(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】繊維製生地の吸水性試験方法及びその装置
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
G01N5/02 Z
(21)【出願番号】P 2021176028
(22)【出願日】2021-10-28
【審査請求日】2021-10-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】397042230
【氏名又は名称】伊澤タオル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 正司
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-503855(JP,A)
【文献】特表昭56-501022(JP,A)
【文献】特開平06-174717(JP,A)
【文献】米国特許第4357827(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 5/02
G01N 33/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維製生地の吸水性試験方法であって、
前記生地の試験検体に所定量の水滴を落とし、前記試験検体に吸収させ、
前記試験検体の上に、予め重量を測定した濾紙を置き、
底面が平らな荷重を載せて前記濾紙に吸水させ、下記の式により水の濡れ戻り率を測定することを特徴とする繊維製生地の吸水性試験方法。
W=[(B-A)/A]×100
但し、W:水の濡れ戻り率(%)
A:測定する前の濾紙の重量(g)
B:吸水後の濾紙の重量(g)
【請求項2】
前記繊維製生地は、タオルである請求項1に記載の繊維製生地の吸水性試験方法。
【請求項3】
前記繊維製生地は、非破壊試験が可能である請求項1又は2に記載の繊維製生地の吸水性試験方法。
【請求項4】
繊維製生地の吸水性試験装置であって、
前記生地の試験検体に所定量の水滴を落とす手段と、
前記試験検体の上に、予め重量を測定した濾紙を置く手段と、
底面が平らな荷重を載せ、所定時間経過後に除去する手段と、
吸水した濾紙の重量を測定する手段と、
下記の式により水の濡れ戻り率を測定する手段を含むことを特徴とする繊維製生地の吸水性試験装置。
W=[(B-A)/A]×100
但し、W:水の濡れ戻り率(%)
A:測定する前の濾紙の重量(g)
B:吸水後の濾紙の重量(g)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製生地の吸水性試験方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、繊維製生地の水分ふき取り評価方法(吸水性試験方法)として、JIS L 1907に規定されているラローズ法が一般的に使用されている。このラローズ法は、直径60mmの繊維製試料を試料ホルダー480gの下に置き、その下にポリエチレンテレフタレート製のドーナツ板を介してガラスろ過板が配置されている。ドーナツ板の中央には内径20mmの孔が開いている。ガラスろ過板の下には水が入れられており、水はガラスろ過板を通過して繊維製試料内に吸収され、拡散される。この時の吸水量を時間経過で測定し、最大吸収速度、最大吸収速度時点の吸水量、吸水指数を算出することができる。
他の吸水性試験方法として、特許文献1にはプラスチック板上に水を滴下し、その上から試料を載せ、荷重をかけて吸水させ、試料を取り除き、プラスチック板上の残水量を測定し、その後吸水させた試料を濾紙の上に載せ、荷重をかけ、放置後試料の重量を求めて濡れ戻り率を測定することが提案されている。特許文献2には試料を蒸留水に浸漬した後に濡れ戻り率を測定することが提案されている。特許文献3にはアクリル板上に1ccの水を水玉上に載せ、試料を載せ、濾紙を載せて濡れ戻り率を測定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平04-041751号公報
【文献】特開2000-178877号公報
