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特許6991627親水性コーティング用組成物及び親水性コーティングを含む構造体
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  • 特許-親水性コーティング用組成物及び親水性コーティングを含む構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】親水性コーティング用組成物及び親水性コーティングを含む構造体
(51)【国際特許分類】
   C09D 1/00 20060101AFI20220104BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220104BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220104BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220104BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D7/61
C09D7/65
C09D5/00 D
C09D5/00 Z
B32B27/20 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021105183
(22)【出願日】2021-06-24
【審査請求日】2021-06-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514112374
【氏名又は名称】株式会社ミラクール
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】特許業務法人プロウィン特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】今泉 秀
(72)【発明者】
【氏名】深江 典之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 重宣
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/179974(WO,A1)
【文献】特表2011-528400(JP,A)
【文献】特開2014-070138(JP,A)
【文献】特開2016-000808(JP,A)
【文献】特開平10-330646(JP,A)
【文献】特表2019-518816(JP,A)
【文献】国際公開第2005/075583(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03708620(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C09K 3/00
B32B 27/20
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカ及び増粘剤を含む、下地塗膜上へのコーティングが可能な親水性コーティング用組成物であって、
10μmの厚さのコーティングを白色基材上に形成した場合に、白色基材の塗布前後の色差ΔE * が0.50以下であり
ストーマー粘度計を用いてJIS K5600-2-2に準拠して測定した粘度が、40~120KUの範囲であり、かつ
ガラス基板上に形成したコーティングのヘイズが、50%以下である、
親水性コーティング用組成物。
【請求項2】
前記増粘剤が、膨潤性層状珪酸塩又は水溶性高分子である、請求項1に記載の親水性コーティング用組成物。
【請求項3】
前記増粘剤が、合成スメクタイトである、請求項2に記載の親水性コーティング用組成物。
【請求項4】
前記増粘剤が、ヒドロキシエチルセルロースである、請求項2に記載の親水性コーティング用組成物。
【請求項5】
前記コロイダルシリカを、固形分濃度で2~10質量%含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の親水性コーティング用組成物。
【請求項6】
さらに、水溶性染料を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の親水性コーティング用組成物。
【請求項7】
