc.i)によって測定した前記少なくとも1種の不飽和化合物の析出速度および/または濃度の値を、予め設定された対応する閾値と比較するステップ、
c.iii) 前記少なくとも1種の不飽和化合物の析出速度および/または濃度の値の、それらの対応する閾値からの偏差を求めるステップ、
c.iv) ステップc.iii)によって求めた前記偏差を、ステップd)で前記水性無電解パラジウム析出浴に加えるべき前記少なくとも1種の不飽和化合物の量と相関させるステップ
を1つまたは複数含む、請求項記載の析出速度を調整するための方法。
【請求項11】
任意の水性無電解パラジウム析出浴組成物を望ましくない分解に対して安定化するための、
任意の水性無電解パラジウム析出浴組成物の寿命を拡張するための、
任意の水性無電解パラジウム析出浴組成物の、汚染物に対する感受性を低下させるための、および/または
任意の水性無電解パラジウム析出浴の寿命の間ずっと析出速度が満足のいく範囲となるように調整するための、
請求項1に定義された少なくとも1種の不飽和化合物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、プリント回路基板、IC基板の製造におけるおよび半導体ウェハのメタライゼーションのための、水性パラジウムめっき浴組成物および無電解パラジウムめっき方法に関する。
【0002】
発明の背景
プリント回路基板、IC基板などの製造および半導体ウェハのメタライゼーションにおける無電解パラジウム析出は、確立された技術である。パラジウム層は、例えばバリア層および/またはワイヤボンディング可能でかつはんだ付け可能な仕上げとして使用される。
【0003】
米国特許第5,882,736号明細書(US 5,882,736)には、パラジウムイオン供給源と、窒素含有錯化剤と、ギ酸およびその誘導体から選択される還元剤とを含む無電解パラジウムめっき浴組成物が開示されている。こうした無電解パラジウムめっき浴組成物は、パラジウム-リン合金層の生成を招く次亜リン酸塩を還元剤として含有するめっき浴組成物とは対照的に、純パラジウムの析出に適している。
【0004】
パラジウムは高価であり、また例えば内部応力や、上にパラジウム層を析出させる下地基材への密着性が高いといった、予想され得る特性を示すパラジウム析出層が必要とされることから、こうしためっき浴組成物の重要な特徴の1つとして、パラジウムイオンを含有するめっき浴組成物の安定性が挙げられる。
【0005】
こうしためっき浴の安定性とは、めっき浴が、分解、つまりめっき浴自体における金属パラジウムの望ましくない沈殿に対して安定であることを意味する。したがって、安定しためっき浴は、不安定なめっき浴よりも長寿命である。それと同時に、こうしためっき浴からのパラジウムの析出速度は、パラジウムの工業的なめっき方法についての要求を満たすのに十分な高さであることが望ましい。したがって、析出速度を満足のいく値に保ちつつ無電解パラジウムめっき浴を安定化させることが依然として求められている。
【0006】
本発明の目的
本発明の一目的は、望ましくない分解に対するめっき浴の安定性を向上させたパラジウムめっき浴組成物および無電解パラジウムめっき方法を提供することである。本発明のもう1つの目的は、析出速度を満足のいく所望の値に保つことを可能にするパラジウムめっき浴組成物および無電解パラジウムめっき方法を提供することである。本発明のもう1つの目的は、めっき浴の寿命を増加させることができるパラジウムめっき浴組成物および無電解パラジウムめっき方法を提供することである。
【0007】
発明の概要
前記目的は、無電解パラジウム析出用の水性めっき浴組成物であって、
(i) 少なくとも1種のパラジウムイオン供給源と、
(ii) パラジウムイオンのための少なくとも1種の還元剤と、
(iii) 式(I)および(II)
【化1】
[式中、
R1、R3、R5は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;および非置換のまたは置換されたアリール基からなる群から選択され;かつ
R2、R4は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基;および-(CH(R10))-X-(C(R9)(R8))-R7からなる群から選択され;ここで、R4が-Hである場合にはR2は-Hではなく、R2が-Hである場合にはR4は-Hではなく;かつ
R6は、非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基;および-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、
Xは、O、NHおよびNCHからなる群から選択され;R7は、ヒドロキシル、アミノ、スルホン酸、カルボキシルからなる群から選択され;R8、R9、R10は、互いに独立して、水素およびC~C-アルキル基からなる群から選択され;nは、1~6の範囲の整数であり;かつmは、1~8の範囲の整数であり、かつ
置換された直鎖状C~C20-アルキル基の置換基;置換された分岐状C~C20-アルキル基の置換基;または置換されたアリール基の置換基は、互いに独立して、ヒドロキシル基、アルデヒド基、スルホン酸基、メルカプト基、メトキシ基、エトキシ基、ハロゲン基、アリル基、ビニル基、フェニル基、ピリジル基およびナフチル基からなる群から選択される]による化合物、それらの塩および前述のものの混合物から選択される少なくとも1種の不飽和化合物と
を含む水性めっき浴組成物により解決される。
【0008】
前記目的はさらに、無電解パラジウムめっき方法であって、
(a) 基材を準備するステップと、
(b) 前記基材と上記の水性めっき浴組成物とを接触させて、前記基材の少なくとも一部にパラジウム層を析出させるステップと
を含む方法によって解決される。
【0009】
本発明による水性めっき浴組成物を、本明細書では組成物または本発明による組成物と呼ぶ。「めっき」および「析出」という用語を、本明細書では互換的に用いる。
【0010】
式(I)および(II)による不飽和化合物によって、本発明による水性めっき浴組成物に、望ましくない分解に対する安定性の向上と、寿命の延長とがもたらされる。したがって、式(I)および(II)による不飽和化合物は、無電解パラジウム析出用の水性めっき浴組成物において安定剤として作用する。さらに、式(I)および(II)による不飽和化合物によって、本発明による水性めっき浴組成物に、汚染物に対する感受性の低下がもたらされる。さらに、無電解パラジウムめっき方法において水性めっき浴組成物の性能が安定していることによって、延長された期間中ずっと所望の物理的特性を示すパラジウム層を析出させることが可能となる。さらに、式(I)および(II)による不飽和化合物を無電解パラジウムめっき浴に加えることで、この浴の寿命の間ずっと析出速度を満足のいく値に保つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1に、プロパ-2-エン-1-オールまたは3-メチルブタ-3-エン-1-オールを含有する水性めっき浴組成物の析出速度を示す。
図2図2に、3-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)プロパン-1-スルホン酸を含有する水性めっき浴組成物の析出速度を示す。
図3図3に、2-(ピリジン-3-イル)ブタ-3-イン-2-オールを含有する水性めっき浴組成物の析出速度を示す。
図4図4に、式(I)および(II)による不飽和化合物を含有する水性めっき浴組成物のpH推移と、該化合物を含有しない水性めっき浴組成物のpH推移とを示す。
【0012】
発明の詳細な説明
本明細書は、無電解パラジウム析出用の水性めっき浴組成物であって、
(i) 少なくとも1種のパラジウムイオン供給源と、
(ii) パラジウムイオンのための少なくとも1種の還元剤と、
(iii) 式(I)および(II)
【化2】
[式中、
R1、R3、R5は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;および非置換のまたは置換されたアリール基からなる群から選択され;かつ
R2、R4は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基;および-(CH(R10))-X-(C(R9)(R8))-R7からなる群から選択され;ここで、R4が-Hである場合にはR2は-Hではなく、R2が-Hである場合にはR4は-Hではなく;かつ
R6は、非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基;および-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、
Xは、O、NHおよびNCHからなる群から選択され;R7は、ヒドロキシル、アミノ、スルホン酸、カルボキシルからなる群から選択され;R8、R9、R10は、互いに独立して、水素およびC~C-アルキル基からなる群から選択され;nは、1~6の範囲の整数であり;かつmは、1~8の範囲の整数である]による化合物、それらの塩および前述のものの混合物から選択される少なくとも1種の不飽和化合物と
を含む水性めっき浴組成物に関する。
【0013】
本発明による水性めっき浴組成物は好ましくは、
(iii) 式(I)および(II)
【化3】
[式中、
R1、R3、R5は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;および非置換のまたは置換されたアリール基からなる群から選択され;かつ
R2、R4は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基;および-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、R4が-Hである場合にはR2は-Hではなく、R2が-Hである場合にはR4は-Hではなく;かつ
