(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】止水装置
(51)【国際特許分類】
E21D 9/06 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
E21D9/06 301E
(21)【出願番号】P 2017120426
(22)【出願日】2017-06-20
【審査請求日】2020-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(73)【特許権者】
【識別番号】390027661
【氏名又は名称】株式会社金澤製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】半田 剛
(72)【発明者】
【氏名】蒲 幸祐
(72)【発明者】
【氏名】日高 基裕
(72)【発明者】
【氏名】金澤 光雄
(72)【発明者】
【氏名】飯坂 国二
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3161343(JP,U)
【文献】特開平02-140392(JP,A)
【文献】特開2003-020893(JP,A)
【文献】特開平11-247592(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106761785(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
到達立坑内に全体が露出する態様で配置され、該到達立坑に到達したトンネル掘削機と前記到達立坑の坑壁との間に生じる隙間を止水する止水装置であって、
伸縮自在なシート状の弾性材よりなり、前記トンネル掘削機の外径より小径の開口部を有し、該開口部を前記トンネル掘削機が貫通した状態において、内周縁近傍が前記トンネル掘削機の外殻に接触し、外周縁近傍が前記到達立坑の坑壁に接続されるリング形状のエントランスパッキンと、
膨縮自在なチューブ状の弾性材よりなり、膨張時に前記トンネル掘削機に接触した前記エントランスパッキンの内周縁近傍を囲繞して押圧力を作用させるドーナツ形状のチューブパッキンと、
該チューブパッキンと前記エントランスパッキンとの間に設けられ、前記エントランスパッキンに沿って変形するパッキン固定部材と、
前記チューブパッキンを囲繞するように配置され、膨張時のチューブパッキンに接触する環状反力材と、を備え、
該環状反力材に、前記エントランスパッキンとチューブパッキンを露出させる視認領域を備えることを特徴とする止水装置。
【請求項2】
請求項1に記載の止水装置において、
前記エントランスパッキン、前記パッキン固定部材、前記チューブパッキン、および前記環状反力材は、互いに接触する状態で接続金具を介して一体に成形されて、前記到達立坑の坑壁に固定されることを特徴とする止水装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の止水装置において、
前記環状反力材が、ワイヤーであることを特徴とする止水装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の止水装置において、
前記チューブパッキンが、非伸縮部材よりなり、膨張時の前記チューブパッキンの外形形状に沿う被覆材に被覆されることを特徴とする止水装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤中に構築された到達立坑の坑壁と、坑壁を貫通したトンネル掘削機との間の隙間を止水する止水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、シールド工法や推進工法等により地盤中にトンネルを構築する場合において、到達立坑の坑壁におけるトンネル掘削機の到達予定位置には、到達立坑に到達したトンネル掘削機と坑壁との隙間から湧水が生じることを防止するべく、止水装置が設置されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、止水装置に、シールド掘削機の外径より小さい径の孔を備える気泡構造の弾性体を採用し、当該気泡構造の弾性体を、到達立坑におけるシールド掘削機の貫通予定位置に設けた開口を囲繞する坑壁コンクリートの内周面に設置している。そして、シールド掘削機が到達立坑の開口を貫通して弾性体の孔を通過すると、弾性体の孔が拡径されてシールド掘削機を周囲から押圧する。これにより、坑壁コンクリートの内周に設けた弾性体とシールド掘削機との間に止水構造が形成される。
【0004】
