(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】ダイカスト鋳造用溶湯保持炉
(51)【国際特許分類】
B22D 45/00 20060101AFI20220104BHJP
B22D 17/28 20060101ALI20220104BHJP
B22D 18/04 20060101ALI20220104BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20220104BHJP
F27D 11/02 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
B22D45/00 B
B22D17/28 Z
B22D18/04 U
F27D19/00 A
F27D11/02 Z
(21)【出願番号】P 2017110222
(22)【出願日】2017-06-02
【審査請求日】2020-04-10
(73)【特許権者】
【識別番号】516016632
【氏名又は名称】株式会社アクセル技研
(73)【特許権者】
【識別番号】510014869
【氏名又は名称】株式会社ヤマト
(74)【代理人】
【識別番号】100100170
【氏名又は名称】前田 厚司
(74)【代理人】
【識別番号】110001874
【氏名又は名称】特許業務法人IPyS特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 浩一
(72)【発明者】
【氏名】辻井 竜太
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-038374(JP,U)
【文献】特開平11-008049(JP,A)
【文献】中国実用新案第203928757(CN,U)
【文献】特開2003-287372(JP,A)
【文献】実開昭60-060696(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 45/00
B22D 17/28
B22D 18/04
F27D 19/00
F27D 11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯受入開口を備えた溶湯受入室と、浸漬ヒータを配置した溶湯保持室と、溶湯汲出開口を備えた溶湯汲出室とからなるダイカスト鋳造用溶湯保持炉において、前記溶湯汲出室に浸漬ヒータを配置し、前記溶湯汲出室の前記浸漬ヒータの出力を前記溶湯汲出室内の溶湯温度に基づき制御し、前記溶湯汲出室の前記浸漬ヒータによる加熱能力が前記溶湯保持室の前記浸漬ヒータによる加熱能力より大
とし、前記溶湯保持室の前記浸漬ヒータの出力を前記溶湯汲出室内の溶湯温度又は前記溶湯保持室内の溶湯温度に基づき制御して、前記溶湯保持室内と前記溶湯汲出室内の溶湯温度を略同一に管理することを特徴とするダイカスト鋳造用溶湯保持炉。
【請求項2】
前記溶湯汲出室の前記浸漬ヒータは、電気絶縁性セラミックス製保護管内に螺旋状の抵抗発熱体を位置させるとともに、電気絶縁性且つ高熱伝導性を有するセラミックス粉末を充填したものである請求項
1に記載のダイカスト鋳造用溶湯保持炉。
【請求項3】
前記溶湯保持室の前記浸漬ヒータは、電気絶縁性セラミックス製保護管内に螺旋状の抵抗発熱体を位置させるとともに、電気絶縁性且つ高熱伝導性を有するセラミックス粉末を充填したものである請求項
1又は2に記載のダイカスト鋳造用溶湯保持炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト鋳造時に使用する溶湯保持炉に関し、特に、溶湯保持炉における溶湯汲出室の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダイカスト鋳造機にアルミニウム合金等の溶湯をラドル等の汲出装置により供給するための溶湯保持炉は、溶湯受入開口を備えた溶湯受入室と、加熱ヒータを配置した溶湯保持室と、溶湯汲出開口を備えた溶湯汲出室とに、それぞれ仕切壁を介して隣接室と連通した状態で区画した構成である(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
