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特許6991688フィンガージョイントのフェーズドアレイ超音波探傷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2021-12-10
(45)【発行日】2022-01-12
(54)【発明の名称】フィンガージョイントのフェーズドアレイ超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/265 20060101AFI20220104BHJP
   E01C 11/02 20060101ALI20220104BHJP
   E01D 19/06 20060101ALI20220104BHJP
【FI】
G01N29/265
E01C11/02 Z
E01D19/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019093319
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020187078
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2020-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】391007460
【氏名又は名称】中日本ハイウェイ・エンジニアリング名古屋株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500171268
【氏名又は名称】三菱重工パワー検査株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】特許業務法人なじま特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲彦
(72)【発明者】
【氏名】五味 達矢
(72)【発明者】
【氏名】池上 克則
(72)【発明者】
【氏名】三瓶 洋之
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-130114(JP,A)
【文献】特開2019-035676(JP,A)
【文献】実開昭62-133160(JP,U)
【文献】特開2013-134118(JP,A)
【文献】実開昭52-152789(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2018/0011064(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
E01C 11/02
E01D 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋桁に設けられたフィンガージョイントの基部に橋桁の幅方向に延びるラックを装着し、ソリ型プローブホルダに保持されたフェーズドアレイ超音波探触子を両側に搭載した走行台車をこのラック上に載せ、一方のフェーズドアレイ超音波探触子をフィンガー水切り溝よりも基部側に接触させ、他方のフェーズドアレイ超音波探触子をフェイスプレートの上面に接触させた状態でラック上を走行させながら、フィンガージョイントのフィンガー基部に発生するき裂を探傷することを特徴とするフィンガージョイントのフェーズドアレイ超音波探傷方法。
【請求項2】
前記走行台車のラックを挟んだ両側にフェーズドアレイ超音波探触子を搭載し、フィンガー基部を控え側とフィンガー側の両側から探傷することを特徴とする請求項1に記載のフィンガージョイントのフェーズドアレイ超音波探傷方法。
【請求項3】
一方のフェーズドアレイ超音波探触子は、フィンガーに形成された水切り溝を避けて接触し、フィンガージョイントの基部を探傷することを特徴とする請求項2記載のフェーズドアレイ超音波探傷方法。
【請求項4】
走行台車を走行させて片側のフェイスプレートの探傷を行った後、ラックを反対側のフェイスプレートに平行移動させ、反対側のフェイスプレートの探傷を行うことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のフィンガージョイントのフェーズドアレイ超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋桁に設けられたフィンガージョイントのき裂を超音波探傷する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁桁端部には、温度変化等に伴う橋桁の長さ方向の伸縮を吸収するために伸縮装置が設置されている。伸縮装置の種類のひとつにフィンガージョイントがある。図1に示すように、フィンガージョイントはフェイスプレート3と呼ばれる櫛形に加工した一対の平板を互いに隙間を持って噛み合うように組み合わせた装置である。
