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特許6991452疑似感情生成方法並びに走行評価方法および走行評価システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】疑似感情生成方法並びに走行評価方法および走行評価システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/08 20200101AFI20220104BHJP
   B60W 40/09 20120101ALI20220104BHJP
   B60W 40/114 20120101ALI20220104BHJP
【FI】
B60W50/08
B60W40/09
B60W40/114
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019526428
(86)(22)【出願日】2017-06-27
(86)【国際出願番号】 JP2017023557
(87)【国際公開番号】W WO2019003296
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2019-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳永 寿慧
(72)【発明者】
【氏名】市川 和宏
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-056541(JP,A)
【文献】特表2009-520643(JP,A)
【文献】特開2003-072488(JP,A)
【文献】特開2016-110449(JP,A)
【文献】特開2012-046148(JP,A)
【文献】特開2012-046147(JP,A)
【文献】特開2012-051395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 40/08 ~ 40/114
B60W 50/08 ~ 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を有する車両の疑似感情を生成する方法であって、
前記車輪に路面から作用する外力であるタイヤ力を取得するタイヤ力取得工程と、
車両の疑似感情を段階化した感情評価値を導出する評価値導出工程と、
前記評価値導出工程で導出された感情評価値に基づいて疑似感情を生成する疑似感情生成工程と、を備え、
前記感情評価値には、肯定的感情を段階化した肯定的評価値が含まれ、
前記評価値導出工程において、前記タイヤ力が大きいほど前記肯定的評価値が大きくなるようにして、前記タイヤ力取得工程で取得された前記タイヤ力に基づいて前記肯定的評価値を導出し、
前記感情評価値には、否定的感情を段階化した否定的評価値が含まれ、
前記評価値導出工程において、車両の上下方向振動を示す上下振動値に基づいて前記否定的評価値を導出する、疑似感情生成方法。
【請求項2】
前記タイヤ力取得工程において、前記タイヤ力として、前記車輪に路面から縦方向に作用する縦力成分と、前記車輪に路面から横方向に作用する横力成分とを取得し、
前記評価値導出工程において、前記縦力成分と前記横力成分との両方に基づいて前記肯定的評価値を導出する、請求項1に記載の疑似感情生成方法。
【請求項3】
前記評価値導出工程において、前記縦力成分と前記横力成分との両方が生じていると、前記縦力成分または前記横力成分のみが生じている場合と比べ、より大きな前記肯定的評価値を導出する、請求項2に記載の疑似感情生成方法。
【請求項4】
前記評価値導出工程において、前記縦力と前記横力との両方が生じているときに、前記肯定的評価値が最大値になる、請求項2または3に記載の疑似感情生成方法。
【請求項5】
記疑似感情生成工程において、前記肯定的評価値と前記否定的評価値とに基づいて、疑似感情の総合評価値を導出する、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の疑似感情生成方法。
【請求項6】
前記評価値導出工程において、前記感情評価値を求めるために用いられる入力パラメータに応じて前記感情評価値の瞬時値を逐次導出し、前記感情評価値は、導出された瞬時値の時間変化と比べて前記感情評価値の時間変化が抑えられるようにして設定される、請求項1ないしのいずれか1項に記載の疑似感情生成方法。
【請求項7】
前記評価値導出工程において、ある時点の前記感情評価値が、当該時点より過去に導出した過去感情評価値に基づいて補正される、請求項1ないしのいずれか1項に記載の疑似感情生成方法。
【請求項8】
前記評価値導出工程において、前記ある時点の前記感情評価値は、当該時点より過去に導出した第1の過去感情評価値によって及ぼす影響が、前記第1の過去感情評価値より過去に導出した第2の過去感情評価値によって及ぼす影響よりも大きい、請求項に記載の疑似感情生成方法。
【請求項9】
車輪を有する車両の走行に関する評価を行う方法であって、
前記車輪に路面から作用する外力であるタイヤ力を取得するタイヤ力取得工程と、
車両の走行に関する評価値を導出する評価値導出工程と、を備え、
前記評価値導出工程において、前記評価値には、走行に関する肯定的評価を段階化した肯定的評価値が含まれ、前記タイヤ力が大きいほど前記肯定的評価値が大きくなるようにして、前記タイヤ力取得工程で取得された前記タイヤ力に基づいて前記肯定的評価値を導出し、
前記評価値には、走行に関する否定的評価を段階化した否定的評価値が含まれ、
前記評価値導出工程において、車両の上下方向振動を示す上下振動値に基づいて前記否定的評価値を導出する、走行評価方法。
【請求項10】
車輪を有する車両の走行に関する評価を行うシステムであって、
前記車輪に路面から作用する外力であるタイヤ力を取得するタイヤ力取得部と、
車両の走行に関する評価値を導出する評価値導出部と、を備え、
前記評価値には、走行に関する肯定的評価を段階化した肯定的評価値が含まれ、
前記評価値導出部は、前記タイヤ力が大きいほど前記肯定的評価値が大きくなるようにして、前記タイヤ力取得部で取得された前記タイヤ力に基づいて前記肯定的評価値を導出し、
前記評価値には、走行に関する否定的評価を段階化した否定的評価値が含まれ、
前記評価値導出部は、車両の上下方向振動を示す上下振動値に基づいて前記否定的評価値を導出する、走行評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の疑似感情を生成する方法、並びに車両の走行に関する評価を行う方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、運転操作を感情に対応させた感情モデルに基づいて、車両の疑似感情を生成するロジックを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-289006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のロジックによれば、運転者が走行中に抱く感情と、そのときに生成される車両の疑似感情との相関性が低い場合がある。
【0005】
本発明は、運転者の感情と高い相関性を持つ疑似感情を生成する方法を提供することを目的の一つとする。本発明は、車両の走行に関する評価を行うための方法およびシステムを提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る疑似感情生成方法は、車輪を有する車両の疑似感情を生成する方法であって、前記車輪に路面から作用する外力であるタイヤ力を取得するタイヤ力取得工程と、疑似感情を段階化した感情評価値を導出する評価値導出工程と、前記評価値導出工程で導出された感情評価値に基づいて疑似感情を生成する疑似感情生成工程と、を備え、前記感情評価値には、肯定的感情を段階化した肯定的評価値が含まれ、前記評価値導出工程において、前記タイヤ力が大きいほど前記肯定的評価値が大きくなるようにして、前記タイヤ力取得工程で取得された前記タイヤ力に基づいて前記肯定的評価値を導出する。
