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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-14
(54)【発明の名称】搬送システム
(51)【国際特許分類】
   B62D 65/18 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
B62D65/18 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020569915
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2020046343
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000149790
【氏名又は名称】株式会社大気社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】西原 重善
(72)【発明者】
【氏名】金剛 光洙
(72)【発明者】
【氏名】牧 岳二
【審査官】諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-339068(JP,A)
【文献】特開2011-216007(JP,A)
【文献】特開2017-053082(JP,A)
【文献】特開2012-121650(JP,A)
【文献】特開2010-055415(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0035783(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61B 13/00
B62D 65/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体を載置可能な台車と、
前記台車と結合可能な少なくとも二台の自律搬送ロボットと、
前記自律搬送ロボットの走行を制御可能な制御装置と、を備え、
前記台車と前記二台の自律搬送ロボットとが結合されているときに、前記自律搬送ロボットの駆動力によって、前記台車および前記自律搬送ロボットが一体となって走行でき
前記自律搬送ロボットは、
自身の走行速度を検知可能な速度計と、
自身が前記台車と結合されているときに、自身の進行方向と前記台車の長手方向とがなす角の角度を検知可能な角度計と、を有し、
前記制御装置は、
前記台車が走行するべき想定経路を設定する経路設定機能と、
当該台車が前記想定経路を走行するように、当該台車と結合されている前記二台の自律搬送ロボットのそれぞれの走行を制御する走行制御機能と、
前記走行速度および前記角度を取得する取得機能と、
を実行可能なコンピュータを含み、
前記走行制御機能において、
前記二台の自律搬送ロボットのそれぞれについて取得した前記角度に基づいて、当該角度を取得した瞬間における前記台車の回転中心を特定する中心特定処理と、
前記二台の自律搬送ロボットのそれぞれについて、前記回転中心からの距離を特定する半径特定処理と、
前記二台の自律搬送ロボットのそれぞれに係る前記回転中心からの前記距離に基づいて、前記二台の自律搬送ロボットのそれぞれの前記走行速度を制御する速度制御処理と、
を実行する搬送システム。
【請求項2】
前記自律搬送ロボットは、軸部材を有し、
前記台車は、前記軸部材を受容可能な軸受部材を有し、
前記台車と前記自律搬送ロボットとの結合は、前記軸部材が前記軸受部材に収容されることによって実現される請求項1に記載の搬送システム。
【請求項3】
前記軸受部材は、前記軸部材を回転自在に収容可能である請求項に記載の搬送システム。
【請求項4】
前記台車は、車輪と、当該車輪を制動可能な制動器と、をさらに有し、
前記制動器は、前記軸部材が前記軸受部材に収容されているときに、前記車輪を制動しない姿勢を取る請求項2または3に記載の搬送システム。
【請求項5】
車体を載置可能な台車と、
前記台車と結合可能な少なくとも二台の自律搬送ロボットと、を備え、
前記台車と前記二台の自律搬送ロボットとが結合されているときに、前記自律搬送ロボットの駆動力によって、前記台車および前記自律搬送ロボットが一体となって走行でき、
前記自律搬送ロボットは、軸部材を有し、
前記台車は、前記軸部材を受容可能な軸受部材と、車輪と、当該車輪を制動可能な制動器と、を有し、
前記台車と前記自律搬送ロボットとの結合は、前記軸部材が前記軸受部材に収容されることによって実現され、
前記制動器は、前記軸部材が前記軸受部材に収容されているときに、前記車輪を制動しない姿勢を取る搬送システム。
【請求項6】