R6は、非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基;および-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、
Xは、O、NHおよびNCHからなる群から選択され;R7は、ヒドロキシル、アミノ、スルホン酸、カルボキシルからなる群から選択され;R8、R9、R10は、互いに独立して、水素およびC~C-アルキル基からなる群から選択され;nは、1~6の範囲の整数であり;かつmは、1~8の範囲の整数であり、かつ
置換された直鎖状C~C20-アルキル基の置換基;置換された分岐状C~C20-アルキル基の置換基;または置換されたアリール基の置換基は、互いに独立して、ヒドロキシル基、アルデヒド基、スルホン酸基、メルカプト基、メトキシ基、エトキシ基、ハロゲン基、アリル基、ビニル基、フェニル基、ピリジル基およびナフチル基からなる群から選択される]による化合物、それらの塩および前述のものの混合物から選択される少なくとも1種の不飽和化合物を含む。
【0014】
一実施形態において、(iii)による少なくとも1種の不飽和化合物は、式(I)または式(II)による化合物、それらの塩および前述のものの混合物から選択され、ここで、式(I)による化合物は、好ましくはシス配置である。したがって、R3およびR4が-Hである場合には、R1およびR2は-Hではなく、またその逆にR3およびR4が-Hではない場合には、R1およびR2は-Hである。
【0015】
もう1つの実施形態において、
R1、R3、R5は、互いに独立して、-H;非置換の直鎖状C~C20-アルキル基;非置換の分岐状C~C20-アルキル基;および非置換アリール基からなる群から選択され;かつ
R2、R4は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基;および-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、R4が-Hである場合にはR2は-Hではなく、R2が-Hである場合にはR4は-Hではなく;かつ
R6は、非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基;および-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、
Xは、OおよびNHからなる群から選択され;R7は、ヒドロキシル、アミノ、スルホン酸、カルボキシルからなる群から選択され;R8、R9、R10は、互いに独立して、水素およびC~C-アルキル基からなる群から選択され;nは、1~6の範囲の整数であり;かつmは、1~8の範囲の整数である。
【0016】
もう1つの実施形態において、
R1、R3、R5は、-Hであり;かつ
R2、R4は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基;および-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、R4が-Hである場合にはR2は-Hではなく、R2が-Hである場合にはR4は-Hではなく;かつ
R6は、非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基;および-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、
Xは、OおよびNHからなる群から選択され;R7は、ヒドロキシル、アミノ、スルホン酸、カルボキシルからなる群から選択され;R8、R9、R10は、互いに独立して、水素およびC~C-アルキル基からなる群から選択され;nは、1~6の範囲の整数であり;かつmは、1~8の範囲の整数である。
【0017】
もう1つの実施形態において、
R1、R3、R5は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;および非置換のまたは置換されたアリール基からなる群から選択され;かつ
R2、R4は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;および非置換のまたは置換されたアリール基からなる群から選択され;ここで、R4が-Hである場合にはR2は-Hではなく、R2が-Hである場合にはR4は-Hではなく;かつ
R6は、非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基からなる群から選択される。
【0018】
もう1つの実施形態において、
R1、R3、R5は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;および非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基からなる群から選択され;かつ
R2、R4は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;および非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;および-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、R4が-Hである場合にはR2は-Hではなく、R2が-Hである場合にはR4は-Hではなく;かつ
R6は、非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;および-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、
Xは、OおよびNHからなる群から選択され;R7は、ヒドロキシル、アミノ、スルホン酸、カルボキシルからなる群から選択され;R8、R9、R10は、互いに独立して、水素およびC~C-アルキル基からなる群から選択され;nは、1~6の範囲の整数であり;かつmは、1~8の範囲の整数である。
【0019】
もう1つの実施形態において、(iii)による少なくとも1種の不飽和化合物は、式(I)による化合物、それらの塩および前述のものの混合物から選択され、かつ
R1、R3は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;および非置換のまたは置換されたアリール基からなる群から選択され;かつ
R2、R4は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C20-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基;および-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、R4が-Hである場合にはR2は-Hではなく、R2が-Hである場合にはR4は-Hではなく;かつ
Xは、OおよびNHからなる群から選択され;R7は、ヒドロキシル、アミノ、スルホン酸、カルボキシルからなる群から選択され;R8、R9、R10は、互いに独立して、水素およびC~C-アルキル基からなる群から選択され;nは、1~6の範囲の整数であり;かつmは、1~8の範囲の整数である。
【0020】
好ましい一実施形態において、
R1、R3、R5は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C10-アルキル基、より好ましくは、非置換のまたは置換された直鎖状C~C-アルキル基;さらにより好ましくは、n-ペンチル基、n-ブチル基、n-プロピル基、エチル基およびメチル基、最も好ましくはn-プロピル基、エチル基およびメチル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C10-アルキル基、より好ましくは、非置換のまたは置換された分岐状C~C-アルキル基;さらにより好ましくは、2-ペンチル(s-ペンチル)基、3-ペンチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル(イソペンチル)基、3-メチルブタ-2-イル基、2-メチルブタ-2-イル基、2,2-ジメチルプロピル(ネオペンチル)基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソプロピル基;最も好ましくは、2-ペンチル(s-ペンチル)基、3-ペンチル基、3-メチルブタ-2-イル基、2-メチルブタ-2-イル基、2,2-ジメチルプロピル、s-ブチル基、t-ブチル基およびイソプロピル基;ならびに非置換のまたは置換されたアリール基からなる群から選択され;かつ
R2、R4は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C10-アルキル基、より好ましくは、非置換のまたは置換された直鎖状C~C-アルキル基;さらにより好ましくは、n-ペンチル基、n-ブチル基、n-プロピル基、エチル基およびメチル基、最も好ましくはn-プロピル基、エチル基およびメチル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C10-アルキル基、より好ましくは、非置換のまたは置換された分岐状C~C-アルキル基;さらにより好ましくは、2-ペンチル(s-ペンチル)基、3-ペンチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル(イソペンチル)基、3-メチルブタ-2-イル基、2-メチルブタ-2-イル基、2,2-ジメチルプロピル(ネオペンチル)基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソプロピル基;最も好ましくは、2-ペンチル(s-ペンチル)基、3-ペンチル基、3-メチルブタ-2-イル基、2-メチルブタ-2-イル基、2,2-ジメチルプロピル、s-ブチル基、t-ブチル基およびイソプロピル基;非置換のまたは置換されたアリール基;ならびに-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、R4が-Hである場合にはR2は-Hではなく、R2が-Hである場合にはR4は-Hではなく;かつ
