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特許6991399半導体素子の製造方法及び半導体素子の製造システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-09
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】半導体素子の製造方法及び半導体素子の製造システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20220104BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
H01L21/02 B
H01L21/02 C
H01L21/68 N
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021536612
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2020017684
(87)【国際公開番号】W WO2021019855
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2019138945
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518070294
【氏名又は名称】株式会社フィルネックス
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(72)【発明者】
【氏名】荻原 光彦
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-258352(JP,A)
【文献】特許第6431631(JP,B1)
【文献】特表2017-504181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基板に形成された複数の半導体層の島を前記第1基板から分離して、前記第1基板と異なる第2基板に前記複数の半導体層の島を接合することにより半導体素子を製造する方法であって、
ピックアップ基板を前記複数の半導体層の島のうち1つの第1半導体層の島に密着させることにより前記第1半導体層の島を前記第1基板から分離させる第1分離工程と、
前記第1半導体層の島と前記第2基板との接触面の温度を室温よりも高い温度に保持した状態で、前記室温で前記第1半導体層の島を前記第2基板に圧接して前記第1半導体層の島を前記第2基板に接合するために必要な荷重よりも小さく、前記第1半導体層の島の外側に前記ピックアップ基板の一部の部位が固着しない大きさの荷重を前記半導体層に印加することにより、前記半導体層を前記第2基板に圧接する圧接工程と、
前記第1半導体層の島を前記第2基板に圧接する工程を実行中に、前記第1半導体層の島と前記第2基板との接触面の温度を室温よりも高い温度に保持する温度保持工程と、
前記接触面の温度を室温よりも高い温度に保持した後に、前記第1半導体層の島を前記ピックアップ基板から分離させる第2分離工程と、
を有し、
前記第1半導体層の島に対する前記第2分離工程の後に、前記複数の半導体層の島のうち前記第1半導体層の島と異なる第2半導体層の島に対して前記第1分離工程から前記第2分離工程までを実行する、
半導体素子の製造方法。
【請求項2】
第1基板に形成された複数の半導体層の島を前記第1基板から分離して、前記第1基板と異なる第2基板に前記複数の半導体層を接合することにより半導体素子を製造する方法であって、
ピックアップ基板が有する有機材料層を前記複数の半導体層の島のうち1つの第1半導体層の島に密着させることにより前記第1半導体層の島を前記第1基板から分離させる第1分離工程と、
前記第1半導体層の島と前記第2基板との接触面の温度を室温よりも高い温度に保持した状態で、前記有機材料層が塑性変形する荷重よりも小さい荷重を前記第1半導体層の島に印加することにより前記第1半導体層の島を前記第2基板に圧接する圧接工程と、
前記第1半導体層の島を前記第2基板に圧接する工程を実行中に、前記第1半導体層の島と前記第2基板との接触面の温度を室温よりも高い温度に保持する温度保持工程と、
前記接触面の温度を室温よりも高い温度に保持した後に、前記第1半導体層の島を前記ピックアップ基板から分離させる第2分離工程と、
を有し、
前記第1半導体層の島に対する前記第2分離工程の後に、前記複数の半導体層の島のうち前記第1半導体層の島と異なる第2半導体層の島に対して前記第1分離工程から前記第2分離工程までを実行する、
半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記圧接工程を実行している間に、前記第2基板又は前記ピックアップ基板の少なくともいずれかを加熱する工程をさらに有する、
請求項1又は2に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記加熱する工程の前に、前記第2基板又は前記半導体層の材質、厚み又は表面状態を示す情報を取得する工程をさらに実行し、
前記加熱する工程において、前記第2基板又は前記半導体層の材質、厚み又は表面状態に基づいて決定した加熱量で前記第2基板又は前記ピックアップ基板の少なくともいずれかを加熱する、
請求項3に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記圧接工程を開始する前に、前記第2基板又は前記ピックアップ基板の少なくともいずれかの加熱を開始する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記第1分離工程において、前記2以上の半導体層の島を前記第1基板から分離させ、
前記温度保持工程において、前記ピックアップ基板に密着した前記2以上の半導体層の島に対応する領域を少なくとも含む領域を加熱する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記圧接工程において、前記第2基板に向けて前記ピックアップ基板に荷重を加え、
前記第2分離工程において、前記ピックアップ基板に前記荷重を加えることを停止する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記圧接工程を実行中に、前記第1半導体層の島と前記第2基板との接触面の温度を80度以上150度以下に保持する、
請求項1から7のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2基板において前記第1半導体層の島が圧接される接合予定領域の材料の弾性率が5GPaよりも大きい、
請求項1から8のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項10】
前記第2基板において前記第1半導体層の島が圧接される接合予定領域の表面のrms表面粗さが1nm以上、又はP-V値が10nm以上である、
請求項1から9のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1分離工程において、前記第1半導体層の島の厚さよりも内径が小さい孔が形成された前記ピックアップ基板を前記第1半導体層の島に密着させる、