溶湯保持室には、全溶湯量の60%~80%が貯留されている。鋳造操業時、溶湯受入室の溶湯受入開口は溶湯受入時を除き開閉蓋により塞がれた状態であり、一方、溶湯汲出室の溶湯汲出開口は殆ど開放状態である。溶湯汲出室の溶湯温度管理は、溶湯保持室に設置した加熱ヒータの出力制御により行われる。即ち、溶湯汲出室内の溶湯温度は、当該溶湯汲出室内の溶湯温度を検出し、溶湯保持室の加熱ヒータの出力制御を行うことで、所望の溶湯温度を維持している。なお、溶湯温度精度は、所望の溶湯温度±5℃に制御するのが一般的である。
【0004】
溶湯保持室内の溶湯の加熱には、溶湯保持室内の上部空間に電熱ヒータを配置する加熱方式若しくは溶湯中に燃焼式又は電熱式の浸漬ヒータを配置する加熱方式が採用される。電熱式の浸漬ヒータとしては、例えば、特許文献3,4に開示されているように、窒化珪素系ファインセラミックス、炭化珪素系ファインセラミックス等の電気絶縁性セラミックス保護管内に螺旋状の抵抗発熱体を位置させるとともに、窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ、酸化マグネシウム等の電気絶縁性且つ高熱伝導性を有するセラミックス粉末を充填した浸漬ヒータ(粉末充填型浸漬ヒータ)や、特許文献5,6に開示されているように、電気絶縁性セラミックス製保護管内に炭化珪素等の抵抗発熱体を内蔵し、保護管内に空隙が存在する浸漬ヒータ(非粉末充填型浸漬ヒータ)がある。粉末充填型浸漬ヒータは、高熱伝導性のセラミックス粉末を充填して高い熱効率(熱伝導)を得ることができること、即ち、同一のヒータ出力(KW)であってもヒータ発熱体温度(保護管内温度)に対して溶湯に伝達される熱量が多く、非粉末充填型浸漬ヒータに較べて保護管の外径(伝熱面積)が小である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-1322号公報
【文献】特開平7-159040号公報
【文献】特開平11-8049号公報
【文献】実用新案登録第3004043号明細書
【文献】実開昭60-21699号公報
【文献】特許第5371784号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
操業時、溶湯保持炉の溶湯汲出開口は殆ど開放状態であるため、溶湯汲出室における熱放散は溶湯保持室より大となり、溶湯汲出室内の溶湯温度が溶湯保持室内の溶湯温度より低くなる傾向にある。それ故に、溶湯汲出室内の溶湯温度を検出し、この検出温度に基づき溶湯保持室内の溶湯温度を制御する方式では、溶湯保持室内の溶湯温度が溶湯汲出室内の溶湯温度(所望の溶湯温度)より30℃~70℃高く維持される。その結果、溶湯保持室内で酸化物の形成が促進されることとなり、この酸化物による溶湯清浄度の劣化及び溶湯汲出室内に流入した酸化物による鋳造不良の原因となるととともに、溶湯保持室における熱放散による有効熱エネルギーの低下となる。
【0007】
また、溶湯保持室内と溶湯汲出室内は下部に連通開口を形成した仕切壁で区画された構造であることから、溶湯保持室から溶湯汲出室への溶湯流れが限定的となり、しかも溶湯保持室内の貯留溶湯量は溶湯汲出室内の貯留溶湯量より大であることから、溶湯汲出室内の溶湯温度が安定し難く、また溶湯汲出室内の溶湯温度変動に対して迅速な昇温・降温が困難である。
【0008】
さらに、非粉末充填型浸漬ヒータは、保護管内の空隙の存在により保護管を介して溶湯に伝達される熱量が少ないため、保護管内温度を高くすること、110~160mmの外径を有する大径保護管を採用して伝熱面積を増加すること、又は浸漬ヒータの設置数を増やすことで対応している。そのため、必要電力が大きいとともに、溶湯保持室の内容積の増加に伴う炉壁からの放熱が大きいという問題がある。