R6は、非置換のまたは置換された直鎖状C~C10-アルキル基、より好ましくは、非置換のまたは置換された直鎖状C~C-アルキル基;さらにより好ましくは、n-ペンチル基、n-ブチル基、n-プロピル基、エチル基およびメチル基、最も好ましくはn-プロピル基、エチル基およびメチル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C10-アルキル基、より好ましくは、非置換のまたは置換された分岐状C~C-アルキル基;さらにより好ましくは、2-ペンチル(s-ペンチル)基、3-ペンチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル(イソペンチル)基、3-メチルブタ-2-イル基、2-メチルブタ-2-イル基、2,2-ジメチルプロピル(ネオペンチル)基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソプロピル基;最も好ましくは、2-ペンチル(s-ペンチル)基、3-ペンチル基、3-メチルブタ-2-イル基、2-メチルブタ-2-イル基、2,2-ジメチルプロピル、s-ブチル基、t-ブチル基およびイソプロピル基;非置換のまたは置換されたアリール基;ならびに-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、
Xは、OおよびNHからなる群から選択され;R7は、ヒドロキシル、アミノ、スルホン酸、カルボキシルからなる群から選択され;R8、R9、R10は、互いに独立して、水素、メチル基およびエチル基からなる群から選択され、好ましくは水素およびメチル基からなる群から選択され;nは、1~4の範囲の整数であり、好ましくは、nは、1または2であり;かつmは、1~6の範囲の整数であり、好ましくは、mは、1、2、3または4である。
【0021】
もう1つの好ましい実施形態において、
R1、R3、R5は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C-アルキル基;および非置換のまたは置換されたアリール基からなる群から選択され;かつ
R2、R4は、互いに独立して、-H;非置換のまたは置換された直鎖状C~C-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基;および-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、R4が-Hである場合にはR2は-Hではなく、R2が-Hである場合にはR4は-Hではなく;かつ
R6は、非置換のまたは置換された直鎖状C~C-アルキル基;非置換のまたは置換された分岐状C~C-アルキル基;非置換のまたは置換されたアリール基;および-(CH(R10))-X-(C(R8)(R9))-R7からなる群から選択され;ここで、
Xは、OおよびNHからなる群から選択され;R7は、ヒドロキシル、アミノ、スルホン酸、カルボキシルからなる群から選択され;R8、R9、R10は、互いに独立して、水素およびメチル基からなる群から選択され;nは、1または2であり;かつmは、1、2、3または4である。
【0022】
もう1つの実施形態において、R1、R2、R3、R4、R5、R6による非置換のまたは置換されたアリール基は、互いに独立して、フェニル、ピリジルおよびナフチル;好ましくはフェニルおよびピリジル;より好ましくはピリジルからなる群から選択される。
【0023】
もう1つの実施形態において、R7によるアミノ基は、好ましくは、-NH、-NH(R11)、-N(R11)(R12)、-N(R11)(R12)(R13)から選択され、ここで、R11、R12、R13は、互いに独立して、メチル、エチル、n-プロピルおよびイソプロピルから選択される。より好ましくは、R7のアミノ基は、-NH、-NHCH、-N(CH、-N(CH、-NHC、-N(Cまたは-N(Cから選択される。より好ましくは、R7のアミノ基は、-NH、-NHCH、-N(CH、-NHCまたは-N(Cから選択される。
【0024】
好ましくは、R8、R9、R10によるC~C-アルキル基は、非置換である。
【0025】
もう1つの実施形態において、上記実施形態で定義したR1、R2、R3、R4、R5、R6による直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基またはアリール基は、置換されている。好ましくは、R1、R2、R3、R4、R5、R6による直鎖状C~C20-アルキル基;分岐状C~C20-アルキル基;またはアリール基は、置換されている。より好ましくは、置換基は、互いに独立して、ヒドロキシル基、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、スルホン酸基、メルカプト基、メトキシ基、エトキシ基、ハロゲン基、例えばフッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基;アリル基、ビニル基、フェニル基、ピリジル基およびナフチル基からなる群から選択され;より好ましくは、ヒドロキシル基、アルデヒド基、スルホン酸基、メルカプト基、メトキシ基、エトキシ基、ハロゲン基;例えばフッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基;アリル基、ビニル基、フェニル基、ピリジル基およびナフチル基からなる群から選択され;さらにより好ましくは、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、スルホン酸基、メトキシ基、エトキシ基、ハロゲン基、例えばフッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基;フェニル基およびピリジル基からなる群から選択され;さらにより好ましくは、ヒドロキシル基、スルホン酸基、メトキシ基、エトキシ基、ハロゲン基;例えばフッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基;フェニル基およびピリジル基からなる群から選択され;さらにより好ましくは、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、エステル基、フェニル基およびピリジル基からなる群から選択され;さらにより好ましくは、ヒドロキシル基、スルホン酸基、フェニル基およびピリジル基からなる群から選択され;さらにより好ましくは、ヒドロキシル基、アミノ基およびピリジル基からなる群から選択され;最も好ましくは、ヒドロキシル基およびピリジル基からなる群から選択される。
【0026】
もう1つの実施形態において、上記実施形態で定義したR1、R2、R3、R4、R5、R6による直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基またはアリール基は、置換されている。好ましくは、置換基は、互いに独立して、ヒドロキシル基、スルホン酸基、メルカプト基、アリル基、ビニル基、フェニル基、ピリジル基およびナフチル基からなる群から選択され;より好ましくは、ヒドロキシル基、スルホン酸基、メルカプト基、フェニル基、ピリジル基およびナフチル基からなる群から選択され;さらにより好ましくは、ヒドロキシル基、スルホン酸基、メルカプト基およびピリジル基からなる群から選択され;さらにより好ましくは、ヒドロキシル基およびピリジル基からなる群から選択され;最も好ましくは、ヒドロキシル基から選択される。
【0027】
もう1つの実施形態において、上記実施形態で定義したR1、R2、R3、R4、R5、R6による直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基またはアリール基は、置換されており、1つまたは複数の置換基は、少なくとも1つのヒドロキシル基を含む。場合により、上記実施形態で定義したR1、R2、R3、R4、R5、R6による直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基またはアリール基は、さらなる置換基を有していてもよい。好ましくは、これらのさらなる置換基は、互いに独立して、アミノ基、アルデヒド基、カルボキシル基、エステル基、スルホン酸基、メルカプト基、メトキシ基、エトキシ基、ハロゲン基;例えばフッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基;アリル基、ビニル基、フェニル基、ピリジル基およびナフチル基からなる群から選択され;より好ましくは、アルデヒド基、スルホン酸基、メルカプト基、メトキシ基、エトキシ基、ハロゲン基;例えばフッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基;アリル基、ビニル基、フェニル基、ピリジル基およびナフチル基からなる群から選択され;さらにより好ましくは、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、スルホン酸基、メトキシ基、エトキシ基、ハロゲン基;例えばフッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基;フェニル基およびピリジル基からなる群から選択され;さらにより好ましくは、スルホン酸基、メトキシ基、エトキシ基、ハロゲン基;例えばフッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基;フェニル基およびピリジル基からなる群から選択され;さらにより好ましくは、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、エステル基、フェニル基およびピリジル基からなる群から選択され;さらにより好ましくは、スルホン酸基、フェニル基およびピリジル基からなる群から選択され;さらにより好ましくは、アミノ基およびピリジル基からなる群から選択され;最も好ましくは、ピリジル基から選択される。
【0028】