また、特許文献2では、止水装置に、シールド掘削機が貫通するエントランスパッキンと、エントランスパッキンをシールド掘削機に向けて押圧するゴムチューブとを採用し、これらエントランスパッキンとゴムチューブを、到達立坑のシールド掘削機貫通予定位置に設けた鏡部を囲繞する支持部材の内周面に設置している。そして、シールド掘削機がエントランスパッキンを通過すると、エントランスパッキンの一側面がシールド掘削機に密着するとともに、ゴムチューブによりエントランスパッキンがシールド掘削機に圧接されるため、到達立坑の鏡部に高い止水性能を付与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-176686号公報
【文献】特開2002-089173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2の止水装置はいずれも、到達立坑の坑壁を貫通したシールド掘削機と孔壁との間に止水構造を形成できるため、地下水の到達立坑内への流入を阻止することが可能となる。
【0007】
しかし、特許文献1では、弾性体が坑壁コンクリートの内周面に配置され、特許文献2では、エントランスパッキンおよびゴムチューブが支持部材の内周面に設置される。このため、作業者は、到達立坑に到達したシールド掘削機と弾性体やエントランスパッキン及びゴムチューブとの接触状態を目視確認できず、保守管理が困難となるだけでなく、不具合が生じた際の止水装置の交換作業も多大な手間を要する事態となりやすい。
【0008】
また、特許文献2では、ゴムチューブを用いてエントランスパッキンに押圧力を作用させているが、ゴム製のチューブは外圧が作用した際に変形を生じやすい。このため、例えば、大深度にトンネルを構築するような場合に、エントランスパッキンとシールド掘削機との隙間に高圧な地下水が流入しようとすると、これに抗う押圧力を作用させることができず、十分な止水性を確保できない。このような場合には、耐圧性の高いゴム材料にてチューブを製作することも考えられるが、チューブの製作費用が高価となりやすく、工費に負担が生じる。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、簡略な構造で安価に、保守管理および交換作業を容易に実施することの可能な、到達立坑の坑壁とトンネル掘削機との隙間を止水する、止水装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、本発明の止水装置は、到達立坑内に全体が露出する態様で配置され、該到達立坑に到達したトンネル掘削機と前記到達立坑の坑壁との間に生じる隙間を止水する止水装置であって、伸縮自在なシート状の弾性材よりなり、前記トンネル掘削機の外径より小径の開口部を有し、該開口部を前記トンネル掘削機が貫通した状態において、内周縁近傍が前記トンネル掘削機の外殻に接触し、外周縁近傍が前記到達立坑の坑壁に接続されるリング形状のエントランスパッキンと、膨縮自在なチューブ状の弾性材よりなり、膨張時に前記トンネル掘削機に接触した前記エントランスパッキンの内周縁近傍を囲繞して押圧力を作用させるドーナツ形状のチューブパッキンと、該チューブパッキンと前記エントランスパッキンとの間に設けられ、前記エントランスパッキンに沿って変形するパッキン固定部材と、前記チューブパッキンを囲繞するように配置され、膨張時のチューブパッキンに接触する環状反力材と、を備え、該環状反力材に、前記エントランスパッキンとチューブパッキンを露出させる視認領域を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の摩耗検知装置は、前記エントランスパッキン、前記パッキン固定部材、前記チューブパッキン、および前記環状反力材は、互いに接触する状態で接続金具を介して一体に成形されて、前記到達立坑の坑壁に固定されることを特徴とする。
【0012】
本発明の止水装置によれば、膨張したチューブパッキンに接触する環状反力材を備えることから、チューブパッキンにてエントランスパッキンを押圧する際の反力を環状反力材で受けることができ、従来技術のように、膨張したチューブパッキンの反力を受けるべく、止水装置を取り囲む形状の構造物を到達立坑に構築し、その内周面にチューブパッキンを設ける必要がない。これにより、到達立坑内において止水装置全体を露出した状態に配置できる。そのうえ、環状反力材に、前記エントランスパッキンとチューブパッキンを露出させる視認領域を備える。
【0013】
このような構成により、作業者は、止水装置の外観だけでなく、エントランスパッキンやチューブパッキンをも目視確認できるため、高い精度をもって止水装置の保守管理を実施できるとともに、エントランスパッキンやチューブパッキンの補修や交換等のメンテナンス作業を容易に行うことが可能となる。
