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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】水蒸気改質触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/889 20060101AFI20220104BHJP
   C01B 3/40 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
B01J23/889 M
C01B3/40
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020534086
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2019023054
(87)【国際公開番号】W WO2020026597
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018146424
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305009898
【氏名又は名称】株式会社ルネッサンス・エナジー・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100114476
【弁理士】
【氏名又は名称】政木 良文
(72)【発明者】
【氏名】岡田 治
(72)【発明者】
【氏名】本村 加奈
(72)【発明者】
【氏名】宮田 純弥
(72)【発明者】
【氏名】高田 智夏
(72)【発明者】
【氏名】桑迫 逸郎
(72)【発明者】
【氏名】河野 まなみ
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭48-69783(JP,A)
【文献】国際公開第02/078840(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/079978(WO,A1)
【文献】特開2013-17913(JP,A)
【文献】特開2011-7047(JP,A)
【文献】特開2005-169236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 3/32-3/48
CAplus(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒活性金属としてのニッケルと、第1の助触媒成分としてのランタンと、第2の助触媒成分としてマンガンと、γ-アルミナを主成分として含む担体と、を含み、
前記触媒活性金属と前記第1の助触媒成分と前記第2の助触媒成分と前記担体の合計重量に対して、
前記触媒活性金属の含有率が、11重量%以上18重量%以下であり、
前記第1助触媒成分の含有率が、8重量%以上12重量%以下であり、
前記第2の助触媒成分の含有率が、0.05重量%以上3重量%以下であることを特徴
とする水蒸気改質触媒。
【請求項2】
前記触媒活性金属と前記第1の助触媒成分と前記第2の助触媒成分と前記担体の合計重量に対して、
前記第1の助触媒成分と前記第2助触媒成分の合計含有率が、10.05重量%以上15重量%以下であることを特徴とする請求項に記載の水蒸気改質触媒。
【請求項3】
前記触媒活性金属と前記第1の助触媒成分と前記第2の助触媒成分と前記担体の合計重量に対して、
前記触媒活性金属と前記第2助触媒成分の合計含有率が、11.05重量%以上21重量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の水蒸気改質触媒。
【請求項4】
前記触媒活性金属に対する前記第1の助触媒成分の重量比が、50%以上120%以下であることを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の水蒸気改質触媒。
【請求項5】
前記触媒活性金属に対する前記第2の助触媒成分の重量比が、0.33%以上20%以下であることを特徴とする請求項1~の何れか1項に記載の水蒸気改質触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素系の原料ガスと水蒸気を一酸化炭素と水素に改質して水素を製造する水蒸気改質システムで使用される水蒸気改質触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
環境負荷の少ない水素を利用するエネルギ技術の一つとして、水素と酸素を反応させて電気エネルギを発生する燃料電池が注目されている。燃料電池の水素源として、天然ガスや石炭系炭化水素等の種々の炭化水素系の原料が利用可能であり、特に、供給インフラの整備された都市ガス、LPガス、ナフサ、ガソリン、灯油等の炭化水素が好適に利用可能である。これらの炭化水素系の原料は、水蒸気改質触媒の存在下において、水蒸気との改質反応により一酸化炭素と水素の合成ガスが生成され、合成ガス中の一酸化炭素を変成反応処理や選択酸化処理等により除去することで、水素が製造される。
【0003】
水蒸気改質触媒としては、触媒活性金属としてニッケル(Ni)を使用したNi触媒、及び、触媒活性金属としてルテニウム(Ru)等の貴金属を使用した貴金属触媒が実用に供されている(特許文献1及び2等参照)。
【0004】
Ni触媒は、一般に工業用水蒸気改質触媒や部分酸化・オートサーマル改質触媒として幅広く使用されているが、Ni金属単味では、担持触媒・含浸触媒・混錬触媒を問わず、改質反応条件下(特に、ナフサ、LPガスや重質炭化水素を含む天然ガス)でカーボン析出が著しく実使用に耐えないため、カーボン析出抑制効果を有するカリウム(K)やマグネシウム(Mg)を助触媒として添加し、実用化され世界中で幅広く使用されている(特許文献3等参照)。
【0005】
しかし、今後さらに水素製造プロセスのエネルギ効率を向上させるためには、現在よりもさらに過酷な低S/C条件での操業が望まれるが、(S/C:水素製造プロセスの原料炭化水素中の炭素(C)と原料スチーム(HO)のモル比)、現在の水素製造プロセスでは、主流であるNi系水蒸気改質触媒のカーボン析出リスクにより、高効率な低S/C条件が採用できずにいる。その場合、既存の工業用Ni触媒では炭素析出抑制効果が不十分なため、特にシビアな運転が望まれる都市ガス事業用の代替天然ガス(SNG)製造プロセス等では、耐カーボン析出性に優れるRu触媒が実用化されてきた。
【0006】
また、Ru触媒は、Ni触媒に比べて耐シンタリング特性にも優れる。従って、高性能な脱硫技術を採用し、硫黄被毒を完全に防げば、コンパクトな反応器と長寿命化が同時に達成できるため、触媒取替え周期5年以上が期待される燃料電池用改質器への採用が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平2-43952号公報
【文献】特開平8-231204号公報