【0003】
橋梁が長大化するとその伸縮量も大きくなるため、図1に示すように、フィンガー1の長さも長くなる。フィンガージョイントの多くは鋼鉄製であり、雨天時にその上を走行するタイヤがスリップしないようにフィンガー1及びフェイスプレート3の表面には、水切り溝2が形成されているものがある。またフェイスプレート3の下面には路幅方向に延びるウエブプレート4が溶接されている。
【0004】
フィンガージョイントはその上を車両等が走行する度に曲げ応力を受けるため、長年使用するとフィンガー1の基部に疲労き裂5が発生し、そのまま放置するとフィンガー1が折損する可能性がある。疲労き裂5の発生部位は、図1に示す通り主として圧縮応力が集中し易いフィンガー1の基部の下面であり、目視検査することは困難な部位である。
【0005】
そこで特許文献1に示されるように、フィンガージョイントが発生する音波波形データからき裂の有無を検出するフィンガージョイントの検査方法が開発されている。この特許文献1には、車両がフィンガージョイント上を走行したときの振動を利用する方法と、フィンガージョイントの路面側から打撃を加えた時の振動を利用する方法とが記載されている。しかし何れもフィンガージョイントの側方に設置したマイクロフォンにより取得した音波波形データからき裂の方向を求める方法であるから、き裂の発生部位を正確に特定することは容易ではないという問題がある。
【0006】
このため実際の現場では、車両等の通行を規制したうえで、作業員が各フィンガー1に超音波探触子を順次押し当てながら反射波形を観察し、き裂を検出する方法が実施されている。この方法によれば、き裂の発生部位をより正確に求めることができる。しかしその検査の正確性は、作業員の技量に大きく依存するという問題がある。また、フィンガージョイントは道路等の路幅全体に設けられ、フィンガーの総本数は非常に多いため全体を検査するために多くの時間がかかり、長時間にわたり車両等の通行を規制しなければならないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5924929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は上記した従来の問題点を解決し、フィンガージョイントのき裂を、短時間で精度よく探傷することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するためになされた本発明は、橋桁に設けられたフィンガージョイントの基部に橋桁の幅方向に延びるラックを装着し、ソリ型プローブホルダに保持されたフェーズドアレイ超音波探触子を両側に搭載した走行台車をこのラック上に載せ、一方のフェーズドアレイ超音波探触子をフィンガー水切り溝よりも基部側に接触させ、他方のフェーズドアレイ超音波探触子をフェイスプレートの上面に接触させた状態でラック上を走行させながら、フィンガージョイントのフィンガー基部に発生するき裂を探傷することを特徴とするものである。
【0010】
なお、前記走行台車のラックを挟んだ両側にフェーズドアレイ超音波探触子を搭載し、フィンガー基部を控え側とフィンガー側の両側から探傷することが好ましい。また、一方のフェーズドアレイ超音波探触子は、フィンガーに形成された水切り溝を避けて接触し、フィンガージョイントの基部を探傷することが好ましい。さらに、走行台車を走行させて片側のフェイスプレートの探傷を行った後、ラックを反対側のフェイスプレートに平行移動させ、走行台車を逆方向に走行させて反対側のフェイスプレートの探傷を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフィンガージョイントのフェーズドアレイ超音波探傷方法によれば、フィンガージョイントの基部にラックを装着し、ソリ型プローブホルダに保持されたフェーズドアレイ超音波探触子を搭載した走行台車をこのラック上で走行させることにより、各フィンガーの基部を連続的に超音波探傷し、き裂の有無を短時間で精度よく検出することができる。特に本発明では探傷角度や集束深さを電子的に制御することにより広い範囲を効率よく探傷できるフェーズドアレイ超音波探触子を用いたので、探触子を連続的に移動させながら探傷することができ、従来のように探触子を手動で操作しながら探傷する方法よりも、半分以下の短時間で探傷を完了することができる。また高速道路等の場合、フィンガージョイントのフィンガーは路幅方向に100mm前後のピッチで設けられており探傷面が不連続となっているため、フェーズドアレイ超音波探触子を路幅方向に連続的に移動させることは容易ではない。しかし本発明では、底面にフィンガージョイント上を滑動可能なソリを備えたソリ型プローブホルダにフェーズドアレイ超音波探触子を保持させたので、フェーズドアレイ超音波探触子をフィンガー上で路幅方向に支障なく移動させることが可能である。
