(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   E02F   9/22        20060101AFI20220104BHJP        
   E02F   9/20        20060101ALI20220104BHJP        
【FI】
E02F9/22 C 
E02F9/20 Q 
(21)【出願番号】P 2020527972
(86)(22)【出願日】2018-09-14
(86)【国際出願番号】 JP2018034309
(87)【国際公開番号】W WO2020054078
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2020-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人  武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】除村  直樹
(72)【発明者】
【氏名】齋藤  智之
(72)【発明者】
【氏名】坂本  博史
(72)【発明者】
【氏名】森木  秀一
【審査官】小倉  宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-096006(JP,A)      
【文献】特開2013-087577(JP,A)      
【文献】特開平11-139770(JP,A)      
【文献】特開平01-090327(JP,A)      
【文献】特開2012-021290(JP,A)      
【文献】特開2004-076351(JP,A)      
【文献】特開2011-063407(JP,A)      
【文献】特開2011-052383(JP,A)      
【文献】特開平08-302754(JP,A)      
【文献】特開2006-038133(JP,A)      
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F      9/22
E02F      9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
  走行体と、前記走行体の上方に旋回可能に取り付けられた旋回体と、前記旋回体の前部に取り付けられたフロント作業機と、前記旋回体を旋回させるための操作装置と、前記旋回体を駆動する旋回モータと、前記旋回モータに供給される作動油の流れを制御する方向制御弁と、前記方向制御弁に作用されるパイロット圧を生成するパイロット弁と、を備えた建設機械において、
  前記旋回体の向いている方向及び位置を含む位置情報を測定するためのアンテナと、
  前記旋回体の旋回角速度を検出する角速度センサと、
            
車体の傾斜角度を検出する傾斜角センサと、
            
            前記旋回モータに供給される作動油の温度を検出する温度センサと、
            
  前記パイロット弁を制御して前記旋回体の旋回動作を自動で開始及び停止させるコントローラと、を有し、
  前記コントローラは、
  作業対象のうち前記旋回体を正対させる目標作業面の位置である目標位置
、前記コントローラの制御により前記旋回体の旋回動作を自動で開始させる旋回角度である第1閾値、前記コントローラの制御により前記旋回体の旋回動作を自動で開始させる前記車体の傾斜角度である第2閾値、及び前記コントローラの制御により前記旋回体の旋回動作を自動で開始させる作動油の温度である第3閾値のそれぞれを記憶し、
  前記位置情報から前記目標位置までの目標旋回角度を演算すると共に、前記角速度センサで検出された角速度に基づいて前記旋回体の慣性によって生じる旋回流れ角度を演算し、
            
前記目標旋回角度が前記第1閾値以上である第1条件、前記傾斜角センサで検出された傾斜角度が前記第2閾値以下である第2条件、及び前記温度センサで検出された温度が前記第3閾値以上である第3条件のそれぞれを満たすか否かを判定し、
            
  前記目標旋回角度及び前記旋回流れ角度に基づいて、前記位置情報が前記旋回体の減速開始位置であるか否かを判定し、
            
前記第1条件、前記第2条件、及び前記第3条件の全てを満たし、かつ前記位置情報が前記旋回体の減速開始位置でないと判定された場合に前記パイロット弁を制御して前記旋回体の旋回動作を自動で開始させると共に、
前記第1条件、前記第2条件、及び前記第3条件の全てを満たし、かつ前記位置情報が前記旋回体の減速開始位置であると判定された場合に前記パイロット弁を制御して前記旋回体の旋回動作を自動で停止させる
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
  請求項
1に記載の建設機械において、
  前記旋回体の旋回動作を自動で行わない旨を報知する報知装置を有し、
  前記操作装置は、前記操作装置による操作を無効とし、前記コントローラによる前記旋回体の旋回動作を自動で開始及び停止させるスイッチを有し、
  前記コントローラは、前記スイッチが有効であって、かつ少なくとも前記第1条件、前記第2条件、及び前記第3条件のうちのいずれかを満たさないと判定された場合に、前記旋回体の旋回動作を自動で行わない旨を報知させるための信号を前記報知装置に対して出力する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
            走行体と、前記走行体の上方に旋回可能に取り付けられた旋回体と、前記旋回体の前部に取り付けられたフロント作業機と、前記旋回体を旋回させるための操作装置と、前記旋回体を駆動する旋回モータと、前記旋回モータに供給される作動油の流れを制御する方向制御弁と、前記方向制御弁に作用されるパイロット圧を生成するパイロット弁と、を備えた建設機械において、
            
            前記旋回体の向いている方向及び位置を含む位置情報を測定するためのアンテナと、
            
            前記旋回体の旋回角速度を検出する角速度センサと、
            
  車体の傾斜角度を検出する傾斜角センサ
と、
            
            前記パイロット弁を制御して前記旋回体の旋回動作を自動で開始及び停止させるコントローラと、を有し、
  前記コントローラは、
            
作業対象のうち前記旋回体を正対させる目標作業面の位置である目標位置、前記コントローラの制御により前記旋回体の旋回動作を自動で開始させる旋回角度である第1閾値、及び前記コントローラの制御により前記旋回体の旋回動作を自動で開始させる前記車体の傾斜角度である第2閾値
のそれぞれを記憶し、
            