【文献】特開2017-29970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
燃料電池自動車や家庭用燃料電池等のエネルギ分野において、将来、水素の利用が急増することが見込まれる。しかし、当該水素の製造システムでは、多くの希少で高価な貴金属を使用しており、その削減につながる技術開発は急務である。特に、Ruは白金族金属の中でも特に産出量が少なく、白金(Pt)やパラジウム(Pd)に比べ一桁少ないが、水素製造用改質触媒として優れた特性を持っているため、高性能が要求される燃料電池用改質触媒としての利用が急増しつつあり、将来は大量に使用されることが予想される。一例として、家庭用燃料電池400万kW分の改質触媒だけでRuの年間産出量(20t)を消費する。
【0009】
現行の助触媒を添加して耐カーボン析出性を向上させたNi系触媒に対して、耐カーボン析出性、並びに、耐シンタリング特性をRu触媒並みに向上させることができれば、Ru触媒の代替が可能となり、Ruの資源制約に影響されずに、安定的に高性能な水蒸気改質触媒を提供することが可能となる。
【0010】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐カーボン析出性と耐シンタリング特性に優れたNi系の水蒸気改質触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る水蒸気改質触媒は、触媒活性金属としてのニッケルと、第1の助触媒成分としてのランタンと、第2の助触媒成分としてマンガンと、γ-アルミナを主成分として含む担体と、を含むことを特徴とする。
【0012】
更に、上記特徴の水蒸気改質触媒は、前記触媒活性金属と前記第1の助触媒成分と前記第2の助触媒成分と前記担体の合計重量に対して、
前記触媒活性金属の含有率が、11重量%以上18重量%以下であり、
前記第1助触媒成分の含有率が、8重量%以上12重量%以下であり、
前記第2の助触媒成分の含有率が、0.05重量%以上3重量%以下であることが好ましい。
【0013】
更に、上記特徴の水蒸気改質触媒は、前記触媒活性金属と前記第1の助触媒成分と前記第2の助触媒成分と前記担体の合計重量に対して、前記第1の助触媒成分と前記第2助触媒成分の合計含有率が、10.05重量%以上15重量%以下であることが好ましい。
【0014】
更に、上記特徴の水蒸気改質触媒は、前記触媒活性金属と前記第1の助触媒成分と前記第2の助触媒成分と前記担体の合計重量に対して、前記触媒活性金属と前記第2助触媒成分の合計含有率が、11.05重量%以上21重量%以下であることがより好ましい。
【0015】
更に、上記特徴の水蒸気改質触媒は、前記触媒活性金属に対する前記第1の助触媒成分の重量比が、50%以上120%以下であることが好ましい。
【0016】
更に、上記特徴の水蒸気改質触媒は、前記触媒活性金属に対する前記第2の助触媒成分の重量比が、0.33%以上20%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る水蒸気改質触媒によれば、触媒活性金属としてのニッケルと、助触媒としてのランタンとマンガンの2種類の金属が、γ-アルミナを主成分として含む担体上に集合体として存在することで、ニッケルの触媒活性の低下が抑制され、Ru触媒に匹敵する高い炭化水素の転化率を実現でき、他の金属を助触媒として使用する場合と比較して、触媒活性低下の要因となるカーボン析出や触媒活性金属のシンタリング(凝集)等が抑制され、高性能なNi系水蒸気改質触媒を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
[図1] マンガンを添加していない比較用のサンプルA1~A6に対して性能評価を行った結果を示す一覧表
[図2] マンガンを添加していない比較用のサンプルB0~B5に対する性能評価結果を示す一覧表
[図3] マンガンを添加していない比較用のサンプルC1~C4、比較用のルテニウム触媒X1、及び、比較用の工業用ニッケル触媒X2に対する性能評価結果を示す一覧表
[図4] マンガンを添加していない比較用のサンプルC1,C3,C、比較用のルテニウム触媒X1、及び、比較用の工業用ニッケル触媒X2に対して反応温度450℃における96時間連続でのC3H8転化率を評価した結果を示すグラフ
[図5] マンガンを添加していない比較用のサンプルC3、本発明に係る水蒸気改質触媒のサンプルD1~D7、及び、比較用のルテニウム触媒X1に対する性能評価結果を示す一覧表
[図6] 本発明に係る水蒸気改質触媒のサンプルE1~E6、及び、比較用のルテニウム触媒X1に対する性能評価結果を示す一覧表
[図7] 第2の助触媒成分としてマンガン以外の金属を添加した比較用のサンプルF1~F9、本発明に係る水蒸気改質触媒のサンプルE2、及び、比較用のルテニウム触媒X1に対する性能評価結果を示す一覧表
[図8] 本発明に係る水蒸気改質触媒のサンプルE1~E3、第2の助触媒成分としてタングステンを添加した比較用のサンプルF9~F11、及び、比較用のルテニウム触媒X1に対して96時間連続でのC3H8転化率を評価した結果を示すグラフ
[図9] 本発明に係る水蒸気改質触媒のサンプルD2,E2、及び、α-アルミナを主成分として含む担体を用いた比較用のサンプルG1~G4に対する性能評価結果を示す一覧表
[図10] 本発明に係る水蒸気改質触媒のサンプルE2、比較用のマンガンを添加していないサンプルC3、及び、比較用のルテニウム触媒X1に対して1000時間連続でのC3H8転化率を評価した結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る水蒸気改質触媒の好適な実施形態(以下、適宜、「本実施形態」と称す。)について説明する。
【0020】
本実施形態に係る水蒸気改質触媒(以下、適宜、「本触媒」と称する)は、炭化水素に水蒸気を接触させて一酸化炭素と水素を含む合成ガスを生成させる水蒸気改質反応を促進させる触媒である。尚、水蒸気改質反応には、水蒸気との反応時に酸素含有ガスによる部分酸化反応を伴うオートサーマル改質反応が含まれる。炭化水素としては、一例として、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の炭素数が1~4の炭化水素ガスや、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールが利用される。尚、本触媒を使用した水蒸気改質反応の原料ガスは、上記炭化水素の一例に限定されるものではない。
【0021】
本触媒は、触媒活性金属としてのニッケルと、第1の助触媒成分としてのランタンと、第2の助触媒成分としてマンガンと、γ-アルミナを主成分として含む担体と、を備える。ニッケルとランタンとマンガンは、一例として粒状の同じ担体上に分散して担持され、集合体として存在する。
【0022】
