(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品の製造システム及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C01C 1/04 20060101AFI20220207BHJP
B01J 23/58 20060101ALI20220207BHJP
B01J 27/24 20060101ALI20220207BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20220207BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20220207BHJP
C12P 13/00 20060101ALN20220207BHJP
【FI】
C01C1/04 E
C01C1/04 D
B01J23/58 Z
B01J27/24 Z
B01J32/00
C12M1/00 C
C12P13/00
(21)【出願番号】P 2020108847
(22)【出願日】2020-06-24
(62)【分割の表示】P 2017500720の分割
【原出願日】2016-02-17
【審査請求日】2020-07-17
(31)【優先権主張番号】P 2015028958
(32)【優先日】2015-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸野 光広
(72)【発明者】
【氏名】児島 宏之
(72)【発明者】
【氏名】細野 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】原 亨和
(72)【発明者】
【氏名】北野 政明
(72)【発明者】
【氏名】横山 壽治
(72)【発明者】
【氏名】沼口 徹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 宗宣
(72)【発明者】
【氏名】山田 和輝
(72)【発明者】
【氏名】野口 博美
【審査官】小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/077658(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/038695(WO,A1)
【文献】特開2000-159519(JP,A)
【文献】特開平11-029320(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103977828(CN,A)
【文献】英国特許出願公告第00199032(GB,A)
【文献】特表2011-521134(JP,A)
【文献】国際公開第2013/088564(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01C 1/04
B01J 23/58
B01J 27/24
B01J 32/00
C12M 1/00
C12P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体として
i)導電性マイエナイト型化合物、
ii)二次元エレクトライド化合物又はその前駆体化合物、及び
iii)ZrO
2、TiO
2、CeO
2、及びMgOから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含む担体基材と、該担体基材に担持された式M(NH
2)x(式中、Mは、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びEuから選ばれる一種以上を表し、xはMの価数を表す。)で示される金属アミドとからなる複合体
からなる群から選択される一種以上を含む担持金属触媒の存在下、水素と窒素を含む原料ガスを反応させてアンモニア含有ガスを合成するアンモニア合成装置と、
アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用してアンモニア水を製造し、得られたアンモニア水からアンモニアガスを回収し、回収されたアンモニアガスを用いて含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品を製造する製造装置と、を含み、
アンモニア含有ガスは、オンサイトにより合成される、含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品の製造システム。
【請求項2】
アンモニア合成装置において、530℃以下の反応温度、30MPa以下の反応圧力の条件にて原料ガスを反応させる、請求項1に記載の製造システム。
【請求項3】
アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス中のアンモニアを濃縮するアンモニア濃縮装置をさらに含む、請求項1又は2に記載の製造システム。
【請求項4】
アンモニア合成装置の下流側において、未反応の水素と窒素を回収し、回収したガスをアンモニア合成装置の上流側にリサイクルするリサイクル装置をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造システム。
【請求項5】
リサイクル装置が、回収したガス中の水分を除去する脱水装置及び/又は乾燥装置を含む、請求項4に記載の製造システム。
【請求項6】
含窒素製品が、アンモニア水、アンモニウム塩、尿素、硝酸、及び硝酸塩から成る群から選択される、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造システム。
【請求項7】
発酵・培養生産物が、アミノ酸、有機酸、多糖類、タンパク質、抗生物質、アルコール、及び微生物菌体から成る群から選択される請求項1~5のいずれか1項に記載の製造システム。
【請求項8】
(A)担体として、i)導電性マイエナイト型化合物、ii)二次元エレクトライド化合物又はその前駆体化合物、及びiii)ZrO
2、TiO
2、CeO
2、及びMgOから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含む担体基材と、該担体基材に担持された式M(NH
2)x(式中、Mは、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びEuから選ばれる一種以上を表し、xはMの価数を表す。)で示される金属アミドとからなる複合体からなる群から選択される一種以上を含む担持金属触媒の存在下、水素と窒素を含む原料ガスを反応させてアンモニア含有ガスを合成する工程、及び
(B)得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用してアンモニア水を製造し、得られたアンモニア水からアンモニアガスを回収し、回収されたアンモニアガスを使用して含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品を製造する工程
を含み、アンモニア含有ガスは、オンサイトにより合成される、含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品の製造方法。
【請求項9】
工程(A)と工程(B)を連続的に実施する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(A)において、530℃以下の反応温度、30MPa以下の反応圧力の条件にて原料ガスを反応させる、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
工程(A)で得られたアンモニア含有ガス中のアンモニアを濃縮する工程をさらに含む、請求項8~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程(A)の後に、未反応の水素と窒素を回収し、回収したガスを工程(A)にリサイクルする工程をさらに含む、請求項8~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
リサイクルする工程において、回収したガス中の水分を除去する脱水処理及び/又は乾燥処理を実施する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
含窒素製品が、アンモニア水、アンモニウム塩、尿素、硝酸、及び硝酸塩から成る群から選択される、請求項8~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
発酵・培養生産物が、アミノ酸、有機酸、多糖類、タンパク質、抗生物質、アルコール、及び微生物菌体から成る群から選択される、請求項8~13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品の製造システム及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは、各種含窒素製品の原料、発酵・培養における窒素源やpH調整剤など、その用途は多岐にわたる。
【0003】
アンモニアの工業生産プロセスとしては、ハーバー・ボッシュ(Haber-Bosch)法による大規模生産プロセスが知られている。ハーバー・ボッシュ法では、Fe3O4に数重量%のAl2O3とK2Oを添加した二重促進鉄(doubly promoted iron)触媒を用いて、水素と窒素を含む原料ガスを、400℃~600℃、20MPa~100MPaの高温高圧条件にて反応させてアンモニアを合成する。
【0004】
アンモニア合成触媒としては、ハーバー・ボッシュ法で使用する二重促進鉄触媒の他、ルテニウム、コバルト、オスミウム、レニウム、ニッケル等を活性金属とする触媒が知られている。中でもルテニウム触媒は、低圧条件でのアンモニア合成において優れた触媒性能を示すことが知られている。例えば、特許文献1、非特許文献1及び2には、導電性マイエナイト型化合物にルテニウム等の活性金属を担持させた担持金属触媒を用いて、水素と窒素を含む原料ガスを、低圧条件にて反応させてアンモニアを合成する技術が開示されている。
【0005】
アンモニアの世界的需要は増大しており、アンモニア合成プラントは大型化する傾向にある(例えば、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】“ルテニウムを担持した12CaO・7Al2O3エレクトライドによるアンモニア合成”、触媒、Vol.55、No.4、239-245、(2013)
【文献】“Ammonia synthesis using a stable electride as an electron donor and reversible hydrogen store”,Nature Chemistry,2012,Vol.4,934-940,(2012)
【文献】“最新 工業触媒動向 第3回 アンモニア合成触媒”、工業材料、Vol.60、No.10、82-86、(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
大規模生産プロセスによるアンモニアの合成においては、得られたアンモニアを液化・貯蔵して、アンモニア消費地(アンモニア関連製品の製造拠点)まで液体アンモニアとして輸送することを前提としている。アンモニア合成自体のコストに加え、液体アンモニアの貯蔵・輸送に伴うコストも要することから、アンモニア価格は高止まりの傾向にある。
【0009】
高温高圧条件を要するハーバー・ボッシュ法に代えて、ルテニウム触媒を用いた低圧条件でのアンモニア合成プロセスを採用することにより、アンモニア合成に伴う運転コストを幾分低減させることは可能と考えられるが、液体アンモニアの貯蔵・輸送に伴うコスト低減には寄与しない。
【0010】
さらに液体アンモニアの貯蔵・輸送を前提とする大規模生産プロセスにおいては、アンモニア消費地においても液体アンモニアの貯蔵設備・保安設備が必要となる。このように、アンモニア関連製品(例えば、含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品)の製造に際しては、液体アンモニアの貯蔵・輸送・保安に伴う周辺コストが嵩む傾向にある。
【0011】
本発明は、液体アンモニアの輸送を伴わない(あるいは最小限に抑えることができる)、含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品の新規な製造システム及び製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の内容を含む。
[1] 担体として、i)導電性マイエナイト型化合物、ii)二次元エレクトライド化合物又はその前駆体化合物、及びiii)ZrO2、TiO2、CeO2、及びMgOから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含む担体基材と、該担体基材に担持された式M(NH2)x(式中、Mは、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びEuから選ばれる一種以上を表し、xはMの価数を表す。)で示される金属アミドとからなる複合体からなる群から選択される一種以上を含む担持金属触媒の存在下、水素と窒素を含む原料ガスを反応させてアンモニア含有ガスを合成するアンモニア合成装置と、
アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用して含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品を製造する製造装置と、
を含む、含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品の製造システム。
[2] アンモニア合成装置において、530℃以下の反応温度、30MPa以下の反応圧力の条件にて原料ガスを反応させる、[1]に記載の製造システム。
[3] アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス中のアンモニアを濃縮するアンモニア濃縮装置をさらに含む、[1]又は[2]に記載の製造システム。
[4] アンモニア合成装置の下流側において、未反応の水素と窒素を回収し、回収したガスをアンモニア合成装置の上流側にリサイクルするリサイクル装置をさらに含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造システム。