基体、下地塗膜、及び請求項1~6のいずれか一項に記載の親水性コーティング用組成物によるコーティングを含む、構造体であって、前記下地塗膜が、遮熱性塗膜である、構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性コーティング用組成物に関する。また、本発明は、親水性コーティングを含む構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等に対して防汚性を付与するために、酸化チタンによる光触媒コーティングを形成することが知られている。このような光触媒コーティングは、高い防汚性を付与できるものの、塗布ムラが生じやすく施工が難しいという課題がある。
【0003】
他の防汚性コーティングとして、コロイダルシリカを用いた親水性コーティングが知られている。親水性コーティングが形成されている表面は、汚れが付着しても雨等によって容易に洗い出すことができる。
【0004】
特許文献1は、膨潤性層状珪酸塩、コロイダルシリカ、及び架橋剤を含む親水性コーティング用組成物を開示している。特許文献1に記載の塗料は、膨潤性層状珪酸塩を特定量で含有することによって、コーティングの親水性を向上させ、耐汚染性、耐候性及び耐温水性を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-070138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、下地塗膜の機能を低下させず、かつ下地塗膜上への形成が容易な親水性コーティング用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような親水性コーティングを含む構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明により、上記課題を解決できることを見出した。
《態様1》
コロイダルシリカ及び増粘剤を含む親水性コーティング用組成物であって、
10μmの厚さのコーティングを白色基材上に形成した場合に、白色基材の塗布前後の色差ΔEが0.50以下であり、かつ
ストーマー粘度計を用いてJIS K5600-2-2に準拠して測定した粘度が、40~120KUの範囲である、
親水性コーティング用組成物。
《態様2》
前記増粘剤が、膨潤性層状珪酸塩又は水溶性高分子である、態様1に記載の親水性コーティング用組成物。
《態様3》
前記増粘剤が、合成スメクタイトである、態様2に記載の親水性コーティング用組成物。
《態様4》
前記増粘剤が、ヒドロキシエチルセルロースである、態様2に記載の親水性コーティング用組成物。
《態様5》
前記コロイダルシリカを、固形分濃度で2~10質量%含む、態様1~4のいずれか一項に記載の親水性コーティング用組成物。
《態様6》
さらに、水溶性染料を含む、態様1~5のいずれか一項に記載の親水性コーティング用組成物。
《態様7》
基体、下地塗膜、及び態様1~6のいずれか一項に記載の親水性コーティング用組成物によるコーティングを含む、構造体であって、前記下地塗膜が、遮熱性塗膜である、構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、下地塗膜の機能を低下させず、かつ下地塗膜上への形成が容易な親水性コーティング用組成物を提供することができる。また、本発明によれば、そのような親水性コーティングを含む構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1及び参考例の親水性コーティング用組成物による塗布試験の結果を示している。
図2図2は、実施例1の親水性コーティング用組成物によるコーティングの暴露試験の結果を示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
《親水性コーティング用組成物》
親水性コーティング用組成物は、コロイダルシリカ及び増粘剤を含み、透明性が高く、かつ比較的粘性が高い。親水性コーティング用組成物は、10μmの厚さのコーティングを白色基材上に形成した場合に、白色基材の塗布前後の色差ΔEが0.50以下であり、かつストーマー粘度計を用いてJIS K5600-2-2に準拠して測定した粘度が、40~100KUの範囲である。
【0011】
従来、建築物の屋根等に用いられる遮熱性塗膜は、最表面に用いられることによって遮熱性を高めていた。しかし、本発明者らが検討したところ、遮熱性塗膜に付着する汚れが、塗膜の遮熱性能に無視できない影響を与えることが分かった。そこで、本発明者らがさらに検討したところ、上記の親水性コーティング用組成物を用いれば、遮熱性塗膜上にコーティングを形成されていても遮熱性塗膜の機能に影響を与えず、遮熱性塗膜上にもコーティングを塗布ムラを少なくして形成することができ、かつ汚れが付着しにくく、また汚れが付着したとしても雨等によって容易に洗い流せるということが分かった。それに対して、特許文献1に記載の親水性コーティング用組成物は、その実施例にも記載されているとおりコーティングが一部白濁しているため、遮熱性塗膜等の光照射が重要となる下地塗膜上にコーティングを形成するには有効ではないことが分かった。
