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特許6991566抵抗溶接用の電極チップの先端径測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】抵抗溶接用の電極チップの先端径測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/08 20060101AFI20220104BHJP
   B23K 11/24 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G01B11/08 H
B23K11/24 336
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017243540
(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公開番号】P2019109176
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】516080563
【氏名又は名称】株式会社フコク東海
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 孝
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-087221(JP,A)
【文献】特開2001-201327(JP,A)
【文献】特開2012-170983(JP,A)
【文献】特開2014-032076(JP,A)
【文献】特開2006-200899(JP,A)
【文献】国際公開第2011/052308(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0160974(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
B23K 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略半球状のドーム部と前記ドーム部よりも曲率の小さな先端面とを有する抵抗溶接用の電極チップの前記先端面の直径を測定する先端径測定装置であって、
前記先端面と前記ドーム部の少なくとも一部とを含むチップ先端部分が露出した状態で前記電極チップを収容するチップ収容部と、
前記チップ収容部に収容された前記電極チップの前記チップ先端部分に、入射光を斜め方向から入射させる光源部と、
前記入射光が前記チップ先端部分で反射された反射光を撮像するためのカメラを有する撮像光学系と、
前記カメラで撮像された前記反射光の画像を処理することによって、前記電極チップの前記先端面の直径を測定する画像処理装置と、
を備え、
前記入射光は、前記チップ先端部分への前記入射光の入射方向と、前記チップ先端部分からの前記反射光の射出方向との両方に垂直な方向に延びた直線状のライン光線であり、
前記画像処理装置は、
(a)前記反射光の画像を細線化することによって、前記反射光を表す曲線を含む細線化画像を生成する処理と、
(b)前記細線化画像の曲線と、予め設定された標準曲線とが2点で接するように前記細線化画像の曲線と前記標準曲線との位置関係を調整する処理と、
(c)前記2点の間の距離を前記先端面の直径として測定する処理と、
を実行する、先端径測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の先端径測定装置であって、
前記標準曲線は、前記ドーム部の半径と等しい半径を有する円弧である、先端径測定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の先端径測定装置であって、
前記光源部は、
ライン光線を射出するライン光源と、
前記ライン光源から射出された前記ライン光線を、前記ライン光線が延びる直線方向に拡散成形し照明ムラを解消させる方向性光拡散板と、
を有する、先端径測定装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の先端径測定装置であって、
前記電極チップは、銅で形成されており、
前記入射光は、600nm以下の波長を有するレーザー光である、先端径測定装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の先端径測定装置であって、
前記チップ先端部分への前記入射光の入射角は約45度である、先端径測定装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の先端径測定装置であって、