【0007】
ここで、大きな加減速あるいは旋回中に、タイヤ力は大きくなりやすい。このような走行中には、運転者の操縦感が高まり、運転者は、操縦が楽しく快いといった感情を抱く性向にある。
【0008】
前記構成によれば、タイヤ力が大きいほど、肯定的感情を段階化した肯定的評価値を大きくするようにして肯定的評価値が導出され、導出された肯定的評価値に基づいて疑似感情が生成される。そのため、車両の疑似感情を、運転者の操縦感の高まりと相関させることができる。
【0009】
前記タイヤ力取得工程において、前記タイヤ力として、前記車輪に路面から縦方向に作用する縦力成分と、前記車輪に路面から横方向に作用する横力成分とを取得し、前記評価値導出工程において、前記縦力成分と前記横力成分との両方に基づいて前記肯定的評価値を導出してもよい。
【0010】
ここで、縦力成分は、駆動源からのトルクが車輪に伝達されているときや、車輪に制動力が付与されているとき、すなわち加減速中に生じやすい。横力成分は、旋回中に生じやすい。
【0011】
前記構成によれば、縦力成分だけでなく横力成分も考慮して肯定的評価値を導出するので、加減速中の操縦感だけでなく旋回走行中の操縦感も考慮して車両の疑似感情が生成される。よって、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性をより高めることができる。
【0012】
前記評価値導出工程において、前記縦力成分と前記横力成分との両方が生じていると、前記縦力成分または前記横力成分のみが生じている場合と比べ、より大きな前記肯定的評価値を導出してもよい。
【0013】
ここで、直進走行での加減速中には、横力成分が生じにくく、縦力成分のみが生じやすい。定常円旋回中には、縦力成分が生じにくく、横力成分のみが生じやすい。縦力成分も横力成分も両方生じているときの例として、加減速しながら旋回走行している状況を挙げることができる。
【0014】
前記構成によれば、このように加減速と旋回走行とが同時に行われており、運転者が高い操縦感を得ているときに、肯定的評価値がより大きくなる。よって、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性をより高めることができる。
【0015】
前記評価値導出工程において、前記縦力と前記横力との両方が生じているときに、前記肯定的評価値が最大値になってもよい。
【0016】
前記構成によれば、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性をより高めることができる。
【0017】
前記感情評価値には、否定的感情を段階化した否定的評価値が含まれ、前記疑似感情生成工程において、前記肯定的評価値と前記否定的評価値とに基づいて疑似感情の総合評価値を導出してもよい。
【0018】
前記構成によれば、肯定的評価値と否定的評価値とを考慮した総合評価値に基づいて疑似感情を生成するので、両方の評価値を別々に出力するよりも車両の感情を理解しやすい。
【0019】
前記評価値導出工程において、車両の上下方向振動を示す上下振動値に基づいて前記否定的評価値を導出してもよい。
【0020】
ここで、車両が走行中に上下振動すると、運転者は、不快感を抱くなど、否定的な感情を抱く性向にある。
【0021】
前記構成によれば、タイヤ力に基づき導出された肯定的評価値と、上下振動値に基づき導出された否定的評価値とを考慮して、疑似感情が生成される。そのため、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性をより高めることができる。
【0022】
前記評価値導出工程において、前記感情評価値を求めるために用いられる入力パラメータに応じて前記感情評価値の瞬時値を逐次導出し、前記感情評価値は、導出された瞬時値の時間変化と比べて前記感情評価値の時間変化が抑えられるようにして設定されてもよい。
【0023】
前記構成によれば、入力パラメータの変化に伴って疑似感情がめまぐるしく変化するのを抑止でき、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性をより高めることができる。
【0024】
前記評価値導出工程において、ある時点の前記感情評価値が、当該時点より過去に導出した過去感情評価値に基づいて補正されてもよい。
【0025】
ここで、運転者の操縦感は、瞬時的に変化するものではない。
【0026】
前記構成によれば、ある時点の感情評価値の導出にそれより過去の感情を考慮するので、感情評価値の時間変化の仕方を、運転者の操縦感の変化の仕方と適合させることができる。よって、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性をより高めることができる。
【0027】
前記評価値導出工程において、前記ある時点の前記感情評価値は、当該時点より過去に導出された第1の過去感情評価値よりも、前記第1の過去感情評価値より過去に導出された第2の過去感情評価値に大きな影響を及ぼされてもよい、
ここで、運転者の操縦感は、瞬時的に変化するものではないが、時間の経過に伴って過去の出来事が現在の感情に与える影響は薄れていく。
【0028】
前記構成によれば、時間の経過に従って過去に導出された感情を表す値が現在の感情に与える影響が薄れていくようにして感情評価値が導出される。時間の経過が感情評価値に与える影響を、時間の経過が運転者の操縦感に与える影響と適合させることができる。よって、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性をより高めることができる。
【0029】
本発明の一形態に係る走行評価方法は、車輪を有する車両の走行に関する評価を行う方法であって、前記車輪に路面から作用する外力であるタイヤ力を取得するタイヤ力取得工程と、車両の走行に関する評価値を導出する評価値導出工程と、を備え、前記評価値導出工程において、前記評価値には、走行に関する肯定的評価を段階化した肯定的評価値が含まれ、前記タイヤ力が大きいほど前記肯定的評価値が大きくなるようにして、前記タイヤ力取得工程で取得された前記タイヤ力に基づいて前記肯定的評価値を導出する。
【0030】
本発明の一形態に係る走行評価システムは、車輪を有する車両の走行に関する評価を行うシステムであって、前記車輪に路面から作用する外力であるタイヤ力を取得するタイヤ力取得部と、車両の走行に関する評価値を導出する評価値導出部と、を備え、前記評価値には、走行に関する肯定的評価を段階化した肯定的評価値が含まれ、前記評価値導出部は、前記タイヤ力が大きいほど前記肯定的評価値が大きくなるようにして、前記タイヤ力取得部で取得された前記タイヤ力に基づいて前記肯定的評価値を導出する。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、運転者の感情と高い相関性を持つ疑似感情を生成する方法を提供できる。本発明は、車両の走行に関する評価を行うための方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】車両の疑似感情を生成する疑似感情生成システムを示す概念図である。
図2】車両の一例として示す自動二輪車の車輪に路面から作用するタイヤ力の説明図である。
図3】タイヤ力のうち水平力、縦力成分および横力成分の説明図である。
図4図4Aが、肯定的評価値の瞬時値の時刻歴を示すグラフ、図4Bが、重付け係数を示すグラフ、図4Cが、肯定的評価値の設定値を示すグラフである。
