(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】光学的に等方性の液体からなる電気制御可能な光学素子、ことにレンズ、および液状複合材料を基礎とするその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/139 20060101AFI20220104BHJP
G02F 1/061 20060101ALI20220104BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20220104BHJP
G02F 1/1337 20060101ALI20220104BHJP
G02F 1/29 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G02F1/139
G02F1/061 501
G02F1/13 500
G02F1/13 505
G02F1/1337 520
G02F1/29
(21)【出願番号】P 2018548273
(86)(22)【出願日】2016-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2016025164
(87)【国際公開番号】W WO2017092877
(87)【国際公開日】2017-06-08
【審査請求日】2019-11-20
(31)【優先権主張番号】102015015436.2
(32)【優先日】2015-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】518194464
【氏名又は名称】フォーカス テック ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】FOKUS TEC GmbH
【住所又は居所原語表記】Kraillinger Strasse 12, 82131 Gauting, Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】518194475
【氏名又は名称】シュテファニー ファウスティヒ
【氏名又は名称原語表記】Stephanie Faustig
【住所又は居所原語表記】Hiltenspergerstr. 95, 80796 Muenchen, Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】518194486
【氏名又は名称】クラウス ホフマン
【氏名又は名称原語表記】Klaus Hoffmann
【住所又は居所原語表記】Zuericher Str. 104, 81476 Muenchen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ホフマン
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム シュトゥンペ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス フィッシャー
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ルートロー
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/080529(WO,A1)
【文献】特開2015-001705(JP,A)
【文献】特開平11-183937(JP,A)
【文献】特開2012-003194(JP,A)
【文献】特開2008-303381(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0141415(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102929045(CN,A)
【文献】特開2015-101708(JP,A)
【文献】特開2005-189434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/137-1/139
G02F 1/1337
G02F 1/061
G02F 1/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の基板(1)と、前記基板(1)の内側表面上に設けられた導電性層(2)とを有する、カー液体で充填されたカーセルを有する電気制御可能な光学素子において、前記カー液体(K)は、活性複合材料として棒状分子(5)と非棒状分子(4)との混合物を有し、かつ前記カー液体(K)は、薄層セル内で、基板(1)上に設けられ構造化されたまたは/および平面状の導電性層(2)の間で
、異方性網目構造(9)を有する薄層を、電気光学カー効果に従って、前記カー液体(K)の前記活性複合材料(4、5)の状態が電界なしで作動温度領域RTで等方性であり、かつ電圧Uの電気的に連続する調節によるか、もしくは電圧Uのスイッチオン/スイッチオフにより前記光学素子の電圧により誘導された位相高低差または屈折率高低差の変化を生じ、かつ光が電極に対して垂直方向で電極間隔を通過するように形成
し、前記薄層セルは、2枚のガラス製またはポリマー製の基板(1)を有し、前記基板(1)の内側表面に、それぞれ導電性層として導電性ITO電極(2)が設けられていて、かつその上に配向層(3)が設けられていて、かつホメオトロピック配向を有するLC相が形成されているカー液体(K)中に混合された光開始剤(6)、脂肪族モノマー(7)および反応性メソゲン(8)を用いた異方性ポリマー網目構造(9)のための予備形成、電圧Uの印加による前記棒状分子(5)の整列、および前記カー液体(K)のUV照射が行われ、前記ホメオトロピック配列を引き起こす配向層(3)は光架橋可能な基または光重合可能な基を含むものであり、かつ前記異方性網目構造(9)は両方の基板界面に共有結合で固定されていて、それにより前記網目構造(9)は、ほぼ室温RTの作動範囲への温度上昇による前記カー液体(K)の等方化の場合であっても、その異方性の形を維持することを特徴とする、電気制御可能な光学素子。
【請求項2】
前記カー液体(K)の活性複合材料として大きな双極子モーメントを有する前記棒状分子(5)は、ナノスケールのクラスターまたはナノ粒子の形
で異方性ポリマー網目構造(9)内に固定されて存在し、ここで、
前記棒状分子(5)の網目構造(9)内での固定は、非共有結合型の分子間相互作用によって行われ、かつここで前駆体混合物(4、5)の分子クラスターまたは球形または非球形のナノ粒子は分散され、それにより一方でカー効果の向上が秩序づけて固定されたクラスターまたはナノ粒子の高い安定した配向秩序により達成され、他方で溶液中で、または澄明点を超えたLC材料中でのカー効果の温度依存性は最小化されることを特徴とする、請求項1記載の電気制御可能な光学素子。
【請求項3】
前記
棒状分子(5)の前記分子間相互作用は、ピリジン/酸または酸/酸のH架橋結合、イオン性相互作用およびππ相互作用に基づき形成され、かつ前記カー効果の安定化のために前記分子間相互作用および予備配向効果の多様な温度依存性が利用されることを特徴とする、請求項
2記載の電気制御可能な光学素子。
【請求項4】
前記カー液体(K)の活性複合材料として前記非棒状
分子(4)が分子間相互作用により形成され、かつ温度上昇が、非共有結合型の相互作用の弱体化を引き起こし、ここで複合体は部分的に分解されることを特徴とする、請求項
3記載の電気制御可能な光学素子。
【請求項5】
高い誘電異方性および光学異方性を有する等方性セミメソゲン
を前記非棒状分子(4)
として合成するために、極性の頭部基として
【化1】
によるビフェニル構造のパラ位に置換基が導入されていることを特徴とする、請求項1から
4までのいずれか1項記載の電気制御可能な光学素子。
【請求項6】
前記非棒状分子(4)が
【化2】
によるピリミジン環を有するセミメソゲ
ンの場合
、フェニル環
をヘテロ芳香環
へ交換
すること、および頭部基のバリエーションにより、前記セミメソゲ
ンの永久双極子モーメントおよびそれによる誘電異方性が高められていることを特徴とする、請求項1から
4までのいずれか1項記載の電気制御可能な光学素子。
【請求項7】
2枚の基板(1)と、前記基板(1)の内側表面上に設けられた導電性層(2)とを有し、カー液体で充填されたカーセルを有する電気制御可能な光学素子の製造方法において、
a) 前記カー液体(K)は、活性複合材料としての棒状分子(5)と非棒状分子(4)との混合物、反応性メソゲン(8)、光開始剤(6)および脂肪族モノマー(7)を有し、
b) 前記カー液体(K)を、薄層セルとして構成されたカーセル(K)内に充填し、
c) 前記カー液体(K)を、ホメオトロピック配向を有するLC相が形成される、室温RTよりも低い温度Tに冷却する、
d) ホメオトロピックに配向した層のUV照射によりラジカルを生成させ、前記ラジカルが、前記カー液体(K)中で前記脂肪族モノマー(7)と架橋したメソゲン(10)からな
る異方性網目構造(9)が生じるように、配向した反応性セミメソゲン(8)の重合を引き起こすので、
電圧Uなしで作動温度範囲RTでは、大きな双極子モーメントを有する棒状分子(5)と、
非棒状分子(4)との複合材料はまた等方性であり、かつ電圧Uの印加の際に前記複合材料の分子は、電気力線の方向に配向
し、
ホメオトロピック配向を引き起こす配向層(3)は、光架橋可能な基または光重合可能な基を含むことを特徴とする、電気制御可能な光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1記載の、電気制御可能な光学素子、ことに光学的に等方性の液体からなるレンズ、および請求項9記載の、液状複合材料を基礎とするその製造方法に関する。
【0002】
調節可能な光学素子は、現在、機械系が優位である。これらの機械系は重く、かつ体積が大きく、ならびに機械式駆動等の使用に基づき故障しやすく、かつしばしば緩慢すぎる。したがって、非機械式光学素子が有利であり、かつ現在の開発の主題である。わずかな有効径を有するこの種の光学素子について既に解決策が商品化されているが、これは大きな開口の場合にはいまだに当てはまらない。
【0003】
