(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】遮水構造
(51)【国際特許分類】
B09B 1/00 20060101AFI20220104BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20220104BHJP
E02B 7/02 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
B09B1/00 F ZAB
B32B5/02 Z
E02B7/02 A
(21)【出願番号】P 2017209466
(22)【出願日】2017-10-30
【審査請求日】2020-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000204192
【氏名又は名称】太陽工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智弘
(72)【発明者】
【氏名】大槻 貴志
(72)【発明者】
【氏名】田中 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】奥村 裕司
(72)【発明者】
【氏名】西村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】池谷 典尚
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-297660(JP,A)
【文献】特開2003-236489(JP,A)
【文献】特開平11-179321(JP,A)
【文献】実開昭57-056812(JP,U)
【文献】特開2003-118022(JP,A)
【文献】特開2009-034652(JP,A)
【文献】米国特許第05258217(US,A)
【文献】特開2004-255263(JP,A)
【文献】特開平08-159951(JP,A)
【文献】登録実用新案第3001388(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00
B32B 1/00-43/00
E02B 3/12、7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土質材料により造成された下地層の上層に遮水シートを配置した遮水構造であって、
前記遮水シートと前記下地層との間に保護マットが敷設され、
前記土質材料に、5~500kg/個の石材が多数使用
され、
前記保護マットは、長繊維不織布で構成され、その目付量が、1200~2100g/m
2の範囲で設定されることを特徴とする遮水構造。
【請求項2】
土質材料により造成された下地層の上層に遮水シートを配置した遮水構造であって、
前記遮水シートと前記下地層との間に保護マットが敷設され、
該保護マットは、繊維材が積層された内部にテキスタイルが介在されており、
前記保護マットは、長繊維不織布で構成され、その目付量が1200~2100g/m
2の範囲で設定されていることを特徴とする遮水構造。
【請求項3】
土質材料により造成された下地層の上層に遮水シートを配置した遮水構造であって、
前記遮水シートの下方に保護マットが敷設され、
該保護マットと前記下地層との間にジオグリッドが敷設され、
該ジオグリッドの格子間隔は、1mm~30mmの範囲で設定され、該ジオグリッドのグリッドを構成する素材の外径は、1mm~30mmの範囲で設定されることを特徴とする遮水構造。
【請求項4】
前記保護マットは、長繊維不織布で構成され、その目付量が1200~2100g/m
2の範囲で設定されていることを特徴とする請求項3に記載の遮水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管理型海面廃棄物処分場に敷設される遮水シートを保護する保護マットを備えた遮水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般廃棄物や産業廃棄物を焼却施設にて燃焼させた残渣である焼却灰は、陸上もしくは海面の管理型廃棄物処分場に埋め立てられている。管理型海面廃棄物処分場(以下、処分場という)は、場内の水が場外に浸出しないように、処分場として区画する、例えば傾斜堤護岸や混成堤護岸の側面、及び当該処分場の底面には遮水構造が施されている。当該遮水構造のひとつの工法としては、例えばポリエチレン(HDPE、LLDPE)製や、塩化ビニル(PVC)製などの遮水シートを用いる場合がある。処分場の基準((財)港湾空間高度化環境研究センター:管理型廃棄物埋立護岸設計・施工・管理マニュアル(改訂版),2008.)では、遮水シートの厚みは1.5mm以上とされている。しかし、既往の処分場では、施工時の安全率を考慮して遮水シートの厚みは3.0mm以上が採用されている。この遮水シートを敷設する下地層の表面の不陸に、突起等があると、その突起等が遮水シートを突き刺したり、引っ掻いたりして、遮水シートを損傷する懸念があった。そのために、下地層の表面には、粒径の細かな土質材料を敷き、転圧や均し作業を行って不陸を整正している。前記土質材料は、粒径略60mm以下の石材が多数用いられている。
