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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】オプトエレクトロニクス素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/06 20100101AFI20220104BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20220104BHJP
【FI】
H01L33/06
H01L33/32
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019512200
(86)(22)【出願日】2017-08-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 EP2017071550
(87)【国際公開番号】W WO2018041778
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2019-03-29
(31)【優先権主張番号】102016116425.9
(32)【優先日】2016-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】599133716
【氏名又は名称】オスラム オプト セミコンダクターズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Osram Opto Semiconductors GmbH
【住所又は居所原語表記】Leibnizstrasse 4, D-93055 Regensburg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヴェアナー ベルクバウアー
(72)【発明者】
【氏名】ヨアヒム ヘアトコアン
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-234891(JP,A)
【文献】特開2010-092898(JP,A)
【文献】特開2014-042023(JP,A)
【文献】特開2005-012216(JP,A)
【文献】特開2002-223042(JP,A)
【文献】国際公開第2005/020396(WO,A1)
【文献】特開2006-210692(JP,A)
【文献】特開2004-356256(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0291127(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第105161586(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
H01S 5/00-5/50
H01L 31/00-31/0392
H01L 31/08-31/119
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重量子井戸構造体(5)を有する活性層を備えたオプトエレクトロニクス素子(10)であって、前記多重量子井戸構造体(5)は、Alx1Iny1Ga1-x1-y1N、ただし0≦x1<0.03、0≦y1≦0.1かつx1+y1≦1、を有する複数の量子井戸層(51)を含み、かつAlx2Iny2Ga1-x2-y2N、ただし0≦x2≦1、0≦y2≦0.02かつx2+y2≦1、を有する複数のバリア層(52)を含み、
前記バリア層(52)は、空間的に変化するアルミニウム含有量x2を有し、
前記バリア層(52)における前記アルミニウム含有量の最大値x2,maxが、x2,max≧0.05であり、
前記バリア層(52)における前記アルミニウム含有量の最小値x2,minが、x2,min<0.05であり、
前記多重量子井戸構造体(5)は、n型半導体領域(6)と、p型半導体領域(4)との間に配置されており、
前記n型半導体領域(6)から前記p型半導体領域(4)を指示する方向において、前記バリア層(52)と、後続の量子井戸層(51)との間に、それぞれ、中間層(53)が配置されており、
前記中間層は、Alx3Iny3Ga1-x3-y3N、ただし0≦x3<0.03、0≦y3≦0.02かつx3+y3≦1を有
