(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】電力変換回路
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
H02M3/155 H
(21)【出願番号】P 2019126222
(22)【出願日】2019-07-05
【審査請求日】2019-08-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年3月7日(木)~3月8日〈金〉、大濱信泉記念館(沖縄県石垣市登野城2-70)にて開催された「電気学会研究会 電気学会-電力技術・電力系統技術・半導体電力変換 合同研究会」において発表された、発表タイトル「電流不連続モードを適用したフライングキャパシタ型DC-DCコンバータによるバッテリマネジメントシステムの動作検証」
(73)【特許権者】
【識別番号】000144108
【氏名又は名称】株式会社三英社製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088720
【氏名又は名称】小川 眞一
(72)【発明者】
【氏名】中西 俊貴
(72)【発明者】
【氏名】永田 隼
(72)【発明者】
【氏名】小林 和博
(72)【発明者】
【氏名】日下 佳祐
(72)【発明者】
【氏名】伊東 淳一
(72)【発明者】
【氏名】永井 悟司
(72)【発明者】
【氏名】宮下 充
【審査官】石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-016075(JP,A)
【文献】特表2017-530682(JP,A)
【文献】米国特許第10075080(US,B1)
【文献】特開2016-036226(JP,A)
【文献】特開2019-071730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グランドから直列に接続された第1から第4のスイッチと、
前記第2と第3のスイッチの間に一端を接続されたインダクタと、
前記グランドと前記インダクタの他端との間を接続する第1ポートと、
前記第1と第2のスイッチの間から前記第3と第4のスイッチの間を接続する第2ポートと、
前記グランドと前記第4のスイッチの後段とを接続する第3ポートとを有し、
前記第1ポートおよび第3ポートには
発電装置または二次電池からなる電源
または負荷、
もしくはその両方を接続し、
前記第2ポートには
発電装置または二次電池からなる電源
または該電源と負荷の両方を接続することを特徴とする電力変換回路。
【請求項2】
前記第1から第3ポートの全てに
発電装置または二次電池からなる電源を合計3つ接続し、前記第1から第3ポートのいずれか1つまたは複数に負荷を接続することを特徴とする請求項1に記載の電力変換回路。
【請求項3】
前記第1から第4のスイッチを、それぞれのスイッチを流れる電流がゼロになっている状態あるいは電流がゼロとなる付近でON,OFFさせる電流不連続モードで動作させることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最大3つの直流電源を接続し,昇圧または降圧して負荷に電力を供給する電力変換回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は再生可能エネルギーへの関心の高まりから、一般家庭においても商用電源のみでなく太陽光発電や風力発電、燃料電池など様々な電源の利用促進が図られている。一方、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる発電は発電量のムラが大きいため、電力を平準化し、安定した電力供給を実現するために二次電池が備えられている。さらに,インバータを接続して発電した電力や二次電池に蓄えられた余剰電力を逆潮流として電力系統に送り込むことも実施されている。これらを含む電力変換回路においては,電源電圧をインバータ入力電圧(電力系統電圧の波高値以上)に昇圧する回路(昇圧回路)と,電源電圧から二次電池の充電電圧まで降圧する回路(降圧回路)が含まれている。これらの昇圧回路および降圧回路は、近年,半導体のスイッチング素子とインダクタおよびコンデンサを用いたチョッパ回路(昇圧チョッパ回路、降圧チョッパ回路)が一般的に採用されている。
【0003】
特に家庭用の設備と考えた場合、小型・軽量であること、安価であること、省エネルギー化のために高効率であることなどが求められている。上記の回路中で、内包されるインダクタは大きく、重く、高価な部品であるため,インダクタの小型化や使用個数の削減はシステムの小型化,軽量化および低コスト化に直接的に影響を与えることが多い。