後述するように、ランタンとマンガンが触媒活性金属であるニッケルと同じ担体上に存在することで、触媒活性低下の要因となるカーボン析出や触媒活性金属のシンタリングを抑制する助触媒として機能が、ランタンを同助触媒として単独で使用する場合より向上することが、本願発明者の鋭意研究により見出された。本触媒は、本願発明者の当該研究成果に基づくものである。
【0023】
本触媒の担体は、γ-アルミナを主成分として(例えば、80重量%以上100重量%以下)含むが、γ-アルミナ以外に微量の無機酸化物(α-アルミナ、シリカ(酸化ケイ素)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、チタニア(酸化チタン)、酸化ランタン、酸化カルシウム、等)、或いは、微量の不純物元素(硫黄、カリウム、鉄、等)を含んでいてもよい。担体の総重量に対して、γ-アルミナ以外の無機酸化物の総含有量は、0~10重量%程度が好ましく、不純物元素の総含有量は1重量%以下が好ましい。担体のBET比表面積については特に限定されないが、担持されるニッケルとランタンとマンガンの3成分が十分に分散できるように、BET比表面積は、90~300m/g程度であることが好ましい。
【0024】
本実施形態では、担体のγ-アルミナは、粉末状のものの使用を想定するが、針状或いは繊維状のものが塊状となったものでもよく、また、粉末状、針状或いは繊維状のものが混在していてもよい。
【0025】
ニッケルの含有率は、ニッケルとランタンとマンガンの3成分と担体の合計重量(以下、「触媒総重量」と称す)に対して、11~18重量%程度が好ましく、13~17重量%程度がより好ましい。ニッケルの含有率が触媒総重量に対して18重量%を超えて増加すると、分散性が損なわれ凝集により表面に露出する活性金属の割合が低下して触媒活性の低下を招く。また、ニッケルの含有率が触媒総重量に対して11重量%より低下すると、ニッケルの担持量の低下による触媒活性の低下を招く。
【0026】
ランタンの含有率は、触媒総重量に対して、8~12重量%程度が好ましく、10~12重量%程度がより好ましい。また、マンガンの含有率は、触媒総重量に対して、0.05~3重量%程度が好ましく、0.5~2.5重量%程度がより好ましく、1~1.5重量%程度が更に好ましい。
【0027】
ランタンの含有率が、触媒総重量に対して12重量%を超えて増加すると、分散性が損なわれ凝集により表面に露出する助触媒成分の割合が低下して助触媒としての機能低下を招く。また、ランタンの含有率が、触媒総重量に対して8重量%より低下すると、ランタンの担持量の低下による助触媒としての機能低下を招く。マンガンの含有率が、触媒総重量に対して3重量%を超えて増加すると、分散性が損なわれ凝集により表面に露出する助触媒成分の割合が低下して助触媒としての機能低下を招く。また、マンガンの含有率が、触媒総重量に対して0.05重量%より低下すると、マンガンの担持量の低下による助触媒としての機能低下を招く。
【0028】
更に、ニッケルとマンガンの2成分の合計含有率は、触媒総重量に対して、11.05~21重量%程度が好ましく、11.05~18重量%程度がより好ましく、13~17重量%が更に好ましい。また、ランタンとマンガンの2成分の合計含有率は、触媒総重量に対して、8.05~15重量%程度が好ましく、10.05~15重量%程度がより好ましく、10.5~14.5重量%が更に好ましい。
【0029】
更に、ニッケルに対するランタンの重量比(La/Ni)は、50~120%程度が好ましく、75~100%程度がより好ましい。また、ニッケルに対するマンガンの重量比(Mn/Ni)は、0.33~20%程度が好ましく、3.33~20%程度がより好ましく、6.66~15%程度がより好ましい。
【0030】
次に、本触媒の調製方法について公知の含浸法(蒸発乾固法と同じ)を例に説明する。尚、本触媒の調製方法は含浸法に限定されるものでなく、中和法、等を用いてもよい。
【0031】
先ず、ニッケル化合物、ランタン化合物、及び、マンガン化合物を、水、エタノール、アセトン等の溶媒に溶解させた混合溶液を調製する。ニッケルとランタンとマンガンの各化合物としては、硝酸塩、酢酸塩、硫酸塩、アセト酢酸塩、水酸化物、塩化物、等が用いられるが、特に、硝酸塩と酢酸塩が好適に使用できる。
【0032】
次に、上記混合溶液中に粉末状等の担体を加えて、エバポレータを用いて撹拌し、溶媒を蒸発させ、引き続き、所定温度(例えば、80℃~120℃)での乾燥処理を経て蒸発乾固させ、最後に、所定温度(例えば、400℃~700℃)での焼成処理を経て、本触媒が調製される。尚、乾燥雰囲気及び焼成雰囲気は空気中が好ましい。尚、粉末状の担体は、予め篩掛けして、粒径を所定範囲内(例えば、約200μm以下)に揃えておくのが好ましい。
【0033】
ニッケルとランタンとマンガンの3成分の上記各含有率は、上記焼成処理後の酸化物(酸化ニッケル、酸化ランタン、酸化マンガン)の含有率(重量%)となるように、上記3成分の各化合物の分量が設定される。つまり、上記3成分の各含有率は、上記3成分の各酸化物の含有率(酸化物換算の値)であり、上記触媒総重量を構成する上記3成分の重量も、上記3成分の各酸化物の重量である。
【0034】
上記調製方法で調製された直後の本触媒では、担体に担持されているニッケルとランタンとマンガンの全部または一部は、夫々、酸化物(酸化ニッケル、酸化ランタン、酸化マンガン)として存在しているため、本触媒を使用する前に、水素雰囲気または水素含有雰囲気下で還元処理を行うのが好ましい。
【0035】
一例として、ニッケル化合物、ランタン化合物、マンガン化合物として硝酸ニッケル、硝酸ランタン、硝酸マンガンを使用する場合において、ニッケル、ランタン、マンガンの各含有率が13.5重量%、10重量%、1.5重量%とするには、担体8.15gに対して、上記混合溶液を、500mMの硝酸ニッケル水溶液50mlと、500mMの硝酸ランタン水溶液13.35mlと、500mMの硝酸マンガン水溶液5.94mlと、純水69ml(硝酸ニッケル水溶液と硝酸ランタン水溶液と硝酸マンガン水溶液の合計と同量)を混合して調製する。上記3成分の各含有率を上記値から変更する場合は、上記各水溶液の分量を適宜調整すればよい。尚、各水溶液の濃度及び純水の分量は適宜変更可能である。
【0036】
[触媒性能の評価結果]
次に、本触媒の触媒性能を評価した結果について説明する。尚、触媒性能の評価は、水蒸気改質反応の原料ガスがプロパンである場合のC転化率、H吸着、及び、コーキング量(析出炭素量)の3項目で行った。
【0037】
触媒性能の評価は、具体的には、以下で説明する、ニッケルとランタンの触媒総重量に対する含有率の好適範囲の検討、マンガンの触媒総重量に対する含有率の好適範囲の検討、第2の助触媒としてマンガンが最適であることの検討、担体成分の検討、及び、長期安定性の検討の各検討において行った。よって、各検討の項では、重複する評価方法の説明は割愛する。
【0038】
