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特許6991286血漿および血液細胞を分離する分離体ならびに血漿および血液細胞を分離する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】血漿および血液細胞を分離する分離体ならびに血漿および血液細胞を分離する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/48 20060101AFI20220104BHJP
   G01N 1/10 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G01N33/48 J
G01N1/10 V
G01N1/10 H
G01N33/48 C
【請求項の数】 23
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020136279
(22)【出願日】2020-08-12
(65)【公開番号】P2021032893
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2020-08-12
(31)【優先権主張番号】10 2019 121 723.7
(32)【優先日】2019-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】597154612
【氏名又は名称】ザルシュテット アクチエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Sarstedt AG & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Sarstedtstrasse 1, 51588 Nuembrecht, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マーク ヴァインシュトック
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-510853(JP,A)
【文献】特表2011-528802(JP,A)
【文献】特公平03-069069(JP,B2)
【文献】特表2012-526994(JP,A)
【文献】特公昭62-050191(JP,B2)
【文献】特公平06-070627(JP,B2)
【文献】特開2019-101046(JP,A)
【文献】国際公開第2010/065018(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0288694(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0155319(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48
G01N 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
採血管(200)内で血漿および血液細胞を分離するための分離体(100)であって、該分離体は、
第1の密度および少なくとも1つの貫通開口(112)を有する浮動体(110)と、
前記第1の密度よりも大きな第2の密度を有するバラスト体(120)と、
を有し、
前記浮動体および前記バラスト体の総密度は、血液中の血漿の密度と細胞の密度との間にあり、
前記浮動体(110)と前記バラスト体(120)とは、互いに可動であり、共に1つの弁を形成し、
前記弁を形成するために、前記バラスト体(120)はさらに、前記浮動体(110)内の前記貫通開口(112)の開閉用に少なくとも1つの閉鎖手段(122,124)を有し、
前記浮動体(110)と前記バラスト体(120)との間のばね弾性的な結合として、戻し部材(130)が設けられており、これにより、弁の開放には、前記戻し部材(130)により規定される戻し力を克服する所定の作用力が必要とされている
ことを特徴とする、分離体(100)。
【請求項2】
前記閉鎖手段(122)は、前記浮動体(110)の前記貫通開口内に挿入可能なピンの形態で形成されている、請求項1記載の分離体(100)。
【請求項3】
前記閉鎖手段(124)は、前記浮動体(110)内の前記貫通開口(112)をシールして被覆するように、前記バラスト体(120)に平面領域として当接面の形態で形成されている、請求項1または2記載の分離体(100)。
【請求項4】
前記閉鎖手段(124)は、前記バラスト体(120)のピン(122)に、平面領域として当接面の形態で形成されている、請求項3記載の分離体(100)。
【請求項5】
前記戻し部材(130)は、前記浮動体(110)と同じ材料から形成されているか、または前記バラスト体(120)と同じ材料から形成されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の分離体(100)。
