(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】イオンの活性化及び貯蔵を強化するためのセグメント化リニアイオントラップ
(51)【国際特許分類】
H01J 49/42 20060101AFI20220104BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220104BHJP
【FI】
H01J49/42
G01N27/62 E
(21)【出願番号】P 2018540726
(86)(22)【出願日】2017-02-02
(86)【国際出願番号】 GB2017050253
(87)【国際公開番号】W WO2017134436
(87)【国際公開日】2017-08-10
【審査請求日】2020-01-24
(32)【優先日】2016-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518272119
【氏名又は名称】ファスマテック サイエンス アンド テクノロジー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Fasmatech Science and Technology Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】特許業務法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ラプタキス,エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】パパナスタシウ,ディミトリス
【審査官】関口 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-512632(JP,A)
【文献】特表2007-527002(JP,A)
【文献】特表2003-507874(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0221216(US,A1)
【文献】米国特許第04731533(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N27/60-27/70
27/92
H01J40/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セグメント化されたリニアイオントラップであって、
イオンを処理するための少なくとも2つの離散的なトラップ領域と、
2つのRF波形を生成するためのRF電位生成器であって、イオンを半径方向に
閉じ込めるRFトラップ場成分を形成する、前記リニアイオントラップのポール電極の対にそれぞれを印加するように構成されたRF電位生成器と、
イオンを軸方向に制御するために、前記RF場成分に重ね合わされ、且つ前記リニアイオントラップの長さにわたって分布される複数のDC場成分を生成するための多出力DC電位生成器と、
前記少なくとも2つの離散的なトラップ領域のうちの
軸方向に閉じ込められたイオンで埋められている第1のトラップ領域を集合的に形成しているDC電位及び対応するDC場成分を切り換えて、
前記第1のトラップ領域のDC電位を第1のDC電位レベルと第2のDC電位レベルとの間で同時に変化させることにより、イオン電位エネルギを第1の
イオン電位エネルギレベルから第2の
イオン電位エネルギレベルに変化させ、且つ前記第1及び第2の
イオン電位エネルギレベルの少なくとも一方において第1のイオン処理ステップを可能にするように構成された制御装置と
を含むリニアイオントラップにおいて、
前記制御装置は、前記第1のトラップ領域の一方の側
の前記第2の
イオン電位エネルギレベル
におけるDC電位
のうちの1または複数を、前記第1のトラップ領域の最小DC電位を下回る値に切り換え、それにより、前記第1のトラップ領域から離れるように加速させることにより、前記リニアイオントラップの軸に沿った移動のための、前記第1のトラップ領域に閉じ込められたイオンのリリースを可能にするように構成されていることを特徴とするリニアイオントラップ。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアイオントラップにおいて、前記制御装置は、前記複数のDC場成分のうちの、前記第1のトラップ領域を集合的に形成している少なくとも1つのDC場成分を3つの異なるDC電位レベル間で切り換えるように更に構成されていることを特徴とするリニアイオントラップ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリニアイオントラップにおいて、前記制御装置は、第2の処理ステップを可能にするために、イオンを前記第1のトラップ領域から前記少なくとも2つの離散的なトラップ領域の第2のトラップ領域に移動させるように前記複数のDC場成分の少なくとも1つのDC場成分を切り換えるように更に構成されていることを特徴とするリニアイオントラップ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のリニアイオントラップにおいて、前記制御装置は、前記複数のDC場成分の中からの、前記少なくとも2つの離散的なトラップ領域の第2のトラップ領域を集合的に形成する複数の前記DC場成分を切り換えて、前記第2のトラップ領域に貯蔵されているイオンの電位エネルギを前記第1の
イオン電位エネルギレベルから前記第2の
イオン電位エネルギレベルに変化させるように更に構成されていることを特徴とするリニアイオントラップ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のリニアイオントラップにおいて、前記制御装置は、前記複数のDC場成分のうちの、前記第2のトラップ領域を集合的に形成している少なくとも1つのDC場成分を3つの異なるDC電位レベル間で切り換えるように更に構成されていることを特徴とするリニアイオントラップ。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載のリニアイオントラップにおいて、前記RF波形は
、矩形の電圧パルストレインを含むことを特徴とするリニアイオントラップ。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載のリニアイオントラップにおいて、第1の電位エネルギレベルのイオンで埋められた前記2つの離散的なトラップ領域の少なくとも一方を通
して注入される粒子のビームを受けるように構成されたポール電極の対を更に含むことを特徴とするリニアイオントラップ。
【請求項8】
請求項7に記載のリニアイオントラップにおいて、前記粒子は、前記2つの離散的なトラップ領域の前記少なくとも一方内に衝突ガスがない場合に注入されることを特徴とするリニアイオントラップ。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載のリニアイオントラップにおいて、前記制御装置は、衝突誘起解離を実施するために、イオンを前記第1のトラップ領域から第2のトラップ領域に向けて十分な運動エネルギでリリースするように前記複数のDC場成分のうちの複数を切り換えるように更に構成されていることを特徴とするリニアイオントラップ。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項に記載のリニアイオントラップにおいて、前記制御装置は、処理されたイオンを、質量対電荷比を測定するために質量分析器に向けて排出するように前記DC場成分の少なくとも1つを切り換えるように更に構成されていることを特徴とするリニアイオントラップ。
【請求項11】
セグメント化されたリニアイオントラップにおいてイオンを処理する方法において、
所与の時点において
、均一な圧力を有するトラップ場を画定するリニアイオントラップを提供するステップと、
イオンを、前記イオンを半径方向に閉じ込めるためのRFトラップ場成分と、前記イオンを軸方向に制御するための複数のDC場成分とを重ね合わせることによって生成される前記トラップ場においてトラップするステップと、
前記イオンを軸方向に閉じ込めるための少なくとも2つの離散的なトラップ領域を形成するために、前記DC場成分を前記リニアイオントラップの軸に沿って空間的に分布させるステップと、
前記少なくとも2つの離散的なトラップ領域のうちの第1の
イオン電位エネルギレベルの第1のトラップ領域における
前記イオンを第1の処理ステップに供するステップと、
前記第1の離散的なトラップ領域を集合的に形成している前記DC場成分
を切り換えて、
前記第1の離散的なトラップ領域のDC場成分に対応するDC電位を第1のレベルと第2のレベルとの間で同時に変化させることにより、前記イオンの電位エネルギを
前記第1の
イオン電位エネルギレベルから第2の
イオン電位エネルギレベルに変化させるステップと、
前記第1の離散的なトラップ領域の一方の側
の前記第2の
イオン電位エネルギレベル
におけるDC電位
のうちの1または複数を、前記第1の離散的なトラップ領域の最小DC電位を下回る値に切り換え、それにより、前記第1の離散的なトラップ領域から離れるように加速させることにより、前記リニアイオントラップの前記軸に沿った移動のための、前記第1の離散的なトラップ領域に閉じ込められたイオンのリリースを可能にするステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法において、前記第1のトラップ領域の前記複数のDC場成分の少なくとも1つは、第1の
イオン電位エネルギレベルにおける第2のトラップ領域へのイオン移動を促進するために3つの異なるレベル間で切り換えられることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の方法において、前記第2のトラップ領域における前記イオンの前記電位エネルギは、第1の
イオン電位エネルギレベルから第2の
イオン電位エネルギレベルに変化され、及びイオンは、前記
イオン電位エネルギレベルの少なくとも一方において処理されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項11乃至
13の何れか1項に記載の方法において、前記イオンは、前記第1の
イオン電位
エネルギレベルにおいて又は前記第2の離散的なトラップ領域の
前記第2の
イオン電位エネルギレベルにおいて追加の処理ステップに供されることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項11乃至
14の何れか1項に記載の方法において、前記RFトラップ場成分は
、矩形の電圧パルストレインを含む2つの逆相のRF波形によって生成されることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項11乃至15の何れか1項に記載の方法において、前記イオンは、前記第1の離散的なトラップ領域の前記第2の電位エネルギレベルにおいて第2の処理ステップに供されることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項11乃至
15の何れか1項に記載の方法において、前記イオンは、前記第1の離散的なトラップ領域の前記第2の電位エネルギレベルにおいて第2の処理ステップに供され、前記第1及び第2の処理ステップの少なくとも一方は、イオンを活性化させるために前記第1の離散的なトラップ領域を通って注入される粒子のビームを伴うことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野は、質量分析法を使用するイオン分析に関し、特に、トラップ領域のRF及びDC電位を制御することにより、シーケンシャルに適用され且つ促進されるイオン処理技術の範囲を拡大することを可能にするセグメント化リニアイオントラップの開発に関し、具体的には、イオントラップのための電子回路及び関連する新技術の開発に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアイオントラップは、非常に強力且つ多用途な分析装置へと進化しており、現代の質量分析法において重要且つ不可欠な計測セクションを構成する。スタンドアロンの質量分析器として配備されるか又はハイブリッド質量分析計として一体化される、気相イオンを操作するために利用可能なツール及び方法の範囲は非常に広い。リニアイオントラップは、パフォーマンスケイパビリティを強化し、多用性を更に広げる新規な設計を開発及びテストするための理想的なプラットフォームである。リニアイオントラップ計測に関するレビューは、2次元RFトラップ場、及び半径方向イオン閉じ込めの特性、質量分析器との結合の手法を含むイオン運動の軸方向制御に関係する[Douglas et al,Mass Spectrom Rev 24,1,2005]。
【0003】
標準的な3D四重極イオントラップと比較した場合のリニアイオントラップの主要な2つの有利点として、イオン貯蔵量の増大により空間電荷作用が小さくなることと、トラップ効率が高いことにより外部から注入されるイオンに対する感度が高くなることとが挙げられる[Schwartz et al,J Am Soc Mass Spectrom 13,659,2002]。イオンの選択及びフラグメンテーションのプロセスが独立に最適化されるデュアル圧力リニアイオントラップにおいてパフォーマンスの向上が実証されている[Second et al,Anal Chem 81,7757 2009]。より複雑な構成として、質量選択的軸方向排出手法があり、これは、半径方向イオン励起を軸方向運動に変換するフリンジ効果に基づくか[Londry&Hager,J Am Soc Mass Spectrom 14,1130,2003]、又はRF極-電極間に挿入され、軸方向AC励起波形を供給される羽根レンズを使用することによって[Hashimoto et al,J Am Soc Mass Spectrom 17,685,2006]行われる。利用可能な活性化解離方法は、衝突誘起解離(CID)及び電子移動解離(ETD)に限られており、これまでのところ、わずか2つの活性化方法が同じリニアイオントラップにおいてタンデムで実施され得る。従って、広範囲の最先端の活性化解離のツール及び方法をサポートすることが可能である新規な多用途設計を開発すること、並びにこれらをシーケンシャルに実施する機能が必須であり、特に高度に複雑な生物試料及びタンパク質の分析において必須である。
【0004】
イオンの貯蔵及び処理を行うための複数の電位領域を有する衝突セルの概念設計は、米国特許第7312442B2号明細書に開示されている。様々な手法を用いてイオンをシーケンシャルに活性化解離させる、提案されている機能は、非常に望ましいが、その方法は、解離相互作用のための荷電粒子ビームの注入を伴わず、また、活性化解離プロセスを最適化するための相互作用エネルギの厳密な制御を大幅に促進する、DC電位を調節し、結果としてイオンの電位エネルギを複数のレベル間で調整することにも関連していない。更に、厳密な運動エネルギを有するイオンをリニアイオントラップで受け、且つリニアイオントラップからリリースすることを含む、トラップ領域間の効率的なイオン移動のために、DC電位及びまたイオンの電位エネルギの高度な制御が不可欠である。これらの新しい態様は、新規なDC切り換え技術と、本発明に開示の方法とを必要とする。