転化率は、ヘンミ計算尺株式会社製の触媒活性評価装置、及び、ガスクロマトグラフとして大倉技研(現ヘンミ計算尺株式会社)製のTCD(熱伝導型検出器)Model-802を使用し、予め反応管内に0.5gの触媒を充填し、水素ガスにて600℃で1時間還元処理を行い、N,C,H,HO(水蒸気)の混合ガス(供給ガス)を反応管内に供給及び通流させ、所定の反応温度(例えば、400℃、450℃、500℃、600℃、等)で1時間保持した後、ガスクロマトグラフにて生成ガス(CO,C,C,C,H,N,CO,CH)の濃度を測定し、下記の数1により算出する。尚、供給ガスの供給条件は、N:60ml/min,C:60ml/min,H:6ml/min,HO:360ml/min、空間速度(SV)=60000、S/C=2.0である。
【0039】
[数1]
転化率(%)=(供給ガス中のC濃度(%)-生成ガス中のC濃度(%))/(供給ガス中のC濃度(%))×100
【0040】
吸着評価では、日本ベル株式会社(現マイクロトラック・ベル株式会社)製の触媒分析装置(BEL-CAT)を用い、約0.15gの触媒を試料管に充填し、Arガスにて試料管内を置換後、600℃にてHパルスを打ち込み、ニッケルのH単位吸着量(cm/g)、金属分散度(%)、及び、平均粒子径(nm)を測定する。
【0041】
コーキング量評価では、LECOジャパン合同会社製の炭素・硫黄分析装置CS744を用いて、試料を高温炉内で燃焼させ、試料中に含まれる炭素濃度を測定して、試料の燃焼前の重量に対する試料中の炭素の重量の比から、炭素濃度(重量%)を算出し、コーキング量(%)とする。
【0042】
[ニッケルの含有率とランタンの含有率の各好適範囲の検討]
以下の説明では、説明の便宜上、ニッケルとランタンとマンガンの各成分または2以上の成分の触媒総重量に対する含有率を、単に「含有率」または「合計含有率」と称す。
【0043】
本触媒では、上述のように、マンガンの含有率は、ニッケル及びランタンに比べて小さいため、マンガンを添加しない状態(マンガン含有率=0重量%)で、ニッケルとランタンの各含有率の好適範囲の大まかな検討を最初に行った。本検討では、ランタンの含有率を5重量%に固定し、ニッケルの含有率を2~20重量%の間で変化させたサンプルA1~A6と、ニッケルの含有率を10重量%に固定し、ランタンの含有率を0~20重量%の間で変化させたサンプルB0~B5と、ランタンの含有率を10重量%に固定し、ニッケルの含有率を10~20重量%の間で変化させたサンプルC1~C4の合計16種類のサンプルを準備した。また、サンプルC1~C4に対する比較用サンプルとして、市販品のルテニウム触媒X1(ルテニウム担持量:2重量%、担体:γ-アルミナ)と市販品の工業用ニッケル触媒X2(NiCa系触媒、ニッケル担持量:17~18重量%、担体:α-アルミナ)を準備した。
【0044】
尚、本検討では、C転化率、H吸着評価、及び、コーキング量評価の3種類の評価を行った。但し、サンプルA1~A6,B0~B5に対しては、H吸着評価は、H単位吸着量のみを評価した。
【0045】
サンプルA1~A6,B0~B5,C1~C4は、夫々、上述の本触媒の調製方法(含浸法)により調製したものを使用した。尚、混合溶液としては、ニッケル及びランタンの含有率が所定値となるように硝酸ニッケル水溶液と硝酸ランタン水溶液を所定の分量で混合したものを使用し、担体としては、γ-アルミナの含有率が96重量%以上で、シリカの含有率が約3重量%で、BET比表面積が約180~200m/g程度のγ-アルミナ担体を、予め80℃で16時間乾燥させた後、粒径が約200μm以下となるように篩掛けしたものを使用し、ニッケル及びランタンの含有率が所定値となる分量の当該担体を上記混合溶液に添加した。
【0046】
図1に、サンプルA1~A6のニッケル及びランタンの各含有率とともに、C転化率(反応温度が400℃、500℃、600℃での初期評価)、C転化率の初期評価(以下、単に、「初期評価」と称す)前のH単位吸着量、及び、初期評価後のコーキング量の評価結果を一覧表に纏めたものを示す。サンプルA1~A6のニッケルの含有率は、順番に、2重量%、5重量%、8重量%、10重量%、15重量%、20重量%であり、ランタンの含有率は夫々5重量%で一定である。
【0047】
図1に示す結果より、ニッケルの含有率が増加すると、H単位吸着量及び初期評価のC転化率も大きくなるが、初期評価後のコーキング量が、ニッケルの含有率が10重量%を超えると急激に増加することが分かる。当該結果より、ニッケルの含有率は、10重量%以上とするのが、H単位吸着量とC転化率の観点から好ましいが、ニッケルの含有率を10重量%より大きくするには、後述する図2に示すランタンのコーキング抑制効果を斟酌すると、ランタンの含有率が5重量%では小さすぎることが分かる。つまり、ニッケルに対するランタンの重量比の好適範囲の下限は、50%以上であることが分かる。
【0048】
図2に、サンプルB0~B5のニッケル及びランタンの各含有率とともに、C転化率(反応温度が400℃、500℃、600℃での初期評価)、初期評価前のH単位吸着量、及び、初期評価後のコーキング量の評価結果を一覧表に纏めたものを示す。サンプルB0~B5のランタンの含有率は、順番に、0重量%、5重量%、8重量%、10重量%、12重量%、20重量%であり、ニッケルの含有率は夫々10重量%で一定である。
【0049】
図2に示す結果より、C転化率(初期評価)については、サンプルB1~B4(ランタンの含有率が5重量%~12重量%)では、各反応温度で大差がなく、高い触媒活性を示しているが、サンプルB0(ランタンの含有率が0重量%:ランタンの添加なし)では、触媒活性が低下し、ランタンの含有率が20重量%まで増加すると(サンプルB5)、400℃での触媒活性が低下している。初期評価前のH単位吸着量については、ランタンの含有率が8重量%で最高となり、ランタンの含有率が8重量%を超えると、H単位吸着量が低下する傾向が見られる。初期評価後のコーキング量については、サンプルB0(ランタンの含有率が0重量%:ランタンの添加なし)では、非常に大きく、ランタンを添加することで、コーキングが大幅に抑制されることが分かる。特に、ランタンの含有率が10重量%(サンプルB3)でコーキング量が最小となる。
【0050】
図3に、サンプルC1~C4のニッケル及びランタンの各含有率とともに、サンプルC1~C4及び比較用サンプルX1,X2のC転化率(反応温度が400℃、500℃、600℃での初期評価)、初期評価前のH吸着(H単位吸着量、金属分散度、平均粒子径)、及び、初期評価後のコーキング量の評価結果を一覧表に纏めたものを示す。尚、ルテニウム触媒X1については、H吸着評価に代えてCO吸着評価を行った。サンプルC1~C4のニッケルの含有率は、順番に、10重量%、12重量%、15重量%、20重量%であり、ランタンの含有率は夫々10重量%で一定である。
【0051】
