(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】地図データ作成方法および地図データ作成プログラム
(51)【国際特許分類】
G09B 29/00 20060101AFI20220104BHJP
G06T 11/60 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G09B29/00 Z
G06T11/60 300
(21)【出願番号】P 2018024898
(22)【出願日】2018-02-15
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】天口 英雄
(72)【発明者】
【氏名】河村 明
【審査官】鈴木 崇雅
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-18302(JP,A)
【文献】特開平7-234113(JP,A)
【文献】特開2011-76178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 29/00-10
G06T 11/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータを、
地図上において、少なくとも1つの建物と前記建物を含む敷地とを有する街区のデータを記憶する街区データの記憶手段、
前記街区の中に建物が含まれている場合に、前記建物の外形線に平行な複数の分割線を予め定められた間隔で配置し、前記分割線の中から地図上でいずれの建物にも重ならない分割線で前記街区を分割して敷地データを生成する分割手段、
として機能させることを特徴とする地図データ作成プログラム。
【請求項2】
コンピュータを、
複数の建物の予め定められた方向に対する傾斜角を求める傾斜角導出手段、
各建物の前記傾斜角の最頻値に応じて、前記街区の地図データを回転させる回転手段、
前記回転手段で回転後の地図データにおいて、街区に対して前記予め定められた方向に平行な前記分割線で前記街区を分割する前記分割手段、
として機能させる請求項1に記載の地図データ作成プログラム。
【請求項3】
コンピュータを、
前記建物の外形を、建物の面積に対応する面積を有する四角形に変換する変換手段、
として機能させる請求項1または2に記載の地図データ作成プログラム。
【請求項4】
地図上において、少なくとも1つの建物と前記建物を含む敷地とを有する街区のデータにおいて、前記街区の中に複数の建物が含まれている場合に、いずれかの前記建物の外形線に平行な複数の分割線を予め定められた間隔で配置し、前記分割線の中から地図上でいずれの建物にも重ならない分割線で前記街区を分割して敷地データを生成する
ことを特徴とする地図データ作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GIS(Geographic Information System:地理情報システム)のように入手可能な地図データに基づいてポリゴン型の地図データを作成する地図データ作成方法および地図データ作成プログラムに関し、特に、河川の氾濫や豪雨時の浸水の解析に好適に使用可能な地図データを作成する地図データ作成方法および地図データ作成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に大都市圏の都市流域ではゲリラ豪雨などの集中豪雨による内水氾濫や中小河川からの溢水による浸水被害が頻発しており、これら水害に対する対策が急務となっている。こうした現状から集中豪雨による洪水流出・氾濫を精度よく予測することが行政・市民両サイドから切望されている。雨水流出や浸水予測には、雨水流出・浸水過程をモデル化したデータを活用することが一般的である。
入手可能なGISデータでは、流域を格子状に分割したラスタ形状のグリッド型に限られている。したがって、流域のモデル化もグリッド型で行われることが大半であった。しかし、グリッド型のモデルの場合、水が土壌に浸透する割合(浸透率)や浸透しない割合(不浸透率)について、1つの区画に建物や田畑が混在していてもX%といった概算値で扱われる。よって、従来技術のようなグリッド型を採用した水流出解析モデルでは、流出予測精度の向上には限界があるという問題があった。