前記バリア層(52)は、前記n型半導体領域(6)から前記p型半導体領域(4)を指示する方向に、それぞれ、先行する量子井戸層(51)に直接、隣り合い、
前記バリア層(52)における前記アルミニウム含有量は、前記n型半導体領域(6)から前記p型半導体領域(4)を指示する方向において、前記バリア層(52)に先行する量子井戸層(51)との境界面を起点として、1つまたは複数の段の形態で、または連続的に前記最小値x2,minまで減少し、前記最小値を起点として1つまたは複数の段の形態で、または連続的に再び増大する、オプトエレクトロニクス素子。
【請求項2】
前記バリア層(52)は、前記アルミニウム含有量の前記最大値x2,maxを、隣り合う量子井戸層(51)との少なくとも1つの境界面に有する、請求項1記載のオプトエレクトロニクス素子。
【請求項3】
前記バリア層(52)における前記アルミニウム含有量の前記最大値x2,maxが、x2,max≧0.1である、請求項1または2記載のオプトエレクトロニクス素子。
【請求項4】
前記バリア層(52)における前記アルミニウム含有量の前記最大値x2,maxが、x2,max≧0.2である、請求項1から3までのいずれか1項記載のオプトエレクトロニクス素子。
【請求項5】
前記バリア層(52)における前記アルミニウム含有量は、前記バリア層(52)に先行する層との境界面を起点として、1つまたは複数の段の形態で、または連続的に前記最小値x2,minまで減少し、前記最小値を起点として1つまたは複数の段の形態で、または連続的に再び増大する、請求項1から4までのいずれか1項記載のオプトエレクトロニクス素子。
【請求項6】
前記バリア層(52)は、隣り合う量子井戸層(51)から1nm以上の間隔を有する領域に、前記アルミニウム含有量の前記最小値x2,minを有する、請求項1から5までのいずれか1項記載のオプトエレクトロニクス素子。
【請求項7】
前記バリア層(52)における前記アルミニウム含有量の前記最小値x2,minは、x2,min<0.02である、請求項1から6までのいずれか1項記載のオプトエレクトロニクス素子。
【請求項8】
前記バリア層(52)における前記アルミニウム含有量の前記最小値x2,minは、x2,min=0である、請求項1から7までのいずれか1項記載のオプトエレクトロニクス素子。
【請求項9】
前記中間層は、厚さが1.5nm未満である、請求項1から8までのいずれか1項記載のオプトエレクトロニクス素子。
【請求項10】
前記中間層(53)は、GaNを有する、請求項9記載のオプトエレクトロニクス素子。
【請求項11】
前記バリア層(52)は、前記n型半導体領域(6)から前記p型半導体領域(4)を指示する方向に、それぞれ、先行する量子井戸層(51)に直接、隣り合う、請求項9または10記載のオプトエレクトロニクス素子。
【請求項12】
前記オプトエレクトロニクス素子(10)は、420nm未満の中心波長を有するUVビームを放射するのに適している、請求項1から11までのいずれか1項記載のオプトエレクトロニクス素子。
【請求項13】
前記中心波長は、365nm~400nmである、請求項12記載のオプトエレクトロニクス素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、窒素化合物半導体材料、特にAlInGaNを有する量子井戸構造体を備えた活性層を有する、特に紫または紫外線ビームを放射するオプトエレクトロニクス素子に関する。
【0002】
この特許明細書は、独国特許出願公開第102016116425号明細書の優先権を主張するものであり、その開示内容は、参照によってここに取り入られるものである。
【0003】
特にAlInGaNを有する窒素化合物半導体からなる量子井戸構造体は、一般に、青色のスペクトル領域において発光するLEDまたはレーザダイオードにおける活性層として使用されることが多い。半導体材料の組成に依存して、特に、紫もしくは紫外線のスペクトル領域における発光も可能である。紫外線のスペクトル領域において効率的な発光を達成するために必要であるのは、量子井戸構造体において、比較的大きな電子的バンドギャップを有する複数のバリア層を使用することである。これは、材料系AlInGaNにおいて、アルミニウム含有量を増大させることによって達成可能である。しかしながら、アルミニウム含有量を増大させるのに伴い、窒素化合物半導体材料の格子定数が減少してしまう。このことは、アルミニウム含有量が多い層を成長させる際に、比較的大きな引張応力が生じてしまうことに結び付いてしまうことがある。このことから結果的に生じるリスクは、欠陥が形成され、特に、半導体層におけるクラックが形成されることである。