【0003】
ところで、下地層の上面には、土質材料の小さな凹凸から遮水シートの損傷を防止するための保護マットが敷設され、該保護マットの上面に遮水シートが敷設されている。また、遮水シートの敷設施工にあたって、遮水シートが潮汐や波浪により浮き上がらないように、遮水シート上にも土質材料を被せて遮水シートを安定させるようにしている。この時、遮水シート上の土質材料によっても遮水シートが損傷しないように、遮水シートの下側のみならず、上側にも同様の保護マットが敷設される(特許文献1参照)。
【0004】
この保護マットには、長繊維不織布や短繊維不織布が用いられている。この長繊維不織布や短繊維不織布は、単位面積あたりの繊維量が所定質量となるように繊維材を複数層に分けて積層した後に、針を複数層に重ねた各層に貫通するように押し込むことで、各層の繊維材が上下層と絡まり、所定の厚みの不織布として製造されている。
【0005】
また、施工時には、これら下部保護マット、遮水シート、上部保護マットをそれぞれ敷設する必要がある。これら3回の敷設作業は煩雑であり、施工時間が長くなる。このために、既往の標準施工方法では、下部保護マット、遮水シート及び上部保護マットを、製造工場にて三枚重ねた状態で一体化した三層ラミネート加工シートとして製造し、この三層ラミネート加工シートを、現地に敷設する作業が行われている。これにより、敷設作業が1回で済み、施工時間と施工費の縮減が図れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、遮水シートを用いた処分場の建設場所が、波浪の静穏度が確保されていない沿岸域となる場合、遮水シートの沈設前に、下地層となる土質材料(粒径が60mm以下の多数の石材)のうち波打ち際のものが波浪等により洗掘されて法尻方向に崩落することが懸念される。下地層が設計形状を満足しない状態で遮水シートを敷設すると、遮水シートの敷設形状も設計形状を満足しないこととなる。したがって、下地層を設計形状に保持可能な材料で形成する対策が必要となる。その対策として、土質材料を波浪等により洗掘されるおそれのない、粒径が60mmより大きく、重量の大きな、例えば5~500kg/個の石材で下地層を形成する必要がある。
【0008】
波浪の静穏度が確保されているのであれば、下地層の土質材料として、粒径が60mm以下の石材を多数使用することが可能であり、この場合、隣接する石材間の間隔が小さいことと、また石材自体が転動するために、下地層の石材と保護マットとが石の面や石の角であっても多くの点で接触するために、遮水シートの上部から押さえ層の荷重やその後の埋立材による荷重が付与された状態になっても、下地層の石材から保護マットへの貫入力が小さくなり、遮水シートの遮水品質を確保することができる。この場合の既往実績では、保護マットの貫入抵抗力は約1500Nを必要とし、保護マットには長繊維不織布が適用され、その目付量は850g/m2となっている。
【0009】
しかしながら、下地層の土質材料として、例えば5~500kg/個の石材を多数使用すると、石材自体が転動しにくく、また隣接する石材間の間隔が大きくなり、下地層と保護マットとが少ない点で接触することになる。このような状態では、遮水シートの上部から押さえ層の荷重が付与された状態になると、下地層の石材から保護マットへの貫入力が大きくなり、下地層の石材により保護マットが損傷し、その結果、遮水シートの遮水品質が確保できなくなる可能性がある。
【0010】
また、処分場における遮水シートの施工にあたっては、遮水シート自体の重量等の規格を既往の規格と同一にすると、その遮水シートの上下両面に配置される保護マットの仕様は、石材に対する貫入抵抗力を満足した上で厚さが薄く軽量である方が、施工性が良好になる。すなわち、施工時において、三層ラミネート加工シートを海面上に玉ブイ等を利用して、浮かした状態で仮係留している際や、海面での仮係留の状態から気中部に吊り上げる場合には、遮水シートの上下に一体化された各保護マットは海水に濡れた状態となっている。遮水シートと保護マットとはラミネート加工(熱融着)にて一体化されているが、各保護マットが水分を含み重くなり遮水シートと各保護マットとが剥離する懸念がある。そのために、保護マット自体は薄くし、重量は出来る限り軽量化したほうが望ましい。