【0003】
このような問題に対応するため、本願発明者らは、以下の特許文献1に記載の発明を行い出願をした。
特許文献1としての特開2018-18302号公報には、GISデータからポリゴン型の地図データを自動作成する技術が記載されている。また、特許文献1では、街区を敷地を分割したり、地図記号データに基づいて敷地を分割する際に、建物の境界や記号データの点どうしの垂直二等分線を利用して分割を行うティーセン法(ボロノイ法)を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-18302号公報(「0030」-「0038」、「0053」、「0054」、
図9、
図10、
図12、
図13)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(従来技術の問題点)
流出予測を行う場合、建物の屋根からの水の浸透等の影響を考慮する必要があるが、建物の屋根からの水は、基本的にその建物の敷地内に浸透する。一般に、敷地と敷地の間には塀等が設けられていることも多く、建物の屋根からの水は塀で遮られて隣の敷地に浸透することは少ない。また、浸水予測を行う場合、建物の浸水深はその建物が存在する敷地の水位により影響を受ける。
したがって、建物に対して、実際の敷地の形状により近い形に敷地を分割することが流出予測の精度の向上には必要になる。
【0006】
ここで、特許文献1に記載されたティーセン法を使用する場合、建物の形状がシンプルである場合には、特許文献1の
図9、
図12に示されるように現実に近い敷地の分割が可能である。
しかしながら、実際の建物の形状はシンプルでないことが多く、また、街区に複数の建物が含まれると、特許文献1の
図10や
図13に示されるように、垂直二等分線で区分けするティーセン法では敷地の形状がいびつな形状となってしまう。したがって、ティーセン法で分割された敷地は、現実の敷地の広さ、形状とはズレが大きくなってしまう。よって、流出予測、浸水予測の精度に悪影響がある。
【0007】
本願は、ティーセン法のような従来の領域の区分けの方法に比べて、現実に近い領域の分割方法を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の地図データ作成プログラムは、
コンピュータを、
地図上において、少なくとも1つの建物と前記建物を含む敷地とを有する街区のデータを記憶する街区データの記憶手段、
前記街区の中に建物が含まれている場合に、前記建物の外形線に平行な複数の分割線を予め定められた間隔で配置し、前記分割線の中から地図上でいずれの建物にも重ならない分割線で前記街区を分割して敷地データを生成する分割手段、
として機能させることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の地図データ作成プログラムにおいて、
コンピュータを、
複数の建物の予め定められた方向に対する傾斜角を求める傾斜角導出手段、
各建物の前記傾斜角の最頻値に応じて、前記街区の地図データを回転させる回転手段、
前記回転手段で回転後の地図データにおいて、街区に対して前記予め定められた方向に平行な前記分割線で前記街区を分割する前記分割手段、
として機能させる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の地図データ作成プログラムにおいて、
コンピュータを、
前記建物の外形を、建物の面積に対応する面積を有する四角形に変換する変換手段、
として機能させる。
【0011】
前記技術的課題を解決するために、請求項4に記載の発明の地図データ作成方法は、
地図上において、少なくとも1つの建物と前記建物を含む敷地とを有する街区のデータにおいて、前記街区の中に複数の建物が含まれている場合に、いずれかの前記建物の外形線に平行な複数の分割線を予め定められた間隔で配置し、前記分割線の中から地図上でいずれの建物にも重ならない分割線で前記街区を分割して敷地データを生成する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1,4に記載の発明によれば、ティーセン法のような従来の領域の区分けの方法に比べて、現実に近い領域の分割方法を提供することができる。
