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特許6991319形質転換体及びそれを用いた有機化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】形質転換体及びそれを用いた有機化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20220207BHJP
   C12P 7/02 20060101ALI20220207BHJP
   C12P 7/40 20060101ALI20220207BHJP
   C12P 13/04 20060101ALI20220207BHJP
   C12P 5/00 20060101ALI20220207BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220207BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P7/02
C12P7/40
C12P13/04
C12P5/00
C12N15/09 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020517032
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013368
(87)【国際公開番号】W WO2019211958
(87)【国際公開日】2019-11-07
【審査請求日】2020-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2018088425
(32)【優先日】2018-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02688
(73)【特許権者】
【識別番号】591178012
【氏名又は名称】公益財団法人地球環境産業技術研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】乾 将行
(72)【発明者】
【氏名】須田 雅子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直人
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智
(72)【発明者】
【氏名】小暮 高久
(72)【発明者】
【氏名】城島 透
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-274988(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0120105(US,A1)
【文献】国際公開第2011/006136(WO,A1)
【文献】特表平09-510360(JP,A)
【文献】TSUGE, Y., et al.,Metabolic engineering of Corynebacterium glutamicum for hyperproduction of polymer-grade L- and D-la,Appl. Microbiol. Biotechnol.,2019年03月15日,vol.103, issue 8,p.3381-3391
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リネ型細菌の形質転換体であって、
宿主のコリネ型細菌にエントナー-ドゥドロフ経路が導入されることにより、エントナー-ドゥドロフ経路とエムデン-マイヤーホフ-パルナス経路との2つの解糖系が併存しており、
前記宿主のコリネ型細菌が、コリネバクテリウム グルタミカムである、形質転換体
【請求項2】
宿主のコリネ型細菌に、
グルコースデヒドロゲナーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子、
6-ホスホグルコン酸デヒドラターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子、及び
2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸アルドラーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子が導入された、請求項1に記載の形質転換体。
【請求項3】
前記グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼが、酸化型ニコチンアミドジヌクレオチドを補酵素として利用可能な酵素である、請求項2に記載の形質転換体。
【請求項4】
請求項1から請求項のいずれかに記載の形質転換体を、増殖に必要な因子の少なくとも1つを除いた反応液中又は還元条件の反応液中で反応させる工程と、反応培地中の有機化合物を回収する工程とを含む、有機化合物の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれかに記載の形質転換体を用いて、反応液中で、グルコース、フルクトース、セロビオース、キシロビオース、ショ糖、ラクトース、マルトース、デキストリン、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノース及び可溶性澱粉からなる群より選ばれる糖類から有機化合物へ変換し、該反応液より有機化合物を回収することを含む、請求項に記載の有機化合物の製造方法。
【請求項6】
前記有機化合物が、ピルビン酸を中間体とする化合物又はホスホエノールピルビン酸を中間体とする化合物である、請求項又は請求項に記載の有機化合物の製造方法。
【請求項7】
前記有機化合物が、モノカルボン酸、ジカルボン酸、ケトカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸、モノアルコール、ポリオール、芳香族化合物及びビタミンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項から請求項のいずれかに記載の有機化合物の製造方法。