印加された電界の電界強度と共に二乗で増大する光学複屈折の出現を、電気光学カー効果(J. Kerr 1875)、二次の電気光学効果または電気複屈折という。この効果の場合、電界内で、等方性の液体中で永久双極子モーメントを有する分子は整列する。この整列により電界内で材料は光学的に異方性となり、この際、無電圧状態の等方性の液体と比較して、電界方向ではより高い屈折率が生じ、かつこの電界方向に対して垂直方向ではより低い屈折率が生じる。カーセルの場合に、材料の屈折挙動および偏光挙動は、外部印加された電界により変化するので、電気信号を光学信号に変換することができる。通過する光の方向に対して横方向に、カー液体中の電極プレートを介して電界が印加される。カー液体として、大抵は、2.44×10-12m/V2のカー定数Kを有し、室温で液状であり、かつアルコール、エーテルおよびベンゼンと良好に混合することができる純粋なニトロベンゼンが使用される。それに比べて、ニトロトルエンは、1.37×10-12m/V2のカー定数Kを有し、水は、5.1×10-14m/V2のカー定数Kを有する。上述の液体で、かつセンチメートル範囲の通常のセルサイズでは、この場合、数キロボルトの範囲の電圧が必要である。カーセルの表側および裏側はガラスからなり光透過性であり、金属からなる側壁は、電極プレートである。
【0004】
したがって、カーセルの工業的適用は、誘電体としてカー液体、大抵はニトロベンゼンを有するコンデンサーである。これは、光学的主軸のそれぞれが電界の方向に対して45°傾斜して交差する偏光子の間に置かれる。セルに電圧が印加されていない場合、光はこの装置を通過することができない。
【0005】
電界内でカー液体は複屈折性になる、つまりこの電界の方向に振動する光成分は、この電界に対して垂直方向に振動する光成分とは異なる伝播速度を受ける。したがって、この両者の間ではカーセルからの出射の際に位相シフトδが存在する。ここで、δと光量L0とに関連して、最良の場合に生じる光量Lが、光学装置を通過する:
L=L0・sin2δ/2
位相シフトδは、電界強度E、コンデンサープレート間の光路長l、および誘電体のカー定数Bに依存して、次の関係に従う
δ=2π・B・l・E2
したがって、L=L0・sin2(π・B・l・E2)となる。
【0006】
ライトリレーとしてのカーセルの感度を本質的に向上させるために、独国特許出願公開第555249号明細書(DE 555 249-A)から、使用される偏光された光の部分放射に、カーセル内で生じた電圧依存性の位相シフトの他に、別の不変の位相シフトも与えられることは公知である。付加的な位相シフトの作製の他に、複屈折性結晶プレートが光路内に挿入される。
【0007】
ニトロベンゼンのような液体の場合に、キロボルト範囲の電圧が印加される場合でさえ、検知される屈折率の差は極めて小さい。久しく公知のカー効果のこのわずかな程度に基づいて、このカー効果に基づく能動光学素子の製造は当面は除外されていたと考えられる。例えば、ニトロベンゼンについての、カー効果の強度を定量化するカー定数(Zinth, W., Optik, Oldenbourg-Verlag, Muenchen, 2011)は、約2.44×10-12mV-2にすぎない。
【0008】
数十年来、今まで使用されていたニトロベンゼンよりも高いカー定数を有し、かつそれにより低い制御電圧で同じ効果を生じる液体を見出すために、繰り返し試験が行われた。例えば独国特許出願公開第622368号明細書(DE 622 368-A)から、室温で固体の状態であるベンゼン環の二置換体または三置換体が溶媒中に導入されたカーセル液体は公知であり、このカー定数はニトロベンゼンのオーダーにある。この場合、合理的には、置換基NO2が好ましい。溶媒として、独国特許出願公開第622368号明細書(DE 622 368-A)によると例えば:
ニトロベンゼン
ニトロトルエン メタ
ニトロトルエン オルト
が使用される。
溶解されるべき物質として次のものが提案される:ジニトロベンゼン オルト、ニトロアニリン(好ましくはパラ)、ニトロトルエン パラ、クロロニトロベンゼン オルト、クロロジニトロベンゼン 1:2:3、ジクロロニトロベンゼン 1:2:3、ニトロナフタレン アルファ、ジニトロナフタレン 1:8。
【0009】
さらに現在のところ、巨視的に配向された液晶材料に基づく素子が使用されている。しかしながら、この系は、光の一つの偏光方向に影響を及ぼすのみであり、それに対して垂直の偏光方向を有する光には、ほとんど影響を及ぼさないという欠点を有する。この事実に基づいて、吸収性偏光子がこのような素子と組み合わせられる。しかしながら、これにより必然的に光量が50%未満に低下する。この欠点を除去するために、直交方向に配向する2つ(またはそれ以上)の同じ構造の素子を互いに組み合わせることが提案されたが、これにより明らかにより高い手間が生じ、かつ空間的クロストークによる付加的な故障の要因は、光学損失と、素子の相互の正確な整列に関する付加的な問題を生じる。
【0010】
他の等方性LC状態は、散乱性PDLC、低散乱性ナノ-PDLC系、および等方性のポリマー強化された等方性のブルーLC相である。これらは、ポリマーマトリックスおよびドメイン境界により引き起こされる高い切替電圧により特徴付けられる。LC位相変調器のような反射性素子とは反対に、透過性素子の場合には残留散乱が生じることが障害となる。
【0011】
双極子モーメントの異方性が高く、かつ棒状分子形状を有する等方性液体の場合には、本質的に比較的大きな屈折率の差を達成することができるので、数桁高いカー定数が見出される。これは、例えば液晶の等方相について比較的高い温度で既に示された。
【0012】
明らかに高い値は、澄明温度をわずかに越える液晶の等方性溶融物(J. Chem. Soc, Faraday Trans. 2, 1976, 72, 1447-1458 / DOI: 10.1039/F29767201447)中で、またはポリマー安定化された等方性液晶(Appl. Phys. Lett. 98, 023502 (2011)/DOI: 10.1063/1.3533396)中で、および液晶のポリマー安定化されたブルー相中で測定することができる。ここでは、300×10-12mV-2までのカー定数が測定された。
【0013】
しかしながら、この種の系中でのカー効果の大きな欠点は、例えば液晶5CBの等方性溶融物について記載されたように、この効果の温度依存性が極めて強いことである(Dunmur D. A.およびTomes A. E ., 1981, Mol. Cryst. Liq. Cryst. 76, 231)。ポリマー安定化された等方性液晶中では温度依存性を低減することができたが、これは著しく限定された温度範囲についてのみであった(J. Phys. D: Appl. Phys. 42 (2009) 112002 / DOI: 10.1088/0022-3727/42/11/112002)。これらの系の大多数において、必要とされる高い電圧および長い切替時間は望ましくないことが判明している。
【0014】
光学信号の変調、減衰、偏光制御および切替を必要とする用途の場合に適している、光学情報伝達または通信の分野で改善された電気光学素子を、平坦な導波路または光ファイバと組み合わせて作製するために、国際公開第2004/046796号(WO 2004/046796-A1)から、光学導波路コアとクラッドとを含み、このクラッドは光学導波路コアに光学的に結合している導波路装置が公知である。クラッドは屈折率の定義を有するカー効果媒体を有する光学的機能性区域を含み、屈折率が光学的機能性区域に印加される制御信号に応答して変化するように形成されている。光学的機能性区域の屈折率は、装置の作動に従った光学波長および温度では、光学導波路コアの屈折率よりも低い。クラッドは、無極性で主に等方性であるか、または主に異方性のポリマーのクラッド媒体により定義される光学的機能区域を含む。ことにクラッド媒体は、受動的移行、しかも主に配向した状態から主に等方性の状態への受動的移行をほぼ1秒未満で行う能力を光学的機能区域に付与するために十分である、発色団移動度により特徴付けられるポリマーの/発色性のライニングである。詳細には、ポリマーの/発色性のライニングは、発色団を少なくとも約5質量%~約20質量%含み、かつ可塑化されていて、かつカー効果媒体は、ポリカルボナート、ターポリマー、PMMAおよびポリシクロヘキサンから選択されるポリマーを含む。好ましくは、発色団はドナー成分、共役および/または芳香族成分を有する架橋成分、ならびにアクセプター成分を有する。詳細には、このためにカー効果媒体について12個の異なる構造式が挙げられている。さらに、導波路装置の作動温度を制御または調節するように配置されているコントローラーが予定されている。ポリマーのクラッド媒体またはライニング媒体は、装置の作動温度よりも低い有効ガラス転移温度により特徴付けられる。この場合、材料の有効ガラス転移温度は、発色団の再配向移動度が材料の温度の関数として比較的大きな増大を示す温度であることに留意することができる。電気光学材料の有効ガラス転移温度を、材料の電気光学的応答挙動の測定に基づき、その温度の関数として決定することができる。クラッド媒体は、可塑剤をクラッド媒体内へ組み込むことによるか、またはクラッド媒体の有効ガラス転移温度が装置の作動温度よりも低いことを保証することにより、許容可能な程度の発色団移動度および物理安定性を有する。詳細には、国際公開第2004/046796号(WO 2004/046796)のクラッド媒体は、約120℃未満で20℃までの有効ガラス転移温度により特徴付けられる。十分な発色団移動度を達成するために、クラッド媒体中に溶媒が予定されている。発色団とベースポリマーとを含むポリマーのクラッド媒体の場合に、適切な溶媒は発色団もポリマーも溶解する。多くの場合に、このような溶媒の使用により、室温または室温付近での装置の適切な作動温度が生じる。制御電極を用いて、クラッドの光学的機能性区域内に電界Eが形成される。あるいは、制御信号は、熱信号を生じてもよく、この場合、クラッドの光学的機能性区域は、熱信号の大きさに応答する。全ての場合で、導波路装置は、適切なコントローラーを有し、このコントローラーは、光学的機能性区域の光学的機能性部分の光学特性を互いに無関係に変更するために構成されている。ことに、電気光学ポリマークラッドまたはポリマー被覆に制御電圧を印加することは、光学信号において連続的位相シフトΔφも誘導するが、しかしながら、同じ値で、しかも制御電圧Vにおいて漸進的に小さくなる増加で、連続的位相シフトも誘導される(Eはおおよそsin2φ、ここでφ=BV2である)。したがって、180°の連続的位相シフトΔφの場合に、180°の連続的位相シフトの誘導のために必要である連続的制御電圧増分Vπの大きさは減少し、しかも制御電圧Vの大きさの増加と共に減少する。マッハ-ツェンダー干渉計(つまり、位相シフトの測定のため、または干渉計の一方のアーム内での適切な相変調による光の変調のため、もしくは波長依存性の多重分離のために2つのアームを備えたビームスプリッター)を180°位相シフトにわたり作動させるために、国際公開第2004/046796号(WO 2004/046796-A1)の導波路装置で約340ボルトが必要とされる。しかしながら、約520ボルトでの次の180°位相シフトは、単にドライバー電圧を約180ボルト(520ボルトと340ボルトとの差)増加することにより達成される。第3の180°位相シフトは、単に約90ボルトの増加の約610ボルトで生じる。簡単な外挿により、約3000ボルトのバイアスで、約4ボルトのVπ-ドライバー電圧を達成することができるという提案が生じる。このポリマーのクラッド媒体または被覆媒体の改善および制御電極として使用される電極構成の改良により、180°位相シフトを、それも約1000ボルトのバイアスで5ボルト未満のドライバー電圧により達成することができる。
