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特許6991616電流パルス法による電池診断装置及び電池診断方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】電流パルス法による電池診断装置及び電池診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20220104BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20220104BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20220104BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20220104BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20220104BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20220104BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/388
G01R31/389
H01M10/48 P
H01M10/44 P
H01M10/42 P
H02J7/00 Q
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020554753
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(86)【国際出願番号】 JP2019022129
(87)【国際公開番号】W WO2020090143
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2018204492
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度国立研究開発行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ベンチャー企業等による新エネルギー技術革新支援事業」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514270308
【氏名又は名称】エンネット株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】小山 昇
(72)【発明者】
【氏名】山口 秀一郎
(72)【発明者】
【氏名】古舘 林
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0149708(US,A1)
【文献】国際公開第2016/136788(WO,A1)
【文献】特開2000-019234(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0095143(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/392
G01R 31/388
G01R 31/389
H01M 10/48
H01M 10/44
H01M 10/42
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象となる二次電池に単一の電流パルスを印加するパルス電流発生器と、
その単一の電流パルス印加で得られる電圧応答を計測する電圧計測器と、
その電圧応答の経時変化を示すクロノポテンショグラムを得て、そのクロノポテンショグラムを正規化する第1データ処理装置と、
正規化された上記クロノポテンショグラムのデータを入力する第2データ処理装置を、備え、
上記第2データ処理装置において、予め用意された電池状態表現因子抽出用の二次電池についての正規化データと電池状態表現因子との相関性を用いて、上記測定対象となる二次電池の正規化データから、上記測定対象となる二次電池の寿命、温度、または、健全度と充電状態を含む電池状態表現因子を推定する電池診断を行うものであり、
上記電流パルスは、定電流である時間帯を有する定電流パルスであり、
上記測定対象となる二次電池の構成材料と電池状態表現因子抽出用の二次電池の構成材料は、それぞれ同じ組成のものであり、
上記測定対象となる二次電池に用いる該定電流の方向と電池状態表現因子抽出用の二次電池に用いる該定電流の方向とは、各々充電方向であるかあるいは各々放電方向であり、
上記正規化は、過渡抵抗曲線にパルス印加前後の電流値と電圧の過渡応答値から計算された見かけの過渡応答抵抗変化関数を用いた正規化であり、上記正規化データは該正規化を行ったデータであり、
上記電池診断における電流パルス方向の違いによるヒステリシス現象の影響を抑制したことを特徴とする電流パルス法による電池診断装置。
【請求項2】
測定対象となる二次電池に複数の電流パルスからなる電流パルスを印加するパルス電流発生器と、
その電流パルス印加で得られる電圧応答を計測する電圧計測器と、
その電圧応答の経時変化を示すクロノポテンショグラムを得て、そのクロノポテンショグラムを正規化する第1データ処理装置と、
正規化された上記クロノポテンショグラムのデータを入力する第2データ処理装置を、備え、
上記第2データ処理装置において、予め用意された電池状態表現因子抽出用の二次電池についての正規化データと電池状態表現因子との相関性を用いて、上記測定対象となる二次電池の正規化データから、上記測定対象となる二次電池の寿命、温度、または、健全度と充電状態を含む電池状態表現因子を推定する電池診断を行うものであり、
上記電流パルスは、定電流である時間帯を有する定電流パルスであり、
上記測定対象となる二次電池の構成材料と、電池状態表現因子抽出用の二次電池の構成材料は同じものであり、
上記測定対象となる二次電池に用いる該定電流の方向と電池状態表現因子抽出用の二次電池に用いる該定電流の方向とは、各々充電方向であるかあるいは各々放電方向であり、
上記正規化は、過渡抵抗曲線にパルス印加前後の電流値と電圧の過渡応答値から計算された見かけの過渡応答抵抗変化関数を用いた正規化であり、上記正規化データは該正規化を行ったデータであり、
上記電池診断における電流パルス方向の違いによるヒステリシス現象の影響を抑制したことを特徴とする電流パルス法による電池診断装置。
【請求項8】
上記第2データ処理装置は、上記測定対象となる二次電池の温度を含めた電池状態表現因子についての上記相関性に機械学習で抽出した相関性を用いて診断を行う診断アルゴリズムを搭載するものであり、上記温度について診断することで、上記の特徴に加え、上記二次電池の温度変化による影響を抑制することを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載の電流パルス法による電池診断装置。
【請求項9】
上記第2データ処理装置は、上記測定対象となる二次電池の温度を含めた電池状態表現因子についての上記相関性に機械学習で抽出した相関性を用いて診断を行う診断アルゴリズムを搭載するものであり、上記温度について診断することで、上記の特徴に加え、二次電池の温度変化による影響を抑制することを特徴とする請求項に記載の電流パルス法による電池診断装置。
【請求項10】
請求項に記載の電流パルス法による電池診断装置を用いた電流パルス法による電池診断方法であって、
上記電池状態表現因子の抽出においては、
(A1)上記電池状態表現因子を測定するステップと、
(A2)上記電池状態表現因子の抽出用二次電池に所定の電流パルスを印加し、
上記印加に対する応答電圧の経時変化を電圧計測器で計測し、
その計測結果であるクロノポテンショグラムの一連のデータを正規化するステップと、
を含む操作について、
(A3)異なる電池状態表現因子をもった複数の二次電池について、上記A1ステップとA2ステップとを含む操作を行って得られた、複数の正規化された上記データと複数の上記電池状態表現因子との相関性を機械学習によって抽出し、
電池診断においては、
(B1)上記測定対象となる二次電池に電流パルスを印加し、
(B2)その電流パルス印加に対する電圧応答の経時変化を示すクロノポテンショグラムを得て、
(B3)上記クロノポテンショグラムを正規化し、
(B4)正規化された上記クロノポテンショグラムのデータに上記相関性を用いた診断アルゴリズムを適用して、電池状態表現因子の推定を行うことで、
電池診断における電流パルス方向の違いによるヒステリシス現象の影響を抑制したことを特徴とする電流パルス法による電池診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池(LIB)等の、劣化判定、温度判定、および充電状態を含む電池状態診断を行う、電流パルス法による電池診断装置及び電池診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有力なエネルギー貯蔵手段の一つである高性能リチウムイオン二次電池の用途は、低炭素化社会の実現の課題との関連で電気自動車や定置型電源などの市場で大型・中型の電源として拡大を続けている。各電池メーカーが製造するLIBは同一ではなく、構成材料、サイズ、外形、容量、出力電圧が異なり、また電池の使用条件と環境により劣化進行の度合い、寿命の長短、安全性も異なる。
【0003】
現在、蓄電池一般に広く用いられている劣化診断では、単電池や組電池全体の内部抵抗の増大で評価する手法がとられている。また、電池のSOH(State of Health:健全度)やSOC(State of Charge:充電状態)についての評価には、それぞれについて出力電圧計測や電流積算法で推定するという直流法を用いたものである。これらの手法は,鉛蓄電池では大変有効な診断法である。しかし、LIBでは、動作原理や構成材料が鉛蓄電池と異なるために、正しい方法ではないことが知られている。
【0004】
ここで、上記SOHは、電池の健康状態または劣化状態の指標である。一般に、電池の劣化の尺度には大きく分けて、満充電容量の減少と抵抗の上昇が挙げられる。このため、SOHの定義には、満充電容量の初期と比べた減少の割合を劣化状態(容量維持率)、または抵抗の初期と比べた変化の割合を劣化状態(抵抗上昇率)として指すことが知られている。
【0005】
以下では、便宜的に、SOHは容量維持率を指すものとする。つまり、SOHは、容量減少の割合の指標で、容量維持率であり、使用中のある時点での満充電容量÷初期の満充電容量、のパーセント(又は百分率)表示である。
【0006】
ここで、上記の容量維持率の容量とは、電荷量(単位Ah)を表す場合と、仕事量(単位Wh)を表す場合とがある。以下の説明では、便宜的に電荷量を表わすものとする。
【0007】
また、抵抗上昇率を定義に用いる場合でも、交流抵抗または直流抵抗の場合があるため、この場合には、注意が必要である。
【0008】
SOHを実測する場合は、試験温度や電流値、SOCなど(直流抵抗の測定では通電時間など)の多くのパラメータを考慮しなければならない事が知られており、試験条件を最適化することが求められる。
【0009】
また、上記のSOC(States Of Charge)は、充電状態の指標である。満充電時を100%、完全放電時を0%と定義する。一般的にSOCの定義として、満充電状態を100%として、放電で流れた電流を積算して求められる。また、簡易的にSOCを測定したい場合は、電池の電圧を測定し、SOC-OCV(開回路電圧)曲線と照らし合わせることで、SOCの概算が出来ると考えられている。
【0010】
因みに、二次電池の従来の安全評価と管理手法の手順は、次の表1の通りである。