【0004】
従来から、回路の小型化や低コスト化を目的として1つのインダクタを共用して昇圧チョッパ回路と降圧チョッパ回路を構成する昇降圧回路が提案されている。特許文献1に記載されたDC-DCコンバータ20は、4つのスイッチS1-S4と1つのインダクタで昇降圧を行い、二次電池に対して降圧して充電し、二次電池から昇圧して負荷に電力を供給することが可能となっている。特許文献2に記載されたコンバータ50は、入力される電力源の電圧を昇圧する昇圧コンバータまたは降圧可能なバックコンバータとして作用する双方向コンバーティング動作を行うことができると説明されている(段落0059)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-025826号公報
【文献】特開2014-067697号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】松浦浩一, 伊東淳一: 「スイッチドキャパシタ形3レベルDC-DCコンバータの損失評価」, SPC沖縄, SPC-11-098, PSE-11-061, PE-11-044 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
再生可能エネルギーによる発電は上記したように発電量にムラがあるため、一時的なエネルギーバッファとして二次電池を併設する方式が広く採用されている。また,太陽光発電と風力発電のように、複数の種類の発電装置を電源として利用することも行われている。さらに,電気自動車(EV)の普及に伴い、電気自動車に搭載されている二次電池も電源のひとつとして捉えるようになってきている。すなわち、多種多様な電源を複数接続できるような方式の電力変換回路が求められている。
【0008】
しかしながら特許文献1、2に記載された技術では、1つの発電装置と1つの二次電池しか接続することができない。二次電池も電源として数えたとしても、電圧の異なる直流電源を2つまでしか接続することができない。一般的に回路機能を増やすことでより多くの電源を接続できるようになるが,回路機能を増やすことは半導体スイッチや受動素子であるインダクタ,コンデンサの個数が増えることになる。特に,インダクタは一般的に受動素子の中でも大型かつ高コストである。よって,インダクタの体積や採用個数を削減しながら複数の直流電源が接続可能で,直流入力ポート間での電力融通(発電素子から蓄電素子への電力伝送)および直流出力ポートへの電力伝送を実現することが求められる。
【0009】
そこで本発明では、最大3つの電圧の異なる直流電源が接続可能であり、かつ1つのインダクタで昇圧または降圧して電源間での電力融通および負荷への電力供給が可能な電力変換回路の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
非特許文献1には、スイッチドキャパシタコンバータ(以下,SCC)に昇圧リアクトル(インダクタ)を接続したマルチレベルDC-DCコンバータ(以下,電圧制御形SCC)が開示されている。非特許文献1に記載された従来回路においては、リアクトル電流が連続である期間であれば,出力電圧の制御が可能である。昇圧のためのエネルギー蓄積の大部分をリアクトルでなく,キャパシタを利用して行うため,インダクタンスを低減できると述べている。
【0011】
非特許文献1に記載された従来回路は3値以上の電圧を出力することができる電力変換器であるが、回路動作として複数電源を設置した際の電力融通が考慮されていない。発明者らは、電源間での電力融通および回路の小型化を目的に,非特許文献1に記載された従来回路(電圧制御形SCC)の構成を応用し、本発明にかかる電力変換回路を完成するに至った。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明にかかる電力変換回路の代表的な構成は、グランドから直列に接続された第1から第4のスイッチと、第2と第3のスイッチの間に一端を接続されたインダクタと、グランドとインダクタの他端との間を接続する第1ポートと、第1と第2のスイッチの間から第3と第4のスイッチの間を接続する第2ポートと、グランドと第4のスイッチの後段とを接続する第3ポートとを有し、第1から第3ポートに電源もしくは負荷、またはその両方を接続することを特徴とする。また,本回路方式は,種々の回路動作において,第1から第4のスイッチを電流がゼロになっている状態あるいは電流がゼロとなる付近(ゼロクロス付近)でON,OFFさせる電流不連続モードで動作させてもよい。