前記自律搬送ロボットの走行を制御可能な制御装置をさらに備え、
前記制御装置は、
前記台車が走行するべき想定経路を設定する経路設定機能と、
当該台車が前記想定経路を走行するように、当該台車と結合されている前記二台の自律搬送ロボットのそれぞれの走行を制御する走行制御機能と、
を実行可能なコンピュータを含む請求項5に記載の搬送システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送システムに関し、特に、車体の搬送に適した搬送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車体を取り扱う工場等では、従来、複数の工程間にわたって車体を搬送する際に、軌道を有する搬送装置を用いることが一般的である。かかる搬送装置としては、フリクションコンベア、オーバーヘッドコンベア、フロアコンベアなどのコンベア装置が典型的である。上記に例示されるような軌道を有する搬送装置を用いる場合、車体の搬送経路があらかじめ定められているため、工程の順序を変更することが難しかった。
【0003】
そこで、自走可能な搬送装置を用いて、自由な軌道で車体を搬送することが試みられている。たとえば、特開2020-524109号公報(特許文献1)には、車体を載せて搬送する複数の無軌道式搬送台車を備える無人搬送システムが開示されている。特許文献1の発明によれば、複数の搬送台車が互いに独立に、任意の経路で移動できるので、工程の順序を変更しやすい。また、米国特許出願公開第2020/0164937号明細書(特許文献2)には、車体の一時置き場において稼働する自走搬送車が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-524109号公報(または、米国特許出願公開第2020/0216130号明細書)
【文献】米国特許出願公開第2020/0164937号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2の技術では、搬送対象とする車体の平面図寸法に近い平面図寸法を有する搬送装置が用いられていた。そのため、搬送装置が走行するためには、車体が走行可能な程度の通路を確保する必要があった。また、搬送装置を保管するために相当な面積を確保する必要があった。すなわち従来の技術は、システムの運用に要する面積が過大になるおそれがあった。
【0006】
そこで、従来技術に比べて、システムの運用に要する面積を低減可能な搬送システムの実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る第一の搬送システムは、車体を載置可能な台車と、前記台車と結合可能な少なくとも二台の自律搬送ロボットと、前記自律搬送ロボットの走行を制御可能な制御装置と、を備え、前記台車と前記二台の自律搬送ロボットとが結合されているときに、前記自律搬送ロボットの駆動力によって、前記台車および前記自律搬送ロボットが一体となって走行でき、前記自律搬送ロボットは、自身の走行速度を検知可能な速度計と、自身が前記台車と結合されているときに、自身の進行方向と前記台車の長手方向とがなす角の角度を検知可能な角度計と、を有し、前記制御装置は、前記台車が走行するべき想定経路を設定する経路設定機能と、当該台車が前記想定経路を走行するように、当該台車と結合されている前記二台の自律搬送ロボットのそれぞれの走行を制御する走行制御機能と、前記走行速度および前記角度を取得する取得機能と、を実行可能なコンピュータを含み、前記走行制御機能において、前記二台の自律搬送ロボットのそれぞれについて取得した前記角度に基づいて、当該角度を取得した瞬間における前記台車の回転中心を特定する中心特定処理と、前記二台の自律搬送ロボットのそれぞれについて、前記回転中心からの距離を特定する半径特定処理と、前記二台の自律搬送ロボットのそれぞれに係る前記回転中心からの前記距離に基づいて、前記二台の自律搬送ロボットのそれぞれの前記走行速度を制御する速度制御処理と、を実行することを特徴とする。
本発明に係る第二の搬送システムは、車体を載置可能な台車と、前記台車と結合可能な少なくとも二台の自律搬送ロボットと、を備え、前記台車と前記二台の自律搬送ロボットとが結合されているときに、前記自律搬送ロボットの駆動力によって、前記台車および前記自律搬送ロボットが一体となって走行でき、前記自律搬送ロボットは、軸部材を有し、前記台車は、前記軸部材を受容可能な軸受部材と、車輪と、当該車輪を制動可能な制動器と、を有し、前記台車と前記自律搬送ロボットとの結合は、前記軸部材が前記軸受部材に収容されることによって実現され、前記軸受部材は、前記軸部材を回転自在に収容可能であり、前記制動器は、前記軸部材が前記軸受部材に収容されているときに、前記車輪を制動しない姿勢を取ることを特徴とする。