【0012】
請求項2のように、走行台車のラックを挟んだ両側にフェーズドアレイ超音波探触子を搭載し、フィンガー基部を控え側とフィンガー側の両側から探傷することにより、探傷の精度を高めることができる。また請求項3のように、一方のフェーズドアレイ超音波探触子をフィンガーに形成された水切り溝を避けて接触させれば、水切り溝の影響し回避することができるので、探傷の精度を高めることができる。また請求項4のように、走行台車を走行させて片側のフェイスプレートの探傷を行った後、ラックを反対側のフェイスプレートに平行移動させ、走行台車を逆方向に走行させて反対側のフェイスプレートの探傷を行うことにより、走行台車を往復させて短時間で効率よく探傷を完了することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】フィンガージョイントの平面図と断面図である。
図2】本発明の実施形態に用いられる探傷治具を示す斜視図である。
図3】本発明の実施形態に用いられる探傷治具を示す平面図である。
図4】本発明の実施形態に用いられる探傷治具を示す正面図である。
図5】探傷状態を示す断面図である。
図6】フェーズドアレイ超音波探触子の移動経路を示す平面図である。
図7】フェーズドアレイ超音波探触子の往復移動経路を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を説明する。
図2は本発明の実施形態に用いられる探傷治具を示す斜視図、図3はその平面図、図4はその正面図である。これらの図において、10はフィンガージョイントの基部に設置されたラックである。本発明においては、探傷の対象とするフィンガージョイントの基部のフェイスプレート3の上面に、ラック10を装着する。ラック10は路幅方向に直線的に延びるもので、歯が形成された上面は、路面よりも少し高い位置にある。フェイスプレート3は鋼鉄製であるから、ラック10を磁石を利用して簡便に脱着できる構造としておけば、着脱が容易であり、作業終了後にも速やかに撤去することができる。なおラック10は長手方向に分割しておき、路幅に応じて適当本数を接続して用いることが好ましい。
【0015】
ラック10を装着した後に、このラック10の上に走行台車11を載せる。走行台車11は片側に走行用モータ12を備え、この走行用モータ12により駆動されるピニオン13をラック10の上面に噛み合わせることにより、ラック10上を自走することができる。走行台車11の走行位置は走行用モータ12の反対側に設けられたエンコーダ14により検出され、図示を略したケーブルを通じて計測装置に入力される。この構成により、走行台車11の現在位置を常に正確に把握することができる。なお走行台車11の下面にはラック10の側面を挟むように逆U字状のガイド15が設けられ、走行台車11がラック10から外れないようにガイドしている。
【0016】
この走行台車11の中央には垂直壁16が形成されており、この垂直壁16を貫通して2本のレール17が平行に設けられている。これらのレール17はラック10に対して直角方向、すなわち道路の長手方向に延びており、これらのレール17の各端部は連結部材18により連結されている。
【0017】
これらのレール17上には、ソリ型プローブホルダ19が搭載されている。ソリ型プローブホルダ19は垂直壁16を挟んで両側に対称的に配置されており、ソリ型プローブホルダ19の外側部材20には2本のレール17が貫通している。このためソリ型プローブホルダ19を2本のレール17上でスライドさせ、固定ねじ21を締めることによって、任意位置で固定することができる。
【0018】
ソリ型プローブホルダ19の外側部材20の下方部分には無底で四角枠状のホルダ部22が設けられており、その内部にフェーズドアレイ超音波探触子23が保持されている。フェーズドアレイ超音波探触子23は固定ねじ24によりホルダ部22内に固定されているが、固定ノブ25を操作することによって固定したり、フリーとすることができる。フェーズドアレイ超音波探触子23は四角枠状のホルダ部22に保持された状態で、フィンガージョイントに接触することができる。
【0019】
本発明で用いるフェーズドアレイ超音波探触子23は、多数枚の振動子を積層し、各振動子の作動を電子的に制御することにより、探傷角度や超音波の集束深さを自由に制御できるようにしたものである。従来の単一振動子の探触子であるとその探傷角度や集束深さは一定であるから、探触子を手動で操作して反射波形からき裂の位置を特定する必要があった。これに対してフェーズドアレイ超音波探触子23は、数百~数千回/秒という高速度で探傷角度などを走査することができるので、一定速度で移動させながら各フィンガー1の基部周囲を精度よく探傷することができるものである。