【0004】
本発明の根底にある課題は、特に、紫外線のスペクトル領域におけるビームの放射に適しており、かつ欠陥形成のリスクが減少されるという特徴を有する活性層を備えたオプトエレクトロニクス素子を提供することである。
【0005】
この課題は、請求項1の特徴的構成を備えたオプトエレクトロニクス素子によって解決される。本発明の有利な実施形態および発展形態は、従属請求項の対象である。
【0006】
少なくとも1つの実施形態によれば、オプトエレクトロニクス素子は、多重量子井戸構造体を有する活性層を有しており、この多重量子井戸構造体は、複数の量子井戸層および複数のバリア層を含む。バリア層は、少なくとも一部の領域に、量子井戸層よりも大きな電子的バンドギャップを有する。量子井戸層は、好適には、Alx1Iny1Ga1-x1-y1N、ただし0≦x1<0.03、0≦y1≦0.1かつx1+y1≦1、を有する。好ましくは、量子井戸層におけるアルミニウム含有量x1は、x1=0である。さらに、好適には、量子井戸層におけるインジウム含有量y1については、y1>0が成り立つ。量子井戸層は、好適にはInGaNを有し、特にIny1Ga1-y1N、ただし0<y1≦0.1、を有する。
【0007】
バリア層は、好適には、Alx2Iny2Ga1-x2-y2N、ただし0≦x2≦1、0≦y2≦0.02かつx2+y2≦1、を有し、バリア層におけるアルミニウム含有量x2は、空間的に変化する。アルミニウム含有量は、バリア層の主面に対して垂直な方向に、または別の言い方をすれば、バリア層の成長方向に変化する。バリア層におけるアルミニウム含有量x2の最大値x2,maxに対し、好適にはx2,max≧0.05が成り立つ。さらにバリア層におけるアルミニウム含有量の最小値x2,minに対し、好適にはx2,min<0.05が成り立つ。
【0008】
量子井戸構造体のバリア層におけるアルミニウム含有量x2が一定ではなく、空間的に変化し、かつx2,max≧0.05の最大値x2,maxおよびx2,min<0.05の最小値x2,minを有することにより、大きな電子的バンドギャップを達成することができるが、バリア層の層厚について平均したアルミニウム含有量は、有利には、x2,max≧0.05のアルミニウム含有量の最大値x2,maxよりも小さくなる。これにより、バリア層における引張応力が減少し、したがって、バリア層における欠陥の形成および/またはクラック形成が生じるリスクが予防される。
【0009】
バリア層は、アルミニウム含有量の最大値x2,maxを、有利には、隣り合う量子井戸層との少なくとも1つの境界面に有する。このようにすることの利点は、バリア層が、それぞれ隣り合う量子井戸層との境界面において大きな電子的バンドギャップを有することである。これによって達成されるのは、量子井戸層との境界面において大きな障壁高さを実現することである。
【0010】
好ましい実施形態において、アルミニウム含有量の最大値x2,maxは、x2,max≧0.1であり、特に好ましくはx2,max≧0.2である。このような大きなアルミニウム含有量は、紫外線のスペクトル領域におけるビームの放射のために設けられる量子井戸構造体には有利である。
【0011】
特に、バリア層におけるアルミニウム含有量は、このバリア層に先行する層との境界面を起点として、まずは、1つまたは複数の段の形態で、または連続的に最小値x2,minまで減少してもよい。引き続いて、アルミニウム含有量は、この最小値を起点として、1つまたは複数の段の形態で、または連続的に再び増大する。
【0012】
少なくとも1つの実施形態によれば、バリア層は、隣り合う量子井戸層から少なくとも1nmの間隔を有する少なくとも1つの領域において、アルミニウム含有量の最小値x2,minを有する。
【0013】
アルミニウム含有量の最小値は、バリア層において、好ましくはx2,min≦0.02であり、特に好ましくはx2,min=0である。特に、バリア層は、アルミニウム含有量の最小値の領域にGaNを有していてもよい。
【0014】