【0008】
第一の搬送システムによれば、一台の車体を載置した台車に対して二台の自律搬送ロボットが結合可能な構成としてあるので、自律搬送ロボット一台あたりの寸法および出力を従来技術に比べて低減しうる。これによって、従来技術に比べて、システムの運用に要する面積を低減できる。また、自律搬送ロボットが自律的に想定経路を設定するとともに、当該想定経路を走行するように自身の走行を制御するので、車体の搬送を高度に自動化しうる。加えて、二台の自律搬送ロボットの制御が協働的に行われるので、想定経路に対する追随性が向上しうる。
第二の搬送システムによれば、一台の車体を載置した台車に対して二台の自律搬送ロボットが結合可能な構成としてあるので、自律搬送ロボット一台あたりの寸法および出力を従来技術に比べて低減しうる。これによって、従来技術に比べて、システムの運用に要する面積を低減できる。また、台車に対して自律搬送ロボットが結合していないときに、台車の移動が規制されるので、移動することが予定されていない台車が不意に移動することが防止される。
【0009】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0010】
本発明に係る第二の搬送システムは、一態様として、前記自律搬送ロボットの走行を制御可能な制御装置をさらに備え、前記制御装置は、前記台車が走行するべき想定経路を設定する経路設定機能と、当該台車が前記想定経路を走行するように、当該台車と結合されている前記二台の自律搬送ロボットのそれぞれの走行を制御する走行制御機能と、を実行可能なコンピュータを含むことが好ましい。
【0011】
この構成によれば、自律搬送ロボットが自律的に想定経路を設定するとともに、当該想定経路を走行するように自身の走行を制御するので、車体の搬送を高度に自動化しうる。
【0014】
本発明に係る第一の搬送システムは、一態様として、前記自律搬送ロボットは、軸部材を有し、前記台車は、前記軸部材を受容可能な軸受部材を有し、前記台車と前記自律搬送ロボットとの結合は、前記軸部材が前記軸受部材に収容されることによって実現されることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、台車と自律搬送ロボットとの結合および結合解除を、比較的簡単な構造により実現できる。
【0016】
本発明に係る第一の搬送システムは、一態様として、前記軸受部材は、前記軸部材を回転自在に収容可能であることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、台車に対して自律搬送ロボットが回転自在に結合できる。これによって、台車を前後左右に自在に走行させることができる。
【0018】
本発明に係る第一の搬送システムは、一態様として、前記台車は、車輪と、当該車輪を制動可能な制動器と、をさらに有し、前記制動器は、前記軸部材が前記軸受部材に収容されているときに、前記車輪を制動しない姿勢を取ることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、台車に対して自律搬送ロボットが結合していないときに、台車の移動が規制されるので、移動することが予定されていない台車が不意に移動することが防止される。
【0020】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係る搬送システム(車体が載置された状態)の斜視図である。
図2】実施形態に係る搬送システム(車体が載置されていない状態)の斜視図である。
図3】実施形態に係る制動器の制動姿勢および軸部材ユニットの引退姿勢を説明する模式図である。
図4】実施形態に係る制動器の制動解除姿勢および軸部材ユニットの突出姿勢を説明する模式図である。
図5】実施形態に係る自律搬送ロボットの側面断面図である。
図6】実施形態に係る自律搬送ロボットの制御システムを示すブロック図である。
図7】実施形態に係る台車がカーブ走行するときの制御方法を説明する図である。
図8】実施形態に係る搬送システムの運用例を示す図である。
図9】実施形態に係る搬送システムの運用例を示す図である。
図10】実施形態に係る搬送システムの運用例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る搬送システムの実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る搬送システムを、塗装工場において塗装対象の車体Bを搬送する搬送システム1に適用した例について説明する。
【0023】
〔搬送システムの構成〕