もう1つの好ましい実施形態において、(iii)による少なくとも1種の不飽和化合物は、以下のものを含む群から選択される:
【化4】
【0029】
【化5】
【0030】
より好ましい一実施形態において、(iii)による少なくとも1種の不飽和化合物は、プロパ-2-エン-1-オール、3-メチルブタ-3-エン-1-オール、プロパ-2-イン-1-オール、3-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)プロパン-1-スルホン酸、3-(プロパ-2-イン-1-イルアミノ)プロパン-1-スルホン酸、4-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)ブタン-1-スルホン酸、4-(ブタ-3-イン-1-イルオキシ)ブタン-1-スルホン酸、2-(ピリジン-3-イル)ブタ-3-イン-2-オール、2-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)エタン-1-オール、2-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)酢酸および2-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)プロパン酸を含む群から選択され、さらにより好ましくは、プロパ-2-エン-1-オール、3-メチルブタ-3-エン-1-オール、プロパ-2-イン-1-オール、プロパ-2-イン-1-アミン、3-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)プロパン-1-スルホン酸、2-(ピリジン-3-イル)ブタ-3-イン-2-オールおよび2-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)エタン-1-オールを含む群から選択され;さらにより好ましくは、プロパ-2-エン-1-オール、3-メチルブタ-3-エン-1-オール、プロパ-2-イン-1-オール、3-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)プロパン-1-スルホン酸、2-(ピリジン-3-イル)ブタ-3-イン-2-オールおよび2-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)エタン-1-オールを含む群から選択され;さらにより好ましくは、プロパ-2-エン-1-オール、3-メチルブタ-3-エン-1-オール、3-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)プロパン-1-スルホン酸および2-(ピリジン-3-イル)ブタ-3-イン-2-オールを含む群から選択され;最も好ましくは、プロパ-2-エン-1-オール、3-メチルブタ-3-エン-1-オールおよび2-(ピリジン-3-イル)ブタ-3-イン-2-オールを含む群から選択される。
【0031】
本明細書および特許請求の範囲において「アルキル」という用語が用いられる場合、これは、一般化学式C2n+1を有する炭化水素基を指し、ここで、nは、1~20の整数である。アルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、好ましくは飽和である。例えば直鎖状C~C20-アルキル基とは、全炭素原子数がそれぞれ1~20の範囲にある直鎖状アルキル基を意味する。分岐状C~C20-アルキルと基は、主鎖中の炭素原子と分岐鎖中の炭素原子とを合計すると全炭素原子数がそれぞれ3~20の範囲となる分岐状アルキル基を意味する。直鎖状C~C10-アルキル基または分岐状C~C10-アルキル基には例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルまたはデシルが含まれる。直鎖状C~C-アルキル基または分岐状C~C-アルキル基には例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルまたはヘキシルが含まれ得る。アルキルは置換されていてもよく、この置換は、それぞれの場合において水素原子をR1、R2、R3、R4、R5、R6について上記で概説した置換基で置き換えることによって行われる。
【0032】
本明細書および特許請求の範囲において「アリール」という用語が用いられる場合、これは、環状の芳香族炭化水素基、例えばフェニル、ピリジルまたはナフチルを指す。さらに、アリールは置換されていてもよく、この置換は、それぞれの場合において水素原子をR1、R2、R3、R4、R5、R6について上記で概説した置換基で置き換えることによって行われる。
【0033】
好ましくは、式(I)または(II)による少なくとも1種の不飽和化合物は、本発明による水性めっき浴組成物において0.01~500mg/lの範囲の濃度を有し;好ましくは0.1~250mg/lの範囲の濃度を有し;より好ましくは0.5~250mg/lの範囲の濃度を有し;さらにより好ましくは1~220mg/lの範囲の濃度を有する。一実施形態において、本発明による水性めっき浴組成物中には、式(I)または(II)による少なくとも1種の不飽和化合物が2種以上存在し、個々の各不飽和化合物の濃度は、上記で定義した範囲にある。もう1つの実施形態において、本発明による水性めっき浴組成物中には、式(I)または(II)による少なくとも1種の不飽和化合物が2種以上存在し、すべての不飽和化合物の濃度の合計は、上記で定義した濃度範囲にある。
【0034】
本発明による水性めっき浴組成物は、少なくとも1種のパラジウムイオン供給源を含む。好ましくは、少なくとも1種のパラジウムイオン供給源は、水溶性パラジウム化合物である。より好ましくは、少なくとも1種のパラジウムイオン供給源は、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硫酸パラジウムおよび過塩素酸パラジウムを含む群から選択される。適宜、パラジウム塩と、パラジウムイオンのための錯化剤、好ましくは窒素含有錯化剤とを別個の成分としてめっき浴に加えることによってめっき浴中にパラジウムイオンとこうしたパラジウムイオンのための錯化剤とを含む錯化合物を形成させる代わりに、こうした錯化合物をめっき浴に加えてもよい。パラジウムイオン供給源として適した錯化合物は例えば、パラジウムイオンと、錯化剤;好ましくは窒素含有錯化剤;より好ましくはエタン-1,2-ジアミンおよび/またはアルキル置換エタン-1,2-ジアミンとを含む錯化合物である。適切な錯化合物はさらに、パラジウムイオンに対する対イオン;好ましくは塩化物イオン、酢酸イオン、硫酸イオンまたは過塩素酸イオンを含んでもよい。適切な窒素含有錯化剤およびアルキル置換エタン-1,2-ジアミンを、以下で錯化剤と定義する。好ましくは、パラジウムイオン供給源として適した錯化合物は例えば、ジクロロエタン-1,2-ジアミンパラジウム、ジアセタトエタン-1,2-ジアミンパラジウム;ジクロロN-メチルエタン-1,2-ジアミンパラジウム;ジアセタトN-メチルエタン-1,2-ジアミン;ジクロロN,N-ジメチルエタン-1,2-ジアミン;ジアセタトN,N-ジメチルエタン-1,2-ジアミン;ジクロロN-エチルエタン-1,2-ジアミン;ジアセタトN-エチルエタン-1,2-ジアミン、ジクロロN,N-ジエチルエタン-1,2-ジアミン;およびジアセタトN,N-ジエチルエタン-1,2-ジアミンである。
【0035】
組成物中のパラジウムイオンの濃度は、0.5~500ミリモル/lの範囲にあり、好ましくは1~100ミリモル/lの範囲にある。
【0036】
本発明による水性めっき浴組成物はさらに、パラジウムイオンのための少なくとも1種の還元剤を含む。この還元剤によって、めっき浴が自己触媒めっき浴、すなわち無電解めっき浴となる。パラジウムイオンは、この還元剤の存在下で金属パラジウムに還元される。このめっき機構の点で、本発明によるめっき浴と、1)パラジウムイオンの還元剤を含まない浸漬型パラジウムめっき浴や、2)パラジウム層を析出させるために外部電流を必要とするパラジウムの電気めっき用めっき浴とが区別される。
【0037】
パラジウムイオンのための少なくとも1種の還元剤は、好ましくは化学還元剤である。還元剤は、金属イオンをその金属形態へと還元して基材上に金属析出物を形成させるのに必要な電子を供給する。より好ましくは、パラジウムイオンのための少なくとも1種の還元剤は非金属系還元剤であり、例えば還元剤は、スズ化合物やスズイオンではない。
【0038】
より好ましくは、パラジウムイオンのための少なくとも1種の還元剤は、次亜リン酸、アミンボラン、ホウ化水素、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ギ酸、前述のものの誘導体およびそれらの塩を含む群から選択される。
【0039】
さらにより好ましくは、パラジウムイオンのための少なくとも1種の還元剤は、純パラジウム析出物を析出させるための還元剤である。純パラジウム析出物とは、98.0~99.99重量%またはそれを上回る、好ましくは99.0~99.99重量%またはそれを上回る範囲の量のパラジウムを含有する析出物である。
【0040】
さらにより好ましくは、パラジウムイオンのための少なくとも1種の還元剤は、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ギ酸、前述のものの誘導体およびそれらの塩からなる群から選択される。
【0041】
さらにより好ましくは、パラジウムイオンのための少なくとも1種の還元剤は、ギ酸、ギ酸誘導体および前述のものの塩からなる群から選択される。本発明による水性めっき浴組成物は、還元剤としてのギ酸、前述のものの誘導体および塩の存在下でパラジウム層を析出させるのに特に適している。
【0042】
パラジウムイオンのための少なくとも1種の還元剤の塩に適した対イオンは例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウムから選択される。
【0043】
