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特許6991632アルミナ粉体合成に適した高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法
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  • 特許-アルミナ粉体合成に適した高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】アルミナ粉体合成に適した高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/57 20220101AFI20220104BHJP
【FI】
C01F7/57
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021142552
(22)【出願日】2021-09-01
【審査請求日】2021-09-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】399127625
【氏名又は名称】浅田化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】川口 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】筒井 義也
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-024694(JP,A)
【文献】特開2020-079200(JP,A)
【文献】特開2018-115097(JP,A)
【文献】特開2017-052675(JP,A)
【文献】特開平11-278830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 7/00
B01D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水とアルミン酸ナトリウムと硫酸アルミニウム溶液とを混合した後、Alに換算してAlを15~20重量%および硫酸イオン濃度が水溶液中に0~0.2重量%含まれる塩基度40~65%の原料塩化アルミニウム水溶液を投入し、45~85℃で40~240分で反応した後、7~18時間かけて40~65℃の範囲になるように徐冷することを特徴とする、Alに換算してAl8~13重量%、Feの含有量が0~10ppm、Caの含有量が0~40ppm、Mgの含有量が0~20ppm、Siの含有量が0~20ppmを含む塩基度67~85%の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記原料塩化アルミニウム水溶液が、Fe含有量0~70ppm、Ca含有量0~70ppm、Mg含有量0~70ppmおよびSi含有量0~70ppmを有する、請求項1記載の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記原料塩化アルミニウム水溶液が、Fe含有量0~10ppm、Ca含有量0~40ppm、Mg含有量0~20ppmおよびSi含有量0~20ppmを有する、請求項1または2記載の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【請求項4】
製造方法に使用する部材が、鉄を含まないことを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【請求項5】
得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液を、900℃以上で焼成することによりアルミナ粉体が得られる、請求項1~のいずれか1項に記載の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記アルミナ粉体が、白色で一次粒子が30μm以下であり、かつFeの含有量が0~30ppm、Caの含有量が0~40ppm、Mgの含有量が0~20ppm、Siの含有量が0~20ppmである請求項に記載の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ粉体合成に適した高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高塩基性塩化アルミニウム溶液は各種方法で作製されている。例えば硫酸アルミニウムとカルシウム化合物を同時添加し、生成した石膏の除去をすることで高塩基ポリ塩化アルミニウムを製造する方法(特許文献1)、塩基度40~63%の塩基性塩化アルミニウム溶液に、85℃以下の温度下でアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の化合物を添加した後、65~85℃で、0.5~2.0時間熟成を行うことにより、塩基性塩化アルミニウムを合成する方法(特許文献2)、塩基性塩化アルミニウム溶液とアルカリ塩とを混合してアルミナゲル懸濁液を調製する第1工程と前記アルミナゲル懸濁液を、塩基度が65%以下の塩基性塩化アルミニウム溶液と混合して混合液を得る第2工程と前記混合液中のアルミナゲルを溶解させて塩基度が50%以上の塩基性塩化アルミニウム溶液を得る第3工程とを有し、前記第1工程では前記アルカリ塩としてアルミン酸ナトリウムおよびアルカリ金属炭酸塩を用いることを特徴とする塩基性塩化アルミニウム溶液の製造方法(特許文献3)、組成中にAlと一定比率で、Si、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を一定比率で混合した塩基性塩化アルミニウムの製造方法(特許文献4)、組成中にAlと一定比率で、Si、アルカリ金属塩、Mgを一定比率で混合した塩基性塩化アルミニウムの製造方法(特許文献5)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平2-58209号公報