【0011】
また、別の敷設方法として、機械式のシート敷設機を使用することも想定される。この敷設方法は、陸上ヤードで芯材となる鋼管(例えば直径φ約90cm、長さ約24m)に三層ラミネート加工シートをロール状に巻き取り、専用の吊り治具を使用して所定の箇所に誘導して、三層ラミネート加工シートの端部を敷設箇所の最上段に固定後、三層ラミネート加工シートを最下段に向けて引き出して沈設して敷設する方法である。この敷設方法においては、保護マットの厚みが厚くなると、巻き取り時に巻き取り径が大きくなるため、巻き取り可能長が短くなるなどの弊害が生じる。したがって、保護マットの厚みは必要最小限に抑えることが望ましい。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、施工性も良好で、下地層に粒径の大きな石材を用いた場合においても、保護マットの貫入抵抗力を増大させることによって施工性を損なうことなく、下地層の石材による遮水シートの遮水品質を確保することができる遮水構造を提供することを目的とする。ここに遮水シートの遮水品質とは、処分場の基準となる厚み1.5mm以上であり、漏水せず、母材の80%以上の強度を有することと定義する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、請求項1の発明は、土質材料により造成された下地層の上層に遮水シートを配置した遮水構造であって、前記遮水シートと前記下地層との間に保護マットが敷設され、前記土質材料に、5~500kg/個の石材が多数使用され、前記保護マットは、長繊維不織布で構成され、その目付量が、1200~2100g/m2の範囲で設定されることを特徴とするものである。
請求項1の発明では、保護マットの必要な貫入抵抗力を確保することができる。また、単位重量当たりの貫入抵抗力が短繊維不織布よりも大きな長繊維不織布を採用することで、必要な貫入抵抗力を有する保護マットの重量を軽量化することができる。
【0014】
なお、ASTM D 4833による試験方法によって、保護マットの貫入抵抗力を測定すると、例えば、目付量が約1200g/m2では、貫入抵抗力が約2000Nであり、目付量が約1500g/m2では、貫入抵抗力が約2300Nであり、目付量が約1700g/m2では、貫入抵抗力が約2800Nであり、従来の保護マットにおける、目付量が約850g/m2時の貫入抵抗力は約1500Nであり、これよりも大きく、良好な結果を得ている。
【0015】
また、請求項1の発明では、保護マットの目付量を大きく設定できる場合には、遮水シートの厚みを薄くすることができ、三層ラミネート加工シートの厚みを最小限に抑えることができる。なお、遮水シートの厚みの増加による費用は、保護マットの目付量の増加による費用よりも高価になるので、保護マットの目付量に基づいて、遮水シートの厚みを薄くすることができれば、経済的にも有利となる。さらに、請求項1の発明では、下地層の土質材料として、5~500kg/個の石材が多数使用された状態であっても、遮水シートを十分に保護することができる。
【0016】
すなわち、例えば、遮水シートの厚みが3.0mmであり、保護マットの目付量が850g/m2である場合に対して、法令基準値は1.5mm以上であることから、同等の応力条件下において、保護マットの目付量を1700~2000g/m
2
の範囲内で設定して貫入抵抗力を増加させることで、遮水シートの厚みを2mmに減少させても、遮水シートの遮水品質を満足することが可能となるような場合である。このときの遮水シートの材料費の削減額は、保護マットの材料費の増加額より大きく、同一品質を維持した上で、経済的に安価となる。
【0017】
請求項2の発明は、土質材料により造成された下地層の上層に遮水シートを配置した遮水構造であって、前記遮水シートと前記下地層との間に保護マットが敷設され、該保護マットは、繊維材が積層された内部にテキスタイルが介在されており、前記保護マットは、長繊維不織布で構成され、その目付量が1200~2100g/m
2
の範囲で設定されていることを特徴とするものである。
請求項2の発明では、不織布の繊維の絡みによる貫入抵抗力に、テキスタイルによる面的な貫入抵抗力を加えることで、保護マットの貫入抵抗力を増加させることができ、遮水シートの遮水品質を確保することができる。
【0018】
