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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】振動発電装置
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/18 20060101AFI20220104BHJP
【FI】
H02N2/18
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018559098
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2017045635
(87)【国際公開番号】W WO2018123749
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2016254319
(32)【優先日】2016-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222048
【氏名又は名称】東北特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】田山 厳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武信
(72)【発明者】
【氏名】江幡 貴司
(72)【発明者】
【氏名】成田 史生
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-142405(JP,A)
【文献】特開2014-18006(JP,A)
【文献】特開2015-220774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/00- 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長く、一端側が振動体に取り付けられた磁歪材料を有し、前記振動体の振動で前記磁歪材料が振動することにより、前記磁歪材料の逆磁歪効果で発電するよう構成されており、
前記磁歪材料は、長さ方向に対して垂直な断面形状が、前記振動体の振動による自身の振動方向に沿った直線に対して非対称形状を成していることを
特徴とする振動発電装置。
【請求項2】
前記振動体に取り付けた状態で、前記磁歪材料をその長さ方向に沿った軸を中心として回転可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載の振動発電装置。
【請求項3】
前記磁歪材料は、長さ方向に対して垂直な断面で、最大幅と最大厚みとが異なる断面形状を有し、前記最大幅の方向および前記最大厚みの方向が前記振動方向に対して傾斜していることを特徴とする請求項1または2記載の振動発電装置。
【請求項4】
前記振動体に取り付けた状態で、前記磁歪材料の前記最大幅の方向および/または前記最大厚みの方向と、前記振動方向との成す角度を変更可能であることを特徴とする請求項3記載の振動発電装置。
【請求項5】
前記振動体に取り付けた状態で、前記磁歪材料の前記最大幅と前記最大厚みの比率を変更可能であることを特徴とする請求項3または4記載の振動発電装置。
【請求項6】
前記磁歪材料は、前記最大幅をb、前記最大厚みをhとすると、b/hの値が2.5~5.0であることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の振動発電装置。
【請求項7】
前記磁歪材料は、長さ方向に沿って前記断面形状が変化する形状を成していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の振動発電装置。
【請求項8】
前記磁歪材料は、Fe-Co系合金から成ることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の振動発電装置。
【請求項9】
前記磁歪材料に代えて、磁歪材料と軟磁性材料とを接合した複合材料を用いて構成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の振動発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、できるだけ広い周波数範囲の振動から電気エネルギーを得るために、複数の共振周波数で振動して発電する振動発電装置が開発されている。このような装置のうち、磁歪材料を用いたものとして、例えば、磁歪材料で構成された磁歪棒にコイル15を巻いて形成された発電素子と、発電素子の一端に設けられた弾性棒と、弾性棒に設けられた複数の錘とを備え、発電素子の他端が固定され、複数の共振周波数で振動することにより発電する発電装置(例えば、特許文献1参照)や、振動系が振動伝達方向で直列的に配される複数の部分振動系を備えていると共に、少なくとも一つの部分振動系が磁歪材料を有する発電素子を備えた発電振動系であり、各部分振動系の共振周波数が異なる周波数に設定されている磁歪式振動発電装置(例えば、特許文献2参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-18006号公報
