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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】塗装設備及び対応する塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/00 20060101AFI20220104BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20220104BHJP
   B05B 16/20 20180101ALI20220104BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05D1/26 Z
B05B16/20
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019531957
(86)(22)【出願日】2017-12-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-14
(86)【国際出願番号】 EP2017081105
(87)【国際公開番号】W WO2018108567
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-08-17
(31)【優先権主張番号】102016014953.1
(32)【優先日】2016-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504389784
【氏名又は名称】デュール システムズ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】Durr Systems AG
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】フリッツ、ハンス-ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーア、ベンヤミン
(72)【発明者】
【氏名】クライナー、マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ブベック、モーリッツ
(72)【発明者】
【氏名】ベイル、ティモ
(72)【発明者】
【氏名】ヘルレ、フランク
(72)【発明者】
【氏名】ゾツニー、シュテッフェン
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-506305(JP,A)
【文献】特表2007-520340(JP,A)
【文献】特開平09-192583(JP,A)
【文献】米国特許第05636795(US,A)
【文献】特開2015-009222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 5/00
B05D 1/26
B05B 16/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料で部品(7)を塗装するための塗装設備であって、
a)少なくとも1つの第1の塗装ブース(1)と、
b)前記第1の塗装ブース(1)内部に位置する前記部品(7)に前記塗料を塗布するための、前記第1の塗装ブース(1)内に配置されている、プリントヘッド(11)である塗布装置(11)であって、前記塗布装置(11)により塗布される前記塗料がオーバースプレーなくコート対象の前記部品(7)上に実質的に全て堆積するように、前記塗布装置(11)は実質的にオーバースプレーなく動作する、塗布装置(11)と、
c)前記塗料のスプレーミストを塗布する噴霧器(9)と、
を備え、
d)前記塗装設備は、塗装対象の前記部品(7)の外表面(15)をオーバースプレーのない前記塗布装置(11)により塗布できるように構成されており、
e)前記塗装設備は、塗装対象の前記部品(7)の内表面(17)を前記噴霧器(9)により塗布できるように構成されており、
f)前記塗装設備は、塗装対象の前記部品(7)の部品縁(13)の周りのラップアラウンド(19)を前記噴霧器(9)により塗布できるように構成されている
塗装設備。
【請求項2】
塗料分離(3)が前記第1の塗装ブース(1)の下方に配置されていない、請求項1に記載の塗装設備。
【請求項3】
記塗装設備は、前記噴霧器(9)を具備する少なくとも1つの第2の塗装ブースを追加で備える
請求項1又は2に記載の塗装設備。
【請求項4】
a)前記塗装設備は、床レベルに床基部(10)を備え、塗料分離(3)のない前記塗装ブース(1)は、前記床レベルに実質的に配置されており、及び/又は、
b)前記第1の塗装ブース(1)は、床高さの上方に当該塗装ブース(1)を上げる階層構造なしで、前記床基部(10)上に直に配置されており、及び/又は、
c)前記塗装設備は、塗装対象の前記部品(7)を前記第1の塗装ブース(1)を通り搬送経路に沿って搬送するコンベア(6)を備え、前記コンベア(6)は、前記床レベルに配置されており、及び/又は、
d)前記コンベア(6)は、前記塗装設備の全長にわたって前記床レベルに延在する、
請求項1から3のいずれか1項に記載の塗装設備。
【請求項5】
a)下部取付レベルと上部取付レベルとを有する階層構造、
b)前記階層構造の前記上部取付レベル上を延びる塗装ライン、
c)前記上部取付レベルで上げられた前記塗装ラインから床レベルにある前記第1の塗装ブース(1)内に塗装対象の前記部品(7)を送り吐出する送出、及び、
d)前記床レベルにある前記第1の塗装ブース(1)から前記上部取付レベルで上げられた前記塗装ライン内に塗装対象の前記部品(7)を送り込む送込、
を備える、
請求項1からのいずれか1項に記載の塗装設備。
【請求項6】
a)前記塗装設備は、複数の連続した塗装ステーションを有する塗装ラインを備え、
b)塗装対象の前記部品(7)は、前記塗装ステーションを通り前記塗装ラインに沿ってコンベア(6)により搬送され、前記塗装ステーション内でコートされる、
請求項1からのいずれか1項に記載の塗装設備。
【請求項7】
a)塗料分離(3)のない前記第1の塗装ブース(1)は、前記塗装ラインの外部に配置され、
b)塗装対象の前記部品(7)は、送出により前記塗装ラインから前記塗料分離(3)のない前記第1の塗装ブース(1)内に送り出され、及び、
c)塗装対象の前記部品(7)は、前記塗料分離(3)のない前記第1の塗装ブース(1)から前記塗装ライン内に導入される、
請求項に記載の塗装設備。
【請求項8】
塗料分離(3)のない前記第1の塗装ブース(1)は、前記塗装ライン内に配置されている、
請求項に記載の塗装設備。
【請求項9】
a)塗装対象の前記部品(7)の前記内表面(17)は、内装塗装ブース(1)内で塗装され、
b)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)は、外装塗装ブース(1)内で塗装され、及び、
c)塗装対象の前記部品(7)の前記部品縁(13)の周りの前記ラップアラウンド(19)は、前記内装塗装ブース(1)又は前記外装塗装ブース(1)内で塗装される、
請求項1からのいずれか1項に記載の塗装設備。
【請求項10】
)塗装ラインは、塗装対象の前記部品(7)がコートされる特定の第1の周期を有し、及び、
b)塗料分離(3)のない前記第1の塗装ブース(1)は、塗装対象の前記部品(7)がコートされる特定の第2の周期を有し、及び、