【0014】
本発明の止水装置は、前記環状反力材が、ワイヤーであることを特徴とする。
【0015】
本発明の止水装置によれば、止水装置をより安価に製作することができるとともに、チューブパッキンおよびエントランスパッキンの視認領域を広く確保できるため、保守管理作業をより精度よく実施することが可能となる。
【0016】
本発明の止水装置は、前記チューブパッキンが、非伸縮部材よりなり、膨張時の前記チューブパッキンの外形形状に沿う被覆材に被覆されることを特徴とする。
【0017】
本発明の止水装置によれば、膨張させたチューブパッキンに外力が作用しても、被覆材によりその変形が規制される。したがって、地下水が高圧となるような環境に到達立坑が構築される場合であっても、チューブパッキンは高圧地下水に抗ってエントランスパッキンに押圧力を作用させ、トンネル掘削機に密着させた状態を維持することができる。これにより、高価な耐圧性の合成ゴムにてチューブパッキンを製造することなく、チューブパッキンを被覆材にて被覆するのみの簡略かつ安価な構造で、到達立坑内への湧水の流入を確実に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、チューブパッキンにてエントランスパッキンを押圧する際の反力を支持する環状反力材を備えるとともに、環状反力材に、前記エントランスパッキンとチューブパッキンを露出させる視認領域を備えることにより、到達立坑内において止水装置の外観だけでなく、エントランスパッキンやチューブパッキンを目視確認できるため、高い精度をもって保守管理を実施できるとともに、補修や交換等のメンテナンス作業を容易に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態における止水装置を側面図である。
【
図2】本発明の実施の形態における止水装置の正面図である。
【
図3】本発明の実施の形態における止水装置の設置手順を示す図である(その1)。
【
図4】本発明の実施の形態における止水装置の設置手順を示す図である(その2)。
【
図5】本発明の実施の形態におけるチューブパッキンを被覆材にて被覆した図である。
【
図6】本発明の実施の形態における他の実施例における止水装置の設置手順を示す図である(その1)。
【
図7】本発明の実施の形態における他の実施例における止水装置の設置手順を示す図である(その2)。
【
図8】本発明の実施の形態における他の実施例における止水装置の設置手順を示す図である(その3)。
【
図9】本発明の実施の形態における止水装置をエントランス躯体に設置した事例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、到達立坑の坑壁にトンネル掘削機が貫通した状態において、到達立坑の坑壁とトンネル掘削機との隙間を、エントランスパッキンとチューブパッキンを備えた止水装置にて止水するにあたり、止水装置に、チューブパッキンにてエントランスパッキンを押圧する際の反力を支持する環状反力材を設けたものである。
【0021】
本実施の形態では、到達立坑のトンネル掘削機到達予定位置に仮壁を設け、トンネル掘削機が仮壁を切削して到達立坑に到達した際に、到達立坑の坑壁とトンネル掘削機との間に隙間が形成される場合を事例に挙げ、
図1~
図9を参照しつつ止水装置を詳述する。
【0022】
なお、止水装置は、到達立坑の坑壁に鏡切りを行ってシールドを到達させることにより形成される、到達立坑の坑壁とトンネル掘削機との隙間に止水構造を形成する際にも採用することが可能である。また、止水装置を採用する到達立坑は、シールド工法もしくは推進工法等、いずれのトンネル工法に用いられるものであってもよい。
【0023】
止水装置1は、
図1の側面図および
図2の正面図で示すように、到達立坑101の坑壁102であって、トンネル掘削機Mの到達予定位置に設けられた仮壁103を囲繞するように設置されており、エントランスパッキン2と、パッキン固定部材3と、チューブパッキン4と、環状反力材5と、を備えている。
【0024】
エントランスパッキン2は、合成ゴム等の伸縮自在なシート状の弾性材よりなり、外周縁21が仮壁103の外形より大きく、中央にトンネル掘削機Mの外径より小径の開口部22を有するリング形状に成形されている。このように成形されたエントランスパッキン2は、開口部22の中心と仮壁103の中心が同一の水平軸上に配置されるよう位置を調整されたうえで、一方の面を到達立坑101の坑壁102に接触させた状態で配置されている。