好ましくは、本発明による水性めっき浴組成物における、パラジウムイオンのための少なくとも1種の還元剤の濃度は、10~1000ミリモル/lの範囲にある。
【0044】
本発明の水性めっき浴組成物は、純パラジウム層の析出に特に適している。純パラジウム層によって、ボンディングやはんだ付けされる接続部の十分な熱安定性が得られることから、純パラジウム層は、モータ制御ユニットのような高温用途に特に適している。
【0045】
純パラジウム層の析出には、次亜リン酸および/またはアミンボランおよび/またはホウ化水素、前述のものの誘導体およびそれらの塩は還元剤として適さない。なぜならば、こうした還元剤を含有するめっき浴組成物からはパラジウム合金層が析出されるためである。
【0046】
本発明による水性めっき浴組成物はさらに、パラジウムのための少なくとも1種の錯化剤を含むことができる。錯化剤(キレート剤と呼ばれる場合もある)は、金属イオンを溶解した状態に保ち、溶液からの金属イオンの望ましくない沈殿を防ぐ。
【0047】
好ましくは、少なくとも1種の錯化剤は、パラジウムイオンのための窒素含有錯化剤である。より好ましくは、少なくとも1種の窒素含有錯化剤は、第1級アミン、第2級アミンおよび第3級アミンを含む群から選択される。さらにより好ましくは、少なくとも1種の窒素含有錯化剤は、ジアミン、トリアミン、テトラアミンおよびそれらの高級同族体を含む群から選択される。さらにより好ましくは、式(I)または(II)による不飽和化合物が、式(I)もしくは(II)による不飽和化合物のうち1つもしくは複数の窒素原子を有するものか、または式(I)もしくは(II)による不飽和化合物のうちアミノ基から選択される1つもしくは複数の置換基を有するものから選択される場合には、少なくとも1種の窒素含有錯化剤は、こうした不飽和化合物とは異なる。逆もまた同様であり、式(I)または(II)による不飽和化合物が、1つもしくは複数の窒素原子を有する不飽和化合物か、またはアミノ基から選択される1つもしくは複数の置換基を有する不飽和化合物から選択される場合には、式(I)または(II)による不飽和化合物は、好ましくは、パラジウムイオンのための少なくとも1種の錯化剤とは異なり、より好ましくは、少なくとも1種の窒素含有錯化剤とは異なる。
【0048】
適切なアミンは例えば、エタン-1,2-ジアミン(NH-CH-CH-NH、エチレンジアミン);アルキル置換エタン-1,2-ジアミン;1,3-ジアミノプロパン;1,2-ビス(3-アミノプロピルアミノ)エタン;ジエチレントリアミン;ジエチレントリアミン五酢酸;N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン;エチレンジアミン-N,N-二酢酸;1,2-ジアミノプロピルアミン;1,3-ジアミノプロピルアミン;3-(メチルアミノ)プロピルアミン;3-(ジメチルアミノ)プロピルアミン;3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン;ビス(3-アミノプロピル)アミン;1,2-ビス-(3-アミノプロピル)アルキルアミン;ジエチレントリアミン;トリエチレンテトラミン;テトラエチレンペンタミン;ペンタエチレンヘキサミンおよびそれらの混合物である。
【0049】
適切なアルキル置換エタン-1,2-ジアミンは例えば、N-メチルエタン-1,2-ジアミン(CH-NH-CH-CH-NH);N,N-ジメチルエタン-1,2-ジアミン(CH-NH-CH-CH-NH-CH);N,N-ジメチルエタン-1,2-ジアミン((CH-N-CH-CH-NH);N,N,N-トリメチルエタン-1,2-ジアミン((CH-N-CH-CH-NH-CH);N,N,N,N-テトラメチルエタン-1,2-ジアミン((CH-N-CH-CH-N-(CH);N-エチルエタン-1,2-ジアミン(C-NH-CH-CH-NH);N,N-ジエチルエタン-1,2-ジアミン(C-NH-CH-CH-NH-C);N-エチル-N-メチルエタン-1,2-ジアミン(C-NH-CH-CH-NH-CH);N-エチル-N-メチルエタン-1,2-ジアミン((CH)(C)-N-CH-CH-NH);N,N-ジエチルエタン-1,2-ジアミン((C-N-CH-CH-NH);N-エチル-N,N-ジメチルエタン-1,2-ジアミン((CH)(C)-N-CH-CH-NH-CH);N,N-ジエチル-N-メチルエタン-1,2-ジアミン((CH)(C)-N-CH-CH-NH-(C));N,N-ジエチル-N-メチルエタン-1,2-ジアミン((C-N-CH-CH-NH-CH);N,N,N-トリエチルエタン-1,2-ジアミン((C-N-CH-CH-NH-C);N-エチル-N,N,N-トリメチルエタン-1,2-ジアミン((CH)(C)-N-CH-CH-N-(CH);N,N-ジエチル-N,N-ジメチルエタン-1,2-ジアミン((CH)(C)-N-CH-CH-N-(CH)(C));N,N-ジエチル-N,N-ジメチルエタン-1,2-ジアミン((C-N-CH-CH-N-(CH);N,N,N-トリエチル-N-メチルエタン-1,2-ジアミン((C-N-CH-CH-N-(CH)(C));N,N,N,N-テトラエチルエタン-1,2-ジアミン((C-N-CH-CH-N-(C)およびそれらの混合物である。
【0050】
好ましくは、本発明の組成物におけるパラジウムイオンのための錯化剤とパラジウムイオンとのモル比は、0.5:1~50:1の範囲にあり、より好ましくは1:1~50:1の範囲にあり、さらにより好ましくは2:1~20:1の範囲にあり、最も好ましくは5:1~10:1の範囲にある。
【0051】
任意に、本発明による水性めっき浴組成物中には、式(I)および(II)による化合物から選択される少なくとも1種の不飽和化合物が、少なくとも1種のさらなる安定剤とともに存在する。安定剤とは安定化剤とも呼ばれ、これは、バルク溶液中の望ましくないアウトプレーティングや自然分解に対して無電解金属めっき溶液を安定化させる化合物である。「アウトプレーティング」という用語は、基材表面以外の表面上への金属の望ましくないおよび/または制御されない析出を意味する。
【0052】
少なくとも1種のさらなる安定剤は、セレン、テルル、銅、ニッケルおよび鉄の元素の化合物ならびに/またはメルカプトベンゾチアゾール、セレノシアネート、チオ尿素、サッカリン、フェロシアネート;4-ニトロ安息香酸;3,5-ジニトロ安息香酸;2,4-ジニトロ安息香酸;2-ヒドロキシ-3,5-ジニトロ安息香酸;2-アセチル安息香酸;4-ニトロフェノールならびにそれらの対応するアンモニウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩を含む群から選択されてよい。
【0053】
好ましくは、本発明による組成物におけるこうしたさらなる安定剤の濃度は、0.01~500mg/lの範囲にあり、より好ましくは0.1~200mg/lの範囲にあり、さらにより好ましくは1~200mg/lの範囲にあり、最も好ましくは10~100mg/lの範囲にある。
【0054】
しかし好ましくは、本発明による水性めっき浴組成物は、セレン、テルル、銅、ニッケル、鉄の元素の化合物ならびに/またはメルカプトベンゾチアゾール、セレノシアネート、チオ尿素およびフェロシアネートを含む群から選択される前述のさらなる安定剤を実質的に含まない。なぜならば、そのようなさらなる安定剤によってパラジウムと同時の析出(例えば銅イオン)が生じて好ましくないパラジウム合金が形成されるか、またはそのようなさらなる安定剤は有毒物質(例えばチオ尿素)であるためである。
【0055】
好ましくは、本発明による水性めっき浴組成物は、酸性めっき浴である。水性めっき浴組成物のpH値は、より好ましくは4~7の範囲にあり、さらにより好ましくは5~6の範囲にある。好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、硫酸およびメタンスルホン酸から選択されるpH調整剤を用いてpHを調整する。
【0056】
本発明はさらに、無電解パラジウムめっき方法であって、
(a) 基材を準備するステップと、
(b) 前記基材と本発明による水性めっき浴組成物とを接触させて、前記基材の少なくとも一部にパラジウム層を析出させるステップと
を含む方法に関する。
【0057】
これらの方法ステップを、上記の順序で行うことが好ましい。好ましくは、基材は金属表面を有する。
【0058】
無電解パラジウムめっきまたは無電解パラジウム析出は好ましくは、金属表面を有する基材と本発明による組成物とを接触させて、この基材の金属表面の少なくとも一部にパラジウム層を析出させることによって行われる。好ましくは、パラジウムで覆うべき金属表面またはその部分は、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、コバルト、コバルト合金、白金、白金合金、金、金合金およびヒ化ガリウムを含む群から選択される。被覆すべき金属表面またはその部分は例えば、プリント回路基板、IC基板または半導体ウェハの一部である。パラジウム層は例えば、半導体チップ、発光ダイオード(LED)または太陽電池の、ワイヤボンディング可能でかつはんだ付け可能な貴金属の仕上げとして半導体ウェハ上で使用される。
【0059】
基材と水性めっき浴組成物との接触に適した方法は例えば、組成物への基材の浸漬または基材への組成物の吹付けである。
【0060】
好ましくは、基材と水性めっき浴組成物とを、ステップb)により、30~95℃、より好ましくは30~85℃、さらにより好ましくは50~85℃、さらにより好ましくは30~65℃の温度で接触させる。好ましくは、基材と組成物とを、1~60分間、より好ましくは5~20分間接触させる。好ましくは、基材と水性めっき浴組成物とを接触させて、0.01~5.0μm、より好ましくは0.02~2.0μm、さらにより好ましくは0.05~0.5μmの範囲の厚さのパラジウムめっき層を得る。
【0061】
パラジウム層の厚さを、当業者に周知の蛍光X線分析法(XRF)によって測定した。XRF測定法では、X線により励起させた試料(基材、析出物)から放出される特徴的な蛍光放射線を利用する。波長および強度を評価して試料の層状構造を推測することにより、層の厚さを算出することができる。