【文献】特許第4953458号
【文献】特許第6860196号
【文献】特許第6186528号
【文献】特許第6186545号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1記載の高塩基性塩化アルミニウムの製造方法では、合成系中に炭酸カルシウム、消石灰等を原料として投入するため、精製した高塩基性塩化アルミニウムにカルシウムが残り、アルミナ粉体合成やアルミナコーティングする際に不純物として存在し、酸化アルミニウム以外の結晶相を生成する課題がある。また、特許文献2記載の高塩基性塩化アルミニウムの製造方法は、合成原料中に炭酸マグネシウムや炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属を含む設計になっており、精製した高塩基性塩化アルミニウムにカルシウム、マグネシウム等が不純物として多量に残り、アルミナ粉体合成する際に不純物として存在し、酸化アルミニウム以外の結晶相を生成する課題がある。
【0005】
特許文献3の高塩基性塩化アルミニウムの製造方法は合成原料中にアルカリ金属炭酸塩を添加するため、反応に十分関与しなかったアルカリ金属炭酸塩が塩基性塩化アルミニウム溶液の経時安定性を低下させる課題がある。更に、特許文献4や特許文献5記載の高塩基性塩化アルミニウムの製造方法は合成原料中にケイ酸ナトリウム由来のケイ素及び炭酸マグネシウムや炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属を含む設計になっており、これをアルミナ粉体合成する際に使用すると不純物として存在し、酸化アルミニウム以外の結晶相を生成する課題がある。
【0006】
以上の問題点を鑑みて、本発明の目的は、合成された高塩基性塩化アルミニウムの経時安定性を低下させる要因であるアルカリ金属炭酸塩を含まず、且つ不純物であるFe、Ca、MgおよびSiの含有量が低く、塩基度が67~85%である高塩基性塩化アルミニウム水溶液を合成することにより、焼成により着色のないアルミナ粉体を製造することができる高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を実施した結果、以下の態様を提供する:
[1] 水とアルミン酸ナトリウムと硫酸アルミニウム溶液とを混合した後、Al2O3に換算してAlを15~20重量%および硫酸イオン濃度が水溶液中に0~0.2重量%含まれる塩基度40~65%の原料塩化アルミニウム水溶液を投入し、45~85℃で40~240分で反応した後、7~18時間かけて40~65℃の範囲になるように徐冷することを特徴とする、Al2O3に換算してAlを8~13重量%を含む塩基度67~85%の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
[2]前記原料塩化アルミニウム水溶液が、Fe含有量0~70ppm、Ca含有量0~70ppm、Mg含有量0~70ppmおよびSi含有量0~70ppmを有する、[1]記載の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
[3]前記原料塩化アルミニウム水溶液が、Fe含有量0~10ppm、Ca含有量0~40ppm、Mg含有量0~20ppmおよびSi含有量0~20ppmを有する、[1]または[2]の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
[4]製造方法に使用する部材が、鉄を含まないことを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
[5]得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Feの含有量が0~10ppm以下、Caの含有量が0~40ppm以下、Mgの含有量が0~20ppm以下、Siの含有量が0~20ppm以下であることを特徴とする[1]~[4]のいずれかに記載の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
[6]得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液を、900℃以上で焼成することによりアルミナ粉体が得られる、[1]~[5]のいずれかに記載の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
[7]前記アルミナ粉体が、白色で一次粒子が30μm以下であり、かつFeの含有量が0~30ppm、Caの含有量が0~40ppm、Mgの含有量が0~20ppm、Siの含有量が0~20ppmである[6]に記載の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液を焼成して、アルミナ粉体を製造する際に、不純物(具体的には、Fe、Si、CaまたはMg等、特にFe)をほとんど含まないため、焼成することによって着色の原因になるFeなどの酸化物が発生せず、白色でかつ高純度のアルミナ粉体を合成することを可能にする。
【0009】