請求項1から10のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項12】
前記第1分離工程において、前記第1半導体層の島に接する面がセルロース多孔質体又はナノセルロース多孔質体を含む前記ピックアップ基板を前記第1半導体層の島に密着させる、
請求項1から11のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項13】
前記ピックアップ基板が、空気を吸引するための空気吸引孔が形成された吸着用基板と、前記吸着用基板に設けられており、前記第1半導体層の島の厚さよりも内径が小さい孔が形成された吸着層と、を有しており、
前記第1分離工程において、前記吸着層を前記第1半導体層の島に接触させた状態で前記空気吸引孔から空気を吸引することにより、前記第1半導体層の島を前記第1基板から分離させる、
請求項1から12のいずれか一項に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項14】
ピックアップ基板を第1基板に形成された複数の半導体層の島のうち1つの第1半導体層の島に密着させることにより前記第1半導体層の島を前記第1基板から分離させる第1分離部と、
前記ピックアップ基板に密着した前記第1半導体層の島に荷重を加えることにより、前記第1半導体層の島を前記第1基板と異なる第2基板に圧接する圧接部と、
前記第1半導体層の島を前記第2基板に圧接している間に、前記第1半導体層の島と前記第2基板との接触面の温度を室温よりも高い温度に保持する温度保持部と、
前記温度保持部が前記接触面の温度を室温よりも高い温度に保持した後に、前記第1半導体層の島を前記ピックアップ基板から分離させる第2分離部と、
を有し、
前記圧接部は、前記室温で前記半導体層を前記第2基板に圧接して前記第1半導体層の島を前記第2基板に接合するために必要な荷重よりも小さく、前記第1半導体層の島の外側に前記ピックアップ基板が固着しない大きさの荷重を前記第1半導体層の島に印加することにより前記第1半導体層の島を前記第2基板に圧接し、
前記第1半導体層の島を前記ピックアップ基板から分離させた後に、前記複数の半導体層の島のうち前記第1半導体層の島と異なる第2半導体層の島に対して前記第1分離部、前記圧接部及び前記第2分離部の処理を実行する、半導体素子の製造システム。
【請求項15】
ピックアップ基板が有する有機材料層を第1基板に形成された複数の半導体層の島のうち1つの第1半導体層の島に密着させることにより前記第1半導体層の島を前記第1基板から分離させる第1分離部と、
前記ピックアップ基板に密着した前記第1半導体層の島に荷重を加えることにより、前記第1半導体層の島を前記第1基板と異なる第2基板に圧接する圧接部と、
前記第1半導体層の島を前記第2基板に圧接している間に、前記第1半導体層の島と前記第2基板との接触面の温度を室温よりも高い温度に保持する温度保持部と、
前記温度保持部が前記接触面の温度を室温よりも高い温度に保持した後に、前記半導体層を前記ピックアップ基板から分離させる第2分離部と、
を有し、
前記圧接部は、前記半導体層と前記第2基板との接触面の温度を室温よりも高い温度に保持した状態で、前記有機材料層が塑性変形する荷重よりも小さい荷重を前記第1半導体層の島に印加することにより前記第1半導体層の島を前記第2基板に圧接し、
前記第1半導体層の島を前記ピックアップ基板から分離させた後に、前記複数の半導体層の島のうち前記第1半導体層の島と異なる第2半導体層の島に対して前記第1分離部、前記圧接部及び前記第2分離部の処理を実行する、半導体素子の製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造方法及び半導体素子の製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
母材基板上に形成された半導体層を母材基板から分離させて、異なる基板上に接合する半導体素子の製造方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6431631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された半導体素子の製造方法においては、母材基板から半導体層を分離させるために、ピックアップ基板に半導体層を密着させる。その後、ピックアップ基板に密着した半導体層を移動先の基板に接合するために、半導体層を他の基板に押し付ける向きに荷重を加える。半導体層を移動先の基板に押し付ける向きに加える荷重が大き過ぎると、例えばピックアップ基板の表面が変形することにより半導体層が移動先の基板に接合される位置がずれてしまうという問題が生じてしまう。そこで、半導体層を移動先の基板に押し付ける際に加える荷重を小さくすることが求められていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、半導体層を移動先の基板に接合する際に加える荷重を小さくすることができる半導体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の半導体素子の製造方法は、第1基板に形成された半導体層を前記第1基板から分離して、前記第1基板と異なる第2基板に前記半導体層を接合することにより半導体素子を製造する方法であって、ピックアップ基板を前記半導体層に密着させることにより前記半導体層を前記第1基板から分離させる第1分離工程と、前記ピックアップ基板に密着した前記半導体層を前記第2基板に圧接する圧接工程と、前記半導体層を前記第2基板に圧接する工程を実行中に、前記半導体層と前記第2基板との接触面の温度を室温よりも高い温度に保持する温度保持工程と、前記接触面の温度を室温よりも高い温度に保持した後に、前記半導体層を前記ピックアップ基板から分離させる第2分離工程と、を有する。
【0007】
前記半導体素子の製造方法は、前記圧接工程を実行している間に、前記第2基板又は前記ピックアップ基板の少なくともいずれかを加熱する工程をさらに有してもよい。半導体素子の製造方法においては、前記加熱する工程の前に、前記第2基板又は前記半導体層の材質、厚み又は表面状態を示す情報を取得する工程をさらに実行し、前記加熱する工程において、前記第2基板又は前記半導体層の材質、厚み又は表面状態に基づいて決定した加熱量で前記第2基板又は前記ピックアップ基板の少なくともいずれかを加熱してもよい。前記圧接工程を開始する前に、前記第2基板又は前記ピックアップ基板の少なくともいずれかの加熱を開始してもよい。
【0008】
前記第1分離工程において、複数の前記半導体層を前記第1基板から分離させ、前記温度保持工程において、前記ピックアップ基板に密着した前記複数の半導体層に対応する領域を少なくとも含む領域を加熱してもよい。
【0009】
前記圧接工程において、前記第2基板に向けて前記ピックアップ基板に荷重を加え、前記第2分離工程において、前記ピックアップ基板に前記荷重を加えることを停止してもよい。
【0010】
前記ピックアップ基板において前記半導体層に圧接される面に有機材料が設けられており、前記圧接工程において、前記有機材料が塑性変形する荷重よりも小さい荷重を加えてもよい。前記圧接工程を実行中に、前記半導体層と前記第2基板との接触面の温度を80度以上150度以下に保持してもよい。