【0011】
【表1】
【0012】
上記表1に示すような直流抵抗値の計測による診断、あるいは、それと上記表1の4に示す1kHzのインピーダンス値とを組み合わせた劣化診断法を用いた診断器で鉛蓄電池の評価に使えるものが市販されている。しかし、この診断器をLIB診断に適用した場合には、診断確度は不十分なものである。その理由は、LIBでは電池が劣化して容量が低下しても、上記抵抗値がほとんど変化しない場合があったり、1kHzの周波数帯域で得られるインピーダンス特性の値については、この値が主に電池内の電解質の抵抗変化を反映するが、電極である正極や負極の特性変化を反映していなかったりするためである。即ち、LIBでは正極や負極の抵抗値は電解質の抵抗値と比べて一般に一桁程度小さい値を持つため、電極の劣化による抵抗値の変化は観測しにくい。また、電解質の抵抗値変化が観察される場合には、電池の劣化はかなり進んだ状態にあることが多い。
【0013】
鉛電池の場合と異なり、例えば市販のLIBの場合は、構成材料、形、容量等が各社で異なる個々に別ものの電池であり、電圧、電流、抵抗を計測するテスターのような市販の診断器で、各種のLIBの劣化度を計測することは不可能である。すなわち、LIBの診断器では、LIBの種類毎の診断用アルゴリズムを搭載することが求められる。また、一般に、電池の電気特性は、電池内部での電気化学反応の現象を反映することから、動作時の温度に大きく依存する。このため、その温度補正も必要である。
【0014】
また、上記のように、LIBを含めた二次電池の劣化評価には、出力電圧値の計測(すなわち、内部抵抗の変化を観察する)などの直流法が使用され、電圧、電流、および温度という3つの状態診断パラメータの測定を基本にしたものが多い。この中には、電池に秒単位の一定電流の放電パルスを印加して、その電圧降下特性から電池の劣化を判断する手法がある。この場合、1セル単位で劣化状態の把握が可能となる。
【0015】
また、その類似の直流法として、充電中や放電中の二次電池の電流を数十秒間ほど遮断し、その時の端子電圧の変化(電圧 vs 遮断時間)から電池の状態を判断する手法がある。
【0016】
ただし、LIBの場合は、これらの手法で得られた出力電圧の変化とSOCまたはSOHとの比例性等の相関性に関する把握は不十分なものであった。その主な原因の一つは、LIBの出力電位には電池反応に固体反応特有のヒステリシス現象があるためである。すなわち、SOCが同じ場合でも充電過程や放電過程後の電流動作方向によりLIB1個当たり数十ミリボルト(mV)の電位差が生じるヒステリシス現象のことである。
【0017】
一般に、直流パルスの過渡応答に上記ヒステリシス現象の因子が含まれているが、この現象を考慮した診断方法は公開や公表がなされていない。つまり、これを考慮した高精度の診断方法はこれまでなかったと言える。例えば、高度な技術を用いた診断方法と考えられている車載用のカルマン(Kalman)法での診断でも、出力電圧の変化をそのままモニタリングして時系列データとして使用しているものが多く、このヒステリシス現象は考慮されておらず電池のSOCやSOH評価の精度向上にはつながっていない。
【0018】
LIBの特性は、一般に充放電曲線で表現され、電池内部の構成材料特性の経時変化により、満充電容量が徐々に減少する場合と、その劣化がある時に突然大きく変化し、動作不能な寿命となる場合がある。また、非常に希ではあるが、急な発熱や発火を引き起こすことがある。この劣化の様子は電池の変形等でその外部から判定することは難しく、有効な手段はないのが現状である。
【0019】
従来、電池状態の劣化状態や充電状態判断のマーカーとして、(イ)電流または電圧パルス印加による内部抵抗の変化、(ロ)開回路電圧及び動作時の出力電圧の変化、(ハ)動作時での急な温度上昇観測などが用いられてきた(表2参照)。ここで、電池の劣化度合い(劣化状態)を表す尺度として、単位電気量放電あたりの開回路電圧の変化量、満充電状態での開回路電圧値の変化がしばしば用いられる。また、(満充電容量/初期満充電容量)の比が電池の健全度又は劣化度(つまりSOH)を表すパラメータとして、劣化状態を表す指標と考えられてきた。また、パワー密度(State of Power; SOP)の減少などもその指標となってきた。
【0020】
LIB劣化度合いと関係づけられる満充電容量の減少の計測は、長時間を要する低レートでの充放電特性を調べる(例えば、0.1Cレートで約20時間以上が必要)方法以外に手法はなく、現状では簡便な手法はない。
【0021】
LIBに関する現時点での評価法を表2に示す。しかし、これは未だに充分なものでなく、解決が必要とされる点がある。下記では、その共通の課題を示し、その解決法を整理する。
【0022】
【表2】
【0023】
ニッケル・カドミウム蓄電池やニッケル水素電池では、充放電条件によりメモリー効果と呼ばれる現象が起こることが知られている。これは、継ぎ足し充電等により、それらの電池での機器の作動時間が短くなる現象である。そのメモリー効果の解消には、深い放電と深い充電を繰り返すことが求められる。
【0024】
これに対して、LIBにはこのようなメモリー効果はないと言われている。しかし、注意深く観測すると、LIBの場合には、観測される出力電圧には、電流動作方向により1セル当たり数十ミリボルトの出力電圧の変動があることから、この電位差は無視できる値ではない。
【0025】
LIB特有の電位ヒステリシス現象の影響についは、一般に、表3に示したような国内外で汎用されているLIBの出力電位は、電池反応が固体反応特有のヒステリシス現象(図4参照)、すなわち、SOCが同一状態でも充電と放電過程後の制御方向により数十ミリボルト(mV)の電位差が生じ、直流パルスの過渡応答にこの因子が含まれてくる(非特許文献1)。
【0026】
LIBの場合は、電池構成材料の違いおよび電位計測直前の電池動作の充放電方向性によって、出力電圧の値に違いが出てくる。すなわち、SOCが同一状態でも充電と放電過程後の制御方向によりLIBの1個当たり数十ミリボルト(mV)の電位差が生じ、直流パルスの過渡応答にこの因子が含まれてくるので、この現象を考慮しなければ診断精度の向上は望めない。よって、本パルス法では上記のヒステリシス現象の影響を最小化する実験条件と確認法が本提案では考案し採用される。この際、パルス電流印加による熱変化の影響も軽減する実験条件が採用される。
【0027】
【表3】
【0028】
表3は、本発明で状態診断の評価対象とした各種LIBの性能概要を示す。サンプルセル番号(1)から(7)はそれぞれ、韓国製の18650型、日本製S社の26650型、日本製P社の角型、日本製P社の20700型、日本製T社の角型、日本製A社のラミネートの角型、及び中国製ラミネートの角型である。
【0029】
図4は、LIBで観察されるメモリー効果の例を示すが、表3に示した汎用の各種LIBについての低レート(0.1Cレートの定電流(CCモード)およびCVモード)で、測定環境温度25.0℃の充放電特性である。
【0030】
このヒステリシス現象は、電池診断において、次に示す問題を引き起こす。すなわち、LIBでSOCが同一状態でも、診断が充電過程後か放電過程後かの制御方向の違いにより上記の電位差が生じるために、一般には、定電流パルスに対する過渡応答にこの因子が含まれてくる。この電位差は出力電圧の変動に対して無視できる値ではなく、この現象を考慮しなければ診断精度の向上は望めない。なお、交流インピーダンス計測にもこのヒステリシス現象が含まれることは明らかであるが、考慮されていない。
【0031】
よって、本発明では、上記のヒステリシス現象の影響を最小化することを主旨のひとつとするものである。この際、定電流パルスの印加による発熱や吸熱による温度変化があり、電極反応への影響があることから、その影響も軽減される電池診断装置及び電池診断方法とすることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0032】
【文献】特許第6145824号
【非特許文献】
【0033】
非特許文献1:N. Oyama and S. Yamaguchi, J. Electrochem. Soc.,160, A3206-A3212 (2013)&非特許文献2:Anal. Chem., 83, 8429-8438 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0034】
従来、直流パルス過渡応答データをインピーダンス挙動に変換したナイキストプロットなどの表現は、同一電池で同一環境の計測条件下で測定した交流インピーダンス計測から直接得られる該当プロットとの間に無視できない相違があり、実験結果が一致しない場合が多かった。この相違の原因は、直流パルス法と交流インピーダンス法の両手法で得られた結果には、観察データそれ自身に誤差が含まれている、あるいは、評価手法とした擬似等価回路の各種パラメータ値の変化が正しく把握されていないことによると推定される。すなわち、現状の直流パルス法と交流インピーダンス法では電池の劣化度合を正しく診断できていないと推定できる。
【0035】
このため、二次電池の診断をこれまでより正確に行うための、電流パルス法による電池診断装置とその方法を、実現することを目的にする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
そこで、本発明の電流パルス法による電池診断装置は、
測定対象となる二次電池に単一の電流パルスを印加するパルス電流発生器と、
その単一の電流パルス印加で得られる電圧応答を計測する電圧計測器と、
その電圧応答の経時変化を示すクロノポテンショグラムを得て、そのクロノポテンショグラムを正規化する第1データ処理装置と、
正規化された上記クロノポテンショグラムのデータを入力する第2データ処理装置を、備え、
第2データ処理装置において、予め用意された電池状態表現因子抽出用の二次電池についての正規化データと電池状態表現因子との相関性を用いて電池診断を行うものである。
【0037】
因みに、電流パルスとして、解析上最も取扱いが容易であるのは、定電流パルスである。
【0038】
また、本発明の電流パルス法による電池診断装置は、
測定対象となる二次電池に複数の電流パルスからなる電流パルスを印加するパルス電流発生器と、
その電流パルス印加で得られる電圧応答を計測する電圧計測器と、
その電圧応答の経時変化を示すクロノポテンショグラムを得て、そのクロノポテンショグラムを正規化する第1データ処理装置と、
正規化された上記ロノポテンショグラムのデータを入力する第2データ処理装置を、備え、
第2データ処理装置において、予め用意された電池状態表現因子抽出用の二次電池についての正規化データと電池状態表現因子との相関性を用いて電池診断を行うものである。
【0039】
ここで、1つの電流パルス波形を、近似的に複数の定電流パルスの連続として取り扱うことも可能である。
【0040】
なお、これらの電池診断装置を用いた寿命(SOL)判定では、各種LIBの所定のSOH値を寿命値と決めて余命判定を行うものでもよい。また、第2データ処理装置は、上記の相関性を機械学習した診断アルゴリズムを搭載するものである事が望ましい。また、第1データ処理装置と第2データ処理装置は、同一のデータ処理装置を兼用するものでもよい。
【0041】
また、上記の電流パルスは、上記二次電池の充電方向の、ゼロを含む所定の電流値から所定の定電流値に変化した後に遮断される電流パルスであることを特徴とする。
【0042】
また、上記の電流パルスは、上記二次電池の放電方向の、ゼロを含む所定の電流値から所定の定電流値に変化した後に遮断される電流パルスであることを特徴とする。
【0043】