【0015】
光学的情報伝達または通信の分野での電気光学カー効果またはポッケルス効果の他の工業的用途は、入出力カプラとしての電気的に調節可能な屈折率および電気的に調節可能な空間周期性を有する格子、導波路カップリング素子(インターフェース)、モード/偏光変換器、モード/偏光フィルタ、偏向器もしくはデフレクター、リフレクタである。このために、欧州特許第1155355号明細書(EP 1 155 355 B1)からは、電気的に調節可能な屈折率および電気的に調節可能な空間周波数を有する回折格子は公知であり、この場合、格子は次のものを含む:
・ 基板;
・ 基板にわたって延在する電気光学構造、ここで、電気光学構造は伝播軸を有する導波路を含む;
・ 電界をその間に形成するための第1および第2の電極構造、ここで、電界は導波路内に回折格子を誘導し、ここで、第1および第2の電極構造は電気光学構造の向かい合った側に配置されていて、かつ各々は同一平面内で導波路の伝播軸に対して平行に延在し、ここで、第1の電極構造は指型に配置されたフィンガーの第1のセットおよび第2のセットを含み、ここで、第1のセットフィンガーは電位V0未満であり、かつ第2のセットフィンガーは電位V0+¢V未満であり、ここで、V0は回折格子の屈折率の調節のために可変であり、かつ格子の空間周期性の切替のために計数値の間で可変である。
【0016】
あるいは、外部から入射する光を変化させるために、回折格子は次のものを有する:
・ 基板;
・ 基板にわたって延在する電気光学構造;
・ 電界をその間に形成するための第1および第2の電極構造、ここで、電界は電気光学構造内に回折格子を誘導し、ここで、第1および第2の電極構造は、上下に配置された平面に沿って互いに平行に、かつ電気光学構造に対して平行に延在し、かつ電気光学構造の向かい合った側に配置されていて、かつ第1の電極構造は、指型に配置されたフィンガーの第1のセットおよび第2のセットを含み、ここで、第1のセットフィンガーは電位V0未満であり、かつ第2のセットフィンガーは電位V0+¢V未満であり、ここで、V0は回折格子の屈折率の調節のために可変であり、かつ格子の空間周期性の切替のために計数値の間で可変的である。
【0017】
詳細には、欧州特許第1155355号明細書(EP 1 155 355 B1)の回折格子は、ブラッグフィルタとして作用するか、またはこの格子はリフレクタ機能のために共線の逆方向結合のために使用することができるように構成されていてよく、ここで、この格子は、分布帰還型(DFB、distributed feedback)または分布ブラック反射型(DBR、distributed Bragg reflection)レーザー用の能動光学フィルタとして用いられる。他の実施形態は、ファイバ光学通信用の波長分割のための多重システム(WDM、wavelength division Multiplexing)内での用途に関する。この格子は、単独でも、または他の電気光学素子と組み合わせて、集積構造を形成するために使用されていてよい。この格子は、電気光学構造、例えば基板にわたって延在する、LiNbO3または電気光学ポリマーのような材料から形成された、好ましくは約0.5~2μmの厚みおよび約5μmの幅を有する電気光学ロッドを含む。第1および第2の電極構造は、伝播方向に対して平行に、電気光学構造の向かい合った側に準備されている。ことに櫛状の形状を有する第1および第2の電極構造は、その間に電界を形成し、それにより生じる電界に基づいて周期性を作り出すために多様な電位に曝される。ナノ領域での近代的な製造技術は、サブミクロンのフィンガー間隔を有する指型の電極構造を可能にする。指型の電極は、透明な導電性材料、ならびにインジウム-スズ酸化物(ITO)から、例えば幅a=105μmおよび0.1μmのITO厚みで製造される。導波路と電極フィンガーとの間の間隔は、導波路の屈折率よりも低い屈折率を有するSiO2のような誘電性材料からなる緩衝層で満たされる。この緩衝層は、電気光学ロッドの内部に形成された導波路のクラッド層を形成し、かつ案内された波を電極との損失性の相互作用から保護する。
【0018】
さらに、ステレオテレビの技術分野で、偏光メガネのプリズムメガネレンズと組み合わせた電気光学カー効果の利用は、独国特許出願公開第2828910号明細書(DE 28 28 910-A1)から公知である。このために偏光装置は、テレビ画面の全体の表面にわたり延在するように配置され、かつ寸法決めされており、ここでその偏光面は、観察者の偏光メガネの左側レンズまたは右側レンズの偏光面上での選択的整列のために回転可能である。偏光装置の偏光面の回転は、好ましくは、光学活性材料からなるカー効果セルによって達成され、この光学活性材料は、透過する偏光の偏光面を、制御電圧電源からセルの向かい合った電極に印加される電圧に依存して回転させる。この場合、左側レンズまたは右側レンズの役割を交換することも可能であり、この場合、偏光装置の一つの状態では、左側レンズは偏光装置を通過する光を伝達し、右側レンズは暗フィルタとして作用し、かつこの装置の他の状態では、これらのレンズは偏光装置を通過する光を遮断するか、もしくは伝達する。さらに、観察者の選択により、左側レンズまたは右側レンズを、暗フィルタとして作用するように選択できるため、画像を望み通りに観察者に対してより近くにあるように、またはより遠くにあるように思わせることができる。制御電圧源は、命令信号に依存して上述の電圧を供給することができ、この命令信号は、(テレビ信号再現の場合に)テレビ信号と一緒に供給されるか、または(フィルム再現の場合に)フィルムに記録された信号に依存して供給することができる。カー効果セルは、PLZT(多結晶ランタン変性ジルコン酸チタン酸鉛)または他の公知の強誘電性セラミック材料から製造されていてよい。
【0019】
電気的に調節可能な、または切替可能な無偏光の光学レンズのための別の用途は、視力補助具および切替可能な拡大系(テレスコープメガネ)である。二焦点系を含む古典的な視力補助具にますます付加的な機能が付与される。ごく本質的な観点は、能動的な、つまりインテリジェントな、もしくは切替可能な、または調節可能な光学系の開発である。この最新の開発は、「ヘッドマウントディスプレイ」(HDM)の開発によって、および「拡張された現実(Augmented Reality:AR)」の急速に発展する分野のためのLC系によっても影響されている(ARは、現実世界の画像をコンピュータにより生成された情報と組み合わせることで、現実世界の画像を仮想情報で補う技術である)。この開発の基礎は、LCDに基づくマイクロディスプレイである。改良された形態の場合に、この技術は、光学系の他の領域にも革新を起こすことができ、かつレンズ、プリズムおよび他の受動素子のような古典的な屈折素子の交代を引き起こす。
【0020】
個別化可能な、または調節可能なレンズおよび拡張機能の両方の態様のもとで、例えば欧州特許第1463970号明細書(EP 1 463 970 B1)からは、メガネフレームを備えた両眼型電子メガネが公知であり、この枠は、弦が取り付けられている防塵密閉されたハウジングとして構成されていて、かつこの両眼型電子メガネは、ハウジング内に配置された少なくとも1つの電子ビデオカメラ、レンズが前方に向いている対物レンズ、およびCCDセンサを有する。詳細には、プラスチックからなるレンズおよび個々のレンズの変形および/または回転による調節のためのガイド手段を備えた、モーターにより位置調節可能な、前側に配置されたレンズ系が予定され、このレンズ系は電子カメラと接続されている。このレンズ系およびカメラと、電気制御装置が接続されていて、かつこの制御装置と、メモリが接続されていて、このメモリは、作動の間に屈折異常およびひとみ距離の自動補正用に合わせるための基準値としての両目用の手動設定値を有する。非正視の補正は、明視距離または作動距離に関する自動調節を含めたレンズの屈折度および/または焦点合わせの調節により行われ、ここで、コントラスト制御された焦点合わせは、コントラスト制御された焦点合わせを持続的に調節するように制御装置を設計することにより行われる。このレンズ系は4つのレンズからなり、かつ拡大範囲は、2.5倍~10倍である。制御装置はモーター制御のために用いられ、かつ調節速度の向上のために、モーターの出力側にギヤユニットが配置されている。エネルギー供給のために、メガネフレーム内に蓄電池が配置されていて、かつメガネフレームに蓄電池の充電状態についての表示装置が予定されている。さらに、記録手段の接続用に、カメラと接続されているインターフェース回路が予定されている。さらに、弦の領域内にラジオ受信機および/または呼出受信機が配置されていて、これらの受信機は表示装置と接続されている。メガネ系の最初の利用の前に、メガネ装着者はひとみ距離および屈折異常の場合にはそのジオプトリー値を調節する。これらの構成はシステム内に記憶され、かつ他の全ての自動的に制御されるプロセスのためのベースとして用いられる。約25cmの明視距離と、無限大までの焦点合わせの間のズームのための鮮明化調節まで、単に数秒かかるだけである。機械的レンズ系は、物体を2.4倍に無段階でズームすることができる。物体は、(デジタルカメラと同様に)ボタンを押すことにより生じるズームの段階とは無関係に自動的に鮮明に写される。このオートフォーカスメガネは、チップ制御されたカメラ、モーター、および特別な表面処理されたレンズからなるメカトロニクス協働作用によって機能する。他の付加的機能は、メモリキー、マイクロフォン、音声コマンドデバイス、弦内のスピーカー、外部蓄電池パック、ビデオおよびオーディオの長期記録のためのメモリ、ならびにスポットライトなどであることができる。