前記位置情報から前記目標位置までの目標旋回角度を演算すると共に、前記角速度センサで検出された角速度に基づいて前記旋回体の慣性によって生じる旋回流れ角度を演算し、
            
  前記目標旋回角度が前記第1閾値以上である第1条件、及び前記傾斜角センサで検出された傾斜角度が前記第2閾値以下である第2条件のそれぞれを満たすか否かを判定し、
            
前記目標旋回角度及び前記旋回流れ角度に基づいて、前記位置情報が前記旋回体の減速開始位置であるか否かを判定し、
            
  前記第1条件及び前記第2条件を満た
し、かつ前記位置情報が前記旋回体の減速開始位置でないと判定された場合に前記パイロット弁を制御して前記旋回体の旋回動作を自動で開始させると共に、前記第1条件及び前記第2条件を満たし、かつ前記位置情報が前記旋回体の減速開始位置であると判定された場合に前記パイロット弁を制御して前記旋回体の旋回動作を自動で停止させる
            
ことを特徴とする建設機械。
【請求項4】
            走行体と、前記走行体の上方に旋回可能に取り付けられた旋回体と、前記旋回体の前部に取り付けられたフロント作業機と、前記旋回体を旋回させるための操作装置と、前記旋回体を駆動する旋回モータと、前記旋回モータに供給される作動油の流れを制御する方向制御弁と、前記方向制御弁に作用されるパイロット圧を生成するパイロット弁と、を備えた建設機械において、
            
            前記旋回体の向いている方向及び位置を含む位置情報を測定するためのアンテナと、
            
            前記旋回体の旋回角速度を検出する角速度センサと、
            
  前記旋回モータに供給される作動油の温度を検出する温度センサ
と、
            
            前記パイロット弁を制御して前記旋回体の旋回動作を自動で開始及び停止させるコントローラと、を有し、
  前記コントローラは、
            
作業対象のうち前記旋回体を正対させる目標作業面の位置である目標位置、前記コントローラの制御により前記旋回体の旋回動作を自動で開始させる旋回角度である第1閾値、及び前記コントローラの制御により前記旋回体の旋回動作を自動で開始させる作動油の温度である第3閾値
のそれぞれを記憶し、
            
前記位置情報から前記目標位置までの目標旋回角度を演算すると共に、前記角速度センサで検出された角速度に基づいて前記旋回体の慣性によって生じる旋回流れ角度を演算し、
            
  前記目標旋回角度が前記第1閾値以上である第1条件、及び前記温度センサで検出された温度が前記第3閾値以上である第3条件のそれぞれを満たすか否かを判定し、
            
前記目標旋回角度及び前記旋回流れ角度に基づいて、前記位置情報が前記旋回体の減速開始位置であるか否かを判定し、
            
  前記第1条件及び前記第3条件を満た
し、かつ前記位置情報が前記旋回体の減速開始位置でないと判定された場合に前記パイロット弁を制御して前記旋回体の旋回動作を自動で開始させると共に、前記第1条件及び前記第3条件を満たし、かつ前記位置情報が前記旋回体の減速開始位置であると判定された場合に前記パイロット弁を制御して前記旋回体の旋回動作を自動で停止させる
            
ことを特徴とする建設機械。
【請求項5】
  請求項
1、3、4の何れか1項に記載の建設機械において、
  前記フロント作業機の姿勢を検出する姿勢センサを有し、
  前記コントローラは、
  前記姿勢センサで検出された前記フロント作業機の姿勢に応じて変化する比例定数を用いて、前記旋回流れ角度を演算する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項6】
  請求項
1、3、4の何れか1項に記載の建設機械において、
  前記操作装置は、前記操作装置による操作を無効とし、前記コントローラによる前記旋回体の旋回動作を自動で開始及び停止させるスイッチを有する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項7】
  請求項
1、3、4の何れか1項に記載の建設機械において、
  前記コントローラの制御により前記旋回体が前記目標位置で停止した旨を報知する報知装置を有し、
  前記コントローラは、前記位置情報が前記目標位置であると判定された場合に、前記旋回体が前記目標位置で停止した旨を報知させるための信号を前記報知装置に対して出力する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項8】
  請求項
1、3、4の何れか1項に記載の建設機械において、
  前記コントローラの制御により前記旋回体の旋回動作が自動で行われている旨を報知する報知装置を有し、
  前記コントローラは、前記パイロット弁を制御して前記旋回体の旋回動作を自動で開始させた場合に、前記旋回体の旋回動作が自動で行われている旨を報知させるための信号を前記報知装置に対して出力する
ことを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
  本発明は、旋回式の建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
  油圧ショベル等の建設機械では、掘削対象の目標面までの旋回操作や、目標面に対するフロント作業機の操作を自動制御することにより、掘削作業の効率化を図っている。例えば、特許文献1には、作業機コントローラにて、掘削対象の目標形状を示す設計面を更新し、更新された設計面に対してバケットの刃先の位置を自動調整することで、自動でフロント作業機を設計面に正対させる油圧ショベルの掘削制御システムが開示されている。
【0003】
  一方、特許文献1の技術では、設計面を含む掘削領域までの旋回操作はオペレータが行うため、オペレータの熟練度が作業効率に影響してしまう。そこで、特許文献2に開示された制御システムでは、車体の位置情報とオペレータが指示した位置とに基づいて演算された車体の移動方向及び移動量に従って旋回操作を制御し、オペレータの熟練度にかかわらず精密な掘削作業を容易に行うことを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
               【文献】特開2013-217137号公報
               【文献】特開2014-55407号公報
             