【請求項8】
前記有機化合物が、L-乳酸、D-乳酸、酢酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、クエン酸、シスアコニット酸、イタコン酸、イソクエン酸、2-オキソグルタル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、エタノール、1,3-プロパンジオール、グリセロール、ブタノール、イソブタノール、1,4-ブタンジオール、キシリトール、ソルビトール、バリン、ロイシン、アラニン、アスパラギン酸、リジン、イソロイシン、及びスレオニンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4から請求項6のいずれかに記載の有機化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオリファイナリープロセスを実施する為の能力が強化された微生物と、それによる有機化合物の高生産性製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマス由来の糖類の原料から、有機酸、アミノ酸、及びアルコール等の有機化合物を生物的方法により製造して化学製品やエネルギー製品とすることは、バイオリファイナリーと呼ばれる。一方で、化石資源からこれら有機化合物を製造することは、石油リファイナリーと呼ばれる。バイオリファイナリーは、石油リファイナリーとは異なり、資源枯渇問題や地球温暖化問題を解消し、環境調和型製造技術として期待されているものである。
しかし、バイオリファイナリーは、一般的に、その生産性が石油リファイナリーに比べて低いと言われている。
【0003】
生物的方法による生産性向上法の一つは、糖類の各種有機化合物への代謝速度と収率を向上させ、バイオ反応溶液中の有機化合物の蓄積濃度を高める(目的有機化合物の分離・精製が高効率に実施できる)ことである。
【0004】
コリネバクテリウム属細菌による糖代謝では、エムデン-マイヤーホフ-パルナス経路(EMP経路)、及びペントースリン酸経路(PP経路)を介して行われ、糖類はピルビン酸へ変換され、その後各種の有機化合物へ更に変換される。一方、Zymomonas mobilisなどの一部の微生物は、エントナー-ドゥドロフ経路(ED経路)を介して糖代謝を行う。
ED経路は、グルコース6-リン酸を6-ホスホグルコノ-1,5-ラクトンへ変換するグルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(以下、「G6DH」と略す)、6-ホスホグルコノ-1,5-ラクトンを6-ホスホグルコン酸へ変換する6-ホスホグルコノラクトナーゼ、6-ホスホグルコン酸から2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸の反応を触媒する6-ホスホグルコン酸デヒドラターゼ(以下、「EDD」と略す)、及び2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸を開裂してグリセルアルデヒド-3-リン酸とピルビン酸を生成する酵素2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸アルドラーゼ(以下、「EDA」と略す)から成る。ED経路による糖代謝では、ATPの生成効率が低いため、それを補うために糖代謝速度がEMP経路よりも速いと言われており、結果として発酵生産では、ED経路を有する微生物では、高い生産性を達成することができると言われている。
【0005】
特許文献1では、サッカロミセス属酵母に関し、EMP経路により糖代謝できないように改変されている酵母にED経路を導入し、ED経路のみで糖を代謝するように糖代謝経路が改変されている例が記載されている。
特許文献2では、大腸菌(Escherichia coli)、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、又は乳酸菌(Lactobacillus plantarum)を宿主とし、ED経路を導入又は強化するとともに、EMP経路及びPP経路の酵素を不活性化することで、ED経路のみへ炭素流束を増強させたイソブタノール生産技術が開示されている。
特許文献3では、内在するED経路の強化、具体的には6-ホスホグルコン酸デヒドラターゼ活性、もしくは2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸アルドラーゼ活性、又はこれらの両方を増強することにより、L-アミノ酸生産の収率が向上することを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表平9-510360号公報
【文献】米国特許第2010/0120105号明細書
【文献】特許第3932945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、一態様において、本来内在するED経路を持たない細菌における有機化合物の生産性向上方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、宿主のコリネ型細菌にエントナー-ドゥドロフ経路が導入された、コリネ型細菌の形質転換体に関する。
本開示は、その他の一態様において、宿主のコリネ型細菌に、グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子、6-ホスホグルコン酸デヒドラターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子、及び2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸アルドラーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子が導入された、コリネ型細菌の形質転換体に関する。