【0012】
親水性コーティング用組成物は、10μmの厚さのコーティングを白色基材上に形成した場合に、白色基材の塗布前後の色差ΔEが0.50以下、0.40以下、0.30以下、0.25以下、0.20以下、0.15以下、又は0.10以下であることができる。ここで、白色基材としては、塗装用隠蔽率試験紙上に形成した乾燥膜厚50μmの白色塗膜(ミラクールファーム、株式会社ミラクール)を用いる。色差ΔEは、コニカミノルタ株式会社製の色彩色差計CR-410を用いて、親水性コーティングの形成前後のL値を測定して、それらの値から計算して求めることができる。なお、親水性コーティング用組成物が水溶性染料を含有する場合には、この色差ΔEは、染料による着色の影響がない状態、例えばコーティング形成後に染料を退色させた後の状態で測定される。
【0013】
親水性コーティング用組成物によるコーティングは、ヘイズが50%以下、30%以下、20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下であってもよい。ヘイズは、親水性コーティング用組成物をガラス基板上に塗装し、温度0~80℃で60分~10日間乾燥させてコーティングを形成し、このコーティングについてヘイズメーターNDH7000II(日本電色工業社製)等を用いることによって測定することができる。
【0014】
親水性コーティング用組成物は、25℃でストーマー粘度計を用いてJIS K5600-2-2に準拠して測定した粘度が、40KU~120KUの範囲である。ストーマー粘度計として、具体的には、英弘精機株式会社から入手可能なブルックフィールドデジタルストーマー粘度計KU-3を用いて、クレブス標準回転翼KU-1030を使用し、回転翼が約30秒で100回転するようにして、粘度を測定することができる。この粘度は、40KU以上、42KU以上、45KU以上、49KU以上、50KU以上、55KU以上、又は60KU以上であってもよく、120KU以下、110KU以下、100KU以下、90KU以下、80KU以下、70KU以下、又は60KU以下であってもよい。この粘度は、例えば、42KU~100KU、45KU~70KU、又は49KU~60KUであってもよい。このような範囲の粘度であれば、下地塗膜上への薄くかつ均一なコーティングの形成が容易となる。粘度が高すぎる場合には、コーティングが厚く形成される傾向にあり、その場合、透明性が低下する場合があり、また乾燥に時間が掛かり、経済上の問題も生じる。なお、本明細書において、測定値にバラツキが出やすい場合には、10回以上の測定を行って、その平均値を測定値として採用することができる。
【0015】
また、親水性コーティング用組成物は、25℃で英弘精機株式会社から入手可能なブルックフィールドB型粘度計RV/DVEを用いて、スピンドルNo.5(RV-5)を6rpmの条件で測定した粘度が、500mPa・s以上、1000mPa・s以上、2000mPa・s以上、3000mPa・s以上であってもよく、30000mPa・s以下、20000mPa・s以下、10000mPa・s以下、8000mPa・s以下、又は5000mPa・s以下であってもよい。この粘度は、例えば、500mPa・s~30000mPa・s、又は2000mPa・s~10000mPa・sであってもよい。また、60rpmの条件で測定した粘度は、300mPa・s以上、500mPa・s以上、又は1000mPa・s以上であってもよく、8000mPa・s以下、5000mPa・s以下、3000mPa・s以下、2000mPa・s以下、又は1000mPa・s以下であってもよい。この粘度は、例えば、300mPa・s~8000mPa・s、又は300mPa・s~2000mPa・sであってもよい。
【0016】
例えば、親水性コーティング用組成物の増粘剤が無機系増粘剤である場合、6rpmで上記の条件で測定した粘度は、2000mPa・s以上、2500mPa・s以上、又は3000mPa・s以上であってもよく、20000mPa・s以下、15000mPa・s以下、10000mPa・s以下、8000mPa・s以下、又は5000mPa・s以下であってもよい。この粘度は、例えば、2000mPa・s~20000mPa・s、又は3000mPa・s~10000mPa・sであってもよい。また、その場合、60rpmで上記の条件で測定した粘度は、300mPa・s以上、400mPa・s以上、又は500mPa・s以上であってもよく、3000mPa・s以下、2000mPa・s以下、1500mPa・s以下、又は1000mPa・s以下であってもよい。この粘度は、例えば、300mPa・s~3000mPa・s、又は300mPa・s~1000mPa・sであってもよい。