本発明による高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、逆に積極的にあるいは意図的に金属原子を投入して、焼成温度、焼成雰囲気を制御して焼成することによってムライトやスピネル、窒化アルミ等の粉体合成が可能になり、それを他の材料と組み合わせてファイバー合成やコーティング材料とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例5の試料を走査電子顕微鏡(SEM:日立ハイテクノロジーズ株式会社製TM3030plus)により5000倍で観察した写真に示す。
図2】比較例1の試料を走査電子顕微鏡(SEM:日立ハイテクノロジーズ株式会社製TM3030plus)により5000倍で観察した写真を示す。
図3】実施例5の試料のX線回折装置(RIGAKU株式会社製SmartLab9kW)で測定した結果をグラフとして示す。
図4】比較例2の試料のX線回折装置(RIGAKU株式会社製SmartLab9kW)で測定した結果をグラフとして示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、水とアルミン酸ナトリウムと硫酸アルミニウム溶液とを混合した後、Alに換算してAlを15~20重量%および硫酸イオン濃度が水溶液中に0~0.2重量%含まれる塩基度40~65%の原料塩化アルミニウム水溶液を投入し、45~85℃で40~240分で反応した後、7~18時間かけて40~65℃の範囲になるように徐冷することを特徴とする。即ち、水とアルミン酸ナトリウムと硫酸アルミニウム溶液の混合物に原料塩化アルミニウム水溶液を投入して反応させるのであるが、ここで用いる原料塩化アルミニウム水溶液は、Alに換算してAlを15~20重量%および硫酸イオン濃度が水溶液中に0~0.2重量%含まれ、かつ塩基度40~65%を有している。
【0012】
原料塩化アルミニウム水溶液は、塩化アルミニウム(AlCl)の水溶液であるが、Alに換算してAlを15~20重量%および硫酸イオン濃度が水溶液中に0~0.2重量%含まれることを必要とし、かつ塩基度40~65%であることを必要とする。Alの濃度は、Alの量に換算して表示する。Alは種々の価数を取る金属であり、水溶液中でも種々の形態や陰イオンとの化合物として存在している。従って、この分野では、Alに換算してAlを表示している。本発明では、Alに換算してAlを15~20重量%の量で存在していることを必要とする。Alの量が15重量%より少ないと、Alの量が不足し、Alが20重量%を超えると、濃度が濃い為、液粘度が高くなり、生産性が悪くなる。Alの量は、Alに換算して、好ましくは16~19重量%、より好ましくは16.5~18.5重量%の量で含まれる。
【0013】
原料塩化アルミニウム水溶液中の硫酸イオンの量は、0~0.2重量%の量で含まれる。硫酸イオンは、Alやその他の存在する金属とイオンを形成している。硫酸イオンは、0.2重量%を超えると、高塩基塩化アルミニウム溶液の塩基度を高めるのを阻害する。硫酸イオンは、好ましくは0~0.15重量%、より好ましくは0~0.1重量%の量で存在する。
【0014】
原料塩化アルミニウム水溶液は、塩基度が40~65%であることを必要とする。本明細書中において、「塩基度」は塩基で置換し得る価数の何%が埋まっているかを示す値であり、アルミニウムは3価であるので、2/3(3価の内2価)が使用されれば、66.66%(即ち、約67%)となる。本発明では、原料塩化アルミニウムの塩基度は40~65%、好ましくは42~64%、より好ましくは44~60%である。40%より少ないと、高塩基性塩化アルミニウム溶液の塩基度が高くならない。逆に65%より高いと、原料塩化アルミニウム水溶液の粘度が高く、他材料との混ざりが悪く、生産性が悪くなる。
【0015】
原料塩化アルミニウム水溶液は、好ましくは不純物を殆ど含まないものを使用するのが好ましい。塩化アルミニウム水溶液の不純物は、金属元素であり、例えばFe、Ca、Mg、Si等が主として挙げられるが、その他にMnやCd、Cr、Pb、Hg、As等が含まれることがある。これらの不純物は、基本的に存在しない方が好ましいが、完全に排除するのが難しい場合も存在する。原料塩化アルミニウム水溶液としては、特に、Fe含有量0~70ppm、Ca含有量0~70ppm、Mg含有量0~70ppmおよびSi含有量0~70ppmを有する。好ましくは、原料塩化アルミニウム水溶液は、Fe含有量0~10ppm、Ca含有量0~40ppm、Mg含有量0~20ppmおよびSi含有量0~20ppmを有する。Feが70ppmを超えると、最終的に焼成により得られるアルミナにFeの酸化物による着色が起こり、着色を必要としない用途に使用することができない。Ca、SiやMgも70ppmを超えると、着色などの原因になり好ましくない。
【0016】
本発明では、水とアルミン酸ナトリウムと硫酸アルミニウム溶液との混合物を形成し、それに上記原料塩化アルミニウム水溶液を添加する。使用する水、アルミン酸ナトリウムおよび硫酸アルミニウムは、全て上記不純物(Fe、Ca、MgおよびSi等の金属不純物)を含まないものを使用する必要がある。例えば、アルミン酸ソーダはFe、Si、Ca、Mgの含有を0~30ppmに制御した制御した水酸化アルミニウムとFe、Si、Ca、Mgの含有を0~30ppmに制御した制御した水酸化ナトリウムから、合成されたアルミン酸ソーダを使用することを特徴とする。また、硫酸アルミニウム溶液は、Fe、Si、Ca、Mgの含有を0~30ppmに制御した制御した水酸化アルミニウムとFe、Si、Ca、Mgの含有を0~100ppmに制御した制御した硫酸より合成されたものを使用することを特徴とする。
【0017】