なお、テキスタイルの介在位置を保護マットの内部とすることで、遮水シートと保護マットとの層間摩擦係数を変更する必要がなく、設計上の適用性を確保する特徴がある。すなわち、遮水シートは主に管理型廃棄物処分場の護岸傾斜面に敷設されるため、傾斜面上で滑落に対する安定性が必要となる。そのため、遮水シートと保護マットの層間、および保護マットと石材との層間に一定以上の摩擦抵抗力が必要となり、設計上の摩擦係数が設定されている。この摩擦係数が発揮できるよう保護マットの表面材質が選定されている。したがって、テキスタイルを保護マットの表面に介在させると摩擦係数が低下し、傾斜面上の安定が損なわれることが懸念される。よって、テキスタイルの介在位置を保護マットの内部に配置することで、護岸の安定設計を変更することなく、適用することが可能となる。
【0019】
また、請求項2の発明では、保護マットは、その目付量が1200~2100g/m
2
の範囲で設定されているので、保護マットの貫入抵抗力をさらに増加させることができ、遮水シートの損傷をさらに抑制することができる。なお、ASTM D 4833による試験方法によって、保護マットの貫入抵抗力を測定すると、例えば、目付量1500g/m2では、貫入抵抗力が約2300Nであるが、同じ目付量1500g/m2でも中央部にポリプロピレン製のテキスタイルを挿入して介在させることで、貫入抵抗力は約2600Nに増加する。
【0020】
請求項3の発明は、土質材料により造成された下地層の上層に遮水シートを配置した遮水構造であって、前記遮水シートの下方に保護マットが敷設され、該保護マットと前記下地層との間にジオグリッドが敷設され、該ジオグリッドの格子間隔は、1mm~30mmの範囲で設定され、該ジオグリッドのグリッドを構成する素材の外径は、1mm~30mmの範囲で設定されることを特徴とするものである。
請求項3の発明では、下地層の石材の突起部が、ジオグリッドの格子間に僅かに突き刺
さった状態で該ジオグリッドに捕捉されることで、石材の突起部が、それ以上保護マットに貫入できなくなる。その結果、保護マットへの貫入力が低減され、遮水シートの遮水品質を確保することができる。このジオグリッドを下部保護マットと一体化することで、突起部がジオグリッドに捕捉され、層間摩擦係数は設計値を満足することが可能となる。また、ジオグリッドの格子間隔を、1mm~30mmの範囲で設定して、グリッドを構成する素材の外径を、1mm~30mmの範囲で設定するので、ジオグリッドの強度を適宜向上させることができ、また保護マットへの貫入力を確実に低減させることができる。しかも、ジオグリッドを使用するので、ジオグリッドを敷設する際の作業性を向上させることができる。
【0021】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記保護マットは、長繊維不織布で構成され、その目付量が1200~2100g/m2の範囲で設定されていることを特徴とするものである。
請求項4の発明では、保護マットの貫入抵抗力をさらに増加させることができ、遮水シートの損傷をさらに抑制することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の遮水構造によれば、下地層に敷設される保護マットの貫入抵抗力を増加させることができ、または、下地層から保護マットへ伝達される貫入力を低減させることができる。これにより、下地層が、5~500kg/個の多数の石材で造成されていても、本遮水構造により遮水シートの遮水品質を確保することができる。また、保護マットは、必要となる貫入抵抗力を確保する材料の中では、その厚みを最小限に抑え、さらに、重量も軽量化できるので、施工性も良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る遮水構造が採用された管理型廃棄物処分場の模式的断面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態に係る遮水構造を示す断面図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係る遮水構造を示す断面図である。
【
図5】
図5は、第3実施形態に係る遮水構造を示す断面図である。
【
図6】
図6は、第4実施形態に係る遮水構造を示す断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係る遮水構造が施された混成堤護岸の断面図である。
【
図8】
図8は、従来の遮水構造が施された混成堤護岸の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を
図1~
図7に基づいて詳細に説明する。
本発明の第1~第4実施形態に係る遮水構造1a~1d(
図1には第1実施形態に係る遮水構造1aが記載)は、
図1に示すように、例えば、管理型海面廃棄物処分場2として区画する傾斜堤護岸3の傾斜面3b、及び当該処分場2の底面2aに施されている。詳しくは、傾斜堤本体3aには、下方に向かって処分場2内に傾斜する傾斜面3bが形成され、該傾斜面3bに沿って、または場合によっては処分場2内の底面2aまでに沿って、土質材料により下地層6が造成されている。