【0025】
パッキン固定部材3は、エントランスパッキン2の他方の面上に間隔を設けて放射状に配置される複数の固定部材本体31と、隣り合う固定部材本体31どうしを連結するワイヤー32とを備えている。固定部材本体31は帯状鋼板よりなり、一端311がエントランスパッキン2の外周縁21近傍に配置され、他端312がエントランスパッキン2の内周縁23近傍に配置されている。
【0026】
そして、固定部材本体31の一方の面がエントランスパッキン2の他方の面に接触し、他方の面における他端312近傍にワイヤー32を挿通させる挿通リング313が備えられている。
【0027】
チューブパッキン4は、固定部材本体31の挿通リング313が備えられている面上に配置され、合成ゴム等の膨縮自在なチューブ状の弾性材よりなり、トンネル掘削機Mを囲繞可能なドーナツ形状に成形されている。そして、その外周部41には、同じく合成ゴム等の伸縮自在な帯状シート材よりなる耳部43が設けられている。
【0028】
環状反力材5は、チューブパッキン4を挟んでパッキン固定部材3に備えた複数の固定部材本体31各々に対応して平行に配置される複数の反力材本体51と、隣り合う反力材本体51どうしを連結するワイヤー52とを備えている。反力材本体51は帯状鋼板よりなり、一端511がエントランスパッキン2の外周縁21側に配置され、他端512がエントランスパッキン2の内周縁23側に配置されている。
【0029】
また、反力材本体51はその側面視形状が、膨張させた際のチューブパッキン4の外形に沿うように一端511から他端512に向かって湾曲しており、他端512近傍には、ワイヤー52を挿通させる挿通リング513が備えられている。
【0030】
上述するエントランスパッキン2、パッキン固定部材3、チューブパッキン4および環状反力材5は、互いに接触する状態で接続金具6を介して一体に成形されて止水装置1をなすとともに、到達立坑101の坑壁102に固定されている。
【0031】
具体的には、接続金具6は、
図1で示すように、到達立坑101の坑壁102にあらかじめ埋設されているインサートナット61と、基端がインサートナット61に螺合するアンカーボルト62と、アンカーボルト62の先端に螺合されるナット63とを備えている。また、これらの組み合わせが、
図2で示すように、到達立坑101の仮壁103を囲繞するように、坑壁102に間隔を設けて複数設けられ、さらに、隣り合うアンカーボルト62どうしを連結する、リング状の挟持板64が備えられている。
【0032】
一方で、エントランスパッキン2の外周縁21近傍、固定部材本体31の一端311近傍、チューブパッキン4の耳部43、および反力材本体51の一端511近傍各々にあらかじめ孔(図示せず)が設けられている。そして、これらの孔に、インサートナット61に基端を螺合したアンカーボルト62を貫通させた状態で、アンカーボルト62に挟持板64を挿通させるとともに、ナット63を締結させている。これにより、エントランスパッキン2、パッキン固定部材3、チューブパッキン4および環状反力材5は、坑壁102と挟持板64との間に挟み込むようにして一体に成形され、到達立坑101に固定される。
【0033】
上記のとおり、到達立坑101の坑壁102に固定された止水装置1は、トンネル掘削機Mが到達立坑101に到達し、仮壁103を切削して到達立坑101の坑壁102を貫通したのち、以下の手順を経て、到達立坑101の坑壁102とトンネル掘削機Mとの隙間を止水する止水構造を形成する。
【0034】
なお、本実施の形態では、パッキン固定部材3を構成する固定部材本体31の挿通リング313および環状反力材5を構成する反力材本体51の挿通リング513にそれぞれ、あらかじめ緊張力を付与していない状態のワイヤー32、52を挿通させておく。
【0035】
まず、
図3で示すように、トンネル掘削機Mを前進させて、エントランスパッキン2の開口部22およびチューブパッキン4を貫通させる。すると、エントランスパッキン2の一方の面において、外周縁21近傍が到達立坑101の坑壁102に接触したままの状態で、内周縁23近傍がトンネル掘削機Mの外殻に接触する。
【0036】
この状態において、パッキン固定部材3の固定部材本体31も、エントランスパッキン2の他方の面に沿うように変形するため、一端311がエントランスパッキン2の外周縁21近傍に固定され、他端312がエントランスパッキン2の内周縁23近傍に配置された状態を維持する。これにより、固定部材本体31各々の挿通リング313を挿通するワイヤー32は、エントランスパッキン2およびトンネル掘削機Mを囲繞するように配置されることとなる。
【0037】
そこで、レバーブロック(登録商標:図示せず)等を用いて