【請求項6】
前記戻し部材(130)は、前記浮動体(110)と一体に形成されているか、または前記バラスト体(120)と一体に形成されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の分離体(100)。
【請求項7】
前記浮動体(110)は、漏斗の形態で形成されており、該漏斗は、貫通開口横断面(114)を起点として、少なくとも1つの前記貫通開口(112)に向かって先細になっておりかつ該貫通開口に開口しており、かつ
前記貫通開口横断面は、当該分離体の鉛直方向の向きに対して前記貫通開口(112)の上側に配置されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の分離体(100)。
【請求項8】
前記貫通開口横断面(114)には、環状シール縁部(116)が前記採血管(200)の壁の内面に環状に密着するように形成されている、請求項7記載の分離体(100)。
【請求項9】
前記浮動体(110)は、弾性的な材料から製造されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の分離体(100)。
【請求項10】
前記浮動体(110)は、そのシール縁部(116)の領域において弾性的な材料から製造されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の分離体(100)。
【請求項11】
前記浮動体内の前記貫通開口(112)は、該貫通開口(112)により張設された平面に対する垂線が、当該分離体の主軸線(H)と共に、α=45の角度を有するように向けられている、請求項1から10までのいずれか1項記載の分離体(100)。
【請求項12】
前記浮動体内の前記貫通開口(112)は、該貫通開口(112)により張設された平面に対する垂線が、当該分離体の主軸線(H)と共に、α=10°の角度を有するように向けられている、請求項1から10までのいずれか1項記載の分離体(100)。
【請求項13】
前記浮動体内の前記貫通開口(112)は、該貫通開口(112)により張設された平面に対する垂線が、当該分離体の主軸線(H)と共に、α=0°の角度を有するように向けられている、請求項1から10までのいずれか1項記載の分離体(100)。
【請求項14】
前記浮動体(110)は、前記バラスト体(120)を保持しかつ/またはガイドするために、少なくとも1つの保持クリップ(118)を有している、請求項1から13までのいずれか1項記載の分離体(100)。
【請求項15】
前記浮動体(110)は、前記バラスト体(120)が前記浮動体(110)に対して相対的に移動する際に前記バラスト体(120)を保持しかつ/またはガイドするために、少なくとも1つの保持クリップ(118)を有している、請求項1から13までのいずれか1項記載の分離体(100)。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか1項記載の分離体(100)を内蔵する採血管(200)において、
当該採血管の壁の内面に環状に密着させるために、前記浮動体(110)の、環状シール縁部(116)により形成された最大外径の方が、当該採血管(200)の内径(d)よりも大きくなっている
ことを特徴とする、採血管(200)。
【請求項17】
請求項1から15までのいずれか1項記載の分離体(100)を内蔵する採血管(200)を用いて、閉鎖された前記採血管(200)内で血液を血漿と細胞とに分離する方法であって、
前記採血管(200)に血液を入れ、このとき血液を、横置きされた前記分離体の外側を通過させて前記採血管内に流入させるステップと、
前記採血管を、内部に含まれた血液と共に遠心分離機にかけて血漿と血液細胞とに分離し、このとき前記分離体(100)を出発位置(A)から解離させ、前記採血管(200)の長手方向軸線(L)に対して軸方向に移行させ、分離された血漿と細胞との間の境界層(G)に移動させるステップと、
を有し、
前記分離体(100)に設けられた弁は、前記出発位置(A)では閉じられており、かつ
前記弁は、遠心力の作用下で戻し力に抗して開き、これにより、血漿に比べて重たい血液細胞が、遠心分離中に遠心力の作用下で開かれた、前記浮動体(110)内の前記貫通開口(112)を通り、前記採血管(200)内で前記分離体(100)の下側に集まるのに対し、より軽い血漿は、前記採血管(200)内で前記分離体の上側に留まる、
方法。
【請求項18】
前記遠心力による静止摩擦の克服に基づき、前記分離体(100)が前記出発位置(A)から解離されると、前記分離体(100)は前記境界層(G)内に移動し、かつ
前記分離体が弁と共に軸方向に向けられると、前記分離体(100)の環状シール縁部(116)が前記採血管(200)の内面に摩擦結合により全周にわたり密着し、かつ