図2も参照して、下地層6の土質材料には、傾斜面上では5~500kg/個の石材が多数使用され、底面では現地盤の岩盤やセメント改良地盤が掘削されて、凹凸が大きな状態である。該下地層6に沿って、第1~第4実施形態に係る遮水構造1a~1d(
図1及び
図2には第1実施形態に係る遮水構造1aが記載)が敷設される。第1~第4実施形態に係る遮水構造1a~1dに採用した三層ラミネート加工シート10に沿って、押さえ層7が土質材料によって造成される。該押さえ層7の土質材料には、遮水シート12を安定させるに十分な上載圧となるように、適切な粒径の石材(例えば粒径60mm以下の砕石)が多数使用される。
【0027】
まず、第1実施形態に係る遮水構造1aを
図3に基づいて説明する。
第1実施形態に係る遮水構造1aには、三層ラミネート加工シート10が採用される。該三層ラミネート加工シート10は、遮水シート12を上下から保護マット14、15で挟み込むようして三枚重ねた状態で一体化されたものである。
遮水シート12は、所望の遮水機能を有し、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、または塩化ビニール(PVC)などの合成樹脂製により構成される。該遮水シート12は、その厚さが公称1.5~3.0mm(製造実績1.5~3.5mm)の範囲で設定される。
【0028】
保護マット14、15は、以下の説明では、遮水シート12の上面に敷設されるものを上部保護マット14と称し、下地層6の上面で遮水シート12との間に敷設されるものを下部保護マット15と称する。上部及び下部保護マット14、15は不織布で構成される。該不織布は、繊維材の単位面積あたりの質量(公称目付量)や厚さを所定値となるように加工して、これを複数層(例えば、2層~4層)、に亘って積層した後に、針を複数積層した各層に貫通するように押し込むことで、各層の繊維材が上下層と絡まりあうことで、所定の目付量や厚みを有するように構成される。この繊維材は、ポリエステル製であり、その径は1.5dtex~13.0dtex、好ましくは、その径は、2.5dtex~8.0dtexの範囲で設定される。ポリエステル製のため耐熱性、耐侯性、耐水性、耐油性、耐薬品性などに優れていて、製品の縦と横の引張応力や貫入抵抗などの物性差がほとんどない特徴を有している。
【0029】
上部保護マット14は、目付量850g/m2程度の長繊維不織布を採用する。短繊維不織布の場合は目付量1400g/m2程度を採用する。
一方、下部保護マット15は、長繊維不織布であって、遮水シート12の厚みが3.0mmに対して、その目付量が1200~2100g/m2の範囲で設定される。
また、ASTM D 4833による試験方法(貫入棒の直径:8mm、貫入速度:30cm/min)によって、下部保護マット15の貫入抵抗力を測定した一例では、長繊維不織布の目付量850g/m2の場合の貫入抵抗力は1538Nであるが、目付量1200g/m2の場合の貫入抵抗力は2268Nであり、目付量1500g/m2の場合の貫入抵抗力は2318Nであり、目付量1700g/m2の場合の貫入抵抗力は2855Nである。上述した下地層6(5~500kg/個の石材が多数使用される下地層6)からの貫入抵抗力として十分な結果を得ている。
【0030】
これは、施工場所での下地層の石材の配置条件を再現した室内実験および現地実証実験において、目付量1500g/m2の下部保護マット15を用いた場合、少なくとも載荷荷重80kPaまでの範囲で厚み3.0mmの遮水シート12に対しての遮水品質が確保できることが確認できた。またより極端な石材角を想定した有限要素法による数値解析(FEM解析)においても、目付量1700g/m2の下部保護マット15を用いた場合、少なくとも載荷荷重45kPaまでの範囲で厚み3.0mmの遮水シート12に対しての遮水品質が確保できることが確認できた。
【0031】
その他の物性として、試験結果の一例を示すと、公称目付量が1500g/m2の下部保護マット15の場合には、以下のようになる。
厚さ(mm):11.7(JIS L 1908準拠 押圧0.7KPa)
厚さ(mm):9.7(JIS L 1908準拠 押圧2.0KPa)
引張強さ(N/5cm):4560(JIS L 1908準拠 縦方向)
引張強さ(N/5cm):5590(JIS L 1908準拠 横方向)
伸び率(%):95(JIS L 1908準拠 縦方向)
伸び率(%):95(JIS L 1908準拠 横方向)
貫入抵抗力(N):2268(ASTM D 4833準拠)
【0032】
一方、公称目付量が1700g/m2の下部保護マット15の場合には、以下のようになる。