【0011】
前記第2基板において前記半導体層が圧接される接合予定領域の材料の弾性率が5GPaよりも大きくてもよい。前記第2基板において前記半導体層が圧接される接合予定領域の表面の表面粗さが1nm以上、又はP-V値が10nm以上であってもよい。
【0012】
前記第1分離工程において、前記半導体層の厚さよりも内径が小さい孔が形成された前記ピックアップ基板を前記半導体層に密着させてもよい。前記第1分離工程において、前記半導体層に接する面がセルロース多孔質体又はナノセルロース多孔質体を含む前記ピックアップ基板を前記半導体層に密着させてもよい。
【0013】
前記ピックアップ基板が、空気を吸引するための空気吸引孔が形成された吸着用基板と、前記吸着用基板に設けられており、前記半導体層の厚さよりも内径が小さい孔が形成された吸着層と、を有しており、前記第1分離工程において、前記吸着層を前記半導体層に接触させた状態で前記空気吸引孔から空気を吸引することにより、前記半導体層を前記第1基板から分離させてもよい。
【0014】
本発明の第2の態様の半導体素子の製造システムは、ピックアップ基板を第1基板に形成された半導体層に密着させることにより前記半導体層を前記第1基板から分離させる第1分離部と、前記ピックアップ基板に密着した前記半導体層に荷重を加えることにより、前記半導体層を前記第1基板と異なる第2基板に圧接する圧接部と、前記半導体層を前記第2基板に圧接している間に、前記半導体層と前記第2基板との接触面の温度を室温よりも高い温度に保持する温度保持部と、前記温度保持部が前記接触面の温度を室温よりも高い温度に保持した後に、前記半導体層を前記ピックアップ基板から分離させる第2分離部と、を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、半導体層を移動先の基板に接合する際に加える荷重を小さくすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】第1基板から半導体層を分離させる工程について説明するための図である。
図1B】第1基板から半導体層を分離させる工程について説明するための図である。
図2A】半導体層の島を第2基板に接合する工程について説明するための図である。
図2B】半導体層の島を第2基板に接合する工程について説明するための図である。
図3】半導体層の島を第2基板に接合した後の工程について説明するための図である。
図4】半導体素子の製造方法を実施するための製造システムの構成を示す図である。
図5】それぞれ弾性率が異なる複数の第2基板に半導体層の島を圧接した場合の接合状態を確認した結果を示す図である。
図6】弾性率が約100GPaである高弾性率材料層上に半導体層を接合した状態を示す顕微鏡写真である。
図7】それぞれ表面の状態が異なる複数の第2基板に半導体層の島を圧接した場合の接合状態を確認した結果を示す図である。
図8】所定の弾性率及びrms粗さの材料により形成された接合予定領域に、それぞれ異なる荷重で半導体層を圧接した場合の接合状態を示す図である。
図9】真空吸着により半導体層の島を第1基板から分離させる方法について説明するための図である。
図10】変形例に係るピックアップ基板の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[半導体素子の製造方法の概要]
本実施形態に係る半導体素子の製造方法は、母材基板である第1基板に形成された半導体層を第1基板から分離して、第1基板と異なる第2基板に半導体層を接合することにより半導体素子を製造する方法である。当該製造方法においては、第1基板上で結晶成長させた半導体層を第1基板から分離させ、分離させた半導体層を第2基板に接合させる際に半導体層に印加する荷重を小さくすることで、半導体素子の品質を安定及び向上させることが実現可能になる。
【0018】
接着剤を使わずに半導体層を第2基板に接合する際、第2基板上の接合予定領域の材料が硬く変形しにくい場合には、接合予定領域の材料が柔らかく変形しやすい場合と比較して、半導体層の全面を第2基板上の接合予定領域に密着させるために半導体層を第2基板上の接合予定領域に圧接する際の荷重を大きくする必要があった。材料が硬く変形しにくい場合とは、弾性率が比較的大きい場合であり、材料が柔らかく変形しやすい場合とは、弾性率が比較的小さい場合である。半導体層と第2基板の接合予定領域を圧接する際の荷重を大きくして、半導体層と第2基板の接合予定領域の密着性を向上させる場合、以下のような各種の課題が生じ得る。
【0019】
まず、半導体層をピックアップするためのピックアップ基板上の有機材料層が半導体層により強く押し付けられることによるピックアップ基板の変形(例えば有機材料層の塑性変形、又は有機材料層の破壊)、有機材料層の半導体層への固着、半導体層の外側での有機材料層の第2基板への固着が生じ得る。
【0020】
ピックアップ基板上の有機材料層が変形すると、第2基板に半導体層を接合する位置がずれてしまうという課題が生じる。また、有機材料層が半導体層へ固着し、有機材料層が半導体層に付着する力が、半導体層が第2基板に接合する力よりも大きくなると、半導体層の第2基板上への接合が阻害されてしまう。さらに、有機材料層が半導体層の外側で第2基板に固着すると、第2基板に付着した有機材料層が第2基板の汚れになったり、ピックアップ基板又は有機材料層を第2基板から分離させにくくなったりするという課題も生じる。
【0021】
また、接合予定領域の材料又は加工条件によっては、接合予定領域表面の表面粗さが大きいという場合もある。また、接合予定領域の下部の構造に凹凸がある場合にも、接合予定領域の表面粗さが大きくなる場合がある。このような場合、半導体層全面を第2基板上の接合予定領域に密着させるために、接合予定領域の表面粗さが小さい場合と比較して、半導体層を第2基板上の接合予定領域に圧接する際の荷重を大きくする必要があるという課題があった。
【0022】
なお、表面粗さが大きい場合とは、例えば5μm×5μmの領域で測定したrms(root mean square)表面粗さが1nmを超える場合、又は表面粗さ測定でのP-V(peak-to-valley)値が10nmを超える場合である。表面粗さが小さい場合とは、例えば5μm×5μmの領域で測定したrms表面粗さが1nm以下の場合、又はP-V値が10nm以下の場合である。接合予定領域の表面粗さが大きい場合にも、第2基板上の接合予定領域の材料が硬く変形しにくい場合と同様の課題が生じていた。
【0023】
さらに、面積が大きな半導体層を第2基板の接合予定領域に圧接する際の荷重を大きくするためには、荷重を印加する装置の規模が大きくなってしまい、半導体素子の製造コストが大きくなってしまうという課題もあった。
【0024】
これらの課題を解決するために、本実施形態に係る半導体素子の製造方法においては、まず、ピックアップ基板を半導体層に密着させることにより半導体層を第1基板から分離させる第1分離工程を実行する。続いて、ピックアップ基板に密着した半導体層を第2基板に圧接する圧接工程を実行する。半導体層を第2基板に圧接する工程を実行中に、半導体層と第2基板との接触面の温度を室温(例えば25℃)よりも高い温度に保持する温度保持工程を実行し、接触面の温度を室温よりも高い温度に保持した後に、半導体層をピックアップ基板から分離させる第2分離工程を実行する。