図5図5Aは、肯定的感情レベルを示すグラフ、図5Bは、否定的感情レベルを示すグラフである。
図6】疑似感情生成方法を示すフローチャートである。
図7】走行評価システムを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。全図を通じて同一のまたは対応する要素には同一の符号を付し、詳細説明の重複を省略する。本書では、ニュートンの記法に従うドット符号を、変数を表すアルファベットの右に記載する場合がある。上下前後左右の方向は、車両に搭乗した運転者が見る方向を基準としている。
【0034】
(疑似感情生成システム)
図1は、車両の疑似感情を生成する疑似感情生成システム1を示す概念図である。疑似感情生成システム1は、1以上の車輪を有する車両に適用される。「車輪」は、ハブ、リムおよびスポークを有する狭義のホイールと、リムに装着されて路面と接するタイヤとを含む組立体を指す。
【0035】
疑似感情生成システム1は、車両の疑似感情を段階化した感情評価値を導出する評価値導出部2、評価値導出部2における感情評価値の導出に用いられる入力パラメータを取得する入力パラメータ取得部3、および、評価値導出部2で導出された感情評価値に基づいて車両の疑似感情を生成する疑似感情生成部4を有する。
【0036】
「感情評価値」には、車両の疑似的な肯定的感情を段階的に表した「肯定的評価値」、および、車両の疑似的な否定的感情を段階的に表した「否定的評価値」が含まれる。肯定的評価値は、肯定的感情の有無および/または程度を示し、肯定的感情の定量評価に資する。否定的評価値も同様である。一例として、肯定的評価値および否定的評価値は、数値で表されてもよい。「入力パラメータ」には、肯定的評価値の導出に用いる「肯定パラメータ」、および、否定的評価値の導出に用いる「否定パラメータ」が含まれる。
【0037】
評価値導出部2は、肯定的評価値を導出する肯定的評価値導出部2P、および、否定的評価値を導出する否定的評価値導出部2Nを含む。入力パラメータ取得部3は、肯定パラメータを取得する肯定パラメータ取得部3P、および、否定パラメータを取得する否定パラメータ取得部3Nを含む。
【0038】
本実施形態では、肯定パラメータが「タイヤ力」を含み、肯定パラメータ取得部3Pが、タイヤ力を取得するタイヤ力取得部3Paを含む。本実施形態では、否定パラメータが「上下振動値」を含み、否定パラメータ取得部3Nが、上下振動値を取得する上下振動値取得部3Naを含む。ただし、肯定パラメータは、タイヤ力以外のパラメータを含んでもよいし、否定パラメータは、上下振動値以外のパラメータを含んでもよい。
【0039】
入力パラメータ取得部3は、入力パラメータを所定の時間間隔おきに逐次取得する。評価値導出部2は、入力パラメータに基づいて感情評価値を所定の時間間隔をおいて逐次導出する。ここでの「所定の時間間隔」は、例えば5ミリ秒である。評価値導出に関する時間間隔は、入力パラメータ取得に関する時間間隔と同じでもよく、これよりも長くてもよい。
【0040】
以下、入力パラメータおよび感情評価値に関し、ある時点で取得された値を「瞬時値」という。時間の経過に伴って複数の瞬時値が得られるが、このような瞬時値のうち、最も直近に取得された値を「最新値」といい、最新値を除く値を「過去値」といい、最新値の1つ前の時点で取得された値を「前回値」という(過去値は前回値を含む)。また、感情評価値の瞬時値は、当該瞬時値の導出時点で取得された入力パラメータの瞬時値に基づいて得られ、当該導出時点よりも過去に導出された感情評価値の瞬時値とは無関係に、更にいえば当該導出時点よりも過去に取得された入力パラメータの瞬時値とは無関係に得られる。なお、感情評価値の過去値を「過去感情評価値」という場合がある。以下、任意の瞬時値について説明する際には、添え字符号「(k)」を付すことがある(例えば、肯定的感情評価値の瞬時値p(k))。瞬時値のなかでも最新値について説明する際には、添え字符号「(t)」を付すことがある(例えば、肯定的感情評価値の最新値p(t))。瞬時値のなかでも、過去値について説明する際、添え字符号「(t-i)」を付すことがあり、「i」には整数が記載される(例えば、肯定的感情評価値の過去値p(t-1),p(t-2))。この添え字を用いて表された過去値は、最新値の取得時点から、iに当てはまる整数とサンプリング周期との乗算値に当たる時間だけ、過去に遡った時点に取得された瞬時値であることを意味する。 疑似感情生成部4は、肯定的評価値導出部2Pで導出された肯定的評価値と、否定的評価値導出部2Nで導出された否定的評価値とに基づき、疑似感情を生成する。後述のとおり、疑似感情生成部4は、肯定的評価値の設定値Sp(t)と、否定的評価値の設定値Sn(t)とに基づき、疑似感情の総合評価値を導出する。
【0041】
車両の肯定的感情とは、仮に車両が感情を有しているとした場合に表出すると考えられる肯定的感情である。例えば、運転者が快いと感じている状況を肯定的に捉える正の感情(陽の感情)、運転者が抱く快さへの共感、あるいは、運転者の運転操作への信頼感が含まれる。運転者が快いと感じる感情とは、例えば、運転者が車両での走行および運転操作を受け入れる(許容する)感情である。具体的には、楽しい、喜び、快さのほか、意のままに操ることができたと感じる操縦感、上達したことを感じる上達感、高難度の操作を実現できたことに対する達成感が含まれる。
【0042】
車両の否定的感情とは、仮に車両が感情を有しているとした場合に表出すると考えられる否定的感情である。例えば、運転者が不快と感じている状況を否定的に捉える負の感情(陰の感情)、あるいは、運転者が抱く不快さへの共感が含まれる。運転者の不快な感情には、痛み、疲れ、嫌悪、怒り、心配、恐れ、緊張などを感じる気持ちが含まれる。運転者は、このような否定的感情を生じることで、車両での走行あるいは運転操作に抵抗を感じる可能性がある。
【0043】
一例として、肯定的評価値および否定的評価値が段階的数値で表される場合において、肯定的評価値が大きな値であるほど、運転者ひいては車両が好ましい(快い)と感じる感情が高くなることを意味する。また、否定的評価値が大きな値であるほど、運転者ひいては車両が好ましくない(不快)と感じる感情が高くなることを意味する。
【0044】
一例として、走行中に運転者が感じる全感情を好ましいか否かの2つに分類する場合、好ましい感情群に含まれるものを肯定的感情とし、好ましくない感情群に含まれるものを否定的感情としてもよい。車両の肯定的感情および否定的感情は、このように分類される運転者の肯定的感情および否定的感情それぞれと相関性を持つ。
【0045】
疑似感情生成部4は、車両の疑似感情として、運転中の運転者が感じていると推定される感情に相関する情報を生成する。具体的には、疑似感情生成部4は、推定される運転者の感情が肯定的であるのか否定的であるのかに応じて、疑似感情として生成される情報の内容を変化させる。あるいは、疑似感情生成部4は、推定される運転者の感情の段階に応じて、疑似感情として生成される情報の内容を変化させる。
【0046】
(タイヤ力について)
図2は、疑似感情生成システムが適用される車両の一例として示す自動二輪車90の斜視図である。自動二輪車90は、前輪91および後輪92を有する。後輪92が駆動輪、前輪91が従動輪である。自動二輪車90は、エンジンおよび/または電気モータで構成される動力源を備えている。動力源で発生されたトルクは後輪92に伝達され、それにより後輪92が回転駆動される。自動二輪車90は、車輪91,92を制動するブレーキ装置を備えている。ブレーキ装置には、前輪91に制動力を付与する前ブレーキ装置93、および、後輪92に制動力を付与する後ブレーキ装置94を備えており、これらブレーキ装置93,94は互いに独立して作動可能に構成されている。どちらのブレーキ装置93,94も、油圧式であり、対応する車輪91,92にブレーキ油圧と概ね比例した制動力を付与する。