前記遠心力が消失して、前記境界層(G)において前記弁が軸方向を向くと、前記戻し力の作用に基づき、弁は再び閉じる、
請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記境界層(G)において前記分離体が軸方向を向いて前記弁が閉じられると、次いで前記採血管から血漿が取り出される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記採血管から、ピペットを用いた取出しまたは傾倒により、血漿が取り出される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記分離体(100)は、前記採血管に血液を入れる前に、前記出発位置(A)に事前に組み込まれており、このとき前記分離体(100)は、その主軸線(H)でもって、前記採血管の長手方向(L)に対して横方向に向けられている、請求項17から20までのいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
前記分離体(100)は、前記出発位置(A)に製造者側で事前に組み込まれている、請求項21記載の方法。
【請求項23】
請求項1から15までのいずれか1項記載の分離体を製造する方法であって、
前記分離体を、2成分射出成形法により製造し、このとき、前記浮動体と前記バラスト体との間に材料結合による結合が形成されること無しに、前記浮動体は一方の成分を形成し、前記バラスト体は他方の成分を形成する、または、
前記浮動体と前記バラスト体とを、それぞれ互いに独立して、製造し、次いで組み合わせる、または、
前記浮動体と前記バラスト体とを、それぞれ互いに独立して、射出成形法で製造し、次いで組み合わせる、
ことを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項記載の分離体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、採血管(Blutentnahmeroehrchen)内で血液細胞および血漿を分離する分離体(Trennkoerper)ならびに採血管内で血液細胞および血漿を分離する方法に関する。さらに本発明は、前記分離体を備えた採血管ならびに前記分離体を製造する方法に関する。
【0002】
採血管用の分離体ならびに相応する採血管は、基本的に従来技術において知られており、例えば国際公開第2010132783号または欧州特許第0311011号明細書から公知である。そこに開示された分離体は、第1の密度および少なくとも1つの貫通開口を有する浮動体ならびに浮動体の第1の密度よりも大きな第2の密度を有するバラスト体から成っている。分離体の総密度、すなわち浮動体とバラスト体とを合わせた総密度は、血液中の血漿の密度と細胞の密度との間にある。欧州特許第0311011号明細書に記載の浮動体およびバラスト体は、互いに可動に形成されており、共に1つの弁を形成している。分離体における弁機能を実現するために、浮動体およびバラスト体はそれぞれ、隆起状の縁部を備えて形成されている。液体、例えば血液に対して弁を開放するためには、浮動体とバラスト体との、互いに対向して位置する隆起状の縁部が、互いに離反する方向に移動して、互いに離れた状態になる。弁を閉鎖するためには、隆起状の縁部が互いに接近する方向に移動して、互いに密着した状態になる。バラスト体が、例えば遠心力の作用に基づきその下面でもって浮動体を押圧した場合でも、貫通開口を介した液体の通流を保証するために、バラスト体は、浮動体内の貫通開口に面した下面に、少なくとも1つの溝もしくは少なくとも1つの通路を有している。
【0003】
欧州特許第0311011号明細書に記載された技術的な教示には、次の欠点がある。すなわち、この技術的な教示は、多大な手間をかけねば結実させることができないと考えられる点である。相応の個別部品を準備した後に、各コンポーネントを手動で組み立てることしか考慮されていないと考えられる。さらに、浮動体とバラスト体の両方に隆起状の縁部を形成することは、手間がかかると共に比較的高価である。縁部間の狭いギャップを介した液体の交換は、溶血および場合により比較的長い分離時間のリスクを高める。溶血はまさに、分離時に獲得しようとする血漿の汚染につながる。つまり機能性は極めて理論的であると考えられる。示された各室内のそれぞれ異なる圧力が弁の位置に影響を及ぼすというアプローチにはまさに、高い確率で充填問題、長い充填時間および場合により試料濃度に関する問題も付随する。具体的には、欧州特許第0311011号明細書に記載のバラスト体の、扁平に形成された領域における細胞堆積は、試料の質を悪化させる。
【0004】
本発明の根底を成す課題は、採血管用の代替的な分離体、代替的な分離体を備えた採血管、血液細胞および血漿を分離する代替的な方法ならびに分離体を製造する代替的な方法を提供することにある。
【0005】