【0020】
図3に示されるように、ソリ型プローブホルダ19の底面には、フィンガージョイント上を滑動可能なソリ26が設けられている。この実施形態ではソリ26は各フェーズドアレイ超音波探触子23の両側に取り付けられており、図6に示すようにその長さはフィンガー1のピッチよりも長く、ピッチの2倍程度とすることが好ましい。四角枠状のホルダ22に保持されたフェーズドアレイ超音波探触子23は、これらのソリ26の間からフィンガージョイントの表面に接触し、超音波探傷を行う。
【0021】
なおフェーズドアレイ超音波探触子23の下面には図示を略したパイプを通じて水が供給され、フェーズドアレイ超音波探触子23とフィンガージョイントとの間に水膜を形成するようになっている。
【0022】
以上に説明した構造の治具を用いてフィンガージョイントのき裂を探傷するには、先ず片側のフィンガージョイントのフェイスプレート3の上面にラック10を設置し、その上に走行台車11を載せてピニオン13をラック10と噛み合わせる。次に走行台車11のレール17上でソリ型プローブホルダ19をスライドさせ、図5図6に示すように、一方のソリ型プローブホルダ19に保持させたフェーズドアレイ超音波探触子23をフィンガー1の基部に最も近い水切り溝2よりも基部側に接触させ、他方のソリ型プローブホルダ19に保持させたフェーズドアレイ超音波探触子23をフェイスプレート3の上面に接触させる。このように位置を決めた後、固定ねじ21を締めてフェーズドアレイ超音波探触子23の位置を固定する。
【0023】
その後、走行用モータ12により走行台車11を走行させながら2つのフェーズドアレイ超音波探触子23によりフィンガー1の基部の超音波探傷を行う。図5に示すように、右側(フィンガー側)のフェーズドアレイ超音波探触子23はウエブプレート4の右側から、左側(控え側)のフェーズドアレイ超音波探触子23はウエブプレート4の左側から探傷を行う。図5に破線で示した位置が疲労き裂5の好発部位であり、両側からの探傷により確実に検出することが可能となる。特に右側(フィンガー側)のフェーズドアレイ超音波探触子23は,ウエブプレート4の溶接部からの反射波形の影響を受けることなく探傷を行うことができる。得られた探傷波形は検査装置に送られ、記録される。
【0024】
本発明によれば、ソリ26を利用してフェーズドアレイ超音波探触子23をフィンガー1上で滑らせることができるので、走行台車11を連続的に走行させながら探傷を行うことができる。前記したように走行台車11の位置はエンコーダ14からの信号により正確に検出できるので、フェーズドアレイ超音波探触子23からの探傷波形に異常があれば、それが何番目のフィンガー1のき裂であるのかを正しく把握することができる。従って従来のようにフィンガー1を手作業で一本ずつ探傷する必要がなくなり、ごく短時間に路幅全体の検査を完了することができる。このため、車両等の通行を規制する時間も従来の数分の一に短縮することができ、また作業員が手作業で探傷を行う必要もないため、作業安全性を高めることも可能となる。
【0025】
また上記した治具は走行台車11の両側にフェーズドアレイ超音波探触子23を備えているので、図7に示すように走行台車11をラック10の端部まで走行させた後に、ラックを反対側のフェイスプレート3に平行移動させ、走行台車11を逆方向に走行させて戻しながら反対側のフィンガー1の基部を探傷させることができる。これにより探傷時間を短縮することが可能となる。
【0026】
なお、得られた探傷波形を記録させておき、例えば1年後の探傷波形と比較すれば、特定部位のき裂の進行状況を把握したうえで計画的な補修を行うことも可能となる。
【0027】
以上に説明したように、本発明のフェーズドアレイ超音波探傷方法によれば、フィンガージョイントのき裂を、短時間で精度よく検出することができるうえ、通行規制時間の短縮と、作業員の安全性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 フィンガー
2 水切り溝
3 フェイスプレート
4 ウエブプレート
5 き裂
10 ラック
11 走行台車
12 走行用モータ
13 ピニオン
14 エンコーダ
15 ガイド
16 垂直壁
17 レール
18 連結部材
19 ソリ型プローブホルダ
20 外側部材
21 固定ねじ
22 ホルダ
23 フェーズドアレイ超音波探触子
24 固定ねじ
25 固定ノブ
26 ソリ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7