【0017】
例えば、親水性コーティング用組成物の増粘剤が有機系増粘剤である場合、6rpmで上記の条件で測定した粘度は、500mPa・s以上、1000mPa・s以上、又は2000mPa・s以上であってもよく、30000mPa・s以下、20000mPa・s以下、10000mPa・s以下、8000mPa・s以下、又は5000mPa・s以下であってもよい。この粘度は、例えば、500mPa・s~30000mPa・s、又は500mPa・s~10000mPa・sであってもよい。また、その場合、60rpmで上記の条件で測定した粘度は、300mPa・s以上、500mPa・s以上、又は1000mPa・s以上であってもよく、8000mPa・s以下、5000mPa・s以下、3000mPa・s以下、2000mPa・s以下、又は1000mPa・s以下であってもよい。この粘度は、例えば、300mPa・s~10000mPa・s、又は300mPa・s~5000mPa・sであってもよい。
【0018】
親水性コーティング用組成物は、チキソ性を有することができ、それにより下地塗膜上にコーティング形成を容易に形成することができる。チキソ性は、上記の測定条件によって測定した粘度を使用し、6rpmで測定した粘度の、60rpmで測定した粘度に対する比(TI値)から評価することができる。親水性コーティング用組成物のTI値(6rpmで測定した粘度/60rpmで測定した粘度)は、1.0以上、3.0以上、5.0以上、又は8.0以上であってもよく、12.0以下、10.0以下、8.0以下、5.0以下、又は3.0以下であってもよい。このTI値は、例えば、1.0~12.0、又は3.0~10.0であってもよい。
【0019】
例えば、親水性コーティング用組成物の増粘剤が無機系増粘剤である場合、チキソ性は、5.0以上、7.0以上、又は8.0以上であってもよく、12.0以下、11.0以下、又は10.0以下であってもよい。このチキソ性は、例えば、5.0~12.0、又は7.0~11.0であってもよい。
【0020】
例えば、親水性コーティング用組成物の増粘剤が有機系増粘剤である場合、チキソ性は、1.0以上、1.5以上、2.0以上、又は3.0以上であってもよく、5.0以下、4.0以下、3.0以下、又は2.0以下であってもよい。このチキソ性は、例えば、1.0~5.0、又は1.5~3.0であってもよい。
【0021】
親水性コーティング用組成物によるコーティングは、その純水との静的接触角が50°以下、30°以下、25°以下、22°以下、20°以下、又は15°以下であってもよい。これによって、非常に高い親水性を有し、コーティングに高い防汚性を与えることができる。静的接触角の測定は、例えば、親水性コーティング用組成物をガラス基板上に塗装し、温度0~80℃で60分~10日間乾燥させてコーティングを形成し、このコーティングについて接触角計DMo-501(協和界面科学社製)等を用いて測定することができる。
【0022】
親水性コーティング用組成物は、エマルション系樹脂バインダー、例えばアクリルエマルション系バインダーを含む必要がなく、含んでいたとしても10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下とすることができる。
【0023】
〈コロイダルシリカ〉
親水性コーティング用組成物は、コロイダルシリカを含むことによって、コーティングを形成したときにコーティング表面にヒドロキシル基による親水層が形成され、それによってコーティングが防汚性となることができる。
【0024】
コロイダルシリカは、環境の面から、水分散コロイダルシリカが好ましい。水分散コロイダルシリカとは、シリカ粒子が水媒体中に分散したものである。また、コロイダルシリカには、様々なタイプがあり、特に限定されるものではないが、電子顕微鏡によって観察して測定される平均粒子径が5~100nmの略球状のシリカ粒子が媒体中に分散したタイプ、太さ5~50nm、長さ40~400nm程度の鎖状に凝集したシリカ粒子が媒体中に分散したタイプ、平均粒子径10~50nmの球状シリカ粒子が長さ50~400nmのパールネックレス状に連なったものが媒体中に分散したパールネックレス状タイプ、平均粒子径5~50nmのシリカ粒子が環状に凝集して媒体中に分散した環状タイプ等が挙げられる。防汚性の観点から、球状シリカ粒子が媒体中に分散したタイプのコロイダルシリカを使用することができる。また、コロイダルシリカ中のシリカ粒子は、平均粒子径が、5~100nm又は8~20nmであることが好ましい。この程度の範囲であれば、防汚性、安定性等が良好となる傾向がある。
【0025】