【0047】
自動二輪車90は、正面視において車幅中心線が路面と垂直な方向に向いた直立状態で、直進走行できる。自動二輪車90は、この直立状態に対して車体を前後軸周りに傾斜させた状態であるバンク状態で旋回走行できる。「前後軸」は、仮想的な軸線であり、前輪91および後輪92の接地部位を通過する。以下、車体の前後軸周りの傾斜角を「バンク角β」という。直立状態ではバンク角βがゼロである。
【0048】
「タイヤ力」は、車輪91,92(特に、その接地部位)に路面から作用する力である。タイヤ力は「鉛直力」と「水平力」とに分解できる。鉛直力は、路面から車輪91,92に路面と垂直な方向に働く力である。水平力は、鉛直力と垂直な方向に働く力であり、路面から車輪91,92に路面と平行な面内における一方向(路面が水平であれば水平の一方向)に働く力である。水平力は、「縦力成分」と「横力成分」とに分解できる。縦力成分は、路面から車輪91,92に縦方向に働く力である。横力成分は、路面から車輪91,92に横方向に働く力である。車輪91,92を路面と平行な面に投影すると、車輪91,92は角丸長方形状を呈する(図3を参照)。「縦方向」は、路面と平行な面内における車輪91,92の長辺方向であって、車長方向あるいは前後方向と実質的に一致する。「横方向」は、路面と平行な面内において縦方向と直交する方向であって、車幅方向あるいは左右方向と実質的に一致する。
【0049】
自動二輪車90の場合、「タイヤ力」には、前輪91に路面から作用する「前輪力」、および、後輪92に路面から作用する「後輪力」が含まれる。前輪力は、前輪鉛直力と前輪水平力とに分解でき、前輪水平力は、前輪縦力成分と前輪横力成分とに分解できる。後輪力も、後輪鉛直力と後輪水平力とに分解でき、後輪水平力は、後輪縦力成分と後輪横力成分とに分解できる。
【0050】
本書では、「鉛直力」は、前輪鉛直力Nf、後輪鉛直力Nr、およびこれらの和または平均を含意できる。「縦力成分」は、前輪縦力成分Fxf、後輪縦力成分Fxr、およびこれらの和あるいは平均を含意できる。「横力成分」は、前輪横力成分Fyf、後輪横力成分Fyr、およびこれらの和あるいは平均を含意できる。
【0051】
タイヤ力取得部3Paは、タイヤ力を検出するひずみセンサと、ひずみセンサで検出されたタイヤ力から縦力成分と横力成分とをそれぞれ導出するタイヤ力分解部とで実現されてもよい。ひずみセンサは、前輪力を検出する前ひずみセンサ、および/または、後輪力を検出する後ひずみセンサで構成される。タイヤ力分解部は、前ひずみセンサの検出値に基づいて前輪縦力成分と後輪横力成分とを導出し、かつ/または、後ひずみセンサの検出値に基づいて後輪縦力成分と後輪横力成分とを導出する。この場合において、タイヤ力分解部は、肯定的評価値導出部2Pおよび疑似感情生成部4と共に、車載の制御ユニットによって実現される。
【0052】
タイヤ力取得部3Paは、タイヤ力を推定するために必要なタイヤ力推定用のパラメータ値を検出する1以上のセンサと、このようなセンサで検出されたパラメータ値に基づいてタイヤ力を推定するタイヤ力推定部とによって実現されてもよい。この場合、タイヤ力推定部は、肯定的評価値導出部3Pおよび疑似感情生成部4と共に、車載の制御ユニットによって実現される。
【0053】
このように、タイヤ力の「取得」には、センサによるタイヤ力の検出または計測も、タイヤ力そのものではないパラメータ値に基づくタイヤ力の推定も含まれる。
【0054】
タイヤ力の推定に用いるパラメータは特に限定されないが、車両の前後方向加速度、バンク角βおよびその時間変化値などの車両挙動変化を挙げることができる。その他、車両の設計パラメータ、重量(車体、運転者および積載物の総重量)にも基づいて、タイヤ力は推定される。タイヤ力取得部3Paは、ひずみセンサ以外のセンサを用いてタイヤ力を推定してもよい。例えば、タイヤ力が生じたことによる車体挙動の変化を検出し、車体挙動の変化から逆算してタイヤ力を推定してもよい。例えば、車体挙動を検出するためのジャイロセンサを用いてタイヤ力を推定してもよい。
【0055】
後輪92は駆動輪である。後輪縦力成分Fxrを発生させる主要因として、(1)動力源で発生されて後輪92に伝達された動力、(2)後輪ブレーキ装置で発生されて後輪92に付与された制動力を挙げることができる。要因(1)で発生される縦力成分の向きは、要因(2)で発生される縦力成分の向きと逆である。前輪91は従動輪である。前輪縦力成分Fxfを発生させる主要因として、前輪ブレーキ装置で発生されて前輪91に付与された制動力を挙げることができる。
【0056】
前輪横力成分Fyfおよび後輪横力成分Fyrは、旋回走行中、走行速度および旋回半径に基づく遠心力の反力として発生する。また、後輪横力成分Fyrには、バンク角βの時間変化に関連する値(例えば、バンク角βの一階時間微分値であるバンク角速度βや、バンク角βの二階時間微分値であるバンク角加速度β・・)に応じて発生する成分も含まれる。
【0057】
このように、スロットル操作あるいはブレーキ操作が行われ、車両が大きな加減速をしているときに、縦力成分は大きくなる。操舵が行われ、遠心力を伴って車両が旋回走行しているときに、横力成分は大きくなる。特に、車体を横に倒し込んでいるときに(バンク角速度βあるいはバンク角加速度βが検出されるときに)、横力成分は大きくなる。このように、運転者がスロットル操作、ブレーキ操作、操舵、あるいは車体倒し込みを行っているときには、上述した肯定的感情が高まる。すなわち、運転者の操縦感が高まり、運転者は、車両の操縦に対して楽しい、快いといった感情を抱く性向にある。このとき、車両には、大きなタイヤ力が路面から作用する。したがって、タイヤ力を肯定パラメータに採用することで、タイヤ力を媒介として運転者の操縦感の高まりを車両の疑似感情の高まりとリンクさせることができる。
【0058】
逆にいえば、運転者は、スロットル操作あるいはブレーキ操作を通じて、縦力成分Fxを調整しており、操舵あるいは車体姿勢操作(バンク角の操作)を通じて、横力成分Fyを調整している。スロットル操作あるいはブレーキ操作は、横力成分Fyの変化に全くあるいは殆ど影響を及ぼさず、操舵あるいは車体姿勢操作は、縦力成分Fxの変化に全くあるいは殆ど影響を及ぼさない。
【0059】
(肯定的評価値の瞬時値の導出)
肯定的評価値導出部2Pは、肯定パラメータの一例としてのタイヤ力に基づいて、肯定的評価値の瞬時値p(k)を導出する。本実施形態では、一例として、瞬時値p(k)が、縦力成分の瞬時値Fxおよび横力成分の瞬時値Fyの両方に基づき、下記式(1)より求められる。
【0060】
p(k)=f(Fx,Fy)……(1)
【0061】
なお、水平力は、縦力成分Fxと横力成分Fyとのベクトル合力(縦力成分Fxおよび横力成分Fyの2乗和の平方根)である。瞬時値p(k)は、水平力に基づいて求められてもよい。上記のとおり、縦力成分Fxは、前輪縦力成分Fxfおよび後輪縦力成分Fxrを含意し、横力成分Fyは、前輪横力成分Fyfおよび後輪横力成分Fyrを含意する。よって、瞬時値p(k)は、式(1)を書き換えた下記式(2)より求められてもよい。
【0062】
p(k)=f(Fxf,Fyf,Fxr,Fyr)……(2)
【0063】
瞬時値p(k)は、車輪91,92ごとのタイヤ力(縦力成分および横力成分)に基づいて得られた複数の瞬時値(車輪個別瞬時値)の平均であってもよい。その場合、瞬時値p(k)は、式(2)を書き換えた下記式(3)より求められてもよい。
【0064】
p(k)={f(Fxf,Fyf)+f(Fxr,Fyr)}/2……(3)
【0065】
ここで、f(Fxf,Fyf)は、前輪縦力成分Fxfおよび前輪横力成分Fyfに基づいて得られる前輪91に関する車輪個別瞬時値である。f(Fxr,Fyr)は、後輪縦力成分Fxrおよび後輪横力成分Fyrに基づいて得られる後輪92に関する車輪個別瞬時値である。