請求項2に記載の発明によれば、最頻値に基づいて回転させない場合に比べて、分割処理の処理負荷を軽減することができる。また、建物の角度を求める場合と同様に、最頻値を用いた場合、建物の向きが東西南北に向きやすくなり、街区回転後の東西南北方向の街区分割の精度が向上する。
請求項3に記載の発明によれば、四角形に単純化しない場合に比べて、領域を分割しやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明の実施例1の流出・浸水解析システムの説明図である。
【
図2】
図2は実施例1のコンピュータ本体の機能ブロック図である。
【
図3】
図3は実施例1の地図データの一例の説明図である。
【
図4】
図4は実施例1の街区の一例の説明図である。
【
図5】
図5は
図4の街区のデータを最頻値で回転した状態の説明図である。
【
図6】
図6は建物の外形を単純化させる手法の説明図であり、
図6Aは外接する四角形に変換する説明図、
図6Bは外接四角形の面積を元の建物の面積にあわせた場合の説明図である。
【
図7】
図7は実施例の街区の分割方法の説明図であり、
図7Aは縦方向に延びる分割線を等間隔に配置した状態の説明図、
図7Bは
図7Aの分割線の中から残った分割線を示す説明図、
図7Cは横方向に延びる分割線を等間隔に配置した状態の説明図、
図7Dは
図7Cの分割線の中から残った分割線を示す説明図、
図7Eは
図7B、
図7Dの分割結果を重ねた図である。
【
図8】
図8は
図7に示す分割結果からさらに分割する場合の説明図であり、
図8Aは左上の分割領域に縦方向に延びる分割線を配置した状態の説明図、
図8Bは左上の分割領域に横方向に延びる分割線を配置した状態の説明図、
図8Cは左下の分割領域に分割線を配置した状態の説明図、
図8Dは建物1つずつに街区が分割された状態の説明図である。
【
図11】
図11は実施例1の地図データ作成処理のフローチャートの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例(以下、実施例と記載する)を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0015】
図1は本発明の実施例1の流出・浸水解析システムの説明図である。
図1において、実施例1の流出・浸水解析システムSは、解析を行う作業者が利用可能な情報処理装置の一例としてのパーソナルコンピュータ11を有する。パーソナルコンピュータ11は、コンピュータ本体12と、表示器の一例としてのディスプレイ13と、入力装置の一例としてのキーボード14およびマウス15と、を有する。
実施例1のパーソナルコンピュータ11は、公衆回線の一例としてのインターネットワーク21に接続されている。パーソナルコンピュータ11は、インターネットワーク21を介して、情報処理装置の一例としての複数のサーバー22との間で情報の送受信が可能になっている。
なお、実施例1では、コンピュータ本体12は、インターネットワーク21に対してケーブルを介して有線接続されているが、これに限定されず、無線通信の一例としての無線LANやBluetooth(登録商標)、携帯電話回線等、任意の通信技術を利用して、無線接続することも可能である。
【0016】
(実施例1のコンピュータの制御部の説明)
図2は実施例1のコンピュータ本体の機能ブロック図である。
図2において、実施例1のコンピュータ本体12は、外部との信号の入出力および入出力信号レベルの調節等を行うI/O(入出力インターフェース)、必要な起動処理を行うためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータ及びプログラムを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM等に記憶された起動プログラムに応じた処理を行うCPU(中央演算処理装置)ならびにクロック発振器等を有するコンピュータ装置により構成されており、前記ROM及びRAM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