略球状又は球状のシリカ粒子が水中に分散したタイプのコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学株式会社製のスノーテックス-20、スノーテックス-O、スノーテックス-C、スノーテックス-Sや、株式会社ADEKA製のアデライトAT-20、AT-20N、AT-20A及びAT-300等が挙げられる。鎖状に凝集したシリカ粒子が水中に分散した鎖状タイプのコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学株式会社製のスノーテックス-UP及びスノーテックス-OUP等が挙げられる。 パールネックレス状に連なった球状シリカ粒子が媒体中に分散したパールネックレス状タイプのコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学株式会社製のスノーテックス-PS-S、スノーテックス-PS-M、スノーテックス-PS-SO及びスノーテックス-PS-MO等が挙げられる。
【0026】
親水性コーティング用組成物において、固形分全体に占めるコロイダルシリカの固形分は、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、又は80質量%以上であってもよく、95質量%以下、90質量%以下、85質量%以下、80質量%以下、又は75質量%以下であってもよい。例えば、固形分全体に占めるコロイダルシリカの固形分は、60質量%以上95質量%以下、又は65質量%以上90質量%以下であってもよい。
【0027】
親水性コーティング用組成物において、コロイダルシリカの固形分の含有量は、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、又は4質量%以上であってもよく、15質量%以下、10質量%以下、8質量%以下、又は6質量%以下であってもよい。例えば、コロイダルシリカの固形分の含有量は、1質量%以上15質量%以下、又は2質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0028】
〈増粘剤〉
親水性コーティング用組成物は、増粘剤を含み、上記のように比較的粘性が高い。本発明者らは、コロイダルシリカ系コーティング用組成物が増粘剤を含有し、十分な粘性を有している場合には、樹脂系塗膜上であってもコーティングを比較的均一に形成できることを見出した。増粘剤を含有していない場合、シリコーン系樹脂の樹脂系塗膜上には特に、コーティングを均一に形成することができなかった。
【0029】
増粘剤としては、特に種類は限定されず、無機系増粘剤であっても、有機系増粘剤であってもよい。無機系増粘剤としては、水中で膨潤して粘度を高める無機系増粘剤を挙げることができ、例えば膨潤性粘土、特に膨潤性層状珪酸塩を挙げることができる。また、有機系増粘剤としては、水に溶解して粘度を高める有機系増粘剤を挙げることができ、例えば水溶性高分子を挙げることができる。
【0030】
膨潤性層状珪酸塩としては、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト等のスメクタイト系粘土鉱物、バーミキュライト、ハロイサイト、膨潤性マイカ(雲母)等を挙げることができ、これらの中でも特に、天然物ではなく、合成物の膨潤性層状珪酸塩、例えば合成スメクタイトを挙げることができる。合成物の膨潤性層状珪酸塩は、不純物が少ない結果、コーティングの透明性を高めることができるため好ましい。
【0031】
無機系増粘剤を用いる場合、その含有量は、1.0質量%以上、1.5質量%以上、又は2.0質量%以上であってもよく、5.0質量%以下、3.0質量%以下、2.5質量%以下、又は2.0質量%以下であってもよい。例えば、無機系増粘剤の含有量は、1.0質量%以上5.0質量%以下、又は1.5質量%以上3.0質量%以下であってもよい。
【0032】
水溶性高分子としては、アラビアガム、サクシノグリカン、ウェランガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、カゼインクサンタンガム、デキストラン、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体、スチレンアクリル酸共重合体の塩等を挙げることができる。
【0033】
有機系増粘剤を用いる場合、その含有量は、0.1質量%以上、0.3質量%以上、又は0.5質量%以上であってもよく、2.0質量%以下、1.5質量%以下、1.0質量%以下、又は0.8質量%以下であってもよい。例えば、有機系増粘剤の含有量は、0.1質量%以上2.0質量%以下、又は0.3質量%以上1.0質量%以下であってもよい。
【0034】
〈水溶性染料〉