本開示は、その他の一態様において、本開示に係るコリネ型細菌形質転換体を、増殖に必要な因子の少なくとも1つを除いた反応液中又は還元条件の反応液中で反応させる工程と、反応培地中の有機化合物を回収する工程とを含む有機化合物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、一態様において、コリネ型細菌における有機化合物の製造を効率化することができる。例えば、有機化合物の生産における生産速度及び/又は収率を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、コリネ型細菌においてエントナー-ドゥドロフ経路(ED経路)を構成する酵素遺伝子を発現させ、エムデン-マイヤーホフ-パルナス経路(EMP経路)とED経路の2つの解糖系を併存させることにより、有機化合物の生産性を向上できることを見出した。
野生型ではED経路を有さないコリネ型細菌においてED経路とEMP経路との2つの解糖系を機能させることにより糖類の代謝変換消費速度が向上し、有機化合物の生産性が向上すると推定される。ただし、本開示はこのメカニズムに限定されなくてもよい。
本開示によれば、一態様において、糖類の代謝産物である有機化合物への炭素質の変換速度と変換率(収率)とを向上させうる。
【0011】
なお、特許文献1及び2においては、内在するEMP経路は不活化されている。
また、特許文献3では、内在するED経路を強化しているが、アミノ酸生産速度は、ED経路の強化によりむしろ低下している。
【0012】
[宿主]
本開示において、ED経路を導入する宿主は、コリネ型細菌である。
コリネ型細菌は、本来、すなわち、自然界に存在する野生型は、ED経路を有さない。
本開示において、コリネ型細菌とは、バージーズ・マニュアル・デターミネイティブ・バクテリオロジー〔Bargeys Manual of Determinative Bacteriology、Vol. 8、599(1974)〕に定義されている一群の微生物であり、通常の好気的条件で増殖するものならば特に限定されるものではない。具体例を挙げれば、コリネバクテリウム属菌、ブレビバクテリウム属菌、アースロバクター属菌、マイコバクテリウム属菌、及びマイクロコッカス属菌等が挙げられる。コリネ型細菌の中ではコリネバクテリウム属菌が好ましい。
コリネバクテリウム属菌としては、コリネバクテリウム グルタミカム、コリネバクテリウム エフィシェンス(Corynebacterium efficiens)、コリネバクテリウム アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム ハロトレランス(Corynebacterium halotolerance)、及びコリネバクテリウム アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)等が挙げられる。中でも、安全でかつキシロオリゴ糖の利用能が高い点で、コリネバクテリウム グルタミカムが好ましい。
好適な菌株として、コリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)R株(FERM P-18976)、ATCC13032株、ATCC13869株、ATCC13058株、ATCC13059株、ATCC13060株、ATCC13232株、ATCC13286株、ATCC13287株、ATCC13655株、ATCC13745株、ATCC13746株、ATCC13761株、ATCC14020株、ATCC31831株、MJ-233(FERM BP-1497)、及びMJ-233AB-41(FERM BP-1498)等が挙げられる。中でも、R株(FERM P-18976)、ATCC13032株、及びATCC13869株が好ましい。
これらの菌株は、微生物保存機関であるNBRC(NITE Biological Resource Center)、及びATCC(American Type Culture Collection)などで入手可能である。
また、これら微生物は、自然界に存在する野生株だけでなく、その変異株、又は遺伝子組換え株であってもよい。
【0013】
[ED経路の導入]
宿主コリネ型細菌にED経路を導入する一形態は、少なくとも下記の3つの遺伝子を導入することが挙げられる。
(1)グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子。
(2)6-ホスホグルコン酸デヒドラターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子。
(3)2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸アルドラーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子。
【0014】
ED経路を導入するための遺伝子は、様々な生物から取得でき、宿主コリネ型細菌内で機能すれば、特に由来は限定されない。該遺伝子配列は、一般的な遺伝子配列データベース(例えば、KEGG;http://www.genome.jp/kegg/genes.html)において検索できる。
ED経路を導入するための遺伝子は、該遺伝子がコードするアミノ酸配列に、アミノ酸欠失、付加、又はアミノ酸置換があっても、各酵素が上述の(1)~(3)の酵素活性を有していればよい。
【0015】
本開示において、ED経路を構成する酵素遺伝子の宿主コリネ型細菌への導入にあたっては、一般的な遺伝子組換え技術(例えば、Michael R. Green & Joseph Sambrook, Molecular cloning, Cold spring Harbor Laboratory Pressに記載の方法)を用いて行うことができ、プラスミドベクターを用いた遺伝子導入、又は宿主コリネ型細菌染色体へ組み込む形態で実施することができる。
