(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】基板の保持、回転ならびに加熱および/または冷却を行う装置および方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20220104BHJP
H05B 3/68 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
H01L21/68 N
H05B3/68
(21)【出願番号】P 2018541268
(86)(22)【出願日】2017-01-24
(86)【国際出願番号】 EP2017051430
(87)【国際公開番号】W WO2017144212
(87)【国際公開日】2017-08-31
【審査請求日】2019-12-25
(31)【優先権主張番号】102016103270.0
(32)【優先日】2016-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】508333169
【氏名又は名称】エーファウ・グループ・エー・タルナー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ヴィーザー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ティシュラー
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-232047(JP,A)
【文献】特開2010-157776(JP,A)
【文献】特開2003-133233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H05B 3/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板
の保持、回転ならびに加熱および/または冷却を行う装置(1,1',1”)であって、
1)前記装置(1,1',1”)は、ロータ(9)を備え、
前記ロータ(9)は、
a)少なくとも1つの二次巻線(6s,6s',6s”)と、
b)前記基板を固定する固定要素(4)および基板ホルダ表面(2o)を有する基板ホルダ(2)と、
c)前記基板ホルダ(2)を回転軸線(R)回りに回転させる回転軸(8)と、
d)前記基板ホルダ表面(2o)を加熱する少なくとも1つの電気式のヒータ(3)および/または前記基板ホルダ表面(2o)を冷却する少なくとも1つのクーラと、
を有し、
2)前記装置(1,1',1”)は、ステータ(10)を備え、
前記ステータ(10)は、
a)少なくとも1つの一次巻線(6p,6p',6p”)と、
b)リング形のベース(7)であって、前記ロータ(9)の前記回転軸(8)は、少なくとも部分的に前記ベース(7)内に配置されている、ベース(7)と、
を有し、
前記装置(1,1',1”)は、
前記少なくとも1つの一次巻線(6p,6p',6p”)により、電流および/または電圧が前記少なくとも1つの二次巻線(6s,6s',6s”)内に誘導可能であり、
前記少なくとも1つの二次巻線(6s,6s',6s”)内に誘導された前記電流および/または電圧により、前記少なくとも1つのヒータ(3)および/またはクーラが、前記基板ホルダ表面(2o)を加熱および/または冷却することができるように運転可能である、
ように形成されており、
前記少なくとも1つの一次巻線(6p)および前記少なくとも1つの二次巻線(6s)は、フラットコイル
として形成されており、
前記少なくとも1つの一次巻線(6p)は、前記ベース(7)の、前記基板ホルダ(2)に面したベース表面(7o)に配置されており、
前記少なくとも1つの二次巻線(6s)は、前記基板ホルダ(2)の、前記ベース(7)に面した背面に配置されている、
基板の保持、回転ならびに加熱および/または冷却を行う装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの一次巻線(6p)と、前記少なくとも1つの二次巻線(6s)とは、互いに平行に配置されている、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの一次巻線(6p)および前記少なくとも1つの二次巻線(6s)は、前記回転軸線(R)に対して垂直に配置されている一平面(E)内にかつ/またはこの平面(E)に対して平行に配置されている、請求項1記載の装置。
【請求項4】
前記ヒータ(3)、前記基板ホルダ(2)、前記基板ホルダ表面(2o)および/または前記基板の温度を測定する測定装置と、
前記ヒータ(3)、前記基板ホルダ(2)、前記基板ホルダ表面(2o)および/または前記基板の測定した前記温度を、前記ロータ(9)から前記ステータ(10)に、
前記少なくとも1つの一次巻線(6p,6p',6p”)と、前記少なくとも1つの二次巻線(6s,6s',6s”)との間の誘導結合を介して、データ伝送する装置と、
を備える、請求項1記載の装置。
【請求項5】
前記ロータ(9)は、前記ロータ(9)を一義的に、かつ
全自動で識別するIDチップ(19)
を有し、前記IDチップ(19)は、
前記回転軸(8)の縁部に位置する、請求項1記載の装置。
【請求項6】
前記ロータ(9)の周囲をガス流(22)によりパージするパージ手段を備える、請求項1記載の装置。
【請求項7】
基板
の保持、回転ならびに加熱および/または冷却を行う方法であって、請求項1記載の装置を用いて、
前記基板を固定する固定要素(4)および基板ホルダ表面(2o)を有する基板ホルダ(2)を含むロータ(9)により前記基板を保持し、
ステータ(10)の、電流が通電される少なくとも1つの一次巻線(6p,6p',6p”)により、前記ロータ(9)の少なくとも1つの二次巻線(6s,6s',6s”)内に電流を誘導し、
前記少なくとも1つの二次巻線(6s,6s',6s”)内に誘導された前記電流により、前記基板ホルダ表面(2o)、ひいては前記基板が加熱かつ/または冷却されるように少なくとも1つのヒータ(3)および/またはクーラを運転する、
ステップを備える、基板の保持、回転ならびに加熱および/または冷却を行う方法。
【請求項8】
前記ロータ(9)の周囲を
不活性ガス流によりパージし
て、外部と接している電気的な構成部材
としての一次側のコンデンサ部(13p)および二次側のコンデンサ部(13s)の周囲をパージし、
前記ロータ(9)と前記ステータ(10)との間に、周囲圧(p1)より高い正圧(p2)を形成する、請求項7記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに並列の関係にある2つの独立請求項に記載の、基板の保持、回転および加熱を行う装置および方法に関する。
【0002】
