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▶ シヤチハタ株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】タイヤマーキング用インキ
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/00 20140101AFI20220104BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C09D11/00
B60C19/00 J
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018061122
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019172773
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】南田 憲宏
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-072773(JP,A)
【文献】特開2006-225609(JP,A)
【文献】特開2016-175952(JP,A)
【文献】特開2013-144289(JP,A)
【文献】特開2012-214641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤、前記溶剤に可溶な樹脂、酸化チタン、及びアルキルスルホン酸フェニルエステル又はポリオキシエチレンラウリルアミンを少なくとも含んでおり、配合量は、アルキルスルホン酸フェニルエステルがインキ全量に対して0.6~5.6重量%、ポリオキシエチレンラウリルアミンがインキ全量に対して0.6~1.7重量%であることを特徴とするタイヤマーキング用インキ。
【請求項2】
請求項1に記載のタイヤマーキング用インキをタイヤに塗布した際の膜厚が1μm~100μmであることを特徴とするタイヤマーキング用インキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤマーキング用インキに関するものであり、特に、タイヤに塗布した塗膜に発生するクラック(ひび割れ)を防止するタイヤマーキング用インキに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、製造された車両用タイヤの検査工程においては、アンバランス測定やユニフォミティ測定が行われている。検査の結果、例えばタイヤの周方向において重量が最も軽い位置(軽点)やタイヤの外径が最も大きい部分には任意の色のマークが施される。このようなマークをタイヤのサイドウォールに塗布するにあたっては、スタンプ方式により所定形状のマークを転写塗布する方法が採用されてきた。前記スタンプに使用するインキとしては、特許文献1の実施例に記載のスタンプ台インキが用いられてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-225609号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤに塗布する塗膜は、タイヤ表面の黒地が裏写りするのを防ぐために膜厚を1μm以上に設定し、隠蔽力を高める必要がある。しかし、膜厚を大きくすると、塗膜が乾燥した際に塗膜表面が収縮し、クラック(ひび割れ)が発生したり、塗膜の乾燥時間が長くなる事により、タイヤ同士を重ねた場合に他のタイヤを汚したり、擦れた場合には塗膜が取れてしまう等の不具合が生じていた。例えば特許文献1の実施例に記載のスタンプ台用インキをタイヤマーキング用インキとして使用した場合、タイヤに塗布した膜厚12μmの塗膜を20℃×65%の条件下で24時間放置した際、塗膜にはクラックが発生していた。
【0005】
本発明は、タイヤに塗布した塗膜の隠蔽力・乾燥性を良好に保ちつつ、塗膜の乾燥後、塗膜表面の収縮により生じるクラックを防止する経時的に安定したタイヤマーキング用インキを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために完成された第1の発明は、有機溶剤、前記溶剤に可溶な樹脂、酸化チタン、及びアルキルスルホン酸フェニルエステル又はポリオキシエチレンラウリルアミンを少なくとも含んでおり、配合量は、アルキルスルホン酸フェニルエステルがインキ全量に対して0.6~5.6重量%、ポリオキシエチレンラウリルアミンがインキ全量に対して0.6~1.7重量%であることを特徴とするタイヤマーキング用インキである。
【0007】
上記の課題を解決するために完成された第2の発明は、第1の発明に記載のタイヤマーキング用インキをタイヤに塗布した際の膜厚が1μm~100μmであることを特徴とするタイヤマーキング用インキである。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明では、有機溶剤、前記溶剤に可溶な樹脂、酸化チタン、及びアルキルスルホン酸フェニルエステル又はポリオキシエチレンラウリルアミンを少なくとも含んでおり、配合量は、アルキルスルホン酸フェニルエステルがインキ全量に対して0.6~5.6重量%、ポリオキシエチレンラウリルアミンがインキ全量に対して0.6~1.7重量%であることを特徴とするタイヤマーキング用インキである為、タイヤに塗布した塗膜が乾燥して収縮してもクラックの発生を防止することができる。
【0009】