[5] リサイクル装置が、回収したガス中の水分を除去する脱水装置及び/又は乾燥装置を含む、[4]に記載の製造システム。
[6] アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用してアンモニア水を製造し、得られたアンモニア水を用いて発酵・培養生産物を製造する、[1]~[5]のいずれかに記載の製造システム。
[7] アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用してアンモニア水を製造し、得られたアンモニア水からアンモニアガスを回収し、回収されたアンモニアガスを用いて発酵・培養生産物を製造する、[1]~[5]のいずれかに記載の製造システム。
[8] 含窒素製品が、アンモニア水、アンモニウム塩、尿素、硝酸、及び硝酸塩から成る群から選択される、[1]~[5]のいずれかに記載の製造システム。
[9] 発酵・培養生産物が、アミノ酸、有機酸、多糖類、タンパク質、抗生物質、アルコール、及び微生物菌体から成る群から選択される[1]~[7]のいずれかに記載の製造システム。
[10] (A)担体として、i)導電性マイエナイト型化合物、ii)二次元エレクトライド化合物又はその前駆体化合物、及びiii)ZrO2、TiO2、CeO2、及びMgOから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含む担体基材と、該担体基材に担持された式M(NH2)x(式中、Mは、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びEuから選ばれる一種以上を表し、xはMの価数を表す。)で示される金属アミドとからなる複合体からなる群から選択される一種以上を含む担持金属触媒の存在下、水素と窒素を含む原料ガスを反応させてアンモニア含有ガスを合成する工程、及び
(B)得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用して含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品を製造する工程
を含む、含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品の製造方法。
[11] 工程(A)と工程(B)を連続的に実施する、[10]に記載の方法。
[12] 工程(A)において、530℃以下の反応温度、30MPa以下の反応圧力の条件にて原料ガスを反応させる、[10]又は[11]に記載の方法。
[13] 工程(A)で得られたアンモニア含有ガス中のアンモニアを濃縮する工程をさらに含む、[10]~[12]のいずれかに記載の方法。
[14] 工程(A)の後に、未反応の水素と窒素を回収し、回収したガスを工程(A)にリサイクルする工程をさらに含む、[10]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15] リサイクルする工程において、回収したガス中の水分を除去する脱水処理及び/又は乾燥処理を実施する、[14]に記載の方法。
[16] 工程(A)で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用してアンモニア水を製造し、得られたアンモニア水を工程(B)において使用して発酵・培養生産物を製造する、[10]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17] 工程(A)で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用してアンモニア水を製造し、得られたアンモニア水からアンモニアガスを回収し、回収されたアンモニアガスを工程(B)において使用して発酵・培養生産物を製造する、[10]~[15]のいずれかに記載の方法。
[18] 含窒素製品が、アンモニア水、アンモニウム塩、尿素、硝酸、及び硝酸塩から成る群から選択される、[10]~[15]のいずれかに記載の方法。
[19] 発酵・培養生産物が、アミノ酸、有機酸、多糖類、タンパク質、抗生物質、アルコール、及び微生物菌体から成る群から選択される、[10]~[17]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品の新規な製造システム及び製造方法を提供することができる。
【0014】
本発明の製造システム及び製造方法は、液体アンモニアの輸送を伴わず(あるいは最小限に抑えることが可能で)、液体アンモニアの貯蔵・輸送・保安に伴う周辺設備・コストを簡易化・削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態におけるアンモニア水の製造システムを示す概略図(1)である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態におけるアンモニア水の製造システムを示す概略図(2)である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態におけるアンモニア水の製造システムを示す概略図(3)である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態における尿素の製造システムを示す概略図(1)である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態における尿素の製造システムを示す概略図(2)である。
【
図6】
図6は、本発明の一実施形態における尿素の製造システムを示す概略図(3)である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態における発酵・培養生産物の製造システムを示す概略図(1)である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施形態における発酵・培養生産物の製造システムを示す概略図(2)である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施形態における発酵・培養生産物の製造システムを示す概略図(3)である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施形態における発酵・培養生産物の製造システムを示す概略図(4)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
[製造システム]
本発明は、製造に際してアンモニアを利用するアンモニア関連製品の新規な製造システムを提供する。
【0018】
先述のとおり、大規模生産プロセスによるアンモニア合成においては、合成したアンモニアを液化・貯蔵して、アンモニア消費地(アンモニア関連製品の製造拠点)まで液体アンモニアとして輸送することを前提としており、液体アンモニアの貯蔵・輸送・保安に伴う周辺コストが嵩む傾向にあった。
【0019】
本発明においては、アンモニア関連製品の製造に必要とされる量のアンモニアを、当該アンモニア関連製品の製造地において製造(すなわち、オンサイト製造)する。これにより、液体アンモニアの貯蔵・輸送を介さずに、アンモニア関連製品を製造することができる。
【0020】
一実施形態において、本発明の製造システムは、含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品の製造システムであり、
担体として、i)導電性マイエナイト型化合物、ii)二次元エレクトライド化合物又はその前駆体化合物、及びiii)ZrO2、TiO2、CeO2、及びMgOから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含む担体基材と、該担体基材に担持された式M(NH2)x(式中、Mは、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びEuから選ばれる一種以上を表し、xはMの価数を表す。)で示される金属アミドとからなる複合体からなる群から選択される一種以上を含む担持金属触媒の存在下、水素と窒素を含む原料ガスを反応させてアンモニア含有ガスを合成するアンモニア合成装置と、
アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用して含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品を製造する製造装置と、
を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明において、「含窒素製品」とは、アンモニア由来の窒素原子を含む製品をいう。含窒素製品としては、特に限定されないが、例えば、アンモニア水、アンモニウム塩、尿素、硝酸、硝酸塩が挙げられる。アンモニウム塩としては、例えば、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム等の無機アンモニウム塩;ギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、アルキルアンモニウム化合物等の有機アンモニウム塩が挙げられる。硝酸塩としては、例えば、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウムが挙げられる。
【0022】
本発明において、「発酵・培養生産物」とは、アンモニアを窒素源又はpH調整剤として使用する発酵・培養プロセスにおける生産物をいう。発酵・培養生産物としては、特に限定されないが、例えば、アミノ酸、有機酸、多糖類、タンパク質、抗生物質、アルコール等の有機化合物、及び微生物菌体が挙げられる。
【0023】
<アンモニア合成装置>
本発明の製造システムにおいて、アンモニア合成装置は、担体として、i)導電性マイエナイト型化合物、ii)二次元エレクトライド化合物又はその前駆体化合物、及びiii)ZrO2、TiO2、CeO2、及びMgOから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含む担体基材と、該担体基材に担持された式M(NH2)x(式中、Mは、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びEuから選ばれる一種以上を表し、xはMの価数を表す。)で示される金属アミドとからなる複合体からなる群から選択される一種以上を含む担持金属触媒の存在下、水素と窒素を含む原料ガスを反応させてアンモニア含有ガスを合成する。
【0024】
-i)導電性マイエナイト型化合物-
担持金属触媒の担体として使用する「導電性マイエナイト型化合物」とは、伝導電子を含むマイエナイト型化合物である。マイエナイト型化合物とは、鉱物のマイエナイトそれ自体、マイエナイト型岩石、及び鉱物のマイエナイト結晶と同型の結晶構造を有する複合酸化物をいう。マイエナイト型化合物の結晶は、内径0.4nm程度の籠状の構造(ケージ)がその壁面を共有し、三次元的に繋がることで構成されている。通常、マイエナイト型化合物のケージの内部にはO2-などの負イオンが含まれているが、アニールによってそれらを伝導電子に置換することが可能である。アニール時間を長くすることにより、マイエナイト型化合物中の伝導電子濃度は高くなる。
【0025】
導電性マイエナイト型化合物の代表組成は、式[Ca24Al28O64]4+(O2-)2-x(e-)2x(0<x≦2)で示される。アンモニア合成活性の観点から、マイエナイト型化合物中の伝導電子濃度は、好ましくは1015cm-3以上、より好ましくは1016cm-3以上、さらに好ましくは1017cm-3以上、さらにより好ましくは1018cm-3以上である。該伝導電子濃度の上限は、特に限定されないが、通常、2.2×1021cm-3以下、2.0×1021cm-3以下などとし得る。マイエナイト型化合物中の伝導電子濃度は、例えば、国際公開第2012/077658号に記載の方法により測定することができる。
【0026】
導電性マイエナイト型化合物は、上記の代表組成の式に含まれるCaの一部又は全てがLi、Na、K、Mg、Sr、Ba、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ir、Ru、Rh、Ptからなる群から選択される1種以上の典型金属元素又は遷移金属元素で置換されていてもよい。また、上記の代表組成に含まれるAlの一部又は全てがB、Ga、C、Si、Fe、Geからなる群から選択される1種以上の典型金属元素又は遷移金属元素で置換されていてもよい。さらに、上記の代表組成の式に含まれるOの一部又は全てがH、F、Cl、Br、Auからなる群から選択される1種以上の典型元素又は金属元素で置換されていてもよい。導電性マイエナイト型化合物は、例えば、国際公開第2012/077658号に記載の方法により調製することができる。
また、導電性マイエナイト型化合物は、導電性マイエナイト型化合物の電子化物であってもよい。このような導電性マイエナイト型化合物としては、例えば、カルシウムとアルミニウムの混合酸化物の電子化物(12CaO・7Al2O3の電子化物)等が挙げられる。
【0027】
-ii)二次元エレクトライド化合物又はその前駆体化合物-
担持金属触媒の担体として使用する「二次元エレクトライド化合物」とは、層間に電子が陰イオンとして存在する層状化合物、すなわち、層同士が層間に存在する電子により結びつけられているエレクトライド(電子化物)をいう。
【0028】
二次元エレクトライド化合物では、電子が二次元的に非局在化された陰イオン的電子として空間的隙間に存在する。そのため、電子は、該化合物全体を極めてスムーズに動き回ることができる。
【0029】
2013年に、本発明者らによりCa2Nが二次元のエレクトライドであることが見出された(K.Lee, S. W. Kim, Y. Toda, S. Matsuishi and H. Hosono, ”Nature”, 494, 336-341 (2013))。Ca2Nは、[Ca2N]+で構成される層同士の間に電子が陰イオンとして結びついた層状化合物であり、Ca3N2と金属Caを真空中で加熱することにより得られる。Ca2Nの伝導電子濃度は1.39×1022/cm3であり、2.6eVの仕事関数を有することが報告されている。その後、A.Walsh and D.O.Scanlon, Journal of materials Chemistry C, 1, 3525-3528 (2013)において、この2次元のエレクトライドについて報告されている。さらに、本発明者らは、層状結晶構造を持ち、イオン式[AE2N]+e-で表記される窒化物(AEは、Ca、Sr、Baから選択される少なくとも一種の元素)からなる窒化物エレクトライドについて報告している(特開2014-24712号公報)。