産業界において基板、特にウエハを固定するために使用される試料ホルダの種類は、無数に存在する。その際、試料ホルダは、様々な物理的役割を果たさなければならない。一方では、試料ホルダは、基板を固定するために用いられる。固定は、しばしば、機械式のクランプ、真空チャンネル、静電荷、電界もしくは磁界、または粘着性のある表面により実施される。
【0003】
極めて多くの試料ホルダは、さらに二次的な役割、例えば基板を冷却したり、加熱したりする役割も果たす。特に加熱式の試料ホルダは、広く使用されており、多数の種々異なる実施の形態で存在している。
【0004】
試料ホルダは、極めて多くの場合、この試料ホルダが使用される設備に合わせて適合されている。毎分数千回転するスピンコーティング設備用の試料ホルダは、高い対称性を有し、軽量かつフレキシブルに設計されねばならない。特にこの試料ホルダは、正確にウェイト調整されねばならない。この種の試料ホルダにこそ、加熱等の二次的な機能性も要求されることが極めて多い。
【0005】
加熱式の試料ホルダの温度は、加熱素子を介して直接制御される。加熱素子の動作は、供給される相応の電流を介して制御されねばならない。最大の問題は、回転する試料ホルダに電流を伝送することにある。互いに回転する2つの部分間の電流伝送は、通常、すり接点を介して行われる。すり接点は、複数の欠点を有している。第1の欠点としては、すり接点と集電子との間に極めて高い摩耗が存在することである。第2の欠点としては、接触の形態によっては、火花が発生する可能性があることである。極めて多くの液体、とりわけ溶剤は、比較的高い引火性を有し、かつ比較的高い蒸気圧を有している。それゆえ、加熱式の試料ホルダの近傍に常に可燃性のガスが存在していて、爆発するおそれがあるということを常に前提としなければならない。遠心式の設備は、通常、基板の表面をコーティングしたり、クリーニングしたりするのに利用される。このときに化学物質が使用されるが、これらの化学物質は、可燃性の場合がある。さらに、これに加え、この液体が高い蒸気圧を有している場合、既に小さな火花でさえ爆発または火災に至ることがある。
【0006】
それゆえ本発明の課題は、従来技術の欠点を有さず、特に、できる限り摩耗フリーに作動し、かつ使用時にできる限り高い安全性を提供する、基板の保持、回転ならびに加熱および/または冷却を行う装置および方法を提供することである。
【0007】
説明する本発明による実施の形態は、コータまたはクリーナとしての使用に好適である。前者の場合、コータは、スピンコータともいう。
【0008】
この課題あるいはこれらの課題は、互いに並列の関係にある2つの独立請求項の対象により解決される。本発明の有利な形態は、従属請求項に記載されている。明細書、特許請求の範囲および/または図面に記載した特徴の少なくとも2つの特徴からなるあらゆる組み合わせも、本発明の範囲内に含まれる。記載した数値範囲に関して、提示した限界範囲内に含まれる任意の値も、限界値として開示したものと見なされるべきであり、任意の組み合わせで特許を請求することができる。
【0009】
本発明により、基板、特にウエハの保持、回転ならびに加熱および/または冷却を行う装置であって、
1)装置は、ロータを備え、
ロータは、
a)少なくとも1つの二次巻線と、
b)基板を固定する固定要素および基板ホルダ表面を有する基板ホルダと、
c)基板ホルダを回転軸線回りに回転させる回転軸と、
d)基板ホルダ表面を加熱する少なくとも1つの電気式のヒータおよび/または基板ホルダ表面を冷却する少なくとも1つのクーラと、
e)任意選択的に、少なくとも1つの一次巻線内の電流および/または電圧を制御する制御エレクトロニクスと、
を有し、
2)装置は、ステータを備え、
ステータは、
a)少なくとも1つの一次巻線と、
b)任意選択的に、少なくとも1つの一次巻線内の電流および/または電圧を制御する制御エレクトロニクスと、
c)リング形のベースであって、ロータの回転軸は、少なくとも部分的にベース内に配置されている、ベースと、
を有し、
装置は、
ロータの回転時、少なくとも1つの一次巻線により、電流および/または電圧が少なくとも1つの二次巻線内に誘導可能であり、
少なくとも1つの二次巻線内に誘導された電流および/または電圧により、少なくとも1つのヒータおよび/またはクーラが、基板ホルダ表面を加熱および/または冷却することができるように運転可能である、
ように形成されている、
基板の保持、回転ならびに加熱および/または冷却を行う装置を提供する。
【0010】
基板を冷却する装置は、概してクーラと称呼される。基板を冷却すべく、特にペルティエ素子が使用可能である。本発明により、ヒータおよび/またはクーラは、本発明による試料ホルダ内に組み付けられ得る。
【0011】
好ましい一実施の形態において、少なくとも1つの一次巻線は、ベース表面に配置されている。これにより、有利には、特に良好なエネルギ伝送が達成可能である。
【0012】
別の好ましい一実施の形態において、少なくとも1つの一次巻線は、ベース内に配置されている。これにより、有利には、特に省スペースに形成することができる。
【0013】
別の好ましい一実施の形態において、少なくとも1つの一次巻線および少なくとも1つの二次巻線は、フラットコイル、好ましくは渦巻きコイル、さらに好ましくはアルキメデスの渦巻きコイルとして形成されている。これにより、有利には、特に省スペースに形成することができる。
【0014】
別の好ましい一実施の形態において、少なくとも1つの一次巻線と、少なくとも1つの二次巻線とは、互いに平行に配置されている。これにより、有利には、特に良好なエネルギ伝送が可能である。
【0015】
別の好ましい一実施の形態において、少なくとも1つの一次巻線および少なくとも1つの二次巻線は、回転軸線に対して垂直に配置されている一平面内にかつ/またはこの平面に対して平行に配置されている。これにより、有利には、特に省スペース化の実現と、良好なエネルギ伝送とが可能である。
【0016】
別の好ましい一実施の形態において、少なくとも1つの一次巻線は、ベースの、基板ホルダに面したベース表面に配置されている。これにより、有利には、特に良好なエネルギ伝送が可能である。
【0017】
別の好ましい一実施の形態において、少なくとも1つの二次巻線は、基板ホルダの、ベースに面した背面に配置されている。これにより、有利には、特に良好なエネルギ伝送が可能である。
【0018】
別の好ましい一実施の形態において、少なくとも1つの一次巻線および少なくとも1つの二次巻線は、円筒コイルとして形成されている。これにより、有利には、特に良好なエネルギ伝送が可能である。
【0019】
別の好ましい一実施の形態において、少なくとも1つの一次巻線および少なくとも1つの二次巻線は、回転軸線に関して同心に配置されている。これにより、有利には、特に良好なエネルギ伝送が可能である。
【0020】
別の好ましい一実施の形態において、少なくとも1つの一次巻線は、ベースの、回転軸に面したベース内面に配置されており、少なくとも1つの二次巻線は、回転軸の、ベース内面に面した軸表面に配置されている。これにより、有利には、特に良好なエネルギ伝送が可能である。