【0021】
このような多機能メガネの重要な光学機能は拡大システムである。従来のテレスコープメガネは、観察される物体を拡大するために、メガネの下側領域内に固定されているレンズ系を利用する。このテレスコープメガネについて特徴的なのは、全体の視野のむしろ限定された領域だけを利用する固定された拡大系である。一般に、拡大系の場合には、要求に応じて、ケプラー系またはガリレオ系が使用される:ガリレオ系は正立型の拡大の実現を直接許容するが、それに対してケプラー系は、より大きな視野により際立っている。しかしながら、ケプラー式望遠鏡の場合には、倒立像が生じ、この倒立像は、場合により付加的な光学素子(プリズムまたはレンズ)によって変換される。拡大系の構造深度が重要である場合には、ガリレオ型望遠鏡が好ましい。
【0022】
調節可能な光学素子、ことにレンズの開発のために今まで利用された原理は、適切な流体との関連で弾性膜、液体レンズのエレクトロウェッティング原理、または液晶の電気的に誘導された再配向に基づいている。エラストマー膜の場合には、膜の曲率変化を引き起こすために、薄いエラストマーシートにより形成される空洞内に液体を圧送するか、またはこの液体をリザーバー内に放出する。膜型レンズは、顕微鏡系内に組み込まれていることもある(Biomed. Opt. Express 5(2), 645-652 (2014)またはBiomed. Opt. Express 5(6), 1877-1885 (2014)参照)。しかしながら、この機械的解決策は、中速の切替時間を有するだけである、というのも膜空洞は切替過程で液体で満たすか、または空にしなければならないためである。さらに、多数の切替サイクルの際にエラストマー膜の安定性を調査しなければならない。さらに、膜型レンズの周辺部は、リザーバー、ポンプおよびモーターによって比較的嵩高となる。膜型レンズに基づいて、圧送過程を手動で実施する調節可能な視力補助具も市場に出された。この種のシステムは、必然的に極めて緩慢である。
【0023】
膜型レンズの代替品は、エレクトロウェッティングの原理に基づく液体レンズである。この制御可能な光学オートフォーカス液体レンズの利用分野は、スマートフォン、ウェブカメラ、および他の用途である。
【0024】
調整可能なレンズの屈折度の範囲は、かなり大きく、かつ-12から12ジオプトリーにまで達し、切替時間は20msで一連の用途にとって十分に速いが、マシンビジョン領域の高いサイクル時間にとっては不十分である。しかしながら、マシンビジョン分野での光学焦点合わせ素子内での用途にとって、開口、速度および解像度に関する他の要求が該当する。工業分野での焦点合わせのための先行技術は、対物レンズの機械的焦点合わせである。これは、動かされるべき質量(速度)のため、および長期間安定性(機械素子の摩耗)に関して限界に達している。この解決策の欠点は、無電圧状態が光学的にニュートラルではなく、拡散レンズとなることにもある。さらに、開放開口は、レンズ素子の全体の直径との関連で制限されるので、環状の供給ユニットが、ことに頭部での適用の場合にレンズ素子を支配する。
【0025】
したがって、エレクトロウェッティング原理に基づく素子も、膜型レンズも、嵩高な供給装置を有する構造形式に基づき、およびその重量により、ハイブリッド光学系にとって、および視力補助具またはテレスコープメガネにとって、それほど適してはいない。
【0026】
液晶(LC-Liquid Crystal)を基礎とする切替可能なレンズは、これらの欠点を示さない。液晶に基づく切替可能な二重焦点メガネは、原則として、典型的な屈折レンズ内での薄い液晶層の配向の電界により誘導される変化に基づいている。屈折率コントラストにより、スイッチオン状態で、付加的レンズ素子が作動され、この付加的レンズ素子は鮮明な近方視を可能にする。スイッチオフ状態では、このレンズ素子は作動しておらず、かつ鮮明な遠方視が屈折レンズにより保証される。これらの状態の間の切替は、手動で、または傾斜検出器により行うことができる。
【0027】
ウェブカメラまたは携帯電話内のカメラにおける用途については、数ミリメートルにすぎない直径のレンズで間に合うため、このことが技術的問題を極めて簡素化している。ここでの制限は、利用された効果の偏光依存性が強いことであり、この効果が付加的偏光子の使用により光の収率を低下させるか、または素子の構造が、2つの素子の択一的な直交の組合せにより明らかにより手間がかるようになり、かつ製造において付加的な故障原因となる。LCを基礎とするレンズの利点は、このレンズを用いると、例えば完全に機械素子を必要とせず、それにより頑丈で、かつ整備不要の光学系が可能となり、さらに構造深度および重量の低減を引き起こす望遠鏡系または焦点合わせ装置を実現することができることにある。
【0028】
屈折レンズの場合、可能な屈折度は、一般に、光学密度の高い媒体と光学密度の低い媒体との間の界面の曲率半径により、および屈折率高低差により決定される。同様のことがGRINレンズ(勾配屈折率)についても当てはまり、平板型液晶レンズもGRINレンズと見なされる。ここでは、中心から周辺領域までの半径方向の屈折率の高低差が、直径と関連して、決定する大きさである。これらのレンズタイプの全てにおいて次のことが通用する:媒体の層厚が一定に保たれる場合に、レンズの必要な直径が、達成されるべき屈折度を制限する。決定された屈折度においてレンズの直径を高める場合、層厚も高めなければならない。しかしながら、これは、液晶レンズの場合に、必要な切替電圧の二乗の増加と同時に、切替速度の低下も引き起こす。
【0029】
これらの制限は、回折レンズ、または正確には位相ゾーンプレートによって克服することができるにすぎない。振幅変調に基づくフレネルゾーンプレートとは反対に、位相ゾーンプレートは、レンズ機能を達成するために、波長の半分の位相シフトを利用する。したがって、この場合には、振幅ゾーンプレートの場合のように半分だけではなく、全体の入射光が利用されるため、光の収率もかなり高められる。さらに、ガボール-ホログラムとしての実施により(ゾーンのバイナリな遷移の代わりに正弦波遷移)、焦点長さの典型的な周期性は所定の焦点長さに低減することができる。
【0030】
無機材料からなる慣用の剛性の光学素子、例えばガラスからなるレンズまたは結晶質ビームスプリッターは、ますます有機材料に置き換えられている。無機材料は、確かに優れた光学特性および高い安定性という利点を有するが、嵩張ることと、手間のかかる製造技術とを特徴とする。有機材料は、本質的に容易に処理および加工すること、ことに構造化することができる(射出成形、印刷、ナノインプリント、3D印刷、レーザー構造化)。その他のごく本質的な利点は、多くの有機材料が、光、電圧、温度などのような外部刺激に応答し、それによりその物理特性が恒久的または可逆的に変わることにある。LCDにおける液晶の電圧に誘導される再配向は、液晶の電気光学的配向効果を基礎とする電気的に切替可能な、および調節可能な光学素子の利用についての最も有名な例である。アクチュエータまたは調整可能な格子中で利用可能なエラストマーの電圧により誘導される厚み変化または長さ変化は、別の例である。それにより、適切に調節可能であるか、または外部条件に能動的に応答する能動的光学系、またはインテリジェントな系が可能となる。
【0031】
それに対して偏光依存性の問題は、巨視的に透過放射方向で等方性である特別なLC系により除去することができた。これは、例えばPDLC系(ポリマー分散型液晶)またはブルー相を有するポリマー安定化液晶(複雑な3D構造を有する等方性LC相)に当てはまる。しかしながら、ポリマー壁との高められた相互作用に基づき、高い切替電圧が必要である。それに加えて、相分離により引き起こされる、透過光の高められた散乱が生じ、このことが、結像する光学系のためのこの基本的な解決策の適性を著しく制限する。切替時間を短縮するためのコンセプトについても集中的に研究されているが、この場合、現在では、先行技術において重要な切替高低差によりサブミリ秒範囲に制限されている。
【0032】
液体中での極性分子の電圧により誘導される配向は、以前から光学カー効果として公知である。しかしながら、例えばニトロベンゼンまたは二硫化炭素のような慣用の液体のカー定数は、レンズ内での用途のためには数桁程度低すぎ、かつ切替電圧は一桁程度高すぎる。
【0033】
等方性液晶の場合には、明らかにより高いカー定数が観察される。切替時間は、一桁のミリ秒範囲以下にある。液晶系および慣用のカー液体のこれらの問題のいくつかは、澄明点を越えたその等方相の形の液晶により克服することができる。この場合、澄明点をわずかに越えた等方性溶融物の形の液晶の予備配向効果が利用される。これにより、急速に切り替わり、かつ十分に効率的な無偏光のカー系が生じる。しかしながら全く本質的な欠点は、この効果の温度依存性が極端に強いことである。要約すると、エレクトロウェッティング原理、LC配向または膜流体に基づく全ての変形形態は、光学的または幾何学的パラメータにおいて時折著しい制限を有する。
【0034】
先行技術の上述の認識が示すように、電気光学カー効果の利用下で、ことに光の変調のために、多様に構成された装置が公知である。広い工業用途のためには、高い作動電圧と関連するこの効果の極めて強い温度依存性は欠点となる。
【0035】
本発明の基礎をなす課題は、電気光学カー効果に基づき低い閾電圧および作動電圧、この効果の最小化された温度依存性、および低い応答時間が達成されるように電気制御可能な光学素子を構成または製造することにある。
【0036】
この課題は、請求項1の上位概念による電気制御可能な光学素子において、カー液体は活性複合材料として棒状分子と非棒状分子との混合物を有し、かつこのカー液体は、薄層セル内で、基板上に設けられ構造化された、または/および平面状の導電性層の間で、予備形成可能な、目の粗い異方性の網目構造を有する薄層を、電気光学カー効果に従って、カー液体の活性複合材料の状態が電界なしで作動温度領域RTで等方性であり、かつ電圧Uの電気的に連続する調節によるか、もしくは電圧Uのスイッチオン/スイッチオフにより光学素子の電圧により誘導された位相高低差または屈折率高低差の変化を生じ、かつ光が電極に対して垂直方向に電極間隔を通過するように形成することにより解決される。
【0037】
さらに、この課題は、請求項9の上位概念による電気制御可能な光学素子の製造方法において、
a) カー液体は、活性複合材料としての棒状分子と非棒状分子との混合物、反応性メソゲン、光開始剤および脂肪族モノマーを有し、