オプトエレクトロニクス素子の好ましい一実施形態において、活性層は、n型半導体領域と、p型半導体領域との間に配置されており、n型半導体領域からp型半導体領域を指示する方向において、バリア層と、後続の量子井戸層との間に、それぞれ、中間層が配置されている。p型半導体領域からn型半導体領域を指示する方向とは、一般的には、半導体積層体の成長方向に対応する。したがってこの実施形態では、成長方向に量子井戸層がバリア層に続いている境界面に中間層が配置されている。この中間層は、好適には、Alx3Iny3Ga1-x3-y3N、ただし0≦x3<0.03、0≦y3≦0.02かつx3+y3≦1、を有する。中間層の厚さは、有利には1.5nm未満、特に好ましくは1nm未満である。中間層は、後続のバリア層に比べて、比較的少ないx3≦0.03の、好ましくはx3≦0.01の、特に好ましくはx3=0のアルミニウム含有量x3を有する。さらに中間層におけるインジウム含有量y3もy3≦0.02と極めて少ないかまたは好適にはy3=0である。特に中間層は、GaN層であってもよい。
【0015】
バリア層と、後続の量子井戸層との間に中間層を挿入することにより、特に、アルミニウム含有量の多いバリア層に量子井戸構造体を直接、成長させることが回避されるという利点が得られる。有利であることが判明したのは、特に、所定のインジウム含有量を有する量子井戸層を、アルミニウム含有量の多いバリア層に直接、成長させないことである。というのは、この場合にはインジウムとアルミニウムとの間の望ましくない反応が生じることがあるからである。
【0016】
別の有利な実施形態によれば、バリア層は、n型半導体領域からp型半導体領域を指示する方向に、それぞれ、先行する量子井戸層に直接、隣り合う。したがってこれらの境界面では、特に、それぞれ、中間層は配置されない。むしろ、バリア層における正孔についての高い存在確率を回避するため、これらの境界面において、量子井戸層の材料からバリア層の材料に至る急峻な移行が行われると有利である。
【0017】
量子井戸構造体は、有利な実施形態において、それぞれ3つの層からなる複数の周期を有する多重量子井戸構造体であり、これらの3つの層は、バリア層、中間層および量子井戸層である。周期の個数は、有利には3~15、好ましくは4~8である。
【0018】
多重量子井戸構造におけるバリア層の厚さは、好適には、3nm~8nm、好ましくは3nm~5nmである。量子井戸層は、好適には、2nm~4nmの厚さを有する。
【0019】
オプトエレクトロニクス素子は、好適には、UVビームを放射するオプトエレクトロニクス素子である。特に、オプトエレクトロニクス素子は、420nm未満の中心波長を有するUVビームを放射するのに適していてもよい。特に好ましくは、この中心波長は、365nm~400nmである。このスペクトル領域において発光するオプトエレクトロニクス素子は、特に、ラッカを硬化するために使用することができる。
【0020】
以下、図1~4に関連し、実施例に基づいて本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施例によるオプトエレクトロニクス素子の概略断面図である。
図2】一実施例における、バリア層のアルミニウム含有量の経過を示す概略図である。
図3】別の実施例における、バリア層のアルミニウム含有量の経過を示す概略図である。
図4】別の実施例によるオプトエレクトロニクス素子の概略断面図である。
【0022】
図において、同じ構成部分または同じ作用を有する構成部分にはそれぞれ同じ参照符号が付されている。図示した構成部分および構成部分同士の大きさの比は、縮尺通りと見なしてはならない。
【0023】
図1に示した一実施例によるオプトエレクトロニクス素子10は、LEDチップであり、このLEDチップは、p型半導体領域4、n型半導体領域6、およびp型半導体領域4とn型半導体領域6との間に配置され、ビームの放射に適しかつ多重量子井戸構造体5である活性層を有する。LEDチップ10は、好適には、紫外線のスペクトル領域において発光するLEDチップである。LEDチップ10の多重量子井戸構造体5は、好適には、420nm未満の、好適には365nm~400nmの中心波長を有するビームを放射するのに適している。
【0024】
この実施例によるLEDチップ10は、いわゆる薄膜半導体チップであり、この半導体チップからは、最初に半導体積層体4、5、6のエピタキシャル成長に使用された成長基板が剥がされ、その代わりに、接合層2を用いて、特にはんだ層を用いて、半導体積層体4、5、6が、成長基板とは別の支持基板1に接合されている。