図3に示す結果より、サンプルC1~C4の初期評価のC転化率は、反応温度500℃と600℃では、100%に達しており、ルテニウム触媒X1の93.5%(500℃)と99.04%(600℃)より高く、反応温度400℃でも、サンプルC1(ニッケルの含有率:10重量%)以外は、ルテニウム触媒X1の69.73%より高く、サンプルC1においても、ルテニウム触媒X1より僅かに低いだけで、ほぼ同程度である。反応温度400℃では、ニッケルの含有率が10重量%から15重量%までは、増加するとともに、C転化率も増加するが、20重量%まで増加すると、C転化率は逆に低下している。よって、反応温度400℃でのC転化率を考慮すれば、ニッケルの含有率の好適範囲の上限は、15重量%と20重量%の中間(例えば、17.5重量%前後)に存在し、同下限は、10重量%と12重量%の中間に存在すると推定される。従って、ニッケルの含有率の好適範囲は、11重量%~18重量%、更に好ましくは、13重量%~17重量%と推定され、ニッケルの含有率の最適値は、約15重量%と推定される。
【0052】
サンプルC1~C4の初期評価前のH吸着評価結果については、H単位吸着量はニッケルの含有率が増加すると当然に増加しているが、金属分散度と平均粒子径は、ニッケルの含有率が15重量%が最も良好な結果を示している。従って、ニッケルの含有率の好適範囲の上限は15重量%より高く、同下限は15重量%より低いことが分かり、反応温度400℃でのC転化率を考慮した場合のニッケルの含有率の好適範囲と符合する。
【0053】
初期評価後のコーキング量は、ニッケルの含有率が増加すると当然に増加しているが、ニッケルの含有率が12重量%以上では、ルテニウム触媒X1のコーキング量より大きく、サンプルC2(ニッケルの含有率:12重量%)で約1.8倍、サンプルC3(ニッケルの含有率:15重量%)で約1.9倍、サンプルC(ニッケルの含有率:20重量%)で約2.7倍である。しかし、ランタンの含有率が5重量%のサンプルA1~A6と比較して、ランタンの含有率が10重量%のサンプルC1~C4では、ニッケルの含有率が10重量%を超えてもコーキング量が急激に増加するのは十分に抑制されている。
【0054】
図3に示すサンプルC1~C4のコーキング量の評価結果と図2に示す評価結果を総合的に判断すると、ランタンの含有率の好適範囲は、8重量%~12重量%、更に好ましくは、10重量%~12重量%と推定される。更に、図1図3に示す評価結果を総合的に判断すると、ニッケルに対するランタンの重量比の好適範囲は、50%~120%、更に好ましくは、75%~100%と推定される。
【0055】
しかし、第2の助触媒成分としてマンガンが添加されていないサンプルC2~C4では、ニッケルの含有率とランタンの含有率が夫々好適範囲内にあっても、コーキング量がルテニウム触媒X1の2倍程度と高いため、コーキング量をルテニウム触媒X1と同程度に抑制するには、後述するように、第2の助触媒成分としてマンガンを添加する必要がある。
【0056】
次に、サンプルC1、C3に、ニッケルの含有率が8重量%でランタンの含有率が10重量%のサンプルC5(サンプルC1~C4と同じ調製方法で準備したもの)を追加して、比較用サンプルX1,X2とともに、反応温度450℃におけるC転化率を96時間連続で(12時間毎に8回)評価した結果を図4に示す。図4のグラフの縦軸がC転化率(%)で、横軸が経過時間である。C転化率の評価条件は、反応温度以外は、図3に示すサンプルC1~C4の初期評価のC転化率の評価条件と同じである。
【0057】
図4に示す結果より、反応温度450℃における96時間までのC転化率は、サンプルC3だけでなくサンプルC1も、ルテニウム触媒X1のC転化率より高く、96時間までの評価においても、サンプルC3が最も高評価となっている。追加したサンプルC5のC転化率は、ニッケルの含有率が8重量%と低いため、ルテニウム触媒X1より大幅に低下している。
【0058】
[マンガンの含有率の好適範囲の検討]
次に、マンガンの含有率の好適範囲の検討を、ニッケルとランタンの含有率の最適な組み合わせと考えられる15重量%と10重量%の組み合わせに対して、マンガンの含有率を0.05重量%~2重量%の間で変化させたサンプルD1~D7と、ニッケルとランタンの含有率の15重量%と10重量%の組み合わせに対して、ニッケルの含有率の一部(0.75重量%~3重量%の間で変化)をマンガンで置換したサンプルE1~E3と、ニッケルとランタンの含有率の10重量%と10重量%の組み合わせに対して、ニッケルの含有率の一部(0.5重量%~2重量%の間で変化)をマンガンで置換したサンプルE4~E6を用いて行った。尚、本検討では、C転化率、H吸着評価(H単位吸着量)、及び、コーキング量評価の3種類の評価を行った。
【0059】
サンプルD1~D7,E1~E6は、夫々、上述の本触媒の調製方法(含浸法)により調製したものを使用した。尚、混合溶液としては、ニッケル、ランタン、及び、マンガンの含有率が所定値となるように硝酸ニッケル水溶液と硝酸ランタン水溶液と硝酸マンガン水溶液を所定の分量で混合したものを使用し、担体としては、γ-アルミナの含有率が96重量%以上で、シリカの含有率が3重量%程度で、BET比表面積が約180~200m/g程度のγ-アルミナ担体を、予め80℃で16時間乾燥させた後、粒径が約200μm以下となるように篩掛けしたものを使用し、ニッケル、ランタン、及び、マンガンの含有率が所定値となる分量の当該担体を上記混合溶液に添加した。
【0060】
図5に、サンプルD1~D7のニッケル、ランタン、及び、マンガンの各含有率とともに、マンガンを添加していない比較用のサンプルC3とサンプルD1~D7と比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1のC転化率(反応温度が400℃、500℃、600℃での初期評価)、H単位吸着量(初期評価前と初期評価後、比較用サンプルX1は初期評価前のみ)、及び、初期評価後のコーキング量の評価結果を一覧表に纏めたものを示す。尚、サンプルC3は、図3に示す評価で使用したサンプルとは別に準備したものを使用した。また、ルテニウム触媒X1の評価結果は、図3に示す内容と同じである。サンプルD1~D7のマンガンの含有率は、順番に、0.05重量%、0.1重量%、0.2重量%、0.5重量%、1.0重量%、1.5重量%、2.0重量%である。サンプルD0~D7のニッケルの含有率とランタンの含有率は、何れも、15重量%と10重量%で一定である。
【0061】
図5に示すH単位吸着量の評価結果より、初期評価前と初期評価後の何れの結果も、サンプルD2のH単位吸着量が最小であるが、それ以外のサンプルでは結果に大差はない。特に、初期評価後では、サンプルD2以外のサンプルD1,D3~D7は、何れもマンガンを添加していないサンプルD0よりH単位吸着量が大きく、マンガン添加の効果が表れている。
【0062】
図5に示すC転化率の初期評価結果では、反応温度が400℃、500℃、600℃の何れにおいても、サンプルD0~D7のC転化率は、比較用サンプルX1のC転化率より大きく、何れの触媒活性も高い。反応温度が400℃では、サンプルD1~D7間で、C転化率に差が生じており、サンプルD5(マンガンの含有率が1重量%)のC転化率が最も大きい。サンプルD1,D4,D5,D7(マンガンの含有率が0.05重量%,0.5重量%,1.0重量%,2.0重量%)のC転化率は、図3及び図5に示すマンガンを添加していないサンプルC3の値より大きく、測定値にバラツキが認められるが、マンガン添加の効果が表れていると考えられる。