本開示において、遺伝子の導入とは、一又は複数の実施形態において、該遺伝子が宿主内で発現可能に導入することをいう。
例えば、宿主コリネ型細菌にグルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を導入するには、適当なプロモーターを該遺伝子の5'-側上流に組み込むことが好ましく、加えてターミネーターを3'-側下流に組み込むことがさらに好ましい。
【0016】
[グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素]
本開示において、グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6DH)活性を有する酵素とは、グルコース6-リン酸を6-ホスホグルコノ-1,5-ラクトンへ変換する活性を有する酵素をいう。
本開示において、G6DH活性を有する酵素は、有機化合物生産の効率化の観点から、酸化型ニコチンアミドジヌクレオチド(NAD+)を補酵素として利用可能な酵素であることが好ましい。
NAD+を補酵素とするグルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子としては、Zymomonas mobilisのグルコース6-リン酸-1-デヒドロゲナーゼ遺伝子(zwf遺伝子)又はそのオーソログが挙げられる。前記オーソログとしては、Escherichia属、Pseudomonas属、Enterobacter属、又はPantoea属のオーソログが挙げられる。
なお、本開示において「オーソログ遺伝子」とは、異なる生物(例えば、異なる種、異なる属)に存在する相同な機能を有するタンパクをコードする類縁遺伝子を意味する。
【0017】
[6-ホスホグルコン酸デヒドラターゼ活性を有する酵素]
本開示において、6-ホスホグルコン酸デヒドラターゼ(EDD)活性を有する酵素とは、6-ホスホグルコン酸から2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸の反応を触媒する活性を有する酵素をいう。
本開示において、EDD活性を有する酵素がコードされた遺伝子としては、Zymomonas mobilisの6-ホスホグルコン酸デヒドラターゼ遺伝子(edd遺伝子)又はそのオーソログが挙げられる。前記オーソログとしては、Escherichia属、Pseudomonas属、 Enterobacter属、又はPantoea属のオーソログが挙げられる。
【0018】
[2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸アルドラーゼ活性を有する酵素]
本開示において、2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸アルドラーゼ(EDA)活性を有する酵素とは、2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸を開裂してグリセルアルデヒド-3-リン酸とピルビン酸とを生成する活性を有する酵素をいう。
本開示において、EDA活性を有する酵素がコードされた遺伝子としては、Zymomonas mobilisの6-ホスホグルコン酸デヒドラターゼ遺伝子(eda遺伝子)又はそのオーソログが挙げられる。前記オーソログとしては、Escherichia属、Pseudomonas属、 Enterobacter属、又はPantoea属のオーソログが挙げられる。
【0019】
[形質転換体]
本開示は、一態様において、宿主コリネ型細菌にED経路が導入された形質転換体に関する。
本開示に係る形質転換体は、一又は複数の実施形態において、少なくとも上記(1)~(3)の遺伝子が宿主コリネ型細菌に導入された形質転換体である。
宿主コリネ型細菌にED経路が導入されることで、細胞内におけるピルビン酸及び/又はホスホエノールピルビン酸の産生が亢進する。
本開示に係る形質転換体は、有機化合物の産生又はその効率化のために、さらなる遺伝子が導入されてもよく、遺伝子の欠失及び/又は変異が導入されもよい。これらの遺伝子の導入等は、産生した有機化合物に応じて当業者であれば適宜設計できる。
【0020】
[有機化合物]
本開示に係る形質転換体で産生する有機化合物は、一又は複数の実施形態において、ピルビン酸を中間体とする化合物又はホスホエノールピルビン酸を中間体とする化合物が挙げられる。
ピルビン酸を中間体とする化合物又はホスホエノールピルビン酸を中間体とする化合物としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸、ケトカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸、モノアルコール、ポリオール、芳香族化合物及びビタミンからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
ピルビン酸を中間体とする化合物としては、L-乳酸、D-乳酸、酢酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、アクリル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、クエン酸、シスアコニット酸、イタコン酸、イソクエン酸、2-オキソグルタル酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、エタノール、1,3-プロパンジオール、グリセロール、ブタノール、イソブタノール、1,4-ブタンジオール、キシリトール、ソルビトール、バリン、ロイシン、アラニン、アスパラギン酸、リジン、イソロイシン、及びスレオニン等が挙げられる。
ホスホエノールピルビン酸を中間体とする化合物としては、シキミ酸、プロトカテク酸、カテコール、4-ヒドロキシ安息香酸、フェノール、チロシン、フェニルアラニン、及びトリプトファン等が挙げられる。
