(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】鉄道車両の車体支持装置
(51)【国際特許分類】
B61F 5/18 20060101AFI20220104BHJP
B61F 5/10 20060101ALI20220104BHJP
B61F 5/14 20060101ALI20220104BHJP
B61F 5/16 20060101ALI20220104BHJP
B61F 5/22 20060101ALI20220104BHJP
B61F 5/24 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
B61F5/18
B61F5/10 C
B61F5/14
B61F5/16
B61F5/22
B61F5/24 F
(21)【出願番号】P 2017240700
(22)【出願日】2017-12-15
【審査請求日】2020-10-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】新村 浩
(72)【発明者】
【氏名】三原 丈和
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-121965(JP,A)
【文献】特開2006-151078(JP,A)
【文献】実開昭63-006971(JP,U)
【文献】米国特許第04526109(US,A)
【文献】特開2016-222237(JP,A)
【文献】特開2008-100614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/18
B61F 5/10
B61F 5/14
B61F 5/16
B61F 5/22
B61F 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を有する台車と、該台車に設けられる空気ばねと、該空気ばねを介して前記台車に支持される車体と、該車体に設けられ下方に突出する中心ピンと、前記台車に設けられ前記中心ピンの車体左右方向の両側にそれぞれ配置される一対の左右動ストッパとを備え、前記中心ピンと前記左右動ストッパとが当接することにより、前記車体の左右方向の移動を一定の範囲に規制し、前記左右動ストッパは、前記台車に設けられ上方に突出するブラケットと、該ブラケットに取り付けられ、前記中心ピンに当接可能なストッパゴムとを有し、該ストッパゴムが前記空気ばね上面より高い位置あるいは前記空気ばね上面と同一高さの位置にある鉄道車両の車体支持装置において、前記ストッパゴムは、前記中心ピンに当接可能な当接面を有し、該当接面は、前記空気ばねを給気又は排気して前記空気ばねの高さを変えることにより前記車体を左右方向に傾斜した状態で
想定される傾斜角度における前記中心ピンと前記当接面との隙間の変化量を最小限にできる位置であって、前記車体の傾斜中心より高い位置にあることを特徴とする鉄道車両の車体支持装置。
【請求項2】
車輪を有する台車と、該台車に設けられる空気ばねと、該空気ばねを介して前記台車に支持される車体と、該車体に設けられ下方に突出する中心ピンと、前記台車に設けられ前記中心ピンの車体左右方向の両側にそれぞれ配置される一対の左右動ストッパとを備え、前記中心ピンと前記左右動ストッパとが当接することにより、前記車体の左右方向の移動を一定の範囲に規制し、前記左右動ストッパは、前記台車に設けられ上方に突出するブラケットと、該ブラケットに取り付けられ、前記中心ピンに当接可能なストッパゴムとを有し、該ストッパゴムが前記空気ばね上面より高い位置あるいは前記空気ばね上面と同一高さの位置にある鉄道車両の車体支持装置において、前記ストッパゴムは、前記中心ピンに当接可能な当接面を有し、該当接面は、
傾斜走行時の前記車体に加わる定常的な外力と前記空気ばねの左右剛性の釣合における前記中心ピンと前記当接面との隙間の変化量を最小限にできる位置であって、前記車体の傾斜中心より高い位置にあることを特徴とする鉄道車両の車体支持装置。
【請求項3】
前記ブラケットは、上部を開口した断面コ字状に形成され、前記ストッパゴムを取り付ける取付板を有し、