【0025】
このような薄膜発光ダイオードチップでは、p型半導体領域4は、一般に、支持基板1側にある。p型半導体領域4と支持基板1との間には、有利には、ミラー層3が配置されており、このミラー層3により、有利には、支持基板1の方向に放射されたビームが、オプトエレクトロニクス素子10のビーム出射面9の方向に向かって偏向させられる。ミラー層3は、例えば、Ag、AlまたはAuを含有する金属層である。
【0026】
オプトエレクトロニクス素子10の電気的な接触接続のため、例えば、支持基板1の背面における第1コンタクト層7と、ビーム出射面9の部分領域上の第2コンタクト層8とを設けることができる。
【0027】
p型半導体領域4およびn型半導体領域6は、それぞれ、複数の部分層から形成することが可能であり、必ずしもp型ドーピング層またはn型ドーピング層だけから構成される必要はなく、例えば、1つまたは複数の名目上非ドープの層を有することも可能である。
【0028】
図示した実施例とは択一的に、オプトエレクトロニクス素子10は、逆の極性を有することも可能である。すなわち、n型半導体領域6が、基板側にあり、p型半導体領域4が、オプトエレクトロニクス半導体チップのビーム出射面9側にあることも可能である(図示せず)。これは、一般に、半導体層をエピタキシャル成長させるために使用される成長基板が剥がされないオプトエレクトロニクス半導体チップの場合である。というのは、一般に、n型半導体領域は、最初に成長基板上に成長させられるからである。
【0029】
オプトエレクトロニクス素子10の半導体積層体4、5、6は、窒素化合物半導体ベースである。本発明の関連において、「窒素化合物半導体ベースである」とは、半導体積層体またはその少なくとも1つの層が、III族窒素化合物半導体材料を、好適にはAlInGa1-x-yN、ただし0≦x≦1、0≦y≦1かつx+y≦1を含むことを意味する。ここでこの材料は、上の式にしたがった数学的に正確な組成を必ずしも有する必要はない。むしろAlInGa1-x-yN材料の特徴的な物理的な性質を実質的に変化させない、1つのまたは複数のドーパントおよび付加的な成分を有していてもよい。しかしながらわかり易くするため、上の式には、結晶格子の重要な成分(In、Al、Ga、N)を少量の別の物質によって部分的に置き換えることができるとしても、これらの成分だけが含まれている。
【0030】
窒素化合物半導体材料の電子的バンドギャップは、特に、半導体材料におけるアルミニウム含有量および/またはインジウム含有量を変化させることによって設定することができる。このタイプの半導体では、バンドギャップは、アルミニウム含有量xの増大に伴って増大し、インジウム含有量yの増大に伴って減少する。
【0031】
オプトエレクトロニクス半導体チップ10の、ビームの放射のために設けられる活性層は、多重量子井戸構造体5として構成されている。多重量子井戸構造体5は、交互に配置された複数の量子井戸層51とバリア層52とを有する。量子井戸層51は、バンドギャップEQWを有し、バリア層52は、少なくとも一部の領域にE>EQWのバンドギャップEを有する。多重量子井戸構造体5は、特に、N個の周期を有する周期的な積層体であり、周期の個数Nは、例えば、3~15であり、好ましくは4~8である。
【0032】
量子井戸層51は、例えば、2nm~4nmの厚さを有する。バリア層52の厚さは、例えば、3nm~8nmであり、好ましくは3nm~5nmである。
【0033】
量子井戸層51は、多重量子井戸構造体5のこの実施例において、Alx1Iny1Ga1-x1-y1N、ただし0≦x1<0.03、0≦y1≦0.1かつx1+y1≦1を有する。アルミニウム含有量x1が、x1<0.03と少ないことにより、好ましくはx1=0により、アルミニウムの割合がより多いバリア層52に比べて、電子的バンドギャップの大きな差分を達成することができる。言い換えると、これにより、比較的深い量子井戸を形成することができる。さらに、量子井戸層51におけるインジウム含有量y1もy1≦0.1と少ない。というのは、インジウム含有量の増大に伴って電子的バンドギャップが小さくなるからである。このオプトエレクトロニクス素子は、特に、極めて波長の短いビームを放射するために、特にUV領域のビームを放射するために設けられているため、y1=0とy1=0.1との間の範囲の少ないインジウム含有量y1が有利である。