【0021】
[有機化合物の製造方法]
本開示に係る形質転換体は、菌体増殖を伴わない反応液中で、糖類を原料として、ピルビン酸を中間体とする化合物又はホスホエノールピルビン酸を中間体とする化合物、例えば、モノカルボン酸、ジカルボン酸、ケトカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸、モノアルコール、ポリオール、芳香族化合物及びビタミン等を高効率で生産できる。
よって、本開示は、その他の一態様において、本開示に係る形質転換体を、増殖に必要な因子の少なくとも1つを除いた反応液中又は還元条件の反応液中で反応させる工程と、反応培地中の有機化合物を回収する工程とを含む有機化合物の製造方法に関する。
【0022】
本開示に係る有機化合物の製造方法においては、まず、上記の本開示に係る形質転換体を好気条件下で増殖培養する。
本開示に係る形質転換体の培養は、炭素源、窒素源及び無機塩等を含む通常の栄養培地を用いて行うことが出来る。培養には、炭素源として、例えばグルコース又は廃糖蜜等を、そして窒素源としては、例えばアンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム又は尿素等をそれぞれ単独もしくは混合して用いることが出来る。また、無機塩として、例えばリン酸一水素カリウム、リン酸ニ水素カリウム又は硫酸マグネシウム等を使用することが出来る。この他にも必要に応じて、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスティープリカー、カザミノ酸又はビオチンもしくはチアミン等の各種ビタミン等の栄養素を培地に適宜添加することも出来る。
培養は、通常、通気攪拌又は振盪等の好気的条件下、約20℃~約60℃、好ましくは、約25℃~約35℃の温度で行うことが出来る。培養時のpHは例えば5~10付近、好ましくは7~8付近の範囲であり、培養中のpH調整は酸又はアルカリを添加することにより行うことが出来る。培養開始時の炭素源濃度は、約1%(W/V)~約20%(W/V)、好ましくは約2%(W/V)~約5%(W/V)である。また、培養期間は通常1~7日間程度である。
【0023】
ついで、本開示に係る形質転換体の培養菌体を回収する。上記の如くして得られる培養物から培養菌体を回収分離する方法としては、特に限定されず、例えば遠心分離や膜分離等の公知の方法を用いることができる。
回収された培養菌体に対して処理を加え、得られる菌体処理物を次工程に用いてもよい。前記菌体処理物としては、培養菌体に何らかの処理が加えられたものが挙げられ、例えば、菌体をアクリルアミド又はカラギーナン等で固定化した固定化菌体等が挙げられる。
【0024】
上記の如くして得られる培養物から回収分離された本開示に係る形質転換体の培養菌体又はその菌体処理物による有機化合物の生成反応は、菌体増殖を伴わない反応液中であれば好気条件及び還元条件のいずれの生成方式を用いてもよい。有機化合物生成方式は、回分式、連続式いずれの生成方式も可能である。
本開示において、増殖しないことには、実質的に増殖しないこと、又は殆ど増殖しないことが含まれる。例えば、好気条件の反応では微生物の増殖に必須の化合物であるビオチン、チアミンなどのビタミン類、窒素源などの1種以上を欠乏、或いは制限させた反応液を用いることにより、形質転換体の増殖を回避又は抑制できる。
【0025】
また、還元条件では、コリネ型細菌は実質的に増殖しないため反応液の組成は規定されない。還元条件における反応液の酸化還元電位は、約-200mV~約-500mVが好ましく、約-150mV~約-500mVがより好ましい。反応液の還元状態は簡便にはレサズリン指示薬(還元状態であれば、青色から無色への脱色)で推定できるが、正確には酸化還元電位差計(例えば、BROADLEY JAMES社製、ORP Electrodes)を用いて測定できる。
本開示においては、反応液に菌体又はその処理物を添加した直後から有機化合物を採取するまで、還元条件を維持していることが好ましいが、少なくとも有機化合物を採取する時点で反応液が還元状態であればよい。反応時間の約50%以上、より好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約90%以上の時間、反応液が還元条件下に保たれていることが望ましい。なかでも、反応時間の約50%以上、より好ましくは約70%以上、さらに好ましくは約90%以上の時間、反応液の酸化還元電位が約-200mV~約-500mV程度に保たれていることがより望ましい。
【0026】
よって、本開示は、一態様において、本開示に係る菌形質転換体を、増殖に必要な因子の少なくとも1つを除いた反応液中又は還元条件の反応液中で反応させる工程と、反応培地中の有機化合物を回収する工程とを含む有機化合物の製造方法に関する。
【0027】
反応液には、有機化合物生成の原料となる有機炭素源(例えば、糖類等)が含まれている。有機炭素源としては、本開示に係る形質転換体が生化学反応に利用できる物質が挙げられる。
具体的には、糖類としては、グルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、フルクトースもしくはマンノースなどの単糖類、セロビオース、ショ糖、ラクトースもしくはマルトースなどの二糖類、又はデキストリンもしくは可溶性澱粉などの多糖類などが挙げられる。なかでも、グルコースが好ましい。
【0028】
最後に、上述のようにして反応培地で生成した有機化合物を採取する。その方法はバイオプロセスで用いられる公知の方法を用いることが出来る。そのような公知の方法として、有機化合物生成液の塩析法、再結晶法、有機溶媒抽出法、エステル化蒸留分離法、クロマトグラフィー分離法又は電気透析法等があり、生成有機化合物の特性に応じてその分離精製採取法は適宜定めることが出来る。
【0029】
本開示は、一又は複数の実施形態において、以下に関しうる;
[1] 宿主のコリネ型細菌にエントナー‐ドゥドロフ経路が導入された、コリネ型細菌の形質転換体。