c)前記第2の周期は、前記第1の周期よりも、少なくとも10%、20%、50%、100%、200%、300%、又は500%長く、又は、
d)前記第2の周期は、前記第1の周期に等しい、
請求項1から9のいずれか1項に記載の塗装設備。
【請求項11】
a)前記部品(7)の内装と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとに充填剤層を塗布するための第1の充填剤ステーションであって、前記第1の充填剤ステーションでの当該塗布は、充填剤のスプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1の充填剤ステーションと、
b)前記部品(7)の外表面(15)に充填剤層を塗布するための第2の充填剤ステーションであって、前記第2の充填剤ステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により行われる、第2の充填剤ステーションと、
c)前記部品(7)上の前記充填剤層を乾燥させるための第1の乾燥ステーションと、
d)塗装対象の前記部品(7)の内表面(17)と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとに第1のベースコート層を塗布するための第1のベースコートステーションであって、前記第1のベースコートステーションでの当該塗布は、スプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1のベースコートステーションと、
e)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)に前記第1のベースコート層を塗布するための第2のベースコートステーションであって、前記第2のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により行われる、第2のベースコートステーションと、
f)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)に第2のベースコート層を塗布するための第3のベースコートステーションであって、前記第3のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により又は噴霧器(9)により行われる、第3のベースコートステーションと、
g)前記第1のベースコート層及び前記第2のベースコート層の中間乾燥のための第2の乾燥ステーションと、
h)前記部品(7)の内装と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとにクリアコート層を塗布するための第1のクリアコートステーションであって、前記第1のクリアコートステーションでの当該塗布は、クリアコートのスプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1のクリアコートステーションと、
i)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)にクリアコート層を塗布するための第2のクリアコートステーションであって、前記第2のクリアコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により行われる、第2のクリアコートステーションと、
j)前記クリアコートを乾燥させるための第3の乾燥ステーションと、
を備え、
上述のステーションは、塗装対象の前記部品(7)が当該ステーションを連続して通って搬送されるように、塗装ラインに沿って並んで配置されている、
請求項1から10のいずれか1項に記載の塗装設備。
【請求項12】
a)任意で、前記部品(7)にプリコート層を塗布するためのプリコートステーションであって、第2のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により行われる、プリコートステーションと、
b)前記部品(7)を乾燥又は蒸発させるための第1の乾燥ステーションと、
c)塗装対象の前記部品(7)の内表面(17)と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとに第1のベースコート層を塗布するための第1のベースコートステーションであって、前記第1のベースコートステーションでの当該塗布は、スプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1のベースコートステーションと、
d)塗装対象の前記部品(7)の外表面(15)に前記第1のベースコート層を塗布するための第2のベースコートステーションであって、前記第2のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により行われる、第2のベースコートステーションと、
e)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)に第2のベースコート層を塗布するための第3のベースコートステーションであって、前記第3のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により又は噴霧器(9)により行われる、第3のベースコートステーションと、
f)前記第1のベースコート層及び前記第2のベースコート層の中間乾燥のための第2の乾燥ステーションと、
g)前記部品(7)の内装と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとにクリアコート層を塗布するための第1のクリアコートステーションであって、前記第1のクリアコートステーションでの当該塗布は、クリアコートのスプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1のクリアコートステーションと、
h)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)にクリアコート層を塗布するための第2のクリアコートステーションであって、前記第2のクリアコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により行われる、第2のクリアコートステーションと、
i)前記クリアコートを乾燥させるための第3の乾燥ステーションと、
を備え、
上述のステーションは、塗装対象の前記部品(7)が当該ステーションを連続して通って搬送されるように、塗装ラインに沿って並んで配置されている、
請求項1から10のいずれか1項に記載の塗装設備。
【請求項13】
a)前記部品(7)の内装と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとに充填剤層を塗布するための第1の充填剤ステーションであって、前記第1の充填剤ステーションでの当該塗布は、充填剤のスプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1の充填剤ステーションと、
b)前記部品(7)の外表面(15)に充填剤層を塗布するための第2の充填剤ステーションであって、前記第2の充填剤ステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により行われる、第2の充填剤ステーションと、
