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6991507非ステロイド性抗炎症薬誘発性消化管潰瘍形成モデル動物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】非ステロイド性抗炎症薬誘発性消化管潰瘍形成モデル動物
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20060101AFI20220104BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220104BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220104BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220104BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220104BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
A01K67/027
A61K45/00
A61P1/04
A61P43/00 121
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017211454
(22)【出願日】2017-11-01
(65)【公開番号】P2019080555
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】391015351
【氏名又は名称】ビオフェルミン製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】及川 洋祐
(72)【発明者】
【氏名】田中 良紀
(72)【発明者】
【氏名】大野 裕史
(72)【発明者】
【氏名】嶋川 真木
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝征
(72)【発明者】
【氏名】中島 淳
(72)【発明者】
【氏名】結束 貴臣
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Gastroenterology and Hepatology,2017年,Vol.32, No.1,P.136-145
【文献】Morgan RJ et al,The protective effect of deglycyrrhinized liquorice against aspirin and aspirin plus bile acid‐induced gastric mucosal damage, and its influence on aspirin absorption in rats,J Pham Pharmacol,1983年,35(9),605-607
【文献】Danesh B. J. Z. et al,Is an acid pH medium required for the protective effect of sucralfate against mucosal injury?,The American journal of medicine,1987年,83(3B),11-13
【文献】The American Journal of Physiology,1982年,vol.242, no.4,p.G429-32
【文献】Exp Toxic Pathol,2002年,vol.54,p.217-221
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
A61K 45/00
A61P 1/04
A61P 43/00
G01N 33/50
G01N 33/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルクトースの1日当たりの投与量が35.0~80.0g/kgであることを特徴とする非ステロイド性抗炎症薬誘発性消化管潰瘍形成マウスの作出方法。
【請求項2】
更に、1日当たりコレステロールを1.4~3.0g/kg投与することを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記非ステロイド性抗炎症薬がアセチルサリチル酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
日当たりの投与量が1.4~3.0g/kgのコレステロール及び1日当たりの投与量が35.0~80.0g/kgのフルクトースの、非ステロイド性抗炎症薬誘発性消化管潰瘍形成マウス作出のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ステロイド性抗炎症薬誘発性消化管潰瘍形成モデル動物、及びその作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非ステロイド性抗炎症薬(Non-steroidal antiinflammatorydrugs;以下、NSAIDsとも表記する。)は解熱、鎮痛及び消炎を目的として広く一般臨床にて使用されている薬剤である。NSAIDsによる、胃や十二指腸潰瘍の発生等の他、小腸におけるびらん又は潰瘍の形成が報告されている(非特許文献1)。
アスピリン(アセチルサリチル酸)をラットの近位十二指腸へ注入し、1時間後小腸全体を病理学的に解析したところ、空腸に出血及び潰瘍が観察されたことが報告されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Higuchiら,Present status and strategy of NSAID-induced small bowelinjury,J Gastroenterol 2009;44:879-88