【0062】
本発明の一実施形態において、まずパラジウムの薄い活性化層を、基材、好ましくは金属表面を有する基材上に析出させるが、これを、浸漬型めっき法(置換反応)と、これに続く本発明による水性めっき浴組成物からのパラジウムの析出とによって行う。
【0063】
無電解パラジウム析出を行う前の金属表面の活性化方法は当技術分野において公知であり、こうした方法を、本発明の範囲内で作用するように適用することができる。適切な水性活性化浴は、酢酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウムおよび硝酸パラジウムなどのパラジウム塩と、硝酸、硫酸およびメタンスルホン酸などの酸とを含んでよく、さらに必要に応じて第1級アミン、第2級アミン、第3級アミンおよびエタノールアミンなどの、パラジウムイオンのための錯化剤を含んでよい。必要に応じて、こうした活性化浴はさらに、硝酸イオン、過塩素酸イオン、塩素酸イオン、過ホウ酸イオン、過ヨウ素酸イオン、ペルオキソ二硫酸イオンおよび過酸化物イオンなどの酸化剤を含む。
【0064】
水性活性化浴におけるパラジウム塩の濃度は、0.005~20g/lの範囲にあり、好ましくは0.05~2.0g/lの範囲にある。パラジウムイオンのための錯化剤の濃度は、0.01~80g/lの範囲にあり、好ましくは0.1~8g/lの範囲にある。
【0065】
水性活性化浴のpH値は、好ましくは0~5の範囲にあり、好ましくは1~4の範囲にある。
【0066】
典型的には、基材を水性活性化浴に25~30℃で1~4分間浸漬する。基材を水性活性化浴に浸漬する前に、基材の金属表面を洗浄する。この目的のために、エッチング洗浄を、通常は、酸化性の酸性溶液、例えば硫酸および過酸化水素の溶液中で行う。好ましくは、これに続いて例えば硫酸溶液のような酸性溶液中でさらなる洗浄を行う。
【0067】
式(I)および(II)による不飽和化合物によって、本発明による水性めっき浴組成物に、望ましくない分解に対する安定性の向上がもたされる。さらに、式(I)および(II)による不飽和化合物によってめっき浴の望ましくない分解が抑制されるため、水性めっき浴組成物の寿命が延長される。したがって、式(I)および(II)による不飽和化合物は、無電解パラジウム析出用の水性めっき浴組成物において安定剤として作用し、特に無電解純パラジウム析出用の水性めっき浴組成物において安定剤として作用する。
【0068】
無電解パラジウムめっき浴の寿命の短縮は、浴の望ましくない分解を引き起こす汚染物に起因し得る。無電解パラジウムめっき浴は、汚染物、特に金属イオンに対して敏感である。式(I)および(II)による不飽和化合物によって、汚染物、特に金属イオンに対する感受性が低下した本発明による水性めっき浴組成物がもたらされる。
【0069】
本発明による水性パラジウムめっき浴組成物および無電解パラジウムめっき方法によって、内部応力が低く、また下地基材への密着性が十分であるといった所望の特性を示すパラジウム層のめっきが可能となる。
【0070】
低応力のパラジウム析出層は、下方の基材表面に対してより良好な密着性を示すことから、こうしたパラジウム析出層は有利である。これとは対照的に、高応力のパラジウム層は、下方の基材表面から剥離することがある。これにより、パラジウム層と基材表面との間に隙間が生じる。こうした隙間に後続の製造ステップの処理溶液やガスが侵入することがあり、これによって腐食が生じる。
【0071】
基材がシリコンウェハである場合、高応力のパラジウム層を析出させると、ウェハが曲がり、また破損することさえある。ウェハが完全な平坦なプロファイルを有していないと、製造装置がウェハの曲げられた形態に適合しないため、移送ステップやリソグラフィステップといった後続の製造ステップを行うことがもはや困難になる。したがって、曲がったまたは破損したウェハは、高度の損失である。
【0072】
さらに、本発明の水性めっき浴組成物および方法を用いた低応力のパラジウム層の析出は、既知の無電解パラジウムめっき組成物および無電解パラジウムめっき方法と比較して30~65℃のような低温でも可能である。より高い温度で浴を操作すると、浴が不安定になる危険性が増大する可能性がある。それには、より高度のエネルギー消費が必要である。このことは、めっきすべき基材の上に存在するいくつかの金属の層にとっても不利になることがある。例えば、より高い温度で析出浴からパラジウムがめっきされる基材上にアルミニウムまたは銅の層が存在する場合には、これらの層は腐食を受ける可能性がある。本発明の式(I)および(II)による不飽和化合物によって、30~65℃の範囲という、より低い温度でパラジウム層を無電解で析出させることが可能となる。このようにして本発明の水性めっき浴組成物の安定性が保たれるとともに、該組成物からパラジウムを析出させる際の基材上に存在する金属層の腐食も妨げられる。
【0073】
さらに、本発明の無電解パラジウムめっき方法における水性めっき浴組成物の安定的な性能によって、当技術分野で公知の無電解パラジウムめっき方法と比較して、より長期にわたって所望の特性を示すパラジウム層を析出させることが可能となる。
【0074】
本発明によるめっき浴は、式(I)および(II)による不飽和化合物に起因して、基材上へのパラジウムの析出速度を満足のいく所望の値に保ちつつ、望ましくない分解に対する安定性の向上を示す。式(I)および(II)による不飽和化合物を無電解パラジウムめっき浴に加えることで、浴寿命の間ずっと析出速度が満足のいく値となるように調整することができる。
【0075】
本発明の式(I)および(II)による不飽和化合物によって、無電解パラジウム析出用の水性めっき浴組成物の析出速度が低下し、特に無電解純パラジウム析出用の水性めっき浴組成物の析出速度が低下する。
【0076】
公知の無電解パラジウム析出浴の析出速度は、通常は、例えば析出浴の老化や存在し得る汚染物といった多くの要因に影響を受ける。新たに調製されたパラジウム析出浴の析出速度は通常は高く、その後、浴寿命の間に低下する。したがって、めっきの開始時には、この浴をめっきに利用している間のより後の時点に比べて、より厚みのあるパラジウム層が得られる。パラジウムめっきが施された基材の工業的製造においては、厚さおよび品質が一定であるパラジウム層を製造することが望ましい。したがって、浴寿命の間にパラジウム層の厚さおよび品質が変化することは望ましくない。
【0077】
まず、式(I)および(II)による不飽和化合物を、新たに調製された無電解パラジウムめっき浴に加えるかまたはめっきの開始直後に加えることにより、初期に過度に高い析出速度を満足のいく所望の範囲に低下させる。しばらくの間めっきを行った後、無電解パラジウムめっき浴の老化により析出速度が低下する。同時に、式(I)および(II)による不飽和化合物の量は、消費および/またはドラッグアウトのために減少する。この析出速度の低下の効果と不飽和化合物量の減少の効果とが互いに相殺し得るため、析出速度は所望の範囲内にとどまる。また、析出速度を満足のいく所望の範囲内に保つために、式(I)および(II)による不飽和化合物を最初の添加量より少ない量で無電解パラジウムめっき浴に計量供給することもできる。
【0078】
さらに、無電解パラジウムめっき浴の汚染物、例えばめっき浴の成分に由来する汚染有機化合物によって、無電解パラジウムめっき浴の析出速度が望ましくない高い値に上昇する場合がある。こうした汚染物を含む無電解パラジウムめっき浴に式(I)および(II)による不飽和化合物を加えることで、過度に高い析出速度が所望の範囲に低下する。
【0079】
したがって、式(I)および(II)による不飽和化合物を無電解パラジウムめっき浴に加えることによって、浴寿命の間ずっと析出速度が満足のいく範囲となるように調整することができる。これにより、無電解パラジウムめっき浴の全寿命を通して確実に厚さおよび品質が一定のパラジウム層が析出されるとともに、製造プロセスのプロセス制御が容易になる。浴寿命の間ずっと析出速度が満足のいく範囲となるように調整することによってさらに、無電解パラジウムめっき浴の寿命が延長される。
【0080】
したがって本発明はさらに、任意の水性無電解パラジウム析出浴の寿命の間ずっと析出速度が満足のいく範囲となるように調整するための方法であって、
c) 任意の水性無電解パラジウム析出浴を準備するステップと、
d) 前記無電解パラジウム析出浴に、式(I)および(II)による少なくとも1種の不飽和化合物を加えるステップと、
e) それによって前記水性無電解パラジウム析出浴の析出速度を低下させるステップと
を含む方法に関する。
【0081】
無電解パラジウム析出浴は、任意の水性無電解パラジウム析出浴であってよい。一実施形態において、無電解パラジウム析出浴は、本発明による水性めっき浴組成物である。
【0082】
本発明の一実施形態において、水性無電解パラジウム析出浴は、新たに調製された無電解パラジウム析出浴であってもよい。
【0083】
もう1つの実施形態において、水性無電解パラジウム析出浴は、老化した無電解パラジウム析出浴であってもよい。老化した無電解パラジウムめっき浴とは、本明細書中では、すでにしばらくの間めっきに使用されている無電解パラジウムめっき浴を意味する。
【0084】
さらに、好ましい一実施形態において、水性無電解パラジウム析出浴は、無電解純パラジウム析出用の浴である。
【0085】
式(I)および(II)による少なくとも1種の不飽和化合物の析出速度および/または濃度を、めっきまたは貯蔵の間に測定することができる。式(I)および(II)による少なくとも1種の不飽和化合物の析出速度が閾値を上回るか、または式(I)および(II)による少なくとも1種の不飽和化合物の濃度が閾値を下回る場合、式(I)および(II)による少なくとも1種の不飽和化合物が補充される。補充は、式(I)および(II)による少なくとも1種の不飽和化合物を水性無電解パラジウム析出浴に加えることによって行われる。好ましくは、一方または双方の閾値からの偏差に相当する量の式(I)および(II)による化合物が無電解パラジウムめっき浴に計量供給される。