本実施形態に係る搬送システム1は、台車2と自律搬送ロボット3とを備える(図1図2)。塗装工場の構内には、複数の台車2と、複数の自律搬送ロボット3と、が存在している。なお、複数の台車2のそれぞれは互いに同一の構成であり、複数の自律搬送ロボット3のそれぞれも互いに同一の構成である。
【0024】
車体Bを搬送する際には、車体Bが載置された台車2に対して二台の自律搬送ロボット3が結合し、自律搬送ロボット3の駆動力によって、車体B、台車2、および二台の自律搬送ロボット3が一体となって移動する。そのため、以下の説明では、一台の台車2と、二台の自律搬送ロボット3とを一単位として、搬送システム1の構成を説明する。
【0025】
〔台車の構成〕
台車2は、車体Bを載置可能な台車である。台車2は、車体Bを載置可能なフレーム21と、フレーム21の短手方向に沿って延在する中桟22と、中桟22の下に設けられた車輪23と、車輪23を制動可能な制動器24と、自律搬送ロボット3の軸部材331を収容可能な軸受部材25と、を有する(図2図4)。一台の台車2に対して二台の自律搬送ロボット3が結合可能であることに対応して、軸受部材25は二つ設けられている。
【0026】
フレーム21は、車体Bの形状に対応して略長方形の平面形状を有し、車体Bを支持可能な強度および剛性を有する。以降の説明において、フレーム21の平面形状の車体Bを載置する側の面の側を「上」とし、当該面の反対側を「下」とする。また、この定義に従う上下方向を「垂直方向」とし、垂直方向と直交する方向を「水平方向」とする。
【0027】
中桟22は、いずれもフレーム21の下に設けられており、中桟22の下には車輪23が設けられている。台車2が自律搬送ロボット3と結合していないときは、台車2は中桟22および車輪23によって支持される。中桟22および車輪23の高さ方向寸法の合計を自律搬送ロボット3の高さ方向の寸法より大きくしてあるので、自律搬送ロボット3が、フレーム21の下に形成される空間に進入できる。
【0028】
車輪23は、公知のキャスターが中桟22の下に軸支されたものであり、水平方向に回転自在である。これによって、台車2の走行は水平方向に制限されない。
【0029】
制動器24は、垂直方向に延在する制動棒241と、制動棒241の先端(下端)に設けられた制動板242と、制動棒241を上下動させる連動機構243と、を含む(図3図4)。制動棒241は、フレーム21に設けられた支持部材を貫通している。制動器24は、二つの軸受部材25のうちの一方に近接して設けられており、当該軸受部材25と連動して動作する。
【0030】
連動機構243は、ピン243a、第一棒状部材243b、第一支持部材243c、第二棒状部材243d、第二支持部材243e、およびバネ部材243fを具備する(図3図4)。ピン243a、第一棒状部材243b、第一支持部材243c、第二棒状部材243d、および第二支持部材243e、ならびに制動棒241のうちの二つを接続する接続部分(図3中に五箇所存在する。)は、いずれも回転自在である。バネ部材243fは、第一棒状部材243bと第二棒状部材243dとの接続部分243gを上方向に付勢している。ピン243aは、フレーム21に設けられた穴を貫通して軸受部材25に至っている。
【0031】
軸受部材25は、軸受部材25は、軸部材331およびピン243aを受容可能な貫通孔部を有し、自律搬送ロボット3の軸部材331を、回転自在に収容可能である。具体的には、ボールベアリングなどの公知の軸受部品を介して軸部材331を収容できるように構成されており、当該軸受部品の作用によって軸部材331が回転自在になる。また、軸受部材25は、受容された軸部材331の位置を貫通孔部の中心に位置合わせするための調心装置(不図示)を有する。かかる調心装置は、たとえば円周配置された弾性体(バネ、ゴムなど)として実装されうる。
【0032】
ここで、制動器24の制動姿勢について説明する。軸受部材25が自律搬送ロボット3の軸部材331を収容していない状態では、バネ部材243fの作用によって、第一棒状部材243bと第二棒状部材243dとの接続部分243gが上側位置に配置される(図3)。ここで、第二棒状部材243dは第二支持部材243eによって回転自在に支持されているので、第二棒状部材243dの接続部分243gとは反対側の端部は下方に付勢される。したがって、当該反対側の端部に接続されている制動棒241が下方に付勢され、制動板242が接地面に接地した状態で下方に付勢される。このとき、制動板242と接地面との間に働く摩擦力によって、車輪23が制動される。
【0033】