上記親水性コーティング用組成物は、さらに水溶性染料を含むことができる。また、他の1つの実施形態において、親水性コーティング用組成物は、コロイダルシリカと水溶性染料を含む。
【0035】
水溶性染料を含有していない組成物によってコーティングを形成した場合、コーティングが透明であるため、塗布ムラなく均一にコーティングが形成できているのか否かがかなり分かりにくい。しかし、水溶性染料を含有させた場合には、コーティングに塗布ムラが生じているかどうかが一目で分かるため、水溶性染料を親水性コーティング用組成物に含有させることが有利である。また、コロイダルシリカに水溶性染料を含有させた場合には、そのコーティング形成後に、水で水溶性染料のみを容易に洗い出せることが分かった。したがって、水溶性染料を含む着色したコーティングを形成した後に、コーティングから水溶性染料を水又は雨で洗い出すことによって、無色透明のコーティングを得ることができる。
【0036】
水溶性染料としては、コーティングから容易に水で洗い出せれば特に限定されないが、直接染料、酸性染料、塩基性染料等の周知の染料を用いることができ、また食品用、工業用、繊維用等の様々な用途の染料を用いることができる。これらの中でも特に、食用染料は、安全性が高く、また紫外線によって退色させることができる。そのため、コーティングから水で洗い流さなくても、日光で着色を退色させることも可能であるため好ましい。また、水で洗い流した場合であっても、環境負荷が低いため好ましい。食用染料の中でも特に、青色1号等の青色の食用染料は、親水性コーティング用組成物に清潔感のある外観をもたらすことができるため、好ましい。なお、本明細書において、「食用染料」とは、食品にも用いることができる染料をいう。例えば、青色1号は、食品に用いられることが知られているが、医薬、化粧品等にも用いられる。
【0037】
染料の色としては、上記のような青色には限られず、コーティングを形成した際に視認することができる色であればよい。例えば、青色、緑色、黄色、橙色、赤色、紫色等をあげることができ、具体的には、食用染料として知られている、青色1号、青色2号、緑色3号、黄色4号、黄色5号、赤色2号、赤色3号、赤色40号、赤色102号、赤色104号、赤色105号、赤色106号等、又はこれらの組合せを用いることができる。
【0038】
水溶性染料の含有量としては、上記の機能が発揮できるのであれば特に限定されないが、0.005質量%以上、0.01質量%以上、又は0.02質量%以上であってもよく、0.3質量%以下、0.2質量%以下、0.1質量%以下、又は0.05質量%以下であってもよい。例えば、水溶性染料の含有量は、0.005質量%以上0.3質量%以下、又は0.01質量%以上0.1質量%以下であってもよい。
【0039】
〈他の成分〉
親水性コーティング用組成物は、さらに他の成分を含むことができる。例えば、親水性コーティング用組成物は、イオン交換水、溶媒、消泡剤、可塑剤、凍結防止剤、乾燥促進剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、硬化剤、架橋剤等を挙げることができるがこれらに限定されない。ただし、これらは実質的に含有されていなくてもよい。
【0040】
《親水性コーティング》
親水性コーティングは、上記の親水性コーティング用組成物を塗布することによって形成することができる。このコーティングは、防汚性能を有することができ、表面に付着した汚れを水で洗い流すことができる。
【0041】
《構造体》
構造体は、基体、下地塗膜、及び上記の親水性コーティング用組成物によるコーティングをこの順で含む。構造体は、好ましくは建築物であるが、これに限定されるものではなく、車体等であってもよい。
【0042】
下地塗膜を基体上に形成するためには、ハケ、ローラー、スプレー等によって下地塗料を基体上に塗布すればよい。同様に、下地塗膜上にコーティングの形成のために、ハケ、ローラー、スプレー等を用いることができる。
【0043】
〈基体〉
構造体の基体は、例えばビル、家屋、塀等の建築物;高速道路の防音壁;橋梁、公園等に設置される鉄製、コンクリート製等の種々の構造物等、各種の建造物の屋根又は外壁面を例示することができる。この外壁面を構成するものとしては、一般的な外壁材を挙げることができ、例えば、窯業系サイディングボード、モルタル、コンクリート、スレートなどの無機系外装材;鉄、アルミニウム、金属サイディング等の金属系外装材;天然木、合板等の木質系外装材等を挙げることができる。
【0044】
〈下地塗膜〉
下地塗膜としては、透明なコーティングによって保護されつつ、下地塗膜としての機能を発揮できるのであれば特に限定されないが、特に遮熱性塗料によって形成される遮熱性塗膜を挙げることができる。
【0045】