また、上記電池状態表現因子は、上記の電池診断装置と同様の構成の装置を用いて、電池状態表現因子抽出用の二次電池についての、健全度、充電状態、または測定対象となる二次電池の温度を含むクロノポテンショグラムのデータから抽出したものであることを特徴とする。
【0044】
また、上記電圧計測器の入力信号のノイズを抑制するノイズフィルタと、第1データ処理装置への入力データ数を抑制するデータリサンプリング手段を備えることを特徴とする。
【0045】
また、第2データ処理装置は、健全度、充電状態、および測定対象となる二次電池の温度を含めた電池状態表現因子についての上記相関性を機械学習した診断アルゴリズムを搭載するものであり、健全度、充電状態、あるいは測定対象となる二次電池の温度について診断するものであることを特徴とする。
【0046】
また、本発明の電流パルス法による電池診断方法は、
電流パルスを用いる電池診断方法であって、
電池状態表現因子の抽出においては、
(A1)上記電池状態表現因子を測定するステップと、
(A2)電池状態表現因子の抽出用二次電池に所定の電流パルスを印加し、
上記印加に対する応答電圧の経時変化を電圧計測器で計測し、
その計測結果であるクロノポテンショグラムの一連のデータを正規化するステップと、を含む操作について、
(A3)異なる電池状態表現因子をもった複数の二次電池について、上記A1ステップとA2ステップとを含む操作を行って得られた、複数の正規化された上記データと複数の上記電池状態表現因子との相関性を抽出し、
電池診断においては、
(B1)測定対象となる二次電池に電流パルスを印加し、
(B2)その電流パルス印加に対する電圧応答の経時変化を示すクロノポテンショグラムを得て、
(B3)上記クロノポテンショグラムを正規化し、
(B4)正規化された上記クロノポテンショグラムのデータに上記相関性を適用して、電池状態表現因子の推定を行うことを特徴とする。
【0047】
この電池診断においては、上記の電流パルス法による電池診断装置のいずれか1つに記載の電流パルス法による電池診断装置を用いることができる。
【0048】
ここで、データ取得時と電池診断時とで同じ電池または同じ型の電池を用いることに必ずしも限定する必要はなく、電池診断において許容範囲の誤差に入る診断結果が得られる場合は、電池診断の対象と異なる型の電池から得られた上記相関性を適用して、電池診断を行うことが可能な場合もある。それが可能である場合は、データを取得するための作業量を減らすことができる。
【発明の効果】
【0049】
本発明の電池診断装置または電池診断方法によれば、電池の劣化判定等の診断において、高精度な診断を短時間で行うことができる
【図面の簡単な説明】
【0050】
[図1]本発明の電流パルス法による電池診断装置の構成例を示すブロック図である。
[図2]本発明の電流パルス法による電池診断方法のフローチャートである。
[図3]正規化関数(ATRF)のデータベース作成および機械学習による診断アルゴリズム関数(SOH、温度、SOC、SOP、及びSOLの単数各因子または複数因子)の作成およびそれらの診断器への搭載のフローチャートである。
[図4]LIBで観察されるメモリー(ヒステリシス)効果の例を示すが、表1に示した汎用の各種LIBについての低レート(0.1Cレートの定電流(CCモード)およびCVモード)で、測定環境温度25.0℃の充放電特性である。図4(a)、図4(b)、図4(c)、図4(d)、図4(e)、図4(f)、図4(g)は、それぞれ表3のセル1から7の測定データである。
[図5]電流パルスを一方向へ繰り返し印加後のOCV値の変化を表す電位ヒステリシス現象の実例である。
[図6]電流パルスを繰り返し印加後のOCV値変化(電流パルスを充電と放電方向で繰り返した場合で、印加時間及び印加電流値を変えた時の応答)を表す電位ヒステリシス現象の実例である。
[図7]0.37Cから11.1Cレートまでの負電流パルスの印加実験検討を行い、それぞれの印加電流値で得られたCP応答をATRF(t)項に変換して得られた曲線の変化を示す。
[図8]図8(a)は計測データのリサンプリング例を示す図であり、この例では時間軸の対数において間隔が等しくなるようにリサンプリングをする。図8(b)、図8(c)は、各々電圧下降部、上昇部の拡大図である。
[図9]印加電流のパルス幅を変えて波高一定(-2.00A)で連続して測定した時に得られるATRF(t)のlog(t)に対するプロット例を示す図である。
[図10]ATRF(t)に関するSOC依存性の例を示す図である。図10(a)、図10(b)の横軸は、それぞれ、t/s、t1/2/s1/2である。
[図11]ATRF(t)に対するSOCと温度との依存性に関するデータベース化のイメージを示し、各々の劣化状態(SOH)についてファイル化する例を示す。
[図12]図12(a)は電池に印加される定電流パルスとそのクロノポテンショグラム(CP)応答、図12(b)はその正規化カーブ(ATRF(t))への変換、図12(c)はATRF(t)のシミュレーション解析で得られた等価回路パラメータ値を使って作成されたナイキストプロット例を示す図である。
[図13]クロノポテンショグラム(CP)の解析のために用いられる電池の全電極反応機構の等価回路モデリング(ECM)例を示す図である。
[図14]等価回路モデル〈R0_RnCn(n=2~5)_L1R1_CintRint〉でのパラメータ評価によるナイキストプロットのRC段数(n=2,3,4,5)依存性例を示す図である。上段の図14(a1)、図14(b1)、図14(c1)、図14(d1)はそれぞれ交流インピーダンス測定からの実測データからのプロット結果(+記号)及びそのフィッテングカーブを示しており、下段の図14(a2)、図14(b2)、図14(c2)、図14(d2)はATRF(t)(パルス測定条件;電流;1.00A、印加時間;2.00秒)の等価回路解析で得られたパラメータ値を用いたシミュレーションカーブを示す。
[図15]ATRF(t)プロットでの等価回路パラメータフィッティングのRnCnのn依存性例(図15(a)n=2、図15(b)n=3、図15(c)n=4、図15(d)n=5)の結果を表す。
[図16]CP過渡応答解析ATRF(t)項パラメータに対する温度依存性(5~45℃)およびSOH使用温度履歴を持つLIB(図16(a)未劣化、図16(b)低温劣化、図16(c)高温劣化)でのSOH依存性等の例を示す図である。
[図17]表のサンプル番号1のLIBについて、ATRF(t)に対するSOC依存特性を示す図である。
[図18]図18(a)は表4に示したパルス応答CP(電流印加時)の正規化カーブ(ATRF(t))の正規化生データを時系列データに用いた機械学習的SOH推定の誤差分布例を示す図である。図18(b)は表6に示したパルス応答CP(電流印加時)の正規化カーブ(ATRF(t))の正規化生データを時系列データに用いた機械学習的温度推定の誤差分布例を示す図である。
図19]充電動作中のLIBでパルス測定を行った場合のATRF(t)特性例である。充電電流1Aおよび0.5A下でのパルスに対して補正したATRF(t)曲線と、充電停止(電流0A)でのパルスに対するATRF(t)曲線との差を示す。
図20]充電中のLIBのパルス応答の正規化関数に対する電圧補正の影響例である。充電電流による電圧変化を補正する前と後とのATRF(t)値の差(%)を示す。測定条件は、充電電流1A、パルス波高2A,幅2s、サンプリングレート100kS/s、測定温度:室温(25℃)被検電池は、#397(18650)。
図21]ハードカーボンを負極に用いたLIB(初期容量:5.19Ah)の劣化電池における同一値の定電流モードでの充放電レート値に対する放電容量(観察容量)の依存性を示す。測定では、充電と放電の末端電圧をそれぞれ4.200V及び2.500Vとした。
【発明を実施するための形態】
【0051】
図1に、以下の説明において想定する電池診断装置のブロック図の例を示す。なお、以下においては、説明を簡単にするために、主に定電流パルスを想定している。この図で、電流パルス源1は、被検電池2となる二次電池に単一パルスまたは複数の単一パルスを含む一連のパルスからなる定電流パルスを印加するための定電流パルス発生器である。その印加による応答電圧の測定はその電圧計4により所定の時間間隔で測定するが、その入力信号のノイズ除去のために必要に応じてノイズフィルタ3を用いる。電圧計4の出力にはデジタル出力を想定しており、このデジタル出力に含まれるノイズ除去のために、必要に応じてデジタルフィルタ5を用いる。このデジタルフィルタ5の出力は、リサンプリング等を行う第1データ処理部6に入力され、その出力は第2データ処理部7に入力される。第2データ処理部7では、予め準備された二次電池劣化データやそれから抽出したデータ等のデータベース8の一部を学習して得られたアルゴリズム式を搭載し、そのアルゴリズム式を用いて電池診断を行いその結果を出力する構成である。
【0052】
また、図2に、以下の説明で想定する電池診断方法のフローチャートを示す。図2は、本発明のパルスの過渡応答を正規化関数とし、その正規化関数値と電池状態因子との相関性を機械学習した診断アルゴリズムを考案して、電池状態因子値を短時間で評価できるようにした電池診断装置の動作および電池診断方法の構成概略図である。上記電池状態因子とは、SOH、温度、SOC、SOP、及びSOLの因子である。その単数各因子または複数因子の値の推定にあたり、高精度な推定を高速で行うことができる。
【0053】
このフローチャートの各ステップでは、以下の手続きを行う。
START: 開始
F0: 被検電池
F1: パルス印加の最適条件による過渡応答測定を行う。
F2-1: 測定データからパルス印加時刻(t=0)の測定を行う。
F2-2: 測定データの平滑化で、ノイズリダクションを行う。
F2-3: 測定データの圧縮で、データリサンプリングを行う。
F3: 正規化関数(ATRFカーブ)の算出を行う。
F4: 等価回路パラメータの算出を行う。
F5-1: ATRF用診断アルゴリズムによる状態因子値(単数各因子または複数因子)の推定を行う。
F5-2: パラメータ用診断アルゴリズムによる状態因子値(単数各因子または複数因子)の推定を行う。
F6: 診断結果の表示または出力を行う。
STOP: 停止
【0054】
上記の定電流パルスには、LIB特有の電位ヒステリシス現象や印加パルスによる温度変化の影響を最小化する条件を選択した。外部印加の定電流パルスから得られるクロノポテンショグラム応答(ガルバノスタテック応答とも呼ばれる)の過渡応答カーブの連続計測データからのリサンプリングおよびノイズリダクション方法を採用し、ノイズに埋もれた信号から真の応答信号を抽出するためのデータ処理法を適用した。また、ノイズ除去のためにパルス過渡応答測定後に得られたデータをデジタル処理で圧縮平滑化した。この圧縮平滑化では、上記連続計測データから、数十点/桁でリサンプリングすると同時にデータの間引き区間内で信号を平滑化した。これらにより、信号のノイズレベルの低減とデータ量のコンパクト化を図った。コンパクト化されたデータは、ヘッダー情報を追加してcsv形式ファイルで記録した。
【0055】
次に、異なる計測条件下でも統一して評価ができる指標パラメータを使用できるようにするために、電池の劣化評価方法として、定電流パルス印加前後の電流値と電圧応答値とから計算された見かけの過渡応答抵抗関数(ATRF; Apparent Transient Resistance Function)カーブを求めた。また、それを擬似等価回路パラメータ値の計算に用いた。
【0056】