[2] 宿主のコリネ型細菌に、
グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子、
6-ホスホグルコン酸デヒドラターゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子、及び 2-ケト-3-デオキシ-6-ホスホグルコン酸アルドラーゼ活性を有する酵素がコードされた遺伝子が導入された、コリネ型細菌の形質転換体。
[3] 前記グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼが、酸化型ニコチンアミドジヌクレオチドを補酵素として利用可能な酵素である、[2]に記載の形質転換体。
[4] 宿主のコリネ型細菌がコリネバクテリウム グルタミカムである、[1]から[3]のいずれかに記載の形質転換体。
[5] さらに、有機化合物の生産効率を向上するための遺伝子が導入されている、[1]から[4]のいずれかに記載の形質転換体。
[6] 宿主のコリネ型細菌がコリネバクテリウム グルタミカムR(FERM P-18976)、ATCC13032、又はATCC13869である、[1]から[5]のいずれかに記載の形質転換体。
[7] コリネバクテリウム グルタミカムALA98株(受託番号:NITE BP-02688)形質転換体。
[8] [1]から[7]のいずれかに記載の形質転換体を、増殖に必要な因子の少なくとも1つを除いた反応液中又は還元条件の反応液中で反応させる工程と、反応培地中の有機化合物を回収する工程とを含む、有機化合物の製造方法。
[9] [1]から[7]のいずれかに記載の形質転換体を用いて、反応液中で、グルコース、フルクトース、セロビオース、キシロビオース、ショ糖、ラクトース、マルトース、デキストリン、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マンノース及び可溶性澱粉からなる群より選ばれる糖類から有機化合物へ変換し、該反応液より有機化合物を回収することを含む、[8]に記載の有機化合物の製造方法。
[10] 前記有機化合物が、ピルビン酸を中間体とする化合物又はホスホエノールピルビン酸を中間体とする化合物である、[8]又は[9]に記載の有機化合物の製造方法。
[11] 前記有機化合物が、モノカルボン酸、ジカルボン酸、ケトカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸、アミノ酸、モノアルコール、ポリオール、芳香族化合物及びビタミンからなる群から選択される少なくとも1種である、[8]から[10]のいずれかに記載の有機化合物の製造方法。
【実施例
【0030】
以下、本開示を実施例により詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
ED経路導入コリネバクテリウム グルタミカムを宿主としたエタノール、イソブタノール、D-乳酸、アラニン及びシキミ酸生産株の構築
(1)染色体DNAの調製・入手
下記菌株から染色体DNAを調製した。
コリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)R(FERM P-18976)、及びザイモモナス モビリス(Zymomonas mobilis ATCC 31821)の染色体DNAは、菌株入手機関の情報に従って培養した後、DNAゲノム抽出キット(商品名:GenomicPrep Cells and Tissue DNA Isolation Kit、アマシャム社製)を用いて調製した。
【0032】
(2)遺伝子発現プラスミドの構築
目的の酵素遺伝子を単離するために用いたプライマー配列を表1に示す。PCRは、Veritiサーマルサイクラー(アプライド・バイオシステムズ社製)を用い、反応試薬としてPrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社製)を用いた。得られたDNA断片を、tacプロモーターを含有するクローニングベクター(pCRG5、pCRB214[FEBS Lett. 2012 Nov 30;586(23):4228-4232])に導入した。
導入したクローニングベクターと得られたプラスミド名を表2に示す。なお、zwf及びeddは染色体上で連続して同じ向きに配置されているため、まとめてクローニングを行った(配列番号1)。
【0033】
pCRG5クローニングベクターの構築
クローニングベクターpKK223-3(ファルマシア社製)由来のtacプロモーター配列及びrrnB T1T2双方向ターミネーター配列をpCASE1 ori配列を含むベクターpCRB22[Appl Environ Microbiol. 2012 Jun;78(12):4447-4457]に導入したpCRG5を構築した。tacプロモーター配列増幅には配列番号7及び8のプライマーを使用し、得られたDNA断片をpCRB210[Microbiology. 2015 Feb;161(Pt 2):254-263 / WO2012/033112]に導入した。得られたtacプロモーターを含有するクローニングベクターをpCRG5と命名した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
(3)染色体導入株の構築
遺伝子をCorynebacterium glutamicum R株の染色体にマーカーレスで導入するために必要なDNA領域を、Corynebacterium glutamicum R株の生育に必須でないと報告されている配列[Appl Environ Microbiol. 2005 Jun;71(6):3369-3372](SSI領域)を基に決定した。このDNA領域をPCR法により増幅した。得られたDNA断片をマーカーレス遺伝子導入用プラスミドpCRA725[J Mol Microbiol Biotechnol. 2004;8(4):243-54 / JP 2006-124440 A]に導入した。なお、pCRG12には、インバース PCR法によりSSI領域に遺伝子を組み込むための制限酵素部位(ユニークサイト)を導入した。SSI領域の単離及びインバースPCRに用いたプライマー配列及び得られた染色体導入用ベクターを表3に示す。