【0009】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、溶湯保持室内の溶湯温度と溶湯汲出室内の溶湯温度を略同一温度に管理し、溶湯汲出室内の溶湯温度が安定し、溶湯汲出室内の溶湯温度変動に対して迅速に対応できるとともに、浸漬ヒータの加熱効率を向上し、省エネルギー化を図ることができるダイカスト鋳造用溶湯保持炉を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、溶湯受入開口を備えた溶湯受入室と、浸漬ヒータを配置した溶湯保持室と、溶湯汲出開口を備えた溶湯汲出室とからなるダイカスト鋳造用溶湯保持炉において、前記溶湯汲出室に浸漬ヒータを配置し、前記溶湯汲出室の前記浸漬ヒータの出力を前記溶湯汲出室内の溶湯温度に基づき制御し、前記溶湯汲出室の前記浸漬ヒータによる加熱能力が前記溶湯保持室の前記浸漬ヒータによる加熱能力より大とし、前記溶湯保持室の前記浸漬ヒータの出力を前記溶湯汲出室内の溶湯温度又は前記溶湯保持室内の溶湯温度に基づき制御して、前記溶湯保持室内と前記溶湯汲出室内の溶湯温度を略同一に管理することを特徴とする(請求項1)。
【0011】
前記構成によれば、溶湯汲出室に配置した浸漬ヒータの出力を溶湯汲出室内の溶湯温度に基づき制御するので、溶湯汲出室内の溶湯温度を直接管理することができる。
【0012】
前記溶湯汲出室の前記浸漬ヒータは、電気絶縁性セラミックス製保護管内に螺旋状の抵抗発熱体を位置させるとともに、電気絶縁性且つ高熱伝導性を有するセラミックス粉末を充填したものであることが好ましい(請求項2)。
【0013】
前記溶湯保持室の前記浸漬ヒータは、電気絶縁性セラミックス製保護管内に螺旋状の抵抗発熱体を位置させるとともに、電気絶縁性且つ高熱伝導性を有するセラミックス粉末を充填したものであることが好ましい(請求項3)。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、溶湯汲出室内の溶湯温度を直接管理することができるので、安定的に溶湯温度精度を維持できるととともに、溶湯の温度変動に迅速な対応ができ、しかも溶湯保持室内の溶湯温度を溶湯汲出室内の溶湯温度と略同一温度に管理することができるため、溶湯保持室内での酸化物生成の減少及び酸化物に起因する鋳造不良を回避することができるとともに、熱放散が低減し、省エネルギーが図れる。
【0016】
請求項2の発明によれば、溶湯汲出室の浸漬ヒータによる熱伝達率がよくなり、浸漬ヒータを小型化、すなわち、電気絶縁性セラミックス製保護管の外径を80mm以下にすることができ、浸漬ヒータの設置にも拘わらず、溶湯汲出室の炉内容積の増加を必要最小限にすることができ、それだけ省エネルギーが図れる。
【0017】
請求項3の発明によれば、溶湯保持室の浸漬ヒータによる熱伝達効率がよくなり、浸漬ヒータを小型化、すなわち、電気絶縁性セラミックス製保護管の外径を80mm以下にすることができ、溶湯保持室の炉内容積を縮小することができ、それだけ省エネルギーが図れる。
【0018】
請求項1の発明によれば、溶湯汲出室の浸漬ヒータによる加熱能力が溶湯保持室の浸漬ヒータによる加熱能力より大であるため、溶湯汲出室内の溶湯温度の変動に速やかに対応することができ、それだけ溶湯温度に起因する鋳造不良が回避できる等の効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るダイカスト鋳造用溶湯保持炉の正面図。
【
図2】
図1のダイカスト鋳造用溶湯保持炉の平面図。
【
図6】
図2のダイカスト鋳造用溶湯保持炉の溶湯汲出室に断熱蓋を被せた状態を示す部分平面図。
【
図7】ダイカスト鋳造用溶湯保持炉に使用する浸漬ヒータの一部破断正面図。
【
図8】
図1のダイカスト鋳造用溶湯保持炉の制御回路図。
【
図9】
図8の制御回路図の変形例を示す制御回路図。
【
図10】
図8の制御回路図の他の変形例を示す制御回路図。
【
図11】本発明の第2実施形態に係るダイカスト鋳造用溶湯保持炉の
図5と同様の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
【0021】
<第1実施形態>
図1、
図2は、本発明の第1実施形態に係るダイカスト鋳造用溶湯保持炉1を示す。溶湯保持炉1は、