【0005】
イオントラップに貯蔵されているイオンと外部から注入された電子との間の相互作用エネルギを制御する技術は、米国特許第7755034B2号明細書に開示されている。リニアイオントラップにおいて相互作用のエネルギを制御するために3状態デジタル波形が使用され、中間電圧状態中に電子が注入される。イオントラップに正常に貯蔵されるイオンの質量範囲が3状態RFトラップによって制限されることに加えて、中間状態中にアクセス可能な電圧振幅もRF波形の2つの極値間に制限され、相互作用中に利用できるアクセス可能なエネルギ範囲もそのように制限される。この開示されているリニアイオントラップを動作させる方法の別の不利点は、相互作用が発生するための時間窓が狭いことであり、時間窓は波形期間の1/3未満に制限されている。米国特許第6995366B2号明細書に開示されている方法に関連する不利点として、この方法の結果として、電子の散乱のために又は電子放射面の仕事関数の修正のために解離に利用可能な電子の数が少なくなることが挙げられる。セグメント化リニアイオントラップのトラップ領域において、イオンを活性化解離させる方法が欧州特許第1706890B1号明細書に開示されているが、これらは、イオンの電位エネルギを制御し、且つイオンをリリースするか又は受け取るために用いられる方法という観点で限定的である。
【0006】
全般的には、リニアイオントラップと、様々な手法を用いて効率よく実施される、単一装置においてイオンをシーケンシャルに活性化解離させる方法とを改良することが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明の方法及び装置は、これらの問題の軽減を、例えば、RFトラップ波形の特性を電子源の電位から切り離すことによって行うことが可能であり、これは、DC場成分を重ね合わせることにより、イオンの電位エネルギを個別に且つ(例えば、任意の)所望の最適なレベル(例えば、エネルギレベル)まで制御することによって行われる。質量範囲は、エネルギ範囲(例えば、無限のエネルギ範囲)にわたって影響を受けないままであり得、相互作用の時間は最長化され得る。本発明では、イオントラップ領域への電子注入は、例えば、トラップされたイオンによる解離プロセスを実施するために行われ得、これは、衝突ガスが実質的/実効的に存在しない無衝突環境で実施されることが好ましいであろう。イオントラップにおける電子注入中に衝突ガスが存在しないことにより、既存の方法に伴う不利点が回避される。既存の方法では、結果として解離に利用可能な電子の数が少なくなる。これは、電子が分散するため又は電子放射面の仕事関数が改変されるためである。本発明は、イオンクラウドを軸方向に圧縮することが可能であり、これは、トラップされたイオンと電子との重なりを改善又は最大化することによって活性化プロセスを加速させるために行われることが好ましいであろう。これは、本発明が好ましく提供し得る利点である。
【0008】
本発明は、好ましい一態様では、リニアイオントラップ機構を提供し得、これは、メインのRF電場成分に複数のDC電場成分を重ね合わせることによって形成される少なくとも2つのトラップ領域を提供する複数のセグメントによって構成される。この少なくとも2つのセグメントは、少なくとも2つの別個の且つ隔てられたトラップ領域を与える単一且つ離散的な装置を集合的に形成し得る。リニアイオントラップは、好ましくは、複数のセグメントの連続するセグメント間に(例えば、アパーチャを有する)レンズ電極又は(例えば、アパーチャを有する)端部キャップ電極が配列されていない、ポール電極の一連の複数のセグメントの形態であり得、それにより、リニアイオントラップの、複数のセグメントによって形成された少なくとも2つの別個のトラップ領域間の領域にそのようなレンズ電極又は端部キャップ電極が存在しない。アパーチャを有するレンズ電極によって隔てられたセグメントを含むトラップ領域は、イオンクラウドの位置が、レンズに印加される相対電位に依存することから問題となり得る。結果として、イオンクラウドの位置は、幾何学的構造及び関連付けられた非線形場が非対称であることから明確に画定されない。本発明の好ましい実施形態の装置では、イオンは、好ましくは、この装置によって形成可能な電位井戸の中心に貯蔵され得る。これは、空間的/軸方向に対称な電位井戸を作成することにより達成可能である。これは、トラップ領域の側部セグメントに均等なDC場成分を印加することにより促進される。対称形の電位井戸又は軸方向に対称なトラップ領域は、イオンが井戸の中心に厳密に配置されることを可能にする。これにより、イオンと、外部で生成された荷電粒子又は試薬種との間の重なりが強化/最大化される。それらの荷電粒子又は試薬種は、ポール電極の中心に位置するアパーチャ(例えば、トラップの対向するポール電極の対向するスルーアパーチャ)を通して注入され得る。このようにして、2つの離散的な軸方向に並べられた/隣接したトラップ装置が並置される場合と異なり、少なくとも2つのトラップ領域を与えるように構成された1つの離散的な装置により、単一且つ離散的なリニアイオントラップ機構が与えられ得る。
【0009】
好ましくは、トラップ領域が少なくとも3つのセグメントからなり、好ましくは、これらは、中央セグメントと、2つの側部セグメント又はガードセグメントとを含み得、各セグメントは、4つのポール電極を含み、四重極構成を形成し得る。別の実施形態では、そうすることが望ましい場合、トラップ領域はまた、セグメントと端部キャップ電極とからなり得る。使用時、(例えば、少なくとも2つのトラップ領域を含む)トラップ空間全体にわたって分布するRF電場成分を生成してイオンを半径方向に閉じ込めるために、逆相のRF波形がポール電極の対に印加される。切り換え可能なDC電位をポール電極又はポール電極間に挿入された独立の無RF電極に印加して、トラップ領域(例えば、離散的な/個別のトラップ領域)を生成して軸方向制御を促進し、また、そのトラップ領域に貯蔵されるイオンの電位エネルギを画定することにより、複数のDC電場成分が形成される。トラップ領域の形成は、トラップ領域内のDC場成分の1つ(以上)のDC場成分(例えば、中央成分)のDC電位を、近接するDC電場成分より下げて電位井戸を生成することにより行われ得る。「RF電場」及び「RF場」という用語は、本明細書で区別なく使用する。「DC電場」及び「DC場」という用語も、本明細書で区別なく使用する。
【0010】
望ましくは、本明細書のリニアイオントラップは、好ましい態様では、トラップ領域を形成するDC場成分を生成するために印加されるDC電位の変更及び/又は切り換えを更に行う。この切り換え/変更は、複数のそのようなDC電位にまとめて適用され得る。トラップ領域のDC場成分は、第1のDC電位レベルと少なくとも第2のDC電位レベルとの間で切り換えられ得る。トラップ領域の電位レベルは、電位井戸の底を画定するために印加されるDC電位によって決定され得る。これは、セグメントのうちの中央セグメント又は端部/ガードセグメントと境界を接する1つ以上のセグメントに印加され得る。ガードセグメントの対に印加される電位レベルは、正イオンをトラップする井戸(例えば、井戸の底)の電位レベルより高いことが好ましい。負イオンをトラップする場合には逆が適用される。このようにして、トラップ領域のガードセグメント/電極に印加される電位(例えば、DC電位)は、イオンを井戸に閉じ込めるために使用される電位井戸の壁を画定することが可能であり、必要に応じて(例えば、井戸領域のその部分のDC電位を変化させることにより)イオンを制御可能にリリースすることが可能である。DC電位の切り換え及び対応するトラップ領域の変更は、3つ以上のDC電位レベル間で行われ得る。好ましくは、トラップ領域の異なるDC電位の変更又は切り換えは同時に行われる。トラップ領域が対称形であれば、均等に別のレベルに上げるか又は下げることが可能であることが好ましい。従って、トラップされたイオンは、DC電位の遷移中、それらの軸方向位置(例えば、井戸の中央)にとどまることが可能である。
【0011】
DC電位と、トラップ領域を形成している対応するDC場成分との切り換えは、当然のことながら、必要に応じてイオンが存在しない場合に実施され得る。これは、イオンを受け取る電位井戸又は電位プロファイルをあらかじめ用意するためであり得る。2つのレベル間でのDC場成分の切り換えは、トラップ領域からのイオンのリリース又はトラップ領域でのイオンの受け取りのために実施され得る。イオンの電位井戸からのリリースは、(例えば、ガードセグメントにおける)井戸の壁部分の電位レベルを、トラップ領域のその部分を画定するガードセグメント間に位置するセグメントによって印加された(例えば、中央セグメントに印加された)井戸の底の電位より下げることにより行われ得る。好ましくは、DC場成分の(例えば、第3の状態への)切り換えは、トラップ領域を形成しているDC場成分の(例えば、まとめての)変更後に実施され、例えば、イオンをトラップ領域からリリースするために第1の状態と第2の状態との間での切り換えが実施され得る。DC電位と、トラップ領域を形成している対応するDC場成分との切り換えは、好ましくは、イオンを受け取るために実施され得、これは、例えば、ガードセグメントに印加される電位レベルを下げ、それにより、与えられている井戸の壁を下げるか又は除去してイオンを井戸に入れることによって行われる。
【0012】
DC電位と、トラップ領域を形成している対応するDC場成分とを制御することの直接の結果として、トラップ領域に貯蔵されるイオンの電位エネルギの同時の変更又は切り換えが行われる。従って、本発明のリニアイオントラップは、イオン電位エネルギを第1の電位エネルギレベルと少なくとも第2の電位エネルギレベルとの間で変化させることが更に必要であり、これは、トラップ領域を形成するDC場成分を生成するために印加されるDC電位のレベルを上げるか又は下げ、上昇させるか又は下降させ、それらのエネルギレベルの少なくとも1つにおいてイオンをそれぞれ更に処理することによって行われる。ガードセグメントに印加されるDC電位を、(例えば、中央セグメントによって)井戸の底に印加されるDC電位を下回るレベルに切り換える処理ステップが完了すると、その効果として、イオンがトラップ領域から離れるようにアクティブに加速され得る。このようにして処理されたイオンに印加される加速度の大きさは、(例えば、中央セグメントのそばの)井戸の床と、そのようなイオンリリース中に(例えば、ガードセグメントのそばの)そのように下げられた井戸の壁との間で確定された電位レベル差によって決定される。
【0013】
従って、一態様では、本発明は、リニアイオントラップの軸に沿ってイオンを移動させる方法(及び移動させるように構成された装置)を提供し、これは、イオントラップのトラップ領域内にイオンを軸に対して半径方向に閉じ込めるためのRF電位を生成するステップと、トラップ領域内にイオンを軸方向に閉じ込めるためのトラップ領域を画定する複数のDC電位を生成するステップであって、それにより、RF電位及びDC電位が集合的にトラップ領域内にイオンをトラップする、ステップと、トラップ領域のDC電位を第1のレベルと第2のレベルとの間で同時に変化させるステップと、トラップ領域の一方の側において、第2のレベルのDC電位を、トラップ領域の最小DC電位を超えない値に変化させ、それにより、軸に沿った移動のために、トラップ領域に閉じ込められているイオンのリリースを可能にするステップとを含む。好ましくは、トラップ領域の一方の側で第2のレベルのDC電位を変化させることは、その電位を、トラップ領域の最小DC電位を下回る値に変化させ、それにより、軸に沿った方向付けられた移動のために、トラップ領域に閉じ込められているイオンの方向付けられたリリースを可能にすることを含む。井戸の床と、トラップ領域の側部(これまでは井戸の壁)において下げられた電位との間の電位差により、リリースされたイオンにとって利用可能になるエネルギは、トラップ領域のその側部においてトラップ領域から離れる方向にリリースされたイオンを加速させる。これにより、制御可能な速度/エネルギで勢い付けられた、イオンのアクティブ且つ選択可能に方向付けられたリリースが行われる。これにより、イオンは、トラップ領域から離れるように加速され得る。これにより、イオンのトラップ領域からのリリースの選択された方向及びリリース中のイオンに印加される加速度/速度のレベルは、ユーザが制御できるようになり、これは、イオンの移動(例えば、1つのトラップ領域から別のトラップ領域への移動、又は質量分析器若しくはイオンモビリティ分析計への排出)を正確に制御することにおいて大きい応用自在性をもたらす。例えば、井戸の壁を、井戸の床を下回る適切なレベル/量まで適切な電位量だけ下げることによって適切な加速度が印加され得、これにより、リリースされたイオンに対する所望の/適切な加速が得られる。適切な加速度は、必要に応じて選択され得、例えば、トラバースされる軸に沿う移動距離、及び/又はリリースされたイオンが運ばれる第2のトラップ領域の電位井戸の深さに応じて選択され得る(例えば、加速度が適度であれば第2の井戸/トラップ領域での「オーバシュート」が避けられる)。イオンの移動の応用自在且つ厳密な制御が可能になれば、イオンをトラップから除去することを必要とせずに、リニアイオントラップの様々な部分に沿ってイオンに複数のプロセスを適用することが促進される。
【0014】
更なる態様では、本発明は、リニアイオントラップを提供し得、これは、イオンを処理するための少なくとも2つの離散的なトラップ領域と、2つのRF波形であって、イオンを半径方向にトラップするRFトラップ場成分を形成する、リニアイオントラップのポール電極の対にそれぞれ印加される、2つのRF波形を生成するためのRF電位生成器と、イオンを軸方向に制御するために、RF場成分に重ね合わされ、且つリニアイオントラップの長さにわたって分布される複数のDC場成分を生成する多出力DC電位生成器と、少なくとも2つの離散的なトラップ領域のうちのイオンで埋められている第1のトラップ領域を集合的に形成しているDC電位及び対応するDC場成分を切り換えて、イオン電位エネルギを第1のレベルから第2のレベルに変化させ、且つ第1及び第2のレベルの少なくとも一方において第1のイオン処理ステップを可能にするように構成された制御装置とを含む。好ましくは、制御装置は、第1のトラップ領域の一方の側における第2のレベルのDC電位を、第1のトラップ領域の最小DC電位を下回る値に切り換え、それにより、第1のトラップ領域から離れるように加速させることにより、リニアイオントラップの軸に沿った移動のための、第1のトラップ領域に閉じ込められたイオンのリリースを可能にするように構成されている。これにより、イオンの移動は、所望の方向の移動であり得る。所望の方向は、例えば、少なくとも2つの離散的なトラップ領域のうちの(例えば、第2の処理ステップをそこで実施するための)第2のトラップ領域に向かう方向であり得、リニアイオントラップの入口/出口の部分/端部に向かう方向であり得る。リニアイオントラップの、イオントラップからのイオンを受ける出口/出力部に更なる機器が配列/結合され得、それらは、例えば、別のイオントラップ(例えば、オービトラップ、又は別のトラップ(例えば、その別のトラップにイオンが入力される場合))、質量分析器(例えば、その分析器にイオンが入力される場合)、イオンモビリティ分析計(例えば、その分析計にイオンが入力される場合)などである。