【文献】Nonoyamaら,New method of inducing intestinal lesions in rats by intraduodenal administration of aspirin.,J Gastroenterol Hepatol. 2010;May;25 Suppl 1:S15-22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
日本ではOTC医薬品としてNSAIDsが医療機関の受診なく容易に購入できることや、高齢化社会の到来や、生活習慣病の増加に伴い、関節リウマチ、変形性関節症の患者が増加し、又は心筋梗塞などの加療後の再発予防としての抗血小板薬である低用量アスピリン(アセチルサリチル酸)の使用が増えていく現状に伴い、NSAIDs起因性消化管潰瘍の頻度は増加していくものと考えられ、その治療及び予防法の解明は重要な課題である。
本発明は、NSAIDs誘発性消化管潰瘍形成の病態又はメカニズムの解明、NSAIDs誘発性消化管潰瘍形成に対する新規予防又は治療薬の開発、特にかかる予防又は治療薬のスクリーニング等に有用な、NSAIDs誘発性消化管潰瘍形成モデル動物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下の発明に関する。
[1]高含有量のコレステロール及び/又はフルクトースの投与で作出されたことを特徴とする非ステロイド性抗炎症薬誘発性消化管潰瘍形成非ヒトモデル動物。
[2]前記コレステロールの1日当たりの投与量が1.4~3.0g/kgであることを特徴とする前記[1]に記載の動物。
[3]前記フルクトースの1日当たりの投与量が18.0~74.0g/kgであることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の動物。
[4]前記非ステロイド性抗炎症薬がアセチルサリチル酸であることを特徴とする前記[1]~[3]のいずれかに記載の動物。
[5]非ヒト動物に高含有量のコレステロール及び/又はフルクトースを投与することを特徴とする非ステロイド性抗炎症薬誘発性消化管潰瘍形成非ヒトモデル動物の作出方法。
[6]前記コレステロールの1日当たりの投与量が1.4~3.0g/kgであることを特徴とする前記[5]に記載の方法。
[7]前記フルクトースの1日当たりの投与量が18.0~74.0g/kgであることを特徴とする前記[5]又は[6]に記載の方法。
[8]前記非ステロイド性抗炎症薬がアセチルサリチル酸であることを特徴とする前記[5]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]コレステロール及び/又はフルクトースの、非ステロイド性抗炎症薬誘発性消化管潰瘍形成非ヒトモデル動物作出のための使用。
[10]前記[1]~[4]のいずれかに記載の動物を使用することを特徴とする非ステロイド性抗炎症薬誘発性消化管潰瘍の予防又は治療薬のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、NSAIDs誘発性消化管潰瘍形成非ヒトモデル動物を作出することができる。本発明のモデル動物の好ましい利点として、遺伝子改変技術を使用しないで作出し得る点、NSAIDs誘発性消化管潰瘍形成の病態又はメカニズムの解明、NSAIDs誘発性消化管潰瘍形成に対する新規予防又は治療薬の開発、特にかかる予防又は治療薬のスクリーニング等に有用である点が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、AMLN飼料を9週投与した際の腸管透過性(n=5~6,平均値)の結果を示す。
図2図2は、AMLN飼料を9週投与した際の潰瘍形成率(n=1)の結果を示す。
図3図3は、高コレステロール飼料を9週又は10週投与した際の腸管透過性(n=5~6,平均値)の結果を示す。
図4図4は、高コレステロール飼料を9週又は10週投投与した際の潰瘍形成率(n=1)の結果を示す。
図5図5は、高フルクトース飼料を6週又は9週投与した際の腸管透過性(n=5~6,平均値)の結果を示す。
図6図6は、高フルクトース飼料を6週又は9週投与した際の潰瘍形成率(n=1)の結果を示す。
図7図7は、高コレステロール飼料を9週投与した際のアセチルサリチル酸投与群の病理組織画像例を示す。
図8図8は、高フルクトース飼料を9週投与した際のアセチルサリチル酸投与群の病理組織画像例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、非ヒト動物に高含有量のコレステロール及び/又はフルクトースを投与する工程を含むことを特徴とするNSAIDs誘発性消化管潰瘍形成非ヒトモデル動物の作出方法を提供する。
本発明は、また高含有量のコレステロール及び/又はフルクトースの投与で作出されたことを特徴とする非ステロイド性抗炎症薬誘発性消化管潰瘍形成非ヒトモデル動物を提供する。
【0009】
非ヒト動物
非ヒト動物は、実験動物として一般的に使用される非ヒト動物であれば特に限定されないが、好ましくは、非ヒト脊椎動物であり、より好ましくは非ヒト哺乳動物であり、さらに好ましくはげっ歯類である。非ヒト動物として、具体的には、例えばマウス、ラット、ラビット、イヌ、ニワトリ、サル、チンパンジー等が挙げられる。非ヒト動物として、好ましくはラット又はマウスである。非ヒト動物は、遺伝子改変マウスでないことが好ましい。マウスの種類としては、例えば、A/J、C57BL/6J、C57BL/6N、C3H/HeN、C3H/HeJ、BALB/c、FVB/N、129+Ter/Sv、NOD/Shi、NC、FGS/Nga、CBA/JN、DBA/1、DBA/2、NC/Nga、AKR/J等の近交系又はICR、ddY等のクローズドコロニーが挙げられる。
【0010】
