(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】ESG情報を用いたポートフォリオ構築方法、ESG情報を用いたポートフォリオ構築に関する情報処理を実行可能なコンピュータおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 40/06 20120101AFI20220104BHJP
【FI】
G06Q40/06
(21)【出願番号】P 2017137199
(22)【出願日】2017-07-13
【審査請求日】2020-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2016255310
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500081439
【氏名又は名称】株式会社グッドバンカー
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】フランクリン クスマン
(72)【発明者】
【氏名】筑紫 みずえ
【審査官】池田 聡史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/095748(WO,A1)
【文献】特開2004-086665(JP,A)
【文献】特表2010-522375(JP,A)
【文献】特表2009-520300(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0117774(US,A1)
【文献】神座保彦,“第1部 ベンチャーキャピタル投資の実践的課題 第4章 社会的視点からのハンズオンサポート”,ベンチャーキャピタルによる新産業創造,第1版,(株)中央経済社,2011年08月20日,pp.88~104
【文献】足達英一郎ほか2名,“ESGって何だ”,投資家と企業のためのESG読本,第1版,日経BP社,2016年11月15日,pp.8~17
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにおける制御部が、投資対象企業の非財務情報の中で環境(Environment)、社会(Society)、企業統治(Governance)に関する情報(以下、ESG関連情報という)
を定量化し、スコアリングすることによって得られるESG評価値と、
投資対象企業の財務情報
をスコアリングすることによって得られる財務評価値とを
、メモリから読み出し、
コンピュータにおける演算部が、投資対象企業のESG評価値と財務評価値とを2次元座標として2次元グラフ上に表したときに、所定エリアに収まる財務評価値とESG評価値の両方が相対的に高い投資対象企業を、投資対象銘柄として抽出し、
コンピュータ
における演算部が、投資対象銘柄それぞれに対し、財務評価値とESG評価値と
を合算した総合評価値を
、スコア値として算出し、
コンピュータ
における演算部が、総合評価値の高い順に従って、投資対象銘柄の中からポートフォリオ構成銘柄を選定し、ポートフォリオを構築することを特徴とするポートフォリオ構築方法。
【請求項2】
コンピュータ
における演算部が、ポートフォリオ構成銘柄
に対するウェイト付けを、ポートフォリオ構成銘柄のESG評価値の相対的割合に従って行い、ファンドの分配比率を定めることを特徴とする請求項1に記載のポートフォリオ構築方法。
【請求項3】
コンピュータにおいて、
投資対象企業の非財務情報の中で環境(Environment)、社会(Society)、企業統治(Governance)に関する情報(以下、ESG関連情報という)を定量化し、スコアリングすることによって得られるESG評価値と、投資対象企業の財務情報をスコアリングすることによって得られる財務評価値とを、メモリから読み出すステップと、
投資対象企業のESG評価値と財務評価値とを2次元座標として2次元グラフ上に表したときに、所定エリアに収まる財務評価値とESG評価値の両方が相対的に高い投資対象企業を、投資対象銘柄として抽出するステップと、
投資対象銘柄それぞれに対し、財務評価値とESG評価値とを合算した総合評価値を、スコア値として算出するステップと、
総合評価値の高い順に従って、投資対象銘柄の中からポートフォリオ構成銘柄を選定し、ポートフォリオを構築するステップと
を実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項4】
コンピュータ
における演算部が、財務評価値とESG評価値がそれぞれ所定値以上をもつ銘柄を投資対象銘柄として抽出することを特徴とする請求項
1に記載のポートフォリオ構築方法。
【請求項5】
総合評価値が、財務評価値とESG評価値とを合算した値であることを特徴とする請求項