図3に示すように、溶湯受入室2、溶湯保持室3及び溶湯汲出室4から構成され、各室は上から見て略矩形で、上方に開口している。溶湯受入室2は溶湯保持炉1の正面から見て右側前方に配置され、溶湯汲出室4は右側後方に配置され、溶湯保持室3は左側に配置されている。溶湯受入室2と溶湯汲出室4は、第1仕切壁5を介して隣接して配置されている。溶湯保持室3は、第2仕切壁6を介して溶湯受入室2と溶湯汲出室4に隣接して配置されている。第2仕切壁6の下部には、溶湯受入室2と溶湯保持室3を連通する第1連通開口7が形成されるとともに、溶湯保持室3と溶湯汲出室4を連通する第2連通開口8が形成されている。これにより、溶湯受入室2、溶湯保持室3及び溶湯汲出室4は、溶湯保持炉1の上から見て、溶湯受入室2から第1連通開口7を介して溶湯保持室3に連通し、溶湯保持室3から第2連通開口8を介して溶湯汲出室4に連通するように、逆コ字形に配置されている。
【0022】
溶湯受入室2の上方の溶湯受入開口2aは、
図2、
図4に示すように、断熱蓋9で覆われている。断熱蓋9の一部には、溶湯受入室2に溶湯を導入する桶10が設けられている。桶10の上方開口には、図示しないシリンダで開閉可能な蓋11がヒンジ12により回動可能に設けられている。蓋11は、通常は閉状態で、溶湯導入時のみ開状態にされる。
【0023】
溶湯保持室3の上方開口3aは、
図2、
図5に示すように、断熱蓋13で覆われている。溶湯保持室3には、電気絶縁性且つ高熱伝導性を有するセラミックス粉末を充填した2本の浸漬ヒータ(粉末充填型浸漬ヒータ)14が溶湯保持
室3の前の肩部から斜め下に向かってに挿入されている。溶湯保持室3の炉床の一部は、浸漬ヒータ14に沿って傾斜している。なお、15は、浸漬ヒータ14の端子ボックスである。
【0024】
溶湯汲出室4の上方の溶湯汲出開口4aは、操業時には、
図2に示すように、一部のみ断熱蓋16aで塞がれているが、他は溶湯を汲み出せるように開放されている。
図6に示すように、操業停止時には、着脱式の断熱蓋16b,16cで塞がれる。
図4に示すように、溶湯汲出室4には、溶湯保持室3と同様に、電気絶縁性且つ高熱伝導性を有するセラミックス粉末を充填した2本の浸漬ヒータ(粉末充填型浸漬ヒータ)17が断熱蓋16aから下方に挿入されている。また、溶湯汲出室4には、断熱蓋16aから溶湯汲出室4内に挿入され、溶湯の温度を検出する湯温検出器(熱電対)19が配置されている。なお、18は、浸漬ヒータ17の端子ボックスである。
【0025】
図7は、溶湯保持室3と溶湯汲出室4に配置されている粉末充填型浸漬ヒータ14,17を示す。浸漬ヒータ14,17は、下端が閉じられた窒化珪素系ファインセラミックス製保護管20と、該保護管20の上端に固定されて中間に取付フランジ21を有する大径と小径の2つ管からなる固定金具22と、該固定金具22の上端に固定されて内部に端子台を有する端子ボックス23とからなる。保護管20は、溶湯に浸食されない電気絶縁性セラミックスであれば、他のセラミックス、例えば、炭化珪素系ファインセラミックスで構成してもよい。
【0026】
保護管20は、溶湯汲出室4の浸漬ヒータ17においては外径50mm、内径40mmで、溶湯保持室3の浸漬ヒータ14においては外径34mm、内径28mmで、内部には、Ni-Cr系抵抗発熱体24が保護管20の内周面に近接して螺旋状に配設され、内部温度監視用熱電対25が挿入されるとともに、内部の空隙部分に酸化マグネシウム粉末(セラミックス粉末)の充填物26が高密度に充填されている。充填物26としては、電気絶縁性且つ高熱伝導性を有するセラミックであれば、例えば、窒化珪素、窒化アルミニウム、アルミナ等の粉末単体、或いは他の高熱伝導率を有するセラミック粉末との混合粉末でもよい。
【0027】
溶湯汲出室4の浸漬ヒータ17による溶湯に対する加熱能力は、溶湯保持室3の浸漬ヒータ14による溶湯に対する加熱能力より大きい。すなわち、溶湯汲出室4の浸漬ヒータ17と溶湯保持室3の浸漬ヒータ14とは同一構造で、各室の貯留溶湯量(満湯時)が、溶湯受入室2:140kg、溶湯保持室3:500kg、溶湯汲出室4:220kgである場合、溶湯汲出室4の浸漬ヒータ17は、6KW/200V×2本で、12KW/140kg≒0.086KW/kgの加熱能力を有するのに対し、溶湯保持室3の浸漬ヒータ14は、4.5KW/200V×2本で、9KW/500kg≒0.018KW/kgの加熱能力を有する。