コレステロール
コレステロールは市販品を購入して入手することができ、また、コレステロール含有製品をそのまま、又は当該製品からコレステロールを分離又は精製して用いてもよい。本開示において、コレステロールの誘導体(エステル体等)又はコレステロールの薬学的に許容される塩、又はコレステロールの誘導体の薬学的に許容される塩も、コレステロールに包含される。コレステロールの誘導体として、例えば、7-デヒドロコレステロール、コレカルシフェロール(ビタミンD)、7-ヒドロキシコレステロール、一次胆汁酸、二次胆汁酸、プレグネノロン、プロゲステロン、糖質コルチコイド、コルチゾール、鉱質コルチコイド、アルドステロン、アンドロゲン、エストロゲン等が挙げられる。
【0011】
フルクトース
フルクトースは市販品を購入して入手することができ、また、フルクトース含有製品をそのまま、又は当該製品からフルクトースを分離又は精製して用いてもよい。本開示において、フルクトースのエステル体又はフルクトースの薬学的に許容される塩、又はフルクトースのエステル体の薬学的に許容される塩も、フルクトースに包含される。
【0012】
摂取方法
コレステロール及び/又はフルクトースの投与形態は、本発明の効果を奏する限り特に限定されず、例えば、経口又は非経口投与等であってもよい。
経口投与の場合、コレステロール及び/又はフルクトースを含有する非ヒト動物用飼料を非ヒト動物に餌として自由摂取させてもよく、コレステロール及び/又はフルクトースを含有する液剤を、ゾンデを用いて強制的に経口投与してもよい。前者の場合、飼料は固形状、液体、乳化剤、ペースト、ゲル、粉末、錠剤、顆粒、ペレット、カプセル、シロップ、懸濁液又はスティック状に加工されていてもよい。固体状である場合は、略円柱状であってもよい。これらは公知方法で製造されてよい。
【0013】
非経口投与の場合、コレステロール及び/又はフルクトースを含有する液剤を、注射してもよい。注射の手法は、尾静脈注射、皮下注射等いずれであってもよい。
【0014】
コレステロールの1日当たりの投与量は、例えば、約0.1~5.0g/kg程度、約0.5~4g/kg程度、約1.0~3.5g/kg程度、約1.4~3.0g/kg程度、約1.5~3.0g/kg程度等であってもよい。投与期間は、例えば6週間以上であることが好ましく、9週間以上であることがより好ましく、10週間以上であることがより好ましい。
フルクトースの1日当たりの投与量は、例えば、約1~100g/kg程度、約10~90g/kg程度、約15~80g/kg程度、約18~75g/kg程度、約18.0~74.0g/kg程度、約18.4~73.8g/kg程度等であってもよい。投与期間は、例えば6週間以上であることが好ましく、9週間以上であることがより好ましく、10週間以上であることがより好ましい。
【0015】
投与回数は、1日当たり1回でもよく、2回でもよく、自由摂取でもよい。
コレステロールを含有する非ヒト動物用飼料を非ヒト動物に餌として与える場合、飼料中のコレステロール含有割合は、1~5質量%であることが好ましく、1.5~3質量%であることがより好ましい。また、フルクトースを含有する非ヒト動物用飼料を非ヒト動物に餌として与える場合、飼料中のフルクトース含有割合は、20~70質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましい。通常、飼料をケージ内又はケージのかぶせ蓋(網状)に、常法に従って、適量乗せることで、非ヒト動物は飼料を自由摂取する。
例えば、非ヒト動物がマウスの場合、1日当たりのマウスの摂餌量は、通常約3~5グラムであるが、これに限定されず、マウス個体が飼育条件下で実際に食べることができる量であってよい。
【0016】
飼料を与え始める時期は、離乳後であれば特に限定されないが、例えば4週齢以上であることが好ましく、6~10週齢であることがより好ましい。飼料を与える期間は、例えば6週間以上であることが好ましく、9週間以上であることがより好ましく、10週間以上であることがより好ましい。
動物の飼育環境は、温度20~25℃、湿度50~60%、7~19時は明期、19~7時は暗期サイクルに設定された室内であることが好ましい。
【0017】
またコレステロール及び/又はフルクトース含有飼料は、必要に応じて、一般飼料、精製飼料、滅菌飼料、特殊配合飼料等の実験動物用飼料、保存剤、抗酸化剤、安定化剤、酸化防止剤溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤等の飼料の分野において通常用いられる任意の公知の添加剤や薬理学的に許容される添加剤を用いることもできる。これらを、目的とする飼料形態に応じて、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらは、市販品を使用することができる。
【0018】
保存剤としては、特に限定されないが、例えば、パラオキシ安息香酸エチル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸等が挙げられる。抗酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸等が挙げられる。安定化剤としては、特に限定されないが、例えば、カゼイン、カゼインナトリウム塩等が挙げられる。酸化防止剤としては、例えばt-ブチルヒドロキノン、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、及びα-トコフェロール、並びにそれらの誘導体が挙げられる。
【0019】
NSAIDs誘発性消化管潰瘍形成