前記ストッパゴムと前記取付板との間にスペーサが挿入されていることを特徴とする請求項1又は2記載の鉄道車両の車体支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両の車体支持装置に関し、詳しくは、鉄道車両の車体と台車との間に介設され、ストッパ作用により車体の左右動を規制する左右動ストッパを備えた鉄道車両の車体支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両は、一般に、台車上に備えた空気ばねの変形による車体の最大左右変位を規制するため、車体と台車との間に左右動ストッパを設けており、曲線区間の走行や空気ばねのパンクなどによって車体が台車に対して大きく変位した場合であっても、車両限界を超えて建造物などに干渉することを防止している。このような左右動ストッパは、台車枠に設けた左右一対の補強梁に取り付けられるストッパを車体側下面に突出する中心ピンを挟むように一定間隔あけて配置したもので、車体が左右方向に移動すると、中心ピンがストッパに当接することになり、車体の左右方向への変位が一定の範囲に規制されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一方、列車の高速化に伴い、曲線区間における乗り心地を悪化させずにより高速に走行させる技術として車体傾斜が知られている。この車体傾斜の方式の一つとしては、曲線区間走行時に外側の空気ばねに供給される空気量を増やして空気ばねを膨張させ、車体を意図的に内側に傾斜させる空気ばね傾斜式がある(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような空気ばね傾斜式の鉄道車両は、車体傾斜に伴って中心ピンの下部が外側に振られるため、中心ピンとストッパとの隙間(ストッパ隙間)が一時的に小さくなり、中心ピンが不必要にストッパに当接して乗り心地を悪化させるおそれがあった。一方、あらかじめストッパ隙間を大きく設定しておくことも考えられるが、車体の最大許容変位が制限されているため、適正なストッパ隙間を確保するには限界があった。
【0006】
そこで本発明は、曲線区間走行時の乗り心地に悪影響を及ぼすことなく、車体の最大左右変位を規制可能な鉄道車両の車体支持装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の鉄道車両の第1の車体支持装置は、車輪を有する台車と、該台車に設けられる空気ばねと、該空気ばねを介して前記台車に支持される車体と、該車体に設けられ下方に突出する中心ピンと、前記台車に設けられ前記中心ピンの車体左右方向の両側にそれぞれ配置される一対の左右動ストッパとを備え、前記中心ピンと前記左右動ストッパとが当接することにより、前記車体の左右方向の移動を一定の範囲に規制し、前記左右動ストッパは、前記台車に設けられ上方に突出するブラケットと、該ブラケットに取り付けられ、前記中心ピンに当接可能なストッパゴムとを有し、該ストッパゴムが前記空気ばね上面より高い位置あるいは前記空気ばね上面と同一高さの位置にある鉄道車両の車体支持装置において、前記ストッパゴムは、前記中心ピンに当接可能な当接面を有し、該当接面は、前記空気ばねを給気又は排気して前記空気ばねの高さを変えることにより前記車体を左右方向に傾斜した状態で想定される傾斜角度における前記中心ピンと前記当接面との隙間の変化量を最小限にできる位置であって、前記車体の傾斜中心より高い位置にあることを特徴としている。
【0009】
また、本発明の鉄道車両の第2の車体支持装置は、車輪を有する台車と、該台車に設けられる空気ばねと、該空気ばねを介して前記台車に支持される車体と、該車体に設けられ下方に突出する中心ピンと、前記台車に設けられ前記中心ピンの車体左右方向の両側にそれぞれ配置される一対の左右動ストッパとを備え、前記中心ピンと前記左右動ストッパとが当接することにより、前記車体の左右方向の移動を一定の範囲に規制し、前記左右動ストッパは、前記台車に設けられ上方に突出するブラケットと、該ブラケットに取り付けられ、前記中心ピンに当接可能なストッパゴムとを有し、該ストッパゴムが前記空気ばね上面より高い位置あるいは前記空気ばね上面と同一高さの位置にある鉄道車両の車体支持装置において、前記ストッパゴムは、前記中心ピンに当接可能な当接面を有し、該当接面は、傾斜走行時の前記車体に加わる定常的な外力と前記空気ばねの左右剛性の釣合における前記中心ピンと前記当接面との隙間の変化量を最小限にできる位置であって、前記車体の傾斜中心より高い位置にあることを特徴としている。さらに、前記ブラケットは、上部を開口した断面コ字状に形成され、前記ストッパゴムを取り付ける取付板を有し、前記ストッパゴムと前記取付板との間にスペーサが挿入されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ストッパゴムが空気ばね上面より高い位置あるいは同一高さの位置にあるので、車体傾斜時に車体の傾斜中心とストッパゴムの取付け位置とを高さ方向に一致させ、想定される傾斜角度におけるストッパ隙間の変化を最小限に抑えることが可能となり、中心ピンが不必要にストッパに当接して乗り心地を悪化させるおそれがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の鉄道車両の車体支持装置の一形態例を示す平面図である。