1、2、4のいずれかに記載のポートフォリオ構築方法。
【請求項6】
ポートフォリオ構築に関する情報処理を実行可能なコンピュータであって、
投資対象企業の非財務情報の中で環境(Environment)、社会(Society)、企業統治(Governance)に関する情報(以下、ESG関連情報という)
を定量化し、スコアリングすることによって得られるESG評価値と、
投資対象企業の財務情報
をスコアリングすることによって得られる財務評価値とを
、メモリから読み出す読み出し手段と、
投資対象企業のESG評価値と財務評価値とを2次元座標として2次元グラフ上に表したときに、所定エリアに収まる財務評価値とESG評価値の両方が相対的に高い投資対象企業を、投資対象銘柄として抽出する抽出手段と、
投資対象銘柄それぞれに対し、財務評価値とESG評価値とを合算した総合評価値を
、スコア値として算出する算出手段と、
総合評価値の高い順に従って、投資対象銘柄の中からポートフォリオ構成銘柄を選定
し、ポートフォリオを構築するポートフォリオ構築手段と
を備えたことを特徴とする
、ポートフォリオ構築に関する情報処理を実行可能なコンピュータ。
【請求項7】
コンピュータにおける制御部が、投資対象企業の非財務情報の中で環境(Environment)、社会(Society)、企業統治(Governance)に関する情報(以下、ESG関連情報という)
を定量化し、スコアリングすることによって得られるESG評価値
と、投資対象企業の財務情報
をスコアリングすることによって得られる財務評価値
とを、メモリから読み出し、
コンピュータにおける演算部が、投資対象企業それぞれに対して、ESG評価値と財務評価値とを合算した総合評価値を、スコア値として算出し、
コンピュータにおける演算部が、
総合評価値の高い順に従って、投資対象企業の銘柄の中からポートフォリオ構成銘柄を選定し、
コンピュータ
における演算部が、ポートフォリオ構成銘柄
に対するウェイト付けを、ポートフォリオ構成銘柄のESG評価値の相対的割合に従って行い、ファンドの分配比率を定めることを特徴とするポートフォリオ構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、企業情報に基づく資産運用に関し、特に、ポートフォリオの構築に関する。
【背景技術】
【0002】
投資信託などでは、上場企業の銘柄に対し、投資先となる企業(銘柄)を選定し、運用資産であるファンドのポートフォリオを構築するが、その銘柄の選定には、大別してアクティブ型とパッシブ型がある。アクティブ型ファンドの場合、運用者が主に財務情報などの分析に基づいて銘柄を選定する。一方、パッシブ型ファンド(インデックファンド)の場合、株価の単純合計に基づいた指数(日経平均株価など)、時価総額の合計に基づいた指数(TOPIXなど)などのインデックスに連動した運用を行う。そこでは、時価総額ウェイト方式、均等ウェイト方式などを用いて、選定銘柄のウェイト、すなわちファンド分配比率を決定する。
【0003】
一方で、時価総額、株価単純平均とは異なるインデックスに基づいてポートフォリオを構築する方法も知られている。それは一般にスマートベータと呼ばれ、企業の規模(売り上げ)、キャッシュフローなどの会計資料に基づいたインデックスを定義し、そのインデックスに応じて銘柄のウェイトを決定する(特許文献1、2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2009-520300号公報
【文献】特表2007-522562号公報
【文献】特表2010-522375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、資産運用において上記のような財務情報に基づく分析とは別に、環境(Environment)、社会(Society)、企業統治(Governance)の非財務情報を考慮した投資(以下、ESG投資という)が、近年世界的に浸透している。それは、環境(E)、社会(S)、企業統治(G)に対して企業がどれだけ熱心に取り組んでいるかを評価して運用するものであり、各項目の内容は、例えばEの分野では、気候変動(二酸化炭素削減)、環境負荷低減(リサイクル)、Sの分野では、社会的課題への取り組み、従業員施策、顧客・調達先対応、そしてGの分野では、法令順守、株主に対する説明責任といった具体的な項目が挙げられる。
【0006】
ESGに関する非財務情報(以下、ESG情報という)が長期的なリターンに寄与し、長期的に見て企業価値を向上させる情報であることが認識され始めており、ESG情報を根拠に投資対象企業を選定することが、社会的、政策的に求められている。しかしながら、各企業が発表するESG情報は、売り上げなどの財務情報と異なり、企業間で統一されたものではない。また、財務情報との相関関係も明確でない。
【0007】