【0086】
したがって好ましくは、任意の水性無電解パラジウム析出浴の寿命の間ずっと析出速度が満足のいく範囲となるように調整するための方法は、以下のさらなるステップを1つまたは複数含む:
c.i) ステップc)による水性無電解パラジウム析出浴内の式(I)および(II)による少なくとも1種の不飽和化合物の析出速度および/または濃度を測定するステップ、
c.ii) ステップc.i)によって測定した式(I)および(II)による少なくとも1種の不飽和化合物の析出速度および/または濃度の値を、予め設定された対応する閾値と比較するステップ、
c.iii) 式(I)および(II)による少なくとも1種の不飽和化合物の析出速度および/または濃度の値の、それらの対応する閾値からの偏差を求めるステップ、
c.iv) ステップc.iii)によって求めた偏差を、ステップd)で水性無電解パラジウム析出浴に加えるべき式(I)および(II)による少なくとも1種の不飽和化合物の量と相関させるステップ。
【0087】
好ましくは、本発明による析出速度を調整する方法は、無電解パラジウム析出浴の析出速度が所望よりも高い場合に適用される。その場合、本発明の式(I)および/または(II)による少なくとも1種の不飽和化合物を加えると、無電解パラジウム析出浴の析出速度が所望の範囲に低下する。
【0088】
析出速度の測定は、当技術分野で公知の方法にしたがって、例えば本明細書の実施例に記載の方法によって行うことができる。式(I)および(II)による少なくとも1種の不飽和化合物のような有機化合物の濃度の測定は、当技術分野で公知の方法にしたがって行うことができる。あるいは無電解パラジウム析出浴の析出速度の低下挙動が既知である場合には、式(I)および(II)による不飽和化合物を、予め設定された量で永続的または周期的に析出浴に計量供給してもよい。浴寿命の間ずっと、不飽和化合物の量が減少することが好ましい。
【0089】
式(I)および(II)による少なくとも1種の不飽和化合物を、固体として加えることも粉末として加えることもでき、またこれを無電解パラジウム析出浴に加える前に溶媒に溶解させてもよい。適切な溶媒の例は、水;酸、例えば硫酸、塩酸、リン酸;アルカリ性溶液、例えば水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムの溶液;および有機溶媒、例えばプロパノール、エタノール、メタノールである。
【0090】
本発明による無電解パラジウム析出用のめっき浴組成物は、水性めっき浴組成物であり、すなわち主溶媒は水である。好ましくは、無電解パラジウム析出用の水性めっき浴組成物内の有機溶媒の含有量は、10体積%以下であり、好ましくは0~10体積%の範囲にあり、より好ましくは0~5体積%の範囲にあり、さらにより好ましくは0~1体積%の範囲にある。さらにより好ましくは、本発明による水性めっき浴組成物は有機溶媒を含有せず、すなわち有機溶媒不含である。本発明による水性めっき浴組成物がより取扱いづらくなることから、本発明による水性めっき浴組成物内の有機溶媒の含有量を可能な限り低く抑えることが好ましい。非常に多くの有機溶媒が水よりも高い蒸気圧を有することから、これによって水性めっき浴組成物の体積が変化しやすくなり、これを一定に保つことは困難である。非常に多くの有機溶媒が易燃性であり、また非常に多くの有機溶媒が有毒性を示すことから、これによって、より精巧な安全設備が必要となる。
【0091】
本発明はさらに、
任意の水性無電解パラジウム析出浴組成物を望ましくない分解に対して安定化するための、好ましくは本発明による無電解パラジウム析出用の水性めっき浴組成物を望ましくない分解に対して安定化するための、
任意の水性無電解パラジウム析出浴組成物の寿命を拡張するための、好ましくは本発明による無電解パラジウム析出用の水性めっき浴組成物の寿命を拡張するための、
任意の水性無電解パラジウム析出浴組成物の、汚染物、好ましくは金属イオンに対する感受性を低下させるための、好ましくは本発明による無電解パラジウム析出用の水性めっき浴組成物の、汚染物、好ましくは金属イオンに対する感受性を低下させるための、および/または
任意の水性無電解パラジウム析出浴の寿命の間ずっと析出速度が満足のいく範囲となるように調整するための、好ましくは本発明による無電解パラジウム析出用の水性めっき浴組成物の寿命の間ずっと析出速度が満足のいく範囲となるように調整するための、
式(I)および/または(II)による少なくとも1種の不飽和化合物の使用に関する。本明細書中での「寿命の拡張」とは、寿命の「増加」、「延長」または「拡大」をも意味する。
【0092】

本発明を、以下の非限定的な例によってさらに説明する。
【0093】
調製例は、本発明の水性めっき浴組成物に用いた不飽和化合物の合成に関するものである。
【0094】
調製例1
4-(ブタ-3-イン-1-イルオキシ)ブタン-1-スルホン酸ナトリウム塩の調製
85mlのTHF中に2.0g(49.9ミリモル)の水素化ナトリウムをアルゴン下で懸濁させる。この反応混合物に、3.5g(49.9ミリモル)のブタ-3-イン-1-オールを室温で滴加する。
【0095】
水素の発生が完了した後、20mlのTHFに溶解させた6.87g(49.9ミリモル)の1,2-オキサチアン-2,2-ジオキシドを室温で滴加する。添加後、この反応混合物をさらに12時間撹拌し、真空下でTHFを除去した。固形物残渣を酢酸エチルで抽出し、ろ過した。この固形物を真空下で乾燥させた。
【0096】
10.2g(44.7ミリモル)の帯黄色の固形物が得られた(収率89%)。
【0097】
調製例2
3-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)プロパン-1-スルホン酸ナトリウム塩の調製
70mlのTHF中に1.997g(49.9ミリモル)の水素化ナトリウムをアルゴン下で懸濁させる。この反応混合物に、2.830g(49.9ミリモル)のプロパ-2-イン-1-オールを室温で滴加する。
【0098】
水素の発生が完了した後、15mlのTHFに溶解させた6.1g(49.9ミリモル)の1,2-オキサチオラン-2,2-ジオキシドを室温で滴加する。添加後、この反応混合物をさらに12時間撹拌し、真空下でTHFを除去した。固形物残渣を酢酸エチルで抽出し、ろ過した。この固形物を真空下で乾燥させた。
【0099】
9.0g(44.9ミリモル)の帯黄色の固形物が得られた(収率90%)。
【0100】
調製例3
2-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)酢酸ナトリウム塩の調製
1.8g(44ミリモル)の水素化ナトリウムを、18.88gのDMFに室温で懸濁させた。この懸濁液に、3.5g(37ミリモル)の2-クロロ酢酸を、室温で10分以内に計量供給する。
【0101】
第2のフラスコ内で、1.8g(44ミリモル)の水素化ナトリウムを、56.6gのDMFに懸濁させた。この懸濁液に、2.08g(36.74ミリモル)のプロパ-2-イン-1-オールを室温で加える。
【0102】
水素の発生が完了した後、2-クロロ酢酸のナトリウム塩の溶液を、ナトリウムプロパ-2-イン-1-オラートの溶液に、室温で6分以内に滴加する。添加後、この反応混合物を室温でさらに25時間撹拌し、さらに10時間50℃に加熱した。この反応混合物を室温に冷却し、20mlの水で加水分解させた。溶媒を除去し、残渣を50mlのメタノールに溶解させ、ろ過した。ろ液を蒸発させ、固形物残渣を200mlのジエチルエーテルで洗浄した。得られた固形物を、真空下で乾燥させた。
【0103】
4.9g(36ミリモル)の帯褐色の固形物が得られた(収率98%)。
【0104】
調製例4
2-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)プロパン酸ナトリウム塩の調製
1.6g(39.11ミリモル)の水素化ナトリウムを、18.88gのDMFに室温で懸濁させた。この懸濁液に、3.8g(33ミリモル)の2-クロロプロパン酸を室温で10分以内に計量供給する。
【0105】
第2のフラスコ内で、1.6g(39.11ミリモル)の水素化ナトリウムを、56.64gのDMFに懸濁させた。この懸濁液に、1.886g(363.33ミリモル)のプロパ-2-イン-1-オールを室温で加える。
【0106】
水素の発生が完了した後、2-クロロプロパン酸のナトリウム塩の溶液を、ナトリウムプロパ-2-イン-1-オラートの溶液に室温で6分以内に滴加する。添加後、この反応混合物を室温でさらに25時間撹拌し、さらに10時間50℃に加熱した。この反応混合物を室温に冷却し、20mlの水で加水分解させた。溶媒を除去し、残渣を50mlのメタノールに溶解させ、ろ過した。ろ液を蒸発させ、固形物残渣を200mlのジエチルエーテルで洗浄した。得られた固形物を、真空下で乾燥させた。
【0107】
4.79g(32ミリモル)の帯褐色の固形物が得られた(収率96%)。
【0108】
調製例5
4-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)ブタン-1-スルホン酸ナトリウム塩の調製
45mLのTHFに、1.999g(50ミリモル)の水素化ナトリウムをアルゴン下で懸濁させる。この反応混合物に、2.830g(50ミリモル)のプロパ-2-イン-1-オールを室温で滴加する。
【0109】
水素の発生が完了した後、20mLのTHFに溶解させた6.87g(50ミリモル)の1,2-オキサチアン-2,2-ジオキシドを室温で滴加する。添加後、この反応混合物をさらに12時間撹拌し、THFを真空下で除去した。固形物残渣を酢酸エチルで抽出し、ろ過した。この固形物を、真空下で乾燥させた。
【0110】
8.4g(39.2ミリモル)の帯黄色の固形物が得られた(収率78%)。
【0111】
調製例6
2-(ピリジン-3-イル)ブタ-3-イン-2-オールの調製
100mLのTHFに希釈した11.63g(0.096モル)の3-アセチルピリジンに、THF(0.1モル)中の臭化エチニルマグネシウムの0.5M溶液200mLを-10℃で計量供給する。