この課題は、分離体に関しては特許請求項1の対象により解決される。これによれば、バラスト体は弁を形成するためにさらに、浮動体内の貫通開口を開閉するための少なくとも1つの閉鎖手段を有している。
【0006】
「貫通開口」という表現は、浮動体の一方の側から反対の側へ液体を通流させるように浮動体に設けられた孔または貫通孔を意味する。貫通開口は、本発明では、開放状態において採血管内の分離体の上側の室と下側の室との間での液体の交換を問題無く可能にするような大きさに形成されている。このようにして、溶血および場合により比較的長い分離時間のリスクが低下されるようになっている。
【0007】
「上、上側、下、下側、鉛直方向および水平方向」という用語は、特に図1に示した分離体の空間方向に関する。
【0008】
本発明による分離体では、バラスト体が浮動体の下側に配置されているため、分離体が遠心力の作用に基づきその出発位置から血漿と血液細胞との間の相境界に向かって移動する間は、弁が開くようになっている。この時間の間に、最初は採血管内の分離体の下側に存在する気泡が、貫通開口が閉じられるまでは依然として開かれた貫通開口を通り、採血管内の採取された血液の上部に、すなわち血漿内に移行し、そこから相境界の上側の領域へ漏出する可能性がある。追加的に気泡は、浮動体の極めて弾性的に形成されたシール縁部に基づき、シール縁部と試験管の壁との間で、分離体の下側の領域から分離体の上側の領域へ上昇することも可能である。両可能性は、分離体の相境界への沈降が、分離体の下側の気泡の浮力により妨げられることはない、という利点をもたらす。さらにこのようにして、採血管内の分離体が境界層において斜めに配置されることも回避される。その代わりに分離体は境界層においてまっすぐに、すなわち採血管の長手方向軸線に対して対称に向いている。
【0009】
浮動体に設けられた貫通開口は、バラスト体と浮動体とに作用する遠心力の値に応じて、バラスト体により開閉可能であることが望ましい。採血管内の液体試料の密度と、浮動体の密度と、バラスト体の密度との協働により、弁の開放を生ぜしめる。このために本発明は、浮動体とバラスト体とをばね弾性的に結合するために、有利には戻し部材を想定しており、したがって弁の開放には、戻し部材により規定される戻し力を克服するために、所定の作用力が必要とされている。必要とされる作用力は、分離体の想定された、つまり血液中の血漿もしくは血清および細胞を分離するための使用に際して、遠心力の作用に基づきもたらされる。
【0010】
浮動体は、1つの別の実施例では、有利には漏斗(Trichter)の形態で形成されている。分離体のこの構成は-漏斗開口の急傾斜に応じて-血液からの細胞が浮動体の表面に最早極少量しか、理想的には全く付着し続けることがない、という利点をもたらす。代わりに遠心力の影響下で、好適には全ての細胞が浮動体内の貫通開口を通り、採血管内の分離体の下側の領域に移動する。このようにして、特に分離体の上側の液体から成る、後で分析されるべき液体試料もしくは血液試料の質が大幅に改良される。バラスト体は、浮動体の下側、特に漏斗の外側に配置されている。
【0011】
浮動体内の貫通開口は、好適には、この貫通開口により張設される平面に対する垂線が、分離体の主軸線と一致するように向けられている、すなわち、前記垂線と、分離体の主軸線との間の角度は0°である。ただしこれは必須の構成ではない。むしろ基本的には、垂線と主軸線との間に任意の角度αが生じていてもよい。浮動体内の貫通開口がバラスト体により閉鎖可能である、ということだけが前提条件であるに過ぎない。この点において、請求するα=+/-45°もしくはα=+/-10°の角度は単に例示的なものであり、決して単一のものに限定することを意味してはいない。特に浮動体内の貫通開口を閉鎖するためにバラスト体に設けられた閉鎖手段の構成、戻し部材の構成、浮動体の材料に関する漏斗の構成ならびに浮動体におけるバラスト体の保持に関する分離体の別の構成は、請求する分離体に関する各従属請求項に記載されている。
【0012】
上述した課題はさらに、本発明による分離体を備えた採血管により解決される。この採血管は、採血管の壁の内面にシール縁部を環状に密着させるために、採血管の内径よりも、浮動体の、環状シール縁部により形成された最大外径の方が大きくなっていることを特徴とする。
【0013】
上述した課題はさらに、請求項11記載の方法により解決される。この方法の利点は、分離体に関して上述した利点に相当する。請求する方法の1つの構成手段では、-遠心力による、分離体のシール縁部と採血管の内壁との間の静止摩擦の克服に基づき-分離体が出発位置Aから解離されると、分離体は、分離された血液の血漿と細胞との間の境界層内に移動する。分離体が軸方向に向けられると、分離体の環状シール縁部が採血管の内面の全周にわたり密着する。弁の鉛直方向の向きは、遠心分離の開始を前提とする。分離体に作用する遠心力が増大すると、分離体は、液体の分離されるべき各成分、血液の場合は血漿と血液細胞との間の相境界に向かって沈降する。遠心力が消失し、境界層において分離体が軸方向を向くと、戻し部材の戻し力の作用に基づき、弁は再び閉じられる。