【
図3】同じく車体を傾斜させた状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、
図1乃至
図3は、本発明の鉄道車両の車体支持装置の一形態例を示すもので、本形態例に示す車体支持装置11は、
図1及び
図2に示すように、台車枠12に取り付けられた空気ばね13を介して車体14を支持する、いわゆるボルスタレス台車を備えた鉄道車両における車体14と台車枠12との間に設けられた左右動ストッパ15のストッパ作用により、車体14の最大左右変位を規制するためのものである。
【0013】
台車枠12は、レール方向に沿った一対の平行な側梁12a,12aと、側梁12a,12aを結ぶ枕木方向に沿った一対の横梁12b,12bと、横梁12b,12bを繋ぐ一対の補強梁12c,12cとを備えている。また、台車枠12の前後内側には、輪軸(図示せず)の両端部に直結された一対の車輪16,16が収容されている。さらに、横梁12b,12bの間で側梁12a,12aの外側に一対の空気ばね13,13が設けられ、台車枠12の中央に牽引装置17が設けられている。
【0014】
空気ばね13は、車体14下面に設けられる上側部材18と、台車枠12上面に設けられる下側部材19と、上側部材18及び下側部材19に上下端をそれぞれ止着された筒状のダイヤフラム20とを備えている。
【0015】
上側部材18は、円板状に形成されるとともに、上面側中央部に、車体14の下面に設けた支持孔14aに内嵌される空気孔を有した支持突起18aが設けられている。また、上側部材18の下面側中央部には、ダイヤフラム20内の空気を排出した際に下側部材19の上部に設けられた下側当接部19aに当接して車体を支える上側当接部18bが設けられている。
【0016】
ダイヤフラム20は、ゴム製筒体を繊維で補強した可撓性を有する筒状体であり、その上下端を上側部材18及び下側部材19にそれぞれ止着され、車体の上下動に対して所定のばね特性を発揮しつつ、上側部材18が取り付けられた車体を弾性的に支持している。
【0017】
下側部材19は、台車枠12上面に載置される積層ゴム(図示せず)と、積層ゴムの上端に接着されたリング状の支持板(図示せず)と、支持板の上面に設けられた下側当接部19aとからなり、下側当接部19aの外周面にダイヤフラム20の下端が止着されている。
【0018】
このように構成された空気ばね13は、直線区間の走行時には、左右の空気ばね13における上側当接部18bと下側当接部19aとの間に設けられた離間部21の高さ寸法を均等に保ち、車両が曲線区間に進入するときには、外側の空気ばね13(
図3左側)に供給される空気量を増やしてダイヤフラム20を膨張させ、つまり離間部21の高さ寸法を大きくさせて車体を意図的に内側に傾斜させることが可能となっている。
【0019】
牽引装置17は、いわゆる一本リンク式であり、牽引リンク22と中心ピン23とを備えており、台車枠12の補強梁12c,12cの内側で横梁12b,12bの間に配置され、台車枠12と車体14とを牽引リンク22を介して連結することにより、台車枠12と車体14との前後方向位置を保ちつつ、牽引力及びブレーキ力を伝達するものである。
【0020】
中心ピン23は、車体14下面に設けられ鉛直下方に突出する柱状部材であり、上部左右両側に左右動ストッパ15が当接可能なストッパ板23a,23aと、下端部に牽引リンク22を跨ぐ二股部23b,23bとを有している。牽引リンク22は、前後方向に延びるリンク22aの両端部にゴム製のブッシュ24を介して心棒25がそれぞれ挿通されるとともに、中心ピン23側の心棒25が二股部23bにボルト26で固着され、台車枠12側の心棒25が横梁12bに設けられた二股部(図示せず)に同様にして固着されることにより、中心ピン23が牽引リンク22を介して台車枠12に連結されている。
【0021】