【0021】
別の好ましい一実施の形態において、少なくとも1つの一次巻線および少なくとも1つの二次巻線は、回転軸線に関して偏心(azentrisch)に配置されている。これにより、有利には、特に良好なエネルギ伝送が可能である。
【0022】
別の好ましい一実施の形態において、少なくとも2つの一次巻線が、ベース内に配置され、少なくとも2つの二次巻線が、回転軸内に配置されている。これにより、有利には、特に良好なエネルギ伝送が可能である。
【0023】
別の好ましい一実施の形態において、少なくとも2つの一次巻線および少なくとも2つの二次巻線は、回転軸線の周りに一様な角度間隔を置いて配置されている。これにより、有利には、できる限り省スペースの構造形態で、特に良好なエネルギ伝送が可能である。
【0024】
別の好ましい一実施の形態において、装置は、ヒータ、基板ホルダ、基板ホルダ表面および/または基板の温度を測定する測定装置と、ヒータ、基板ホルダ、基板ホルダ表面および/または基板の測定した温度を、ロータからステータに、好ましくは、少なくとも1つの一次巻線と、少なくとも1つの二次巻線との間の誘導結合を介して、データ伝送する装置と、を備える。これにより、有利には、温度の特に良好なコントロールが可能である。
【0025】
別の好ましい一実施の形態において、ロータは、ロータを一義的に、かつ特に全自動で識別するIDチップ、特にRFIDチップを有し、IDチップは、好ましくは、回転軸の縁部に存在する。これにより、有利には、ロータの特に良好な交換性が達成可能である。
【0026】
別の好ましい一実施の形態において、装置は、ロータの周囲をガス流によりパージするパージ手段を備える。これにより、有利には、装置の特に安全な運転が可能である。
【0027】
さらに本発明により、基板、特にウエハの保持、回転ならびに加熱および/または冷却を行う方法であって、特に以下の特徴を有する装置を用いて、
基板を固定する固定要素および基板ホルダ表面を有する基板ホルダを含むロータにより基板を保持し、回転させ、このとき、基板ホルダは、基板とともに回転軸を介して回転軸線回りに回転され、
ステータの、電流が通電される少なくとも1つの一次巻線により、ロータの少なくとも1つの二次巻線内に、特にロータの回転に基づいて、電流を誘導し、
少なくとも1つの二次巻線内に誘導された電流により、基板ホルダ表面、ひいては基板が加熱かつ/または冷却されるように少なくとも1つのヒータおよび/またはクーラを運転する、
ステップを備える、基板の保持、回転ならびに加熱および/または冷却を行う方法を提供する。
【0028】
好ましい一実施の形態において、ロータの周囲をガス流、特に不活性ガス流によりパージし、好ましくは、外部と接している電気的な構成部材、特に一次側のコンデンサ部および二次側のコンデンサ部の周囲をパージし、好ましくは、ロータとステータとの間に、周囲圧より高い正圧を形成する。これにより、有利には、特に安全な運転が保証され得る。
【0029】
以下では、ステータ側を一次側、ロータ側を二次側ともいう。以下では、巻線をコイルともいう。以下では、基板ホルダを試料ホルダともいう。
【0030】
本発明の核心は、特に、電力あるいは電圧および/または電流をステータからロータに電磁誘導により伝送することにある。さらに、測定信号を非接触式に伝送する複数の可能性を開示する。
【0031】
本発明による実施の形態により、機械的なコンポーネントが、電気的なコンポーネントから分離される。とりわけ、特に火災のおそれのある雰囲気中では、火花形成によりかなりの安全上のリスクとなりかねないすり接点を省略することができる。
【0032】
本発明は、特に、電磁誘導による電気機械的に減結合された電流伝送の方法および設備、ならびに誘導式、容量式または電磁式の方法による電気機械的に減結合された温度の測定およびこのことから可能な制御に関する。
【0033】
電磁誘導
本発明の根底には、加熱素子のための電力、電圧あるいは電流伝送に際し、誘導結合の基本原理が存在する。誘導結合は、変圧器と解されてもよい。変圧器は、一次側と二次側とからなる。一次側および二次側は、それぞれ、少なくとも1つの導体ループ、特にコイルを有している。本明細書の以後の箇所では、導体ループとコイルとを同義語として使用する。コイルの配置や数によって、本発明による実施の形態は区別できる。
【0034】
コイルは、特に、ただ1回の巻回、好ましくは5回を超える巻回、さらに好ましくは10回を超える巻回、殊に好ましくは100回を超える巻回、最も好ましくは1000回を超える巻回を有している。特に好ましい実施の形態では、5~100回の巻回を有するコイルが使用される。
【0035】
一次側は、ステータの部分である。二次側は、ロータの部分である。ステータは、静止しているすべての機械構成部材の集合よりなる。ロータは、全体として回転するすべての機械構成部材の集合よりなる。ロータとステータとは、互いに完全に電気機械的に減結合されている。電気機械的な減結合とは、第1の機械的な構成部材、特にステータから、第2の機械的な構成部材、特にロータへの電流伝送が、電流線路および/またはすり接点によらず、電磁誘導を介して実施されることと解される。つまり、従来技術とは異なり、電力伝送は、専ら電磁誘導により実施される。
【0036】
ファラデーの誘導法則にしたがい、導体ループを通る磁束が時間的に変化するときは常に、導体ループを介して電圧が誘導される。このことは、具象的には、導体ループを通る単位面積あたりの磁束線数、すなわち、磁束線密度が時間的に変化することで説明がつく。この変化は、様々な物理的効果により引き起こされ得る。
【0037】
考え得るのは、磁界を発生させる電流の時間的な変化による磁束線密度の変化である。この場合、磁界の強さと相関関係にある電流の強さが変化することだけが重要である。それゆえ、交流電流の使用と同様、パルス化直流電流または振動直流電流の使用が可能である。交流電流は、電流の向きが変化し、ひいては磁界の極性反転が繰り返されることを特徴とする一方、パルス化直流電流または振動直流電流は、その正負の符号を変化させることはないものの、磁束線密度、ひいては磁束は、それにもかかわらず変化する。
【0038】
別の可能性は、発生される磁界と、受け手側の導体ループとの間の純然たる機械的な相対運動である。この場合、導体ループは、高い磁束線密度を有する場所と、低い磁束線密度を有する場所とを通過する。この相対運動により、同じく磁束の時間的な変化が生じる。同じような考え方は、磁束の時間的な変化ではなく、磁気誘導あるいは磁界強度の時間的な変化を観察した場合にも当てはまる。本発明による実施の形態では、この相対運動は、専ら、ステータに対するロータの回転運動である。この場合、二次コイルが、回転運動中、一次コイルの非対称磁界を通過することが重要である。
【0039】
別の可能性としては、上述の両効果が互いに組み合わされる。
【0040】