【0025】
圧接する工程を実行中の状態とは、半導体層と第2基板の間に荷重を印加した状態であって、該荷重によって半導体層が第2基板の接合予定領域表面と少なくとも一部が接した状態を意味する。接触面の温度を室温よりも高い温度に保持する工程では、例えば接触面の温度が80℃以上150℃以下になるように第2基板又はピックアップ基板の少なくともいずれかを加熱する。第2基板又はピックアップ基板の少なくともいずれかを加熱することにより、接合する第2基板又はピックアップ基板の半導体層の表面に存在している接合力を弱める分子、又は接合にほとんど関わらない分子が、接合予定領域の表面から脱離することで、半導体層が第2基板に接合しやすくなると考えられる。その結果、このような工程を実行することで、半導体層を第2基板に接合させる際に半導体層に印加する荷重を従来の方法よりも小さくすることができるので、上記の各種の課題の少なくともいずれかを解決することができる。以下、本製造方法について詳細に説明する。
【0026】
[半導体素子の製造方法の一例]
(第1基板からの半導体層の分離)
図1A及び図1Bは、第1基板から半導体層を分離させる工程について説明するための図である。
まず、図1A(a)に示すように、母材基板である第1基板101上に犠牲層102及び半導体層103を形成する。第1基板101は、例えば、Si基板、GaAs基板、GaN基板、AIN基板、InP基板、SiC基板などの半導体基板、Al基板、Ga基板、ZnO基板などの酸化物基板である。
【0027】
犠牲層102は、所定のエッチング液に対して、第1基板101及び半導体層103のエッチング速度よりも大きなエッチング速度を有する層である。犠牲層102は、所定のエッチング液を使ったエッチング工程で、第1基板101と半導体層103に対して選択的にエッチング除去可能な層である。
【0028】
半導体層103は所定の半導体素子を形成するための構造を持つ半導体層である。半導体層103は、例えば、単層構造又は複数の異なる半導体層から構成される積層構造を有する。
【0029】
次に、図1A(b)に示すように、図1A(a)の状態の犠牲層102及び半導体層103を加工することにより、半導体層の島104を形成する。半導体層の島104を形成する際には、複数の半導体層の島104の側面の下方において犠牲層102が露出する深さまで、犠牲層102及び半導体層103の一部を除去する。
【0030】
次に、図1A(c)に示すように、半導体層の島104から第1基板101の露出面に至る固定層105を形成する。固定層105は、犠牲層102をエッチングにより除去する工程で半導体層103を第1基板101につなぎ留める機能を有する。固定層105は、犠牲層102を除去するためのエッチング手段に対して耐性を持つ材料で、無機材料薄膜又は有機材料薄膜を使うことができる。
【0031】
固定層105の材料は、使用するエッチング手段又はエッチング液に応じて選択され、例えば感光性有機材料(レジスト)を使うことができる。この場合、レジストを塗布した後に露光・現像工程を実行することによって固定層105を形成することができる。固定層105は、半導体層の島104の表面の全領域を覆ってもよく、島104の一部の領域を覆ってもよい。
【0032】
次に、図1A(d)に示すように、所定のエッチング手段、例えば所定のエッチング液を使ったウェットエッチングにより犠牲層102をエッチングし、半導体層の島104と第1基板101の間に空隙106を形成する。
【0033】
次に、複数の半導体層の島104を第1基板101から分離させる第1分離工程を実行する。まず、図1B(a)に示すように、ピックアップ基板113を半導体層の島104に密着させる。ピックアップ基板113は、有機材料層111と基板112とを有する。すなわち、ピックアップ基板113において半導体層の島104に圧接される面に、有機材料層111が設けられている。基板112の材質は任意であり、例えば金属、セラミックス又は樹脂である。有機材料層111を半導体層の島104又は固定層105に連結した後に、空隙106の近傍の固定層105が切断される向き(例えば第1基板101から離れる向き)にピックアップ基板113を移動させる。
【0034】
その結果、図1B(b)に示すように、半導体層の島104がピックアップ基板113上の有機材料層111に密着した状態で、半導体層の島104を第1基板101から分離させることができる。図1B(b)では、固定層105が切断され、半導体層の島104と共に持ち上げられた固定層105の部分105aと第1基板側に残った部分105bに分離されている。
【0035】
有機材料層111としては、例えば感光性有機材料を使用することができる。この場合には、基板112上に液状の感光性有機材料を塗布すること、又はシート状の感光性有機材料を貼付することにより、標準的な露光・現像工程を用いて、半導体層の島104のパターンに対応する有機材料層111のパターンを形成することができる。なお、有機材料層111は、他の基板上等であらかじめ形成したシート状の有機材料、又はそれを分割した有機材料片を基板112に貼付することによって形成してもよい。
【0036】
また、型を用いることにより、半導体層の島104のパターンに対応したバンプパターンを有する有機材料シートを準備して基板112に貼付してもよいし、基板112として、バンプパターンを有する有機材料シートを用いてもよい。また、基板112を使用せずに、適当な手段で準備した有機材料片を半導体層の島104に貼り付けた後、適当な手段により有機材料片を持ち上げて半導体層の島104を第1基板101から分離してもよい。ピックアップ基板113の構成、及び半導体層の島104を第1基板101から分離させる方法については、その他適宜変更が可能である。
【0037】
(半導体層の第2基板への接合)
以上の工程により半導体層の島104を第1基板101から分離させた後に、半導体層の島104を第2基板201に接合させる。図2A及び図2Bは、半導体層の島104を第2基板201に接合する工程について説明するための図である。第2基板201上の接合予定領域には、無機材料層、有機材料層、金属材料層、半導体層又はこれらの材料の積層構造を設けることができる。半導体層の島104を第2基板201に接合する前に、半導体層の島104及び第2基板201における接合予定領域にプラズマ処理や薬液を使ったケミカル処理のような表面処理を施す工程を実行してもよい。
【0038】
第2基板201上の接合予定領域には、例えば硬く変形しにくい材料(弾性率が大きい材料)を設けることができる。硬く変形しにくい材料は、例えば5GPaよりも大きな弾性率を有する材料である。弾性率が5GPaよりも大きい材料として、例えば、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化ガリウムなどの酸化物、窒化珪素、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化チタンなどの窒化物、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン、炭化珪素などの炭化物、アルミニウム、銅、金、白金、ニッケル、チタン、ゲルマニウムなどの金属又は合金材料を使用することができる。弾性率が5GPaよりも大きい半導体材料としてSi、Geなどの単元素半導体材料、GaAs、GaN、InP、SiCなどの化合物半導体材料を使うことができる。これらの無機材料、金属材料、半導体材料は第2基板201を構成するバルク材料であってもよく、第2基板201上に形成した厚膜材料又は薄膜材料であってもよい。