【文献】特開2011-026727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記ラローズ法及び各特許文献に記載されている濡れ戻り率は、タオルなどの繊維製生地の使用時に、人が感じる吸水性の良し悪しの評価と一致しないことがあるという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、タオルなどの繊維製生地の使用時に人が感じる吸水性の良し悪しの評価と合致する、より適正な繊維製生地の吸水性試験方法及びその装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維製生地の吸水性試験方法は、生地の試験検体に所定量の水滴を落とし、前記試験検体に吸収させ、前記試験検体の上に、予め重量を測定した濾紙を置き、底面が平らな荷重を載せて前記濾紙に吸水させ、下記の式により水の濡れ戻り率を測定することを特徴とする。
W=[(B-A)/A]×100
但し、W:水の濡れ戻り率(%)
A:測定する前の濾紙の重量(g)
B:吸水後の濾紙の重量(g)
【0007】
本発明の繊維製生地の吸水性試験装置は、繊維製生地の吸水性試験装置であって、前記生地の試験検体に所定量の水滴を落とす手段と、前記試験検体の上に、予め重量を測定した濾紙を置く手段と、底面が平らな荷重を載せ、所定時間経過後に除去する手段と、吸水した濾紙の重量を測定する手段と、下記の式により水の濡れ戻り率を測定する手段を含むことを特徴とする。
W=[(B-A)/A]×100
但し、W:水の濡れ戻り率(%)
A:測定する前の濾紙の重量(g)
B:吸水後の濾紙の重量(g)
【発明の効果】
【0008】
本発明の繊維製生地の吸水性試験方法及びその装置は、生地の試験検体に水滴を落とし吸収させ、濾紙で水分を吸い取り、生地が水分を離さない特性、すなわち水の濡れ戻り率として評価することにより、タオルなどの繊維製生地の使用時に人が感じる吸水性の良し悪しの評価と合致する。また、測定操作が簡潔であり、かつ複雑な操作を伴わないことから正確な測定ができる。前記水の濡れ戻り率は低いほど、生地の吸水性は大きく、優れていると評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は本発明の一実施形態における繊維製生地の吸水性試験方法の模式的説明図である。
【
図4】
図4は同、繊維製タオル生地の模式的説明図である。
【
図5】
図5は同、繊維製タオル生地の織物組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の繊維製生地の吸水性試験方法は、生地の試験検体に所定量の水滴を落とし、試験検体に吸収させ、試験検体の上に予め重量を測定した濾紙を置き、底面が平らな荷重を載せて前記濾紙に吸水させ、下記の式により水の濡れ戻り率を測定する。
W=[(B-A)/A]×100
但し、W:水の濡れ戻り率(%)
A:測定する前の濾紙の重量(g)
B:吸水後の濾紙の重量(g)
【0011】
前記所定量の水滴は、試験検体に対して0.2~2.5ml程度滴下するのが好ましく、より好ましくは0.4~2.0mlであり、さらに好ましくは0.6~1.5mlである。一例として繊維製タオル生地の場合、試験検体に対して0.8mlとする。
前記荷重は一例として1.3kg(1274Pa)とする。また、前記水滴を試験検体に吸収させる時間は、一例として5秒であり、前記濾紙に吸水させる時間は5秒であるのが好ましい。
【0012】
前記水の濡れ戻り率は、繊維製タオル生地の場合、一例として22%超を不合格、22%以下を合格、17.5%以下を優と判定するのが好ましい。より具体的には、17.5%を超え18%以下は良、18%を超え22%以下は可と判定するのが好ましい。本発明の水の濡れ戻り率は、繊維製タオル生地の単位面積当たりの重量(目付)によっても影響され、目付は320g/m2以上が好ましく、より好ましくは400g/m2以上であり、さらに好ましくは440g/m2以上であり、特に好ましくは460g/m2以上である。上限は800g/m2以下が好ましい。
【0013】
前記濾紙はJIS P 3801 1種規格のαセルロースを原料とする直径110mm、厚さ0.22mmを使用するのが好ましい。この濾紙は、化学分析用濾紙である。
【0014】
前記繊維製生地は、タオル、ハンカチ、手ぬぐい、布巾などの繊維製生地に適用できる。この中でもタオルに適用するのが好ましい。タオルは織物、編み物を問わず適用できる。以下は織物製タオルの例に挙げて説明する。