前記処理(b)は、前記細線化画像の曲線と前記標準曲線とが2点で接するように前記細線化画像の曲線と前記標準曲線の相対的な傾きを調整する処理を含む、先端径測定装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の先端径測定装置であって、
前記チップ収容部は、一対の前記電極チップを前記先端面同士が対向する状態で収容する一対の収容部を有し、
前記光源部は、前記チップ収容部に収容された前記一対の電極チップの前記チップ先端部分に前記入射光をそれぞれ入射させる一対の光源を有し、
前記撮像光学系は、前記一対の電極チップの前記チップ先端部分で反射された一対の前記反射光を1台の前記カメラに導く導光光学部品を含む、先端径測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗溶接用の電極チップの先端径の測定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抵抗溶接機は、一対の電極チップを用いて溶接対象のワークを挟んだ状態で抵抗溶接を実行する。しかし、抵抗溶接を行うにつれて電極チップの先端が変形するので、ある程度変形が進行すると、望ましい形状のナゲットを形成できなくなる。そこで、所定回数の抵抗溶接を行なう度に、変形の進行度に関わらずチップドレッサ-を用いて電極チップの先端部分を成形する処理などを行っているのが普通である。抵抗溶接の品質を維持するためには、都度その形状を確認する検査を行い、成形などの処理の要否を判断するのが望ましいが、現状は実施されていないことが多い。
【0003】
特許文献1には、電極チップの形状を検査する装置が開示されている。この検査装置は、1台のカメラと1つの反射鏡とを有しており、一対の電極チップのうちの一方はカメラによって直接的に画像の検出を行うとともに、他方の電極チップは反射鏡を介して間接的に画像の検出を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-285725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1には、電極チップの画像からどのように先端面の形状を検出するかについては記載されていない。電極チップの先端部分の画像において、先端面とその周囲のドーム部分との間の境界は必ずしも明確でないため、通常の画像処理によって電極チップの先端面の直径を精度良く測定することは困難である。また、例えば表面粗さ計を用いて電極チップの先端径を測定する方法もあるが、これには多大な測定時間を要するという問題がある。そこで、短い測定時間で精度良く電極チップの先端径を測定する技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、略半球状のドーム部と前記ドーム部よりも曲率の小さな先端面とを有する抵抗溶接用の電極チップの前記先端面の直径を測定する先端径測定装置が提供される。この先端径測定装置は、前記先端面と前記ドーム部の少なくとも一部とを含むチップ先端部分が露出した状態で前記電極チップを収容するチップ収容部と;前記チップ収容部に収容された前記電極チップの前記チップ先端部分に、入射光を斜め方向から入射させる光源部と;前記入射光が前記チップ先端部分で反射された反射光を撮像するためのカメラを有する撮像光学系と;前記カメラで撮像された前記反射光の画像を処理することによって、前記電極チップの前記先端面の直径を測定する画像処理装置と;を備える。前記入射光は、前記チップ先端部分への前記入射光の入射方向と、前記チップ先端部分からの前記反射光の射出方向との両方に垂直な方向に延びた直線状のライン光線である。前記画像処理装置は、(a)前記反射光の画像を細線化することによって、前記反射光を表す曲線を含む細線化画像を生成する処理と、(b)前記細線化画像の曲線と、予め設定された標準曲線とが2点で接するように前記細線化画像の曲線と前記標準曲線との位置関係を調整する処理と、(c)前記2点の間の距離を前記先端面の直径として測定する処理と、を実行する。
この先端径測定装置によれば、ライン光線がチップ先端部分で反射された反射光の細線化画像の曲線と標準曲線とが2点で接するように両者の位置関係を調整し、その2点の間の距離を先端面の直径として測定するので、短い測定時間で精度良く電極チップの先端径を測定することができる。
【0008】
(2)前記先端径測定装置において、前記標準曲線は、前記ドーム部の半径と等しい半径を有する円弧であるものとしてもよい。
この先端径測定装置によれば、より精度良く先端面の直径を測定できる。
【0009】
(3)前記先端径測定装置において、前記光源部は、ライン光線を射出するライン光源と、前記ライン光源から射出された前記ライン光線を、前記ライン光線が延びる直線方向に拡散成形し照明ムラを解消させる方向性光拡散板と、を有するものとしてもよい。