【0013】
第1ポートから第3ポートにはいずれも電源を接続したり、しなかったりすることができる。ただし第1ポートに接続する電源の電圧<第2ポートに接続する電源の電圧<第3ポートに接続する電源の電圧という関係がある。
【0014】
上記構成においては、第1ポートに接続した直流電源から第2,第3ポートを見れば、インダクタを昇圧回路の一部として利用することができる。一方、第2または第3ポートに接続した直流電源から第1ポートを見れば、インダクタを降圧回路の一部として利用することができる。さらに,第1ポートに二次電池を含む電源やコンデンサなどの回路部品を接続して一時的なエネルギーバッファとして利用することで第2ポートから第3ポートへの電力伝送が可能である。逆に,第3ポートから第2ポートを経由して第1ポート側に電流を流すことで第3ポートから第2ポートへの電力伝送もできる。すなわち最大3つの電圧の異なる直流電源が接続可能であり、かつ1つのインダクタで昇圧回路と降圧回路を実現し,電力を伝送することができる。また,インダクタが1つであるため、システムの小型化および軽量化を図ることができる。
【0015】
第1から第3ポートの全てに合計3つの直流電源を接続し、第1から第3ポートのいずれか1つまたは複数に負荷を接続してもよい。
【0016】
この構成においては、第1ポートに接続した直流電源および第2ポートに接続した直流電源の電圧から第3ポートの電圧へ変換(昇圧)することができるし、第2ポートに接続した直流電源および第3ポートに接続した直流電源の電圧から第1ポートの電圧へ変換(降圧)することもできる。さらに,第1ポートにバッファ素子を接続し,第2ポートから第1ポートへ一時的にエネルギーを受け渡した後,第1ポートから第3ポートへエネルギーを送ることで第2ポートから第3ポートへの電力伝送が可能である。逆に,第3ポートから第2ポートを経由して第1ポート側に電流を流すことで第3ポートから第2ポートへの電力伝送もできる。すなわち3種類の電圧の異なる直流電源を同時に利用することが可能となる。
【0017】
第4のスイッチに代えて、第3のスイッチから第3ポートへと向かって電流が流れるダイオードを備えていてもよい。第3ポート側から第1,第2ポート側へ電流を流すような回路動作をさせない場合には、第4のスイッチはスイッチングする必要がない。このためダイオードに置き換えることができ、回路の簡略化とコストの低減が可能となる。
【0018】
スイッチのそれぞれには逆並列ダイオードが備えられていてもよい。スイッチにIGBTを使用する場合には、逆並列ダイオードが内包されていないものもあるため、そのような場合には逆並列ダイオードとして別途ダイオードを接続する必要がある。MOSFETの場合には寄生ダイオードを逆並列ダイオードとして利用することができるが、別途ダイオードを取り付けることによって回路の特性(効率やノイズ)を改善させることができる。
【0019】
第1から第4のスイッチは、複数のスイッチング素子を直列または並列して構成していてもよい。スイッチング素子がMOSFETである場合には、複数並列接続とすることにより、1素子に流れる電流が小さくなることで導通損失を低減することができる。別の見方では、MOSFETの内部抵抗が並列接続されることで、抵抗成分を減少させることができる。スイッチング素子がIGBTである場合、通常,IGBTの仕様で決められている耐圧以上の電圧を扱うアプリケーションには適用できないが,IGBTを多段直列接続することでIGBT単体に印加される電圧が小さくなるためIGBT単体の耐圧を超えるような高い電圧を扱うアプリケーションにも適用が可能となる。別の見方では,IGBT単体の耐圧を超えるような高電圧を扱うアプリケーションに比較的耐圧が低いIGBTを使用することができるようになる。なお、一般的に耐圧が高いIGBTは半導体素子の特性上,高速スイッチングが困難であるため、受動素子(インダクタやコンデンサ)の大型化を招くおそれがある。一方,耐圧が低いIGBTは高速駆動が可能であるため前記した受動素子の小型化に寄与することができる。SiC-MOSFETやGaN-FET,パワートランジスタなどもMOSFETやIGBTと同様,直並列接続しての動作が可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、最大3つの電圧の異なる直流電源が接続可能であり、かつ1つのインダクタで昇圧回路と降圧回路を実現することができる。このため、電源間での電力融通および負荷への電力供給を可能とすると共に、システムの小型化および軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態にかかる電力変換回路の構成を説明する図である。