【0039】
第2基板上の接合予定領域の表面は、例えば5μm×5μmの領域で測定したrms表面粗さが1nmを超える粗い表面、又は表面粗さ測定のP-V値が10nmを超える粗い表面であってもよい。例えばP-V値が10nmを超える表面粗さが大きい表面の例として、下層に凹凸を持つ層が存在する場合、又は材料形成過程や加工過程で材料表面にヒロックやスクラッチ痕などの凹凸が発生する場合などがあげられる。材料形成過程や加工過程で材料表面にヒロックやスクラッチ痕などの凹凸が発生する場合の一例として、Al、Alを含む合金又はAuを含む合金などの金属薄膜層を形成する場合、金属薄膜層のアニールをする場合、又は精密研磨などの機械加工若しくは薬液によるエッチング加工を含む精密加工をする場合をあげることができる。
【0040】
以下、図2A及び図2Bを参照しながら、半導体層の島104を第2基板201に圧接する工程について詳細に説明する。まず、図2A(a)に示すように、第1基板101から分離した半導体層の島104を第2基板201に載置した後に、ピックアップ基板113の上方から第2基板201に向けて荷重210を加える圧接工程を実行する。
【0041】
この圧接工程において、室温で半導体層の島104を第2基板201上の接合予定領域に圧接して接合可能にするために必要な荷重よりも小さい荷重を印加する。圧接工程においては、例えば、ピックアップ基板113の有機材料層111が塑性変形する荷重よりも小さい荷重を加えることが望ましい。
【0042】
図2A(b)に示すように、荷重210により半導体層の島104を第2基板201上の接合予定領域に圧接する間、半導体層の島104と第2基板201とが接触している面の温度を室温よりも高い温度に保持する温度保持工程を実行する。例えば、第2基板201とピックアップ基板113の一方又は両方の温度を室温よりも高い温度に保持する。加熱した状態で温度を保持する時間は、接合面の材料又は状態によって適宜定めることができる。一例として、温度保持工程において、加熱温度を1秒以上(例えば60秒)にわたって保持する。
【0043】
半導体層の島104と第2基板201との接触面の温度を室温よりも高い温度に保持するために、ピックアップ基板113に密着した複数の半導体層の島104に対応する領域を少なくとも含む領域を加熱する。例えば、圧接工程を実行している間に、第2基板201又はピックアップ基板113の少なくともいずれかにおける半導体層の島104の位置を加熱する工程を実行する。
【0044】
圧接工程を開始してから第2基板201又はピックアップ基板113の少なくともいずれかの加熱を開始してもよく、圧接工程を開始する前に加熱を開始してもよい。圧接工程を開始する前に加熱を開始することで、圧接を開始した時点で接合面の温度が室温よりも高い状態になっているため、接合に要する時間を短縮することができる。
【0045】
発明者の実験によれば、圧接時の第2基板201の周辺温度は80℃以上150℃以下の範囲が好適である。80℃より低い温度では接合における効果を得るのに不十分であったり、接合が完了するまでに長時間を要したりする。約80℃以上100℃以下の加熱温度で保持することにより、短時間で半導体層の島104を第2基板201に良好に接合させることが可能になる。
【0046】
150℃を超える温度では、工程で使用する有機材料(固定層105、ピックアップ基板上の有機材料層111)が変質する可能性がある。また、150℃を超える温度で加熱する場合、ピックアップ基板113上の有機材料層111が半導体層の島104に固着してしまい、有機材料層111を除去できない場合がある。半導体層の島104に有機材料層111が固着してしまうと、ピックアップ基板113を第2基板201から分離させる工程で半導体層の島104の一部が第2基板201から脱離する要因になる。
【0047】
さらに、第2基板201上に半導体層の島104を接合できた場合であっても、有機材料層111が半導体層の島104上に残留する場合がある。このように有機材料層111が半導体層の島104上に残留する場合には、その後の半導体素子の製造工程の妨げとなる。そのため150℃を超える温度で加熱することは好ましくない。有機材料の変質や残留の観点からは、加熱温度を特に200℃を超えない範囲で調整することが必要である。
【0048】
続いて、図2B(a)に示すように、所定の時間にわたって加熱しながら圧接した後に加熱を停止する。さらに、図2B(b)に示すように、半導体層の島104をピックアップ基板113から分離させる第2分離工程において、荷重を加えることを停止する。加熱を停止した後、適宜冷却工程を実行してもよい。加熱を停止するタイミングと荷重の印加を停止するタイミングの関係は任意であり、荷重を印加して圧接している状態で加熱温度を降下させてもよい。また、加熱している状態で、荷重の印加を停止してもよい。
【0049】
(接合後の処理)
第2分離工程において、ピックアップ基板113への荷重の印加を停止した後に半導体層の島104をピックアップ基板113から分離させる方法は任意であるが、例えば以下の4つの方法が考えられる。
(1)有機材料層111を化学的に溶解させる方法
(2)ピックアップ基板113における有機材料層111と基板112とを機械的に分離し、その後、半導体層の島104の表面に付着した有機材料層111を化学的に溶解させる方法
(3)ピックアップ基板113における有機材料層111と基板112とを機械的に分離し、その後、半導体層の島104の表面に付着した有機材料層111を機械的に分離させる方法
(4)有機材料層111を半導体層の島104から機械的に分離させる方法
【0050】
化学的に溶解させる方法は、例えば有機材料層111を選択的にエッチングする方法である。機械的に分離させる方法は、例えばピックアップ基板113を引っ張ったり、半導体層の島104を吸引していた力を停止させたりする方法である。
【0051】
図3は、半導体層の島104を第2基板201に接合した後の工程について説明するための図である。半導体層の島104を第2基板201に接合した後に、図3(a)及び図3(b)に示すように、第2基板201上の接合予定領域に接合した半導体層の島104からピックアップ基板113を分離させる。
【0052】
上記のとおり、ピックアップ基板113を半導体層の島104から分離させる手段は任意であるが、例えば半導体層の島104又は固定層105に連結した基板112上の有機材料層111を溶解することにより、ピックアップ基板113を半導体層の島104から分離させることができる。なお、図3(a)における破線は、有機材料層111が溶解して除去されたことを模式的に示している。有機材料層111を溶解せずに、ピックアップ基板113を上方に持ち上げることにより、有機材料層111を半導体層の島104から機械的に引き離してもよい。
【0053】