【0037】
【表3】
【0038】
上述の染色体導入用ベクターに、上記表2で構築したED経路関連遺伝子発現プラスミドからtacプロモーター融合酵素遺伝子断片を取得し導入し、染色体導入用プラスミドpCRG14及びpCRG15を構築した。また、pCRB215[Appl Microbiol Biotechnol. 2015 Jun;99(11):4679-4689]及びpCRB263[WO2017/146241]を用いてLactobacillus delbrueckii由来ldhA遺伝子の染色体導入用プラスミドpCRG16を構築した。得られた染色体導入用プラスミドを表4に示す。
【0039】
【表4】
【0040】
(4)染色体遺伝子組換えによる生産株の構築
マーカーレス染色体遺伝子導入用pCRA725は、コリネバクテリウム グルタミカムR内で複製不能なプラスミドである。プラスミドpCRA725に導入したSSI領域と染色体上の相同領域との一重交叉株の場合、pCRA725上のカナマイシン耐性遺伝子の発現によるカナマイシン耐性と、バチルス サブチリス(Bacillus subtilis)のsacR-sacB遺伝子の発現によるスクロース含有培地での致死性とを示すのに対し、二重交叉株の場合、pCRA725上のカナマイシン耐性遺伝子の脱落によるカナマイシン感受性と、sacR-sacB遺伝子の脱落によるスクロース含有培地での生育性とを示す。従って、マーカーレス染色体遺伝子導入株は、カナマイシン感受性及びスクロース含有培地生育性を示す。
上記方法により、上述したED経路関連遺伝子染色体導入用プラスミドを用いてED経路関連遺伝子染色体導入株を構築した。宿主菌株としてコリネ型細菌CRZ14[Appl Microbiol Biotechnol. 2015 Feb;99(3):1165-1172]及びLPglc267[Appl Microbiol Biotechnol. 2015 Jun;99(11):4679-4689]を使用した。
また、LHglc435は、コリネ型細菌CRZ1[J Mol Microbiol Biotechnol. 2004;8(4):243-254]を宿主としてアラビノース資化遺伝子(araBAD)染色体導入用プラスミドpCRD109[Appl Microbiol Biotechnol. 2009 Nov;85(1):105-115]、アラビノーストランスポーター遺伝子(araE)染色体導入用プラスミドpCRD108[Appl Microbiol Biotechnol. 2009 Nov;85(1):105-115]、キシロース資化遺伝子(xylAB)染色体導入用プラスミドXyl4・Xyl5[Appl Microbiol Biotechnol. 2008 Dec;81(4):691-699]、セロビオース資化遺伝子(bglF(V317A)bglA)染色体導入用プラスミドCel1[Appl Microbiol Biotechnol. 2008 Dec;81(4):691-699]、gapA遺伝子染色体導入用プラスミドpCRD907[Appl Environ Microbiol. 2012 Jun;78(12):4447-4457]、gpi遺伝子染色体導入用プラスミドpCRD913[Appl Environ Microbiol. 2012 Jun;78(12):4447-4457]、tpi遺伝子染色体導入用プラスミドpCRB224[Appl Microbiol Biotechnol. 2013 Aug;97(15):6693-6703]、tkt-tal遺伝子染色体導入用プラスミドpCRB283[WO2016/027870]、qsuB遺伝子破壊用プラスミドpSKM26[WO 2016/027870 A1]、pobA遺伝子破壊用プラスミドpCRA725-pobA/CG[WO2012/063860 A1]、poxF遺伝子破壊用プラスミドpCRA725-poxF/CG[WO2012/067174 A1]、qsuD遺伝子破壊用プラスミドpSKM27[WO2016/027870 A1]及びaroK遺伝子破壊用プラスミドpCRC329[WO2016/027870 A1]を用いて構築した。なお、本染色体遺伝子組換えの概要は、表5及び6にまとめて示した。
【0041】
【表5】
【0042】
【表6】
【0043】
(5) プラスミド導入による有用物質生産株の構築
上述の染色体遺伝子組換え株にpCRA723[J Mol Microbiol Biotechnol. 2004;8(4):243-254]を導入することによりエタノール生産株を構築した。pCRB-BNCTM[Appl Environ Microbiol. 2012 Feb;78(3):865-875]、pCRD926及びpCRD927[Biotechnol Bioeng. 2013 Nov;110(11):2938-48]を導入することによりイソブタノール生産株を構築した。pCRD914[Appl Environ Microbiol. 2012 Jun;78(12):4447-4457]を導入することによりアラニン生産株を構築した。pCRB1-aroG/CG[WO2012/033112 A1]及びpSKM7[WO2016/027870 A1]を導入することによりシキミ酸生産株を構築した。なお、本生産株の概要は、表7にまとめて示した。
【0044】
【表7】
【0045】
コリネバクテリウム グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)ALA98 は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室(郵便番号292-0818)の独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに国際寄託した(ブダペスト条約に基づく国際寄託の受託日:2018年4月17日、受託番号:NITE BP-02688)。