【0015】
制御装置は、複数のDC場成分のうちの、第1のトラップ領域を集合的に形成している少なくとも1つのDC場成分を3つの異なるDC電位レベル間で切り換えるように更に構成され得る。例えば、電位井戸の壁を与えるDC成分は、このように切り換えられ得る。その成分は、第1の電位レベルから、第1の電位レベルより高い第2の電位レベルに切り換えられ得、一方で電位井戸の壁を引き続き提供し得、その後、第2の電位レベルから、電位井戸の底ほどに低いか又は底より低い第3の電位レベルに切り換えられ得、これによりイオンの電位井戸からの(例えば、加速された)リリースが可能になる。
【0016】
制御装置は、第2の処理ステップを可能にするために、イオンを第1のトラップ領域から少なくとも2つの離散的なトラップ領域の第2のトラップ領域に移動させるように複数のDC場成分の少なくとも1つのDC場成分を切り換えるように更に構成され得る。従って、イオンの第1のトラップ領域からの移動は、イオンが(例えば、第2の処理ステップをそこで実施するために)少なくとも2つの離散的なトラップ領域の第2のトラップ領域に向けて所望の方向に移動することによって可能にされ得る。
【0017】
制御装置は、複数のDC場成分の中からの、少なくとも2つの離散的なトラップ領域の第2のトラップ領域を集合的に形成する複数のDC場成分を切り換えて、第2のトラップ領域に貯蔵されているイオンの電位エネルギを第1のレベルから第2のレベルに変化させるように更に構成され得る。
【0018】
制御装置は、複数のDC場成分のうちの、第2のトラップ領域を集合的に形成している少なくとも1つのDC場成分を3つの異なるDC電位レベル間で切り換えるように更に構成され得る。
【0019】
RF波形は、ほぼ矩形の電圧パルストレインを含み得る。
【0020】
リニアイオントラップは、第1の電位エネルギレベルのイオンで埋められた2つの離散的なトラップ領域の少なくとも一方を通して(例えば、通り抜けて)注入される粒子(例えば、荷電粒子)のビームを受けるように構成されたポール電極の対を更に含み得る。
【0021】
粒子は、2つの離散的なトラップ領域の少なくとも一方内に衝突ガスがない場合に注入され得る。リニアイオントラップは、2つの離散的なトラップ領域の小さい方のトラップ領域に粒子が注入される前にそのトラップ領域内から衝突ガスを除去するように構成されたガスポンプ装置を含み得る。
【0022】
制御装置は、衝突誘起解離を実施するために、イオンを第1のトラップ領域から第2のトラップ領域に向けて十分な運動エネルギでリリースするように複数のDC場成分のうちの複数を切り換えるように更に構成され得る。
【0023】
制御装置は、処理されたイオンを、質量対電荷比を測定するために質量分析器に向けて排出するようにDC場成分の少なくとも1つを切り換えるように更に構成され得る。
【0024】
別の態様では、本発明は、リニアイオントラップにおいてイオンを処理する方法を提供し得、この方法は、所与の時点において、ほぼ均一な圧力を有するトラップ場を画定するリニアイオントラップを提供するステップと、イオンを、そのイオンを半径方向に閉じ込めるためのRFトラップ場成分と、そのイオンを軸方向に制御するための複数のDC場成分とを重ね合わせることによって生成されるトラップ場においてトラップするステップと、少なくとも2つの離散的なトラップ領域を形成するためにDC場成分をリニアイオントラップの軸に沿って空間的に分布させるステップと、少なくとも2つの離散的なトラップ領域のうちの第1の電位エネルギレベルの第1のトラップ領域におけるイオンを第1の処理ステップに供するステップと、第1の離散的なトラップ領域を集合的に形成しているDC場成分を適時に切り換えて、イオンの電位エネルギを第1のレベルから第2のレベルに変化させるステップとを含む。好ましくは、本方法は、第1のトラップ領域の一方の側における第2のレベルのDC電位を、第1のトラップ領域の最小DC電位を下回る値に切り換え、それにより、少なくとも2つの離散的なトラップ領域の第1のトラップ領域から離れて第2のトラップ領域に向けて加速させることにより、軸に沿った移動のための、第1のトラップ領域に閉じ込められたイオンのリリースを可能にするステップを含む。
【0025】
任意選択で、第1のトラップ領域の複数のDC場成分の少なくとも1つは、第1の電位エネルギレベルにおける第2のトラップ領域へのイオン移動を促進するために3つの異なるレベル間で切り換えられる。
【0026】
任意選択で、第2のトラップ領域におけるイオンの電位エネルギは、第1の電位エネルギレベルから第2の電位エネルギレベルに変化され、及びイオンは、これらのレベルの少なくとも一方において処理される。
【0027】
任意選択で、イオンは、第1の離散的なトラップ領域の第2の電位エネルギレベルにおいて第2の処理ステップに供される。
【0028】
任意選択で、イオンは、第1の電位レベルにおいて又は第2の離散的なトラップ領域の第2の電位エネルギレベルにおいて追加の処理ステップに供される。
【0029】
RFトラップ場成分は、ほぼ矩形の電圧パルストレインを含む2つの逆相のRF波形によって生成され得る。
【0030】
任意選択で、イオンは、第1の離散的なトラップ領域の第2の電位エネルギレベルにおいて第2の処理ステップに供され、第1及び第2の処理ステップの少なくとも一方は、イオンを活性化させるために第1の離散的なトラップ領域を通って(例えば、通り抜けて)注入される粒子(例えば、荷電粒子)のビームを伴う。
【0031】
別の態様では、本発明は、リニアイオントラップにおいてイオンを処理する方法を提供し得、この方法は、所与の時点において、ほぼ均一な圧力を有するトラップ場を画定するリニアイオントラップを提供するステップと、イオンを、そのイオンを半径方向に閉じ込めるためのRFトラップ場成分と、そのイオンを軸方向に制御するための複数のDC場成分とを重ね合わせることによって生成されるトラップ場においてトラップするステップと、リニアイオントラップの軸に沿って少なくとも2つの離散的なトラップ領域を形成するためにDC場成分を空間的に分布させるステップと、第1の電位エネルギレベルの第1のトラップ領域におけるイオンを第1の処理ステップに供するステップと、第2の電位エネルギレベルの第2のトラップ領域におけるイオンを第2の処理ステップに供するステップと、第1及び第2のトラップ領域のそれぞれを集合的に形成している複数のDC場成分のうちの複数を切り換えて、それらに貯蔵されるイオンの電位エネルギを変化させることにより、処理されたイオンを第1のトラップ領域と第2のトラップ領域との間で移動させるステップと、少なくとも1つのDC場成分を3つの異なるDC電位レベル間で切り換えるステップとを含む。トラップされたイオンを移動させるステップは、方向付けられたイオンリリースに関連して上述されたように実施され得る。
【0032】
更に別の態様では、本発明は、リニアイオントラップにおいてイオンを処理する方法を提供し得、この方法は、所与の時点において、ほぼ均一な圧力を有するトラップ場を画定するリニアイオントラップを提供するステップと、イオンを、そのイオンを半径方向に閉じ込めるためのRFトラップ場成分と、そのイオンを軸方向に制御するための複数のDC場成分とを重ね合わせることによって生成されるトラップ場においてトラップするステップと、少なくとも3つの離散的なトラップ領域をリニアイオントラップ内に形成するためにDC場成分を空間的に分布させるステップと、少なくとも3つの離散的なトラップ領域のうちの第1の電位エネルギレベルの第1のトラップ領域におけるイオンを第1の処理ステップに供するステップと、少なくとも3つの離散的なトラップ領域のうちの第2の電位エネルギレベルの第2のトラップ領域におけるイオンを第2の処理ステップに供するステップと、少なくとも3つの離散的なトラップ領域のうちの第3の電位エネルギレベルの第3のトラップ領域におけるイオンを第3の処理ステップに供するステップと、第1、第2、及び第3のトラップ領域のそれぞれを集合的に形成している複数のDC場成分のうちの複数を切り換えて、それらに貯蔵されるイオンの電位エネルギを変化させることにより、処理されたイオンを第1、第2、及び第3のトラップ領域間で移動させるステップと、少なくとも1つのDC場成分を3つの異なるDC電位レベル間で切り換えるステップとを含む。トラップされたイオンを移動させるステップは、方向付けられたイオンリリースに関連して上述されたように実施され得る。
【0033】
更なる態様では、本発明は、リニアイオントラップにおいてイオンを処理する方法を提供し得、この方法は、イオンを半径方向に閉じ込めるためのRFトラップ場成分と、イオンを軸方向に制御するための複数のDC場成分とを重ね合わせることによって生成されるトラップ場をリニアイオントラップが画定するステップと、少なくとも2つの離散的なトラップ領域をリニアイオントラップの軸に沿って形成するためにDC場成分を空間的に分布させるステップと、少なくとも2つの離散的なトラップ領域のうちの第1の電位エネルギレベルの第1のトラップ領域におけるイオンを第1の処理ステップに供するステップと、イオンの電位エネルギを変化させるステップと、イオンを第1のトラップ領域からリリースするために少なくとも1つのDC場成分を3つの異なるDC電位レベル間で切り換えるステップとを含む。トラップされたイオンを移動させるステップは、方向付けられたイオンリリースに関連して上述されたように実施され得る。トラップされたイオンを移動させるステップは、方向付けられたイオンリリースに関連して上述されたように実施され得る。
【0034】
本発明のリニアイオントラップのトラップ領域における処理としては、外部から注入される粒子(例えば、試薬イオン又は前駆イオンと一緒にトラップされた試薬イオン)によるイオンの活性化、(例えば、外部から注入される)電子との相互作用、好ましくは(例えば、高速電子を含むエネルギ荷電粒子を使用する)電子脱離によるイオンの質量対電荷比の操作、プロトン付着又は電荷低減の処理、地絡状態又は励起状態でのイオンと(例えば、外部から注入された)中性分子との間の相互作用、光子との相互作用、補助AC波形、又はRFトラップ波形のデューティサイクル変化によるイオン運動の励起、AC波形又はデューティサイクル制御によるイオン隔離、衝突活性化解離、イオンの蓄積及び移動などがあり得る。好ましくは、処理ステップは順次実施される。処理は、上述の機能の1つ以上が同時に又は順次実施されることを必要とする場合がある。
【0035】
リニアイオントラップの少なくとも1つのトラップ領域を埋めているイオンと、外部から注入される荷電粒子(例えば、イオン及び/又は電子)との間の相互作用のエネルギを制御することが望ましい。また、トラップ領域に荷電粒子を注入することにより、第1の電位エネルギレベルで貯蔵されているイオンを活性化(例えば、且つ/又は解離)させ、その後、第2の処理ステップを実施するために、処理されたイオンの電位エネルギを第2の電位エネルギレベルに変更又は調節することが望ましい。本発明の態様のリニアイオントラップでは、ガードセグメントの対に印加されるDC電位は、トラップ領域を画定する電位井戸の中央にイオンを閉じ込めるために大きさが等しいことができる。これは、(例えば、ポール電極の中心に位置するアパーチャを通して)リニアイオントラップに注入され得る、外部で生成された荷電粒子又は試薬種との重なりを改善/最大化するための手段としての役割を果たす。ポール上のアパーチャと、トラップされたイオンの場所との間の空間配列精度は、0.2mm未満のオーダーであることが好ましい。トラップ領域によって画定された電位井戸が対称形でない場合、その中でトラップされているイオンが井戸の中央に位置しない傾向であることが分かっている。従って、そのような非対称な電位井戸内において、トラップ領域のポール電極の中央に位置するスルーアパーチャは、トラップされたイオンの位置とずれる可能性がある。従って、好ましくは、電位井戸を画定するイオントラップのポール電極の側部/ガードセグメントは、ほぼ等しい長さであり得、又は(長さを含めて)ほぼ同じ構造であることにより、電位井戸を全体として画定しているポール電極によって画定される電位井戸に対称性を与え得る。
【0036】
同様に、好ましくは、それらに印加されるDC電位は、そのような対称性を可能にするために大きさ/振幅がほぼ等しいことができる。第2の電位エネルギレベルは、第1のトラップ領域から第2のトラップ領域へのイオンの移動又は質量分析器への排出を促進することも可能である。第2の処理ステップは、活性化解離実験のために電子及び/又は試薬イオンを外部から注入することを必要とすることもあり、任意選択で、トラップ領域に印加されるDC電位を第3のレベル(例えば、より高いレベルであり、これは井戸の底を持ち上げる)に遷移させて、リリース又は移動を促進することを含むこともある。第1の電位エネルギレベルで実施される処理ステップは、第1のトラップ領域の第2の電位エネルギレベルで実施される処理ステップと異なり得る。トラップ領域における順次処理ステップは、電子を注入することによって実施可能である。これは、イオンの電位エネルギの変更又は調節が行われている間、様々なイオン-電子相互作用エネルギにおいて成立する様々な活性化解離機構にアクセスするために行われ得る。様々な活性化解離機構が、様々なエネルギレベルでの順次相互作用中にイオンの電位エネルギを調節することによって与えられ得る。イオンの電位エネルギは、第1及び第2のレベルのそれぞれにおいて処理をそれぞれ最適化するように調節され得る。処理サイクル中、複数の電位エネルギレベルにおける処理ステップが実施され得る。各処理ステップを個別に最適化するようにイオンの電位エネルギが厳密に調節され得る。
【0037】
一例では、電子捕獲解離(ECD)に必要なイオンの電位エネルギは、電子源の電位エネルギに対して10eV未満であり、好ましくは2eV未満であり、一方、逓倍荷電ラジカルイオンを形成する質量対電荷比を低減する電子脱離に必要な電位エネルギは10eV超であり、好ましくは30eV超である。電子振動励起による電子誘起解離(EID)には、イオンで埋められたトラップ領域に注入されるための更に高い運動エネルギを有する電子と、相互作用期間を延ばすこととが必要である。イオンの電位エネルギを複数のエネルギレベル間で制御することにより、これらの全ての様々な活性化解離方法が順次実施されることが可能になる。これらの手法を本発明において開示されるように組み合わせることにより、新たな解離経路がアクセス可能になる。
【0038】