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
  しかしながら、旋回動作中の旋回体は、コントローラから旋回停止の指令信号が出力された後も慣性によりしばらく旋回し続けるため、特許文献2に記載の技術のように、車体の移動量を演算し、演算された移動量に基づいて旋回停止位置の位置合わせをしたのでは旋回体は目標位置からずれた位置で停止することとなる。目標位置に対して旋回体の位置合わせを正確に行うためには、複数回に亘り位置合わせを行って少しずつ目標位置に近づけたり、位置合わせ中における旋回速度を遅くして慣性の影響を小さくしたりといった対策を講じる必要があるが、このような対策では作業効率が低下してしまう。
【0006】
  そこで、本発明の目的は、オペレータの熟練度や慣性の影響に依らず、旋回体を精度よく目標位置に正対させることが可能な建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
  上記の目的を達成するために、本発明は、走行体と、前記走行体の上方に旋回可能に取り付けられた旋回体と、前記旋回体の前部に取り付けられたフロント作業機と、前記旋回体を旋回させるための操作装置と、前記旋回体を駆動する旋回モータと、前記旋回モータに供給される作動油の流れを制御する方向制御弁と、前記方向制御弁に作用されるパイロット圧を生成するパイロット弁と、を備えた建設機械において、前記旋回体の向いている方向及び位置を含む位置情報を測定するためのアンテナと、前記旋回体の旋回角速度を検出する角速度センサと、車体の傾斜角度を検出する傾斜角センサと、前記旋回モータに供給される作動油の温度を検出する温度センサと、前記パイロット弁を制御して前記旋回体の旋回動作を自動で開始及び停止させるコントローラと、を有し、前記コントローラは、作業対象のうち前記旋回体を正対させる目標作業面の位置である目標位置、前記コントローラの制御により前記旋回体の旋回動作を自動で開始させる旋回角度である第1閾値、前記コントローラの制御により前記旋回体の旋回動作を自動で開始させる前記車体の傾斜角度である第2閾値、及び前記コントローラの制御により前記旋回体の旋回動作を自動で開始させる作動油の温度である第3閾値のそれぞれを記憶し、前記位置情報から前記目標位置までの目標旋回角度を演算すると共に、前記角速度センサで検出された角速度に基づいて前記旋回体の慣性によって生じる旋回流れ角度を演算し、前記目標旋回角度が前記第1閾値以上である第1条件、前記傾斜角センサで検出された傾斜角度が前記第2閾値以下である第2条件、及び前記温度センサで検出された温度が前記第3閾値以上である第3条件のそれぞれを満たすか否かを判定し、前記目標旋回角度及び前記旋回流れ角度に基づいて、前記位置情報が前記旋回体の減速開始位置であるか否かを判定し、前記第1条件、前記第2条件、及び前記第3条件の全てを満たし、かつ前記位置情報が前記旋回体の減速開始位置でないと判定された場合に前記パイロット弁を制御して前記旋回体の旋回動作を自動で開始させると共に、前記第1条件、前記第2条件、及び前記第3条件の全てを満たし、かつ前記位置情報が前記旋回体の減速開始位置であると判定された場合に前記パイロット弁を制御して前記旋回体の旋回動作を自動で停止させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
  本発明によれば、オペレータの熟練度や慣性の影響に依らず、旋回体を精度よく目標位置に正対させることができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
            【
図1】本発明の実施形態に係る油圧ショベルの一構成例を示す外観斜視図である。
 
            【
図2】油圧ショベルにおける旋回体の旋回動作に係る油圧回路及び電気回路の構成を示す図である。
 
            【
図3】コントローラが有する機能の構成を示す機能ブロック図である。
 
            【
図4】コントローラ内で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
 
          
【発明を実施するための形態】
【0010】
  以下、本発明の実施形態に係る建設機械の一態様として、油圧ショベルについて説明する。
【0011】
(油圧ショベル1の構成)
  まず、油圧ショベル1の構成について、
図1を参照して説明する。
 
【0012】
  図1は、本発明の実施形態に係る油圧ショベル1の一構成例を示す外観斜視図である。
 
【0013】
  油圧ショベル1は、路面を走行するための走行体101と、走行体101の上方に旋回装置(不図示)を介して旋回可能に取り付けられた旋回体102と、旋回体102の前部に俯仰動可能に取り付けられて掘削等の作業を行うフロント作業機103と、を備えている。
【0014】
  走行体101は、その左右方向の両端部にクローラ11がそれぞれ配置されている。左右一対のクローラ11はそれぞれ、走行体101の左右それぞれに設けられた走行モータ(不図示)の駆動力によって独立して回転駆動する。これにより、油圧ショベル1は、左右それぞれのクローラ11を地面に接触させた状態で前後方向に走行する。
【0015】
  旋回体102は、オペレータが搭乗する運転室21と、フロント作業機103とのバランスを保つためのカウンタウェイト22と、エンジン231や油圧ポンプ232,233等(
図2参照)の機器類を内部に収容する機械室23と、を備えている。旋回体102において、運転室21は前部に、カウンタウェイト22は後部に、機械室23は運転室21とカウンタウェイト22との間に、それぞれ配置されている。
 
【0016】
  旋回体102は、旋回装置内に設けられた旋回モータ24(
図2参照)の駆動力によって走行体101に対して旋回する。運転室21内には、旋回体102を旋回させるための操作装置としての操作レバー211(
図2参照)が設けられている。なお、旋回体102の具体的な旋回動作については後述する。
 