b) カー液体を、薄層セルとして構成されたカーセル内へ充填し、
c) カー液体を、ホメオトロピック配向を有するLC相が形成される、室温RTよりも低い温度Tに冷却し、かつ
d) ホメオトロピックに配向した層のUV照射によりラジカルを生成させ、このラジカルが、カー液体中で脂肪族モノマーと架橋したメソゲンからなる目の粗いルーズな異方性網目構造が生じるように、配向した反応性セミメソゲンの重合を引き起こすので、
電圧Uなしで作動温度範囲RTでは、大きな双極子モーメントを有する棒状分子と、非棒状双極分子との複合材料は再び等方性であり、かつ電圧Uの印加の際に複合材料の分子は電気力線の方向に配向する
ことにより解決される。
【0038】
本発明の場合に、等方性液体中での電気光学カー効果(インターネット事典Wikipedia, https://de.wikipedia.org/wiki/Kerr-Effektも参照)が利用される。したがって、液晶状態は問題とならない。ことに本発明による光学素子の場合、光学カー効果の増強は、予備形成可能な目の粗いルーズな異方性網目構造に基づく自己組織化により引き起こされる。したがって、意外な方法様式で、本発明による複合材料の使用、および本発明による薄層セル内に特別なセル構成を生じさせる本発明による製造技術により解決することができる。本発明による活性複合材料の状態は、電界なしで作動温度範囲で等方性である。散乱を引き起こしかねない秩序のある分子のドメインまたはマイクロドメインは存在しない。ことに固定されたメソゲンクラスターが作製され、このメソゲンクラスターも同様に前駆体混合物(つまり他の合成工程のための出発物質として)の成分である。このメソゲンクラスターは、カー効果を高め、かつこの効果の温度依存性を最小化する。全体の複合材料は、液状の等方性の状態のままである。
【0039】
これに基づく本発明による光学薄層素子は、連続的に電気的に調節可能であるか、もしくは定義された状態の間で切替可能な位相変調器、レンズ、および視力補助具である。この光学薄層素子は、光学的に等方性である、つまり無偏光で、かつ非散乱性であることを特徴とする。この光学薄層素子は、電気光学的な活性複合材料により実現され、この活性複合材料は透過方向で無偏光で使用することができ、かつ高い電気的に誘導可能な位相高低差および/または屈折率高低差により特徴付けられる。ことに、視力補助具としての用途の場合について、直流電圧Uの作動電圧範囲は、15V~40V、好ましくは25V~30Vにある。
【0040】
本発明による方法によって、新規種類の電気的に活性の液体を有する薄層セルを基礎とする無偏光の電気的に切替可能な光学素子が製造され、この液体の配向は、異方性ポリマー網目構造内での極性の棒状分子の相互作用により強化される。分子設計、および自己組織化によるカー効果の強化により、短い切替時間で、かつわずかな電圧で、明らかに高い屈折率変調または位相高低差が達成される。ことに視力補助具用の、電気的に切替可能な、または調節可能なレンズの例は、次のものである:
a) 視力補助具用の電気的に高速切替可能な個別光学素子
b) 調整可能な、個々に調節可能な視力補助具
c) テレスコープメガネ用の切替可能な拡大系
【0041】
本発明の発展形態の場合に、請求項2に従って、薄層セルは2枚のガラス基板またはポリマー基板を有し、この基板の内側表面に、それぞれ導電性層として導電性ITO電極が設けられていて、かつその上に配向層が設けられていて、かつ冷却されたカー液体中に混合された光開始剤、脂肪族モノマーおよび反応性セミメソゲンを用いた目の粗い異方性ポリマー網目構造のための予備形成、電圧Uの印加による棒状分子の整列、およびカー液体のUV照射が行われる。
【0042】
本発明のこの発展形態は、意外な方法様式で、分子骨格の一方のほぼ半分でメソゲンを構築することができ、かつ複合材料のセミメソゲンとの顕著な相互作用により特徴付けられ、かつ分子骨格の他方のほぼ半分は、非メソゲンであり、ここで、この棒状構造からの逸脱は、誘電性異方性の強度を低下させないという利点を有する。
【0043】
本発明の好ましい実施態様の場合に、請求項3に従って、ホメオトロピック配向を引き起こす配向層は光架橋可能な基もしくは光重合可能な基を含み、かつ異方性網目構造は両方の基板界面に共有結合で固定されていて、それにより、網目構造は、ほぼ室温の作動範囲RTへの温度上昇によるカー液体の等方化の場合であってもその異方性の形態を維持する。
【0044】
本発明のこの実施態様は、意外な方法様式で、整列層の作用がホメオトロピック配向(つまり分子は基板に対して垂直方向に整列すること)を強化し、かつ薄層セル中の網目構造は両方の基板界面に固定されているという利点を有する。
【0045】
他の利点および詳細は、図面を参照しながらの、本発明の好ましい実施形態の次の説明から推知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】電気制御可能な光学素子の好ましい実施形態であり、左が初期状態、右が予備成形後を示す。
【
図2】ほぼ室温RTでの
図1による光学素子であり、左が電圧Uの印加なし、右が電圧Uの印加後を示す。
【
図4】セミメソゲンの好ましい実施形態の構成を示す。
【
図5a】多次元の異方性網目構造についての一実施形態を示す。
【
図5b】多次元の異方性網目構造についての一実施形態を示す。
【0047】
図1および
図2は、ことに異方性網目構造9内での棒状分子5と非棒状分子4との混合物を基礎とするカー液体Kの等方性複合材料の本発明によるカー効果を明確化するための、電気制御可能な光学素子の好ましい実施形態を示す。この場合、このことは
図3に示されているように、以後、液晶+セミメソゲンとは、等方性混合物であり、等方性混合物+反応性メソゲン+脂肪族モノマー+光開始剤+その他とは、前駆体混合物であり、前駆体混合物+UV照射とは、(本発明による)複合材料である、と解釈される。
【0048】
カー液体Kの本発明による複合材料4、5は、大きな双極子モーメントを有する棒状分子5と、例えば液晶相のような秩序づけられた状態の形成を妨げる非棒状双極分子4と、光架橋可能な単官能性、二官能性、三官能性分子、ことに反応性メソゲン8、ならびに光開始剤6の適切な組合せにより特徴付けられる。光開始剤とは、(UV)光の吸収により光分解反応で分解し、こうして反応性種を形成し、この反応性種が反応(本発明によるカー液体Kの範囲内では重合反応)を開始(誘発)させる化合物である。反応性種とは、ラジカルまたはカチオンである。この場合、非共有結合型の相互作用および固定されたメソゲンクラスターを有する分子のような他の成分は、望ましい特性を明らかに改善する。
【0049】
非棒状双極分子(セミメソゲン)4は、室温または作動温度範囲RTで液晶相の形成を抑制する。その機能は、棒状分子5の液晶相の澄明点低下を引き起こすことにある。このように平衡がとれた澄明点低下は、例えば嵩高い末端基により、側方の置換基により、小さな長さ/幅比により、棒状構造からの逸脱などにより達成することができる。
【0050】
他方で、セミメソゲン4の分子形状、その分子相互作用、およびその濃度は、作動温度範囲より低い低温(T<RT)で混合物のホメオトロピック配向の形成を許容するように設計されている。分子骨格の一方の半分は、つまりメソゲンであり、かつ複合材料のメソゲンとの顕著な相互作用により特徴付けられ、かつ他方の半分は非メソゲンであり、この場合、棒状構造からの逸脱は誘電異方性の強さを低下させない。しかしながら、これらの分子は、できる限り高い双極子モーメントによっても特徴付けられ、それにより複合材料のカー効果の強さに寄与する。
【0051】
ホメオトロピックに配向した層の(好ましくはUVパワーダイオードを用いた)UV照射によりラジカルが生成し、このラジカルが配向した反応性メソゲン8の重合を引き起こす。結果として、目の粗いルーズな異方性網目構造9が生じる。室温または作動温度範囲RTで、大きな双極子モーメントを有する棒状分子と非棒状双極分子とからなる複合材料は再び等方性となる。電圧Uを印加する場合、複合材料4、5の分子は、電気力線の方向に配向する(ホメオトロピック、つまり基板表面に対して垂直)(
図1左参照)。
【0052】
一実施態様の場合に、ホメオトロピックな配向を引き起こす整列層/配向層3は、光架橋可能な基または光重合可能な基を含む。この場合、異方性網目構造9は、両方の基板界面と共有結合により固定され、それにより、この網目構造は、作動範囲(ほぼ室温)RTへの温度上昇による複合材料4、5の等方化の場合であっても、特別にその異方性の形態を維持する。
【0053】
ポリマーを基礎とする異方性マトリックスまたは異方性網目構造9は、電気的に生じる切替状態を促進するために利用され、かつ切替電圧を低下させる。これは、活性材料の前駆体混合物4、5中での特別な方法により作製される。補助的な網目構造9の作製により、ポリマーにより安定化されたブルー相、ポリマーにより安定化された等方相、および等方性ポリマー分散相の場合に当てはまるような、巨視的に知覚可能な相分離は引き起こされることがない。
【0054】
配向機能を有する目の粗い異方性ポリマー網目構造9(バルク整列、配向層3)は、より良好な温度安定化、わずかな切替電圧、および自己組織化による光学カー効果の強化を生じさせる。
【0055】
極端な場合に、十分に高い電圧Uの印加、および正確に調整された複合材料4、5の組成による適切な分子間相互作用の設定の場合には、これらによるだけで液晶相が形成される。
【0056】
カー液体K中での秩序の固定による安定化によってよりわずかな温度依存性を得るために、等方性複合材料のカー効果は目の粗い異方性ポリマー網目構造9内での大きな双極子モーメントを有する形状異方性分子のナノスケールのクラスターおよびナノ粒子によって達成することができる。このため、共有結合によるか、または分子間相互作用により秩序のある配列で固定される形状異方性分子4のナノスケールのクラスターおよびナノ粒子が、前駆体混合物4、5の成分として使用される。この種のナノスケールの異方性クラスターおよびナノ粒子は、異方性網目構造9内での棒状および非棒状分子4、5の混合物を基礎とする等方性複合材料のカー効果の上述のアプローチを拡張する。この相違は、大きな双極子モーメントを有する棒状分子5が、ナノスケールのクラスターまたはナノ粒子の形状で秩序のある配列で固定されて存在していることにある(ネマチック相の澄明点の直上での群の予備秩序効果と類似)。この種のクラスターおよびナノ粒子は、ナノスケールで小さい(1nm~200nm、好ましくは5~20nm)。ナノスケールの大きさに基づき、これらは複合材料の散乱を生じない。反応性基を有する棒状分子(反応性メソゲン)5は、光重合により、形成された液滴、ナノ粒子、または澄明点の直上でのネマチック予備秩序群の形で固定することができる。共有結合による固定の代わりに、これは非共有結合型の分子間相互作用(水素結合、イオン相互作用およびππ相互作用)によっても行うことができ、これにより同様に安定化された秩序のあるナノスケールの分子配置が生じる。この種の分子クラスターまたは球状および非球状のナノ粒子は、前駆体混合物4、5中に分散される。結果として得られた複合材料は、等方性の非散乱性の液体である。