ピックアップ基板113を半導体層の島104から分離させた後に、必要に応じて半導体層の島104上の固定層105aを除去してもよい。固定層105aが有機材料(レジスト材料)で形成されている場合には、図3(c)に示すように、有機溶剤又はレジスト剥離液などを使って固定層105aを除去することができる。その後、適宜、層間絶縁膜形成、配線形成など所定の素子形成工程を実行する。所定の素子形成工程を実行する前に、素子形成工程に適したアニール工程を実行してもよい。既に不要な有機材料は除去されているため、アニール工程では、150℃を超える温度でアニールしてもよい。
【0054】
[半導体素子の製造システム]
図4は、本実施形態に係る半導体素子の製造方法を実施するための製造システムSの構成を示す図である。図4に示す製造システムSの各部は、一つの装置により実現されてもよく、複数の装置を組み合わせて実現されてもよい。
【0055】
製造システムSは、アクチュエータ11と、ヒーター12と、制御装置13と、を備える。制御装置13は、例えばプログラムを実行することにより、アクチュエータ11及びヒーター12を制御するコンピュータである。制御装置13は、プログラムを実行することにより第1分離部131、圧接部132、温度保持部133、及び第2分離部134として機能するプロセッサを有する。
【0056】
第1分離部131は、ピックアップ基板113を半導体層の島104に密着させることにより半導体層の島104を第1基板101から分離させる。第1分離部131は、例えば、ピックアップ基板113を半導体層の島104に密着させた後に、ピックアップ基板113を引き上げるようにアクチュエータ11を制御することで、半導体層の島104を第1基板101から分離させる。
【0057】
圧接部132は、ピックアップ基板113に密着した半導体層の島104に荷重を加えることにより、半導体層の島104を第2基板201に圧接する。圧接部132は、例えば、アクチュエータ11を制御することにより、半導体層の島104が密着した状態のピックアップ基板113を第2基板201の上方まで移動させた後に、第2基板201に向けてピックアップ基板113を下降させる。その後、圧接部132は、所定の荷重がピックアップ基板113に加わるようにアクチュエータ11を動作させる。圧接部132は、半導体層の島104の材質、厚み若しくは表面状態、又はピックアップ基板113の材質に基づく大きさの荷重をピックアップ基板113に加えてもよい。
【0058】
温度保持部133は、半導体層の島104を第2基板201に圧接している間に、半導体層の島104と第2基板201との接触面の温度を室温よりも高い所定の温度に保持するようにヒーター12を制御する。ヒーター12は加熱源として機能し、第2基板201側、ピックアップ基板113側、又は第2基板201側及びピックアップ基板113側の両方に設けることができる。温度保持部133は、第2基板201及び半導体層の島104の材質、厚み若しくは表面状態に関する情報を取得し、取得した情報に基づいて、ヒーター12の加熱量を決定してもよい。
【0059】
温度保持部133は、例えば第2基板201と半導体層の島104とが接合しづらい材質である場合に、第2基板201と半導体層の島104とが接合しやすい材質である場合よりも加熱量を大きくする。また、温度保持部133は、例えば第2基板201又は半導体層の島104の厚みが大きい場合に、第2基板201又は半導体層の島104の厚みが小さい場合よりも加熱量を大きくする。
【0060】
また、温度保持部133は、例えば第2基板201又は半導体層の島104の表面の凹凸量が大きい場合に、凹凸量が小さい場合よりも加熱量を大きくする。凹凸量は、例えば島104の表面に直交する方向における島104の表面において最も突出している位置と最も窪んでいる位置との距離により表される。温度保持部133がこのように動作することで、製造システムSは、第2基板201と半導体層の島104とが接合しづらい場合であっても、接合時間を短縮することができる。
【0061】
第2分離部134は、温度保持部133が半導体層の島104と第2基板201との接触面の温度が室温よりも高い温度に保持した後に、半導体層の島104をピックアップ基板113から分離させる。第2分離部134は、例えば、アクチュエータ11を上方に移動させることにより、半導体層の島104が第2基板201に接合した状態で、半導体層の島104をピックアップ基板113から分離させる。
【0062】
[実験結果]
(第1実験)
発明者は、実験により、加熱しながら低荷重で半導体層の島104を第2基板201に圧接する工程により、半導体層の島104を良好に第2基板201に接合可能であることを見出した。第1実験においては、第2基板201の接合予定領域に、それぞれ弾性率が異なる複数の材料を使用し、半導体層の島104を第2基板201上の接合予定領域に圧接中に加熱する工程を実行した場合と、圧接中に加熱工程を実行しない場合とで、接合状態(すなわち接合歩留)を比較した。その結果、第2の接合予定領域の材料として弾性率が大きい材料が用いられる場合であっても、上記の加熱工程を設けることにより、低い圧接荷重で、接合状態の飛躍的な向上(すなわち飛躍的な接合歩留向上)が得られることを見出した。
【0063】
図5は、それぞれ弾性率が異なる複数の第2基板201に半導体層の島104を圧接した場合の接合状態を確認した結果を示す図である。図5における横軸は、第2基板201における接合予定領域の材料の弾性率を示しており、縦軸は接合歩留を示している。接合歩留100%は、第2基板201に半導体層の島104が正常に接合された状態に対応し、接合歩留0%は、第2基板201に半導体層の島104が接合されなかった状態に対応している。
【0064】
図5における菱形マーカー(◇)は、圧接中に加熱工程を実行しない場合の結果を示しており、丸印マーカー(〇)は、圧接中に加熱工程を実行した場合の結果を示している。本実験では半導体層の代表例としてIII-V族化合物半導体層を使った。半導体層の厚さは薄いことが望ましく、例えば概ね10μm以下の厚さが好適である。半導体層が厚いと、半導体層の接合面が第2基板201の接合予定領域の表面に密接しづらくなる。図5に示すように、第2基板201の接合予定領域の材料として弾性率が概ね5GPaよりも大きな弾性率の材料が用いられる場合、本実施形態の加熱工程を実行することにより著しく接合歩留が向上することを確認できた。
【0065】
図6は、低荷重での圧接中に加熱工程を実行することにより、弾性率が約100GPaである高弾性率材料層410上に半導体層420を接合した状態を示す顕微鏡写真である。半導体層420を第2基板201上に形成した高弾性率材料層410上に圧接した際の荷重は0.4×P0(kg/cm)であった。なお、P0は、実験装置で得られる単位のない荷重パラメータを[kg/cm]の単位の荷重に換算するための換算定数である。すなわち、P0は、印加した荷重に対応する大きさの基準値である。
【0066】
一方、室温において弾性率が約100GPaである高弾性率材料層410に半導体層420を圧接した実験では、荷重を15×P0(kg/cm)としたとしても、圧接した半導体層420は高弾性率材料層410上から脱離し、高弾性率材料層410上に接合することができなかった。すなわち、弾性率が約100GPaである高弾性率材料層410に半導体層420を圧接している間に加熱工程を実行することにより、室温で圧接する場合の1/30以下の荷重を加えるだけで、弾性率が約100GPaである高弾性率材料層410に半導体層420を接合可能であるということを確認できた。