【0017】
  フロント作業機103は、基端部が旋回体102に回動可能に取り付けられて、旋回体102に対して上下方向に回動(俯仰)するブーム31と、ブーム31の先端部に回動可能に取り付けられてブーム31に対して前後方向に回動するアーム32と、アーム32の先端部に回動可能に取り付けられてアーム32に対して前後方向に回動するバケット33と、を備えている。
【0018】
  バケット33は、例えば土砂等を掘削したり、均したり、あるいは地面を締め固めたりするものである。このバケット33は、例えば、木材や岩石、廃棄物等を掴むグラップルや、岩盤を掘削するブレーカ等のアタッチメントに変更することが可能である。これにより、油圧ショベル1は、作業内容に適したアタッチメントを用いて、掘削や破砕等を含む様々な作業を行うことができる。
【0019】
  また、フロント作業機103は、旋回体102とブーム31とを連結するブームシリンダ310と、ブーム31とアーム32とを連結するアームシリンダ320と、アーム32とバケット33とを連結するバケットシリンダ330と、これらの各油圧シリンダ310,320,330へ作動油を導くための複数の配管(不図示)と、を有している。
【0020】
  ブームシリンダ310は、ロッドが伸縮することによってブーム31を旋回体102に対して回動させる。アームシリンダ320は、ロッドが伸縮することによってアーム32をブーム31に対して回動させる。バケットシリンダ330は、ロッドが伸縮することによってバケット33をアーム32に対して回動させる。
【0021】
  また、油圧ショベル1は、GNSSアンテナ41と、車体IMU42と、ブームIMU43Aと、アームIMU43Bと、バケットIMU43Cと、を備えている。
【0022】
  GNSSアンテナ41は、複数個の測位衛星から送信される信号に基づいて油圧ショベル1の3次元位置(緯度、経度、及び高度)を測定する全地球航法衛星システム(Global  Navigation  Satellite  System;GNSS)を採用したアンテナであり、旋回体102の上部に対をなして立設されている。このGNSSアンテナ41は、旋回体102の向いている方向及び位置を含む位置情報を測定するためのアンテナである。
【0023】
  車体IMU42は、車体の3次元の角速度及び加速度を検出する慣性計測装置(Inertial  Measurement  Unit;IMU)であり、例えば運転室21の前部に取り付けられている。この車体IMU42は、旋回体102の旋回角速度ωを検出する角速度センサの一態様であると共に、車体の傾斜角度(姿勢)を検出する傾斜角センサの一態様でもある。
【0024】
  ブームIMU43Aは、ブーム31の3次元の角速度及び加速度を検出する慣性計測装置であり、ブーム31の側部に取り付けられている。アームIMU43Bは、アーム32の3次元の角速度及び加速度を検出する慣性計測装置であり、アーム32の側部に取り付けられている。バケットIMU43Cは、バケット33の3次元の角速度及び加速度を検出する慣性計測装置であり、バケットシリンダ330のロッド側の先端部に取り付けられている。
【0025】
  これらブームIMU43A、アームIMU43B、及びバケットIMU43Cは、フロント作業機103の姿勢を検出する姿勢センサの一態様である。なお、以下の説明において、「ブームIMU43A、アームIMU43B、及びバケットIMU43C」をまとめて「フロントIMU43A,43B,43C」とする。
【0026】
(旋回体102の旋回動作について)
  次に、旋回体102の旋回動作について、
図2を参照して説明する。
 