ここでは、測定時の温度(T)、パルスの大きさ(h)、パルス幅(τ)について、異なる測定条件下でも統一した評価ができるように、上記の過渡抵抗曲線にパルス印加前後の電流値と電圧の過渡応答値から計算された見かけの過渡応答抵抗変化関数(後述のATRF(t))を用いて正規化した。この方法の妥当性は、正規化した上記の過渡応答抵抗変化関数により求めた各カーブの同一性、または得られたカーブに対するシミュレーション最小二乗法フィッティングにより計算された解析用回路パラメータ値、を用いて変換したインピーダンス応答のナイキストプロット表示等(ボード線図表示を含む)を行い、それらのカーブフィッティングの最小二乗法による誤差評価を行い、その精度から確かめることができる。
【0057】
定電流パルス法で得られたクロノポテンショグラム(CP)の(イ)生データ(但し、ダウンサンプリング後の時系列データ)、(ロ)その等価回路パラメータ解析を行った各種パラメータ値のデータ、および(ハ)電池状態表示因子(SOH、T、およびSOC)、との各々の相関モデルを構築し、その相関モデルからSOH、T、およびSOCなどを推定する。これを実現するコンピュータプログラムでは、上記相関モデルとして、例えばカーネルモデル(カーネル関数を用いる機械学習モデル)を使用する。そして、上記生データならびに計測時の温度をカーネルモデルの入力とし、SOHおよび温度などを出力として教師学習を行う。カーネルモデルは求めるべきパラメータに関して線形となるため、最小二乗法を用いることで解析的に解が求まる。
【0058】
因みに、上記の各々の相関モデルを用いた場合の比較では、SOHおよび温度などの診断の機械学習法の結果の精度には大きな相違はなかった。
【0059】
また、図4は、表3のセル1からセル7において、充放電経路での起電力を示す。縦軸の起電力は電圧で単位はV、横軸のCapacityは充放電電荷量で単位はmAhである。これらのいずれのセルにおいても充電時と放電時の経路が異なりヒステリシス特性をとることが分かる。
【0060】
したがって、直流パルスの過渡応答(即ちCP)の高精度な計測を実現するために、(イ)電位ヒステリシス現象および熱変化の影響を軽減する計測条件の設定を行う必要がある。同一温度の条件下の計測でも印加パルスの大きさ(h)、パルス幅(τ)、印加パルスの方向性、および印加パルスの様式の違いにより、その実測の過渡応答(即ちCP)は異なる。このため、得られた応答は、どのような計測条件の場合に同一の過渡応答抵抗関数で表現できているか、の確認を行い、それらのデータベース化を行う。(ロ)特に、高レートに相当する電流値の印加では、電流値の上昇とともに上記過渡応答抵抗関数の値は徐々に減少することが分かった。この原因は、過渡応答抵抗関数項に関する電位ヒステリシス現象の誘起および温度の影響として解釈が可能であり、(ハ)定電流パルス印加時の計測条件の最適化が望まれる。
【0061】
<計測データのノイズリダクションおよびリサンプリング>
本実施例に用いる定電流パルス計測機器は、できるだけ低ノイズ化し、かつ、短時間での計測が可能なものとした。これに合わせて、電圧測定のサンプリング速度を例えば100kS/秒として、極短時間(十μ秒/サンプリング)で各サンプリングを行う。この様に高速サンプリングを行うのは、サンプリングによる時間軸での量子化誤差を低減するためである。また、重複測定による統計的ノイズ除去、印加する定電流パルスの波高の増大によるS/N比の改善など、パルス測定条件の改善を行っている。
【0062】
ここで、単一パルス印加が10秒以上の時間となる場合には、
(a)電池自身の持つ微分容量への影響(充電や放電による無視できなくなる信号変化)、
(b)上記パルス印加で誘起される熱発生および放熱による温度変化の影響、
(c)サンプリングデータ数の肥大化による処理データの増大など、上記パルス印加時間が短時間の場合に比べて、電池診断に関する新たに考慮すべき因子が発生する。
【0063】
一般に、パルス印加に対する過渡応答波形には大振幅のノイズが重畳して観測される。このため、測定データから真の応答信号を抽出するためのノイズリダクションが求められる。以下に説明する例では、データ処理の際にデジタルノイズリダクションを行う。さらに、パルス過渡応答の計測レンジに依るが、解析を高精度で行うためにサンプリングレートを高くする必要があり、この場合は計測データが膨大になる。このため、上記計測データの解析を高精度でしかも簡便に実行するためには、データリサンプリング(圧縮平滑化)を行ってデータ数の圧縮を行うことが望ましい。
【0064】
上記の様に、計測データのノイズリダクションおよびリサンプリングを行うことは、例えば、デジタルノイズリダクションのデータ処理を適用することで実現できる。
【0065】
また、データリサンプリングについては、例えば、過渡応答測定データから20点/桁でリサンプリングすると同時にデータの間引き区間内で信号を平滑化することとする。こうして、信号のノイズレベルの低減とデータ数量の低減を図る。得られたダウンサイズドデータは、ヘッダー情報を追加してcsv形式ファイルで出力する。これはつまり、例えば、100kS/sサンプリングレートでのパルス幅2sの測定データのケースでは、対数時間軸に対して等間隔の20点/桁でリサンプリングする。
【0066】
<クロノポテンショグラム(CP)の正規化>
一般に、電流パルス印加に対する過渡応答波形は、測定時の電池温度(T)、印加する電流パルスの波高(h)、波幅(τ)およびくり返し数によって異なる。このため、種々の計測条件下でも統一的な評価を可能にするために、指標パラメータを用いる。つまり、パルスを印加前から印加終了後も一定時間にわたって計測された電流値と電圧応答値とから計算された見かけの過渡応答抵抗関数に正規化して上記指標パラメータとする。この方法により、印加する電流パルスの波高や波幅の異なる計測条件で得られる上記過渡応答を同じ座標軸平面での特有のカーブ(正規化曲線)で表現できる。また、それらのカーブのデータベース化を行う。さらに、そのデータベースのデータを生データ(ダウンサンプリング後の時系列データ)として、SOHとの相関モデルを作成し、そのモデルから電池診断、つまりSOH、TおよびSOCの推定、を行う。
【0067】
また、上記正規化曲線に電池反応をシュミレーションする擬似等価回路をフィッティングして、その疑似等価回路の各種パラメータを求める。これは電池反応の経時変化の解析に最適なものであるので、その各種パラメータをデータベース化して、二次電池のSOHやSOC等の診断に活用することができる。
<実施例>1
【0068】
解析のための擬似等価回路およびその理論式
LIBの場合の擬似等価回路を図13に示す。この擬似等価回路では、上記定電流パルス法は直流法である性質上、その定電流パルスの印加と同時に図13に示した解析用の擬似等価回路の全ての素子が動作を開始し、各素子の応答電圧の総計が過渡応答電圧として出力されると見做すことになる。
【0069】
また、図12に、上記定電流パルスを印加したとき得られる電圧過渡応答における上記疑似等価回路の各要素パラメータの時間軸上での寄与を表す概念図を示す。上記疑似回路の各素子は固有の時定数を持つため、時間軸に並べてみるとその寄与の変遷を知ることができる。図12(a)から、L成分応答が十分に減衰した後で、未だRC回路群やワールブルグ要素からの応答が微小であるために、その影響を無視できるような時間帯が存在すると推定できる。
【0070】
従来のパルス法での計測からは、図14の実線に示すようなナイキストプロットが得られる。しかし、この結果を交流法での解析結果(図中+印で示す)と較べると、半円部は類似しているものの、両者の解析結果は一致していないことが多い。
【0071】
その原因は、上記パルス法や交流法で得られる計測データから、図13に示す解析用等価回路の各成分を求めることで明らかになった。つまり、R、L、R(n=2~5)、W、Cint成分を求めると、上記パルス法と交流法とで食い違いが顕著であった。これから、上記の測定法から得られたデータでは、図12(a)の時間軸上での各要素パラメータの関与に問題があることが分かった。
【0072】
特に、交流法との比較を行うと、本発明の適用で得られるCP応答では、R、L、W、Cint成分の解析評価が重要因子となる。すなわち、一般の交流法のインピーダンススペクトルの測定は、周波数応答解析装置(FRA: Frequency Response Analyzer)を用いており、電流または電圧の正弦振幅を充電方向および放電方向の交互に連続的に測定系に印加する手法であることから、観測されるインピーダンス出力は定常状態の電気化学現象から誘起されることになる。
【0073】
一般に、直流パルス法では、印加するパルスの条件を選ぶことにより、L成分や電位ヒステリシス現象の影響を最小化できる。また、印加パルスによるCP応答の同一性を確かめるために、CP応答を正規化した曲線を作成して、その曲線のシミュレーションからR、L、W、Cint成分を含めた各パラメータ値を精度良く求める。
【0074】
そのために、先ず、パルス過渡応答解析に必要と考えられる印加パルス幅(時間幅)に適合した等価回路モデルとその解析式を算出する。ここで、良好な全体的な評価精度の向上を達成するために、EIS(Electrochemical Impedance Spectroscopy:電気化学インピーダンス解析)によって測定された全ての周波数帯の範囲でのモデル化する事が究極であるが、低周波数帯での電圧損失寄与の解析においては前記のヒステリシス現象の影響を考慮する必要が生じるので、本実施例ではこの低周波数帯(≦5mHz)に対応する時間帯は除外し、そこでの実験や詳しい解析は一旦除外する。
【0075】
ただし、LIBの全電池反応を表す最適な擬似等価回路(図13)の選定を行うために、(イ)時定数から考えた超高速領域(十から数百μ秒)での抵抗成分とリアクタンス(ωL)成分、(ロ)高速および中速領域(数m秒から数秒)での電極反応速度成分のWarburg(ワールブルグ;W)因子および(ハ)低速および極低速側での電池容量の充放電反応のキャパシタンス(Cint)成分パラメータを考慮した評価は行う。このような評価は、これまで殆ど行なわれてこなかった。これらの因子も考慮した上記疑似等価回路を用いることは本発明の特徴の1つである。
【0076】
本実施例の解析では、伝送線路モデルより複雑でなくフィッティングの信頼度および品質は十分であると推定できる解析用等価回路を採用する。図13はこの一例である。ただし、上記解析のフィッティングでは、汎用のCPE(constant phase element)という手法でなく、下記方法を用いる。
【0077】
上記CPE手法は、市販ソフトウェアを使うもので、学術分野で広く用いられてきているが、その係数の関わる科学的現象の物理化学的意味が明確でない。このために、ここでは上記CPE手法を採用せずに、RC(抵抗成分、容量成分)因子数の増減によりフィッティング精度を向上させる手法を用いる。
【0078】
この実施例では、まず、測定時の温度(T)、印加する定電流パルスの大きさ(h)、パルス幅(τ)について、異なる測定条件下で統一した評価ができるようにするため、統一的な評価を可能にするための指標パラメータとして、パルス印加前後の電流値と電圧の過渡応答値から計算された過渡抵抗を用いる。また、測定データ点数が膨大となるため、データリサンプリングを行う。
【0079】
このデータリサンプリングでは、CP特性の特徴を失わないように対数時間軸上でほぼ等間隔となるような計測データの削減を行った。また、選定データを規格化してCPデータとしたデータベース(DB)を作成した。
【0080】
一般に、図13に示す解析用等価回路での直流の電流-電圧-時間曲線は数1で示すことができる。また、その解析用等価回路のインピーダンスの理論式は数2で示すことができる。その実数部と虚数部は、それぞれ数3のZ′とZ″であり、数4は数1におけるWで、上記のワールブルグ因子に相当する。
【0081】
【数1】
【0082】
【数2】
【0083】
【数3】
【0084】
【数4】
【0085】