【0014】
これに関連して「軸方向の向き」という用語は、採血管内の分離体が境界層において、分離体の主軸線が理想的には採血管の長手方向軸線と一致するように配置されていることを意味する。主軸線と長手方向軸線との間の比較的小さな角度差は、「軸方向の向き」という用語に含まれている。ただしいずれにしろ前提条件となるのは、分離体が傾いていても、浮動体の環状シール縁部は依然として採血管の壁の内面に環状に密着している必要がある、という点である。
【0015】
「相境界」および「境界層」という用語は、同義的に用いられる。両用語は、分離体の上側と下側でそれぞれ異なる密度の各液体成分の間の移行部を意味する。分離されるべき液体成分、例えば血液細胞および血漿は、それぞれ異なる密度を有している。分離体の密度は、2つの液体成分の各密度の間にあるように選択されている。これにより、液体を含む採血管を遠心分離機にかけると、分離体は分離されるべき2つの液体成分の間に、すなわち相境界に正確に沈殿する/移動する、ということが達成される。
【0016】
「分離体の主軸線」という用語は、特に図1に示したように、浮動体およびバラスト体を鉛直方向に通る軸線を意味する。
【0017】
最後に、上述した本発明の課題は、請求項1から9までのいずれか1項記載の分離体を製造する、請求項15記載の方法によっても解決される。分離体の製造には、特に2成分射出成形法が適しており、この場合は浮動体が一方の成分を形成し、バラスト体が他方の成分を形成する。重要なのは、互いに化学的または材料的に結合することがなく、互いに付着し合うこともない異なる材料から成る2つの成分が射出成形される、という点である。このことが重要なのは、浮動体とバラスト体とは、互いに「接着」し続けること無しに、互いに完全に独立を保たねばならないもしくは互いに相対的に可動であり続けねばならないからである。特にこの2成分射出成形法は、手動での組立て作業を概ね省くことができ、ひいては本発明による分離体を極めて廉価にかつ比較的小さな手間しかかけずに製造することができる、という利点をもたらす。択一的に、浮動体およびバラスト体は、それぞれ互いに独立して例えば射出成形法で製造されてから組み合わせられてもよい。さらに、まずバラスト体を製造し、次いでバラスト体を別の射出成形工具に入れ、バラスト体を被覆するように、上から浮動体を射出する、という可能性もある。
【0018】
本発明の別の有利な構成は、各従属請求項に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
本明細書には合計13の図面が添付されている。
図1】本発明による分離体の第1の実施例を示す図である。
図2図1に示した分離体のバラスト体を個別部品として示す図である。
図3図1に示した分離体の浮動体を個別部品として示す図である。
図4】本発明による分離体の第2の実施例を示す横断面図である。
図5】本発明による分離体の第3の実施例を示す横断面図である。
図6】本発明による分離体の第4の実施例を示す横断面図である。
図7】出発位置に本発明による分離体を備えた採血管を示す横断面図である。
図8図7に示した、出発位置における本発明による分離体を示す平面図である。
図9】採血管を、遠心分離が行われている最中の、複数の異なる位置における分離体と共に示す図である。
図10】採血管内の、血漿と血液細胞との間の境界層内の終端位置における分離体を、まだ開いている状態の弁と共に示す図である。
図11図10に示した終端位置における分離体を、ここでは閉じられた弁と共に示す図である。
図12】遠心分離が行われた後に採血管から血漿を採取する第1の手段を示す図である。
図13】遠心分離後に採血管から血漿を採取する第2の手段を示す図である。
【0020】
以下に、前記図面を参照して本発明を実施例の形態で詳細に説明する。全ての図面において、同一の技術要素には同一の符号を付してある。
【0021】
図1には、採血管200(例えば図9参照)内で使用する、本発明による分離体100が示されている。採血管は、患者から採取された血液を収容するために用いられる。採血管内の分離体100は、採血管を遠心分離機にかけている間に血液中の血漿および血液細胞を分離するために用いられる。前記遠心分離プロセスは、医療目的のための血液の事前分析における重要な構成要素である。分離体100は、第1の密度および少なくとも1つの貫通開口112を有する浮動体110を有している。浮動体には、採血管の内面に環状に密着するように、少なくとも1つの環状シール縁部116が形成されている。浮動体の他に、分離体100は、浮動体110の第1の密度よりも大きな第2の密度を有するバラスト体120を有している。分離体の総密度(Gesamtdichte)、すなわち浮動体とバラスト体とを合わせて見た総密度は、血液中の血漿の密度と細胞の密度との間にある。
【0022】