本発明のリニアイオントラップは、荷電粒子を厳密な運動エネルギでトラップ領域に注入することを可能にするために、波形期間の少なくとも一部中にほぼ一定の場を生成するRFトラップ波形を印加することを更に必要とする。荷電粒子は、電子源で生成される電子又はイオン化源で生成される試薬イオンである。荷電粒子は、周期的又は連続的に注入され得る。イオントラップにおける荷電粒子の周期的注入は、トラップ波形と同期したデフレクタによって制御、即ち変調され得る。好ましくは、試薬イオンを生成するイオン化源は、パルス化モードで運転され得、例えば、放出イオン化源又は高温キャビティに入る試薬ガスをパルス化して、イオンのパルス、準安定種又は中性ラジカルのパルスを形成することによって運転され得る。別の好ましい実施形態では、励起状態の中性子のパルス化ビームのみがポール電極上のアパーチャを通ってトラップ領域に導入されることを可能にするために、高温面上で生成されたイオンが偏向され得る。
【0039】
本発明の好ましい一例示的実施形態では、リニアイオントラップは、イオンを処理するための少なくとも2つのトラップ領域を含む。第1の処理ステップは、イオンが排他的でなく活性化又は解離することが好ましい第1の電位エネルギレベルにおいてトラップを行うことと、その後、第1のトラップ領域におけるイオンの電位エネルギを第1のレベルから第2のレベルに引き上げることとを含む。イオンを新たな電位エネルギレベルにおける更なる処理のために第2のトラップ領域に移動させるか、又はイオンを質量分析器若しくはイオンモビリティ分析計に向けて排出するための、第1のトラップ領域を形成しているDC場成分の1つのDCレベルを切り換えることが適用される。移動中の衝突活性化を抑えるために、第1のトラップ領域の第2の電位エネルギレベルが第2のトラップ領域の電位エネルギレベルに対して調節されることが好ましい。異なる電位エネルギレベルで第1及び第2のトラップ領域におけるイオンをそれぞれ処理し、異なる処理ステップを適用することも望ましい。
【0040】
2つのトラップ領域間でイオンを往復させるために、(例えば、それらのトラップ領域のそれぞれにおいて)イオンの電位エネルギを上げること及び/又は下げることが行われ得る。上述の方法は、(例えば、トラップされたイオンの方向付けられたリリースに関連して)本装置によって実施され得る。例えば、第1のトラップ領域の第2の電位エネルギレベルにおいて第2の処理ステップが実施され得る。イオンを第2のトラップ領域に向けてリリース又は排出するために、第1のトラップ領域に貯蔵されているイオンの電位エネルギを第3のレベルに調節することと、1つのDC場成分を切り換えることとが実施され得る。第2のトラップ領域において、様々な電位エネルギレベルで連続する処理ステップが実施され得る。プロダクトが第1のトラップ領域に戻されるか又は質量分析器に向けて排出され得、これは、第2のトラップ領域を形成しているDC電位のレベルを同期的に制御することと、その後のイオンリリースのために1つのDC場成分を切り換えることとによって行われる。処理サイクル中、それらのDC場成分の少なくとも1つは、少なくとも3つの異なるDCレベル間で切り換えられる。
【0041】
イオンの電位エネルギを制御するためにDC電位及び対応するDC場成分を異なるレベル間で変化させるか又は調節することが可能であることにより、リニアイオントラップの異なるトラップ領域において、特定の処理を最適化するように調整されたエネルギレベルで複数の処理ステップを実施することが大幅に容易になる。外部から注入される荷電粒子との相互作用のエネルギを制御することによって活性化解離実験を最適化し、且つ隣接トラップ領域のイオンを別のDC電位レベルでの更なる処理のために移動させるために電位エネルギを変化させることが不可欠である。本発明のリニアイオントラップの強化された機能性は、イオンの電位エネルギを制御するための選択されたDC電位の高速遷移によって実現されている。更に、イオン化源電位をリニアイオントラップの動作から切り離すために、イオンの電位エネルギレベルを調節することが高度に効率的な方法である。質量分析器又はイオンモビリティ分析器に向けたイオンの排出は、別々に最適化されることも可能である。
【0042】
リニアイオントラップの様々なトラップ領域でのイオンの電位エネルギを変更又は調節するための、複数のDC電位の高度な制御を通して可能になる実験の多様性は、実質的に無制限である。例えば、イオンは、第1のトラップ領域において第1の電位エネルギレベルで処理され得る。電位エネルギを上げること及び第1のトラップ領域の1つのDC場成分を切り換えることは、リニアイオントラップ内で衝突活性化解離が起こるのに十分な運動エネルギまでイオンを加速させるように適用され得る。第1のトラップ領域のDC場成分が元のレベルまで緩和されている間、イオンが第2のトラップ領域に移動及び貯蔵され得る。第2のトラップ領域において1つのDC場成分を切り換えることは、第2のトラップ領域でイオンを効率的に受け取って貯蔵するために適用されることが好ましい。解離の効率を高めるために再加速が行われ、これは、第2のトラップ領域の電位エネルギを引き上げ、同じDC場成分を切り換えてイオンをリリースして第1の領域に戻して活性化期間を延ばすことによって行われる。トラップ領域間でのイオンの振動は、単独で又は順次実施される更なる処理ステップと組み合わせて実施され得る。均一RF場の内側でエネルギイオンを減速させることを、端部キャップ電極にストップ電位を印加することによらずに行うことが望ましい。ストップ電位の印加は、高質量のイオンの大幅な消失に関連するフリンジ場が存在するために、イオンを反射させることに適さない。本発明のこの引き上げ切り換え動作モードでは、バックグラウンドガス分子との衝突時にイオンに与えられるエネルギを変化させて、解離の効率を大幅に高めることが可能であり、これは、特に従来の低速加熱CID方法で分析が困難な高質量イオンに関して可能である。
【0043】
本発明の更に別の好ましい例示的実施形態では、リニアイオントラップは、イオンを処理するための少なくとも3つのトラップ領域を含む。最も好ましくは、それらのトラップ領域のそれぞれは、固有且つ独立の処理機能性(例えば、これらの少なくとも2つ)をサポート(例えば、それぞれがサポート)するように設計されている。例えば、3つのトラップ領域の第1のトラップ領域での第1の処理ステップは、ダイポールモードで印加されるAC波形によるイオン隔離又は分解DCの印加を含み得、一方、第2の処理ステップは、AC励起波形による低速加熱CIDを含み得る。第2のトラップ領域における第1の処理ステップは、一方のポール電極上のアパーチャを通る電子の外部注入を含み得、一方、第2の処理ステップは、反対側のポール電極からのラジカル種の外部注入を含み得る。最後に、第3のトラップ領域における第1の処理ステップは、イオンの蓄積を含み得、一方、第2の処理ステップは、光子によるイオンの照射を含み得る。DC電位及びリニアイオントラップにわたって分布する対応するDC場成分の制御により、イオンの電位エネルギを引き上げ、引き下げ、且つ調節する機能は、(例えば、タンデムで実施される)活性化解離実験及び他の任意の順次又は同時に実施される処理ステップを最適化するために不可欠である。イオンの受け取り及び排出によりトラップ領域間の輸送を促進するために、(例えば、単一セグメントに印加される)DC電位を少なくとも3つの電位レベル間で切り換えることが望ましい。
【0044】
少なくとも3つのトラップ領域によりアクセス可能な実験の多様性は、その中の圧力の動的制御を実施することから大きい恩恵を得られることが分かっている。これにより、本発明のリニアイオントラップが強力な分析ツールとして確立される。例えば、AC補助波形を使用して隔離又は励起を行うことにより、イオンの活性化が第1のトラップ領域で行われ得、且つ/又は外部から注入荷電粒子によるイオンの活性化が第2のトラップ領域で行われ得、更なる活性化ステップ、又は信号対ノイズ比を強化するためのプロダクト種の貯蔵及び蓄積が第3のトラップ領域で行われ得る。これは、好ましくは、これらのステップのそれぞれを様々な圧力レベルで別々に実施することによって全て最適化され得る。そのような多様な機能群の圧力需要の差は、パルス弁技術を使用する高速ガスパルスによって最も効果的に満たされることが可能である。従って、当然のことながら、本発明のリニアイオントラップにおいて利用可能な様々な機能を最適化するために、ガスを連続的に導入することを避けて複数のパルス弁を使用することが望ましい。
【0045】
(例えば、トラップ領域に入る)ガスをパルス化することにより、隣接する真空コンパートメントに対するガス負荷を最小限に抑えながら、圧力上昇を短期間で行うことが望ましい。衝突誘起解離(CID)を強化すること、又は処理中に衝突によってイオンを冷却すること、又はトラップ領域間の移動を行うことには、ガス圧力を上昇させることが必須である。パルスガスはまた、好ましくは無衝突環境において、低圧でのイオン隔離中にリニアイオントラップを動作させることを可能にする。好ましくは、注入及び移動を最適化するガスパルスの継続時間は20ミリ秒未満であり、いかなる時点でも圧力はリニアイオントラップにわたってほぼ均一である。CIDを最適化するためのガスパルスの継続時間は、より長い時間に延長されるように構成され得る。様々なガスを送達するために、リニアイオントラップに複数のパルス弁が接続され得る。最も好ましくは、リニアイオントラップは差動ポンピングされる。また、電子の注入は無衝突条件下で行うことが望ましい。連続的に存在する衝突ガスがなくなると、電子の分散が起こらなくなり、これにより、活性化解離に利用可能なビーム流が減少し、イオン-電子相互作用中のエネルギ拡散が増加する。トラップ領域での衝突ガスイオンの望ましくない形成も避けられる。差動ポンピングされるリニアイオントラップのトラップ空間に入るガスをパルス化することにより、フィラメントの高温面との相互作用が実質的に阻止されて電子放射電流が安定する。
【0046】
本発明の態様のDC電位制御及びその結果としての電位エネルギ調節の機能性は、少なくとも1つのDC場成分を3つの異なるDCレベル間で切り換えることを用い得る。少なくとも2つのトラップ領域を有するように設計されたリニアイオントラップにおいて、最も好ましくは、少なくとも3つのトラップ領域を有するように設計されたリニアイオントラップにおいて、イオン電位エネルギ制御に関連する利点を最大限に活用するために、セグメントに印加されるDC電位又はDC電圧を3つ以上のDCレベル間で切り換えることが好ましい。3つ以上のレベル間で切り換えることにより、トラップ領域からのイオンのリリース又はトラップ領域におけるイオンの受け取りが促進される。従って、本発明のリニアイオントラップは、複数の状態の高電圧を切り換える技術を使用することが更に必要である。好ましい一回路設計では、DC電位の少なくとも3つのレベル間のDC切り換えを可能にするために、高電圧MOSFETトランジスタが直列に接続されている。別の好ましい回路設計では、直列に接続されたアナログマルチプレクサが使用され、各マルチプレクサは、リニアイオントラップにわたって分布するDC場成分を生成するために印加されるDC電位のそれぞれの複数の出力レベルを提供する。直列に接続されている個々のアナログマルチプレクサ又はトランジスタは、イオン運動の軸方向制御のためのDC場成分を生成するために個々のセグメントに接続され得る。最も好ましくは、それぞれが複数のDCレベルを出力するために使用される一連の高電圧演算増幅器を駆動するために、出力信号の数がセグメントの数に等しい単一のマルチチャネルDACが使用される。或いは、軸方向閉じ込めのためのトラップ領域を生成し、且つリニアイオントラップの端から端までイオンを移動させるために、RF場に浸漬された無RF電位がDCバイアスされ得る。
【0047】
本発明の目的は、少なくとも2つの異なる活性化解離手法、好ましくは少なくとも3つの異なる活性化解離手法をサポートすることが可能なリニアイオントラップを提供することであり、これらの手法は、イオン電位エネルギの高レベル制御を可能にするために順次的に又は並列に実施され、DC電位及び対応するDC場成分の複数の遷移によって可能になる。これらの遷移は、新規なリニアイオントラップ構成を駆動する電子回路設計の進歩によってサポートされる。
【0048】
より具体的には、イオンを処理するための少なくとも2つの離散的なトラップ領域と、少なくとも2つのRF波形であって、イオンを半径方向にトラップするRFトラップ場成分を形成する、(リニアイオントラップ)のポール電極の対にそれぞれ印加される、少なくとも2つのRF波形を生成するためのRF生成器と、イオンを軸方向に制御するために、RF場成分に重ね合わされ、且つリニアイオントラップの長さにわたって分布されるDC場成分を生成する、DC電位を生成するための多出力DC電圧生成器と、前記少なくとも2つのトラップ領域の第1のトラップ領域を形成しているDC電位のそれぞれを第1のレベルから第2のレベルにそれぞれ切り換える制御装置とを含むリニアイオントラップが提供される。トラップ領域に直列されるイオンの電位エネルギを第1のレベルと第2のレベルとの間でそれぞれ変更又は調節するために、トラップ領域のDC電位を第1のレベルと第2のレベルとの間で切り換えることが行われる。第1のトラップ領域において電位エネルギレベルの少なくとも1つでイオンを処理することが行われる。第1のトラップ領域における電位エネルギレベルの1つは、第1のイオン処理ステップを促進し、一方、第2の電位エネルギレベルは、第2の処理ステップを促進し、これは、所望のエネルギを有するイオンを第2のトラップ領域に移動させることを含み得る。
【0049】
多出力DC電圧生成器は、リニアイオントラップに印加される複数のDC電位を生成し、1つのトラップ領域を集合的に形成するDC場成分を生成するために(例えば、それらのDC場成分を生成する等しい数のセグメントに)少なくとも3つのDC電位が印加され、それらのDC電位の少なくとも1つ(例えば、1つのセグメントに印加されるDC電位)が(例えば、実験の過程中に)3つの異なるDCレベル間で切り換えられる。第2の処理ステップを実施するためにイオンを第1のトラップ領域から第2のトラップ領域に移動させる切り換えが行われる。また、第2のトラップ領域に貯蔵されているイオンの電位エネルギレベルを第1の電位エネルギレベルから第2の電位エネルギレベルに変化される切り換えも行われる。第2のトラップ領域において、電位エネルギレベルの少なくとも1つでイオンを処理することが行われる。第2のトラップ領域において、それらのDC電位の1つを3つの異なるDCレベル間で切り換えることも行われる。
【0050】
イオンは、衝突誘起解離を実施するのに十分な運動エネルギで第1のトラップ領域から(例えば、最初はより低い電位エネルギレベルに設定されている)第2のトラップ領域に向けてリリースされ得る。イオンは、第2のトラップ領域において偏向又はトラップされ得、これは、好ましくは、(例えば、イオン電位エネルギを引き上げ、少なくとも1つのDC電位を切り換えることから)イオンをリリースして第1のトラップ領域に戻す前に行われる。これにより、イオンがバックグラウンドガス分子とエネルギ衝突する期間が長くなり得る。第1のトラップ領域と第2のトラップ領域との間に分布するDC電位の引き上げ及び切り換えを同時に行うことがイオン移動機構として適用され得、又は2つのトラップ領域間を移動中にイオンがバックグラウンドガス分子とエネルギ衝突する期間を長くするために適用され得る。好ましくは、DC電位エネルギレベルの切り換えは、効率的な解離を起こすためにガスをパルス化して必要な高圧にアクセスすることによって引き起こされる100ミリ秒未満のオーダーの高速圧力過渡中に行われる。