次に、制動器24の制動解除姿勢について説明する。軸受部材25が自律搬送ロボット3の軸部材331を収容している状態では、軸部材331の先端(上端)が軸受部材25の内部でピン243aと当接し、ピン243aが上方に押し上げられる(図4)。このとき、ピン243aと第一棒状部材243bとの接続部分が上方に押し上げられる。ここで、第一棒状部材243bは第一支持部材243cによって回転自在に支持されているので、第一棒状部材243bの上記接続部分とは反対側の端部である接続部分243gは、バネ部材243fの付勢力に逆らって下方に付勢される。したがって、前段落の説明とは反対に、制動棒241が上方に付勢され、制動板242が接地面から離れる。これによって、車輪23の制動が解除される。
【0034】
このように、制動器24は、自律搬送ロボット3の軸部材331が軸受部材25に収容されているときに、車輪23を制動しない姿勢(制動解除姿勢)を取るように構成されている。制動器24が併設されている方の軸受部材25に自律搬送ロボット3の軸部材331が収容されているときに、制動器24が制動解除姿勢を取り、台車2を走行させることが可能になる。一方、制動器24が併設されている方の軸受部材25に軸部材331が収容されていないときは、制動器24が制動姿勢を取るため、車輪23が制動され、台車2を走行させることができない。これによって、移動することが予定されていない台車2が不意に移動することが防止される。
【0035】
なお、制動器24による車輪23の制動を、手動操作により解除することが可能である。これにより、台車2を手動で移動させる場合などに、軸受部材25に軸部材331を収容させることなく、車輪23の制動を解除できる。
【0036】
〔自律搬送ロボットの構成〕
自律搬送ロボット3は、二つの駆動装置31と、キャスター32と、軸部材ユニット33と、計器ユニット34と、制御装置35と、バッテリ36と、これらを収容する筐体37と、を備える(図5図6)。駆動装置31、軸部材ユニット33、計器ユニット34、および制御装置35は、バッテリ36からの給電を受けて駆動する。キャスター32は、筐体37の後方側に設けられた非駆動輪である。なお、以降の説明において前後方向に言及する場合、制御装置35が設けられている側を「前」とし、キャスター32が設けられている側を「後」とする。
【0037】
搬送システム1が使用される塗装工場における自律搬送ロボット3の占有面積(すなわち、自律搬送ロボット3の外形の平面図における面積)は、台車2の占有面積(すなわち、台車2の外形の平面図における面積)に比べて、十分に小さくしてある。具体的には、自律搬送ロボット3の占有面積は、台車2の占有面積の半分より小さいことが好ましい。自律搬送ロボット3の占有面積が台車2の占有面積に比して十分に小さいことによって、台車2と自律搬送ロボット3とが結合した状態において小回りが利くとともに、自律搬送ロボット3が待機するために要する敷地面積を低減できる。また、自律搬送ロボット3は、台車2の前後左右どこからでも台車2(フレーム21)の下に形成される空間に進入できる。
【0038】
駆動装置31は、モータ311の回転軸に一つの駆動輪312が取り付けられた構造を有する。二つの駆動装置31(31a、31b)は、それぞれ独立に動作しうる。たとえば、駆動輪312aが前進方向に回転するようにモータ311aを動作させ、駆動輪312bが後退方向に回転するようにモータ311bを動作させると、自律搬送ロボット3はその場で回転する。このように、二つの駆動装置31がそれぞれ独立に動作可能であることによって、自律搬送ロボット3は前後左右に自在に走行できる。
【0039】
軸部材ユニット33は、台車2の軸受部材25と結合可能な軸部材331と、軸部材331を上下に移動させることができるモータ332と、を含む。モータ332の作用によって、軸部材ユニット33は、軸部材331が突出している突出姿勢(図4)と、軸部材331が引退している引退姿勢(図3)と、にわたって姿勢変更が可能である。軸部材ユニット33が突出姿勢を取るとき、軸部材331は台車2の軸受部材25に収容されることができる。一方、軸部材ユニット33が引退姿勢を取るとき、軸部材331は台車2の軸受部材25と干渉しないので、自律搬送ロボット3は台車2のフレーム21の下を自由に走行できる。
【0040】
なお、前述のように、軸部材331が軸受部材25に回転自在に収容されるので、台車2と自律搬送ロボット3とが結合した状態において、自律搬送ロボット3の軸部材331の周りの回転運動が制限されない。これによって、台車2と自律搬送ロボット3とが結合した状態において、台車2が走行する方向を自在に変更できる。
【0041】
計器ユニット34は、速度計341と、角度計342と、カメラ343と、を含む。速度計341は、自律搬送ロボット3の走行速度を検知可能である。角度計342は、自律搬送ロボット3が台車2と結合されているときに、自律搬送ロボット3の進行方向と台車2の長手方向とがなす角の角度を検知可能である。カメラ343は、自律搬送ロボット3の周囲の画像を撮影可能である。