第2の発明では、第1の発明に記載のタイヤマーキング用インキをタイヤに塗布した際の膜厚が1μm~100μmであることを特徴とするタイヤマーキング用インキである為、タイヤに塗布した塗膜の隠蔽力・乾燥性を良好に保ちつつ、経時的なクラックの発生を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明では有機溶剤として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール等のアルコールや、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素や、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素や、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、メチルエチルケトン、ジメチルケトン、ジエチルケトン、4-メトキシ-4-メチルペンタノン等のケトンや、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル等のエステルや、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、2-メトキシプロパノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテルなどから選ばれる一種又は二種以上の混合物が用いられる。有機溶剤はインキ全量に対して、40~99重量%を用いることができ、50~95重量%が特に好ましい。
【0011】
本発明では、隠蔽性を高める為に酸化チタンを配合する。使用する酸化チタンは、平均粒子径が0.001μm以上であって、ルチル型、アナターゼ型のいずれも使用することができ、例えばBayertitan R-FD-1・R-KB-3・R-CK-20(以上、バイエル社製)、TIPAQUE R-630・R-615・R-830(以上、石原産業(株)社製)、Unitane OR-342(A.C.C.社製)、Ti-pure R-900・R-901(E.I.Dupont社製)などや、MICROLITH White R-A・R-AB(以上、チバガイギー社製)、ENCE PRINT White 0027(BASF社製)等の市販の加工顔料など公知の酸化チタンを用いることができる。
酸化チタンの配合量は、インキ全量に対し0.1~80重量%、好ましくは5~40重量%である。
【0012】
上記酸化チタンの分散剤は、シリカ、アルミナ、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどを使用することができる。その中でも特にシリカ、ケイ酸アルミニウムが好ましい。これらの分散剤は、単独で使用しても良いし2以上を混合して使用しても良い。
本発明では、上記の分散剤を単独または2種以上混合して用いることができ、その配合量は、インキ全量に対し0.01~10重量%、好ましくは0.1~5重量%である。
【0013】
本発明では着色剤として従来公知の有機顔料及び無機顔料を使用することができ、酸化チタンと併用配合することができる。例えば、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ・チオインジゴ系、ベリノン・ベリレン系、イソインドレノン系、アゾメチレンアゾ系などの有機顔料や、カーボンブラック、マイカ、パール顔料、酸化鉄・アルミニウム粉・真鍮等金属顔料などの無機顔料を用いることができる。これらの顔料は、スチレン-アクリル酸共重合体、ポリアクリル酸樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールなどに練り込んで加工顔料としておくと、溶剤と混合する際に容易に分散するので便利である。また、既に分散剤中に顔料を練り込んである市販の加工顔料を用いてもよい。
また、着色剤として染料を配合することを許容する。染料としては、モノアゾ系、ジスアゾ系、金属錯塩型モノアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、トリアリルメタン系など従来公知の油溶性染料を特に制限されることなく使用することができる。
上記染料及び顔料は単独或いは混合して任意に使用することができ、その配合量はインキ全量に対して1~40重量%が好ましい。
【0014】
本発明に用いられる樹脂は、ロジン系樹脂を用い、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性エステル樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂などが用いられる。
上記のロジン系樹脂を単独または2種以上混合して用いることができ、その配合量は、インキ全量に対し5~70重量%、好ましくは10~50重量%である。
また、前記ロジン系樹脂以外に他の油溶性樹脂を配合することができ、アクリル樹脂、エステル樹脂、セルロース樹脂、フェノール樹脂、ポリブチルブチラール、ケトンホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノール樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂などを少量配合してもよい。
【0015】
本発明ではクラック防止剤として、アルキルスルホン酸フェニルエステル又はポリオキシエチレンラウリルアミンを用いる。クラック防止剤には上記樹脂を軟化させる性質がある為、塗膜が乾燥しても樹脂が完全に硬化せず、ある程度の柔軟性を保持することができる。その為、乾燥収縮により塗膜表面に加わる応力を緩和させることができ、経時的なクラックの発生を防止できると考えられる。