【0034】
オプトエレクトロニクス素子のこの実施例において、バリア層52は、Alx2Iny2Ga1-x2-y2N、ただし0.05≦x2≦1、0≦y2≦0.02かつx2+y2≦1を有する。大きな電子的バンドギャップを達成するため、バリア層52は、y2≦0.02の極めて少ないインジウム含有量y2しか有していないか、または好適にはインジウムを有さず、したがってy2=0である。すなわち、バリア層52の材料は、好適には、Alx2Ga1-x2N、ただし0≦x2≦1である。好適には、バリア層52のアルミニウム含有量は、少なくとも、n型半導体領域6からp型半導体領域4に進む方向に、バリア層52が量子井戸層51に続いている境界面において、x2,max≧0.05の最大値x2,maxを有する。特に好ましくは、x2,max≧0.1であり、またはx2,max≧0.2でもある。例えば、バリア層52は、隣り合う量子井戸層51との境界面において、Al0.15Ga0.85Nを有していてもよい。
【0035】
ここでは、バリア層52におけるアルミニウムの割合x2は、一定ではなく、n型半導体領域6からp型半導体領域に至る複数の層平面に対して垂直な方向を指示するz方向に、空間的な変化を有する。特に、アルミニウム含有量x2の異なる複数の部分層52a、52b、52cから、バリア層52を構成することが可能である。
【0036】
バリア層52のz方向におけるアルミニウム含有量の経過は、図2および3に2つの実施例について示されている。
【0037】
図2の実施例では、バリア層52は、外側の2つの部分層52a、52cと、その間に配置された中間の部分層52bとを有する。中間の部分層52bは、外側の部分層52a、52cよりもアルミニウム含有量x2が少ない。好適には、外側の部分層52a、52cにおけるアルミニウム含有量x2は、x2,max≧0.05の、例えばx2,max=0.15の最大値x2,maxを有する。中間の部分層52bにおいてアルミニウム含有量は、最小値x2,min<0.05を、好ましくはx2,min<0.02を、例えばx2,min=0を有する。図示した実施例において、外側の部分層52a、52cは、それぞれ、Al0.15Ga0.85N層であり、中間の部分層52bは、GaN層である。外側の部分層52a、52cは、例えば、1nm~2nmの厚さを、また中間の部分層52bは、2nm~3nmの厚さを有していてもよい。3つの部分層から構成されるバリア層52の全体的な厚さは、約3nm~8nmであってもよい。
【0038】
この実施例におけるアルミニウム含有量x2の段の形態の経過によって達成されるのは、バリア層52の外側の部分層52a、52cのアルミニウム含有量が多いことに起因して、隣り合う量子井戸層51との境界面において、有利な大きな電子的バンドギャップを得ることである。このことは、特にUV領域において極めて波長の短いビームの放射を可能にするのに有利である。他方では、中間の部分層52bにおけるアルミニウム含有量がより少ないことにより、バリア層52における機械的な応力が減少し、したがって、バリア層52において、例えば、転位またはクラックのような結晶欠陥が形成されるリスクが低減される。
【0039】
バリア層52のエピタキシャル成長の際に最初に成長させられる第1部分層52aは、アルミニウム含有量x2,maxが多いことによって生じる比較的小さい格子定数に起因して、より大きな格子定数を有するその下にある半導体層上での成長の際に、引張応力を有する。この引張応力は、層厚が大きくなるのに伴って、欠陥が形成されることに結び付くことになる。第1部分層が、2nmを上回らないまたは好適には1nmを上回らない厚さに到達した後に、中間の部分層52bを挿入することにより、このような欠陥形成を効果的に回避することができる。
【0040】
図3には、バリア層52におけるアルミニウム含有量x2の経過についての別の実施例が略示されている。バリア層52は、第1の外側の部分層52aと、中間の部分層52bと、第2の外側の部分層52cとを有する。外側の部分層52a、52cは、前の実施例とは異なり、一定のアルミニウム含有量を有さず、アルミニウム含有量の勾配を有する。例えば、第1の外側の部分層52aにおけるアルミニウム含有量は、最大値x2,maxから、最小値x2,minまで減少し、第2の外側の部分層では、再び最小値x2,minから最大値x2,maxまで増大する。図3では、例示的に、それぞれ、外側の部分層におけるアルミニウム含有量x2の直線的な勾配が示されている。