したがって、従来型インデックスをベンチマークとするポートフォリオと異なり、ESG情報に基づく投資パフォーマンスを長期にわたって検証することは困難であり、そのため従来型投資に対する優位性を実証することも困難であった。しかしながら、通常のアクティブ型ファンドにおいて、市場平均に対する超過収益性についての信頼性が揺らぎ、パッシブ型ファンドによる投資信託が主流になっている現在、社会貢献的意義に加え、新たな超過収益源として、有益なESG情報を活用する新しいポートフォリオの構築が求められ、課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、通常の財務情報では把握できないESG情報を活用する新たなポートフォリオを提供するものであり、これは、出願人が過去10年以上に渡って調査した上場企業(1000社以上)のESG情報及びこれをスコア評価したものを、コンピュータによって集積し、バックテストなど過去のパフォーマンス解析などを行うことを可能にすることによって実現することができたものである。
【0009】
本発明のポートフォリオ構築方法は、ESG関連情報から得られるESG評価値と、企業の財務情報から得られる財務評価値とを、コンピュータによってメモリから読み出し、コンピュータによって、財務評価値とESG評価値とに基づいて総合評価値を算出し、コンピュータによって、総合評価値からポートフォリオ構成銘柄を選定し、ポートフォリオを構築する。このような方法は、コンピュータのハードウェア(算出部、選定部などをプロセッサで構成)、ファームウェア、ソフトウェアいずれにおいても実行可能であり、プログラミングすることができる。ESG評価値は、E、S、Gの少なくともいずれか一つに関する評価値を含んでいればよい。総合評価値の算出方法は様々あるが、例えば、財務評価値とESG評価値とを合算した値で算出することが可能である。
【0010】
あるいは、コンピュータによって、財務評価値とESG評価値の両方が相対的に高い銘柄を投資対象銘柄として抽出し、コンピュータによって、その投資対象銘柄の総合評価値に基づいて、その上位銘柄からポートフォリオ構成銘柄を選定することができる。例えば、コンピュータによって、財務評価値とESG評価値がそれぞれに対して定められた所定値(例えば、中央値、平均値など)以上をもつ銘柄を投資対象銘柄として抽出してもよい。さらに、コンピュータによって、ポートフォリオ構成銘柄のウェイトを、ESG評価値に応じて定め、ポートフォリオを構築することが可能である。
【0011】
本発明の他の態様における情報処理装置は、対象企業の非財務情報の中のESG関連情報から得られるESG評価値と、財務情報から得られる財務評価値とに基づいて、総合評価値を算出する算出手段と、得られた総合評価値に基づいてポートフォリオ構成銘柄を選定する選定手段と、選定された投資対象銘柄に基づいてポートフォリオを形成するポートフォリオ形成手段とを備える。
【0012】
さらに、本発明の他の態様によるポートフォリオ構築方法は、コンピュータによって、ESG関連情報から得られるESG評価値と企業の財務情報から得られる財務評価値とに基づく、あるいは一方の評価値に基づいて、ポートフォリオ構成銘柄を選定し、コンピュータによって、ポートフォリオ構成銘柄のウェイトをESG評価値に応じて定め、ポートフォリオを構築する。このような方法は、コンピュータのハードウェア(算出部、選定部などをプロセッサで構成)、ファームウェア、ソフトウェアいずれにおいても実行可能であり、プログラミングすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ESG関連情報/財務情報の両者を有効に活用したポートフォリオを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ポートフォリオ管理システムのブロック図である。
【
図2】ポートフォリオ構築処理を示したフローチャートである。
【
図3】ESGスコアと財務スコアの求め方を示した図である。
【
図4】ESGスコア値を縦軸、財務スコア値を横軸とし、各銘柄のESGスコア値、財務スコア値を2次元座標上でプロットしたグラフを示す図である。
【
図5】選定銘柄(ポートフォリオ構築銘柄)のESGスコアの推移を年度別に示したグラフである。
【
図6】ESGスコアとトピックスの変動を表すグラフを示した図である。
【
図7】ESGスコアとJPX400の変動を表すグラフを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本実施形態である資産運用システムについて説明する。
【0016】
図1は、ポートフォリオ管理システムのブロック図である。ポートフォリオ管理システムは、ここでは投資信託の委託会社などによって構築されるコンピュータシステムであり、マーケットに対して株式売買を行う資産運用システムに対してネットワーク接続されている。