【0030】
本発明において担持金属触媒の担体として使用し得る二次元エレクトライド化合物としては、式M1
2N(式中、M1は、Ca、Sr、及びBaからなる群から選択される一種以上を表す。)で示される窒化物エレクトライド、及び式M2
2C(式中、M2は、Y、Sc、Gd、Tb、Dy、Ho、及びErからなる群から選択される一種以上を表す。)で示される炭化物エレクトライドからなる群から選択される一種以上が挙げられる。なお、M1及びM2の一部はLi、Na、K、Rb、及びCsからなる群から選択される一種以上のアルカリ金属元素で置換されていてもよい。
【0031】
本発明においては、二次元エレクトライド化合物の前駆体化合物を担体として使用してもよい。例えば、二次元エレクトライド化合物であるCa2Nの前駆体としては、Ca3N2、又は式CaxNyHz(1<x<11、1<y<8、0<z<4)で示される窒化カルシウムの水素化物が使用できる。窒化カルシウムの水素化物(以下、「Ca-N-H系化合物」)としては、Ca2NH、CaNH、Ca(NH2)2などが知られている。Sr2NやBa2Nの前駆体化合物は、Ca2Nの前駆体化合物と同様である。
【0032】
したがって、一実施形態において、二次元エレクトライド化合物の前駆体化合物は、式M1
3N2で示される窒化物、及び式M1xNyHz(1<x<11、1<y<8、0<z<4)で示される化合物からなる群から選択される一種以上である。式中、M1は、Ca、Sr、及びBaからなる群から選択される一種以上を表す。
【0033】
二次元エレクトライド化合物は、公知の方法により調製してよい。例えば、Ca2Nは、Ca3N2と金属Caを混合し、真空条件下、長時間加熱(例えば、800℃程度の高温で100時間程度)することによって得られる。
【0034】
アンモニア合成に触媒能を呈する金属を二次元エレクトライド化合物又はその前駆体化合物に担持させて担持金属触媒を形成すると、アンモニア合成活性が飛躍的に向上し、長時間の反応においても安定な著しく高性能な触媒を実現し得ることを本発明者らは見出した。
【0035】
-iii)金属酸化物と金属アミドの複合体-
担持金属触媒の担体としては、ZrO2、TiO2、CeO2、及びMgOから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含む担体基材と、該担体基材に担持された式M(NH2)x(式中、Mは、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びEuから選ばれる一種以上)で示される金属アミドとからなる複合体も好適であることを本発明者らは見出した。
【0036】
例えば、金属アミドとしてCa(NH2)2を使用する場合、アンモニア合成条件下でCa(NH2)2が、Ca2Nや、Ca2NH、CaNHなどのCa-N-H系化合物へと変化して、活性金属と共同して活性種としての機能を増強する。これにより、該複合体を担体として含む担持金属触媒は、アンモニア合成において、安定した触媒活性を長時間実現することができる。
【0037】
担体基材として、活性炭、グラファイト、金属酸化物などが使用できるが、特にZrO2、TiO2、CeO2、及びMgOなどの表面が塩基性から中性を示す担体基材が好ましく、あるいはこれらを一種以上含む担体基材でも構わない。担体基材としては、粉末、あるいは成型した担体基材の何れも用いることができる。
【0038】
複合体における金属アミドの担持量は、1wt%~90wt%が好ましく、特に10wt%~40wt%が好ましい。
【0039】
担体基材の表面を金属アミドで十分に被覆し所期の触媒活性を得る観点から、担体基材の比表面積をA(m2/g)、複合体における金属アミドの担持量をB(wt%)とするとき、B/Aが、好ましくは0.07wt%以上、より好ましくは0.1wt%以上、さらに好ましくは0.2wt%以上、0.3wt%以上又は0.4wt%以上となるように複合体を調製することが好ましい。上記B/Aの上限は、所期の触媒活性を得る観点から、好ましくは2.3wt%以下、より好ましくは2.0wt%以下、さらに好ましくは1.8wt%以下、1.6wt%以下又は1.5wt%以下である。
【0040】
担持金属触媒の活性金属としては、水素と窒素との直接反応によるアンモニア合成に触媒能を呈する金属であれば特に限定されず、例えば、周期表の6族、7族、8族及び9族に属する金属の1種以上又は該金属を含む化合物が挙げられる。周期表6族金属としてはCr、Mo、Wが挙げられる。周期表7族金属としてはMn、Tc、Reが挙げられる。周期表8族金属としてはFe、Ru、Osが挙げられる。周期表9族金属としてはCo、Rh、Irが挙げられる。これらの金属を含む化合物としては、これらの金属の窒化物が挙げられ、例えばCo3Mo3N、Fe3Mo3N、Ni2Mo3N、Mo2Nを挙げることができる。
【0041】
担持金属触媒における活性金属の担持量は、アンモニア合成活性の観点から、担体を100wt%としたとき、好ましくは0.01wt%以上、より好ましくは0.02wt%以上、さらに好ましくは0.03wt%以上、0.05wt%以上、0.1wt%以上、0.3wt%以上、0.5wt%以上、又は1wt%以上である。活性金属の担持量の上限は、アンモニア合成反応時の活性金属粒子のシンタリングを抑制して所期のアンモニア合成活性を維持し得る観点から、好ましくは30wt%以下、より好ましくは20wt%以下、さらに好ましくは15wt%以下、又は10wt%以下である。
【0042】
担持金属触媒の比表面積は、特に限定されないが、好ましくは0.1m2/g~250m2/g、より好ましくは0.5m2/g~200m2/gである。担持金属触媒の比表面積は、例えば、BET吸着法により測定することができる。
【0043】
担持金属触媒は、上記の担体と活性金属を使用して、公知の方法により調製することができる。例えば、担体として導電性マイエナイト型化合物を含む担持金属触媒は、例えば、国際公開第2012/077658号に記載の方法により調製することができる。
【0044】
本発明の製造システムにおいて、アンモニア合成装置は、上記触媒の存在下、水素と窒素を含む原料ガスを反応させてアンモニア含有ガスを合成し得る限り特に限定されず、例えば、水素と窒素を含む原料ガスの入口と、上記触媒の存在下、原料ガスを反応させてアンモニア含有ガスを合成する反応部と、生成したアンモニア含有ガスの出口とを含む。
【0045】
アンモニア合成装置の反応部において、原料ガス中の水素と窒素は、触媒の作用下、式:3H2+N2⇔2NH3に従って直接反応してアンモニアを合成する。
【0046】
反応温度は、アンモニア消費地におけるアンモニア合成を容易とする観点から、好ましくは600℃以下、より好ましくは550℃以下である。上記特定のi)乃至iii)の担体を含む担持金属触媒を使用する本発明においては、反応温度がさらに低い場合にも優れたアンモニア合成活性を達成し得る。例えば、反応温度は、530℃以下、500℃以下、450℃以下、又は400℃以下としてもよい。反応温度の下限は、アンモニア合成活性の観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは200℃以上、250℃以上、又は300℃以上である。アンモニア合成装置の反応部において、温度は一定としてもよく、反応部入口と反応部出口とで異なる温度となるように温度傾斜を設けてもよい。
【0047】
反応圧力は、アンモニア消費地におけるアンモニア合成を容易とする観点から、好ましくは30MPa以下、より好ましくは25MPa以下、さらに好ましくは20MPa以下である。上記特定のi)乃至iii)の担体を含む担持金属触媒を使用する本発明においては、反応圧力がさらに低い場合にも優れたアンモニア合成活性を達成し得る。例えば、反応圧力は、15MPa以下、10MPa以下、5MPa以下、4MPa以下、3MPa以下、2MPa以下、又は1MPa以下としてよい。反応圧力の下限は、好適な一実施形態において化学平衡支配であるアンモニア合成装置出口のアンモニア濃度の観点から、好ましくは10kPa以上、より好ましくは50kPa以上、さらに好ましくは100kPa以上である。なお、反応圧力はゲージ圧である(以下同様)。
【0048】
アンモニア合成装置の反応部において、反応形式は、バッチ式反応形式、閉鎖循環系反応形式、流通系反応形式のいずれでもよいが、実用的な観点から、流通系反応形式が好適である。また、反応による触媒層の温度上昇を抑制し平衡アンモニア濃度を上げることでアンモニア合成反応速度を大きく維持することを目的とした内部熱交換式、あるいは原料ガスを流体流れ方向に分割して供給するクエンチャー式など、公知の反応器構造を採り得る。
【0049】
アンモニア合成装置の反応部において、担持金属触媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。2種以上の担持金属触媒を使用する場合、反応形式に応じて、2種以上の担持金属触媒を混合して使用してもよく、種類毎に別個の層を形成するように担持金属触媒を積層して使用してもよく、種類毎に異なる反応管に充填するように担持金属触媒を別個の反応管に充填した後に該反応管を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
なお、上記特定のi)乃至iii)の担体を含む担持金属触媒を使用する本発明においては、所期のアンモニア合成活性を得るに際して、原料ガス中の水分含有量を低く抑えることが重要である。とりわけ触媒の安定性の観点から、原料ガス中の水分含有量は、好ましくは100体積ppm以下、より好ましくは50体積ppm以下である。該水分含有量の下限は低いほど好ましく、0体積ppmであってもよい。なお、本発明の製造システムが、後述する未反応の水素と窒素のリサイクル装置を含む場合には、リサイクル装置によって回収したガス中の水分含有量も含めて、原料ガス中の水分含有量は上記の範囲にあることが重要である。
【0051】
原料ガス中の水素と窒素のモル比(水素/窒素)は、好ましくは1/1~10/1、より好ましくは1/1~5/1である。上記特定のi)乃至iii)の担体を含む担持金属触媒を使用する本発明においては、水素被毒の影響を抑制し得ることから、このように広い範囲のモル比において、良好なアンモニア合成活性を達成することが可能である。
【0052】
ここで、アンモニア合成に使用する原料ガス中の水素は、周知の方法、例えば、1)炭化水素(例えば、石炭、石油、天然ガス、バイオマス)を、水蒸気改質反応、部分酸化反応、又はこれらの組み合わせによりCO、H2を含むガスへと転化した後、COシフト反応、脱CO2処理を実施する方法、2)水を電気分解する方法、3)光触媒を用いて水を分解する方法によって調製することができる。あるいはまた、水素は、水素ボンベ(水素ボンベカードルを含む。以下同じ。)、水素タンク(水素セルフローダー等の移動式タンクを含む。以下同じ。)から供給してもよい。アンモニア合成に使用する原料ガス中の窒素は、窒素分離膜あるいは深冷分離法を用いて空気から窒素を分離して調製してよい。あるいは、炭化水素の部分酸化反応を利用して水素を調製する場合には、酸素源として使用した空気中の窒素を利用してもよい。あるいはまた、窒素は、窒素ボンベ(窒素ボンベカードルを含む。以下同じ。)、窒素タンク(窒素セルフローダー等の移動式タンクを含む。以下同じ。)から供給してもよい。アンモニア合成に使用する原料ガス中の水素と窒素のモル比(水素/窒素)は、本来、水素や窒素の調製プロセスに依存して値が変わる。上記特定のi)乃至iii)の担体を含む担持金属触媒を使用する本発明においては、水素被毒の影響を抑制し得ることから、アンモニア合成装置に供給する前に分離操作等によって原料ガス中の水素と窒素のモル比(水素/窒素)を低い値に調整する必要がない。したがって本発明においては、アンモニア消費地において有利に実施し得るプロセスを使用して水素と窒素を含む原料ガスを調整することができ、原料ガス中の水素と窒素のモル比(水素/窒素)を調整するための付加設備を省略あるいは簡易化することが可能である。
【0053】
なお、本発明の製造システムは、水素と窒素を含む原料ガスを製造する原料ガス製造装置をさらに含んでいてもよい。該原料ガス製造装置は、上記のとおり、公知の装置を用いてよい。あるいはまた、本発明の製造システムは、水素を供給するための水素ボンベ、水素タンクをさらに含んでいてもよく、窒素を供給するための窒素ボンベ、窒素タンクをさらに含んでいてもよい。
【0054】
本発明の製造システムにおいて、アンモニア合成装置において合成されるアンモニア含有ガス中のアンモニア濃度は、好ましくは0.5体積%以上、より好ましくは2体積%以上、さらに好ましくは4体積%以上、6体積%以上、8体積%以上、又は10体積%以上である。アンモニア合成装置において合成されるアンモニア含有ガスには、アンモニアの他、未反応の水素、未反応の窒素が主に含まれる。
【0055】
本発明の製造システムにおいて、アンモニア合成装置のアンモニア合成能力(アンモニア-トン/日)は、アンモニア関連製品の製造装置におけるアンモニア使用量によっても異なるが、好ましくは300トン/日以下、より好ましくは200トン/日以下、さらに好ましくは100トン/日以下、80トン/日以下、60トン/日以下、又は50トン/日以下である。アンモニア合成能力の下限は、特に限定されないが、通常、0.1トン/日以上、1トン/日以上、2トン/日以上などとし得る。
【0056】
<製品製造装置>
本発明の製造システムにおいて、製品製造装置は、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用して含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品を製造する。
【0057】