【文献】特開2015-6064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の発電装置では、複数の共振周波数に対応して、複数の錘や複数の部分振動系を備える必要があり、構造が複雑になってしまうという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、より簡単な構造で、複数の共振周波数で振動して発電することができる振動発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る振動発電装置は、細長く、一端側が振動体に取り付けられた磁歪材料を有し、前記振動体の振動で前記磁歪材料が振動することにより、前記磁歪材料の逆磁歪効果で発電するよう構成されており、前記磁歪材料は、長さ方向に対して垂直な断面形状が、前記振動体の振動による自身の振動方向に沿った直線に対して非対称形状を成していることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る振動発電装置は、磁歪材料の長さ方向に対して垂直な断面形状が、振動体の振動による自身の振動方向に沿った直線に対して非対称形状を成しているため、その断面形状に応じて複数の共振周波数で振動して発電することができる。例えば、磁歪材料が、その長さ方向に対して垂直な断面で、最大幅と最大厚みとが異なる断面形状を有し、その最大幅の方向およびその最大厚みの方向が自身の振動方向に対して傾斜していることにより、その最大幅の方向での振動、および、その最大厚みの方向での振動の2つの異なる共振周波数で振動して発電することができる。このように、本発明に係る振動発電装置は、断面形状および振動体の振動方向に対する角度を工夫するだけのより簡単な構造で、複数の共振周波数で振動して発電することができる。
【0008】
本発明に係る振動発電装置では、磁歪材料の長さ方向に対して垂直な断面形状が、磁歪材料の振動方向に沿った直線に対して非対称形状を成すのは、磁歪材料の長さ方向に沿った一部の区間だけでもよく、磁歪材料の長さ全体であってもよい。また、本発明に係る振動発電装置は、一方の端部12aが振動体に固定された細長い梁部材を有し、磁歪材料が、その梁部材の長さ方向に沿った一部を成していてもよく、梁部材が磁歪材料のみから成っていてもよい。また、本発明に係る振動発電装置は、磁歪材料の振幅を大きくするために、磁歪材料の他端側に錘が取り付けられていてもよい。
【0009】
本発明に係る振動発電装置で、磁歪材料は、長さ方向に対して垂直な断面形状が、自身の振動方向に沿った直線に対して非対称形状を成していれば、いかなる形状であってもよく、例えば、不定形であっても、筒形状であってもよい。また、振動体は、振動するものであればいかなるものであってもよいが、効率良く発電を行うために、振動方向や振動周波数などがほぼ一定であるものが好ましい。振動体は、例えば、ポンプやモーターなどの産業用機械などであることが好ましい。
【0010】
本発明に係る振動発電装置は、前記振動体に取り付けた状態で、前記磁歪材料をその長さ方向に沿った軸を中心として回転可能に構成されていてもよい。この場合、磁歪材料の長さ方向に対して垂直な断面形状の角度を、振動方向に対して変えることができるため、各共振周波数での振動の大きさを変化させることができる。このため、振動体の振動周波数などに応じて、磁歪材料を回転させることにより、効率良く発電を行うことができる。
【0011】
本発明に係る振動発電装置は、磁歪材料が最大幅と最大厚みとが異なる断面形状を有するとき、前記振動体に取り付けた状態で、前記磁歪材料の前記最大幅の方向および/または前記最大厚みの方向と、前記振動方向との成す角度を変更可能であってもよい。この場合、その角度により、各共振周波数での振動の大きさを変化させて、発電量を調整することができる。また、本発明に係る振動発電装置は、前記振動体に取り付けた状態で、前記磁歪材料の前記最大幅と前記最大厚みの比率を変更可能であってもよい。この場合、その比率により、各共振周波数を変化させることができる。このため、振動体の振動周波数などに応じて、磁歪材料の角度や、最大幅と最大厚みの比率を変化させることにより、効率良く発電を行うことができる。
【0012】
本発明に係る振動発電装置は、磁歪材料が最大幅と最大厚みとが異なる断面形状を有するとき、前記磁歪材料は、前記最大幅をb、前記最大厚みをhとすると、b/hの値が2.5~5.0であることが好ましい。この場合、各共振周波数の差が大きくなるため、より広い周波数範囲の振動から発電を行うことができ、発電効率を高めることができる。
【0013】
本発明に係る振動発電装置で、前記磁歪材料は、長さ方向に沿って前記断面形状が変化する形状を成していてもよい。この場合、磁歪材料の形状により、振動するときの磁歪材料の変形形状や振幅などを調整することができる。このため、例えば、磁歪材料の一部を細くして、振動時にその部分に応力集中しやすくすることにより、発電効率を高めることができる。