【0057】
形状異方性分子に基づく、秩序づけて固定されたクラスターおよびナノ粒子は、一方でその高い安定した配向秩序によりカー効果の向上を引き起こし、かつことに溶液中でまたは澄明点を超えたLC材料中でのカー効果の顕著な温度依存性を最小化する。
【0058】
分子間複合体形成の多様な温度依存性により、およびカー液体K中での予備秩序効果によりわずかな温度依存性を得るために、大きな双極子モーメントを有する生じる形状異方性分子5の複合体形成に基づく等方性複合材料のカー効果は、目の粗い異方性ポリマー網目構造9内での分子間相互作用により達成することができる。このため、大きな双極子モーメントを有する棒状分子5は、例えば水素結合、イオン性相互作用およびππ相互作用(例えばピリジン/酸、酸/酸など)のような分子間相互作用によって初めて形成される。分子間相互作用および予備配向効果の多様な温度依存性が、この効果の安定化のために利用される。棒状分子5の秩序傾向は、棒状および非棒状の分子4、5の混合物に基づく等方性複合材料のカー効果の上述のアプローチに応じて、非共有結合型の分子間相互作用によって高められる。したがって、自己組織化によって、電圧により誘導される秩序効果または増強効果が引き起こされ、この効果が高すぎるカー定数を生じさせる。
【0059】
分子間複合体形成の多様な温度依存性により、およびカー液体K中での予備秩序効果によりわずかな温度依存性を得るために、等方性複合材料のカー効果の熱安定性は、分子間相互作用により形成される非形状異方性分子により達成することができる。この場合、非棒状セミメソゲン4は、例えば水素結合またはイオン相互作用またはππ相互作用のような分子間相互作用によって初めて形成される。セミメソゲン4の形成により、室温または作動温度範囲RTで等方相が生成される。温度上昇は、非共有結合型の相互作用の弱体化を引き起こし、かつ複合体は(部分的に)分解される。このようにして、これらの濃度は低下し、かつこうして秩序傾向の制御が可能である。複合体の熱的に誘導された分解、つまり例えば水素結合の低減された形成は、複合体形成により引き起こされる電荷の消し去りを引き上げ、かつフラグメントはより高い双極子モーメントを得る。このようにして、複合材料は、温度の上昇と共に、より高い誘電異方性を得て、かつカー効果は促進される。
【0060】
本発明による活性複合材料4、5を利用し、かつそれらを構造化された、または/および平坦な電極2の間で薄層の形で適用しながら、多彩な用途を実現することができる:
・ 屈折光学素子および回折光学素子、
・ 電気的に連続して調節可能な、または2つの状態の間で切替可能なレンズ、
・ 電気的に連続して調節可能で、かつ局所的に変更可能なレンズ(補正レンズ、非球面レンズ)、
・ 局所的に、かつ効果について連続的に調節可能な視力補正具または2つの状態の間で切替可能なレンズ(切替可能な近方視部分)、
・ 電気制御可能な回折格子、
・ 偏光に依存しない位相変調器。
【0061】
次に、本発明による電気制御可能な光学素子の構造を、
図1および
図2を参照しながら詳細に説明する。
【0062】
セル基板1:
セル基板は、ガラスまたはプラスチックからなることができる。基板は、平坦であるか、もしくは凹状であるか、もしくは凸状であることができ、またはマイクロレンズを有していてもよい。基板1は、数μmの均一な間隔でスペーサー(ガラス繊維片もしくはプラスチック繊維片または小球またはリソグラフィーにより作製されたポリマー構造)により保持される。光学接着剤によって、両方の基板1は端面で互いに固定される。
【0063】
電極2:
ガラス基板またはプラスチック基板1に、透明電極2が設けられる。これらの透明電極は、好ましくはITO、金属、もしくは導電性ポリマーからなる電極であり、これらの電極はスパッタリング、蒸着、印刷などにより基板1上に塗布される。電極2は、大面積であるか、または構造化されていてもよく、この場合、構造化は、電極の塗布の際にマスクを用いた印刷により行うことができる。あるいは、本発明の範囲内で、大面積の電極は構造化することができる。
【0064】
配向層/整列層3:
ITO電極2上に整列層3の薄層(20nm~1μm)を塗布し、この整列層は低温でもしくは作動温度範囲未満(T<RT)で複合材料のホメオトロピック配向を引き起こす。このために、本発明の範囲内で、ポリイミド、ポリビニルアルコール、感光性ポリマー、レシチンなどのようなポリマーが使用される。
【0065】
任意に、整列層3は、反応性メソゲンまたはそれから形成される網目構造9の共有結合を可能にする(光)架橋可能な基を含む。
【0066】
複合材料4、5:
複合材料は、ほぼ室温の作動温度範囲RTで等方性である。異方性状態は、配向層を用いた界面配向により低温で達成される。この異方性中間状態は、反応性メソゲン5の光重合による異方性網目構造9の製造のために必要なだけである。次いで、作動温度範囲RTで、再び、極性の棒状および非棒状分子4、5の等方性状態が達成される。
【0067】
本発明による電気制御可能な光学素子の製造の間および作動の際の状態は、次のとおりである:
1. 室温RTで、基板1の間の複合材料混合物4、5の等方性の初期状態。
2. 光重合前の低温でのホメオトロピック状態(
図1左参照)。
3. 低温での光重合により作製される異方性網目構造を有するホメオトロピック状態(
図1右参照)。
4. 電圧Uのスイッチオフによる、室温RTでの異方性網目構造を有する等方性状態(
図2左参照)。
5. 電圧Uの印加による複合材料の配向。この配向は、異方性網目構造9により促進される(
図2右参照)。
【0068】
新規の高Δn材料を有する混合物の組合せ、秩序を設定もしくは解消し、かつカー効果に寄与する成分、および異方性ポリマー網目構造9のin-situでの生成により、本発明による複合材料は、典型的な液体中でのカー効果の利用と比べて、偏光に依存しない光学特性の電圧により誘導される変調の明らかな向上を有する。この場合、この複合材料は異なる機能成分から構成される:
【0069】
これは、一方で大きな双極子モーメントを有する棒状分子5であり、作動温度範囲でのこの秩序傾向は、制限されたメソゲン性を有する双極分子(セミメソゲン4)により低減される。この場合、セミメソゲン4は、重要な役割を果たす、というのもこのセミメソゲンは、いわば棒状の高Δn化合物に対する障害として機能し、かつ作動温度範囲でのその秩序傾向を部分的に低下させ、かつLC相のような秩序のある状態の形成を妨げるためである。しかしながら、このセミメソゲンは、同様に高い誘電異方性を有するため、このセミメソゲンは協力的にカー効果に寄与する。
【0070】
別の基本成分は、光開始剤6と組み合わされた、光架橋可能な反応性メソゲン8である。作動温度未満では、出発混合物はネマチックLC相で存在し、この出発混合物は界面効果および/または電圧によりホメオトロピックに配向することができる。この状態でのUV照射は、反応性メソゲン8の光重合により、目の粗いルーズで異方性の、かつ配向に作用する網目構造9の形成を引き起こす。しかしながら、生じる複合材料は、室温または作動温度範囲で等方性で、非散乱性で、かつ光学的に透明である。しかしながら、十分に高い電圧が印加される場合、等方性液体の極性の棒状分子5は、基板に対して垂直の力線の方向に配向し、それにより屈折率が変えられる。この場合、異方性網目構造9は、予備秩序効果により複合材料の棒状極性分子5の整列を促進し、かつそれにより光学カー効果を高める。その結果、先行技術と比較して、低い切替電圧で本質的に強い屈折率変調が達成される。さらに、このプロセスの温度依存性はかなり低減され、それにより工業的利用が可能となる。電圧により誘導された、必要な屈折率高低差または位相高低差は、本発明による複合材料中での電気光学カー効果に基づいて生じる。等方性の液状複合材料は、極めて短い切替時間により特徴付けられる。
【0071】
上述の構成の場合に、全ての切替状態は、放射線透過方向に対して対称であり、したがって偏光に依存しない。全体として、本発明の複合材料は、レンズ機能を有する薄層素子の製造のための電気光学的な基本効果の利用を可能にする、というのも屈折率変調の値は明らかに高められ、切替時間は短縮され、かつ必要な切替電圧は低減されるためである。この場合、本発明による範囲内で、基本素子としてアドレス指定された回折レンズの新規の複合材料マスターを製造することができる。あるいは能動フレネルゾーンプレートまたは位相ゾーンプレートの作製は、環状の非周期的電極構造およびその接続部の製造を必要とする。環状電極は、ITOで製造することができる。両方の方法は、切替可能なレンズ、基板または活性材料中のフレネル構造の実現のために適しており、この場合、本発明による切替可能な回折薄膜型レンズは、多様な光学用途のために設計され、かつ適合させることができるが、このことを次に詳細に説明する。
【0072】
上記で説明したように、エレクトロウェッティング原理に基づく切替可能なレンズ、およびエラストマー膜の切替可能なレンズは、その重量、嵩張る供給部品、および制限された開口に基づき、視力補正具およびテレスコープメガネにとって余り適していない。ハイブリッド光学系の製造のためにも、このアプローチは限定的に利用可能であるにすぎない。
【0073】
液晶を基礎とする切替可能なレンズは、これらの欠点を示さない。しかしながら、配向した液晶の偏光依存性は、このアプローチを著しく制限する。この欠点を克服するために、例えば偏光子または反対方向のLC配向を有する複数のLC素子(A.Y.G.; Ko, S.W.; Huang, S.H.; Chen, Y.Y.; Lin, T.H., Opt. Express 2011, 19, 2294-2300参照)または反対方向に配向する層(ことに、Ren, H.; Lin, Y.H.; Fan, Y.H.; Wu, S.T. Appl. Phys. Lett. 2005, 86, 141110; Lin, Y.H.; Ren, H.; Wu, Y.H.; Zhao, Y.; Fang, J.; Ge, Z.; Wu, S.T. Opt. Express 2005, 13, 8746-8752; Wang, B.; Ye, M.; Sato, S., Opt. Commun. 2005, 250, 266-273参照)のような付加的な光学部品を使用しなければならない。しかしながら、これにより、光効率は低減され、このシステム構造は明らかに煩雑になり、かつ製造において付加的な故障原因が生じる。