本発明による例示的な一実施の形態において、電力の伝送は、一次側における、振動直流電流の使用、しかし、好ましくは、印加される交流電流により実施される。一次側および二次側では、フラットコイルが使用される。一次側で印加される磁界は、一次側のフラットコイルの軸線Apを中心として放射相称でないため、振動直流電流または交流電流を使用せずとも、純然たる回転によって、電圧が二次側において発生され得る。フラットコイルは、特に渦巻き線、さらに好ましくはアルキメデスの渦巻き線として構成されている。一次側のフラットコイルは、ステータ内部に設けられていても、ステータ上に設けられていてもよい。二次側のフラットコイルは、ロータ内部に設けられていても、ロータ上に設けられていてもよい。二次側のフラットコイルは、特に試料ホルダ内に設けられている。
【0041】
本発明による別の例示的な一実施の形態において、電力の伝送は、一次側のコイルにおける、振動直流電流の使用、しかし、好ましくは、印加される交流電流により実施される。本発明によるこの実施の形態では、一次コイルの軸線Apと、二次コイルの軸線Asとが、互いに一致し、発生される一次側の磁界が、コイル軸線Apを中心として放射相称であるため、二次コイルを通る磁束の変化は、純然たる相対運動によっては発生させることができず、振動直流電流、しかし、好ましくは、印加される交流電流によってのみ発生させることができる。
【0042】
本発明による別の例示的な一実施の形態において、電力の伝送は、互いに非対称に支持され、互いに回転する2つのコイルにより実施される。一次側で印加される磁界は、軸線Apを中心として対称ではあるものの、軸線Apと軸線Asとは、互いに一致していない。これにより、ステータとロータとの間の相対運動時、磁界は、二次コイルから見れば一定ではない。二次コイルは、あたかも、高い磁束線密度を有する領域と、低い磁束線密度を有する領域とを通過する。このことは、やはり二次側の電圧の誘導に至り得る。この特別な実施の形態において、一次側におけるコイルの数が、磁界の重畳により対称的な磁界が形成されてしまい、純然たる回転運動によってはもはや二次側の電圧の誘導に至り得ないほど、増加されないことに留意すべきである。これに関わらず、本発明によるこの実施の形態でも、振動直流電流の使用、しかし、好ましくは、印加される交流電流により、二次コイル内に常に電圧が発生され得る。
【0043】
使用される交番磁界の周波数は、0Hz~100kHz、好ましくは5Hz~75kHz、さらに好ましくは10Hz~50kHz、殊に好ましくは15Hz~25kHz、特に好ましくは20Hz~20kHzの間にある。
【0044】
一次巻線には、0ボルト~1000ボルト、好ましくは5ボルト~750ボルト、さらに好ましくは10ボルト~600ボルト、殊に好ましくは15ボルト~500ボルト、最も好ましくは24ボルト~400ボルトの間の電圧がかかっている。
【0045】
好ましくは、伝送される二次電圧、ひいては、伝送される電力は、試料ホルダの回転中、特に加速期間中も、一定に維持される。非対称磁界が一次側に形成される実施の形態の場合、二次側において誘導される電圧が試料ホルダの回転数に依存することは、明白である。二次側の電圧、ひいては電力を一定に維持するには、一次側において、どんなときも、特に連続的に制御可能な交番磁界が使用されねばならない。これにより、本発明による実施の形態に関して言及した一次側での直流の使用は、一定の電力伝送を果たさない。
【0046】
それゆえ、結局のところ、本発明によるすべての実施の形態において、交流電流の使用が常に好ましい選択であることに変わりはない。
【0047】
試料ホルダ
試料ホルダは、好ましくは、単数または複数のヒータにより発生された熱量を、主に、試料ホルダ上に固定された基板に向かって放出するように設計されている。
【0048】
これにより試料ホルダは、その下面およびその周囲において好ましくは絶縁されているように設計されている。絶縁は、主に、極めて低い熱伝導率を有する材料により行われる。好ましくは、真空チャンバも組み込まれる。真空チャンバは、熱の流れをさらに難しくする。下面および周囲へと向かう熱伝導率は、1W/(m*K)未満、好ましくは0.05W/(m*K)未満、さらに好ましくは0.025W/(m*K)未満、最も好ましくは0.01W/(m*K)未満である。
【0049】
試料ホルダは、好ましくは、基板に向かってその熱伝導率が最大であるように設計されている。高い熱伝導率は、主に、高い熱伝導率を有する素材の使用により達成される。基板へと向かう熱伝導率は、0.1W/(m*K)~5000W/(m*K)、好ましくは1W/(m*K)~2500W/(m*K)、さらに好ましくは10W/(m*K)~1000W/(m*K)、最も好ましくは100W/(m*K)~450W/(m*K)の間にある。
【0050】
試料ホルダは、好ましくは、回動軸線を中心とする偏差モーメントがゼロであるように設計されている。試料ホルダが、ゼロでない偏差モーメントを有しているときは、不釣り合いを除去し、偏差モーメントを取り除くために、ウェイトが使用される。
【0051】
試料ホルダは、固定部を有している。固定部は、基板の固定に用いられる。固定部は、
-機械式の固定部、特に
クランプ
-真空式の固定部、特に
個別に動作制御可能な真空チャンネル
互いに接続される真空チャンネル
を備える真空式の固定部
-電気式の固定部、特に
静電式の固定部
-磁気式の固定部
-粘着式の固定部、特に
ゲルパック(Gel-Pak)式の固定部
特に動作制御可能な、粘着性のある表面を有する固定部
であってよい。
【0052】
固定部の動作は、特に電子式に制御可能である。真空式の固定部は、固定の好ましい形態である。真空式の固定部は、好ましくは、試料ホルダの表面に現れる複数の真空チャンネルからなる。真空チャンネルの動作は、好ましくは個別に制御可能である。技術的により容易に実現可能な使用形態では、幾つかの真空チャンネルが真空チャンネルセグメントにまとめられている。これらの真空チャンネルセグメントは、個別に動作制御可能であり、それゆえ排気または注気され得る。ただし、各真空セグメントは、他の真空セグメントとは独立している。これにより、個別に動作制御可能な真空セグメントを構成する可能性が得られる。真空セグメントは、好ましくはリング形に設計されている。これにより、試料ホルダに対する基板の、特に内から外へと実施される好適な放射相称の固定および/または解除が可能となる。
【0053】
基板は、好ましくはウエハである。ウエハは、十分に規定された、標準化された直径を有する、規格化された基板である。ただし、基板は、概して、あらゆる任意の形状を有していてもよい。基板の直径は、概して、あらゆる任意の寸法を取ることができるが、大抵の場合、1インチ、2インチ、3インチ、4インチ、5インチ、6インチ、8インチ、12インチおよび18インチあるいは25.4mm、50.8mm、76.2mm、100mm、125mm、150mm、200mm、300mm、450mmの規格化された直径のいずれかを有している。