【0066】
関数f(Fx,Fy),f(Fxf,Fyf,Fxr,Fyr),f(Fxf,Fyf),f(Fxr,Fyr)は、どのような式によって実現されてもよい。例えば、基本的傾向として、タイヤ力が大きいほど、瞬時値p(k)が大きな値となる。水平力が大きいほど、瞬時値p(k)は大きな値となる。また、例えば、縦力成分Fx,Fxf,Fxrが大きいほど瞬時値p(k)は大きな値となり、また、横力成分Fy,Fyf,Fyrが大きいほど瞬時値p(k)は大きな値となる。
【0067】
式(1)~(3)のいずれに従っても、瞬時値p(k)は縦力成分Fxおよび横力成分Fyの両方に基づいて求められる。この場合、縦力成分Fxと横力成分Fyとの両方が生じているときに、瞬時値p(k)が最大値になってもよい。あるいは、水平力が同一という条件下で、縦力成分Fxと横力成分Fyとの両方が生じていると、縦力成分Fxまたは横力成分Fyのみが生じている場合と比べ、瞬時値p(k)がより大きな値となってもよい。すなわち、縦力成分Fxおよび横力成分Fyの両方が生じている場合に、瞬時値p(k)は、これら2成分Fx,Fyの2乗和の平方根よりも大きな値となってもよい。このように、水平力が同一の条件下であっても、縦力成分Fxおよび横力成分Fyの有無あるいは大小に応じて、異なる瞬時値p(k)が求められてもよい。
【0068】
例えば、縦力成分Fxと横力成分Fyとの両方が生じているときに、肯定的評価値が最大値となる。言い換えると、肯定的評価値として最大値となる場合と同じ水平力であっても、縦力成分Fxと横力成分Fyとのいずれか一方のみが生じているときは、水平力に対して所定割合範囲内(例えば、50~150%)の大きさの縦力または横力が生じている場合や、水平力と縦力成分Fxあるいは横力成分Fyとの成す角度が所定範囲内にある場合に、瞬時値p(k)が水平力に追加値を加えることで導出されてもよい。水平力と縦力成分Fxまたは横力成分Fyとの成す角度が45度に近づくにつれて追加値を大きくしてもよい。
【0069】
(肯定的評価値の設定値の導出)
肯定的評価値導出部2Pは、肯定的評価値の最新値p(t)をそのまま疑似感情生成部4に出力するのではなく、肯定的評価値の最新値p(t)に基づいて肯定的評価値の設定値Sp(t)を導出する。このとき、感情評価値の設定値Sp(t)は、導出された瞬時値の時間変化と比べて感情評価値の設定値Sp(t)の時間変化が抑えられるようにして設定される。本実施形態では、設定値Sp(t)が、複数の瞬時値p(t),p(t-1),……を用いて導出される。
【0070】
設定値Sp(t)は、複数の瞬時値p(t),p(t-1)……を用いた積分値、あるいは総和値(summation)でもよい。総和値は、総和した瞬時値p(k)の個数で除算されることで、平均値に換算されてもよい。設定値Sp(t)の導出に用いる瞬時値の個数は、特に限定されない。
【0071】
図3A-Cは、設定値Sp(t)の導出法の一例を示す図である。図3A-Cに示すように、第1の瞬時値が肯定的評価値の設定値Sp(t)に及ぼす影響が、第1の瞬時値よりも前に導出された第2の瞬時値が肯定的評価値Sp(t)の設定値に及ぼす影響よりも大きくなるようにして、設定値Sp(t)が導出される。他の言い方では、設定値Sp(t)は、当該設定値Sp(t)の導出時点より過去に導出された過去感情評価値に基づいて補正される。そして、設定値Sp(t)に対し、当該設定値Sp(t)の導出時点よりも過去に導出された第1の過去感情評価値が及ぼす影響は、同じ設定値Sp(t)に対し、第1の過去感情評価値の導出時点よりも過去に導出された第2の過去感情評価値が及ぼす影響よりも大きい。
【0072】
具体的一例として、設定値Sp(t)の導出に用いられる複数の瞬時値p(t),p(t-1)……それぞれに重付け係数ρ(t),ρ(t-1)……が乗算され、設定値Sp(t)が、乗算後の瞬時値p(t)×ρ(t),p(t-1)×ρ(t-1)……の総和をとることによって導出されてもよい。この場合、重み付け係数ρ(k)は、0より大きく1以下の値に設定され、第2の瞬時値に対応する第2の重み付け係数は、第1の瞬時値に乗算される第1の重み付け係数よりもゼロに近い値に設定される。瞬時値の取得時点に対する重み付け係数の減少傾向は、特に限定されない。
【0073】
このように導出される肯定的評価値の設定値Sp(t)が、疑似感情生成部4に出力される。
【0074】
(上下振動値について)
上下振動値vは、車両の上下方向振動の有無および/または程度を数値で表したものである。上下振動値取得部は、一例として、車両の上下方向の加速度azを検出する鉛直加速度センサの検出値に基づいて、上下振動値を取得する。鉛直加速度センサの具体例として、ジャイロセンサを挙げることができる。なお、鉛直加速度センサの検出値には、重力加速度が含まれていることがある。その場合、センサの検出値から重力加速度をキャンセルする演算操作が行われたうえで、上下振動値vが取得される。
【0075】
タイヤ力のうち鉛直力は、路面から車輪に作用する垂直抗力そのもの、あるいは垂直抗力と正に相関する値である。上下振動中には上下方向の加速度azに基づく慣性力が車体に働くため、鉛直力が変動する。したがって、上下振動値vは、鉛直力に基づいて取得されてもよい。
【0076】
石畳のような凹凸路での走行中に生じ得るが、車体が上下方向に振動すると、運転者は不快感のような否定的な感情を抱く性向にある。よって、上下振動値vを否定パラメータに採用することで、上下振動値vを媒介として運転者の否定的な感情の高まりを車両の否定的な疑似感情の高まりとリンクさせることができる。
【0077】
上下振動値vは、1か所の注目位置における上下振動を表す値である。上記のように上下振動値vを求める場合、注目位置は、鉛直加速度センサの設置位置である。このように注目位置が1か所に絞られることで、2個所以上(例えば、前輪および後輪の両方)それぞれの上下振動に基づいて上下振動値vを取得する場合と比べ、上下振動値vの取得ひいては否定的感情評価値の導出のための演算を簡単化できる。
【0078】
注目位置は、車体のシート位置、ハンドル位置あるいはフート位置など運転者の自重を支える位置でであってもよい。これにより、車体から運転者への振動が伝わる部分での振動を入力パラメータ(否定パラメータ)として用いることができ、上下振動と不快感との相関を高めることができる。
【0079】
(否定的評価値の導出)
否定的評価値導出部2Nは、否定パラメータの一例としての上下振動値vに基づいて、否定的評価値の瞬時値n(k)を下記式(4)より導出する。
【0080】
n(k)=f(v)……(4)
【0081】
関数f(v)は、どのような式によって実現されてもよいが、基本的傾向としては、上下振動値vが大きいほど、瞬時値n(k)が大きな値となる。
【0082】
否定的評価値導出部2Nは、肯定的評価値導出部2Pと同様にして、否定的評価値の設定値Sn(t)を導出する。導出法については、上述同様であるので、詳細説明の重複を割愛する。なお、過去値および重み付け係数を用いて設定値Sn(t)を導出する場合にあっては、重み付け係数の数値は0より大きく1以下の値に設定され、過去ほど重み付け係数の数値は小さくなる。否定的評価値の重み付け係数は、肯定的評価値の重み付け係数とは別個に設定される。このようにして導出された否定的評価値の設定値Sn(t)が、疑似感情生成部4に出力される。
【0083】
(疑似感情の生成)
疑似感情生成部4は、肯定的評価値(更に言えば、その設定値Sp(t))と、否定的評価値(更に言えば、その設定値Sn(t))とに基づいて、疑似感情を生成する。具体的には、疑似感情の総合評価値TLを生成する。
【0084】