【0017】
サーバ100は、ネットワークを通じてパーソナルコンピュータ10と接続されており、ファンドマネージャーなどの資産運用担当者(以下、ユーザともいう)は、パーソナルコンピュータ10を操作してサーバ100を動作させる。例えば、サーバのWEB機能によって作成されるWEB画面上にユーザがログインすることで、ポートフォリオ構築に関する処理を行うことができる。
【0018】
サーバ100は、ここではポートフォリオの構築、管理を行うコンピュータシステムとして機能し、ポートフォリオに関する演算処理、記憶処理、送受信処理などを実行することが可能である。サーバ100は、制御部120、記憶部140、演算部160を備え、サーバ全体の動作制御に関するプログラムは、ROMなどの不揮発性メモリ(図示せず)に記憶されている。
【0019】
データベース200には、後述する企業のESG関連情報に関するデータと、企業の財務情報に関するデータが格納されている。ESG関連情報のデータは、ここでは投資助言会社(投資顧問会社)500によって作成、提供され、例えばSRI(社会的責任投資)専門の投資助言会社によって提供される。財務情報のデータは、ここではユーザの所属するファンド運用会社550によって作成、提供されている。なお、ESG関連情報、財務情報については、銀行、保険会社、証券会社、シンクタンク、調査会社などによって作成することも可能である。
【0020】
ユーザによって所定操作が行われると、サーバ100の制御部120は、データベース200からESG関連情報と財務情報とを読み出し、一時的に記憶部140に格納する。そして、演算部160は、読み出されたESG関連情報と財務情報のデータに基づき、銘柄選定、選定銘柄のウェイト付けを行ない、ポートフォリオを形成する。これにより、運用資産の配分が決定される。資産運用システム600では、サーバ100から送られてくるポートフォリオデータに基づいて資産運用を行う。
【0021】
図2は、サーバ100において実行されるポートフォリオの作成処理を示したフローチャートである。ポートフォリオの作成は、四半期、半年、一年など、会計報告時期などに合わせて作成することが可能である。
【0022】
サーバ100の制御部120は、データベース200からESG関連情報と財務情報のデータを読み出す(S101、S102)。具体的には、企業のESG関連情報および財務情報に基づいて作成されるESGスコアおよび財務スコアのデータを読み出す。ESGスコア、財務スコアは、一定期間(例えば半年、一年ごと)ごとに作成されてデータベース200に蓄積されており、ここでは最新のESGスコア、財務スコアのデータが読み出される。
【0023】
ESGスコアは、企業の非財務情報の中でESGに関連する活動、組織体制などを定量化して評価した値であり、ESGの各分野の要件をどの程度満たしているか表す。一方、財務スコアは、企業の財務情報の中で営業効率、将来に向けての内部留保、キャッシュフローの健全性を評価した値をここでは示す。ここには、東証一部上場銘柄の一部(例えば1000社)の企業に関するESGスコアと財務スコアのデータが格納されている。
【0024】
図3は、ESGスコアと財務スコアの算定プロセスを示した図である。以下、ESGスコアと財務スコアについて説明する。
【0025】
ESG関連情報は、(例えば株式を公開している)企業が公表する非財務情報に含まれた企業情報であり、環境(E)、社会(S)、企業統治(G)それぞれに対する企業のアプローチ、実際の取り組みなどが含まれている。また、ESG関連情報には、企業自らが公表する情報とともに、投資の助言や調査を行う独立機関とのヒアリングなどによって開示される情報、報道機関などが提供する企業情報も含まれる。
【0026】
環境(E)、社会(G)、企業統治(S)には、それぞれ複数の項目が挙げられている。例えば環境(E)では、低炭素社会、資源効率性、水資源保護の項目、社会(S)では、両立支援(仕事と家庭の両立サポート)、ダイバーシティ推進、女性活躍の項目、そして企業統治(G)では、情報開示、ガバナンス体制、法令順守の項目が、それぞれ定められている。
【0027】
投資対象企業は、これらの項目に対する方針、姿勢、実際の取り組み(アプローチ)などを営業報告書やCSRレポートの中で示しているが、企業によってその表示内容は様々であり、売上高、純利益などの財務情報とは異なり、定性的な情報として扱われるものが多い。また、二酸化炭素削減量などについても、他の企業とそのまま比較できるように開示されていないこともある。そこで本実施形態では、ESG関連情報の各項目についてスコアリングし、企業間で比較できるように定量化してESGの総合スコアを企業ごとに求めている。
【0028】