この先端径測定装置では、光拡散板でライン光線を拡散成形するので、照射面ではそれらの光は重なり合い、チップ先端部分が鏡面に近い場合にも、先端面の直径を精度良く測定できる。
【0010】
(4)前記先端径測定装置において、前記電極チップは、銅で形成されており、前記入射光は、600nm以下の波長を有するレーザー光であるものとしてもよい。
この先端径測定装置では、チップ先端部分が平滑な場合と凹凸が大きくポーラスな場合とで反射率があまり大きく変わらないので、先端面の直径を安定して精度良く測定できる。
【0011】
(5)前記先端径測定装置は、前記チップ先端部分への前記入射光の入射角は約45度であるものとしてもよい。
この先端径測定装置によれば、光学系の構成を簡略化しつつ、測定精度を高めることができる。
【0012】
(6)前記先端径測定装置において、前記処理(b)は、前記細線化画像の曲線と前記標準曲線とが2点で接するように前記細線化画像の曲線と前記標準曲線の相対的な傾きを調整する処理を含むものとしてもよい。
この先端径測定装置によれば、前記細線化画像が傾いている場合にも、傾きの調整を行うことによって、先端径の測定を精度良く行うことができる。
【0013】
(7)前記先端径測定装置において、前記チップ収容部は、一対の前記電極チップを前記先端面同士が対向する状態で収容する一対の収容部を有し;前記光源部は、前記チップ収容部に収容された前記一対の電極チップの前記チップ先端部分に前記入射光をそれぞれ入射させる一対の光源を有し;前記撮像光学系は、前記一対の電極チップの前記チップ先端部分で反射された一対の前記反射光を1台の前記カメラに導く導光光学部品を含むものとしてもよい。
この先端径測定装置によれば、一対の電極チップの先端径を一度に測定できるので、測定時間を短縮することが可能である。
【0014】
本発明は、装置以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、先端径測定方法の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】先端径測定装置の斜視図。
図2】装置本体の断面図。
図3A】光源部の構成を示す正面図。
図3B】光源部の構成を示す平面図。
図4】電極チップの断面図。
図5】チップ先端部分におけるライン光線の入射状態を示す斜視図。
図6】チップ先端部分におけるライン光線の入射状態の拡大図。
図7】先端径の測定手順を示すフローチャート。
図8】細線化で得られた一対の細線化画像を示す図。
図9】反射光の細線化画像の曲線と標準曲線との相対距離を示す説明図。
図10】拡散板の有無の効果を比較して示す説明図。
図11】各種の金属部材の反射率スペクトルを示す図。
図12】赤色レーザーと青紫レーザーで得られる画像を比較して示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、一実施形態における先端径測定装置400を示す斜視図である。この先端径測定装置400は、装置本体100と、画像処理装置200とを有している。装置本体100と画像処理装置200は、電気配線で接続されている。但し、両者を一体としてもよい。
【0017】
装置本体100は、筐体110と、筐体110の上下に設けられた一対の凹部112と、凹部112にそれぞれ設けられたチップ収容部120とを有している。装置本体100の構造については更に後述する。
【0018】
画像処理装置200は、プロセッサーとメモリーとを有するコンピューターであり、不揮発性メモリーに格納されたコンピュータープログラムを実行することによって、装置本体100の制御や後述する画像処理を実行する。なお、ASICなどのハードウェア回路を用いて画像処理装置200の機能を実現することも可能である。画像処理装置200は、表示部210を有しており、この表示部210に一対の電極チップの測定結果を表示することができる。図1の例では、上側の電極チップと下側の電極チップのそれぞれについて、OKかNGかが表示される。「OK」は電極チップの先端面の直径が所定の許容範囲内にあることを意味しており、「NG」は許容範囲外であることを意味している。
【0019】
図2は、装置本体の断面図である。前述したように、筐体110の上下に設けられた一対の凹部112には、チップ収容部120がそれぞれ形成されている。チップ収容部120は、電極チップ300のチップ先端部分が露出した状態で、電極チップ300を収容する部分である。2つのチップ収容部120は対向して設けられており、一対の電極チップ300を、それらの先端面同士が対向する状態で収容する。
【0020】