【
図2】スイッチとして具体的なスイッチング素子を示した図である。
【
図3】電源V1の電圧から電源V3の電圧に変換する場合の動作(昇圧動作)を説明する図である。
【
図4】電源V1と電源V2の電圧から電源V3の電圧へ変換する場合の動作(昇圧動作)を説明する図である。
【
図5】電源V2の電圧から電源V1の電圧に変換する場合の動作(降圧動作)を説明する図である。
【
図6】電源V3の電圧から電源V1の電圧に変換する場合の動作(降圧動作)を説明する図である。
【
図7】電源V2の電圧から電源V1の電圧へ変換(降圧)するとともに,電源V1と電源V2の電圧から電源V3の電圧へ変換(昇圧)する動作を説明する図である。
【
図8】電力変換回路の他の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示または説明を省略する。
【0023】
図1は本実施形態にかかる電力変換回路の構成を説明する図である。
図1に示す電力変換回路100は、グランドGから直列に接続された第1から第4のスイッチS1~S4と、第2と第3のスイッチS2,S3の間に一端を接続されたインダクタLとを備えている。
【0024】
説明の便宜上、電源や負荷を接続可能な端子をポートと称する。
図1の回路では、グランドGとインダクタLの他端との間を接続する第1ポートPt1と、第1と第2のスイッチS1,S2の間から第3と第4のスイッチS3,S4の間を接続する第2ポートPt2と、グランドGと第4のスイッチS4の後段とを接続する第3ポートPt3とを有している。これら3つのポートPt1,Pt2,Pt3の少なくとも1つに直流電源を接続することができ、最大3つの電圧の異なる電源V1~V3を接続することができる。また3つのポートPt1,Pt2,Pt3のいずれにも、電源に代えて負荷を接続することができ、または電源と負荷を両方接続することもできる。
【0025】
なお、第2ポートPt2以外のポートには、電源や負荷の替わりにコンデンサを単体で接続することも可能である。コンデンサの種類は特に指定がなく,電力変換器に一般的に使用されるコンデンサであれば適用可能である。
【0026】
電源V1~V3の種類については、直流電源であればよく、特段の指定や限定はない。例えば発電装置としては、太陽光パネルや燃料電池などが適用できる。蓄電デバイスとしては二次電池全般および電気二重層キャパシタなどが適用可能である。また、発電装置や二次電池に何らかの電力変換器が備えられている場合であっても、直流電源として利用することができる。例えば、風力発電のような交流電源に整流器を接続して直流に変換したものも直流電源として取り扱うことができる。
【0027】
第3ポートPt3に連結された第4ポートPt4に負荷Load1を接続する。第3ポートPt3と第4ポートPt4は並列であって、第3ポートPt3に接続することと第4ポートPt4に接続することは電気的に等価である。また
図1に破線で示すように、第1ポートPt1に連結された第5ポートPt5に負荷Load2を接続することもできる。第1ポートPt1に接続することと第5ポートPt5に接続することは電気的に等価である。なお、
図1の回路では第2ポートPt2には電源V2のみを接続しているが、電源V2に代えて負荷を接続することもできるし、電源V2と並列に負荷を接続することもできる。
【0028】
負荷(Load1,Load2)としては、特段の指定や限定はない。また、負荷としてDC-DCコンバータやインバータなどの他の電力変換器を接続することも可能である。なお、図示は省略しているが、電源ラインとグランド線との間に、平滑用のコンデンサを適宜取り付けるとよい。
【0029】
第1から第4のスイッチS1~S4は、電力変換器において一般的に使用されるスイッチング素子であれば全般的に適用が可能である。適用可能なスイッチング素子の例として、MOSFET(Metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET以外のFET(J-FETや Metal-semiconductor FET(MESFET)等)、パワートランジスタ、SiC(Silicon Carbide)-MOSFET、GaN(Gallium nitride)-FETなどを使用することができる。
【0030】
図2はスイッチとして具体的なスイッチング素子を示した図であって、