これらの式を用いる電池の状態診断においては、まず、上記の方法に沿って電池特性の詳細な解析や評価を行い、二次電池の使用履歴に伴う劣化因子、測定時温度および状態診断因子を選定し明確化する。これにより、劣化、温度または状態診断因子と各種パラメータ値との相関性を把握することができる。
【0086】
次に、上記の各種パラメータの各々のデータのSOH、TおよびSOCに関する依存性を調べて、適切な相関式を導出する。このためには、例えば、機械学習法に基づき、5%以内の診断精度を得る。すなわち、電池のSOH、T、SOC、およびSOLを高精度で評価する手法を提供することができる。
【0087】
次に、定電流パルスに対する過渡応答の解析方法を説明する。図12に示すように、パルス印加直前の電圧をE0および電流をI0とすると、定電流パルス印加後の経過時間tにおける変化分の電圧値および電流値をそれぞれv(t)およびu(t)で表すと、数5となる。
【0088】
【数5】
【0089】
時間tでの見かけの抵抗値が先述の見かけの過渡応答抵抗関数ATRF(t)であって、これは、オームの法則に従って、ATRF(t)=v(t)/u(t)として算出できる。
【0090】
このATRF(t)値は、先の理論的解析式の数1を用いて数6のように表すことができる。
【0091】
【数6】
【0092】
このATRF(t)値は、下記の規格化により、同じ被計測電池について、定電流パルス印加の実験条件によらず一本の解析曲線として観察されるという特長がある。
【0093】
また、単一の定電流パルスがτ時間の長さ印加された後に遮断された場合については、逆向きの定電流パルスが印加されたものとして、数6をその遮断後の領域にまで拡張することができる。つまり、数7(数6と区別する必要があるときは、「拡張されたATRF」と呼ぶ)として適用が可能である。数7を用いるこのCP解析法でもデータの規格化が可能になる。
【0094】
【数7】
【0095】
また、複数の単一パルスからなる一連の定電流パルスについても、数6をその遮断後の領域にまで拡張することで取り扱うことができる。
【0096】
異なる劣化パターン履歴電池の時系列データの蓄積
測定時の温度(T)、パルスの大きさ(h)、パルス幅(τ)等についての異なる測定条件下でも統一した評価ができるようにするため、(イ)定電流パルス印加前後のその定電流パルスの電流値と、その定電流パルスに対する電圧の過渡応答値から計算されたATRF(t)値をDBに記録する。また、(ロ)μ秒オーダーのサンプリングでは測定データ点数が膨大となるため、測定データ点数減縮を、CPの特徴を失わないように対数時間軸上でほぼ等間隔となるように行うことで計測データの削減を行う。さらに、(ハ)その計測データから選定した選定データについて、それを規格化したデータのDBを作成する。また、(ニ)解析用等価回路の構成因子のパラメータに変換したDBも作成する。この際に、(ホ)等価回路パラメータのDB作成では規格化カーブのフィッティングに最小二乗法を適用して最適値を決める。(ヘ)作成したDBにおいて、時間、温度、充電度と劣化度の相関式を導出し、(ト)この相関式を基礎とする機械学習を行い、(チ)劣化度、温度および充電度の評価法としての最小二乗法誤差評価により、本手法の有効性を実証することができる。
【0097】
また、上記の時系列の計測データの蓄積を行うために、計測対象電池を、種々の環境下(高温、低温、放置、継続、高レートでの使用)に晒し、充放電特性の劣化を誘起しつつ、その環境下にある各々の電池のATRF(t)特性を測定する事が望ましい。これにより、本発明の診断方法を適用できる二次電池の使用状況範囲を拡張することができる。
【0098】
使用履歴を持つ電池のATRF(t)パラメータのデータベース化
図2に、以下の説明で想定するATRF(t)パラメータのデータベース化のフローチャート例を示す。図2は、正規化関数(ATRF)のデータベース作成および機械学習による診断アルゴリズム式(SOH、温度、SOC、SOP、及びSOLの単数各因子または複数因子)の作成およびそれらの診断器への搭載のフローチャートである。このフローチャートの各ステップでは、以下の手続きを行う。
START: 開始
G0: 被検電池の設定を行う。
G1: 温度の設定を行う。
G2: 充放電特性試験を行う。
G3: SOH値算出を行う。
G4: SOC値の設定を行う。
G5: パルス印加による応答測定(電流・電圧・温度・時間)を行う。
G6: 正規化関数(ATRF)算出を行う。
G7: データの集積および選択を行い、G1に戻って繰り返す。所定のデータ数が集積できた時に、次のステップに移行する。
G8: データベース(各因子(SOH、温度、SOC、SOPおよび英G9: 機械学習(アルゴリズム関数の作成)を行う。
G10: アルゴリズム関数を診断機へ搭載する。
STOP: 停止
【0099】
本発明の電池診断方法では、(イ)定電流パルス印加によって得られた膨大なデータ(1個の電池でも温度とSOCを変えた条件下で測定。例えば、19×21=399点以上、図11参照)について、(ロ)正規化CP応答からのATRF(t)パラメータのデータベース(DB)化、およびこのDBを用いたカーブフィッティングにより解析用等価回路の各種パラメータの値を求める。(ハ)そのパラメータの持つ物理化学的意味を考察する。また、(ニ)電池特性の詳細な解析・評価を遂行し、履歴に依存した容量劣化のマーカー因子を選定し明確化することにより、(ホ)劣化と正規化計測データや各種パラメータ値との相関性を把握する。
【0100】
但し、上記測定は、同一条件下にある複数の電池で行ない、その再現性も確かめる。また、計測対象電池を、種々の環境下(高温、低温、放置、継続、高レートでの使用)に晒し、充放電特性の劣化を誘起し、その状態下にある各々の電池のATRF(t)データやインピーダンス特性を測定し、前記と同様の解析を行なう。こうして、各種パラメータ値の温度依存性および劣化パターン(高温履歴、低温履歴、高速レート充放電)依存性を把握し、診断のための精度を高める。また、データベース化する対象の汎用電池を電池材料、メーカーやサイズを変えて複数選び、本発明の診断法の汎用性を高めることができる。
【0101】
また、種々の使用環境下にあった二次電池の劣化履歴の該当特性のデータベース化を行って活用することで、診断アルゴリズムの精度の検証やその改善を行うことが容易になる。
【0102】
機械学習による診断
前記の測定データのDBを用いた機械学習的SOH、温度(T)およびSOC診断を行うことは、例えば、特許文献1に記載された交流インピーダンス法を用いた診断手法を本発明に適用することで行うことができる。
【0103】
したがって、解析用として、定電流パルス法と交流インピーダンス法との両測定法に共通の擬似等価回路を用いて、両測定法で得られた等価回路パラメータを劣化診断として用いる診断アルゴリズム、および擬似等価回路パラメータに変換をせずに、その生データベースと電池劣化との相関性を機械学習した診断アルゴリズムによって、上記両測定法の比較を行い、劣化度を高速かつ高精度で数値評価できること示すことができる。
【0104】
SOH、TおよびSOC値推定の機械学習
(その1)等価回路パラメータを用いた相関モデルの学習
インピーダンス特性からの等価回路パラメータを用いたSOH評価を行う場合に、インピーダンス値のデータベース化を行い、それを劣化診断アルゴリズムに用いることは有効である。この有効性は、例えば特許文献1に示されており、これは、上記インピーダンス値のデータベースの情報を基に、最近の情報工学の進展を導入した機械学習法による劣化診断用アルゴリズムを用いたものである。
【0105】
上記SOH、TおよびSOC値推定では、機械学習法のカーネルモデルの入力ベクトルとして、3つの場合について検討した。つまり、(イ)インピーダンス特性のデータベース(DB)を用いた場合、(ロ)そのインピーダンス特性から計算された等価回路パラメータのDBを用いた場合、および(ハ)定電流パルス法で得られたCPから計算された正規化データやその解析等価回路パラメータのDBを用いた場合、のそれぞれの結果について検討を行い、定電流パルス法で最適で実用的な劣化度、測定時温度および充電度の評価方法を選定した。
【0106】
(その2) 計測生データを用いた相関モデルの学習
本機能の目的は、(イ)定電流パルスへの応答のCP生データ(ノイズ処理およびダウンサンプリング後の時系列データ、およびインピーダンスデータ)とSOH、TおよびSOCとの相関モデルを構築し、(ロ)そのモデルからSOH、TおよびSOCを推定することである。ここで作成の機械学習法用のプログラムでは、相関モデルとしてカーネルモデルを使用する。そして、生データならびに計測時の温度を上記カーネルモデルの入力とし、SOH、TおよびSOCを出力として教師学習を行う。
【0107】
カーネルモデルは求めるべきパラメータに関して線形となるため、最小二乗法を用いることで解析的に解が求まる。カーネルモデルの数式、および学習の計算式はここでは略する。
【0108】
生データとしてダウンサンプリング後の時系列データを用いた場合、各データのサンプリング時刻を合わせる必要がある。そこで、本作成プログラムでは、平滑化スプライン補間を用いてデータのサンプリング時刻を一致させる。
<実施例2>
【0109】
パルス測定の最適化条件の選定
直流パルスの過渡応答(CP)の高精度な計測を実現するために、電位ヒステリシス現象および熱変化の影響を軽減、または避けるための計測条件の設定を行う必要がある。そのための実験的検討を行った。ここでは、18650円筒型三元系金属酸化物正極とグラファイト負極から成るLIB電池(A社製の容量;2,200mAh)、および26650円筒型オリビン鉄正極とグラファイト負極から成るLIB電池(B社製の容量;3,000mAh)、及びラミネート角型三元系金属酸化物正極とグラファイト負極から成るLIB電池(C社製の容量;240mAh)に関する検討結果について記載する。図5では、パルス幅が秒と10秒で、印加電流値を2.00A(0.67Cレート相当)としたパルス設定条件の結果である。この条件下では、充電や放電モードの同一方向にパルスを印加した場合に、印加を終了後2分経過時のE(0)値の変化として1~2mVの相違を観察した。同一方向にパルスを印加した場合のE(0)値の挙動は、異なる電池系で測定された実験結果の挙動でも類似であった。
【0110】
より詳細には、図5は、電流パルスを一方向へ繰り返し印加後のOCV値の変化を表す電位ヒステリシス現象の実例である。パルス幅(5.0s)、波高(2.0A)の影響、5回の繰り返し、(電気量:±0.95C)、待ち時間(120s)測定温度25℃ (18650型LIB(2,200 mAh))である。
【0111】
次に、充電や放電モードを逆転させた逆方向にパルスを印加した場合に、印加を終了後1分経過時のE(0)値の変化として10mV以上の相違が観察された。図6には、電流パルス方向の反転を繰返し印加した場合のパルス印加終了60秒後のOCV値(E(0))の変化を示す。この実験から、パルス方向により電圧は上下に振れ、かつその大きさはパルス高さおよび幅に依存することが分かった。
【0112】
より詳細には、図6は、電流パルスを繰り返し印加後のOCV値変化(電流パルスを充電と放電方向で繰り返した場合で、印加時間及び印加電流値を変えた時の応答)を表す電位ヒステリシス現象の実例である。パルス幅(0.2、0.5、1s)、波高(1、2、3、4A)の影響、(電気量:±0.2~±3.0C)、待ち時間(60s)測定温度5.1℃、SOC50%、SOH0.95、(26650型LIB(3000mAh))である。
【0113】