【0063】
図5に示すコーキング量の評価結果では、サンプルD1~D7(マンガンの含有率=0.05重量%~2.0重量%)のコーキング量は、マンガンを添加していないサンプルC3より小さく、マンガン添加の効果が表れている。特に、サンプルD5(マンガンの含有率が1重量%)のコーキング量が最も小さく、比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1のコーキング量(0.14%)と同じ値まで低下している。マンガンの含有率が小さいとコーキング量が僅かに大きくなる傾向が見られる。マンガンの含有率が0.1重量%~2.0重量%の範囲では、コーキング量は、比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1のコーキング量(0.14%)の1.0~1.71倍となっている。
【0064】
図6に、サンプルE1~E6のニッケル、ランタン、及び、マンガンの各含有率とともに、サンプルE1~E6と比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1のC転化率(反応温度が400℃、500℃、600℃での初期評価)、H単位吸着量(初期評価前)、及び、初期評価後のコーキング量の評価結果を一覧表に纏めたものを示す。尚、ルテニウム触媒X1の評価結果は、図3に示す内容と同じである。サンプルE1~E3のマンガンの含有率は、順番に、0.75重量%、1.5重量%、3.0重量%であり、ニッケルとマンガンの合計含有率とランタンの含有率は、何れも、15重量%と10重量%で一定である。サンプルE4~E6のマンガンの含有率は、順番に、0.5重量%、1.0重量%、2.0重量%であり、ニッケルとマンガンの合計含有率とランタンの含有率は、何れも、10重量%と10重量%で一定である。
【0065】
サンプルE1とサンプルE4では、ニッケルの担持量の5重量%がマンガンに置換されており、サンプルE2とサンプルE5では、ニッケルの担持量の10重量%がマンガンに置換されており、サンプルE3とサンプルE6では、ニッケルの担持量の20重量%がマンガンに置換されている。このため、ニッケルとマンガンの担持量の重量比(ニッケル:マンガン)は、サンプルE1とサンプルE4では19:1、サンプルE2とサンプルE5では9:1、サンプルE3とサンプルE6では4:1となっている。
【0066】
図6に示すH単位吸着量の評価結果では、ニッケルの含有率が増加すると、H単位吸着量も増加する関係が認められ、この傾向は、図1及び図3に示すマンガンを添加していないサンプルA1~A6及びサンプルC1~C4の結果と同じである。サンプルE1~E6では、マンガンの添加量が増加するとニッケルの含有率が低下するため、ニッケルの含有率の変化の影響が大きいため、サンプルE1~E6の結果からは、H単位吸着量に及ぼすマンガン添加の効果は不明ではあるが、図5に示すH単位吸着量の評価結果と矛盾するものではない。
【0067】
図6に示すC転化率の初期評価結果では、反応温度が400℃、500℃、600℃の何れにおいても、サンプルE1~E6のC転化率は、比較用サンプルX1のC転化率より大きく、何れの触媒活性も高い。反応温度が400℃では、サンプルE1~E6間で、C転化率に差が生じている。図3に示すマンガンを添加していないサンプルC1~C4の初期評価のC転化率の評価結果より、ランタンの含有率が10重量%で一定の場合、ニッケルの含有率は、15重量%までは、増加するとC転化率も増加する関係にあるが、マンガンを添加しているサンプルE1~E3の間では、ニッケルの含有率が13.5重量%のサンプルE2の方が、ニッケルの含有率が14.25重量%と12重量%のサンプルE1,E3よりC転化率が高いため、マンガン添加の効果は、マンガンの含有率が1.5重量%、3.0重量%、0.75重量%の順番に高いと言える。一方、マンガンを添加しているサンプルE4~E6の間では、マンガンを添加していないサンプルC1~C4とは異なり、ニッケルの含有率の低い方がC転化率が高くなっており、マンガンの含有率の高い方がC転化率が高くなっている。以上より、C転化率に対するマンガン添加の効果が明らかに存在していることが分かる。
【0068】
サンプルE1,E2を対比すると、ニッケルの含有率が0.75重量%低下しても、マンガンの含有率が0.75重量%増加することで、400℃でのC転化率が83.63%から91.56%に大幅に増加している。しかし、サンプルE2,E3を対比すると、ニッケルの含有率が1.5重量%低下して、マンガンの含有率が1.5重量%増加しても、400℃でのC転化率は91.56%から84.04%に低下している。この点については、サンプルE4~E6の結果と、サンプルE3とニッケル及びランタンの含有率が同じでマンガンを添加していないサンプルC2の400℃でのC転化率が87.14%であることを考慮すると、マンガンの含有率の3重量%は、C転化率に対するマンガンの含有率の好適範囲の上限を僅かに超えていると考えられる。よって、当該好適範囲の上限は、2.5~3.0重量%、より好ましくは、2.0~2.5重量%と考えられる。また、当該好適範囲の下限は、0.05重量%、より好ましくは、0.5重量%と考えられる。
【0069】
図6に示すコーキング量の評価結果では、サンプルE1~E3の方が、サンプルE4~E6より、ニッケルの含有率が高いにも拘わらず、コーキング量が小さく、サンプルE1~E3のコーキング量は、何れも比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1のコーキング量(0.14%)以下である。
【0070】
400℃でのC転化率(初期評価)とコーキング量の評価結果は、図5に示すサンプルD0~D7の中では、サンプルD5(マンガンの含有率が1重量%)において、C転化率が最も大きく、コーキング量が最も小さく、図6に示すサンプルE1~E3の中では、サンプルE2(マンガンの含有率が1.5重量%)において、C転化率が最も大きく、コーキング量のが最も小さいことを鑑みると、マンガンの含有率の最適値は、1.0~1.5重量%(ニッケルの担持量を基準にすると、ニッケルの担持量の6.66~10重量%に相当)付近にあると推定される。
【0071】
更に、図6に示すコーキング量の評価結果と、図5に示すコーキング量の評価結果を対比すると、ニッケルの含有率を15重量%から0.75~3重量%だけ低下させ、代わりに、マンガンの含有率を0.75~3重量%とすることで、比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1より高い触媒活性を維持しつつ、コーキング量を比較用サンプルX1と同等以下に抑制できることが分かる。これより、含有率が好適範囲内にあるニッケルの一部は、含有率が好適範囲内にあるマンガンに置換することで、比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1より高い触媒活性を維持しつつ、コーキング量を比較用サンプルX1と同等以下に抑制でき得ると考えられる。