チップ収容部120の左側には、一対の光源130を有する光源部が配置されている。各光源130は、直線状のライン光線LLを射出するライン光源である。ライン光線LLは、チップ収容部120に収容された電極チップ300のチップ先端部分に斜め方向から入射する入射光となる。また、ライン光線LLは、チップ先端部分へのライン光線LLの入射方向と、チップ先端部分からの反射光の射出方向との両方に垂直な方向(図2の紙面に垂直な方向)に延びた直線状の光である。なお、「反射光の射出方向」は、チップ先端が平面であると仮定したときの鏡面反射方向である。図2の例ではライン光線LLの入射角は約45度であるが、入射角を45度以外の角度に設定してもよい。但し、入射角を約45度(例えば45度±2度)に設定すれば、後述する画像処理において、電極チップ300の先端径をより精度良く測定できる点で好ましい。
【0021】
チップ収容部120の右側には、撮像光学系170が配置されている。撮像光学系170は、チップ先端部分で反射された反射光を撮像するためのカメラ160と、チップ先端部分からの反射光をカメラ160に導く導光光学部品としてのミラー140,150とを有している。カメラ160は、一対の電極チップ300のチップ先端部分で反射された一対の反射光を同時に2次元画像として撮像する。なお、導光光学部品としては、ミラー140,150以外の光学部品を用いることも可能である。また、導光光学部品を使用せtずに、チップ先端部分で反射された反射光が直接カメラに入射するように構成することも可能である。但し、ミラー140,150のような導光光学部品を使用すれば、1台のカメラ160で一対の電極チップ300の反射光画像を撮像できるので、装置構成を簡略化できる。
【0022】
図3Aは、1つの光源130の構成を示す正面図であり、図3Bはその平面図である。光源130は、ライン光線LLを射出するライン光源132と、光拡散板134とを有している。図3A及び図3Bでは、ライン光線LLは、Y方向に延びる直線状の光である。ライン光源132は、例えばレーザー光源である。レーザー光源としては、600nm以下の波長を有するものを使用することが好ましい。レーザー光源の好ましい例については更に後述する。
【0023】
光拡散板134は、ライン光源132から射出されたライン光線LLを拡散成形し、照射面での照明ムラを解消する機能を有している。光拡散板134は、ライン光線LLの幅方向には拡散せず、ライン光線LLが延びる直線方向にのみ拡散成形して、照明ムラを解消する方向性光拡散板であることが好ましい。光拡散板134としては、例えば、微小でランダムなレンズアレイで構成されたレンズ拡散板(Light Shaping Diffusers)を使用することが可能である。光拡散板134の効果については後述する。なお、光拡散板134は省略可能である。
【0024】
図4は、電極チップ300の断面図である。電極チップ300は、円柱部310と、略半球状のドーム部320と、ドーム部320よりも曲率の小さな先端面330とを有する。ドーム部320の半径Raは、円柱部310の直径Daの1/2である。先端面330は、平面又は凸状の曲面であり、直径Db(「先端径Db」と呼ぶ)を有する円状の表面である。代表的な電極チップ300の寸法は、Da=16mm,Ra=8mm,Db=6mmである。また、先端面330の曲率半径は、例えば40mmである。但し、電極チップ300の寸法としては、これら以外の任意の寸法のものを使用可能である。例えば、先端面330は平面としてもよい。先端面330が平面である場合には、その曲率はゼロである。本明細書において、「ドーム部320よりも曲率の小さな先端面330」という語句は、先端面330が平面である場合も含んでいる。
【0025】
図5は、チップ先端部分におけるライン光線LLの入射状態を示す斜視図であり、図6はその拡大図である。これらの図は、図2においてミラー140から電極チップ300のチップ先端部分を観察した状態に相当する。本明細書において、「チップ先端部分」とは、電極チップ300の先端面330と、先端面330の近傍にあるドーム部320の少なくとも一部とを含む部分を意味している。電極チップ300は、装置本体100のチップ収容部120(図2)からチップ先端部分が露出した状態でチップ収容部120に収容される。従って、ライン光線LLは、先端面330とドーム部320の少なくとも一部とを含むチップ先端部分に照射される。
【0026】
図5には、電極チップ300のチップ先端部分におけるライン光線LLの照射位置を示す曲線Cmが一点鎖線で描かれており、また、予め設定された標準曲線Crefが実線で描かれている。カメラ160で撮像される画像は、このような曲線Cmを含む画像となる。図5の例では、標準曲線Crefは、ドーム部320の半径Raと同じ半径を有し、先端面330が無いものと仮定してドーム部320の外形に沿って描いた仮想的な円弧である。図6に拡大して示すように、ライン光線LLの照射位置を示す曲線Cmと標準曲線Crefは、先端面330の両端の2点Egで互いに接する。ライン光線LLが先端面330の中央を照射する状態では、これらの2点Egの間の距離は、先端径Dbに等しい。そこで、後述する画像処理では、これらの2点Egを検出することによって先端径Dbを測定する。