【0014】
本発明に係る振動発電装置で、前記磁歪材料は、Fe-Co系合金から成ることが好ましい。この場合、比較的安価なFe-Co系合金に圧延加工や熱処理を施すことにより、磁歪材料を容易に製造することができる。また、磁歪材料の加工性が良く、切削加工や曲げ加工などの塑性加工が容易であるため、磁歪材料を容易に任意の形状にすることができる。
【0015】
本発明に係る振動発電装置は、前記磁歪材料に代えて、磁歪材料と軟磁性材料とを接合した複合材料を用いて構成されていてもよい。この場合、振動体の振動で複合材料が振動することにより、複合材料中の磁歪材料の逆磁歪効果で発電することができる。また、磁歪材料の逆磁歪効果による発電とともに、その逆磁歪効果による磁化の変化により、複合材料中の軟磁性材料の磁化も変化させることができる。この軟磁性材料の磁化変化により、磁歪材料の逆磁歪効果のみの場合よりも、逆磁歪効果による振動発電能力を高めることができる。
【0016】
また、この複合材料を用いる場合、複合材料中の磁歪材料は、Fe-Co系合金から成ることが好ましい。また、複合材料中の軟磁性材料は、いかなるものであってもよく、例えば、純鉄やPBパーマロイに代表されるFe-Ni系合金、ケイ素鋼、電磁ステンレス鋼から成っていてもよい。また、軟磁性材料は、保磁力が8A/cm以下であることが好ましく、3A/cmであることが特に好ましい。また、軟磁性材料は、磁歪材料の磁歪定数とは異なる符号の磁歪定数を有する磁歪材料から成っていてもよい。これらの材料として、例えば、軟磁性材料および磁歪材料のいずれか一方が、正の磁歪定数を有するFe-Co系合金から成り、他方が、負の磁歪定数を有するNi-0~20質量%Fe系合金から成っていてもよい。この場合、振動によって同時に発生する圧縮応力および引張応力による逆磁歪効果を利用することができ、発電能力をさらに高めることができる。
【0017】
また、この複合材料を用いる場合、軟磁性材料と磁歪材料とが、熱拡散接合,熱間圧延加工、熱間引抜加工、接着剤または溶接など、いかなる方法により接合されていてもよい。特に、熱拡散接合、熱間圧延加工または熱間引抜加工により接合されている場合、高温で接合して冷却した後の残留応力により、磁歪材料の磁壁移動が容易になり、磁化変化が促進されるため、逆磁歪効果による発電能力をさらに高めることができる。また、軟磁性材料と磁歪材料とが、負荷を加えた状態で接合されていてもよい。この場合、接合後に負荷を解除したときの残留応力により、磁歪材料の磁壁移動が容易になり、磁化変化が促進されるため、逆磁歪効果による発電能力をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より簡単な構造で、複数の共振周波数で振動して発電することができる振動発電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態の振動発電装置を示す斜視図である。
図2図1に示す振動発電装置の右側面図である。
図3図1に示す振動発電装置の、振動方向に対する磁歪材料の傾斜角度を変えたときの(a)磁歪材料の振動の周波数と発電量との関係を示すグラフ、(b) (a)の大きい方の共振周波数付近を拡大したグラフである。
図4図1に示す振動発電装置の、(a)磁歪材料の幅方向の長さbと厚み方向の長さhの比率b/hを変えたときの、磁歪材料の振動の周波数と発電量との関係を示すグラフ、(b)様々な計算モデルごとの、b/hに対する、大きい方の共振周波数と小さい方の共振周波数との差(Δf)の変化を示すグラフ、(c)b/h=3.3および2.5のときの、複数の振動の周波数に対する発電量の測定結果を示すグラフである。
図5】本発明の実施の形態の振動発電装置の、(a)磁歪材料が、幅が狭い加工部を有する変形例を示す斜視図、(b) (a)のときの発電量と、磁歪材料が加工部を有さない矩形板状の単純梁から成るときの発電量とを示すグラフ、(c)磁歪材料が曲がった形状を成す変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図5に、本発明の実施の形態の振動発電装置を示す。
図1および図2に示すように、振動発電装置10は、振動体1に取り付けて使用され、支持台11と磁歪材料12と錘13と磁石14とコイル15とを有している。
【0021】
支持台11は、振動体1に設置可能に設けられ、振動体1に設置したとき、振動体1の振動方向に対して傾斜する平坦な取付面11aを有している。
磁歪材料12は、Fe-Co系合金から成り、細長い矩形板状を成している。磁歪材料12は、その長さ方向に対して垂直な断面が矩形状を成し、幅方向の長さである最大幅と、厚み方向の長さである最大厚みとが異なる形状を成している。
【0022】