本実施形態では、肯定的評価値の設定値Sp(t)は、タイヤ力[ニュートン]に応じて導出されている一方、否定的評価値の設定値Sn(t)は、一例として上下方向の加速度az[メートル毎秒毎秒]に応じて導出されている。このように、感情が数値化されたものの、2つの設定値Sp(t),Sn(t)は、異なる次元の数値に応じて導出されている。そこで、疑似感情生成レベルは、肯定的評価値の設定値Sp(t)に基づいて、肯定的感情レベル値PLを導出する。また、否定的評価値の設定値Sn(t)に基づいて、否定的感情レベル値NLを導出する。この2つの感情レベル値PL,NLを総合することで、疑似感情の総合評価値TLを導出する。このように、異なる次元の数値から導出された2つの設定値を対比あるいは総合可能な数値へとそれぞれ換算し、それにより肯定的感情と否定的感情とを両方とも考慮した疑似感情の総合評価を平易化している。
【0085】
図5Aに示すように、疑似感情生成部4は、肯定的評価値の設定値Sp(t)を複数(例えば2つ)の閾値b1,b2と比較し、その比較結果として肯定的感情レベル値PLを導出する。肯定的感情レベル値PLの個数は、閾値b1,b2の数に1加えた数に相当する。図示例では、2つの閾値b1,b2が設定され、3段階の肯定的感情レベル値PL1~PL3が設定される。2つの閾値は第1閾値b1および第2閾値b2からなり、第2閾値b2は第1閾値b1よりも大きな値であるとする。設定値Sp(t)が、第1閾値b1未満であれば、肯定的感情レベルPLが、第1レベル値PL1に設定される。設定値Sp(t)が、第1閾値b1以上第2閾値b2未満であれば、肯定的感情レベルPLが第2レベル値PL2に設定される。設定値Sp(t)が、第2閾値b2以上であれば、肯定的感情レベルPLが第3レベル値PL3に設定される。
【0086】
図5Bに示すように、疑似感情生成部4は、否定的評価値の設定値Sn(t)を複数(例えば3つ)の閾値c1~c3と比較し、その比較結果として否定的感情レベル値NLを導出する。否定的感情レベル値NLの個数は、閾値c1~c3の数に1加えた数に相当する。図示例では、3つの閾値c1~c3が設定され、4段階の否定的感情レベル値NL0~NL3が設定されている。3つの閾値は、第1閾値c1、第2閾値c2および第3閾値c3の順で大きな値になるものとする。設定値Sn(t)が第1閾値c1未満であれば、否定的感情レベルNLが第0レベル値NL0に設定される。設定値Sn(t)が第1閾値c1以上第2閾値c2未満であれば、否定的感情レベルNLが第1レベル値NL1に設定される。設定値Sn(t)が第2閾値c2以上第3閾値c3未満であれば、否定的感情レベルNLが第2レベル値NL2に設定される。設定値Sn(t)が第3閾値c3以下であれば、否定的感情レベルNLが第3レベル値NL3に設定される。
【0087】
次いで、疑似感情生成部4は、肯定的感情レベルPLの数値と、否定的感情レベルNLの数値とに基づいて疑似感情の総合評価値を導出する。具体的には、下記式(5)に示されるとおり、肯定的感情レベルPLの数値から、否定的感情レベルTLの数値を減算することによって、総合評価値TLが導出される。
【0088】
TL=PL-NL……(5)
【0089】
換言すると、タイヤ力に基づき導出される肯定的感情は、上下振動に基づき導出される否定的感情がもしあればそれによってキャンセルされ、車両の疑似感情が結果的に肯定的なものであるのか否定的なものであるのか決定される。この算出法に従い、総合評価値TLが高いほど、車両の疑似感情は肯定性の高いものとなる。
【0090】
上記例では、肯定的感情レベル値は、1~3の離散的な数値をとり得る。否定的感情レベル値は、0~3の離散的な数値をとり得る。一例として、総合評価値TLが0以下の場合、疑似感情生成部4は、車両の疑似感情を「不快」として生成する。総合評価値TLが1の場合、車両の疑似感情を「普通」として生成する。総合評価値TLが2の場合、車両の疑似感情を「快適」として生成する。総合評価値TLが3の場合、車両の疑似感情を「とても快適」として生成する。
【0091】
(疑似感情生成方法)
上記した疑似感情生成システム1に関する説明と一部重複するが、図6のフローチャートを参照して、本実施形態に係る疑似感情生成方法およびその作用について説明する。この疑似感情生成方法は、上記した疑似感情生成システム1により用いられ、実行されるものである。
【0092】
疑似感情生成方法においては、車輪を有する車両の疑似感情を生成する方法であって、車輪91,92に路面から働く力であるタイヤ力を取得するタイヤ力取得工程S1と、疑似感情を数値化した感情評価値を導出する評価値導出工程S3と、評価値導出工程S3で導出された感情評価値に基づいて疑似感情を生成する疑似感情生成工程S10と、を備える。疑似感情生成工程S10の後、所定の感情生成を終了する条件である終了条件の成否が判定され(S20)、終了条件非成立であれば(S20:NO)、サンプリング周期をおいてタイヤ力取得工程S1から処理を再開し、タイヤ力や感情評価値が逐次導出されていく。終了条件成立時には(S20:YES)、処理が終了する。
【0093】
感情評価値には、肯定的感情を数値化した肯定的評価値p(k),Sp(t)が含まれる。換言すれば、評価値導出工程S3は、肯定的評価値p(k),Sp(t)を導出する肯定的評価値導出工程S3Pを含む。この評価値導出工程S3(肯定的評価値導出工程S3P)においては、タイヤ力が大きいほど肯定的評価値p(k),Sp(t)が大きくなるようにしてタイヤ力に基づいて肯定的評価値p(k),Sp(t)が導出される。
【0094】
大きな加減速あるいは旋回中には、タイヤ力が大きくなりやすく、また、運転者が快適な感情を抱く性向にある。上記方法によれば、タイヤ力を媒介として、車両の疑似感情の快適性の高まりを、運転者の操縦感の快適性の高まりと相関させることができる。
【0095】
そして、タイヤ力取得工程S1において、タイヤ力として、車輪91,92に路面から縦方向に作用する縦力成分Fx(Fxf,Fxr)と、車輪91,92に路面から横方向に作用する横力成分Fy(Fyf,Fyr)とを取得し、評価値導出工程S3において、縦力成分Fx(Fxf,Fxr)と横力成分Fy(Fyf,Fyr)との両方に基づいて肯定的評価値p(k),Sp(t)を導出してもよい。
【0096】
この方法によれば、縦力成分Fx(Fxf,Fxr)だけでなく横力成分Fy(Fyf,Fyr)も考慮して肯定的評価値p(k),Sp(t)を導出するので、加減速中の操縦感だけでなく旋回走行中の操縦感も考慮して車両の疑似感情が生成される。よって、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性をより高めることができる。
【0097】
評価値導出工程S3において、縦力成分Fx(Fxf,Fxr)と横力成分Fy(Fyf,Fyr)との両方が生じていると、縦力成分または横力成分のみが生じている場合と比べ、より大きな肯定的評価値p(k),Sp(t)を導出してもよい。
【0098】
直進走行での加減速中には、横力成分Fyが生じにくく、縦力成分Fxのみが生じやすい。定常円旋回中には、縦力成分Fxが生じにくく、横力成分Fyのみが生じやすい。縦力成分Fx(Fxf,Fxr)も横力成分Fy(Fyf,Fyr)も両方生じているときの例として、加減速しながら旋回走行している状況を挙げることができる。上記方法によれば、このように加減速と旋回走行とが同時に行われており、運転者が高い操縦感を得ているときに、肯定的評価値p(k),Sp(t)がより大きくなる。よって、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性をより高めることができる。特に、旋回走行中に車体をバンクさせる車両においては、縦力成分Fxと横力成分Fyとの両方が生じる場合には、単純な加減速ではなく、横力成分Fyが加わることで、バンク車両に特有の旋回走行時の操縦感を考慮でき、バンク車両を運転する運転者に独特の操作感情を創出できる。 評価値導出工程S3において、縦力成分Fx(Fxf,Fxr)と横力成分Fy(Fyf,Fyr)との両方が生じているときに、肯定的評価値p(k),Sp(t)が最大値になってもよい。これにより、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性をより一層高めることができる。