c)塗装対象の前記部品(7)の内表面(17)と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとに第1のベースコート層を塗布するための第1のベースコートステーションであって、前記第1のベースコートステーションでの当該塗布は、スプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1のベースコートステーションと、
d)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)に前記第1のベースコート層を塗布するための第2のベースコートステーションであって、前記第2のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により行われる、第2のベースコートステーションと、
e)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)に第2のベースコート層を塗布するための第3のベースコートステーションであって、前記第3のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により又は噴霧器(9)により行われる、第3のベースコートステーションと、
f)任意で、前記第1のベースコート層及び前記第2のベースコート層の中間乾燥のための第1の乾燥ステーションと、
g)前記部品(7)の内装と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとにクリアコート層を塗布するための第1のクリアコートステーションであって、前記第1のクリアコートステーションでの当該塗布は、クリアコートのスプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1のクリアコートステーションと、
h)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)にクリアコート層を塗布するための第2のクリアコートステーションであって、前記第2のクリアコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により行われる、第2のクリアコートステーションと、
i)前記クリアコート層を乾燥させるための第2の乾燥ステーションと、
を備え、
上述のステーションは、塗装対象の前記部品(7)が当該ステーションを連続して通って搬送されるように、塗装ラインに沿って並んで配置されている、
請求項1から10のいずれか1項に記載の塗装設備。
【請求項14】
塗料で部品(7)を塗装するための塗装方法であって、
a)塗装対象の前記部品(7)をコンベア(6)により塗装ラインに沿って第1の塗装ブース(1)内に搬送する工程と、
b)プリントヘッド(11)である実質的にオーバースプレーのない塗布装置(11)により前記第1の塗装ブース(1)内で塗装対象の前記部品(7)に塗料を塗布する工程と、
c)前記塗料のスプレーミストを噴霧する噴霧器(9)により塗装対象の前記部品(7)に塗料を塗布する工程と、
を備え、
塗装対象の前記部品(7)の外表面(15)がオーバースプレーのない前記塗布装置(11)により塗布され
e)塗装対象の前記部品(7)の内表面(17)が前記噴霧器(9)により塗布され、
f)塗装対象の前記部品(7)の部品縁(13)の周りのラップアラウンド(19)が前記噴霧器(9)により塗布される、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料で、部品を塗装するための、特に、自動車車体部品を塗装するための塗装設備に関する。さらに、本発明は、対応する塗装処理に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体部品を塗装するための現在の塗装設備では、塗布される塗料のスプレーを吐出する塗布装置として、噴霧器(例えば、回転噴霧器、エア噴霧器、エアミックス噴霧器、エアレス噴霧器など)が、通常、用いられる。こうした既知の噴霧器の欠点としては、塗布される塗料の一部のみがコート対象の自動車車体部品の表面に堆積し、一方、塗布される塗料の残りは、所謂オーバースプレーとして廃棄せねばならず、又は、塗料が堆積すべきでないコート対象の部品の他の区域上に堆積されることが挙げられる。このため、望ましくないオーバースプレーを下方に流れるブースエアから除去する、所謂、塗料分離システムが、実際の塗装ブースの下に位置する。
【0003】
図1は、上階2にある塗装ブース1と下階4にある塗料分離3とを備える従来の塗装設備の断面模式図を示す。上下に並ぶ2つの階層2、4を有する塗装設備構造は、矢印で模式的に示す塗装ブース1から下方に流れる空気が格子床を通り塗料分離3に入ることができるように塗料分離3のレベルの上方に塗装ブースを上げるための、鉄骨構造5を、又は、代替的に、切り抜きのあるコンクリート天井を必要とする。塗装ブース1では、塗装対象の自動車車体部品を塗装設備を通り紙面垂直方向に搬送するコンベア6が紙面垂直方向に延びている。多軸塗装ロボット8が、コンベア6の両側に配置されており、それぞれのロボットが塗布装置として回転噴霧器9をガイドしている。塗料分離3の設計及び構造の例が、特許文献1に開示されている。また、鉄筋構造5はコンクリート基部10上に置かれていることに注意されたい。
【0004】
塗装設備のこの既知の構造の主な欠点としては、塗料分離3が専ら必要であり、塗料分離3が、水、化学物質、石粉、及び/又は、厚紙フィルターを必要とすることが挙げられる。
【0005】
塗装設備のこの既知の構造の別の欠点としては、塗装ブース1を支えそれを塗料分離3の上に配置するために、鉄筋構造5が必要であることが挙げられる。
【0006】
本発明の背景技術について、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、及び特許文献9も参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】独国実用新案第202006021158号明細書
【文献】独国特許出願公開第102010019612号明細書
【文献】独国特許出願公開第19731829号明細書
【文献】独国特許発明第60212523号明細書(T2)
【文献】独国実用新案第9422327号明細書
【文献】独国特許出願公開第102013002412号明細書
【文献】独国特許出願公開第19630290号明細書
【文献】独国特許出願公開第4115111号明細書
【文献】独国特許発明第19606716号明細書
【文献】米国特許第9108424号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、相応に改善された塗装設備及び対応する塗装方法をもうけることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、独立請求項に記載の、本発明に係る塗装設備又は本発明に係る塗装方法により解決される。
【0010】
本発明に係る塗装設備は、まず、塗装対象の部品が塗布装置により塗装される少なくとも1つの第1の塗装ブースを有する。ただし、冒頭に記載し、また、図1に示した塗装設備の従来の構造とは異なり、塗布装置として、回転噴霧器は用いず、代わりに、塗布装置により塗布される塗料がオーバースプレーなくコート対象の部品上に実質的に全て堆積するように、実質的にオーバースプレーなく働くプリントヘッドを用いる。
【0011】