【0027】
  図2は、油圧ショベル1における旋回体102の旋回動作に係る油圧回路及び電気回路の構成を示す図である。
 
【0028】
  旋回体102の旋回動作に係る油圧回路は、エンジン231により駆動されるメインポンプ232及びパイロットポンプ233と、作動油を貯蔵する作動油タンク234と、旋回体102を駆動する旋回モータ24と、旋回モータ24に供給される作動油の流れ(方向及び流量)を制御する方向制御弁241と、方向制御弁241に作用されるパイロット圧を生成する一対のパイロット弁242A,242Bと、を含んで構成されている。
【0029】
  メインポンプ232は、可変容量型の油圧ポンプであり、作動油タンク234から作動油を吸入して旋回モータ24に供給する。本実施形態では、旋回モータ24に供給される作動油の温度を検出する温度センサ45が、メインポンプ232の吐出側に設けられており、温度センサ45で検出された検出値がコントローラ5に入力される。
【0030】
  パイロットポンプ233は、固定容量型の油圧ポンプであり、作動油タンク234から作動油を吸入して方向制御弁241の一対の受圧室241X,241Yにそれぞれ供給する。本実施形態では、パイロットポンプ233の吐出側にリリーフ弁235が設けられており、パイロットポンプ233の吐出圧が所定の設定圧を超えた場合に過剰圧を作動油タンク234にリリーフさせている。
【0031】
  方向制御弁241は、メインポンプ232と旋回モータ24との間に設けられたタンデムセンタ型のスプール弁であり、旋回モータ24を一方向に回転させる第1切換位置241Aと、メインポンプ232と作動油タンク234とを連通させてメインポンプ232から吐出された作動油を作動油タンク234へ戻す中立位置241Nと、旋回モータ24を他方向に回転させる第2切換位置241Bと、を有している。
【0032】
  第1切換位置241Aと、中立位置241Nと、第2切換位置241Bとは、一対の受圧室241X,241Yのそれぞれに作用するパイロット圧の大きさに応じて内部スプールがストロークすることにより切り換わる。これにより、メインポンプ232から旋回モータ24へ供給される作動油の流れが制御される。
【0033】
  一対のパイロット弁242A,242Bはいずれも、電磁比例弁であり、方向制御弁241の各受圧室241X,241Yと作動油タンク234とを連通させる閉位置242Xと、パイロットポンプ233と方向制御弁241の各受圧室241X,241Yとを連通させる開位置242Yと、を有している。
【0034】
  オペレータが操作レバー211を操作すると、その操作方向及び操作量に基づいた電気信号である操作信号がコントローラ5を介して一対のパイロット弁242A,242Bに対してそれぞれ出力される。一対のパイロット弁242A,242Bはそれぞれ、コントローラ5から出力された電流値に比例した開度で開弁、すなわち閉位置242Xから開位置242Yへ切り換わり、当該開度に応じた大きさのパイロット圧が生成されて方向制御弁241の一対の受圧室241X,241Yのそれぞれに作用される。生成されたパイロット圧はそれぞれ、各一対のパイロット弁242A,242Bと各受圧室241X,241Yとの間に設けられた圧力センサ44A,44Bで検出される。
【0035】
  一方のパイロット弁242Aで生成されて方向制御弁241の一方の受圧室241Xに作用されたパイロット圧が、他方のパイロット弁242Bで生成されて方向制御弁241の他方の受圧室241Yに作用されたパイロット圧よりも大きい場合には、方向制御弁241は第1切換位置241Aに切り換わり、旋回モータ24は一方向に回転する。これにより、旋回体102は一方向に旋回する。
【0036】
  反対に、他方のパイロット弁242Bで生成されて方向制御弁241の他方の受圧室241Yに作用されたパイロット圧が、一方のパイロット弁242Aで生成されて方向制御弁241の一方の受圧室241Xに作用されたパイロット圧よりも大きい場合には、方向制御弁241は第2切換位置241Bに切り換わり、旋回モータ24は他方向に回転する。これにより、旋回体102は他方向に旋回する。
【0037】
  また、一対のパイロット弁242A,242Bで生成されるパイロット圧が、いずれも0MPaとなった場合には、方向制御弁241は中立位置241Nに切り換わり、メインポンプ232からの作動油が旋回モータ24へ供給されなくなるため、旋回モータ24は停止する。これにより、旋回体102は旋回動作を停止する。
【0038】
  ここで、油圧ショベル1において、旋回している旋回体102を作業対象(掘削対象)に正対させる場合、旋回体102は、コントローラ5から旋回動作を停止させるための指令信号が出力された後も慣性によりしばらく旋回し続ける。したがって、コントローラ5は、旋回体102の慣性によって生じる旋回角度θ(以下、「旋回流れ角度θ」とする)を加味した上で、旋回動作を停止させるための指令信号を出力する必要がある。
【0039】
  そこで、コントローラ5は、車体IMU42からの検出データに基づいて旋回流れ角度θを演算し、目標とする停止位置に精度よく停止するための減速開始タイミング(旋回動作を停止させるための指令信号を出力するタイミング)を推定している。なお、「目標とする停止位置」とは、油圧ショベル1の作業対象のうち旋回体102を正対させる目標作業面の位置であり、以下では単に「目標位置」とする。旋回流れ角度θは、次の演算方法により演算される。
【0040】
  旋回体102の旋回角速度をω[deg/s]とし、慣性モーメントをJ[kg・m2]とすると、旋回体102の運動エネルギーはJω2/2[J]で表される。一方、旋回体102が旋回モータ24から受けるトルクをTq[N・m]とし、トルクTq[N・m]を受けて旋回体102が完全に停止するまでに旋回した旋回量、すなわち旋回流れ量をθ[deg]とすると、旋回モータ24が行った仕事はTq・θ[J]で表される。
【0041】
  ここで、旋回体102の減速中において、旋回体102の運動エネルギーが熱等のエネルギーに変換される量が無視できるほど微小であると仮定すると、旋回体102の運動エネルギーは旋回モータ24が行った仕事と等しくなり、以下の数式(1)が得られる。
            【数1】
          
【0042】
  なお、旋回モータ24の吐出圧をΔP(=吐出側の圧力P2-吸込側の圧力P1)[MPa]とし、旋回モータ24の容量をQ
SW[cm
3/rev]とすると、旋回モータ24からのトルクTq[N・m]は、以下の数式(2)で表される。
            
【数2】
          
【0043】
  旋回体102を停止させる場合には、旋回モータ24の吸込側の圧力P1が0となって吐出側の圧力P2が高くなるため、旋回モータ24の吐出圧ΔPをリリーフ圧(一定値)として仮定することができる。したがって、数式(2)に示す旋回モータ24からのトルクTqは一定値Tcとなり、旋回流れ角度θは、以下の数式(3)で表されるように、旋回角速度ωの2乗に比例し、かつ旋回体102の慣性モーメントJに比例する。
            【数3】
          
【0044】
  また、旋回体102の慣性モーメントJは、フロント作業機103の姿勢によって変動するが、代表とする基本的なフロント作業機103の姿勢を予め定めることにより、数式(3)における慣性モーメントJに所定のフロント作業機103の姿勢における慣性モーメントJc(一定値)を用いることができる。これにより、旋回流れ角度θの演算式は、以下の数式(4)で表されるように単純化される。
            【数4】
          