【0099】
感情評価値には、否定的感情を数値化した否定的評価値n(k),Sn(t)が含まれる。換言すれば、評価値導出工程S3は、否定的評価値n(k),Sn(t)を導出する否定的評価値導出工程S3Nを含む。この評価値導出工程S3(否定的評価値導出工程S3N)においては、車両の上下方向振動を示す上下振動値vに基づいて否定的評価値n(k),Sn(t)が導出される。疑似感情生成方法は、否定的評価値の導出の先立ち、上下振動値vを取得する上下振動値取得工程S2を更に備える。疑似感情生成工程S10において、肯定的評価値Sp(t)と否定的評価値Sn(t)とに基づいて疑似感情が生成される。
【0100】
車両が走行中に上下方向に振動すると、運転者は不快感といった否定的な感情を抱く性向にある。上記方法によれば、上下振動値vを媒介として、車両の疑似感情の不快さの高まりを、運転者の不快さの高まりと相関させることができる。そのうえで、タイヤ力に基づき導出された肯定的評価値と、上下振動値vに基づき導出された否定的評価値とを考慮して、疑似感情が生成される。そのため、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性をより高めることができる。
【0101】
疑似感情生成工程S10において、肯定的評価値Sp(t)と否定的評価値Sn(t)とに基づいて疑似感情の総合評価値が導出される。この方法によれば、肯定的評価値Sp(t)と否定的評価値Sn(t)とを考慮して総合評価値に基づいて疑似感情を生成する。総合評価値が出力されると、両方の評価値が別々に出力される場合と比べて、車両の感情を理解しやすい。
【0102】
評価値導出工程S3(肯定的評価値導出工程S3Pおよび否定的評価値導出工程S3N)において、感情評価値の瞬時値p(k),n(k)が、所定の時間間隔をおいて逐次導出され、導出された瞬時値の最新値p(t),n(t)を補正して感情評価値の設定値Sp(t),Sn(t)が導出される。疑似感情生成工程S10において、感情評価値の設定値Sp(t),Sn(t)に基づいて疑似感情を生成する。
【0103】
評価値導出工程S3(肯定的評価値導出工程S3Pおよび否定的評価値導出工程S3N)において、感情評価値が、所定の時間間隔をおいて逐次導出される複数の瞬時値p(t),p(t-1)……,n(t),n(t-1)……を用いて導出される。
【0104】
この方法によれば、導出時点が異なる複数の瞬時値p(t),p(t-1)……,n(t),n(t-1)……が用いられる。すなわち、感情の数値化にあたって、感情評価値の過去値を用いており、生成される感情には過去の状況が考慮に入っている。一方で、運転者の操縦感は、瞬時的に変化するものではなく、過去の出来事が現在の感情に影響を与える。感情評価値の時間変化の仕方を、運転者の操縦感の変化の仕方と適合させることができる。よって、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性をより高めることができる。
【0105】
評価値導出工程S3(肯定的評価値導出工程S3Pおよび否定的評価値導出工程S3N)において、感情評価値Sp(t),Sn(t)の導出に用いられる複数の瞬時値p(t),p(t-1)……,n(t),n(t-1)……のうち、第1の瞬時値が感情評価値Sp(t),Sn(t)に及ぼす影響が、第1の瞬時値よりも前に導出された第2の瞬時値が感情評価値Sp(t),Sn(t)に及ぼす影響よりも大きくてもよい。運転者の
運転者の操縦感は、瞬時的に変化するものではないが、時間の経過に伴って過去の出来事が現在の感情に与える影響は薄れていく。上記方法によれば、時間の経過に従って感情評価値の過去値が現在の感情に与える影響が薄れていくようにして感情評価値Sp(t),Sn(t)が導出される。時間の経過が感情評価値Sp(t),Sn(t)に与える影響を、時間の経過が運転者の操縦感に与える影響と適合させることができる。よって、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性をより高めることができる。
【0106】
肯定的感情評価値も否定的感情評価値もレベル(段階)で表現されるように、換算される。よって、2つの感情を総合して総合評価値TLを生成するに際し、スケール差および/または次元違いを吸収し、総合的な感情を平易に生成できる。
【0107】
ところで、水平力がいわゆる摩擦円を超えると車輪91,92に横滑りが発生する。運転技量が高いほど、車輪91,92に大きな水平力を働かせながら走行を行うことが可能になる。運転者の運転技量が高いほど、車両の疑似感情の快さが向上する。また、路面の摩擦係数によって摩擦円の大きさは変化するので、運転技量が高い運転者であっても車輪91,92が滑り易いときには、大きな水平力を車輪91,92に働かせながら走行を継続することが難しい。上記疑似感情生成ロジックによれば、車輪91,92が滑りやすい路面の走行中には、車両の疑似感情は悪化する傾向にある。このように、タイヤ力に基づいて疑似感情を生成することにより、運転者の操縦感との相関性向上のみならず、運転技量あるいは路面状況に適合した感情の生成も可能となる。
【0108】
運転者による操縦の熟練度に応じて車輪に生じるタイヤ力が異なる。本実施形態では、タイヤ力に応じて疑似感情が変化するので、運転技量に応じて生成される感情を異ならせることができる。また、車両の出力特性、操縦に対する運動特性、タイヤのグリップ力など、車両ごとに発生可能なタイヤ力が異なる。本実施形態では、タイヤ力に応じて疑似感情が変化するので、車両に応じて生成される感情を異ならせることができる。また、低μ路、カーブが連続するワインディング路などに応じて、車輪に発生可能なタイヤ力は異なる。本実施形態では、タイヤ力に応じて疑似感情が変化するので、路面状況、走行経路など走行路に応じて生成される感情を異ならせることができる。
【0109】
(変形例)
これまで本発明の実施形態について説明したが、上記構成は、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更、追加および/または削除可能である。
【0110】
評価値導出工程S3において、導出された瞬時値の最新値を補正して感情評価値の設定値を導出するに際しては、必ずしも複数の瞬時値を用いなくてもよい。瞬時値の時間変化を導出し、設定値の時間変化が瞬時値の時間変化と比べて小さくなるようにして、設定値が導出されてもよい。この場合、疑似感情が目まぐるしく変化するのを抑止できる。上述のとおり、運転者の操縦感は、瞬間的に変化するものではなく、現在の感情が過去の出来事に引きずられることもある。よって、車両の疑似感情の時間変化の仕方を、運転者の操縦感の時間変化の仕方と適合させることができ、車両の疑似感情と運転者の操縦感との相関性が高まる。
【0111】
上下振動値は、上下方向の加速度以外に基づいて導出してもよい。予め不快となる不快上下振動数範囲が定められる場合、不快上下振動数範囲での振幅が大きくなるほど、否定的評価値を大きくしてもよい。
【0112】
否定パラメータは、上下振動値のほか、車幅方向に延びる軸線周りに角変位するピッチング振動であってもよい。その他、否定パラメータに、運転者の疲労の原因となり得るパラメータ、具体的には、外気温、天候、走行時間帯、走行時間、走行距離が含まれてもよい。例えば、高温あるいは低温下(外気温が所定適温範囲外)での走行中、雨天および/または強風下での走行中、夜間走行中、長時間走行中、長距離走行中、運転者は疲労しやすい。このような走行中に、否定的評価値が大きくなるように補正されてもよい。また、スリップ発生状況や、車体の自己診断によるエラー発生状況が、入力パラメータ(肯定パラメータまたは否定パラメータ)に含まれてもよい。