本発明では、浮動体110とバラスト体120とは共に、浮動体110内の貫通開口112を開閉するための弁を形成している。このために浮動体110とバラスト体120とは、二重矢印の方向に互いに相対的に可動に配置されている。
【0023】
浮動体110とバラスト体120との間のばね弾性的な結合は、戻し部材130により実現されているため、弁の開放には所定の作用力が必要とされている。なぜならば、戻し部材130により規定される戻し力を克服せねばならないからである。戻し部材は、浮動体とバラスト体の両方に結合されていてよい。ただしこのことは、図1図3に示す構成では必要とされていない。そこでは戻し部材が浮動体と保持クリップ(Haltebuegel)118との間のばね弾性的な結合部を形成し、かつバラスト体120が保持クリップ118により支持されることにより、弾性的な結合が実現される。戻し部材130は、浮動体110と同じ材料から成っていてよく、任意には保持クリップ118と同じ材料から成っていてもよい。戻し部材130は、好適には浮動体および保持クリップ118と一体に形成されている。択一的に、戻し部材はバラスト体と同じ材料から、好適にはバラスト体と一体に形成されていてよい。
【0024】
弁を形成するために、浮動体110内の少なくとも1つの貫通開口112は、バラスト体120の方に向かって開口している。図1に示した実施例では、貫通開口112により張設される平面Eは、分離体100の主軸線Hに対して垂直に位置している。換言すると、平面Eに対する垂線は、主軸線Hと一致しているもしくは主軸線Hに対して平行に向けられている。ただし貫通開口112のこの構成は、引き続き以下で図6にも示されるように、必須ではない。
【0025】
本発明による弁の実現にはさらに、バラスト体120が、浮動体110内の貫通開口112の開閉用に少なくとも1つの閉鎖手段122を有していることが必要とされている。この閉鎖手段は、図1では例えば浮動体110を密閉するために浮動体110の貫通開口112内に挿入可能なピン(Dorn)122の形態で形成されている。
【0026】
浮動体110は、好適には漏斗の形態で形成されている。この漏斗は、上側の貫通開口横断面114を起点として少なくとも1つの貫通開口112に向かって先細になっており、この貫通開口112に開口している。例えば上側の貫通開口横断面114に設けられた環状シール縁部116は、採血管200の壁の内面に環状に密着するように形成されている。上側の大きな貫通開口横断面114は、図1に示すように、分離体の鉛直方向の向きに対して、貫通開口112の上側に配置されている。
【0027】
図2には、前記ピン122を備えたバラスト体120が個別に示されている。
【0028】
図3には、図1にも示した浮動体110が個別に示されている。浮動体の下側には戻し部材130が配置されていることが認められ、戻し部材130は、バラスト体120の取付けおよび保持に用いられる保持クリップ118を支持している。浮動体110、戻し部材130および保持クリップ118は、同じ材料から形成されていてよく、好適には合わせて一体に形成されている。図2においてバラスト体120の縁部に認識可能に形成された複数の溝123は、図3に示した保持クリップ118を受容するために用いられる。図2に示したバラスト体120と、図3に示した、戻し部材130および保持クリップ118を備えた浮動体110とを組み合わせて、図1に示した本発明による分離体100を生ぜしめる。
【0029】
図4には、本発明による分離体100の第2の実施例が横断面図で示されており、この実施例は、ここではバラスト体120のピン122が貫通開口112の貫通開口横断面よりも大きく形成されており、これによりピン122が貫通開口112内へ進入することができなくなっている、という点において優れている。この実施例では、貫通開口112の閉鎖は、ピン122の端面に平面領域として当接面の形態で閉鎖要素124が形成されていることにより実現される。当接面は、浮動体内の貫通開口112をシールするように被覆する。
【0030】
図5には、本発明による分離体100の第3の実施例が示されている。この構成では、浮動体110の貫通開口112は、バラスト体に向けられた短い通路内に開口している。通路のバラスト体側の端部、ひいては貫通開口112は、ここでも同様に平面領域としての当接面124により、バラスト体120に対してシールされるように被覆されひいては閉鎖される。ピン122は、この実施例ではバラスト体120には不要である。
【0031】
図6に示す、本発明による分離体の第4の実施例では、貫通開口112は、分離体の主軸線Hに対して所定の角度αに傾けられて形成されている。貫通開口112により張設される平面Eは、その垂線でもって、主軸線Hに対する角度αを形成している。本発明のこの実施例において重要なのは、他の全ての実施例と同様に、バラスト体もしくはバラスト体の閉鎖手段がこの場合も貫通開口112をシールして被覆するように形成されている、という点である。このことは、図6に示した第4の実施例では、ピン122がその上端面に、貫通開口112に対応して斜めに切られた、追加的にシールする当接面を有していることにより行われてよい。角度αは、基本的には0°≦α<90°の任意の値を取ることができるが、好適には0°である。