【0054】
正方形の基板を使用することも可能である。
【0055】
以下の説明では、全般的に基板について述べる。しかし、特に本発明による実施の形態は、主にウエハに関する。
【0056】
回転周波数は、回毎分(英:rounds per minute,rpm)で表示される。試料ホルダは、0rpm超、好ましくは10rpm超、さらに好ましくは100rpm超、殊に好ましくは1000rpm超、最も好ましくは3000rpm超の周波数で回転可能である。
【0057】
加速度は、rpm毎秒(英:rounds per minute per second,rpm/s)で表示される。試料ホルダは、0rpm/s超、好ましくは100rpm/s超、さらに好ましくは1000rpm/s超、殊に好ましくは10000rpm/s超、最も好ましくは40000rpm/s超で加速可能である。
【0058】
ヒータ
ヒータは、動作制御可能かつ調整可能なヒータである。ヒータの動作は、複数の方法で制御可能である。
【0059】
本発明による一実施の形態では、ヒータと、二次側のコイルとが、互いに直接接続されているため、誘導される電圧の大きさだけで、熱出力を司る電流が制御される。
【0060】
本発明による別の一実施の形態では、制御エレクトロニクスが二次側に存在する。二次側で発生される電流は、制御エレクトロニクスにより制御される。これにより、ヒータへと流れる電流に好適に影響を及ぼし、ひいては熱出力を制御することが可能である。
【0061】
本発明による別の一形態では、複数のヒータが試料ホルダ内に分配されていてもよい。この場合、これらのヒータは、相応にすべて二次側の線路に接続されている。複数の、特に対称に配置されたヒータを使用することで、温度プロファイルは、好適に調整され得る。1個より多い、好ましくは3個より多い、より好ましくは5個より多い、さらに好ましくは10個より多い、殊に好ましくは25個より多い、最も好ましくは100個より多いヒータが、試料ホルダ内に存在する。ヒータの数が多ければ多いほど、ヒータの動作を制御するエレクトロニクスは複雑化する。複数のヒータは、基板試料ホルダ内に対称に分配されていても、非対称に分配されていてもよい。好ましい一実施の形態において、複数のヒータは、温度勾配の調整が可能であるように分配されている。この場合、特に好ましいのは、温度最大値を縁部に有し、温度最小値を中心部に有する温度勾配である。このことは、ヒータ密度を縁部において高くすることで実現可能である。しかし、さらに好ましいのは、ヒータ密度が結果として均一となるヒータ分布である。この場合、温度プロファイルは、制御ソフトウエアと、ヒータの動作を好適に制御することとにより、ソフトウエアを介して調整され、より最適にコントロールされ得る。
【0062】
ヒータとして考えられるのは、
-セラミックヒータ
-薄膜ヒータ
-赤外線ヒータ
である。
【0063】
ヒータは、試料ホルダ、特に基板を、室温~400℃、好ましくは50℃~300℃、さらに好ましくは100℃~200℃の間の温度に加熱可能である。
【0064】
本発明における誘導結合による電力伝送により、極めて高い加熱速度も得ることができる。加熱速度は、0℃/分~60℃/分、好ましくは0℃/分~50℃/分、より好ましくは0℃/分~25℃/分、さらに好ましくは0℃/分~15℃/分、殊に好ましくは0℃/分~10℃/分、最も好ましくは0℃/分~5℃/分の間にある。
【0065】
ヒータにより発生される温度一様性は、10%より良好、好ましくは7.5%より良好、さらに好ましくは5%より良好、殊に好ましくは2.5%より良好、最も好ましくは1%より良好である。このことは、均一な温度分布が所望されている限りにおいて、温度が位置の関数として、最適な場合、1%未満しか所望の温度値から変動しないことを意味する。ただし、複数のヒータ、相応のエレクトロニクスおよび相応の制御器を使用することで、常に、意図した温度勾配を生じさせることができる。
【0066】
温度精度は、10%より良好、好ましくは7.5%より良好、さらに好ましくは5%より良好、殊に好ましくは2.5%より良好、最も好ましくは1%より良好である。温度精度とは、ある位置において温度値を調整することができる精度と解される。精度は、目標値からの平均値の偏差である。
【0067】
本発明による実施の形態の伝送される電力は、0ワット~2000ワット、好ましくは50ワット~1500ワット、さらに好ましくは100ワット~1000ワット、殊に好ましくは150ワット~800ワット、最も好ましくは200ワット~600ワットの間にある。200mmのウエハを加熱する典型的な電力は、200ワットの範囲にある。
【0068】
測定
本発明による実施の形態の別の課題は、測定信号、特に試料ホルダ内の温度、さらに好ましくは基板における温度を、ロータからステータに伝送することにある。
【0069】
本発明による好ましい一実施の形態において、温度は、ヒータの熱膨張を介して間接的に求められる。この熱膨張は、電気抵抗の変化に至る。電気抵抗は、比抵抗に正比例し、かつ電流が流れる導体の長さに正比例している。さらに電気抵抗は、この導体の横断面にも直接依存している。直流技術では、抵抗と、導体の比抵抗、横断面および長さとの間に、以下の関係を見出すことできる:
【数1】
【0070】
二次側における電流の誘導により、電流がヒータを通って流れる。ヒータは、その周囲を加熱するとともに、その際、自らも加熱される。温度上昇により、ヒータは膨張し、その抵抗を変化させる。而るにこの抵抗変化は、二次側で、しかし、好ましくは、それどころか一次側で測定され得る。二次側で測定する場合、抵抗変化は、好ましくはエレクトロニクスにより求められる。相応に発生される測定信号は、エレクトロニクスにより発生され、本発明に係る方法を介して非接触式に伝送される。
【0071】
本発明による殊更特に好ましい一実施の形態において、温度は、二次側におけるインピーダンスを介して間接的に計測される。インピーダンスとは、交流抵抗と解される。インピーダンスは、負荷において降下する電圧と、ピックアップされる電流の強さとにより計算され得る。電圧Uが降下する負荷を通って流れる電流の強さIは、ともかくその抵抗に依存している:
【数2】
【0072】
しかし、他方において、電圧と電流とを測定してやれば、抵抗を求めることもできる:
【数3】
【0073】
交流技術では、時間的に変化する量U(t)とI(t)とを使用し、インピーダンス、すなわち、交流抵抗を:
【数4】
により求める。
【0074】
インピーダンスは、ベクトル量であり、極座標系内に相応に簡単に図示することができる。時間的に変化する交流電圧U(t)と、温度上昇時、抵抗が変化するため、二次側で変化するはずの、時間的に変化する電流I(t)とを計測することで、温度を推定することができる。本発明によるこの方法は、間接的な温度計測であるため、好ましくは、システムの校正が実施される。その際、最良には、測定したインピーダンスを、外部の、特に極めて正確な温度測定器により測定した温度により校正する。これにより、本発明による制御プロセスにおいて、インピーダンスの計測により温度を推定することが可能となる。つまり、本発明による誘導結合は、同時に測定信号を伝送する。本発明によるこの実施の形態では、固有の測定回路を必要としない。