前記コンピュータ本体12には、基本動作を制御する基本ソフト、いわゆる、図示しないオペレーティングシステムOS、アプリケーションプログラムの一例としての地図データ作成プログラムAP1、アプリケーションプログラムの一例としての流出・浸水解析プログラムAP2、その他の図示しないソフトウェアが記憶されている。
【0017】
(実施例1のコンピュータ本体12に接続された要素)
コンピュータ本体12には、キーボード14やマウス15等の信号出力要素からの出力信号が入力されている。
また、実施例1のコンピュータ本体12は、ディスプレイ13等の被制御要素へ制御信号を出力している。
【0018】
(コンピュータ本体12の機能)
実施例1の地図データ作成プログラムAP1は、下記の機能手段(プログラムモジュール)M1~M12を有する。
【0019】
図3は実施例1の地図データの一例の説明図である。
地図データの記憶手段M1は、台風や集中豪雨等での水の流出を解析する対象の地域の地図データを記憶する。実施例1では、地図データの一例として、GISデータを記憶する。GISデータは、例えば、「東京都縮尺2500分の1地形図標準データファイル」のような、地形図データに加えて、建物や等高線などの地図情報や地図記号のような土地利用情報も含む地図データといった、従来公知の地図データを使用可能である。また、実施例1の地図データには、地図上における陸部と水部との境界である水涯線を特定する水涯線データと、地図上における橋を含む道路を特定する道路データと、地図上における建物の境界を特定する建物外周線データと、地図上における土地の状況を特定する地図記号データと、が含まれている。
【0020】
街区生成手段M2は、地図データに基づいて、地図上において、少なくとも1つの建物と建物を含む敷地とを有する街区のデータ(街区ポリゴン)を生成する。なお、街区生成手段M2は、従来公知の任意の方法を採用可能であり、例えば、特許文献1の街区抽出手段M8等に記載されているので詳細な説明は省略する。
街区データの記憶手段M3は、街区生成手段M2で生成された街区のデータを記憶する。なお、実施例1の街区データの記憶手段M3は、街区データの記憶をRAMにおいて一時的に記憶する場合も含む意味で使用している。
【0021】
図4は実施例1の街区の一例の説明図である。
重心導出手段M4は、1つの街区に含まれる各建物の重心座標を導出する。
図4において、15軒の建物が含まれる街区において、各建物の重心位置G1~G15を導出する。
傾斜角導出手段M5は、予め定められた方向の一例としての東西方向に対する各建物の傾斜角θを導出する。なお、傾斜角θは、1つの建物に対して、その建物の外形の各線の水平に対する傾斜角θを演算し、θの値が0~90°になるように90°を減算または加算する。そして、1つの建物の複数の外形線の傾斜角θの最頻値を、その建物の傾斜角θとする。したがって、建物の形状が四角形の場合は、4本の外形線の傾斜角θが、全て同一の値となり、最頻値にもなるため、建物の傾斜角θとなる。
【0022】
なお、傾斜角θは、最頻値を使用することが望ましいが、平均値を使用することも可能である。ただし、
図5の建物T1,T2に示すように、建物にバルコニーやベランダ、テラス等の突出した部分がある場合や、建物T3,T4に示すように、投影図で台形状の建物の場合、突出した部分や台形の脚辺の部分の傾斜角が、平均値を使用した場合には、全体の傾斜角に悪影響を与える場合がある。しかし、最頻値を使用した場合は、これらの角度が除外されやすく、求めたい建物の傾斜角が導出されやすく、後述の適切な分割線L1,L2が引かれやすい。したがって、平均値を使用する場合よりは最頻値を使用して建物の傾斜角θを導出する方がより好ましい。
最頻値導出手段M6は、傾斜角導出手段M5で導出された傾斜角θの最頻値θ1を導出する。
図4において、一例として、傾斜角θ=A[rad]の建物が7軒、θ=B[rad]の建物が4軒、θ=C[rad]の建物が3軒、θ=E[rad]の建物が1軒の場合、最も多いθ=A[rad]を最頻値θ1とする。なお、最頻値が複数ある場合には、傾斜角が小さい方を採用することが可能であるが、傾斜角が大きいものを採用したり、最頻値の平均値を採用したりすることも可能である。
【0023】
図5は
図4の街区のデータを最頻値で回転した状態の説明図である。