含窒素製品及び発酵・培養生産物に関しては、先述のとおりである。アンモニアは、発酵に用いる必須な栄養源である窒素の供給源として、又はpH調整剤として非常に重要である。大規模生産プロセスによりアンモニアを合成する従来技術においては、これらアンモニア関連製品の製造拠点は、アンモニア合成拠点と地理的に離れており、アンモニア合成拠点で製造されたアンモニアは液体アンモニアとしてアンモニア関連製品の製造拠点まで輸送されていた。アンモニア関連製品の製造拠点においては、輸送された液体アンモニアを貯蔵し、アンモニア関連製品の製造プロセスに応じて、液体アンモニアをそのまま又はアンモニア水やアンモニアガス等の適切な利用形態に転換した後に使用していた。
【0058】
本発明の製造システムにおいては、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用してアンモニア関連製品を製造する。本発明においては、アンモニア関連製品の製造に際して、液体アンモニアの貯蔵・輸送を伴わない(あるいは最小限に抑える)ことを特徴とする。アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガスは、製品製造装置の具体的仕様に応じて、1)そのまま製品製造装置に供給してもよく、2)冷却した後に製品製造装置に供給してもよく、3)濃縮して濃縮アンモニアガス若しくは液体アンモニア(若しくは必要に応じてアンモニア水)として製品製造装置に供給してもよく、4)若しくは得られたアンモニア水からアンモニアガスを回収し、回収されたアンモニアガスを用いて発酵・培養装置に供給してもよい。
上記2)乃至4)の実施形態も包含させるべく、本発明においては、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス「由来の」アンモニアを使用するという表現を用いる。
【0059】
したがって、一実施形態において、本発明の製造システムは、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガスを冷却する冷却器をさらに含む。冷却器としては、アンモニア含有ガスを所定の温度に冷却し得る限り特に限定されず、公知の冷却器(例えば、コイル型熱交換器、シェルアンドチューブ型熱交換器等)を使用してよい。冷却されたアンモニア含有ガスは、そのまま製品製造装置に供給してもよく、貯蔵タンクに貯蔵した後に製品製造装置に供給してもよい。
【0060】
他の実施形態において、本発明の製造システムは、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス中のアンモニアを濃縮するアンモニア濃縮装置をさらに含む。アンモニア濃縮装置としては、アンモニア含有ガス中のアンモニアを濃縮し得る限り特に限定されず、公知の濃縮装置を使用してよい。アンモニア濃縮装置としては、例えば、加圧冷却装置、ガス分離膜装置、圧力スイング吸着(PSA)装置が挙げられる。
【0061】
アンモニア濃縮装置として加圧冷却装置を使用する場合、加圧冷却の条件は、アンモニア含有ガス中のアンモニアが液化するように設定することが好適である。加圧冷却時の圧力は、アンモニア合成装置の反応部における反応圧力や加圧冷却時の温度によっても異なるが、好ましくは10kPa以上、より好ましくは50kPa以上、さらに好ましくは100kPa以上、0.2MPa以上、0.3MPa以上、0.4MPa以上、又は0.5MPa以上である。また、加圧冷却時の温度は、加圧冷却時の圧力によっても異なるが、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下、20℃以下、10℃以下、5℃以下、0℃以下、-5℃以下、又は-10℃以下である。該温度の下限は、特に限定されないが、通常、-35℃以上、-30℃以上などとし得る。なお、加圧冷却装置としては、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガスを上記の条件にて加圧冷却し得る限り特に限定されず、公知の加圧冷却装置を使用してよい。アンモニア含有ガスを加圧冷却して得られた液体アンモニアは、そのまま製品製造装置に供給してもよく、貯蔵タンクに貯蔵した後に製品製造装置に供給してもよい。
【0062】
アンモニア濃縮装置としてガス分離膜装置を使用する場合、水素ガス分離膜、窒素ガス分離膜、又はこれらの組み合わせを使用することが好適である。アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガスには、アンモニア、未反応の水素、未反応の窒素が主に含まれており、未反応の水素と未反応の窒素の少なくとも一方をガス分離膜により分離することで、アンモニアを濃縮することができる。水素ガス分離膜、窒素ガス分離膜としては、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス中の未反応の水素、窒素を分離し得る限り特に限定されず、公知の水素ガス分離膜、窒素ガス分離膜を使用してよい。あるいはまた、アンモニア含有ガス中のアンモニアを選択的に分離し得るアンモニアガス分離膜を使用してもよい。ガス分離膜装置を使用したアンモニアの濃縮に際しては、ガス分離膜の種類に応じて、温度及び圧力等の条件を決定してよい。例えば、ガス分離時の圧力(粗ガス側)は、好ましくは10kPa以上、より好ましくは50kPa以上、さらに好ましくは100kPa以上、0.2MPa以上、0.3MPa以上、0.4MPa以上、又は0.5MPa以上である。該ガス圧(粗ガス側)の上限は、特に限定されないが、通常、アンモニア合成装置の反応部における反応圧力以下である。ガス分離膜装置で得られた濃縮アンモニアガスは、そのまま製品製造装置に供給してもよく、貯蔵タンクに貯蔵した後に製品製造装置に供給してもよい。
【0063】
アンモニア濃縮装置として圧力スイング吸着(PSA)装置を使用してもよい。PSA装置では、アンモニア含有ガス中のアンモニアに対して選択的吸着能を呈する吸着剤を使用して、圧力変動によりアンモニアの吸・脱着を制御してアンモニアと他のガスとを分離(アンモニアを濃縮)する。PSA装置としては、アンモニア含有ガス中のアンモニアを濃縮し得る限り特に限定されず、公知のPSA装置を使用してよい。例えば、特許第2634015号公報に記載されるPSA装置を使用して、アンモニア含有ガス中のアンモニアを濃縮してよい。PSA装置において、吸着剤にアンモニアを吸着させる際の圧力(Pad)と、吸着剤からアンモニアを脱着させる際の圧力(Pde)とは、Pad>Pdeを満たすことが好ましい。アンモニア含有ガス中のアンモニアを効率的に濃縮する観点から、上記PadおよびPdeは、Pad-Pde≧10kPaを満たすことが好ましく、Pad-Pde≧50kPaを満たすことがより好ましく、Pad-Pde≧100kPaを満たすことがさらに好ましく、Pad-Pde≧0.2MPaを満たすことがさらにより好ましく、Pad-Pde≧0.3MPa、Pad-Pde≧0.4MPa、又はPad-Pde≧0.5MPaを満たすことが特に好ましい。上記PadとPdeの差分(Pad-Pde)の上限は、通常、アンモニア合成装置の反応部における反応圧力以下である。また、Padは、上記Pad>Pdeを満たす限り特に限定されず、使用する吸着剤の吸着能に応じて決定してよいが、通常、アンモニア合成装置の反応部における反応圧力以下である。Pdeは、上記Pad>Pdeを満たす限り特に限定されず、使用する吸着剤の脱着能に応じて決定してよいが、通常、1MPa以下であり、好ましくは0.5MPa以下、0.2MPa以下、100kPa以下、50kPa以下、10kPa以下、又は0kPa以下である。ガス分離時の温度は、PSA装置の具体的仕様に応じて決定してよい。
【0064】
アンモニア濃縮装置としてPSA装置を使用する場合、2つ以上の吸着塔を備えたPSA装置が好適である。例えば、2つの吸着塔(第1の吸着塔及び第2の吸着塔)を備えたPSA装置においては、第1の吸着塔においてアンモニアの吸着工程を実施する際に第2の吸着塔においてアンモニアの脱着工程が実施され、第1の吸着塔においてアンモニアの脱着工程を実施する際に第2の吸着塔においてアンモニアの吸着工程が実施されるように操作することにより、連続的にアンモニア含有ガス中のアンモニアを濃縮することが可能である。PSA装置で得られた濃縮アンモニアガスは、そのまま製品製造装置に供給してもよく、貯蔵タンクに貯蔵した後に製品製造装置に供給してもよい。
【0065】
アンモニア濃縮装置としてPSA装置を使用する場合、アンモニア濃縮装置で得られる濃縮アンモニアガス中のアンモニア濃度は、好ましくは10体積%以上、より好ましくは30体積%以上、さらに好ましくは50体積%以上、さらにより好ましくは90体積%以上である。該アンモニア濃度の上限は、高いほど好ましく、100体積%であってもよい。したがって、本発明において、アンモニアの「濃縮」とは、アンモニア含有ガスからアンモニアを単離することを含む概念である。
【0066】
本発明において、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガスは、上記のアンモニア濃縮装置によりアンモニアを濃縮した後、さらにアンモニア精製装置を使用して精製を行ってもよい。
【0067】
先述のとおり、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガスには、未反応の水素、未反応の窒素が含まれる。これら未反応の水素と窒素をアンモニア合成の原料としてリサイクルすることにより、システム効率の向上を図ることが可能である。したがって、一実施形態において、本発明の製造システムは、アンモニア合成装置の下流側において、未反応の水素と窒素を回収し、回収したガスをアンモニア合成装置の上流側にリサイクルするリサイクル装置をさらに含む。
【0068】
例えば、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガスをそのまま製品製造装置に供給する実施形態や、アンモニア含有ガスを冷却した後に製品製造装置に供給する実施形態においては、製品製造装置の上流側において未反応の水素と窒素を選択的に回収することは困難であることから、製品製造装置において又は製品製造装置の下流側においてリサイクル装置を設ければよい。これらの実施形態におけるリサイクル装置の詳細は、図を参照して後述することとする。
【0069】
例えば、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガスを濃縮して濃縮アンモニアガス若しくは液体アンモニア(若しくは必要に応じてアンモニア水)として製品製造装置に供給する実施形態においては、アンモニア濃縮装置において未反応の水素と窒素を選択的に回収することが可能であり、アンモニア濃縮装置にリサイクル装置を設ければよい。
【0070】
リサイクル装置としては、未反応の水素と窒素を回収して、回収した、水素及び窒素を含むガスをアンモニア合成装置の上流側にリサイクルすることができる限り特に限定されず、公知のリサイクル装置を使用してよい。例えば、リサイクル装置は、回収したガスの導管と、回収したガスを移送するためのポンプとを含んでよい。
【0071】
なお、回収したガスに水分が含まれる場合、該ガスをそのままリサイクルすると、アンモニア合成装置で使用する担持金属触媒の触媒能に悪影響を及ぼす場合がある。したがって、一実施形態において、リサイクル装置は、回収したガス中の水分を除去する脱水装置を含む。脱水装置としては、回収したガス中の水分含有量を、本発明で使用する担持金属触媒の触媒能に悪影響を及ぼさない値にまで低下させ得る限り特に限定されず、公知の脱水装置を使用してよい。例えば、回収したガスを冷却して水分を凝縮除去する装置が挙げられる。また、回収したガス中の水分含有量をさらに減じる観点から、リサイクル装置は、乾燥装置を使用してよく、脱水装置に加えてあるいは脱水装置に代えて乾燥装置を含んでもよい。乾燥装置としては、回収したガス中の水分含有量をさらに減じる機能を有する限り特に限定されず、公知の乾燥装置を使用してよい。例えば、回収したガスを吸湿剤に接触させて脱水する装置が挙げられ、この装置において、吸湿剤としては、特に限定されないが、例えば、塩化カルシウム、五酸化二リン及び硫酸銅無水塩等の化学的吸湿剤;シリカゲル、アルミナゲル及びゼオライト等の物理的吸湿剤が挙げられる。
【0072】
本発明の製造システムにおいて、製品製造装置は、アンモニアを使用して含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品を製造する。斯かる製品製造装置の基本的な構成は、当分野において公知の製品製造装置と同様としてよい。
【0073】
以下、製品製造装置として、アンモニア水製造装置、尿素製造装置、発酵・培養生産物製造装置を備えた製造システムの実施形態について、図面を参照しつつ、説明することとする。
【0074】
-アンモニア水の製造システム-
製品製造装置としてアンモニア水製造装置を備える製造システムにおいては、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用してアンモニア水を製造する。
【0075】
アンモニア水製造装置は、アンモニアを使用してアンモニア水を製造できる限り特に限定されず、公知の装置を使用してよい。
図1~
図3には、アンモニア水製造装置として溶解槽を使用した実施形態を示している。
【0076】
図1には、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、加圧冷却装置及びPSA装置から選択されるアンモニア濃縮装置103、及びアンモニア水製造装置201を含む、アンモニア水の製造システム1000を示す。
【0077】
製造システム1000では、はじめに、水素ガス原料1と空気2が原料ガス製造装置101に供給される。水素ガス原料1としては、原料ガス製造装置101における水素の製造プロセスに応じて、炭化水素(例えば、石炭、石油、天然ガス、バイオマス)、水を使用してよい。水素の製造プロセスとしては、先述のとおり、1)炭化水素を、水蒸気改質反応、部分酸化反応、又はこれらの組み合わせによりCO、H2を含むガスへと転化した後、COシフト反応、脱CO2処理を実施する方法、2)水を電気分解する方法、3)光触媒を用いて水を分解する方法が挙げられる。原料ガス製造装置101においてはまた、窒素が製造される。窒素は、窒素分離膜あるいは深冷分離法を用いて空気から窒素を分離して調製してよい。あるいは、炭化水素の部分酸化反応を利用して水素を調製する場合には、酸素源として使用した空気中の窒素を利用してもよい。
【0078】