【0051】
リニアイオントラップは、RF生成器を更に含み、このRF生成器は、ほぼ矩形又は大径の電圧パルストレインからなる波形を生成することにより、波形期間の有効部分中にほぼ一定のままであるRFトラップ場成分を生成する。リニアイオントラップは、第1の電位エネルギレベル、又は第2の電位エネルギレベル、又は複数の電位エネルギレベルのイオンを収容する第1のトラップ領域を通って(例えば、通り抜けて)注入される荷電粒子のビームを形成する荷電粒子源及び光学系も含む。
【0052】
リニアイオントラップは、イオン化源からイオンを受け取って第1の電位エネルギレベルで熱化し、イオンを第2及び第3の電位エネルギレベルで処理し、且つ最後に、第4の電位エネルギレベルで熱化されたイオンを、質量対電荷比を測定するために質量分析器に向けて又は質量分析器と結合された排出器に向けて(若しくは質量分析器と結合され得る排出器と結合された貯蔵領域に向けて)排出するように構成される。リニアイオントラップのトラップ領域から質量分析器への直接排出も行われる。
【0053】
リニアイオントラップが提供され、これは、イオンを処理するための少なくとも2つの離散的なトラップ領域と、2つのRF波形であって、イオンを半径方向にトラップするRFトラップ場成分を形成する、リニアイオントラップのポール電極の対にそれぞれ印加される、2つのRF波形を生成するためのRF電位生成器と、イオンを軸方向に制御するために、RF場成分に重ね合わされ、且つリニアイオントラップの長さにわたって分布される複数のDC場成分を生成するための多出力DC電位生成器と、イオンで埋められた第1のトラップ領域を集合的に形成しているDC電位及び対応するDC場成分を切り換えて、イオン電位エネルギを第1のレベルから第2のレベルに変化させ、且つそれらのレベルの少なくとも一方において第1のイオン処理ステップを実施するように構成された制御装置とを含む。
【0054】
制御装置は、第1のトラップ領域を集合的に形成しているDC場成分の少なくとも1つのDC場成分を3つの異なるDC電位レベル間で切り換えるように構成されている。制御装置は、第2の処理ステップを実施するためにイオンを第1のトラップ領域から第2のトラップ領域に移動させるように少なくとも1つのDC場成分を切り換えるように構成されている。制御装置は、第2のトラップ領域に貯蔵されているイオンの電位エネルギを第1のレベルから第2のレベルに変化させるために、第2のトラップ領域を集合的に形成しているDC場成分を切り換えるように構成されている。制御装置は、第2のトラップ領域を集合的に形成しているDC場成分の少なくとも1つのDC場成分を3つ以上の異なるDC電位レベル間で切り換えるように構成されている。
【0055】
RF波形は、ほぼ矩形の電圧パルストレインを含む。ポール電極の対は、第1の電位エネルギレベルのイオンで埋められた第1のトラップ領域を通して(例えば、通り抜けて)注入された荷電粒子のビームを受けるように構成されている。トラップ領域を通る注入は、様々な解離経路を可能にするために第1の電位レベルで行われ得、且つまた第2の電位レベルで行われ得る。好ましくは、制御装置はまた、荷電粒子ビームをRF波形の所望の位相でのみ且つ所定の期間にわたってトラップ内に伝送するように、荷電粒子ビーム光学系に印加される電位を変調するように構成されている。
【0056】
制御装置は、衝突誘起解離を実施するために、イオンを第1のトラップ領域から第2のトラップ領域に向けて十分な運動エネルギでリリースするように複数のDC場成分を切り換えるように構成されている。制御装置は、質量対電荷比を測定するために、処理されたイオンを質量分析器に向けて排出するように少なくとも1つのDC場成分を切り換えるように構成されている。
【0057】
リニアイオントラップにおいてイオンを処理する方法も開示される。一例示的実施形態では、本方法は、所与の時点において、ほぼ均一な圧力を有するトラップ場を画定するリニアイオントラップを提供するステップと、イオンを、そのイオンを半径方向に閉じ込めるためのRFトラップ場成分と、そのイオンを軸方向に制御するための複数のDC場成分とを重ね合わせることによって生成されるトラップ場においてトラップするステップと、少なくとも2つの離散的なトラップ領域を形成するためにDC場成分をリニアイオントラップの軸に沿って空間的に分布させるステップと、第1の電位エネルギレベルの第1のトラップ領域におけるイオンを第1の処理ステップに供するステップと、第1の離散的なトラップ領域を集合的に形成しているDC場成分を適時に切り換えて、イオンの電位エネルギを第1のレベルから第2のレベルに変化させるステップとを含む。
【0058】
本方法は、第2のトラップ領域へのイオン移動を促進するために、第1のトラップ領域の少なくとも1つのDC場成分を3つの異なるレベル間で切り換えるステップを更に含む。本方法は、第2のトラップ領域におけるイオンの電位エネルギを第1の電位エネルギレベルから第2の電位エネルギレベルに変化させ、それらのレベルの少なくとも一方でイオンを処理するステップを更に含む。本方法は、第1の離散的なトラップ領域の第2の電位エネルギレベルでイオンを第2の処理ステップに供するステップを更に含む。本方法は、第2の離散的なトラップ領域の第1又は第2の電位エネルギレベルでイオンを第3の処理ステップに供するステップを更に含む。本方法は、ほぼ矩形の電圧パルストレインを含む2つの逆相のRF波形により、RFトラップ場成分を生成するステップを更に含む。本方法は、第1、第2、及び第3の処理ステップの少なくとも1つにおいてイオンを活性化するために、粒子(例えば、荷電粒子)のビームをトラップ領域に注入するステップを更に含む。
【0059】
別の例示的実施形態では、リニアイオントラップにおいてイオンを処理する方法は、所与の時点において、ほぼ均一な圧力を有するトラップ場を画定するリニアイオントラップを提供するステップと、イオンを、そのイオンを半径方向に閉じ込めるためのRFトラップ場成分と、そのイオンを軸方向に制御するための複数のDC場成分とを重ね合わせることによって生成されるトラップ場においてトラップするステップと、リニアイオントラップの軸に沿って少なくとも2つの離散的なトラップ領域を形成するためにDC場成分を空間的に分布させるステップと、第1の電位エネルギレベルの第1のトラップ領域におけるイオンを第1の処理ステップに供するステップと、第2の電位エネルギレベルの第2のトラップ領域におけるイオンを第2の処理ステップに供するステップと、トラップ領域を集合的に形成しているDC場成分を切り換えて、その中に貯蔵されているイオンの電位エネルギを変化させることにより、処理されたイオンをトラップ領域間で移動させるステップと、少なくとも1つのDC場成分を3つの異なるDC電位レベル間で切り換えるステップとを含む。
【0060】
更に別の例示的実施形態では、リニアイオントラップにおいてイオンを処理する方法は、所与の時点において、ほぼ均一な圧力を有するトラップ場を画定するリニアイオントラップを提供するステップと、イオンを、そのイオンを半径方向に閉じ込めるためのRFトラップ場成分と、そのイオンを軸方向に制御するための複数のDC場成分とを重ね合わせることによって生成されるトラップ場においてトラップするステップと、前記リニアイオントラップに少なくとも3つの離散的なトラップ領域を形成するためにDC場成分を空間的に分布させるステップと、第1の電位エネルギレベルの第1のトラップ領域におけるイオンを第1の処理ステップに供するステップと、第2の電位エネルギレベルの第2のトラップ領域におけるイオンを第2の処理ステップに供するステップと、第3の電位エネルギレベルの第3のトラップ領域におけるイオンを第3の処理ステップに供するステップと、トラップ領域を集合的に形成しているDC場成分を切り換えて、その中に貯蔵されているイオンの電位エネルギを変化させることにより、処理されたイオンをトラップ領域間で移動させるステップと、少なくとも1つのDC場成分を3つの異なるDC電位レベル間で切り換えるステップとを含む。
【0061】
別の例示的実施形態によるリニアイオントラップにおいてイオンを処理する方法は、イオンを半径方向に閉じ込めるためのRFトラップ場成分と、イオンを軸方向に制御するための複数のDC場成分とを重ね合わせることによって生成されるトラップ場をリニアイオントラップが画定するステップと、少なくとも2つの離散的なトラップ領域をリニアイオントラップの軸に沿って形成するためにDC場成分を空間的に分布させるステップと、第1の電位エネルギレベルの第1のトラップ領域におけるイオンを第1の処理ステップに供するステップと、イオンの電位エネルギを変化させるステップと、イオンを第1のトラップ領域からリリースするために少なくとも1つのDC場成分を3つの異なるDC電位レベル間で切り換えるステップとを含む。
【0062】
別の例示的実施形態では、本発明は、リニアイオントラップの軸に沿ってイオンを移動させる方法も提供する。この方法は、イオントラップのトラップ領域内にイオンを軸に対して半径方向に閉じ込めるためのRF電位を生成するステップと、トラップ領域内にイオンを軸方向に閉じ込めるためのトラップ領域を画定する複数のDC電位を生成するステップであって、それにより、RF電位及びDC電位が集合的にトラップ領域内にイオンをトラップする、ステップと、第1のトラップ領域のDC電位を第1のレベルと第2のレベルとの間で同時に変化させるステップと、トラップ領域の一方の側において、第2のレベルのDC電位を、トラップ領域の最小DC電位を超えない値に変化させ、それにより、軸に沿った移動のための、トラップ領域に閉じ込められているイオンのリリースを可能にするステップとを含む。
【0063】
上述の例示的実施形態では、イオントラップは、DC電場の空間プロファイルを生成及び整形するために、軸に平行に延びるアレイに順次配列された複数のセグメントを含み得る。本方法は、各DC電場を生成し、DC電圧のそれぞれの1つをイオントラップの複数のセグメントのそれぞれの1つに印加するために、有限の数のそれぞれ異なるほぼ一定のDC電圧を提供することを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1A】
図1Aは、リニアイオントラップシステムの概略図であり、このシステムは、RF生成器及びDC生成器と、RF電位及びDC電位並びにイオン電位エネルギを制御する制御装置とを含む。
【
図1B】
図1Bは、セグメント化リニアイオントラップの斜視図であり、このリニアイオントラップは、1つのトラップ領域と、関連付けられたDC電位の遷移とを有して、イオン電位エネルギを制御するように構成されている。
【
図2】
図2は、セグメント化リニアイオントラップの斜視図であり、このリニアイオントラップは、2つのトラップ領域と、関連付けられたDC電位の遷移とを有して、イオン電位エネルギを制御するように構成されている。
【
図3A】
図3Aは、DC場成分を複数のレベル間で制御する切り換え電子回路の回路図である。
【
図3B】
図3Bは、DC場成分を複数のレベル間で制御する切り換え電子回路の回路図である。
【
図3C】
図3Cは、DC場成分を複数のレベル間で制御する切り換え電子回路の回路図である。
【
図4】
図4は、イオン電位エネルギを制御するためのDC電位プロファイルの遷移を含むセグメント化リニアイオントラップにより構成された質量分析計の概略図である。
【
図5】
図5は、イオン電位エネルギを制御するためのDC電位プロファイルの遷移を含むセグメント化リニアイオントラップにより構成された質量分析計の概略図である。
【
図6】
図6は、イオン電位エネルギを制御するためのDC電位プロファイルの遷移を含むセグメント化リニアイオントラップにより構成された質量分析計の概略図である。
【
図7】
図7は、
図6に示された質量分析計の場合のイオン電位エネルギを制御するためのDC電位プロファイルの遷移を示す。
【
図8】
図8は、
図6に示された質量分析計の場合のイオン電位エネルギを制御するためのDC電位プロファイルの遷移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1Aを参照して、本発明のリニア四重極イオントラップについて一般的に説明する。リニアイオントラップ100は、2つのRF波形であって、イオンを半径方向にトラップするRFトラップ場成分を形成する、リニアイオントラップのポール電極の対にそれぞれ印加される、2つのRF波形を発生させるRF発生器102に接続されている。リニアイオントラップ100はまた、多出力DC発生器103につながっており、多出力DC発生器103は、イオンを軸方向に制御するために、RF場成分に重ね合わされ、且つイオントラップの長さにわたって分布される複数のDC場成分105を形成する複数のDC電位を発生させる。RF波形の特性と、また様々なレベル間のDC電位のタイミング及び切り換えとを規定するために、制御装置104(例えば、後に
図3Cを参照して詳述されるFPGA制御装置346)が使用される。リニアイオントラップは、その中でイオンを処理する2つの別個のトラップ領域101で構成されることが好ましい。離散的なトラップ領域を形成するDC場成分のレベルは、イオンを軸方向に閉じ込める電位井戸106を形成するように定められ、制御装置は、電位井戸のレベルの調整又は変更を適時にまとめて行うように構成されている。制御装置104はまた、DC場成分を3つの異なるレベル107間で切り換えるように構成されている。
【0066】
図1Bを参照して、リニア四重極イオントラップについて説明する。リニア四重極イオントラップ110は、3つのセグメント111、112、及び113を含み、各セグメントは、ポール電極の2つの対によって形成され、各対には、イオンを半径方向にトラップするためのRF場成分を形成する、位相が反対のRF波形が与えられる。全てのセグメントが共通軸114を共有しており、イオンを処理するトラップ領域を共同で画定している。イオンの軸方向制御のために、3つのDC場成分を形成するそれぞれのセグメントに別々のDC電位が印加される。電位井戸を形成し、イオンを軸方向に閉じ込めるために、中央セグメント112に印加されるDC場成分の大きさは、隣接するDC場成分に比べて小さい。中央セグメントはまた、外部の荷電粒子源116で発生させた荷電粒子を受け入れる入口アパーチャ115をポール電極上に有するように設計される。ポール上のアパーチャ115を通る荷電粒子の注入は、集束レンズ系117により促進される。
【0067】