図2(a)ではスイッチング素子としてMOSFETを示している。スイッチS1~S4は単体のスイッチング素子で構成してもよいし、複数のスイッチング素子を直列または並列して構成していてもよい。スイッチング素子としてMOSFETを使用する場合には、
図2(a)にて破線の枠で示すように、複数並列接続(S1-1~S1-n)とすることができる。これにより、1素子に流れる電流が小さくなることで導通損失を低減することができる。別の見方では、並列接続されることで、MOSFETの内部抵抗による抵抗成分を減少させることができる。
【0031】
図2(b)はスイッチング素子としてIGBTを示している。スイッチング素子がIGBTである場合には、半導体素子の特性上,一般的に定格電圧(耐圧)が低い物の方が高速駆動に適している。したがって多段直列接続(S1-1~S1-n)として1素子にかかる電位差を小さくすることにより、低耐圧のIGBTを使用することが可能となる。結果として、IGBT単体の耐圧を超える電圧を扱うアプリケーションにも低耐圧品を適用することが可能となる。なお、一般的に高耐圧IGBTは高速スイッチングが困難であるため、受動素子(インダクタ等)が大型化する傾向があり、小型軽量化や低廉化という本発明の目的から離れてしまう。
【0032】
スイッチS1~S4と逆並列に備えられているダイオードD1~D4については、スイッチング素子がMOSFETの場合には素子内の寄生ダイオードを利用することができる。スイッチング素子にIGBTを使用する場合には、逆並列ダイオードが内包されていないものもあるため、そのような場合には別途,逆並列にダイオードを接続する必要がある。MOSFETの場合にも、別途のダイオードを取り付けることによって回路の特性(効率やノイズ)を改善させることができる。
【0033】
図3は電源V1の電圧から電源V3の電圧へ変換する場合の動作(昇圧動作)を説明する図である。
図3(a)では、スイッチS1,S2をONにしてインダクタLにエネルギーをチャージしている。
図3(b)では、全てのスイッチS1~S4をOFFにしてインダクタLのエネルギーを放出し、ダイオードD3,D4を通して負荷Load1に電力を供給する。
図3(a)(b)の状態を適切なタイミングで繰り返しスイッチングすることにより、電源V1の電圧から電源V3の電圧に変換(昇圧)することができる(昇圧チョッパ回路)。
【0034】
なお
図3(b)の状態において、スイッチS3,S4をONにする同期整流を行ってもよい。MOSFETは双方向導通が可能であり,一般的にMOSFETはダイオードよりも損失特性が小さい。そこでダイオードD3,D4に電流が流れる期間でスイッチS3,S4をONすることにより、電力損失を低減することができる。またダイオードD3,D4に電流を流さないことにより、ダイオードのリカバリ(逆回復)による電力損失やノイズの低減も図ることができる。
【0035】
図4は電源V1と電源V2の電圧から電源V3の電圧へ変換する場合の動作(電源V1と電源V2から電源V3へ電力伝送する場合の動作)を説明する図である。ただし,電源V1の電圧<電源V2の電圧<電源V3の電圧である。
【0036】
図4(a)では、スイッチS1,S2をONにしてインダクタLにエネルギーをチャージしている。
図4(b)ではスイッチS2のONを継続し、スイッチS1をOFFさせてインダクタLのエネルギーを放出する。電源V1,V2は直列接続となり、ダイオードD4を通して電流が流れるため電源V1と電源V2の両方から負荷Load1に電力を供給する。
図4(a)(b)の状態を適切なタイミングで繰り返しスイッチングすることにより、電源V1と電源V2の電圧から電源V3の電圧へ変換(昇圧)することができる。なお、(電源V1の電圧+電源V2の電圧)<(電源V3の電圧)であっても、インダクタLの作用によって昇圧が可能である。なお、
図4(b)の状態においてダイオードD4に電流が流れるタイミングでスイッチS4をONにする同期整流を行ってもよい。
【0037】
図5は電源V2(発電装置を想定する)の電圧から電源V1(二次電池を想定する)の電圧に変換する場合の動作(降圧動作)を説明する図である。本動作モードにおいては電源V1または電源V2から負荷Load1に対する電力供給はない。
【0038】
図5(a)では、スイッチS3をONにして、電源V2から電源V1へインダクタLを介して電流を流す。インダクタLの働きにより、電流は時間と共に増加する。
図5(b)では全てのスイッチS1~S4をOFFにすると、インダクタの作用によりダイオードD1およびD2を介して電流が循環する。このとき,インダクタLのエネルギーが放出され続け、電源V1側に流れる電流は時間と共に減少する。