例えば、環境(E)における低炭素社会の項目では、非財務情報の中で公表している二酸化炭素排出量に対し、前年度の対比値を企業間で比較し、スコアリングする。また、社会(G)における女性活躍の項目では、女性の登録、活用に関する質問事項を含むアンケート調査を事前に行い、回答内容に基づいてスコアリング評価を行う。アンケート調査では、あらかじめ点数の異なる段階的な回答項目を用意し、その中から該当する項目を企業が選ぶようにし、点数で順位付けすることが可能となる。
【0029】
ここでは、環境(E)、社会(S)、企業統治(G)に関し、それぞれ多数の項目(ここでは150、450、200項目)を設定している。環境(E)、社会(S)、企業統治(G)それぞれにおいて、項目ごとの点数を合計した値をスコア値として算出し、3つ(E、S、G)のスコア値を合算することによって、各企業のESGスコアを得る。ただし、報道などによる情報などを受けてネガティブ評価が生じた場合、再評価してスコア値を減点するなどして、ESGスコア値を修正する。
【0030】
一方、財務スコアについては、企業の発表する財務情報の中で、収益性、成長性、健全性に関する内容を評価し、スコアリングを行っている。具体的には、ROA(Return On Asset)、ROA変化率によって収益性を評価し、内部留保に基づいて成長性を評価し、アクルーアル(Accrual)によって健全性を評価する。収益性、成長性、健全性それぞれのスコアは、従来の統計手法による正規化によって求めることができる。そして、得られた3つのスコア値を合算することによって、企業ごとの財務スコア値が算出される。
【0031】
ESGスコア値と財務スコア値がデータベース200から読み出されると、投資対象となるべき銘柄(以下、投資対象銘柄という)が定められる(S103)。すなわち、ESG情報に基づくポートフォリオを構築するのにふさわしいユニバースを構成する銘柄群を抽出する。具体的には、ESGスコア値と財務スコア値をそれぞれ正規化して100点を最高点とし、2次元グラフ上において所定エリアに収まる銘柄を、投資対象銘柄として定める。
【0032】
図4は、ESGスコア値を縦軸、財務スコア値を横軸とし、各銘柄のESGスコア値、財務スコア値を2次元座標上でプロットしたグラフを示す図である。本実施形態では、ESGスコア値、財務スコア値いずれも相対的に高い銘柄を、ユニバース構成銘柄として選ぶ。ここでは、ESGスコア値、財務スコア値いずれも50以上、すなわち中央値(最高点の半分)以上となるエリアRに属する銘柄を、投資対象銘柄として抽出する。したがって、ESGスコア値もしくは財務スコア値のいずれか一方が比較的高く、他方が低い偏った銘柄は、投資対象銘柄から外される。
【0033】
投資対象銘柄が決まると、投資対象銘柄それぞれの総合評価値が算出される(S104)。ここでは、正規化したESGスコア値、財務スコア値を合算することによって総合評価値を求める。この総合評価値は、企業の持続可能な成長性を表すスコア値(サスティナブルインベストメントスコア)であり、ESGスコア値、財務スコア値を単純平均したスコア値で表される。あるいは、パーセンタイルの位置として表してもよい。
【0034】
投資対象銘柄の総合評価値が求められると、エリアRに属する投資対象銘柄の中でスコア値の高い順に従って、ポートフォリオを構成する銘柄を選定する(S105)。ここでは、総合評価値の高い上位100社を選定する。ポートフォリオ構成銘柄が選定されると、ESGスコア値に基づいて銘柄のウェイト、すなわちファンドの構成比率を決定する(S106)。
【0035】
具体的には、ポートフォリオ構成銘柄のESGスコア値の相対的割合(ESGスコア値の総和に対する各銘柄のESGスコア値)に従って、ファンドの構成比率を定める。ポートフォリオ構成銘柄の中でESGスコア値が高い銘柄ほど、ファンド分配比率が高まり、ESGスコアの高い企業に対してより多くの資金が集まることになる。
【0036】
このようなポートフォリオの構築処理を、一定期間(例えば半年)ごとに行う。各銘柄のESGスコア値、財務スコア値は時期によって変動するものであるから、投資対象銘柄(ユニバース)、ポートフォリオ構成銘柄もそれに応じて変動し、また、ESGスコア値によってウェイト(ファンド分配比率)も変動する。
【0037】
図5は、選定銘柄(ポートフォリオ構築銘柄)のESGスコアの推移を年度別に示したグラフである。ここでは、本実施形態のポートフォリオモデルを過去のESGスコアも含めて適用し、選定銘柄すべてのESGスコアを合算した値をグラフ化している。選定銘柄(上位100社)のESGスコアは、長期的に見て向上し、改善が続く。したがって、ESGファンド規模、ファンド数が大きくなるのに伴い、ESGスコアが高い企業に対してより多くの資金が集まることになる。
【0038】
図6は、ESGスコアとトピックスの変動を表すグラフを示した図である。