【0075】
本発明による別の一実施の形態では、測定信号は、ロータからステータへの容量結合を介して減結合される。測定信号は、少なくとも1つのセンサ、特に熱電対によりピックアップされる。好ましくは、信号は、既に、試料ホルダ内に存在するエレクトロニクス内で相応に処理される。このために装置は、ステータ側のコンデンサ部とロータ側のコンデンサ部とを備えている。
【0076】
本発明による別の一実施の形態では、測定信号は、放射測定、特に赤外線測定を介してロータからステータに伝送される。測定信号は、少なくとも1つのセンサ、特に熱電対によりピックアップされる。好ましくは、信号は、既に、試料ホルダ内に存在するエレクトロニクス内で相応に処理される。ロータには、相応の送信器、特に赤外線送信器が存在し、ステータには、相応の受信器、特に赤外線受信器が存在している。原則、2000nm~1000μm、好ましくは1500nm~1000μm、さらに好ましくは1000nm~1000μm、最も好ましくは780nm~1000μmの間の波長領域にある電磁放射が利用可能である。
【0077】
本発明による別の一実施の形態では、測定信号の伝送は、無線を介して実施される。これには、相応の無線送信器および受信器が必要である。このために装置は、ステータ側の無線受信器と、ロータ側の無線送信器とを備えている。特にロータ側の無線モジュールは、相応のエレクトロニクスと、一定の電圧あるいは一定の電流により運転されねばならない。概していえることは、エレクトロニクスは、ロータ内、ステータ内、または本発明による実施の形態とは切り離されて据え付けられたコンピュータ内に存在していてもよいことである。波長領域は、赤外線波長を上回る。波長は、1mm~10km、好ましくは1cm~1km、さらに好ましくは1dm~100m、殊に好ましくは1dm~50m、最も好ましくは1dm~25mの間にある。
【0078】
制御部
本発明による別の一実施の形態では、制御部が誘導結合と測定システムとの間に存在している。その際、制御部は、連続的に測定量、特に温度あるいは温度推移を求め、その都度の予め決められた目標値に応じて温度を制御する。好ましくは、PIDコントローラが使用される。PIDコントローラは、ソフトウエアおよび/またはハードウエアPIDコントローラであってよい。制御部は、好ましくは、PLCシステムに実装されるソフト制御器により実施される。この制御器の出力操作量は、ヒータの一次電圧の振幅に影響を及ぼす。
【0079】
伝送される電力を一定に維持すべく、このことは好ましい一実施の形態に相当するものであるが、電力回路の適応制御のために、試料ホルダの回転数値が入力量として利用可能でなければならない。
【0080】
交換性
ロータをステータから電気機械的に減結合したことで、種々のロータを極めて迅速に交換することができる。考え得るのは、例えばロータが軸を有し、軸の下面に溝が設けられていて、モーメントを伝達すべく、この溝内に駆動軸の連行体が係合することである。この種の設計は、構造および保守を簡単にすることができる。本発明によりステータをロータから電気機械的に減結合したことと、すり接点を省略したこととにより、交換は、完全に手間いらずに、特にそれどころかロボットにより自動的に実施可能である。
【0081】
本発明による実施の形態のロータは、好ましくは個別に校正される。ロータの1つを交換した後は、ソフトウエアにより新たに校正を行わなければならないか、または少なくとも過去の校正をロードしなければならない。本発明による別の一形態は、ロータの自動的な識別、特にRFIDチップを用いた自動的な識別である。ロータを装入し、自動的に認識し、使用するソフトウエア内で相応の校正プログラムを作動させる。これにより、正確な校正のためのロータの一義的な割り当てが保証される。
【0082】
カプセル化
加熱素子も、測定信号を伝送する要素も、1つのチャンバ内に存在するので、本発明による実施の形態は、好ましくは所定の防火要求を充足する。最も重要な防火要求は、
-ロータに対するステータの封止
-不活性ガスを用いた正圧下でのロータ周囲のパージ
である。
【0083】
一般に可燃性の媒体が使用されるため、防爆措置の遵守も保証されねばならない:
-高温の表面が存在しないこと(確実な温度制限)
-火花が形成されないこと
-静電気が帯電しないこと。
【0084】
本発明の別の利点、特徴および詳細は、好ましい実施例について図面を参照しながら行う以下の説明から看取可能である。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【
図1a】本発明による第1の実施の形態の縮尺通りでない概略部分横断面図である。
【
図1b】本発明による第1の実施の形態の縮尺通りでない概略部分上面図である。
【
図2a】本発明による第2の実施の形態の縮尺通りでない概略部分横断面図である。
【
図2b】本発明による第2の実施の形態の縮尺通りでない概略部分上面図である。
【
図3a】本発明による第3の実施の形態の縮尺通りでない概略部分横断面図である。
【
図3b】本発明による第3の実施の形態の縮尺通りでない概略部分上面図である。
【
図4a】容量式の測定を行う本発明による別の一実施の形態の縮尺通りでない概略部分横断面図である。
【
図4b】赤外線測定を行う本発明による別の一実施の形態の縮尺通りでない概略部分横断面図である。
【
図4c】無線測定を行う本発明による別の一実施の形態の縮尺通りでない概略部分横断面図である。
【
図4d】放射計測を行う本発明による別の一実施の形態の縮尺通りでない概略部分横断面図である。
【
図4e】放射計測を行う本発明による別の一実施の形態の縮尺通りでない概略部分横断面図である。
【
図5a】クラッチを備える本発明による別の一実施の形態の縮尺通りでない概略横断面図(クラッチ係合前の状態)である。
【
図5b】クラッチの縮尺通りでない概略横断面図(クラッチ係合後の状態)である。
【
図6】本発明による別の一実施の形態を示す図である。
【0086】
図中、同一の構成部材または機能同一の構成部材には、同一の符号を付した。
【0087】
以下の
図1a~3bでは、エレクトロニクス11、特にヒータ3の動作を制御するエレクトロニクス11が、一次電流回路および/または二次電流回路内に存在していてもよい。好ましくは、ヒータ3には、専ら、二次巻線6s(以下では、二次コイル6sともいう)に誘導される電圧を介して、電流が供給される一方、ヒータ3の制御は、ステータ10内に設けられたエレクトロニクス11により、専ら一次側で実施される。
【0088】