本発明のリニアイオントラップの軸に沿うDC電位又は電位エネルギ面の遷移も118に示されている。イオンの処理及び/又は活性化は、所望の運動エネルギを有する荷電粒子を注入することにより行われ、所望の運動エネルギは、第1のDC電位レベル119に対して相対的な荷電粒子源のDC電位レベル120によって決まる。イオンの電位エネルギは、その後、第2のエネルギレベル122まで上げられ121、そのレベルで第2の活性化処理ステップが実施可能である。この基本的な構成では、イオンの移動又は排出を促進するために、セグメント113に印加されるDC場成分を3つの異なるDCレベル又はDC電位124、125、及び126間で切り換えること123が必須である。第1のDC電位126は、イオンを軸方向に閉じ込めるために、中央セグメント122に印加される電位より高いレベルに調節され、第2の電位124は、第2のDC電位レベル122でのイオン処理を促進するために電位井戸のレベルを変化させること121の結果であり、一方、第3のDC電位レベル125は、イオンを中央セグメント112からリリースするために印加される。イオンの運動エネルギを制御する、例えば、電位井戸に貯蔵されているイオンの排出中に質量分析器の受け入れエネルギをマッチングさせるか、又は移動時のバッファ気体分子とのバイナリ衝突のエネルギを制御するために、DC電位を3つの異なるレベル間で切り換えることが必要である。
【0068】
DC電位制御機能121は、イオンの電位エネルギを、様々な運動エネルギを有する荷電粒子の注入に最適なレベルに調節することにより、複数の処理ステップが達成されることを大幅に促進する。各活性化解離ステップでは、相互作用のエネルギは、イオンが中央セグメント112に貯蔵されている際の相対DC電位レベルと、荷電粒子源116のDC電位レベルとによって決まる。例えば、荷電状態操作のための電子捕獲解離、電子誘起解離、及び電子脱離は、イオンがトラップに貯蔵されている際のDC電位を3つの異なるレベル間で簡単に調節することにより、同じトラップ領域で全て実施可能である。
【0069】
図2を参照して、本発明の好ましい一例示的実施形態を説明する。リニア四重極イオントラップ200は、セグメント202及び207に形成された2つのトラップ領域と、入口端部ガードセグメント201及び出口端部ガードセグメント208と、中間ガードセグメント203~206とで構成され、これらは共通軸209を有し、イオンを処理するトラップ空間を共同で画定する。真の四重極場を生成するために、双曲線ポール電極構造を用いることが好ましい。セグメント202に形成されるトラップ領域は、対のポール電極上に入口アパーチャ210を有するように設計される。集束レンズ212を通して荷電粒子を注入する荷電粒子源211がリニアイオントラップ200に外部接続されている。衝突活性化又は衝突解離のためのイオン隔離及びイオン運動の励起を実施するために、セグメント207の第2のトラップ領域にAC補助波形が供給されることが好ましい。
【0070】
セグメント化リニアイオントラップ200の電位エネルギ面の遷移も213に示されている。処理サイクルには、第1のDC電位レベル214において、リニアイオントラップのセグメント202の第1のトラップ領域にイオンを移動させることが含まれ得る。リニアイオントラップに導入されるイオンは、四重極質量フィルタを使用して事前選択され得る。粒子源211で発生して外部から注入される荷電粒子を使用する活性化解離を含むイオン処理は、(例えば、解離の)プロセスの効率の最適化に必要な第1の電位レベル214又は他の任意のレベル若しくは複数のレベルで実施される。その後、ガードセグメント203に印加されるDC電位がレベル215とレベル216との間で切り換えられて217、イオンが、別のDC電位レベル219でのその後の処理のためにセグメント207の第2のトラップ領域に移動する。
【0071】
バックグラウンド気体分子とのエネルギ衝突を最小化するために、トラップ領域間に弱いDC勾配218を発生させ得る。イオン移動は、一定のバックグラウンド圧力において又は気体パルスがある間に行われ得る。従って、これは、(例えば、少なくとも1つのパルス弁を使用して)気体をパルス化することによって発生した一時的な圧力上昇中に行われ得る。また、好ましくは、少なくとも1つのパルス弁を使用して気体をパルス化することによって発生した一時的な圧力上昇中に熱化が行われ得る。その実験の残りの部分では、イオンが無衝突環境のトラップ領域に貯蔵される。衝突による高速イオン熱化は、気体パルスがある間に行われ得る。代替実施形態では、必要に応じて、衝突による高速イオン熱化は、一定の圧力上昇時に行われ得る。代替実施形態では、必要に応じて、低圧でのイオン熱化は、イオンがトラップ領域間で振動する長期間にわたって行われる。イオンがイオントラップ200の第2のトラップ領域から外に漏れるのを防ぐために、出口端部ガード電極208に印加されるDC電位220を高いレベルに切り換えることが必要である。
【0072】
セグメント207の第2のトラップ領域での処理は、AC補助波形を使用して実施される何れの処理ステップも含み得、例えば、衝突活性化のためのイオン隔離又はイオン運動の励起を実施するステップを含み得る。AC補助波形を使用して選択されたイオン、又はセグメント207若しくは202で生成されたプロダクトイオンの電位エネルギは、その後の質量分析器へのリリースのために新たなレベル222まで上げられ得る221。排出プロセスでは、セグメント208に印加されるDC電位をレベル224とレベル225との間で更に切り換えること223が必要である。或いは、セグメント202の第1のトラップ領域に効率よく戻すために、選択されたイオン又はプロダクトイオンの電位エネルギが高いレベル226に上げられる。移動には、セグメント206に印加されるDC電位をレベル228とレベル229との間で更に切り換えること227が必要である。同様に、イオンがセグメント207とセグメント202との間を移動する間、弱いDC勾配230を発生させることが好ましい。イオンは、新たなDC電位レベル231においてトラップされ、更に処理される。第1のトラップ領域におけるDC場成分を新たなレベルに切り換えること232により、別のレベルでの処理が行われ得る。第2のトラップ領域へのイオン移動を最適化するために、第1のトラップ領域においてイオンの電位エネルギを元のレベル214まで緩めるか又は上げることが必要である。ここで説明した処理サイクルは、同じ処理ステップで繰り返され得、又は新たな(例えば、追加の)処理ステップが導入され得る。
【0073】
図2を参照して説明した1つの実験サイクル中に電場成分のDC切り換えを複数のレベル間で行うことによって可能になるイオン電位エネルギ制御機能の重要な利点は、空間的且つ時間的に多段又はタンデムである綿密な活性化解離実験が効率的に行われることを可能にすることである。より重要なことに、イオン電位エネルギ制御機能は、実験サイクルの各ステップで適用される様々な活性化解離のツール及び方法を選択する際に荷電粒子とイオンとの間の相互作用のエネルギに制限を課せられず、又は質量分析器及びイオンモビリティ分析計への排出を含む、近接するイオン光学要素によって課せられるエネルギ受け入れ要件に関する他のあらゆる制限も課せられないというユニークな利点を有する。
【0074】
図2を参照すると、第1のトラップ領域において複数の処理ステップが実施され得、これらは、同時又はシーケンシャルに同じDC電位レベル又は異なるDC電位レベルでパルス状又は連続的に動作する1つの又は異なる荷電粒子ビームを使用して実施され得る。トラップ領域に荷電粒子をパルス状に注入するには、ゲーティングを適用する必要がある。ゲーティングは、トラップ波形の位相と同期させることが好ましい。1つのトラップ領域で2つの処理ステップが同時に実施され得、例えば、イオン運動の励起のためのAC補助波形の適用と、イオンの活性化解離のための電子の注入とが同時に行われ得る。選択されたイオンのイオン運動を電子照射中に励起させることにより、活性化速度論を制御すること又はイオンの電荷減少及び中和を最小化することが可能である。電子捕獲解離と衝突誘起解離との組み合わせを適用することにより、解離効率、特に高質量イオンの場合の解離効率を強化することが可能である。リニアイオントラップの様々なトラップ領域に荷電粒子源又は分子-原子粒子源が追加で結合され得る。同じグループ又は別のグループのイオンを使用して、異なるトラップ領域での処理を同時又はシーケンシャルに実施することが可能である。同時処理は、イオンのグループを2つのトラップ領域に分けることによって達成可能である。これは、複数のセグメントにわたって印加される最初は均一なDC場成分によって形成される拡張トラップ領域における中央DC電位を上げることによって達成可能である。
【0075】
図2を参照して開示された例では、DC場成分を形成するDC電位は、抵抗及びコンデンサを介してセグメントに直接印加される。また、リニアイオントラップにわたってRF場成分の上にDC場成分を重ね合わせるために、DCバイアスに依存しない電極をRFポール電極間に挿入することも望ましい。
【0076】
DC電位の複数の状態の切り換えを可能にし、イオン電位エネルギ制御機能を促進するための本発明の回路図を
図3A、3B、及び3Cに示す。
図3Aは、本発明の切り換え設計300の回路図を示す。この例では、簡潔さのためにリニアイオントラップの2つのセグメント303及び304のみが図示されており、これらは切り換え基板302に接続されており、切り換え基板302は第2のリフト基板301の上にフロートされている。リフト基板は、各セグメントに印加されるDC電位又はDC電圧を、独立した2つの電源装置V1及びV2の電圧出力によってそれぞれ決定される2つの異なるレベル間で切り換えるように設計されている。リフト電圧は、スイッチSW1及びSW2と各電源の電圧出力とによって決定される。リフト基板の出力は、第3の電源装置V3と、更なる一連の直列なスイッチSW3A及びSW3Bとに接続されており、最終的に第1のセグメント303に接続されている。同様に、第4の電源装置V4並びにスイッチSW4A及びSW4Bもリフト基板と直列に接続されており、第2のセグメント304に印加される電圧を決定する。表305は、第1及び第2のセグメントのそれぞれに印加可能なDC電位又はDC電圧出力レベルとして可能なものの一覧である。
【0077】
フロート基板302は、リニアイオントラップの更なるセグメント又は独立DC電極に接続される、スイッチと電源装置との更なる対を収容することが可能である。フロート基板は、同じリフト基板又は別のリフト基板に直列に接続され得る。リニアイオントラップの端から端まで設けられたトラップ領域のそれぞれにおいてDC場成分の高速且つ独立な切り替えを促進するために、特定のフロート基板を、個々のセグメントに接続された2つ以上のリフト基板と直列にグループ化することが望ましいであろう。リフト基板及びフロート基板の両方における電源装置の極性は、適宜変更され得る。
【0078】
図3Bは、4つのスイッチと対応する電源装置からなる別の可能な機構を示し、これは、1つのセグメントに印加される電圧を4つの異なるレベル間で高速で切り換えるために使用され得る。この切り替え機構は、独立したリフト基板の上にフロートされ得る。
【0079】
多段シーケンシャル活性化解離を促進ために4つ以上のDC電位、DC電圧、又はDC場成分が必要である処理サイクルは、トラップ領域間で効率的なイオン移動を達成し、且つイオンを受け取り、プロダクトを適切な運動エネルギで質量分析器に移動させる。より重要なことに、複数のDC状態を切り換えることにより、DC電位及び対応するDC場成分の調節をセグメント間で同期的に行うことでイオンの電位エネルギを厳密に制御することが可能になる。
【0080】
図3Cは、処理サイクルの過程中にLQITの1つのセグメントに異なる8つのDC電圧レベルを印加するように設計された好ましい電子回路の回路
図340を示す。基板341では、DAC 342がアナログマルチプレクサ(MUX)343を駆動しており、8つの出力DC状態が演算増幅器344につながっており、演算増幅器344は、リード線及び真空フィードスルー345を介して1つのセグメントにつながっている。正電位と負電位との両方が生成可能であり、これらは、典型的に演算増幅器のモデルによって±225Vに制限される。DC状態の数は、典型的にPC装置347によって制御され、PC装置347は、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)制御装置346につながっている。FPGA制御装置346は、マルチプレクサに制御信号を送り、また、DACが適切なDC電圧レベルを生成するための情報をマイクロコントローラ装置348に転送する。第2のセグメントを駆動するために、同じMCU 348につながっており、FPGA制御装置346によって同期的に制御される、基板341と同一の第2の基板が必要である。マルチプレクサと2方向スイッチとの組み合わせは、複雑な切り替えと高度なイオン電位エネルギ制御とを促進する上でも有利である。FPGA制御装置は、ほぼ矩形の逆位相RF波形の特性(RFの振幅、周波数、及びデューティサイクルを含む)を制御するように更に構成されている。FPGA制御装置はまた、ダイポールモードで印加されることが好ましい補助AC波形の特性を制御するように構成されている。別の好ましい構成では、全ての高電圧演算増幅器344を駆動するために、
図3CのMUX 343が除去されて、出力信号の数がセグメントの数と等しい、1つの多チャネルDACが使用され得る。FPGA制御装置346は、MCU 348を駆動するために使用される。この構成では、処理サイクル中に印加される、各セグメントの全てのDC状態に対するDC電位に対応するDAC値の多次元アレイがPC装置347からFPGA 346を通してMCU 348に送られる。処理サイクル中、FPGAにおいて生成される、多次元アレイの行数を示してMCUをトリガする信号により、DC電位レベルの遷移が開始される。MCUは、選択された状態値をDACに書き込み、これらの値は、その後、トリガ信号によって演算増幅器344に出力される。
図4を参照して、本発明の一例示的実施形態を説明する。機器の概略
図400に示すように、セグメント化リニア四重極イオントラップ(LQIT)が大気圧インタフェースにつながっており、そこでは、イオンは、中間圧力のガスで動的に最適化されたイオン光学系により、RFイオンガイドを通って、本発明の好ましい実施形態を組み込んだ次の真空領域に移動する。oTOF質量分析器を使用してイオンの質量対電荷比が測定される。
【0081】