【0015】
前記繊維製生地は非破壊試験が可能である。すなわち、生地の試験検体は、タオルの場合、タオルをそのままで試験が可能である。もちろん、所定の大きさにカットして試験することもできる。試験検体の大きさは無関係である。
【0016】
本発明の繊維製生地の吸水性試験装置は、前記生地の試験検体に所定量の水滴を落とす手段と、前記試験検体の上に予め重量を測定した濾紙を置く手段と、底面が平らな荷重を載せ所定時間経過後に除去する手段と、吸水した濾紙の重量を測定する手段は、ロボットアームなどを用いて機械化する。水の濡れ戻り率の算出は、パソコンを使用する。
【0017】
本発明の測定方法及び装置と、従来試験のラローズ法とバイレック法との比較をまとめると下記のようになる。
(1)本発明の測定方法は、機材や機器、装置が不要である。標準環境下であれば実施場所を問わず、簡単に行え、複雑な手間や準備が不要である。
(2)本発明の測定方法は、短時間で簡単に行える。
(3)ラローズ法ではガラスろ過版の目詰まりで、数値のブレがある。本発明の測定方法は、装置によるブレが最小限である。
(4)ラローズ法では定期的なガラスろ過版交換が必要である。本発明の測定方法は、付帯部品等が不要である。本発明の測定方法は、規定荷重、0.8mlを測るスポイトとろ紙、分析天秤で済む。スポイトは例えば容量範囲0.25-2.5mlのピペットを使用できる(エッペンドルフ株式会社 型番4920000091)。天秤は例えば最小表示0.1mgの分析天秤を使用できる(株式会社島津製作所 形名AP324W)。
(5)検体が縦10cm×横10cm以上あれば、試験片の切り出しが不要であり、捨てる部分が無いまま、非破壊試験が行える。従来試験は試験片を切り出す必要があった。
(6)本発明の測定方法は、手軽、且つ早期に試験結果を得ることができる。
【0018】
以下図面を用いて説明する。以下の図面において、同一符号は同一物を示す。
図1は本発明の一実施形態における繊維製生地の吸水性試験方法の模式的説明図である。
図2は同、試験方法の模式的断面図である。
図3は同、吸水した濾紙の平面写真である。繊維製生地の試験検体1の上にピペットから0.8mlの水滴2を落とし、試験検体1に吸収させる。繊維製生地の試験検体1の上に濾紙3を載せる。その上から底面が平らな荷重4を載せ、5秒待機後荷重4を外し、濾紙3の重量を測定する。5は試験検体1に吸収させた水分、6は濾紙に移った水分である。
【0019】
図4は本発明の一実施形態のタオル生地10の模式的説明図である。このタオル生地10は、経パイル糸7a,7bと、緯地糸8と、経地糸9a,9bで構成され、経パイル糸7a,7bは、緯地糸8と経地糸9a,9bで構成される地組織に固定されながらループパイルを形成する。得られたタオル生地10は、所定の大きさに切断され、端部処理されてタオルとなる。
【0020】
図5は本発明の一実施形態のタオル生地の織物組織図である。この織物組織は、3本よこタオル組織(3ピック・テリー・モーション組織)である。経パイル糸は緯地糸を3本打ち込むごとに1回交差させる。経地糸Gと経パイル糸Pは交互に配置する。緯糸の1~3は順番を示す。
図5において、黒と×は浮き糸を示し、白は沈み糸を示す。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を用いてさらに具体的に説明する。本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
本発明の実施例、比較例における測定方法はJIS又は業界規格にしたがって測定した。
<吸水性試験方法>
下記の実施例及び比較例の吸水性試験方法は次のとおりである。
(1)試験環境、その他の条件
・試験環境は標準状態環境下、温度20±4℃、相対湿度65±4%RHとした。
・濾紙は標準状態環境下、温度20±4℃、相対湿度65±4%RHで24時間以上保管したものを使用した。
・試験検体は標準状態環境下、温度20±4℃、相対湿度65±4%RHで24時間以上保管したものを使用した。
・滴下する水は温度20±15℃、(5~35℃)を使用した。
(2)操作手順
・繊維製タオル生地の試験検体1の大きさは縦10cm、横10cmとした。試験検体1は試料台(図示省略)に置いた。