【0074】
それに対して、PDLCを基礎とする等方性LC素子は、OFF初期状態で多様な配向の液滴の強い散乱を有する。両方の状態で光学的にほぼ透明であるナノ-PDLC系は、同様に残留散乱を有する。さらに、必要な切替電圧は比較的高く、かつ切替時間はナノメートルのサイズの液滴と、それを取り囲むポリマーマトリックスとの相互作用により、他のLC素子よりも明らかに長い。
【0075】
LC素子の場合に、誘電性再配向のプロセスは(特に無電界状態で)一般に比較的緩慢であるので、ここ数年では、LCDのおよび他のLC素子について切替時間をより短くするために多くのアプローチが追求された。その例は次のものである:NLCの粘弾性パラメータの最適化、系の過変調(D.-K. YangおよびS.-T. Wu, Fundamentals of Liquid Crystal Devices (John Wiley, New York, 2006)参照)、サブ-μmポリマー網目構造テンプレート内でのNLCの「新たな整列」(J. XiangおよびO. D. Lavrentovich, Appl. Phys. Lett. 103, 051112 (2013)参照)、または「二周波」-LC(DFLC)によるもの(B. Golovin, S. V. Shiyanovskii,およびO. D. Lavrentovich, Appl. Phys. Lett. 83, 3864 (2003)参照)、表面安定化された強誘電性LC(SSFLC)またはキラルスメチックLC(G. Polushin, V. B. Rogozhin,およびE. I. Ryumtsev Doklady Physical Chemistry, 2015, Vol. 465, Part 2, pp. 298-300参照)。
【0076】
極性分子の整列(例えばBing-Xiang Li, Volodymyr Borshch, Sergij V. Shiyanovskii, Shao-Bin Liu; Oleg D. Lavrentovich, Appl. Phys. Lett. 104, 201105 (2014)参照)に基づき、かつ配向された液晶のLC配向ベクトルの誘電性再配向(フレデリックス効果)を必要としないカー効果は、ナノ秒範囲での切替時間を有する(1~33ns)。しかしながら、慣用のカー液体中で必要な切替電圧は、数百ボルト(300~900V、E=約108V/m)であり、この場合、0.001~0.01の電気的に誘導される複屈折の値が達成される。このアプローチは、複雑な制御回路により、ヒステリシス挙動、および不安定な切替状態により制限される(Su Xu, Yan Li, Yifan Liu, Jie Sun, Hongwen Ren, Shin-Tson Wu, Micromachines 2014, 5, 300-324)。
【0077】
一つの代替策は、複雑な3D構造を有するブルーLC相であるが、無電界状態では光学的に等方性である。この相は短い切替時間により特徴付けられるが、この相の熱的存在領域は極めて小さいことにより、レンズ用途にとっては適していない。ポリマー強化されたブルー相(PSBP、Su Xu, Yan Li, Yifan Liu, Jie Sun, Hongwen Ren, Shin-Tson Wu, Micromachines 2014, 5, 300-324参照)は、用途に関連する存在領域で、高い屈折率変調を示すが、OFF状態で比較的高い切替電圧および明らかな散乱効果(Y. HasebaおよびH. Kikuchi,Mol. Cryst. Liq. Cryst., 2007, 470,1; Young-Cheol YangおよびDeng-Ke Yang Applied Physics Letters 98, 023502, 2011参照)を有する。
【0078】
電界中での極性分子の配向は、以前から光学カー効果として公知である。しかしながら、例えばニトロベンゼンまたは二硫化炭素のような慣用の液晶のカー定数は、レンズ用途のためには数桁程度低すぎ、かつ重要な層厚にとっての切替電圧は一桁程度高すぎる。ネマチック液晶の等方性溶融物は、ミリ秒範囲およびサブms範囲での切替時間と共に、明らかに高いカー定数を有している(F. Costache, M. Blasl Optik & Photonik Volume 6, Issue 4, pages 29-31, December 2011参照)。これにより、高速切替する効果的な無偏光のカー系を生じる。この効果は、明らかに2つの要因を有し、一方では、長く延びたπ系を有する棒状の極性の液晶は高いカー定数を引き起こし、他方では、この要因は澄明点超での分子群のネマチック予備配向効果において見られる。このことから生じる、この効果の極端に強い温度依存性は、このアプローチの本質的な欠点である。
【0079】
記載されたこれらの欠点は、本発明による等方性複合材料により克服される。異方性ポリマー網目構造9内での等方性メソゲンとセミメソゲン混合物の組合せにより、高速の切替時間と、中程度の切替電圧で、屈折率変調の高い値が達成される。この新規種類の材料コンセプトは、光学カー効果を基礎とする電気的に切替可能な、または調節可能な光学レンズおよび他の光学素子の製造のために利用することができる。
【0080】
このために、極めて高い屈折率異方性を有する液晶化合物が選択され、かつこれに合わせて等方性セミメソゲンが開発され、かつ前者と混合されるので、こうして得られる両方の成分の混合物は、依然として潜在的に液晶特性を有する。ことにこれらの化合物は、電圧の印加なしで作動温度範囲で等方性液体として存在する。本発明によるセミメソゲン4は、構造、その特性の組合せおよび機能において、新たな種類の機能材料である。このために必要な特性の適切な分子設計による調節および効率的な合成を次に詳細に説明する。
【0081】
本発明による複合材料は、次の:
- 高い屈折率異方性を有する液晶化合物、
- 秩序の調節のためのセミメソゲン4、ならびに
- 異方性網目構造9の形成のための光重合可能な反応性メソゲン8
からなるこの混合物(
図3参照)の主成分の光学特性および動的特性ならびに分子間相互作用の正確な調節を必要とする。
【0082】
本発明の場合に、カー混合物は、大きな屈折率異方性を有する棒状液晶5を含む。この高い秩序傾向およびその高い融点および澄明点は、セミメソゲン4との混合により、この混合物が作動温度範囲RTで等方性液晶として存在するように低下する。手間のかかる一連の試験で、これらの特性の組合せの調節のために多様な分子的なアプローチを、例えば適切な長さ/幅比の調節により、剛性の芳香族環系の長さ、末端基の長さおよび分枝のバリエーションにより、および頭部基の極性のバリエーションにより、つまり一般にLC相を抑制する適切な分子間相互作用の調節により調査した。極性のセミメソゲン4は、このセミメソゲンが電界中では同様に配向することができるが、混合物の液晶特性を抑制するように設計された。このセミメソゲン4は、いまだに潜在的なLC特性を有し、かついまだに潜在的な液晶特性を有する等方性液体である。
【0083】
同様に必要とされる、カー混合物の光学特性および電気光学特性を考慮して、セミメソゲン4を任意の溶媒に置き換えることはできない。液晶の配向秩序は、本発明の場合には定義されて構築され、かつ調節されている。したがって、最終的な混合物は作動範囲で光学的に等方性の液体として存在するが、ネマチック予備配向傾向を有するべきである。しかしながら、この混合物は低温で液晶性であり、かつ整列層または電界の印加によりホメオトロピックに整列することができるべきである。この定義された配向秩序は、低温での光重合による異方性網目構造の構築のために必要である。
【0084】
本発明の場合にはセミメソゲン4は、その分子設計により光学カー効果にも寄与するように他の機能を満たさなければならない。したがって、このセミメソゲンは同様に高い誘電異方性を有し、高い屈折率異方性へ寄与し、かつ電界内での混合物の協力的な配向を促進するべきである。これらの多様な特性のこの組合せは、次の構造的特徴により達成される:
(1) 液晶秩序の解消は、アルキル末端基の二次的または三次的分枝および/または側方の置換基により達成することができる。
(2) 高い誘電異方性、高いカー定数、または高い屈折率異方性は、極性の頭部基のバリエーションにより、および剛性の分子部分内の複素環の導入により達成される。
【0085】
セミメソゲン4の基本的構造様式は
図4から導き出すことができる。
【0086】
等方性セミメソゲン4の記載された機能性は、適切に置換されたビフェニルに基づき達成することができる。ことに分枝した末端基は、分子の幅を露骨に拡大し、転移温度の顕著な低下を引き起こす。変更された長さ/幅比により、ネマチック相の形成は妨げられるか、またはこのような相の存在領域を著しく減少することができる。このことは、例えば脂肪族末端基の分枝としてメチル基およびエチル基を組み込むことにより達成され、この場合、末端基での分枝の位置が極めて重要である。
【0087】
この構造特性は、次に、a)二次分枝を有する末端基について、R=CN
【化1】
およびb)三次分枝を有する末端基について、R=CN
【化2】
が示されている。
【0088】
高い誘電異方性および光学異方性を有する、つまり高いΔε値およびΔn値を有する等方性セミメソゲン4を合成する目的は、例えば、極性の頭部基により促進することができる。一方で電気的に誘導可能な複屈折に高い寄与を提供し、他方で高い誘電異方性に寄与する特に適切な基として、ビフェニル構造のパラ位での次の置換、つまり極性の頭部基を有するメソゲン単位の置換が有利である:
【化3】
【0089】
さらに、セミメソゲン4の永久双極子モーメント、およびそれによる誘電異方性Δεは、フェニル環をヘテロ芳香環に交換することにより高めることができる。分子形状はヘテロ芳香環によりわずかに変化するだけであるが、A. Boller, M. Cereghetti, H. Scherrer, Z. Naturforsch., Teil B, 33, 433 (1978)によると、誘電特性への強い影響が期待され、この場合、頭部基に対する比較において、1つまたは複数のヘテロ原子の位置は、双極子モーメントが加法的に挙動するように選択される。誘電異方性の向上の他に、分極率異方性の向上、およびそれによる高い複屈折率も期待される。これは、ことにピリミジン環を有するセミメソゲン4および頭部基のバリエーションについて次のように表される。