こうしたプリントヘッドは、従来技術から知られており、特許文献6、特許文献10、及び特許文献2に開示されている。ただし、本発明において、『プリントヘッド』という用語は、広義に解釈されるべきであり、上述の刊行物に開示の特定のプリントヘッドに限定されるわけではない。むしろ、本発明の文脈において、『プリントヘッド』という用語は、塗布対象の塗料のスプレーを吐出する噴霧器と区別するための役割を果たすに過ぎない。当該噴霧器とは対照的に、本発明に係るプリントヘッドは、空間的に狭い範囲に限られたコーティング媒体のジェットを吐出する。このジェットは、ジェットの長手方向に連続した、液滴ジェットとして又はコーティング媒体のジェットとして形成され得る。
【0012】
まず、本発明は、第1の塗装ブースの下方での時間の掛かる塗料の分離を排除することを提供する。ただし、本発明は、すべての塗装ブースが付属塗料分離なしで設計されている塗装設備の権利保護のみを請求するわけではない。むしろ、本発明は、少なくとも1つの塗装ブースが、塗布装置としてオーバースプレーのないプリントヘッドを用いて働き、そのため、付属塗料分離を有さず、一方、他の塗装ブースが、塗布装置として従来の噴霧器(例えば、回転噴霧器)を用いてもよい、いくつかの塗装ブースを有する塗装設備の権利保護も請求する。
【0013】
塗装ラインにおけるオーバースプレーのないプリントヘッドとオーバースプレーの生じる噴霧器との組み合わせの利点としては、例えば、現在知られているプリントヘッドでは、部品縁の周りの所謂ラップアラウンドの塗装が難しいことが挙げられる。このため、これらの区域(例えば、部品縁の周りのラップアラウンド)を従来の噴霧器(例えば、回転噴霧器)で塗装し続けることは理に適っている。力線の有効区域に堆積され、力線の効果がなければコートすることができない、静電塗装中に製造される塗料の層を、ラップアラウンドは生じさせる。
【0014】
一方、オーバースプレーのないプリントヘッドは、塗装対象の部品の外表面を塗装するために用いられることが好ましく、これに対し、オーバースプレーの生じる噴霧器は、塗装対象の部品の内表面を塗装するため又は上述した部品縁の周りのラップアラウンドを塗装するために用いることができる。
【0015】
本発明に係る塗装設備では、オーバースプレーのないプリントヘッドを備える第1の塗装ブースは、上述の鉄筋構造なしで床レベルに配置でき、特に、床基部上に直に配置できる。また、本発明に基づく塗料分離の排除により、塗装ラインにおいてオーバースプレーのないプリントヘッドをオーバースプレーの生じる噴霧器と組み合わせて、上述の鉄筋構造を省略することが可能となり、これにより、オーバースプレー分離を備える塗装ブースの格子のレベルに配置される床基部上に直に少なくとも1つのオーバースプレーのない塗装ブースを配置することが可能となる。従って、塗装対象の部品を搬送するためのコンベアも、床レベルに、特に、床基部上に直に、配置することができる。このことも有利な点である。
【0016】
ここで、コンベアが塗装設備の全長にわたって床レベルに延びていてもよいことに注意されたい。
【0017】
また、代替的に、塗布装置としてオーバースプレーのないプリントヘッドを有する第1の塗装ブースが床レベルに配置され、一方、塗布装置として噴霧器を有する他の塗装ブースが塗料分離の上方に従来の方法で配置されることも可能である。この場合、塗装対象の部品は、それらが塗装ラインを通過するにつれて、下げられたり上げられたりされねばならない。塗装ラインは、従来技術で知られているように、上部取付レベル上を延びていてもよい。オーバースプレーのないプリントヘッドを有する塗装ブースが床レベルに配置されている場合、塗装対象の部品は、上部塗装ラインから底部に送り出され、その後、頂部に戻される。これは、例えば、リフトを用いて行うことができる。
【0018】
また、代替的に、オーバースプレーのないプリントヘッドを備える塗装ブースを実際の主塗装ラインの脇に位置することも可能である。ただし、これも、塗装対象の部品が送り込まれ又は再び送り出されることを必要とする。
【0019】
本発明のある実施形態では、塗装設備は、内装塗装ブース及び外装塗装ブースを備える。これらは、塗装ラインに沿って並んで配置されており、塗装対象の部品はこれらの中を次々に通過する。内装塗装ブースでは、塗装対象の部品の内表面が塗装される。一方、外装塗装ブースでは、塗装対象の部品の外表面が塗装される。そして、上述した部品周りのラップアラウンドは内装塗装ブース又は外装塗装ブースのいずれかで塗装されるので、これらの塗装ブースは塗装範囲が拡張されている。
【0020】
また、塗装ラインが塗装対象の部品がコートされる一定の周期を有することが好ましいことに注意されたい。そして、オーバースプレーのないプリントヘッドを備える塗装ブースの周期は、主塗装ラインの周期よりも、例えば、10%、20%、50%、100%、200%、300%、又は500%だけ、長いことが好ましい。また、代替的に、オーバースプレーのないプリントヘッドを備える塗装ブースの周期が主塗装ラインの周期以下であることも可能である。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、オーバースプレーのないプリントヘッドを備える、即ち、塗料分離のない、塗装ブースでは、希少な特殊塗料又は装飾塗料のみが塗布され、一方、頻出の標準塗料は汎用塗装ラインで噴霧器により塗装される。また、プライマー、接着促進剤、又はシームシーリング剤(NAD:Nahtabdichtung)も、オーバースプレーのないプリントヘッドを有する塗装ブースで塗布できる。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、塗装設備は、以下の塗装ステーション(例えば、塗装ブース)を備える。これらの塗装ステーションは、充填処理時に塗装対象の部品が当該ステーションを連続して通って搬送されるように、塗装ラインに沿って並んで配置されている。
・部品の内層と部品縁の周りのラップアラウンドとに充填剤層を塗布するための第1の充填剤ステーションであって、第1の充填剤ステーションでの塗布は、噴霧器(例えば、回転噴霧器)により行われ、また、ラップアラウンドが外表面まで延在している、第1の充填剤ステーション。
・部品の外表面に充填剤層を塗布するための第2の充填剤ステーションであって、第2の充填剤ステーションでの塗布は、オーバースプレーのない塗布器により、特に、プリントヘッドにより行われる、第2の充填剤ステーション。
・部品上の充填剤層を乾燥させるための第1の乾燥ステーション。
・塗装対象の部品の内表面と部品縁の周りのラップアラウンドとに第1のベースコート層を塗布するための第1のベースコートステーションであって、第1のベースコートステーションでの塗布は、スプレージェットを吐出する噴霧器により行われ、また、ラップアラウンドが外表面まで延在している、第1のベースコートステーション。
・塗装対象の部品の外表面に第1のベースコート層を塗布するための第2のベースコートステーションであって、第2のベースコート層での塗布は、オーバースプレーのない塗布器により行われる、第2のベースコートステーション。
・塗装対象の外表面に第2のベースコート層を塗布するための第3のベースコートステーションであって、第3のベースコートステーションでの塗布は、オーバースプレーのない塗布器により又は噴霧器により行われる、第3のベースコートステーション。
・第1のベースコート層及び第2のベースコート層の中間乾燥のための第2の乾燥ステーション。