イオンは、エレクトロスプレーイオン化401によって生成され、毛細管入口402を通って採取され、空気レンズ404を収容する第1の真空コンパートメント403に入れられる。空気レンズの機能及び特性については、国際公開第2014001827号パンフレット及び欧州特許出願公開第2864998A2号明細書に記載されており、これらの開示は、参照によって全内容が本明細書に組み込まれる。手短に言うと、超音速ジェット405が空気レンズのボア内に放出され、このボアは、ガスの半径方向の拡大を抑えて、荷電クラスタ及びイオンを一緒に運ぶ層状の亜音速ガス流を形成するように寸法決定されている。第1の真空コンパートメント403内の圧力は、機械式ポンプ406を使用して入口系を大きくし、イオン化源からの採取効率を高めることにより、>1mbarに維持され、好ましくは>10mbarに維持される。イオンは、レンズ系407を通ってRF八重極408に入れられる。RF八重極については、全開示内容が本明細書に組み込まれる米国特許第9123517(B2)号明細書に記載されている。RF八重極は、イオンガイドの入口でイオンを捕獲する八重極場分布409と、イオンを半径方向に圧縮して、差動アパーチャ411を通る伝送量を最大化する四重極場分布410とを結合する。RF八重極408を収容している真空コンパートメント413にターボ分子ポンプ412をつなぐことにより、圧力を10-3~10-2mbarの範囲にすることが達成されている。イオンは、RF八重極において動力学的に熱化され、差動アパーチャ411内を伝送され、本発明のリニアイオントラップ414に入れられて処理される。イオンは、処理後、LQITから、次の真空コンパートメント433に配置されているRF六重極イオンガイド431を通ってリリースされ、真空コンパートメント433は、ターボ分子ポンプ432によって排気されて、直交するTOF質量分析器437につながり、TOF質量分析器437は、ターボ分子ポンプ438によって制御されて高真空で動作する。この好ましい実施形態では、イオンは、六重極431から一連の差動アパーチャ433を通って高真空レンズ434、スライサ435に入り、最後に、高電圧抽出パルスが垂直ゲート436の電極に印加されることによって垂直方向に加速される。
【0082】
図4に示した実施形態では、LQITは、双曲線ポール電極415とともに構成されている。180度の位相シフト416を有するほぼ矩形のトラップ波形は、対向するポール電極に印加される。トラップされたイオンと外部で生成されたイオン及び電子との間の相互作用が効率的であるために、波形期間の一部において、矩形又は他のタイプのトラップ波形がほぼ一定のRFトラップ場成分を形成することが必要である。LQITは、ターボ分子ポンプ427につながっている差動排気領域428に封入されることが好ましい。トラップ領域内の圧力を動的に制御する少なくとも1つのパルス弁446(及び任意選択で、バックグラウンド圧力を制御するリーク弁)がLQITにつながっている。最も好ましくは、少なくとも1つのパルス弁がトラップ領域間の移動中のイオン熱化に使用され、少なくとも1つのパルス弁が衝突誘起解離実験に使用される。LQITは、好ましくは、RF六重極431を収容する真空コンパートメント430に配置され、低圧(例えば、10
-4mbar未満の圧力)で動作する。従って、LQITからの排出中のイオンの散乱が最小化され、軸方向の運動エネルギの広がりも最小化される。
【0083】
LQITは、9個のセグメント417~425を有するように設計されており、各セグメントに切り換え可能なDC電位が供給されて、セグメント418、421、及び425にトラップ領域が形成される。セグメント418の第1のトラップ領域での処理は、イオンの収集及び貯蔵、イオンの蓄積、1つの質量対電荷比又は複数の前駆イオンの隔離のためのイオン運動の励起、ダイポール励起による低速加熱衝突誘起解離、広帯域励起法又はDCダイポール励起法、イオンを解離まで駆動しない活性化、及びこれらの組み合わせを含む。セグメント425の第3のトラップ領域は、下流の光学系及び質量分析器から課せられている要求を満たす適切なエネルギでoTOFパルサ436に向けて排出される前のプロダクトイオンを貯蔵及び蓄積するように設計されている。シンプルな動作モードでは、トラップ領域間のイオンの移動を効率よく行うために、セグメント421に貯蔵されているイオンの電位エネルギを、セグメント425に印加されている電位より高くし、その後、適切なDC場成分を切り換えることが実施される。
【0084】
イオンを半径方向に閉じ込めるほぼ矩形のRF波形によって生成されるRF電場に、ダイポールモードで印加されることが好ましいがこれに限定されない補助AC波形を重ね合わせることにより、且つデューティサイクルを0.5以外の値に調節することにより、CIDの効率が高められる。非対称且つほぼ矩形の波形を生成して、非対称イオン運動を生成することにより、イオントラップ内のイオン運動の特性を細かく制御するために、RF駆動のデューティサイクルを変化させることが行われる。最も好ましくは、不要な排出を引き起こすことなくイオントラップ内のイオン振動の運動エネルギを最大化するために、RF波形のデューティサイクルを変化させて生成される非対称イオン運動の方向がダイポール励起の方向に対して位置合わせされる。そのようなトラップ条件下では、緩衝ガスの存在においてイオンに堆積するエネルギが強化され、フラグメンテーションの効率も高まる。
【0085】
別の好ましい実施形態では、ポール電極の第1の対に第1の対称RF波形が印加され、ポール電極の第2の対に第2の非対称波形が印加され、第2の非対称波形にAC補助波形が更に組み合わされて、イオン運動が励起されてCIDの効率が高まる。第1の対称RF波形及び第2の逆位相非対称RF波形をイオントラップの所与のセグメントのポール電極の第1及び第2の対にそれぞれ印加することにより、イオン運動の第2の基本永年周波数が生成され、不要な排出を引き起こすことなく、より大きい振幅の励起波形が印加されることが可能になる。CIDの効率が高まるように、RF波形間のデューティサイクルオフセット、励起の周波数及び振幅、及びまた安定線図上のイオンのqパラメータを調整することが可能である。
【0086】
LQITに注入された電子及び試薬イオンを使用する活性化がセグメント421の第2のトラップ領域で行われる。外部で生成された荷電粒子ビームを使用するイオン活性化の例として、ECD、EID、逓倍荷電ラジカルイオンを生成する前駆種のm/z比を低減する電子脱離、及び他のタイプのイオンと電子の相互作用がある。イオン-イオン衝突活性化及びイオン-イオン反応のために試薬イオンを外部から注入することも行われ得る。フォトフラグメンテーション実験に加えて付加種及び付加フラグメントを形成するイオン-分子反応がセグメント421で実施され得る。衝突ガスがない場合、イオン-電子相互作用が行われることが好ましい。
【0087】
トラップされたイオンと電子との間の相互作用が考えられる場合、第2のトラップ領域を形成する第1のDC場成分を、電子を脱離させ、逓倍荷電ラジカル種を生成し、前駆イオンのm/z比を低減することに十分なエネルギ相互作用を引き起こすように電子が生成される際の電位エネルギレベルに比べて十分低いレベルに調節することが望ましい。その後の処理ステップで実施される活性化解離実権を強化するために、逓倍荷電ラジカルイオンを効率的に生成することが望ましい。例えば、新たな解離経路を開き、現時点で既存の活性化解離のツール及び方法によって得られる分析情報を強化するために、逓倍荷電ラジカルイオンをCID及びECDの実験にかけることが考えられる。実験の過程でのイオンの電位エネルギを制御することは、様々な活性化ツールがシーケンシャルに使用されることを可能にする最も重要な側面である。
【0088】
EID実験を、前駆イオンにエネルギ電子を照射する期間を延長することによって行うことも好適である。CIDタイプのイオンを生成して、(例えば、高質量イオンの)シーケンスカバレッジを強化するための一代替方法として、電子エネルギを振動エネルギに変質させる方法がある。逓倍荷電前駆イオンに低速電子を照射することによる電荷低減実験を行うことも可能である。これらの機能及び関連付けられた解離経路は、イオンを処理するためのトラップ領域を形成するRFトラップ場に重ね合わされるDC電位及び対応するDC場成分を変化させることによってイオンの電位エネルギレベルを調節することにより、容易にアクセス可能になる。
【0089】
エネルギ電子を使用して前駆イオンから逓倍荷電ラジカルイオンを生成すること又は荷電状態低減実験を実施することは、両方とも(例えば、前駆)イオンの荷電状態分布を制御する上で有効である。このタイプの実験では、その後の活性化ステップを実施するためにRFトラップ波形の周波数ジャンプが必要である。例えば、電子を第1のDC電位レベルの第2のトラップ領域に注入することにより、m/z比が低減された逓倍荷電ラジカルイオンを生成することが可能である。その後、プロダクトイオンの電位エネルギをECDの実施に十分なレベルまで下げることが可能である。第1の処理ステップで生成され、その後、ECDが行われた逓倍荷電ラジカル種のm/z比をECDプロダクトのm/z比に合わせることにより、トラップに正常に貯蔵されるm/z比の範囲を最も広くカバーすることが可能である。この方法により、1つの実験の過程で抽出可能な分析情報が強化される。
【0090】
図4に示す本発明の別の動作モードでは、イオン-イオン活性化のために且つ/又はイオン-イオン反応実験を実施するために、放電イオン化源において生成される試薬イオン若しくはエレクトロスプレーイオン化(ESI)、又は当業者に周知の他のESI変種によって生成される試薬イオンは、(例えば、セグメント421のトラップ領域のポール電極上に作られた一連のレンズ426及びアパーチャを通って)LQITに注入される。同様に、プロダクトイオン形成を最適化するために、試薬イオンと前駆イオンとの間の相互作用のエネルギを制御することが望ましく、セグメント421のイオンの電位エネルギを調節することによって相互作用のエネルギをスキャンすることが最も好ましい。第2のトラップ領域のDC場成分を調節して、活性化解離の検討のための最適条件を識別する方法は、試薬イオンの可視光線の全体に沿って印加される電位を調節する方法よりも直接的なアプローチである。
【0091】
波形期間の一部にわたって一定のRFトラップ場成分を示すトラップ波形を印加することにより、外部からLQITへのイオン及び電子の注入が大幅に促進される。試薬イオン及び電子を厳密な運動エネルギでトラップ領域に注入することにより、活性化解離実験を最適化することが可能である。セグメント421の第2のトラップ領域に貯蔵されるイオンの電位エネルギを非常に広い範囲にわたって調節すること又は異なるレベル間で調節することによって活性化解離のエネルギを調整することは、本発明の範囲である。多段活性化解離実権の過程で抽出される分析情報を強化するためにイオン活性化実験を同時且つシーケンシャルに実施する新しいツール及び方法を提供することも本発明の範囲である。最も重要なことに、外部から注入される荷電粒子ビームとの相互作用を含む様々な活性化手法を個別に最適化することが可能であり、イオンの電位エネルギを変化させることによって新たな解離経路が利用可能になる。
【0092】
様々な活性化処理(例えば、イオンに光子及び電子を照射すること又は試薬分子の存在下でイオンに光子を照射すること)を同時に実施することも望ましい。試薬分子は、パルス弁を使用してLQITに導入されることが好ましく、試薬分子の滞留時間は10~100msのオーダーである。
【0093】
別の好ましい動作モードでは、イオンは、2状態のほぼ矩形のトラップ波形を使用して貯蔵され、波形期間の前半に試薬イオン又は電子を照射され、後半に電子を照射されることにより、2つの異なるタイプのフラグメントイオンが同時に生成される。イオン及びプロダクトの電位エネルギは、一定に保たれ得、又はイオン-イオン相互作用及びイオン-電子相互作用のエネルギを個別に調節するために第1のレベルから第2のレベルに切り換えられ得る。
【0094】
セグメント421の第2のトラップ領域のLQITに貯蔵されているイオンと、外部で生成された荷電粒子及び光子との相互作用は、セグメント421の対向する2つのポール電極上のアパーチャによって促進される。好ましくは、実験の過程において、電子源又は試薬イオン源の光学系が固定電位で動作し、レンズ系426を通り、反対側のポール電極上の出口アパーチャを通る伝送量が最大になるように最適化されることにより、表面の汚染及び帯電が最小化される。アパーチャを通るイオン及び電子を集束させることは、部分的には、集束レンズ426に印加される電圧を適切に選択することによって達成される。
【0095】
様々な活性化解離手順、特に外部から注入される荷電粒子ビームを利用し、標準的なフラグメンテーション手法と組み合わされる活性化解離手順が明確になるのは、相互作用のエネルギ及びまたイオン移動を効率よく微調整するためのDC電位の切り換え及び制御、並びに結果として、LQITの様々なトラップ領域においてイオンの電位エネルギの様々なレベル間での切り換え及び制御が可能かどうかが分かってからに限られる。これらの新しい方法は、全て本発明の
図3A、3B、及び3Cで開示されたような電子技術の進歩によって促進される。
【0096】
図4では、実験の過程において少なくとも1つのセグメントを3つの異なるDCレベル間で切り換える場合のLQITにわたるDCプロファイルの切り換えシーケンス439の一例を示す。セグメント418のDC電位440を、隣接セグメントに印加されたDC電位より低くすることにより、第1のトラップ領域においてイオンの移動及び蓄積が行われる。ポール電極の1つの対にダイポールモードで印加されたAC補助波形を使用してイオンの質量選択が行われる。第1の処理ステップの完了後、LQITの最初の3つのセグメント417、418、及び419にまたがってDC場成分441を切り換えることにより、前駆イオンがセグメント421の第2のトラップ領域に移動する。電位井戸442に貯蔵されているイオンは、エネルギ電子を外部から注入して逓倍荷電ラジカルイオンを形成する第2の処理ステップに供される。これは、電子源が接地電位に保たれている間にイオンの電位エネルギを上げること443によって達成される。第3の処理ステップは、プロダクトイオンの電位エネルギをECDに適するレベルまで下げること443によって行われる。この例では、逓倍荷電ラジカルイオンを形成する電子脱離が約45eVの電子によって行われ、ECDが約1eVの電子によって行われる。最後に、イオンを同じエネルギレベルまで上げて、セグメント422~425に印加されるDC電位を切り換えることを適用してイオンを最終セグメント425に移動させること444により、oTOF質量分析器への排出445が最適化される。
【0097】
同じ切り換えシーケンスに基づく様々な実験が行われ得、例えば、イオンが電位井戸440で受け取られてから、エネルギ電子の事前照射を行わずにECDが行われ得る。セグメント421に貯蔵されているイオンの電位エネルギがECDを行うのに適していない場合、電子がトラップに入らないようにするために、デフレクタをDCプロファイルの遷移に同期させる。その後、ECDプロダクトイオンは、DC電位の高度な制御と、本発明において開示されている切り換え方法とにより、新たな前駆種の隔離選択と低速加熱CIDとを可能にするためにセグメント418に移動され得る。
【0098】
埋まっているトラップ領域においてDC電位を制御することにより、外部で生成された電子との相互作用中にイオンに与えられるエネルギと、トラップを出入りするイオンの移動及び排出に対して課せられる要件とが切り離される。各セグメントに印加される電位は、1つの実験中に任意のレベル又は複数のレベルに自由に調節され得、これは、電子技術の進歩と、本発明において開示されている回路とによって可能になる。
【0099】
本発明の別の例示的実施形態を