磁歪材料12は、一方の端部12aの一方の表面を支持台11の取付面11aにぴったりと接触させて固定されている。これにより、磁歪材料12は、一方の端部12aが支持台11を介して振動体1に取り付けられている。また、図2に示すように、磁歪材料12は、振動体1の振動による自身の振動方向に対して、幅方向(最大幅の方向)および厚み方向(最大厚みの方向)が傾斜するよう取り付けられている。また、磁歪材料12は、長さ方向に対して垂直な断面形状が、振動体1の振動による自身の振動方向に沿った直線に対して非対称形状を成している。なお、磁歪材料12の表面とは、磁歪材料12の幅方向および長さ方向に対して平行な面である。
【0023】
錘13は、磁歪材料12の他方の端部12bに取り付けられている。図1に示す具体例では、錘13は、磁歪材料12の両方の表面に、図2に示す具体例では、錘13は、磁歪材料12の1つの表面のみに取り付けられている。磁石14は、磁歪材料12にバイアス磁界を印加可能に、磁歪材料12の一方の端部12aに取り付けられている。コイル15は、内側に磁歪材料12が貫通され、磁歪材料12の支持台11への取付位置の他方の端部12bの側に配置されている。
【0024】
振動発電装置10は、磁歪材料12が片持ち梁を成し、振動体1の振動により磁歪材料12の他方の端部12bの側が振動するようになっている。このように、振動発電装置10は、磁歪材料12が振動することにより、磁歪材料12の逆磁歪効果で発電するよう構成されている。
【0025】
次に、作用について説明する。
振動発電装置10は、産業用機械など、一定の方向に振動する振動体1に設置して使用される。振動発電装置10は、磁歪材料12の長さ方向に対して垂直な断面が矩形状を成し、自身の振動方向に対して、幅方向(最大幅の方向)および厚み方向(最大厚みの方向)が傾斜するよう取り付けられているため、幅方向での振動および厚み方向での振動の2つの異なる共振周波数で振動して発電することができる。例えば、図2に示すように、振動発電装置10は、水平面と支持台11の取付面11a(磁歪材料12の表面)との成す角をθとすると、振動体1の振動により磁歪材料12が振幅Vで振動したとき、磁歪材料12の幅方向(最大幅の方向)の振動の振幅は、Vb=Vsinθ、磁歪材料12の厚み方向(最大厚みの方向)の振動の振幅は、Vh=Vcosθ となる。振動発電装置10は、この2つの方向の磁歪材料12の振動により、2つの異なる共振周波数で振動して発電することができる。
【0026】
このように、振動発電装置10は、断面形状および振動体1の振動方向に対する角度を工夫するだけのより簡単な構造で、複数の共振周波数で振動して発電することができる。なお、振動発電装置10は、磁歪材料12の幅方向の長さと厚み方向の長さの比率、ならびに、磁歪材料12の振動方向に対する幅方向および厚み方向の傾斜角度により、各共振周波数の値および各共振周波数での振動の大きさが決まる。
【0027】
振動発電装置10は、磁歪材料12の他方の端部12bに錘13が取り付けられているため、磁歪材料12の振幅が大きくなり、発電効率が良い。振動発電装置10は、磁歪材料12がFe-Co系合金から成っており、比較的安価なFe-Co系合金に圧延加工や熱処理を施すことにより、容易に製造することができる。また、磁歪材料12の加工性が良く、切削加工や曲げ加工などの塑性加工が容易であるため、磁歪材料12を容易に所望の形状にすることができる。
【0028】
[磁歪材料12の傾斜角度および磁歪材料12の断面形状を変化させたときの、振動の周波数と発電量との関係]
計算モデルとして図2に示す振動発電装置10を用い、磁歪材料12の振動の周波数と発電量との関係を計算により求めた。図2に示す振動発電装置10では、錘13が磁歪材料12の1つの表面のみに取り付けられており、その重さを20gとした。また、磁歪材料12の伸長方向の長さ(L)を、幅方向の長さ(b)の40倍、すなわちL=40×bとした。
【0029】
まず、磁歪材料12の幅方向の長さ(b)と厚み方向の長さ(h)との比率(b/h)を固定し、振動方向に対する磁歪材料12の傾斜角度を変えた場合について計算を行った。ここで、振動方向に対する磁歪材料12の傾斜角度として、図2中のθ(振動方向に対する磁歪材料12の厚み方向の傾斜角度に対応)を用いた。また、b/h=3.3とした。このときの計算結果を、図3(a)および(b)に示す。
【0030】
図3(a)に示すように、θ=0°および90°のときは、発電量のピークが1つしか認められず、共振周波数は1つであるが、0°<θ<90°のときは、発電量のピークが2つ認められ、共振周波数が2つになることが確認された。また、図3(b)に示すように、大きい方の共振周波数では、θを大きくすると、発電量が増加することが確認された。同様に、小さい方の共振周波数では、θを小さくすると、発電量が増加することが確認された。これらの結果から、振動方向に対して磁歪材料12を傾斜させることにより、2つの共振周波数が得られるとともに、その傾斜角度(図2中のθ)を変えることにより、各共振周波数での発電量を調整することができることがわかった。
【0031】