・部品の内層と部品縁の周りのラップアラウンドとにクリアコート層を塗布するための第1のクリアコートステーションであって、第1のクリアコートステーションでの塗布は、クリアコートのスプレーミストを吐出する噴霧器により行われ、また、ラップアラウンドが外表面まで延在している、第1のクリアコートステーション。
・塗装対象の部品の外表面にクリアコート層を塗布するための第2のクリアコートステーションであって、第2のクリアコートステーションでの塗布は、オーバースプレーのない塗布器により、特に、プリントヘッドにより行われる、第2のクリアコートステーション。
・クリアコート層を乾燥させるための第3の乾燥ステーション。
【0023】
本発明に係る塗装設備の別の実施形態では、無充填剤処理が用いられる。上述のように充填剤を塗布する代わりに、最初の2つのステーションでは、プリコート又は所謂BC0=BCゼロ(実際の第1のベースコートの前に塗布されるベースコート、この塗布はオーバースプレーのないプリントヘッドにより行える)が任意で用いられる。
【0024】
また、本発明に基づく塗装設備のさらなる実施形態では、『3ウェット処理』が提供される。充填剤は任意で第1のステーションで塗布される。この塗布は、従来の噴霧器により行える。ここで、全ての塗料層についてラップアラウンドが必要であることに注意されたい。その後、残りの工程は、3ウェット処理である点を除いては、上述の工程と同じである。
【0025】
本発明の一変更例では、充填剤の代わりに、まず、第1のベースコート層が塗布される。その後、第2のベースコートが、トップコートとして、任意で、メタリック効果を有するトップコートとして、任意で塗布されてもよい。最後に、クリアコートが塗布されてもよい。これもまた無充填剤塗装処理であることが好ましい。
【0026】
無充填剤塗装処理のさらなる実施形態では、以下の処理工程が提供される。
・充填剤機能を有するプリコートを塗布する工程。
・トップコートとして第1のベースコートを塗布する工程。
・トップコートとして第2のベースコートを塗布する工程。
・クリアコートを塗布する工程。
【0027】
さらに、本発明に係る塗装設備は、装飾塗装にとても適している。まず、ベースコートが塗装対象の部品に塗布されてもよい。これは従来の噴霧器を用いて行える。次に、所望の装飾(例えば、グラフィック)をオーバースプレーのない塗布装置を用いて部品に塗布してもよい。その後、装飾はクリアコート層で保護される。
【0028】
さらに、塗料分離のない塗装ブースは、吸気孔及び排気孔を有する空気孔を備える。吸気孔は給気天井として設けられてもよく、一方、排気孔は排気床として構成されてもよい。代わりに、排気孔が、床上にある排気管、例えば、車体に隣接する、車体の下にある、又はキャビン壁上にある、排気管を有してもよい。また、給気も、天井にある管からでるのでもよい。また、給気及び排気は、塗料が車に塗布されている最中に、塗料分離なしである必要がある。例えば、溶剤は依然として除去されねばならず、また、塗料は蒸発せねばならない。
【0029】
本発明のさらなる有利な変形例が、従属請求項に記載されているし、また、以下で、図面に基づき、本発明の好ましい実施形態の記載とともに、より詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】塗装ブースの下方に塗料分離を備える従来の塗装設備の断面図。
図2A】本発明に係る塗装ブースの断面図。
図2B図2Aの変形例。
図2C図2Aの変形例。
図3】本発明に係る塗装方法の実施形態をフローチャートの形式で示す。
図4図3の変形例。
図5】3ウェット処理を有する図3の変形例。
図6】本発明に係る塗装処理の別の変形例。
図7図6の変形例。
図8】別の変形例。
図9】部品縁の周りのラップアラウンドの塗装の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図2Aは、本発明に係る塗装ブース1の断面図を示す。これは、部分的に、図1に示す従来の塗装ブース1と同様である。そこで、繰り返しを避けるために上述の記載を参照し、一致する部分には同じ符号を用いる。
【0032】
この設計例の特徴は、回転噴霧器9の代わりに、塗装ロボット8にガイドされるプリントヘッド11が、塗布装置として用いられる点である。また、プリントヘッド11は、塗布される塗料のスプレーを吐出するのではなく、コーティング剤の狭く限定されたジェットを吐出し、それゆえ、実質的にオーバースプレーがない。これは、塗料分離3を省略できるという効果をもたらす。そして、塗料ブース1の下方には、塗装ブース1内の下降気流が送り出される排気孔12ひとつのみが存在する。
【0033】
本発明により可能となるこの塗料分離3の排除は、また、鉄筋構造5を省略することも可能とするので、塗装ブース1はほとんど床レベルに取り付けることができる。
【0034】
図2Bは、別の変形例を示す。繰り返しを避けるために上述の記載を参照し、一致する部分には同じ符号を用いる。
【0035】
この実施形態の特徴は、自動車車体部品7を搬送するコンベア6がコンクリート基部10’上に直に配置されている点である。
【0036】
そのため、本発明に係る塗装設備は、塗料分離3のために別の階層を必要としないので、単一の階層を有するのみであるべきである。これは、転じて、塗装設備を比較的に低いホールに設置することを可能とする。ただし、これは、オーバースプレーのない塗布装置を排他的に用いる場合にのみ、当てはまる。
【0037】
図2Cは、さらなる変形例を示す。繰り返しを避けるために上述の記載を参照し、一致する部分には同じ符号を用いる。
【0038】
図2Cは、例えば、オーバースプレーのない塗装ブース1’が塗料分離3(オーバースプレー分離)を有する塗装ブース1に接続されている、本発明に係る変形例を示す。オーバースプレーのない塗装ブース1’のコンクリート基部10’は、塗料分離3(オーバースプレー分離)を有する塗装ブース1の格子と同じ高さに配置されている。
【0039】
図3は、充填剤を用いた、本発明に係る塗装処理の一例を示すフローチャートを示す。
【0040】
最初の工程S1では、従来のやり方で噴霧器を用いて塗装対象の自動車車体部品の内表面と部品縁の周りラップアラウンドとに充填剤が塗布される。
【0041】
次の工程S2では、続いて、オーバースプレーのないプリントヘッドを用いて塗装対象の自動車車体部品の外表面に充填剤が塗布される。
【0042】
次の工程S3では、続いて、自動車車体部品は乾燥される。
【0043】
工程S4では、続いて、噴霧器により自動車車体部品の内表面と部品縁の周りのラップアラウンドとに第1のベースコート層が塗布される。
【0044】
次の工程S5では、オーバースプレーのないプリントヘッドを用いて自動車車体部品の外表面に第1のベースコート層が塗布される。
【0045】
工程S6では、続いて、オーバースプレーのないプリントヘッドを用いて自動車車体部品の外表面に第2のベースコート層が塗布される。
【0046】
工程S7では、続いて、自動車車体部品は乾燥される。
【0047】
工程S8では、続いて、噴霧器により内表面と部品縁の周りのラップアラウンドとにクリアコートが塗布される。
【0048】
工程S9では、続いて、オーバースプレーのないプリントヘッドを用いて自動車車体部品の外表面にクリアコートが塗布される。
【0049】
工程S10では、続いて、自動車車体部品は最終乾燥される。
【0050】