原料ガス製造装置101で製造された水素と窒素を含む原料ガス3は、アンモニア合成装置102に供給される。アンモニア合成装置102では、上記特定のi)乃至iii)の担体を含む担持金属触媒の存在下、水素と窒素を含む原料ガスを反応させてアンモニア含有ガスが合成される。
【0079】
合成されたアンモニア含有ガス4は、加圧冷却装置及びPSA装置から選択されるアンモニア濃縮装置103に供給される。アンモニア濃縮装置103が加圧冷却装置である場合、液体アンモニア6が得られる。アンモニア濃縮装置103がPSA装置である場合、濃縮アンモニアガス6が得られる。なお、得られた液体アンモニアや濃縮アンモニアガスは、貯蔵タンク(図示せず)に貯蔵してもよい。
【0080】
得られた液体アンモニアや濃縮アンモニアガス6は、アンモニア水製造装置201に供給される。アンモニア水製造装置201にはまた、水7が供給される。アンモニア水製造装置では、液体アンモニアや濃縮アンモニアガス6を水7に溶解させてアンモニア水8を製造することができる。溶解の方法や条件は、所期の濃度のアンモニア水を製造し得る限り特に限定されず、公知の方法、条件を使用してよい。
【0081】
なお、
図1に示す製造システム1000は、アンモニア濃縮装置103で分離された未反応の水素と窒素を回収して、回収したガス5をアンモニア合成装置102の上流側にリサイクルするリサイクル装置(図示せず)を備える。
【0082】
図2には、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、ガス分離膜装置(アンモニア濃縮装置)104及び105、及びアンモニア水製造装置201を含む、アンモニア水の製造システム1001を示す。製造システム1001において、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、アンモニア水製造装置201は、製造システム1000において説明したとおりである。
【0083】
製造システム1001は、アンモニア濃縮装置としてガス分離膜装置104及び105を備える。例えば、水素ガス分離膜104と窒素ガス分離膜105を組み合わせて使用することができる。ガス分離膜装置104及び105を備える製造システム1001では、濃縮アンモニアガス6が得られる。得られた濃縮アンモニアガスは、貯蔵タンク(図示せず)に貯蔵してもよい。
【0084】
なお、
図2に示す製造システム1001は、ガス分離膜装置104及び105で分離された未反応の水素と窒素を回収して、回収したガス5をアンモニア合成装置102の上流側にリサイクルするリサイクル装置を備える。
【0085】
図3には、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、冷却器106、及びアンモニア水製造装置201を含む、アンモニア水の製造システム1002を示す。製造システム1002において、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、アンモニア水製造装置201は、製造システム1000において説明したとおりである。
【0086】
製造システム1002では、アンモニア合成装置102で得られたアンモニア含有ガス4が冷却器106で冷却される。次いで、冷却されたアンモニア含有ガス6がアンモニア水製造装置201に供給される。
【0087】
冷却されたアンモニア含有ガス6には、未反応の水素と窒素が含まれる。製造システム1002では、アンモニア水製造装置201において未反応の水素と窒素を回収して、回収したガス9をアンモニア合成装置102の上流側にリサイクルするリサイクル装置を備える。また、回収したガス9には、アンモニア水製造装置201で使用する水7に由来する水分が含まれる。製造システム1002において、リサイクル装置は、回収したガス9中の水分を除去する脱水装置107を備える。製造システム1002はまた、回収したガス9をさらに乾燥させる乾燥装置108を備える。
【0088】
図1~
図3を参照して、アンモニア水の製造システムについて説明してきたが、上記製造システムにおいて、水7に代えて、無機酸、有機酸、又はそれらの溶液を使用することで、アンモニウム塩を製造することも可能である。また、
図1~
図3に示す製造システムは、原料ガス製造装置101を備えるが、原料ガス製造装置101に代えて、水素ボンベ、水素タンク等の水素供給装置と、窒素ボンベ、窒素タンク等の窒素供給装置とを備えてもよい。また、アンモニア水製造装置201で得られたアンモニア水は、図示しない濃縮装置により、アンモニア水の濃縮を行ってもよい。濃縮方法は加熱等の公知の手段により行われる。
【0089】
-尿素の製造システム-
製品製造装置として尿素製造装置を備える製造システムにおいては、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用して尿素を製造する。
【0090】
尿素は、アンモニアと二酸化炭素を、式:2NH
3+CO
2→CO(NH
2)
2+H
2Oに従って反応させて製造することができる。本発明の製造システムにおいても、アンモニアと二酸化炭素から尿素を製造する尿素製造装置を使用することが好適である。
図4~
図6には、斯かる尿素製造装置を使用した実施形態を示す。
【0091】
図4には、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、加圧冷却装置及びPSA装置から選択されるアンモニア濃縮装置103、及び尿素製造装置202を含む、尿素の製造システム2000を示す。製造システム2000において、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、加圧冷却装置及びPSA装置から選択されるアンモニア濃縮装置103は、製造システム1000において説明したとおりである。
【0092】
製造システム2000において、アンモニア濃縮装置103で得られた液体アンモニアや濃縮アンモニアガス6は、そのまま尿素製造装置202に供給してもよく、貯蔵タンク(図示せず)に貯蔵した後に尿素製造装置202に供給してもよい。尿素製造装置201にはまた、二酸化炭素10が供給される。原料ガス製造装置101において、水素を炭化水素の水蒸気改質反応等によって製造する場合は、その際に生じるオフガス中の二酸化炭素を使用してもよい。尿素製造装置202では、アンモニアと二酸化炭素とを上記の式に従って反応させて尿素11を製造することができる。
【0093】
尿素製造反応の条件は、上記の式に従ってアンモニアと二酸化炭素から尿素を製造し得る限り特に限定されないが、一般に、14MPa~25MPa、170℃~210℃の条件にて実施することができる(例えば、特開平8-325222号公報)。
【0094】
なお、
図4に示す製造システム2000は、アンモニア濃縮装置103で分離された未反応の水素と窒素を回収して、回収したガス5をアンモニア合成装置102の上流側にリサイクルするリサイクル装置を備える。
【0095】
図5には、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、ガス分離膜装置(アンモニア濃縮装置)104及び105、及び尿素製造装置202を含む、尿素の製造システム2001を示す。製造システム2001において、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、ガス分離膜装置(アンモニア濃縮装置)104及び105、尿素製造装置202は、先述のとおりである。また、製造システム2001は、ガス分離膜装置104及び105で分離された未反応の水素と窒素を回収して、回収したガス5をアンモニア合成装置102の上流側にリサイクルするリサイクル装置を備える。
【0096】
製造システム2001において、ガス分離膜装置104及び105で得られた濃縮アンモニアガスは、そのまま尿素製造装置202に供給してもよく、貯蔵タンク(図示せず)に貯蔵した後に尿素製造装置202に供給してもよい。
【0097】
図6には、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、冷却器106、及び尿素製造装置202を含む、尿素の製造システム2002を示す。製造システム2002において、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、冷却器106、尿素製造装置202は、先述のとおりである。
【0098】
製造システム2002において、アンモニア合成装置102で得られたアンモニア含有ガス4は冷却器106で冷却される。次いで、冷却されたアンモニア含有ガス6が尿素製造装置202に供給される。
【0099】
冷却されたアンモニア含有ガス6には、未反応の水素と窒素が含まれる。製造システム2002では、尿素製造装置202において未反応の水素と窒素を回収して、回収したガス12を原料ガス製造装置101の脱CO2処理部(アンモニア合成装置102の上流側)にリサイクルするリサイクル装置を備える。また、回収したガス12には、尿素製造反応に由来する水分が含まれる。製造システム2002において、リサイクル装置は、回収したガス12中の水分を除去する脱水装置107を備える。製造システム2002はまた、回収したガス12をさらに乾燥させる乾燥装置108を備える。
【0100】
図4~
図6を参照して、尿素の製造システムについて説明してきたが、上記製造システムにおいて、二酸化炭素10に代えて水を使用し、適切な触媒の存在下、オストワルト法により硝酸を製造することも可能である。得られた硝酸をさらに反応させて硝酸塩(例えば、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム)を製造してもよい。また、
図4~
図6に示す製造システムは、原料ガス製造装置101を備えるが、原料ガス製造装置101に代えて、水素ボンベ、水素タンク等の水素供給装置と、窒素ボンベ、窒素タンク等の窒素供給装置とを備えてもよい。
【0101】
-発酵・培養生産物の製造システム-
製品製造装置として発酵・培養生産物製造装置を備える製造システムにおいては、アンモニア合成装置で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用して発酵・培養生産物を製造する。
【0102】
発酵・培養生産物としては、例えば、アミノ酸、有機酸、多糖類、タンパク質、抗生物質、アルコール等の有機化合物、及び微生物菌体が挙げられる。アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、シスチン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、ヒドロキシプロリン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、ヒスチジン、アルギニンが挙げられる。有機酸としては、例えば、酢酸、乳酸、ピルビン酸、コハク酸、リンゴ酸、イタコン酸、クエン酸、アクリル酸、プロピオン酸、フマル酸が挙げられる。多糖類としては、例えば、キサンタン、デキストラン、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、カードラン、ゲラン、スクレオグルカン、プルランが挙げられる。タンパク質としては、例えば、ホルモン、リンホカイン、インターフェロン、酵素(アミラーゼ、グルコアミラーゼ、インベルターゼ、ラクターゼ、プロテアーゼ、リパーゼ等)が挙げられる。抗生物質としては、例えば、抗菌剤(β-ラクタム、マクロライド、アンサマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ペプチド性抗生物質、アミノグリコシド等)、抗カビ剤(ポリオキシンB、グリセオフルビン、ポリエンマクロライド等)、抗がん剤(ダウノマイシン、アドリアマイシン、ダクチノマイシン、ミスラマイシン、ブレオマイシン等)、プロテアーゼ/ペプチダーゼ阻害剤(ロイペプチン、アンチパイン、ペプスタチン等)、コレステロール生合成阻害剤(コンパクチン、ロバスタチン、プラバスタチン等)が挙げられる。アルコールとしては、例えば、エタノール、イソプロパノール、グリセリン、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1-ブタノール、ソルビットが挙げられる。発酵・培養生産物としてはまた、アクリルアミド、ジエン化合物(イソプレン等)、ペンタンジアミン等の有機化合物も挙げられる。有機化合物の生産能を有する微生物を培養して上記のような有機化合物を製造する技術は広く知られている。本発明は、このような微生物発酵技術に広く適用することが可能である。微生物発酵において、微生物は、炭素源、窒素源等を利用して自らも増殖する。斯かる意味において、本発明では、発酵・培養生産物に微生物菌体も包含される。微生物菌体としては、有機化合物の生産能を有する任意の微生物が挙げられる。
【0103】
有機化合物の生産能を有する微生物としては、1)本来的に有機化合物の生産能を有する微生物と、2)本来的には有機化合物の生産能を有しない又は実質的に有しないが有機化合物生成遺伝子を遺伝子組み換えにより導入されて後天的に有機化合物の生産能を有するに至った微生物の双方が含まれる。有機化合物の生産能を有する微生物に関しては、有機化合物の種類に応じて種々の微生物が知られており、本発明においては、これら既知の微生物を広く使用してよい。また、培養に際して窒素源又はpH調整剤としてアンモニアを使用することができる限り、今後開発される微生物に関しても本発明を広く適用することが可能である。
【0104】
微生物としては、有機化合物の生産能を有する限り特に限定されないが、細菌又は真菌が好適である。細菌としては、例えば、エシュリヒア(Escherichia)属細菌、パントエア(Pantoea)属細菌、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌、クロストリジウム(Clostridium)属細菌、バシラス(Bacillus)属細菌、ラクトバシラス(Lactobacillus)属細菌、ストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌が挙げられる。真菌としては、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属菌、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属菌、ヤロウイア(Yarrowia)属菌、トリコデルマ(Trichoderma)属菌、アスペルギルス(Aspergillus)属菌、フザリウム(Fusarium)属菌、ムコール(Mucor)属菌が挙げられる。