図1aは、第1の本発明に係る装置1の縮尺通りでない概略横断面図である。特に、電力を伝送するのに必要な構成部材は図示してあるが、温度を測定する構成部材については、
図4a~4cに示してある。
【0089】
装置1は、回転軸線Rを有する回転軸8(以下では、軸8ともいう)を有するロータ9と、ステータ10とからなっている。ステータ10内には、一次巻線6p(以下では、一次コイル6pともいう)が組み込まれている。一次巻線6pは、特にフラットコイルである。一次巻線6pは、ベース7のベース表面7oに組み付けられていても、図示したようにベース7内に組み付けられていてもよい。
【0090】
一次巻線6pには、線路5を介して電流、特に交流電流が通電される。本発明により、こうして発生された交番磁界により、二次コイル6s内に電圧が誘導される。誘導された電圧は、電流を発生させ、電流は、ヒータ3を通って流れ、固定要素4および試料ホルダ表面2oを有する試料ホルダ2、そして、特に、固定された基板を加熱することができる。
【0091】
念のため附言しておくと、フラットコイル、特に一次巻線6pは、このフラットコイルが存在する平面Eに対して垂直に位置する軸線Aに関して、放射相称の幾何学形状を有しない。それゆえ、直流により発生される静磁界も放射相称にはならない。それゆえ、ファラデーの誘導法則に応じて、非対称磁界内で回転する導体ループ、特に、同じくフラットコイルとして設計された回転する二次巻線6s内には、電圧が誘導される。それでもなお、交流電流により引き起こされる交番磁界による誘導結合の方が、制御技術的理由およびその他の物理的理由から望ましい。特に、誘導される電圧は、常に、磁束の時間的な変化に正比例している。それゆえ、印加される交流電流の周波数が高ければ高いほど、磁束は速く変化し、誘導される電圧は高い。
【0092】
図1bは、一次コイル6pと二次コイル6sとを備える装置1の縮尺通りでない概略平面図である。両コイル6p,6sは、フラットコイル、特に渦巻きコイル、さらに好ましくはアルキメデスのコイルとして構成されている。アルキメデスの渦巻き線は、
【数5】
という数学的関係にしたがう。ここで、r(φ)は、角度位置φにおける半径であり、aは、定数である。定数aが小さければ小さいほど、渦巻き腕間の間隔は小さい。座標原点から延びる放射線に沿った、アルキメデスの渦巻き線の2つの渦巻き腕間の間隔は、常に2πaである。
図1bでは、見やすさを優先し、
図1aより定数aを大きくした両フラットコイル6pおよび6sを示してある。
図2aは、第2の本発明に係る装置1’の縮尺通りでない概略横断面図である。
【0093】
特に、電力を伝送するのに必要な構成部材は図示してあるが、温度を測定する構成部材については、
図4a~4cに示してある。
【0094】
本発明に係る装置1’は、ロータ9とステータ10とからなっている。一次巻線6p’および二次巻線6s’は、互いに同心に配置される円筒コイルである。一次巻線6p’は、ベース7のベース内面7iに組み付けられていても、
図2aに示したようにベース7内に組み付けられていてもよい。一次巻線6p’には、線路5を介して交流電流が通電される。二次巻線6s’は、
図2aに示したように軸表面8oに存在していても、軸8内に存在していてもよい。
【0095】
図2bは、一次コイル6p’と二次コイル6s’とを備える装置1’の縮尺通りでない概略平面図である。両コイル6p’および6s’は、円筒コイルとして構成されている。一次コイル6p’および二次コイル6s’が回転軸線Rに関して同心に位置することが看取可能である。
【0096】
図3aは、第3の本発明に係る装置1”の縮尺通りでない概略横断面図である。
【0097】
特に、電力を伝送するのに必要な構成部材は図示してあるが、温度を測定する構成部材については、
図4a~4cに示してある。
【0098】
本発明に係る装置1”では、少なくとも1つの一次巻線6p”がステータ10内に存在し、少なくとも1つの二次巻線6s”がロータ9内に存在している。
【0099】
一次巻線6p”の対称軸線Apと、二次巻線6s”の対称軸線Asとは、一致しないように配置されている。対称軸線Ap,Asは、回転軸線Rに関して偏心に配置されている。特に、この種の複数の一次巻線6p”を、ステータ10内に配置し、かつ/または複数の二次巻線6s”を、ロータ9内に配置することができる。これらの一次巻線6p”および/または二次巻線6s”は、ステータ10あるいはロータ9内に対称または非対称に配置され得る。対称軸線Apおよび/またはAsは、回転軸線Rに関して任意の角度を占めることができる。ただし、好ましくは、対称軸線Apおよび/またはAsは、回転軸線Rに対して平行である。
【0100】
図3bは、互いに120°の角度間隔を置いて配置される3つの一次巻線6p”がステータ10内に、そして互いに120°の角度間隔を置いて配置される3つの二次巻線6s”がロータ9内にそれぞれ看取可能な、縮尺通りでない概略断面図である。
【0101】
図1a~3aは、同時に、本発明に係る第1の測定兼データ伝送装置(以下では、測定システムともいう)を構成するのに必要なすべての構成部材も示している。この測定システムの場合、例えばインピーダンスの測定を介してヒータ3の温度を求めるために、誘導結合が利用され得る。この分野の当業者にとって、ヒータの温度上昇時、二次側のインピーダンスが変化することは明らかである。しかし、誘導結合により、この場合、一次側のインピーダンスも変化する。一次側のインピーダンスは、明細書の遙か上で既に説明したように、電圧および電流を測定することで容易に求めることができる。これにより、一次側のインピーダンスを計測することで二次側の温度を特定する可能性が得られる。好ましくは、一次側のインピーダンスあるいはインピーダンス変化は、計測された二次側の温度あるいは温度変化により校正される。これにより、各インピーダンス値あるいはインピーダンス変化に対し、割り当てられた温度あるいは温度変化が得られる。
【0102】
図4aは、別の本発明に係る装置1の縮尺通りでない概略横断面図であり、この横断面図には、本発明に係る第2の測定システムが示されている。
図1a~3cに示した本発明に係る電力伝送の構成部材は、見やすさを優先し、図示を省略した。
【0103】
試料ホルダ2内には、少なくとも1つの熱電対12の動作を制御するエレクトロニクス11が存在している。本発明では、複数の熱電対12が存在していてもよい。熱電対12は、固定された基板の温度を計測することができるように、好ましくは、試料ホルダ2の試料ホルダ表面2oに取着される。特別な実施の形態では、熱電対12は、試料ホルダ2内に存在していてもよい。試料ホルダ2内に組み付けられた熱電対12と、試料ホルダ表面2oに組み付けられた熱電対12とが組み合わされてもよい。
【0104】