図5(a)(b)の状態を適切なタイミングで繰り返しスイッチングすることにより、電源V2の電圧から電源V1の充電電圧へ変換(降圧)することができる(降圧チョッパ回路)。
【0039】
また、
図5中の破線で示すように、第1ポートPt1に連結された第5ポートPt5に、電源V1の電圧で動作する負荷Load2を接続することもできる。負荷Load2は第5ポートPt5に接続しているが、第1ポートPt1に接続することと等価である。この場合、電源V2から降圧して、電源V1に充電しつつ負荷Load2に電力を供給することができる。電源V2が発電していないときには、電源V1から負荷Load2に電力が供給される。
【0040】
図6は電源V3(発電装置を想定する)の電圧から電源V1(二次電池を想定する)の電圧に変換する場合の動作(降圧動作)を説明する図である。
【0041】
図6(a)では、スイッチS3,S4をONにして、電源V3から電源V1へインダクタを介して電流を流す。インダクタLの働きにより、電流は時間と共に増加する。
図6(b)では全てのスイッチS1~S4をOFFにすると、インダクタの作用によりダイオードD1およびD2を介して電流が循環する。このとき,インダクタLのエネルギーが放出され続け、電源V1側に流れる電流は時間と共に減少する。
図6(a)(b)の状態を適切なタイミングで繰り返しスイッチングすることにより、電源V3の電圧を電源V1の充電電圧に変換(降圧)することができる(降圧チョッパ回路)。また、
図6に破線で示すように、第5ポートPt5に接続された負荷Load2に電力を供給することができる。
【0042】
図7は電源V2の電圧から電源V1の電圧へ変換(降圧)すると共に、電源V1の電圧と電源V2の電圧から昇圧動作によって電源V3の電圧へと変換する場合の動作を説明する図である。
図7では、電源V2の電力を一旦電源V1に移した後,電源V1から電源V3へ電力を伝送する。換言すれば、電源V1を一時的なエネルギーバッファとして利用し,電源V2の電力を電源V3へと伝送するための動作である。ここでいう一時的なエネルギーバッファとは電源V2から電源V1に送り込まれる電力と電源V1から電源V3に送り出される電力を等しくすることを指す。また,電源V1が二次電池などの場合,半導体素子のスイッチングタイミングを調整し,電源V2から送り込む電力を大きくすることで電源V2から電源V3へ電力を伝送すると同時に二次電池を充電することも可能である。
【0043】
図7の回路では、
図7(e)の回路動作図に示すように、電流不連続モードを用いる。電流不連続モードとは、第1から第4のスイッチを電流がゼロになっている状態あるいは電流がゼロとなる付近(ゼロクロス付近)でON,OFFさせる動作方式である。
【0044】
図7(a)のMode1では、スイッチS3をONにして電源V2から電源V1にインダクタを介して電流を流す。インダクタLの働きにより、電流は時間と共に増加する。
図7(b)のMode2では、全てのスイッチS1~S4をOFFにし、インダクタの作用によりダイオードD1およびD2を介して電流を循環させる。このとき,インダクタLのエネルギーが放出され続け、電源V1側に流れる電流は時間と共に減少し、いずれゼロとなる。
【0045】
図7(c)のMode3では、スイッチS1,S2をONにしてインダクタLにエネルギーをチャージしている。
図7(d)のMode4ではスイッチS2のONを継続し、スイッチS1をOFFさせてインダクタLのエネルギーを放出する。電源V1,V2は直列接続となり、ダイオードD4を通して負荷Load1に電力を供給する。なお,
図7(d)のMode4において,電源V2を介したくない場合はスイッチS2をスイッチS1と同時にOFFさせる。その結果,電流は電源V2を通らずにダイオードD3とD4を介して電源V3側に流れることになる。
【0046】
図7(a)~(d)の状態を適切なタイミングで繰り返しスイッチングすることにより、電源V1に充電しながら、電源V1の電圧とV2の電圧から電源V3の電圧に変換(昇圧)することができる。あるいは,電源V2から電源V1へと流れる電流と電源V1から電源V3へと流れる電流をスイッチングによって制御し,電源V1からの電流流出入量をゼロにすることで電源V2単体で電源V3への電力伝送を実現することができる。これは電源V2から電源V3への直接的な電力伝送が難しいため,電源V1を一時的なエネルギーバッファとして用いて電力伝送を実現する手法である。
【0047】