上述のように、本発明では原料の不純物の量も制限が必要であり、使用する設備(反応設備、水溶液の貯蔵施設等)やその接液部(例えば、攪拌機の羽根、釜、配管、ろ過機、保管容器等)からも不純物の混入が起こらないように選択する必要がある。特に、鉄を含む配管や貯蔵設備は、Feイオンの溶出が起こるので、特に厳しく鉄を含まない部材に制限される必要がある。従って、本発明で使用する各種設備やその接液部には、鉄を含まない部材、具体的にはFRP(繊維強化プラスチック)、ガラスライニングしたSUSステンレス、その他の合金、プラスチック系配管(例えば、耐熱塩化ビニル、ガラスライニングした耐熱塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフルオロテトラエチレン等)が使用される。
【0018】
本発明に使用する水酸化アルミニウムとしては、水酸化ナトリウムや硫酸への溶解が阻害されるほどの凝集体でなければよく、具体的には一次粒子径が50μm以下であり、かつFe含有量が0~70ppm、Si含有量が0~70ppm、Ca含有量が0~70ppm、Mg含有量が0~70ppmのものであれば、特に制約されるものではなく、不純物含有量がより低い方がなお好ましい。
【0019】
本発明に使用する硫酸は濃度が90%以上の濃硫酸であり、硫酸協会規格の濃硫酸、精製濃硫酸の規格以上に該当すれば特に制約されるものではなく、濃硫酸の規格を満足しかつFe含有量が0~70ppm、Si含有量が0~70ppm、Ca含有量が0~70ppm、Mg含有量が0~70ppmを満たすものを使用することがより好ましい。
【0020】
本発明に使用する水酸化ナトリウムは48%以上の水酸化ナトリウムでありJIS K8576または日本ソーダ工業会JSIA01の1種、2種のいずれでもよく、より好ましくはJSIA01の1種相当品以上であり、Fe含有量が0~70ppm、Si含有量が0~70ppm、Ca含有量が0~70ppm、Mg含有量が0~70ppmが好ましい。
【0021】
本発明に使用する水酸化ナトリウム、硫酸、塩基性塩化アルミニウム、高塩基性塩化アルミニウム水酸化アルミニウムはアンモニア性窒素が0~100ppm、ヒ素(As)が0~1ppm、マンガン(Mn)が0~15ppm、カドミウム(Cd)が0~1ppm、鉛(Pb)が0~5ppm、水銀(Hg)が0~0.1ppm、クロム(Cr)が0~5ppmであれば制約はなく、含まないことがより好ましい。
【0022】
本発明の製造方法は、水とアルミン酸ナトリウムと硫酸アルミニウム溶液とを混合した後、上記の原料塩化アルミニウム水溶液を投入し、45~85℃で40~240分で反応した後、7~18時間かけて40~65℃の範囲になるように徐冷することを必要とする。より具体的な工程として表すと、以下の(1)~(3)の工程となる:
(1)攪拌機付き容器に水とアルミン酸ソーダと液体硫酸アルミニウムを所定量計量(計量前に脱鉄機を通しても可)し、5~40分攪拌を行う工程。
(2)上記(1)に所定量の原料塩化アルミニウム水溶液を投入し、投入完了後、45~85℃で40~240分加温、熟成を行う工程。
(3)上記(2)の液を7~18時間かけて40~65℃になるように徐冷を行い、脱鉄機を通し、脱鉄をしたうえでろ過をすることで本発明の高塩基性塩化アルミニウムを得る工程。
【0023】
本発明では、上述のように、工程(1)と(2)の前半で原料を撹拌した後、45~85℃、40~240分反応する。温度条件は45~85℃であり、好ましくは50~80℃、より好ましく55~75℃である。45℃より低いと、反応の進行が遅くなり、85℃を超えると、重合が進行し、高粘度になり高塩基性塩化アルミニウム溶液が得られなくなる。反応時間は40~240分であるあり、好ましくは60~200分、より好ましくは70~140分である。40分より短いと、反応が完結せず、240分より長くすると保管安定性が悪くなり、経時とともに透明な液体が白濁していく問題がある。加温、熟成という用語は、所定の反応期間中所定の温度に維持することを意味するが、温度の多少の振れは許容されるべきである。加温、熟成時に反応がおおむね進行する。工程(3)では、工程(2)での反応後に水溶液を7~18時間かけて40~65℃になるように徐冷する。徐冷とは、徐々に冷却していくことを意味するが、完全に直線的な温度の下降を必ずしも意味せず、反応温度付近で温度を維持しつつかつ少し温度を下降することを意味していて、例えば反応が85℃付近で行われた場合、65℃ぐらいまでゆっくり温度が下降するようにする。また、反応温度が45℃付近の場合は、ほぼその反応温度で維持しつつ、最終的に40℃付近に下降していればよい。
【0024】
脱鉄機は、通常磁石を用いて鉄分を回収する装置であり、具体的は磁力が0.3T以上のものであればよく、望ましくは0.7T以上のものが好ましい。「T」はテスラの略で、SI単位の磁束密度の単位である。脱鉄機は、主として配管等に設置するため、錆や腐蝕に強い構造であり、取り外し清掃が容易な構造のものが好ましい。脱鉄機の具体例は、株式会社エイシン製マグ・フィルターMが挙げられる。尚、脱鉄機は、上記の3工程では工程(1)と工程(3)に付加するように記載しているが、本発明の場合は全ての工程に付加していても良く、鉄分の除去が本発明での効果を発現するために重要である。
【0025】