【0112】
添加終了後、この反応混合物を室温(約22℃)に加熱し、室温でさらに20時間撹拌した。この反応混合物を、塩化ナトリウムで飽和した水1Lでクエンチし、酢酸エチルで3回抽出した。合した有機相を硫酸ナトリウム上で乾燥させ、溶媒を真空下で除去した。得られた粗反応生成物を、Merck KGaA、ドイツ連邦共和国のSilica Gel 60を用いたカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル 2:1および1:1)により精製した。
【0113】
6.9g(46.9ミリモル)の橙色の固形物が得られた(収率48.8%)。
【0114】
包括的手順
パラジウムめっき浴マトリックスおよびパラジウムめっき:
別段の記載がない限り、前処理した基材に、以下の手順にしたがってパラジウムをめっきした。
【0115】
水と、パラジウムイオンと、パラジウムイオンのための還元剤としてのギ酸ナトリウムと、パラジウムイオンのための錯化剤としてのエチレンジアミンとを含有するpH値5.5のめっき浴マトリックス(Xenolyte Pd LL、Atotech Deutschland GmbHの製品)を、すべての例において使用した。
【0116】
めっき例1および2全体を通じて、異なる量の本発明の式(I)および(II)による不飽和化合物を、2リットルの個々のパラジウムめっき浴マトリックスに加えた。めっきの間、水性めっき浴組成物を60℃で保持した。基材を、水性めっき浴組成物に6分間浸漬した。その後、基材を脱イオン水で1分間すすぎ、空気圧で乾燥させた。
【0117】
めっき例1
基材および前処理:
SiO層で覆われかつそれぞれ4つのダイを有するシリコン製の試験チップを、基材として使用した。各ダイは、その表面にアルミニウム-銅合金製の分離されたいくつかのパッドを有していた。これらのパッドは、10μm~1000μmの範囲の異なる直径のサイズを有し、パッド間の距離は、20μm~1000μmの範囲にあった。
【0118】
試験チップは、二重亜鉛化によってすでに前処理済みであった。その後、これらの試験チップに、ニッケル(II)塩と、ニッケルイオンのための還元剤と、ニッケルイオンのための錯化剤と、安定化剤とを含有する無電解ニッケルめっき浴(Xenolyte Ni MP、Atotech Deutschland GmbHの製品)を用いてニッケルめっきを施した。このニッケルめっき浴のpH値は4.5であり、めっきの間、このニッケルめっき浴を87℃に保持した。これらの試験チップをこのニッケルめっき浴に10分間浸漬して、これらの試験チップ上に厚さ3μmのニッケル層のめっきを施した。その後、これらの試験チップを脱イオン水ですすぎ、以下のパラジウムめっき浴組成物に供した。
【0119】
式(I)による不飽和化合物0~100mg/l(個々の化合物および濃度については表1参照)を、めっき浴マトリックスに加えた。得られたパラジウムめっき浴組成物に前処理済みの基材を供することによって、これらの基材にパラジウムをめっきした。めっきを、包括的手順にしたがって行った。
【0120】
析出速度を、以下のように測定した。試験した様々な水性めっき浴組成物中で析出させたパラジウム層の厚さを、蛍光X線分析法(XRF;Fischer、Fischerscope(登録商標)X-Ray XDV(登録商標)-11)を用いて測定した。厚さを、各基材の4つのパラジウムパッド上で測定した。各水性めっき浴組成物の析出速度の算出を、測定したパラジウム析出層の厚さを6分間のめっき時間で除すことによって行った。
【0121】
水性めっき浴組成物および各めっき浴組成物の析出速度の平均値を、表1にまとめ、図1に示す。
【0122】
表1:本発明の式(I)による不飽和化合物を含有する水性めっき浴組成物の析出速度
【表1】
【0123】
プロパ-2-エン-1-オール(アリルアルコール)および3-メチルブタ-3-エン-1-オールは、例えばBASF AGより市販されている。
【0124】
めっき例2
寸法7×7cmの銅板を基材として使用した。これらの銅板は緻密なパラジウム層で前処理済みであり、この前処理を、Nonacid 701(Atotech Deutschland GmbHの製品)での電解脱脂、スルホン酸系プレディップ溶液(Spherolyte special acid、Atotech Deutschland GmbHの製品)への浸漬および浸漬型パラジウム浴(Aurotech SIT Activator、Atotech Deutschland GmbHの製品)による活性化によって行った。
【0125】
式(II)による不飽和化合物0~200mg/l(表2参照)を、めっき浴マトリックスに加えた。得られたパラジウムめっき浴組成物に前処理済みの基材を供することによって、これらの基材にパラジウムをめっきした。めっきを、包括的手順にしたがって行った。
【0126】
重量増加を6分間のめっき時間で除すことによって、析出速度を測定した。
【0127】
水性めっき浴組成物およびめっき結果を表2にまとめ、図2および3に示す。
【0128】
表2:本発明の式(II)による不飽和化合物を含有する水性めっき浴組成物の析出速度
【表2】
【0129】
めっき例1および2の結果の概要
例1および2から、式(I)または(II)による不飽和化合物を含有する水性めっき浴組成物の析出速度が、これらの不飽和化合物を含有しない組成物と比較して低いことが判明した。析出速度は、これらの不飽和化合物の濃度が増加するにつれて低下した。
【0130】
式(I)または(II)による不飽和化合物を含有する水性めっき浴組成物から得られた析出物は、延性を示し、灰色であり、かつ基材に非常によく密着した。
【0131】
例3:pH安定性試験
式(II)による不飽和化合物(化合物および濃度については表3参照)を、包括的手順に記載の通り、2リットルの個々のパラジウムめっき浴マトリックスに加えた。これらの水性めっき浴組成物の初期pHを、5.5に調整した。その後、これらを80℃まで加熱し、永続的に撹拌しながら試験の間ずっとこの温度に保持した。これらの組成物が80℃に達したら、pH測定を開始した。1時間おきにこれらの組成物から試料を採取し、そのpH値を測定した。本発明の不飽和化合物を含有しないめっき浴マトリックスの部分(ゼロサンプル)を、同様の方法で並行して処理した。
【0132】
組成物からパラジウムが析出すると、窒素含有錯化剤がパラジウムと錯化剤との錯体から放出される。この窒素含有錯化剤の放出によって、組成物のpH値が上昇する。このpH値の上昇は、無電解パラジウムめっき浴組成物の不安定性および分解に起因してパラジウムが析出するかまたは望ましくなく析出する場合にも生じる。したがって、pHの変化は、本発明の水性めっき浴組成物の安定性の尺度の1つである。
【0133】
水性めっき浴組成物におけるpH値の推移を表3にまとめ、図4に示す。
【0134】
表3:本発明の式(II)による不飽和化合物を含有する水性めっき浴組成物のpH値
【表3】
【0135】
不飽和化合物を含有する水性めっき浴組成物のpH値は、経時的にほぼ一定であるのに対して、不飽和化合物を含有しないめっき浴マトリックスでは、pH値が著しく上昇する。したがって、例3は、本発明による不飽和化合物を含有する水性めっき浴組成物が、これらの不飽和化合物を含有しないめっき浴マトリックスよりも、望ましくない分解に対して著しく良好な安定性を有することを示す。
【0136】
例4:めっき例
異なる不飽和化合物を含有するパラジウムめっき浴の析出速度を、めっき例1に記載の通りに測定した。水性めっき浴組成物およびめっき結果を、表4にまとめる。
【0137】
表4:不飽和化合物を含有する水性めっき浴組成物の析出速度
【表4】
【0138】
例5:pH安定性試験
望ましくない分解に対する無電解パラジウムめっき浴組成物の安定性を、例3に記載の通りに測定した。50mg/lの不飽和化合物を、パラジウムめっき浴マトリックスの別々の部分に加え、測定を開始した。水性めっき浴組成物および水性めっき浴組成物におけるpH値の推移を、表5にまとめる。
【0139】
表5:本発明による不飽和化合物を含有する水性めっき浴組成物のpH値
【表5】
【0140】
例6:応力の測定
パラジウムコーティングにおける応力を、応力フィンガーストリップを使用して測定した。この試験ストリップは銅製であり、ばねのような性質を有していた。
【0141】
50mg/lのプロパ-2-エン-1-オール(式(I)による不飽和化合物)を、パラジウムめっき浴マトリックスの一部分に、包括的手順にしたがって加えた。これとは別の、いずれの不飽和化合物も含有しないめっき浴マトリックスの部分を、対照として使用した。得られたパラジウムめっき浴組成物と試験ストリップとを接触させることにより、包括的手順にしたがって試験ストリップにパラジウムをめっきした。
【0142】
めっき後、試験ストリップを試験スタンド(Deposit stress analyzer Model No. 683 of Specialty Testing & Development Co., York, PA, USA)に載置し、めっき後に試験ストリップ脚部が広がった距離を測定した。距離Uは、析出物の応力を算出することができる以下の式に含まれる。
【0143】
応力=U/3×T×K
Uは、広がった増分の数であり、Tは、析出物の厚さであり、Kは、ストリップ校正定数である。
【0144】
パラジウム析出物の厚さTを、めっき例1に記載の通りにXRFによって測定した。
【0145】
析出物応力試験に用いる場合、作製された試験ストリップの各ロットは、若干相違した反応を示す。この相違の程度は、試験ストリップの各ロットの校正時に供給元によって決定された。Kの値は、Specialty Testing & Development Co.によって提供された試験ストリップの各ロットとともに提供された。結果の応力値を、表6に示す。
【0146】
表6:本発明による不飽和化合物を含有するかまたは含有しない水性めっき浴組成物から析出させたパラジウム層の応力値
【表6】
図1
図2
図3
図4