この図から、パルス高さの電流値がレート2Cの値で、かつ1秒間のパルス印加により1.0mV程度の振れが観測された。このことから、印加パルスの高さ、すなわち電流値の大きさに関する電位メモリー効果および温度変化の影響について調べた。ここでは、パルス幅として2秒印加した場合で、印加電流値の大きさは、0.37から11.1Cレートで行った。それぞれの印加電流値で得られたCP応答を正規化データ(ATRF(t)項)に変換して得られた曲線を図7に示すが、印加電流が3.7 Cレート値まではATRF(t)曲線は良く重畳した。
【0114】
高レートでは、レートの上昇とともにATRF(t)の値は徐々に減少することが分かった。この原因はATRF(t)項に関する電位ヒステリシス現象の誘起および温度の影響として解釈が可能である。 5.5から11.1Cまでレートを上げると、2秒印加後の温度変化は、2.0から7.0℃まで上昇した。ここで、5.5 CレートでのATRF(t)値の減少率は約5%であったので、印加電流値は5Cレート以下の電流を選ぶべきと判断した。
【0115】
図7は、0.37から11.1Cレートまでの負電流パルスの印加実験検討を行い、それぞれの印加電流値で得られたCP応答をATRF(t)項に変換して得られた曲線の変化を示す。ここで、パルス幅2s印加、測定温度25℃、試験セル;SOH1.00、SOC100% (角型5552524型LIB(270mAh)である。
<実施例3>
【0116】
上述の機械学習法の診断アルゴリズムについては、以下に説明するように、特許文献1に記載に沿ったものを適用することができる。つまり、本発明に係る電池診断装置は、機械学習の手法として最小二乗法を基本とした劣化度値計算部により劣化度値を直接計算して推定することができる。
【0117】
なお、本発明での機械学習は、特許文献1に記載の方法に準じるものであるが、特許文献1の変数として計測インピーダンスデータまたはそのインピーダンスから解析された擬似等価回路パラメータ値データの代わりに、変数として印加パルス過渡応答を正規化しダウンサンプリングし平滑化した時系列正規化データ(ATRF(t))またはその過渡応答から解析された擬似等価回路パラメータ値データを用いる。
【0118】
次に、本発明の電池診断方法について説明する。当該方法では、例えば、劣化度値計算部が最小二乗法により劣化度値の線形係数を学習し、劣化度値を直接計算して推定する。
【0119】
このためには、まず図3に示すフローチャートに沿ってSOH値(劣化度値)が既知でATRF(t)が計測されたまたはその解析等価回路パラメータが知られた被検電池について、SOH値に対するカーネル係数の推定値αを計算して学習する。次に、この推定値αを実装したSOH推定アルゴリズムを構築する。このアルゴリズムを用いてSOH値が未知の被検電池について、計測したATRF(t)またはその解析等価回路パラメータに対するSOH値を計算する。この方法により、計測ATRF(t)またはその解析等価回路パラメータから直接的に電池の劣化判定ができる。
【0120】
より一般的なものとして、カーネルモデルを用いて計測ATRF(t)またはその解析等価回路パラメータxから劣化度値yを判定する方法を具体的に説明する。
【0121】
yは次の一次元カーネル関数K(x,x)の線形結合で近似することができる(数8及び9)。この係数αは入出力データx、yより学習により最小二乗法で決定できる。
【0122】
【数8】
【0123】
【数9】
(ここで、Σ-1は共分散行列の逆行列)
ベクトル表現にすると、以下のように表される。
【0124】
【数10】
【0125】
【数11】
【0126】
【数12】
【0127】
数13から数15により、二乗誤差が最小になるように係数の推定値αを学習する。
【0128】
【数13】
【0129】
【数14】
【0130】
【数15】
(ここで、λは正則化パラメータ)
【0131】
学習された係数の推定値αを用いて、数12から推定値y(SOH、TおよびSOCなど)を推定できる。
【0132】
上記では、最小二乗法により劣化度値の線形係数を学習し、劣化度値を直接計算して推定する方法を解説したが、機械学習の手法として最小二乗法を基本としたパターン分類アルゴリズムを備える最小二乗確率的分類器を診断に用いることもできる。
【0133】
このための最小二乗確率的分類器は、図3のG1からG6に示す処理で、まず学習アルゴリズムにより劣化度値が既知のATRF(t)またはその解析等価回路パラメータから、幾つかの分類カテゴリーに対するガウスカーネル係数の推定値α(y)を計算して学習する。次に、図3のG8からG10に示す処理で、この様にして求めたガウスカーネル係数の推定値α(y)を実装した分類アルゴリズムを構築する。このアルゴリズムを用いて劣化度値が未知の電池の計測インピーダンスが各分類カテゴリーに属する事後確率p(y|x)を計算でき、分類カテゴリーyを推定することができる。この方法により、図2のF5で計測CP応答から得られたATRF(t)またはその解析等価回路パラメータを用いて電池の劣化判定ができる。
<実施例4>
【0134】
パルス測定データの平滑化及び圧縮化の処理
インダクタンス(L)成分による影響を最小限とした抵抗値(R、およびR1)を算出可能な超高速領域でのパルス測定条件を検討した。ここでは測定されるパルス過渡応答に重畳するノイズを除去して真の応答信号を抽出するためのソフトウェアの選択と改良を行い、そのソフトウェアを用いたデータ処理法を確立した。さらに、パルスの計測時間帯に依存するが、サンプリングレートにより計測データの容量が膨大になることから、解析を高精度で簡便に実行するためのデータリサンプリング法を検討した。まず、パルス過渡応答波形の重畳ノイズを除去するための変化点検出機能および平滑化機能の開発を行い、真の応答信号を抽出するためのデータ処理法を確立した。平滑化ではスプライン法によるスプライン曲線を作成してデータ処理を行った。それと同時に、容量が膨大となる計測データを圧縮平滑化するプログラムの作製を行った。過渡応答測定データから、20~100点/桁でリサンプリングすると同時にデータの間引き区間内で信号を平滑化することとした。これらにより、信号のノイズレベルの低減とデータ数量の低減を図った。得られたダウンサイズドデータは、ヘッダー情報を追加してcsv形式ファイルで出力する。100kS/sのサンプリングレートでの測定データのケースで、対数時間軸に対して等間隔の20~90点/桁でリサンプリングし、データの間引き区間内で信号を平滑化して、ノイズの除去程度の検討を行った。考案した試作の計測処理ソフトウェアの機能に関して、その実験的検証では、前述の表3に示したLIBで行った。その実施結果の例については、図8に図解した。
【0135】
これらの結果より、平滑化によりノイズが除去できていることが確認できた。また、本データ処理により、その後のデータの取り扱いも秒速で実現できた。ダウンサンプリングによって得られたデータ数の結果の一例を表2に示す。
【0136】
【表4】
【0137】
図8は、計測データのリサンプリング例を示す図であり、この例では時間軸の対数において間隔が等しくなるようにリサンプリングをする。ここでは、パルスの過渡応答(CP)計測データに、変化点検出機能及び平滑化機能の処理法を適用して重畳ノイズを除去し、かつダウンサンプリング処理を行い、真の応答信号を抽出したデータ点を示す。(測定温度25℃、パルス幅2s、波高-2A、SOH=0.982、SOC=50%、(18650LIB(2200mAh))
<実施例5>
【0138】
CP過渡応答からの正規化カーブの算出
表3のセル番号1に示した18650型LIBで劣化パターンが異なる電池についての解析結果の一部を以下に記載する。図9のCP過渡応答は印加パルス幅が0.2秒から10秒の波高2Aで連続して測定した結果のATRF(t)プロット解析を行い、同一のATRF(t)vs.log(t)軸グラフに載せたものであり、パルス幅が10倍違う両者の測定結果は完全に一致していることがわかった。このことから見かけの過渡抵抗関数(ATRF(t))解析が有効であることを見いだした。すなわち、本応答の解析から得られる各種パラメータ値は、パルス幅に依存せずに同じ値となることがわかった。図10は、図9に示したLIBのATRF(t)プロットのSOC依存性を示す。本測定対象電池では、SOCが0.25以下でATRF(t)カーブが著しく変化することが分かった。
【0139】
図9は、印加電流のパルス幅を変えて波高一定(-2.00A)で連続して測定した時に得られるATRF(t)のlog(t)に対するプロットを示す。波高-2A、パルス幅;(a)0.2s,0.5s,(c)1s,(d)2s,(e)5s,及び(f)10s、25℃で測定、(18650LIB(2200mAh)、SOH=0.982、SOC=50%)である。
【0140】
また、図10は、ATRF(t)に関するSOC依存性を示す。波高-2A、パルス幅(2s及び10s)、及び25℃で測定、(18650LIB(2200mAh)、SOH=0.982、SOC=50%)である。
<実施例6>
【0141】
異なる劣化パターン履歴電池特性の時系列データの蓄積
計測対象電池を、種々の環境下(高温及び低温での充放電のサイクル使用、高レートでの充放電のサイクル使用、放置)に晒し、充放電特性の劣化を誘起し、その状態下にある各々の電池のTDRF(t)特性を図11に示した温度及びSOCの条件で測定しデータベース(DB)化する。
【0142】
図11は、ATRF(t)に対するSOCと温度との依存性に関するデータベース化を示し、各々の劣化状態(SOH)についてファイル化する。また、ATRF(t)の解析で求めた等価回路パラメータ値に関するデータベースのファイル化も行う。よって、各劣化状態での測定(例:少なくとも6状態での測定で、単電池の測定点数は(=19(Temp)×21(SOC)×6(SOH))で2394本となるまた、再現性チェック(例:少なくとも4セル)から9576本の計測データとなることが分かる。
【0143】
図12において、(a)は電池に印加される定電流パルスとそのクロノポテンショグラム(CP)応答、(b)はその正規化カーブ(ATRF(t))への変換、(c)はATRF(t)のシミュレーション解析で得られた等価回路パラメータ値を使って作成されたナイキストプロット例を示す図である。ただし、上記(a)及び(b)に記載の応答領域のI~Vは、図13に示す等価回路パラメータのCP応答への主な寄与を表している。
【0144】
図13は、クロノポテンショグラム(CP)の解析のために用いられる電池の全電極反応機構の等価回路モデリング(ECM)を表す。ただし、ここではフィッティングにはCPE(Constant Phase Element)という手法を用いない。
【0145】
解析に必要な等価回路モデルとして、リチウム二次電池(LIB)の電解液、正極、及び負極要素因子に対応するように、抵抗RとインダクタンスLに複数のRC並列回路ブロックを連結した回路を想定した。図13で示したRとCとの並列回路を2から6個まで連結した擬似等価回路(略式表現;〈R0_RnCn(n=2~5)_L1R1_CintRint〉)でのシミュレーション解析をCPEの有無を含めて行った。
【0146】
評価結果は省略するが、RC並列回路2または3個の等価回路モデル(n=2または3)場合には、そのシミュレーションカーブはCPEを使用しないと実測値のカーブとフィットさせることができないが、並列回路4個の場合(n=4)場合ではCPEの有無に拘わらず良好なフィッティングが可能であった。その結果、CPE(Constant Phase Element)パラメータを使用しない場合でも4個連結したモデルの適用で劣化診断には十分であると結論した。
【0147】