遮熱性塗料は、太陽光を反射することによって温度上昇を抑えるための塗料であり、遮熱材を含む溶剤系塗料、無機系塗料、有機無機複合塗料、弱溶剤系塗料、各種の水系塗料を用いることができる。ここで、弱溶剤系塗料とは、主溶剤として、弱溶剤と呼ばれるミネラルスピリット、脂肪族系炭化水素等を使用するものであり、常温で塗膜を形成し、幅広い下地への密着性を有するといった特徴がある。塗料のバインダー樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂等からなる1種又は2種以上の塗料を挙げることができる。
【0046】
これらの中でも特に、上記の親水性コーティング用組成物によれば、シリコーン系樹脂をバインダーとして含む遮熱性塗料に対しても、塗装ムラなく均一なコーティングを形成できるため特に有利となることが分かった。本明細書において、シリコーン系樹脂とは、塗料の分野で用いられるシリコーン系樹脂であれば特に限定されず、シリコーン樹脂だけではなく、シリコーン変性された他の樹脂も含む。シリコーン変性された他の樹脂としては、シリコーン変性アクリル樹脂、シリコーン変性ポリウレタン樹脂、シリコーン変性ポリエステル樹脂、シリコーン変性アルキッド樹脂、シリコーン変性エポキシ樹脂、等を挙げることができる。また、有機樹脂変性されたシリコーン樹脂も挙げることができ、例えばエポキシ変性シリコーン樹脂、ポリエステル変性シリコーン樹脂、アルキッド樹脂変性シリコーン樹脂等を挙げることができる。このようなシリコーン系樹脂は、通常は撥水性を有しており、親水性コーティング用組成物を塗布ムラなく均一にコーティングを形成することは通常、困難である。そのような遮熱性塗料としては、具体的には、水系塗料であるミラクールファーム、弱溶剤系塗料であるミラクールS100等を挙げることができる。
【0047】
遮熱性塗料に含まれる遮熱材としては、従来から遮熱性塗料で用いられてきた遮熱材を用いることができ、例えば遮熱材顔料及び/又は中空粒子を用いることができる。
【0048】
遮熱性塗料の遮熱材として用いることができる遮熱性顔料は、少なくとも近赤外線を反射できるのであれば、無機顔料であっても有機顔料であっても特に限定されない。例えば、白色顔料については、酸化チタン、酸化亜鉛顔料を挙げることができ、黒色顔料については、マンガンイットリウムブラック顔料を挙げることができ、黄色顔料については、アゾ系顔料、ベンゾイミダゾロン顔料を挙げることができ、赤色顔料については、キナクリドン顔料を挙げることができ、青色顔料については、銅フタロシアニンブルー顔料を挙げることができる。遮熱性塗料は、これらの顔料から選択される1種または2種以上の顔料を含有することができる。
【0049】
遮熱性塗料の遮熱材として用いることができる中空粒子としては、透明又は半透明のセラミック中空粒子を挙げることができる。このようなセラミック中空粒子としては、ジルコニア・チタニア複合物、ホウ化ケイ素系セラミック、シラスバルーン、ガラスバルーン等の中空粒子を挙げることができる。中空粒子の粒子径としては5μm以上150μm以下、又は30μm以上100μm以下の範囲とすることができ、中空内は空気、空気以外の気体、真空のいずれでもよいが、真空であるものが断熱性の点等からより効果的である。
【0050】
遮熱性塗料に含まれる遮熱材の含有量は、例えば、1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は30質量%以上であってもよく、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は15質量%以下であってもよい。例えば、遮熱性塗料に含まれる遮熱材の含有量は、1質量%以上50質量%以下、又は10質量%以上30質量%以下であってもよい。
【0051】
〈他の層〉
構造体は、上記以外に他の層を有することができ、例えば基体と下地塗膜との間に、本分野で周知のプライマー層を有していてもよい。
【0052】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例
【0053】
《製造例》
イオン交換水59.10質量部を入れた容器に、コロイダルシリカ25質量部(スノーテックスC:水分散コロイダルシリカ、平均粒径10~20nm、日産化学株式会社)を加えて撹拌し、さらに有機系増粘剤であるヒドロキシエチルセルロース(SP-900、ダイセルミライズ株式会社)を徐々に添加してさらに混合した。その後、着色剤として青色1号0.015質量部加えてさらに混合し、実施例1の親水性コーティング用組成物を得た。
【0054】
有機系増粘剤の代わりに無機系増粘剤である合成スメクタイト(スメクトンSA、クニミネ工業株式会社)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の親水性コーティング用組成物を得た。