【0042】
制御装置35は、公知のコンピュータとして実装されており、二つの駆動装置31、軸部材ユニット33、および計器ユニット34と電気的に接続されている。また、制御装置35は無線通信装置(不図示)を有しており、異なる自律搬送ロボット3に搭載されている制御装置35間で相互に通信可能であるとともに、ユーザ端末(不図示)などの他のコンピュータからの入力を受付可能である。
【0043】
バッテリ36としては、公知のバッテリを用いることができる。バッテリ36の充電は、塗装工場内に設けられた給電ステーション(不図示)と自律搬送ロボット3とを接続することによって実施できる。本実施形態に係る搬送システム1では、自律搬送ロボット3の大きさが従来技術に比べて小さいので、給電ステーションの規模を低減できる。なお、バッテリ36への給電の方式は、接触式であっても非接触式であってもよい。
【0044】
〔自律搬送ロボットの制御〕
以下では、自律搬送ロボットの制御に関して、制御装置35が実行可能な機能について順に説明する。
【0045】
(1)取得機能
制御装置35は、計器ユニット34が検知した各種の情報を取得する取得機能を実行できる。具体的には、制御装置35は、速度計341が検知した自律搬送ロボット3の走行速度、角度計342が検知した自律搬送ロボット3の進行方向と台車2の長手方向とがなす角の角度、およびカメラ343が撮影した自律搬送ロボット3の周囲の画像を取得できる。
【0046】
(2)経路設定機能
制御装置35は、台車2が走行するべき想定経路を設定する経路設定機能を実行できる。台車2の想定経路の設定にあたっては、ユーザ端末(不図示)から入力される出発地および目的地、カメラ343が撮影した自律搬送ロボット3の周囲の画像、車体Bの寸法などの諸情報が参酌される。
【0047】
(3)走行制御機能
制御装置35は、台車2が上記の想定経路を走行するように、台車2と結合されている自律搬送ロボット3の走行を制御する走行制御機能を実行できる。このとき、それぞれの自律搬送ロボット3に搭載されている制御装置35が、自身が搭載されている自律搬送ロボット3の走行を制御するとともに、同一の台車2に連結されている二台の自律搬送ロボット3が協働した制御も行われる。より具体的には、台車2が想定経路を走行するように、二つの駆動装置31(31a、31b)のそれぞれのモータ311(311a、311b)の回転方向および回転速度を制御する。また、このとき、カメラ343が撮影した画像に基づいて障害物を回避したり、速度計341が検知した走行速度および角度計342が検知した角度に基づいてモータ311の動作をフィードバック制御したりしてもよい。
【0048】
たとえば、台車2が想定経路のカーブ部分を走行するようにする場合、以下のような考え方で制御が行われる。台車2が想定経路のカーブ部分を走行しているとき、前方側の自律搬送ロボット3Aの進行方向と台車2の長手方向とがなす角の角度θ1と、後方側の自律搬送ロボット3Bの進行方向と台車2の長手方向とがなす角の角度θ2とは異なる(図7)。そのため、前方側の自律搬送ロボット3Aの進行方向に直交する直線と、後方側の自律搬送ロボット3Bの進行方向に直行する直線とは交点Oを有する。ここで、交点Oと前方側の自律搬送ロボット3Aとの距離R1と、交点Oと後方側の自律搬送ロボット3Bとの距離R2との比R1/R2が、前方側の自律搬送ロボット3Aの走行速度V1と、後方側の自律搬送ロボット3Bの走行速度V2との比V1/V2と等しくなる場合、台車2は交点Oを中心とする円弧に沿って走行する。
【0049】
以上を念頭に、制御装置35が実行する制御の流れを説明する。なお以下では、一台の台車2と結合している二台の自律搬送ロボット3A、3Bのうち、前方側の自律搬送ロボット3Aの制御装置35Aが主として制御に係る処理を行い、後方側の自律搬送ロボット3Bの制御装置35Bは補助的に働くものとして説明する。
【0050】
まず、制御装置35A、35Bは、角度θ1、θ2をそれぞれ取得する。制御装置35Bは、無線通信装置を介して角度θ2を制御装置35Aに送信する。
【0051】
次に、制御装置35Aは、角度θ1、θ2に基づいて交点Oの位置を特定し(中心特定処理)、これを制御装置35Bに送信する。制御装置35A、35Bは、交点Oの位置に基づいて、距離R1、R2をそれぞれ特定する(半径特定処理)。制御装置35Bは、無線通信装置を介して距離R2を制御装置35Aに送信する。
【0052】