【0027】
図7は、先端径Dbの測定手順を示すフローチャートである。ステップS110では、一対の電極チップ300の先端を、チップ収容部120(図2)にそれぞれ挿入する。この動作は、例えば溶接ロボットによって自動的に行われる。ステップS120では、画像処理装置200の制御により、光源130からのライン光線LLをチップ先端部分に照射し、その反射光をカメラ160で撮像することによって反射光画像を生成する。ステップS130では、反射光画像を細線化することによって、反射光を表す曲線を含む細線化画像を生成する。
【0028】
図8は、細線化で得られた一対の細線化画像M1,M2の例を示している。これらの細線化画像M1,M2は、2つの電極チップ300について図6で説明したライン光線LLの照射位置を示す曲線Cm(すなわち、反射光を表す曲線)をそれぞれ含んでいる。ステップS130において細線化を行う理由は、図3Aで説明したように、ライン光線LLの幅LD2が拡大されているので、その反射光の画像をそのまま用いて図6に示す2点Egを検出すると測定精度が十分でない可能性があるためである。反射光画像の細線化を行えば、細線化画像M1,M2における曲線Cmの線幅が狭くなるので、2点Egの位置をより正確に決定することができ、先端径Dbの測定精度を向上させることが可能となる。なお、細線化処理では、曲線Cmの線幅を1画素にまで細らせることが好ましい。
【0029】
図7のステップS140では、細線化で得られた細線化画像M1(又はM2)の曲線Cmが、標準曲線Crefと2点で接するように細線化画像M1(又はM2)と標準曲線Crefとの位置関係を調整する。この処理は、2つの細線化画像M1,M2のそれぞれに対して行われる。図6で説明したように、反射光を表す曲線Cmと標準曲線Crefとは2点Egで接する。そこで、ステップS140では、細線化画像M1(又はM2)の曲線Cmと標準曲線Crefの相互の距離関係を調整することによって、2つの線が2点で接するように調整が行われる。図6の例において、曲線Cmと標準曲線Crefの相互の距離の調整は、これらの曲線Cm,Crefの一方を上下に移動することによって行われる。なお、図8の上側の例のように、細線化画像M1の曲線Cmが若干傾いているような場合も発生し得る。この場合には、細線化画像M1の曲線Cmと標準曲線Crefとが2点で接するように細線化画像M1の曲線Cmと標準曲線Crefの相対的な傾きを調整する処理を実行することが好ましい。具体的には、細線化画像M1の曲線Cmと標準曲線Crefの相対的な傾きを調整する処理と、両者が接するまで相互の距離を調整する処理とを繰り返し実行することによって、両者が2点でのみ接する状態を探索することが好ましい。
【0030】
図9は、反射光の細線化画像の曲線Cmと標準曲線Crefとの相対距離を示す説明図である。細線化画像M1(又はM2)の曲線Cmと標準曲線Crefが2点Egで接するように調整が行われた状態では、2つの曲線Cm,Crefの相対距離ΔCは、2つの接点Egでゼロとなり、他の位置では非ゼロとなる。上述したステップS140では、このような状態が得られるまで調整が実行される。
【0031】
ステップS150では、2つの曲線Cm,Crefの2つの接点Egの距離を測定し、その距離を先端面330の直径Dbとして決定する。測定結果は、表示部210(図1)に表示される。すなわち、上側の電極チップ300と下側の電極チップ300のそれぞれについて、電極チップ300の先端面330の直径Dbが所定の許容範囲内にあるか、或いは許容範囲外であるかが表示される。
【0032】
以上のように、本実施形態では、ライン光線LLがチップ先端部分で反射された反射光の細線化画像の曲線Cmと、標準曲線Crefとが2点で接するように両者の位置関係を調整し、その2点の間の距離を先端面330の直径Dbとして測定するので、短い測定時間で精度良く電極チップ300の先端径を測定することができる。
【0033】
図10は、光拡散板134(図3A図3B)の有無の効果を比較して示す説明図である。図10の上部は、光拡散板134を使用しない状態においてカメラ160で撮像された画像の例を示しており、図10の下部は光拡散板134を使用した状態においてカメラ160で撮像された画像の例を示している。以下に説明するように、光拡散板134は、電極チップ300のチップ先端部分の凹凸の程度に拘わらずに先端径測定を安定して行えるようにするために設けられている。
【0034】