【0072】
以上のサンプルA1~A6,B0~B7,C1~C5,D1~D7,E1~E6の評価結果を総合すると、ニッケル、ランタン、及び、マンガンの各含有率の好適範囲として、以下が想定される。
ニッケル:11~18重量%、更に好ましくは、13~17重量%。
ランタン:8~12重量%、更に好ましくは、10~12重量%。
マンガン:0.05~3重量%、より好ましくは、0.5~2.5重量%、更に好ましくは、1~1.5重量%。
【0073】
更に、ニッケルとマンガンの合計含有率の好適範囲として、11.05~21重量%、より好ましくは、11.05~18重量%、更に好ましくは、13~17重量%が想定される。
【0074】
更に、ランタンとマンガンの合計含有率の好適範囲として、8.05~15重量%、より好ましくは、10.05~15重量%、更に好ましくは、10.5~14.5重量%が想定される。
【0075】
更に、ニッケルに対するランタンの重量比(La/Ni)の好適範囲として、50~120%、更に好ましくは、75~100%が想定される。
【0076】
更に、ニッケルに対するマンガンの重量比(Mn/Ni)の好適範囲として、0.33~20%、より好ましくは、3.33~20%、更に好ましくは、6.66~15%が想定される。
【0077】
[第2の助触媒成分の検討]
本触媒の第2の助触媒成分としてマンガンを選択するに際して、第2の助触媒成分として、マンガン以外に、カルシウム(Ca)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)を使用したサンプルF1~F9を準備して、C転化率(反応温度が400℃、500℃、600℃での初期評価)、H単位吸着量、及び、初期評価後のコーキング量の評価を行った。尚、サンプルF1~F9は、ニッケル、ランタン、及び、第2の助触媒成分の各含有率が、13.5重量%、10重量%、1.5重量%であり、サンプルE2と同じ調製方法により、サンプルE2の硝酸マンガンに代えて第2の助触媒成分の各金属の硝酸塩を用いて調製した。
【0078】
図7に、サンプルF1~F9の第2の助触媒成分として使用した金属、及び、ニッケル、ランタン、当該金属の各含有率とともに、サンプルF1~F9、サンプルE2、及び、比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1のC転化率(反応温度が400℃、500℃、600℃での初期評価)、H単位吸着量(初期評価前)、及び、初期評価後のコーキング量の評価結果を一覧表に纏めたものを示す。尚、サンプルE2の評価結果は、図6に示す内容と同じであり、ルテニウム触媒X1の評価結果は、図3に示す内容と同じである。
【0079】
図7に示すH単位吸着量の評価結果では、サンプルF1(カルシウム)、サンプルF5(コバルト)、サンプルF8(モリブデン)、サンプルE2(マンガン)の順に、H単位吸着量が高く好成績であるが、それ以外のサンプルF2~F5,F7,F9のH単位吸着量は、サンプルE2(マンガン)より低かった。
【0080】
図7に示すC転化率の初期評価結果では、サンプルF3(クロム)、サンプルF1(カルシウム)、サンプルF7(亜鉛)、サンプルF2(バナジウム)、サンプルF9(タングステン)の5サンプルが、比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1より高いC転化率を示しているが、何れも、サンプルE2(マンガン)のC転化率より低い。
【0081】
図7に示すコーキング量の評価結果では、サンプルF9(タングステン)とサンプルF4(鉄)のコーキング量が、サンプルE2(マンガン)及び比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1より低く、好成績であった。
【0082】
しかし、図7に示す3種類の評価結果を総合的に判断すると、以下に説明するように、マンガンが、第2の助触媒成分として最も適していることが分かる。
【0083】
コーキング量が2番目に低いサンプルF4(鉄)は、C3H8転化率が低い。C3H8転化率が比較的良いサンプルF3(クロム)、サンプルF1(カルシウム)、サンプルF7(亜鉛)、サンプルF2(バナジウム)は、コーキング量が比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1より高い。H2単位吸着量がサンプルE2(マンガン)より高いサンプルF1(カルシウム)、サンプルF6(コバルト)、サンプルF8(モリブデン)は、C3H8転化率が比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1より低いか、コーキング量が比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1より高い、または、その両方である。
【0084】
サンプルF9(タングステン)は、H単位吸着量及び400℃でのC転化率がサンプルE2(マンガン)より低いが、コーキング量が、最も低く、且つ、サンプルE2(マンガン)及び比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1より低いため、サンプルF1~F9の中では、第2の助触媒成分として、マンガンの次に好適であると判断される。
【0085】
従って、次に、ニッケルとランタンと第2の助触媒成分の各含有率がサンプルE1,E2と同じであって第2の助触媒成分がタングステンのサンプルF10,F11(サンプルF9と同じ調製方法で準備したもの)を追加で準備して、サンプルE1~E3、サンプルF9~F11、及び、比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1に対して、比較用サンプルX1とともに、反応温度450℃におけるC転化率を96時間連続で(12時間毎に8回)評価した。尚、サンプルF10のニッケル、ランタン、タングステンの各含有率は、14.25重量%、10重量%、0.75重量%であり、サンプルF11のニッケル、ランタン、タングステンの各含有率は、12重量%、10重量%、3重量%である。尚、サンプルE1~E3は、図6に示す評価で使用したサンプルとは別に準備し、サンプルF9は、図7に示す評価で使用したサンプルとは別に準備し、比較用サンプルX1は、図3に示す評価で使用したサンプルとは別に準備した。
【0086】
図8に、当該96時間までのC転化率の評価結果を示す。図8に示す結果より、反応温度450℃における96時間までのC転化率は、サンプルE1~E3(マンガン)では、3成分の含有率の3通りの組み合わせの全てにおいて、C転化率が100%であったのに対して、サンプルF9~F11(タングステン)では、何れも、C転化率は100%に届かず、タングステンの含有率が0.75重量%と1.5重量%のサンプルF10,F9では、比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1のC転化率より高いが、タングステンの含有率が3重量%のサンプルF11では、比較用サンプル(ルテニウム触媒)X1のC転化率より大幅に低下している。