厚さ(mm):12.5(JIS L 1908準拠 押圧2.0KPa)
引張強さ(N/5cm):5288(JIS L 1908準拠 縦方向)
引張強さ(N/5cm):5711(JIS L 1908準拠 横方向)
伸び率(%):93(JIS L 1908準拠 縦方向)
伸び率(%):80(JIS L 1908準拠 横方向)
貫入抵抗力(N):2855(ASTM D 4833準拠)
【0033】
下部保護マット15の目付量に基づいて、遮水シート12の厚みが設定される。すなわち、上述した実施形態では、下地層6に5~500kg/個の石材が使用される場合、遮水シート12の厚みが3.0mmに対して、下部保護マット15は、遮水シート12の品質確保として一律厚さ1.5mm以上を確保する伸び変形を許容する程度の貫入抵抗力を有する必要がある。そのため、下部保護マット15の目付量は現地で載荷される上載荷重に応じて、その必要最小限の貫入抵抗力を発揮する下限値と、現地での不可抗力等を考慮した安全率に基づいた上で経済的に許容可能な上限値として、例えば1200~1600g/m2の範囲で設定される。これに対して、例えば、下部保護マット15の目付量が1500~1900g/m2の範囲で設定され貫入抵抗力を増強させるならば、遮水シート12の伸び変形が縮小するため、遮水シート12の厚みを3.0mmから例えば2.5mmに変更設定してもよい。また、下部保護マット15の目付量が1700~2000g/m2の範囲で設定されるならば、遮水シート12の厚みを同様に例えば2.0mmに設定してもよい。さらに、1800~2100g/m2の範囲で設定されるならば、遮水シート12の厚みを、処分場として法令基準値となる1.5mm(所望の遮水機能を有する最低厚さ)に設定してもよい。これにより、上述した複数の形態において、三層ラミネート加工シート10としての厚みはさほど相違ないが、遮水シート12の厚みの増加にかかる費用は、下部保護マット15の目付量の増加にかかる費用よりも高価となるので、遮水シート12の厚みが薄いほど経済的に有利となる。
【0034】
そして、以上説明した、本発明の第1実施形態に係る遮水構造1aでは、下部保護マット15の目付量を、遮水シート12の厚みに応じて、1200~2100g/m2の範囲で設定するので、下部保護マット15の貫入抵抗力を、従来の目付量850g/m2の場合よりも増加させることができ、下地層6が、5~500kg/個の多数の石材で造成されていても、下部保護マット15により下地層6からの遮水シート12の必要遮水品質を維持することができる。また、下部保護マット15は、単位重量当たりの貫入抵抗力が短繊維不織布よりも大きな長繊維不織布を採用することで、必要な貫入抵抗力を確保すると共にその重量を軽量化することができる。これにより、三層ラミネート加工シート10を敷設する際の施工性も良好となる。
【0035】
次に、本発明の第2実施形態に係る遮水構造1bを
図4に基づいて説明する。
なお、第2実施形態に係る遮水構造1bを説明する際には、第1実施形態に係る遮水構造1aとの相違点だけを説明する。
第2実施形態に係る遮水構造1bでは、三層ラミネート加工シート10において、長繊維不織布で構成されて、目付量が1200~2100g/m
2の範囲で設定される下部保護マット15の、繊維材の内部にテキスタイル18を介在させて構成されている。
【0036】
テキスタイルは、例えばポリプロピレン製の織布である。この織布での製品例としては土嚢袋などがあり、荷重への耐力を有するものである。この織布の目付量は20g/m2~300g/m2であり、好ましくは、その目付量は50g/m2~100g/m2の範囲で設定される。また引張強さは100N/5cm~2000N/5cmであり、好ましくは、その引張強さは300N/5cm~1000N/5cmの範囲で設定される。またテキスタイルは、高強度ポリプロピレン製の織布や、スプリットフィルム等でも良い。
さらにテキスタイルを介在させるメリットとしては、以下の効果がある。三層ラミネート加工シート10を法面となる下地層6の上に敷設し、押さえ層7の土質材料を積載した際には、下地層6の石材の突起部が三層ラミネート加工シート10に少し貫入した状態で、法面の下方向(法尻方向)に引きずりこまれる事象が発生することが懸念される。少し貫入した状態で引きずりこまれると、その部分の下部保護マット15の局部的な目付量が当初量より少なくなり、想定した貫入抵抗値が発現しないことが懸念される。そこで下部保護マット15の層間にテキスタイル18を介在させることで、押さえ層7の土質材料を積載した際の貫入量をテキスタイル18が介在した位置までに抑制し、テキスタイル18が介在した位置から遮水シート12までの繊維量が削られることがなくなる。押さえ層7の土質材料を積載後には、埋立材によるさらなる上載荷重が三層ラミネート加工シート10に作用することになる。この際の貫入抵抗力を確保することが可能となる。貫入抵抗力をより確保するためには、テキスタイル18は下部保護マット15の下地層6側に介在させることがより効果がある。