本発明の製造方法で得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Alに換算してAlを8~13重量%の量で含有し、塩基度は67~85%を有する。本発明で得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、製造過程での不純物の量を制限しているので、不純物の量が非常に少ないものとなっている。換算したAlの量が8重量%より少ないと焼成した際の酸化アルミニウムの収率が大幅に減少し、13重量%より多いと高塩基性塩化アルミニウム溶液の粘度が非常に高くなり、取り扱いが難しくなる。塩基度は、原料塩化アルミニウム水溶液より高くなっていので、67%であるAlの価数である3の2以上が使用されている。
【0026】
本発明の製造方法で得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、900℃以上で焼成することによりアルミナ粉体(酸化アルミニウムの粉体)が得られる。本発明の高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、不純物を殆ど含まないので、通常不純物が存在するとムライトやスピネル等のアルミナ以外の結晶相を析出させるが、本発明の高塩基性塩化アルミニウム水溶液はSi、Ca、MgやFe等をほとんど含まないので、純粋な酸化アルミニウム粉体が合成できる。本発明の高塩基性塩化アルミニウム溶液は、900℃以上で焼成することによって、原料塩化アルミニウム水溶液のFe含有量が0~10ppm、Si含有量が0~20ppm、Ca含有量が0~40ppm、Mg含有量が0~20ppmとなる不純物が低い設計であるため、着色のないアルミナ粉体を得ることができる。本発明で得られたアルミナ粉体(酸化アルミニウム粉体)は、不純物が少ないので、白色で一次粒子が30μm以下であり、かつFeの含有量が0~30ppm、Caの含有量が0~40ppm、Mgの含有量が0~20ppm、Siの含有量が0~20ppmであり得る。
【実施例
【0027】
本発明を実施例により更に詳細に説明する。本発明は、これら実施例に限定されるものと解してはならない。実施例中、%、配合量等は特に指示しない限り、質量または重量に基づく。
【0028】
<実施例1>
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社からBW103として市販)と48%水酸化ナトリウム水溶液(関東化学株式会社製)から合成したアルミン酸ナトリウム溶液(Al換算Al量23.5重量%、NaO換算Na量18.6%)83.7gと水酸化アルミニウムと98%精製濃硫酸(テイカ株式会社製)から合成された硫酸アルミニウム溶液(Al換算でAl量8.03%)43.9gと精製水284.0gを混合し、30分攪拌した。次に原料塩化アルミニウム水溶液(Al換算のAl量17.8%、塩基度 45.0%、SO 2-量0%、Fe量30ppm、Ca量28ppm、Mg量9ppmおよびSi量15ppm)を250g投入し、65℃まで昇温し、120分攪拌しながら反応した後、55℃まで10時間かけて徐冷することで高塩基性塩化アルミニウム溶液を得た。高塩基性塩化アルミニウム水溶液はAl換算のAl量10.2%、塩基度71.3%、SO 2-量1.4%、Fe量6ppm、Ca量26.2ppm、Mg量5ppm、Si量14.9ppmを有した。但し、ろ過前に脱鉄機(株式会社エイシン製マグ・フィルターM)を通した。
【0029】
得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液の外観を目視で確認を行い、結果を表1に示す。また、得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液を30gアルミナ製るつぼに30g投入し、100℃で30分乾燥したものをバッチ式焼成炉にて1100℃で1時間焼成を行い、冷却後の試料を画像分光色彩計(倉敷紡績株式会社製COLOR-75)で外観色を測定し、結果を表2に示す。更に、上記焼成後の試料をエネルギー分散型X線分析(日立ハイテクノロジーズ株式会社製TM3030plus)で元素分析した結果を表3に示す。
【0030】
<実施例2>
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社からBW103として市販)と48%水酸化ナトリウム水溶液(関東化学株式会社製)から合成したアルミン酸ナトリウム溶液(Al換算Al量23.2%、NaO換算Na量18.2%)85.6gと水酸化アルミニウムと98%精製濃硫酸(テイカ株式会社製)から合成された硫酸アルミニウム溶液(Al換算Al量8.03%)47.4gと精製水284.4gを混合し、30分攪拌する。次に原料塩化アルミニウム水溶液(Al換算Al量17.8%、塩基度45.0%、SO 2-量0%、Fe量25ppm、Ca量28ppm、Mg量6ppmおよびSi量18ppm)を250g投入し、55℃まで昇温し、90分攪拌しながら、反応した後、40℃まで14時間かけて徐冷することで本発明の高塩基性塩化アルミニウム溶液を得た。得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Al換算Al量10.2%、塩基度71.6%、SO 2-1.6%、Fe量7ppm、Ca量24.8ppm、Mg量4.8ppm、Si量15.3ppmであった。尚、ろ過前に脱鉄機(株式会社エイシン製マグ・フィルターM)を通した。
【0031】
得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液の外観を目視で確認を行い、結果を表1に示す。また、得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液を30gアルミナ製るつぼに30g投入し、100℃で30分乾燥したものをバッチ式焼成炉にて1100℃で1時間焼成を行い、冷却後の試料を画像分光色彩計(倉敷紡績株式会社製COLOR-75)で外観色を測定し、結果を表2に示す。更に、上記焼成後の試料をエネルギー分散型X線分析(日立ハイテクノロジーズ株式会社製TM3030plus)で元素分析した結果を表3に示す。