続いて、制御装置35Aは、距離R1、R2に基づいて走行速度の比V1/V2を決定し、これに基づいて二台の自律搬送ロボット3A、3Bの走行速度V1、V2を決定する。なお、走行速度の絶対値は、走行速度についてあらかじめ定められている上限値、駆動装置31の仕様、および台車2に載置されている車体Bの重量、などの条件によって決定づけられる。決定された走行速度V2は、無線通信装置を介して制御装置35Bへ送信される。
【0053】
最後に、制御装置35A、35Bは、決定された走行速度V1、V2に基づいて、それぞれが属する自律搬送ロボット3A、3Bの駆動装置31を制御する(速度制御処理)。このとき、制御装置35A、35Bは、速度計341が取得した走行速度に基づいて、駆動装置31のフィードバック制御を行う。
【0054】
なお、交点Oおよび走行速度V1、V2によって決定づけられる台車2の走行経路が、あらかじめ設定されている想定経路と乖離している場合は、駆動装置31(モータ332)の回転数を調整する。たとえば、実際の走行経路が想定経路の曲線の外側に乖離している場合は、当該曲線の外側に位置するモータ332の回転数を上昇させ、当該曲線の内側に位置するモータ332の回転数を下降させる。このように各モータ332の回転数を変更すると、台車2の走行経路を、当該変更までに走行していた経路の曲線の内側方向に修正できる。なお、このとき、曲線の外側および内側の二台のモータ332の回転数の平均値は、走行速度V1、V2に対応する回転数を維持する。このようにすれば、走行速度V1、V2を維持したまま、台車2の走行経路のみを修正できる。
【0055】
(4)結合機能
制御装置35は、台車2と結合していない自律搬送ロボット3に対して、台車2と結合可能な位置まで走行させるとともに、当該台車2と結合させる結合機能を実行できる。まず、制御装置35は、台車2と結合していない自律搬送ロボット3を、結合予定の台車2の下部まで走行させる。このとき、軸部材ユニット33は引退姿勢である。次に、制御装置35は、台車2の軸受部材25の真下に自律搬送ロボット3の軸部材ユニット33が位置するように、自律搬送ロボット3の位置を調整する。最後に、制御装置35は、軸部材ユニット33の姿勢を、引退姿勢から突出姿勢に変更させる。このとき、軸受部材25の調心装置の働きによって、軸部材331の位置が軸受部材25の貫通孔部の中心に位置合わせされる。以上の手順によって、台車2と自律搬送ロボット3とが結合される。
【0056】
(5)結合解除機能
制御装置35は、台車2と結合している自律搬送ロボット3に対して、台車2との結合を解除させる結合解除機能を実行できる。制御装置35は、台車2と結合している自律搬送ロボット3の軸部材ユニット33の姿勢を、突出姿勢から引退姿勢に変更させる。これによって、台車2と自律搬送ロボット3との結合が解除される。結合が解除された自律搬送ロボット3に対しては、続いて結合機能が実行されてもよく、当該自律搬送ロボット3は次に搬送する予定の台車2に向けて走行を開始する。また、次に搬送する予定の台車2が存在しない場合は、自律搬送ロボット3を待機位置まで走行させる。
【0057】
〔搬送システムの運用〕
最後に、上記の実施形態に係る搬送システム1を用いて実現可能な、好ましい運用の形態について説明する。
【0058】
(1)車体の集積
自律搬送ロボット3は、フレーム21の下側の空間に完全に収容される態様で、台車2と結合できる。そのため、台車2の周囲に、自律搬送ロボット3と結合するための空地を要しない。これによって、塗装工場において、台車2に載置された車体Bを高密度に集積できる(図8)。
【0059】
(2)搬送方式の併用
塗装工場における車体Bの搬送を、搬送システム1を用いる搬送と、従来のコンベア式の装置を用いる搬送と、を併用して行うことができる(図9)。たとえば、塗装工場内に設けられたトンネル型塗装ブースTにおいてはフリクションコンベアCが車体Bを台車2ごと搬送するようにし、台車2をフリクションコンベアCに引き渡すための搬送、および、台車2をフリクションコンベアCから引き取った後の搬送を、自律搬送ロボット3が担う、という構成を採用しうる。この構成では、自律搬送ロボット3が塗装ブース中に留まる時間を撤廃または削減できるので、自律搬送ロボット3に塗料が付着することを抑制できる。また、塗装工場内で稼働する自律搬送ロボット3の台数を削減しうる。
【0060】
(3)一台の自律搬送ロボット3による搬送