【0037】
長繊維不織布(目付量:1500g/m2)の厚み方向の中央部にテキスタイル18を1枚介在させた下部保護マット15の物性として、試験結果の一例を示すと、以下のようになる。
厚さ(mm):9.3(JIS L 1908準拠 押圧2.0KPa)
引張強さ(N/5cm):6360(JIS L 1908準拠 積層方向と同じ縦方向)
引張強さ(N/5cm):4920(JIS L 1908準拠 積層方向と直交する横方向)
伸び率(%):93(JIS L 1908準拠 縦方向)
伸び率(%):94(JIS L 1908準拠 横方向)
貫入抵抗力(N):2654(ASTM D 4833準拠)
【0038】
そして、以上説明した、本発明の第2実施形態に係る遮水構造1bでは、下部保護マット15の繊維材の内部にテキスタイル18を介在させているので、下部保護マット15への貫入抵抗力(2654N)を、第1実施形態に係る遮水構造1aに採用した下部保護マット15の貫入抵抗力(2268N)よりも増加させることができ、遮水シート12の必要遮水品質を維持することができる。
【0039】
なお、第2実施形態に係る遮水構造1bに採用した下部保護マット15では、各層間のいずれかにテキスタイル18を1枚介在させているが、下部保護マット15の内部にテキスタイル18を繊維材と互層状態として複数枚介在させるように構成してもよい。
また、第2実施形態に係る遮水構造1bに採用した下部保護マット15は、長繊維不織布で構成されて、その目付量が1200~2100g/m2の範囲で設定されているが、目付量850g/m2程度の長繊維不織布、あるいは目付量1400g/m2程度の短繊維不織布を下部保護マット15として採用して、単一または複数枚のテキスタイル18により必要な貫入抵抗力を有するように構成してもよい。この実施形態では、下部保護マット15単体としての厚みは従来と相違なく、その上で従来よりも貫入抵抗力を増加させることができるので、三層ラミネート加工シート10を敷設する際の施工性も良好となる。
【0040】
次に、本発明の第3実施形態に係る遮水構造1cを
図5に基づいて説明する。
なお、第3実施形態に係る遮水構造1cを説明する際には、第1実施形態に係る遮水構造1aとの相違点だけを説明する。
第3実施形態に係る遮水構造1cは、三層ラミネート加工シート10と、ジオグリッド20と、を備えて構成される。すなわち、三層ラミネート加工シート10の、長繊維不織布で構成されて、目付量が1200~2100g/m
2の範囲で設定される下部保護マット15と、下地層6との間にジオグリッド20が介在されて構成されている。ジオグリッド20は、いわゆる土木用途の補強材であり、格子状のシート材にて構成される。ジオグリッド20は、その材質が、ポリプロピレンやポリエチレン等の高分子化合物にて構成される。ジオグリッド20は、その格子間隔は、1mm~30mmの範囲で設定される。好ましくは、その格子間隔は、3mm~12mmの範囲で設定される。ジオグリッド20のグリッドを構成する素材の外径は、1mm~30mmの範囲で設定される。好ましくは、外径は、3mm~12mmの範囲で設定される。
【0041】
そして、以上説明した、本発明の第3実施形態に係る遮水構造1cでは、下地層6の石材の突起部が、ジオグリッド20の格子間に僅かに突き刺さった状態で該ジオグリッド20に捕捉されることで、石材の突起部が、それ以上下部保護マット15に貫入できなくなる。その結果、下地層6から下部保護マット15に伝達される貫入力が低減されるので、下地層6が、5~500kg/個の多数の石材で造成されていても、遮水シート12の必要遮水品質を維持することができる。
【0042】
なお、第3実施形態に係る遮水構造1cに採用した下部保護マット15は、長繊維不織布で構成されて、その目付量が1200~2100g/m2の範囲で設定されているが、目付量850g/m2程度の長繊維不織布、あるいは目付量1400g/m2程度の短繊維不織布を下部保護マット15に採用して、しかも、ジオグリッド20の仕様を適宜選定することで、該ジオグリッド20の配置により下地層6から下部保護マット15に伝達される貫入力を、下部保護マット15を構成する、目付量850g/m2程度の長繊維不織布(あるいは目付量1400g/m2程度の短繊維不織布)の貫入抵抗力より小さくなるまで低減させるように構成してもよい。この実施形態では、下部保護マット10としての厚みは従来と相違なく、その上で従来よりも下地層6からの貫入力を低減させることができるので、三層ラミネート加工シート10を敷設する際の施工性も良好となる。