図5に示す。機器の概略
図500に示すように、オービトラップ質量分析器510を組み込んだ質量分析プラットフォーム502にセグメント化LQIT 501がつながっている。典型的には、イオンは、四重極質量フィルタ(QMF)503において質量選択され、差動アパーチャ504、506、及び六重極イオンガイド505を通り抜け、排出トラップ507に達する。イオンは、その後、質量分析のためにデフレクタレンズ509を通ってオービトラップ510に注入されるか、衝突活性化解離のために軸方向にRF六重極511に移動する。より包括的な活性化解離分析のためにイオンをセグメント化LQIT 501に移動させ得、これは、差動アパーチャレンズ512に印加される電位を下げることによって行われる。LQITは差動ポンピングされることが好ましく、ガスは、ポール電極と、LQIT 512及び522の何れかの端部に配置された2つの端部電極とにおけるアパーチャを通ってのみ外に出ることが可能である。LQITは、第2のターボポンプによって排気された別個の外部真空コンパートメントに完全に浸漬され得る。LQITには、圧力の(例えば、動的な)制御及び監視のために、パルス弁(及び任意選択のリーク弁)及び圧力ゲージがそれぞれつながっていることが好ましい。
【0100】
この例示的実施形態のセグメント化LQITは、全部で9個のセグメント513~521を有し、3つのトラップ領域がセグメント514、517、及び520が形成されるように設計されている。各活性セグメントの長さは、特定の機能を効率よく実施するように最適化されている。セグメント514に集中している第1のトラップ領域は、1つ又は複数の前駆イオンを隔離するための共鳴励起を実施するためにより多くの電荷を収容し、空間電荷効果及び関連する周波数シフトを最小化するように長さ方向に伸びている。セグメント514はまた、パルスガス導入中に(又は代替実施形態では静的バックグラウンド圧力下で)1つ又は複数の前駆イオンの低速加熱CIDを実施するように設計されている。CID励起は、1つ又は複数の励起周波数を有するように設計された波形で実施され得る。FNF、SWEEP、又はSWIFTの波形がセグメント514に印加される他の典型的な実験として、貯蔵イオンの永年周波数範囲にわたって1つ又は複数のノッチを有するように設計された波形による複数の前駆選択、複数の前駆励起、及びイオン排出があり得る。分解DCの印加は、トラップされたイオンによる高速且つ単純な隔離ステップとして実施され得る。
【0101】
セグメント517の第2のトラップ領域は、外部で生成されたイオン、電子、光子、及びラジカルが注入されて、セグメント514で(又はQMF 503を使用して)あらかじめ選択されたイオンと反応することを可能にするための入口アパーチャを少なくとも2つのポール電極上に有するように設計されている。好ましくは、トラップ波形は、イオン又は電子を厳密な運動エネルギで注入するために、波形期間の半分中に一定のトラップ場を生成するようにほぼ正方形である。荷電種を可変エネルギで外部から注入することを促進するために、3つの電圧状態を有するように設計された他のトラップ波形が使用され得る。選択されたイオンを活性化、イオン化、反応、及び解離させるために、入口アパーチャを通して、正イオン及び負イオン又は電子を同時に、シーケンシャルに、又は別々に注入し得る。セグメント517は、長さがセグメント514より短くなっており、これは、電荷密度を増やし、外部から注入される種との相互作用を最大化するために軸方向の圧縮を大きくすることを可能にするためである。低エネルギ電子の排出がイオン運動の励起と同時に行われることが好ましい。
【0102】
セグメント521の第3のトラップ領域は、LQIT 501で実施された連続する処理ステップで得られたプロダクトイオンを貯蔵及び蓄積するように設計されている。このセグメントでは、真空コンパートメントにつながった窓ポートから外に出ているイオントラップ軸を通って垂直に方向付けられる光子を使用して更なる活性化が行われ得る。蓄積されたイオンは、その後、オービトラップ510を使用する分析に備えて、セグメント521からリリースされて排出トラップ507に戻る。
【0103】
図5には、処理サイクルの一例523中のDC電位プロファイルの切り換えシーケンスが示されており、ここで、排出トラップ507からリリースされたイオン527又はQMF 503において選択されたイオン527が六重極イオンガイド511を通ってLQIT 501内に移動し、セグメント517に貯蔵される。LQITへの注入中に遠端のセグメントにおいてイオントラップ524の両端のDC電位が上げられることにより、軸方向の運動エネルギが上昇したイオンの効率的な捕獲が促進される。圧力過渡時にセグメント517においてイオン528を動力学的に熱化するために、LQITにおけるイオンの到達タイミングをガスパルスと同期させることが好ましい。その後、外部から注入されるイオン及び電子との相互作用の運動エネルギを調節するために、イオン528の電位エネルギを上げるようにDC電位が切り換えられる525。イオンの軸方向の運動エネルギを最適化し、排出トラップ507における捕獲効率を最大化するために、DC電位を切り換えること526により、プロダクト及び残りの前駆イオンは、オービトラップ分析器510を使用する検出のために戻される。
【0104】
この処理サイクルの例523では、イオンの電位エネルギは、セグメント517において3つの異なるレベル間で切り換えられる。LQIT 501への注入中に印加されるDC電位は、排出トラップ507に印加されるDC電位と一致するように構成されており、これは、軸方向のイオンエネルギを10eV未満に保つことにより、六重極511での衝突活性化を避けるためである。イオン-イオン又はイオン-電子活性化解離実験において相互作用エネルギを制御するために、セグメント517に印加されるDC電位を到来するイオン又は電子の運動エネルギに対して調節することが必要である。最後に、オービトラップ510を使用してプロダクト種を検出するために、イオンを新たなDC電位レベルからリリースして、排出トラップ507でのトラップを効率よく行うことが必要である。
【0105】
本発明の更に別の例示的実施形態を
図6に示す。機器の概略
図600に示すように、オービトラップ質量分析器510を組み込んだ質量分析プラットフォーム502にセグメント化LQIT 501がつながっている。オービトラップに対するガス負荷を減らすための追加ポンピング領域を提供するために、LQITと元々のイオンガイド511との間に追加のブリッジ六重極イオンガイド623とDCレンズ電極624とが配置されている。LQITは、差動ポンピングされ、より重いガス負荷に対応することが可能である。水素分子又は水素ラジカルのような軽いガスがより高密度でLQITに入れられ得る。
【0106】
図6には、処理サイクルの一例625と、DC電位プロファイルの対応する切り換えシーケンスも示されており、ここで、排出トラップ507からリリースされたイオン又はQMF 503において選択されたイオンがイオンガイド511及びブリッジ六重極623を通ってLQIT 501内に移動し、セグメント517に貯蔵される。イオンと外部から注入される電子との間の相互作用のエネルギの制御は、トラップ領域のDC電位を1つ又は複数のレベルに調節することによって行われる。この例では、イオンの貯蔵及び蓄積のためにセグメント519、520、及び521におけるDC場成分を調節することにより、第3のトラップ領域が形成される。セグメント517の第2のトラップ領域で実施される活性化解離ステップ626後、イオンの電位エネルギがセグメント520のDC電位レベルよりわずかに高く上げられる。セグメント516、517、及び518に印加されるDC電位をステップ627に示されるように切り換えることにより、プロダクト及び残りの前駆イオンが最小限の運動エネルギで移動する。好ましくは、セグメント519、520、及び521に印加される電位は固定され、残りのセグメントのDC電位プロファイルは、第2のイオンパルスを受け取るために元の設定628に調節される。ステップ626、627、及び628は、低確率又は低効率の解離経路の信号対ノイズ比を改善するのに十分な数のプロダクトイオンが生成されるまで繰り返され得る。この例では、ステップ627に示される第3のトラップ領域へのイオンの移動後に2つの可能な選択肢がある。第1の選択肢は、ステップ629に示されるように、オービトラップを使用する質量分析のためにプロダクトイオンを排出トラップに戻すようにDC電位を切り換えることである。第2の選択肢は、ステップ630に示されるように、第1のトラップ領域におけるイオンをイオン隔離及び低速加熱CIDのために移動することである。最後に、ステップ631に示されるように、セグメント513及びレンズ電極624に印加されるDC電位を切り換えることにより、イオンをリリースして排出トラップ507に戻す。
【0107】
図7には、
図6のLQITプラットフォームで実施される多段活性化解離実験の別のDC電位プロファイルシーケンス725を示す。セグメント726に最初に印加されるDC電位は、イオン隔離及び低速加熱CIDのためにセグメント514の第1のトラップ領域にイオンを移動させるように設定されている。また、セグメント514において第2の隔離ステップを実施することにより、1つのm/z比又は複数のm/z比のCIDプロダクトイオンを選択することも望ましい。
【0108】
その後、セグメント515~518は、選択されたCIDプロダクトをセグメント517の第2のトラップ領域に移動させるように切り換えられ727、そこで、外部から注入された電子を使用してイオンを活性化解離させるように、本発明に開示の方法に基づくイオン電位エネルギの制御が行われる。第2世代プロダクトは、セグメント520の第3のトラップ領域にとどめられることが好ましく、これは、ステップ728に示されるように、電位井戸のDC電位のレベルを調節し、セグメント518、519に印加されるDC場成分を切り換えることによって行われる。新たなイオンパルスを受け取って処理サイクルを繰り返すことにより、第2世代プロダクトを蓄積し、質量分析中の信号対ノイズ比を改善するために、ステップ729に示されるように、DCプロファイルを最初の設定まで緩め得る。ステップ730に示されるように、イオンを第3のトラップ領域から第1のトラップ領域まで移動させることにより、第3世代プロダクトが生成可能である。最後に、DC電位を切り換えて、イオンの運動エネルギを5eV未満に保つ弱いDC勾配を発生させることにより、第3世代プロダクトが排出トラップに戻される。
【0109】
処理ステップ727では、第2のトラップ領域がイオンで埋められ、DC場成分を様々なレベルに調節することによってもイオンの電位エネルギが変更される。例えば、処理ステップ730に示されるように、イオンが存在しない領域でDC電位プロファイルの遷移が行われ得、この場合、弱いDC勾配の影響下でイオンがトラップ領域間を移動するように、第2のトラップ領域のエネルギレベルが上げられる。別の好ましい動作モードでは、第3のトラップ領域に蓄積されているイオンの電位エネルギを第2のトラップ領域の電位レベル近くまで下げることによっても効率的な移動が可能である。
図3に開示された本発明の高度にフレキシブルな電子回路によって可能な同じ処理ステップを実施するために、LQITのDC場成分の様々な遷移が実施され得る。
【0110】
図8には、
図6のLQITプラットフォームで実施され、イオンの電位エネルギ制御によって支援される多段活性化解離実験の更に別の処理サイクル825を示す。セグメント826に最初に印加されるDC電位は、外部から注入される電子を使用するイオン活性化のためにセグメント517の第2のトラップ領域にイオンを移動させるように設定されている。プロダクトイオンの電位エネルギを下げてから、電位を移動のために切り換えることが好ましい。第2の処理ステップ827は、電位エネルギを上げることと、同時にイオンを隣接トラップ領域に移動させることとを含む。この上げて移動させる方法により、バックグラウンドガス分子との衝突でイオンに与えられるエネルギが最小化され、次の処理ステップが適用される前のイオンの冷却に必要な時間も最短化される。従って、処理ステップ間のより迅速な移行が達成されて、処理サイクルの全体時間が短縮される。この処理サイクルの例では、セグメント514の第1のトラップ領域に貯蔵されている第1世代プロダクトイオンは、隔離波形及び選択されたm/z比を使用して処理され、リリースされて排出トラップ828に戻される。RFイオンガイド511及び623に印加されるDC電位が下げられて、排出トラップから軸方向にリリースされるイオンがバックグラウンドガス分子とエネルギ衝突させられることにより、第2世代高エネルギCIDプロダクトが形成され、これは、RFトラップ場と、ステップ829に示されるようにDC場成分を調節することによって生成される反射DC場とが存在するLQITにおいて減速される。セグメント513に印加されるDC電位を切り換えることにより、エネルギイオンがLQITから出ていかなくなり、イオンが第1のトラップ領域で熱化される。イオンの電位エネルギが再度上げられ830、DC電位が切り換えられる831ことにより、イオンが質量分析のための排出トラップに移動する。
【0111】
上述の議論では、本発明の例示的な方法、電子回路、及び実施形態を開示し、説明している。当業者によって理解されるように、本発明は、本発明の趣旨又は不可欠な特性から逸脱しない限り、他の特定の形態で実施され得る。
【0112】
例えば、本発明のリニアイオントラップは、リニアイオントラップの遠端部に位置し、一部がトラップ領域のRFトラップ場に浸漬されている端部キャップ電極に向けて十分高い運動エネルギで分子イオンを加速させることにより、表面誘起解離実験に対応するように構成され得る。近接セグメントにフラグメントイオンを貯蔵するために、近接セグメントのDC場成分を同時に切り換えることを適用することが好ましい。端部キャップ電極又はトラップセグメントに高電圧DC切り換えを適用することにより、高い運動エネルギへの加速が達成される。表面誘起解離手法は、本発明において開示された他の処理手法とは別に適用され得、順次的に適用され得る。
【0113】
別の例では、リニアイオントラップのトラップ領域に貯蔵されたイオンは、断面及び荷電状態に基づく分離のために、イオンモビリティ分析計内へ排出される。モビリティ分離されたイオンは、ゲートを使用して選択され、更なる処理のためにリニアイオントラップに戻され得る。イオンをリニアイオントラップに移動させるために、イオンモビリティ分析計のトラップ領域の両端のDC電位を上げることと、トラップ領域を形成している1つ以上のDC場成分を、イオンを後方にリリースするように切り換えることとが必要であり、これらは、本発明において開示された方法と同様である。この方法はまた、トラップ領域内でのイオンの半径方向閉じ込めのためにRF場成分を印加することと、またイオンモビリティ分析計にわたるDC勾配を反転することとが必要である。
【0114】
従って、本発明の本開示は、本発明の範囲に関して限定的ではなく説明的であるものとし、本発明の範囲は以下の請求項において明記される。