【0045】
  そして、コントローラ5は、GNSSアンテナ41で測定された位置情報から目標位置までの目標旋回角度α(以下、単に「目標旋回角度α」とする)が、数式(4)により演算された旋回流れ角度θとなった場合に、パイロット圧が0MPaとなるように一対のパイロット弁242A,242Bに対してそれぞれ制御信号(旋回動作を停止させるための制御信号)を出力する。これにより、油圧ショベル1では、オペレータの熟練度や慣性の影響に依らず、旋回体102を精度よく目標位置に正対させることが可能となっている。
【0046】
  なお、数式(3)における慣性モーメントJをフロント作業機103の姿勢に応じて変化させてもよく、この場合には、数式(4)における比例定数Cの値がフロントIMU43A,43B,43Cで検出されたフロント作業機103の姿勢に応じて変化する。これにより、実際のフロント作業機103の姿勢を考慮した旋回流れ角度θを演算することができ、旋回体102をより精度よく目標位置に正対させることができる。
【0047】
(コントローラ5の構成)
  次に、コントローラ5の構成について、
図3及び
図4を参照して説明する。
 
【0048】
  図3は、コントローラ5が有する機能の構成を示す機能ブロック図である。
図4は、コントローラ5内で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
 
【0049】
  コントローラ5は、CPU、RAM、ROM、入力I/F、及び出力I/Fがバスを介して互いに接続されて構成されており、一対のパイロット弁242A,242Bをそれぞれ制御して旋回体102(
図1参照)の旋回動作を自動で開始及び停止させる。
図3に示すように、GNSSアンテナ41や車体IMU42及びフロントIMU43A,43B,43Cといった各種センサ等が入力I/Fに接続され、操作レバー211や一対のパイロット弁242A,242B等が出力I/Fに接続されている。
 
【0050】
  このようなハードウェア構成において、ROMや光学ディスク等の記録媒体に格納された制御プログラム(ソフトウェア)をCPUが読み出してRAM上に展開し、展開された制御プログラムを実行することにより、制御プログラムとハードウェアとが協働して、コントローラ5の機能を実現する。
【0051】
  なお、本実施形態では、コントローラ5をソフトウェアとハードウェアとの組み合わせによって構成されるコンピュータとして説明しているが、これに限らず、他のコンピュータの構成の一例として、油圧ショベル1の側で実行される制御プログラムの機能を実現する集積回路を用いてもよい。
【0052】
  コントローラ5は、データ取得部51と、記憶部52と、演算部53と、判定部54と、制御部55と、を含む。
【0053】
  データ取得部51は、GNSSアンテナ41により測定された油圧ショベル1(旋回体102)の位置情報、車体IMU42で検出された旋回体102の旋回角速度ω及び車体の傾斜角度β、フロントIMU43A,43B,43Cで検出されたフロント作業機103の姿勢、圧力センサ44A,44Bで検出された圧力値、ならびに温度センサ45で検出された温度に関するデータをそれぞれ取得する。
【0054】
  本実施形態では、操作レバー211は、操作レバー211による操作を無効とし、コントローラ5による旋回体102の旋回動作を自動で開始及び停止させるスイッチ211Aを有しており、データ取得部51は、このスイッチ211Aからの操作信号を取得する。スイッチ211Aが操作レバー211に設けられていることにより、オペレータによる手動での旋回操作からコントローラ5による自動旋回制御への切換作業がしやすくなっている。
【0055】
  また、本実施形態では、油圧ショベル1は、一対のパイロット弁242A,242Bで生成されるパイロット圧を検出する圧力センサ44と、旋回モータ24に供給される作動油の温度を検出する温度センサ45と、を有しており、データ取得部51は、圧力センサ44で検出された圧力値、及び温度センサ45で検出された温度に関するデータを取得する。
【0056】
  記憶部52は、目標位置記憶部52Aと、閾値記憶部52Bと、を含む。目標位置記憶部52Aは、オペレータにより予め設定された目標位置を記憶する。例えば、運転室21内にはモニタ212が設けられており、そのモニタ212には油圧ショベル1の作業対象の形状を示す設計面の情報(地図情報等)が表示される。オペレータは、モニタ212に表示された設計面の中から目標形状とする施工設計面を選択する。これにより、目標位置が設定されて目標位置記憶部52Aに記憶される。
【0057】
  閾値記憶部52Bは、コントローラ5の制御により旋回体102の旋回動作を自動で開始させる旋回角度である第1閾値αth、コントローラ5の制御により旋回体102の旋回動作を自動で開始させる車体の傾斜角度である第2閾値βth、及びコントローラ5の制御により旋回体102の旋回動作を自動で開始させる作動油の温度である第3閾値Tthのそれぞれを記憶する。