図7は、ESGスコアとJPX400の変動を表すグラフを示した図である。ここでは、対比できるようにスコアを正規化し、シミュレーションによって得ている。
図6、7に示すように、ESGスコアは、時価総額インデックスを表すTOPIXと、ROEなどを組み入れたインデックスを上回っている。よって、ESGスコアを利用した本実施形態のポートフォリオモデルは優れた運用パフォーマンスを得ることが明らかである。
【0039】
このように本実施形態によれば、ESGスコア値と財務スコア値とを銘柄ごとに算出し、ESGスコア値と財務スコア値の組合せ(2次元グラフ)から、投資対象銘柄(ユニバース)を定める。投資対象銘柄を定めると、投資対象銘柄の総合評価値(ESGスコア値+財務スコア値)を算出し、上位銘柄をポートフォリオ構成銘柄として選定する。そして、ESGスコア値に基づいて投資ウェイトを決定し、ポートフォリオを構築する。このようにESGスコアと財務スコアを組み合わせたポートフォリオの構築により、ESG投資が要請される近年の市場に適したポートフォリオを構築することができる。
【0040】
従来のESG関連情報を考慮したアクティブ型ファンドなどの場合、財務スコア、ESGスコアが提供されたとしても、ファンドマネージャーによって銘柄選定、投資ウェイトの仕方が異なり、ESGスコアと整合するポートフォリオ構築が困難であった。しかしながら本実施形態によれば、ESGスコアと財務スコアが提供されるだけで、ファンドマネージャーの個性を排除してポートフォリオを構築することが可能となり、ファンドマネージャーの経験値、嗜好などに基づく運用を回避することができる。
【0041】
特に、データベース200に格納されているESGスコアデータは、企業の定性的な特徴を詳細かつ客観的に分析し、定量化したスコア値であり、財務情報には含まれない企業価値情報が数値として表れている。したがって、財務スコアとESGスコアとを組み合わせた総合評価値の高い順位の銘柄を選定することは、将来に渡って持続的に企業価値を高めていくことができる企業を選定することを意味し、中長期的視点に立ってファンド運用を行う中で優れたパフォーマンスを実現することができる。そして、このようなパフォーマンスを実現するポートフォリオは、調査会社などによって蓄積され、データ構造化されたESGデータを利用することによって初めて可能となる。
【0042】
すなわち、ESGスコアデータが、長期間(十年以上)に渡る調査によって得られた各銘柄(企業)のESG評価値としてデータベース200に記憶されていることで、ファンドマネージャーは、任意銘柄のE、S、Gそれぞれのスコアを過去に遡って抽出することが可能となる。財務スコアについても同じようにデータ構造化され、任意銘柄について財務スコアを抽出することができる。したがって、ファンドマネージャーは、データ構造化されたESGスコアと財務スコア両方を利用することで、バックテストなどのシミュレーションを行ってポートフォリオモデルの検証、モデル修正などを自在に行うことが可能となり、実際の資産運用に上記ポートフォリオを適用することが可能となる。
【0043】
また本実施形態では、選定された銘柄に対し、資産ウェイトをESGスコアに従って決定する。従来使用されている時価総額ウェイトを採用していないため、割高な株価に対して資金が集中するのを防ぐことができる。一方で、ESGスコアの高い銘柄ほどファンド分配比率が大きくなるため、ESGスコアに関して持続的向上の見られる企業に資金をより多く集めることができる。
【0044】
さらに本実施形態では、ESGスコアと財務スコアとの組み合せから、投資対象銘柄を定めている。上位銘柄の選出前にあらかじめ候補となる銘柄を絞り込むことにより、財務面、ESG面両方とも評価の比較的高い企業を投資対象とすることができる。なお、投資対象銘柄を定めるエリアは
図3に示すエリアRに限定されるものではなく、それ以外のエリアを規定して(例えば平均値以上)投資対象銘柄を定めてもよい。さらには、投資対象銘柄の属するエリアを設定しなくてもよい。
【0045】
ESGスコアについては、
図3に示すような算出方法とは異なる方法で求めてもよい。また、財務スコアに関しても、
図3に示す財務内容以外の財務指標を追加し、あるいは入れ替えて財務スコアを算出してもよい。
【0046】
サーバ10以外のコンピュータによってポートフォリオ管理システムを構成することも可能であり、ステップS103~S106のステップをそれぞれ実行するプロセッサを別々に構成することも可能である。また、ハードウェアではなく、ファームウェア、ソフトウェアによってポートフォリオ構築処理を実行することも可能である。この場合、コンピュータ読み取り可能なプログラムをあらかじめコンピュータ内のメモリなどに格納し、実行させればよい。
【符号の説明】
【0047】
10 コンピュータ(情報処理装置)
100 サーバ
200 データベース