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  • 特許-自発的水輸送機構 図1
  • 特許-自発的水輸送機構 図2
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  • 特許-自発的水輸送機構 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】自発的水輸送機構
(51)【国際特許分類】
   E02B 5/00 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
E02B5/00 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020004033
(22)【出願日】2020-01-15
(65)【公開番号】P2021110193
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2020-01-15
(73)【特許権者】
【識別番号】715005239
【氏名又は名称】株式会社エナジーフロント
(72)【発明者】
【氏名】上田 倫太朗
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2002/051271(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3158620(JP,U)
【文献】特開2019-205735(JP,A)
【文献】特開平08-309155(JP,A)
【文献】特開2004-129560(JP,A)
【文献】特開2004-065100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛細管現象を生じる水に対して濡れ性の高い繊維または水を通す多孔質性の細管からなる水輸送部と、水を吸収して分子間力または凝縮力で保持する高級水性高分子からなる水保持部、および前記水輸送部と水保持部を覆い表面の蒸発を抑制する管状の外壁部の三つの構成要素からなり、前記外壁部を構成する管には水を絞り出したり蒸発させる一方の端点と、水源から継続的に汲み出しを行う他方の端点があり、前記外壁部がなす前記管内において前記水輸送部と前記水保持部が交互に繰り返され前記管の軸方向に配列されること、前記水保持部の内部においても前記水輸送部が貫通する、あるいは前記水輸送部となる繊維が前記水保持部の内部で接触することにより、前記一方の端点と前記他方の端点の間において連続することを特徴とする自発的水輸送機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛細管現象や凝集力等の水に関連して発生する力によって水を移動させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水は生体の維持のみならず、ありとあらゆる人間の生活に必要である。歴史的には水車、ポンプ、水路など様々な水の輸送法が開発され灌漑などに使用されてきた。近年では緑化のためにエネルギー効率の良い水の輸送法が求められている。
【0003】
水源から汲み上げる手段としては吸い上げポンプや押し上げポンプが知られている。水車に桶をつけて汲み上げるものもある。吸い上げポンプでは海抜10mまでしか引き上げることはできないため、押し上げポンプが広く使用されている。
【0004】
水平方向に輸送する手段としては水路、パイプなどがあり、低いところから高いところへ運ぶ時にはポンプと組み合わせて用いられている。
【0005】
水を輸送するためには、タンク等に入れて自動車などで運ぶことが行われている。
【0006】
家庭菜園や緑化技術で水分を保持および輸送するために、毛細管現象を利用した機構が用いられることがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2002―539344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般的に水を移動させる際、移動体で輸送したりポンプなどを駆動するために多量のエネルギーを消費する。このエネルギー源として化石燃料が用いられることが多く、二酸化炭素削減のために化石燃料を用いない方法が期待されている。流水や太陽光で発電するなど再生可能エネルギーの使用はこの解決策の一つではあるが、大掛かりでコスト高となりやすい。
【0009】
大掛かりではなく大規模なエネルギーを必要としない機構には、水車、水槌ポンプ、サイフォン管等が知られているが十分に活用されていない。原因としてこれらの機構は高低差による位置エネルギーや流水の運動エネルギーを用い、限定された使用条件でないと動作しないことが挙げられる。また、自由な方向に長距離輸送することは極めて困難である。
【0010】
毛細管現象を活用した簡易的な水の浸透はごく短距離で用いられるにとどまっており十分な開発がなされていない。スポンジなど吸水性の布等に水を含ませる緑化手段はこれに類するが蒸発が生じやすいので水を外部から供給する別の手段を必要とし、積極的な輸送手段としては利用されていない。
【0011】
以上のように、エネルギーを消費せず、自由な方向や高度まで水を移動する手段が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、毛細管現象を生じる水輸送部と、ゲルなどからなる水保持部、および表面の蒸発を抑制する外壁部の三つの構成要素を用いて、水を任意の方向や高度までエネルギーを用いずに水自身の自発的な現象として輸送することを特徴とする。
【0013】
毛細管現象は管中の液体が引き上げられる現象であり、液体の表面張力が大きいほど、また管の表面と液体の濡れ性が高いほど高く引き上げられる。その高さhは
h=2T cosθ/ρgr (1)
となる。ただしTは表面張力、θは接触角、ρは液体の密度、gは重力加速度、rは管の半径である。例えばガラス管中の水の場合、T=0.728N/m、θ=20°、ρ=1000kg/m、g=9.8m/s、r=0.05mmならば、海抜28cm程度の高さとなる。半径がr=1μmならばほぼ14mに到達するが、高さには限界がある。
【0014】
そこでゲルなどからなる水保持部をおき、水保持部を引き上げた水の貯水部とすることにより、そこから再び毛細管現象で上述の高さの限界を超えた引き上げを行うことが可能になる。この方法により、毛細管現象単独の高さや方向の制限を受けずに自発的な水の動きによって輸送が可能となる。