【0032】
<実施例3>
水酸化アルミニウム日本軽金属株式会社からBW103として市販)と48%水酸化ナトリウム水溶液(関東化学株式会社製)から合成したアルミン酸ナトリウム溶液(Al換算Al量23.5%、NaO換算Na量18.6%)79.9gと水酸化アルミニウムと98%精製濃硫酸(テイカ株式会社製)から合成された硫酸アルミニウム両駅(Al換算Al量8.03%)31.3gと精製水 284.0gを混合し、50分攪拌する。次に原料塩化アルミニウム水溶液(Al換算Al量17.8%、塩基度 45.0%、SO 2-量0%、Fe量25ppm、Ca量28ppm、Mg量6ppmおよびSi量18ppm)を250g投入し、65℃まで昇温し、120分攪拌しながら、反応した後、55℃まで12時間かけて徐冷することで本発明の高塩基性塩化アルミニウム溶液を得た。得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Al換算Al量10.1%、塩基度71.4%、SO 2-量1.1%、Fe量8ppm、Ca量25.2ppm、Mg量4.1ppm、Si量14.5ppmを有した。尚、ろ過前に脱鉄機(株式会社エイシン製マグ・フィルターM)を通した。
【0033】
得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液の外観を目視で確認を行い、結果を表1に示す。また、得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液を30gアルミナ製るつぼに30g投入し、100℃で30分乾燥したものをバッチ式焼成炉にて900℃で1時間焼成を行い、冷却後の試料を画像分光色彩計(倉敷紡績株式会社製COLOR-75)で外観色を測定し、結果を表2に示す。更に、上記焼成後の試料をエネルギー分散型X線分析(日立ハイテクノロジーズ株式会社製TM3030plus)で元素分析した結果を表3に示す。
【0034】
<実施例4および5>
上記実施例3の試料を、バッチ式焼成炉で900℃ではなく、1000℃(実施例4)および1100℃(実施例5)で焼成したものを、画像分光色彩計(倉敷紡績株式会社製COLOR-75)で外観色を測定し、結果を表2に示す。更に、上記焼成後の試料をエネルギー分散型X線分析(日立ハイテクノロジーズ株式会社製TM3030plus)で元素分析した結果を表3に示す。
【0035】
上記実施例5の試料を走査電子顕微鏡(SEM:日立ハイテクノロジーズ株式会社製TM3030plus)により5000倍で観察した写真を図1に示す。またその試料のX線回折装置(RIGAKU株式会社製SmartLab9kW)で測定した結果をグラフとして図3に示す。
【0036】
<比較例1>
攪拌装置、冷却管、温度計を備えたフラスコ内に水酸化アルミニウム(アルコア株式会社製)280gに35%塩酸(関東化学株式会社製)375g、70%硫酸467g及び蒸留水190gを入れ、100℃以上に加熱し水酸化アルミニウムを溶解させた。これを90℃に冷却した後、攪拌下に炭酸カルシウム(関東化学株式会社製)の50%スラリー705gを35分間で徐々に添加した。添加中及び添加後も温度は90℃を保持し続け、引き続き60分間この温度で熟成させた後、生成石膏をろ過分離 し、Al23換算Al量14.39%、Cl量10.28%、SO 2-量1.58%、Ca量1.05%なる組成で塩基度68.3%の塩基性塩化アルミニウム溶液1060gを得 た。この塩基性塩化アルミニウム溶液67.4gに室温下で硫酸アルミニウム溶液6.1gを混合し、さらに21%炭酸ナトリウム溶液15.5gを徐々に添加、攪拌して溶解した後に蒸留水11gを加えて、98gの塩基性塩化アルミニウム溶液(Al23換算Al量10.41%、Fe量12ppm、Ca量1602ppm、Mg量280ppm、Si量18.2ppm、SO 2-量2.48%、塩基度76.1%)を得た。ろ過前に脱鉄機を通していない。
【0037】
得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液の外観を目視で確認を行い、結果を表1に示す。また、得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液を30gアルミナ製るつぼに30g投入し、100℃で30分乾燥したものをバッチ式焼成炉にて1100℃で1時間焼成を行い、冷却後の試料を画像分光色彩計(倉敷紡績株式会社製COLOR-75)で外観色を測定し、結果を表2に示す。更に、上記焼成後の試料をエネルギー分散型X線分析(日立ハイテクノロジーズ株式会社製TM3030plus)で元素分析した結果を表3に示す。更にまた、上記の試料を走査電子顕微鏡(SEM:日立ハイテクノロジーズ株式会社製TM3030plus)により5000倍で観察した写真を図2に示す。
【0038】
<比較例2>
アルミン酸ナトリウム溶液(Al換算Al量19.0%、NaO換算Na量19.2%)107.4gとケイ酸ナトリウム溶液(SiO換算Si量28.0%、NaO換算Na量10.0%、Fe量50ppm、Ca量40ppm、Mg量7ppm)(富士化学株式会社製)7.0gを混合した。これに塩基性塩化アルミニウム1(Al換算Al量10.2%、塩基度52.5%、SO 2-量2.6%)230gを混合し、アルミナゲルを生成した。その後、このゲルを室温で0.25~2時間熟成し、さらに塩基性塩化アルミニウム溶液2(Al換算Al量19.0%、塩基度48.6%、SO 2-量0%)290.9g及び液体硫酸バンド(Al換算Al量8.0%、SO 2-量22.5%)5.1gを添加し溶解した。この溶液を30~50℃で90分間熟成し、塩基度71.3%の高塩基性塩化アルミニウム溶液(Al換算Al量10.2%、SO 2-0.6%、Fe量12ppm、Ca量36.5ppm、Mg量3.3ppm、Si量1011ppm)を得た。ろ過前に脱鉄機を通していない。