回転手段M7は、傾斜角の最頻値θ1に応じて、街区の地図データを回転させる。実施例1では、街区の重心位置G0を中心として、街区の地図データを最頻値θ1で時計回り方向に回転させる。したがって、
図4に示す街区の地図データが、
図5に示す形に回転される。なお、回転の中心は、街区の重心G0に限定されず、街区の四隅のいずれかの位置等、任意の位置とすることが可能である。
建物面積導出手段M8は、各建物の地図上での面積を導出する。
【0024】
図6は建物の外形を単純化させる手法の説明図であり、
図6Aは外接する四角形に変換する説明図、
図6Bは外接四角形の面積を元の建物の面積にあわせた場合の説明図である。
四角形への変換手段M9は、各建物を四角形に変換する(単純化する)。実施例1の四角形への変換手段M9は、
図6Aに示すように、まず、建物に外接する四角形(長方形または正方形)に変換する。そして、
図6Bに示すように、各外接四角形の面積が、建物面積導出手段M8で導出された面積となるように、建物の重心を中心として相似形の四角形に縮小する。したがって、実施例1の四角形への変換手段M9は、建物の面積に対応する面積を有する四角形に建物の外形を変換することで、建物の外形を単純化している。
なお、
図6に示すように、長方形または正方形のように、最頻値θ1の回転後の横方向(X軸)と縦方向(Y軸)に沿った辺を有する四角形に変換することが好ましいが、これに限定されない。例えば、建物毎に、建物の形状に最も近い四角形に変換することも可能であり、平行四辺形や菱形、台形等に変換する構成とすることも可能である。
【0025】
分割手段M10は、分割線生成手段M10aと、重複分割線の削除手段M10bと、外周分割線の削除手段M10cと、分割線の選択手段M10dとを有する。分割手段M10は、街区を分割線で分割して、建物毎の敷地を生成する。実施例1の分割手段M10は、1つの分割領域(敷地)に1つの建物が含まれるようになるまで、街区を分割したり、分割された領域をさらに分割することで、建物毎の敷地を生成する。
【0026】
図7は実施例の街区の分割方法の説明図であり、
図7Aは縦方向に延びる分割線を等間隔に配置した状態の説明図、
図7Bは
図7Aの分割線の中から残った分割線を示す説明図、
図7Cは横方向に延びる分割線を等間隔に配置した状態の説明図、
図7Dは
図7Cの分割線の中から残った分割線を示す説明図、
図7Eは
図7B、
図7Dの分割結果を重ねた図である。
図8は
図7に示す分割結果からさらに分割する場合の説明図であり、
図8Aは左上の分割領域に縦方向に延びる分割線を配置した状態の説明図、
図8Bは左上の分割領域に横方向に延びる分割線を配置した状態の説明図、
図8Cは左下の分割領域に分割線を配置した状態の説明図、
図8Dは建物1つずつに街区が分割された状態の説明図である。
【0027】
分割線生成手段M10aは、最頻値θ1で回転後の横方向に沿った分割線L1および縦方向に沿った分割線L2を生成する。実施例1では、
図7A、
図7B、
図8A~
図8Cに示すように、街区(や各分割領域)に対して、予め定められた間隔Δdをあけて複数の分割線L1,L2を生成する。なお、間隔Δdは、設計や仕様に応じて任意の値に設定可能であるが、例えば、Δd=0.5[m]に設定可能である。間隔が小さいほど、街区の分割は精度良くできるが、処理負荷、計算負荷が大きくなり、間隔が大きくなると処理負荷、計算負荷は小さくなるが、街区の分割ができない場合が発生しやすい。したがって、複数の建物が含まれている街区(または分割領域)が分割できなかった場合に、Δdを小さくして再度街区等の分割を試みる構成とすることも可能である。
なお、実施例1では、建物の外形が縦方向と横方向に沿った四角形状に単純化されている。したがって、実施例1では、分割線L1,L2は、結果として、建物の外形の線に平行な線となっている。これは、一般的に建物は、敷地の境界線に対して外形の線が平行に建てられることが多いため、実施例1の分割線L1,L2は、現実の敷地の境界線に近くなる。
【0028】
重複分割線の削除手段M10bは、生成された分割線L1,L2の中で建物に重なる分割線L1a,L2aを削除する(街区等の分割線から除外する)。