【0058】
  演算部53は、GNSSアンテナ41により測定された旋回体102の位置情報及び目標位置記憶部52Aに記憶された目標位置に基づいて目標旋回角度αを演算する。また、演算部53は、車体IMU42で検出された旋回体102の角速度ωに基づいて旋回流れ角度θを演算する。
【0059】
  判定部54は、減速開始位置判定部54Aと、条件判定部54Bと、を含む。減速開始位置判定部54Aは、演算部53で演算された目標旋回角度α及び旋回流れ角度θに基づいて、位置情報が旋回体102の減速開始位置であるか否かを判定する。具体的には、減速開始位置判定部54Aは、目標旋回角度α-旋回流れ角度θ=0であるか否かを判定する。なお、コントローラ5の制御プログラム上の誤差を考慮すると、実際には、減速開始位置判定部54Aは、目標旋回角度α-旋回流れ角度θ≦0であるか否かを判定すればよい。
【0060】
  条件判定部54Bは、予め定められた第1条件、第2条件、及び第3条件のそれぞれを満たすか否かを判定する。ここで、「第1条件」とは、演算部53で演算された目標旋回角度αが、閾値記憶部52Bに記憶された第1閾値αth以上となる条件(α≧αth)である。「第2条件」とは、車体IMU42で検出された車体の傾斜角度βが、閾値記憶部52Bに記憶された第2閾値βth以下となる条件(β≦βth)である。「第3条件」とは、温度センサ45で検出された温度Tが、閾値記憶部52Bに記憶された第3閾値Tth以上となる条件(T≧Tth)である。
【0061】
  制御部55は、レバー制御部55Aと、パイロット圧制御部55Bと、表示制御部55Cと、を含む。レバー制御部55Aは、操作レバー211からの入力量を後述するパイロット圧制御部55Bに出力する。また、レバー制御部55Aは、データ取得部51にてスイッチ211Aからの操作信号(ON信号)を取得した場合、操作レバー211の操作を無効とするための制御信号を後述するパイロット圧制御部55Bに対して出力し、操作レバー211からの入力量を無効とする。
【0062】
  パイロット圧制御部55Bは、減速開始位置判定部54Aにて位置情報が旋回体102の減速開始位置でないと判定された場合に、旋回動作に必要なパイロット圧に制御するための制御信号を一対のパイロット弁242A,242Bのそれぞれに対して出力する。これにより、旋回体102は、パイロット圧制御部55Bから出力された制御信号に基づいた旋回動作を開始する。
【0063】
  一方、減速開始位置判定部54Aにて位置情報が旋回体102の減速開始位置であると判定された場合には、パイロット圧制御部55Bは、パイロット圧を0MPaに制御するための制御信号を一対のパイロット弁242A,242Bのそれぞれに対して出力する。これにより、旋回体102は、パイロット圧制御部55Bから出力された制御信号に基づいて減速し始め、慣性による旋回後に停止する。
【0064】
  表示制御部55Cは、GNSSアンテナ41により測定された位置情報が目標位置であると判定された場合に、旋回体102が目標位置で停止した旨を表示させるための信号をモニタ212に対して出力する。
【0065】
  また、表示制御部55Cは、条件判定部54Bにて、スイッチ211Aが有効(ON状態)であって、かつ少なくとも第1条件、第2条件、及び第3条件のうちいずれかを満たさないと判定された場合に、旋回体102の旋回動作を自動で行わない旨を表示させるための信号をモニタ212に対して出力する。
【0066】
  また、表示制御部55Cは、パイロット圧制御部55Bが一対のパイロット弁242A,242Bをそれぞれ制御して旋回体102の旋回動作を自動で開始させた場合に、旋回体102の旋回動作が自動で行われている旨を表示させるための信号をモニタ212に対して出力する。
【0067】
  すなわち、モニタ212は、コントローラ5(表示制御部55C)の制御によって、旋回体102が目標位置で停止した旨、旋回体102の旋回動作を自動で行わない旨、及び旋回体102の旋回動作が自動で行われている旨をそれぞれ報知する報知装置の一態様である。なお、オペレータへの報知方法は、必ずしもモニタ212における表示である必要はなく、例えばアラーム等であってもよい。
【0068】
  図4に示すように、コントローラ5は、まず、スイッチ211AがON状態、すなわち有効になったか否かを判定する(ステップS501)。ステップS501においてスイッチ211AがON状態になった場合(ステップS501/YES)、すなわち、データ取得部51がスイッチ211Aから操作信号を取得した場合、レバー制御部55Aは、操作レバー211からの入力量を無効とする(ステップS502)。
 