【0039】
得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液の外観をろ過直後と室温で2週間後を目視で確認を行い、結果を表1に示す。また、得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液を30gアルミナ製るつぼに30g投入し、100℃で30分乾燥したものをバッチ式焼成炉にて1100℃で1時間焼成を行い、冷却後の試料を画像分光色彩計(倉敷紡績株式会社製COLOR-75)で外観色を測定し、結果を表2に示す。更に、上記焼成後の試料をエネルギー分散型X線分析(日立ハイテクノロジーズ株式会社製TM3030plus)で元素分析した結果を表3に示す。更にまた、その試料のX線解説装置(RIGAKU株式会社製SmartLab9kW)で測定した結果をグラフとして図4に示す。
【0040】
<比較例3>
含鉄分の多い水酸化アルミニウム(KCコーポレーション製)と48%水酸化ナトリウム水溶液(関東化学株式会社製)から合成したアルミン酸ナトリウム溶液(Al換算Al量23.5%、NaO換算Na量18.6%)83.7gと本発明で選定した水酸化アルミニウムと本発明で選定した98%濃硫酸(三菱マテリアル株式会社製)から合成された硫酸アルミニウム溶液(Al換算Al量8.03%)43.9gと精製水284.0gを混合し、30分攪拌する。次に原料塩基性塩化アルミニウム(Al換算Al量17.8%、塩基度45.0%、SO 2-0%)を250g投入し、65℃まで昇温し、120分攪拌しながら、加温熟成した後、55℃まで10時間かけて徐冷することで高塩基性塩化アルミニウム溶液を得た。得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液は、Al換算Al量10.2%、塩基度71.3%、SO 2-1.4%、Fe量25ppm、Ca量42.3ppm、Mg量6.2ppm、Si量25.1ppmを得た。ろ過前に脱鉄機は通していない。
【0041】
<比較例4>
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社からBW103として市販)と48%水酸化ナトリウム水溶液(関東化学株式会社製)から合成したアルミン酸ナトリウム溶液(Al換算Al量23.5重量%、NaO換算Na量18.6%)83.7gと水酸化アルミニウムと98%精製濃硫酸(テイカ株式会社製)から合成された硫酸アルミニウム溶液(Al換算でAl量8.03%)43.9gと精製水284.0gを混合し、30分攪拌した。次に原料塩化アルミニウム水溶液(Al換算のAl量17.8%、塩基度45.0%、SO 2-量0%、Fe量30ppm、Ca量28ppm、Mg量6ppmおよびSi量18ppm)を250g投入し、35℃(低い反応温度)まで昇温し、120分攪拌しながら反応させたが、反応が十分進まず未溶解物が残存するため白濁液ができ、ろ過時に目詰まりを発生させるため高塩基性塩化アルミニウム溶液を得ることができなかった。
【0042】
<比較例5>
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社からBW103として市販)と48%水酸化ナトリウム水溶液(関東化学株式会社製)から合成したアルミン酸ナトリウム溶液(Al換算Al量23.5重量%、NaO換算Na量18.6%)83.7gと水酸化アルミニウムと98%精製濃硫酸(テイカ株式会社製)から合成された硫酸アルミニウム溶液(Al換算でAl量8.03%)43.9gと精製水284.0gを混合し、30分攪拌した。次に原料塩化アルミニウム水溶液(Al換算のAl量17.8%、塩基度45.0%、SO 2-量0%、Fe量30ppm、Ca量28ppm、Mg量6ppmおよびSi量18ppm)を250g投入し、65℃まで昇温し、120分攪拌しながら反応した後、30℃まで0.5時間かけて急冷すると、徐冷ではなく急冷したために未溶解物が残存し、白濁した高塩基性塩化アルミニウム溶液ができ、ろ過時に目詰まりを発生させるため高塩基性塩化アルミニウム溶液を得ることができなかった。
【0043】
<比較例6>
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社からBW103として市販)と48%水酸化ナトリウム水溶液(関東化学株式会社製)から合成したアルミン酸ナトリウム溶液(Al換算Al量23.5重量%、NaO換算Na量18.6%)83.7gと水酸化アルミニウムと98%精製濃硫酸(テイカ株式会社製)から合成された硫酸アルミニウム溶液(Al換算でAl量8.03%)43.9gと精製水284.0gを混合し、30分攪拌した。次に原料塩化アルミニウム水溶液(Al換算のAl量17.8%、塩基度45.0%、SO 2-量0%、Fe量30ppm、Ca量28ppm、Mg量6ppmおよびSi量18ppm)を250g投入し、85℃まで昇温し、360分攪拌しながら反応した後、55℃まで10時間かけて徐冷して、高塩基性塩化アルミニウム溶液を得た。高塩基性塩化アルミニウム水溶液はAl換算のAl量10.1%、塩基度71.0%、SO 2-量1.3%、Fe量6ppm、Ca量26.0ppm、Mg量6ppm、Si量14.1ppmを有した。但し、ろ過前に脱鉄機(株式会社エイシン製マグ・フィルターM)を通した。