外周分割線の削除手段M10cは、街区の外周近傍に配置されて建物を含まない分割領域を生成する外周分割線L1b,L2bを削除する。具体的には、街区の左下の隅を座標系の原点とした場合に、建物全体の最大のX座標値と街区の最大のX座標値の間にある縦方向の分割線L1bや、建物全体の最小のX座標値と街区の最小のX座標値の間にある縦方向の分割線L1b、建物全体の最大のY座標値と街区の最大のY座標値の間にある横方向の分割線L2b、建物全体の最小のY座標値と街区の最小のY座標値の間にある横方向の分割線L2bを削除(除外)する。
【0029】
分割線の選択手段M10dは、各削除手段M10b,M10cで削除された残りの分割線L1,L2から分割線を選択する。実施例1では、残った分割線L1,L2が1つの場合は、その分割線を選択する。残った分割線L1,L2が複数以上存在する場合、Δdの間隔で配置された分割線L1,L2が複数存在する場合、すなわち、
図8Cに示すように建物どうしの間に複数の分割線L2cが存在する場合は、その分割線L2cの中心線を求めて、分割線として選択する。
したがって、分割手段M10は、
図7Eに示すように、選択された分割線L1,L2で分割された各分割領域A1~A4を生成し、最終的には、
図8Dに示すように、1つの領域に含まれる建物が1つになるように、分割領域A11~A25を生成する。
【0030】
図9は
図8Dの分割された街区を逆回転させた説明図である。
図10は
図9の状態から建物の形状を元に戻した説明図である。
逆回転手段M11は、分割手段M10で分割された街区を、最頻値θ1で逆回転させて、
図9に示すように、傾斜角を元の状態に戻す。
逆変換手段M12は、四角形への変換手段M9で四角形に変換された各建物の形状を、
図10に示すように、元の形状に戻す(逆変換する)。
【0031】
流出・浸水解析プログラムAP2は、地図データ作成プログラムAP1で作成されたポリゴン型地表面地物データに基づいて、降雨時の水の流れや、河川の氾濫といった水の流出に関する解析を行う。なお、流出・浸水解析プログラムAP2は、従来公知であり、特許文献1等に記載されているので、詳細な説明は省略する。
【0032】
(実施例1の流れ図の説明)
次に、実施例1のコンピュータ本体12における制御の流れを流れ図、いわゆるフローチャートを使用して説明する。
【0033】
(コンピュータ本体12における地図データ作成処理のフローチャートの説明)
図11は実施例1の地図データ作成処理のフローチャートの説明図である。
図11のフローチャートの各ステップSTの処理は、コンピュータ本体12に記憶されたプログラムに従って行われる。また、この処理はコンピュータ本体12の他の各種処理と並行して実行される。
図11に示すフローチャートは、地図データ作成プログラムAP1が起動された場合に開始される。
【0034】
図11のST1において、地図データを作成する対象の地域のGISデータを取得する。そして、ST2に進む。
ST2において、GISデータから街区ポリゴンを生成する。そして、ST3に進む。
ST3において、分割する対象の街区(または分割領域)を1つ選択する。一例として、街区や分割領域に番号を割り当て、最も小さな番号の街区等を選択することが可能である。そして、ST4に進む。
ST4において、街区等の選択領域に含まれる建物を抽出する。そして、ST5に進む。
ST5において、街区等の選択領域に含まれる各建物の重心G1~G15の座標を求める。そして、ST6に進む。
【0035】
ST6において、各建物の東西方向に対する傾き(傾斜角θ)を求める。そして、ST7に進む。
ST7において、傾きθの最頻値θ1を求める。そして、ST8に進む。
ST8において、最頻値θ1で街区等の選択領域の重心G0を中心として街区等と建物を回転させる。すなわち、重心G0を中心とする座標系において時計回りにθ1回転させる。そして、ST9に進む。
ST9において、各建物の面積を算出する。そして、ST10に進む。
ST10において、各建物を外接する四角形に変換する。そして、ST11に進む。
ST11において、各建物の重心を中心として元の面積と同じ四角形(相似の四角形)に縮小する。そして、ST12に進む。
【0036】
ST12において、縦方向にΔdの幅で等間隔に分割線L1を引く(生成する)。そして、ST13に進む。
ST13において、次の処理(1)、(2)を実行して、ST14に進む。
(1)建物と重なる縦方向の線L1aを削除する。