この実施形態の変形例では、塗装ライン全体が、噴霧器を備える塗装ブースとオーバースプレーのないプリントヘッドを備える塗装ブースとの間で高さに差がないように、上階の塗装ブース全てを通って延びる。また、オーバースプレーのないプリントヘッドを備える塗装ブースは、オーバースプレーの生じる噴霧器を備える他の塗装ブースと同じ高さのレベルに存在するように、鉄筋又はコンクリート構造を有していてもよい。また、オーバースプレーのないプリントヘッドを備える塗装ブースは、頑丈な吊り天井上に設置されてもよいし、及び/又は、中抜若しくは地下なしで設置されてもよい。
【0051】
本発明の別の変形例では、オーバースプレーのないプリントヘッドを備える塗装ブースは、塗料分離を必要としないので、下げられる。この場合、高さの差を克服する必要があるが、これは送出A又は送込Eにより行える。上げられた塗装ラインからの又は上げられた塗装ラインへの送出A又は送込Eは、例えば、リフトにより行える。
【0052】
図4は、図3に示す実施形態の変形例を示す。繰り返しを避けるために上述の記載を参照し、一致する部分には同じ符号を用いる。
【0053】
この実施例の特徴は、無充填剤塗装処理である。そのため、工程S1では、充填剤が塗布されず、プリコート又はBC0が塗布される。これは、プリントヘッドにより行える。さらに、工程S2では、蒸発又は中間乾燥が行われる。
【0054】
その他の点では、この塗装処理は上述及び図3に示す塗装処理と実質的に一致する。
【0055】
図5は、図3及び4に示す実施形態に今度は部分的に一致するさらなる変形例を示す。繰り返しを避けるために上述の記載を参照し、一致する部分には同じ符号を用いる。
【0056】
この実施形態の特徴は、所謂3ウェット処理である。第1の工程では、任意で、噴霧器により内部及びラップアラウンドに充填剤が塗布される。
【0057】
第2の工程S2では、続いて、充填剤が自動車車体部品の外表面に塗布される。これは、オーバースプレーのないプリントヘッドを用いて行うことができる。
【0058】
以降の工程についてはやはり上述の工程と実質的に一致するので、それらについては上述の記載を参照されたい。
【0059】
図6は、別の簡単な例である。第1の工程S1では、充填剤の代わりとなる第1のベースコート層が塗布される。言い換えれば、このベースコート層は充填剤機能も有している。第2の工程S2では、第2のベースコート層が塗布される。この層は、メタリック効果を有していてもよい。最後に、工程S3でクリアコート層が塗布される。
【0060】
図7は、本発明に係るコーティング処理の別の実施形態を示す。第1の工程S1では、充填剤機能を有するプリコートが塗布される。続いて、第2の工程S2で、第1のベースコート層が塗布され、工程S3で第2のベースコート層が塗布される。最後に、工程S4でクリアコート層が塗布される。
【0061】
図8に示す実施形態では、まず、充填剤とベースコートとを有する従来の塗料構造が噴霧器を用いて塗布される。工程S2では、続いて、装飾が塗布される。これは、オーバースプレーのないプリントヘッドにより行える。続いて、クリアコート層が塗布される。
【0062】
図9は、自動車車体部品などの部品の部品縁13の簡略模式断面図を示す。部品縁13は、フランジが付いており、フランジシームシーリング剤14により密閉されている。自動車車体部品の外表面15は、オーバースプレーのないプリントヘッド16により塗料層21をコートされ、一方、部品の内表面17は、従来の噴霧器18により塗料層20をコートされる。さらに、部品縁13は、静電ラップアラウンドを介して塗料層19でコートされるが、これも噴霧器18を用いて塗布される。
【0063】
プリントヘッド16が持つ極めて小さな曲率半径で、際立って湾曲の強い表面をコーティングするのは、今の所、とてもひどいやり方でしかできないので、プリントヘッド16の代わりに噴霧器18によりラップアラウンド区域及び部品縁13をコーティングすることが有利である。
【0064】
本発明は、上述した好ましい実施形態に限定されるものではない。むしろ、本発明の趣旨に従い、本発明の権利範囲に包含される種々の変更例及び変形例が可能である。さらに、本発明は、また、従属請求項に記載の特徴及び特定事項について、それらが引用する請求項とは独立して、特に、主請求項の特徴なしで、権利保護を求めるものである。そのため、本発明は、互いに独立して権利保護を受ける本発明の種々の異なる態様を含むので、主請求項の特徴は本発明の全ての態様において必要不可欠というわけではない。
【0065】
[付記1]
塗料で、部品(7)を塗装するための、特に、自動車車体部品を塗装するための塗装設備であって、
a)少なくとも1つの第1の塗装ブース(1)と、
b)前記第1の塗装ブース(1)内部に位置する前記部品(7)に前記塗料を塗布するための、前記第1の塗装ブース(1)内に配置されている塗布装置(11)、特に、プリントヘッド(11)であって、前記塗布装置(11)により塗布される前記塗料がオーバースプレーなくコート対象の前記部品(7)上に実質的に全て堆積するように、前記塗布装置(11)は実質的にオーバースプレーなく動作する、塗布装置(11)と、
を備え、
c)塗料分離(3)が前記第1の塗装ブース(1)の下方に配置されていない、
塗装設備。
【0066】
[付記2]
a)前記塗装設備は、塗布装置として少なくとも1つのオーバースプレーの生じる噴霧器(9)を具備する少なくとも1つの第2の塗装ブースを追加で備え、
b)オーバースプレーのない前記塗布装置(11)を具備する前記第1の塗装ブース(1)は、好ましくは、コート対象の前記部品(7)の外表面(15)をコーティングするように構成されており、
c)オーバースプレーの生じる前記噴霧器(9)を具備する前記第2の塗装ブース(1)は、好ましくは、コート対象の前記部品(7)の内表面(17)、及び/又は、部品縁(13)の周りのラップアラウンド(19)をコーティングするように構成されており、及び/又は、
d)前記第1の塗装ブース(1’)は前記第2の塗装ブース(1)と側方に隣接して配置されている、
付記1に記載の塗装設備。
【0067】
[付記3]
a)前記塗装設備は、床レベルに床基部(10)を備え、前記塗料分離(3)のない前記塗装ブース(1)は、前記床レベルに実質的に配置されており、及び/又は、
b)前記第1の塗装ブース(1)は、床高さの上方に当該塗装ブース(1)を上げる階層構造なしで、前記床基部(10)上に直に配置されており、及び/又は、
c)前記塗装設備は、塗装対象の前記部品(7)を前記第1の塗装ブース(1)を通り搬送経路に沿って搬送するコンベア(6)を備え、前記コンベア(6)は、床レベルに配置されており、及び/又は、
d)前記コンベア(6)は、前記塗装設備の全長にわたって前記床レベルに延在する、
付記1又は2に記載の塗装設備。
【0068】
[付記4]
a)下部取付レベルと上部取付レベルとを有する階層構造、
b)前記階層構造の前記上部取付レベル上を延びる塗装ライン、
c)前記上部取付レベルで上げられた前記塗装ラインから前記床レベルにある前記第1の塗装ブース(1)内に塗装対象の前記部品(7)を送り吐出する送出、及び、
d)前記床レベルにある前記第1の塗装ブース(1)から前記上部取付レベルで上げられた前記塗装ライン内に塗装対象の前記部品(7)を送り込む送込、
を備える、
付記1から3のいずれか1つに記載の塗装設備。
【0069】
[付記5]
a)前記塗装設備は、複数の連続した塗装ステーションを有する塗装ラインを備え、
b)塗装対象の前記部品(7)は、前記塗装ステーションを通り前記塗装ラインに沿ってコンベア(6)により搬送され、前記塗装ステーション内でコートされる、