電極チップ300のチップ先端部分は、未使用状態(新品状態)では凹凸が少ない鏡面状態にあり、使用につれて凹凸が激しくなる。チップドレッサーを用いて電極チップ300のチップ先端部分を切削した場合には、鏡面状態に近い状態に戻ることが多い。チップ先端部分が鏡面状態に近い場合には、反射光のかなりの部分がカメラ160の画角より外に反射してしまい、像として捉えることができなくなる可能性がある(図10の上部の画像の例)。このような問題は、特に、ライン光線LLが指向性の高いレーザー光である場合に顕著である。光拡散板134は、このような問題に対処するために設けられたものである。すなわち、光拡散板134によってライン光線LLをライン方向に拡散成形すれば、図10の下部に示すように、チップ先端部分が鏡面状態に近い場合にも、拡散した光が重なり合い、凸凹が多い場合と同様に安定した画像を得ることができる。この結果、先端面330の直径Dbを精度良く測定できる。
【0035】
図11は、各種の金属部材の反射率スペクトルを示す図である。この図は、電極チップ300の表面が鏡面に近い状態における反射率を示している。金属銅の場合には、光の反射率は赤色光(650nm)で約80%、青紫色光(405nm)で約25%となる。一方、本願の発明者の実験によれば、電極チップ300のチップ先端部分の凹凸が大きくポーラスな場合には、光の反射率は金属材質や波長によらず約20%である。この場合の反射率の比は、赤色光の場合には80/20=4倍となり、青紫色光の場合には25/20=1.2倍となる。すなわち、ライン光線LLとして青紫色光を使用した場合には、反射光強度の比の変動率が赤色光の場合の約1/3~1/4であり、より安定している点で好ましい。
【0036】
図12は、チップ先端部分の凹凸が大きな状態において、赤色レーザー(650nm)と青紫色レーザー(405nm)で得られる反射光画像の例を比較して示す図である。この例から理解できるように、青紫色レーザーを使用した場合には、チップ先端部分の凹凸が大きな場合にも、反射光画像の幅が過度に大きくなることを抑制できる。これは、青紫色レーザーでは、チップ先端部分が平滑な場合とポーラス状になっている場合とで反射率があまり大きく変わらないからであると推定される。従って、青紫色レーザーを用いれば、赤色レーザーよりも先端径の測定精度を高めることが可能である。
【0037】
なお、図11を参照すると、金属銅の反射率は波長が600nm以下で50%未満となって比較的安定している。この点を考慮すると、ライン光線LLとしては、600nm以下の波長を有するレーザー光を使用することが好ましく、500nm以下の波長を有するレーザー光を使用することが更に好ましい。
【0038】
本発明は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することが可能である。例えば、以下のような他の実施形態を採用することも可能である。
【0039】
(1)上述した実施形態では、標準曲線Crefとして、ドーム部320の半径Raと同じ半径を有する円弧を使用していたが、標準曲線Crefとしてはこれ以外の曲線を使用しても良い。例えば、標準曲線Crefとして、ドーム部320の半径Raの0.8倍以上1.2倍以下の半径を有する円弧を使用することも可能である。但し、標準曲線Crefを、ドーム部320の半径Raと等しい半径を有する円弧とすれば、より精度良く先端面330の直径Dbを測定できる。
【0040】
(2)上述した実施形態では、電極チップ300のチップ先端部分へのライン光線LLの入射角を約45度としたが、これ以外の角度に設定しても良い。例えば、入射角を、45度±10度の範囲の角度とすることも可能である。但し、ライン光線LLの入射角を約45度とすれば、光学系の構成を簡略化しつつ、測定精度を高めることができる。
【0041】
(3)上述した実施形態では、先端径測定装置400は、装置本体100に一対の電極チップ300を収容して同時にその先端径を測定できるものとしたが、1つの電極チップ300のみを対象として先端径を測定する装置としても構成しても良い。但し、一対の電極チップ300の先端径を一度に測定できるようにすれば、測定時間を短縮することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
100…装置本体、110…筐体、112…凹部、120…チップ収容部、130…光源、132…ライン光源、134…光拡散板、140,150…ミラー、160…カメラ、170…撮像光学系、200…画像処理装置、210…表示部、300…電極チップ、310…円柱部、320…ドーム部、330…先端面、400…先端径測定装置
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12