【0015】
なお、水保持部はゲルや水分子の吸着性のある繊維や多孔体など多様な物質を用いることが可能であるが、一般的に水分子の移動速度は極めて遅く、単独では水の輸送手段としては適さない。そこで毛細管現象を活用した水輸送部と水保持部を組み合わせることで両者の特性を生かすことができる。
【0016】
本発明のもう一つの構成要素は外壁部である。外壁部はゲルまたは毛細管からなる輸送部からの蒸発を防ぐ。また、外壁部素材を適切に選択することにより、強度や柔軟性を持たせることができるので、様々な用途に使用することが可能となり、また長距離の輸送も可能となる。
【0017】
本発明によって輸送した水は末端の繊維やスポンジ様を圧縮したり、蒸発させた水蒸気を集めたりすることによって取り出すことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、方向や高さの制限を受けず、また輸送のためのエネルギーを消費することなく、自発的な水の輸送が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第一の実施形態である管状直列構造の図である。
図2】第二の実施形態である管状並列構造の円筒軸方向の断面図である。
図3】第二の実施形態の円筒半径方向の断面図である。
図4】第三の実施形態である管状混合構造の円筒軸方向の断面図である。
図5】第四の実施形態である柔軟管状構造の断面図である。
図6】第五の実施形態である平面構造の図である。
図7】第六の実施形態である平面柔軟構造の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して説明する。
【0021】
図1に示されるように、本発明の自発的水輸送機構は毛細管現象で水を輸送する輸送部1とゲルなどからなり水を蓄積する能力のある水保持部2および外部に対しての蒸発を防ぐ外壁部3から構成される。
【0022】
水輸送部は親水性の高い、あるいは濡れ性の高い表面を持って水と接触する物質からなり、水が毛細管現象を起こすように細い管または糸や布や網状の繊維または溝または多孔質構造である多様な物質を用いることが可能である。
【0023】
水保持部は分子間力または凝集力によって水を物理吸着し、重力で滴り落ちることなく保持することができる物質から構成する。具体的な物質としてはオムツなどで使用されている高級水性高分子であるポリアクリル酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0024】
外壁部は水のゲルからの蒸発を阻止する水蒸気を透過しない任意の物質を用いることができる。
【0025】
図1は第一の実施形態である管状直列構造を例示した円筒軸方向の断面図である。この構成では、水輸送部と水保持部が交互に軸方向に配列される。高さ方向に管が向けられている場合、水輸送部は毛細管現象だけでは高さ方向の輸送に限界があるが、水保持部を置くことで水を蓄積し、再び水保持部を原点として高さ方向に毛細管現象で引き上げることが可能となる。この構造を繰り返すことにより高さの制限なく自発的に水を輸送することが可能となる。ただし水保持部の内部を水輸送部が貫通したり水輸送部となる繊維が水保持部の内部で接触するなど水輸送部は断続しないようにする。水の浸透は管内が均一に水で満たされるまで継続する。管の端点で水を絞り出したり蒸発させたりして系の水分布に不均一性が生じると平衡になるように水が自発的に浸透する作用が管全体を通して生じ、別の端点にある水源から継続的に汲み出しが行われる。
【0026】
次に第二の実施形態である管状並列構造について図2を用いて説明する。
【0027】
図2の管状並列構造では、図3の半径方向断面図に示されるように水輸送部が軸方向に伸びる状態で水保持部の中に分布している。水輸送部が毛細管現象によって水を引き上げる高さは前述の式1で制限を受けるため、第二の実施形態は図1で示される第一の実施形態のように周期的に水保持部と接続することが好ましい。ただし、水平方向に水を輸送する場合はその必要はない。第二の実施形態では水輸送部は周辺の水保持部に水を拡散できる繊維や多孔質性のものが好ましく、周辺に水を拡散できないガラス管のようなものは好ましくない。図3の断面では水輸送部が柱状にまとまった形で分散しているが、もっと細かい繊維状のものであっても良い。また、水輸送部および水保持部の両方が柱状となって並走していても良い。
【0028】
図4に第三の実施形態である管状混合構造について説明する。本実施形態ではゲルなどの水保持部中に繊維状の水輸送部を混合分散させている。本構成では繊維が必ずしも軸方向に伸びていないこともあるが拡散方向は自然に均一化されるので問題なく使用できる。本構成のメリットはゲルに繊維を混ぜ込み管中に流し込むだけで構成できるシンプルさにある。この場合は、混合状態が適切であれば必ずしも図1のような周期的な水保持部の設置をしなくても機能する。この構成においても水輸送部が貫通または互いに接触するなど断続しないことが重要である。
【0029】
図5に第四の実施形態である柔軟管状構造を示しこれについて説明する。本構成では第四の管状混合構造と同様にゲルなどの水保持部に繊維状の水輸送部が分散しているが、外壁部に柔軟な樹脂チューブ等を用いることにより柔軟に曲げて使用することを実現している。本実施形態は設置を容易にすることができる。
【0030】
図6に第六の実施形態として平面構造を例示する。本構成では平板状の水輸送部と水保持部が積層されて設置される。高さ方向に輸送する場合には図1のように周期的に水保持部を設けることが好ましい。壁状の構成および強度は外壁の適切な選択で自由に作ることができ、局面や柱状であっても良い。内部の水輸送部および水保持部も図4のゲルと繊維の混合構造など任意に選択できる。
【0031】
図7に第六の実施形態である平面柔軟構造を示す。本構成では外壁部にビニルシートなどの水および水蒸気に対して遮断能力のある柔軟なシートを用いることで実現できる。内部の水輸送部および水保持部は例示された様々な構成から任意に選択可能である。
【0032】
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【符号の説明】
【0033】
A 自発的水輸送機構
1 水輸送部
2 水保持部
3 外壁部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7