図2で示すような方向にワイヤー32を牽引することにより緊張力を付与し、ワイヤー32と複数の固定部材本体31を介してエントランスパッキン2に押圧力を作用させる。こうして、パッキン固定部材3を介してエントランスパッキン2の一方の面を、トンネル掘削機Mの外殻に固定させる。
【0038】
次に、
図4で示すように、トンネル掘削機Mを囲繞するチューブパッキン4を膨張させて、トンネル掘削機Mに接触したエントランスパッキン2の内周縁23近傍における固定部材本体31、および隣り合う固定部材本体31の間から臨むエントランスパッキン2に接触させる。この状態でさらにチューブパッキン4を膨張させて、チューブパッキン4の膨張圧力を、固定部材本体31を介して、もしくはエントランスパッキン2に直接、押圧力として作用させる。
【0039】
これにより、エントランスパッキン2には、パッキン固定部材3による押圧力が作用していない部位に対しても、チューブパッキン4を介して押圧力が作用されることから、エントランスパッキン2の内周縁23近傍全体が、トンネル掘削機Mの外殻に均質に密着される。
【0040】
この状態において、環状反力材5の反力材本体51各々は膨張したチューブパッキン4に接触し、反力材本体51各々の挿通リング513を挿通するワイヤー52は、エントランスパッキン2、パッキン固定部材3、チューブパッキン4およびトンネル掘削機Mを囲繞するように配置されている。
【0041】
そこで、レバーブロック(登録商標:図示せず)等を用いて
図2で示すような方向にワイヤー52を牽引することにより緊張力を付与し、ワイヤー52と複数の反力材本体51を介してチューブパッキン4に押圧力を作用させる。すると、環状反力材5は、膨張したチューブパッキン4の反力を受ける部材として機能する。
【0042】
したがって、チューブパッキン4の膨張圧力は、効率よくエントランスパッキン2の押圧力として作用するため、エントランスパッキン2の内周縁23近傍全体は、より強固にトンネル掘削機Mの外殻に密着され、到達立坑101の坑壁102とトンネル掘削機Mとの間の隙間には、止水装置1による止水構造が形成される。
【0043】
このように、止水装置1は、環状反力材5を備えることにより、膨張したチューブパッキン4の反力を受けるべく、従来技術のような止水装置1を取り囲む形状の構造物を到達立坑101を構築し、その内周面にチューブパッキン4を配置する必要がない。したがって、到達立坑101内において止水装置1全体を露出した状態に配置することができる。また、環状反力材5を構成する複数の反力材本体51が、間隔を有して配置されるため、隣り合う反力材本体51の間に、エントランスパッキン2とチューブパッキン4を露出させる視認領域が形成される。
【0044】
これにより、作業者は、止水装置1の外観だけでなく、エントランスパッキン2やチューブパッキン4をも目視確認でき、高い精度をもって止水装置1の保守管理を実施できる。そして、エントランスパッキン2やチューブパッキン4に不具合が生じた際には、接続金具6のナット63および挟持板64を取り外すことにより、環状反力材5を撤去できるため、エントランスパッキン2やチューブパッキン4の補修や交換等のメンテナンス作業を容易に行うことが可能となる。
【0045】
なお、
図5(a)で示すように、チューブパッキン4を被覆材7にて被覆すると、止水装置1により形成した止水構造に、より高い止水性能を付与することが可能となる。
【0046】
被覆材7は、
図5(b)で示すように、膨張時のチューブパッキン4の外形形状に沿うよう、内周断面が膨張時のチューブパッキン4の外周断面と同じ大きさに形成された、ドーナツ形状をなす非伸縮部材であり、本実施の形態では、網状部材を採用している。このような被覆材7にてチューブパッキン4を被覆すると、膨張させた状態のチューブパッキン4に外力を作用させても、チューブパッキン4は被覆材7によりその変形が規制される。
【0047】
つまり、環状反力材5のワイヤー52に緊張力を付与して膨張したチューブパッキン4に押圧力を作用させても、チューブパッキン4の一部が隣り合う反力材本体51の隙間から膨出するような変形を生じることがない。これにより、チューブパッキン4の膨張圧力を無駄なく均等に、エントランスパッキン2に対して押圧力として作用させることが可能となる。
【0048】
したがって、地下水が高圧となるような環境に到達立坑101が構築される場合であっても、チューブパッキン4は高圧地下水に抗ってエントランスパッキン2に押圧力を作用させ、エントランスパッキン2をトンネル掘削機Mに密着させた状態を維持することができる。これにより、高価な耐圧性の合成ゴムにてチューブパッキン4を製造することなく、チューブパッキン2を被覆材7にて被覆するのみの簡略かつ安価な構造で、止水装置1の止水性能を向上させ、到達立坑101内への湧水の流入を確実に防止することが可能となる。