【0046】
[実施例2]
エタノール生産コリネバクテリウム グルタミカム形質転換体によるED経路導入効果の検証
コリネバクテリウム グルタミカムR株をベースとして構築したエタノール生産株ETH1株及びETH2株[実施例1(表7)参照]を用い、増殖抑制条件下におけるエタノール生産性を検討した。評価菌株は、4%グルコースと5ng/L chloramphenicolとを加えた栄養培地(1 literの水に 2g urea, 2g yeast extract, 7g casamino acids, 7g (NH4)2SO4, 0.5g KH2PO4, 0.5g K2HPO4, 0.5g MgSO4・7H2O, 6mg FeSO4・7H2O, 4.2mg MnSO4・H2O, 0.2mg biotin, 及び0.2mg thiamin・HClを溶解)を用いて好気条件で培養し、菌体を調製した。得られた菌体は、10g(乾燥菌体)/Lとなるように最少培地(1 literの水に7g (NH4)2SO4, 0.5g KH2PO4, 0.5g K2HPO4, 0.5g MgSO4・7H2O, 6mg FeSO4・7H2O, 4.2mg MnSO4・H2O, 0.2mg biotin及び0.2mg thiaminを溶解)に懸濁し、グルコースを加えて生産反応を開始した。反応温度は33℃、pHは6.5を維持するようにアンモニア水溶液を適宜添加した。生産試験の結果を表8に示した。ED経路導入株(ETH2)は、ED経路を導入していない株(ETH1)と比較して、顕著に生産性が向上していた。
【表8】
【0047】
[実施例3]
イソブタノール生産コリネバクテリウム グルタミカム形質転換体によるED経路導入効果の検証
コリネバクテリウム グルタミカムR株をベースとして構築したイソブタノール生産株IBU103株及びIBU104株[実施例1(表7)参照]を用い、増殖抑制条件下におけるイソブタノール生産性を検討した。評価菌株は、4%グルコース、50ng/L kanamycin、5ng/L chloramphenicol、及び50 ng/L zeocinを加えた栄養培地を用いて好気条件で培養し、菌体を調製した。得られた菌体は、20g(乾燥菌体)/Lとなるように最少培地に懸濁し、グルコースを加えて生産反応を開始した。反応温度は33℃、pHは7.5を維持するようにアンモニア水溶液を適宜添加した。生産試験の結果を表9に示した。ED経路導入株(IBU104)は、ED経路を導入していない株(IBU103)と比較して、顕著に生産性が向上していた。
【0048】
【表9】
【0049】
[実施例4]
D-乳酸生産コリネバクテリウム グルタミカム形質転換体によるED経路導入効果の検証
コリネバクテリウム グルタミカムR株をベースとして構築したD-乳酸生産株LPglc349株及びLPglc349ED株[実施例1(表6)参照]を用い、増殖抑制条件下におけるD-乳酸生産性を検討した。評価菌株は、4%グルコースを加えた栄養培地を用いて好気条件で培養し、菌体を調製した。得られた菌体は、10g(乾燥菌体)/Lとなるように最少培地に懸濁し、グルコースを加えて生産反応を開始した。反応温度は33℃、pHは7.0を維持するようにアンモニア水溶液を適宜添加した。生産試験の結果を表10に示した。ED経路導入株(LPglc349ED)は、ED経路を導入していない株(LPglc349)と比較して、顕著に生産性が向上していた。
【0050】
【表10】
【0051】
[実施例5]
アラニン生産コリネバクテリウム グルタミカム形質転換体によるED経路導入効果の検証
コリネバクテリウム グルタミカムR株をベースとして構築したアラニン生産株ALA97株及びALA98株[実施例1(表7)参照]を用い、増殖抑制条件下におけるアラニン生産性を検討した。評価菌株は、4%グルコース、及び50ng/L kanamycinを加えた栄養培地を用いて好気条件で培養し、菌体を調製した。得られた菌体は、10g(乾燥菌体)/Lとなるように最少培地に懸濁し、グルコースを加えて生産反応を開始した。反応温度は33℃、pHは7.0を維持するようにアンモニア水溶液を適宜添加した。生産試験の結果を表11に示した。ED経路導入株(ALA98)は、ED経路を導入していない株(ALA97)と比較して、顕著に生産性が向上していた。
【0052】
【表11】
【0053】
[実施例6]
シキミ酸生産コリネバクテリウム グルタミカム形質転換体によるED経路導入効果の検証
コリネバクテリウム グルタミカムR株をベースとして構築したアラニン生産株SHI2株及びSHI3株[実施例1(表7)参照]を用い、増殖抑制条件下におけるアラニン生産性を検討した。評価菌株は、4%グルコース、50ng/L kanamycin、5ng/L chloramphenicol、20μg/mlフェニルアラニン、20μg/mlチロシン、20μg/mlトリプトファン及び10μg/ml p-アミノ安息香酸を加えた栄養培地を用いて好気条件で培養し、菌体を調製した。得られた菌体は、10g(乾燥菌体)/Lとなるように最少培地に懸濁し、グルコースを加えて生産反応を開始した。1000ml容量ジャーファーメンター(エイブル株式会社製、型式:BMJ1L)を用いて反応温度は33℃、通気量0.25L/min(air、1vvm)、溶存酸素濃度(DO)5%(大気圧下飽和溶存酸素濃度を100%として)の条件において反応を行い、pHは7.0を維持するようにアンモニア水溶液を適宜添加した。生産試験の結果を表12に示した。ED経路導入株(SHI3)は、ED経路を導入していない株(SHI2)と比較して、顕著に生産性が向上していた。
【0054】
【表12】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本開示は、例えば、有機酸、アミノ酸、及びアルコール等の有用な有機化合物の製造に有用である。
【配列表】
0006991319000001.app