【0028】
図8は、溶湯保持炉1の湯温制御回路を示す。溶湯汲出室4の2本の浸漬ヒータ17のそれぞれの一方の電源端子は、第1サイリスタ(SCR1)27a、第2サイリスタ(SCR2)27bのカソードに接続され、該サイリスタ27a,27bのアノードは第1電源ライン28に接続され、他方の電源端子は、第2電源ライン29に接続されている。同様に、溶湯保持室3の2本の浸漬ヒータ14のそれぞれの一方の電源端子は、第3サイリスタ(ECR3)30a、第4サイリスタ(SCR4)30bのカソードに接続され、該サイリスタ30a,30bのアノードは第1電源ライン28に接続され、他方の電源端子は、第2電源ライン29に接続されている。溶湯汲出室4の湯温検出器19は温度指示調節計(TIC)31の入力端子に接続されている。温度指示調節計31の電源端子は第1,第2電源ライン28,29に接続され、出力端子はサイリスタ27a,27b,30a,30bの各ゲート端子に接続されている。
【0029】
次に、以上の構成からなる溶湯保持炉1の動作を説明する。
【0030】
溶湯受入室2に桶10を介してアルミニウム又はアルミニウム合金の溶湯が供給されると、該溶湯は、溶湯受入室2から第1連通開口7を介して溶湯保持室3に流動し、溶湯保持室3から第2連通開口8を介して溶湯汲出室4に流動する。溶湯保持室3及び溶湯汲出室4の溶湯はそれぞれ浸漬ヒータ14,17によって加熱される。
【0031】
温度指示調節計31は、湯温検出器(熱電対)19からの検出温度(例えば690℃)を目標温度(700±5℃)と比較して、PID制御により出力%(例えば90%)を決定し、全てのサイリスタ27a,27b,30a,30bに送信する。第1,第2サイリスタ27a,27bは、受信した出力%(90%)で溶湯汲出室4の浸漬ヒータ17を制御する。第3,第4サイリスタ30a,30bは、受信した出力%(90%)に対し、ボリューム32a,32bにより手動で設定した割合(例えば80%)を乗算した出力%(72%)で溶湯保持室3の浸漬ヒータ14を制御する。
【0032】
このように、溶湯汲出室4内の溶湯温度は、溶湯汲出室4の湯温検出器19による検出温度に基づき溶湯汲出室4の浸漬ヒータ17によって直接管理される。このため、溶湯汲出室4の溶湯温度精度を安定的に維持できるととともに、溶湯の温度変動に対し迅速な対応ができる。しかも、溶湯保持室3内の溶湯温度を溶湯汲出室4内の溶湯温度と略同一温度に管理することができる。このため、溶湯保持室3内での酸化物生成の減少及び酸化物に起因する鋳造不良を回避することができるとともに、熱放散が低減し、省エネルギーが図れる。
【0033】
また、溶湯汲出室4の浸漬ヒータ17による溶湯に対する加熱能力は、溶湯保持室3の浸漬ヒータ14による溶湯に対する加熱能力より大であるため、溶湯汲出室4内の溶湯温度の変動に速やかに対応することができ、それだけ溶湯温度に起因する鋳造不良が回避できる。
【0034】
さらに、溶湯汲出室4の浸漬ヒータ17及び溶湯保持室3の浸漬ヒータ14は、粉末充填型浸漬ヒータであるため、熱伝導率がよく、浸漬ヒータを小型化、すなわち、電気絶縁性セラミックス製保護管の外径を80mm以下にすることができ、浸漬ヒータの設置にも拘わらず、溶湯汲出室4の炉内容積の増大を必要最小限にすることができ、それだけ省エネルギーが図れる。さらに、溶湯保持室3にセラミック粉末充填型浸漬ヒータを用いているため、溶湯保持室3の炉内容積を縮小することができ、さらなる省エネルギーが図れる。
【0035】
図9は、溶湯保持炉1における湯温制御回路の他の実施形態を示し、溶湯汲出室4の温度指示調節計(TIC1)31とは別に、溶湯保持室3にも湯温検出器33と温度指示調節計(TIC2)34を設けて、溶湯汲出室4と溶湯保持室3の湯温を独立して制御するものである。温度指示調節計(TIC1)31の出力端子は第1,第2サイリスタ27a,27bのゲート端子に接続され、温度指示調節計(TIC2)34の出力端子は第3,第4サイリスタ30a,30bのゲート端子に接続されている。