【0105】
エシェリヒア属細菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等が挙げられる。パントエア(Pantoea)属細菌としては、例えば、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)等が挙げられる。コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌としては、例えば、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・アンモニアジェネス(Corynebacterium ammoniagenes)等が挙げられる。エンテロバクター(Enterobacter)属細菌としては、例えば、エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)等が挙げられる。クロストリジウム(Clostridium)属細菌としては、例えば、クロストリジウム・アセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)等が挙げられる。バシラス(Bacillus)属細菌としては、例えば、バシラス・ズブチリス(Bacillus subtilis)、バシラス・アミロリキファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)等が挙げられる。ラクトバシラス(Lactobacillus)属細菌としては、例えば、ラクトバシラス・ヤマナシエンシス(Lactobacillus yamanashiensis)、ラクトバシラス・アニマリス(Lactobacillus animalis)、ラクトバシラス・ヒルガルディ(Lactobacillus hilgardii)、ラクトバシラス・ブレビス(Lactobacillus brevis)等が挙げられる。ストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌としては、例えば、ストレプトマイセス・クラブリゲルス(Streptomyces clavuligerus)、ストレプトマイセス・ベネズエラ(Streptomyces venezuelae)、ストレプトマイセス・ピウセチウス(Streptomyces peucetius)等が挙げられる。ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌としては、例えば、ストレプトコッカス・エクイ(Streptococcus equi)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)等が挙げられる。シュードモナス(Pseudomonas)属細菌としては、例えば、シュードモナス・フルオレセンス(Pseudomonas fluorescens)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・エロデア(Pseudomonas elodea)、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等が挙げられる。サッカロミセス(Saccharomyces)属菌としては、例えば、サッカロミセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等が挙げられる。シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属菌としては、例えば、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等が挙げられる。ヤロウイア(Yarrowia)属菌としては、例えば、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)等が挙げられる。トリコデルマ(Trichoderma)属菌としては、例えば、トリコデルマ・リーゼイ(Trichoderma reesei)等が挙げられる。アスペルギルス(Aspergillus)属菌としては、例えば、アスペルギルス・テレウス(Aspergullus terreus)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)等が挙げられる。フザリウム(Fusarium)属菌としては、例えば、フザリウム・ヘテロスポラム(Fusarium hetereosporum)等が挙げられる。ムコール(Mucor)属菌としては、例えば、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus)等が挙げられる。
【0106】
本発明の製造システムにおいてアミノ酸を製造する場合、好適に使用し得る微生物の例としては以下が挙げられる。例えば目的物質がL-リジンの場合はエシェリヒア・コリAJ11442(NRRL B-12185,FERM BP-1543)(米国特許第4,346,170号参照)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ3990(ATCC31269)(米国特許第4,066,501号参照)、Lys生産菌WC196LC/pCABD2(国際公開2010/061890号)等である。WC196ΔcadAΔldcは、WC196株より、リジンデカルボキシラーゼをコードするcadA及びldcC遺伝子を破壊することにより構築した株である。WC196ΔcadAΔldc/pCABD2は、WC196ΔcadAΔldcに、リジン生合成系遺伝子を含むプラスミドpCABD2(米国特許第6,040,160号)を導入することにより構築した株である。WC196ΔcadAΔldcは、AJ110692と命名され、2008年10月7日、国立研究開発法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(現、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター、郵便番号:292-0818、住所:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM BP-11027として寄託された。L-スレオニンの場合はエシェリヒア・コリVKPM B-3996(RIA 1867、VKPM B-3996)(米国特許第5,175,107号参照)、コリネバクテリウム・アセトアシドフイラムAJ12318(FERM BP-1172)(米国特許第5,188,949号参照)等であり、L-フェニルアラニンの場合は、エシェリヒア・コリAJ12604(FERM BP-3579)(欧州特許出願公開第488,424号参照)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ12637(FERM BP-4160)(フランス特許出願公開第2,686,898号参照)等であり、L-グルタミン酸の場合はエシェリヒア・コリAJ12624(FERM BP-3853)(フランス特許出願公開第2,680,178号参照)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ12475(FERM BP-2922)(米国特許第5,272,067号参照)、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13869を親株にして作成された2256ΔldhAΔsucAyggB*(国際公開2014/185430号)等であり、L-ロイシンの場合はエシェリヒア・コリAJ11478(FERM P-5274)(特公昭62-34397号参照)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ3718(FERM P-2516)(米国特許第3,970,519号参照)等であり、L-イソロイシンの場合はエシェリヒア・コリKX141(VKPM B-4781)(欧州特許出願公開第519,l13号参照)、ブレビバクテリウム・フラバムAJ12149(FERM BP-759)(米国特許第4,656,135号参照)等であり、L-バリンの場合はエシェリヒア・コリVL1970(VKPM B-4411)(欧州特許出願公開第519,l13号参照)、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタムAJ12341(FERM BP-1763)(米国特許第5,188,948号参照)等である。
【0107】
本発明の製造システムにおいて有機酸を製造する場合、好適に使用し得る微生物の例としては以下が挙げられる。例えば目的物質がL-乳酸の場合はラクトバシラス・ヤマナシエンシス、ラクトバシラス・アニマリス、サッカロミセス・セレビジエ等であり、ピルビン酸の場合はエシェリヒア・コリ、シュードモナス・フルオレセンス等であり、コハク酸の場合はエシェリヒア・コリ、パントエア・アナナティス等であり、イタコン酸の場合はアスペルギルス・テレウス等であり、クエン酸の場合はエシェリヒア・コリ等である(例えば、国際公開2007/097260号、特開2010-187542号公報参照)。
【0108】
本発明の製造システムにおいて多糖類を製造する場合、好適に使用し得る微生物の例としては以下が挙げられる。例えば目的物質がデキストランの場合はラクトバシラス・ヒルガルディ、ストレプトコッカス・ミュータンス等であり、アルギン酸塩の場合はシュードモナス・エルギノーサ等であり、ヒアルロン酸の場合はストレプトコッカス・エクイ、ストレプトコッカス・ミュータンス等であり、ゲランの場合はシュードモナス・エロデア等である(例えば、特開2011-116825号公報、特開2007-9092号公報参照)。
【0109】
本発明の製造システムにおいてタンパク質を製造する場合、好適に使用し得る微生物の例としては以下が挙げられる。例えば目的物質が各種ホルモン、インターフェロンの場合はサッカロミセス・セレビジエ等であり、アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼの場合はバシラス・ズブチリス、アスペルギルス・オリゼ等であり、インベルターゼ、ラクターゼの場合はサッカロミセス・セレビジエ、アスペルギルス・オリゼ等である(例えば、国際公開第2006/67511号、特開2003-153696号公報参照)。
【0110】
本発明の製造システムにおいて抗生物質を製造する場合、好適に使用し得る微生物の例としては以下が挙げられる。例えば目的物質がペニシリン等のβ-ラクタムの場合はシュードモナス・プチダ、ストレプトマイセス・クラブリゲルス等であり、エリスロマイシン、アジスロマイシン等のマクロライドの場合はストレプトマイセス・ベネズエラ等であり、ダウノマイシンの場合はストレプトマイセス・ピウセチウス等であり、プラバスタチンの場合はストレプトマイセス・クラブリゲルス等である(例えば、国際公開第96/10084号、特開2002-53589号公報、国際公開第2005/54265号、国際公開第2007/147827号参照)。
【0111】
本発明の製造システムにおいてアルコールを製造する場合、好適に使用し得る微生物の例としては以下が挙げられる。例えば目的物質がエタノールの場合はサッカロミセス・セレビジエ、シゾサッカロミセス・ポンベ、ラクトバシラス・ブレビス等であり、トリメチレングリコールの場合はエシェリヒア・コリ等である(例えば、国際公開第2007/97260号参照)。
【0112】
発酵・培養生産物製造装置は、アンモニアを窒素源又はpH調整剤として使用して発酵・培養生産物を製造できる限り特に限定されず、発酵・培養生産物の種類に応じて、公知の装置を使用してよい。
図7~
図10には、発酵・培養槽を使用した実施形態を示す。
【0113】
図7には、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、加圧冷却装置及びPSA装置から選択されるアンモニア濃縮装置103、及び発酵・培養生産物製造装置203を含む、発酵・培養生産物の製造システム3000を示す。製造システム3000において、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、加圧冷却装置及びPSA装置から選択されるアンモニア濃縮装置103は、製造システム1000において説明したとおりである。
【0114】
製造システム3000において、アンモニア濃縮装置103で得られた液体アンモニアや濃縮アンモニアガス6は、そのまま発酵・培養生産物製造装置203に供給してもよく、貯蔵タンク(図示せず)に貯蔵した後に発酵・培養生産物製造装置203に供給してもよい。発酵・培養生産物製造装置203には、製造対象である発酵・培養生産物の種類に応じて適切な発酵・培養培地液が導入されており、必要に応じて空気13を供給し、アンモニア6を窒素源又はpH調整剤として使用して発酵・培養を実施することにより発酵・培養生産物14を製造することができる。
【0115】
発酵・培養条件としては、製造対象である発酵・培養生産物の製造が可能な条件であれば、特に限定されず、標準的な発酵・培養条件を用いてよい。発酵・培養温度としては、通常、20℃~37℃が好ましい。また、使用する微生物の性質に応じて好気性、無酸素性、又は嫌気性条件下で発酵・培養を実施してよい。発酵・培養方法としては、バッチ法、流加法、連続法等の公知の方法を用いてよい。
【0116】
なお、
図7に示す製造システム3000は、アンモニア濃縮装置103で分離された未反応の水素と窒素を回収して、回収したガス5をアンモニア合成装置102の上流側にリサイクルするリサイクル装置を備える。
【0117】
図8には、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、ガス分離膜装置(アンモニア濃縮装置)104及び105、及び発酵・培養生産物製造装置203を含む、発酵・培養生産物の製造システム3001を示す。製造システム3001において、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、ガス分離膜装置(アンモニア濃縮装置)104及び105、発酵・培養生産物製造装置203は、先述のとおりである。また、製造システム3001は、ガス分離膜装置104及び105で分離された未反応の水素と窒素を回収して、回収したガス5をアンモニア合成装置102の上流側にリサイクルするリサイクル装置を備える。