本発明で使用するアルキルスルホン酸フェニルエステルの具体例としてLANXESS(株)製のメザモール(MESAMOLL)が挙げられる。またこれ以外にも種々の可塑剤を使用することができ、具体的にはジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジヘキシルアジペート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジイソノニルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート等のアジピン酸エステル系可塑剤、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ-2-エチルヘキシルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート等のリン酸エステル系可塑剤、トリ-2-エチルヘキシルトリメリテート等のトリメリット酸エステル系可塑剤、ジメチルセバケート、ジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート等のセバチン酸エステル系可塑剤、ポリ-1,3-ブタンジオールアジペート等の脂肪族系ポリエステル可塑剤、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジブチレングリコールジベンゾエート等の安息香酸系可塑剤、エポキシ化大豆油等のエポキシ化エステル系可塑剤、脂環式二塩基酸エステル系可塑剤、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテル系可塑剤、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸系可塑剤が挙げられる。
本発明で使用するポリオキシエチレンラウリルアミンの具体例として日油(株)製のナイミーンL-201、同L-202、同L-207等が挙げられる。また上記以外にも、日油(株)製のナイミーンL-703(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルアミン)、同F-202、同F-215(以上、ポリオキシエチレンアルキル(ヤシ)アミン)、同T2-202、同T2-210、同T2-230(以上、ポリオキシエチレン牛脂アルキルアミン)、同S-202、同S-204、同S-210、同S-215、同S-220(以上、ポリオキシエチレンステアリルアミン)、同O―205(ポリオキシエチレンオレイルアミン)、同DT-203、同DT-208(以上、ポリオキシエチレンアルキルプロピレンジアミン)等を挙げることができる。これらのクラック防止剤は1種単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用でき、その配合量は、耐クラック性・乾燥性の観点からインキ全量に対して0.5~8.0重量%が好ましく、より好ましくは、0.6~5.6重量%である。
【0016】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例よって限定されるものではない。
本発明のタイヤマーキング用インキは、有機溶剤、前記溶剤に可溶な樹脂、酸化チタン、及びアルキルスルホン酸フェニルエステル又はポリオキシエチレンラウリルアミン、必要に応じて各種添加剤を投入、撹拌して調整する。
【0017】
実施例及び比較例のインキ配合を表1に示す。
表中のアルキルスルホン酸フェニルエステル、ポリオキシエチレンラウリルアミンはそれぞれLANXESS(株)製のメザモール(MESAMOLL)、日油(株)製のナイミーンL-202である。
【0018】
実施例及び比較例について、以下の条件で試験を行った。
A.耐クラック性試験
(試験方法)
作製したインキについて、タイヤ片にハンドコーターNo.0(膜厚4μm)、No.1(膜厚6μm)、No.2(膜厚12μm)、No.8(膜厚100μm)、No.500(膜厚500μm)(以上、松尾産業(株)製)を用いて各所定膜厚となるように均一塗布したものを、20℃×65%の条件下で24時間放置した。その後、塗膜表面にクラックが発生していないか目視で確認し、クラックが発生していない場合は「○」、クラックが発生した場合は「×」として耐クラック性を評価した。
B.塗膜乾燥性試験
(試験方法)
耐クラック性試験と同様に、各所定膜厚でインキ塗布したタイヤ片を20℃×65%の条件下で24時間放置した。その後、塗膜の乾燥性を確認する為、塗膜を指で擦った際にインキが付着するかどうかを確認し、インキが付着しない場合は「○」、インキが付着する場合は「×」として塗膜の乾燥性を評価した。
【0019】
表1の実施例1~8、比較例1より、アルキルスルホン酸フェニルエステル又はポリオキシエチレンラウリルアミンを配合する事で塗膜に発生するクラックを防止できることがわかる。更に、実施例1~4より、膜厚が1μm~100μmの範囲では耐クラック性及び塗膜乾燥性共に良好である。ここで膜厚の最小値は、タイヤ片の黒地が裏移りしない臨界値として1μmと設定している。一方で、比較例3より、膜厚を500μmまで大きくすると24時間経過後も塗膜が乾燥せず、塗膜乾燥性が著しく低下する。以上より、膜厚は1μm~100μmの範囲において乾燥性・隠蔽性を良好に保ちつつ、経時的なクラック発生を確実に防止することができる。尚、比較例3(膜厚500μm)の耐クラック性試験については、24時間経過後も塗膜が乾燥していなかった為、未実施である。
実施例3、5、6より、アルキルスルホン酸フェニルエステルの配合量が0.6~5.6重量%の範囲では塗膜乾燥性は良好である。一方で、比較例3よりアルキルスルホン酸フェニルエステルの配合量を10.6重量%まで増加させると、実施例3、5、6と同じ膜厚であるにも関わらず、塗膜乾燥性が著しく低下すると同時に、アルキルスルホン酸フェニルエステルがタイヤ片を軟化(溶解)させ、塗膜が黒く変色する等の不具合が発生する。以上より、クラック防止剤の配合量は0.5~8.0重量%が好ましく、より好ましくは、0.6~5.6重量%と考えられる。
【0020】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うタイヤマーキング用インキもまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。