【0049】
なお、被覆材7は、網状部材に限定されるものではなく、チューブパッキン4を膨張させた際に、その外形状に沿うよう形状を変容させることのできる非伸縮性の部材であれば、いずれの材料を採用してもよい。また、本実施の形態では、チューブパッキン4の耳部43も被覆材7にて被覆する形状に成形しているが、チューブパッキン4の膨張部分のみを被覆する構成としてもよい。
【0050】
本発明の止水装置1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0051】
例えば、本実施の形態では、エントランスパッキン2、パッキン固定部材3、チューブパッキン4および環状反力材5を一体に形成したが、必ずしもこれに限定されるものではない。また、環状反力材5も、エントランスパッキン2を押圧するチューブパッキン4の反力を受けることができるものであれば、いずれの部材を採用してもよい。
【0052】
例えば、環状反力材5を別体とし、チューブパッキン4を囲繞するワイヤーのみとしてもよい。こうすると、止水装置1をより安価に製作することができるとともに、チューブパッキン4およびエントランスパッキン2の視認領域を広く確保できるため、保守管理作業をより精度よく実施することが可能となる。
【0053】
または、チューブパッキン4と環状反力材5の両者を別体とし、環状反力材5として、チューブパッキン4を膨張させたときの外周より略小さい内周を有するリング状のフレームを採用してもよい。
【0054】
この場合、
図6で示すように、トンネル掘削機Mが到達立坑101の坑壁102を貫通し、エントランスパッキン2の一方の面における内周縁23近傍が、トンネル掘削機Mの外殻に接触した後、
図7で示すように、膨張させる前のチューブパッキン4とリング状のフレームよりなる環状反力材5を、トンネル掘削機Mを囲繞するように配置する。
【0055】
そして、
図8で示すように、パッキン固定部材3の他方の面と環状反力材5の内周面の両者を押圧するまで、チューブパッキン4を膨張させればよい。このとき、チューブパッキン4は、必ずしも別体にしなくてもよく、環状反力材5のみを別体としてもよい。また、環状反力材5にリング状のフレームを採用する際には、例えば骨組み構造としておくと、エントランスパッキン2とチューブパッキン4を露出させる視認領域を確保することができる。
【0056】
さらに、本実施の形態では、止水装置1を接続金具6を介して到達立坑101の坑壁102に直接設置したが、必ずしもこれに限定されるものではない。例えば、到達立坑101のトンネル掘削機到達予定領域を囲うように設けられるエントランス躯体104に設けてもよい。
【0057】
このとき、止水装置1は、
図9で示すように、エントランスパッキン2の一方の面が到達立坑101の坑壁102と対向するよう、エントランス躯体104の内周部ではなく、端面に設置する。このため、エントランス躯体104にて止水装置1が隠れることはなく、到達立坑101の坑壁102に直接設置した場合と同様に、作業員は止水装置1全体を目視確認することが可能となる。
【0058】
また、本実施の形態では、接続金具6にインサートナット61とアンカーボルト62を採用したが、必ずしもこれに限定されるものではない。エントランスパッキン2、パッキン固定部材3、チューブパッキン4および環状反力材5を、到達立坑101の坑壁102に固定できる手段であれば、いずれの接続具を採用してもよい。
【0059】
例えば、インサートナット61およびアンカーボルト62に替えて、あと施工アンカーを採用すると、トンネル掘削機101の到達立坑101への正確な到達位置を確認してから、坑壁102に接続金具6を介して止水装置1を設置できる。こうすると、トンネル掘削機Mと坑壁102との隙間に、止水装置1を用いてより高性能の止水構造を形成することが可能となる。
【符号の説明】
【0060】
1 止水装置
2 エントランスパッキン
21 外周縁
22 開口部
23 内周縁
3 パッキン固定部材
31 固定部材本体
311 一端
312 他端
313 挿通リング
32 ワイヤー
4 チューブパッキン
41 外周部
42 内周部
43 耳部
5 環状反力材
51 反力材本体
511 一端
512 他端
513 挿通リング
52 ワイヤー
6 接続金具
61 インサートナット
62 アンカーボルト
63 ナット
64 挟持板
7 被覆材
101 到達立坑
102 坑壁
103 仮壁
104 エントランス躯体