【0032】
次に、本発明による分離体を用いて採血管200内で血液を血漿と細胞とに分離する本発明による方法を、より詳細に説明する。
【0033】
図7には、内部に本発明による分離体100が供給状態でもしくは初期状態でもしくは出発位置Aに配置された採血管200が示されている。この場合、採血管は、ねじ付きキャップにより閉鎖されている。供給状態Aにおいて分離体は、採血管の長手方向軸線Lに対して約90°だけ回動させられて位置している。これにより、採取された血液試料が分離体100の傍らを通過して採血管の下部領域に流入することができる、ということが保証されている。この場合、分離体100内の弁は閉鎖位置にある(図7)。
【0034】
採血管には、その閉鎖キャップ、例えばねじ付きキャップを介して血液が充填される。
【0035】
図8には、採血管200内の出発位置Aに位置決めされた分離体100が平面図で示されている。この位置では、シール縁部116は必然的に大きく変形されている。したがって、浮動体は弾性材料から製造されていることが重要である。
【0036】
この出発位置Aにおいて、血液は分離体または採血管の内壁の傍らを通過する。この場合は上述したように、弁が閉じられているため、血液が分離体を通流することはできなくなっている。
【0037】
図9には、採血管200の横断面が、遠心分離の影響下で複数の異なる位置もしくは箇所に位置する分離体と共に示されている。採血管は、内部に含まれる、患者から採取した血液を遠心分離させ、このようにして血液を前記血漿と前記血液細胞とに分離するために、遠心分離機にかけられる。遠心分離に基づき、分離体100はその出発位置Aから外方旋回する。分離体に対する遠心力がますます大きくなることと、浮動体110に対するバラスト体120の弾性的な結合とに基づき弁が開き、これにより今や、分離体100を介した液体の交換も可能である。具体的には、血液中の細胞が遠心力に基づき分離体100の貫通開口112を通って採血管の下側部分へ移動する。なぜならば、細胞は前記血漿よりも重いからである。血漿は、貫通開口112を通るのではなく、代わりに分離体100の上側の、採血管の上側部分に留まる。遠心分離により、分離体100は採血管内で、より重い細胞とより軽い血漿との間の相境界のレベル、すなわち高さ領域へ移動させられ、これにより、これら2つの成分を互いに分離することができるようになっている。分離体100が、境界層Gとも呼ばれるこの相境界に位置すると、シール縁部116は採血管の壁の内面に環状に密着する。なぜならば、シール縁部116の直径は、弛緩状態では採血管の内径よりも大きいからである。
【0038】
相境界もしくは境界層Gにおいて、図10に示す浮動体110内の弁もしくは貫通開口112は、差し当たってはまだ開かれている。遠心分離が継続される限り、開かれた弁は、採血管内の分離体100の上側の領域と下側の領域との間での血液の個々の成分のキャビティ連通、すなわち障害無しの交換、ひいては前記相分離を可能にする。相分離が行われた後に、遠心分離は停止させられる。遠心力が無くなると、バラスト体が戻し部材130により加えられる戻し力に基づき浮動体110に接近移動させられて、貫通開口112を閉じる(図11参照)。今、採血管内の分離体100の上側のキャビティと下側のキャビティ、すなわち上側の領域と下側の領域とは、採血管の壁の内面に対するシールリップ116の滑り嵌めおよび分離体内の閉じられた弁に基づき、互いにシールされた状態で分離されている。これにより、血漿および細胞も、所望のように互いに効果的に分離された状態になる。
【0039】
次いで、血液を分析するために特に重要な血漿を、例えば図12に示すように、ピペットチップ250を用いて取り出すことができる。この場合、浮動体の漏斗状の構成は、ピペットチップが貫通開口112の領域にまで突入可能でありひいては残留している血漿の最後の残りを上側のキャビティから取り出すことができるという、特別な利点をもたらす。
【0040】
最後に図13には、採血管を傾けることにより、血漿を注ぎ出す手段が示されている。これは特に、採血管内での、分離体100のシールリップ116による全周シール式の滑り嵌めおよび閉じられた弁により可能である。
【符号の説明】
【0041】
100 分離体
110 浮動体
112 浮動体内の貫通開口
114 貫通開口横断面
116 シール縁部
118 保持クリップ
120 バラスト体
122 閉鎖手段、例えばピン
123 バラスト体に設けられた溝
124 閉鎖手段
130 戻し部材
200 採血管
250 ピペットチップ
d 採血管の内径
A 出発位置
E 貫通開口により張設された平面
G 境界層
H 分離体の主軸線
L 採血管の長手方向軸線
α 角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13