【0118】
製造システム3001において、ガス分離膜装置104及び105で得られた濃縮アンモニアガスは、そのまま発酵・培養生産物製造装置203に供給してもよく、貯蔵タンク(図示せず)に貯蔵した後に発酵・培養生産物製造装置203に供給してもよい。
【0119】
図9には、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、冷却器106、及び発酵・培養生産物製造装置203を含む、発酵・培養生産物の製造システム3002を示す。製造システム3002において、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、冷却器106は、先述のとおりである。
【0120】
製造システム3002において、発酵・培養生産物製造装置203は、予混合器204を備える。予混合器204と発酵・培養生産物製造装置203の発酵・培養槽との間では、発酵・培養培地液が循環している。予混合器204では、循環している発酵・培養培地液にアンモニアが予混合される。これにより、アンモニアが混合された発酵・培養培地液が発酵・培養生産物製造装置203の発酵・培養槽に供給される。
【0121】
製造システム3002において、アンモニア合成装置102で得られたアンモニア含有ガス4は冷却器106で冷却される。次いで、冷却されたアンモニア含有ガス6は予混合器204に供給される。
【0122】
冷却されたアンモニア含有ガス6には、未反応の水素と窒素が含まれる。製造システム3002では、予混合器204において未反応の水素と窒素を回収して、回収したガス15をアンモニア合成装置102の上流側にリサイクルするリサイクル装置を備える。また、回収したガス15には、発酵・培養培地液に由来する水分が含まれる。製造システム3002において、リサイクル装置は、回収したガス15中の水分を除去する脱水装置107を備える。製造システム3002はまた、回収したガス15をさらに乾燥させる乾燥装置108を備える。
【0123】
図10には、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、冷却器106、アンモニア水製造装置201、アンモニアストリッピング装置205、及び発酵・培養生産物製造装置203を含む、発酵・培養生産物の製造システム3003を示す。製造システム3003において、原料ガス製造装置101、アンモニア合成装置102、冷却器106、アンモニア水製造装置201は、先述のとおりである。
【0124】
製造システム3003は、製造システム1002の変更形態である。製造システム3003では、製造したアンモニア水8を、さらに発酵・培養生産物の製造に使用する。詳細には、製造されたアンモニア水8をアンモニアストリッピング装置205に供給して、アンモニア水からアンモニアガスを回収する。アンモニアストリッピング装置205としては、アンモニア水からアンモニアガスを回収することができる限り特に限定されず、公知のストリッピング装置を使用してよい。アンモニアストリッピング装置205で回収されたアンモニアガスを窒素源又はpH調整剤として発酵・培養生産物製造装置203に供給して、発酵・培養を実施することにより発酵・培養生産物14を製造することができる。
アンモニアストリッピング装置205で除去した水12は、
図10に示すように水7に合流させても良いし、排出しても良い。
【0125】
製造システム3003では、アンモニア水製造装置201で製造したアンモニア水8を輸送して、地理的に離れた場所において発酵・培養生産物を製造することも可能である。製造システム3003は、発酵・培養生産物の製造システムであるが、発酵・培養生産物製造装置203を、尿素、硝酸、硝酸塩等の他の含窒素製品の製造装置と置き換えてもよい。このような変更形態も、本発明の製造システムに包含される。
【0126】
図7~
図10を参照して、発酵・培養生産物の製造システムについて説明してきたが、上記製造システムにおいて、原料ガス製造装置101に代えて、水素ボンベ、水素タンク等の水素供給装置と、窒素ボンベ、窒素タンク等の窒素供給装置とを使用してもよい。また、
図7~
図9に示す発酵・培養生産物の製造システムにおいて、液体アンモニアや濃縮アンモニアガス等の濃縮アンモニア6は、アンモニア水とした後に、発酵・培養生産物製造装置203に供給することも好適である。
【0127】
本発明の製造システムで製造される含窒素製品は、各種化学品の原料や肥料として好適に使用される。また、本発明の製造システムで製造される発酵・培養生産物は、飲食品、医薬、試薬等に好適に使用される。
【0128】
[製造方法]
本発明はまた、アンモニア関連製品の新規な製造方法を提供する。本発明の製造方法では、液体アンモニアの輸送を伴わない(あるいは最小限に抑える)ことを特徴とする。
【0129】
一実施形態において、本発明の製造方法は、含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品の製造方法であり、
(A)担体として、i)導電性マイエナイト型化合物、ii)二次元エレクトライド化合物又はその前駆体化合物、及びiii)ZrO2、TiO2、CeO2、及びMgOから選ばれる少なくとも一種の金属酸化物を含む担体基材と、該担体基材に担持された式M(NH2)x(式中、Mは、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba及びEuから選ばれる一種以上を表し、xはMの価数を表す。)で示される金属アミドとからなる複合体からなる群から選択される一種以上を含む担持金属触媒の存在下、水素と窒素を含む原料ガスを反応させてアンモニア含有ガスを合成する工程、及び
(B)得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用して含窒素製品及び発酵・培養生産物から選択される製品を製造する工程
を含む。
【0130】
工程(A)で使用する担持金属触媒、原料ガス、アンモニア含有ガス、及びアンモニア含有ガスを合成する際の条件(温度、圧力等)は[製造システム]に記載のとおりである。また、工程(B)で製造する含窒素製品及び発酵・培養生産物、その製造方法は[製造システム]に記載のとおりである。本発明の製造システムについて説明した有利な効果は、本発明の製造方法についても同様に適用される。
【0131】
本発明の製造方法は、工程(A)と工程(B)を連続的に実施することを特徴とする。本発明において「工程(A)と工程(B)を連続的に実施する」とは、工程(A)で合成されたアンモニア含有ガスを、液体アンモニアとして輸送することなく、工程(B)を実施することを意味する。なお、「液体アンモニアとして輸送」とは、パイプライン、航空、船舶、自動車等による、地理的に離れた2地点間の移送を意味し、アンモニア関連製品の製造拠点内部での移送は含まれない。
【0132】
本発明の製造方法は、水素ガス原料と空気から水素と窒素を含む原料ガスを製造する工程をさらに含んでもよい。水素ガス原料、原料ガスの製造方法については、[製造システム]に記載のとおりである。
【0133】
本発明の製造方法は、工程(A)で得られたアンモニア含有ガス中のアンモニアを濃縮する工程をさらに含んでもよい。アンモニア含有ガス中のアンモニアを濃縮する方法については、[製造システム]に記載のとおりである。
【0134】
本発明の製造方法は、未反応の水素と窒素を回収して、回収したガスを工程(A)にリサイクルする工程(以下、「工程(C)」という。)をさらに含んでもよい。一実施形態において、工程(C)は、回収したガス中の水分を除去する脱水処理及び/又は乾燥処理を含んでよい。脱水処理、乾燥処理の方法については、[製造システム]に記載のとおりである。
【0135】
本発明の製造方法の好適な一実施形態においては、工程(A)で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用してアンモニア水を製造し、得られたアンモニア水を工程(B)において使用して発酵・培養生産物を製造する。
【0136】
本発明の製造方法の他の好適な一実施形態においては、工程(A)で得られたアンモニア含有ガス由来のアンモニアを使用してアンモニア水を製造し、得られたアンモニア水からアンモニアガスを回収し、回収されたアンモニアガスを工程(B)において使用して発酵・培養生産物を製造する。
【0137】
発酵・培養生産物を製造する場合、本発明の製造方法は、発酵・培養終了後の培地液から代謝産物を採取することをさらに含んでもよい。本発明において、代謝産物を採取する方法は特に限定されず、従来より周知となっているイオン交換樹脂法、沈澱法その他の方法を組み合わせることにより代謝産物を採取することができる。
【実施例】
【0138】
[参考例1]
<Ruを担持したCa3N2の合成>
市販のCa3N2粉末1gをAr雰囲気のグローブボックス中でRu3(CO)12と物理混合し、真空の石英ガラスに封入した。ガラス封入した試料を250℃で15時間加熱した。これにより2wt%Ru金属を担持したCa3N2触媒が得られた。この触媒のBET表面積は、約1m2/gであった。
【0139】
<アンモニア合成反応>
窒素ガス(N2)と水素ガス(H2)を反応させてアンモニアガス(NH3)を生成する反応を行った。得られた触媒0.2gをガラス管に詰め、固定床流通式反応装置で反応を行った。ガスの流量は、N2:15mL/min、H2:45mL/min、計60mL/minに設定し、圧力:大気圧、反応温度:400℃で反応を行った。流通系の反応器から出てきたガスを0.005M硫酸水溶液中にバブリングさせ、生成したアンモニアを溶液中に溶解させ、生じたアンモニウムイオンをイオンクロマトグラフにより定量した。400℃におけるアンモニアの生成速度は、2760μmolg-1h-1であった。
【0140】
[参考例2]
<Ruを担持したCa(NH2)2/ZrO2の合成>
比表面積100m2/gのZrO2(SZ31164,Saint-Gobain NorPro)を500℃で5時間真空排気した。その後、Ar雰囲気のグローブボックス中でステンレス製耐圧容器に入れ、そこにCa(NH2)2として40wt%となるように金属Caを入れた。密封した耐圧容器をグローブボックスから取り出し、-50℃程度に冷却しながらアンモニアガスを導入した。しばらく攪拌し、耐圧容器を100℃で2時間加熱後、室温まで冷やしてアンモニアガスを除去した。得られた粉末(Ca(NH2)2/ZrO2)をAr雰囲気のグローブボックス中で回収した。次に、Ca(NH2)2/ZrO2に対してRu担持量が5wt%となるようにRu3(CO)12と物理混合し、真空の石英ガラスに封入した。封入した試料を250℃で15時間加熱した。これによりRu金属を担持したCa(NH2)2/ZrO2触媒が得られた。この触媒のBET表面積は、64m2/gであった。
【0141】
<アンモニア合成反応>
窒素ガス(N2)と水素ガス(H2)を反応させてアンモニアガス(NH3)を生成する反応を行った。得られた触媒0.2gをガラス管に詰め、固定床流通式反応装置で反応を行った。ガスの流量は、N2:15mL/min、H2:45mL/min、計60mL/minに設定し、圧力:大気圧、反応温度:340℃で反応を行った。流通系の反応器から出てきたガスを0.005M硫酸水溶液中にバブリングさせ、生成したアンモニアを溶液中に溶解させ、生じたアンモニウムイオンをイオンクロマトグラフにより定量した。340℃におけるアンモニアの生成速度は、7387μmolg-1h-1であった。
【0142】
[参考例3]
<Ruを担持したCa(NH2)2/ZrO2の合成>
ZrO2粉末(Saint-Gobain Norpro社製、製品番号SZ 31164)0.67gを石英ガラス容器に入れて500℃で5時間真空排気して脱水処理した。脱水したZrO2粉末をAr雰囲気のグローブボックス中で30ccステンレス鋼性耐圧容器に入れ、生成するCa(NH2)2がZrO2との合計量に対して40wt%となるように金属Ca粉末(純度99.99%、Aldrich社製、製品番号215147)0.25gを入れた。
【0143】
密封した耐圧容器をグローブボックスから取り出し、耐圧容器をエタノールに漬けて-50℃程度に冷却しながらアンモニアガスを導入した。液体アンモニアを耐圧容器内に充填し、1000rpmで1時間撹拌した。耐圧容器をオイルバスに漬けて100℃で加熱反応し、500rpmで2時間撹拌した。耐圧容器を室温まで冷やした後、残留アンモニアガスを耐圧容器から除去した。耐圧容器内のCa(NH2)2/ZrO2をAr雰囲気のグローブボックス中で回収した。
【0144】
Ru担持量が、Ru/Ca(NH2)2/ZrO2触媒に対して5wt%となるように、Ca(NH2)2/ZrO2粉末0.30gとRu3(CO)12粉末(99%、Aldrich社製、製品番号245011)0.035gをめのう乳鉢を用い混合し、真空のパイレックス(登録商標)管に封入した。パイレックス管に入れた試料を250℃、15時間加熱した。これによりCa(NH2)2/ZrO2粉末にRu金属を担持した触媒を0.29g得た。
【0145】
<アンモニア水の製造>
窒素ガス(N2)と水素ガス(H2)を反応させてアンモニアガス(NH3)を生成する反応を行った。得られた触媒0.2gを耐圧管に詰め、固定床流通式反応装置で反応を行った。ガスの流量は、N2:15mL/min、H2:45mL/min、計60mL/minに設定し、圧力:0.9MPa、反応温度340℃で反応を行った。固定床流通式反応装置から出てきたガスを約3℃に冷却した水中に通気させ、生成したNH3を水中に溶解させ、生じたアンモニウムイオン(NH4
+)をイオンクロマトグラフにより定量した。340℃におけるアンモニアの生成速度は、13624μmolg-1h-1であった。その後、約43時間でアンモニア水溶液1(液量200g、NH4
+量1.78g)を得た。
【0146】
[参考例4]
<アンモニア水の製造>
参考例3と同様の触媒を用い、参考例3と同様の手法で生成したNH3を水中に溶解させ、約92時間でアンモニア水溶液(液量200g、NH4
+量3.02g)を得た。
【0147】
<アンモニア水の濃縮>