(2)建物全体の最大最小の座標値と街区の最大最小の座標値との間にある分割線L1bを削除する。
ST14において、残った分割線L1の中に、Δdで隣接する分割線L1cが存在するか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST15に進み、ノー(N)の場合はST16に進む。
ST15において、分割線L1cの中心線を求めて縦方向の分割線として選択、保存する。そして、ST17に進む。
ST16において、残った分割線L1を縦方向の分割線として選択、保存する。そして、ST17に進む。
【0037】
ST17において、横方向にΔdの幅で等間隔に分割線L2を引く(生成する)。そして、ST18に進む。
ST18において、次の処理(1)、(2)を実行して、ST19に進む。
(1)建物と重なる横方向の線L2aを削除する。
(2)建物全体の最大最小の座標値と街区の最大最小の座標値との間にある分割線L2bを削除する。
ST19において、残った分割線L2の中に、Δdで隣接する分割線L2cが存在するか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST20に進み、ノー(N)の場合はST21に進む。
ST21において、分割線L2cの中心線を求めて横方向の分割線として選択、保存する。そして、ST22に進む。
ST21において、残った分割線L2を横方向の分割線として選択、保存する。そして、ST22に進む。
【0038】
ST22において、分割線L1,L2で分割された分割領域を生成する。そして、ST23に進む。
ST23において、街区、建物、分割線L1,L2を逆回転させ、四角形に単純化した建物の外形を元に戻す。そして、ST24に進む。
ST24において、街区等の中に、建物が複数含まれる分割領域や街区が存在するか否かを判別する。イエス(Y)の場合はST3に戻り、ノー(N)の場合は地図データ作成プログラムAP1を終了する。
【0039】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の流出・浸水解析システムSでは、地図データ作成プログラムAP1が開始されると、GISデータに基づいて、GISデータが取得され、街区ポリゴンが生成される。
実施例1の地図データ作成プログラムAP1では、生成された街区に対して、最頻値θ1に基づいて街区等を回転させる。次に、各建物の形状が単純化される。そして、回転後の街区に対して、縦方向および横方向の分割線L1,L2を間隔Δdで生成する。分割線L1,L2の中で建物に重なる物や街区の端の近傍の分割線L1a,L1b,L2a,L2bが削除される。残った分割線が選択されるが、建物の間に複数の分割線L1c,L2cが生成される場合は、その中心線が分割線とされる。このようにして、各分割領域や街区に含まれる建物が1つになるまで分割が繰り返される。
【0040】
したがって、実施例1では、建物の外形に沿った分割線L1,L2で領域が分割されるため、従来のティーセン法を使用して分割する場合に比べて、建物の敷地の形状が、より現実の敷地の形状に近づく。すなわち、従来に比べて、より現実に近いように領域(街区や分割領域)が分割できる。よって、実施例1の地図データ作成プログラムAP1で作成された地図データを使用することで、流出・浸水解析の精度も向上する。
【0041】
また、実施例1では、最頻値θ1で回転させた後に、分割線L1,L2を生成している。街区等を回転させずに平行な分割線L1,L2を生成することも可能であるが、回転させた方が、横線(水平線)と縦線(垂直線)と単純になり、演算の処理負荷を軽減することが可能である。
また、最頻値θ1を使用することで、最も多くの建物の向きが分割線L1,L2に沿うことになる。分割線L1,L2と建物の向きが異なると、分割線L1,L2が建物に重なりやすくなって、分割線L1,L2で領域を分割されにくくなる。これに対して、実施例1では、分割線L1,L2が建物の向きに沿っており、領域が分割されやすく、領域分割の処理終了までの時間が短時間になることが期待される。
【0042】
さらに、実施例1では、建物の外形を四角形に単純化した後に分割線L1,L2で重複等の判定を行っている。建物の外形がいびつな形状のままでは、分割線L1,L2が建物に重なりやすく、領域が分割され難くなる。これに対して、実施例1では、建物の形状が単純化されることで、領域分割の処理終了までの時間が短縮されることが期待される。