付記1から4のいずれか1つに記載の塗装設備。
【0070】
[付記6]
a)塗料分離(3)のない前記第1の塗装ブース(1)は、前記塗装ラインの外部に配置され、
b)塗装対象の前記部品(7)は、送出により前記塗装ラインから前記塗料分離手段(3)のない前記第1の塗装ブース(1)内に送り出され、及び、
c)塗装対象の前記部品(7)は、塗料分離(3)のない前記第1の塗装ブース(1)から前記塗装ライン内に導入される、
付記5に記載の塗装設備。
【0071】
[付記7]
塗料分離(3)のない前記第1の塗装ブース(1)は、前記塗装ライン内に配置されている、
付記5に記載の塗装設備。
【0072】
[付記8]
a)塗装対象の前記部品(7)の外表面(15)は、オーバースプレーのない前記塗布装置(11)で塗装され、
b)塗装対象の前記部品(7)の内表面(17)は、前記塗料のスプレーミストを塗布する噴霧器(9)で塗装され、及び、
c)塗装対象の前記部品(7)の部品縁(13)の周りのラップアラウンド(19)は、前記塗料のスプレーミストを特に静電塗料チャージで塗布する噴霧器(9)で塗装される、
付記1から7のいずれか1つに記載の塗装設備。
【0073】
[付記9]
a)塗装対象の前記部品(7)の前記内表面(17)は、内装塗装ブース(1)内で塗装され、
b)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)は、外装塗装ブース(1)内で塗装され、及び、
c)塗装対象の前記部品(7)の前記部品縁(13)の周りの前記ラップアラウンド(19)は、前記内装塗装ブース(1)又は前記外装塗装ブース(1)内で塗装される、
付記8に記載の塗装設備。
【0074】
[付記10]
a)前記塗装ラインは、塗装対象の前記部品(7)がコートされる特定の第1の周期を有し、及び、
b)前記分離のない前記第1の塗装ブース(1)は、塗装対象の前記部品(7)がコートされる特定の第2の周期を有し、及び、
c)前記第2の周期は、前記第1の周期よりも、少なくとも10%、20%、50%、100%、200%、300%、又は500%長く、又は、
d)前記第2の周期は、前記第1の周期に等しい、
付記1から9のいずれか1つに記載の塗装設備。
【0075】
[付記11]
a)前記塗料分離(3)のない前記第1の塗装ブース(1)で、希少な特殊塗装のみが塗装され、且つ、前記塗装ライン内で、頻出の標準塗装が塗装され、及び/又は、
b)プライマー、接着促進剤、又はシームシーリング剤は、前記塗料分離(3)のない前記第1の塗装ブース(1)内で塗布される、
付記1から10のいずれか1つに記載の塗装設備。
【0076】
[付記12]
a)前記部品(7)の内装と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとに充填剤層を塗布するための第1の充填剤ステーションであって、前記第1の充填剤ステーションでの当該塗布は、充填剤のスプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1の充填剤ステーションと、
b)前記部品(7)の外表面(15)に充填剤層を塗布するための第2の充填剤ステーションであって、前記第2の充填剤ステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)、特に、プリントヘッド(11)により行われる、第2の充填剤ステーションと、
c)前記部品(7)上の前記充填剤層を乾燥させるための第1の乾燥ステーションと、
d)塗装対象の前記部品(7)の内表面(17)と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとに第1のベースコート層を塗布するための第1のベースコートステーションであって、前記第1のベースコートステーションでの当該塗布は、スプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1のベースコートステーションと、
e)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)に前記第1のベースコート層を塗布するための第2のベースコートステーションであって、前記第2のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により行われる、第2のベースコートステーションと、
f)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)に第2のベースコート層を塗布するための第3のベースコートステーションであって、前記第3のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により又は噴霧器(9)により行われる、第3のベースコートステーションと、
g)前記第1のベースコート層及び前記第2のベースコート層の中間乾燥のための第2の乾燥ステーションと、
h)前記部品(7)の内装と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとにクリアコート層を塗布するための第1のクリアコートステーションであって、前記第1のクリアコートステーションでの当該塗布は、クリアコートのスプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1のクリアコートステーションと、
i)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)にクリアコート層を塗布するための第2のクリアコートステーションであって、前記第2のクリアコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)、特に、プリントヘッド(11)により行われる、第2のクリアコートステーションと、
j)前記クリアコートを乾燥させるための第3の乾燥ステーションと、
を備え、
上述のステーションは、塗装対象の前記部品(7)が当該ステーションを連続して通って搬送されるように、塗装ラインに沿って並んで配置されている、
付記1から11のいずれか1つに記載の塗装設備。
【0077】
[付記13]
a)任意で、前記部品(7)にプリコート層を塗布するためのプリコートステーションであって、前記第2のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)、特に、プリントヘッド(11)により行われる、プリコートステーションと、
b)前記部品(7)を乾燥又は蒸発させるための第1の乾燥ステーションと、
c)塗装対象の前記部品(7)の内表面(17)と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとに第1のベースコート層を塗布するための第1のベースコートステーションであって、前記第1のベースコートステーションでの当該塗布は、スプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1のベースコートステーションと、
d)塗装対象の前記部品(7)の外表面(15)に前記第1のベースコート層を塗布するための第2のベースコートステーションであって、前記第2のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により行われる、第2のベースコートステーションと、