【0067】
以上のとおり、半導体層を第2基板201に圧接する間に加熱工程を実行することにより、第2基板201における接合予定領域が大きな弾性率の材料により形成されていても、接合に要する荷重を小さくすることができるということを確認できた。圧接中に加熱工程を実行することにより、接合する表面に存在している接合力を弱める分子、又は接合にほとんど関わらない分子が、接合予定領域の表面から脱離したことで、半導体層が第2基板201に接合しやすくなったと推察される。
【0068】
また、圧接中に加熱工程を実行することにより、接合予定領域の表面における接合力を高める原子又は分子、若しくは接合に強く関わる原子又は分子の間のお互いに引合う相互作用が増加し、接合予定領域の表面間で引合う力が増加することにより、半導体層が第2基板201に接合しやすくなったと推察される。
【0069】
(第2実験)
第2実験においては、第2基板201の接合予定領域に、それぞれ表面の粗さが異なる複数の材料を使用し、半導体層の島104を第2基板201上の接合予定領域に圧接中に加熱工程を設けた場合と、圧接中に加熱工程を設けない場合とで、接合状態を比較した。
【0070】
図7は、それぞれ表面の状態が異なる複数の第2基板201に半導体層の島104を圧接した場合の接合状態を確認した結果を示す図である。半導体層の島104に加えた荷重は、5×P0(kg/cm)であった。図7(a)の横軸はrms表面粗さを示しており、縦軸は接合歩留を示している。図7(b)の横軸は表面P-V値を示しており、縦軸は接合歩留を示している。図5と同様に、菱形マーカー(◇)は、上記の加熱工程を実行しない場合の結果を示しており、丸印マーカー(〇)は、上記の加熱工程を実行した場合の結果を示している。
【0071】
図7(a)及び図7(b)に示すように、接合予定領域の表面のrms粗さが1nmよりも大きく10nmに至るような粗い表面、及びP-V値が10nmよりも大きく140nmに至るような粗い表面の場合であっても、圧接中に加熱工程を実行することにより、接合歩留が概ね100%となり、良好に接合可能であることを確認できた。
【0072】
一方、室温で圧接した場合には、15×P0(kg/cm)の荷重を加えた場合であっても半導体層の島104は接合予定領域から脱離し、半導体層の島104を接合予定領域に接合することができなかった。すなわち、圧接中に加熱工程を実行することで、接合するために加える荷重の大きさを、室温で接合する場合に必要な荷重の少なくとも1/3以下にすることができるということを確認できた。
【0073】
(第3実験)
図8は、所定の弾性率及びrms粗さの材料により形成された接合予定領域に、それぞれ異なる荷重で半導体層を圧接した場合の接合状態を示す図である。図8における丸印マーカー(〇)は、圧接中に加熱工程を実行した場合の結果を示している。図8に示す破線は、丸印マーカー(〇)で示した実験データを外挿したものである。図8の横軸は、荷重パラメータを示しており、半導体層を圧接した際の荷重を換算係数P0で割った値である。
【0074】
図8(a)は、第2基板201の接合予定領域の材料の弾性率が約100GPaであり、rms粗さが約1nmである場合の結果であり、加える荷重を0.03×P0(kg/cm)まで低減させることができた。この荷重の大きさは、図7で示した実験において加えた荷重の1/100以下である。図8(b)は、第2基板201上の接合予定領域の材料の弾性率が約180GPaであり、rms粗さが約10nmである場合の結果であり、加える荷重を0.5×P0(kg/cm)まで低減させることができた。この荷重の大きさは、図7で示した実験において加えた荷重の1/10である。
【0075】
[ピックアップ基板の第1変形例]
以上の説明においては、有機材料層111を有するピックアップ基板113により第1基板101から半導体層の島104を分離させる場合を例示したが、真空吸着を用いた手段又は電磁気を用いた吸着手段などを用いて半導体層103を分離させてもよい。
【0076】
図9は、真空吸着により半導体層の島104を第1基板101から分離させる方法について説明するための図である。図9に示すピックアップ基板213は、材料治具211と、吸着治具222とを有する。材料治具211は、少なくとも表面に有機材料を備えている。吸着治具222は、真空吸着などの吸着手段を備えた治具である。図9における矢印231は、吸着のために空気が流れる向きを示している。このようなピックアップ基板213を用いることにより、材料治具211表面の有機材料を半導体層の島104に密着させた後に吸着治具222によって半導体層の島104を吸着することで、半導体層の島104を第1基板101から分離させることができる。
【0077】
また、以上の説明においては、半導体層の島104を第1基板101に固定するために固定層105を形成する場合を例示したが、固定層105を形成しない場合であっても本実施形態に係る製造方法を適用することができる。
【0078】
[ピックアップ基板の第2変形例]
図10は、本変形例に係るピックアップ基板310の構成例を示す図である。図10に示すように、ピックアップ基板310は、空気吸引孔311が形成された吸着用基板312と、吸着層313とを有する治具である。空気吸引孔311は、空気を吸引するための経路である。
【0079】
吸着層313は、例えば繊維状材料又は多孔質材料により形成されており、半導体層の厚さよりも内径が小さな微細な孔314が形成されている。多孔質材料は、例えば、セルロース多孔質体又はナノセルロース多孔質体である。セルロース多孔質体、ナノセルロース多孔質体では不規則に孔が存在しているが、図10では微細な孔の位置を直線的に描いている。図10における破線は、半導体層の島104を吸着する領域である吸着予定領域315を示している。
【0080】
本変形例は、半導体層の島104を第1基板101から分離させる工程、及び半導体層の島104を第2基板201に接合する工程において、微小な径の孔314が形成された多孔質材料を有するピックアップ基板310により半導体層の島104を真空吸着し、その状態を保持することを特徴とする。
【0081】
半導体層は厚さが数μmと薄いため、ピックアップ基板310に設けられた多孔質材料に形成された孔314の径が大きい場合や表面の凹凸が大きい場合には、半導体層の島104に荷重をかける際に、孔314又は表面の凹凸により荷重の大きさが不均一になることにより、半導体層にクラックが生じ得る。また、孔314の位置と孔314以外の位置とで荷重の大きさが異なったり、荷重が加わらない位置があったりすることにより、接合不良が発生するというリスクもある。また、真空吸着の際に、孔314の位置での吸引力が大きいことにより、半導体層にクラックが発生するリスクもある。これらの観点から、半導体層の島104を真空吸着する際に用いられるピックアップ基板310の吸着層313に形成された孔314は、十分に小さい径を有しており、吸着層313の表面の凹凸が十分に小さい。吸着層313に形成された孔314の内径は、例えば半導体層の厚さよりも小さいことが望ましい。
【0082】