左右動ストッパ15は、補強梁12c,12cに立設され、中心ピン23を左右両側から挟むように一定間隔あけて配置した一対のブラケット27,27と、ブラケット27の上部に取り付けられ、ストッパ板23aに当接可能なストッパゴム28とを備えている。
【0022】
ブラケット27は、上部を断面コ字状に開口するとともに、ストッパゴム28が螺着される取付板27aを有する柱状部材であり、取付板27aを空気ばね13の上側部材18と略同一高さに位置するように補強梁12c上面から上方に突出するとともに、上側当接部18bと下側当接部19aとが当接しても、ブラケット27と車体14とが干渉しない高さに形成されている。
【0023】
ストッパゴム28は、緩衝性を有するゴムなどの弾性材料からなり、取付板27aの外形に対応させた上下方向に縦長の矩形ブロック状に形成されている。また、取付板27aに取り付けられる面と反対側の面には、上下両端部及び左右両端部に面取りを施すことにより中間部に略矩形状の当接面28aが形成されている。このように、ストッパゴム28をブラケット27に取り付けた状態で、当接面28aがストッパ板23aの板面に対して略平行に配置されるとともに、当接面28a下端が空気ばね13の下側当接部19a上面よりやや高い位置、言い換えると離間部21の中心21aの高さ位置に配置されている。
【0024】
このように構成された左右動ストッパ15は、車体14が台車枠12に対して左右方向に変位していない中立状態において、ストッパ板23aと当接面28aとの間に所定のストッパ隙間29が設けられ、取付板27aとストッパゴム28との間にスペーサ30を挿入することにより、左右のストッパ隙間29が均等(例えば、28.5mm)になるように調整されている。また、曲線区間走行時に、車体に大きな遠心力が作用して中心ピン23の位置が車体外方に移動すると、中心ピン23がストッパゴム28に当接することになり、ストッパゴム28のたわみを考慮しても、車体14の左右方向への変位が一定量(例えば、45mm)を超えないように規制されている。
【0025】
このような車体支持装置を備えた空気ばね傾斜式の鉄道車両は、車両が曲線区間に進入するときには、曲線の外側の空気ばね13に供給される空気量を増やしてダイヤフラム20を膨張させ、車体14を意図的に内側に傾斜させる車体傾斜を実行する。
【0026】
車体傾斜が実行されると、
図3に示すように、外側(左側)の空気ばね13のダイヤフラム20が支持突起18aの空気孔を通じて供給された圧縮空気により膨張し、車体14が、内側(右側)の空気ばね13における離間部21の中心21aを傾斜中心として所定角度(例えば2度)上向きに傾斜する。このとき、中心ピン23の下部が外側(左側)に振られてもストッパ隙間29が大きく減少することはなく、中立状態と同程度の隙間(例えば、29mm)をあけて車体14を支持している。
【0027】
このように、ストッパゴム28が空気ばね13上面より高い位置あるいは同一高さの位置にあるので、車体傾斜時に車体14の傾斜中心とストッパゴム28の取付け位置とを高さ方向に一致させ、想定される傾斜角度におけるストッパ隙間29の変化を最小限に抑えることが可能となり、中心ピン23が不必要にストッパゴム28に当接して乗り心地を悪化させるおそれがなくなる。
【0028】
なお、本形態例では、ストッパゴムの中心を空気ばね上面、つまり上側部材上面と同一高さ位置に構成しているが、上側部材より高い位置に構成してもよい。また、適用する台車はボルスタレス台車に限定されず、ボルスタ付き台車であってもよい。この場合、車体とボルスタとの間に空気ばね及び左右動ストッパが介設される。さらに、ストッパゴムの形状も任意であり、牽引装置も一本リンク式に限定されず、Zリンク式などの各種方式を適用することができる。また、車体傾斜は、片側の空気ばねの空気量を増減させて行うだけでなく、左右の空気ばねを同時に増減させて行ってもよい。
【符号の説明】
【0029】
11…車体支持装置、12…台車枠、12a…側梁、12b…横梁、12c…補強梁、13…空気ばね、14…車体、14a…支持孔、15…左右動ストッパ、16…車輪、17…牽引装置、18…上側部材、18a…支持突起、18b…上側当接部、19…下側部材、19a…下側当接部、20…ダイヤフラム、21…離間部、21a…中心、22…牽引リンク、22a…リンク、23…中心ピン、23a…ストッパ板、23b…二股部、24…ブッシュ、25…心棒、26…ボルト、27…ブラケット、27a…取付板、28…ストッパゴム、28a…当接面、29…ストッパ隙間、30…スペーサ