e)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)に第2のベースコート層を塗布するための第3のベースコートステーションであって、前記第3のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により又は噴霧器(9)により行われる、第3のベースコートステーションと、
f)前記第1のベースコート層及び前記第2のベースコート層の中間乾燥のための第2の乾燥ステーションと、
g)前記部品(7)の内装と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとにクリアコート層を塗布するための第1のクリアコートステーションであって、前記第1のクリアコートステーションでの当該塗布は、クリアコートのスプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1のクリアコートステーションと、
h)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)にクリアコート層を塗布するための第2のクリアコートステーションであって、前記第2のクリアコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)、特に、プリントヘッド(11)により行われる、第2のクリアコートステーションと、
i)前記クリアコートを乾燥させるための第3の乾燥ステーションと、
を備え、
上述のステーションは、塗装対象の前記部品(7)が当該ステーションを連続して通って搬送されるように、塗装ラインに沿って並んで配置されている、
付記1から11のいずれか1つに記載の塗装設備。
【0078】
[付記14]
a)前記部品(7)の内装と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとに充填剤層を塗布するための第1の充填剤ステーションであって、前記第1の充填剤ステーションでの当該塗布は、充填剤のスプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1の充填剤ステーションと、
b)前記部品(7)の外表面(15)に充填剤層を塗布するための第2の充填剤ステーションであって、前記第2の充填剤ステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)、特に、プリントヘッド(11)により行われる、第2の充填剤ステーションと、
c)塗装対象の前記部品(7)の内表面(17)と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとに第1のベースコート層を塗布するための第1のベースコートステーションであって、前記第1のベースコートステーションでの当該塗布は、スプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1のベースコートステーションと、
d)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)に前記第1のベースコート層を塗布するための第2のベースコートステーションであって、前記第2のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により行われる、第2のベースコートステーションと、
e)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)に第2のベースコート層を塗布するための第3のベースコートステーションであって、前記第3のベースコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)により又は噴霧器(9)により行われる、第3のベースコートステーションと、
f)任意で、前記第1のベースコート層及び前記第2のベースコート層の中間乾燥のための第1の乾燥ステーションと、
g)前記部品(7)の内装と部品縁(13)の周りのラップアラウンドとにクリアコート層を塗布するための第1のクリアコートステーションであって、前記第1のクリアコートステーションでの当該塗布は、クリアコートのスプレージェットを吐出する噴霧器(9)により行われる、第1のクリアコートステーションと、
h)塗装対象の前記部品(7)の前記外表面(15)にクリアコート層を塗布するための第2のクリアコートステーションであって、前記第2のクリアコートステーションでの当該塗布は、オーバースプレーのない塗布器(11)、特に、プリントヘッド(11)により行われる、第2のクリアコートステーションと、
i)前記クリアコート層を乾燥させるための第2の乾燥ステーションと、
を備え、
上述のステーションは、塗装対象の前記部品(7)が当該ステーションを連続して通って搬送されるように、塗装ラインに沿って並んで配置されている、
付記1から11のいずれか1つに記載の塗装設備。
【0079】
[付記15]
以下の処理工程、
a)充填剤の代わりに第1のベースコート層を塗布する工程と、
b)トップコートとして、任意で、メタリック効果を有するトップコートとして、第2のベースコート層を任意で塗布する工程と、
c)メタリック塗料層を任意で塗布する工程と、
d)クリアコート層を塗布する工程と、
を以上の順番で備える充填剤なしの無充填剤塗装処理を特徴とする、
付記1から11のいずれか1つに記載の塗装設備。
【0080】
[付記16]
以下の処理工程、
a)充填剤機能を有するプリコートを塗布する工程と、
b)トップコートとして第1のベースコート層を塗布する工程と、
c)トップコートとして第2のベースコート層を塗布する工程と、
d)クリアコート層を塗布する工程と、
を以上の順番で備える充填剤なしの無充填剤塗装処理を特徴とする、
付記1から11のいずれか1つに記載の塗装設備。
【0081】
[付記17]
以下の処理工程、
a)塗料を、少なくとも1つのベースコート層、及び、任意で、クリアコート層として、塗装対象の前記部品(7)に、前記塗料のスプレーミストを塗布する噴霧器(9)により、塗布する工程と、
b)オーバースプレーのない塗布装置(11)により塗装対象の前記部品(7)に装飾を塗布する工程と、
c)クリアコート層を任意で塗布する工程と、
を特徴とする、
付記1から11のいずれか1つに記載の塗装設備。
【0082】
[付記18]
塗料で、部品(7)を塗装する、特に、自動車車体部品を塗装するための塗装方法であって、
a)コート対象の前記部品(7)をコンベア(6)により塗装ラインに沿って第1の塗装ブース(1)内に搬送する工程と、
b)実質的にオーバースプレーのない塗布装置、特に、プリントヘッド(11)により前記第1の塗装ブース(1)内で塗装対象の前記部品(7)に塗料を塗布する工程と、
を備え、
c)塗料分離(3)が前記第1の塗装ブース(1)の下方に配置されていない、
方法。
【符号の説明】
【0083】
1 塗装ブース
2 上階
3 塗料分離
4 下階
5 鉄筋構造
6 コンベア
7 自動車車体部品
8 塗装ロボット
9 回転噴霧器
10 コンクリート基部
10’コンクリート基部
11 プリントヘッド
12 排気管
13 部品縁
14 フランジシームシーリング剤
15 外表面
16 プリントヘッド
17 内表面
18 噴霧器
19 ラップアラウンド
20 内表面上の塗料層
21 外表面上の塗料層
【数1】
静電界線
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9