なお,上記動作を実現するためにはインダクタLに流れる電流の向きを反転させる必要がある。本回路方式ではMode2とMode3の間,Mode4とMode1の間でゼロ電流期間 (インダクタおよびスイッチS1~S4の素子に電流が流れていない期間:Pause) を設けることで電流の反転を達成している。これは一般的に電流不連続モードと呼称され,インダクタ電流が一方向に流れる電流連続モードと比べてインダクタンスを低減することができる。また,電流不連続モードは各動作の間にゼロ電流期間が入るためタイムシェアリングによる回路制御が可能となり,複数の制御手法を半導体素子のスイッチング周期レベルで実現することができる。さらに,ゼロ電流期間で半導体素子のON/OFFを切り替えることでスイッチング損失を低減することもできる。結果,インダクタの小型化,電力変換効率の向上に伴う冷却装置の小型化および簡素化が可能である。
【0048】
なお、MOSFETのような双方向導通が可能な素子を採用している場合,
図7(a)のダイオードD1に電流が流れるときにスイッチS1をONにしたり、
図7(d)のダイオードD4に電流が流れるタイミングでスイッチS4をONにしたりする同期整流を行ってもよい。
【0049】
図8は電力変換回路100の他の構成を説明する図である。スイッチS1~S4のうち、同期整流以外でS4を積極的にスイッチングする必要があるのは、電源V3の電圧から降圧する場合,つまり,第1ポートPt1あるいは第2ポートPt2側に電流を流すのみである(
図6(a)参照)。したがって、定常的、瞬間的に関わらず、第3ポートPt3側から第1ポートPt1,第2ポートPt2側へ電流を流すような回路動作をさせない場合、スイッチS4の位置をダイオードD4に置き換えることが可能である。
【0050】
MOSFETやIGBTなどのスイッチング素子は、基本的に外付けのドライブ回路が必要である。(MOSFETやIGBTなどの電圧駆動素子にはゲート駆動回路が必要となり、トランジスタなどの電流駆動素子にはベース電流を流すための回路が必要となる。)これに対して、ダイオードはドライブ回路が不要である。したがってダイオードに置換することにより、回路を簡略化し、コストを低減させることができる。なおダイオードとしては、PNダイオードやショットキーバリアダイオード等、一般的な電力変換回路に使用されるダイオードであれば適用が可能である。
【0051】
上記説明したとおり、本実施形態にかかる電力変換回路100は、第1ポートPt1に接続した電源V1から電源V2,電源V3を見れば、インダクタLを昇圧回路の一部として利用することができる。一方、第2または第3ポートPt2,Pt3に接続した電源V2、V3から電源V1を見れば、インダクタLを降圧回路の一部として利用することができる。すなわち最大3つの電圧の異なる電源V1~V3が接続可能であり、かつ1つのインダクタLで昇圧回路と降圧回路を実現することができる。このため、システムの小型化および軽量化を図ることができる。
【0052】
とくに第1から第3ポートの全てに合計3つの電源を接続した構成においては、第1ポートPt1に接続した電源V1単体の電圧,あるいは電源V1と第2ポートPt2に接続した電源V2の合計電圧から第3ポートPt3の電圧へ変換(昇圧)することができる。また,第2ポートPt2に接続した電源V2の電圧または第3ポートPt3に接続した電源V3の電圧から第1ポートPt1の電圧へ変換(降圧)することも可能である。さらに,電源V1を一時的なエネルギーバッファとして利用することで電源V2から電源V3への電力伝送も可能となる。すなわち3種類の電圧の異なる直流電源を同時に利用し,電源間での電力融通を実現することができる。
【0053】
最後に、前述の実施形態は例示であり、発明の範囲はそれらに限定されない。前述の実施形態は種々変更可能であり、例えば、前述の実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素が削除されてもよく、さらに、異なる実施形態に係る構成要素が適宜組み合わされてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、最大3つの直流電源の電圧を昇圧または降圧して負荷に供給する電力変換回路として利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
Pt1…第1ポート、Pt2…第2ポート、Pt3…第3ポート、Pt4…第4ポート、Pt5…第5ポート、V1~V3…電源、D1~D4…ダイオード、S1~S4…スイッチ、100…電力変換回路、G…グランド、L…インダクタ、Load1、Load2…負荷