【0036】
温度指示調節計(TIC1)31は、湯温検出器19からの検出温度(例えば690℃)を目標温度(700±5℃)と比較して、PID制御により出力%(例えば90%)を決定し、第1,第2サイリスタ27a,27bに送信する。第1,第2サイリスタ27a,27bは、受信した出力%(90%)で溶湯汲出室4の浸漬ヒータ17を制御する。一方、温度指示調節計(TIC2)34は、湯温検出器33からの検出温度(例えば695℃)を目標温度(700±5℃)と比較して、PID制御により出力%(例えば85%)を決定し、第3,第4サイリスタ30a,30bに送信する。第3,第4サイリスタ30a,30bは、受信した出力%(85%)で溶湯保持室3の浸漬ヒータ14を制御する。
【0037】
図10は、浸漬ヒータ14,17の各保護管20内の温度を監視する回路である。浸漬ヒータ14,17に設けた内部温度監視(ヒーターハイカット)用熱電対25は、温度指示調節計(TIC-1)35の入力端子に接続されている。温度指示調節計35の電源端子は電源ライン28,29に接続され、出力端子はリレー36を介して第1サイリスタ27aの起動信号端子に接続されている。
【0038】
温度指示調節計(TIC-1)35は、ヒーターハイカット用熱電対25の検出温度がハイカット目標値(950℃)を超えると、第1サイリスタ27aの起動信号を切り、浸漬ヒータ17への出力をカットする。これにより、浸漬ヒータ14,17の抵抗発熱体24の過加熱が回避される。
【0039】
<第2実施形態>
図11は、本発明の第2実施形態に係るダイカスト鋳造用溶湯保持炉1´を示す。この溶湯保持炉1´は、溶湯汲出室4に第1実施形態と同様に粉末充填型浸漬ヒータ17を用いているが、溶湯保持室3の加熱ヒータとして1本の非粉末充填型浸漬ヒータ37を用いている以外は、前記第1実施形態と同様の構成及び作用を有するので、対応する部分には同一符号を附して説明を省略する。
【0040】
溶湯保持室3の非粉末充填型浸漬ヒータ37は、電気絶縁性セラミックス製保護管内に炭化珪素等の抵抗発熱体を内蔵し、保護管内に空隙が存在する浸漬ヒータである。この非粉末充填型浸漬ヒータ37は溶湯保持室3の正面の壁から水平に溶湯保持室3内に挿入され、溶湯保持室3の底は、浸漬ヒータ37に沿って水平になっている。溶湯汲出室4の粉末充填型浸漬ヒータ17は、既に述べたように、6KW/200V×2本で、12KW/140kg≒0.086KW/kgの加熱能力を有するのに対し、溶湯保持室3の非粉末充填型浸漬ヒータ37は、10KW/200V×1本で、10KW/500kg=0.02KW/kgの加熱能力を有する。
【0041】
なお、本発明は、以上の実施形態に限るものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で修正・変更することができる。
【0042】
例えば、溶湯保持炉1,1´における溶湯受入室2、溶湯保持室3及び溶湯汲出室4は、逆コ字状配置に限らず、直線配置であってもよい。この場合、溶湯受入室2と溶湯保持室3及び溶湯保持室3と溶湯汲出室4はそれぞれ下部に連通開口を有する仕切壁で区画される。
【符号の説明】
【0043】
1,1´…ダイカスト鋳造用溶湯保持炉
2…溶湯受入室
2a…溶湯受入開口
3…溶湯保持室
3a…上部開口
4…溶湯汲出室
4a…溶湯汲出開口
5…第1仕切壁
6…第2仕切壁
7…第1連通開口
8…第2連通開口
9…断熱蓋
10…桶
11…蓋
12…ヒンジ
13…断熱蓋
14…浸漬ヒータ
15…端子ボックス
16a,16b,16c…断熱蓋
17…浸漬ヒータ
18…端子ボックス
19…湯温検出器
20…保護管
21…取付フランジ
22…固定金具
23…端子ボックス
24…抵抗発熱体
25…熱電対
26…充填物
27a,27b…第1,第2サイリスタ
28…第1電源ライン
29…第2電源ライン
30a,30b…第3,第4サイリスタ
31…温度指示調節計
32a,32b…ボリューム
33…湯温検出器
34…温度指示調節計
35…温度指示調節計
36…リレー
37…非粉末充填型浸漬ヒータ