空気吸引孔311の断面積は、例えば、吸着層313に形成された微細な孔314の断面積よりも大きい。吸着層313が薄く変形しやすい場合には、空気吸引孔311の孔は、吸着予定領域315よりも外側に位置することが望ましい。空気吸引孔311がこのように構成されていることで、空気が吸引されることにより生じる力が、吸着層313における吸着予定領域315に対応する領域に直接加わらないので、吸着予定領域315における吸着層313の変形を抑制することができる。なお、吸着層313の変形が半導体層の島104の吸着及び半導体層の島104への荷重印加に影響しない範囲にとどまる場合には、空気吸引孔311が半導体層の島104における吸着予定領域315内に位置するように構成されていてもよい。
【0083】
図10に示すようなピックアップ基板310により、以下の手順により、半導体層の島104を第1基板101から分離させ、分離後の半導体層の島104を第2基板201に接合させることができる。まず、吸着層313を半導体層の島104に接触させた状態で空気吸引孔311から空気を吸引することにより、半導体層の島104を第1基板101から分離させる。具体的には、図1B(a)に示したように、ピックアップ基板310により、半導体層の島104の下面に空隙106が形成された状態の固定層105及び半導体層の島104を吸着する。半導体層の島104を吸着した後に、固定層105が空隙106の部分で破断する方向にピックアップ基板310を移動することにより、半導体層の島104を第1基板101から分離させる。
【0084】
次に、半導体層の島104を第2基板201の接合予定領域に圧接する。半導体層の島104を第2基板201上に圧接する工程に先立って、半導体層の島104及び第2基板201の接合予定領域の接合面にプラズマ処理などの表面処理を実施してもよい。プラズマ処理を行う際には、例えば大気圧プラズマを使ってもよい。
【0085】
第2基板201の接合予定領域の材料の弾性率が5GPaよりも大きい場合、rms表面粗さが1nmよりも大きい場合、又は表面P-V値が10nmよりも大きい場合、第2基板201又はピックアップ基板310の一方又は両方を加熱することにより、接合面の温度を約80℃以上150℃以下の範囲の温度にする。適切な時間にわたって圧接状態を保持した後にピックアップ基板310による吸着動作を停止させることにより、ピックアップ基板310を半導体層の島104から分離させる。
【0086】
本変形例に係る製造方法では、少なくとも半導体層の厚さよりも小さい(より好ましくはナノメートルオーダー以下)内径の微小な孔314を有する吸着層313を有するピックアップ基板310により半導体層の島104を吸着して、半導体層の島104を第1基板101から分離して第2基板201上に接合するようにした。このようにすることで、半導体層表面にばらつきの少ない吸着力及び圧接力をかけることができ、半導体層の島104にクラックなどの不良が発生することを防止できる。
【0087】
なお、半導体層の島104に接する吸着層313を、微細孔及び気体が流れる流路が形成された有機材料層で構成してもよい。また、吸着層313は、微細な貫通孔や気体が流れる流路が形成されたSi、ガラス、又はセラミック材料であってもよい。また、吸着層313はバンプ状に形成されていてもよい。また、ピックアップ基板310がバンプ状の吸着層313を複数有しており、複数の半導体層の島104を同時に吸着して、第1基板101から複数の半導体層の島104を分離させるようにしてもよい。
【0088】
[その他の変形例]
図1及び図2においては、第2基板201上に2つの接合予定領域が設けられており、第2基板201に2つの半導体層の島104を接合する場合を例示したが、第2基板201に接合する半導体層の島104の数は任意である。第2基板201に複数の半導体層の島104を接合する場合、第2基板201又はピックアップ基板113の温度を室温よりも高い温度に保持した状態で、複数の半導体層の島104を同時に第2基板201に圧接することで、接合工程の効率を向上させることができる。
【0089】
一方、第2基板201又はピックアップ基板113の温度を室温よりも高い温度に保持した状態で、1つの半導体層の島104を第2基板201に圧接する工程を繰り返すことにより、複数の半導体層の島104を第2基板201に圧接してもよい。この場合、ピックアップ基板113が複数の半導体層の島104を同時に吸着する必要がないので、ピックアップ基板113を小型化することができるので、第2分離工程においてピックアップ基板113と半導体の島104とを分離させやすい。
【0090】
また、以上の説明においては、第1基板101上に設けられた犠牲層102の上に半導体層103を形成し、犠牲層102を選択的にエッチング除去することにより半導体層の島104を第1基板101から分離させる場合を例示したが、半導体層103の材料と第1基板101の材料の組合せにより、犠牲層102を設けることなく、第1基板101の表面の異方性エッチングを利用することにより、半導体層の島104を第1基板101から分離させてもよい。また、半導体層103と第1基板101の間に、層状に分離しやすい材料層(例えばグラフェンなど)を設けることにより、半導体層の島104を第1基板101から分離させてもよい。
【0091】
[本実施形態の製造方法による効果]
以上説明したように、半導体層の島104を第2基板201に圧接する間に接合面の温度が上昇するように加熱することで、第2基板201上の接合予定領域の材料が硬く変形しにくい場合、又は第2基板201上の接合予定領域の表面粗さが大きい場合であっても、接合に要する荷重を従来よりも小さくすることができる。その結果、ピックアップ基板113上の有機材料層111が半導体層の島104により強く押し付けられることによる大きな変形を抑制できる。また、有機材料層111が半導体層の島104に固着したり、半導体層の島104の外側で有機材料層111が第2基板201に固着したりすることも抑制できる。
【0092】
さらに、圧接時に加える荷重が小さくなることで、接合予定位置に対する位置ずれや、接合した半導体層周辺の汚れの発生を防止することもできる。また、接合する半導体層の総面積が大きい場合であっても、総荷重を低く抑えることができるという効果も生じる。なお、第2基板201上の接合予定領域に弾性率が5GPaよりも小さい材料(例えば、PET、PIなどの有機材料)を設けた場合には、室温で接合する場合と比較して半導体層の島104を第2基板201上の接合予定領域に圧接する荷重をさらに低減することができる。
【0093】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0094】
11 アクチュエータ
12 ヒーター
13 制御装置
100 接合歩留
101 第1基板
102 犠牲層
103 半導体層
104 島
105 固定層
106 空隙
111 有機材料層
112 基板
113 ピックアップ基板
131 第1分離部
132 圧接部
133 温度保持部
134 第2分離部
201 第2基板
211 材料治具
213 ピックアップ基板
222 吸着治具
310 ピックアップ基板
311 空気吸引孔
312 吸着用基板
313 吸着層
314 孔
315 吸着予定領域
410 高弾性率材料層
420 半導体層
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10