【化4】
【0090】
誘電異方性は、さらに剛性の環の極性基により高めることができる。側方の置換基は、同時に二量体形成により双極子モーメントの部分相殺に対抗することができる。
【0091】
例えば、ことに2つのフッ素原子を3,5位に導入することが、8.5単位程度の誘電異方性の向上を引き起こす(P. Kirsch, A. Hahn, Eur. J. of Org. Chem. (2005), (14), 3095-3100参照)。側方の3,5-置換の場合に、部分電荷は、分子縦軸に沿って維持される(つまり双極子モーメントは縦軸に対して平行)、このことから正の誘電異方性が生じる。同時に、これらの側方の置換基は、転移温度の低下を引き起こす。ことに、極性置換基の導入による誘電異方性の向上は、次のように表される。
【化5】
【0092】
本発明の場合に、等方性混合物の電界により誘導された整列の促進は、異方性ポリマー網目構造9により行われる。潜在的液晶複合材料のネマチック予備秩序効果と組み合わせた網目構造9の配向されたメモリ効果は、光学カー効果を強化する。
【0093】
網目構造9の他の重要な課題は、カー効果の温度依存性を明らかに低下させることにある。網目構造9の構築のために、ことに芳香族反応性メソゲン8および脂肪族モノマーを、メソゲンとセミメソゲン4とからなる等方性混合物中に導入する。これらは、低温での複合材料のホメオトロピックに秩序づけられた状態での光重合により重合され、かつ目の粗い異方性網目構造9を形成する。反応性メソゲン8の混合は、出発混合物中でのならびに網目構造の構築後の最終的な複合材料中での分子間相互作用の調整を必要とする。付加的に網目構造9の高い安定性を達成するために、網目構造9は整列層3の官能化により基板と共有結合されている。
図5は、多次元の異方性網目構造の生成を示す、つまり:
a) ホメオトロピックに配向した混合物(予備複合材料)中での反応性メソゲン8を有する等方性混合物(
図5a参照)、および
b) 網目構造安定化分子による網目構造9と整列層3との共有結合(
図5b参照)。
【0094】
整列層3の界面との網目構造9の共有結合は、電気光学的切替挙動および長期間安定性の明らかな改善を引き起こす。このため、整列材料は、温度安定性の反応性基(例えばOH基)で官能化される。変性された材料を基板に塗布することができ、かつ官能基は、二官能性の反応性メソゲン8と反応することができるように変性される。ラジカル光重合によって引き起こされた網目構造形成は、両方の官能化された整列層3との結合を含むので、異方性網目構造9は、界面安定化されてセルに永続的に張り巡らされる。界面での結合サイトの必要な濃度は、この場合適切な様式で調節することができる。
【0095】
脂肪族または芳香族の反応性メソゲン8に基づく網目構造形成による複合材料の特性の改善の他に、場合による凝離現象も抑制される。
【0096】
本発明によるカー複合材料は、例えばレンズの適用分野のため、ことに視力補助具およびテレスコープメガネのために、次の要求プロフィールに対応する:
- 高いカー定数
- 高い誘電異方性
- セミメソゲン4による作動温度範囲内で等方性でかつ液状
- 棒状分子5および極性セミメソゲン4による高い電気的に誘導可能な屈折率変調
- 全体の作動温度範囲内での良好な均質性(物質の混和性、低い相分離傾向)
- 低い回転粘度によるわずかな切替時間
- 可視スペクトル領域内でのわずかな吸収
- 高い(光)化学的安定性。
【0097】
さらに、このアプローチの偏光非依存性および高速の切替時間は、液晶を基礎とするアプローチに比べて本質的な利点である。本発明による複合材料は、液晶系の利点(棒状極性分子の大きなカー定数および高い秩序傾向)と、他方で低い回転粘度および極めて短い切替時間を有する等方性液体の利点とを結びつけ、かつこの複合材料はカラミチック液晶の利点を等方性液体と結びつける。
【0098】
視力補助具のために、本発明によるレンズは、中速の切替時間での無偏光の電気的に調節可能な近方視野、および適用に応じて<42Vの非臨界の切替電圧を有する。レンズの直径は、適切な視野を可能にし、かつ切替可能なレンズの屈折度は、一桁のジオプトリー範囲の値にある。光学機能は、本質的に光の波長に余り依存せず、かつ回折効率はかなり高いので、「ゴースト画像」は避けられる。さらに、本発明によるレンズは典型的なメガネガラスと組み合わせることができ、かつ素子の制御のためにわずかな重量および構造体積を有するので、本発明によるレンズは通常のメガネガラスと一緒にまたはメガネフレーム内に組み込むことができる。
【0099】
本発明の範囲内で、視力補助具のための利用は、調整可能な、個別に調節可能な視力補助具に拡張することができる。透過性LCディスプレイと同様に、画素化された電極スクリーンの利用により、極めて小さな領域に対して光学特性を個別に調節することができる。したがって、例えば乱視の修正のために必要となるような、方向依存性の屈折度を有する回折レンズを作製することが可能である。レンズの調節を、次いで、欧州特許第1463970号明細書(EP 1 463 970 B1)の両眼の電子メガネにおいて記載されているように個別に合わせることができかつ記憶することができる。
【0100】
本発明の範囲内で、本発明によるレンズの、テレスコープメガネ用の切替可能な拡大系での使用が可能である。拡大系では、視力補助具の分野の場合と部分的に類似する要件が存在する。しかしながら、接眼レンズおよび対物レンズの屈折度は明らかにより強くなければならない。しかしながら、必要な開口においてこれらの要件は、ことに接眼レンズにとって明らかにより低い。この拡大系にとって、2.5倍の倍率で十分である。目標とされる着用時の高い快適性を可能にするために、個別素子の場合と同様にできる限りわずかな重量を有する系も実現可能である。ここでは、本発明による解決策は、現在利用可能なテレスコープメガネとは明らかに異なっている。別の本質的な利点は、もちろん、オフ状態で全体の視野が利用され、この視野は組み込まれた制御素子および供給素子に制限されないことにもある。
【0101】
本発明によるレンズは、次の表から明らかなように、次の技術的要件を満たす:
a) 視力補助具用の、ことに切替可能な近方視部分を有する視力補助具用の無偏光の電気的に調節可能な近方視野、
b) 調整可能な、個別に調節可能な視力補助具(透過型アクティブマトリックスディスプレイの場合に類似して、μmで構造化された電極の利用下での画素的制御を備えた視力補助具)および
c)テレスコープメガネまたは多機能メガネ用の切替可能な拡大系。
【0102】
【0103】
満たされる他の要件は、高い透明性、再現性、高い信頼性、および「ゴースト」を避けるための高い充填係数ならびに偏光非依存性機能様式である。さらに、個別の素子はオフ状態で光学的にニュートラルである。
【0104】
本発明は、図示され、かつ記載された実施例に限定されるものではなく、本発明の主旨で全ての同等に作用する実施態様も含む。
【0105】
例えば、側方置換されたビフェニルを基礎とする合成はセミメソゲンの製造のために、および最終的カップリング反応のための触媒の合成は置換ビフェニルの製造のために実施することができ;5個のセミメソゲンを製造するために、5個の置換アリールボロン酸を合成し、特性決定することができ;多様な材料でのフレネルレンズの型取りのために、PDMS注型物の製造を含めて、利用可能なフレネルレンズの表面の特性決定をプロフィールメータを用いて実施することができ(Sylgard 184(シリコーンエラストマーキット)中での表面格子の型取りのためのエポキシ混合物を含めた、表面格子およびマイクロレンズアレーのスタンプの製造、およびNOA65(光学接着剤:粘度1200(cps)、屈折率nd 1.52)を用いたレプリカの製造、ことに回折格子(対応するフレネルゾーンプレート用のモデル構造として利用する、線形表面格子の製造のための鋸歯プロフィールの表面格子の型取り方法)の製造);表面格子の型取りは、マスター(市販の回折格子)を用いて行われ、このマスターはネガ型コピーとしてPOMS内で型取られ、次いでこの「スタンプ」を用いてNOAを用いた別の型取り工程によりポジ型レプリカを製造することができ、このポジ型レプリカは、とりわけ切替可能な光学素子の構築のために適している;Suzuki-Miyauraによるアリール-アリールカップリング(C-C結合の形成によるビフェニルまたはビフェニル誘導体の合成)または類似の反応の相応するメカニズムの適用、および中間体のクロマトグラフィーによる精製の適用(ことに中間的な精製操作を用いた多段階合成)。本発明による電気制御可能な光学素子の適用分野は、工業の多様な領域にわたり、ことに:
【0106】
測定工業
- 測定ヘッド内でのカーセルによる試料の分析
- ウェハ検査システム
- 顕微鏡または内視鏡内の偏光子
- 電界強度の測定
【0107】
製造工業
- ICまたはLCD用のマイクロリソグラフィー投影露光装置
- 印刷版の露光用の光変調器
- CDまたはDVDに記録する際の偏光方向に回転する素子
【0108】
情報伝達工業
- 100GHzまでの信号(光学的信号)のデジタル化のための、カーセルを用いた、および後続する偏光フィルタありまたは偏光フィルタなしの高速光スイッチ
【0109】
医療工業
- MRT系(核磁気共鳴断層撮影系)での光学変調器
- 顕微鏡または内視鏡内の偏光子
【0110】
さらに、本発明は、これまでに請求項1および9に定義された特徴の組合せに限定されるのではなく、開示された全ての全体の個別の特徴の所定の特徴の各々の任意の他の組合せにより定義することもできる。これは、原則として、実際に請求項1および9の各々の個別の特徴を省くか、または本願の他の箇所で開示された個別の特徴の少なくとも1つに置き換えることができることを意味する。
【符号の説明】
【0111】
1 基板
2 導電性層(導電性ITO電極)
3 配向層(整列層)
4 非棒状分子(活性複合材料、セミメソゲン、前駆体混合物)
5 棒状分子(活性複合材料、前駆体混合物)
6 光開始剤
7 脂肪族モノマー
8 反応性メソゲン
9 異方性網目構造(ポリマー網目構造)
10 架橋したメソゲン
K カー液体
RT 作動温度範囲
U 電圧