【0087】
よって、第2の助触媒成分がタングステンのサンプルF9は、コーキング量が、サンプルE2(マンガン)より僅かに低く好成績であったが、C転化率の観点からは、サンプルE1~E3(マンガン)の方が、サンプルF9~F11(タングステン)より明らかに好成績である。
【0088】
[担体成分の検討]
本触媒の担体は、γ-アルミナを主成分として含んで構成されている。当該担体の主成分を、γ-アルミナからα‐アルミナに変更した比較例と対比して、本触媒の触媒性能を評価したので、評価結果を説明する。
【0089】
本評価では、6種類の触媒を準備した。2つは、図5に示す評価で使用したサンプルとは別に準備した本触媒のサンプルD2と、図6に示す評価で使用したサンプルとは別に準備しサンプルE2である。他の4つは、比較例のサンプルG1~G4である。サンプルG1,G2は、α‐アルミナを主成分とする担体Aに、ニッケル、ランタン、及び、マンガンが担持された比較用サンプルである。サンプルG3,G4は、α‐アルミナを主成分とする担体Bに、ニッケル、ランタン、及び、マンガンが担持された比較用サンプルである。サンプルG1,G3のニッケル、ランタン、マンガンの各含有率は、サンプルD2と同じで、順番に、15重量%、10重量%、0.1重量%である。サンプルG2,G4のニッケル、ランタン、マンガンの各含有率は、サンプルE2と同じで、順番に、13.5重量%、10重量%、1.5重量%である。
【0090】
担体Aは、α-アルミナの含有率が約99.5重量%で、シリカを約0.5重量%含み、BET比表面積が約6.1m/gのα-アルミナ担体である。担体Bは、α-アルミナの含有率が約99.4重量%で、シリカを約0.6重量%含み、BET比表面積が約1.8m/gのα-アルミナ担体である。
【0091】
サンプルG1~G4は、担体がサンプルD2,E2と異なるだけで、サンプルD2,E2と全く同じ調製方法で準備された。尚、担体A及びBは、サンプルG1~G4の調製前に予め80℃で16時間乾燥させた後、粒径が約200μm以下となるように篩掛けしたものを使用している。
【0092】
本評価では、C転化率(反応温度が400℃、500℃、600℃での初期評価)、H単位吸着量(初期評価前及び初期評価後)、及び、コーキング量(初期評価前及び初期評価後)の3種類の評価を行った。
【0093】
図9に、サンプルD2,E2,G1~G4の担体、及び、ニッケル、ランタン、マンガンの各含有率とともに、サンプルD2,E2,G1~G4のC転化率(反応温度が400℃、500℃、600℃での初期評価)、H単位吸着量(初期評価前及び初期評価後)、及び、コーキング量(初期評価前及び初期評価後)の評価結果を一覧表に纏めたものを示す。尚、サンプルD2及びE2の評価結果は、夫々、図5及び図6に示す評価結果に対して僅かな誤差がある。
【0094】
図9に示すC転化率の初期評価結果では、担体主成分がα-アルミナのサンプルG1~G4は、担体主成分がγ-アルミナのサンプルD2,E2と比較して、触媒組成(3成分の含有率)に関係なく、初期の触媒活性が非常に低く、サンプルD2,E2の10~60%程度である。
【0095】
図9に示すH単位吸着量の評価結果では、担体主成分がα-アルミナのサンプルG1~G4は、担体主成分がγ-アルミナのサンプルD2,E2と比較して、H単位吸着量が非常に小さい。また、サンプルG1~G4間では、担体AとBの違いに関係なく、マンガンの含有率が大きい方(サンプルG2,G4)が、H単位吸着量が小さく、マンガン添加の効果は見られない。
【0096】
図9に示すコーキング量の評価結果では、マンガンの含有率が1.5重量%のサンプルE2,G2,G4間では、初期評価前及び後のコーキング量に大きな差は見られないが、マンガンの含有率が0.1重量%のサンプルD2,G1,G3間では、サンプルG1,G3(α-アルミナ担体)の初期評価後のコーキング量が、サンプルD2(γ-アルミナ担体)と比べて大きく、BET値の大きい担体Aで特に顕著である。サンプルG1,G3(α-アルミナ担体)とサンプルE2,G2(α-アルミナ担体)を比較すると、マンガンの含有率の大きい方が、コーキングが抑制されており、マンガン添加の効果が表れている。
【0097】
図9に示す3項目の評価結果を総合すると、本触媒に対して、担体をγ-アルミナを主成分とする担体から、α-アルミナを主成分とする担体に変更すると、本触媒の触媒性能が十分に発揮し得ないことが分かる。
【0098】
[長期安定性の検討]
次に、本触媒の長期安定性を、反応温度が450℃におけるC転化率を1008時間に亘り連続して(12時間毎に84回)評価した結果を用いて説明する。本触媒として、ニッケル、ランタン、マンガンの各含有率が13.5重量%、10重量%、1.5重量%のサンプルE2を、図6に示す評価で使用したサンプルとは別に準備し、比較用のサンプルとして、本触媒に対してマンガンを添加していない比較用のサンプルC3(Ni-La触媒)を、図3に示す評価で使用したサンプルとは別に準備し、比較用サンプルX1(ルテニウム触媒:ルテニウム担持量:2重量%、担体:γ-アルミナ)を、図3に示す評価で使用したサンプルとは別に準備した。
【0099】
図10に、サンプルE2,C3,X1に対する1008時間連続評価したC転化率の結果を示す。図10の縦軸がC転化率(%)で、横軸が水蒸気改質反応の継続時間(時)である。
【0100】
本触媒のサンプルE2は、ルテニウム触媒X1より高いC転化率を維持し、1000時間経過時点では、ルテニウム触媒X1の約1.9倍の95.9%という高いC転化率を示している。一方、マンガンを添加していない比較用サンプルC3は、500時間を経過するまでは、ルテニウム触媒X1より高いC転化率を維持していたが、評価開始後から徐々にC転化率が低下し、504時間を経過して以降は、ルテニウム触媒X1より低いC転化率となっている。以上の結果より、第2の助触媒としてマンガンを添加することで、本触媒のサンプルE2は、長期に亘って安定して高い触媒活性を維持し得ることが分かる。
【0101】
これは、マンガンの添加は触媒表面の金属分散に影響を与え、添加量が大きくなるに従い、耐シンタリング性が向上し、高い金属分散を維持できる時間が長くなるためである。尚、これらの点については、触媒粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像、元素マッピング評価等で確認している。ここでは、TEM像及び元素マッピング評価結果を個別には示さないが、図10は、それらが反映された結果を示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、ニッケル系の水蒸気改質触媒として有用であり、水蒸気改質システムに好適に使用される。
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図10