上述したように、本実施形態に係る搬送システム1では、一台の台車2に二台の自律搬送ロボット3が結合され、かつ、二台の自律搬送ロボット3の回転運動が制限されない。これによって、台車2を走行させる際の自律搬送ロボット3の動作の自由度を高めている。しかし、一台の台車2に一台の自律搬送ロボット3のみを結合した場合であっても、台車2を走行させることは可能である。この場合、制動器24が併設されている方の軸受部材25の側のみにおいて、台車2と自律搬送ロボット3とが結合するようにする(図10)。これによって、台車2の進行方向の前方側のみに自律搬送ロボット3が結合された状態になる。この状態で台車2を走行させる場合、想定経路上のカーブに追随させるような走行は難しいが、単純な直線経路の走行などは十分に実行可能である。このように、台車2の想定経路に応じて、自律搬送ロボット3を結合させる数を変更すれば、塗装工場内で稼働する自律搬送ロボット3の台数を削減しうる。
【0061】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る搬送システムのその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0062】
上記の実施形態では、それぞれの自律搬送ロボット3が制御装置35を有する構成を例として説明した。しかし、本発明が制御装置を備える場合、当該制御装置は必ずしも自律搬送ロボットに各個別に設けられない。たとえば、搬送システムを構成する全ての自律搬送ロボットを一括して制御可能な一基の制御装置を備える構成とし、自律搬送ロボットを、制御装置と通信可能かつ制御装置からの通信に基づいて動作可能な構成としてもよい。この場合、経路設定機能および走行制御機能は、一基の制御装置において実行される。
【0063】
上記の実施形態では、台車2と自律搬送ロボット3とが、自律搬送ロボット3の軸部材331が台車2の軸受部材25に収容されることによって結合される構成を例として説明した。しかし、本発明において、台車と自律搬送ロボットとを結合する方法は特に限定されず、たとえば、嵌合による結合、螺合による結合、磁力による結合などでありうる。ただし、上記の実施形態のように台車と自律搬送ロボットとが結合した状態において、結合部分が回転自在であると、台車が走行する方向を自在に変更できるので好ましい。
【0064】
上記の実施形態では、自律搬送ロボット3が、速度計341と、角度計342と、カメラ343と、を含む計器ユニット34を有する構成を例として説明した。しかし、本発明において自律搬送ロボットに設けられる計器の種類は、上記の例に限定されない。たとえば、全球測位衛生システム(GNSS)端末、レーザーキューブ、ジャイロセンサなどが設けられてもよい。
【0065】
上記の実施形態では、自律搬送ロボット3の想定経路が制御装置35の経路設定機能によって設定され、制御装置35の走行制御機能によって当該想定経路に沿った走行が実現される構成を例として説明した。しかし、本発明において、自律搬送ロボットの走行経路を制御する方法は特に限定されない。たとえば、工場内に走行経路を示す誘導体を設け、自律搬送ロボットが当該誘導体に沿って走行するようにしてもよい。
【0066】
上記の実施形態では、台車2に制動器24が設けられており、制動器24の姿勢が軸受部材25に軸部材331が収容されているか否かに連動して変更される構成を例として説明した。しかし、本発明において、台車に制動器が設けられていなくてもよい。また、台車に制動器が設けられる場合であっても、当該制動器が、台車と自律搬送ロボットとの結合状態とは独立に動作するように構成されていてもよい。
【0067】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、たとえば塗装工場において塗装対象の車体を搬送する搬送システムに利用できる。
【符号の説明】
【0069】
1 :搬送システム
2 :台車
21 :フレーム
22 :中桟
23 :車輪
24 :制動器
241 :制動棒
242 :制動板
243 :連動機構
243a :ピン
243b :第一棒状部材
243c :第一支持部材
243d :第二棒状部材
243e :第二支持部材
243f :バネ部材
243g :接続部分
25 :軸受部材
3 :自律搬送ロボット
31 :駆動装置
311 :モータ
312 :駆動輪
32 :キャスター
33 :軸部材ユニット
331 :軸部材
332 :モータ
34 :計器ユニット
341 :速度計
342 :角度計
343 :カメラ
35 :制御装置
36 :バッテリ
37 :筐体
B :車体
C :フリクションコンベア
T :トンネル型塗装ブース
【要約】
車体Bを載置可能な台車2と、台車2と結合可能な少なくとも二台の自律搬送ロボット3A、3Bと、を備え、台車2と二台の自律搬送ロボット3A、3Bとが結合されているときに、自律搬送ロボット3A、3Bの駆動力によって、台車2および自律搬送ロボット3A、3Bが一体となって走行できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10