【0113】
感情の段階化とは、段階ごとのランク(大小関係)が設定されるものであればよい。すなわち、感情を数値で表さない場合も本発明に含まれる。
【0114】
肯定的評価と否定的評価とを総合あるいは合体させず、評価された肯定的感情と否定的感情とを別々に出力する場合も本発明に含まれる。肯定的評価と否定的評価とのいずれか一方を出力する場合も本発明に含まれる。
【0115】
上記実施形態では、前輪および後輪にそれぞれ与えられるタイヤ力(前輪力と後輪力)を両方用いて肯定的評価値を導出しているが、いずれか一方の車輪に与えられるタイヤ力のみを用いて肯定的評価値を導出してもよい。両方の車輪のタイヤ力を用いる場合でも、肯定的評価値への影響度を車輪ごとに異ならせてもよい。一例として、駆動輪で減速時のみならず加速時にも縦力成分が生じる駆動輪に付与されるタイヤ力の重みを、従動輪に付与されるタイヤ力の重みよりも大きくして、肯定的評価値を求めてもよい。前輪と後輪とで評価値を求めるための関数を異ならせることで、評価値を導出するための調整代を多様化できる。
【0116】
上記実施形態では、縦力成分と横力成分とを両方考慮して肯定的評価値を導出するに際し、肯定的評価値を縦力成分および横力成分の関数とし、当該関数を表す演算式より肯定的評価値を導出できるようにしている。縦力成分および横力成分に応じた肯定的評価値の具体的導出は演算式の利用に限定されず、二次元マップあるいは三次元マップを利用してもよい。
【0117】
上記実施形態では、過去値を考慮した積分値を用いることで、生成される疑似感情の急変化を抑制したが、変化を抑制するための処理は適宜変更可能である。例えば、基準値(例えば、前回値)に対する変化量が所定値を超えないように、時間変化ごとに変化後の評価値の上限を設定してもよい。その他、なまし処理、ローパスフィルタ処理、n時遅れ処理のような演算技術を用いてもよい。
【0118】
上記実施形態では、取得されたタイヤ力を、車両の疑似感情の肯定的評価を段階化した肯定的評価値の導出に用いたが、肯定的な疑似感情とは別の「走行に関する肯定的評価」の導出に用いてもよい。つまり、タイヤ力に基づいて肯定的評価値を導出するというロジックは、疑似感情生成の分野に留まらず、車輪を有する車両の走行に関する評価を行う方法(走行評価方法)にも適用可能である。タイヤ力に基づいて評価可能な指標としては、運転技量を挙げることができる。運転技量が高いほど、肯定的評価値は高くなる。
【0119】
走行評価方法は、上述の疑似感情生成方法と同様のタイヤ力取得工程と、車両の走行に関する評価値を導出する評価値導出工程とを備える。評価値導出工程において、評価値には、走行に関する肯定的評価を段階化した肯定的評価値が含まれる。換言すれば、評価値導出工程は、このような肯定的評価値を導出する肯定的評価値導出工程が含まれる。そして、評価値導出工程(肯定的評価値導出工程)において、タイヤ力が大きいほど肯定的評価値が大きくなるようにしてタイヤ力に基づいて肯定的評価値が導出される。
【0120】
図7は、走行評価システムの概念図である。走行評価システム100は、走行に関する評価を段階化した評価値を導出する評価値導出部102と、評価値導出部102における評価値の導出に用いられる入力パラメータを取得する入力パラメータ取得部103を有する。また、走行評価システム100は、評価値導出部102で導出された評価値に基づいて走行に関する評価を生成および/または出力する走行評価生成部104を有する。疑似感情生成システム1(図1を参照)と同様、入力パラメータ取得部103は、肯定パラメータ取得部103Pを含み、肯定パラメータ取得部103Pは、車輪に路面から作用する外力であるタイヤ力を取得するタイヤ力取得部103Paを含む。評価値導出部102は、タイヤ力が大きいほど肯定的評価値が大きくなるようにして、タイヤ力取得部103Paで取得されたタイヤ力に基づいて肯定的評価値を導出する。
【0121】
その他、走行評価システム100は、入力パラメータとして、GPS情報、運転者の識別情報、車両の識別情報、車両のセッティング情報を取得してもよい。また、走行評価システム100は、複数車両(複数運転者)に対する評価値を蓄積してもよい。このとき、評価値が運転者情報、車両種別情報だけでなく位置情報(走行経路情報)と紐付けされる形で蓄積されてもよい。蓄積された評価値と紐付けされた情報とに基づいて、走行に関する評価を分析できる。
【0122】
走行評価システム100は、運転者からの要求に応じて、評価結果と走行経路を示す情報を示す情報を出力してもよい。この場合出力先は、ハンドル近傍に設けられたディスプレイ装置でもよいし、運転者が携帯する端末装置のディスプレイでもよい。これにより、運転者に評価の高い走行経路を知らせることができる。例えば、運転者が快い感情を生じやすい走行経路を知らせることができる。評価の高い走行経路の情報共有化を図ることができる。加えて、運転者の過去の運転履歴と、蓄積された評価値から、運転者あるいは車種に応じて評価の高い走行経路を提示できる。
【0123】
走行評価システム100は、運転者からの要求に応じて、評価結果と、運転者情報および車両種別情報を示す情報を出力してもよい。これにより、要求を行った運転者に対し、高評価を得ている車両および/または運転者を知らせることができる。
【0124】
走行評価システム100は、運転者からの要求に応じて、運転傾向、車体ごとに評価の高い走行経路を出力することもできる。運転者あるいは車両のランキング情報を出力することもできる。
【0125】
疑似感情生成方法を実行するハードウェアは、車載の制御ユニット、運転者が携帯する端末装置、車両から物理的に離れたサーバで実現されることができる。制御ユニット、端末装置およびサーバのいずれも、プロセッサ、揮発性メモリ、不揮発性メモリ及びI/Oインターフェース等を有する。不揮発性メモリには、疑似感情生成方法の手順に関するプログラムが格納されており、プロセッサがプログラムを実行して揮発性メモリを用いて演算処理する。走行評価方法を実行するハードウェアも、疑似感情生成方法を実行するハードウェアと同様であり、その不揮発性メモリには、走行評価方法の手順に関するプログラムが格納される。入力パラメータ取得部3,103、評価値導出部2,102、および疑似感情生成部4または走行評価生成部104は、プログラムの実行により実現される。
【0126】
上記実施形態では、自動二輪車の疑似感情を生成するとしたが、自動二輪車以外の車両(例えば、四輪車)にも適用可能である。ただ、運転者の操縦感と車両の疑似感情との相関性を高めるという観点、相関の媒介にタイヤ力を用いるという観点、タイヤ力の横力成分が車体の傾斜によって調整され得るという観点に照らして、車体を前後軸周りに傾斜させたバンク状態で旋回走行を行うリーン車両(例えば、自動二輪車やバギー車)の疑似感情の生成に適用すると、有益である。
【符号の説明】
【0127】
1 疑似感情生成システム
2 評価値導出部
3Pa タイヤ力取得部
3Na 上下振動値取得部
4 疑似感情生成部
90 自動二輪車
91 前輪
92 後輪
Fx,Fxf,Fxr 縦力成分
Fy,Fyf,Fyr 横力成分
v 上下振動値
p(k) 肯定的評価値の瞬時値
p(t) 肯定的評価値の最新値
Sp(t) 肯定的評価値の設定値
n(k) 否定的評価値の瞬時値
n(t) 否定的評価値の最新値
Sn(t) 否定的評価値の設定値
TL 総合評価値
S1 タイヤ力取得工程
S2 上下振動値取得工程
S3 評価値導出工程
S10 疑似感情生成工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7