NSAIDsとしては、例えば、アセチルサリチル酸等のサリチル酸系NSAIDs;ジクロフェナク、フィンブフェン、インドメタシン、ナブメトン、エトドラク等のアリール酢酸系NSAIDs;メフェナム酸等のアントラニル酸系NSAIDs;イブプロフェン、ケトプロフェン、ロキソプロフェン、ナプロキセン、ザルトプロフェン等のプロピオン酸系NSAIDs;ピロキシカム、メロキシカム等のオキシカム系NSAIDs;チアラミド、エモルファゾン等の塩基性NSAIDs又はこれらの薬学上許容される塩などが例示でき、これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
NSAIDsの投与形態は、消化管潰瘍を形成する限り特に限定されず、例えば、経口又は非経口投与等であってもよい。
経口投与の場合、NSAIDsを含有する非ヒト動物用飼料を非ヒト動物に餌として自由摂取させてもよく、NSAIDsを含有する液剤を、ゾンデを用いて強制的に経口投与してもよいが、後者が好ましい。
【0020】
非経口投与の場合、NSAIDsを含有する液剤を、注射してもよい。注射の手法は、尾静脈注射、腹腔内注射、皮下注射等いずれであってもよい。
【0021】
NSAIDsの1日当たりの投与量は、例えば、約10~400mg/kg程度、約100~300mg/kg程度、約150~250mg/kg程度、約190~210mg/kg程度等であってもよい。消化管潰瘍形成モデル作出のためのNSAIDsの投与回数は1回~数回が好ましいが、1回がより好ましい。
【0022】
本発明のNSAIDs誘発性消化管潰瘍形成非ヒトモデル動物には、NSAIDsを投与して例えば1~4時間後に、腸管透過性の亢進及び/又は潰瘍の形成が認められ得る。すなわち、本発明のNSAIDs誘発性消化管潰瘍形成非ヒトモデル動物の、NSAIDs投与後のそれらの程度は、コレステロール及び/又はフルクトースの投与量が少ない又はゼロである非ヒト動物のそれらの程度と比較して亢進している。
腸管透過性については、例えば蛍光抗体法等により確認することができる。具体的には、例えば、FITC(Fluorescein isothiocyanate-dextran)等の蛍光色素を非ヒト動物に強制経口投与し、その1~数時間後、当該動物の下大静脈より採血し、得られた血漿における蛍光強度をプレートリーダー等の機器を用いて測定することができる。
潰瘍の形成については、例えば非ヒト動物の消化管をHE(Hematoxylin-Eosin)染色等免疫染色して、顕微鏡観察することにより確認することができる。
消化管として、胃、十二指腸、小腸(空腸及び/又は回腸)、大腸(盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、又は直腸等)等が挙げられるが、中でも小腸(空腸及び/又は回腸)が好ましい。
【0023】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【実施例
【0024】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0025】
1.試験方法
7週齢C57/B6J雄性マウス(日本クレア株式会社)を室温22±5℃、湿度55±5%、12時間周期の照明(7~19時)条件下で、上水道を自由に摂取させ飼育した。固形飼料として、下記表1及び2にその組成を詳述した高フルクトース高脂肪飼料(以下、AMLN飼料、リサーチダイエット社製)、高コレステロール飼料(リサーチダイエット社製)、高フルクトース飼料(リサーチダイエット社製)のいずれかを3週~12週摂食させた。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
解剖当日は、control群には溶媒を、アセチルサリチル酸投与群(ASA群)には5質量%アラビアゴム溶液に溶解させたアセチルサリチル酸(和光純薬工業株式会社)200mg/kgを強制経口投与し、その2時間後FITCを強制経口投与した。さらに1時間後下大静脈より採血し、血漿を採取し腸管透過性を測定した(1)。また小腸を摘出し、潰瘍部を実体顕微鏡で確認したのち、潰瘍部を10%ホルマリンで固定しパラフィンブロックを作製後ヘマトキシリン-エオジン(HE)染色で標本化し評価した(2)。また、潰瘍形成が観察された個体数の割合を比較した。
【0029】
実施例中で用いたFITCによる腸管透過性測定法(1)及びHE染色法(2)を、以下に示す。
(1)FITCによる腸管透過性測定法
Fluorescein isothiocyanate-dextran(average mol wt 3000-5000;シグマアルドリッチジャパン合同会社)を蒸留水に溶解させ600mg/kgを経口投与した。1時間後下大静脈より採血し、血漿を採取した。プレートリーダー(プロメガ株式会社)で蛍光強度を測定し、腸管透過性の指標とした。各群5~6例実施し、データは蛍光強度の平均値で示した。
【0030】
(2)HE染色
潰瘍部を10%ホルマリンで24~48時間固定後パラフィンブロックを作製した。ピュアエオシン(武藤化学株式会社)及びNewヘマトキシリンType M(武藤化学株式会社)を用いてパラフィン切片を染色し、顕微鏡観察した。
【0031】
2.結果及び考察
AMLN飼料を9週投与することで腸管透過性の亢進及び潰瘍の形成が認められた(図1及び2)。高コレステロール飼料を9週投与することで潰瘍の形成が認められ、また10週投与することで腸管透過性の亢進も認められた(図3及び4)。また、高フルクトース飼料を9週投与することで腸管透過性の亢進及び潰瘍の形成が認められた(図5及び6)。また図7及び8に示した通り、潰瘍箇所において上皮細胞の剥離が認められ、傷害が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のモデル動物は、NSAIDs誘発性消化管潰瘍形成の病態又はメカニズムの解明、NSAIDs誘発性消化管潰瘍形成に対する新規予防又は治療薬の開発、特にかかる予防又は治療薬のスクリーニング等に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8