得られたアンモニア水溶液を用いて濃縮を行った。濃縮側のフラスコに、得られたアンモニア水溶液(200g)を入れて90℃に加熱し、揮発したNH3ガスを、冷却した受槽水100gに通気させてNH3を溶解させ、受槽水中のNH4
+をイオンクロマトグラフにより定量した。濃縮側のフラスコにArガス(50mL/min)を通気させ、NH3ガスの揮発を促した。本条件より、約5時間程度でアンモニア水溶液2(液量100g、NH4
+量1.89g)を得た。濃縮倍率は1.29であった(濃縮後のNH4
+濃度18.9g/L、濃縮前のNH4
+濃度14.7g/L)。
【0148】
[参考例5]
<アンモニア水の製造>
参考例3において、圧力条件を0.9MPaから0.1MPaに変更した。以上の事項以外は参考例3と同様にしてアンモニア水の製造を行った。340℃におけるアンモニアの生成速度は、6059μmolg-1h-1であった。約49時間でアンモニア水溶液3(液量100g、NH4
+量0.81g)を得た。
【0149】
[参考例6]
<硫酸アンモニウムの製造>
参考例3において、反応温度を340℃から400℃に変え、さらに、約3℃に冷却した水に通気させることを、室温下で0.220M硫酸水溶液に通気させることに変えた。以上の事項以外は参考例3と同様にして硫酸アンモニウムの製造を行った。400℃におけるアンモニアの生成速度は、16029μmolg-1h-1であった。約17時間で硫酸アンモニウム溶液1(液量100g、NH4
+量0.92g)を得た。
【0150】
[参考例7]
<Ruを担持したC12A7e21の合成>
CaCO3(純度99.99%、(株)高純度化学研究所社製、製品番号CAH23PB)とAl2O3(純度99.99%、関東化学(株)社製、製品番号01173)の各粉末をCaとAlのモル比が11:7となるように混合し、アルミナ坩堝中にて1300℃で6時間加熱した。得られた粉末をシリカガラス管内に挿入し、1×10-4Paの真空中で1100℃、15時間加熱した。得られた粉末3gを、シリカガラス管内に金属Ca粉末0.18gと共に挿入し、700℃で15時間加熱することにより内部を金属Ca蒸気雰囲気として、12CaO・7Al2O3電子化物(C12A7e21と表記する)の粉末を得た。
【0151】
C12A7e21粉末1.00gをヘキサン溶媒中に溶かし、Ru担持量がRu/C12A7e12触媒に対して2wt%となるようRu3(CO)12を0.04g混ぜ、溶媒を蒸発させて乾固させた。得た粉末を100℃で4時間真空加熱により残余の溶媒成分を除去して触媒前駆体を形成し、次いで前駆体を水素ガス(26.7kPa)雰囲気下、400℃で3時間加熱処理を行いRu3(CO)12を還元した。C12A7e21粉末にRu金属を担持した触媒1.02gを得た。
【0152】
<アンモニア水の製造>
参考例3において、触媒を、Ruを担持したCa(NH2)2/ZrO2からRuを担持したC12A7e21に変え、触媒量を0.2gから0.5gに変え、圧力を0.5MPaに変え、反応温度を340℃から400℃に変えた。以上の事項以外は参考例3と同様にしてアンモニア水の製造を行った。400℃におけるアンモニアの生成速度は、2191μmolg-1h-1であった。約106時間でアンモニア水溶液4(液量200g、NH4
+量2.04g)を得た。
【0153】
[参考例8]
<Ruを担持したCa3N2の合成>
Ru担持量がRu/Ca3N2触媒に対して2wt%となるように、Ca3N2粉末1.00g(純度95%、Aldrich社製、製品番号415103)をAr雰囲気下のグローブボックス中でRu3(CO)12粉末0.04gをめのう乳鉢を用いて混合し、真空のパイレックス管に封入した。パイレックス管に入れた試料を250℃、15時間加熱し、Ca3N2粉末にRu金属を担持した触媒1.02gを得た。
【0154】
<成型操作>
得られた触媒0.5gを型に投入し、油圧ポンプにて10MPaまで圧縮し、成型装置(日本分光(株)製、PT-10)を用い成型体を得た。得られた成型体をめのう乳鉢にて粗く砕き、アンモニア水の製造用の成型触媒(成型体)として使用した。
【0155】
<アンモニア水の製造>
参考例3において、反応温度を340℃から400℃に変え、触媒を、Ruを担持したCa(NH2)2/ZrO2から上記成型体に変え、触媒量を0.2gから0.4gに変えた。以上の事項以外は参考例3と同様にしてアンモニア水の製造を行った。400℃におけるアンモニアの生成速度は、2142μmolg-1h-1であった。約101時間でアンモニア水溶液5(液量200g、NH4
+量1.62g)を得た。
【0156】
[実施例1]
参考例1により合成されたアンモニアガスを水に溶解し、アンモニア水を得る。
【0157】
得られたアンモニア水から、アンモニアストリッピング装置を用いてアンモニアガスを回収し、そのアンモニアガスを用いて、E.coli MG1655を培養する。
生育曲線より、本発明で得られたアンモニアガスは、発酵・培養生産に用いることが可能であることが示される。
【0158】
[実施例2]
参考例2により合成されたアンモニアガスを水に溶解し、アンモニア水を得る。
【0159】
得られたアンモニア水から、アンモニアストリッピング装置を用いてアンモニアガスを回収し、そのアンモニアガスを用いて、E.coli MG1655を培養する。
生育曲線より、本発明で得られたアンモニアガスは、発酵・培養生産に用いることが可能であることが示される。
【0160】
[実施例3]
参考例3で製造したアンモニア水溶液1、Escherichia coliを用いてL-リジンの生産培養を行った。培養には以下の培地を用いた。
【0161】
〔LB寒天培地〕
トリプトン:10g/L、酵母エキス:5g/L、NaCl:10g/L、寒天:15g/L
〔Lys安水培地〕
グルコース:20g/L、NH3:3.09g/L(アンモニア水溶液1を使用)、MgSO4・7H2O:1g/L、KH2PO4:1g/L、酵母エキス:2g/L、FeSO4・7H2O:0.01g/L、MnSO4・5H2O:0.008g/L、H2SO4を用いてpH7.0に調整
【0162】
Lys生産菌WC196ΔcadAΔldc/pCABD2を、ストレプトマイシンの終濃度が80mg/Lとなるように添加したLB寒天培地にて37℃で一昼夜培養した。培養後のLB寒天培地から直径90mmのプレート上の全ての菌体をかきとり、3mLの生理食塩水に懸濁することで菌液を調製した。
【0163】
ストレプトマイシンを終濃度80mg/Lとなるように添加し、且つ予め乾熱滅菌しておいた炭酸カルシウムを終濃度が30g/Lとなるように添加したLys安水培地を5mL張込んだ太試験管に、波長620nmに対する吸光度(O.D.620nm)が0.126となるように菌液を植菌後、37℃、120rpmにて24時間振とう培養した。
【0164】
[実施例4]
実施例3において、Lys安水培地におけるアンモニア水溶液1を、参考例4で製造したアンモニア水溶液2に変えた。以上の事項以外は実施例3と同様にしてL-リジンの生産培養を行った。
【0165】
[実施例5]
実施例3において、Lys安水培地におけるアンモニア水溶液1を、参考例5で製造したアンモニア水溶液3に変えた。以上の事項以外は実施例3と同様にしてL-リジンの生産培養を行った。
【0166】
[実施例6]
実施例3において、Lys安水培地を以下のLys硫安培地に変えた。以上の事項以外は実施例3と同様にしてL-リジンの生産培養を行った。
〔Lys硫安培地〕
グルコース:20g/L、(NH4)2SO4:12g/L(参考例6で製造した硫酸アンモニウム溶液1を使用)、MgSO4・7H2O:1g/L、KH2PO4:1g/L、酵母エキス:2g/L、FeSO4・7H2O:0.01g/L、MnSO4・5H2O:0.008g/L、KOHを用いてpH7.0に調整
【0167】
[実施例7]
実施例3において、Lys安水培地におけるアンモニア水溶液1を、参考例7で製造したアンモニア水溶液4に変えた。以上の事項以外は実施例3と同様にしてL-リジンの生産培養を行った。
【0168】
[実施例8]
実施例3において、Lys安水培地におけるアンモニア水溶液1を、参考例8で製造したアンモニア水溶液5に変えた。以上の事項以外は実施例3と同様にしてL-リジンの生産培養を行った。
【0169】
[比較例1]
実施例3において、Lys安水培地におけるアンモニア水溶液1を市販品のアンモニア水溶液(純正化学(株)社製、製品番号13370-0301)に変えた。以上の事項以外は実施例3と同様にしてL-リジンの生産培養を行った。
【0170】
[比較例2]
実施例6において、Lys硫安培地における硫酸アンモニウム溶液1を市販品の硫酸アンモニウム溶液(純正化学(株)社製、製品番号83110-0367)に変えた。以上の事項以外は実施例6と同様にしてL-リジンの生産培養を行った。
【0171】
【0172】
培養結果を上記表に示した。参考例3~8のいずれかの条件で調製されたアンモニア水溶液1~5、及び硫酸アンモニウム溶液1を使用した場合においても、市販品のアンモニア水溶液(比較例1)あるいは市販品の硫酸アンモニウム(比較例2)を使用して培養したものとほぼ同等の菌体生育とL-リジンの生産が確認され、本発明で得られたアンモニアガスを発酵・培養生産に用いることが可能であることが示された。
【0173】
[実施例9]
参考例3で製造したアンモニア水溶液1、Corynebacterium glutamicumを用いてL-グルタミン酸を生産培養をした。培養には以下の培地を用いた。
【0174】
〔CM-Ace寒天培地〕
グルコース:2.5g/L、フルクトース:2.5g/L、グルコン酸ナトリウム:4g/L、コハク酸ナトリウム・6H2O:2g/L、ペプトン:10g/L、Yeast Extract:10g/L、KH2PO4:1g/L、MgSO4・7H2O:0.4g/L、FeSO4・7H2O:0.01g/L、MnSO4・5H2O:0.01g/L、Urea:4g/L、豆ろ液(大豆加水分解物):1.2g/L(T-N)、ビオチン:1mg/L、ビタミンB1:5mg/L、KOHを用いてpH7.5に調整
〔Glu安水培地〕
グルコース:40g/L、NH3:3.86g/L(アンモニア水溶液1を使用)、KH2PO4:1g/L、MgSO4・7H2O:0.4g/L、FeSO4・7H2O:0.01g/L、MnSO4・5H2O:0.01g/L、ビタミンB1:200μg/L、ビオチン:300μg/L、豆ろ液:0.48g/L(T-N)、K2SO4:19.78g/L、H2SO4を用いてpH8.0に調整
【0175】
Corynebacterium glutamicumのGlu生産菌2256ΔldhAΔsucAyggB*をCM-Ace寒天培地にて、31.5℃で一昼夜培養した。培養後の寒天培地から1/24プレート分の菌体をかきとり、予め乾熱滅菌しておいた炭酸カルシウムを終濃度が30g/Lとなるように添加したGlu安水培地を5mL張込んだ太試験管に植菌し、31.5℃、120rpmにて24時間振とう培養した。
【0176】
[実施例10]
実施例9において、Glu安水培地におけるアンモニア水溶液1を、参考例4で製造したアンモニア水溶液2に変えた。以上の事項以外は実施例9と同様にしてL-グルタミン酸の生産培養を行った。
【0177】
[実施例11]
実施例9において、Glu安水培地におけるアンモニア水溶液1を、参考例5で製造したアンモニア水溶液3に変えた。以上の事項以外は実施例9と同様にしてL-グルタミン酸の生産培養を行った。
【0178】
[実施例12]
実施例9において、Glu安水培地を以下のGlu硫安培地に変えた。以上の事項以外は実施例9と同様にしてL-グルタミン酸の生産培養を行った。
〔Glu硫安培地〕
グルコース:40g/L、(NH4)2SO4:15g/L(参考例6で製造した硫酸アンモニウム溶液1を使用)、KH2PO4:1g/L、MgSO4・7H2O:0.4g/L、FeSO4・7H2O:0.01g/L、MnSO4・5H2O:0.01g/L、ビタミンB1:200μg/L、ビオチン:300μg/L、豆ろ液:0.48g/L(T-N)、KOHを用いてpH8.0に調整
【0179】
[実施例13]
実施例9において、Glu安水培地におけるアンモニア水溶液1を、参考例7で製造したアンモニア水溶液4に変えた。以上の事項以外は実施例9と同様にしてL-グルタミン酸の生産培養を行った。
【0180】
[実施例14]
実施例9において、Glu安水培地におけるアンモニア水溶液1を、参考例8で製造したアンモニア水溶液5に変えた。以上の事項以外は実施例9と同様にしてL-グルタミン酸の生産培養を行った。
【0181】
[比較例3]
実施例9において、Glu安水培地におけるアンモニア水溶液1を市販品のアンモニア水溶液(純正化学(株)社製、製品番号13370-0301)に変えた。以上の事項以外は実施例9と同様にしてL-グルタミン酸の生産培養を行った。
【0182】
[比較例4]
実施例12において、Glu硫安培地における硫酸アンモニウム溶液1を市販品の硫酸アンモニウム溶液(純正化学(株)社製、製品番号83110-0367)に変えた。以上の事項以外は実施例12と同様にしてL-グルタミン酸の生産培養を行った。
【0183】
【0184】
培養結果を上記表に示した。参考例3~8のいずれかの条件で調製されたアンモニア水溶液1~5、及び硫酸アンモニウム溶液1を使用した場合においても、市販品のアンモニア水溶液(比較例3)あるいは市販品の硫酸アンモニウム(比較例4)を使用して培養したものとほぼ同等の菌体生育とL-グルタミン酸の生産が確認され、本発明で得られたアンモニアガスを発酵・培養生産に用いることが可能であることが示された。
【符号の説明】
【0185】
1 水素ガス原料
2 空気
3 水素と窒素を含む原料ガス
4 アンモニア含有ガス
5、9、12、15 回収したガス
6 濃縮アンモニア
7 水
8 アンモニア水
10 二酸化炭素
11 尿素
12 アンモニアストリッピング装置で除去した水
13 空気
14 発酵・培養生産物
101 水素/窒素製造装置
102 アンモニア合成装置
103 アンモニア濃縮装置
104、105 ガス分離膜
106 冷却器
107 脱水装置
108 乾燥装置
201 製品製造装置(溶解槽)
202 製品製造装置(尿素製造装置)
203 製品製造装置(発酵・培養槽)
204 予混合器
205 アンモニアストリッピング装置
1000、1001、1002 アンモニア水の製造システム
2000、2001、2002 尿素の製造システム
3000、3001、3002、3003 発酵・培養生産物の製造システム