【0043】
また、第3実施形態に係る遮水構造1cに採用した下部保護マット15は、長繊維不織布で構成されて、その目付量が1200~2100g/m2の範囲で設定されているが、第2実施形態に係る遮水構造1bに採用した下部保護マット15(テキスタイル18を含む)と下地層6との間にジオグリッド20を介在させて構成してもよい。
【0044】
次に、本発明の第4実施形態に係る遮水構造1dを
図6に基づいて説明する。
なお、第4実施形態に係る遮水構造1dを説明する際には、第1実施形態に係る遮水構造1aとの相違点だけを説明する。
第4実施形態に係る遮水構造1dでは、三層ラミネート加工シート10において、下部保護マット15には、目付量850g/m
2程度の長繊維不織布、あるいは目付量1400g/m
2程度の短繊維不織布が採用される。遮水シート12は、その厚みが3.5~5.5mmの範囲で設定されている。
【0045】
そして、以上説明した、第4実施形態に係る遮水構造1dでは、下地層6が、5~500kg/個の多数の石材で造成されており、下部保護マット15により、十分に遮水シート12を下地層6の石材から保護することができず、遮水シート12が大きく伸びて変形した場合でも、遮水シート12の残存厚みが1.5mm以上確保され、遮水機能を十分果たすことができる。
【0046】
なお、他の実施形態に係る遮水構造として、三層ラミネート加工シート10の厚みとしては厚くなり、工費や工期の面で不利になるものの、第1実施形態に係る遮水構造1aに採用した下部保護マット15と、第4実施形態に係る遮水構造1dに採用した遮水シート12とを組み合わせてもよい。また、第2実施形態に係る遮水構造1bに採用した下部保護マット15と、第4実施形態に係る遮水構造1dに採用した遮水シート12とを組み合わせてもよい。さらに、第1または第2実施形態に係る遮水構造1aまたは1bの下部保護マット15と、第3実施形態に係る遮水構造1cに採用したジオグリッド20と、第4実施形態に係る遮水構造1dに採用した遮水シート12とを組み合わせてもよい。さらにまた、第3実施形態に係る遮水構造1cに採用したジオグリッド20と、第4実施形態に係る遮水構造1dに採用した下部保護マット15及び遮水シート12とを組み合わせてもよい。
【0047】
ところで、参考までに、従来の、遮水シートによる遮水構造が施された一例である混成堤護岸3は、
図8に全断面の一部を示すように、海底地盤に造成した捨石マウンド30上に据付けられた直方体状のケーソン31と、該ケーソン31の処分場2側に5~100kg相当の石材を多数投入して造成された裏込層32と、該裏込層32の傾斜面に沿って、粒径60mm以下の石材を多数投入して造成された下地層6と、該下地層6に沿って敷設された従来の三層ラミネート加工シート10と、該三層ラミネート加工シート10に沿って造成された押さえ層7と、を備えて構成される。さらにもう一重の三層ラミネート加工シート10が敷設されるがここでは説明を省略する。
【0048】
しかしながら、本発明の第1~第4実施形態に係る遮水構造1a~1dを採用すると、上述した従来の遮水構造が施された混成堤護岸3から下地層6の施工を省くことができる。すなわち、本発明の第1~第4実施形態に係る遮水構造1a~1dが施された混成堤護岸3では、
図7に示すように、裏込層32に沿って下地層6を造成する必要はなく、裏込層32に沿って直接第1~第4実施形態に係る遮水構造1a~1dを敷設することができる。具体的には、本発明の第1~第4実施形態に係る遮水構造1a~1dが施された混成堤護岸3では、直方体状のケーソン31と、該ケーソン31の処分場2側に5~100kg相当の石材を多数投入して造成された裏込層32と、該裏込層32に沿って敷設された第1~第4実施形態に係る遮水構造1a~1dと、該第1~第4実施形態に係る遮水構造1a~1dに沿って造成された押さえ層7と、を備えて構成することができる。
これにより、上述した、本発明の第1~第4実施形態に係る遮水構造1a~1dを採用すれば、混成堤護岸3を形成するための施工費と工期を削減するとともに、処分場の内容量も大きくすることができる。
【0049】
なお当然ながら、ケーソン31を使用せず、捨石を海底面から気中部まで積み上げ、該捨石の傾斜面に沿って、粒径60mm以下の石材を多数投入して造成された下地層6と、該下地層6に沿って敷設された第1~第4実施形態に係る遮水構造1a~1dと、該第1~第4実施形態に係る遮水構造1a~1dに沿って造成された押さえ層7と、を備えて構成される傾斜堤護岸3を採用することもできる。
【符号の説明】
【0050】
1a~1d 遮水構造,6 下地層,14 上部保護マット,15 下部保護マット,18 テキスタイル,20 ジオグリッド