【0069】
  一方、ステップS501においてスイッチ211AがON状態にならなかった場合(ステップS501/NO)、すなわちスイッチ211AがOFF状態(無効)のままであり、データ取得部51がスイッチ211Aからの操作信号を取得していない場合、コントローラ5による旋回体102の自動旋回に係る制御は行われずに処理が終了する。
【0070】
  ステップS502にて操作レバー211の操作が無効になると、データ取得部51は、車体の現在の状態、すなわちコントローラ5の制御による旋回体102の自動旋回を開始する前の車体の初期状態を取得する(ステップS503)。具体的には、ステップS503において、データ取得部51は、GNSSアンテナ41により測定された初期の油圧ショベル1の位置情報(以下、「初期位置情報」とする)、車体IMU42で検出された車体全体の傾斜角度β及び旋回角速度ω、ならびに温度センサ45で検出された旋回モータ24に供給される作動油の温度Tを、それぞれ取得する。
【0071】
  次に、演算部53は、ステップS503において取得された初期位置情報、及び目標位置記憶部52Aに記憶された目標位置に基づいて、初期目標旋回角度α0を演算する(ステップS504)。そして、条件判定部54Bは、ステップS504において演算された初期目標旋回角度α0が第1閾値αth以上である第1条件を満たすか否かを判定する(ステップS505)。
【0072】
  ステップS505において第1条件を満たす(α0≧αth)と判定された場合(ステップS505/YES)、条件判定部54Bは、ステップS503において取得された車体全体の傾斜角度βが第2閾値βth以下である第2条件を満たすか否かを判定する(ステップS506)。
【0073】
  ステップS506において第2条件を満たす(β≦βth)と判定された場合(ステップS506/YES)、条件判定部54Bは、ステップS503において取得された作動油の温度Tが第3閾値Tth以上である第3条件を満たすか否かを判定する(ステップS507)。
【0074】
  ステップS507において第3条件を満たす(T≧Tth)と判定された場合(ステップS507/YES)、演算部53は、ステップS503において取得された旋回角速度ωに基づいて旋回流れ角度θ(=Cω2)を演算する(ステップS508)。
【0075】
  次に、減速開始位置判定部54Aは、ステップS504において演算された初期目標旋回角度α0、及びステップS508において演算された旋回流れ角度θに基づいて、初期位置情報が旋回体102の減速開始位置であるか否かを判定する(ステップS509)。
【0076】
  ここで、油圧ショベル1の初期状態では、油圧ショベル1の位置(初期位置)は当然に旋回体102の減速開始位置とはならないため、ステップS509において減速開始位置ではないと判定され(ステップS509/NO)、データ取得部51が、圧力センサ44A,44Bで検出されたパイロット圧を取得する(ステップS510)。
【0077】
  次に、パイロット圧制御部55Bは、ステップS510で取得されたパイロット圧に基づいて、一対のパイロット弁242A,242Bをそれぞれ制御して旋回体102の旋回動作を自動で開始させる(ステップS511)。これにより、旋回体102は、目標位置に向けて自動で旋回する。
【0078】
  本実施形態では、パイロット圧制御部55Bが一対のパイロット弁242A,242Bをそれぞれ制御して旋回体102の旋回動作を自動で開始させると、表示制御部55Cは、モニタ212を制御して旋回体102の旋回動作が自動で行われている旨を表示させる(ステップS512)。
【0079】
  次に、データ取得部51は、車体の現在の状態を取得する(ステップS513)。なお、ステップS513では、データ取得部51は、少なくともGNSSアンテナ41により測定された油圧ショベル1の現在の位置情報を取得すればよい。
【0080】
  次に、演算部53は、ステップS514において取得された車体の現在の状態に基づいて、現在目標旋回角度α1を演算し(ステップS514)、ステップS508へ進む。このように、コントローラ5は、ステップS509において油圧ショベル1の位置情報が減速開始位置であると判定される(ステップS509/YES)まで、旋回体102を自動で旋回させる。
【0081】
  ステップS509において油圧ショベル1の位置情報が減速開始位置であると判定された場合(ステップS509/YES)、パイロット圧制御部55Bは、一対のパイロット弁242A,242Bをそれぞれ制御してパイロット圧を0MPaにさせる(ステップS515)。
【0082】
  そして、表示制御部55Cは、モニタ212を制御して旋回体102が目標位置で停止した旨を表示させて(ステップS516)、コントローラ5における処理を終了する。
【0083】
  このように、コントローラ5では、旋回流れ角度θを演算し、演算された旋回流れ角度θを加味した位置(旋回角度)で旋回体102の減速を開始させる制御を行っているため、オペレータの熟練度や慣性の影響に依らず、旋回体102を精度よく目標位置に正対させることができる。
【0084】
  ここで、ステップS505において第1条件を満たさない(α0<αth)場合(ステップS505/NO)、ステップS506において第2条件を満たさない(β>βth)場合(ステップS505/NO)、及びステップS507において第3条件を満たさない(T<Tth)場合(ステップS507/NO)、表示制御部55Cは、ステップS501においてスイッチ211AがON状態であっても、モニタ212を制御して旋回体102の旋回動作を自動で行わない旨を表示させて(ステップS517)、コントローラ5における処理を終了する。
【0085】
  このように、油圧ショベル1の初期状態において、コントローラ5の制御による旋回体102の旋回動作が自動で行われる前の初期位置が目標位置に近い場合、車体の傾きが大きい場合、及び旋回モータ24に供給される作動油の温度が低温である場合のうち少なくともいずれかに該当した場合、スイッチ211Aが有効であっても、コントローラ5の制御により旋回体102の旋回動作が自動で行われないことにより、コントローラ5による旋回体102の自動旋回を必要最低限で実行することができ、作業の効率化が図れる。
【0086】
  本実施形態では、旋回体102が目標位置で停止した旨、スイッチ211Aが有効であってもコントローラ5による旋回体102の自動旋回を実行しない旨、及び旋回体102が自動旋回中である旨をそれぞれモニタ212に表示させることにより、オペレータは随時、旋回体102の旋回状況を把握することができる。
【0087】
  以上、本発明の実施形態について説明した。なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、本実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。またさらに、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0088】
  例えば、上記実施形態では、条件判定部54Bは、第1条件、第2条件、及び第3条件の3つの条件全てについて判定しているが、これに限らず、いずれか1つの条件を判定してもよいし、いずれか2つの条件を判定してもよい。
【0089】
  また、上記実施形態では、GNSSアンテナ41を用いて旋回体102の向いている方向及び位置を検出していたが、必ずしもGNSSアンテナ41を用いる必要はなく、他の検出機器や検出方法を用いてもよい。
【0090】
  また、上記実施形態では、IMU(車体IMU42及びフロントIMU43A,43B,43C)を用いて油圧ショベル1の角速度や傾き(姿勢)を検出していたが、必ずしもIMUを用いる必要はなく、他の検出機器や検出方法を用いてもよい。
【0091】
  また、上記実施形態では、モニタ212に表示された目標設計面の情報(地図情報)に基づいて目標位置を設定していたが、これに限らず、他の方法により目標位置を設定してもよい。
【符号の説明】
【0092】
1:油圧ショベル(建設機械)
5:コントローラ
24:旋回モータ
41:GNSSアンテナ(アンテナ)
42:車体IMU(角速度センサ、傾斜角センサ)
43A,43B,43C:フロントIMU(姿勢センサ)
45:温度センサ
101:走行体
102:旋回体
103:フロント作業機
211:操作レバー(操作装置)
211A:スイッチ
212:モニタ(報知装置)
241:パイロット弁
242:方向制御弁
αth:第1閾値
βth:第2閾値
Tth:第3閾値