図14に、等価回路モデル〈R0_RnCn(n=2~5)_L1R1_CintRint〉でのパラメータ評価によるナイキストプロットのRC段数(n)依存性を示す。上段は交流インピーダンス測定からの実測データからのプロット結果(+記号)及びそのフィッテングカーブを示しており、下段はATRF(t)(パルス測定条件;電流;1.00A、印加時間;2.00秒)の等価回路解析で得られたパラメータ値を用いたシミュレーションカーブを示す。ただし、下段の+記号のカーブは、上段の同記号カーブと同じで、比較のために記載した。測定セル;18650型LIB(2200m Ah)、SOH=0.953、SOC=50%、測定温度25℃。
【0148】
図14から明らかなように、交流インピーダンスおよびCP応答から得られたナイキストプロットでは、円弧の部分では比較的よい一致を示した。ここで、高および中周波数での電圧変化の挙動の解析に最適な擬似等価回路は、RCnのnが4または5であることが分かった。ただし、両測定ではいくつかの回路パラメータ因子の抵抗値およびキャパシタ値には差が存在することがわかった。特に、Rについて、交流インピーダンス測定からの結果およびCP応答からの結果に違いが見られた。一般に、高周波数での誘導的挙動は、セル本体、測定系のセットアップ、およびケーブル接続に起因する。オーム抵抗Rは、X軸との交点にほぼ対応すると理解されている。ただし、カソードまたはアノードと集電体の間および粒子間の高周波帯の接触プロセスには、同じ周波数で起こる接触損失のインダクタンスが重畳することから、真のRの識別化が難しくなる。ここでは、高周波数帯の誘導的挙動については、インダクタンスL1と抵抗Rの並列回路を用いた。
【0149】
CP応答の規格化から得られたATRF(t)プロットでの等価回路フィッティング解析については、サンプル番号1のLIB電池解析結果の一例を図15に示した。
【0150】
ATRF(t)プロットでの等価回路パラメータフィッティングを示すが、評価に用いた等価回路モデル〈R0_RnCn(n=2~5)_L1R1_CintRint〉は図14であり、パラメータフィッティングのRnCnのn依存性(n=2(上段左)、n=3(上段右)、n=4(下段左)、n=5(下段右))の結果を表す。ここで、シミュレーションカーブおよび実測ATRF(t)プロットの結果を示す。(測定条件:18650型LIB(2200mA),SOH=0.953、SOC=50%、測定温度25℃、パルス幅2s、波高-1A、サンプリンレート50kS/s)
【0151】
このATRF(t)プロットでの最適な擬似等価回路は、並列回路4または5個の場合(n=4または5)であることが分かった。ここでは、数6で表される解析式に対してのフィッティングの結果を赤線カーブで示した。このときの二乗平均平方根誤差(RMSE)は1.35×10-4(n=5の場合)であった。
【0152】
そのとき求められた等価回路パラメータの比較を行うと、いくつかの等価回路パラメータ因子の抵抗値およびキャパシタ値には両測定法で違いが見られた。その原因は、測定法の原理に起因していると推定される。すなわち、周波数掃引型の交流法では、一般に電流や電圧の印加外部信号は±に振幅され、電極反応に関する情報は反応の定常状態の緩和現象からインピーダンス特性を観察するのに対して、直流パルス法では電極反応に関する情報は電極反応の一方向(充電または放電方向)への推進現象、またはシャットダウンの場合は開放への緩和現象からインピーダンス情報を観察することになる。よって、Rパラメータの観察時間帯と重複するW、Cint、L、およびRに対する観察感度が両方法では異なり、また外部信号の強さ、幅、および様式に依存して電池内部での発生熱挙動も異なり、それがRパラメータの値に影響を及ぼしたと推定できる。
【0153】
ただし、図15のパルス過渡応答の正規化カーブのフィッティングでは、Eの値はパルス印加直前の値、すなわちプレトリガー500点区間での線形性の近似値から求めた。
<実施例7>
【0154】
劣化電池のATRF(t)に対する温度依存性
図16には、表3のサンプル番号1のLIBについて、未劣化電池、低温下でのサイクル履歴劣化、および高温下でのサイクル履歴劣化が約25%進行した電池で得られたATRF(t)項曲線の温度依存性(5、25、および45℃)を示した。この図から、各温度でのATRF(t)曲線の形は、劣化履歴の違いにより異なってくることが明らかである。特に、低温では、その相違は著しくなることが分かる。低温下でのサイクル履歴劣化、および高温下でのサイクル履歴劣化の電池で得られたATRF(t)には、同一計測時温度でもその応答曲線には大きな相違があり、その等価回路解析を行った結果、W6、CintおよびR0などの各種パラメータ値に対する温度依存性に相違が見出された。ここでは、その結果については省略する。
【0155】
ただし、上記結果はATRF(t) 温度依存性のDBを用いた機械学習法による電池特性の状態診断、特に温度推定の可能性を示すデータとなるが、その実施の推定結果については後述する。
【0156】
16は、CP過渡応答解析ATRF(t)項パラメータに対する温度依存性(5~45℃)およびSOH使用温度履歴を持つLIB(未劣化(左側)、低温劣化(中央)、高温劣化(右側))でのSOH依存性を示す。(劣化度はSOH=0.77で高温劣化LIB(2200mAh)と低温劣化LIB(2200mAh)とで同じ。測定温度5,25,45℃、パルス幅1s及び10s、波高-2A)
【0157】
ATRF(t)に対するSOC依存性
図17には、表3のサンプル番号1のLIBについて、ATRF(t)に対する5~100%のSOCに対する依存特性を示す。この図から、SOCが25%以下ではATRF(t)に対するSOC依存性は大きくなっており、特に10ミリ秒より長い時間帯ではその差は顕著となることから、この時定数帯で応答する等価回路パラメータの温度依存性が大きくなっていることが分かる。
【0158】
上記結果は、ATRF(t)のSOC依存性のDBを用いた機械学習法による電池特性の状態診断、特にSOC推定の可能性を示すデータとなるが、その実施の推定結果については後述する。
【0159】
図17は、ATRF(t)に対するSOC依存特性を示す。(18650型LIB(2200mAh)、SOH=0.983、SOC=5~100 (%)、測定温度25℃、パルス幅5s、波高-2A)
<実施例9>
【0160】
等価回路パラメータとSOHとの相関モデルの学習ソフトウェアおよびSOH推定
本発明手法による電池状態のSOH因子などの推定では、機械学習法のカーネルモデルを入力ベクトルとして、(1)インピーダンス特性のデータベース(DB)を用いた場合、(2)そのインピーダンス特性から計算された等価回路パラメータのDBを用いた場合、(3)パルス法で得られたクロノポテンショグラム(CP)特性の正規化データベース(DB)を用いた場合、および(4)その正規化データから計算された等価回路パラメータのDBを用いた場合のそれぞれの結果について検討を行い、本高速パルス法で最適で実用的な劣化度などの状態評価法を選定することとした。
【0161】
ここでは、解析評価得られた等価回路パラメータとSOHなどの電池特性状態因子との相関モデルを構築し、そのモデルからSOHなど因子の値を推定することである。推定プログラムでは、相関モデルとしてカーネルモデルを使用する。先ず、解析で得られた等価回路パラメータならびに計測時の温度をカーネルモデルの入力とし、SOHを出力として教師学習を行う。カーネルモデルは求めるべきパラメータに関して線形となるため、最小二乗法を用いることで解析的に解が求まる。カーネルモデルの数式、および学習の計算式は、別途、数8から数15に記載した。上記では、表3に示したLIBに関して本発明を適用してその検討を行った。構成材料が異なる電池系でもその特性の状態診断を行い、ほぼ同じ推定精度で結果が得られたために、その一例を順次以下の実施例で示すこととする。本推定法では、推定因子の平均二乗誤差(RMSE(Root Mean Square Error))を計算し、その手法の妥当性を判断する。ここでは、本手法の適用選定の基準値は、RMSEは0.05以下とする。本評価結果を表5にまとめて示した。
【0162】
【表5】
<実施例10>
【0163】
計測生データとSOHとの相関モデルの学習ソフトウェアおよびSOH値の推定
本発明手法による電池状態のSOH因子などの推定では、実験で得られたパルスのCP生データ(ダウンサンプリング後の時系列データ)及びその正規化データとSOHとの相関モデルを構築し、そのモデルからSOHを推定することである。推定プログラムでは、等価回路パラメータのDBを用いた場合と同様に相関モデルとしてカーネルモデルを使用する。そして、生データならびに計測時の温度をカーネルモデルの入力とし、SOHを出力として教師学習を行う。カーネルモデルは求めるべきパラメータに関して線形となるため、最小二乗法を用いることで解析的に解が求まる。ここで用いられるCP生データとは、計測データを前記載のようにダウンサンプリング処理、平滑化処理、及び正規化処理を行った時系列データを示す。ただし、生データ及び正規化データのダウンサンプリング処理後の時系列データを用いている場合、各データのサンプリング時刻を合わせる必要がある。そこで、本プログラムでは、平滑化スプライン補間法を用いてデータのサンプリング時刻を一致させる。
【0164】
本発明の実施例9及び10の検討結果の一例を示す(表5参照)。ここでは、表3のサンプル番号1のLIBについてのSOH値の推定結果である。その際のRMSEを計算した。その結果、平均平方二乗誤差であるRMSEは、正規化データからの推定及び解析回路パラメータからの推定に関して、それぞれ0.014及び0.047であった。電池のSOHを推定確度5%以内(診断時間は2秒以内)で劣化診断できる手法を確立できたと結論できる。
【0165】
表5はパルス応答CP(電流印加時)の正規化関数カーブ(ATRF(t))の正規化生データ、およびその解析で求めた擬似等価回路モデル〈R0_RnCn(n=4)_W6_L1R1_CintRint〉の各パラメータ値を時系列データに用いた機械学習的SOH推定のRMSE(50&micro;s~0.5sデータを対数スケールで等間隔に90点生成、温度データ入力に使用しない、3回実行したときRMSE平均値/最小値/最大値の変化、18650LIB;SOH:1.00~0.60で高温劣化および低温劣化の履歴を持つ、温度:5~45℃、総数データ235個;学習データ117個及び評価データ118個)を示す。
<実施例11>
【0166】
電流印加時及び電流遮断時に計測したパルス応答を時系列データに用いたSOH推定
すでに図6には、電流パルスを充電と放電方向で繰り返した場合及び一方向へ繰り返し印加後のOCV値の変化を表す電位ヒステリシス現象を紹介した。よって、本手法では、この電位ヒステリシス現象の影響を避けるために、CP計測では電流パルスを一方向に印加してCP測定を行う様式とパルス電流遮断時のCP測定を行う様式を採用した。その妥当性を、取得したATRF(t)曲線で確認し、また、それらの時系列データを用いて機械学習的SOH推定を実施した。その検討結果の一例を表6に示す。これは、表3のサンプル番号1のLIBについてのSOH値の推定結果である。その際のRMSEを計算した。その結果、平均平方二乗誤差であるRMSEは、電流印加時及び電流遮断時の生データからの推定に関して、それぞれ0.011及び0.015であった。両方式が、電池のSOHを推定確度2%以内(診断時間は1秒以内)で劣化診断できる手法を確立できたと結論できる。ただし、ここでは正規化生データをカーネルモデルの入力としたが、この際に計測時の温度をカーネルモデルの入力に加えた場合でも加えない場合でも、SOHを出力とした教師学習の結果は同じで結果であった。
【0167】