【0055】
増粘剤を加えなかったこと以外は同様にして、参考例の親水性コーティング用組成物を得た。
【0056】
《物性測定》
〈透明性:ΔE測定〉
塗装用隠蔽率試験紙の白色部及び黒色部上に渡って、乾燥膜厚で約50μmの厚さで白色塗料を塗布した。コニカミノルタ株式会社製の色彩色差計CR-410を用いて、その白色塗料の塗膜のL値を測定した。その後、上記各例の組成物を用いて、約5~20μmのコーティングを形成し、コーティング上でさらにL値を測定した。なお、コーティング形成後、測定前に、着色剤を洗い流した。
【0057】
その結果を、表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
この結果から分かるように、いずれのコーティングも、コーティングの形成前後でのΔE値が低く、非常に透明性が高いことが分かる。
【0060】
〈透明性:透過率測定〉
2mmのフロートガラス上に約5~20μmの厚さのコーティングを形成して、全光線透過率(T.T)、平行線透過率(P.T)、ヘイズ、及び拡散透過率(DIF)を、ヘイズメーターNDH7000II(日本電色工業社製)等を用いて測定した。なお、参考として、フロートガラスのみの透過率測定も行った。
【0061】
その結果を、表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
〈粘性〉
25℃でストーマー粘度計を用いてJIS K5600-2-2に準拠して、親水性コーティング用組成物の粘度を測定した。ストーマー粘度計として、英弘精機株式会社から入手可能なブルックフィールドデジタル粘度計KU-3を用いて粘度を測定した。また、英弘精機株式会社から入手可能なブルックフィールドB型粘度計RV/DVEを用いて、スピンドルNO.5(RV-5)を6rpm及び60rpmの条件で粘度を測定し、TI値も計算した。
【0064】
その結果を、表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
〈静的接触角〉
シリコーンゴム上に形成したコーティングについて、水との静的接触角をDMo-501(協和界面科学社製)等を用いて測定した。
【0067】
3回測定を行った場合の平均値の結果を表4に示す。
【0068】
【表4】
【0069】
《塗布試験》
基材上に、シリコーン系樹脂をバインダーとして含む弱溶剤系遮熱性塗料(ミラクールS100、株式会社ミラクール)による塗膜を形成し、その上に、増粘剤を0.5質量部含む実施例1の親水性コーティング用組成物を用いてコーティングを形成した。同様に、増粘剤を2.0質量部含む実施例2の親水性コーティング用組成物を用いてコーティングを形成し、また同様に、参考例の親水性コーティング用組成物を用いてコーティングを形成した。
【0070】
実施例1及び参考例のコーティング形成直後のコーティング脱色前の状態の写真を図1に示す。図1に示すように、実施例1によるコーティングは、塗膜上に比較的均一に形成することができたのに対して、参考例によるコーティングは、塗布ムラが大きく発生した。なお、実施例2のコーティングは、実施例1と同様に、塗膜上に比較的均一に形成することができた。
【0071】
《暴露試験》
基材上に、シリコーン系樹脂をバインダーとして含む弱溶剤系遮熱性塗料(ミラクールS100、株式会社ミラクール)による塗膜を形成し、その面積の半分のみに、増粘剤を0.5質量部含む実施例1の親水性コーティング用組成物を用いてコーティングを形成した。そして、屋外にその試験体を一定期間放置して、状態を観察した。
【0072】
その結果を図2に示す。コーティングを形成した場所には、放置している間に雨で汚れが洗い出されたため非常に清浄であるのに対して、コーティングを形成していない場所には、汚れが洗い出されなかったため汚れが残っていることが分かる。
【要約】
【課題】 本発明は、下地塗膜の機能を低下させず、かつ下地塗膜上への形成が容易な親水性コーティング用組成物を提供する。また、本発明は、そのような親水性コーティングを含む構造体を提供する。
【解決手段】 本発明の親水性コーティング用組成物は、コロイダルシリカ及び増粘剤を含む親水性コーティング用組成物であって、10μmの厚さのコーティングを白色基材上に形成した場合に、白色基材の塗布前後の色差ΔEが0.50以下であり、かつストーマー粘度計を用いてJIS K5600-2-2に準拠して測定した粘度が、40~120KUの範囲である。また、本発明の構造体は、基体、下地塗膜、及び上記の親水性コーティング用組成物によるコーティングを含む、構造体であって、前記下地塗膜が、遮熱性塗膜である。
【選択図】 図1
図1
図2