エレクトロニクス11は、一次側のコンデンサ部13pと、二次側のコンデンサ部13sと、線路5’とを介して閉じた電流回路の一部である。一次側のコンデンサ部13pおよび二次側のコンデンサ部13sは、好ましくは、完全に閉じたリングである。一次側のリングセグメント13pおよび/または二次側のリングセグメント13sを使用してもよい。一次側のコンデンサ部13pおよび二次側のコンデンサ部13sがリングセグメントである場合、電流回路は、一回転する度に短時間閉じられるだけである。
【0105】
図4bは、別の本発明に係る装置1の縮尺通りでない概略横断面図であり、この横断面図には、本発明に係る第3の測定システムが示されている。
図1a~3cに示した本発明に係る電力伝送の構成部材は、見やすさを優先し、図示を省略した。
【0106】
試料ホルダ2内には、少なくとも1つの熱電対12の動作を制御するエレクトロニクス11が存在している。本発明では、複数の熱電対12が存在していてもよい。熱電対12は、固定された基板の温度を計測することができるように、好ましくは、試料ホルダ2の試料ホルダ表面2oに取着される。特別な実施の形態では、熱電対12は、試料ホルダ2内に存在していてもよい。試料ホルダ2内に組み付けられた熱電対12と、試料ホルダ表面2oに組み付けられた熱電対12とが組み合わされてもよい。
【0107】
エレクトロニクス11は、一次側の赤外線受信器14pと、二次側の赤外線送信器14sとを介して閉じた電流回路の一部である。この場合、赤外線送信器14sと赤外線受信器14pとは、オプトカプラ(光結合器)を形成している。赤外線送信器14sおよび赤外線受信器14pは、好ましくはリング形に形成される。
【0108】
図4cは、別の本発明に係る装置1の縮尺通りでない概略横断面図であり、この横断面図には、本発明に係る第4の測定システムが示されている。
図1a~3cに示した本発明に係る電力伝送の構成部材は、見やすさを優先し、図示を省略した。
【0109】
試料ホルダ2内には、少なくとも1つの熱電対12の動作を制御するエレクトロニクス11が存在している。本発明では、複数の熱電対12が存在していてもよい。熱電対12は、固定された基板の温度を計測することができるように、好ましくは、試料ホルダ2の試料ホルダ表面2oに取着される。特別な実施の形態では、熱電対12は、試料ホルダ2内に存在していてもよい。試料ホルダ2内に組み付けられた熱電対12と、試料ホルダ表面2oに組み付けられた熱電対12とが組み合わされてもよい。
【0110】
エレクトロニクス11は、一次側の無線受信器15pと、二次側の無線送信器15sとを介して閉じた電流回路の一部である。一次側の無線受信器15pは、必ずしもステータ10内に存在している必要はなく、無線送信器15sの有効範囲内であればどこに存在していてもよく、特にコンピュータ内に存在していることができる。
【0111】
図4dは、別の本発明に係る装置1の縮尺通りでない概略横断面図であり、この横断面図には、本発明に係る第5の測定システムが示されている。
図1a~3cに示した本発明に係る電力伝送の構成部材は、見やすさを優先し、図示を省略した。本発明に係る測定システムは、放射束を介して試料ホルダ2の温度を求めることができる。言及した本発明による実施の形態では、基板ホルダ2は、下面および/または縁部で断熱されている。本発明によるこの実施の形態によれば、基板ホルダ2の下面に、赤外線透過性の窓23が存在しており、窓23を介して放射、特に赤外放射が基板ホルダ2から出射することができる。検出器25は、こうして放出された放射を計測し、放射曲線あるいは放射束から試料ホルダ2の温度を逆算することができる。検出器25は、好ましくは赤外線検出器である。しかし、赤外線帯より広い周波数帯にわたって放射束を計測可能な検出器であってもよい。
【0112】
図4eは、別の本発明に係る装置1の縮尺通りでない概略横断面図であり、この横断面図には、本発明に係る第6の測定システムが示されている。
図1a~3cに示した本発明に係る電力伝送の構成部材は、見やすさを優先し、図示を省略した。本発明に係る測定システムは、検出器アーム24を有し、検出器アーム24には、検出器25が装着されており、検出器25は、基板試料ホルダ2の表面、特に、載置された基板(図示せず)の表面を計測することができる。検出器25は、好ましくは赤外線検出器である。しかし、赤外線帯より広い周波数帯にわたって放射束を計測可能な検出器であってもよい。
【0113】
図5aは、連行体17とピン21とを有する駆動軸16の上方に位置する、孔20と溝18とを有するロータ9の回転軸8の下側の部分を、クラッチ係合前の状態で示している。軸8の縁部には、IDチップ19、特にRFIDチップが存在していてもよく、IDチップ19は、ロータ9を一義的に、かつ特に全自動で識別するために用いられる。IDチップ19は、軸8内に組み付けられていても、ロータ9のあらゆる別の部分に組み付けられていてもよい。軸8の孔20は、連行体17が溝18により取り囲まれるように、駆動軸16のピン21に嵌合される。
【0114】
図5bは、軸8の下側の部分を、駆動軸16に係合させた状態で示している。両
図5a,5bは、著しく簡単化した例示的なクラッチシステムを示したにすぎず、クラッチシステムは、類似カテゴリのクラッチシステムに置換されてもよい。しかし、好ましくは、クラッチシステムは、常に、全自動でロータ9を、軸8を介して駆動軸16に、特にロボットにより係合させることができるように構成されている。
【0115】
図6は、ガス流22、特に不活性ガス流がロータ9の周囲をパージするようにした別の本発明に係る装置1を示している。これにより、特に、外部と接しているすべての電気的な構成部材、例えば一次側のコンデンサ部13pおよび二次側のコンデンサ部13sの周囲はパージされ、これにより、これらの構成部材は保護される。
【0116】
この種の外側に位置する、電流を案内するまたは電荷を有する構成部材の周囲を、不活性ガス22によりパージすることで、火花形成は、改めて大幅に減じられる。しかし、この種の不活性ガス22を使用する主な理由は、とりわけ、ロータ9とステータ10との間に、周囲圧p1より高い正圧p2を形成することにある。これにより、ロータ9とステータ10との間に想定し得る可燃性の液体、蒸気またはガスが侵入することは、難しくなり、それどころか完全に阻止される。
【符号の説明】
【0117】
1,1’,1” 装置
2 基板ホルダ
2o 基板ホルダ表面
3 ヒータ
4 固定要素
5,5’ 線路
6p,6p’,6p” 一次巻線
6s,6s’,6s” 二次巻線
7 ベース
7o ベース表面
7i ベース内面
8 回転軸
8o 軸表面
9 ロータ
10 ステータ
11 エレクトロニクス
12 熱電対
13p 一次側のコンデンサ部
13s 二次側のコンデンサ部
14p 一次側の赤外線受信器
14s 二次側の赤外線送信器
15p 一次側の無線受信器
15s 二次側の無線送信器
16 駆動軸
17 連行体
18 溝
19 IDチップ
20 孔
21 ピン
22 ガス流
23 赤外線窓
24 検出器アーム
25 検出器
Ap 一次側の対称軸線
As 二次側の対称軸線
R 回転軸線
E 平面
p1,p2 圧力