また、実施例1では、四角形に単純化する際に、面積が同じになるように四角形が選択される。実際の建物の面積よりも大きいと、住宅密集地では建物同士が重なってしまう恐れもあり、分割ができなくなる恐れがあるが、実施例1では、そのような問題の発生が抑制される。
【0043】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)~(H06)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、地図データ作成プログラムAP1や流出・浸水解析プログラムAP2は、1つのパーソナルコンピュータ11に組み込まれた形態を例示したがこれに限定されない。すなわち、1つの情報端末で集中処理する構成に限定されず、各手段M1~M12を、インターネットワークで接続された複数の情報端末に配置して、分散処理を行う構成とすることも可能である。例えば、地図データの記憶手段M1は、官公庁のサーバにあるものを利用したり、流出・浸水解析プログラムAP2は、自治体の端末に組み込む等、任意の変更が可能である。
【0044】
(H02)前記実施例において、例示した具体的な地図データ等は、適用される地図データの地域(都市部や地方部等)や縮尺、要求される解析の精度等に応じて、適宜変更可能である。
(H03)前記実施例において、街区を最頻値θ1に基づいて回転させることが望ましいが、これに限定されない。街区を回転させず、建物の向きに沿った平行線(分割線)を生成するように構成することも可能である。
【0045】
(H04)前記実施例において、作成された地図データを流出・浸水解析に適用する場合を例示したが、これに限定されない。例えば、流出・浸水解析では、個々の建物の浸水素過程は考慮されたいため、作成された地図データを浸水解析に利用して、建物における水位を当該建物が存在している敷地における水位から推定することも可能である。また、流出・浸水解析では、地下に浸透した水については考慮されないため、地図データを、地下水浸透涵養解析に適用して、地下に染みこんだ水の流れや、屋根に降った雨を地下の貯留施設に流す場合の解析に使用することも可能である。他にも、地物毎の蒸発散解析に適用して、地物の有無や土壌がどれだけ湿っているかで蒸発のしやすさを解析して、気温への影響やヒートアイランド現象の精密な分析等にも使用することが可能である。
【0046】
図12は変更例の一例の説明図である。
(H05)前記実施例において、形状を四角形に単純化することが望ましいが、これに限定されない。形状を単純化せず、そのまま分割線L1,L2を生成することも可能である。このとき、
図12に示すように、各建物に対して、建物の範囲(X方向、Y方向の座標の最大値と最小値)を示す情報D1を演算、付与し、建物の形状自体は単純化しないように構成することも可能である。
また、単純化する場合も形状は四角形とすることが望ましいが、三角形や5角形以上の多角形、円形、楕円形等、任意の形状とすることも不可能ではない。
【0047】
(H06)前記実施例において、
図11において、ST21とST22ののちに、角度はそのままで分割線を引く場合を例示したがこれに限定されない。例えば、得られた分割線をもとに、これらを新たな街区としてみなし、ST3に戻るように変更することも有効である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の街区データ分割方法は、雨水流出や浸水予測以外でも、例えば分割された街区の面積と建物の面積を用いることで、都市計画の指標となる建ぺい率を推定することが可能である。また、分割線L1およびL2を得る手順において、建物間に分布する分割線を解析することにより、日照や採光の解析、延焼シミュレーションおよびビル風シミュレーションなどに利用される隣棟間隔を得ることが可能である。
【符号の説明】
【0049】
11…コンピュータ、
AP1…地図データ作成プログラム、
L1,L2…分割線、
M3…街区データの記憶手段、
M5…傾斜角導出手段、
M7…回転手段、
M9…変換手段、
M10…分割手段、
Δd…予め定められた間隔、
θ…傾斜角、
θ1…最頻値。