【0044】
得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液の外観(ろ過直後および室温で2週間後)を目視で確認を行い、結果を表1に示す。また、得られた高塩基性塩化アルミニウム水溶液を30gアルミナ製るつぼに30g投入し、100℃で30分乾燥したものをバッチ式焼成炉にて1100℃で1時間焼成を行い、冷却後の試料を画像分光色彩計(倉敷紡績株式会社製COLOR-75)で外観色を測定し、結果を色座標であるL値、a値およびb値で表2に示す。更に、上記焼成後の試料をエネルギー分散型X線分析(日立ハイテクノロジーズ株式会社製TM3030plus)で元素分析した結果を表3に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】

表3中、n.d.は検出されなかったことを指し、%は全て重量%を意味する。
【0048】
表1に示すように実施例1~実施例3、比較例1~3いずれもろ過直後及び室温保管2週間後も無色透明液体であった。しかし、比較例4、比較例5は合成直後に未溶解物が析出するため、ろ過ができず高塩基性塩化アルミニウム溶液を得ることができなかった。また比較例6のろ過直後は透明な高塩基塩化アルミニウム溶液を得ることができるが、室温2週間後には白濁した液体となる不具合を発生させた。これは合成時の反応時間を長時間としたため、高塩基塩化アルミニウム溶液内で重合が開始しており、経時とともに重合物が増加し、白濁したと推定される。
【0049】
表2では、色調を色座標Lab表色系で表示している。実施例1~5はL値が高く、a、b値も3未満であるため、ほぼ明るい白色の粉体が得られていることが確認される。一方、比較例1ではb値が5.71となっており、粉体が黄色味を帯びていることが確認され、不純物の影響で黄色味を帯びていると考えられる。比較例2ではa、b値は2以下で白色の粉体が得られているが、L値が78.59と低下しており、少し灰白色粉体になっていることが確認された。これも何らかの不純物の影響により、色が少し灰白色粉体になると考えられる。比較例3は鉄の酸化物(例えば、Fe)に起因する茶点異物が点在する粉体になっていた。
【0050】
表3のX線回折結果に示すように実施例1~5に関しては、エネルギー分散型X線分析(EDX)ではAl以外のSi、Ca、Mgの元素は検出されないが、比較例1に関してはAl以外にCaが検出される。更に比較例2に関してはAl以外にSiが検出される。また比較例3においては、水酸化アルミニウム由来の不純物であるFeが検出される。即ち、実施例1~5に関しては、焼成によってアルミナができていることが確認されるが、比較例1では不純物としてCaが関連した不純物起因の結晶相があるため、表2でみられた色の変化につながっていると考えられる。また比較例2においてもSiが不純物として検出され、不純物起因の結晶相があることによって、L値が下がった灰白色の粉体が得られていると考えられる。比較例3では不純物であるFe起因の鉄の酸化物が生成したことによる茶色箇所が確認された。
【0051】
図1および図2に示すように実施例5(実施例3の高塩基性塩化アルミニウム水溶液)の1100℃焼成した粉と比較例1の1100℃で焼成した粉では、SEM画像が大きく異なる。実施例5の1100℃焼成した粉に関しては、ある程度粒成長がしている状態が見て取れるが、比較例1の1100℃焼成した粉に関しては、数μmの粒が凝集しているような状態がみられ、不純物が入っていることにより、アルミナ粉体として十分成長できずに異なる状態になっていることが確認できる。
【0052】
図3に示すように実施例3の1100℃焼成品(実施例5)については、結晶性が高いためδ-アルミナに帰属されるピークが顕著にみられ、狙いのアルミナ粉が得られていることが確認できた。更に焼成温度を高くしていくことによって、α-アルミナに相変化させていくことができると考えられる。一方で図4に示す比較例2の1100℃焼成品については、アルミナ以外の結晶相が検出され、不純物の影響によって異なる結晶相のものができており、アルミナにはならないことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明による高塩基性塩化アルミニウム溶液は、アルミナ粉体合成、アルミナコーティ
ング用途だけではなく、水中の懸濁物を取り除く水処理用途や制汗剤、化粧品原料、医薬品原料等の各種用途にも使用可能である。
【要約】
【課題】
不純物であるFe、Ca、MgおよびSiの含有量が低く、塩基度が67~85%である高塩基性塩化アルミニウム水溶液を合成することにより、焼成により着色のないアルミナ粉体を製造することができる高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造法を提供する。
【解決手段】
本発明は、水とアルミン酸ナトリウムと硫酸アルミニウム溶液とを混合した後、Alに換算してAlを15~20重量%および硫酸イオン濃度が水溶液中に0~0.2重量%含まれる塩基度40~65%の原料塩化アルミニウム水溶液を投入し、45~85℃で40~240分で反応した後、7~18時間かけて40~65℃の範囲になるように徐冷することを特徴とする、Alに換算してAlを8~13重量%を含む塩基度67~85%の高塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法を提供する。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4