次に、振動方向に対する磁歪材料12の傾斜角度(図2中のθ)を固定し、磁歪材料12の幅方向の長さ(b)と厚み方向の長さ(h)の比率(b/h)を変えたときについて計算を行った。ここで、θ=45°とした。このときの計算結果を、図4(a)に示す。図4(a)に示すように、b/hを増加させると、大きい方の共振周波数も小さい方の共振周波数も共に、小さくなっていくことが確認された。また、b/hを増加させると、大きい方の共振周波数と小さい方の共振周波数との差(Δf)が変化することも確認された。なお、図4(a)において、b/h=1.0(磁歪材料12の長さ方向に対して垂直な断面形状が正方形)のときでも、2つの共振周波数が得られている。これは、錘13が磁歪材料12の1つの表面のみに取り付けられているためである。
【0032】
次に、大きい方の共振周波数と小さい方の共振周波数との差(Δf)の変化を調べるために、錘13の重さや磁歪材料12の長さ(L)を変えた複数の計算モデルについて、b/hに対するΔfの変化を求めた。その計算結果を、各計算モデルごとに図4(b)に示す。図4(b)に示すように、いずれの計算モデルであっても、b/hの値が2.5~5.0のときにΔfが大きくなり、特にb/h=3付近でΔfが最大になることが確認された。
【0033】
次に、図1に示す振動発電装置10を作製し、b/hが3.3および2.5の場合について、複数の振動の周波数での発電量の測定を行った。ここで、θ=45°、L=40×bとした。このときの測定結果を、図4(c)に示す。なお、図4(c)では、各測定値を、測定した最大周波数での発電量で規格化している。また、図4(c)には、比較のため、図4(a)のb/h=3.3および2.5のときの計算結果も示す。図4(c)に示すように、b/h=3.3および2.5のときの測定値は、共振周波数の位置および振動の周波数に対する発電量の増減の様子が、計算結果とほぼ同じ傾向を示すことが確認された。
【0034】
図3および図4の結果から、振動発電装置10は、磁歪材料12の傾斜角度(図2中のθ)および、最大幅(b)と最大厚み(h)の比率(b/h)を変化させることにより、各共振周波数での発電量や各共振周波数の位置を調整することができ、振動体1の振動周波数などに応じて、磁歪材料12の傾斜角度やb/hを変化させることにより、効率良く発電を行うことができるといえる。
【0035】
なお、振動発電装置10で、磁歪材料12は、長さ方向に対して垂直な断面形状が矩形に限らず、楕円であってもよい。この場合にも、長軸と短軸の長さの比率を変化させることにより、各共振周波数の位置を調整することができる。このため、振動体1の振動周波数などに応じて、磁歪材料12の傾斜角度や長軸と短軸の長さの比率を変化させることにより、効率良く発電を行うことができる。
【0036】
また、振動発電装置10は、磁歪材料12の加工性が良いため、磁歪材料12に様々な形状に加工することができる。例えば、図5(a)に示すように、磁歪材料12は、長さ方向に対して垂直な断面形状が、長さ方向に沿って変化する形状を成していてもよい。図5(a)に示す一例では、磁歪材料12は、細長い矩形板状を成し、その長さ方向に沿った中央部およびそれより一方の端部12aの側(根元側)の2箇所に、幅が狭くなるよう両側部を円弧状に切削した加工部21を有している。これにより、振動時に加工部21に応力集中しやすくなるため、発電効率を高めることができる。
【0037】
図5(a)に示す加工部21を有する形状の磁歪材料12(根元加工梁)を用いた振動発電装置10、および、加工部21を有さない矩形板状の単純梁から成る磁歪材料12を用いた振動発電装置10について、加工部21以外の条件を全て同じにしたときの発電量を計算し、その計算結果を図5(b)に示す。図5(b)に示すように、幅が狭くなった加工部21を有することにより発電量が増加し、その増加量は条件によっては約60%にも達することが確認された。
【0038】
また、図5(c)に示すように、磁歪材料12は、長さ方向に真っ直ぐ伸びている形状に限らず、曲げ加工により、途中で曲がった形状を成していてもよい。このように、振動発電装置10は、振動体1の振動などの様々な条件に応じて磁歪材料12の形状を変えることにより、振動時の磁歪材料12の変形形状や振幅などを調整し、発電効率を高めることかできる。
【0039】
また、振動発電装置10は、磁歪材料12に代えて、磁歪材料と軟磁性材料とを接合した複合材料を用いて構成されていてもよい。この場合、振動体1の振動で複合材料が振動することにより、複合材料中の磁歪材料の逆磁歪効果で発電することができる。また、磁歪材料の逆磁歪効果による発電とともに、その逆磁歪効果による磁化の変化により、複合材料中の軟磁性材料の磁化も変化させることができる。この軟磁性材料の磁化変化により、磁歪材料の逆磁歪効果のみの場合よりも、逆磁歪効果による振動発電能力を高めることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 振動体
10 振動発電装置
11 支持台
11a 取付面
12 磁歪材料
12a 一方の端部
12b 他方の端部
13 錘
14 磁石
15 コイル
21 加工部
図1
図2
図3
図4
図5