・濾紙はJIS P 3801 1種規格のαセルロースを原料とする直径110mm、厚さ0.22mmを使用し、濾紙の重量を計った。濾紙はアドバンテック社製、商品名"円形定性濾紙No.1"を使用した。
・ピペットに水量0.8mlを計り、試験検体1に落とし、5秒待機して試験検体1に吸水させた。
・濾紙を置いて、その上から1.3kg(1274Pa)の荷重4を載せた。
・5秒待機して荷重4を外した。
・吸水後の濾紙の重量を計った。
(3)水の濡れ戻り率の算出
下記の式により算出した。
W=[(B-A)/A]×100
但し、W:水の濡れ戻り率(%)
A:測定する前の濾紙の重量(g)
B:吸水後の濾紙の重量(g)
<濡れ戻り感の試験方法>
被験者3名がそれぞれシャワーを使い、身体を濡らし、タオルを用いて身体に付着した水分を拭いた際に感じる濡れ戻り感を官能検査により調べた。評価は次のとおりとした。
A:優れる
B:良い
C:合格ではあるが可
D:不可(不合格)
【0022】
(実施例1)
コットン100%のリング紡績糸を使用し、
図4及び
図5に示す織物生地のタオル(目付500g/m
2、パイル長さ1.18cm)を使用して吸水性試験を行い、水の濡れ戻り率を算出した。また、このタオルを用いて身体に付着した水分を拭いた際に感じる濡れ戻り感を官能検査により調べた。
【0023】
(実施例2)
コットン100%のリング紡績糸を使用し、
図4及び
図5に示す織物生地のタオル(目付466g/m
2、パイル長さ1.03cm)を使用して吸水性試験を行い、水の濡れ戻り率を算出した。また、このタオルを用いて身体に付着した水分を拭いた際に感じる濡れ戻り感を官能検査により調べた。
【0024】
(実施例3)
コットン100%のリング紡績糸を使用し、
図4及び
図5に示す織物生地のタオル(目付445g/m
2、パイル長さ0.75cm)を使用して吸水性試験を行い、水の濡れ戻り率を算出した。また、このタオルを用いて身体に付着した水分を拭いた際に感じる濡れ戻り感を官能検査により調べた。
【0025】
(実施例4)
コットン100%のリング紡績糸を使用し、
図4及び
図5に示す織物生地のタオル(目付323g/m
2、パイル長さ1.18cm)を使用して吸水性試験を行い、水の濡れ戻り率を算出した。また、このタオルを用いて身体に付着した水分を拭いた際に感じる濡れ戻り感を官能検査により調べた。
【0026】
(実施例5)
コットン100%のリング紡績糸を使用し、
図4及び
図5に示す織物生地のタオル(目付269g/m
2、パイル長さ0.69cm)を使用して吸水性試験を行い、水の濡れ戻り率を算出した。また、このタオルを用いて身体に付着した水分を拭いた際に感じる濡れ戻り感を官能検査により調べた。
以上の結果を表1にまとめて示す。
【0027】
【0028】
以上の結果から、濡れ戻り率と官能評価には相関があり、タオル使用時に人が感じる吸水性の良し悪しの評価と合致することが確認できた。また、測定操作が簡潔であり、かつ複雑な操作を伴わないことから正確な測定ができることも確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の吸水性試験方法は、バスタオル、フェイスタオル、タオルハンカチ、スポーツタオル、バスローブ、タオルケットなどのタオル生地、ハンカチ、手ぬぐい、布巾などの繊維製生地にも適用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 繊維製生地の試験検体
2 水滴
3 濾紙
4 荷重
5 試験検体に吸収させた水分
6 濾紙に移った水分
7a,7b 経パイル糸
8 緯地糸
9a,9b 経地糸
10 タオル生地
【要約】
【課題】タオルなどの繊維製生地の使用時に人が感じる吸水性の良し悪しの評価と合致する、より適正な繊維製生地の吸水性試験方法及びその装置を提供する。
【解決手段】本発明の繊維製生地の吸水性試験方法は、生地の試験検体に所定量の水滴を落とし、前記試験検体に吸収させ、前記試験検体の上に、予め重量を測定した濾紙を置き、底面が平らな荷重を載せて前記濾紙に吸水させ、下記の式により水の濡れ戻り率を測定する。
W=[(B-A)/A]×100
但し、W:水の濡れ戻り率(%)。A:測定する前の濾紙の重量(g)。B:吸水後の濾紙の重量(g)。
【選択図】
図1