表6は、パルス応答CP(電流印加時及び電流遮断時)を正規化した時系列データを用いた機械学習的SOH推定のRMSE(50&micro;s~0.5sデータを対数スケールで等間隔に100点生成、温度データ入力に使用しない、18650LIB;SOH:1.00~0.60で高温劣化および低温劣化の履歴を持つ、温度:5~45℃、総数データ347個x2;学習データ173x2個及び評価データ174個x2)を示す。
【0168】
【表6】
<実施例12>
【0169】
SOH推定値に関するパルス応答(PC)の時系列データ数の依存性
表7には、総数データ347個一定で、評価データ数と学習データ数の比率を変えた時、SOH推定値に与える影響について調べた結果を示す。
【0170】
【表7】
この結果から、学習データ数が100個以上あることが望ましいと判断できる。
【0171】
表7は、パルス応答CP(電流遮断時)を正規化した時系列データを用いた機械学習的SOH推定のRMSE(50&micro;s~0.5sデータを対数スケールで等間隔に100点生成、温度データ入力に使用しない、総数データ347個一定で、評価データ数と学習データ数の比率を変えた時、3回実行したときRMSE平均値/最小値/最大値の変化、18650 LIB;SOH:1.00~0.60で高温劣化および低温劣化の履歴を持つ、温度:5~45℃)を示す。
<実施例13>
【0172】
計測生データと温度との相関モデルの学習ソフトウェアおよび計測時温度の推定
本機能の目的は、実験で得られたパルスのCPの正規化生データと計測時温度との相関モデルを構築し、そのモデルから計測時温度を推定することである。本推定プログラムでは、相関モデルとしてカーネルモデルを使用する。そして、正規化生データならびに計測時の温度をカーネルモデルの入力とし、計測時温度を出力として教師学習を行う。すでに、図16には、CP過渡応答のATRF(t)に対する温度依存特性の一例を示した。
【0173】
表8に温計測時温度の推定検討結果の一例を示す。ここでは、ここでは、表3のサンプル番号1のLIBについてのSOH値の推定結果である。その際のRMSEを計算した。その結果、RMSE誤差は温度表示で1.0℃であった。温度推定の誤差分布についての一例は図18(b)に示した。計測時温度が5~45℃である電池の計測時温度を推定確度4%以内(診断時間は1秒以内)で温度診断できる手法を確立できたと結論できる。ここで、時系列データは、50&micro;s~1s/0.5sデータをログスケールで等間隔に100点生成させて使用した。表8からわかるように、学習数が増加するにつれて推定精度が向上していることが分かる。また、本実施例では時系列データとして温度5点(5.0、15.0、25.0、35.0、及び45.0℃)のATRF(t)依存性をDBに用いたが、温度の変数を増加するにつれて推定精度が向上すると期待される。
【0174】
【表8】
【0175】
表8は、パルス応答CP(電流遮断時)を正規化した時系列データを用いた機械学習的温度推定のRMSE(50&micro;s~0.5sデータを対数スケールで等間隔に100点生成、温度データ入力に使用しない、総数データ347個一定で、評価データ数と学習データ数の比率を変えた時、3回実行したときRMSE平均値/最小値/最大値の変化、18650LIB;SOH:1.00~0.60で高温劣化および低温劣化の履歴を持つ、温度:5~45℃)である。
<実施例14>
【0176】
計測生データとSOH及び温度との相関モデルの学習ソフトウェアおよびSOH値及び温度の同時推定
本発明のパルス診断法では、複数出力(SOH、温度、及びSOC)推定を同時に実行することができる。本機能の目的は、実験で得られたパルスのCPの正規化生データ(ダウンサンプリング後の時系列データ)とSOH及び計測時温度との相関モデルを構築し、そのモデルからSOH及び計測時温度を推定することである。この推定プログラムでは、相関モデルとしてカーネルモデルを使用する。そして、正規化生データならびに計測時の温度をカーネルモデルの入力とし、SOH及び計測時温度を出力として教師学習を行う。カーネルモデルは求めるべきパラメータに関して線形となるため、最小二乗法を用いることで解析的に解が求まる。ここでは、表3のサンプル番号1のLIBについてのSOH値および温度の推定結果である。その際のRMSEを計算した。
【0177】
その結果、それぞれの推定因子に関しての平均平方二乗誤差であるRMSEは0.011及び1.0℃であった。電池のSOHを推定確度1.1%以内及び温度を推定確度1.0℃(4%以内、診断時間は1秒以内)で劣化診断できる手法を確立できたと結論できる。
【0178】
【表9】
【0179】
表9は、パルス応答CP(電流遮断時)を正規化した時系列データを用いた機械学習的SOH値及び温度の同時推定のRMSE(50&micro;s~0.5sデータを対数スケールで等間隔に100点生成、温度データ入力に使用しない、総数データ347個一定で、評価データ数と学習データ数の比率を変えた時、3回実行したときRMSE平均値/最小値/最大値の変化、18650 LIB;SOH:1.00~0.600で高温劣化および低温劣化の履歴を持つ、温度:5~45℃)を示す。
<実施例15>
【0180】
計測生データとSOCとの相関モデルの学習ソフトウェアおよびSOC推定
本機能の目的は、実験で得られたパルスのCPの正規化生データ(ダウンサンプリング後の時系列データ、図16参照)とSOCとの相関モデルを構築し、そのモデルからSOCを推定することである。本プログラムでは、相関モデルとしてカーネルモデルを使用する。そして、正規化生データならびに計測時の温度をカーネルモデルの入力とし、SOCを出力として教師学習を行う。図17には、CP過渡応答のATRF(t)に対するSOC依存特性の一例を示すが、本電池ではそのSOC依存特性はSOCが30%以下で顕著になっていることが分かる。
本実施例のSOC推定検討結果の一例を示す(表10参照)。ここでは、表3のサンプル番号1のLIBについてのSOCを推定し、その際のRMSEを計算した。その結果、平均平方二乗誤差であるRMSEはSOC=0.25以下で0.030であった。電池のSOCを推定確度3%以内(診断時間は1秒以内)で劣化診断できる手法を確立できたと結論できる。
【0181】
【表10】
【0182】
表10は、パルス応答CP(電流遮断時)を正規化した時系列データを用いた機械学習的SOC値推定のRMSE(50&micro;s~0.5sデータを対数スケールで等間隔に100点生成、温度データ入力に使用しない、総数データ347個一定で、評価データ173個として学習データ174個とした時、3回実行したときRMSE平均値/最小値/最大値の変化、18650 LIB;SOH:1.00~0.600で高温劣化および低温劣化の履歴を持つ、温度:5~45℃)である。
<実施例16>
【0183】
計測生データからのSOH値推定の誤差評価
図18(a)に、表6に示したパルス応答CP(電流印加時)の正規化カーブ(ATRF(t))の正規化生データを時系列データに用いた機械学習的SOH推定の誤差分布(50&micro;s~0.1sデータを対数スケールで等間隔に100点生成、温度データ入力に使用しない、3回実行したとき、18650LIB;SOH:1.00~0.60で高温劣化および低温劣化の履歴を持つ、温度:5~45℃、総数データ347個;学習データ173個及び評価データ174個)を示す。
<実施例17>
【0184】
計測生データからの温度推定の誤差評価
図18(b)に、表8に示したパルス応答CP(電流印加時)の正規化カーブ(ATRF(t))の正規化生データを時系列データに用いた機械学習的温度推定の誤差分布(50&micro;s~0.1sデータを対数スケールで等間隔に100点生成、温度データ入力に使用しない、3回実行したとき、18650 LIB;SOH:1.00~0.60で高温劣化および低温劣化の履歴を持つ、温度:5~45℃、総数データ347個;学習データ173個及び評価データ174個)を示す。
<実施例18>
【0185】
低レート(例えば、0.1Cレート)での充放電容カーブから、(満充電容量/初期満充電容量)の比を求められる。その比は、電池の健全度を表す指標(SOH)と考えられてきた。この比に関して、中から高レート(例えば、0.5~3Cレート)での充放電カーブから計算された(満充電容量/初期満充電容量)の比はパワー密度(SOP)の減少の指標とすることができる。
【0186】
図21に、車載用電池として使用されているハードカーボンを負極に用いた複数のLIB(初期容量:5.19Ah)に関して、劣化度合いの異なる各電池における同一値の定電流モードでの充放電レート値に対する放電容量(観察容量)の変化を示す。ただし、測定では充電と放電の末端電圧をそれぞれ 4.200V及び2.500Vとした。
【0187】
これらのLIBで、未劣化電池の1.0Cレートで求めた放電容量をSOP=1.0とした時、最大の劣化電池のSOPは0.76であった。これらのLIBについて、実施例11と同様の方法で得たSOHをSOPと見做し、パルス応答を時系列データに用いて機械学習的SOP推定を実施した。その結果から、電池のSOPを推定確度2%以内(診断時間は1秒以内)で劣化診断できる手法を確立できたと結論した。上記の結果より、汎用性の高い中から高レートでのパワー密度の減少量の推定、すなわち使用中の電池に関しその後の経過における使用可能量の最大値の推定を、本手法で高速でかつ高精度で推定できることがわかった。これは、本発明の優れた効果のうちの1つである。
【産業上の利用可能性】
【0188】
本発明は、上記の様に、充電中のLIBについても適応可能である。このためには、数7におけるE(t)が時間に比例したドリフト成分を持つとして、E(t)をE(t)-βt(βは比例係数)に置き換えて得られるATRF(t)を用いる。
【0189】
より具体的には、パルス印加直前(プレトリガー)の時間領域から充放電による電圧変化の線形近似式を求め、その近似式を用いてパルス応答電圧値を補正することで充放電の影響を除去する。このことにより、充放電の影響を排除した正味の正規化関数ATRF(t)値を求めることができる。
【0190】
図19は、充電動作中のLIBでパルス測定を行った場合のATRF(t)特性例である。充電電流1Aおよび0.5A下でのパルスに対して補正したATRF(t)曲線と、充電停止(電流0A)でのパルスに対するATRF(t)曲線との差 を示す。1A(0.5Cレート相当)で充電中でSOCが50%を超えた時点で、波高2A幅2sのパルスを印加して過渡応答を測定した。その後レートを0.5A(1/4Cレート相当)に変更し5分後に同様にパルス測定を行い、その後停止して20分経過した後にもパルス測定を行った。前者2つの測定データについては本発明の方法で補正し、停止のものは補正せずに、それぞれ正規化曲線を作成した。
【0191】
図19に示すように、停止での正規化曲線と比較しての差異が全パルス時間にわたって0.5%以内で補正可能であることが分かる。これらのことから、充電中のパルス測定からも、静止と同様に電池状態推定が可能であることがわかった。
【0192】
また、図20に、充電中のLIBのパルス応答の正規化関数に対する電圧補正の影響例を示す。充電電流による電圧変化を補正する前と後とのATRF(t)値の差(%)を示す。測定条件は、充電電流1A、パルス波高2A,幅2s、サンプリングレート100kS/s、測定温度:室温(25℃)被検電池は、#397(18650)。
【0193】
図20の場合、充電中の測定では、パルス幅あるいはパルス時間が0.1s以上の時間領域では充電による影響を補償する必要があることがわかる。
【符号の説明】
【0194】
1 電流パルス源
2 被検電池
3 ノイズフィルタ
4 電圧計
5 デジタルフィルタ
6 第1データ処理部
7 第2データ処理部
8 データベース

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図20
図21