【0041】
しかしながら択一的には、アルミニウム含有量を非直線的に減少または増大させることも可能である。特に、アルミニウム含有量を段の形態で減少または増大させることが可能である。
【0042】
中間の部分層52bを省略し、これにより、バリア層52が、2つの部分層52a、52cだけを有するようにすることも考えられる。例えば、第1部分層52aにおけるアルミニウム含有量を段の形態で、または連続的に最小値x2,minにまで減少させ、引き続き、直接、隣り合う第2部分層52cにおいて、ここでも段の形態で、または連続的に増大させることが可能である。アルミニウム含有量の経過は、バリア層52の中心点に関して必ずしも対称である必要もなく、むしろ、バリア層52は、アルミニウム含有量x2の非対称な経過を有していてもよい。
【0043】
したがってバリア層52におけるアルミニウム含有量の経過については、種々異なる実施形態が可能であり、アルミニウム含有量は、好適には、バリア層52の内部において最小値x2,minを有し、隣り合う半導体層との境界面において最大値x2,maxを有する。
【0044】
図4には、オプトエレクトロニクス素子10の別の実施例が示されている。この実施例は、n型半導体領域6からp型半導体領域4を指示するz方向に、すなわち半導体積層体の成長方向において、それぞれの量子井戸層51の前に、それぞれ、中間層53が配置されている点が、図1の実施例とは異なる。したがってこの実施形態において、多重量子井戸構造体5の周期は、それぞれ3つの層を有し、すなわち、中間層53と、中間層53に続く量子井戸層51と、量子井戸層51に続くバリア層52とを有する。周期の個数Nは、前の実施例と同様に、有利には、3~15、好ましくは4~8である。
【0045】
中間層53は、その厚さが、好適には1.5nmを上回らない、特に好ましくは1nmを上回らない比較的薄い層である。中間層は、Alx3Iny3Ga1-x3-y3N、ただし0≦x3<0.03、0≦y3≦0.02、かつx3+y3≦1を有する。好適には、アルミニウム含有量x3は、x3=0、かつ/またはインジウム含有量y3はy3=0である。アルミニウム含有量が比較的少ないかまたは好ましくはアルミニウム含有量のない薄い中間層は、この中間層が、典型的には所定のインジウム含有量を有する量子井戸層51を成長させる際に、気相においてインジウムとアルミニウムとの間で、またはそれらの前駆体材料間で不所望の反応を生じさせない、という利点を有する。
【0046】
n型半導体領域6からp型半導体領域4を指示するz方向に、バリア層52が量子井戸層51に続く、多重量子井戸構造体5の複数の境界面には、好適には、それぞれ中間層が配置されない。言い換えると、中間層53は、成長方向に、量子井戸層51に直接、先行するが、量子井戸層51に直接、続く中間層はない。成長方向にバリア層52が量子井戸層51に続いている複数の境界面において、バリア層52が直接、量子井戸層51に隣り合っていると有利である。このようにすることによって電子的なバンド構造に影響が及ぼされ、これにより、バリア層52における正孔の存在確率が低減されることが判明している。このようにすることにより、多重量子井戸構造体におけるビーム形成の効率を改善することができる。
【0047】
別の有利な実施形態について、特にバリア層52の実施形態およびこれに伴う利点について、この実施例は、図4に対応し、その他の点については、前に説明した実施例に対応する。
【0048】
本発明は、実施例に基づく説明によって制限されることはない。むしろ本発明には、あらゆる新しい特徴的構成や、特に特許請求の範囲の特徴的構成のあらゆる組み合わせを含む、特徴的構成のあらゆる組み合わせが含まれているのであり、この特徴的構成またはこの組み合わせそれ自体が、明示的に特許請求の範囲または実施例に示されていない場合であっても含まれているものである。
【符号の説明】
【0049】
1 支持基板
2 接合層
3 ミラー層
4 p型半導体領域
5 多重量子井戸構造体
6 n型半導体領域
7 第1コンタクト層
8 第2コンタクト層
9 ビーム出射面
10 オプトエレクトロニクス素子
51 量子井戸層
52 バリア層
52a バリア層の部分層
52b バリア層の部分層
52c バリア層の部分層
53 中間層
図1
図2
図3
図4